(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】コンポスト化処理促進材及びコンポストの製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 17/20 20200101AFI20220414BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
C05F17/20 ZNA
C12N1/20 D
C12N1/20 F
(21)【出願番号】P 2018048367
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100118072
【氏名又は名称】醍醐 美知子
(72)【発明者】
【氏名】中崎 清彦
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 浩太
(72)【発明者】
【氏名】荒井 正英
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107141047(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106867545(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106365832(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106380240(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105130644(CN,A)
【文献】特開2007-245085(JP,A)
【文献】特開平08-026869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00 - 21/00
C05C 1/00 - 13/00
C05D 1/00 - 11/00
C05F 1/00 - 17/993
C05G 1/00 - 5/40
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
C02F 11/00 - 11/20
C12N 1/00 - 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を含むコンポスト化処理促進材と、コンポスト化処理の対象である有機物とを含有するコンポスト化処理用混合物を用意すること、
コンポスト化処理用混合物に対して、70℃以上の温度条件による一次発酵処理を行うこと、
を含
み、
前記コンポスト化処理促進材が、
サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)を、全菌数に対して16.4%~28.4%の存在比で含み、ゲオバチルス属細菌を、全菌数に対して6.4%~17.7%の存在比で含む、コンポストの製造方法。
【請求項2】
一次発酵処理中に、0.02L/分/kg~0.7L/分/kgコンポスト化処理用混合物の通気量で、コンポスト化処理用混合物に対して通気を行う請求項1記載のコンポストの製造方法。
【請求項3】
コンポスト化処理用混合物の含水率が40重量%~75重量%である請求項1又は請求項2記載のコンポストの製造方法。
【請求項4】
前記コンポスト化処理用混合物が、前記コンポスト化処理促進材と前記有機物とを、0.1:99.9~1:2の重量比で含有する請求項1~請求項3のいずれか1項記載のコンポストの製造方法。
【請求項5】
一次発酵処理後に、二次発酵処理を行うことを含む請求項1~請求項4のいずれか1項記載のコンポストの製造方法。
【請求項6】
サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)
を、全菌数に対して16.4%~28.4%の存在比で含み、ゲオバチルス属細
菌を、全菌数に対して
6.4%~17.7%の存在比で含むコンポスト化処理促進材。
【請求項7】
70℃~80℃の温度条件によるコンポスト化処理用である請求項
6記載のコンポスト化処理促進材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンポスト化処理促進材及びコンポストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、下水汚泥及び畜産排泄物等の有機性廃棄物は、適当な条件下でコンポスト化処理し、土壌還元することによってリサイクルが可能となるため、大量に発生する有機性廃棄物の有効利用の点から、効率のよい有機性廃棄物のコンポスト化処理に関心が高まっている。
有機性廃棄物を効率よく処理するには、できるだけ大量の有機物を微生物を用いて迅速に分解することが求められるが、限られたスペースでは、有機性廃棄物の、いわゆる積み山が高くなる。この状態で有機物の分解速度が高まれば、発熱によって必然的に積み山の内部が高温となる。有機性廃棄物のコンポスト化は微生物の有機物分解機能に依存していることから、高温になりすぎると微生物の活性が極端に低下することが知られている。このため、高温でも有機物の分解活性が高い微生物が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、10℃~85℃の広範囲で生育し、リグニン可溶化能と繊維素分解能を有する好熱性放線菌サーモアクチノミセス属と、40℃~80℃の温度で生育し、繊維素を発酵する好熱性繊維素分解菌クロストリジュウム・サーモセルムとの共生的混合培養物を有効主成分とする屎尿、糞尿、家畜糞の消臭発酵剤が単に開示されている。この脱臭剤は、タンパク質等の含窒素化合物の分解・コンポスト化過程において悪臭の発生を押さえ込むことができると単に記載されている。
【0004】
特許文献2には、好気性好熱菌を有機性廃棄物に導入して有機性廃棄物を好気条件下で発酵を行うことを含む、好気発酵により有機性廃棄物から高カロリー発酵物を製造する方法が単に開示されている。また特許文献2では、発酵温度は60~80℃とされており、好気性好熱菌は、バチルス属細菌、サーマス属細菌、アクチノマイセテス属放線菌からなる群から選択された少なくとも1種類の細菌を含むと単に記載されている。
【0005】
特許文献3には、好熱菌サーマス・サーモフィリスUTM802とこれを用いたコンポスト化が単に記載されている。サーマス・サーモフィリスUTM802は60~80℃の高温発酵で有機物を有効に分解して、コンポスト化すると単に記載されている。
【0006】
特許文献4には、家畜家禽糞便の腐熟を湿熱予備処理によって促進させるコンポスト化方法が単に開示されている。特許文献4に記載のコンポスト化方法では、水分含有量を50~70%に調整した後に、原料を80~95℃に加熱して、湿熱予備処理を1~4時間行ってから、約50℃に冷却させ、その後に、有機材料腐熟剤が接種される。ここで有機材料腐熟剤は、ウレイバチルス・サーモスフェリカス(Ureibacillus thermosphaericus)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ロドサーマス・マリナス(Rhodothermus marinus)及びサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)を含むと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-141058号公報
【文献】国際公開第2012/093529号パンフレット
【文献】中国特許第102851246号明細書
【文献】中国特許第107141047号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、迅速なコンポスト化に寄与する微生物の活動については不明な点も多く、これまでの技術でもまだ改善の余地がある。
本開示の目的は、大量の有機性廃棄物を効率よくコンポスト化可能なコンポスト化処理促進材と、高い効率で大量にコンポストを製造することができるコンポストの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は以下の態様を含む。
[1] サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を含むコンポスト化処理促進材と、コンポスト化処理の対象である有機物とを含有するコンポスト化処理用混合物を用意すること、コンポスト化処理用混合物に対して、70℃以上の温度条件による一次発酵処理を行うこと、を含むコンポストの製造方法。
[2] 一次発酵処理中に、0.02L/分/kg~0.7L/分/kgコンポスト化処理用混合物の通気量で、コンポスト化処理用混合物に対して通気を行う[1]に記載のコンポストの製造方法。
[3] コンポスト化処理用混合物の含水率が40重量%~75重量%である[1]又は[2]に記載のコンポストの製造方法。
[4] 前記コンポスト化処理用混合物が、前記コンポスト化処理促進材と前記有機物とを、0.1:99.9~1:2の重量比で含有する[1]~[3]のいずれか1に記載のコンポストの製造方法。
[5] 一次発酵処理後に、二次発酵処理を行うことを含む[1]~[4]のいずれか1に記載のコンポストの製造方法。
[6] サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)とゲオバチルス属細菌とを、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含むコンポスト化処理促進材。
[7] サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、存在比基準で、1:10~10:1の比率で含む[6]に記載のコンポスト化処理促進材。
[8] サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を、全菌数に対してそれぞれ3%以上の存在比で含む、[6]又は[7]に記載のコンポスト化処理促進材。
[9] 70℃~80℃の温度条件によるコンポスト化処理用である[6]~[8]のいずれか1に記載のコンポスト化処理促進材。
[10] サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を、全菌数に対してそれぞれ少なくとも10%以上の存在比で含む、コンポスト。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、大量の有機性廃棄物を効率よくコンポスト化可能なコンポスト促進材と、高い効率で大量にコンポストを製造することができるコンポストの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例にかかる各試料のコンポスト化処理促進効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示によるコンポストの製造方法は、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を含むコンポスト化処理促進材と、コンポスト化処理の対象である有機物とを含有するコンポスト化処理用混合物を用意すること、コンポスト化処理用混合物に対して、70℃以上の温度条件による一次発酵処理を行うこと、を含むコンポストの製造方法である。
本開示によるコンポスト化処理促進材は、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)とゲオバチルス属細菌とを、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含むコンポスト化処理促進材である。
本開示によれば、大量の有機性廃棄物を効率よくコンポスト化可能なコンポスト促進材を用いて、高い効率で大量にコンポストを製造することができる。
【0013】
これを更に説明すれば、大量の有機性廃棄物を効率よくコンポスト化するには、単位面積あたりの処理可能な有機物の量を高めることが有効であるが、この場合には、微生物の発酵によって70℃以上の高温になることが知られている。このため、この目的には、70℃以上の高温で活性を有する微生物、例えば、サーマス・サーモフィラスが用いられる。
本開示は、有機物分解活性がそれほど高くないゲオバチルス属細菌が、サーマス・サーモフィラスと併存することによって、サーマス・サーモフィラスの高温での有機物分解活性を高める能力を有するという知見に基づく。すなわち、サーマス・サーモフィラスに、ゲオバチルス属細菌を組み合わせることによって、サーマス・サーモフィラスの有機物分解能力を格段に高めることができる。この結果、サーマス・サーモフィラス単独では充分とは言えないコンポスト化処理効率を飛躍的に高めて、大量の有機性廃棄物をよりいっそう効率よくコンポスト化することができる。
【0014】
本明細書において「コンポスト」とは、有機性廃棄物を腐熟させることによって得られる堆肥を意味する。本明細書において「コンポスト化」とは、有機性廃棄物中の有機物を微生物の作用により分解処理し、農耕地への施用に適した状態に変化させる工程を意味する。本明細書において「コンポスト化処理」とは、一般に、適当な通気及び撹拌条件下に有機物を、所定期間、貯留して、微生物によって発酵させることをいう。本明細書において「コンポスト」との語は、腐熟の進行に伴って有機物が完全に分解した完熟状態のものだけでなく、未熟状態のものを指す場合にも用いる。本明細書において「高温コンポスト化処理」とは、70℃以上の温度条件による一次発酵処理を意味する。
【0015】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において、混合物中の各成分の量又は含有率は、混合物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、混合物中に存在する当該複数の物質の合計の量又は含有率を意味する。本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り0%、即ち「含有しない」場合を含み、又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。
【0016】
本開示の一態様によるコンポスト製造方法は、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を含むコンポスト化処理促進材と、コンポスト化処理の対象である有機物とを含有するコンポスト化処理用混合物を用意すること(以下、原料用意工程と称する場合がある)、コンポスト化処理用混合物に対して、70℃以上の温度条件による一次発酵処理を行うこと(以下、一次発酵処理工程と称する場合がある)とを含み、必要に応じて、他の工程を含む。
【0017】
原料用意工程では、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)とゲオバチルス属細菌とを含むコンポスト化処理促進材と、コンポスト化処理の対象である有機物とを含有するコンポスト化処理用混合物が用意される。コンポスト化処理用混合物は、コンポスト化処理の原料として用いられる。
【0018】
コンポスト化処理の対象である有機物としては、食品廃棄物、汚泥、畜産廃棄物、木質廃棄物等を挙げることができ、生ゴミ、食品加工残渣、油粕、野菜くず、魚粉、屎尿汚泥、下水汚泥、鶏糞、牛糞、豚糞、おがくず、木片、落ち葉等が一般に用いられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。本明細書においてコンポスト化処理の対象である有機物を、有機性廃棄物と称する場合がある。
【0019】
原料用意工程において用いられるコンポスト化処理促進材は、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)とゲオバチルス属細菌とを含む。コンポスト化処理促進材は、これらの微生物のみで構成されていてもよく、高温コンポスト化処理の効率化が損なわれない範囲で、他の微生物も含む微生物叢で構成されていてもよい。
【0020】
サーマス・サーモフィラスは、好気性のグラム陰性菌であり、高度好熱菌と知られている。
ゲオバチルス属細菌は、バチルス属から再分類されたグラム陽性桿菌である。ゲオバチルス属細菌であれば、特に制限はなく、サーマス・サーモフィラスと組み合わせることができる。ゲオバチルス属細菌としては、例えば、ゲオバチルス・アナトリカス(Geobacillus anatolicus)、ゲオバチルス・カウエ(Geobacillus kaue)、ゲオバチルス・カルドプロテオリティカス(Geobacillus caldoproteolyticus)、ゲオバチルス・カルドキシロシリティカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)、ゲオバチルス・デビリス(Geobacillus debilis )、ゲオバチルス・ガーゲンシス(Geobacillus gargensis)、ゲオバチルス・コーストフィラス(Geobacillus kaustophilus)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophilus)、ゲオバチルス・サーモカテニュロータス(Geobacillus thermocatenulatus )、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ゲオバチルス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius )、ゲオバチルス・サーモレオボランス(Geobacillus thermoleovorans)、ゲオバチルス・ウラリカス(Geobacillus uralicus)、ゲオバチルス・ウゼネンシス(Geobacillus uzenensis )、ゲオバチルス・バルカニ(Geobacillus vulcani)などを挙げることができる。
【0021】
コンポスト化処理促進材がサーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌を「含む」、又はコンポスト化処理促進材においてこれらの細菌が「存在する」とは、それぞれの細菌が分解活性に寄与するために有効な存在量でコンポスト化処理促進材中に存在していることを意味する。分解活性に寄与するために有効な存在量とは、次世代シーケンス(Next Generation Sequence:NGS)解析を用いた測定方法で、細菌の存在度(存在比)が、コンポスト化処理促進材における全菌数に対して3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、又は10%以上であることを意味する。
【0022】
コンポスト化処理促進材は、サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、コンポスト化の処理効率の観点から、それぞれの存在比基準で、1:10~10:1、1:5~5:1、又は1:2~2:1の比率で含むことができる。
【0023】
本開示の一態様では、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)とゲオバチルス属細菌とを、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含むコンポスト化処理促進材が提供される。サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌との合計存在比が、全菌数に対して25%以上、すなわち、全菌数の1/4以上で含むコンポスト化処理促進材は、コンポスト化処理効率がより高い。本開示において、サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含むコンポスト化処理促進材は、高温コンポスト化処理に使用可能なコンポスト化処理促進材であり、特に「高温コンポスト化処理促進材」と称する場合がある。本開示における高温コンポスト化処理促進材は、より効率よく高温コンポスト化処理を行うために良好に使用することができ、また、良好な種菌として利用することができる。
【0024】
コンポスト化処理について「高温」とは、通常のコンポスト化処理において所定期間連続的に適用される温度よりも高い温度を意味し、70℃付近以上、すなわち65℃~75℃の範囲の温度帯と、これよりも高い温度帯とを含む範囲を意味する。
高温コンポスト化処理促進材を用いてコンポスト化処理を行う場合、一次発酵処理工程における温度は、70℃未満であってもよく、例えば、65℃以上、又は68℃以上であってもよい。高温コンポスト化処理促進材は、70℃以上の温度条件による一次発酵処理用のものであることが好ましく、70℃~85℃、又は70℃~80℃の温度条件によるコンポスト化処理用であることが更に好ましい。
【0025】
高温コンポスト化処理促進材におけるサーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌との合計の存在比は、コンポスト化処理効率の観点から、28%以上、30%以上、32%以上、33%以上、又は34%以上とすることができる。この場合、サーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌は、それぞれ3%以上の存在比で高温コンポスト化処理促進材に含まれることができ、それぞれが独立して、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、又は10%以上の存在比で、高温コンポスト化処理促進材に含まれていてもよい。
【0026】
高温コンポスト化処理促進材は、サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、存在比基準で、1:10~10:1、1:5~5:1、又は1:2~2:1の比率で含むことができる。
【0027】
コンポスト化処理効率の観点から、本開示の態様は、以下の高温コンポスト化処理促進材を提供することができる:
(1)サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、それぞれ独立して3%以上の存在比であり、また、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含む;
(2)サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、存在比基準で1:10~10:1で、かつ、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含む;又は、
(3)サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とを、それぞれ独立して3%以上の存在比であって存在比基準で1:10~10:1であり、かつ、全菌数に対して合計で25%以上の存在比で含む。
【0028】
上記(1)~(3)の高温コンポスト化処理促進材において、それぞれの存在比は、独立して、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、又は10%以上とすることができる。
上記(1)~(3)の高温コンポスト化処理促進材において、存在比基準による比率は、1:5~5:1、又は1:2~2:1とすることができる。
上記(1)~(3)の高温コンポスト化処理促進材において、全菌数に対して合計の存在比は、28%以上、30%以上、32%以上、33%以上、又は34%以上とすることができる。
以下、特に断らない限り「コンポスト化処理促進材」について説明する事項は、「高温コンポスト化処理促進材」についても適用される。
【0029】
コンポスト化処理促進材には、サーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌による高温コンポスト化処理の効率化が損なわれない範囲で、サーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌以外の有機物分解性の微生物が含まれていてもよい。コンポスト化処理促進材が含有し得る他の微生物としては、例えば、バチルス属細菌に属するバチルス・サーモクロアカエ(Bacillus thermocloacae)、バチルス・スファエリカス(Bacillus sphaericus)、及びバチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis);サーモアクチノミセス属放線菌に属するサーモアクチノミセス・ブルガリス(Thermoactinomyces vulgaris);サーモビフィダ属放線菌に属するサーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)等を挙げることができる。なかでも、至適生育温度が、60℃以上、65℃以上、又は70℃以上となる微生物は、コンポスト化処理に寄与することが予測できるためにコンポスト化処理促進材は、これらの微生物を含むことができる。
【0030】
コンポスト化処理促進材は、コンポスト化処理効率の観点から、コンポスト化処理に寄与することが期待できない微生物を、含まない又は、含む場合でもごく少量であることが好ましい。このようなコンポスト化処理に寄与することが期待できない微生物は、高温コンポスト化処理の期間において増殖活性を有すると、サーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌と栄養源の摂取の観点で競合となり得る。
このような高温コンポスト化処理に寄与することが期待できない微生物としては、高温で増殖活性を有し且つ有機物分解活性を有しない微生物、例えば60℃以上、65℃以上又は70℃以上で有機物分解活性を有しない微生物を挙げることができる。本明細書では、高温で増殖活性を有し且つ有機物分解活性を有しない微生物を「高温非活性菌」と称する場合がある。コンポスト化処理促進材に含まれない菌としては、例えば、ウレイバチルス(Ureibacillus)属JD5株、ウレイバチルス属YWX5株;ロドサーマス・マリナス(Rhodothermus marinus)、サーモデルフォバクテリウム・コムネ(Thermodesulfobacterium commune)、サーモトガ・マリチマ(Thermotoga maritima)、アキフェクス・ピロフィラス(Aquifex pyrophilus)、サーモコッカス・バロフィラス(Thermococcus barophilus)、及びピロコッカス・ホリコシイ(Pyrococcus horikoshii)が挙げられる。
【0031】
ここで、「微生物を含まない」とは、NGS解析による測定方法で存在比が、全菌数に対して1%以下、又は検出不可、あるいはコンポスト化の過程で増殖しないことを意味する。
【0032】
本開示の一態様において、コンポスト化処理促進材は、高温で増殖しない、すなわちサーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌と競合せず、かつ、高温で分解活性を有しない微生物を含むことができる。
【0033】
コンポスト化処理促進材には、微生物の生育を阻害しない範囲で他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、コンポスト用に使用可能な担体、吸着剤、包括剤、凝集剤等を挙げることができる。担体としては、例えば、おがくず、稲わら、麦わら、籾殻、木材チップ、生分解性ポリマーの他、パーライト、バーミキュライト、ゼオライト、珪藻土、鹿沼土又はこれらの組み合わせ、タルク、クレー、炭酸カルシウム又はこれらの組み合わせのような鉱物性粉末、ポリビニルアルコールなどの高分子化合物、ザンタンゴム、アルギン酸又はこれらの組み合わせのような天然高分子化合物などが包含される。
【0034】
コンポスト化処理用混合物は、コンポスト化処理促進材及び有機性廃棄物の組み合わせに加えて、他の成分を含むことができる。
コンポスト化処理用混合物に含まれ得る他の成分としては、水分調整用副資材、pH調整剤、通気性改良材、C/N調整材を挙げることができる。
【0035】
水分調整用副資材は、コンポスト化処理用混合物の水分量を調整するために配合される有機物であり、おがくず、木材チップ等を挙げることができる。
pH調整剤としては、硫酸、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。
通気性改良材としては、おがくず、木材チップ、バーミキュライト、生分解ポリマープラスチック片、剪定枝等を挙げることができる。なお通気性改良材は水分調整用副資材としても存在することができる。
【0036】
コンポスト化処理用混合物は、コンポスト化処理促進材及び有機性廃棄物を含んでいればよく、特に制限はない。効率の観点から、コンポスト化処理用混合物は、コンポスト化処理促進材と有機性廃棄物とを、0.1:99.9~1:2、1:99~1:5、又は5:95~10:90の重量比で含むことができる。
【0037】
コンポスト化処理用混合物は、コンポスト化処理促進材と有機物とを混合して得られるものであってもよく、コンポスト化処理促進材及び有機物との混合物として提供されたものであってもよい。コンポスト化処理用混合物を、コンポスト化処理促進材と有機物とを混合して得る場合には、上述した存在比となるように混合比を決定し、決定された混合比に基づいてコンポスト化処理促進材と有機物とを混合することができる。
【0038】
一次発酵処理工程では、コンポスト化処理用混合物に対して、70℃以上の温度条件による一次発酵処理が行われる。一次発酵処理とは、比較的分解しやすい有機物、例えば炭水化物、タンパク質、脂質、結晶性の低いセルロースなどを分解する処理を意味する。本開示による一次発酵処理工程では、70℃以上の温度条件で行うことによって、このような有機物は、サーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌を含むコンポスト化処理促進材中の微生物によって効率よく分解される。70℃以上の温度条件での一次発酵とすることにより、大量の有機性廃棄物の迅速処理が可能であり、省スペース、処理の省エネルギー化、処理の迅速化、病原菌の不活性化又は排除などの利点が得られる。本明細書では、コンポスト化処理開始後のコンポスト化処理用混合物を、単に、「コンポスト化処理物」と称する場合がある。
【0039】
コンポスト化処理用混合物の一次発酵は、処理効率の観点から、比較的大規模な発酵槽を有する装置を用いて行うことが好ましい。例えば、高さ1.5~1.8m、幅2~6m、長さ50~100mの装置を用いることができるが、これに制限されない。また、一次発酵用の装置は、処理効率の観点から、処理物を攪拌するための攪拌機を備えていることが好ましい。攪拌機を作動させることによって、いわゆる「切り返し」を行うことができ、これにより、好気性微生物による発酵処理の処理効率を上げることができる。
【0040】
一次発酵処理における処理温度は、70℃以上であればよく、又は75℃以上とすることができ、かつ、80℃以下、又は85℃以下とすることができ、例えば、70℃~85℃、又は70℃~80℃とすることができる。本明細書における「処理温度」とは、室温から処理を開始した後に、微生物の発酵によって達成される高温域の温度を意味し、一次発酵工程初期において室温から70℃未満となる時期を排除する意味ではない。一次発酵処理における処理温度は、コンポスト化処理物の温度とすることができ、具体的には発酵槽に収容されているコンポスト化処理物の内部の温度としては、例えば、バイメタル式温度計(石原温度計製作所 15D)を用いた測定により得た温度とする。
【0041】
一次発酵処理工程は、処理温度70℃に達する前に、コンポスト化処理用混合物又はコンポスト化処理物の温度を70℃に昇温する昇温工程を含むことができる。昇温速度は、用いる発酵装置の大きさ及び構造、コンポスト化処理促進材、コンポスト化処理用混合物又はコンポスト化処理物中の微生物の状態等によって適宜変更することができ、当業者であれば適宜調整できる。上述したような比較的大規模な発酵槽を有する装置(以下、本明細書では大型装置と称する場合がある)を用いる場合、処理効率の観点から、例えば0.2℃/時~2℃/時とすることができる。同様に、大型装置よりも小型のミニリアクターでは、処理効率の観点から、例えば、1℃/時~4℃/時とすることができる。
【0042】
一次発酵処理開始後のコンポスト化処理用混合物の含水率としては、コンポスト化処理促進材によるコンポスト化処理を損なわない範囲であればよく、処理の効率化の観点から、下限値として40重量%以上、50重量%以上、又は55重量%以上とすることができ、上限値として65重量%以下、70重量%以下、又は75重量%以下とすることができる。コンポスト化処理用混合物又はコンポスト化処理物の含水率は、例えば、40重量%~75重量%、50重量%~70重量%、又は55重量%~65重量%とすることができる。コンポスト化処理用混合物又はコンポスト化処理物の含水率は、堆肥用水分計を用いて測定した値をそのまま採用すればよい。
【0043】
一次発酵処理工程におけるコンポスト化処理用混合物のpHとしては、コンポスト化処理促進材によるコンポスト化処理を損なわない範囲であればよく、処理の効率化の観点から、pH5.0~8.5、pH6.0~7.5、又はpH6.5~7.0とすることができる。
【0044】
一次発酵処理工程では、コンポスト化処理促進材中の微生物の活性、発酵効率等の観点から、コンポスト化処理物に対して通気させることができる。一次発酵処理における通気量は、発酵装置の大きさ等によって異なるが、例えば、発酵効率等の観点から0.02L/分/kg~0.7/分/kg、0.04L/分/kg~0.7L/分/kg、0.1L/分/kg~0.6L/分/kg、又は0.2L/分/kg~0.5L/分/kgの範囲から適宜選択することができる。大型装置を用いる場合、処理効率の観点から、例えば、0.02L/分/kg~0.4L/分/kg、0.04L/分/kg~0.4L/分/kg、0.05L/分/kg~0.3L/分/kg又は0.1L/分/kg~0.3L/分/kgとすることができる。小型のミニリアクターの場合、処理効率の観点から、例えば、0.3L/分/kg~0.7L/分/kg、0.3L/分/kg~0.6L/分/kg、又は0.4L/分/kg~0.5L/分/kgとすることができる。通気量は大型装置の場合にはブロワーのカタログ値を参照すればよく、ミニリアクターの場合にはマスフローメータ等で測定した値とすることができる。
【0045】
一次発酵処理工程では、コンポスト化処理用混合物の過剰な乾燥、過剰な高温、含水率の低下などを回避するために、処理中のコンポスト化処理用混合物に対して散水を行うことができる。
【0046】
一次発酵工程の期間は、処理効率を損なわない範囲で設定可能であり、処理効率の観点から、20日以上、25日以上、又は30日以上とすることができる。一次発酵処理は、活発な有機物分解が終了した時点で終了とすることができ、一般に、35日以下、40日以下、又は45日以下とすることができる。一次発酵工程において70℃以上の温度条件が維持される期間としては、10日以上、20日以上、又は30日以上とすることができる。これにより、効率よく一次発酵を行い、大量の有機性廃棄物を効率よくコンポスト化することができる。一次発酵工程は、70℃以上の温度条件による一次発酵処理が実施される限り、70℃未満の温度となる期間を含むことができる。
ただし発酵の状況に応じて、上述した期間以外も適用可能であり、例えば一次発酵工程が20日未満であってもよい。
【0047】
本開示の一態様によれば、コンポストの製造方法は、一次発酵処理後に二次発酵を行うこと、すなわち二次発酵処理工程を含むことができる。二次発酵処理とは、一次発酵処理で分解されなかった難分解性の高分子有機物、例えば、結晶性の高いセルロース、リグニン等を分解する処理を意味する。
二次発酵処理については、特に制限はなく、コンポスト化処理において通常行われる条件をそのまま適用することができる。例えば、温度50℃~室温(20~25℃)、pH6~8、処理物の含水率40重量%~10重量%とすることができる。
【0048】
本コンポストの製造方法によって得られるコンポストは、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)及びゲオバチルス属細菌を、それぞれ、全菌数に対する存在比として少なくとも10%以上含む。全菌数に対するサーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌のそれぞれの存在量は、上述したように、NGS解析によって評価することができる。
【0049】
本開示の一態様によるコンポスト化処理促進材は、単独で、又は他のコンポストの種菌と混合して、コンポスト化処理の種菌として使用することができる。
本開示の一態様によるコンポストは、腐熟度が高く良質の堆肥として使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本開示を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」又は「%」は重量基準である。
【0051】
[実施例1]
<高温活性微生物によるコンポスト化>
(1)有機性廃棄物原料の調製
業種の異なる複数の食品加工工場で発生する食品加工残渣と排水処理汚泥の混合物を原料とし、伐採木から製造した木材チップを水分調整用の副資材としてコンポスト原料に混合した。木材チップはコンポスト化の過程で完全には分解しないので、製品から篩い分けして、次のコンポスト原料に混ぜ合わせる副資材として用いた。混合割合は、原料に対して体積比で1:1から1:1.5とし、混合後の目標水分が65重量%となるようにした。原料の混合はホイールローダーで実施した。
【0052】
(2)コンポスト化装置と操作
発酵装置は自走式攪拌装置を備えた横型で、大きさ3m×50m×2mのものを用いた。上述したコンポスト原料をホイールローダーで発酵装置内に投入した。発酵装置内のコンポスト化処理物は一日に一度、自走式切り返し装置により入口から出口まで攪拌及び移送する。一回の切り返しは、二時間半を要する。コンポスト化処理物の過乾燥及び高温を解消するなど、必要に応じて散水も行った。切り返しに伴って、発酵装置入口部にスペースができるので新しいコンポスト原料を投入した。
発酵装置においてコンポスト原料は、入口から出口まで25日かけて移動する。コンポストサンプルは、装置長さ方向5箇所で採取した。それぞれのサンプルが採取されるまでの装置内での経過日数は、原料が投入されてからのそれぞれ、5日目、9日目、13日目、17日目、21日目に対応し、それぞれのサンプルをG-1~G-5とした。サンプルは堆積物表面から70cmの深さのところから採取した。
通気のためのパイプは直径10cmであり、発酵層長さ方向約2.5m間隔で発酵層底面に埋設した。ブロアには(株)アントレット製のルーツブロワを用い、通気速度は0.044L/分/kgコンポスト化処理物で一定とした。
【0053】
発酵装置内のサンプリング位置における堆積層70cm深さにおける水分、温度、酸素濃度を一日に一度測定した。含水率については、発酵層の70cm深さに、堆肥用水分計((株)竹村電機製作所、M432-1400G)を挿入して測定した。また、温度は、バイメタル式温度計((有)石原温度計製作所、15D)を挿入して測定した。なお、酸素濃度については、コンポストサンプル採取時に測定用プローブを70cm深さに挿入し、吸気した後、酸素濃度計(理研計器(株)、ポータブルガスモニターGX-8000 TYPEO2)に導いて定量した。
【0054】
(3)コンポスト化の確認
採取したコンポストサンプルに蒸留水を重量比で1:10(コンポストサンプル:蒸留水)となるように添加し、十分に攪拌して均一な懸濁液にした。懸濁液を静置し上澄みのpHをpHメータで測定した。また、同時に電気伝導度を、電気伝導度計(HORIBA COND METER ES-71)で測定した。
コンポストの質的な変化は発芽インデックス(GI)により定量した。発芽インデックスの測定はZucconiらの方法に準拠した(Zucconi, F., Forte, M., Monoaco, A., deBertoldi, M., Biological evaluation of compost maturity, BioCycle, July/August, 27-29 (1981))。コンポストサンプル10gに100mlの蒸留水を加え、攪拌の後、ろ紙にてろ過し、ろ液2.5mlをシャーレに入れて、12粒の小松菜の種子を播種した。実験は3連で行った。27℃、暗条件で5日間栽培した後に、発芽個体数を計数し、発芽根の長さを計測した。比較のために蒸留水を用いた実験を行い、Zucconiらの提案による数式で発芽インデックス(GI)を計算した。
上記で得られた大型実用規模のコンポスト化における、層内温度、酸素濃度、pH、水分、EC(電気伝導度)、及びGIの経時変化を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1に示されるように、温度は、コンポスト化5日経過後までに60℃に達し、その後70℃付近以上の高温をコンポスト化終了まで維持した。酸素濃度については、コンポスト化5日経過後にほとんど残存する酸素がなくなり、一時的に酸素が不足する状態になったが、その後は酸素濃度が上昇し、十分な好気条件が保たれていたことがわかる。
pHについては、コンポスト化13日を除いて弱酸性から中性付近のコンポスト微生物の活性に適した値に維持されていた。水分については、コンポスト化初期に含水率70%以上とやや高めになっているが、その後低下して65%程度の値に収束しており、微生物の活性を高く保つのに適した水分値であったことがわかる。ECは、2から一旦増加し3.5付近の値となるが、コンポスト化進行とともに再び低下して、1.5付近の値となった。
【0057】
原料中のEC値が低いことによって、原料中の食塩濃度が低いコンポスト化に適した原料であったことがわかる。発芽インデックスはコンポスト化中期以降には100%付近の値となった。発芽インデックスは、未熟コンポストによる植物生育への障害を検定するものである。発芽インデックスの値が大きいときには阻害が小さい、そして100%であることは、阻害の程度が蒸留水とほとんど変わらない、すなわち、未熟コンポストによる阻害がないことを示している。
以上の結果は、70℃以上のコンポスト化処理物に高温活性微生物群が存在しており、これらの微生物群によって、大型実用規模のコンポスト化においても良好なコンポスト化が実施できることを裏付けている。
【0058】
[実施例2]
<高温活性微生物の確認>
(1)コンポストサンプル中の微生物のNGS解析
コンポスト化開始から、5日目、9日目、13日目、17日目及び21日目の処理物をそれぞれG-1~G-5として採取し、コンポストサンプルとした(表1参照)。
採取されたコンポストサンプル0.2gからDNA抽出キット「Isoil for Beads Beating」((株)ニッポンジーン)を用いてDNAを抽出した。抽出されたバクテリアのDNAについて、その16S rRNAの一部(V3、V4領域)を含む領域を用いてPCRで増幅した。PCR増幅に用いた試薬は2.5μLの10×EX Taq buffer(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)、2μLの2.5mM dNTPs(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)、0.625UのTakaRa EX TaqTM HS (RR006A,Takara Bio Inc., Otsu, Japan)、0.2μMとなるプライマーF(配列番号1)及びプライマーR(配列番号2)と、1μLのテンプレートとを、全量が25μLとなるように超純水中で混合した。プライマーF及びRの配列と増幅条件をそれぞれ表2にて示す。PCR増幅にはTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標)Standard(TP600,タカラバイオ(株))を用いた。PCRにより目的配列が増幅されたことを確認するために、PCR増幅物を1.0×Tris-borate-EDTA(TBE)アガロースゲル(寒天濃度2重量%)を用いて電気泳動した。
【0059】
【0060】
引き続いて、増幅したPCR産物をAMPure XP bead((株)ベックマン・コールスター)を用いて、サンプル内に含まれる不純物を取り除いた。精製したPCR産物に対して、Nextera XT Index kit(Illumina, USA)インデックスプライマーをライゲーションさせた(表3参照)。PCR増幅に用いた試薬は5μLの10×EX Taq buffer(Takara Bio Inc., Otsu, Japan)、4μLの2.5mM dNTPs(Takara Bio Inc., Otsu, Japan,)、1.25UのTakaRa EX TaqTM HS (RR006A,Takara Bio Inc., Otsu, Japan)、5μLのNextera XT Index Primer 1 (N7xx)、5μLのNextera XT Index Primer 2(S5xx)そして1μLのテンプレートを、全量が50μLとなるように超純水中で混合した。PCRの増幅条件は上記と同じ(表1参照)。その後、PCR産物を(株)北海道システムサイエンスに送付し、塩基配列を決定した。
【0061】
【0062】
得られた塩基配列データの解析はソフトウェアパッケージであるQuantitative Insights Into Microbial Ecology (QIIME),ver 1.9.1 (Caporaso et al., QIIME allows analysis of high-throughput community sequencing data, 7,335-336 (2010))を用いて行った。アダプター配列を取り除き、フォワードとリバースそれぞれのプライマーから読み取った塩基配列(約300bp)をアラインメントした後に配列を補完し、約465bpの塩基配列にした。その後、16SrRNAシーケンスデータを97%の閾値でOTU解析し、バクテリア分類群に振り分け、微生物叢の構成を得た。結果を表4に示す。
【0063】
微生物叢としては、G-1ではバチルス属細菌が主要な細菌であったが、発酵が進むにしたがってゲオバチルス属細菌、「4科以外のバチラレス目(Bacillales)」に属する細菌、サーマス・サーモフィラスの存在比が比較的高まることがわかった。なお、「4科以外のバチラレス目」とは、バチラレス目のうち、ゲオバチルス属細菌及びバチルス属細菌以外のバチラシエ(Bacillaceae)科、パニバチラシエ(Paenibacillaceae)科、プラノコッカシエ(Planococcaceae)科並びにスポロラクトバチラシエ(Sporolactobacillaceae)科を除く細菌を示す。また、「その他」とは、ゲオバチルス属細菌、バチルス属細菌、4科以外のバチラレス目細菌およびサーマス・サーモフィラス以外の細菌を示している。
なお、表4において、微生物量は、対象菌の全菌数に対する割合×100(%)として示した。
【0064】
【0065】
その結果、表4に示されるように、コンポストサンプルG-2からG-5において、ゲオバチルス属細菌の存在が確認でき、また、G-3、G-4及びG-5において、サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌が充分量存在していることが確認できた。
表1に示されるように、G-2~G-5のコンポストサンプルは、いずれも70℃以上の環境にあり、また、良質なコンポストが得られていることから、ゲオバチルス属細菌とサーマス・サーモフィラスが、良好なコンポスト化に寄与していることが示唆された。
なお、G-1~G-5のいずれにも、好塩菌は検出されなかった。
【0066】
(2)高温活性微生物群に含まれる微生物の確認
生ごみを模擬する原料としてラビットフードを使用した。ラビットフードに通気性改良材であるおがくずを混合し、種菌を添加して、コンポスト化処理用混合物とした。混合割合は、ラビットフード:おがくず:種菌として、乾燥重量比で10:9:1とした。
【0067】
種菌としては、コンポストサンプルG-1、G-2、G-3、G-4、及びG-5に加えて、市販の堆肥(以下、微生物資材CMと称する)及び培養菌株接種サンプルを用いた。培養菌株としては、サーマス・サーモフィラスHB8(Thermus thermophilus HB8、JCM10941)、サーマス・サーモフィラスTMY(Thermus thermophilus TMY、JCM10668)、及びゲオバチルス・ステアロサーモフィラスJCM2501(Geobacillus stearothermophilus JCM 2501)を使用した。以下、サーマス・サーモフィラスHB8を「HB8株」、サーマス・サーモフィラスTMYを「TMY株」、ゲオバチルス・ステアロサーモフィラスJCM2501を「JCM2501株」と称する。HB8株、TMY株及びJCM2501株は、いずれも、国立研究開発法人 理化学研究所 バイオリソースセンターから分譲を受けた。これらの菌株は、それぞれ純粋培養し、表5にしたがって約108CFU/g-乾燥重量の濃度になるように各コンポストサンプル(G-1~G-5)並びにCMに接種して、種菌とした。
これらの種菌を用いて、11種類のコンポスト化処理用混合物、試料A~Kを得た。各試料の組成を表5及び表6に示す。表5では、「/」の左右の微生物を双方とも使用したことを意味する。
【0068】
【0069】
【0070】
表6に示されるように、CM中のゲオバチルス属細菌、サーマス・サーモフィラスは極めて低い存在比であった。また、本来、サーマス・サーモフィラスの存在比が1.3%程度であったG-2は、HB8株を接種することで、存在比が17.8%に上昇した。また、CM中にHB1株、JCM2501株を接種することで、サーマス・サーモフィラス及びゲオバチルス属細菌はいずれも10%以上の高い存在比となった。
【0071】
上述した11種の処理用混合物のpHを、それぞれ、消石灰を用いて8.5に調整し、更に、蒸留水を加えることで処理用混合物の含水率を60%とした。pH及び含水率を調整した後の処理用混合物を、ミニリアクターを用いてコンポスト化処理を行い、処理物を得た。
ミニリアクターは、次のような構成とした。リアクター本体は、パイレックス(登録商標)ガラス製の円筒(直径45mm×深さ100mm)とし、円筒の上部と下部には、通気のためのガラス管を挿入したシリコンゴム栓を取り付けた。試料A~Kをリアクターに入れ、リアクター本体を温度制御のためにインキュベータ中に設置した。通気する空気は、最初にNaOH水溶液を含んだ炭酸ガストラップに導き、炭酸ガスを取り除いた後、バブラーを通過させて水蒸気で飽和させ、リアクターに導いた。通気速度は試料1kgあたり0.458L/分を維持した。この通気速度は、リアクター内部を好気条件に維持するために十分であることが確かめられている。
【0072】
コンポスト化温度は、30℃から70℃まで2.5℃/hの速度で昇温させた。その後コンポスト化温度を70℃一定に維持しながら、5日間のコンポスト化処理を実施した。これは、大規模装置を用いた場合の10~20日間のコンポスト化処理に相当する。リアクターからの排出ガスは5Lのポリビニルフルオライド製テドラー(登録商標、以下、省略)バッグ(近江オドエアーサービス(株))に回収した。テドラーバッグは24時間ごとに交換して、収集されたガスの体積を測定するとともに、炭酸ガス濃度を北川式ガス検知管(光明理化学工業(株))で定量し、24時間毎の炭酸ガス発生量を一日当たりの炭酸ガス発生速度(モル量)として計算した。コンポスト化過程における有機物の均一な分解のために、コンポスト化期間中は24時間毎に滅菌されたスパーテルでコンポストを混合攪拌した。
【0073】
結果を表7及び
図1に示す。なお、
図1では、試料F及びHを省略した。表7中、促進効果に関する評価は、以下の最大炭酸ガス発生速度に基づく評価とした。
-:2.0×10
-3mol/d以下
±:5.0×10
-3mol/d以下
+:8.0×10
-3mol/d以下
++:10.0×1
-0
3mol/d以下
+++:10.0×10
-3mol/d超
【0074】
【0075】
表7及び
図1に示されるように、試料F~Hは、実施例1で得られたコンポストサンプルのみで有機物分解が促進された。このことから、コンポストサンプルG-3、G-4及びG-5には、促進効果の高い微生物が含まれていたことがわかる。これに対して、コンポストサンプルG-1のみの試料Aと、市販の微生物資材CMのみの試料Iでは、促進効果が見られなかった。また、サーマス・サーモフィラスの存在比が3%未満であり、さらにサーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌との合計の存在比が25%に満たないG-2のみの試料Cでは、良好な促進効果が認められなかった。
【0076】
更に、コンポストサンプルG-1にサーマス・サーモフィラスHB8を添加した試料Bと、ゲオバチルス属細菌の存在比が比較的高いコンポストサンプルG-2にサーマス・サーモフィラスHB8を添加した試料D及びサーマス・サーモフィラスTMYを添加した試料Eの促進効果を比較すると、試料D及びEの促進効果が格段に高いことがわかる。
表4~表7のこれらの結果から、サーマス・サーモフィラスが有機物分解の促進に有効な微生物であり、サーマス・サーモフィラスに加えてゲオバチルス属細菌が充分に存在すると、分解促進効果が飛躍的に大きくなることがわかる。このことは、試料I~Kからも確認できる。
【0077】
なお、コンポストサンプルG-2のみの試料Bと、市販の微生物資材CMのみの試料Iの結果から、上述した4科以外のバチラレス目に属する細菌及びバチルス属細菌の単独による又は組み合わせによる有機物の分解促進効果は小さいことが示された。
【0078】
上記で得られた試料D~H、K、特にG-3~G-5を種菌として用いて、実施例1で使用した大型実用規模の発酵装置によるコンポスト化処理を行うことができる。
例えば、G-3~G-5それぞれと有機性廃棄物とを1:19の重量比で混合して、それぞれの高温コンポスト化処理混合物を得る。得られた高温コンポスト化処理混合物に対して、70℃以上の温度を例えば4日以上維持する一次発酵処理を行う。得られた一次発酵処理物を、種菌として再利用することができ、あるいは、二次発酵処理に供することができる。本二次発酵処理後に、コンポストが得られる。得られたコンポストに対して発芽インデックスによる評価を行うと、良好なコンポストであることが確認できる。
【0079】
このように、サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌との組み合わせは、コンポスト化の種菌として、またコンポスト化処理促進材として有効であり、この組み合わせを含むコンポスト化処理用混合物を用いることによって、高温で効率よくコンポストを製造することができる。得られたコンポストは、完熟度が高く、また、サーマス・サーモフィラスとゲオバチルス属細菌とをそれぞれ10%以上の存在比で含有するものであることが確認できる。
【配列表】