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  • 特許-鉛フリーはんだ合金及びはんだ継手 図1
  • 特許-鉛フリーはんだ合金及びはんだ継手 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】鉛フリーはんだ合金及びはんだ継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20220414BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
C22C13/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017211763
(22)【出願日】2017-11-01
(65)【公開番号】P2019084534
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(73)【特許権者】
【識別番号】511158731
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ クイーンズランド
【氏名又は名称原語表記】The Universtiy of Queensland
【住所又は居所原語表記】St Lucia Brisbane QLD 4072 Australia
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】野北 和宏
(72)【発明者】
【氏名】シン フー タン
(72)【発明者】
【氏名】モホッド アリフ アヌアー モホッド サーレ
(72)【発明者】
【氏名】スチュワート マクドナルド
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-254298(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023440(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/090622(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~3.5質量%のAg、2.0超過~7.6質量%のCu、0超過~2質量%のMgを含み、残部がSnであることを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
Agを3.00質量%、Cuを5.00質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
Mgを0超過~0.2質量%含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項4】
Mgを0.025~0.05質量%含むことを特徴とする請求項1からの何れか一つに記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
請求項1からの何れか一つに記載の鉛フリーはんだ合金を用いて接合されているはんだ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mgを含む鉛フリーはんだ合金及び該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
2006年から電子機器における鉛使用の規制が始まり、これによって、Sn-Ag-Cu系のはんだ合金が最も広く普及されたはんだ合金として浮上した。しかし、Sn-Ag-Cu系はんだにおいては、CuSn金属間化合物(IMC)の粗粒が形成され、これは、はんだ接合の機械的安全性において最も大きい問題の一つである。
【0003】
すなわち、CuSnは鉛フリーはんだに形成される主な金属間化合物である。Sn-3重量%Ag-5重量%Cuの高温はんだ合金はAl基板の接合によく使われるが、CuSnがはんだバルクに形成される。Sn-3重量%Ag-5重量%Cuの高温はんだ合金は従来のはんだ合金に比べてCuの含有量が高いので、はんだバルクにおけるCuSnの体積分率は一層高い。
【0004】
また、特許文献1においては、共晶Sn-Cu-Ag系鉛フリーはんだ材料に実質的に溶解しない元素を含む微粒子を添加し、接合部の金属組織をより微細化することについて開示されており、前記元素として選択的にAlが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-319470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、Sn-xAg-yCu系合金(xは1~3.8重量%、yは1重量%未満)に微量のAlを添加した場合の影響については広く研究がされている。しかし、xが0でなく、yがはるかに高い5重量%である、高温Sn-xAg-yCu系はんだ合金に対する研究は報告されていない。そこで、本発明の発明者らは、Sn-xAg-yCu系合金に対して微量のMgを添加した場合の影響に着目した。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてされたものであり、その目的とするところは、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだ合金に微量のMgを添加することによって、はんだ合金(はんだバルク)及びはんだ継手の機械的特性(例えば、接続強度等)を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鉛フリーはんだ合金は、0.1~3.5重量%のAg、0.7~7.6重量%のCu、0超過~2重量%のMgを含み、残部がSnであることを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、鉛フリーはんだ合金が、0.1~3.5重量%のAg、0.7~7.6重量%のCu、0超過~2重量%のMg、及び、残部のSnからなり、Mgの添加によって、はんだ合金の機械的特性が改善される。
【0010】
本発明に係る鉛フリーはんだ合金は、Cuを2.0~7.7重量%含むことを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、鉛フリーはんだ合金が、Cuを2.0~7.7重量%含むことが更に好ましい。
【0012】
本発明に係る鉛フリーはんだ合金は、Agを3.00重量%、Cuを5.00重量%含むことを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、鉛フリーはんだ合金が、Agを3.00重量%、Cuを5.00重量%含むことが更に好ましい。
【0014】
本発明に係る鉛フリーはんだ合金は、Mgを0超過~0.2重量%含むことを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、鉛フリーはんだ合金が、Mgを0超過~0.2重量%含むことが更に好ましい。
【0016】
本発明に係る鉛フリーはんだ合金は、Mgを0.025~0.05重量%含むことを特徴とする。
【0017】
本発明にあっては、鉛フリーはんだ合金が、Mgを0.025~0.05重量%含むことが更に好ましい。
【0018】
本発明に係るはんだ継手は、前述の発明の何れか一つに記載の鉛フリーはんだ合金を用いて接合されている。
【0019】
本発明にあっては、例えば、2つの被接合部材の接合に、上述した鉛フリーはんだ合金が用いられている。すなわち、斯かる2つの被接合部材の間に、前記鉛フリーはんだ合金のはんだバルクが介在し、夫々の被接合部材が斯かるはんだバルクと接合している。前記鉛フリーはんだ合金は、上述したように機械的特性に優れているので、斯かるはんだ継手の接合強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Sn-Ag-Cu系の鉛フリーはんだ合金に微量のMgを添加して、機械的特性を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態に係る継手を概略的に説明する説明図である。
図2】はんだ継手のMg添加はんだ合金の微細構造を40倍で観察した走査型電子顕微鏡(SEM)/反射電子像(BSE)である。
図3】はんだ継手のMg添加はんだ合金の微細構造を600倍で観察したSEM/BSEである。
図4】はんだ継手のMg添加はんだ合金の微細構造を1200倍で観察したSEM/BSEである。
図5】Mgの添加量に対するCuSnデンドライトの特性長さをプロットしたグラフである。
図6】Mgを微量添加したSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金のSEM/BSEである。
図7】Mgの添加量に対する、各サンプルでのSn/AgSn共晶の過冷量及びCuSnの核生成温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態に係る鉛フリーはんだ合金及びはんだ継手について、図面に基づいて詳述する。
【0023】
本実施の形態に係るはんだ継手においては、例えば、純アルミニウム(Al)又は銅(Cu)基板に、Mgが添加されたSn‐Ag‐Cu系の鉛フリーはんだ合金のはんだ付けを行った。
【0024】
すなわち、本実施の形態に係る鉛フリーはんだ合金は、Cuを5重量%含み、Agを3重量%含んでおり、Mgが例えば0超過~2重量%添加され、残部をSnにしている。すなわち、本実施の形態に係る鉛フリーはんだ合金はMgが添加されたSn‐Ag‐Cu系のはんだ合金である。
【0025】
本実施の形態において、Mgが添加されたSn‐Ag‐Cu系のはんだ合金は、市販のSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金とSn‐2Mg母合金とを黒鉛るつぼ内で混合した混合物を炉内で450℃に加熱してから、60分間炉内に放置することによって得られた。
【0026】
このような、Mgの添加されたSn‐Ag‐Cu系はんだ合金を用いて、例えば、Al基板へのはんだ付けを行い、本実施の形態に係るはんだ継手を作成した。図1は本実施の形態に係る継手を概略的に説明する説明図である。
【0027】
はんだ継手3において、各Al基板2は、例えば、幅3mm、厚み1mm、長さ25mmである短冊状を有している。両Al基板2がその長手方向に連なるように、両Al基板2の端部同士が、Mgの添加されたSn‐Ag‐Cu系のはんだ合金1(以下、単にMg添加はんだ合金1と言う。)によって接合されている。この際、各Al基板2は先端から約6mmの範囲にMg添加はんだ合金1が介在している。
【0028】
このように製作されたはんだ継手3のMg添加はんだ合金1(はんだバルク)部分の微細構造を観察した。斯かる微細構造の観察は、SEM/(エネルギー分散形X線分光器)EDS装置(日立製TM3030)を用いて行われた。SEMを用いて観察した本実施の形態に係るはんだ継手3の微細構造を図2及び図3に示す。図2ははんだ継手3のMg添加はんだ合金の微細構造を40倍で観察した走査型電子顕微鏡(SEM)/反射電子像(BSE)であり、図3ははんだ継手3のMg添加はんだ合金の微細構造を600倍で観察したSEM/BSEである。また、図4ははんだ継手3のMg添加はんだ合金の微細構造を1200倍で観察したSEM/BSEである。なお、図2図4において、濃い色の部分はCuSnデンドライトであり、背景におけるより薄色部分はSn/AgSn共晶マトリックスである。
【0029】
CuSnデンドライトの特性長さは、SEM上で各サンプルに対して少なくとも5つのCuSnデンドライトを測定し、最長値を選択した。これは、最大値がCuSn一次デンドライトの成長における変化の具合を表すのにおいて最も適しているからである。
【0030】
観察の結果、Mgが少なくとも2重量%添加されるまでは、CuSnデンドライトの長さが短くなり、共晶のAgSnが微細化することが分かった。以下に、観察結果の一部を示す。
【0031】
図2A図3A図4AはSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金に0.025重量%のMgが添加された場合であり、図2B図3B図4BはSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金に0.1重量%のMgが添加された場合であり、図2C図3C図4CはSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金に0.2重量%のMgが添加された場合である。
【0032】
Mgが添加されていないSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金では、長いCuSn一次デンドライト及びCuSn二次デンドライトが主な組織として観察される(図2A及び図3A参照)。
【0033】
また、図2及び図3から分かるように、Mgの添加量が増加するにつれて、CuSn一次デンドライトの長さは著しく短くなり、CuSn二次デンドライトの成長も抑制されている。そして、図4から分かるように、Mgの添加量が増加するにつれて、共晶のAgSnが微細化している。
【0034】
図5は、Mgの添加量に対するCuSnデンドライトの特性長さをプロットしたグラフである。
【0035】
図5から分かるように、Mgの添加量が増加することにつれて、CuSnデンドライトの微細構造(長さ)が顕著に微細化される。0.025重量%~0.05重量%のMgを添加するまでは、CuSnデンドライトの微細構造は微細化が急激に進み、微細化を続ける。しかし、Mgの添加量が0.05重量%を超えた場合、CuSnデンドライトの長さは少しずつ増加する。この場合においても、Mgを添加していない場合に比べて、CuSnデンドライトの微細構造は微細化している。図5には図示しないが、Mgの添加量が2重量%であるまでは、CuSnデンドライトの長さは増加を続ける。
【0036】
以上のことから、Mgの添加によってCuSnデンドライトの長さを抑制するためには、Mgを0超過~2重量%添加すれば良い。好ましくは、Mgを0超過~0.2重量%添加すれば良い。更には、Mgの添加量を0.025重量%~0.05重量%にすることがより好ましい。
【0037】
図6は、Mgを微量添加したSn-3重量%Ag-5重量%Cu合金のSEM/BSEである。また、図6では、Mg添加はんだ合金1(はんだバルク)において、Mgを多量に含む粒子(以下、Mgリッチ粒子という。)を示している。更に、図6においては、斯かるMgリッチ粒子に対するEDSの分析結果を共に示している。
【0038】
図6に示すように、Mgリッチ粒子はCuSnデンドライトと接触して形成されている。すなわち、これらMgリッチ粒子はCuSnの成長における不均一核生成サイトとしての役割をなす。その結果、CuSnデンドライトの粒子(長さ)が微細化されている。
なお、このようなMgリッチ粒子はMgSn又はMgOであると推測される。
【0039】
このように微細化されたCuSnデンドライトは、はんだ継手3(はんだバルク)の機械的性質を改善する。すなわち、本実施の形態に係るはんだ継手3のように、微量のMgが添加されたSn-3重量%Ag-5重量%Cuはんだ合金を用いて接合を行った場合、接合強度を高めることができる。
【0040】
図4には、Sn/AgSn共晶マトリックス内における微細な板状のAgSn金属間化合物が示されている。図4に依れば、0.1重量%以上のMgが添加されると、Sn/AgSn共晶の微細構造が顕著に微細化していることが分かる。
【0041】
これに鑑みると、0.1重量%以上のMg添加の場合、CuSn粒子サイズ(デンドライト長さ)が大きくなることは(図5参照)、MgがSn/AgSn共晶に対して高い親和力を有ることに起因すると考えられ、その結果、Sn/AgSn共晶の微細化が優先的に起きる。
【0042】
図7は、Mgの添加量に対する、各サンプルでのSn/AgSn共晶の過冷量(ΔT)及びCuSnの核生成温度変化を示すグラフである。図7において、「○」点を結ぶ実線はSn/AgSn共晶の過冷量(左縦軸)の変化を示しており、「●」点を結ぶ破線はCuSnの核生成温度変化(右縦軸)を示している。
【0043】
図7に示すように、Mgの添加量が増加するにつれて、過冷量は減少する。詳しくは、Mgが0.025重量%添加されるまでは、過冷量は急激に減少する。以降、Mgの添加量が増加するにつれて、過冷量は徐々に減少を続ける。
【0044】
一般に、Alが添加された合金においては、過冷量の減少がAgSn共晶の形成を抑制すると言われている。しかし、本実施の形態においては、その逆の結果が得られた。すなわち、Mgを添加することによって過冷量が減少するものの、過冷量の減少はSn/AgSn共晶の微細構造の微細化をもたらしている(図4参照)。
【0045】
また、図7に示すように、Mgの添加量を徐々に増加させた場合、Mgの添加量が少ない初期のみ、CuSnの核生成温度が上昇している。詳しくは、Mgが0.1重量%添加されるまでは、CuSnの核生成温度は上昇し、Mgの添加量が0.1重量%であるときに最高点になる。その後、Mgの添加につれてCuSnの核生成温度は下降し、Mgの添加量が0.2重量%であるときは、Mgが添加されていない場合と同程度の核生成温度となる。
【0046】
以上の記載のように、本実施の形態に係るはんだ継手3(Mg添加はんだ合金1)においては、Mgが0超過~2重量%添加された場合、好ましくは、0超過~0.2重量%添加された場合、より好ましくは、Mgが0.025~0.05重量%添加された場合、生成されるCuSn金属間化合物(デンドライト)の長さを抑制し、更に共晶のAgSnを微細化できるので、接合強度を含む機械的特性を高めることができる。
【0047】
以上においては、Agが3重量%であってCuが5重量%である場合を例に挙げて説明したが、本実施の形態はこれに限るものでない。Agは0.1~3.5重量%範囲であれば良く、Cuは0.7~7.6重量%範囲であれば良い。更に、Cuについては、2.0~7.6重量%であることが好ましい。
【符号の説明】
【0048】
1 Mg添加はんだ合金
2 基板
3 はんだ継手
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7