(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】グルコシルセラミドを有効成分として含有する筋力向上性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7028 20060101AFI20220414BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220414BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220414BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220414BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220414BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20220414BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61P21/00
A61P43/00 111
A23L33/105
C12N15/09 ZNA
C12Q1/68
(21)【出願番号】P 2017208124
(22)【出願日】2017-10-27
【審査請求日】2020-06-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:第71回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集 第198頁 2A-B02 発行日 :平成29年4月28日 発行者 :公益社団法人日本栄養・食糧学会
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 優輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 千尋
(72)【発明者】
【氏名】間 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大池 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小堀 真珠子
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193497(JP,A)
【文献】日本薬学会講演要旨集,2016年02月01日,Vol.136th,28AB-pm154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 21/00
A61P 43/00
A23L 33/105
C12N 15/09
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコシルセラミドを有効成分として含有する、Ncam1及びChrnd遺伝子発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばグルコシルセラミドを有効成分として含有する、筋力向上作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢社会を迎えた日本は世界有数の長寿国である。その一方で、「平均寿命」と「健康寿命」の差をいかに近づけることができるかが課題である。ヒトを含む脊椎動物は、加齢や生活習慣により運動器症候群(別称:ロコモティブシンドローム)を発症するリスクを抱える。運動器症候群とは、日本臨床整形外科学会により「運動器の衰え・障害によって要介護になるリスクが高まる状態のこと」と定義された。運動器症候群に該当する症例は多岐に渡り、ケガ等の外傷的原因による外傷性関節症、自己免疫疾患の一種である関節リウマチ、椎間板の変性や変形による変形性脊椎症、加齢に伴う筋肉減少症、狭窄による神経障害、骨折や骨粗鬆症による骨の異常、変形性関節症等が含まれる。
【0003】
一般的に加齢とともに体力や活動量の低下が見られると同時に筋力の低下も挙げられる。運動機能の維持・向上は、健康寿命の延伸、及び生活の質(QOL)向上に重要であるとされる。
【0004】
筋力を維持・向上するための方法の一つとして、骨格筋タンパク質の合成を促進し、筋肥大を起こすことが挙げられる。筋肥大を促進することができれば、筋力不足による事故等を防止でき、QOLの向上にもつながる。これまで、筋肥大を促進する為に行われていた方法としては、レジスタンストレーニングが挙げられる。但し、レジスタンストレーニングは高重量を使用するため怪我の危険が伴い、現代人には時間的な制約もあることから、手軽に実施できないという問題があった。
【0005】
そこで、誰もが手軽に実施可能な手段として、サプリメント摂取による筋肥大の効率化が挙げられる。これまでに筋肥大効率化のサプリメントとしては、アミノ酸、BCAA、プロテイン、α-グルコシルイソクエルシトリン等が開発されている。
【0006】
一方、これまでに植物由来グルコシルセラミドの食品機能性について、肌のバリア機能の維持向上や、皮膚保湿効果、大腸癌予防効果、抗腫瘍効果、免疫賦活効果、抗炎症効果等広く報告されている(特許文献1~3及び非特許文献1)。
【0007】
しかしながら、従来において、グルコシルセラミドが筋力へ及ぼす影響は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4962754号公報
【文献】特許第4776163号公報
【文献】特許第4783550号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】平河聡ら, 薬理と治療, 2013年, Vol. 41, pp. 1051-1059
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の実情に鑑み、安全で副作用の少ない、筋力向上作用を有する組成物、及びそれを含む飲食品、医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、グルコシルセラミドが筋力向上作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)グルコシルセラミドを有効成分として含有する筋力向上性組成物。
(2)運動器症候群の予防、治療又は改善剤である、(1)記載の筋力向上性組成物。
(3)(1)又は(2)記載の筋力向上性組成物を含有する筋力向上用飲食品。
(4)(1)又は(2)記載の筋力向上性組成物を含有する筋力向上用医薬品。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るグルコシルセラミドを有効成分として含有する組成物によれば、筋力を向上させ、運動器症候群を予防、治療又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】米由来グルコシルセラミド標準品(長良サイエンス社製、純度≧99%)のHPLCの測定結果である。
【
図2】特許文献3を参考に精製した米ぬか由来のグルコシルセラミド含有抽出物のHPLCの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る筋力向上性組成物は、有効成分としてグルコシルセラミドを含有するものである。本発明に係る筋力向上性組成物は、運動器症候群の予防、治療又は改善剤としても使用することができる。運動器症候群としては、例えばケガ等の外傷的原因による外傷性関節症、椎間板の変性や変形による変形性脊椎症、加齢に伴う筋肉減少症、狭窄による神経障害、骨折や骨粗鬆症による骨の異常、変形性関節症等が挙げられる。
【0015】
本発明で使用するグルコシルセラミドは、例えば植物から公知の方法で抽出、精製することによりグルコシルセラミド画分として得ることができる。グルコシルセラミド画分を抽出する原料となる植物は、特に限定されることなく、また抽出原料となる植物部位も特に限定されることがない。植物の中でも、穀類が好ましく使用され、例えば米、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、大豆、粟、キビ、ヒエ、ハト麦、エン麦等の穀粒が抽出原料として挙げられる。さらに詳しくは、そのような穀粒の全粒、胚芽、ふすま、ぬか、胚乳等いずれの部位も使用することができる。抽出原料としては、これらの材料の粉砕物が好ましく使用できる。また、グルコシルセラミドは、化学合成によって得ることもできる。また、市販品でも良い。更に、薬理学的に許容され得る塩及び/又は誘導体にすることもできる。
【0016】
例えば、特許文献3に記載の方法に準じて、米ぬかに含水エタノールを加え、還流抽出した後、エバポレーターにて抽出液を濃縮し、オープンカラムにて精製することで、グルコシルセラミド画分を得ることができる。
【0017】
本発明に係る筋力向上性組成物は、該組成物に対してグルコシルセラミドを例えば0.05mg/g~500mg/g (好ましくは0.2mg/g~50mg/g)で含有する。
【0018】
本発明に係る筋力向上性組成物は、グルコシルセラミドを助剤と共に任意の形態に製剤化して、経口投与又は非経口投与が可能な医薬品とすることができる。例えば、経口投与用の剤形としては、例えば錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒等の固形投薬形態、シロップ及び懸濁液のような液体投薬形態が挙げられる。非経口投与用の剤形としては、例えば注射剤、点眼剤、点鼻剤、貼付剤、坐剤、皮膚外用剤の形態が挙げられる。なお、医薬品には医薬部外品も含まれる。
【0019】
固形投薬形態とする場合、一般製剤の製造に用いられる種々の添加剤を適当量含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば賦形剤、結合剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0020】
液体投薬形態とする場合、本発明に係る筋力向上性組成物は、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、溶解剤、懸濁剤等、等張化剤、安定化剤、防腐剤等の存在下、常法により製剤化することができる。
【0021】
皮膚外用剤の形態としては、特に限定されず、例えば、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品等とすることができる。上記成分以外に、通常医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、各種皮膚栄養成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、色剤、水、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0022】
本発明に係る筋力向上性組成物は、機能性食品、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品等の保健機能食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、健康補助食品、サプリメント等として調製されてもよい。サプリメントとして、例えば、一般的なサプリメントの製造に用いられる種々の添加剤と共に錠剤、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等の形状とすることができる。
【0023】
本発明に係る筋力向上性組成物は、飲食品に配合することができる。配合可能な飲食品としては、特に限定はないが、例えば、飴、グミ、チューインガム等の菓子類;クッキー、クラッカー、ビスケット、チョコレート、プリン、ゼリー、スナック菓子、米菓、饅頭、羊羹等の菓子類;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、ジェラート等の冷菓;ドーナツ、ケーキ、食パン、フランスパン、クロワッサン等のベーカリー食品;うどん、そば、中華めん、きしめん等の麺類;白飯、赤飯、ピラフ等の米飯類;カレー、シチュー、ドレッシング等のソース類;ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の練り製品;天ぷら、コロッケ、ハンバーグ等の各種惣菜類;ジュース、お茶等の飲料等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る筋力向上性組成物の1日当たりの投与量は、患者の年齢、体重、性別、状態等の要因によって変化させることができる。例えば、本発明に係る筋力向上性組成物の1日当たりの投与量は、有効成分であるグルコシルセラミド換算で0.01~10mg/kg体重(好ましくは0.05~0.1mg/kg体重)である。必要に応じて、用量を数回、例えば2~3回に分けて分割投与してもよい。
【0025】
本発明に係る筋力向上性組成物の効果は、例えば握力測定や骨格筋応答に関わる因子の遺伝子発現により評価される、老化促進モデルマウスにおける筋力の増大に基づいて確認することができる。
【0026】
一方、上述の本発明に係る筋力向上性組成物の記載に準じて、本発明は、グルコシルセラミドを患者又は被験体(ヒト)に投与することを含む、筋力向上方法、又は運動器症候群の予防、治療又は改善方法にも関する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
以下の実施例で使用したグルコシルセラミドは、特許文献3を参考に精製した。具体的には、米ぬかに含水エタノールを加え、還流抽出した後、エバポレーターにて抽出液を濃縮、オープンカラムにて精製した。
【0029】
こうして得られたグルコシルセラミドの定量を、例えば蒸発光散乱検出器(ELSD)を用いることで高精度に実施することができた。上記の抽出操作により、グルコシルセラミドを80~99質量%程度含有するグルコシルセラミド画分を得ることができた。
【0030】
なお、
図1は、米由来グルコシルセラミド標準品(長良サイエンス社製、純度≧99%)のHPLCの測定結果である。
図2は、上記精製したグルコシルセラミド含有抽出物のHPLCの測定結果である。リテンションタイム13.0分で一致していることを確認し、このピークをグルコシルセラミドとして含量を計算した。
【0031】
〔実施例1〕動物試験
(1) 0.1%グルコシルセラミドになるようAIN93G粉末餌(オリエンタル酵母工業株式会社製)にグルコシルセラミドを混合した。
(2) 老化促進モデルマウス(SAMP8)に対し、AIN93G粉末餌(比較例)又は(1)で調整した餌(実施例)を各群10匹ずつ6ヶ月間、給餌した。
(3) 全てのマウスを頸椎脱臼により安楽死させた。
(4) 外科的に大腿筋を得た。
【0032】
試験1.マウスの握力測定
ばねばかりにマウスを4肢で捕まらせた後、尾を持ってゆっくりと後ろに引き、マウスが肢を離したときの数値を握力の指標とした。測定は3回繰り返し行い、最大値を握力とした。データは平均値±標準誤差で示した。**:比較例と比べて有意差あり(p<0.01)。
【0033】
表1に示されるように、グルコシルセラミド0.1%含有餌投与群(実施例)は比較例と比較して、握力が有意に高値を示した。よって、握力測定により、グルコシルセラミドに筋力向上作用があることが確認できた。
【0034】
【0035】
試験2.マウスの筋肉の遺伝子発現測定
解剖後、前肢大腿筋よりTotal RNAを抽出した。骨格筋応答に関わる因子であるNcam1とChrndの遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。定量的リアルタイムPCRに使用したプライマーは、以下の通りである。
Ncam1:
フォワードプライマー:5'-cactgccagcaacaccat-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-tggttcccttcccaagtgta-3'(配列番号2)
Chrnd:
フォワードプライマー:5'-aagggaagacaaaccctagtca-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-gagggcacacacaacaagg-3'(配列番号4)
Act beta:
フォワードプライマー:5'-ctaaggccaaccgtgaaaag-3'(配列番号5)
リバースプライマー:5'-accagaggcatacagggaca-3'(配列番号6)
結果を、内部標準遺伝子Act beta量で補正し、相対値(平均値±標準誤差)で表記した。*:比較例と比べて有意差あり(p<0.05)。
【0036】
表2に示されるように、グルコシルセラミド0.1%含有餌投与群(実施例)は比較例と比較して、骨格筋応答に関わる遺伝子発現に変動が認められた。神経細胞のニューロン接着や神経突起の束形成に関わるNcam1の遺伝子発現量、及び骨格筋アセチルコリン受容体であるChrndの遺伝子発現量の有意な上昇が認められたことから、グルコシルセラミドが筋力向上に寄与したと考えられる。
【0037】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、グルコシルセラミドを用いることにより、副作用等の問題が生じにくく、安全性の高い、筋力向上作用を有する組成物を提供することができる。老化促進モデルマウスを用いた実験により示されるように、本発明に係る組成物は、特に高齢者を中心としたヒトの筋力向上に非常に有用である。本発明によれば、高齢者におけるQOLの向上に繋がり得ることから、その産業的価値は大きい。
【配列表】