(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】圧電材料、圧電素子、および電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20220414BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220414BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20220414BHJP
H01L 41/083 20060101ALI20220414BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20220414BHJP
B06B 1/06 20060101ALI20220414BHJP
H02N 2/16 20060101ALI20220414BHJP
H02N 2/02 20060101ALI20220414BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20220414BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20220414BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20220414BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220414BHJP
H04N 5/225 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/09
H01L41/43
H01L41/083
C04B35/495
B06B1/06 Z
H02N2/16
H02N2/02
G02B7/08 B
G02B7/04 E
G03B17/02
B41J2/14 613
H04N5/225 430
(21)【出願番号】P 2018144203
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017151938
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】大志万 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】上田 未紀
(72)【発明者】
【氏名】松田 堅義
(72)【発明者】
【氏名】久保田 純
(72)【発明者】
【氏名】薮田 久人
(72)【発明者】
【氏名】内田 文生
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏起
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲二
(72)【発明者】
【氏名】清水 千恵美
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172686(JP,A)
【文献】特開2000-281443(JP,A)
【文献】特開2017-108616(JP,A)
【文献】特開2014-062032(JP,A)
【文献】特開2006-327863(JP,A)
【文献】特開2007-137704(JP,A)
【文献】特開2017-017157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/00-41/47
C04B 35/495
B06B 1/06
H02N 2/16
H02N 2/02
G02B 7/08
G02B 7/04
G03B 17/02
B41J 2/14
H04N 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
Na
x+s(1-y)(Bi
wBa
1-s-w)
1-yNb
yTi
1-yO
3 一般式(1)
(式中、0.84≦x≦0.92、0.84≦y≦0.92、0.002≦(w+s)(1-y)≦0.035、0.9≦w/s≦1.1)
で表わされるペロブスカイト型金属酸化物と、
Mnと、
を有し、
前記Mnの含有量が、前記ペロブスカイト型金属酸化物に対して0.01mol%以上1.00mol%以下であることを特徴とする、圧電材料。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型金属酸化物の単位格子が、酸素八面体を2つ以上含む構造である、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項3】
前記圧電材料を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行ったときの2θが44度から48度の範囲における最大のピーク強度をI1、次に大きなピーク強度をI2としたときに、最大のピークが広角側にあり、1.1≦I1/I2≦1.3である、請求項1または2に記載の圧電材料。
【請求項4】
前記圧電材料のキュリー温度が、200℃以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項5】
Pb、K、Mg、Cuの含有量が1000ppm以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧電材料の製造方法であって、
各々ペロブスカイト型構造を有するニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムを有する混合原料粉を焼成して、前記圧電材料の焼結体を得ることを特徴とする、圧電材料の製造方法。
【請求項7】
電極と圧電材料部を有する圧電素子であって、前記圧電材料部を構成する圧電材料が請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧電材料であることを特徴とする、圧電素子。
【請求項8】
前記電極と前記圧電材料部とが交互に積層されている請求項7に記載の圧電素子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を少なくとも有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
被転写体の載置部と請求項9に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項11】
請求項7または8に記載の圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを少なくとも有することを特徴とする振動波モータ。
【請求項12】
駆動部に請求項11に記載の振動波モータを備えたことを特徴とする光学機器。
【請求項13】
請求項7または8に記載の圧電素子を振動板に配した振動体を有することを特徴とする振動装置。
【請求項14】
請求項13に記載の振動装置を備えたことを特徴とする塵埃除去装置。
【請求項15】
請求項14に記載の塵埃除去装置と撮像素子ユニットとを少なくとも有する撮像装置であって、前記塵埃除去装置の振動板を前記撮像素子ユニットの受光面側に設けたことを特徴とする撮像装置。
【請求項16】
請求項7または8に記載の圧電素子を備えたことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電材料に関し、特に鉛を含有しない圧電材料を用いた圧電素子に関する。また、本発明は前記圧電素子を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛を含有するチタン酸ジルコン酸鉛(以下「PZT」と呼称)のようなABO3型のペロブスカイト型金属酸化物は代表的な圧電材料である。圧電材料の表面に電極を設けた圧電素子は、アクチュエータ、発振子、センサやフィルターなど多様な圧電デバイスや電子機器で使用されている。
【0003】
しかしながら、PZTはAサイト元素として鉛を含有するため、廃棄された圧電材料中の鉛成分が土壌に溶け出し、生態系に害を及ぼす可能性があるなど環境に対する影響が問題視されている。このため、鉛を含有しない圧電材料(以下「非鉛圧電材料」という)が種々検討されている。
【0004】
非鉛圧電材料の一例として、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)の固溶体(以後「NN-BT」という)がある。NN-BTは、難焼結性や低耐湿性の原因となるカリウムを実質的に含まない非カリウム材料であるため、特性ばらつきの少ない安定した素子製造が可能である。また、NN-BTを圧電デバイスに使用した際も、デバイスの使用温度範囲(例えば0℃から80℃まで)に結晶構造の相転移が存在しないため、使用温度によって性能が著しく変動することもほとんどないという利点がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、NN-BTに酸化コバルト(CoO)を添加することで、大きな圧電定数と機械的品質係数が得られることが開示されている。しかしながら、誘電正接が大きいという課題があり、圧電素子として駆動する際の消費電力が増大する要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、誘電正接を抑制し、圧電定数と機械的品質係数を両立した、非鉛非カリウム型の圧電材料およびその製造方法を提供するものである。また本発明は、前記圧電材料を用いた圧電素子、および電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の圧電材料は、下記一般式(1):
Nax+s(1-y)(BiwBa1-s-w)1-yNbyTi1-yO3
(式中、0.84≦x≦0.92、0.84≦y≦0.92、0.002≦(w+s)(1-y)≦0.035、0.9≦w/s≦1.1)
で表わされるペロブスカイト型金属酸化物よりなる主成分と、Mn成分とを有する圧電材料であって、前記Mnの含有量が前記ペロブスカイト型金属酸化物に対して0.01mol%以上1.00mol%以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の上記圧電材料の製造方法は、各々ペロブスカイト型構造を有するニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムを有する混合原料粉を焼成して前記圧電材料の焼結体を得ることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る圧電素子は、第一の電極と圧電材料部と第二の電極とを有する圧電素子であって、前記圧電材料部を構成する圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。本発明に係る電子機器は、上記の圧電素子を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な圧電定数と機械的品質係数を有し、誘電正接を抑制した新規な圧電材料を提供することができる。また本発明によれば、前記圧電材料を用いた圧電素子、および電子機器を提供することができる。
また、本発明の電子機器に用いる圧電材料は、鉛とカリウムを使用していないために環境に対する負荷が小さく、製造性の面でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明の積層型の圧電素子の構成の一実施形態を示す断面概略図である。
【
図3】本発明の電子機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図4-1】本発明の電子機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図4-2】本発明の電子機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図5】本発明の電子機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施例の圧電材料のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、NN-BTを基本構成とし、良好な圧電定数と機械的品質係数を有し、かつ、誘電正接が小さい非鉛圧電材料を提供するものである。なお、本発明の圧電材料は、誘電体としての特性を利用してコンデンサ、メモリ、およびセンサ等のさまざまな用途に利用することができる。
【0014】
本発明の圧電材料は、下記一般式(1):
Nax+s(1-y)(BiwBa1-s-w)1-yNbyTi1-yO3 一般式(1)
(式中、0.84≦x≦0.92、0.84≦y≦0.92、0.002≦(w+s)(1-y)≦0.035、0.9≦w/s≦1.1)
で表わされるペロブスカイト型金属酸化物よりなる主成分と、Mn成分とを有する圧電材料であって、前記Mnの含有量が前記ペロブスカイト型金属酸化物に対して0.01mol%以上1.00mol%以下であることを特徴とする。これにより、十分な圧電定数と良好な機械的品質係数が得られ、かつ、誘電正接を大幅に抑制できる。
【0015】
本発明においてペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店1998年2月20日発行)に記載されているような、理想的には立方晶構造であるペロブスカイト型構造(ペロフスカイト構造とも言う)を持つ金属酸化物を指す。ペロブスカイト型構造を持つ金属酸化物は一般にABO3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。Aサイト元素は12配位であり、Bサイト元素は6配位である。A元素、B元素、O元素がそれぞれ単位格子の対称位置から僅かに座標シフトすると、ペロブスカイト型構造の単位格子が歪み、正方晶、菱面体晶、斜方晶といった結晶系となる。
【0016】
前記一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物は、Aサイトに位置する金属元素がNa、BaおよびBiであり、Bサイトに位置する金属元素がTiとNbであることを意味する。ただし、一部のNa、BaおよびBiがBサイトに位置してもよい。同様に、一部のTiとNbがAサイトに位置してもよい。
【0017】
前記一般式(1)における、Bサイトの元素とO元素のモル比はいずれも1対3であるが、元素量の比が若干ずれた場合(例えば、1.00対2.94から1.00対3.06)でも、前記金属酸化物がペロブスカイト型構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。前記金属酸化物がペロブスカイト型構造であることは、例えば、X線回折や電子線回折による構造解析から判断することができる。
【0018】
本発明の圧電材料は、従来技術であるNN-BTのチタン酸バリウムの一部をチタン酸ビスマスナトリウム(以後、「BNT」という)で置換し、かつMnを固溶させることで、良好な圧電定数と機械的品質係数を維持しながら誘電正接を低下させることができる。NN-BTのチタン酸バリウムの一部をBNTで置換することで、本発明の圧電材料は、NN-BTよりも低い対称性の結晶となる。結晶の対称性が低下した本発明の圧電材料は、強誘電体90°ドメインの分極反転とドメイン壁移動が起こりにくい。結果として、NN-BTと比べて、同等の圧電定数を得つつ、機械的品質係数が向上し、誘電正接が低下する。本発明の圧電材料は、さらにMnを固溶させることで、十分に抑制された誘電正接と、良好な機械的品質係数が得られる。
【0019】
本発明の圧電材料の原料については特に限定されないが、各々ペロブスカイト型構造を有するニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの混合原料粉を焼成して前記圧電材料の焼結体を製造することが望ましい。
【0020】
チタン酸ビスマスナトリウム(菱面体晶)を原料とすることで、圧電材料の結晶の対称性が低下しやすくなる。結果として、圧電材料の90°ドメインの分極反転とドメイン壁移動がより抑制され、機械的品質係数の向上および誘電正接の低下の効果がさらに得られる。
【0021】
また、ペロブスカイト型構造を有する混合原料粉を焼成することで、ペロブスカイト型構造以外の相(異相)が少ない焼結体を得ることができる。結果として、さらに良好な機械的品質係数と絶縁性が得られ、かつ、誘電正接がさらに低下する。
本発明の圧電材料の主相(51重量%以上)はペロブスカイト型構造である。主相がペロブスカイト構造であることで、良好な圧電定数を得ることができる。圧電材料の90重量%以上がペロブスカイト型構造であることがより好ましく、圧電材料がペロブスカイト型構造単相であることがさらに好ましい。
【0022】
xは、前記一般式(1)をニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの固溶体として解釈したときの、Aサイト元素(Na、Bi、Ba)の和に対するニオブ酸ナトリウムに由来するNaのモル比である。前記一般式(1)において、xの値は、0.84≦x≦0.92である。xが0.84より小さくなると、圧電材料のキュリー温度が200℃よりも低くなる上、十分な圧電定数が得られない。また、xが0.92を超えると、十分な機械的品質係数が得られない。より好ましいxの範囲は0.855≦x≦0.91である。
【0023】
キュリー温度とは、その温度以上で圧電材料の圧電性が消失する温度である。本明細書においては、強誘電相と常誘電相の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をキュリー温度とする。
【0024】
本発明の圧電材料を圧電素子にして駆動させる際、駆動時の発熱によって脱分極して特性劣化するのを防ぐためには、本発明の圧電材料のキュリー温度は、200℃以上であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。
【0025】
圧電素子として駆動する際に、好ましい圧電定数(d31の絶対値|d31|)は、室温(例えば25℃)において50pm/V以上である。より好ましい|d31|は53pm/V以上であり、さらに好ましい|d31|は55pm/V以上である。
【0026】
NbとTiの和に対するNbのモル比であるyの値は0.84≦y≦0.92である。yが0.84以上0.92以下であることで、200℃以上のキュリー温度と良好な圧電定数が得られる。yが0.84より小さくなると、キュリー温度が200℃よりも低くなる。Naを含む圧電材料では、高温によってNaが欠損することがあるため、1350℃以下の温度で焼結処理を行うことが好ましい。ところが、yが0.92を超えると、焼結に高い温度(例えば1360℃以上)が必要となる。高温の焼結処理を行うと、Naが多量に欠損して十分な密度が得られない。その結果、圧電定数と機械的品質係数が大幅に低下する。yのより好ましい範囲は、0.86≦y≦0.91である。
【0027】
圧電素子駆動時の消費電力の増大を抑制するために好ましい機械的品質係数は室温において480以上である。より好ましい機械的品質係数は500以上であり、さらに好ましい機械的品質係数は510以上である。
【0028】
wは、Aサイト元素(Na、Bi、Ba)の和に対するBiのモル比である。sは、前記一般式(1)をニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの混合物として解釈したときの、Aサイト元素(Na、Bi、Ba)の和に対するチタン酸ビスマスナトリウムに由来するNaのモル比である。
【0029】
(w+s)(1-y)は、前記一般式(1)をニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの混合物として解釈したときの、Aサイト元素(Na、Bi、Ba)の和に対するチタン酸ビスマスナトリウムに由来するBiとNaの和のモル比である。(w+s)(1-y)の値の範囲は、0.002≦(w+s)(1-y)≦0.035である。(w+s)(1-y)が0.002より小さくなると、結晶の対称性が十分に低下しないため、誘電正接が大きくなってデバイス駆動時の消費電力が増大する。また、十分な機械的品質係数が得られない。(w+s)(1-y)が0.035より大きくなると、誘電正接が増大するうえ、十分な機械的品質係数が得られない。より好ましい(w+s)(1-y)の範囲は0.002≦(w+s)(1-y)≦0.30である。
【0030】
w/sは、前記一般式(1)をニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの混合物として解釈したときの、チタン酸ビスマスナトリウムに由来するNa量sに対するBi量wの比である。前記一般式(1)において、w/sの値の範囲は、0.9≦w/s≦1.1である。w/sが0.9より小さい、または、1.1より大きいと、誘電正接が増大するのに加えて、絶縁性が十分でなくなる。
【0031】
圧電材料の室温における誘電正接は0.70%未満であることが好ましい。室温での誘電正接が0.70%未満であると、圧電素子駆動時に消費電力を十分に抑制することができる。室温におけるより好ましい誘電正接は0.65%未満であり、さらに好ましい誘電正接は0.60%未満である。
【0032】
絶縁性は、抵抗率を測定することで評価できる。圧電材料の室温における抵抗率は10GΩ・cm以上(「G」は10の9乗を示す)であることが好ましい。10GΩ・cm以上であると、高い電界(例えば2.0kV/mm以上)による分極が可能となり、良好な圧電定数が得られる。室温におけるより好ましい抵抗率は50GΩ・cm以上であり、さらに好ましい抵抗率は100GΩ・cm以上、特に好ましい抵抗率は500GΩ・cm以上である。
【0033】
本発明の圧電材料は、前記一般式(1)で表されるペロブスカイト型金属酸化物に対して、0.01mol%以上1.00mol%以下のMnを含有する。Mnの含有量が0.01mol%未満、または、1.00mol%より多いと、誘電正接が大幅に増大するのに加えて、絶縁性が十分でなくなる。より好ましいMn量は、0.05mol%以上、0.5mol%以下である。
【0034】
本発明の圧電材料は、(w+s)(1-y)の値とMnの含有量がそれぞれ適量であることによって、特に良好な機械的品質係数を有し、かつ、誘電正接が大幅に抑制される。
【0035】
NN-BTのチタン酸バリウムの一部をBNTで置換することで、本発明の圧電材料は、NN-BTよりも低い対称性の結晶となる。本発明の圧電材料のペロブスカイト型金属酸化物は、酸素八面体を二つ以上含んだ構造の単位格子を有し、具体的には、P4bm構造を有する。結晶の対称性が低下した本発明の圧電材料は、強誘電体90°ドメインの分極反転とドメイン壁移動が起こりにくい。結果として、NN-BTと比べて誘電正接が低下し、機械的品質係数が向上する。前記圧電材料の結晶の対称性は、X線回折パターンから特定することができる。
【0036】
前記圧電材料を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行ったときの2θが44度から48度の範囲における最大のピーク強度をI1、次に大きなピーク強度をI2としたときに、最大のピークが広角側にあり、1.1≦I1/I2≦1.3であると、前記圧電材料の結晶対称性が十分に低下した状態であり、より大きな機械的品質係数が得られる。
【0037】
本発明の圧電材料の原料については特に限定されないが、各々ペロブスカイト型構造を有するニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの混合原料粉を焼成して前記圧電材料の焼結体を製造することが好ましい。結晶の対称性の低下は、Baよりもイオン半径が小さいBiがAサイトに位置することによって引き起こされると考えられる。チタン酸ビスマスナトリウム(菱面体晶)を原料とすることで、BiがAサイトに位置しやすくなり、圧電材料の結晶の対称性が低下しやすくなる。結果として、圧電材料の90°ドメインの分極反転がより抑制され、誘電正接をより低下させ、機械的品質係数をより向上させることができる。
【0038】
本発明の圧電材料は、さらにMnを固溶させることで、十分に抑制された誘電正接と、良好な機械的品質係数が得られる。他の構成元素と価数が異なるMnを固溶させることで、結晶内部に欠陥双極子が導入されて内部電界が発生する。内部電界があると、外部電界によるドメインウォールの振動が抑制されて機械的品質係数が向上し、誘電正接が改善すると考えられる。
【0039】
本発明の圧電材料に含まれるPb、K、Mg、Cuの量はそれぞれ1000ppm以下であることが好ましい。
【0040】
前記圧電材料に含まれるPb成分の量が1000ppm以下であると、例えば圧電材料や圧電素子、これらを用いた電子機器が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりしても、圧電材料中のPb成分が環境に与える悪い影響を低減することができる。また、前記圧電材料に含まれるPb成分の量が1000ppm以下であると、機械的品質係数が向上し、誘電正接が低下するため、好ましい。
【0041】
前記圧電材料に含まれるK成分の量が1000ppm以下であると、圧電材料の耐湿性および高速振動時の効率が高まるため、より好ましい。また、前記圧電材料のK成分の含有量が1000ppm以下であると、誘電正接が低下し、絶縁抵抗が向上するため、より好ましい。
【0042】
前記圧電材料に含まれるMg成分の量が1000ppm以下であると、圧電材料の誘電正接が低下し、絶縁抵抗が向上するため、より好ましい。
【0043】
前記圧電材料に含まれるCu成分の量が1000ppm以下であると、圧電材料中の異相が減り、圧電定数の向上と誘電正接の低下に効果があるため、より好ましい。
【0044】
本発明の圧電材料の形態の一態様である圧電セラミックスを得るためには、焼成前の成形体を作製する。ここで、セラミックスとは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒子の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものもセラミックスに含まれる。前記成形体とは原料粉末を成形した固形物である。
【0045】
原料粉末は純度の高いものの方が好ましい。
原料粉末に用いることができる金属化合物の粉体としては、Mn化合物、Na化合物、Nb化合物、Ba化合物、Ti化合物およびBi化合物を挙げることができる。
【0046】
使用可能なMn化合物としては、酸化マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。使用可能なNa化合物としては、炭酸ナトリウム、ニオブ酸ナトリウムなどが挙げられる。使用可能なNb化合物としては、酸化ニオブ、ニオブ酸ナトリウムなどが挙げられる。使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウムなどが挙げられる。使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウムなどが挙げられる。使用可能なBi化合物としては、酸化ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウムなどが挙げられる。
【0047】
前記圧電材料の構成元素ごとに原料粉末を秤量して混合粉末を作製し、前記混合粉末を焼成することで前記圧電材料の焼結体を製造することができる。他方、各々ペロブスカイト型構造を有するニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムの混合原料粉を焼成して前記圧電材料の焼結体を製造することで、より良好な機械的品質係数を得ることができる。
【0048】
成形方法としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工、温間静水圧加工、鋳込成形と押し出し成形を挙げることができる。成形体を作製する際には、造粒粉を用いることが好ましい。造粒粉を用いた成形体を焼結すると、焼結体の結晶粒の大きさの分布が均一になり易いという利点がある。
【0049】
圧電材料の原料粉を造粒する方法は特に限定されないが、造粒粉の粒径をより均一にできるという観点において、最も好ましい造粒方法はスプレードライ法である。
造粒する際に使用可能なバインダーの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。添加するバインダーの量は、前記圧電材料の原料粉に対して1重量部から10重量部が好ましく、成形体の密度が上がるという観点において2重量部から7重量部がより好ましい。
【0050】
前記成形体の焼結方法は特に限定されないが、焼結方法の例としては、電気炉による焼結、ガス炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、HIP(熱間等方圧プレス)などが挙げられる。電気炉およびガスによる焼結は、連続炉であってもバッチ炉であっても構わない。
【0051】
前記焼結方法における焼結温度は特に限定されないが、各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であることが好ましい。好ましい焼結温度としては、圧電材料の粒径を0.2μmから50μmの範囲にするという観点、および、Naの揮発を抑制するという観点で、1050℃以上1350℃以下である。より好ましくは1100℃以上1300℃以下である。上記温度範囲で焼結した圧電材料は良好な絶縁性と圧電定数を示す。焼結処理により得られる圧電材料の特性を再現よく安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして1時間以上48時間以下の焼結処理を行うとよい。また、二段階焼結法などの焼結方法を用いてもよいが、生産性を考慮すると急激な温度変化のない方法が好ましい。
【0052】
焼結処理により得られた圧電材料を研磨加工した後に、キュリー温度以上の温度で熱処理することが好ましい。機械的に研磨加工されると、圧電材料の内部には残留応力が発生するが、キュリー温度以上で熱処理することにより、残留応力が緩和し、圧電材料の圧電特性がさらに良好になる。熱処理の具体的な時間は特に限定されないが、例えば、300℃以上500℃以下の温度を1時間以上24時間以下保持するような熱処理が好ましい。
【0053】
本発明の圧電材料を構成する結晶の平均粒径が0.2μm以上50μm以下であると、圧電性と加工強度の両立の観点で好ましい。平均粒径を前記範囲にすることで、十分な圧電性を確保しつつ、切断加工および研磨加工時の機械的強度を得ることができる。さらに好ましい平均粒径の範囲は、0.3μm以上20μm以下である。本明細書において、平均粒径とは、平均円相当径を意味する。円相当径とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。
【0054】
本発明は圧電材料に係るものであるが、セラミックス以外の粉末、単結晶、膜、スラリーなどのいずれの形態でも構わない。
【0055】
本発明の圧電材料を基板上に作成された膜として利用する際、前記圧電材料の厚みは200nm以上10μm以下、より好ましくは300nm以上3μm以下であることが望ましい。圧電材料の膜厚を200nm以上10μm以下とすることで圧電素子として十分な電気機械変換機能が得られるからである。
【0056】
前記膜の積層方法は特に制限されない。例えば、化学溶液堆積法(CSD法)、ゾルゲル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)などが挙げられる。このうち、もっとも好ましい積層方法は化学溶液堆積法またはスパッタリング法である。化学溶液堆積法またはスパッタリング法は、容易に成膜面積を大面積化できる。本発明の圧電材料に用いる基板は(001)面、(110)面または(111)面で切断・研磨された単結晶基板であることが好ましい。特定の結晶面で切断・研磨された単結晶基板を用いることで、その基板表面に設けられた圧電材料膜も同一方位に強く配向させることができる。
【0057】
(圧電素子)
次に、本発明の圧電素子について説明する。
図1は本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。本発明に係る圧電素子は、第一の電極1、圧電材料部2および第二の電極3を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料部2を構成する圧電材料が本発明の圧電材料であることを特徴とする。
【0058】
本発明に係る圧電材料は、少なくとも第一の電極と第二の電極を有する圧電素子にすることにより、その圧電特性を評価できる。前記第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。
【0059】
前記第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。前記第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いてもよい。
【0060】
(分極)
前記圧電素子は一定方向に分極軸が揃っているものであると、より好ましい。分極軸が一定方向に揃っていることで前記圧電素子の圧電定数は大きくなる。
前記圧電素子の分極方法は特に限定されない。分極処理は大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極をする際の温度は60℃から150℃の温度が好ましいが、素子を構成する圧電材料の組成によって最適な条件は多少異なる。分極処理をするために印加する電界は800V/mmから7.0kV/mmが好ましい。
【0061】
(共振-反共振法)
前記圧電素子の圧電定数、機械的品質係数および誘電正接(誘電損失ともいう)は、市販のインピーダンスアナライザを用いて得られる共振周波数および反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM-4501)に基づいて、計算により求めることができる。以下、この方法を共振-反共振法と呼ぶ。
【0062】
(積層型の圧電素子)
次に、前記圧電素子の一実施形態である積層型の圧電素子について説明する。
【0063】
本発明に係る積層型の圧電素子は、前記圧電素子において、前記圧電材料部内に少なくとも1つの内部電極を備え、前記圧電材料からなる圧電材料層と層状の前記少なくとも1つの内部電極とが交互に積層された積層構造を有することを特徴とする。
【0064】
図2は本発明の積層圧電素子の構成の一実施形態を示す断面概略図である。本発明に係る積層圧電素子は、圧電材料層54、504と、内部電極55、505を含む電極層とで構成されており、これらが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層54、504が上記の圧電材料よりなることを特徴とする。電極層は、内部電極55、505以外に第一の電極51、501や第二の電極53、503といった外部電極を含んでいても良い。
【0065】
図2(a)は2層の圧電材料層54と1層の内部電極55が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極51と第二の電極53で狭持した本発明の積層圧電素子の構成を示している。
図2(b)のように圧電材料層と内部電極の数を増やしてもよく、その層数に限定はない。
図2(b)の積層圧電素子は、9層の圧電材料層504と8層の内部電極505(505aもしくは505b)が交互に積層されている。その積層構造体は第一の電極501と第二の電極503で圧電材料層を挟持した構成であり、交互に形成された内部電極を短絡するための外部電極506aおよび外部電極506bを有する。
【0066】
内部電極55、505および外部電極506a、506b、第一の電極51、501および第二の電極53、503の大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、また複数に分割されていてもよい。
【0067】
内部電極55、505、外部電極506a、506b、第一の電極51、501および第二の電極53、503は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。内部電極55、505および外部電極506a、506bは、これら金属および化合物のうちの1種からなるものであっても2種以上の混合物あるいは合金であってもよく、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また複数の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
【0068】
内部電極55、505はAgとPdを含み、前記Agの含有重量M1と前記Pdの含有重量M2との重量比M1/M2が1.5≦M1/M2≦9.0であることが好ましい。前記重量比M1/M2が1.5未満であると内部電極の耐熱性は高いが、Pd成分の増加により電極コストが増大するため望ましくない。一方で、前記重量比M1/M2が9.0よりも大きくなると、内部電極耐熱温度不足により、内部電極が島状になるために面内で不均一になるので望ましくない。耐熱性とコストの観点から、より好ましくは、2.0≦M1/M2≦5.0である。
【0069】
電極材料が安価という観点において、内部電極55、505はNiおよびCuの少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。内部電極55、505にNiおよびCuの少なくともいずれか1種を用いる場合、本発明の積層圧電素子は還元雰囲気で焼成することが好ましい。
【0070】
図2(b)に示すように、内部電極505を含む複数の電極は、駆動電圧の位相をそろえる目的で互いに短絡させても良い。例えば、内部電極505aと第一の電極501を外部電極506aで短絡させても良い。内部電極505bと第二の電極503を外部電極506bで短絡させても良い。内部電極505aと内部電極505bは交互に配置されていても良い。また電極どうしの短絡の形態は限定されない。積層圧電素子の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、圧電材料層504を貫通するスルーホールを設け、その内側に導電材料を設けて電極どうしを短絡させてもよい。
【0071】
(積層型の圧電素子の製造方法)
本発明に係る積層型の圧電素子の製造方法は、特に限定されないが、以下にその作製方法を例示する。まず、少なくともMn、Na、Nb、Ba、TiおよびBiを含んだ金属化合物粉体を分散させてスラリーを得る工程(A)と、前記スラリーを基材上に設置し成形体を得る工程(B)を実行する。その後に、前記成形体に電極を形成する工程(C)と前記電極が形成された成形体を焼結して、積層圧電素子を得る工程(D)を実行する。
【0072】
工程(A)に用いる金属酸化物は、ペロブスカイト型構造のニオブ酸ナトリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ビスマスナトリウムを含んでいることが好ましい。これにより、より良好な機械的品質係数を得ることができる。
【0073】
(電子機器)
本発明に係る電子機器は、前記本発明の圧電素子を備えたことを特徴とする。
【0074】
(電子機器の例1:液体吐出ヘッド、液体吐出装置)
図3(a)および(b)は、本発明の電子機器の一例として、本発明の圧電素子を備えた液体吐出ヘッドと該液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置の構成を模式的に示す概略図である。液体吐出ヘッドは、前記圧電素子または前記積層型の圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を少なくとも有する。液体吐出装置は、被転写体の載置部と前記液体吐出ヘッドを備える。但し、各部材の形状や配置は
図3(a)および(b)の例に限定されない。
【0075】
図3(a)に示すように、本発明の電子機器である液体吐出ヘッドは、上記本発明の圧電素子101を有する。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する。圧電材料1012および第二の電極1013は、液体吐出ヘッドの吐出力を高める目的でパターニングされていてもよい。
【0076】
液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室103、個別液室103と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板102、圧電素子101を有する。一般に、圧電材料1012は個別液室103の形状に沿った形状となる。
【0077】
本発明の電子機器の一例である液体吐出ヘッドに電気信号を入力し駆動させると、振動板102が圧電素子101の変形によって上下に振動し、個別液室103に格納された液体に圧力が加わる。その結果、吐出口105より液体が吐出される。液体吐出ヘッドは、種々の媒体へ印字を行うプリンタへの組み込みや電子デバイスの製造に用いることができる。
【0078】
次に前記液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置について説明する。
図3(b)には、液体吐出装置としてのインクジェット記録装置を例示した。
【0079】
図3(b)の液体吐出装置は、外装部896の内部に各機構が組み込まれている。自動給送部897は被転写体としての記録紙を装置本体内へ自動給送する機能を有する。自動給送部897から送られた記録紙は、搬送部899によって所定の記録位置(図番無し)へ導かれ、記録動作の後に、再度搬送部899によって記録位置から排出部898へ導かれる。搬送部899が、被転写体の載置部である。前記液体吐出装置は、加えて、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録部891と、記録部891に対する回復処理を行う回復部890を有する。記録部891には、前記液体吐出ヘッドを収納し、レール上を往復移送させるキャリッジ892が備えられている。
【0080】
このような液体吐出装置において、外部コンピュータからの指示に従って、キャリッジ892が前記液体吐出ヘッドを移送し、本発明の圧電素子に対する電圧印加に応じてインクが液体吐出ヘッドの吐出口105より放出されることで、印字が行われる。
【0081】
上記例は、インクジェット記録装置として例示したが、本発明の液体吐出装置は、ファクシミリや複合機、複写機などのインクジェット記録装置等のプリンティング装置の他、産業用液体吐出装置、対象物に対する描画装置として使用することができる。加えてユーザーは用途に応じて所望の被転写体を選択することができる。
【0082】
(電子機器の例2:振動波モータ、光学機器)
図4(a)~(e)は、本発明の電子機器の一例として、本発明の圧電素子を備えた振動波モータと該振動波モータを用いた光学機器の構成を模式的に示す概略図である。振動波モータは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを少なくとも有する。光学機器は、駆動部に前記振動波モータを備える。但し、各部材の形状や配置は
図4(a)~(e)の例に限定されない。
【0083】
本発明の圧電素子が単板からなる振動波モータを、
図4(a)に示す。振動波モータは、振動体201、振動体201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触している移動体202(ロータとも言う)、移動体202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動体201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。
【0084】
圧電素子に位相がπ/2の奇数倍異なる二相の交番電圧を印加すると、振動体201に屈曲進行波が発生し、振動体201の摺動面上の各点が楕円運動をする。ロータ202は振動体201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0085】
次に、積層構造を有した圧電素子(積層圧電素子)を含む振動波モータを
図4(b)に例示する。振動体204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、前記積層型の圧電素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって積層圧電素子2042を挟持固定し、振動体204を構成する。
【0086】
積層圧電素子2042に位相の異なる交番電圧を印加することにより、振動体204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動体204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動体204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0087】
移動体205(ロータとも言う)は、加圧用のバネ206により振動体204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。移動体205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0088】
次に前記振動波モータを用いた光学機器について説明する。
図4(c)、(d)、および(e)には、光学機器としての一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒を例示した。
【0089】
カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713、前群鏡筒714が固定されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
【0090】
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
【0091】
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。
【0092】
固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上記の関係で構成されている。
【0093】
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シート733が固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされ、マニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、さらにマニュアルフォーカス環724の内径724cは、固定筒712の外径部712bと径嵌合している。低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
【0094】
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が振動波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。また同じく、波ワッシャ726が振動波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されている。波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、振動波モータ725、さらにはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724が固定筒712のマウント側端面712aを押し付け力ともなる。つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
【0095】
従って、不図示の制御部により振動波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると以下のように作用する。
すなわち、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき振動波モータ725は、ロータ725cとステータ725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
【0096】
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、回転伝達環720が光軸周りに回転すると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環715が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。
【0097】
上記例は、前記振動波モータを用いた光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ等、カメラの種類を問わず、駆動部に振動波モータを有する光学機器に前記振動波モータを適用することができる。
【0098】
(電子機器の例3:振動装置、撮像装置)
図5(a)~(d)は、本発明の圧電素子を備えた振動装置と該振動装置を用いた撮像装置の構成を模式的に示す概略図である。
図5(a)および(b)に示した振動装置は、本発明の圧電素子を振動板に配した振動体を少なくとも有しており、振動板の表面に付着した塵埃を除去する機能を有する塵埃除去装置である。撮像装置は、前記塵埃除去装置と撮像素子ユニットとを少なくとも有する撮像装置であって、前記塵埃除去装置の振動板を前記撮像素子ユニットの受光面側に設けている。但し、各部材の形状や配置は
図5(a)~(d)の例に限定されない。
【0099】
図5(a)および
図5(b)は、電子機器としての塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。圧電素子330は、本発明の積層型の圧電素子であっても良い。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができ、振動板の透光部や光反射部が塵埃除去の対象となる。
【0100】
圧電素子330は、圧電材料331と第一の電極332と第二の電極333より構成され、第一の電極332と第二の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。積層型の圧電素子の場合、圧電材料331は圧電材料層と内部電極の交互構造をとり、内部電極を交互に第一の電極332または第二の電極333と短絡させることにより、圧電材料の層ごとに位相の異なる駆動波形を与える事ができる。
図5(a)においては、第一の電極332が圧電材料331の第二の電極333の配置された板面に回りこんでいる。
【0101】
圧電素子330に外部より交番電圧を印加すると、圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板320に面外振動を発生させる。塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動である。
【0102】
次に、前記塵埃除去装置を用いた撮像装置について説明する。
図5(c)および
図5(d)には、撮像装置としてのデジタル一眼レフカメラを例示した。
図5(c)は、カメラ本体601を被写体側より見た正面側斜視図であって、撮影レンズユニットを外した状態を示す。
図5(d)は、塵埃除去装置と撮像ユニット400の周辺構造について説明するためのカメラ内部の概略構成を示す分解斜視図である。
図5(c)に示すカメラ本体601内には、撮影レンズを通過した撮影光束が導かれるミラーボックス605が設けられており、ミラーボックス605内にメインミラー(クイックリターンミラー)606が配設されている。メインミラー606は、撮影光束をペンタダハミラー(不図示)の方向へ導くために撮影光軸に対して45°の角度に保持される状態と、撮像素子(不図示)の方向へ導くために撮影光束から退避した位置に保持される状態とを取り得る。
【0103】
図5(d)において、カメラ本体の骨格となる本体シャーシ300の被写体側には、被写体側から順にミラーボックス605、シャッタユニット200が配設される。また、本体シャーシ300の撮影者側には、撮像ユニット400が配設される。前記撮像ユニット400は、塵埃除去装置の振動板と撮像素子ユニットで構成される。また、塵埃除去装置の振動板は前記撮像素子ユニットの受光面と同一軸上に順に設けてある。撮像ユニット400は、撮影レンズユニットが取り付けられる基準となるマウント部602(
図5(c))の取付面に設置され、撮像素子ユニットの撮像面が撮像レンズユニットと所定の距離を空けて、且つ平行になるように調整されている。
【0104】
ここでは、撮像装置の例としてデジタル一眼レフカメラについて説明したが、例えばミラーボックス605を備えていないミラーレス型のデジタル一眼カメラのような撮影レンズユニット交換式カメラであってもよい。また、撮影レンズユニット交換式のビデオカメラや、複写機、ファクシミリ、スキャナ等の各種の撮像装置もしくは撮像装置を備える電子電気機器のうち、特に光学部品の表面に付着する塵埃の除去が必要な機器にも適用することができる。
【0105】
ここまで、本発明の電子機器の例として、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、塵埃除去装置、撮像装置の説明をしたが、電子機器の種類はこれらに限定されない。圧電素子から電力を取り出すことで、正圧電効果に起因する電気信号の検知やエネルギーの取り出しを行う電子機器や、圧電素子に電力を入力することで、逆圧電効果による変位を利用する電子機器の全般に、本発明の圧電素子は適用できる。例えば、圧電音響部品や該圧電音響部品を有する音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等も、本発明の電子機器に含まれる。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を挙げて本発明の圧電材料、圧電素子および電子機器をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0107】
実施例および比較例による圧電材料の作製、加工および評価は下記のような手順で行った。セラミックス状の圧電材料の製造にあたっては、アルキメデス法により圧電材料の密度を評価し、理論密度の93%以上の相対密度であれば十分に結晶化が進んでいると判断した。結晶構造は、X線回折測定を実施してリートベルト解析を行うことにより特定した。理論密度は、特定した結晶構造から算出した。
【0108】
(実施例1)
原料には、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、チタン酸ビスマスナトリウム、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%、モル量としてはMnO4/3として計算)の粉末を用いた。
【0109】
Bi:Na:Tiの比がw:s:(w+s)=0.04167:0.04167:0.08334=1:1:2となるようにBi2O3粉末、NaCO3粉末およびTiO2粉末を秤量して混合し、空気中にて900℃で2時間の仮焼を行った後、粉砕することで、前記チタン酸ビスマスナトリウム粉末を作製した。得られた粉末はほぼペロブスカイト型構造の単相であった。
【0110】
仕込み組成としてNax+s(1-y)(BiwBa1-s-w)1-yNbyTi1-yO3 (x=0.880、y=0.880、w=0.04167、s=0.04167)の比になるように各原料を秤量して混合した。混合した粉末に、前記NbとTiの合計に対してMn量が0.10mol%となるように酸化マンガンを添加してさらに混合し、PVAバインダーを加えて造粒した。造粒粉を金型内に充填し、圧縮することで円盤状の成形体を作製した。得られた成形体を空気中にて最高温度1240℃で1時間焼成することによりセラミックス状の焼結体を得た。
【0111】
前記圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。
図6は実施例1の圧電材料のX線回折パターンである。
図6(a)は2θが10度から100度の範囲のパターンを示し、
図6(b)は2θが44度から48度の範囲のパターンを示す。得られたパターンから結晶構造をリートベルト解析により特定したところ、試料はほぼペロブスカイト構造単相であることが確認でき、前記ペロブスカイト構造は、酸素八面体が二つ含まれる構造の単位格子を有していることが分かった。また、前記ペロブスカイト構造はP4bm構造を有することが分かった。2θが44度から48度の範囲においては、主に2つのピークが確認でき、高角側に最大のピークがあった。最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、1.2であった。
【0112】
焼結体の組成を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)で評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で焼結体に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.2モル%未満であった。焼結体に含まれるPb、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0113】
焼結体の表面を光学顕微鏡で観察し粒径を評価した所、本実施例の平均粒径は3.2μmであった。なお、結晶粒の観察には、主に偏光顕微鏡を用いた。小さな結晶粒の粒径を特定する際には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。この観察結果より平均円相当径を算出し、平均粒径とした。焼結体の密度は理論密度の98%であった。
【0114】
円盤状の焼結体を0.5mmの厚さに研磨し、表裏両面にDCスパッタリング法によって厚さ400nmの金電極を形成した。なお、電極とセラミックスの間には密着層として厚さ30nmのチタンを成膜した。この電極付のセラミックスを、切断加工して10mm×2.5mm×0.5mmの短冊状の圧電素子を3個得た。
【0115】
前記圧電素子を150℃のシリコーンオイルに浸漬し、前記圧電素子の二つの電極間に2.4kV/mmの電界を30分間印加することで分極処理した。
【0116】
前記圧電素子の抵抗率を測定して、絶縁性の評価を行った。圧電素子の二つの電極間に直流10Vのバイアスを印加し、20秒後のリーク電流値から抵抗率を評価した。結果、実施例1の圧電素子の室温での抵抗率は1607GΩ・cmであった。
【0117】
本実施例の圧電素子の室温特性は、圧電定数d31の絶対値|d31|が53.5pm/V、機械的品質係数Qmが437、1kHzにおける誘電正接tanδが0.58%であった。|d31|、Qmおよびtanδの前記値は、同じ焼結体から得られた3個の圧電素子を測定した平均値である。また、キュリー温度Tcは210℃であった。圧電素子のd31、Qm、誘電正接は、共振-反共振法により評価した。キュリー温度は、比誘電率が極大となる温度を測定し、その温度をキュリー温度とした。
【0118】
(実施例2から24)
実施例1と同様の工程で、実施例2から実施例24の圧電材料および圧電素子を作製した。
【0119】
Bi:Na:Tiの比がw:s:(w+s)となるようにBi2O3粉末、NaCO3粉末およびTiO2粉末を秤量して混合し、空気中にて900℃で2時間の仮焼を行った後、粉砕することでチタン酸ビスマスナトリウム粉末を作製した。wおよびsの値は表1に示す。得られた粉末はほぼペロブスカイト型構造の単相であった。
【0120】
仕込み組成が表1に示すような比率になるように、前記チタン酸ビスマスナトリウム、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を秤量し、混合した。実施例1と同じ条件で残りの製造工程を実施し、実施例2から実施例24の圧電材料および圧電素子を作製した。
【0121】
実施例1と同様にして各実施例の圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。実施例2から実施例24のすべての実施例において、試料はほぼペロブスカイト構造単相であることが確認でき、前記ペロブスカイト構造は、酸素八面体が二つ含まれる構造の単位格子を有していることが分かった。また、前記ペロブスカイト構造はP4bm構造を有していた。2θが44度から48度の範囲においては、主に2つのピークが確認でき、高角側に最大のピークがあった。最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、表1に示す値となった。
【0122】
実施例1と同様にして各実施例の焼結体の組成をICPで評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で焼結体に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.2モル%未満であった。焼結体に含まれるPb、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0123】
実施例1と同様にして焼結体の表面の粒径を評価した所、各実施例の平均粒径は0.3μm以上20μm以下の範囲内であった。また、各実施例の焼結体の密度は理論密度の95%以上であった。実施例1と同様にして各実施例の圧電素子を分極処理し、各実施例の圧電素子の室温特性およびキュリー温度を評価した。圧電定数d31の絶対値|d31|、機械的品質係数Qm、1kHzにおける誘電正接、抵抗率、キュリー温度Tcは、表2に示す値となった。
【0124】
(実施例25から28)
実施例1と同様の工程で、実施例25から実施例28の圧電材料および圧電素子を作製した。
【0125】
仕込み組成が表1に示すような比率になるように、チタン酸ビスマスナトリウム(Bi:Na:Ti=1:1:2、純度99.5%以上)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を秤量して混合し、混合粉末を得た。
【0126】
実施例25では、前記混合粉末に対して、Pb成分が質量比で2000ppmとなるようにPbの粉末を添加し、さらに混合した。
【0127】
実施例26では、前記混合粉末に対して、K成分が質量比で2000ppmとなるように炭酸水素カリウム(KHCO3)の粉末を添加し、さらに混合した。
【0128】
実施例27では、前記混合粉末に対して、Mg成分が質量比で2000ppmとなるように酸化マグネシウム(MgO)の粉末を添加し、さらに混合した。
【0129】
実施例28では、前記混合粉末に対して、Cu成分が質量比で2000ppmとなるように酸化銅(CuO)の粉末を添加し、さらに混合した。
【0130】
実施例1と同じ条件で残りの製造工程を実施し、実施例25から実施例28の圧電材料および圧電素子を作製した。実施例4と同様にして各実施例の圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。実施例25から実施例27の試料はほぼペロブスカイト構造単相であることが確認できた。実施例28の試料からは、ペロブスカイト構造の他に、ペロブスカイト構造以外の構造を持つ異相が数%程度検出された。実施例25から実施例28のペロブスカイト構造は、酸素八面体が二つ含まれる構造の単位格子を有していることが分かった。また、前記ペロブスカイト構造はP4bm構造を有することが分かった。2θが44度から48度の範囲においては、主に2つのピークが確認でき、高角側に最大のピークがあった。最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、表1に示す値となった。
【0131】
各実施例において、焼結体の組成をICPで評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で焼結体に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.3モル%未満であった。
【0132】
実施例25の焼結体に含まれるPbは2000ppmであり、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0133】
実施例26の焼結体に含まれるKは1900ppmであり、Pb、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0134】
実施例27の焼結体に含まれるMgは2000ppmであり、Pb、KおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0135】
実施例28の焼結体に含まれるCuは2000ppmであり、Pb、KおよびMgは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0136】
実施例4と同様にして焼結体の表面の粒径を評価した所、各実施例の平均粒径は0.3μm以上20μm以下の範囲内であった。また、各実施例の焼結体の密度は理論密度の95%以上であった。実施例4と同様にして各実施例の圧電素子を分極処理し、室温特性およびキュリー温度を評価した。圧電定数d31の絶対値|d31|、機械的品質係数Qm、1kHzにおける誘電正接、抵抗率、キュリー温度Tcは、表2に示す値となった。
【0137】
(実施例29および30)
原料には、酸化ニオブ(Nb2O5、純度99.5%以上)、炭酸ナトリウム(NaCO3、純度99.5%以上)、酸化チタン(TiO2、純度99.8%以上)、炭酸バリウム(BaCO3、純度99.8%以上)、酸化ビスマス(Bi2O3、純度99.5%以上)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を用いた。仕込み組成が表1に示すような比率になるように、各原料を秤量して混合し、PVAバインダーを加えて造粒した。
【0138】
実施例1と同じ条件で残りの製造工程を実施し、実施例29および実施例30の圧電材料および圧電素子を作製した。
【0139】
実施例1と同様にして各実施例の圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。実施例29および実施例30の試料はペロブスカイト構造の他に、ペロブスカイト構造以外の構造を持つ異相が数%程度検出された。実施例29および実施例30のペロブスカイト構造は、酸素八面体が二つ含まれる構造の単位格子を有していることが分かった。また、前記ペロブスカイト構造はP4bm構造を有することが分かった。2θが44度から48度の範囲においては、主に2つのピークが確認でき、高角側に最大のピークがあった。最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、表1に示す値となった。
【0140】
各実施例において、焼結体の組成をICPで評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で焼結体に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.2モル%未満であった。焼結体に含まれるPb、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0141】
実施例1と同様にして焼結体の表面の粒径を評価した所、各実施例の平均粒径は0.3μm以上20μm以下の範囲内であった。また、各実施例の焼結体の密度は理論密度の95%以上であった。実施例1と同様にして各実施例の圧電素子を分極処理し、室温特性およびキュリー温度を評価した。圧電定数d31の絶対値|d31|、機械的品質係数Qm、1kHzにおける誘電正接、抵抗率、キュリー温度Tcは、表2に示す値となった。
【0142】
(実施例31および32)
実施例1と同様の工程で、実施例31および実施例32の圧電材料および圧電素子を作製した。
【0143】
仕込み組成が表1に示すような比率になるように、チタン酸ビスマスナトリウム(Bi:Na:Ti=1:1:2)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を秤量して混合した。混合した粉末に、PVAバインダーを加えて造粒し、造粒粉を金型内に充填して圧縮することで円盤状の成形体を作製した。
【0144】
実施例31では、得られた成形体を空気中にて最高温度1050℃で1時間焼成することにより焼結体を得た。
【0145】
実施例32では、得られた成形体を空気中にて最高温度1350℃で1時間焼成することにより焼結体を得た。
【0146】
実施例1と同様にして前記圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。実施例31および実施例32の試料はほぼペロブスカイト構造単相であることが確認できた。実施例31および実施例32のペロブスカイト構造は、酸素八面体が二つ含まれる構造の単位格子を有していることが分かった。また、前記ペロブスカイト構造はP4bm構造を有すると推定された。2θが44度から48度の範囲においては、主に2つのピークが確認でき、高角側に最大のピークがあった。最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、表1に示す値となった。
【0147】
各実施例において、焼結体の組成をICPで評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で焼結体に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.2モル%未満であった。焼結体に含まれるPb、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0148】
実施例1と同様にして焼結体の表面の粒径を評価したところ、実施例31の平均粒径は0.22μmであり、実施例32の平均粒径は25μmであった。また、実施例31の焼結体の密度は理論密度の93%以上95%未満、実施例32の焼結体の密度は理論密度の95%以上であった。実施例1と同様にして各実施例の圧電素子を分極処理し、各実施例の圧電素子の室温特性およびキュリー温度を評価した。圧電定数d31の絶対値|d31|、機械的品質係数Qm、1kHzにおける誘電正接、抵抗率、キュリー温度Tcは、表2に示す値となった。
【0149】
(比較例1から8)
実施例1と同様の工程で、比較例1から比較例8の比較用圧電材料および比較用圧電素子を作製した。
【0150】
Bi:Na:Tiの比がw:s:(w+s)となるようにBi2O3粉末、NaCO3粉末およびTiO2粉末を秤量して混合し、空気中にて900℃で2時間の仮焼を行った後、粉砕することでチタン酸ビスマスナトリウム粉末を作製した。wおよびsの値は表1に示す。得られた粉末はほぼペロブスカイト型構造の単相であった。
【0151】
仕込み組成が表1に示すような比率になるように、前記チタン酸ビスマスナトリウム、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を秤量し、混合した。実施例1と同じ条件で残りの製造工程を実施し、比較例1から比較例8の比較用圧電材料および比較用圧電素子を作製した。
【0152】
実施例1と同様にして比較用圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。比較例1から比較例7の試料はほぼペロブスカイト構造単相であった。比較例8の試料はペロブスカイト構造の他に、ペロブスカイト構造以外の構造を持つ異相が10%程度検出された。2θが44度から48度の範囲においては、2つから3つのピークが確認された。比較例1および比較例2の試料は、低角側に最大のピークがあった。比較例3から比較例8の試料は、最大のピークが高角側に有った。比較例3から比較例8の各比較例において、最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、表1に示す値となった。
【0153】
各比較例において焼結体の組成をICPで評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で焼結体に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.2モル%未満であった。焼結体に含まれるPb、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0154】
実施例1と同様にして焼結体の表面の粒径を評価した所、比較例1および比較例3から比較例8の平均粒径は0.3μm以上20μm以下の範囲内であった。比較例2の平均粒径は0.18μmであった。また、比較例1、比較例3、比較例4および比較例8の焼結体の密度は、理論密度の95%以上であった。比較例5から比較例7の焼結体の密度は、理論密度の93%以上95%未満であった。比較例2の焼結体の密度は、理論密度の93%未満であった。実施例1と同様にして各比較例の比較用圧電素子を分極処理し、各比較用圧電素子の室温特性およびキュリー温度を評価した。圧電定数d31の絶対値|d31|、機械的品質係数Qm、1kHzにおける誘電正接、抵抗率、キュリー温度Tcは、表2に示す値となった。
【0155】
(比較例9)
原料には、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、チタン酸ビスマスカリウム(Bi0.5K0.5TiO3、純度99.5%以上)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を用いた。
【0156】
仕込み組成としてNa0.88(K0.4Bi0.4Ba0.6)0.12Nb0.88Ti0.12O3 となるように各原料を秤量して混合した。実施例1と同じ条件で残りの製造工程を実施し、比較例9の比較用圧電材料および比較用圧電素子を作製した。
【0157】
前記比較用圧電材料の焼結体を粉末化してCu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。2θが44度から48度の範囲においては、2つのピークが確認できた。低角側に最大のピークがあり、2つのピーク強度比はほぼ1対2であった。試料は、単位格子内に酸素八面体を一つだけ含む正方晶のペロブスカイト構造単相であることが確認された。
【0158】
実施例1と同様にして焼結体の表面の粒径を評価した所、比較用圧電材料の平均粒径は0.3μm以上20μm以下の範囲内であった。また、焼結体の密度は理論密度の95%以上であった。実施例1と同様にして比較例9の比較用圧電素子を分極処理し、室温特性およびキュリー温度を評価した。比較例9の比較用圧電素子の室温特性は、圧電定数d31の絶対値|d31|が24.6pm/V、機械的品質係数Qmが199、1kHzにおける誘電正接が1.65%、抵抗率が9GΩ・cmであった。また、キュリー温度Tcは165℃であった。
【0159】
【0160】
【0161】
(実施例1から32および比較例1から9の考察)
次に表2を用いて各実施例および比較例の結果について考察する。
実質的にカリウムを含まない実施例1から実施例32は、一枚の焼結体から得られた3個の圧電素子間の圧電定数のばらつきがカリウムを含む比較例9より小さかった。3個の圧電素子のうち、|d31|の最大値を|d31|max、最小値を|d31|min、3個の圧電定数の平均値を|d31|aveとする。圧電定数のばらつきをv=(|d31|max-|d31|min)/|d31|aveで表す。比較例9はvが0.25であったのに対して、実施例26はvが0.18、実施例1から実施例25および実施例27から実施例32はvが0.1以下と小さかった。
(w+s)(1-y)の値が0.002よりも小さい比較例1は、X線回折測定を行ったときの44度から48度の範囲における最大のピークが低角側にあり、結晶の対称性が十分に低下していなかった。ゆえに、実施例1から実施例32と比べて機械的品質係数が小さく誘電正接が大きい。結果として、素子駆動時の消費電力が増大した。
【0162】
(w+s)(1-y)の値が0.035より大きい比較例3は、実施例1から実施例32と比べて機械的品質係数が小さく、誘電正接が大きいため、素子駆動時の効率が悪い。
【0163】
xとyが0.92よりも大きい比較例2は、平均粒径が0.18μmと焼結が十分でなく、実施例1から実施例32と比べて抵抗率が低かった。結果として分極が不十分となり、圧電定数および機械的品質係数が小さかった。
【0164】
xとyが0.84よりも小さい比較例4は、キュリー温度が200℃よりも低く、実施例1から実施例32と比べて圧電定数が小さかった。
【0165】
w/sの値が、0.9≦w/s≦1.1の範囲外である比較例5および比較例6は、実施例1から実施例32と比べて抵抗率が小さく絶縁性が十分でない上、誘電正接が大きかった。
【0166】
Mnの含有量が0.01mol%未満である比較例7、および、Mnの含有量が1.00mol%より多い比較例8は、実施例1から実施例32と比べて抵抗率が小さく絶縁性が十分でない上、誘電正接が著しく大きかった。
【0167】
チタン酸ビスマスカリウムを原料として用いた比較例9は、結晶の対称性が十分に低下しておらず、実施例1から実施例32と比べて圧電定数、機械的品質係数および絶縁性が小さく、誘電正接が著しく大きかった。また、Tcが200℃未満と低かった。
【0168】
(実施例33)
原料には、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3、純度99.5%以上)、チタン酸バリウム(BaTiO3、純度99.8%以上)、チタン酸ビスマスナトリウム(Bi:Na:Ti=1:1:2)、酸化マンガン(Mn3O4、純度99.9%)の粉末を用いた。
【0169】
仕込み組成としてNax+s(1-y)(BiwBa1-s-w)1-yNbyTi1-yO3 (x=0.880、y=0.880、(w+s)(1-y)=0.010、w/s=1.000)の比になるように各原料を秤量して混合した。混合した粉末に、前記NbとTiの合計に対してMn量が0.10mol%となるように酸化マンガンを添加してさらに混合し、混合粉末を得た。前記混合粉末にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によりシートを成形して50μmのグリーンシートを得た。
【0170】
上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Ag70%-Pd30%合金(Ag/Pd=2.33)ペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、積層体を得た。前記積層体を1210℃の条件で4時間焼成して焼結体を得た。
【0171】
焼結体の圧電材料部分の組成をICPで評価したところ、Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Biのいずれの元素も目的組成とほぼ同じ比率で圧電材料部分に含まれていることが分かった。Na、Ba、Nb、Ti、Mn、Bi以外の成分(Oを除く)は0.2モル%未満であった。焼結体の圧電材料部分に含まれるPb、K、MgおよびCuは、それぞれ1000ppm以下であった。
【0172】
焼結体の圧電材料部分を削り出して粉末化し、Cu-Kα線で2θ-θのX線回折測定を室温で行った。試料はほぼペロブスカイト構造単相であることが確認でき、前記ペロブスカイト構造は、酸素八面体が二つ含まれる構造の単位格子を有していることが分かった。また、前記ペロブスカイト構造はP4bm構造を有することが分かった。2θが44度から48度の範囲においては、2つのピークが確認でき、高角側に最大のピークがあった。最大のピーク強度I1と次に大きなピーク強度I2の比I1/I2は、1.21であった。また、焼結体の圧電材料部分の表面の平均粒径は2.5μmであった。
【0173】
前記焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後、切断面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極をAuスパッタにより形成し、
図2(b)のような積層圧電素子を作製した。前記積層圧電素子は、9個の圧電材料層と8個の内部電極から構成されている。
【0174】
前記積層圧電素子を150℃のシリコーンオイルに浸漬し、二つの外部電極間に2.4kV/mmの電界を30分間印加することで分極処理した。得られた積層圧電素子を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例1の圧電素子と同等の良好な圧電定数、および機械的品質係数が得られた。また、実施例1の圧電素子と同等に誘電正接が小さかった。
【0175】
(実施例34)
実施例1の圧電素子を用いて、
図3(a)に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【0176】
(実施例35)
実施例34の液体吐出ヘッドを用いて、
図3(b)に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が記録媒体上に確認された。
【0177】
(実施例36)
実施例33の積層圧電素子用いて、
図3(a)に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【0178】
(実施例37)
実施例36の液体吐出ヘッドを用いて、
図3(b)に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が記録媒体上に確認された。
【0179】
(実施例38)
実施例1の圧電素子を用いて、
図4(a)に示される振動波モータを作製した。交流電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
【0180】
(実施例39)
実施例38の振動波モータを用いて、
図4(c)、(d)および(e)に示される光学機器を作製した。交流電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
【0181】
(実施例40)
実施例33の積層圧電素子を用いて、
図4(b)に示される振動波モータを作製した。交流電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
【0182】
(実施例41)
実施例40の振動波モータを用いて、
図4(c)、(d)および(e)に示される光学機器を作製した。交流電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
【0183】
(実施例42)
実施例1の圧電素子を用いて、
図5(a)および(b)に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製のビーズを散布し、交流電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が得られた。
【0184】
(実施例43)
実施例42の塵埃除去装置を用いて、
図5(c)および(d)に示される撮像装置を作製した。前記撮像装置を動作させたところ、撮像ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥のない画像が得られた。
【0185】
(実施例44)
実施例33の積層圧電素子を用いて、
図5(a)および(b)に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製のビーズを散布し、交流電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が得られた。
【0186】
(実施例45)
実施例44の塵埃除去装置を用いて、
図5(c)および(d)に示される撮像装置を作製した。前記撮像装置を動作させたところ、撮像ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥のない画像が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明の圧電材料は、誘電正接を抑制し、圧電定数と機械的品質係数の両立が求められる圧電デバイスに利用できる。また、鉛を含まないために、環境に対する負荷が少ない。よって、本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、振動波モータ、塵埃除去装置などの圧電材料を多く用いる機器にも問題なく利用することができる。
【符号の説明】
【0188】
1、1011、332、51、501 第一の電極
2 圧電材料部
3、1013、333、53、503 第二の電極
101、2012、330 圧電素子
102、320 振動板
103 個別液室
104 液室隔壁
105 吐出口
106 連通孔
107 共通液室
1012、331 圧電材料
201、204 振動体
202、205 移動体(ロータ)
203 出力軸
206 バネ
2011 弾性体リング
2013 有機系接着剤
2041 金属弾性体
2042 積層圧電素子
310 塵埃除去装置
54、504 圧電材料層
55、505a、505b 内部電極
506a、506b 外部電極
601 カメラ本体
602 マウント部
605 ミラーボックス
606 メインミラー
200 シャッタユニット
300 本体シャーシ
400 撮像ユニット
701 前群レンズ
702 後群レンズ(フォーカスレンズ)
711 着脱マウント
712 固定筒
713 直進案内筒
714 前群鏡筒
715 カム環
716 後群鏡筒
717 カムローラ
718 軸ビス
719 ローラ
720 回転伝達環
722 コロ
724 マニュアルフォーカス環
725 振動波モータ
726 波ワッシャ
727 ボールレース
728 フォーカスキー
729 接合部材
732 ワッシャ
733 低摩擦シート
890 回復部
891 記録部
892 キャリッジ
896 外装部
897 自動給送部
898 排出部
899 搬送部