IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】スロットルグリップ装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 11/02 20060101AFI20220414BHJP
   B62K 23/04 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
F02D11/02 R
B62K23/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017239166
(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公開番号】P2019105244
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000213954
【氏名又は名称】朝日電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】大城 幸男
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 健生
(72)【発明者】
【氏名】田中 友基
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-182178(JP,A)
【文献】特開2010-280304(JP,A)
【文献】特開2004-339945(JP,A)
【文献】特開2010-195188(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0194049(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 11/00
B62K 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による回転操作が可能とされたスロットルグリップと、
前記スロットルグリップに連動して回転し得る連動部材と、
前記連動部材の回転角度を検出することにより前記スロットルグリップの回転角度を検出し得る回転角度検出手段と、
前記スロットルグリップの回転時に抵抗力を生じさせて回転負荷を生じさせ得る抵抗手段と、
を具備し、前記回転角度検出手段で検出された前記スロットルグリップの回転角度に応じて車両のエンジンを制御可能とされたスロットルグリップ装置であって、
前記抵抗手段は、前記スロットルグリップが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力より小さくし得るよう構成され、
前記抵抗手段は、
前記連動部材の周方向に亘って形成された摺動面に対して当接状態にて組み付けられた摺動部材と、
前記摺動部材に対して付勢力を付与して前記摺動面に押圧させるとともに、前記連動部材の回転に伴って摺動抵抗を生じさせ得る付勢手段と、
を具備するとともに、前記初期範囲に対応する前記摺動面の部位に凹部が形成され、前記摺動部材が前記凹部に位置する場合の方が前記摺動面の他の部位に位置する場合より、前記付勢手段の圧縮寸法が小さく設定され、且つ、前記スロットルグリップの回転初期において前記摺動部材が前記凹部から脱することにより節度が付与される構成とされたことを特徴とするスロットルグリップ装置。
【請求項2】
前記摺動部材は、前記凹部に形成された傾斜面と対応する傾斜面を有し、前記摺動部材の傾斜面と前記凹部の傾斜面とが合致しつつ摺動可能とされたことを特徴とする請求項1記載のスロットルグリップ装置。
【請求項3】
前記摺動面は、前記連動部材に一体形成されたフランジに形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のスロットルグリップ装置。
【請求項4】
前記抵抗手段は、前記初期範囲に亘り前記連動部材を初期位置から回転する方向に向かって押圧する押圧手段を具備したことを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載のスロットルグリップ装置。
【請求項5】
前記押圧手段は、前記連動部材の所定部位を付勢力にて押圧し得るバネから成ることを特徴とする請求項記載のスロットルグリップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットルグリップの回転操作に基づいて車両のエンジンが制御されるスロットルグリップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時の二輪車においては、スロットルグリップの回転角度をポテンショメータ等のスロットル開度センサにて検出し、その検出値を電気信号として当該二輪車が搭載する電子制御装置等に送るよう構成されたスロットルグリップ装置が普及されるに至っている。そして、かかる検出信号に基づき電子制御装置が所定の演算を行い、その演算結果に基づいてエンジンの点火時期、吸気バルブ若しくはスロットルバルブの開閉が制御されるようになっている。
【0003】
このようなスロットルグリップ装置においては、スロットル開度センサにてスロットルグリップの回動角を検出するので、スロットルグリップの回転操作をエンジン側に伝達するため汎用的に用いられてきた操作ケーブルが不要とされる。したがって、スロットルグリップの回転操作時において、従来、操作ケーブルを構成するアウタチューブに対してインナチューブが摺動して生じる摺動抵抗がなくなることとなり、スロットルグリップの回転操作時に運転者側に伝わる力は、リターンスプリングによる初期位置に戻す力のみとなってしまって違和感を生じてしまうという不具合がある。
【0004】
かかる不具合を解消すべく、従来技術として、特許文献1にて開示されているように、スロットルグリップの回転操作時、その回転方向とは逆向きの摩擦力を付与する摩擦板を備え、その摩擦板にて生じる摩擦力にて回転負荷を得るものが提案されている。このような従来のスロットルグリップ装置によれば、スロットルワイヤを廃止することができるとともに、運転者にとって違和感のないスロットルグリップの操作を行わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-252274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術においては、スロットルグリップを回転開始した直後(回転初期)においてリターンスプリング等の比較的大きなバネ荷重が生じることとなり、操作時に運転者が違和感を生じさせる原因ともなっていた。すなわち、スロットルグリップを回転開始した直後においては、スロットル開度センサ等の出力電圧が変化しない不感帯を設けていることが多いため、操作荷重を十分に感じつつエンジン出力が変化しない状態となってしまい、運転者に違和感を生じさせてしまうのである。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、スロットルグリップの回転初期における違和感を解消して操作性を向上させることができるスロットルグリップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、運転者による回転操作が可能とされたスロットルグリップと、前記スロットルグリップに連動して回転し得る連動部材と、前記連動部材の回転角度を検出することにより前記スロットルグリップの回転角度を検出し得る回転角度検出手段と、前記スロットルグリップの回転時に抵抗力を生じさせて回転負荷を生じさせ得る抵抗手段とを具備し、前記回転角度検出手段で検出された前記スロットルグリップの回転角度に応じて車両のエンジンを制御可能とされたスロットルグリップ装置であって、前記抵抗手段は、前記スロットルグリップが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力より小さくし得るよう構成され、前記抵抗手段は、前記連動部材の周方向に亘って形成された摺動面に対して当接状態にて組み付けられた摺動部材と、前記摺動部材に対して付勢力を付与して前記摺動面に押圧させるとともに、前記連動部材の回転に伴って摺動抵抗を生じさせ得る付勢手段とを具備するとともに、前記初期範囲に対応する前記摺動面の部位に凹部が形成され、前記摺動部材が前記凹部に位置する場合の方が前記摺動面の他の部位に位置する場合より、前記付勢手段の圧縮寸法が小さく設定され、且つ、前記スロットルグリップの回転初期において前記摺動部材が前記凹部から脱することにより節度が付与される構成とされたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のスロットルグリップ装置において、前記摺動部材は、前記凹部に形成された傾斜面と対応する傾斜面を有し、前記摺動部材の傾斜面と前記凹部の傾斜面とが合致しつつ摺動可能とされたことを特徴とする。
【0011】
請求項記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のスロットルグリップ装置において、前記摺動面は、前記連動部材に一体形成されたフランジに形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載のスロットルグリップ装置において、前記抵抗手段は、前記初期範囲に亘り前記連動部材を初期位置から回転する方向に向かって押圧する押圧手段を具備したことを特徴とする。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項記載のスロットルグリップ装置において、前記押圧手段は、前記連動部材の所定部位を付勢力にて押圧し得るバネから成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、抵抗手段は、スロットルグリップが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力とは異ならせ得るので、スロットルグリップの回転初期における抵抗力を任意に設定することができ、当該回転初期の違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0015】
また、抵抗手段は、スロットルグリップが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力より小さくし得るよう構成されたので、スロットルグリップの回転初期における抵抗力を任意に小さくして回転負荷を低減させることができ、当該回転初期の違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0016】
さらに、初期範囲に対応する摺動面の部位に凹部が形成され、摺動部材が凹部に位置する場合の方が摺動面の他の部位に位置する場合より、付勢手段の圧縮寸法が小さく設定されたので、スロットルグリップの回転初期に生じる摺動部材の摺動抵抗を小さくして全体の回転抵抗を小さくすることができ、スロットルグリップの回転初期における違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0017】
請求項の発明によれば、摺動面は、連動部材に一体形成されたフランジに形成されたので、スロットルグリップ及び連動部材の回転に伴って、摺動部材の摺動面に対する摺動を良好に追随させることができ、スロットルグリップの回転初期の抵抗力を確実に小さくすることができる。
【0018】
請求項の発明によれば、抵抗手段は、初期範囲に亘り連動部材を初期位置から回転する方向に向かって押圧する押圧手段を具備したので、スロットルグリップの回転初期における抵抗力を押圧手段によって任意に小さくすることができ、当該回転初期の違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0019】
請求項の発明によれば、押圧手段は、連動部材の所定部位を付勢力にて押圧し得るバネから成るので、スロットルグリップの回転初期における抵抗力をバネの付勢力によって円滑且つ良好に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係るスロットルグリップ装置が適用される車両のスロットルグリップ及びスイッチケースを示す側面図
図2】同スロットルグリップ装置におけるスロットルグリップ及び連動部材を示す側面
図3図2におけるIII-III線断面図
図4】同スロットルグリップ装置を示す斜視図
図5】同スロットルグリップ装置を示す3面図
図6図5におけるVI-VI線断面図
図7】同スロットルグリップ装置のケースを示す斜視図
図8】同スロットルグリップ装置の連動部材を示す斜視図
図9】同連動部材を示す3面図
図10】同連動部材に形成された凹部を示す側面図
図11】同スロットルグリップ装置におけるケースに、ねじりコイルバネ、回転部材及び抵抗手段としての摺動部材を取り付けた状態を示す正面図
図12】同スロットルグリップ装置におけるケースに、ねじりコイルバネ、回転部材、抵抗手段としての摺動部材及び連動部材を取り付けた状態を示す背面図
図13】同スロットルグリップ装置の抵抗手段(摺動部材)を示す斜視図
図14】同抵抗手段(摺動部材)を示す3面図
図15】同スロットルグリップ装置における抵抗手段の摺動部材を摺動面に対して押圧状態にて組み付けた状態(スロットルグリップが初期位置の状態)を示す模式図であって、(a)平面図(b)側面図
図16】同スロットルグリップ装置における抵抗手段の摺動部材を摺動面に対して押圧状態にて組み付けた状態(スロットルグリップが所定角度以上回転した状態)を示す模式図であって、(a)平面図(b)側面図
図17】同スロットルグリップ装置におけるスロットルグリップの操作角度と回転負荷(トルク)との関係を示すグラフ
図18】本発明の第2の実施形態に係るスロットルグリップ装置におけるケースに、ねじりコイルバネ、回転部材、抵抗手段としての摺動部材及び押圧手段を取り付けた状態を示す正面図
図19】同スロットルグリップ装置におけるケースに、ねじりコイルバネ、回転部材、抵抗手段としての摺動部材及び押圧手段、並びに連動部材を取り付けた状態を示す背面図
図20】同スロットルグリップ装置の抵抗手段(押圧手段)を示す斜視図
図21】同抵抗手段(押圧手段)を示す3面図
図22】同スロットルグリップ装置における抵抗手段の摺動部材を摺動面に対して押圧状態に組み付け、且つ、抵抗手段の押圧手段を連動部材に対して押圧状態にて組み付けた状態(スロットルグリップが初期位置の状態)を示す模式図であって、(a)平面図(b)側面図
図23】同スロットルグリップ装置における抵抗手段の摺動部材を摺動面に対して押圧状態に組み付け、且つ、抵抗手段の押圧手段を組み付けた状態(スロットルグリップが所定角度以上回転した状態)を示す模式図であって、(a)平面図(b)側面図
図24】同スロットルグリップ装置におけるスロットルグリップの操作角度と回転負荷(トルク)との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
第1の実施形態に係るスロットルグリップ装置は、図1に示すように、二輪車のハンドルバーHに取り付けられたスロットルグリップGの回転角度を検出し、その検出信号を二輪車が搭載するECU等電子制御装置に送るためのもので、図2~14に示すように、スロットルグリップGと、ケース1と、連動部材2と、ねじりコイルバネ3と、回転部材4と、磁気センサ5(回転角度検出手段)と、抵抗手段8とを有して構成されている。
【0022】
ケース1は、二輪車(車両)のハンドルバーHの先端側(スロットルグリップGの基端側)に取り付けられたスイッチケースS内(図1参照)に配設されたもので、本スロットルグリップ装置を構成する各種部品を収容するとともに、連動部材2及び回転部材4等を回転自在に保持するものである。なお、図1中符号Mは、スイッチケースSに形成されたスイッチノブを示しており、所望のスイッチノブMを操作することにより、二輪車に搭載された所望電装品を作動させ得るようになっている。また、符号7は、ケース1の開口側を塞ぐための蓋部材を示している。
【0023】
スロットルグリップGは、スイッチケースSから延設されるとともに、運転者が把持しつつ回転操作が可能とされたもので、図1の矢印に示すように、初期位置から軸回りに所定方向の回転操作が可能とされている。かかるスロットルグリップGの基端側には、図2に示すように、係合部Ga(図2参照)が形成されており、当該係合部Gaが連動部材2の嵌合溝2bに嵌合し得るようになっている。そして、係合部Gaが嵌合溝2bに嵌合されると、当該係合部Gaが有する溝形状Gaaが連動部材2に形成された凸状の被係合部2aに係合し、スロットルグリップGと連動部材2とが連結されるようになっている。
【0024】
連動部材2は、スロットルグリップGに形成された係合部Gaと係合し得る被係合部2aを有するとともに、当該スロットルグリップGの回転操作に連動して回転し得るものである。具体的には、本実施形態に係る連動部材2は、図8~10に示すように、一対の被係合部2aと、嵌合溝2bと、フランジ2cと、ギア2dとを有した円環状部材から成る。特に、本実施形態に係るフランジ2cには、後で詳述する摺動面nが形成されている。
【0025】
被係合部2aは、連動部材2の表面(ケース1に組み付けられた際、図4に示すように、外部に臨ませ得る一方の面)に形成されるようになっており、スロットルグリップGの係合部Gaを容易に嵌合させ得るよう構成されている。また、連動部材2には、周方向に亘ってフランジ2cが形成されており、その一部には、所定範囲に亘ってギア2dが形成されている。このギア2dは、図12に示すように、回転部材4の外周に形成されたギアと噛み合う状態で組み付けられており、連動部材2の回転に伴って回転部材4が回転するようになっている。
【0026】
回転部材4は、上述のように連動部材2と連動して回転し得るもので、ケース1の所定位置に収容されるとともに、軸L(図6及び図12参照)を中心として回転自在とされている。しかして、連動部材2が回転すると、その回転角度に応じた回転角度にて回転部材4が回転するようになっている。また、回転部材4には、磁石mが取り付けられており、当該回転部材4の回転に伴って磁石mから生じる磁力の方向が変化するよう構成されている。
【0027】
磁気センサ5(回転角度検出手段)は、図6に示すように、回転部材4の軸Lの延長線上の位置に配設されたセンサから成り、回転部材4に取り付けられた磁石mから生じる磁気の変化を検出することにより、スロットルグリップGの回転角度を検出可能とされている。具体的には、磁気センサ5は、磁石mの磁場変化(磁束密度の変化)に応じた出力電圧を得ることができるもので、例えばホール効果を利用した磁気センサであるホール素子(具体的には、磁石mの磁場(磁束密度)に比例した出力電圧を得ることができるリニアホールIC)等により構成されている。なお、本実施形態に係る磁気センサ5は、所定の電気回路が印刷されたプリント基板6に形成されている。
【0028】
しかして、スロットルグリップGが回転するのに伴って連動部材2が同方向に回転すると、回転部材4も連動してギア比に応じた角度だけ回転し、当該回転部材4に取り付けられた磁石mも同方向に同一角度だけ回転する。これにより、その回転角度によって磁場が変化するので、当該回転角度に応じた出力電圧を得ることができ、当該出力電圧に基づき連動部材2の回転角度(即ち、スロットルグリップGの回転角度)を検出することが可能とされている。このように検出されたスロットルグリップGの回転角度は、二輪車に搭載されたECU(エンジン・コントロール・ユニット)に対して電気信号として送信され、送信されたスロットルグリップGの回転角度に応じて車両のエンジンが制御され得るようになっている。
【0029】
ねじりコイルバネ3は、その一端3aが連動部材2の所定部位に係止されるとともに、他端3bがケース1の所定部位に係止されたリターンスプリングから成り、スロットルグリップGが回転したとき、同方向に回転した連動部材2を初期位置に向かって付勢し得るよう構成されている。すなわち、スロットルグリップGを回転操作すると、ねじりコイルバネ3の付勢力に抗して連動部材2が回転するので、その付勢力がスロットルグリップGに伝わり、スロットルグリップGを初期位置に戻す力が作用するのである。
【0030】
抵抗手段8は、スロットルグリップGの回転時に抵抗力を生じさせて回転負荷を生じさせ得るもので、本実施形態においては、図15、16に示すように、連動部材2の周方向に亘って形成された摺動面nに対して当接状態にて組み付けられた摺動部材9と、摺動部材9に対して付勢力を付与して摺動面nに押圧させるとともに、連動部材2の回転に伴って摺動抵抗を生じさせ得る付勢手段10とを具備して構成されている。本実施形態に係る摺動面nは、連動部材2に一体形成されたフランジ2cに形成されており、摺動部材9を摺動可能な寸法とされている。また、本実施形態に係る付勢手段10は、図15、16に示すように、付勢力によって摺動部材9を摺動面nに押圧し得る一対のコイルスプリングにて構成されている。
【0031】
摺動部材9は、図13、14に示すように、摺動面nに対して当接及び摺動可能な面9a(中央面9aa、傾斜面9ab及び傾斜面9acから成る面)が形成されるとともに、付勢手段10(コイルスプリング)を挿通して組み付け得る一対の突出部9bを有して構成されている。また、ケース1の所定位置には、収容凹部(不図示)が形成されており、かかる収容凹部に付勢手段10が収容されるとともに、その付勢手段10に対して突出部9bを挿通して摺動部材9が組み付けられた後、当該摺動部材9の面9aを摺動面nに当接させると、付勢手段10が圧縮して摺動部材9に付勢力を付与し得るようになっている。
【0032】
しかして、摺動部材9は、付勢手段10の付勢力を受けて摺動面nに対して押圧されているので、連動部材2が回転して面9aが摺動面nに沿って摺動すると、付勢力に応じた摺動抵抗が生じることとなる。これにより、スロットルグリップGを回転操作し、連動部材2が回転すると、摺動部材9による摺動抵抗が生じ、従来のスロットルワイヤを具備したものの如き回転負荷が生じるようになっている。
【0033】
ここで、本実施形態に係る抵抗手段8は、図17に示すように、スロットルグリップGが初期位置(0°)から所定角度(α°)回転するまでの初期範囲(X1)において生じる抵抗力を、当該所定角度(α°)より大きい回転角度の範囲(X2)において生じる抵抗力より小さくし得るよう構成されている。すなわち、スロットルグリップGの回転に応じてねじりコイルバネ3による付勢力が付与されつつ抵抗手段8による抵抗力が付与されるので、図17に示すように、初期範囲(X1)における回転負荷の増加傾向を範囲(X2)における回転負荷の増加傾向とは異ならせることができるのである。なお、図17で示すグラフにおいて、横軸がスロットルグリップGの回転角度、縦軸がスロットルグリップGの回転角度に対応する回転負荷(ねじりコイルバネ3の付勢力を含む全体の回転負荷(トルク))を示している。
【0034】
具体的には、図10に示すように、初期範囲(X1)に対応する摺動面nの部位に凹部Aが形成され、摺動部材9が凹部Aに位置する場合(図15参照)の方が摺動面nの他の部位に位置する場合(図16参照)より、付勢手段10の圧縮寸法が小さく設定されている。
【0035】
すなわち、本実施形態に係る摺動面nは、図10、15、16に示すように、付勢手段10の圧縮寸法を変化させる傾斜面(n1、n2)を有し、当該傾斜面(n1、n2)を摺動部材9が摺動可能とされるとともに、付勢手段10がケース1の収容凹部に収容され、その取り付け位置hが一定であることから、摺動部材9が傾斜面n1又は傾斜面n2を摺動することにより、付勢手段10の圧縮寸法を変化させることができ、傾斜面(n1、n2)を摺動した前後(初期範囲X1及び範囲X2の境界部前後)で付勢手段10の付勢力を変化させ得るようになっている。これにより、初期範囲(X1)において抵抗手段8にて生じる抵抗力を、範囲(X2)において抵抗手段8にて生じる抵抗力より小さく設定することができるのである。
【0036】
さらに、本実施形態に係る摺動部材9の面9aは、図13、14に示すように、略中央に形成された面9aaと、面9aaを挟んだ位置にそれぞれ形成され、傾斜面(n1、n2)と対応した傾斜面(9ab、9ac)とを有している。そして、摺動部材9が傾斜面(n1、n2)を摺動する際、当該傾斜面(n1、n2)と傾斜面(9ab、9ac)とが合致しつつ摺動可能とされている。これにより、スロットルグリップGの回転操作時、摺動部材9が傾斜面(13ab、13ac)を円滑に摺動することができ、任意の回転負荷を良好に生じさせることができる。
【0037】
例えば、スロットルグリップGを回転させた場合、初期位置にある連動部材2が同方向に回転することにより、摺動部材9が傾斜面n1を摺動して摺動面nの凹部Aから脱することとなる。しかして、摺動部材9が傾斜面n1を上り方向に摺動するため、付勢手段10が圧縮されて圧縮寸法が大きくなるので、凹部Aに位置する場合よりも摺動面nの他の部位に位置する場合の方が摺動部材9に付与される付勢力(摺動面nに対する押圧力)が大きくなる。 これにより、スロットルグリップGを回転操作させる過程において、初期範囲(X1)において抵抗手段8にて生じる抵抗力を、それ以降の範囲(X2)において抵抗手段8にて生じる抵抗力より小さくすることができる。
【0038】
本実施形態によれば、抵抗手段8は、スロットルグリップGが初期位置から所定角度(α°)回転するまでの初期範囲(X1)において生じる抵抗力を、当該所定角度(α°)より大きい回転角度の範囲(X2)において生じる抵抗力より小さくし得るので、スロットルグリップGの回転初期における回転負荷を任意に小さくして回転抵抗を低減することができ、当該回転初期の違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、初期範囲(X1)に対応する摺動面nの部位に凹部Aが形成され、摺動部材9が凹部Aに位置する場合の方が摺動面nの他の部位に位置する場合より、付勢手段10の圧縮寸法が小さく設定されたので、スロットルグリップGの回転初期に生じる摺動部材9の摺動抵抗を小さくして全体の回転抵抗を小さくすることができ、スロットルグリップGの回転初期における違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る摺動面nは、連動部材2に一体形成されたフランジ2cに形成されたので、スロットルグリップG及び連動部材2の回転に伴って、摺動部材9の摺動面nに対する摺動を良好に追随させることができ、スロットルグリップGの回転初期の抵抗力を確実に小さくすることができる。
【0041】
しかるに、傾斜面(n1、n2)の傾斜角度等は、ユーザの嗜好等に応じて任意に設定することができる。また、傾斜面(n1、n2)の傾斜角度を異ならせるようにしてもよい。しかして、スロットルグリップGの回転初期において、摺動部材9が凹部Aを脱する構成とされているので、スロットルグリップGを回転操作開始する際、当該スロットルグリップGに対して節度を付与することができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態に係るスロットルグリップ装置は、図1に示すように、二輪車のハンドルバーHに取り付けられたスロットルグリップGの回転角度を検出し、その検出信号を二輪車が搭載するECU等電子制御装置に送るためのもので、第1の実施形態と同様、スロットルグリップGと、ケース1と、連動部材2と、ねじりコイルバネ3と、回転部材4と、磁気センサ5(回転角度検出手段)と、抵抗手段8と、さらに別の抵抗手段11とを有して構成されている。なお、第1の実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0043】
抵抗手段11は、スロットルグリップGの回転時に抵抗力を生じさせて回転負荷を生じさせ得るもので、本実施形態においては、図18、19に示すように、初期範囲(X1)に亘り連動部材2を初期位置から回転する方向に向かって押圧する押圧手段12を具備している。本実施形態に係る押圧手段12は、図20、21に示すように、コイルバネから成り、その基端がケース13に固定されて構成されている。
【0044】
すなわち、図18、19に示すように、ケース13をケース1の収容凹部1bに固定して組み付けると、圧縮状態の押圧手段12の先端が連動部材2の押圧面fと当接し、当該押圧手段12の付勢力にて連動部材2を初期位置から回転する方向に向かって押圧し得るよう構成されている。かかる押圧手段12による連動部材2に対する押圧は、スロットルグリップGが初期位置(0°)から所定角度(α°)回転するまでの初期範囲(X1)に亘ってのみ行われるよう設定(例えばバネの初期圧縮量を設定)されており、スロットルグリップGが初期範囲(X1)にあるとき、図22に示すように、押圧手段12の押圧力がねじりコイルバネ3の付勢力に抗するとともに、当該スロットルグリップGが範囲(X2)にあるとき、図23に示すように、押圧手段12の押圧力が連動部材2に及ばない(バネが伸びきった状態)ようになっている。
【0045】
したがって、本実施形態に係る抵抗手段11は、図24に示すように、スロットルグリップGが初期位置(0°)から所定角度(α°)回転するまでの初期範囲(X1)において生じる抵抗力を、当該所定角度(α°)より大きい回転角度の範囲(X2)において生じる抵抗力より小さくすることができる。すなわち、スロットルグリップGの回転に応じてねじりコイルバネ3による付勢力が付与されつつ抵抗手段8、11による抵抗力が付与されるので、図24に示すように、初期範囲(X1)における回転負荷の増加傾向を範囲(X2)における回転負荷の増加傾向とは異ならせることができるのである。なお、図24で示すグラフにおいて、横軸がスロットルグリップGの回転角度、縦軸がスロットルグリップGの回転角度に対応する回転負荷(ねじりコイルバネ3の付勢力を含む全体の回転負荷(トルク))を示している。
【0046】
しかして、スロットルグリップGを回転させた場合、初期位置(0°)から所定角度(α°)回転するまでの初期範囲(X1)において、抵抗手段8による摺動抵抗が小さく設定される(第1の実施形態参照)とともに、抵抗手段12の押圧力によってねじりコイルバネ3の付勢力に抗することができるので、スロットルグリップGの回転初期における回転負荷を低減することができるのである。
【0047】
本実施形態によれば、抵抗手段11は、スロットルグリップGが初期位置から所定角度(α°)回転するまでの初期範囲(X1)において生じる抵抗力を、当該所定角度(α°)より大きい回転角度の範囲(X2)において生じる抵抗力より小さくし得るので、スロットルグリップGの回転初期における回転負荷を任意に小さくして回転抵抗を低減することができ、当該回転初期の違和感を解消して操作性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態に係る抵抗手段11は、初期範囲(X1)に亘り連動部材2を初期位置から回転する方向に向かって押圧する押圧手段12を具備したので、スロットルグリップGの回転初期における抵抗力を押圧手段12によって任意に小さくすることができ、当該回転初期の違和感を解消して操作性を向上させることができる。特に、本実施形態に係る押圧手段12は、連動部材2の所定部位を付勢力にて押圧し得るバネ(コイルバネ)から成るので、スロットルグリップGの回転初期における抵抗力をコイルバネの付勢力によって円滑且つ良好に小さくすることができる。
【0049】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば第1の実施形態及び第2の実施形態における付勢手段10、及び第2の実施形態における押圧手段12を他の汎用的な弾性体(捻りバネや板バネなど他の形態のバネ、又は樹脂やゴム等)としてもよい。また、上記第2の実施形態においては、押圧手段12を具備した抵抗手段11に加えて、第1の実施形態で説明した抵抗手段8を具備しているが、押圧手段12を具備した抵抗手段11のみ具備したものとしてもよい。
【0050】
しかるに、本実施形態においては、スロットルグリップGが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力より小さくし得るよう構成されているが、スロットルグリップGが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力とは異ならせるものであれば足り、例えば、スロットルグリップGが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力より大きくし得るものであってもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、一方向の回転操作が可能なスロットルグリップGとされているが、正回転及び逆回転の両方の回転操作が可能なスロットルグリップを有するものに適用してもよい。さらに、磁気センサ5に代えてスロットルグリップGの回転角度を検出し得る他のセンサ(磁気を使用しないセンサ等)としてもよい。なお、適用される車両は、本実施形態の如く二輪車に限定されるものではなく、ハンドルバーHを有した他の車両(例えばATVやスノーモービル等)に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
スロットルグリップが初期位置から所定角度回転するまでの初期範囲において生じる抵抗力を、当該所定角度より大きい回転角度の範囲において生じる抵抗力より小さくし得る抵抗手段を具備し、抵抗手段は、連動部材の周方向に亘って形成された摺動面に対して当接状態にて組み付けられた摺動部材と、摺動部材に対して付勢力を付与して摺動面に押圧させるとともに、連動部材の回転に伴って摺動抵抗を生じさせ得る付勢手段とを具備するとともに、初期範囲に対応する摺動面の部位に凹部が形成され、摺動部材が凹部に位置する場合の方が摺動面の他の部位に位置する場合より、付勢手段の圧縮寸法が小さく設定され、且つ、スロットルグリップの回転初期において摺動部材が凹部から脱することにより節度が付与される構成とされたスロットルグリップ装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ケース
2 連動部材
2a 被係合部
2b 嵌合溝
2c フランジ
2d ギア
3 ねじりコイルバネ(リターンスプリング)
3a 一端
3b 他端
4 回転部材
5 磁気センサ(回転角度検出手段)
6 プリント基板
7 蓋部材
8 抵抗手段
9 摺動部材
10 付勢手段
11 抵抗手段
12 押圧手段(コイルバネ)
13 ケース
n 摺動面
m 磁石
G スロットルグリップ
Ga 係合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24