IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北見工業大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人旭川医科大学の特許一覧

<>
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図1
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図2
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図3
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図4
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図5
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図6
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図7
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図8
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図9
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図10
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図11
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図12
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図13
  • 特許-コネクタ及び流体供給システム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】コネクタ及び流体供給システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/12 20060101AFI20220414BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20220414BHJP
【FI】
A61B17/12
A61M25/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019509252
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010221
(87)【国際公開番号】W WO2018180544
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2017067202
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504238806
【氏名又は名称】国立大学法人北見工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505210115
【氏名又は名称】国立大学法人旭川医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180312
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 牧子
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(72)【発明者】
【氏名】松村 昌典
(72)【発明者】
【氏名】松野 直徒
(72)【発明者】
【氏名】柴野 純一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 満弘
(72)【発明者】
【氏名】古川 博之
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0123993(US,A1)
【文献】米国特許第4473637(US,A)
【文献】国際公開第2016/136514(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0064943(US,A1)
【文献】特表2014-518680(JP,A)
【文献】特表2015-524393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0007961(US,A1)
【文献】特開2014-40491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/12
A61M 25/10
A01N 1/02
A61M 39/14
A61M 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟性管の内部に配置可能なチューブと、
前記チューブが前記軟性管の内部に配置されたとき、前記チューブの外壁面と共に前記軟性管を挟み込むことができる内壁面を有する筒状体と、
前記チューブの外壁面又は前記筒状体の内壁面に設けられ、前記軟性管と共に前記筒状体の内壁面と前記チューブの外壁面とを密封するように径方向に膨張可能であるバルーンと、
を備えるコネクタ。
【請求項2】
前記バルーンは、前記チューブの外壁面又は前記筒状体の内壁面を円周方向に取り囲むように配置されており、膨張したときに前記軟性管の内壁面又は外壁面に全周にわたって密着する、
請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記筒状体の内壁面又は前記チューブの外壁面には、膨張した前記バルーンと当接する部分に凹状部が形成されている、
請求項1又は2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記筒状体の内壁面又は前記チューブの外壁面には、軟性管の滑りを抑制する溝、突起、又は凹凸部が形成されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記バルーンは、前記チューブの外壁面に設けられ、前記筒状体の内壁面に向かって径方向に膨張可能であり、
前記筒状体は、互いに分割可能であって、組み合わされることで一体に構成される複数の部材を備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項6】
前記筒状体が前記チューブに対して移動可能となるように前記チューブと前記筒状体とを連結する連結手段を備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコネクタ。
【請求項7】
前記連結手段は、前記チューブの長軸方向に伸縮するように弾性変形可能に形成されている、
請求項6に記載のコネクタ。
【請求項8】
前記連結手段は、弾性材料から形成された筒状部材と、前記筒状部材の長軸方向に形成された複数のスリットと、
を備える請求項6に記載のコネクタ。
【請求項9】
前記連結手段は、前記チューブと前記筒状体とに密着して固定され、流体を内部に密閉可能な筒状のカバーである、
請求項7に記載のコネクタ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のコネクタと、
前記コネクタに接続され、前記軟性管内に流体を供給可能な流体供給装置と、
を備える流体供給システム。
【請求項11】
前記バルーン内に流体を供給する流体供給手段と、
前記バルーン内の流体圧力を測定する圧力測定手段と、
前記圧力測定手段の測定結果に基づいて、前記バルーン内の流体圧力が設定された値を維持するように前記流体供給手段を制御する制御手段と、
を備える請求項10に記載の流体供給システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ及び流体供給システム、特に、臓器の脈管に接続可能なコネクタ及び流体供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドナーから摘出された移植用の臓器を保存するために、臓器の脈管に灌流液(生理食塩水等の薬液)を供給する灌流装置を当該脈管に接続する技術が知られている。例えば、特許文献1には、臓器の脈管を挟み込んで固定する頂部部分及び底部部分と、頂部部分及び底部部分を相互に押し付ける圧迫ストラップと、を備えるコネクタが開示されている。特許文献1のコネクタは、頂部部分に灌流液を供給する管が接続されており、頂部部分と底部部分とに挟まれた脈管に灌流液を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2005-536321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドナーから摘出された臓器の劣化を防ぐには、臓器の脈管に早期に灌流装置を接続して、臓器を灌流する必要がある。また、医師による臓器移植を容易にするには、脈管組織の損傷をできるだけ防止して、脈管の有効長さを確保する必要がある。しかし、特許文献1のコネクタは、頂部部分及び底部部分により脈管を挟み込み、さらに圧迫ストラップにより圧迫して固定しているため、脈管の着脱に時間を要すると共に、脈管組織が損傷しやすいという問題がある。そして、これらの問題は、ドナーから摘出した臓器の脈管にコネクタを接続する場合に限られず、軟性管とコネクタとの接続に関連する様々な技術分野に存在している。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、軟性管を損傷することなく、軟性管の着脱を短時間で容易に行うことができるコネクタ及び流体供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るコネクタは、
軟性管の内部に配置可能なチューブと、
前記チューブが前記軟性管の内部に配置されたとき、前記チューブの外壁面と共に前記軟性管を挟み込むことができる内壁面を有する筒状体と、
前記チューブの外壁面又は前記筒状体の内壁面に設けられ、前記軟性管と共に前記筒状体の内壁面と前記チューブの外壁面とを密封するように径方向に膨張可能であるバルーンと、
を備える。
【0007】
前記バルーンは、前記チューブの外壁面又は前記筒状体の内壁面を円周方向に取り囲むように配置されており、膨張したときに前記軟性管の内壁面又は外壁面の全周にわたって密着してもよい。
【0008】
前記筒状体の内壁面又は前記チューブの外壁面には、膨張した前記バルーンと当接する部分に凹状部が形成されていてもよい。
【0009】
前記筒状体の内壁面又は前記チューブの外壁面には、軟性管の滑りを抑制する溝、突起、又は凹凸部が形成されていてもよい。
【0010】
前記バルーンは、前記チューブの外壁面に設けられ、前記筒状体の内壁面に向かって径方向に膨張可能であり、
前記筒状体は、互いに分割可能であって、組み合わされることで一体に構成される複数の部材を備えていてもよい。
【0011】
前記コネクタは、前記筒状体が前記チューブに対して移動可能となるように前記チューブと前記筒状体とを連結する連結手段を備えていてもよい。
【0012】
前記連結手段は、前記チューブの長軸方向に伸縮するように弾性変形可能に形成されていてもよい。
【0013】
前記連結手段は、弾性材料から形成された筒状部材と、前記筒状部材の長軸方向に形成された複数のスリットと、
を備えていてもよい。
【0014】
前記連結手段は、前記チューブと前記筒状体とに密着して固定され、流体を内部に密閉可能な筒状のカバーであってもよい。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る流体供給システムは、
前記コネクタと、
前記コネクタに接続され、前記軟性管内に流体を供給可能な流体供給装置と、
を備える。
【0016】
前記流体供給システムは、
前記バルーン内に流体を供給する流体供給手段と、
前記バルーン内の流体圧力を測定する圧力測定手段と、
前記圧力測定手段の測定結果に基づいて、前記バルーン内の流体圧力が設定された値を維持するように前記流体供給手段を制御する制御手段と、
を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軟性管を損傷することなく、軟性管の着脱を短時間で容易に行うことができるコネクタ及び流体供給システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態1に係るコネクタを示す図であって、(a)は、側面図、(b)は、(a)に示すコネクタをA-A線で矢視した断面図である。
図2図1のコネクタが脈管に接続している様子を示す図であって、(a)は、側面図、(b)は、(a)に示すコネクタをA-A線で矢視した断面図である。
図3】本発明の実施の形態1に係るバルーン流体供給装置のブロック図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る密封接続処理のフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態2に係るコネクタを示す側面図である。
図6】本発明の実施の形態3に係るコネクタを示す図であって、(a)は、連結部周辺の拡大図、(b)は、脈管への挿入時の様子を示す側面図、(c)は、脈管への接続時の様子を示す側面図である。
図7】本発明の実施の形態4に係るコネクタを示す図であって、(a)は、連結部周辺の拡大図、(b)は、脈管への接続時の様子を示す側面図である。
図8】本発明の実施の形態5に係るコネクタを示す断面図であって、(a)は、側面図、(b)は、(a)に示すコネクタをA-A線で矢視した断面図である。
図9図8のコネクタが脈管に接続している様子を示す図であって、(a)は、側面図、(b)は、(a)に示すコネクタをA-A線で矢視した断面図である。
図10】本発明の実施の形態6に係るコネクタを示す側面図である。
図11】本発明の実施の形態7に係るコネクタを示す図であって、(a)は、側面図、(b)は、(a)に示す筒状体をA-A線で矢視した横断面図である。
図12】本発明の実施の形態8に係るコネクタを示す図であって、(a)は、筒状体の一方の部材を脈管に装着した様子を示す横断面図、(b)は、筒状体の一方の部材に他方の部材を装着した様子を示す横断面図、(c)は、筒状体に向けてバルーンを膨張させた様子を示す横断面図である。
図13】(a)は、実施例1における各筒状体の断面を示す断面図、(b)は、実施例1における筒状体ごとの引き抜き力の測定結果を示すグラフである。
図14】内壁部に弾性部材が固定された筒状体を示す図であって、(a)は、縦断面図、(b)は、(a)に示す筒状体をA-A線で矢視した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るコネクタの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。また、各実施の形態では、チューブが延びる方向をX軸、チューブを含む水平面上にあってX軸に垂直な方向をY軸、X軸及びY軸に垂直な方向(上下方向)をZ軸とする直交座標系を使用する。
【0020】
各実施の形態では、「軟性管」は、接続対象のチューブと密着するように弾性変形可能な管を意味している。例えば、「軟性管」は、血管、脈管、リンパ管、尿管、尿道、腸管、気管等の管状の生体組織のみならず、樹脂材料、金属材料、ゴム、エラストマ等から形成される管を含むものとする。
【0021】
(実施の形態1)
図1図4を参照して、実施の形態1に係るコネクタ1及び流体供給システム100を説明する。以下、実施の形態では、コネクタ1が臓器の脈管に接続され、脈管に灌流液を供給する場合を例に説明するが、コネクタ1が接続される対象は臓器の脈管に限られず、供給する流体も灌流液に限られない。
【0022】
図1(a)は、実施の形態1に係るコネクタ1の側面図であり、図1(b)は、図1(a)に示すコネクタ1をA-A線で矢視した断面図である。図1(a)では、理解を容易にするために、バルーン20、筒状体30を断面で図示している。図1に示すように、コネクタ1は、チューブ10と、チューブ10の先端側に設けられ、チューブ10の外壁部に固定されたバルーン20と、チューブ10と別体であって、バルーン20の周りを覆うように配置可能な筒状体30と、を備える。チューブ10の外壁部と筒状体30の内壁部との間には、脈管を配置可能な隙間Gが形成されている。
【0023】
チューブ10は、基端部から先端部に向けて灌流液を供給可能な管状の部材である。チューブ10の内部には、灌流液が通過可能な管路が形成され、チューブ10の先端部と基端部には、それぞれ開口が形成されている。チューブ10は、曲げ変形が可能な柔軟なチューブ、曲げ変形が困難な剛性があるチューブのいずれであってもよい。
【0024】
チューブ10の基端部には、灌流液を供給する灌流液供給装置120に接続された接続部11が設けられている。接続部11が灌流液供給装置120に接続されているとき、灌流液供給装置120から供給された灌流液は、接続部11を通ってチューブ10の管路に供給され、チューブ10の先端部の開口から外部に放出される。
【0025】
バルーン20は、内部に流体が供給されることにより、径方向に膨張可能な膜状の部材である。バルーン20は、筒状に形成された膜状部材であり、その先端側と基端側とがチューブ10の外壁部に密着して固定されている。このため、バルーン20の内壁部とチューブ10の外壁部とは、内部に密閉された空間を形成している。バルーン20は、流体からの圧力により伸びる性質を有するゴム、エラストマ等の弾性材料から形成されている。
【0026】
バルーン20には、バルーン20内に流体を供給可能なバルーン注入用チューブ21が接続されている。バルーン注入用チューブ21からバルーン20の内部に流体が供給されると、バルーン20は径方向に膨張して略紡錘形状となる。また、バルーン20の内部からバルーン注入用チューブ21を介して流体を吸引すると、バルーン20は径方向に収縮する。
【0027】
なお、チューブ10とバルーン20は、例えば、公知のバルーンカテーテルであってもよい。バルーンカテーテルは、内部に管路を有するカテーテル本体と、カテーテル本体の先端部に設けられた膨張可能なバルーンと、を備える。
【0028】
筒状体30は、バルーン20の周囲を外側から覆うことが可能な筒状の部材である。筒状体30は、バルーン20よりも剛性を有しており、膨張したバルーン20により内壁部を押圧されたとしても変形しないように構成されている。筒状体30は、例えば、金属材料、樹脂材料、ゴム、エラストマ、布等により形成されている。
【0029】
筒状体30の内壁部には、脈管と当接したとき、脈管との間で摩擦力が発生するような表面加工を施してもよい。例えば、筒状体30の内壁面には、溝、突起、凹凸等を設けてもよい。
【0030】
筒状体30の外壁部には、ユーザによる筒状体30の把持を容易にするために、突起部、凹状部、凹凸部を設けてもよい。例えば、筒状体30をユーザの親指と人差し指でつまむことができるように、筒状体30の対向する側面部に突起部、凹状部、凹凸部等を設けてもよい。
【0031】
次に、図2を参照して、コネクタ1を脈管に接続するメカニズムを説明する。図2(a)は、コネクタ1が脈管に取り付けられた様子を示す側面図であり、図2(b)は、図2(a)に示すコネクタ1をA-A線で矢視した断面図である。図2(a)では、理解を容易にするために、脈管の一部、バルーン20、筒状体30を断面で図示している。
【0032】
コネクタ1が脈管に取り付けられたとき、バルーン20は脈管の内部に挿入されており、筒状体30はバルーン20を脈管の外側から覆うように配置されている。この状態でバルーン20に流体を供給してバルーン20を径方向に膨張させると、膨張したバルーン20によって脈管が径方向に押し広げられ、筒状体30の内壁部に押しつけられる。
【0033】
このとき、バルーン20の外壁部と筒状体30の内壁部とで脈管を挟み込んでいるため、脈管はバルーン20の外壁部の面と筒状体30の内壁部の面で密封されている。このため、チューブ10から脈管に灌流液を供給した場合に、脈管とコネクタ1との接続部から灌流液が漏れることはない。また、脈管の内壁部とバルーン20の外壁部との間、及び脈管の外壁部と筒状体30の内壁部との間では、それぞれ面接触による摩擦力が発生するため、コネクタ1が脈管から抜け落ちることはない。
【0034】
さらに、コネクタ1では、バルーン20へ流体を供給することにより脈管をコネクタ1に接続でき、バルーン20から流体を排出することにより脈管をコネクタ1から解放できる。このため、ユーザはコネクタ1に対する脈管の着脱を短時間で容易に行うことができる。そして、コネクタ1では、バルーン20の外壁部の面と筒状体30の内壁部の面とにより脈管が挟まれており、脈管に局所的に大きな圧力が加えられることがない。このため、コネクタ1と脈管との接続による脈管組織の損傷を防止できる。
【0035】
図1に戻り、コネクタ1を備える流体供給システム100を説明する。流体供給システム100は、脈管に接続可能なコネクタ1と、コネクタ1のバルーン20に流体を供給して、バルーン20の膨張を制御するバルーン流体供給装置110と、コネクタ1の管路に灌流液を供給する灌流液供給装置120と、を備える。
【0036】
灌流液供給装置120は、ユーザにより予め設定された流量、タイミング等でコネクタ1の管路に灌流液を供給可能な装置である。灌流液供給装置120は、指示受付部と、制御部と、を備える。指示受付部は、例えば、灌流開始の指示、灌流の終了時刻、灌流液の流量の設定値等に関するユーザからの指示を受け付ける。制御部は、指示受付部の指示に基づいて、灌流液供給装置120から脈管への灌流を制御する。
【0037】
より詳細に説明すると、まず、制御部は、管路に設置された流量センサから灌流液の流量に関する測定データを取得する。そして、制御部は、灌流液の流量に関する測定値と設定値との差分が予め設定された閾値よりも小さくなるように、脈管へ灌流液を供給するポンプの動作を制御する。さらに、制御部は、現在時刻が灌流の終了時刻となるまで、一定の流量で脈管への灌流を継続するようにポンプの動作を制御する。
【0038】
図3は、バルーン流体供給装置110の構成を示すブロック図である。図3に示すように、バルーン流体供給装置110は、流体供給部111、圧力測定部112、制御装置113を備える。
【0039】
流体供給部111は、バルーン20を膨張又は収縮させるために、バルーン20の内部への流体を供給する流体供給手段の一例である。流体供給部111は、例えば、ポンプ等から構成され、チューブ10に接続されている。
【0040】
圧力測定部112は、バルーン20内に供給された流体の圧力を測定する圧力測定手段の一例である。圧力測定部112は、例えば、圧力センサを備え、バルーン流体供給装置110の内部に設けられた流体の供給管路等に設けられている。圧力測定部112は、例えば、バルーン20の内部、バルーン注入用チューブ21等に設けられてもよい。
【0041】
制御装置113は、圧力測定部112で測定された流体圧力の測定データに基づいて、流体供給システム100の各部の動作を制御する制御手段の一例である。制御装置113は、指示受付部113aと、表示部113bと、通信部113cと、記憶部113dと、制御部113eと、を備える。指示受付部113a、表示部113b、通信部113c及び記憶部113dは、制御部113eと有線又は無線の通信回線を介して相互に通信可能に接続されている。
【0042】
指示受付部113aは、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部113eに供給する。指示受付部113aは、例えば、ボタン、キーボード、マウス、ジョイスティック等を含む。指示受付部113aは、外部の指示装置等を接続可能なコネクタ等であってもよい。
【0043】
表示部113bは、制御部113eから供給される各種の画像データ等に基づいて各種の画像等を表示する。表示部113bは、例えば、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)パネルを備える。表示部113bは、制御装置113に設けられたコネクタを介して接続可能な外部の表示装置等であってもよい。
【0044】
なお、指示受付部113aと表示部113bとは、タッチパネルによって一体に構成されてもよい。タッチパネルは、所定の操作を受け付ける操作画面を表示すると共に、操作画面においてユーザが接触操作を行った位置に対応する操作信号を制御部113eに供給する。
【0045】
通信部113cは、インターネット等の通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。通信部113cは、外部端末、サーバ、メモリ等と通信ネットワークを介して通信する。例えば、通信部113cは、バルーン20内の流体圧力の測定値を外部端末に送信し、外部端末からバルーン20内の流体圧力の設定値を受信してもよい。
【0046】
記憶部113dは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク装置、フラッシュメモリ等を備え、制御部113eにより実行される図4の密封接続処理のプログラムや各種データを記憶する。また、記憶部113dは、制御部113eが処理を実行するためのワークメモリとして機能する。
【0047】
制御部113eは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを備え、制御装置113の各部の制御を行う。制御部113eは、記憶部113dに記憶されているプログラムを実行することにより、図4の密封接続処理を実行する。具体的に説明すると、制御部113eは、バルーン20内の流体圧力の測定値とユーザにより設定された流体圧力の設定値との差分が可能な限りゼロとなるように、流体供給部111の動作を制御する。より詳細に説明すると、制御部113eは、バルーン20内の流体圧力の測定値とユーザにより設定された流体圧力の設定値との差分が閾値よりも小さくなるように、流体供給部111の動作を制御する。流体圧力の設定値は、例えば、バルーン20の材質、サイズ、脈管の種類、サイズ、損傷の程度、灌流液の種類、流量等を考慮して、ユーザにより決定される。また、閾値は、あらかじめユーザにより設定された値であって、例えば、脈管の種類、サイズ、損傷の程度等を考慮して決定される。
【0048】
制御装置113は、専用のシステムで実現してもよく、小型汎用コンピュータを用いて実現してもよい。制御装置113が実行する処理は、例えば、上述の物理的な構成を備える装置が、記憶部113dに記憶されたプログラムを実行することによって実現される。本発明は、プログラムとして実現されてもよく、そのプログラムが記録された記憶媒体として実現されてもよい。
【0049】
次に、実施の形態1に係るコネクタ1の使用方法を説明する。チューブ10は予め配管を介して灌流液供給装置120に接続され、脱気等の処理が施されているものとする。
【0050】
まず、医師等のユーザは、ドナーの体内から臓器を取り出す。次に、ユーザは、取り出した臓器の脈管内にバルーン20が完全に隠れるようにチューブ10を挿入する。このとき、筒状体30は、チューブ10の基端側に配置されているものとする。次に、ユーザは、親指と人差し指で筒状体30を把持して、筒状体30をチューブ10の先端側に移動させ、脈管によって覆われたバルーン20をさらに外側から覆うように配置する。
【0051】
次に、ユーザは、流体供給システム100に図4の密封接続処理を実行させ、バルーン20を予め設定された流体圧力で膨張させる。図4の密封接続処理を実行することにより、コネクタ1は、脈管を完全に密封した状態で、脈管から抜け落ちないように接続される。次に、ユーザは、灌流液供給装置120を操作して、脈管への灌流液の供給を開始させる。臓器に灌流液を継続的に供給できるため、移植まで臓器を劣化させることなく保管できる。なお、臓器への灌流を継続しながら他の施設に臓器を搬送してもよい。
【0052】
臓器の移植を開始する前に、ユーザは、灌流液供給装置120を操作して、脈管への灌流液の供給を停止する。次に、ユーザは、流体供給システム100に図4の密封接続処理の終了を指示する。すると、流体供給システム100は、バルーン20を径方向に収縮させるため、ユーザは、脈管を保持しつつ収縮が完了したチューブ10を脈管から引き抜く。脈管からコネクタ1を取り外した後、ユーザは、臓器を患者の体内に配置して臓器の移植を開始する。以上の工程により、コネクタ1を用いた臓器の脈管への灌流に係る一連の処置が終了する。
【0053】
次に、図4のフローチャートを参照して、流体供給システム100が実行する密封接続処理を説明する。密封接続処理は、脈管に対してコネクタ1を密封した状態で接続するための処理である。
【0054】
まず、ユーザは、指示受付部113aを用いてバルーン20に加えられる圧力を設定し、バルーン20の膨張の開始を指示する。指示受付部113aは、バルーン20の膨張を開始する旨のユーザによる指示を受け付ける(ステップS101)。指示受付部113aは、ユーザが設定したバルーン20内の流体圧力の設定値を記憶部113dに供給する。
【0055】
ステップS101の処理から所定時間(例えば、10秒~10分の範囲内でユーザにより規定される時間)の経過後、制御部113eは、圧力測定部112にバルーン20内の流体圧力の測定を指示する(ステップS102)。圧力測定部112は、バルーン20内の流体圧力を測定し、測定データを制御部113eに送信する。
【0056】
次に、制御部113eは、バルーン20内の流体圧力の測定値とユーザにより設定された流体圧力の設定値との差分が閾値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS103)。差分が閾値よりも小さい場合(ステップS103;YES)、表示部113bは、脈管とコネクタ1が適切に接続され、接続が完了した旨を表示する(ステップS104)。
【0057】
差分が閾値と等しいか、閾値よりも大きい場合(ステップS103;NO)、制御部113eは、流体供給部111の動作を制御して、バルーン20内の流体圧力を調整し(ステップS105)、処理をステップS102に戻す。そして、差分が閾値よりも小さくなるまで、ステップS102、ステップS103、ステップS105の処理を繰り返す。
【0058】
ステップS104の処理を実行した後、指示受付部113aは、コネクタ1の接続を終了する旨のユーザの指示を受け付けたかどうかを判定する(ステップS106)。コネクタ1の接続を終了する旨のユーザの指示を受け付けた場合(ステップS106;YES)、制御部113eは、流体供給部111がバルーン20から流体を吸引するように指示し(ステップS107)、処理を終了する。コネクタ1の接続を終了する旨のユーザの指示を受け付けていない場合(ステップS106;NO)、所定時間の経過後、処理をステップS102に戻し、ステップS102~S106の処理を繰り返す。以上が、密封接続処理の流れである。
【0059】
以上説明したように、実施の形態1に係るコネクタ1は、チューブ10の外壁面に設けられ、径方向に膨張可能なバルーン20を備える。このため、バルーン20を膨張又は収縮させることにより、短時間で容易に脈管を着脱できる。
【0060】
また、実施の形態1に係るコネクタ1は、脈管をバルーン20の外壁面と筒状体30の内壁面とで挟み込むように構成されている。このため、コネクタ1からの灌流液の漏れ、脈管からのコネクタ1の抜け落ち、コネクタ1による脈管組織への損傷を防止できる。
【0061】
実施の形態1に係る流体供給システム100は、圧力測定部112の測定結果に基づいて、バルーン20内の流体圧力が設定値を維持するように流体供給部111を制御する制御装置113を備える。このため、灌流液の漏れ、脈管からのコネクタ1の抜け落ち、コネクタ1による脈管組織への損傷を効果的に防止できる。
【0062】
(実施の形態2)
図5を参照して、本発明の実施の形態2に係るコネクタ2を説明する。実施の形態1に係るコネクタ1では、筒状体30は単純な円筒形であったが、筒状体30の内壁部にバルーン20の形状に対応した凹状部31を設けてもよい。
【0063】
図5は、実施の形態2に係るコネクタ2を長軸方向に切断した断面図である。図5では、理解を容易にするために、脈管の一部、バルーン20、筒状体30を断面で図示している。筒状体30の内壁部は、長軸方向の中央部が最も大きな内径を有し、長軸方向の両端部に向けて徐々に窄まるように形成された凹状部31を備える。バルーン20を膨張させたとき、脈管は、略紡錘形状に膨張したバルーン20によって筒状体30の内壁部の凹状部31に押し付けられる。このため、コネクタ2が脈管から抜け落ちることを防止できる。
【0064】
(実施の形態3)
図6を参照して、本発明の実施の形態3に係るコネクタ3を説明する。実施の形態1では、チューブ10と筒状体30とは完全に別体であったが、筒状体30をチューブ10に対して移動可能に連結してもよい。
【0065】
図6は、実施の形態3に係るコネクタ3を示す図であって、(a)は、連結部40の周辺の拡大図、(b)は、チューブ10を脈管に挿入している様子を示す側面図、(c)は、コネクタ3を脈管に接続した様子を示す側面図である。図6(b)、図6(c)では、理解を容易にするために、脈管の一部、バルーン20、筒状体30、連結部40を断面で図示している。図6(a)に示すように、コネクタ3は、チューブ10に対して筒状体30を移動可能となるように、チューブ10と筒状体30とを連結する連結部40を備える。
【0066】
連結部40は、チューブ10と筒状体30とを連結する連結手段の一例である。連結部40は、弾性材料から形成された筒状部材と、筒状部材の長軸方向に形成された複数のスリット41と、備える。連結部40は、先端部が筒状体30の基端部に固定され、基端部がチューブ10の外壁部に固定されている。連結部40は、例えば、弾性材料、さらに好ましくは、布、ゴム、エラストマ等の軟らかい材料にて形成されている。連結部40は、長軸方向に収縮、伸長するように弾性変形可能に構成されているため、筒状体30は、チューブ10に対して長軸方向に移動できる。連結部40は、最も伸ばされたときに、筒状体30をバルーン20の周りに配置するように形成されている。
【0067】
チューブ10を脈管に挿入する場合、図6(b)に示すように、筒状体30を最も基端側(右側)に移動させておき、バルーン20が完全に脈管の中に入るまで、チューブ10を脈管に挿入する。バルーン20の周りに筒状体30が存在しないため、チューブ10の脈管への挿入が容易になる。次に、挿入操作の終了後、図6(c)に示すように、筒状体30を先端側(左側)の限界まで移動させる。このとき、バルーン20は脈管の内部に隠れているが、筒状体30を先端側に移動するだけで、バルーン20の周囲を覆うように筒状体30を配置できる。この状態でバルーン20を膨らませると、脈管の接続が完了する。
【0068】
以上説明したように、実施の形態3に係るコネクタ3は、筒状体30がチューブ10に対して移動可能となるように、チューブ10と筒状体30とを連結する連結部40を備える。このため、筒状体30を基端側に移動するだけで、チューブ10の脈管への挿入が容易である。また、チューブ10を脈管に挿入した後、バルーン20が脈管に隠れた状態であってもバルーン20の周囲を覆うように筒状体30を配置できるため、筒状体30の位置合わせが容易である。
【0069】
(実施の形態4)
図7を参照して、本発明の実施の形態4に係るコネクタ4を説明する。実施の形態3では、連結部40が複数のスリット41を備える円筒形状の部材であったが、連結部40は、チューブ10の一部を密閉して覆うように構成された筒状のカバーであってもよい。
【0070】
図7(a)は、連結部40の周辺の拡大図であり、図7(b)は、コネクタ4を脈管に接続したときの灌流液の流れを示す側面図である。図7(b)では、理解を容易にするために、脈管の一部、バルーン20、筒状体30、連結部40を断面で図示している。連結部40は、チューブ10の外壁部の一部を密閉するように完全に覆い、流体を通過させるスリット、孔等を全く有さない筒状のカバーである。連結部40の先端部は、筒状体30の基端部に密着して固定され、連結部40の基端部は、チューブ10の外壁部に密着して固定されている。このため、連結部40は、チューブ10及び筒状体30と共に内部に密閉された空間を形成する。
【0071】
コネクタ4では、脈管の内壁部とバルーン20の外壁部とが密着することによって、灌流液の漏れを防止している。そして、脈管の外壁部と筒状体30の内壁部との間が密封され、連結部40が灌流液を通過させないため、図7(b)の矢印で示すように、脈管とバルーン20との間から灌流液が漏れた場合でも、漏れ出た灌流液を閉じ込めることができる。このように、コネクタ4は、脈管に接続されたとき、複数箇所での封止を実現するため、灌流液の漏れをより効果的に防止できる。
【0072】
(実施の形態5)
図8及び図9を参照して、本発明の実施の形態5に係るコネクタ5を説明する。実施の形態1では、チューブ10の外壁部にバルーン20が設けられていたが、筒状体30の内壁部にバルーン20を設け、バルーン20がチューブ10に向かって膨張するように構成してもよい。
【0073】
実施の形態1に係るコネクタ1のように、チューブ10の外壁部にバルーン20を設けた場合、バルーン20の膨張によって脈管が径方向に押し広げられる。このため、図2(a)に示すように、チューブ10の先端部と脈管の内壁部の間には、流体が淀む領域が存在する。コネクタ1を血液循環回路に適用する場合、血液が淀む領域で血栓が生じる可能性があるため、流体が淀む領域を解消することが望まれる。
【0074】
図8(a)は、実施の形態5に係るコネクタ5の側面図であり、図8(b)は、図8(a)に示すコネクタ5をA-A線で矢視した断面図である。図8(a)では、理解を容易にするために、バルーン20、筒状体30、連結部40を断面で図示している。実施の形態5に係るコネクタ5は、脈管内に挿入可能なチューブ10と、チューブ10を内部に配置可能な筒状体30と、筒状体30の内壁部に設けられ、径方向に膨張可能なバルーン20と、チューブ10に対して筒状体30を長軸方向に移動可能とするように、チューブ10と筒状体30と連結する連結部40と、を備える。
【0075】
バルーン20は、筒状の膜状部材から形成されている。バルーン20の先端部と基端部とは、それぞれ筒状体30の内壁部に密着するように固定されている。バルーン20には、バルーン注入用チューブ21が接続されており、バルーン注入用チューブ21からバルーン20内へ流体が供給される。
【0076】
図9は、コネクタ5が脈管に取り付けられた様子を示す側面図であり、図9(b)は、図9(a)に示すコネクタ5をA-A線で矢視した断面図である。図9(a)では、理解を容易にするために、脈管の一部、バルーン20、筒状体30、連結部40を断面で図示している。コネクタ5では、筒状体30の内壁部に設けられたバルーン20が内側に膨張するため、脈管がチューブ10の外壁部とバルーン20の内壁部との間に挟み込まれる。このため、コネクタ5では、チューブ10の先端部と脈管との間に流体が淀む領域が生じないため、コネクタ5を血液循環回路に適用した場合に、コネクタ5における血栓の発生を防止できる。
【0077】
なお、チューブ10の外壁部には、溝、突起、凹凸等を設けてもよい。チューブ10の外壁部に設けられた溝、突起、凹凸等は、チューブ10の外壁部と脈管との間の摩擦力を増加させるため、コネクタ5が脈管から抜け落ちることをさらに防止できる。
【0078】
以上説明したように、実施の形態5に係るコネクタ5は、チューブ10が脈管の内部に配置されたとき、チューブ10の外壁面と共に外側から脈管を挟み込むことができる内壁面を有する筒状体30と、筒状体30の内壁面に設けられ、径方向に膨張可能なバルーン20と、を備える。このため、コネクタ5を血液循環回路に適用した場合であっても、血液の淀みに起因して血栓が発生することを防止できる。
【0079】
(実施の形態6)
図10を参照して、本発明の実施の形態6に係るコネクタ6を説明する。実施の形態6では、実施の形態5に係るコネクタ5とは異なり、チューブ10の外壁部の先端側に膨張したバルーン20の形状に対応する凹状部12が設けられている。
【0080】
図10は、実施の形態6に係るコネクタ6の側面図を示す。図10では、理解を容易にするために、脈管の一部、バルーン20、筒状体30、連結部40を断面で図示している。チューブ10には、外壁部の先端側に周方向に連続して形成された凹状部12が設けられている。凹状部12は、膨張したバルーン20の内壁部の形状に合わせて形成されている。このため、脈管をバルーン20の内壁部とチューブ10の外壁部の間に挟み込み、バルーン20を膨張させると、バルーン20に圧迫された脈管はチューブ10の凹状部12に嵌まり込む。このため、コネクタ6が脈管から抜け落ちることを防止できる。
【0081】
(実施の形態7)
図11を参照して、本発明の実施の形態7に係るコネクタ7を説明する。実施の形態7では、実施の形態1~6に係るコネクタ1~6とは異なり、筒状体30を複数の部材で構成している。なお、「分割可能」とは、複数の部材に完全に分離可能な場合のみならず、複数の部材が一部分で連結された状態で、複数の部材の他の部分を分離可能な場合を含むものとする。
【0082】
図11は、分割可能に構成された筒状体30を備えるコネクタ7を示す図である。図11では、理解を容易にするために、チューブ10及びバルーン20の図示を省略している。筒状体30は、互いに分割可能に構成された断面半円状の第1の片部30A及び第2の片部30Bを備える。第1の片部30A及び第2の片部30Bは、ヒンジ30Cを介して互いに回転可能に連結されている。筒状体30は、第1の片部30Aと第2の片部30Bとが互いに対して回転しないように固定する固定手段を備える。固定手段は、例えば、ヒンジ30Cと反対側に設けられ、互いに係合可能なフック及び係合孔である。なお、第1の片部30A及び第2の片部30Bは、例えば、弾性材料から構成されたバンド等の別体の固定手段により互いに固定されてもよい。
【0083】
実際の臓器移植の現場では、脈管の先端部に縦に切り込みを入れてT字状に切り開いた後に、コネクタ7を装着する場合がある。また、脈管の先端部がコブ状に膨らんでいたり、脂肪のかたまりが付着したりしている場合もある。実施の形態1~6に係る筒状体30を用いた場合、脈管のT字状部、コブ状の膨らみ及び脈管に付着した脂肪のかたまり等が妨げとなって、筒状体30を装着できない場合が想定される。しかし、図11に示すように、筒状体30が分割可能な構成を備える場合、脈管のT字状部、コブ状の膨らみ及び脂肪のかたまり等が存在していても、筒状体30を分割して脈管を挟み込むことで、コネクタ7を脈管の所望の位置に装着できる。
【0084】
(実施の形態8)
図12を参照して、本発明の実施の形態8に係るコネクタ8を説明する。実施の形態8では、実施の形態7に係るコネクタ7とは異なり、筒状体30のY軸方向の幅を調整可能に構成している。
【0085】
図12は、2つの部材に分割可能に構成された筒状体30を備えるコネクタ8を示す横断面図であって、(a)は、筒状体30の一方の部材を脈管に装着した様子、(b)は、筒状体30の他方の部材を一方の部材に装着した様子、(c)は、一体化された筒状体30に向けてバルーン20を膨張させた様子を示す。筒状体30は、横断面がU字型に形成され、長手方向(X軸方向)に延びる開口を有する第1の片部30Aと、第1の片部30Aの開口を覆うように、第1の片部30Aの幅方向(Y軸方向)から装着可能な第2の片部30Bと、を備える。
【0086】
第1の片部30Aは、Y軸方向に延びる一対の両端部の内側面が互いに平行となるように形成され、第2の片部30Bは、Y軸方向に延びる一対の両端部の外側面が互いに平行となるように形成されている。第1の片部30Aの一対の両端部の内側面及び第2の片部30Bの一対の両端部の外側面には、第2の片部30Bの第1の片部30Aに対する移動を一方(+Y軸方向)に制限するラチェット機構(図示せず)が設けられている。
【0087】
より詳細に説明すると、第1の片部30Aの一対の両端部の内側面には、Y軸方向に並べられた複数の山型の歯が形成されている。また、第2の片部30Bの一対の両端部の外側面には、それぞれ径方向に突出し、第1の片部30Aの複数の歯と係合する爪が形成されている。第1の片部30Aの複数の歯の先端側は、第2の片部30Bが第1の片部30Aに押し込まれる場合に、第1の片部30A又は第2の片部30Bが変形して、第2の片部30Bの爪が乗り越えることができるようになだらかな角度で形成されている。また、第1の片部30Aの複数の歯の基端側は、第2の片部30Bが第1の片部30Aから引き抜く方向に引っ張った場合に、第2の片部30Bの爪が乗り越えられないように急峻な角度で、例えば、第1の片部30Aの一対の両端部に対して直角な角度で形成されている。
【0088】
第1の片部30A及び第2の片部30Bは、いずれも弾性変形可能な材料で形成されている。このため、第1の片部30A及び第2の片部30Bを分割する場合、第1の片部30A及び第2の片部30Bのいずれか一方を変形させることで、第1の片部30Aから第2の片部30Bを引き抜いて取り外すことができる。
【0089】
次に、コネクタ8の使用方法を説明する。まず、ユーザは、第1の片部30Aの内部に、バルーン20上に脈管を配置したチューブ10を配置する。次に、ユーザは、脈管が周囲に配置されたバルーン20を覆うように、第1の片部30Aに対して第2の片部30Bを装着する。このとき、脈管の外径やその壁面の厚さや形状等を考慮しつつ、第1の片部30Aに対してY軸方向の任意の位置で第2の片部30Bを固定できる。
【0090】
次に、ユーザは、バルーン20を膨張させることにより、脈管を筒状体30に押し付ける。このとき、膨張したバルーン20からの圧力を受けた場合であっても、第1の片部30Aの歯と第2の片部30Bの爪とが係合しているため、第2の片部30Bが第1の片部30Aから外れることがない。以上の工程により、コネクタ8と脈管との接続が完了する。
【0091】
(実施例1)
次に、上記実施の形態1、2に係るコネクタ1、2の特性を検証するために実施した実験とその結果を説明する。
【0092】
図13(a)は、本検証で使用した筒状体30の断面を示す。断面形状1の筒状体30は、筒状体30の内壁面が平滑である。断面形状2の筒状体30は、断面形状1の内壁面に凹凸状の溝加工を施している。断面形状3の筒状体30は、筒状体30の内壁面の中央部が凹状に窪んでいる。断面形状4、断面形状5の筒状体30は、断面形状2、断面形状3の筒状体30を組み合わせたものであり、断面形状5の筒状体30は断面形状4の筒状体30よりも溝の数が多い。
【0093】
脈管を模擬した薄いゴムチューブを用意し、ゴムチューブには、脈管の滑りやすさを再現するために粘度50csのシリコンオイルを塗布した。このゴムチューブを実施の形態に係るコネクタに接続し、ゴムチューブが抜けるまで引張試験を行った。ゴムチューブが抜ける際の最大引っ張り力を引き抜き力Tと定義し、引き抜き力Tが大きいほど、コネクタの抜けにくさが高いと評価する。
【0094】
図13(b)は、各筒状体30に対応する引き抜き力Tの測定結果を示す。引き抜き力Tは、断面形状1、断面形状2、断面形状3、断面形状4、断面形状5の順で大きくなった。このことから、筒状体30の内壁面の中央部に設けられた凹み、筒状体30の内壁面に設けられた凹凸状の溝のいずれも、脈管からのコネクタの抜け落ちを防止できることが理解できる。また、凹みと凹凸状の溝とを組み合わせることにより、脈管からのコネクタの抜け落ちをさらに防止できること、凹みと凹凸状の溝とを組み合わせる場合、凹凸状の溝の数が多いほど脈管からのコネクタの抜け落ちを防止できることが理解できる。
【0095】
次に、上記実施の形態2に係るコネクタ2を用いて豚肝臓の脈管を灌流する実験を行った。この実験では、断面形状4の筒状体30を備えるコネクタ2を用いて、豚肝臓の脈管に対して4時間、灌流を行った。灌流後の脈管組織を目視で確認したところ、脈管組織は良好に保たれていることが確認できた。このことは、上記実施の形態2に係るコネクタ2が生体組織を損傷しないことを示している。
【0096】
(実施例2)
次に、上記実施の形態8に係るコネクタ8の特性を検証するために実施した実験とその結果を説明する。
【0097】
まず、脂肪等のかたまりが付着している脈管の先端側をT字状に切開して、脈管とコネクタ8とを接続した。その後、コネクタ8から脈管へ灌流を開始し、灌流試験を実施した。
【0098】
灌流試験が終了して脈管からコネクタ8を取り外した後、脈管の外観を観察したが、脈管は損傷を受けておらず、医師による臓器移植に必要な脈管の有効長さが十分に確保されていた。また、医師による脈管へのコネクタ8の装着は短時間で行われ、その操作も容易なものであった。以上のことから、コネクタ8は、個体差のある移植用臓器の脈管に灌流液を供給する処置に有用であることが確認できた。
【0099】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0100】
(変形例)
上記実施の形態では、バルーン20に流体を供給する手段としてバルーン20に接続されたバルーン注入用チューブ21を設けていたが、本発明はこれに限られない。例えば、チューブ10の内部に灌流液を供給する管路に加えて、バルーン20の内部に流体を供給する管路を設けてもよい。
【0101】
上記実施の形態では、バルーン20の表面は平滑であったが、本発明はこれに限られない。例えば、バルーン20の表面に滑り防止のための凹凸形状を設けてもよく、粗面加工を施してもよい。
【0102】
上記実施の形態1~4では、膨張したバルーン20は略紡錘形状であって、上記実施の形態5、6では、膨張したバルーン20は略円筒形状であったが、本発明はこれに限られない。膨張した場合のバルーンの形状は任意であって、例えば、球形状、円柱形状、多角柱形状等であってもよい。
【0103】
上記実施の形態では、連結部40は筒状部材を備えていたが、本発明はこれに限られない。連結部40は、チューブ10と筒状体30とを相対的に移動可能に連結できれば、いかなる形状の部材であってもよく、例えば、紐状、蛇腹状、らせん状の部材であってもよい。また、連結部40は、板ばね、コイルばね等のばね部材を含んでいてもよい。
【0104】
上記実施の形態では、連結部40は筒状体30のチューブ10に対する相対位置を固定する固定機構を備えていなかったが、本発明はこれに限られない。筒状体30を最も基端側に移動させたとき、最も先端側に移動させたときに、筒状体30のチューブ10に対する相対位置が固定されるような固定機構を備えていてもよい。
【0105】
上記実施の形態では、バルーン流体供給装置110は、バルーン20内の流体圧力を一定に保持する装置であったが、本発明はこれに限られない。例えば、バルーン流体供給装置110は、ユーザの操作によりバルーン20内への流体を供給可能なシリンジ(注射器)等であってもよい。
【0106】
上記実施の形態では、灌流液供給装置120は、一定の流量で脈管に灌流液を供給する装置であったが、本発明はこれに限られない。例えば、灌流液供給装置120は、ユーザの操作により灌流液を供給可能なシリンジ(注射器)等であってもよい。
【0107】
上記実施の形態1~4では、筒状体30の内壁部が脈管に直接接触するように構成されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、図14に示すように、筒状体30の内壁部に円筒形状の弾性部材32を接着等により固定してもよい。弾性部材32は、バルーン20により脈管が押し付けられたとき、脈管の形状に合わせて容易に変形可能であり、例えば、ゴム、エラストマ、ポリウレタン等の弾性材料から形成されている。脈管が膨張したバルーン20の外壁部に押圧され、弾性部材32に押し付けられた場合、弾性部材32は脈管に合わせて密着するように変形し、コネクタ1~4の接続による脈管の損傷をさらに効果的に防止する。
【0108】
上記実施の形態8では、第1の片部30Aと第2の片部30Bとを固定するための固定手段としてラチェット機構を用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、第1の片部30Aの一対の両端部の内側面及び第2の片部30Bの一対の両端部の外側面の少なくとも一方に、凹部、凸部、凹凸、溝又は粗面加工等の摩擦抵抗を増加させるための表面加工を施して、第1の片部30Aと第2の片部30Bとを固定するようにしてもよい。
【0109】
また、第2の片部30Bの一対の両端部における内側面の間隔を、第1の片部30Aの一対の両端部における外側面どうしの間隔よりも大きくなるように構成してもよい。この場合、第1の片部30A及び第2の片部30Bのいずれか一方を弾性変形させて、言い換えると、第1の片部30Aを圧縮するか第2の片部30Bを拡張するかして、第2の片部30Bを第1の片部30Aに装着すればよい。この場合、第1の片部30Aと第2の片部30Bとの間で押圧力が発生するため、第1の片部30Aと第2の片部30Bとが一層強固に固定される。
【0110】
上記実施の形態では、図4の密封接続処理を実行させるためのプログラムがバルーン流体供給装置110の記憶部113dに記憶されていたが、本発明はこれに限られない。上述の処理動作を実行させるためのプログラムを、フレキシブルディスク、CDROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto-Optical Disk)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶し、記録媒体に記憶されたプログラムをコンピュータにインストールすることで、上述の処理を実行するバルーン流体供給装置110を実現してもよい。
【0111】
上記実施の形態では、臓器の脈管への灌流にコネクタ1~8を適用する場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、人工心臓、透析装置等、人体の外部に設置される人工循環装置等を体内の血管に接続する場合にコネクタ1~8を用いてもよい。また、コネクタ1~8を医療分野以外の技術に適用してもよい。
【0112】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0113】
本出願は、2017年3月30日に出願された日本国特許出願2017-67202号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のコネクタ及び流体供給システムは、移植用臓器の脈管等を含む軟性管を損傷することなく、軟性管の着脱を短時間で容易に行うことができるため、有用である。
【符号の説明】
【0115】
1,2,3,4,5,6,7,8…コネクタ、10…チューブ、11…接続部、12…凹状部、20…バルーン、21…バルーン注入用チューブ、30…筒状体、30A…第1の片部、30B…第2の片部、30C…ヒンジ、31…凹状部、32…弾性部材、40…連結部、41…スリット、100…流体供給システム、110…バルーン流体供給装置、111…流体供給部、112…圧力測定部、113…制御装置、113a…指示受付部、113b…表示部、113c…通信部、113d…記憶部、113e…制御部、120…灌流液供給装置、G…隙間、T…引き抜き力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14