(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】電子装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20220414BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
H05K3/00 W
H05K3/28 Z
(21)【出願番号】P 2021549582
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2021016340
【審査請求日】2021-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】312003595
【氏名又は名称】タカハタプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇
(72)【発明者】
【氏名】横山 英明
(72)【発明者】
【氏名】老田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 清
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-210788(JP,A)
【文献】特開2003-324256(JP,A)
【文献】特開2010-135519(JP,A)
【文献】特開平06-021594(JP,A)
【文献】実開平05-013859(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一面に導電性パターンが
配置された回路基板と、
前記基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層
の一部が前記基材を前記基材の厚み方向に貫通して
前記導電性パターンが配置された前記一面
側に
リブ体またはボス体として突出し、前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通
すように接着層を介して覆う
突出体と、
前記導電性パターンが前記突出体に覆われた領域の前記基材の前記他面に密着して固定され前記樹脂層の侵入を規制する侵入規制体と、を備えた、
ことを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記
接着層は、前記基材及び前記
突出体のそれぞれの樹脂材料と相溶性を有する樹脂を含むバインダーインク層
である、
ことを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記基材の前記他面と前記樹脂層との間に前記導電性パターン
を外部から不可視に覆い隠すように調色されたバインダー層が設けられている、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記
樹脂層は透明樹脂材料からなり、前記基材の前記他面と前記樹脂層との間に透光性のバインダー層が設けられている、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の電子装置。
【請求項5】
前記基材が合成樹脂材料からなる変形可能なフィルムである、
ことを特徴とする請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の電子装置。
【請求項6】
基材の一面に導電性パターンが
配置された回路基板と、前記基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層
の一部が前記基材を前記基材の厚み方向に貫通して
前記導電性パターンが配置された前記一面
側に
リブ体またはボス体として突出し、前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通
すように接着層を介して覆う
突出体と、
前記導電性パターンが前記突出体に覆われた領域の前記基材の前記他面に密着して固定され前記樹脂層の侵入を規制する侵入規制体と、がインサート成形によって一体成形された電子装置であって、
前記インサート成形時に、前記
突出体が前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通すように前記樹脂層と
接着層を介して一体に形成されている、
ことを特徴とする電子装置。
【請求項7】
基材の一面に導電性パターンが
配置された回路基板と、
前記基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層
の一部が前記基材を前記基材の厚み方向に貫通して
前記導電性パターンが配置された前記一面
側に
リブ体またはボス体として突出し、前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通
すように接着層を介して覆う
突出体と、
前記導電性パターン
が前記
突出体に覆われた領域の前記基材
の前記他面に密着して固定され前記樹脂層の侵入を規制する進入規制体と、を備えた電子装置の製造方法であって、
前記基材を準備する工程と、
前記基材上に前記導電性パターンを配置する工程と、
前記基材に貫通孔を形成する工程と、
前記導電性パターンの前記
突出体に覆われる領域の前記基材の前記他面に前記進入規制体を張り合わせる工程と、
前記貫通孔が形成された前記基材を金型に載置して前記樹脂層と前記
突出体を射出成形する工程と、を含む、
ことを特徴とする電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有底又は無底の凹部を有する第1の端部と、第1の端部とは反対側の第2の端部とを有する可撓性配線基材と、第1の端部を選択的に被覆する樹脂層と、樹脂層に設けられ可撓性配線基材に電気的に接続される回路部と、凹部に配置され面内に溝又は部品内蔵用のキャビティを有する金属製の板状または枠状の補強部材と、溝又はキャビティに充填され樹脂層を構成する樹脂材料よりも弾性率が高い材料で構成された第1の絶縁材と、凹部と補強部材との間の少なくとも前記第2の端部側の一端部に設けられ前記樹脂層を構成する樹脂材料よりも弾性率が低い材料で構成された第2の絶縁材と、を有する補強部とを具備する回路基板が知られている(特許文献1)。
【0003】
電子部品と、樹脂を主成分とする絶縁基材の一面に電子部品が実装されており、一面に導電性の表層配線が形成された回路基板と、表層配線の一部であるランドと、電子部品とを電気的及び機械的に接続しているはんだと、表層配線の一部でありランドから伸びた延長部を跨いで一面に設けられており、はんだがランド上から延長部に濡れ広がるのを抑制するための広がり抑制部と、を有し、回路基板は、絶縁基材の内部において、広がり抑制部と前記絶縁基材との接触部位に対向する位置に、絶縁基材を補強する補強部を備えている電子装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-46297号公報
【文献】特開2017-28061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一面に樹脂で形成された凸形状を有する回路基板の基材上に形成された回路パターンを凸形状の下に通過させて配置することができる電子装置及び製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の電子装置は、
基材の一面に導電性パターンが配置された回路基板と、
前記基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層の一部が前記基材を前記基材の厚み方向に貫通して前記導電性パターンが配置された前記一面側にリブ体またはボス体として突出し、前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通すように接着層を介して覆う突出体と、
前記導電性パターンが前記突出体に覆われた領域の前記基材の前記他面に密着して固定され前記樹脂層の侵入を規制する侵入規制体と、を備えた、
ことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子装置において、
前記接着層は、前記基材及び前記突出体のそれぞれの樹脂材料と相溶性を有する樹脂を含むバインダーインク層である、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電子装置において、
前記基材の前記他面と前記樹脂層との間に前記導電性パターンを外部から不可視に覆い隠すように調色されたバインダー層が設けられている、
ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電子装置において、
前記樹脂層は透明樹脂材料からなり、前記基材の前記他面と前記樹脂層との間に透光性のバインダー層が設けられている、
ことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電子装置において、
前記基材が、合成樹脂材料からなる変形可能なフィルムである、
ことを特徴とする。
【0013】
前記課題を解決するために、請求項6に記載の電子装置は、
基材の一面に導電性パターンが配置された回路基板と、前記基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層の一部が前記基材を前記基材の厚み方向に貫通して前記導電性パターンが配置された前記一面側にリブ体またはボス体として突出し、前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通すように接着層を介して覆う突出体と、前記導電性パターンが前記突出体に覆われた領域の前記基材の前記他面に密着して固定され前記樹脂層の侵入を規制する侵入規制体と、がインサート成形によって一体成形された電子装置であって、
前記インサート成形時に、前記突出体が前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通すように前記樹脂層と接着層を介して一体に形成されている、
ことを特徴とする。
【0015】
前記課題を解決するために、請求項7に記載の電子装置の製造方法は、
基材の一面に導電性パターンが配置された回路基板と、
前記基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層の一部が前記基材を前記基材の厚み方向に貫通して前記導電性パターンが配置された前記一面側にリブ体またはボス体として突出し、前記導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通すように接着層を介して覆う突出体と、
前記導電性パターンが前記突出体に覆われた領域の前記基材の前記他面に密着して固定され前記樹脂層の侵入を規制する進入規制体と、を備えた電子装置の製造方法であって、
前記基材を準備する工程と、
前記基材上に前記導電性パターンを配置する工程と、
前記基材に貫通孔を形成する工程と、
前記導電性パターンの前記突出体に覆われる領域の前記基材の前記他面に前記進入規制体を張り合わせる工程と、
前記貫通孔が形成された前記基材を金型に載置して前記樹脂層と前記突出体を射出成形する工程と、を含む、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、一面に樹脂で形成された凸形状を有する回路基板の基材上に形成された導電性パターンを凸形状の下に屈曲させずに通過させることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、突出体と導電性パターンを密着させることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、導電性パターンを外部から不可視にすることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、回路基板を透光性にすることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、回路基板に3次元形状を付与することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、突出体を樹脂層と同時に形成することができる。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、基材上に形成された導電性パターンを有する回路基板上に基材の変形を抑制しながら導電性パターンを屈曲させずに通すように突出体を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態に係る電子装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2Aは本実施形態に係る電子装置の一例を示す平面模式図、
図2Bは電子装置の導電性パターンに沿った断面模式図、
図2Cは電子装置の導電性パターンと交差する方向の断面模式図である。
【
図3】貫通孔が形成された回路基板の一例を示す平面模式図である。
【
図4】
図4Aは基材に貫通孔が形成され金型に載置される状態の回路基板を示す平面図、
図4Bは突出体を形成する金型内における樹脂の流動を説明する断面模式図である。
【
図5】
図5Aは変形例に係る電子装置の一例を示す平面模式図、
図5Bは変形例に係る電子装置の一例を示す断面模式図である。
【
図6】電子装置の製造方法の概略の手順の一例を示すフローチャート図である。
【
図7】電子装置の製造過程を説明するための電子装置の部分断面模式図である。
【
図8】変形例に係る電子装置の製造方法の概略の手順の一例を示すフローチャート図である。
【
図9】変形例に係る電子装置の製造過程を説明するための電子装置の部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に図面を参照しながら、本発明の実施形態の具体例を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
尚、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0028】
(1)電子装置の全体構成
図1は本実施形態に係る電子装置1の一例を示す斜視図、
図2Aは本実施形態に係る電子装置1の一例を示す平面模式図、
図2Bは電子装置1の導電性パターン3に沿った断面模式図、
図2Cは電子装置1の導電性パターン3と交差する方向の断面模式図、
図3は貫通孔2cが形成された回路基板4の一例を示す平面模式図、
図4Aは基材2に貫通孔2cが形成され金型Kに載置される状態の回路基板4を示す平面図、
図4Bは突出体6を形成する金型K内における樹脂の流動を説明する断面模式図である。
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る電子装置1の構成について説明する。
【0029】
電子装置1は、
図1及び
図2に示すように、基材2の一面2a上に導電性パターン3が配置された回路基板4と、基材2の一面2aとは反対側の他面2bを覆う樹脂層5と、基材2を基材2の厚み方向に貫通して一面2a側に突出し、導電性パターン3の少なくとも一部を屈曲させずに通すように覆う突出体6と、を備えて構成されている。
【0030】
(基材)
本実施形態における基材2は、合成樹脂材料からなり変形可能な絶縁性のフィルム状の基材として説明するが、フィルム状の基材に限定されず、樹脂基材、セラミック基材、及びガラス基材等を使用することができる。ここで、「変形可能な基材」は、導電性パターン3を配置後に変形できる、すなわち、熱成形、真空成形または圧空成形によって実質的に平坦な2次元形状から実質的に3次元形状に変形することができる基材を意味する。
【0031】
基材2の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ナイロン6-10、ナイロン46などのポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ABS、PMMA、ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
特にポリエステルがより好ましく、さらにその中でもポリエチレンテレフタレート(PET)が経済性、電気絶縁性、耐薬品性等のバランスが良く最も好ましい。
【0032】
基材2の一面2aには、金属ナノ粒子等の触媒インクを均一に塗布するために、表面処理を施すことが好ましい。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、溶剤処理、プライマー処理を用いることができる。
【0033】
(導電性パターン)
基材2の一面2aに導電性パターン3を配置する場合、さきに、金属めっき成長のきっかけとなる金属ナノ粒子等の触媒からなる下地層(不図示)を所定のパターン状に形成する。下地層は、基材2上に金属ナノ粒子等の触媒インクを塗布したあと、乾燥および焼成を行うことにより形成する。
【0034】
下地層の厚み(μm)は、0.1~20μmが好ましく、0.2~5μmがさらに好ましく、0.5~2μmが最も好ましい。下地層が薄すぎると、下地層の強度が低下するおそれがある。また、下地層が厚すぎると、金属ナノ粒子は通常の金属よりも高価であるため、製造コストが増大する虞がある。
【0035】
触媒の材料としては、金、銀、銅、パラジウム、ニッケルなどが用いられ、導電性の観点から金、銀、銅が好ましく、金、銀に比べて安価な銅が最も好ましい。
【0036】
触媒の粒子径(nm)は1~500nmが好ましく、10~100nmがより好ましい。粒子径が小さすぎる場合、粒子の反応性が高くなりインクの保存性・安定性に悪影響を与える虞がある。粒子径が大きすぎる場合、薄膜の均一形成が困難になるとともに、インクの粒子の沈殿が起こりやすくなる虞がある。
【0037】
導電性パターン3は、下地層の上に電解めっきまたは無電解めっきにより形成される。めっき金属としては、銅、ニッケル、錫、銀、金などを用いることができるが、伸長性、導電性および価格の観点から銅を用いることが最も好ましい。
【0038】
めっき層の厚さ(μm)は、0.03~100μmが好ましく、1~35μmがより好ましく、3~18μmが最も好ましい。めっき層が薄すぎると、機械的強度が不足するとともに、導電性が実用上十分に得られない虞がある。めっき層が厚すぎると、めっきに必要な時間が長くなり、製造コストが増大する虞がある。
【0039】
導電性パターン3は、
図1、
図2及び
図3においては、タッチセンサ3Aとして配置されている例を示しているが、導電性パターン3には、複数の電子部品が取り付けられてもよい。電子部品としては、制御回路、歪み、抵抗、静電容量、TIRなどの接触感知、および光検出部品、圧電アクチュエータまたは振動モータなどの触知部品または振動部品、LEDなどの発光部品、マイクおよびスピーカーなどの発音または受音、メモリチップ、プログラマブルロジックチップおよびCPUなどのデバイス操作部品、デジタル信号プロセッサ(DSP)、ALSデバイス、PSデバイス、処理デバイス、MEMS等が挙げられる。
【0040】
基材2には、厚み方向に貫通する貫通孔2cが形成されている。貫通孔2cは、後述する突出体6を射出成形により形成する際に、樹脂層5を形成するキャビティCA1と突出体6を形成するキャビティCA2とを連通する孔であり、射出成形される溶融樹脂の流路となる。貫通孔2cは、形成される突出体6の形状及び大きさに合わせて、その形状、大きさ、数が適宜設定される。
【0041】
(樹脂層)
樹脂層5は、基材2の導電性パターン3が配置された一面2aとは反対側の他面2bに対して接着層ADを介して基材2の他面2bを覆うように形成されている。接着層ADは、導電性パターン3を外部から不可視に覆い隠すように調色されてもよい。また、樹脂層5は接着層ADを透光性とした上で樹脂材料を透明樹脂材料とすることで、例えば電子装置1の内部に加飾が施された場合に、加飾を保護しながら視認可能とすることができる。
【0042】
樹脂層5は、射出成形可能な熱可塑性樹脂材料からなる熱可塑性樹脂である。具体的には、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド(PA)、アクリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、変性ポリフェニレンオキサイト(m-PPO)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、またはこれらの混合物を含む熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0043】
(突出体)
突出体6は、基材2を基材2の厚み方向に貫通して基材2の一面2a側に突出して形成され、基材2の一面2aに配置された導電性パターン3の少なくとも一部を屈曲させずに通すように覆っている。本実施形態においては、突出体6は、一例として、その下面に通した導電性パターン3とは交差する方向に延在するリブ体として形成され、電子装置1の曲げ剛性を高めている。
尚、突出体6としては、リブ体に限らず、基材2の一面2a側に突出して形成され、基材2の一面2aに配置された導電性パターン3の少なくとも一部を屈曲させずに通すように覆っているボス体(不図示)であってもよい。ボス体を形成することで、電子装置1をボス体を利用して他の部材に取り付けることができる。
【0044】
突出体6は、
図4Bに示すように、基材2の一面2aに導電性パターン3が配置され、突出体6形成のための貫通孔2cが設けられた回路基板4(
図4A 参照)を金型Kに載置して固定した状態で、樹脂層5をインモールド成形することで、樹脂層5と一体として形成される。樹脂層5を形成する熱可塑性樹脂が基材2に設けられた貫通孔2cから基材2の導電性パターン3が配置された一面2a上に流動して(
図4B中 矢印で示す)導電性パターン3を覆うことで、突出体6は、その下面に導電性パターン3を屈曲させずに通すように形成される。
【0045】
このように、突出体6は、基材2の他面2bを覆う樹脂層5と一体として形成されることから、樹脂層5と同じ射出成形可能な熱可塑性樹脂材料からなる。また、突出体6と導電性パターン3との間には接着層ADが設けられていることが望ましい。接着層ADとしては、導電性パターン3が配置されている基材2及び突出体6の素材と相性のよい樹脂を含むバインダーインクが挙げられる。
例えば、基材2がPET樹脂フィルムで、樹脂層5と一体に二次成形される突出体6が、PC、PET、PMMA、PA、ABS、PE、PP、m-PPE、m-PPO、COC、COPからなる群より選択される材料を含む場合、それぞれの樹脂材料と相溶性が高い樹脂として、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリウレタン系樹脂等からなる群より選択して使用することもできる。また、接着層ADの厚みは0.5~50μmが好ましい。尚、接着層ADに代えて、導電性パターン3及び基材2の一面2aにコロナ処理、プラズマ処理、溶剤処理、プライマー処理を施してもよい。
【0046】
「変形例」
図5Aは変形例に係る電子装置1Aの一例を示す平面模式図、
図5Bは変形例に係る電子装置1Aの一例を示す断面模式図である。
変形例に係る電子装置1Aは、導電性パターン3の突出体6に覆われた領域において、基材2と樹脂層5との間に樹脂層5の侵入を規制する進入規制体7を備えている。
【0047】
進入規制体7は、樹脂層5の形成に先だって、導電性パターン3の突出体6に覆われる領域に基材2の他面2bに密着するように、接着により固定される。接着の方法としては、溶融樹脂の樹脂圧により進入規制体7がずれないように、接着剤で固定する、両面テープで張り合わせる等が挙げられる。
進入規制体7の材料は特に限定されないが、樹脂層5の材料と同じ熱可塑性樹脂材料で形成されているのが好ましい。
【0048】
進入規制体7は、樹脂層5を射出成形で形成する際に、樹脂層5と一体として形成される突出体6で覆われる導電性パターン3が形成された領域における基材2の他面2bへの樹脂層5の進入を規制して樹脂層5を射出成形する際の樹脂圧による基材2の変形を抑制している。
【0049】
(2)電子装置の製造方法
図6は電子装置1の製造方法の概略の手順の一例を示すフローチャート図、
図7は電子装置1の製造過程を説明するための電子装置1の部分断面模式図である。
【0050】
電子装置1は、
図6に示すように、基材2の準備工程S11と、基材2上に導電性パターン3を形成する配線用めっき工程S12と、導電性パターン3が配置された基材2に貫通孔2cを設ける貫通孔形成工程S13と、基材2を射出成形用金型に位置決めして、基材2の他面2bを覆う樹脂層5と基材2の一面2a側に突出して導電性パターン3の少なくとも一部を通すように覆う突出体6とを一体として二次モールドする樹脂充填工程S14と、を経て製造される。
【0051】
(基材の準備工程S11)
基材の準備工程S11においては、まず、所定の形状及び大きさに形成された実質的に平坦なフィルム状の基材2に導電性パターン3を配置するために、基材2上に金属めっき成長のきっかけとなる金属ナノ粒子等の触媒粒子からなる下地層を所定のパターン状に形成する。尚、基材2には、金属ナノ粒子等の触媒粒子からなる触媒インクを均一に塗布するために、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、溶剤処理、プライマー処理等の表面処理を施すことが好ましい。
【0052】
基材2上に金属ナノ粒子等の触媒粒子からなる触媒インクを塗布する方法としては、インクジェット印刷方式、シルクスクリーン印刷方式、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式、ローラーコーター方式、刷毛塗り方式、スプレー方式、ナイフジェットコーター方式、パッド印刷方式、グラビアオフセット印刷方式、ダイコーター方式、バーコーター方式、スピンコーター方式、コンマコーター方式、含浸コーター方式、ディスペンサー方式、メタルマスク方式が挙げられるが、本実施形態においてはインクジェット印刷方式を用いている。
【0053】
具体的には、1000cps以下、例えば、2cpsから30cpsの低粘度の触媒インクをインクジェット印刷方式で塗布した後、溶媒を揮発させ金属ナノ粒子のみを残す。その後、溶媒を除去し(乾燥)、金属ナノ粒子を焼結させる(焼成)。
焼成温度は、100°C~300°Cが好ましく、150°C~200°Cがより好ましい。焼成温度が低すぎると、金属ナノ粒子同士の焼結が不十分となるとともに、金属ナノ粒子以外の成分が残ることで、密着性が得られない虞がある。また、焼成温度が高すぎると、基材2の劣化や歪みが発生する虞がある。
【0054】
(配線用めっき工程S12)
基材2上に形成された下地層に対し、電解めっきまたは無電解めっきを行うことにより、下地層の表面および内部にめっき金属を析出させ導電性パターン3を配置する(
図7A 参照)。めっき方法は公知のめっき液およびめっき処理と同様であり、具体的に無電解銅めっき、電解銅めっきが挙げられる。
【0055】
(貫通孔形成工程S13)
導電性パターン3が配置された基材2に、基材2の厚み方向に貫通する貫通孔2cを形成する(
図7B 参照)。貫通孔2cは、樹脂層5を形成するキャビティCA1と突出体6を形成するキャビティCA2とを連通する孔であり、突出体6の形状及び大きさに合わせて、溶融樹脂が通過できる大きさで、少なくとも1つ以上形成される。本実施形態においては、突出体6が、例えば、導電性パターン3と交差する方向に延びるリブ体である場合、貫通孔2cは、形成されるリブ体の長さ方向に沿って2か所設けられる。
【0056】
(樹脂充填工程S14)
樹脂充填工程S14では、まず、貫通孔形成工程S13で貫通孔2cが形成された基材2の導電性パターン3が配置された一面2aとは反対側の他面2b及び突出体6が形成され突出体6と接触する一面2aに基材2と樹脂層5の樹脂素材の組み合わせに応じて接着層ADを形成するバインダーインクを塗布する(
図7C 参照)。また、突出体6が形成される領域の導電性パターン3にも接着層ADを形成するバインダーインクを塗布する。バインダーインクは、接着性樹脂を含み、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スプレーコート、筆塗り等で塗布され、基材2と射出成形される樹脂層5及び導電性パターン3と突出体6との接着性を向上させる。
【0057】
次に、貫通孔2cが形成され導電性パターン3が配置された基材2を射出成形用金型に位置決めしてセットした状態(
図7D 参照)で金型Kを閉じて樹脂をキャビティCA1に充填する。キャビティCA1に充填された樹脂により、基材2の他面2bを覆う樹脂層5が形成される。そして、キャビティCA1に充填される樹脂は、基材2に形成された貫通孔2cから基材2の、導電性パターン3が配置された一面2a側に形成されたキャビティCA2に充填される。キャビティCA2に充填された樹脂により、導電性パターン3をその下面に通すように覆う突出体6が形成される。
【0058】
このように、本実施形態に係る電子装置1の製造方法によれば、基材2上に形成された導電性パターン3を有する回路基板4上に、導電性パターン3を屈曲させずに通すように突出体6を設けることができる。
【0059】
「変形例」
図8は変形例に係る電子装置1Aの製造方法の概略の手順の一例を示すフローチャート図、
図9は変形例に係る電子装置1Aの製造過程を説明するための電子装置1Aの部分断面模式図である。
【0060】
変形例に係る電子装置1Aは、
図8に示すように、基材2の準備工程S21と、基材2上に導電性パターン3を形成する配線用めっき工程S22と、導電性パターン3が配置された基材2に貫通孔2cを設ける貫通孔形成工程S23と、基材2の他面2b側で突出体6に覆われる領域に進入規制体7を接着する進入規制体接着工程S24、基材2を射出成形用金型に位置決めして、基材2の他面2bを覆う樹脂層5と基材2の一面2a側に突出して導電性パターン3の少なくとも一部を通すように覆う突出体6とを一体として形成する樹脂充填工程S25と、を経て製造される。
【0061】
変形例に係る電子装置1Aの製造工程における、基材2の準備工程S21、配線用めっき工程S22(
図9A 参照)、貫通孔形成工程S23(
図9B 参照)、樹脂充填工程S25(
図9E 参照)は、上述した電子装置1の製造過程と同一であるために、その説明は省略して、進入規制体接着工程S24以降について説明する。
【0062】
(進入規制体接着工程S24)
基材2の準備工程S21、配線用めっき工程S22、貫通孔形成工程S23を経て、導電性パターン3が配置され、貫通孔2cが形成された基材2の導電性パターン3が突出体で覆われる領域の基材2の他面2bに進入規制体7を接着により取り付ける(
図9D 参照)。
【0063】
(樹脂充填工程S25)
樹脂充填工程S25では、まず、進入規制体接着工程S24で進入規制体7が接着された基材2の、導電性パターン3が配置された一面2aとは反対側の他面2b及び突出体6が形成され突出体6と接触する一面2aに接着層ADを形成するバインダーインクを塗布する(
図9C 参照)。また、突出体6が形成される領域の導電性パターン3にも接着層ADを形成するバインダーインクを塗布する。
【0064】
次に、貫通孔2cが形成され進入規制体7が接着された基材2を射出成形用金型に位置決めしてセットした状態で金型Kを閉じて(
図9E 参照)樹脂をキャビティCA1に充填する。キャビティCA1に充填された樹脂により、基材2の他面2bを覆う樹脂層5が形成される。このとき、進入規制体7が接着されている領域の基材2の他面2bには、溶融樹脂は進入することができず、溶融樹脂の樹脂圧による基材2の変形が抑制される。
【0065】
そして、キャビティCA1に充填される樹脂は、基材2に形成された貫通孔2cから基材2の導電性パターン3が配置された一面2a側に形成されたキャビティCA2に充填される。キャビティCA2に充填された樹脂により、導電性パターン3をその下面に通すように覆う突出体6が形成される。
【0066】
このように、本実施形態の変形例に係る電子装置1Aの製造方法によれば、基材2上に形成された導電性パターン3を有する回路基板4上に基材2の変形を抑制しながら導電性パターン3を屈曲させずに通すように突出体6を設けることができる。
【符号の説明】
【0067】
1、1A・・・電子装置
2・・・基材
2a・・・一面(導電性パターン3側)
2b・・・他面(樹脂層5側)
2c・・・貫通孔
3・・・導電性パターン
4・・・回路基板
5・・・樹脂層
6・・・突出体
7・・・進入規制体
AD・・・接着層
【要約】
一面に樹脂で形成された凸形状を有する回路基板の基材上に形成された回路パターンを凸形状の下に通過させて配置することができる電子装置及び製造方法を提供する。
基材の一面に導電性パターンが形成された回路基板と、基材の一面とは反対側の他面を覆う樹脂層と、基材を基材の厚み方向に貫通して一面に突出し、導電性パターンの少なくとも一部を屈曲させずに通すように覆う突出体と、を備え、突出体は、樹脂層と一体に形成されている。