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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】ケラチノサイト分化促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/68 20060101AFI20220414BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20220414BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20220414BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALN20220414BHJP
   A61K 36/888 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
A61K8/68
A23L33/12
A61K31/164
A61P17/00
A61P43/00 105
A61Q19/00
A23L33/105
A61K8/9794
A61K36/888
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017078787
(22)【出願日】2017-04-12
(65)【公開番号】P2018177684
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】向井 克之
(72)【発明者】
【氏名】三上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祥太
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 靖之
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/68
A23L 33/12
A61K 31/164
A61P 17/00
A61Q 19/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
d18:2 4t8c -C6を有効成分とするケラチノサイト分化促進剤。
【請求項2】
皮膚外用剤である、請求項1に記載のケラチノサイト分化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチノサイトの分化を促進することができる薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚は、表皮、真皮及び皮下組織の三層から構成され、なかでも表皮は、皮膚の最外層に位置し、外界との境目になる器官であり、水分蒸散、微生物や物理化学的な刺激等から生体を防御するバリアとしての役割を果たしている。
【0003】
表皮は、内側から「基底層」、「有棘層」、「顆粒層」および「角質層(角層)」に分けられ、主にケラチノサイト(角化細胞)と呼ばれる細胞から構成されている。ケラチノサイトは、最下層の基底層では分裂能力を有する未熟な細胞として単層を形成し、分裂増殖して上層に押し上げられながらその過程で細胞分化(「角化」)を起こして、最終的に核のない死細胞である角質細胞となり、垢となって脱落していく。表皮では、このケラチノサイトの増殖、移動、分化、そして脱落の過程が一定の周期で生じて常に角質層が円滑にターンオーバーすることによって恒常性が保たれているが、例えば加齢や疾患等によって、ケラチノサイトの増殖や分化が抑制されると、皮膚の機能が十分果たせなくなる。このように、ケラチノサイトの分化促進は、皮膚の新陳代謝の促進、皮膚のバリア機能の維持、および皮膚の創傷の治癒において重要である。
【0004】
ケラチノサイトの分化を促進しうる薬剤について、これまでに種々研究されている。例えば、特許文献1(特開2009-149557号公報)には、プロラクチンが皮膚繊維芽細胞からのコラーゲン産生促進作用ならびに表皮ケラチノサイトの分化促進作用を有することが開示されている。また、例えば特許文献2(特開2012-77044号公報)には、リン酸化糖カルシウムをケラチノサイト分化促進成分として含有する皮膚外用剤が開示されている。
【0005】
しかしながら、植物由来セラミドがケラチノサイトの分化に与える影響は知られてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-149557号公報
【文献】特開2012-77044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケラチノサイトの分化促進によって、皮膚の新陳代謝の促進、皮膚のバリア機能の維持、皮膚の創傷の治癒等の効果を高めるには、分化初期の状態のケラチノサイトだけでなく、分化末期の状態のケラチノサイトにも、分化を促すことが重要になる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて、簡便にケラチノサイトの分化を促進することができる、新たなケラチノサイト分化促進剤を提供することを課題とする。より具体的には、本発明は、ケラチノサイトに対して、分化初期だけでなく分化末期の状態であっても、分化を促進できるケラチノサイト分化促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、植物由来セラミドには、分化初期の状態のケラチノサイトだけでなく分化末期の状態のケラチノサイトに対しても、分化を効果的に促進する作用があり、ケラチノサイト分化促進剤として有用であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 植物由来セラミドを有効成分とするケラチノサイト分化促進剤。
項2. 植物由来セラミドがコンニャク由来である、項1に記載のケラチノサイト分化促進剤。
項3. 皮膚外用剤である、項1又は2に記載のケラチノサイト分化促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のケラチノサイト分化促進剤は、植物由来セラミドを使用することによって、分化初期の状態のケラチノサイトだけでなく分化末期の状態のケラチノサイトに対しても、分化を効果的に促進することが可能になっている。特に、後記する実施例の欄で実証されているように、分化初期の状態のケラチノサイトに対しては、植物由来セラミドは、動物由来セラミドに比べて分化促進効果が高く、しかも分化末期の状態のケラチノサイトに対しては、動物由来セラミドは分化促進効果が認められないが、植物由来セラミドでは優れた分化促進効果が認められる。このように本発明のケラチノサイト分化促進剤は、植物由来セラミドを有効成分として選択することによって、卓越したケラチノサイト分化促進効果を奏することが可能になっている。
【0012】
また、本発明のケラチノサイト分化促進剤は、植物由来成分を使用しているので、安全性も高く、更に飲食品、経口医薬品、外用剤等の形態で使用できるので、使用者の負担が少なく非侵襲的で簡便な手法で、ケラチノサイトの分化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】未分化ケラチノサイト(NHEK)を動物由来セラミド又は植物由来セラミドで処理した場合の各遺伝子のmRNA量を示したグラフである。
図2】分化したケラチノサイト(NHEK)を動物由来セラミド又は植物由来セラミドで処理した場合の各遺伝子のmRNA量を示したグラフである。
図3】セラミド生合成経路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のケラチノサイト分化促進剤は、植物由来セラミドを有効成分とすることを特徴とする。以下に、本発明のケラチノサイト分化促進剤について詳述する。
【0015】
植物由来セラミド
本発明のケラチノサイト分化促進剤は、植物由来セラミドを有効成分とする。セラミドは、スフィンゴイドに脂肪酸がアミド結合した構造を有する。
本発明において使用されるセラミドは、植物由来である。そのため、本発明のケラチノサイト分化促進剤は、安全性が高く、簡便に適用できる。本発明で使用されるセラミドの由来植物としては、具体的には、アーモンド、アオサ、アオノリ、アカザ、アカシア、アカネ、アカブドウ、アカマツ(松ヤニ、琥珀、コーパルを含む。以下マツ類については同じ)、アガリクス、アキノノゲシ、アケビ、アサガオ、アザレア、アジサイ、アシタバ、アズキ、アスパラガス、アセロラ、アセンヤク、アニス、アボガド、アマクサ、アマチャ、アマチャヅル、アマナツ、アマリリス、アルテア、アルニカ、アロエ、アンジェリカ、アンズ、アンコール、アンソッコウ、イグサ、イザヨイバラ、イチイ、イチジク、イチョウ、イヨカン、イランイラン、ウイキョウ、ウーロン茶、ウコン、ウスベニアオイ、ウツボグサ、ウド、ウメ、ウラジロガシ、温州ミカン、エイジツ、エシャロット、エゾウコギ、エニシダ、エノキタケ、エルダーフラワー、エンドウ、オーキッド、オウゴンカン、オオバコ、オオヒレアザミ、オオムギ、オケラ、オスマンサス、オトギリソウ、オドリコソウ、オニドコロ、オリーブ、オレガノ、オレンジ(オレンジピールを含む)、カーネーション、カカオ、カキ、カキドオシ、カクテルフルーツ、カッコン、カシワ、カタクリ、カボチャ、カミツレ、カムカム、カモミール、カラスウリ、カラマツ、カラマンダリン、カリン、ガルシニア、カルダモン、カワチバンカン、カンペイ、キイチゴ、キウイ、キキョウ、キャベツ(ケールを含む)、キャラウェイ、キュウリ、キヨミ、キンカン、ギンナン、グァバ、クコ、クズ、クチナシ、クミン、クランベリー、クルミ、グレープフルーツ、クレメンタイン、クローブ、クロマツ、クロマメ、クロレラ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、コケモモ、コショウ、コスモス、ゴボウ、コムギ(小麦胚芽を含む)、ゴマ、コマツナ、コメ(米糠を含む)、コリアンダー、コンニャク(コンニャク芋)(こんにゃくトビ粉を含む)、コンブ、サーモンベリー、サイプレス、ザクロ、サツマ芋、サト芋、サトウキビ、サトウダイコン、サフラン、ザボン、サンザシ、サンショウ、シイタケ、シクラメン、シソ、シメジ、ジャガ芋、シャクヤク、ジャスミン、ジュズダマ、シュンギク、ショウガ、ショウブ、シラカシ、ジンチョウゲ、シンナモン、スイカ、スイトピー、スイートスプリング、スギナ、スターアニス、スターアップル、スダチ、ステビア、スモモ、セージ(サルビア)、セトカ、ゼニアオイ、セミノール、セロリ、センキュウ、センブリ、ソバ、ソラマメ、ダイコン、ダイズ(おからを含む)、ダイダイ、タイム、タケノコ、タマネギ、タラゴン、タロイモ、タンカン、タンゴール、タンジン、タンゼロ、タンポポ、チコリ、ツキミソウ、ツクシ、ツバキ、ツボクサ、ツメクサ、ツルクサ、ツルナ、ツワブキ、ディル、デコポン、テンジクアオイ(ゼラニウム)、トウガ、トウガラシ、トウキ、トウチュウカソウ、トウモロコシ、ドクダミ、トコン、トチュウ、トネリコ、ナガイモ、ナズナ、ナツミ、ナツミカン、ナツメグ、ナンテン、ニガウリ、ニガヨモギ、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ノコギリソウ、ノコギリヤシ、ノビル、バーベナ、パーム、パイナップル、ハイビスカス、ハコベ、バジル、パセリ、ハダカムギ、ハッサク、ハッカ、ハトムギ、バナナ、バナバ、バニラ、パプリカ、ハマメリス、ハルカ、ハルミ、ハレヒメ、バンペイユ、ビート、ピーマン、ヒガンバナ、ヒシ、ヒジキ、ピスタチオ、ヒソップ(ヤナギハッカ)、ヒナギク、ヒナゲシ、ヒノキ、ヒバ、ヒマシ、ヒマワリ、ヒメノツキ、ヒュウガナツ、ビワ、ファレノプシス、フェネグリーク、フキノトウ、ブラックベリー、プラム、ブルーベリー(ビルベリーを含む)、プルーン、ブンタン、ヘチマ、ベニバナ、ベニマドンナ、ベラドンナ、ベルガモット、ホウセンカ、ホウレンソウ、ホオズキ、ボダイジュ、ボタン、ホップ、ホホバ、ポンカン、マイタケ、マオウ、マカ、マカデミアンナッツ、マーコット、マタタビ、マリーゴールド、マリヒメ、マンゴー、ミツバ、ミネオラ、ミモザ、ミョウガ、ミルラ、ムラサキ、メース、メリッサ、メリロート、メロン、メン(綿実油粕を含む)、モヤシ、ヤグルマソウ、ヤマ芋、ヤマユリ、ヤマヨモギ、ユーカリ、ユキノシタ、ユズ、ユリ、ヨクイニン、ヨメナ(アスター)、ヨモギ、ライム、ライムギ、ライラック、ラズベリー、ラッカセイ、ラッキョウ、リンゴ(アップルファイバーを含む)、リンドウ、レイコウ、レイシ、レタス、レモン、レンゲソウ、レンコン、ローズヒップ、ローズマリー、ローリエ、ワケギ、ワサビ(セイヨウワサビを含む)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはコンニャク、サツマ芋、ジャガ芋、サト芋、ヤマ芋、ナガ芋等の芋類;コメ;コムギ、より好ましくは芋類、更に好ましくはコンニャクが挙げられる。
【0016】
本発明において、スフィンゴイドは、少なくとも1位と3位の炭素原子に水酸基が結合し、2位の炭素原子にアミノ基が結合した長鎖アミノアルコールである。本発明で使用されるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分の構造については、植物由来のものであれば特に制限されないが、好ましくは8-9位炭素間結合が二重結合であるものが挙げられ、具体的には、4-ヒドロキシ-トランス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、トランス-8-スフィンゲニン、シス-8-スフィンゲニン、トランス-4,トランス-8-スフィンガジエニン、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくはトランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、トランス4-トランス8-スフィンガジエニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロシキ-トランス8-スフィンゲニン等が挙げられる。
【0017】
本発明で使用されるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分に結合している脂肪酸の炭素数については、特に制限されないが、2~30、好ましくは6~30、更に好ましくは6~24、特に好ましくは16~18が挙げられる。また、当該脂肪酸は、飽和脂肪酸、炭素-炭素二重結合及び/又は炭素-炭素三重結合を含む不飽和脂肪酸、並びにα-ヒドロキシ脂肪酸のいずれであってもよい。
【0018】
本発明で使用されるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分に結合している脂肪酸として、具体的には、ヘキサン酸(C6:0)、オクタン酸(C8:0)、デカン酸(C10:0)、ドデカン酸(C12:0)、テトラデカン酸(C14:0)、ヘキサデカン酸(C16:0)、オクタデカン酸(C18:0)、イコサン酸(C20:0)、ヘネイコサン酸(C21:0)、ドコサン酸(C22:0)、トリコサン酸(C23:0)、テトラドコサン酸(C24:0)、ペンタコサン酸(C25:0)、ヘキサドコサン酸(C26:0)、ヘプタコサン酸(C27:0)、オクタドコサン酸(28:0)、シス-9-オクタデセン酸(C18:1)等が挙げられる。なお、前記脂肪酸の括弧内に示す表記「CX:Y」において、CXは1分子当たりの炭素数を示し、Yは1分子当たりの不飽和結合の数を示し、例えば「C16:0」とは炭素数16且つ不飽和結合数が0の脂肪酸を表す。これらの脂肪酸の中でも、好ましくは、ヘキサン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、テトラドコサン酸が挙げられる。
【0019】
セラミドは、前述する由来植物から公知の抽出方法によって得ることができる。また、セラミドは、スフィンゴ糖脂質の酵素処理物として得られたものであってもよく、また生体内でセラミドを生成する植物由来スフィンゴ糖脂質であってもよい。植物由来のセラミド及びスフィンゴ糖脂質は商業的に入手可能であり、市販品を使用してもよい。
【0020】
前記スフィンゴ糖脂質の酵素処理物としては、前述の由来植物の抽出液、その濃縮液、又は前記濃縮液を精製処理した精製物の酵素処理物などが挙げられる。
【0021】
前記スフィンゴ糖脂質は、グルコシルセラミド又はラクトシルセラミド等の、セラミドの第1級アルコール性ヒドロキシ基に糖が結合した糖脂質である。スフィンゴ糖脂質としては、前述したセラミドが得られるのであれば、特に制限されず、セラミドに、グルコース、ガラクトース、又は糖鎖等、いずれの糖が結合したものであってもよい。スフィンゴ糖脂質は、前述する由来植物から公知の抽出方法によって得ることができる。また、スフィンゴ糖脂質は、商業的に入手可能であり、市販品を使用してもよい。
【0022】
スフィンゴ糖脂質の酵素処理に使用する酵素としては、スフィンゴ糖脂質の糖鎖-セラミド間の結合を加水分解する酵素であれば特に制限されず、例えば、エンドグリコセラミダーゼ(EGCase)が挙げられる。
【0023】
EGCaseは、等電点及び分子量が異なる3つの分子種(EGCase I、EGCase II、及びEGCase III)が知られており、分子種に応じて基質特異性が異なることが知られている。使用するEGCaseの分子種は、基質となるスフィンゴ糖脂質の構造に応じて適宜設定すればよい。例えば、スフィンゴ糖脂質として、セレブロシド、特にコンニャク由来のスフィンゴ糖脂質の場合であれば、EGCase Iが好適に使用される。酵素処理の条件は、所望の酵素反応が行われるよう適宜選択するとよい。
【0024】
前記抽出液の濃縮方法としては、エバポレーターのような減圧濃縮装置を用いた公知の濃縮方法が挙げられる。また精製方法としては、アルカリ処理、溶媒分画、シリカゲルクトマトグラフィーなどの公知の精製方法が挙げられる。
【0025】
酵素処理後、酵素処理物そのままを用いてもよいし、酵素処理物を固液分離した残渣、固液分離した残渣を乾燥させたもの、反応物そのままを乾燥させたもの等を用いてもよい。また、酵素処理物を固液分離し、更に水を添加した後、再度固液分離することにより酵素処理物を洗浄して不純物を除去したものでもよい。
【0026】
本発明のケラチノサイト分化促進剤において、セラミドは、1種の構造又は由来のものを単独して使用してもよく、2種以上の構造又は由来のものを組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明のケラチノサイト分化促進剤におけるセラミドの含有量としては、本発明の効果を奏するのであれば、特に制限されず、用途、剤型、投与形態等に応じて適宜調整することができる。
【0028】
添加成分
本発明のケラチノサイト分化促進剤は、前述した植物由来セラミド以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、剤型に応じて、他の添加成分を含有していてもよい。本発明のケラチノサイト分化促進剤に含有され得る添加成分としては、例えば、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤などが挙げられる。これらの添加成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加成分の含有量については、使用する添加成分の種類や本発明のケラチノサイト分化促進剤の剤型等に応じて適宜設定される。
【0029】
剤型・製剤形態・用途
本発明のケラチノサイト分化促進剤の剤型については、特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、ケラチノサイト分化促進剤の種類や用途に応じて適宜設定すればよい。
【0030】
本発明のケラチノサイト分化促進剤の投与方法としては、特に制限されず、適用する疾患の種類等に応じて適宜選択すればよく、全身投与であっても、局所投与であってもよい。具体的には、経口、経血管内(動脈内又は静脈内)、経皮、経腸、経肺、経鼻投与等が挙げられる。血管内投与には、血管内注射、持続点滴も含まれる。なかでも、投与が容易な点で、経皮投与、経口投与が好ましい。
【0031】
本発明のケラチノサイト分化促進剤の製剤形態については、特に制限されず、投与方法に適した製剤形態に適宜設定することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、乳液剤、懸濁液剤、パップ剤、貼付剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤、注射剤、点滴剤、坐剤等の任意の製剤形態を挙げることができる。例えば、本発明のケラチノサイト分化促進剤の投与形態が経皮投与である場合は、経皮投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、化粧料、外用医薬品などの皮膚外用剤が挙げられる。
【0032】
例えば、本発明のケラチノサイト分化促進剤を化粧料に使用する場合、本発明のケラチノサイト分化促進剤を香粧学的に許容される基材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような化粧料の形態としては、特に制限されないが、具体的には、クリーム剤、乳液、化粧水(ローション)、パック、洗浄剤、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品、オイル、リップ、口紅、ファンデーション、アイライナー、頬紅、マスカラ、アイシャドー、マニキュア・ペディキュア(及び除去剤)、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、パーマネント剤、染毛料、ひげ剃り剤、石けん(ハンドソープ、ボディソープ、洗顔料)などが挙げられる。
【0033】
また、本発明のケラチノサイト分化促進剤を外用医薬品に使用する場合、本発明のケラチノサイト分化促進剤を単独で、又は他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤や添加成分等と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような外用医薬品の形態としては、特に制限されないが、具体的には、乳液剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤などの経皮投与製剤などが挙げられる。
【0034】
本発明のケラチノサイト分化促進剤が皮膚外用剤の製剤形態である場合、有効成分である植物由来セラミドの含有量としては、ケラチノサイトの分化が促進される限り特に制限されず、製剤形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~90質量%が挙げられ、好ましくは0.2~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%が挙げられる。
【0035】
また、本発明のケラチノサイト分化促進剤の製剤形態について、例えば、本発明のケラチノサイト分化促進剤の投与形態が経口投与である場合は、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、飲食品及び内服用医薬品が挙げられる。
【0036】
本発明のケラチノサイト分化促進剤を飲食品の製剤形態にする場合、本発明のケラチノサイト分化促進剤を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的にはカプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品;等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、より好ましくはカプセル剤が挙げられる。
【0037】
本発明のケラチノサイト分化促進剤を内服用医薬品の製剤形態にする場合、本発明のケラチノサイト分化促進剤を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような内服用医薬品としては、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、シロップ剤、リポソーム製剤等が挙げられる。これらの内服用の医薬品の中でも、好ましくはカプセル剤、更に好ましくはソフトカプセル剤が挙げられる。
【0038】
本発明のケラチノサイト分化促進剤が飲食品又は内服用医薬品の製剤形態である場合、有効成分である植物由来セラミドの含有量としては、ケラチノサイトの分化が促進される限り特に制限されず、製剤形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1~90質量%が挙げられ、好ましくは0.2~50質量%、より好ましくは0.5~30質量%が挙げられる。
【0039】
本発明のケラチノサイト分化促進剤は、ケラチノサイトの分化促進の用途に使用される。また、本発明のケラチノサイト分化促進剤は、ケラチノサイトの分化を促進することによって改善が見込まれる症状や疾患の治療又は予防目的で使用することができる。具体的には、本発明のケラチノサイト分化促進剤は、皮膚の老化、シミ、シワ、たるみ、そばかす等の防止;乾癬、角化症、皮膚炎等の皮膚疾患の改善等に好適に適用することができる。
【0040】
本発明のケラチノサイト分化促進剤の使用量については、特に制限されず、製剤形態、用途、投与対象等に応じて、ケラチノサイトの分化を促進できる有効量を適宜設定すればよい。
【実施例
【0041】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0042】
実験例1 未分化NHEKを用いた実験
12ウェルプレート(培養面積3.8cm2)にヒト正常表皮角化細胞(ケラチノサイト、NHEK)を1ウェルあたり2.0×104個となるように細胞を播種した。毎日新しいHumedia KG2(クラボウ製)培地0.5mLに交換し、90%コンフルエントと成るまで37℃、5%CO2の条件下で6日間培養した。90%コンフルエントに到達後、各ウェルの培地を新しいHumedia KG2培地0.8mLに交換した。セラミド(d18:1-C6又はd18:24t8c-C6)を終濃度5mMとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解してセラミド溶液を調製し、Humedia KG2培地1mLに5mMのセラミド溶液を5μL加えてすぐさま激しく攪拌し、培地にセラミドを懸濁した。コントロールには同体積のDMSOを用いた。調製したセラミド懸濁液を0.2mLずつ各ウェルに加え、24時間37℃、5%CO2の条件下で培養した。24時間後に、トリゾール試薬(invitrogen製)を用いて全RNA溶液を精製し、PrimeScriptTM RT reagent Kit (Perfect Real Time)(TAKARA製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAをTE緩衝液100μLに溶解し、KAPA SYBR Fast qPCR Kitを用いて定量PCRを行った。具体的には、PCR用96ウェルプレートにKAPA SYBRマスターミックス7.5μL、水5μL、cDNA溶液1μL、2μMフォワードおよびリバースプライマーの混合溶液1.5μLを加えTAKARA製Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System TP800を用いて標準プログラムでPCRを行い、比較Ct法で、SPTLC2(セリンパルミトイルトランスフェラーゼ2)、ELOVL4(脂肪酸伸長酵素)、INV(inovolucrin)のそれぞれのmRNA量を比較定量した。内部標準としてグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を用い、同様にしてその発現量を測定した。mRNA量は、各遺伝子のコントロール群のmRNA量を1としたときの相対量で示した。得られた値について、studentのT検定による有意差検定(**P<0.01、*0.01<P<0.05)を行った。
【0043】
使用したセラミドは、下記のとおりである。「dw:x」は、1分子当たりのセラミドのスフィンゴイド部分の炭素数wと不飽和結合の数xを示し、「C6」は、脂肪酸の炭素数が6であることを示す。
動物由来セラミド;
d18:1-C6(N-ヘキサノイル-D-エリスロ-スフィンゴシン、Cayman chemical社製)
植物由来セラミド;
d18:24t8c-C6(N-ヘキサノイル-D-エリスロ-トランス4,シス8スフィンガジエニン)
コンニャク由来グルコシルセラミドを化学分解後にスフィンゴイド塩基をHPLCで精密に分離し、ヘキサン酸無水物を反応させ、生成したセラミドをHPLCで単離した精製品。
【0044】
また、使用したプライマーに関する情報を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
結果を図1に示す。図1によれば、未分化NHEKを動物由来セラミド(d18:1-C6)、又は植物由来セラミド(d18:24t8c-C6)で処理した場合、コントロールと比べて、SPTLC2、ELOVL4、INVの発現量が有意に増大することが認められた。また、動物由来セラミド(d18:1-C6)よりも、植物由来セラミド(d18:24t8c-C6)で処理した場合の方が、これらの遺伝子の発現量がさらに一層増大することが認められた。SPTLC(セリンパルミトイルトランスフェラーゼ)は、スフィンゴ脂質の生合成において最初の、セリンとパルミトイルCoAとの縮合反応を触媒する二量体の酵素であり、SPTLC2は、SPTLC活性に必須のサブユニットである。また、ELOVL4は、脂肪酸伸長酵素であり、INVは、細胞表面でセラミドの足場になるタンパク質である(図3を参照のこと)。SPTLC2、ELOVL4及びINVは、NHEKの分化が進むことで発現量が増大する遺伝子であり、これらの遺伝子の発現量が増大すると、NHEKの分化が進んでいると判断できる。従って、これらの結果から、動物由来セラミド(d18:1-C6)、植物由来セラミド(d18:24t8c-C6)は、NHEKの分化を促進しうること、また、植物由来セラミド(d18:24t8c-C6)の方が、分化を促進する作用がより一層高いことが確認された。
【0047】
実験例2 分化NHEKを用いた実験
12ウェルプレート(培養面積3.8cm2)に正常表皮角化細胞(ケラチノサイト、NHEK)を1ウェルあたり2.0×104細胞播種した。毎日新しいHumedia KG2(クラボウ製)培地0.5mLに交換し90%コンフルエントとなるまで37℃、5%CO2の条件下で6日間培養した。
90%コンフルエント到達後、各ウェルの培地を10% FBS、50μg/mLアスコルビン酸、0.4μg/mLヒドロコルチゾン、10μg/mLインスリンを含むDMEM/Ham F-12 = 2:1(vol)の培地(以後、「分化誘導培地」とも表記する。)ref)0.5mLに交換し5日間培養した。培地は毎日0.5mLずつ交換した。5日間培養後、新しい分化誘導培地0.8mLに交換した。
次いで、前記のセラミドを終濃度5mMとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。そして、分化誘導培地0.9mLに5mMのセラミド溶液を4.5μL加えてすぐさま激しく攪拌し培地にセラミドを懸濁した。コントロールには同体積のDMSOを用いた。
調製したセラミド懸濁液を0.2mLずつ各ウェルに加え、24時間、37℃、5%CO2の条件下で培養した。24時間後トリゾール試薬(invitrogen製)を用いて全RNA溶液を精製し、PrimeScriptTM RT reagent Kit (Perfect Real Time)(TAKARA製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAをTE緩衝液100μLに溶解し、KAPA SYBR(登録商標) Fast qPCR Kitを用いて定量PCRを行った。具体的には、PCR用96ウェルプレートにKAPA SYBRマスターミックス7.5μL、水5μL、cDNA溶液1μL、2μMフォワードおよびリバースプライマーの混合溶液1.5μLを加え、TAKARA製Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System TP800を用いて標準プログラムでPCRを行い、実験例1と同様に、比較Ct法でmRNA量を比較定量し、各遺伝子のコントロール群のmRNA量を1としたときの相対量で示した。使用したプライマーは、実験例1と同様のものである。また、得られた値について、studentのT検定による有意差検定(*P<0.05)を行った。
【0048】
結果を図2に示す。図2によれば、植物由来セラミド(d18:24t8c-C6)で処理した分化したNHEKでは、SPTLC2、ELOVL4、INVの発現量がコントロールと比べて増大することが認められた。これらの結果から、植物由来セラミドが分化したNHEKの分化もさらに促進しうることが確認された。
図1
図2
図3
【配列表】
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