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特許7057955風力発電装置の異常判定方法、風力発電装置の異常判定システムおよび風力発電装置の異常判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】風力発電装置の異常判定方法、風力発電装置の異常判定システムおよび風力発電装置の異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   F03D 17/00 20160101AFI20220414BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20220414BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20220414BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
F03D17/00
F03D1/06 A
G01M99/00 A
G01H17/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020153152
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022047315
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502435889
【氏名又は名称】学校法人長崎総合科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307018726
【氏名又は名称】不動技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520246892
【氏名又は名称】特定非営利活動法人長崎海洋産業クラスター形成推進協議会
(74)【代理人】
【識別番号】100123021
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 元幸
(72)【発明者】
【氏名】本田 巌
(72)【発明者】
【氏名】中村 博史
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正己
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185507(JP,A)
【文献】特開2010-281279(JP,A)
【文献】特表2016-519292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0033580(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 17/00
F03D 1/06
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電装置が発する音響を計測し音響データを記録する計測ステップと、
計測ステップにおいて記録された音響データに基づいて、記録された音響データの時間平均スペクトルからの偏差データを作成し、その偏差データを、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析する解析ステップと、
解析ステップにおける解析結果から風力発電装置の回転に応じた時間に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分のみを検出する検出ステップと、
検出ステップにおいて検出した信号成分が一定の閾値以上であるときに風力発電装置の異常と判定する判定ステップとを含む
ことを特徴とする風力発電装置の異常判定方法。
【請求項2】
前記解析ステップにおいてスペクトログラム解析を実施した後に、高速フーリエ変換を実施し、
前記検出ステップにおいて、高速フーリエ変換実施後の解析結果から風力発電装置の回転数に応じた頻度に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分のみを検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置の異常判定方法。
【請求項3】
前記計測ステップにおいて計測する風力発電装置が発する音響はブレードの風切り音であり、
前記判定ステップにおいて、検出ステップにおいて検出した信号成分がブレード損傷時の特徴音の信号成分に基づいて設定された閾値以上であるときにブレードの異常と判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の風力発電装置の異常判定方法。
【請求項4】
風力発電装置が発する音響を計測し音響データを記録する計測手段と、
記録された音響データに基づいて、記録された音響データの時間平均スペクトルからの偏差データを作成し、その偏差データを、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析する解析手段と、
解析手段における解析結果から風力発電装置の回転に応じた時間に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分のみを検出する検出手段と、
検出手段の検出した信号成分が一定の閾値以上であるときに風力発電装置の異常と判定する判定手段とを備える
ことを特徴とする風力発電装置の異常判定システム。
【請求項5】
風力発電装置の異常判定システムにおける異常判定装置のためのプログラムであって、
風力発電装置が発する音響を計測し音響データを記録する計測ステップと、
計測ステップにおいて記録された音響データに基づいて、記録された音響データの時間平均スペクトルからの偏差データを作成し、その偏差データを、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析する解析ステップと、
解析ステップにおける解析結果から風力発電装置の回転に応じた時間に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分のみを検出する検出ステップと、
検出ステップにおいて検出した信号成分が一定の閾値以上であるときに風力発電装置の異常と判定する判定ステップとをコンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車等の風力発電装置の異常を判定する風力発電装置の異常判定方法、異常判定システムおよび異常判定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の異常状態は、シャフト、増速機、発電機、ヨー制御機、ピッチ制御機といった摺動部が摩耗することによって生じる摩耗型と、落雷などによって生じる突発型とに分けられる。
【0003】
摺動部に発生した小さな損傷、また、落雷や生物、飛来物によりブレード等に発生した小さな損傷は、即時に拡大して致命的なダメージを引き起こすことは少ないが、損傷の程度が小さい段階で検出して、これを修繕することで風力発電装置の停止時間を短くすることができ、売電機会の損失を最小化することができる。
【0004】
特にブレードが損傷し、交換が必要になった場合、大型のクレーン等が必要になり、停止時間が長くなることがある。停止時間の長期化は高額の売電機会損失を招くので、事業者が最も避けたいものであり、損傷を小さい段階で検出することが強く求められている。
【0005】
今後は陸上のみならず洋上に設置される風力発電装置が増え、さらに風力発電装置の大型化が予想されている。大型の洋上風力ではクレーン船の手配、回航に時間が必要で、修理による停止時間が長期化することが予想され、ますます異常検知の重要性が高くなる。
【0006】
そのため、風力発電装置の異常状態を検知することについて種々の提案がなされている。
【0007】
特許文献1では、風車の各ブレードに振動センサーを設置し、振動センサーから出力させる振動を解析して故障判断する風車翼破断検知装置が開示されており、風車翼に異常が発生した際に初期異常の段階で微細な異常の検知が可能となり、風車翼の折損飛散事故を防止することが提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、機械設備に加速度センサーを複数設置し、振動を検出して解析を行うことにより異常の有無の診断および異常部位の特定を精度よく行うことが提案されている。
【0009】
さらに、特許文献3では、ブレード下方で音響を計測し、解析の結果からドップラーシフト成分を検出することでブレードの異常を判断することで、ブレードの異常を作業者の熟練を必要とせず低コストで早期に、そして確実に検出することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-349775号公報
【文献】特開2009-20090号公報
【文献】特許第5207074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されている、振動を計測し解析することで異常を検知する方法では、振動センサーを複数個(例えば、各ブレードや各摺動部それぞれ全てに)設置することが必要であり、解析が複雑になり、異常発生場所の特定が困難であるという問題がある。また、システム全体が高価になりやすいといった問題もある。
【0012】
また、特許文献3の方法では、ブレード下方で音響計測および解析し、そのドップラーシフト成分を検出するので、ブレードの異常は検出できるが、ナセル内の異常を検出することができないという問題がある。さらに、ブレード下方での音響計測は屋外で行わなければならないところ、屋外に計測機器を設置して継続的に計測することは困難であり、全天候対応の防水型計測器では検出感度が低くなってしまうという問題もある。また、ドップラーシフト成分を検出するためには欠陥部が接近と離脱を繰り返す必要があり、接近と離脱の距離が短くなると検出感度は低くなってしまう。常時監視のためにナセル近傍の風雨を避けられる場所に計測機器を設置するとすれば、欠陥部の接近と離脱の距離が短くなるためドップラーシフト成分が小さくなり、検出感度が低下してしまうという問題もある。また、プロペラ型以外の風車には適応が難しいといった問題もある。
【0013】
このように、風力発電装置を効率よく稼働させて運用するには、欠陥が微細な早期の段階で風力発電装置の異常を検出することが求められている。さらに、将来的に風力発電の導入量が増加した際にはメンテナンス人材が不足することが予測されており、熟練者の知見(暗黙知)を形式知として継承し、熟練者でない人材でも異常の検知ができることが求められている。
【0014】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、風力発電装置の異常を早期に検出することができ、熟練者でなくても確実に風力発電装置の異常を検知することができる風力発電装置の異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明に係る風力発電装置の異常判定方法は、風力発電装置が発する音響を計測し音響データを記録する計測ステップと、計測ステップにおいて記録された音響データを、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析する解析ステップと、解析ステップにおける解析結果から風力発電装置の回転に応じた時間に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分を検出する検出ステップと、検出ステップにおいて検出した信号成分が一定の閾値以上であるときに風力発電装置の異常と判定する判定ステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
これによれば、風力発電装置の発する音響を計測し、その音響データを周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析をして風力発電装置の回転に応じた時間に欠陥を生じさせている部位から発せられる信号成分を検出することにより異常の有無を判定するので、風力発電装置の異常を早期に検知することができ、また、熟練者でなくても確実に風力発電装置の異常を検知することが可能となる。
【0017】
ここで、前記解析ステップにおいて、記録された音響データの時間平均スペクトルからの偏差データを、スペクトログラム解析する、としてもよい。
【0018】
また、前記解析ステップにおいてスペクトログラム解析を実施した後に、高速フーリエ変換を実施し、前記検出ステップにおいて、高速フーリエ変換実施後の解析結果から風力発電装置の回転数に応じた頻度に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分を検出するとしてもよい。
【0019】
これによれば、風力発電装置のモーター等の動作ノイズが消去され、異常音のみの検出が可能となる。
【0020】
また、本発明は、風力発電装置が発する音響を計測し音響データを記録する計測手段と、記録された音響データを、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析する解析手段と、解析手段における解析結果から風力発電装置の回転に応じた時間に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分を検出する検出手段と、検出手段の検出した信号成分が一定の閾値以上であるときに風力発電装置の異常と判定する判定手段とを備えることを特徴とする風力発電装置の異常判定システムとして構成することもできる。
【0021】
さらに、本発明は、風力発電装置の異常判定システムにおける異常判定装置のためのプログラムであって、風力発電装置が発する音響を計測し音響データを記録する計測ステップと、計測ステップにおいて記録された音響データを、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析する解析ステップと、解析ステップにおける解析結果から風力発電装置の回転に応じた時間に風力発電装置の異常部位から発せられる信号成分を検出する検出ステップと、検出ステップにおいて検出した信号成分が一定の閾値以上であるときに風力発電装置の異常と判定する判定ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムとして構成することもできる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明に係る風力発電装置の異常判定方法によれば、風力発電装置の異常を早期に検出することができ、熟練者でなくても確実に風力発電装置の異常を検知することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る風力発電装置の異常判定システムの構成を示す図である。
図2】風力発電装置のナセル付近およびナセル内の構造を模式的に示す図である。
図3】異常判定システムの機能的な構成を示すブロック図である。
図4】異常判定システムの処理手順を示すフロー図である。
図5】実施例で用いた風力発電装置(風車)を示す図である。
図6】実施例で用いたブレードの模擬欠陥を示す図である。
図7】周波数時間分析結果(異常あり)の一例を示す図である。
図8】周波数時間分析結果(異常なし)の一例を示す図である。
図9】時間平均スペクトルからの偏差を解析した周波数時間分析結果(異常あり)の一例を示す図である。
図10】高速フーリエ変換を実施した周波数時間分析結果(異常あり)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る風力発電装置の異常判定方法について、実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る風力発電装置の異常判定システムの構成を示す図である。
【0026】
異常判定システム1は、風力発電装置2が発生させる音響に基づいて風力発電装置2の異常状態を判定するシステムであり、風力発電装置2が発生させる音響を計測するマイクロフォン5と、マイクロフォン5が計測した音響を取得して風力発電装置2の異常状態を判定する異常判定装置6とを備えている。異常判定装置6は、風力発電装置2の稼働状況等を遠隔監視するための遠隔監視装置7とインターネット等により接続されており、風力発電装置2の異常状態等を遠隔監視装置7へ通知するようになっている。
【0027】
風力発電装置2は、例えば風車であり、風を受けて回転するブレード3と風向きに応じて装置の水平軸の向きを変えるためのナセル4がタワー上に組上げられて構成されている。
【0028】
図2は、風力発電装置のナセル付近およびナセル内の構造を模式的に示す図である。
【0029】
ナセル4の内部には、ブレード3の回転を発電に必要な回転数まで増幅させる増速器42、ブレード3の回転に制動をかけるためのブレーキ装置43、回転子を回転させて発電する発電機44、および、これらを制御するための制御・電源油圧機器45が設けられている。このほか、風力発電装置2は、ブレード3とハブとの連結部に風の強さに応じてブレード3の角度を調整する可変ピッチ機構41を備えており、ナセル4とタワーとの連結部に風向きに合わせて装置の水平軸の向き旋回させるヨー駆動機構46を備えている。
【0030】
図3は、異常判定システム1の機能的な構成を示すブロック図である。
【0031】
異常判定システム1は、計測部10と、制御部20と、判定結果出力部30とを備えている。
【0032】
計測部10は、風力発電装置2が発生させる音響を計測し、計測した音響(アナログ信号)をデジタル信号に変換して、音響データを制御部20へ出力する。計測部10は、マイクロフォンやA/D変換器で構成される。
【0033】
マイクロフォンは特に限定されるものではないが、雑音抑制の観点から指向性マイクロフォンを用いるのが好ましい。また、多種多様な欠陥に対応するには周波数特性が広いマイクロフォンを用いるのが好ましい。
【0034】
A/D変換器は特に限定されるものではないが、解析精度を向上させる観点から分解能(bit数)が高い(大きい)ものを用いるのが好ましい。
【0035】
制御部20は、計測部10から送られてくる音響データを解析し、風力発電装置2の異常の有無を判定する処理部であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、通信インタフェースなどのハードウェアを搭載したスマートフォンや携帯情報端末、パソコン等で構成される。
【0036】
この制御部20は、記録部21と、解析部22と、判定部23とを備えており、これらの各部は、制御部20に格納された制御プログラムによって制御される。
【0037】
記録部21は、取得した音響データを格納する記録部であり、HDDやメモリーカード等の記録媒体で構成される。
【0038】
解析部22は、記録部21に格納されている音響データを読み込んで解析する処理部である。解析部22は、音響データを周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析を行う。スペクトログラム解析手法としては短時間フーリエ変換またはウェーブレット変換等が挙げられる。解析部22における解析結果は、判定部23へ出力される。
【0039】
判定部23は、風力発電装置2の異常の有無を判定する処理部である。判定部23は、解析部22の解析結果に基づいて、あらかじめ決められた閾値以上の信号成分を検出した場合に異常と判定し、判定結果を判定結果出力部30へ出力する。風力発電装置2のブレード3は、正常の運転状態の風切り音と、劣化や落雷、飛来物等によって損傷した異常状態の風切り音とに違いがある。この異常状態の風切り音について音響データを取得し、この取得したデータと風力発電装置2のメンテナンス作業に従事している熟練者の知見等とに基づいて、ブレード3損傷時の特徴音の信号成分の閾値を設定するのが好ましい。
【0040】
判定結果出力部30は、判定部23における判定結果をユーザ(計測者・監視者等)に対して出力する。制御部20を構成するスマートフォンや携帯情報端末の画面表示部やパソコンのディスプレイ等の表示装置で構成されることもあれば、インターネット等の通信網を介して遠隔監視装置7へ判定結果を送信する通信インタフェースで構成されることもある。遠隔監視装置7へ判定結果を送信する場合は、遠隔監視装置7の表示装置に判定結果が表示され、遠隔地での監視等に用いられることになる。
【0041】
図1に示すマイクロフォン5は、図3に示す計測部10に相当し、風力発電装置2の内部または周辺に配置されている。図1に示す異常判定装置6は制御部20に相当する。
【0042】
異常判定装置6がスマートフォンや携帯情報端末のような持ち運びが容易な携帯型であれば、マイクロフォン5を用いて風力発電装置2の外部の周辺で収音することもできる。風力発電装置2の異常を精度良く検出するうえでは、マイクロフォン5を風力発電装置2の内部(例えばナセル4の内部)に設置する方が好ましい。
【0043】
異常判定装置6が風力発電装置2の運転状況を常に監視する常時監視型であれば、風雨の影響が少ないナセル4の内部か、ナセル4の外部の下側、または、風力発電装置2の外部に設けた風雨を避けられる構造物中に設置することが好ましい。
【0044】
このように構成された異常判定システムの処理手順の一例について説明する。
【0045】
図4は、異常判定システムの処理手順を示すフロー図である。
【0046】
まず、計測部10において、風力発電装置2の発する音響を計測する(ステップS1)。計測された音響はデジタル信号に変換され、音響データが記録部21に記録される。
【0047】
次に、解析部22において、記録部21に記録された音響データの解析を実行する(ステップS2)。解析部22では、短時間フーリエ変換又はウェーブレット変換を用いて、音響データを周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析を行う。このとき、音響データではなく、計測した音響の時間平均スペクトルからの偏差データをスペクトログラム解析するとしてもよい。
【0048】
続いて、判定部23において、解析部22における解析結果に基づき、風力発電装置2の回転に応じた時間に異常部位から発せられる信号成分を検出する(ステップS3)。このとき、解析部22における解析結果に、さらに高速フーリエ変換を実施して、風力発電装置2の回転数に応じた頻度に異常部位から発せられる信号成分を検出するとしてもよい。
【0049】
判定部23において検出された信号成分があらかじめ定められた閾値に満たなければ(ステップS4でNO)、判定部23は異常がないという判定を行い、計測部10における音響計測を継続する(ステップS1に戻る)。
【0050】
判定部23において検出された信号成分があらかじめ定められた閾値以上であれば(ステップS4でYES)、判定部23は風力発電装置2に異常が発生していると判定する(ステップS5)。
【0051】
その後、判定結果出力部30において判定結果を出力して(ステップS6)、ユーザに対して風力発電装置2に異常が発生している状態を通知し、異常判定システム1の処理手順は終了する。
【0052】
このように、本実施の形態の風力発電装置の異常判定システムによれば、風力発電装置2の発する音響を計測し、その音響データを周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析をして風力発電装置2の回転に応じた時間に異常部位から発せられる信号成分を検出することにより異常の有無を判定するので、風力発電装置2の異常を早期に検知することができるとともに、熟練者でなくても確実に風力発電装置2の異常を検知することができる。
【0053】
以下に本発明の実施例を示して説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0054】
図5は、実施例で用いた風力発電装置(風車)を示す図である。
【0055】
また、図6は、実施例で用いたブレードの模擬欠陥を示す図である。
【0056】
(実施例1)
直径Φ1300のブレード3(Digimax社製Air Dragon AD-600用)の先端部に、模擬欠陥としてΦ3の貫通穴を開け、このブレード3を駆動モーター(三相モーター TFO-LK-4P)に取り付けて、回転数を汎用インバーター(SC-075)にて制御し、大型風車の周速に合うように回転数600rpmで回転させた。音響計測はマイクロフォン5(ECM-SP-10)、データーレコーダー(TASCAM DR-100mkIII)により録音した。図5に示すように、ブレード3の設置された位置は、ブレード3の回転軸の高さが12100mmとなる位置であり、マイクロフォン5は地上からの高さが400mmとなる位置であり、ブレード3の回転面の内側、回転軸直下から20mmオフセットさせた位置に設置した。
【0057】
録音した音響を短時間フーリエ変換法にてスペクトログラム解析を行った。その解析結果として検出された信号成分の一例を図7に示す。
【0058】
図7は、周波数時間分析結果(異常あり)の一例を示す図である。
【0059】
横軸は時間、縦軸は周波数、色にてレベルを表している。暖色はレベルが高く、寒色はレベルが低いことを表している。数10kHz周辺に模擬欠陥由来の信号が検出されていることが分かる。なお、10kHz以下の信号はモーター等の動作ノイズである。
【0060】
(比較例)
先端部に模擬欠陥として貫通穴を設けていないブレード3を用いて、他は実施例1と同条件として同様の計測および解析を行った。その解析結果として検出された信号成分の一例を図8に示す。
【0061】
図8は、周波数時間分析結果(異常なし)の一例を示す図である。
【0062】
これによれば、10kHz以下のモーター等の動作ノイズ由来の信号が検出されていることが分かる一方で、数10kHz周辺には信号が検出されていないことが分かる。
【0063】
(実施例2)
実施例2は、録音した音響の時間平均スペクトルからの偏差データを用いた点が実施例1と異なり、その他の点は実施例1と同様の解析を行った。その解析結果として検出された信号成分の一例を図9に示す。
【0064】
図9は、時間平均スペクトルからの偏差を解析した周波数時間分析結果(異常あり)の一例を示す図である。
【0065】
これによれば、モーター等の動作ノイズは消去され、模擬欠陥由来の信号のみが検出されていることが分かる。
【0066】
(実施例3)
実施例3は、スペクトログラム解析を行った後で高速フーリエ変換を行った点が実施例2と異なり、その他の点は実施例2と同様の解析を行った。その解析結果として検出された信号成分の一例を図10に示す。
【0067】
図10は、高速フーリエ変換を実施した周波数時間分析結果(異常あり)の一例を示す図である。
【0068】
これによれば、プロペラの回転に相当する場所に模擬欠陥由来の信号が検出されていることが分かる。
【0069】
以上説明したように、本発明に係る風力発電装置の異常判定方法は、風力発電装置の発する音響を計測し、その音響データを周波数特性の時間変化として周波数軸および時間軸空間でスペクトログラム解析をして風力発電装置の回転に応じた時間に欠陥を生じさせている部位から発せられる信号成分を検出することにより異常の有無を判定するので、風力発電装置に生じている劣化や損傷などの異常を早期に検知することができるという効果を奏する。また、風力発電装置の発する音響を計測すれば風力発電装置の異常が検知されるので、熟練者でなくても確実に風力発電装置の異常を検知することができるという効果を奏する。
【0070】
以上、本発明に係る風力発電装置の異常判定方法について実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0071】
例えば、上記実施形態では、プロペラ型の風車を図示して説明したが、本発明に係る風力発電装置の異常判定方法はプロペラ型以外の風車に適応してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る風力発電装置の異常判定方法は、風車等の風力発電装置の異常を検知するのに好適であり、風力発電装置のメンテナンスシステムの一環として有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 異常判定システム
2 風力発電装置
3 ブレード
4 ナセル
5 マイクロフォン
6 異常判定装置
7 遠隔監視装置
10 計測部
20 制御部
21 記録部
22 解析部
23 判定部
30 判定結果出力部
41 可変ピッチ機構
42 増速器
43 ブレーキ装置
44 発電機
45 制御・電源油圧機器
46 ヨー駆動機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10