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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】上皮間葉転換誘導細胞阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/92 20060101AFI20220414BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220414BHJP
   C07D 405/12 20060101ALI20220414BHJP
   C07D 407/12 20060101ALI20220414BHJP
   C07H 15/26 20060101ALI20220414BHJP
   C12P 17/06 20060101ALI20220414BHJP
   C12P 17/16 20060101ALI20220414BHJP
   C12P 19/28 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20220414BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220414BHJP
   C12R 1/465 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
C07D311/92 101
A61K31/352
A61K31/4178
A61K31/7008
A61K31/7034
A61K31/7048
A61P43/00 105
C07D405/12
C07D407/12
C07H15/26 CSP
C12P17/06
C12P17/16
C12P19/28
A61K35/74 F
C12N1/20 A
C12R1:465
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018540354
(86)(22)【出願日】2017-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2017034819
(87)【国際公開番号】W WO2018056470
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2016186970
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02304
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大村 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中島 琢自
(72)【発明者】
【氏名】松本 厚子
(72)【発明者】
【氏名】中西 淳
(72)【発明者】
【氏名】松尾 洋孝
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】WANG Xiachang, et al.,Frenolicins C-G, Pyranonaphthoquinones from Streptomyces sp. RM-4-15,Journal of Natural Products,2013年,Vol.76,pp.1441-1447
【文献】NAKASHIMA Takuji, et al.,Nanaomycin H: A new nanaomycin analog,Journal of Bioscience and Bioengineering,2017年02月13日,Vol.123, No.6,pp.765-770
【文献】TAGUCHI Takaaki, et al.,Structure and biosynthetic implication of 5R-(N-acetyl-L-cysteinyl)-14S-hydroxy-dihydrokalafungin from a mutant of the actVA-ORF4 gene for actinorhodin biosynthesis in Streptomyces coelicolor A3(2),The Journal of Antibiotics,2015年,Vol.68,pp.481-483
【文献】NAKASHIMA Takuji, et al.,New compounds, nanaomycin F and G, discovered by physicochemical screening from a culture broth of Streptomyces rosa subsp. notoensis OS-3966,Journal of Bioscience and Bioengineering,2015年,Vol.120, No.5,pp.596-600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物。
【化1】
[式中、Rは、C1~6アルキル基を示し、Rは、C1~6アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、又は水酸基で置換されたC1~6アルキル基を示し、Rは、以下のいずれかで表される基を示す。]
【化2】
【化4】
【化5】
【請求項2】
請求項1に記載の化合物において、Rがメチル基であり、Rがカルボキシ基である化合物を生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中に該化合物を蓄積せしめ、該培養物から該化合物を採取することを特徴とし、ここで、該化合物を生産する能力を有する放線菌に属する微生物が、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591(受領番号 NITE ABP-02304)である、請求項1に記載の化合物において、Rがメチル基であり、Rがカルボキシ基である化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、医薬組成物。
【請求項4】
下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、上皮間葉転換が誘導された細胞を傷害するための薬剤。
【化6】
[式中、Rは、C1~6アルキル基を示し、Rは、C1~6アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、又は水酸基で置換されたC1~6アルキル基を示し、Rは、以下のいずれかで表される基を示す。]
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【発明の詳細な説明】
【クロスレファレンス】
【0001】
本願は日本国特許庁に対して2016年9月26日に出願された日本国特許第2016-186970号からの優先権を主張する。本願が優先権を主張する日本国特許第2016-186970号記載の内容は全て参照によりそのまま本願に組み込まれる。また、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、新規ナナオマイシン類(nanaomycin)化合物、その製造方法、及びナナオマイシンを有効成分として含有する医薬組成物及び上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition:EMT)誘導細胞阻害薬に関する。
【背景技術】
【0003】
上皮細胞は、様々な刺激により間葉系細胞へと形質転換することが知られている。この形質転換は上皮間葉転換と呼ばれ、正常な細胞においては創傷治癒や繊維化にかかわると考えられている。
【0004】
ナナオマイシンA及びBは、Streptomyces OS-3966から新規の抗生物質として見出された化合物であり、Mycoplasma gallisepticum KP-13への抗菌作用が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Haruo Tanakaら、The Journal of Antibiotics(1975)Vol.XXVIII;No.11:pp.860-867.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上皮間葉転換により間葉細胞化した細胞に対して選択的に傷害を与える新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは種々の化合物の探索を行い、その生物活性について鋭意検討を行った結果、新規物質であるナナオマイシン及びその誘導体が、上皮間葉転換により間葉細胞化した細胞に対して選択的に傷害を与えることを見出した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、よって、本発明は以下の発明に関する。
(1) 下記式(I)で表される化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物若しくは溶媒和物(以下、本明細書において「本発明の前記式(I)で表わされる化合物等」ということがある)
【0009】
【化1】
[式中、Rは、C1~6アルキル基を示し、Rは、C1~6アルコキシカルボニル基、カルボキシ基、又は水酸基で置換されたC1~6アルキル基を示し、Rは、以下のいずれかで表される基を示す。]
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
(2) (1)に記載の化合物において、Rがメチル基であり、Rがカルボキシ基である化合物を生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中に該化合物を蓄積せしめ、該培養物から該化合物を採取することを特徴とする、請求項1に記載の化合物において、Rがメチル基であり、Rがカルボキシ基である化合物の製造方法。
(3) (1)に記載の化合物において、Rがメチル基であり、Rがカルボキシ基である化合物を生産する能力を有する放線菌に属する微生物が、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591(受領番号 NITE ABP-02304)である請求項2に記載の製造方法。
(4) ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591(受領番号 NITE ABP-02304)。
(5) (1)に記載の化合物を有効成分として含有する医薬組成物。
(6) (1)に記載の化合物を有効成分として含有する上皮間葉転換が誘導された細胞を傷害するための薬剤。
【0010】
よって、一態様において本発明は、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591株の培養液から単離された、式(I)で表わされる、新規化合物ナナオマイシン類又はそのエステル誘導体あるいはそれらの塩又は水和物を提供するものである。
【0011】
本発明の式(I)で表される化合物において、Rは、直鎖又は分岐状のC1~6アルキル基である。本明細書において、「C1~6アルキル基」とは、直鎖又は分岐状の炭素数が1~6個の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、及びシクロヘキシル基などが挙げられ、好ましくは、C1~5アルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、又は2,3-ジメチルプロピル基である。更に好ましくは、C1~3アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びi-プロピル基、であり、最も好ましくは、メチル基、エチル基、又はプロピル基である。
【0012】
本発明の式(I)で表される化合物において、Rは、C1~6アルコキシカルボニル基、カルボキシ基(COOH基)、又は水酸基で置換されたC1~6アルキル基である。本明細書において、「C1~6アルコキシカルボニル基」とは、(C1~6アルキル基)-O-C(=O)-基のことであり、該アルキル基部分は直鎖状であっても分岐状であってもよい。C1~6アルコキシカルボニル基とは、前記アルキル基部分の炭素原子数が1~6個であることを意味する。C1~6アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、1-プロピルオキシカルボニル基、2-プロピルオキシカルボニル基、2-メチル-1-プロピルオキシカルボニル基、2-メチル-2-プロピルオキシカルボニル基、2,2-ジメチル-1-プロピルオキシカルボニル基、1-ブチルオキシカルボニル基、2-ブチルオキシカルボニル基、2-メチル-1-ブチルオキシカルボニル基、3-メチル-1-ブチルオキシカルボニル基、2-メチル-2-ブチルオキシカルボニル基、3-メチル-2-ブチルオキシカルボニル基、1-ペンチルオキシカルボニル基、2-ペンチルオキシカルボニル基、3-ペンチルオキシカルボニル基、2-メチル-1-ペンチルオキシカルボニル基、3-メチル-1-ペンチルオキシカルボニル基、2-メチル-2-ペンチルオキシカルボニル基、3-メチル-2-ペンチルオキシカルボニル基、1-ヘキシルオキシカルボニル基、2-ヘキシルオキシカルボニル基、3-ヘキシルオキシカルボニル基などが挙げられる。C1~6アルコキシ基として、好ましくはC1~5アルコキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシカルボニル基、i-プロピルオキシカルボニル基、n-ブチルオキシカルボニル基、sec-ブチルオキシカルボニル基、t-ブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、及び2,3-ジメチルプロピルオキシカルボニル基であり、更に好ましくは、C1~3アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基及びプロピルオキシカルボニル基)であり、より更に好ましくは、メトキシカルボニル基又はエトキシカルボニル基である。
【0013】
本明細書において、水酸基で置換されたC1~6アルキル基とは、1個の水酸基で置換された、前記C1~6アルキル基を意味し、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、1-ヒドロキシペンチル基、2-ヒドロキシペンチル基、3-ヒドロキシペンチル基、4-ヒドロキシペンチル基、1-ヒドロキシヘキシル基、2-ヒドロキシヘキシル基、3-ヒドロキシヘキシル基、4-ヒドロキシヘキシル基、5-ヒドロキシヘキシル基、及びヒドロキシシクロヘキシル基などが挙げられ、好ましくは、1個の水酸基で置換されたC1~3アルキル基であり、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基である。
【0014】
本発明の式(I)で表される化合物として、以下の式で表されるナナオマイシンHが含まれる。
【0015】
【化6】
【0016】
また、別の態様において、本発明は、前記式で表わされるナナオマイシンHを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中前記式で表わされるナナオマイシンHを蓄積せしめ、該培養物から前記式で表わされるナナオマイシンHを採取することを特徴とする、前記式で表わされるナナオマイシンHの製造方法に関する。
【0017】
本明細書において、ナオマイシンHとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:白色粉末または淡黄色粉末
(2)分子量:804
(3)分子式:C334419
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)805.2307、実測値(m/z)805.2337
(5)比旋光度:[α] 25.7=-7.675(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):231(40200)、270(16643,sh)、353(13346)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3412,1637cm-1に極大吸収を有する
(8)H NMR(重メタノール中)δ ppm:1.752(3H,d,8.0),1.907(3H,s),2.053(1H,d,12.0),2.278(1H,dd,9.5,12.0),2.433(1H,dd,8.0,12.5),2.612(2H,d,6.0),2.808(1H,dd,5.0,12.5),3.151(1H,t,9.5),3.309(1H,dd,9.5,10.0),3.34(1H,dd,2.5,9.5),3.43(1H,dd,3.0,10.0),3.592(1H,dd,9.5,10.0),3.645(1H,dd,7.0,12.0),3.719(1H,dd,9.5,10.0),3.772(1H,dd,9.5,10.0),3.819(1H,ddd,2.5,7.0,10.0),3.85(1H,dd,2.5,12.0),3.85(1H,dd,3.5,10.0),4.118(1H,dd,2.5. 3.0),4.22(1H,dd,8.0,15.0),4.44(1H,dd,5.0,9.0),4.7(1H,ddd,6.0,6.0,9.5),5.042(1H,d,3.5),7.242(1H,dd,1.0,8.5),7.57(1H,dd,1.0,8.0),7.698(1H,dd,8.0,8.5)
(9)13C NMR(重メタノール中)δ ppm:16.2,22.6,31.5,33.6,41.5,54.2,55.6,60.1,62.8,64.6,72.3,72.8,73.2,73.4,74.0,74.1,74.4,75.5,76.4,77.5,80.4,100.1,116.0,120.0,124.6,134.7,137.9,162.8,172.0,173.6,175.6,190.6,200.5
(10)溶解性:水、エタノール及びメタノールに易溶、アセトン及びヘキサンに難溶。
【0018】
本発明の式(I)で表される化合物として、以下の式で表されるナナオマイシンIが含まれる。
【0019】
【化7】
【0020】
また、別の態様において、本発明は、前記式で表わされるナナオマイシンIを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中前記式で表わされるナナオマイシンIを蓄積せしめ、該培養物から前記式で表わされるナナオマイシンIを採取することを特徴とする、前記式で表わされるナナオマイシンIの製造方法に関する。
【0021】
本明細書において、ナナオマイシンIとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:淡黄色粉末又は淡黄色非晶質固体
(2)分子量:481
(3)分子式:C2123NO10
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)482.1115、実測値(m/z)482.1129
(5)比旋光度:[α] 26=-142.7(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):204(15392)、231(15969)、267(sh)、353(5050)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3451,1646,1527cm-1に極大吸収を有する
(8)H NMR(重ジメチルスルホキシド中)δ ppm:1.61(3H,d,7.2),1.72(1H,s),1.82(1H,d,13.5),2.13(1H,dd,13.5,12.0),2.33(1H,dd,12.6,8.4), 2.39(1H,dd,15.3,9.0),2.54(1H,dd,15.3,3.6),2.64(1H,dd,12.6,4.8),4.13(1H,q,7.2),4.19(1H,m),4.50(1H,m),7.28(1H,d,8.1),7.45(1H,d,7.6),7.72(1H,dd,8.1,7.6)
(9)13C NMR(重ジメチルスルホキシド中)δ ppm:15.5,22.2,29.9,31.9,40.3,51.3,58.4,62.8,72.6,75.9,114.4,118.6,123.6,132.9,137.0,160.3,169.2,171.3,172.1,189.2,198.7
(10)溶解性:DMSO、メタノールに易溶。ヘキサン、酢酸エチル及びクロロホルムに難溶。
【0022】
本発明の式(I)で表される化合物として、以下の式で表されるナナオマイシンJが含まれる。
【0023】
【化8】
【0024】
また、別の態様において、本発明は、前記式で表わされるナナオマイシンJを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中前記式で表わされるナナオマイシンJを蓄積せしめ、該培養物から前記式で表わされるナナオマイシンJを採取することを特徴とする、前記式で表わされるナナオマイシンJの製造方法に関する。
【0025】
本明細書において、ナナオマイシンJとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:淡黄色粉末又は淡黄色非晶質固体
(2)分子量:643
(3)分子式:C273414
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)643.1803、実測値(m/z)643.1833
(5)比旋光度:[α] 26=-125.5(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):204(24075)、232(18746)、267(sh)、353(5778)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3463,1643,1527cm-1に極大吸収を有する
(8)H NMR(重メタノール中)δ ppm:1.76(3H,d,7.2),1.87(1H,s),2.06(1H,d,14.1),2.27(1H,dd,14.1,4.8),2.40(1H,dd,12.6,9.0), 2.61(1H,d,6.0),2.77(1H,dd,12.6,5.1),3.37(1H,dd,9.0,9.0),3.68(1H,dd,10.0,9.0),3.69(1H,dd,12.0,6.0), 3.76(1H,dd,10.0,3.0),3.79(1H,dd,12.0,3.0),3.79(1H,ddd,9.0,6.0,3.0),4.21(1H,q,7.2),4.50(1H,dd,9.0,5.1),4.69(1H,m),5.03(1H,d,3.0),7.24(1H,d,8.4,0.9),7.56(1H,d,7.5,0.9),7.69(1H,dd,8.4,7.5)
(9)13C NMR(重メタノール中)δ ppm:16.1,22.4,31.3,33.8,41.6,53.7,56.1,60.1,62.8,64.6,72.4,72.6,73.2,75.5,77.5,92.4,116.0,119.9,124.6,134.6,137.9,162.6,172.1,173.2,175.6,190.7,200.5
(10)溶解性:DMSO、メタノールに易溶。ヘキサン、酢酸エチル及びクロロホルムに難溶。
【0026】
本発明の式(I)で表される化合物として、以下の式で表されるナナオマイシンKが含まれる。
【0027】
【化9】
【0028】
また、別の態様において、本発明は、前記式で表わされるナナオマイシンKを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中前記式で表わされるナナオマイシンKを蓄積せしめ、該培養物から前記式で表わされるナナオマイシンKを採取することを特徴とする、前記式で表わされるナナオマイシンKの製造方法に関する。
【0029】
本明細書において、ナナオマイシンKとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:橙色粉末又は橙色非晶質固体
(2)分子量:547
(3)分子式:C2529
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)548.1697、実測値(m/z)548.1709
(5)比旋光度:[α] 26=-200.1(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):204(18488)、235(26967)、356(5907)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3432,1677,1527cm-1に極大吸収を有する
(8)H NMR(重メタノール中)δ ppm:1.87(3H,br d),1.94(1H,d,4.9),2.27(1H,dd,12.0,12.0),2.57(1H,d,14.9,8.0),2.70(1H,dd,14.9,4.0), 3.10-3.28(2H,m),3.25(9H,s),3.95(1H,br d),4.28(1H,q,6.9),4.86(1H,overlap),7.03(1H,s),7.24(1H,d,8.2),7.41(1H,d,6.9), 7.66(1H,br t)
(9)13C NMR(重メタノール中)δ ppm:16.2,27.4,32.1,41.8,52.9,63.5,64.5,75.4,77.0,79.4,116.1,120.5,122.2,124.5,132.7,134.8,138.1,138.6,163.0,171.0,175.2,190.7,200.3
(10)溶解性:DMSO、メタノールに易溶。ヘキサン、酢酸エチル及びクロロホルムに難溶。
【0030】
本明細書において、本発明の式(I)で表わされる化合物の塩とは、式(I)で表わされる化合物に金属等が配位して形成する錯塩を意味する。また、本発明の式(I)で表わされる化合物の水和物又は溶媒和物及び本発明の式(I)で表わされる化合物の塩の水和物又は溶媒和物も本発明に包含される。好ましくは、本発明の式(I)で表わされる化合物の塩、及び、本発明の式(I)で表わされる化合物の水和物又は溶媒和物及び本発明の式(I)で表わされる化合物の塩の水和物又は溶媒和物は、薬理学的に許容されるものである。また、本発明の式(I)で表わされる化合物又はその塩は結晶であってもよいし、非晶体であってもよい。
【0031】
本発明の化合物は、上記化合物の他、これらの化合物の薬理学的に許容されるエステル誘導体を包含する。ここで、「薬理学的に許容されるエステル誘導体」は、生体内において代謝されて、本願発明の化合物を与える基を含む化合物であって、医薬として体内に投与することが許容可能なエステルのことである。本明細書において、エステルは、エステル結合した化合物の他、アミド結合した化合物を含む。エステルは、生体内のエステラーゼにより分解されて活性型の化合物を与えてもよい。例えば、エステルとしては、置換され又は置換されていない、低級アルキルエステル、低級アルケニルエステル、低級アルキルアミノ低級アルキルエステル、アシルアミノ低級アルキルエステル、アシルオキシ低級アルキルエステル、アリールエステル、アリール低級アルキルエステル、アミド、低級アルキルアミド、水酸化アミドを挙げることができる。エステルとして、好ましくは、プロピオオン酸エステル又はアシルエステルである。
【0032】
本発明の化合物は不斉炭素を有することがあることから、光学異性体が存在することがある。本発明の化合物としては、右旋性(+)又は左旋性(-)の何れの化合物であってもよいし、ラセミ体などのこれらの異性体の混合物であってもよい。また、本発明の化合物は、特に断らない限り、いずれの互変異性体、又は幾何異性体(例えば、E体、Z体など)も含むものである。
【0033】
あるいは、本発明は、前記式(I)で表わされる化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【0034】
更に、本発明は、前記式(I)で表わされる化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物を有効成分として含有する医薬組成物に関する。別の態様において、本発明は、前記式(I)で表わされる化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物を有効成分として含有する、上皮間葉転換が誘導された細胞を障害するための薬剤に関する。本明細書において、「上皮間葉転換が誘導された細胞を傷害するための薬剤」とは、上皮細胞から間葉細胞への転換が誘導された細胞に特異的に傷害を与え、殺傷し、又はアポトーシスを誘導するための薬剤を意味する。
【0035】
本発明の医薬組成物は、好ましくは上皮細胞から間葉細胞への転換が誘導された細胞に特異的に傷害を与える。本明細書において、上皮細胞から間葉細胞への転換が誘導された細胞に特異的に傷害を与えるとは、上皮細胞にはほとんど傷害を与えないが、上皮細胞から間葉細胞に転換された細胞には傷害を与えることを意味する。ここで、ほとんど障害を与えないとは、全く毒性がないことを意味するものではなく、医薬として用いた場合に問題とならない程度に毒性がないことを意味し、例えば、30μMで全く毒性を示さないか、又は、100μMで85%以上の生存率を示すことを意味する。
【0036】
また、本発明において医薬組成物、細胞障害剤、治療薬、予防薬、転移抑制剤、及び浸潤抑制剤(以下「医薬組成物等」という)としては、その種類が特に限定されるものではなく、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製することができる。また、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の化合物は、上皮間葉転換した細胞に対して特異的に傷害を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1はコンフルエント状態および薄まき状態におけるナナオマイシンHのMDCK細胞に対する増殖抑制・毒性効果(MTSアッセイ)を示すグラフである。縦軸に吸光度490nm、横軸にDMSO(コントロール)またはナナオマイシンH処理群、左がBSF添加、右がTGFを添加させ、上皮間葉転換を誘導させた群になる。
図2図2は移動する細胞への薬剤の影響を観察した結果を示す写真である。(A:DMSO(コントロール)、B:ナナオマイシンH),スケールバー:100μm
図3図3はTGF-βにより上皮間葉転換誘導したMDCK細胞に対する、ナナオマイシン類の殺細胞効果を示すグラフである。コントロールとして、TGF-βを加えない群にはBSAを加えた。上段は、ナナオマイシン類を5μg/mlで添加した結果を示し、下段はナナオマイシン類を50μg/ml(ただし、ナナオマイシンHのみ100μg/ml)で添加した結果を示す。縦軸は、ナナオマイシン類添加前の細胞数を1とした場合の細胞生存率を表す。白抜きグラフはMDCK細胞を6000細胞播種したウェルの結果を示し、黒塗りグラフはMDCK細胞を2000細胞播種したウェルの結果を示す。横軸のBSAはTGF-β未添加のコントロール群を表し、TGFはTGF-β添加群を表す。「H」、「I」、「J」及び「K」はそれぞれ添加したナナオマイシン類の種類を表す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の前記式(I)で表わされる化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物は、ナオマイシンHを生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培地で培養し、培養物中ナオマイシンHを蓄積せしめ、該培養物からナナオマイシンを採取(分離・抽出・精製)することにより、あるいは、得られたナナオマイシンを更に化学的に変換又は修飾することにより製造することができる。
【0040】
本発明のナオマイシン類(ナナオマイシンH、ナナオマイシンI、ナナオマイシンJ、及びナナオマイシンK)の製造方法において、「ナオマイシン類を生産する能力を有する放線菌に属する微生物」は、放線菌に属する菌であって、ナオマイシン類を生産する能力を有する微生物であれば特に限定されない。本発明のナオマイシン類の製造方法に用いることのできる菌株には、上記菌株の他、その変異株をはじめ、放線菌に属するナオマイシンHを生産する能力を有する菌のすべてが含まれる。微生物が「ナオマイシンHを生産する能力を有する放線菌に属する微生物」であるか否かは、例えば、以下の方法により決定することができる。スターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン0.3%、カツオエキス0.3%、酵母エキス0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH 7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに、液体培地で培養した被験微生物1mLを植菌し、27℃で3日間振盪培養後、得られた種培養液を、スターチ5.0%、グリセロール0.5%、脱脂小麦胚芽1.0%、ドライ酵母1.0%、炭酸水素カルシウム0.5%からなる液体培地(pH7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに、1mL植菌し、27℃で8日間振盪培養することにより得られた培養物の中に、ナオマイシンHが存在すれば当該微生物はナオマイシンHを生産する能力を有する放線菌に属する微生物であると決定することができる。好ましくは、ナオマイシンHを生産する能力を有する放線菌に属する微生物は、石川県七尾市の土壌より分離された、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591株である。本微生物は、2017年9月26日付にて、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受領番号 NITE ABP-02304として寄託されている。
【0041】
本明細書において、「変異株」とは、人工的又は自然界における変異誘発刺激によりStreptomyces sp.K15-0591株とは異なる菌学的性状又は遺伝子を有する株のことであり、このような変異株にはStreptomyces sp.K15-0591株から派生した菌株の他、Streptomyces sp.K15-0591株を派生させた元の菌株も含まれる。本明細書において、変異株は実際の派生の痕跡の有無を問うものではなく、例えば、Streptomyces sp.K15-0591株遺伝子(例えば、16S rRNA遺伝子)と高い相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上など)を有する遺伝子を有する菌株もまた変異株に含まれる。また、このような変異株は、ナナオマイシン類の産生能を維持している限り、人工的に作製したものであるか、天然から採取したものであるかを問わない。
【0042】
ナナオマイシン類を生産する能力を有する放線菌に属する微生物を培養するための培地には、栄養源として、放線菌の栄養源として使用し得るものを含有することができる。例えば、市販のペプトン、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、綿実粉、落花生粉、大豆粉、酵母エキス、NZ-アミン、カゼインの水和物、硝酸ソーダ、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の窒素源、グリセリン、スターチ、グルコース、ガラクトース、マンノース等の炭水化物、あるいは脂肪等の炭素源、及び食塩、リン酸塩、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を単独あるいは組み合わせて使用することができる。その他、培地には、必要に応じて微量の金属塩、消泡剤として動・植・鉱物油等を添加することもできる。これらのものは生産菌を利用したマングロマイシン類の生産の役だつものであればよく、公知の放線菌の培養材料はすべて用いることができる。
【0043】
また、ナナオマイシン類を生産する能力を有する放線菌に属する微生物の培養は、生産菌が発育しナナオマイシン類を生産できる温度範囲(例えば、10℃~40℃、好ましくは、25~30℃)で数日~2週間振盪培養することにより行うことができる。培養条件は、本明細書の記載を参照しながら、使用するナナオマイシン類生産菌の性質に応じて適宜選択して行なうことができる。
【0044】
ナナオマイシン類の採取は、培養液より酢酸エチル等の水不混和性の有機溶媒を用いて抽出することにより行うことができる。本抽出法に加え、脂溶性物質の採取に用いられる公知の方法、例えば吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーよりのかき取り、遠心向流分配クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組合わせあるいは繰返すことによって純粋になるまで精製することができる。
【0045】
本発明の前記式(I)で表わされる化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物は、ナナオマイシン類を適宜、化学的変換又は修飾することにより合成することができる。あるいは、本発明の前記式(I)で表わされる化合物は、Streptomyces sp.K15-0591株を生産菌として用いて、上述のナナオマイシン類の産生及び精製と同様の方法で単離することにより取得することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物は、通常の薬学的に許容される担体を用いて、常法により製剤化することができる。本発明の前記式(I)で表わされる化合物等を有効成分として含有する医薬組成物を製剤化するための剤型に制限はなく錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の固形剤、溶液、懸濁液、乳剤などの液状製剤として経口的に、あるいは、静脈内、筋肉内、皮下などの注射剤、坐剤、貼付剤などとして非経口的に使用することができる。経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤、更に必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えた後、常法により溶剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。注射剤を調製する場合には、主薬に必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により皮下又は静脈内用注射剤とすることができる。
【0047】
本発明はさらに、それを必要とする患者に有効量の本発明の前記式(I)で表わされる化合物若しくはそのエステル誘導体又はそれらの塩若しくは水和物を投与することを備える、上皮間葉転換が発症又は増悪化に関係し又は寄与する疾患又は障害の治療方法又は予防方法に使用することができる。例えば、本発明の前記式(I)で表わされる化合物等を治療又は予防目的で使用する場合、本発明の前記式(I)で表わされる化合物等を有効成分として含有する医薬組成物を、経口投与形態、又は注射剤、点滴剤等の非経口投与形態で投与することができる。本発明の前記式(I)で表わされる化合物等を哺乳動物等に投与する場合、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等として経口投与してもよいし、又は、注射剤、点滴剤として非経口的に投与してもよい。投与量は、症状、年齢、性別、体重、投与形態等により異なるが、例えば成人に経口的に投与する場合には、通常1日量は0.1-1000mgである。
【実施例
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0049】
(実施例1) ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591株の菌学的性状
本発明者等によって石川県七尾市の土壌より新たに、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591株を分離した。ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591株の菌学的性状は以下の通りであった。
【0050】
(I)形態的性質
栄養菌糸は各種寒天培地上でよく発達し、分断は観察されない。気菌糸はスターチ無機塩寒天で豊富に着生し、黄色の色調を呈する。約0.1μmの気菌糸を形成する。胞子のう及び遊走子は見出されない。
【0051】
(II)各種培地上での性状
イー・ビー・シャーリング(E.B.Shirling)とデー・ゴットリーブ(D.Gottlieb)の方法(インターナショナル・ジャーナル・オブ・システィマティック・バクテリオロジー、16巻、313頁、1966年)によって調べた本菌株の培養性状を表1に示す。色調は標準色として、カラー・ハーモニー・マニュアル第4版(コンテナー・コーポレーション・オブ・アメリカ・シカゴ、1958年)を用いて決定することができ、色票名は括弧内のコードと併せて記されている。以下は特記しない限り、27℃、1週間目の各培地における観察の結果である。
【0052】
【表1】
【0053】
(III)生理学的諸性質
(1)メラニン色素の生成:陽性
(2)チロシナーゼ反応:陽性
(3)HS産生:陰性
(4)スターチの加水分解:陽性
(5)ゼラチンの液化(単純ゼラチン培地)(21~23℃):陽性
(6)脱脂乳のペプトン化(37℃):陽性
(7)脱脂乳の凝固(37℃):陽性
(8)セルロースの分解:弱い陽性
(9)生育温度範囲:15~45℃
(10)炭素源の利用性(プリドハム・ゴトリーブ寒天培地)
利用する:D-グルコース、D-キシロース、D-マンニトール、L-アラビノース、スクロース、ラムノース、ラフィノース
利用しない:D-フルクトース、i-イノシトール
【0054】
(IV)細胞の化学組成
細胞壁のジアミノピメリン酸はLL型である。
【0055】
(V)16S rRNA遺伝子解析
16S rRNA遺伝子のうち約1400塩基配列を決定し、DNAデータベースに登録され公開されているストレプトマイセス属に属する菌株およびその他の放線菌のデータを用いた近隣結合法による系統解析の結果から、本菌株はストレプトマイセス属に分類することが妥当であり、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)に最も近縁である。
【0056】
(VI)結論
以上、本菌の菌学的性状を要約すると次のとおりである。細胞壁中のジアミノピメリン酸はLL型である。豊富に着生する気菌糸はらせん状を形成する。コロニーは黄土色を呈し、メラニン色素は産生する。これらの結果および16S rRNA遺伝子の解析結果から、本菌株はストレプトマイセス属に属する1菌種であると判断された。本菌株はストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)K15-0591として、2017年9月26日付にて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託した(受領番号 NITE ABP-02304)。
【0057】
(実施例2)ナナオマイシンHの取得
スターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン(極東製薬工業株式会社製)0.3%、カツオエキス(極東製薬工業株式会社製)0.3%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業株式会社製)0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH 7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに100本に、液体培地で培養したStreptomyces sp.K15-0591(受領番号 NITE ABP-02304)を各1mlずつ植菌し、27℃で3日間振盪培養した。得られた種培養液を、スターチ5.0%、グリセロール0.5%、脱脂小麦胚芽(日清ファルマ株式会社製)1.0%、ドライ酵母(JTフーズ株式会社製)1%、炭酸水素カルシウム0.5%からなる液体培地(pH7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに100本に、各1mLずつ植菌し、27℃で6日間振盪培養した。
【0058】
培養の終了した500mL容三角フラスコ100本にそれぞれ100mLのエタノールを加えて1時間激しく撹拌した。次にその抽出液中のエタノールを減圧留去し、得られた水溶液に10Lの酢酸エチルを加えよく撹拌後、酢酸エチル層を回収した。エバポレーターを用い、濃縮乾固して4.7gの粗精製物1を得た。これを少量のメタノールに溶解し、シリカゲル(MERCK社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、クロロホルム-メタノール溶媒系で段階溶出(100:0,100:1,50:1,10:1,1:1,0:100)させ、ナナオマイシンHを含む1:1画分および0:100画分(粗精製物2)を1774mg得た。
【0059】
粗精製物2を少量のメタノールに溶解し、ODS(富士シリシア化学株式会社社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、メタノール-水系で段階溶出(メタノール濃度0%,20%,30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,100%)し、ナナオマイシンHを含む20%画分(粗精製物3)を392mg得た。粗精製物3をメタノールに溶解し、高速液体クロマトグラフィーにてオクタデシルシリルカラム(Inertsil ODS-4,φ14×250mm,流速6.5mL/min,検出254nm)に注入し、0.1%ギ酸含有30%メタノール水で溶出した。保持時間22分付近のピークを分取し、減圧濃縮によりナナオマイシンHを淡黄色粉末として4.1mg得た。
【0060】
得られたナナオマイシンHの理化学的性状を測定した結果、次の通りであった。
【0061】
ナナオマイシンH
(1)性状:白色粉末または淡黄色粉末
(2)分子量:804
(3)分子式:C334419
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)805.2307、実測値(m/z)805.2337
(5)比旋光度:[α] 25.7=-7.675(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):231(40200)、270(16643,sh)、353(13346)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3412,1637cm-1に極大吸収を有する
(8)プロトン核磁気共鳴スペクトル:重メタノール中の化学シフト(ppm)を表1に示す。(表中、sは一重線、dは二重線、mは多重線、Hはプロトンの数を示す。)
(9)カーボン核磁気共鳴スペクトル:重メタノール中の化学シフト(ppm)を表1に示す。
(10)溶剤に対する溶解性:水、エタノール、メタノールに易溶。アセトン、ヘキサンに難溶。
【0062】
【表2】
【0063】
以上のとおり各種理化学的性状が得られたナナオマイシンHに一致する化合物はこれまで報告されていないことから、ナナオマイシンHは新規物質であると考えられる。
【0064】
(実施例3)TGF-βにより上皮間葉転換誘導されたMDCK(イヌ上皮細胞株)に対する影響
細胞培養用ディッシュにイヌ腎臓尿細管上皮由来細胞株MDCK(以下、「MDCK細胞」という。)を、イーグル最少必須培地(以下、「MEM培地」という。)(10%ウシ胎児血清アルブミン、1%MEM非必須アミノ酸溶液、1%ピルビン酸ナトリウム,1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、1%グルタミン)中、37℃、5%COインキュベーターでセミコンフルエントに維持されるように継代培養を行った。この細胞をトリプシン-EDTA溶液で処理し、終濃度10ng/mLのTGF-βと0.001%のBSAを含む前記培地に細胞を播種し、3日間培養した。ブランクとしてTGF-βを加えず、BSAのみを添加した培地中で同様に3日間培養した細胞を用意した。これらの細胞を96ウェルにMDCK細胞を20,000細胞/ウェル(コンフルエント状態)および2,000細胞/ウェル(薄まき状態)で調整した。
【0065】
それぞれのウェルに終濃度50μg/mlになるようにDMSOに溶解したナナオマイシンH(終濃度0.5%DMSO)あるいはナナオマイシンメチルエステル体(終濃度0.5%DMSO)を添加して、37℃、5%COインキュベーターで24時間培養し、形態観察および生細胞定量キット(MTSアッセイ)で毒性・増殖試験を行った。その結果を図1に示した。ナナオマイシンHはコンフルエント状態ではほとんど毒性を示さなかったが,薄まき状態になって40%程度の細胞毒性を示した(DMSO比)。一方でTGFβを処理してEMTを誘導した細胞群では,ほとんどの細胞が死滅した。
【0066】
(実施例4)移動細胞に対する毒性
光照射に応じて細胞パターニングが可能な機能性基板(Biomaterials, 2012, Voi. 33, pp. 2409-2428;Shimizu et al. Analytical Sciences,印刷中)を利用して,幾何学的に規定された円形領域(φ=150μm)にMDCK細胞のコロニーを形成した後,その後に2次照射によって細胞移動を誘導した。この際に,終濃度50μg/mlのナナオマイシンHおよび0.5%DMSO,50μg/mlのナナオマイシンHメチルエステル体および0.5%DMSO,もしくはDMSOのみを添加した培地を用意し,これらの培地中での細胞の移動挙動を,培養装置を装着した位相差顕微鏡下で観察した。
【0067】
DMSOのみを含む培地では,コロニーが拡大していく様子が観察されるが,ナナオマイシンHやナナオマイシンHメチルエステル体を添加したほうではコロニー周りの細胞が選択的に死んでいく様子が観察された。MDCK細胞は先導端に上皮間葉転換した細胞を出現させて集団で移動するため,この結果から上皮間葉転換した細胞に特異的に効果をしていることがわかった(図2)。
【0068】
以上の結果から、ナナオマイシンHおよびナナオマイシンHメチルエステル体は上皮間葉転換が誘導された細胞の増殖抑制効果があることが示された。
【0069】
(実施例5)ナナオマイシンI、J及びKの取得
スターチ2.4%、グルコース0.1%、ペプトン(極東製薬工業株式会社製)0.3%、カツオエキス(極東製薬工業株式会社製)0.3%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業株式会社製)0.5%、炭酸水素カルシウム0.4%からなる液体培地(pH 7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに60本に、液体培地で培養したStreptomyces sp.K15-0591(受領番号 NITE ABP-02304)を各1mlずつ植菌し、27℃で3日間振盪培養した。得られた種培養液を、スターチ5.0%、グリセロール0.5%、脱脂小麦胚芽(日清ファルマ株式会社製)1.0%、ドライ酵母(JTフーズ株式会社製)1%、炭酸水素カルシウム0.5%からなる液体培地(pH7.0)100mLを含む500mL容三角フラスコに60本に、各1mLずつ植菌し、27℃で6日間振盪培養した。
【0070】
培養の終了した500mL容三角フラスコ60本を遠心分離により菌体と上清に分け、得られた上清をHP-20カラムに通し、水で洗浄した。吸着物をメタノール3Lで溶出し、エバポレーターを用い、濃縮乾固して3.2gの粗精製物1を得た。これを少量のメタノールに溶解してシリカゲルに吸着させ、シリカゲル(MERCK社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、クロロホルム-メタノール溶媒系で段階溶出(50:1,25:1,10:1,6:4,4:6,0:1)させ、ナナオマイシンIおよびJを含む4:6画分(粗精製物1)およびナナオマイシンKを含む0:100画分(粗精製物2)をそれぞれ1.02g、0.65g得た。
【0071】
粗精製物1を少量のメタノールに溶解し、ODS(富士シリシア化学株式会社社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、メタノール-水系で溶出(メタノール濃度0%から100%までの60分間グラディエント)し、ナナオマイシンIを含む画分(粗精製物3)を416mg、及びナナオマイシンJを含む画分(粗精製物4)を163mg得た。粗精製物3をメタノールに溶解し、ODS(富士シリシア化学株式会社社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、メタノール-水系で溶出(メタノール濃度0%から100%までの60分間グラディエント)し、ナナオマイシンIを含む画分(粗精製物5)を28mg得た。粗精製物5を高速液体クロマトグラフィーにてオクタデシルシリルカラム(Inartsil ODS-4,φ10×250mm,流速4.0mL/min,検出PDA)に注入し、0.1%ギ酸含有20%メタノール水で溶出した。保持時間15分付近のピークを分取し、減圧濃縮によりナナオマイシンIを淡黄色粉末として9.4mg得た。粗精製物4をメタノールに溶解し、ODS(富士シリシア化学株式会社社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、メタノール-水系で溶出(メタノール濃度0%から100%までの60分間グラディエント)し、ナナオマイシンJを含む画分(粗精製物6)を95mg得た。粗精製物6を高速液体クロマトグラフィーにてオクタデシルシリルカラム(YMC-Triart C-18,φ20×250mm,流速10.0mL/min,検出PDA)に注入し、0.1%ギ酸含有15%メタノール水で溶出し、ナナオマイシンJを含む画分(粗精製物7)を得た。粗精製物7を高速液体クロマトグラフィーにてオクタデシルシリルカラム(YMC-Triart PFP,φ10×250mm,流速4.0mL/min,検出PDA))に注入し、0.1%ギ酸含有20%メタノール水で溶出した。保持時間10分付近のピークを分取し、減圧濃縮によりナナオマイシンJを淡黄色粉末として5.5mg得た。粗精製物2を少量のメタノールに溶解し、ODS(富士シリシア化学株式会社社製)オープンカラムクロマトグラフィーを用いて、メタノール-水系で溶出(メタノール濃度0%から100%までの60分間グラディエント)し、ナナオマイシンKを含む画分(粗精製物8)を74mg得た。粗精製物8を高速液体クロマトグラフィーにてオクタデシルシリルカラム(YMC-Triart PFP,φ10×250mm,流速4.0mL/min,検出PDA))に注入し、0.1%ギ酸含有15%メタノール水で溶出した。保持時間12分付近のピークを分取し、減圧濃縮によりナナオマイシンKを橙色粉末として16.8mg得た。
【0072】
得られたナナオマイシンH、I、J及びKの理化学的性状を測定した結果、次の通りであった。
【0073】
ナナオマイシンI
(1)性状:淡黄色粉末又は淡黄色非晶質固体
(2)分子量:481
(3)分子式:C2123NO10
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)482.1115、実測値(m/z)482.1129
(5)比旋光度:[α] 26=-142.7(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):204(15392)、231(15969)、267(sh)、353(5050)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3451,1646,1527cm-1に極大吸収を有する
(8)プロトン核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキシド中の化学シフト(ppm)を表3に示す。(表中、sは一重線、dは二重線、mは多重線、Hはプロトンの数を示す。)
(9)カーボン核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキシド中の化学シフト(ppm)を表3に示す。
(10)溶解性:DMSO、メタノールに易溶。ヘキサン、酢酸エチル及びクロロホルムに難溶。
【0074】
【表3】
【0075】
本明細書において、ナナオマイシンJとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:淡黄色粉末又は淡黄色非晶質固体
(2)分子量:643
(3)分子式:C273414
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)643.1803、実測値(m/z)643.1833
(5)比旋光度:[α] 26=-125.5(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):204(24075)、232(18746)、267(sh)、353(5778)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3463,1643,1527cm-1に極大吸収を有する
(8)プロトン核磁気共鳴スペクトル:重メタノール中の化学シフト(ppm)を表4に示す。(表中、sは一重線、dは二重線、mは多重線、Hはプロトンの数を示す。)
(9)カーボン核磁気共鳴スペクトル:重メタノール中の化学シフト(ppm)を表4に示す。
(10)溶解性:DMSO、メタノールに易溶。ヘキサン、酢酸エチル及びクロロホルムに難溶。
【0076】
【表4】
【0077】
本明細書において、ナナオマイシンKとは、以下の物性を有する化合物である:
(1)性状:橙色粉末又は橙色非晶質固体
(2)分子量:547
(3)分子式:C2529
(4)高分解能質量分析による[M+H] 理論値(m/z)548.1697、実測値(m/z)548.1709
(5)比旋光度:[α] 26=-200.1(c=0.1、メタノール)
(6)紫外部吸収極大(メタノール中)λmax(ε):204(18488)、235(26967)、356(5907)
(7)赤外部吸収極大νmax(KBr錠):3432,1677,1527cm-1に極大吸収を有する
(8)プロトン核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキシド中の化学シフト(ppm)を表5に示す。(表中、sは一重線、dは二重線、mは多重線、Hはプロトンの数を示す。)
(9)カーボン核磁気共鳴スペクトル:重ジメチルスルホキシド中の化学シフト(ppm)を表5に示す。
(10)溶解性:DMSO、メタノールに易溶。ヘキサン、酢酸エチル及びクロロホルムに難溶。
【0078】
【表5】
【0079】
以上のとおり各種理化学的性状が得られたナナオマイシンH、I、J及びKに一致する化合物はこれまで報告されていないことから、これらナナオマイシン類は新規物質であると考えられる。
【0080】
(実施例6)TGF-βにより上皮間葉転換誘導されたMDCK(イヌ上皮細胞株)に対するナナオマイシン類縁体の殺活性
細胞培養用ディッシュにMDCK細胞を、MEM培地(10%ウシ胎児血清アルブミン、1%MEM非必須アミノ酸溶液、1%ピルビン酸ナトリウム,1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、1%グルタミン)中、37℃、5%COインキュベーターでセミコンフルエントに維持されるように継代培養を行った。この細胞をトリプシン-EDTA溶液で処理し、終濃度10ng/mLのTGF-βと0.001%のBSAを含む前記培地に細胞を播種し、3日間培養した。ブランクとしてTGF-βを加えず、BSAのみを添加した培地中で同様に3日間培養した細胞を用意した。これらの細胞を96ウェルにMDCK細胞を6,000細胞/ウェルおよび2,000細胞/ウェルで調整した。
【0081】
それぞれのウェルに終濃度100μg/mlおよび5μg/mlになるようにDMSOに溶解したナナオマイシンH(終濃度0.5%DMSO)あるいは終濃度50μg/mlおよび5μg/mlになるようにDMSOに溶解したナナオマイシンI、JおよびK(終濃度0.5%DMSO)を添加して、37℃、5%COインキュベーターで24時間培養し、形態観察および生細胞定量キット(MTSアッセイ)で毒性・増殖試験を行った。その結果を図3に示した。ナナオマイシンHは6,000細胞/ウェルで調整した試験では100μg/mlおよび5μg/mlにTGF-βにより上皮間葉転換誘導した細胞に対しより高い殺活性を示した。同様に、ナナオマイシンI、JおよびKもナナオマイシンHと同様な効果が認められた。
図1
図2
図3