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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】データを提供する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20220414BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
G01N11/00 C
G01N33/50 X
G01N11/00 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019510809
(86)(22)【出願日】2017-08-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 AU2017050900
(87)【国際公開番号】W WO2018035569
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】2016903362
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506018639
【氏名又は名称】ロイヤル・メルボルン・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(73)【特許権者】
【識別番号】510174130
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ メルボルン
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ダウニー,ローラ・エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ヨ,レスリー
(72)【発明者】
【氏名】マクドネル,アマリン・ジョージ
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/160168(WO,A1)
【文献】特表2009-535620(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093209(WO,A1)
【文献】特表2012-531595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0224190(US,A1)
【文献】John M. Tiffany,The viscosity of human tears,Intermational Ophthalmology,15,1991年,371-376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
G01N 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED)を評価するためのデータを提供する方法であって、以下の工程:
弾性波駆動微少流体伸長レオメトリー(ADMiER)機器を用いて、前記被験体の涙液サンプルの糸状流動化動態を測定することであって、前記測定された糸状流動化動態が、前記涙液サンプルの少なくとも1つの伸長粘性測定を含むこと
前記涙液サンプルの前記測定された糸状流動化動態の少なくとも1つの伸長粘性測定に少なくとも部分的に基づいて、前記涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値を算出すること;及び
前記涙液サンプルの前記算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいてDEDを評価するためのデータを提供すること;
を包含している、
上記方法。
【請求項2】
糸状流動化動態を測定することは、以下の工程:
前記ADMiER機器を用いて前記涙液サンプルの糸状流動化データを取得することであって、糸状流動化データを取得することは、以下の工程:
前記ADMiER機器を用いて前記涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジを形成すること;及び
糸状流動化の間に前記流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化の測定をすること;
を包含すること;並びに
前記糸状流動化データを分析して前記糸状流動化動態を測定すること;
を包含している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流体毛管現象ブリッジを形成する工程が、以下の工程:
流体毛管現象ブリッジが形成されうる対向する2つのプレートと、前記プレートの1つの上に配置された作動面を有する弾性波アクチュエータとを有するADMiER機器を提供すること;
前記涙液サンプルを前記弾性波アクチュエータの前記作動面に施与すること;及び
前記プレート間に前記涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジを生成するために前記弾性波アクチュエータに通電すること;
を包含し、
前記弾性波アクチュエータは、
表面弾性波(SAW)、
バルク波、
表面反射バルク波(SRBW)、又は
それらの組み合わせ
を用いるように構成されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ADMiER機器は、糸状流動化の間に前記流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化を測定するためのセンサを含んでいる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
DEDを評価するためのデータを提供することは、以下の工程:
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値を、DEDを評価するための1以上の基準値と比較すること; 及び
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値と、DEDを評価するための前記1以上の基準値との比較に基づいてDEDを評価するためのデータを提供すること;
を包含している、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
DEDを評価するためのデータを提供することが、以下の工程:
DEDの存在を診断するためのデータを提供すること;
DEDの重症度を評価するためのデータを提供すること;及び
DEDの臨床的サブタイプを識別すること;
のうちの1以上を包含している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値が、DEDの存在を示す閾値未満又は基準値の範囲内にあるときに、前記DEDの存在を示すデータを提供する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記DEDの重症度を評価するためのデータを提供することは、境界域DED又は確定的DEDとして重症度を分類する工程を包含する、請求項6又は請求項7に記載の方法。
【請求項9】
DEDの臨床的サブタイプを識別することは、DEDの臨床的サブタイプを涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方として分類する工程を包含する、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
DEDの前記評価の1以上の結果を提供する工程をさらに包含し、
前記1以上の結果が、
DEDの存在、
境界域DED又は確定的DED、
軽度、中程度、又は重度の確定的DED、
涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED、及び
主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDED、
のうちの1以上を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値は、
表面/界面の張力、
表面/界面の粘性、
表面/界面の弾性、
最終破壊時間、
緩和時間、
ずり粘度及び伸長粘性
を含むグループのうちの1つから選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED)を評価するための装置であって、
弾性波駆動微少流体伸長レオメトリー(ADMiER)機器、並びに
処理装置であって、
前記ADMiER機器を用いて、前記被験体の涙液サンプルの糸状流動化動態を測定するように構成され、前記測定された糸状流動化動態が、前記涙液サンプルの少なくとも1つの伸長粘性測定を含み
前記涙液サンプルの前記測定された糸状流動化動態の少なくとも1つの伸長粘性測定に少なくとも部分的に基づいて、前記涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値を算出するように構成され、及び
前記涙液サンプルの前記算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいてDEDを評価するように構成された
処理装置
を含み、
前記処理装置は、
前記ADMiER機器を用いて得られた前記涙液サンプルの糸状流動化データを受け取ること、及び
前記糸状流動化データを分析して糸状流動化動態を測定すること
によって、糸状流動化動態を測定するように構成されている、上記装置。
【請求項13】
前記糸状流動化データは、糸状流動化中の前記涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化を含み、前記流体毛管現象ブリッジが、前記ADMiER機器を用いて形成される、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記ADMiER機器は、
流体毛管現象ブリッジがそれらの間に形成されうる対向する複数のプレート、及び
前記プレートの1つに配置された作動面を有する弾性波アクチュエータ、
を含み、
前記涙液サンプルが前記弾性波アクチュエータの前記作動面に施与されるとき、前記弾性波アクチュエータが励振されると、前記涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジが、前記複数のプレート間に生成される、
請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
前記弾性波アクチュエータは、表面弾性波(SAW)、バルク波、表面反射バルク波(SRBW)、又はそれらの組み合わせを用いるように構成されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記処理装置は、
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値を、DEDを評価するための1つ以上の基準値と比較すること; 及び
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値を、DEDを評価するための前記1つ以上の基準値と比較することに基づいてDEDを評価すること;
によって、DEDを評価するように構成され、
前記評価は、
DEDの存在を診断すること;
DEDの重症度を評価すること;及び
DEDの臨床的サブタイプを識別すること;
のうちの1つ以上である、請求項12~15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記処理装置は、DEDの前記評価の1以上の結果を提供するように構成され、
前記1以上の結果が、以下の:
DEDの存在;
境界域DED又は確定的DED;
軽度、中等度、又は重度の確定的DED;
涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED;及び
主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDED;
のうちの1以上を含む、請求項12~16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1つの物理的パラメータ値は、以下の:
表面/界面の張力;
表面/界面の粘性;
表面/界面の弾性;
最終破壊時間;
緩和時間;
ずり粘度と伸長粘性;
を包含するグループのうちの1つから選択される、請求項12~17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED)を評価するためのデータを提供する方法であって、以下の工程:
DEDを評価するための1以上の基準値を識別すること;
前記被験体の涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値を識別することであって、前記少なくとも1つの物理的パラメータ値が、前記涙液サンプルの測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて算出されていることであって、前記測定された糸状流動化動態が、前記涙液サンプルの少なくとも1つの伸長粘性測定を含み、前記涙液サンプルの前記少なくとも1つの物理的パラメータ値が、前記涙液サンプルの前記測定された糸状流動化動態の少なくとも1つの伸長粘性測定に少なくとも部分的に基づくこと;及び
前記識別された少なくとも1つの物理パラメータ値を前記1以上の基準値と比較することに基づいてDEDを評価するためのデータを提供すること;
を包含している、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年8月24日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2016903362号の優先権を主長するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED:Dry Eye Disease)を評価するための方法及び装置に関する。それは、より具体的には、しかしそれ以外を排除するのではなく、DEDを診断及び監視し、DEDの重症度を評価し、且つDEDの臨床的サブタイプを識別するための方法、及び診断方法を実行するための専用の装置に関する。
【背景技術】
【0003】
ドライアイ症(DED)は、ヒト又は動物の眼の涙液膜及び眼球表面に影響を及ぼし、不快感及び視力障害をもたらす非常に一般的な症状である。
【0004】
DEDは、涙腺及びその付属腺、眼球表面成分(すなわち角膜及び結膜)、マイボーム腺、瞼及びそれらに関連したものからなる涙管機能単位(LFU:lacrimal function unit)への摂動を含む多因子症状である。感覚神経と運動神経生理学的条件下では、LFUは、内因性及び外因性の要因に応じて涙液の分泌、分布及びクリアランスを調節して、眼球表面の完全性を維持する。LFUの1つ又は複数の成分に対する層破壊は、涙液恒常性の喪失及びDEDを特徴付ける涙液膜機能不全を促進する。
【0005】
涙液浸透圧の低下及び/又は過度の涙液蒸発の結果である涙液高浸透圧は、DEDの確立された特徴である。涙液浸透圧の測定は、歴史的に実験室の設定に限定されていたが、最近ではTearLab(商標)システムを用いた微小(マイクロ)チップ技術によって臨床的実施が容易になっている。しかし、TearLab(商標)システムを用いた測定の信頼性は、様々な要因(例えば、周囲温度やオペレータエラー)によって影響を受ける。さらに、システムのコストはかなりのものであり、比較的高価な使い捨ての消耗品を使用するので、臨床診療での使用は制限されている。
【0006】
浸透圧の上昇に加えて、DEDは、眼のムチンの発現変化、涙液プロテオーム変化及び涙液脂質への構造特異的変化と関連している。これらの変化は涙液層の機能を損なう。涙液層の性能は伝統的に眼にフルオレセインナトリウム(NaFI)を点眼すること及びコバルトブルー照明を通してスリットランプ生物顕微鏡を用いて涙液層を観察することを含む「涙液層破壊時間」(TBUT:tear break-up time)を用いて臨床的に評価される。TBUTは、完全な瞬きと涙液層中の破れ(又は暗いパッチ)の最初の出現との間の時間(秒)として記録される。涙液層安定性を評価するこの方法は、特に眼に流体を注入することが涙液層安定性を乱すという公知の限界を有する。この技術はまた、様々な要因、例えば、NaFI点眼液のpHと液滴サイズ、照明技術、及び臨床医の専門知識、の影響を受けるため、再現性が低い。患者のまばたきの特徴(例えば品質や完成度)などの内因性の要因も、涙液層安定性の尺度のばらつきに寄与しうる。
【0007】
他の特殊な試験、例えば、涙液干渉測定法、角膜共焦点顕微鏡法、及び光コヒーレンストモグラフィはまた、涙液の挙動を調べるために存在するが、これらの装置のコスト及び/又はそれらの操作の複雑さにより臨床診療への取り入れが制限されている。一例としては、涙液層安定性の推定値を提供し、脂質産生マイボーム腺の視覚化を可能にするために写真及びビデオ撮像を組み込んだ角膜トポグラファーであるKeratograph(商標)5M(Oculus社)が含まれる。しかしながら、臨床的検証及び客観的な定量的尺度の欠如はその使用を制限してきた。
【0008】
臨床的には、DEDは、病因論において涙液減少型及び/又は蒸発型(蒸発亢進型)としてサブタイプに分類されうる。前者は主に涙腺分泌の減少を伴うのに対し、後者は主に脂質分泌マイボーム腺の異常によるものと考えられている。ドライアイの管理を適切に指導するために、臨床医はこれらのサブタイプの相対的な寄与を確かめようとするとき、別の臨床的課題に直面する。DEDのサブタイプを識別するのを助けるためのいくつかの臨床試験、例えば涙液減少症に対するシルマー試験及び蒸発型ドライアイに対するマイボーム腺発現、が存在するが、これらの手順は一般に侵襲的であり、それらの全体的な分解能は限られている。
【0009】
多数の診断テストが日常的に使用されているが、DEDの臨床診断は、その診断提示のかなりの変動性及び伝統的なテストと患者の症状との間の関連が弱いことにより複雑なままである。ほとんどのドライアイ臨床診断検査は標準化が不十分であり、実際の診断の正確さを悪化させる。この状況に対する最適な臨床診断プロトコルに関する普遍的なコンセンサスも欠如している。2007年の国際ドライアイワークショップ(DEWS)の診断方法論小委員会は、DEDを診断するためのアプローチ:即ち、初期患者歴、一般眼科検査、検証済みドライアイ症状アンケート、及び涙液層状態、眼球表面健康状態、及び/又はマイボーム腺の完全性を評価するための少なくとも2つの客観検査、の概要を述べた。しかし、DED診断は、多様の患者層における臨床医の間での自己報告されたDEDに対する診断アプローチにおいて、著しい変動性のために臨床的に複雑である。現在のアプローチにおけるそのような矛盾及と不正確さとは、DEDに対する改良された診断様式の必要性を示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
被験体におけるDEDを確実にかつ正確に評価及び監視するための新規な診断方法であって、先行技術の1つ以上の問題又は不都合を改善及び/又は克服するものを提供することが望ましい。また、単純で迅速で客観的である新規な診断方法であって、臨床現場でのその識別のためにDEDの複雑な涙液層の生理学的構成及び病因を捉えるための単一のパラメータを測定するものを提供することも望ましい。また、新規な診断方法を実行するように専用化されたコンピュータプログラム及び装置を提供することも望ましい。
【0011】
本明細書における特許文献又は先行技術として識別されるどのような他の事項への言及も、その特許文献又は他の事項が既知であること、又はそれに含まれる情報が本請求の優先日での一般常識の一部であったことの承認とみなされるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1の態様において、本発明は、ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED)を評価するための方法であって、以下の工程:弾性波駆動微少流体伸長レオメトリー(ADMiER)機器を用いて、前記被験体の涙液サンプルの糸状流動化動態を測定すること;前記測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて、涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値を算出すること;及び前記涙液サンプルの前記算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいてDEDを評価すること;を含む上記方法を提供する。
【0013】
本発明は、ヒト又は動物の涙液の粘弾性特性を定量化するために、弾性波駆動微少流体伸長レオメトリー(ADMiER)を用いて、DEDの臨床診断及びモニタリングのための涙液層の完全性を評価するための新規のアプローチを提供する。有利には、DEDは、被験体の涙液層状態を捉えるための単一の物理的パラメータの算出に基づいて評価されうる。さらに、上記単一の物理的パラメータの算出は、涙液サンプルの糸状流動化動態を確実に測定するADMiER機器を用いることによって、簡単、迅速かつ客観的である。追加の物理的パラメータが、DED診断に関する追加の情報を提供するために用いられてもよい。
【0014】
いくつかの実施形態において、糸状流動化動態を測定することは、ADMiER機器を用いて上記涙液サンプルの糸状流動化データを取得する工程と、上記糸状流動化データを分析して上記糸状流動化動態を測定する工程とを含む。上記糸状流動化データは、ADMiER機器を用いて涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジを形成し、糸状流動化中の流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化を測定することによって得ることができる。好ましくは、流体毛管現象ブリッジの半径は頸部で測定され、頸部は毛管現象応力の下で糸状が最初に細くなり破断する場所として定義される。ADMiER機器は、その間に流体毛管現象ブリッジを形成しうる対向するプレートと、プレートのうちの1つに配置された作動面を有する弾性波アクチュエータとを備えうる。涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジは、弾性波アクチュエータの作動面に涙液サンプルを施与し、弾性波アクチュエータを励振することによってプレート間に生成されうる。弾性波アクチュエータは、表面弾性波(SAW)、バルク波、表面反射バルク波(SRBW)、又はそれらの組み合わせを使用するように構成されうる。
【0015】
糸状流動化動態は、糸状流動化の間、流体毛管現象ブリッジの画像を捕捉するための検出器及び照明器を使用して、監視されうる。いくつかの実施形態において、検出器は顕微鏡レンズアタッチメントを備えた高速度カメラであり、照明器はLEDを用いて容易にされるが、しかし様々な検出機構(これらに限定されるものではないが、例えば、レーザマイクロメータ(測微計)、線走査カメラ、光検出器、又は拡大レンズ付き携帯用若しくは移動電話用カメラを含む)が、糸状寸法の変化を監視するために用いられてよい。上記頸部の半径は、標準的な画像解析技術を用いて画像から抽出されうる。代わりに、上記ADMiER機器が、糸状流動化中に流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化を測定するセンサを含みうる。好ましくは、上記センサは、涙液層の毛管現象流動化をコンパクトにかつ安定して測定するための光学マイクロメータとして機能する線走査カメラである。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記方法は、被験体の眼から基本的な涙液サンプルを採取する工程をさらに含む。基本的な涙液サンプルは、例えば微小な毛細管の使用によって、被験体の眼から非侵襲的に採取されうる。採取された涙液サンプルは、ADMiER機器を収容する装置に装填されるサンプル用カートリッジに投与されうる。上記装置は、糸状流動化動態の迅速な処理及びDEDの評価のための方法工程のうちの1以上の自動化を可能にしうる。上記涙液サンプルは、1nLから10mLの範囲の体積、好ましくは1~2μLの範囲の体積を有しうる。
【0017】
方法はまた、DEDを評価するための1以上の基準値を識別する工程を含みうる。1以上の基準値は、各個人の母集団から得られたデータから識別されうる。上記データは、臨床的医によってアクセス可能なデータベースに配置されうる。DEDを評価する工程は、少なくとも1つの物理パラメータ値を1以上の基準値と比較する工程と、少なくとも1つの物理パラメータ値と1以上の基準値との比較に基づいてDEDを評価する工程とを含みうる。
【0018】
いくつかの実施形態において、DEDを評価することは、以下の工程:DEDの存在を診断すること;DEDの重症度を評価すること;及びDEDの臨床的サブタイプを識別すること;のうちの1以上を含む。上記識別された1以上の基準値は、以下:DEDの存在;DEDの重症度;及びDEDの臨床的サブタイプ;のうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を含みうる。
【0019】
DEDの存在は、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、DEDの存在を示す、閾値未満であるか又は基準値の範囲内にある場合に診断されうる。DEDの重症度を評価する工程は、重症度を境界域DED又は確定的DEDとして分類する工程を含みうる。上記重症度は、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、境界域DED又は確定的DEDを示す、それぞれの閾値未満か又はそれぞれの基準値の範囲内にある場合に、境界域DED又は確定的DEDとして分類されうる。
【0020】
DEDの上記重症度を評価する工程は、確定的DEDの臨床的重症度を軽度、中程度、又は重度の確定的DEDの1つとして分類することをさらに含みうる。確定的DEDの臨床的重症度は、涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値及び追加の物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいて分類されうる。
【0021】
DEDの臨床的サブタイプを識別する工程は、DEDの臨床的サブタイプを、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの一つ又は両方として分類する工程を含みうる。DEDの臨床的サブタイプを識別する工程は、DEDの主要な臨床的サブタイプを主に涙液減少型のDED、又は主に蒸発型のDEDのうちの1つとして分類する工程をさらに含みうる。上記臨床的サブタイプは、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方、並びに主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDの一方を示すそれぞれの閾値未満であるか又はそれぞれの基準値の範囲内にある場合に、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方、並びに主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDの1つとして分類されうる。
【0022】
いくつかの実施形態において、上記方法は、DEDの評価の1以上の結果を提供することをさらに含む。上記方法は、被験体に対するDEDの以前の評価の1以上の結果を提供する工程をさらに含みうる。上記1以上の結果は、以下:DEDの存在;境界域DED又は確定的DED;軽度、中等度、又は重度の確定的DED;涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED;及び主として涙液減少型のDED又は主として蒸発型のDED;のうちの1以上を含みうる。上記方法は、DEDの評価の1以上の結果をDEDの以前の評価と比較し、かつ1以上の結果の変化を観察することによって、DEDを監視する工程をさらに含みうる。例えば、観察される変化は、1以上の結果における偏り又は傾向でありうる。
【0023】
上記少なくとも1つの物理的パラメータ値は、以下:表面/界面の張力;表面/界面の粘性;表面/界面の弾性;最終層破壊時間;緩和時間;ずり粘度及び伸長粘性;を含むグループのうちの1つから選択されうる。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つの物理的パラメータ値は、ADMiER機器を用いて得られた伸長測定値に基づく見掛けの粘性として現れる。
【0024】
DEDの存在を示す基準値の範囲は、約0.0001Pa.s~約0.025Pa.s、好ましくは約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.s、より好ましくは約0.0059Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。確定的DEDを示す基準値の範囲は、約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.s、好ましくは約0.0059Pa.s~約0.0079Pa.sの範囲を含みうる。さらに、境界域DEDを示す基準値の範囲は、約0.0002Pa.s~約0.03Pa.s、好ましくは約0.00455Pa.s~約0.0259Pa.s、より好ましくは約0.0079Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含み得る。DEDの存在を示す閾値は、約0.0115Pa.s、好ましくは約0.00873Pa.s、より好ましくは約0.0093Pa.sを含みうる。確定的DEDを示す閾値は、約0.0093Pa.s、好ましくは約0.0079Pa.sを含みうる。確定的DEDは、測定された涙液伸長粘性が約0.0079Pa.s又は好ましくは約0.0104Pa.sの閾値未満である場合に、評価され得、さもなければDEDの重症度は、境界域DEDとして評価される。
【0025】
主に涙液減少型のDEDを示す基準値の範囲は、約0.00307Pa.s~約0.0105Pa.sの範囲を含みうる。主に蒸発型のDEDを示す基準値の範囲は、約0.00455Pa.s~約0.0151Pa.sの範囲を含みうる。さらに、識別の実施形態において、測定された涙液伸長粘性が約0.00651Pa.sの閾値未満である場合、感度が約63%で且つ特異度が約62%で、主に涙液減少型のDEDと分類されることができ、さもなければ蒸発型DEDと分類される。閾値は、感度及び特異度に応じて変わりうる。主に涙液減少型のDED及び主に蒸発型のDEDを示す閾値及び基準値の範囲はまた、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方の臨床的サブタイプの分類のために、それぞれ涙液減少型DED及び蒸発型DEDを示すものでありうる。
【0026】
別の態様において、本発明は、ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED)を評価するための装置を提供するものであり、上記装置は、弾性波駆動微少流体伸長レオメトリー(ADMiER)機器、並びに処理装置であって、上記ADMiER機器を用いて、上記被験体の涙液サンプルの糸状流動化動態を測定するように構成され、上記測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて上記涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値を算出するように構成され、及び上記涙液サンプルの上記算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいてDEDを評価するように構成されたものを含んでいる。
【0027】
いくつかの実施形態において、上記処理装置は、上記ADMiER機器を用いて得られた上記涙液サンプルの糸状流動化データを受け取ること、及び上記糸状流動化データを分析して糸状流動化動態を測定することによって、糸状流動化動態を測定するように構成されている。上記糸状流動化データは、糸状流動化中の上記涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化を含みうる。好ましくは、半径の変化は、毛管現象応力の下で糸状が最初に細くなり破断する場所として定義される流体毛管現象ブリッジの頸部で測定された。上記流体毛管現象ブリッジは、上記ADMiER機器を用いて形成されうる。上記ADMiER機器は、流体毛管現象ブリッジがそれらの間に形成されうる対向する複数のプレート、及び上記プレートの1つに配置された作動面を有する弾性波アクチュエータを含みうる。上記涙液サンプルが上記弾性波アクチュエータの上記作動面に施与され且つ上記弾性波アクチュエータが励振されると、涙液サンプルの流体毛管現象ブリッジが上記プレート間に生成されうる。上記弾性波アクチュエータは、表面弾性波(SAW)、バルク波、表面反射バルク波(SRBW)、又はそれらの組み合わせを用いるように構成されうる。
【0028】
上記ADMiER機器は、糸状流動化の間に前記流体毛管現象ブリッジに沿った半径の変化を測定するためのセンサを含みうる。上記装置は、糸状流動化データを格納するための、上記処理装置と通信するメモリ装置を含みうる。上記ADMiER機器は、上記センサによって測定された糸状流動化データを記憶するための上記メモリ装置と通信しうる。上記メモリ装置はまた、記憶された糸状流動化データが糸状流動化動態を測定する際に用いられるために上記処理装置によって検索されうるように、上記処理装置と通信しうる。
【0029】
いくつかの実施形態において、上記装置は、涙液サンプルを保存するサンプル用カートリッジを受け取るように構成されたハウジングを含んでいる。上記サンプル用カートリッジは、涙液サンプルの完全性を保つために他の構成要素とは別に収容されうる。いくつかの実施形態日本語おいて、上記装置は、サンプル用カートリッジを上記ADMiER機器及び上記処理装置から分離するインターフェースを含みうる。上記装置は、上記涙液サンプルをサンプル用カートリッジから投与し、それを上記ADMiER機器の弾性波アクチュエータの作動面に施与するように構成されうる。さらに、上記装置は、新しいサンプル用カートリッジを受け取ると同時に上記ADMiER機器の表面を洗浄するように構成されうる。上記サンプル用カートリッジは、使い捨て及び1回使用であることが好ましい。上記涙液サンプル体積は、1nL~10mLの範囲の体積、好ましくは1~2μLの範囲の体積を有しうる。
【0030】
上記処理装置は、DEDを評価するための1以上の基準値を受け取るように構成されうる。上記1以上の基準値は、上記処理装置と通信するメモリ装置から受信されうる。上記1以上の基準値は、各個人の母集団から得られたデータを使用して識別されうる。上記処理装置はまた、少なくとも1つの物理パラメータ値を1つ以上の基準値と比較すること、及び少なくとも1つの物理パラメータ値と1つ以上の基準値との比較に基づいてDEDを評価することによってDEDを評価するように構成されうる。
【0031】
いくつかの実施形態において、上記処理装置は、以下:DEDの存在を診断すること;DEDの重症度を評価すること;DEDの臨床的サブタイプを識別すること;のうちの1つ以上によってDEDを評価するように構成されている。上記識別された1以上の基準値は、以下:DEDの存在;DEDの重症度;DEDの臨床的サブタイプ;のうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を含みうる。
【0032】
上記処理装置は、DEDの存在を診断するために、DEDの重症度を評価するために、及びDEDの臨床的サブタイプを識別するために、上述の方法の工程を実行することによってDEDを評価するように構成されうる。
【0033】
上記処理装置は、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、DEDの存在を示す閾値未満又は基準値の範囲内にある場合に、DEDの存在を診断するように構成されうる。上記処理装置はまた、重症度を境界域DED又は確定的DEDとして分類することによってDEDの重症度を評価するように構成されうる。上記処理装置は、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、境界域DED若しくは確定的DEDを示すそれぞれの閾値未満又は基準値のそれぞれの範囲内にあるとき、重症度を境界域DED又は確定的DEDとして分類するように構成されている。
【0034】
いくつかの実施形態において、上記処理装置は、確定的DEDの臨床的重症度を軽度のDED、中程度のDED、又は重度のDEDのうちの1つとして分類することによって、DEDの重症度を評価するように構成されうる。確定的DEDの臨床的重症度は、涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値及びさらなる物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいて分類されうる。上記処理装置は、上記処理装置と通信するメモリ装置から涙液サンプルのさらなる物理的パラメータ値を受け取るように構成されうる。
【0035】
上記処理装置は、DEDの臨床的サブタイプを涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方として分類することによって、DEDの臨床的サブタイプを識別するように構成されうる。上記処理装置はまた、DEDの主要な臨床的サブタイプを主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDのうちの1つとしてさらに分類することによって、DEDの臨床的サブタイプを識別するように構成されうる。上記処理装置は、上記少なくとも1つの物理的パラメータ値が、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方、及び主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDの1つを示す、それぞれの閾値未満又はそれぞれの基準値の範囲内である場合に、臨床的サブタイプを涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方として、並びに主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDの1つとして分類しうる。
【0036】
上記処理装置はまた、DEDの評価の1つ以上の結果を提供するように構成されうる。上記処理装置はまた、被験体に対するDEDの以前の評価の1つ以上の結果を提供するように構成されうる。1以上の結果は、以下:DEDの存在;境界域DED又は確定的DED;軽度、中程度、又は重度の確定的DED;涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED;主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDED;のうちの1つ又は複数を含みうる。上記装置は、被験体に対するDEDの以前の評価の1以上の結果を受け取るように構成されたユーザインタフェースを含みうる。上記処理装置は、DEDの評価の1以上の結果と以前のDEDの評価とを比較し、1以上の結果の変化を表示装置に表示することによって上記被験体のDEDを監視するように構成されうる。例えば、上記変化は、上記1以上の結果における偏向又は傾向でありうる。これは、臨床医が、少なくとも1つの物理的パラメータ値の偏向又は傾向、並びに長期治療及びDEDの監視のためのDEDの評価の結果に基づいて、被験体の涙液層の状態の変化を識別することを可能にする。
【0037】
物理的パラメータ値は、次のもの:表面/界面の張力;表面/界面の粘性;表面/界面の弾性;最終破壊時間;緩和時間;ずり粘度と伸長粘性;を包含する群のうちの1つから選択されうる。いくつかの実施形態において、上記物理的パラメータ値は、ADMiER機器を用いて得られた伸長測定に基づく見掛けの粘性として現れる。
【0038】
DEDの存在を示す基準値の範囲は、約0.0001Pa.s~約0.025Pa.s、好ましくは約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.s、より好ましくは約0.0059Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。確定的DEDを示す基準値の範囲は、約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.s、好ましくは約0.0059Pa.s~約0.0079Pa.sの範囲を含みうる。さらに、境界域DEDを示す基準値の範囲は、約0.0002Pa.s~約0.03Pa.s、好ましくは約0.00455Pa.s~約0.0259Pa.s、より好ましくは約0.0079Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。DEDの存在を示す閾値は、約0.0115Pa.s、好ましくは約0.00873Pa.s、より好ましくは約0.0093Pa.sを含みうる。確定的DEDを示す閾値は、約0.0093Pa.s、好ましくは約0.0079Pa.sを含みうる。測定された涙液伸長粘性が約0.0079Pa.s、又は好ましくは約0.0104Pa.sの閾値未満であるとき、確定的DEDは評価され得、そうでなければ、DEDの重症度は境界域DEDとして評価される。
【0039】
主に涙液減少型のDEDを示す基準値の範囲は、約0.00307Pa.s~約0.0105Pa.sの範囲を含みうる。主に蒸発型のDEDを示す基準値の範囲は、約0.00455Pa.s~約0.0151Pa.sの範囲を含みうる。さらに、識別の実施形態において、測定された涙液伸長粘性が約0.00651Pa.sの閾値未満である場合に、感度約63%及び特異度約62%で、主に涙液減少型のDEDに分類され得、そうでなければ蒸発型DEDに分類される。上記閾値は、感度及び特異度に応じて変わりうる。主に涙液減少型のDED及び主に蒸発型のDEDを示す閾値及び参照値の範囲はまた、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方の臨床的サブタイプの分類に関して、それぞれ涙液減少型DED及び蒸発型DEDを示し得る。
【0040】
別の態様において、本発明は、ヒト又は動物の被験体におけるドライアイ症(DED)を評価するための方法を提供する。本方法は、以下の工程:DEDを評価するための1以上の基準値を識別すること;上記被験体の涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値を識別すること、ここで、上記少なくとも1つの物理的パラメータ値は、上記涙液サンプルの測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて算出されている;及び上記識別された少なくとも1つの物理パラメータ値を上記1以上の基準値と比較することに基づいてDEDを評価すること;を包含している。
【0041】
いくつかの実施形態において、DEDを評価することは、以下の工程:DEDの存在を診断すること;DEDの重症度を評価すること;及びDEDの臨床的サブタイプを識別すること;のうちの1以上を包含している。識別された上記1以上の基準値が、以下:上記DEDの存在;上記DEDの重症度;上記DEDの臨床的サブタイプ;のうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を包含している。DEDを評価する工程は、DEDの存在を診断する工程、DEDの重症度を評価する工程、及びDEDの臨床的サブタイプを識別するために上に記載されたような上記方法の工程を包含しうる。
【0042】
DEDの存在は、上記少なくとも1つの物理的パラメータ値がDEDの存在を示す閾値未満又は基準値の範囲内にあるときに、診断されうる。DEDの重症度を評価する工程は、重症度を境界域DED又は確定的DEDとして分類する工程を含みうる。重症度は、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、境界域DED又は確定的DEDを示すそれぞれの閾値未満又はそれぞれの基準値の範囲内にあるときに、境界域DED又は確定的DEDとして分類されうる。
【0043】
DEDの重症度を評価する工程はさらに、確定的DEDの臨床的重症度を軽度、中程度、又は重度の確定的DEDの1つとして分類することを含みうる。確定的DEDの臨床的重症度は、涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値及びさらなる物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいて分類されうる。
【0044】
DEDの臨床的サブタイプを識別する工程は、DEDの臨床的サブタイプを涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方として分類する工程を含みうる。DEDの臨床的サブタイプを識別する工程は、DEDの主要な臨床的サブタイプを主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDのうちの1つとして分類する工程をさらに含みうる。臨床的サブタイプは、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの一方又は両方、並びに主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDの一方を示すそれぞれの閾値未満又はそれぞれの基準値の範囲内にある場合に、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方、並びに主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDの1つとして分類されうる。
【0045】
いくつかの実施形態において、上記方法は、DEDの評価の1以上の結果を提供することをさらに含む。上記方法は、被験体に対するDEDの以前の評価の1以上の結果を提供する工程をさらに含みうる。上記1以上の結果は、以下:DEDの存在;境界域DED又は確定的DED;軽度、中等度、又は重度の確定的DED;涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED;及び主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDED;のうちの1以上を含みうる。上記方法は、DEDの評価の1以上の結果をDEDの以前の評価と比較することと上記1以上の結果の変化を観察することとによって、DEDを監視する工程をさらに含みうる。例えば、観察された変化は、1以上の結果における偏向又は傾向でありうる。
【0046】
上記物理的パラメータは、次のもの:表面/界面の張力;。表面/界面の粘性;表面/界面の弾性;最終破壊時間;緩和時間;;ずり粘度と伸長粘性;を含む群のうちの1つから選択しうる。いくつかの実施形態において、上記物理的パラメータ値は、ADMiER機器を用いて得られた伸長測定に基づく見掛けの粘性として現れる。
【0047】
DEDの存在を示す基準値の範囲は、約0.0001Pa.s~約0.025Pa.s、好ましくは約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.s、より好ましくは約0.0059Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。確定的DEDを示す基準値の範囲は、約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.s、好ましくは約0.0059Pa.s~約0.0079Pa.sの範囲を含みうる。さらに、境界域DEDを示す基準値の範囲は、約0.0002Pa.s~約0.03Pa.s、好ましくは約0.00455Pa.s~約0.0259Pa.s、より好ましくは約0.0079Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。DEDの存在を示す閾値は、約0.0115Pa.s、好ましくは約0.00873Pa.s、より好ましくは約0.0093Pa.sを含みうる。確定的DEDを示す閾値は、約0.0093Pa.s、好ましくは約0.0079Pa.sを含みうる。確定的DEDは、測定された涙液伸長粘性が約0.0079Pa.s、又は好ましくは約0.0104Pa.sの閾値未満であるとき、評価され得、そうでなければ、DEDの重症度は境界域DEDとして評価される。
【0048】
主に涙液減少型のDEDを示す基準値の範囲は、約0.00307Pa.s~約0.0105Pa.sの範囲を含みうる。主に蒸発型のDEDを示す基準値の範囲は、約0.00455Pa.s~約0.0151Pa.sの範囲を含みうる。さらに、識別の実施形態において、上記測定された涙液伸長粘性が約0.00651Pa.sの閾値未満である場合、感度が約63%で且つ特異度が約62%で、主に涙液減少型のDEDと分類され得、さもなければ蒸発型DEDと分類される。上記閾値は、感度及び特異度に応じて変わりうる。主に涙液減少型のDED及び主に蒸発型のDEDを示す閾値及び基準値の範囲はまた、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方の臨床的サブタイプの分類のために、それぞれ涙液減少型DED及び蒸発型DEDを示すものでありうる。
【0049】
本発明は、添付の図面を参照してより詳細に説明されよう。添付の図面において、同様の特徴は同様の参照符号によって表される。示されている実施形態は例にすぎず、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の1実施形態による、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価査定するための方法における工程を説明するフローチャートである。
図2】本発明の1実施形態による、糸状流動化動態を測定することに関する図1の方法のさらなる工程を示すフローチャートである。
図3】本発明の1実施形態による、糸状流動化データを取得することに関する図2の方法のさらなる工程を示すフローチャートである。
図4】本発明の1実施形態による、流体毛管現象ブリッジを形成することに関する図3の方法のさらなる工程を示すフローチャートである。
図5】本発明の1実施形態による、図1図4の方法で使用するためのADMiER機器を示す。
図6】本発明の1実施形態による、プレートの1つに施与された涙液滴を示す図5のADMiER機器の平面図である。
図7】本発明の1実施形態による、流体毛管現象ブリッジの形成を示す概略図である。
図8】本発明の1実施形態による、流体毛管現象ブリッジの形成及び毛管現象応力下での流動化を示す一連の時間経過写真である。
図9】本発明の1実施形態による、涙液サンプルの採取に関する図1図4の方法のさらなる工程を示すフローチャートである。
図10】本発明の1実施形態による、DEDを評価することに関する図1図4及び図9の方法におけるさらなる工程を示すフローチャートである。
図11】本発明の1実施形態による、DEDの存在を診断することに関する図10の方法におけるさらなる工程を示すフローチャートである。
図12】本発明の1実施形態による、確定的DED又は境界域DEDとしてDEDの重症度を分類することに関する図10の方法におけるさらなる工程を示すフローチャートである。
図13】本発明の1実施形態による、蒸発型DED又は涙液減少型DEDとしてDEDの主要な臨床的サブタイプを分類することに関する図10の方法におけるさらなる工程を示すフローチャートである。
図14】本発明の1実施形態による、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価するための別の方法における工程を説明するフローチャートである。
図15】本発明の1実施形態による、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価するための装置の構成要素を示す概略図である。
図16】実施例1に係る涙液層状態の臨床診断のための涙液見掛け粘性測定の結果を示すチャートである。
図17】実施例1に係る涙液見掛け粘性と浸透圧との関係の結果を示すチャートである。
図18】実施例1に係る涙液減少型DEDの、蒸発型DEDの、及び健康な涙液層に対する糸状流動化の結果を示すチャートである。
図19】実施例2に係る、涙液層状態の臨床診断のための涙液伸長粘性測定結果を示す図である。
図20】実施例2に係る、涙液伸長粘性と臨床的ドライアイ重症度スコアとの間の関係の結果を示す図である。
図21】実施例2に係る、データの受信者オペレータ特性(ROC)曲線分析を示すチャートである。
図22】DEDの存在を診断するための例示的な涙液伸長粘性の閾値を示す図20のチャートを示す図である。
図23】実施例2に係る涙液伸長粘性と涙液破断時間との関係の結果を示す図表である。
図24】実施例2に係るDEDの主な臨床的サブタイプを分類するための涙液伸長粘性測定の結果を示すチャートである。
図25】実施例2に係る涙液伸長粘性とシルマー試験スコアとの関係の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明の実施形態は、図面を参照して本明細書で説明される。これら図面は、一定の縮尺ではなく且つ単に本発明の説明を補助することを意図されている。本発明の方法及び装置は、ヒト又は動物の被験体におけるDEDの評価、特に、DEDの存在を診断すること、確定的DED又は境界域DEDとして重症度を評価すること、及び涙液減少型DED又は蒸発型DEDとして主要なDEDの臨床的サブタイプを分類すること、における1以上の有用性を有する。DEDは非常に一般化している状態であるので、DEDを評価するための正確で信頼できる診断方法及び装置を提供することは有用である。
【0052】
図1は、本発明の好ましい実施形態による、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価するための方法における工程を表すフローチャートを示す。本方法は、工程100で、弾性波駆動微少流体伸長レオメトリー(ADMiER)機器200(図5も参照のこと)を用いて、被験体の涙液サンプル228の糸状流動化動態を測定することを含む。涙液サンプル228の少なくとも1つの物理的パラメータ値は、工程100で測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて工程102で算出される。本方法は、涙液サンプル228の算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいて工程104でのDEDを評価することを含む。
【0053】
図2は、図1に示された方法の追加の工程を表すフローチャートを示す。いくつかの実施形態において、糸状流動化動態を測定することは、ADMiER機器200を用いて涙液サンプル228の糸状流動化データを取得する工程106を含む。この方法はまた、図3のフローチャートにおいて示されたように糸状流動化データを得ることに関する追加の工程を含む。いくつかの実施形態において、この方法は、工程110で、ADMiER機器200を用いて涙液サンプル228の流体毛管現象ブリッジ224を形成すること(図5も参照)、及び工程112で、糸状流動化データを得るための糸状流動化の間の流体毛管現象ブリッジ224に沿った半径の変化を測定することを含む。次に、図2における工程108で、涙液サンプル228の糸状流動化動態を測定するために糸状流動化データを分析する。
【0054】
図4は、流体毛管現象ブリッジ224を形成することに関する図3に示す方法の追加の工程を表すフローチャートを示す。この方法は、工程114で、対向するプレート202、204を有するADMiER機器200を提供することを含みうる。それらプレート202、204間で流体毛管現象ブリッジ224が形成され得、且つ弾性波アクチュエータ206はプレート202の1つの側に配置された作動面を有する(図5も参照)。この方法は、工程116で、弾性波アクチュエータ206の作動面に涙液サンプル228を適用すること、及び工程118で、弾性波アクチュエータ206に通電してプレート202、204の間に涙液サンプル228の流体毛管現象ブリッジ224を生成することを含みうる。
【0055】
例示的なADMiER機器200が、図5及び図6に示されている。ADMiER機器200は、弾性波アクチュエータ206を有する上部プレート202と、下部プレート204とを含む。弾性波アクチュエータ206は、表面弾性波(SAW)、バルク波、表面反射バルク波(SRBW)、又はそれらの組み合わせを用いるように構成されうる。いくつかの実施形態において、弾性波アクチュエータ206は、表面弾性波(SAW)の形態の短い超弾性波パルスを発生するように構成される。弾性波アクチュエータ206は、図6に示されたように、チップ上の交互噛み合わせ(IDT)電極222にそのIDTの共振周波数と釣り合った周波数でパルスAC信号を印加することによってSAWを生成するための圧電チップを含みうる。パルス信号パラメータ、IDT設計、及びチップの厚さは、同じ周波数又はより高い高調波周波数(例えば1MHz~100GHz)でバルク弾性波、表面弾性波、又は表面又はバルク混合弾性波を発生させることを可能にする。これら弾性波は、マイクロリットルの液滴から流体毛管現象ブリッジを生成するための振幅が典型的には約10nmであるけれども、1ピコメートル(pm)から100ナノメートル(nm)の範囲の振幅でチップ上に放射され又はチップを通過させられる。好ましくは、生成されたSAWは約10nmの振幅を有する。
【0056】
圧電チップを有する弾性波アクチュエータ206の作動面は、上部プレート202の下面側に配置されうる。図6及び図7に示されたように、涙液サンプル228は、固着液滴228の形態で作動面へ施与される。この液滴は、約1mmの直径を有しうる。次いで、弾性波アクチュエータ206はSAWバースト226を生成して、固着液滴228を下部プレート204の方へ射出する。これは、上部及び下部プレート202、204との間に流体毛管現象ブリッジ224の形成をもたらす。代替の実施形態においては、圧電チップを有する弾性波アクチュエータ206が、下部プレート204(図示せず)の上面に配置されうる。弾性波アクチュエータ206によってSAWバースト226が生成されると、固着液滴228は下部プレート204の上面から上部プレート204へ重力に抗して射出されて流体毛管現象ブリッジ224を形成する。両方の実施形態において、流体毛管現象ブリッジ224は、毛管現象応力の下で実質的に細くなり、そして流体の表面張力により、かつその粘性によって抵抗され、臨界糸状太さ以下で破断する。
【0057】
図8は、流体毛管現象ブリッジ224の形成及び毛管現象応力下での流動化を示す一連のミリ秒時間経過の写真を示す。固着液滴228は、最初に上部プレート202上の作動面に施与され、1.5~6.0msで下部プレート204に向かって射出される。流体毛管現象ブリッジ224は、7.5msで形成され、次に9.0~10.5msの間で、毛管現象応力下で細くなる。最後に流体毛管現象ブリッジ224は、12.0msで、臨界糸状径未満で破断する。ADMiER機器200を使用して形成された流体毛管現象ブリッジ224の毛管現象流動化は、その巨視的対応物における確立された物理-Capillary Breakup Elongational Rheometer(毛管層破壊伸長レオメーター)(CaBER)に従う。CaBERは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第13/805,711号の主題である。
【0058】
糸状流動化動態は、糸状流動化の間の流体毛管現象ブリッジ224の画像を取り込むために、図8に示されたように検出器208及び照明器210を用いて監視されうる。検出器208は、顕微鏡レンズアタッチメント(例えばInfinity K2/SC)を有する高速カメラ(例えばPhotron SA5)を含み得,そして照明器210はLEDを含みうる。流体毛管現象ブリッジ224に沿った半径は、標準的な画像解析技術を用いて各画像フレーム内の半径を抽出することによって、糸状流動化の間に測定されうる。代わりに、いくつかの実施形態において、ADMiER機器200は、糸状流動化の間に流体毛管現象ブリッジ224に沿った半径の変化を測定するためのセンサ310(図15も参照のこと)を含む。センサは、半径の変化の糸状流動化データを得るための光学顕微鏡として機能する線走査カメラでありうる。流体毛管現象ブリッジ224の半径は、図8に示されるように9.0から10.5msの範囲で頸部230において測定されることが好ましい。頸部230は、流体毛管現象ブリッジ224の糸状が毛管現象応力下で最初に締め付けられ破断する場所として定義される。
【0059】
糸状流動化動態は、細糸化状態及び液体の性質、特にその伸長粘性及び表面張力によって左右される。これは、ADMiER機器200を用いて得られた粘弾性特性を介して、複雑な生理学的流体(例えば涙液膜サンプル)の特徴付けを容易にする。しかし、生理学的流体のそのような特性は、従来の伸長レオメーターに対して、特に低粘性の液体について一貫して毛管現象ブリッジを生成することが困難であるために、かなりの難題を課す。さらに標準的レオロジー分析は、大量(即ちミリリットル)のサンプル体積を必要とし、これは涙液サンプルについては容易ではない。対照的に、水と同じくらい低い粘性のマイクロリットルの液体サンプルから毛管現象ブリッジを形成するADMiER機器200の能力は、涙液サンプルの粘弾性特性をテストするための独自のプラットフォームを提供する。そのような小さいサンプルサイズ及び速い(例えば1秒未満の)処理時間は、診断にとって有利であるだけでなく、典型的には測定値を混乱させる蒸発及び重力効果を無視できるようにする。
【0060】
図9は、本発明の1実施形態による涙液サンプルの採取に関する図1図4の方法の追加の工程を示すフローチャートである。本方法は、工程120で、被験者の眼から基礎涙液サンプル228を採取することを含む。基礎涙液サンプル228は、被験体の眼から非侵襲的に、例えば微小な毛細管チューブを使用することによって採取されうる。いくつかの実施形態において、本方法はまた、採取された涙液サンプル228をサンプル用カートリッジ318に投与する工程122を含む(図15も参照のこと)。サンプル用カートリッジ318は、ADMiER機器200を収容する装置300内に装填されうる(図15も参照のこと)。装置300は、糸状流動化動態の迅速な処理及びDEDの評価のための方法の工程のうちの1以上の自動化を可能にしうる。採取された涙液サンプル228は、1nL~10mLの範囲の体積、好ましくは1~2μLの範囲の体積を有しうる。
【0061】
本方法はまた、図10のフローチャートに示されたようにDEDを評価することに関する追加の工程を含みうる。工程126において、DEDを評価するための1以上の基準値が識別される。基準値は、各個人の母集団から得られたデータから識別されうる。方法はまた、工程128で、工程102で算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値と工程126から識別された基準値とを比較することを含みうる。次にDEDは、工程130で、算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値と識別された基準値との比較に基づいて評価されうる。
【0062】
図11図13は、工程132でのDEDの存在を診断すること、工程134、136での確定的DED又は境界域DEDとしてDEDの重症度を分類すること、及び工程138、140での涙液減少型DED又は蒸発型DEDとしてのDEDの主要な臨床的サブタイプを分類することに関連する図10の方法の追加の工程を示すフローチャートである。診断方法の各々は、物理的パラメータ値とDEDの識別の評価を示すそれぞれの閾値又は基準値の範囲との比較を含む。従って、識別された基準値は、DEDの存在、DEDの重症度、及びDEDの臨床的サブタイプのうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を含みうる。
【0063】
図11は、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、DEDの存在を示す閾値未満か又は基準値の範囲内にあるときに、工程132でDEDの存在が診断されることを示している。そうでなければ、被験体にDEDが存在しない、すなわち被験体は健康な涙液膜を有する。DEDの存在が診断されると、重症度及び主要な臨床的サブタイプが、図12及び13のフローチャートの工程によって分類されうる。図12は、DEDの重症度を評価することが、工程134で確定的DED又は工程137で境界域DEDとして重症度を分類することを含む。少なくとも1つの物理的パラメータ値が確定的DEDを示す閾値未満又は基準値の範囲内にある場合に、重症度は工程134で確定的DEDとして分類される。そうでなければ、重症度は工程136で境界域DEDとして分類される。
【0064】
図示されていないが、この方法は、DEDの臨床的サブタイプを、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方として分類することによって、臨床的サブタイプのDEDを識別することを含みうる。従って、被験体は以下のタイプのDED:(i)涙液減少型DEDのみ;(ii)蒸発型DEDのみ;又は涙液減少型及び蒸発型DEDの両方;を示しうる。有利には、本発明は、これらの臨床的サブタイプのDEDのそれぞれの存在を識別することを可能にしうる。臨床的サブタイプは、少なくとも1つの物理的パラメータ値が、涙液減少型DED及び/又は蒸発型DEDを示す閾値未満又は基準値の範囲内である場合に、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの一方又は両方として分類される。
【0065】
図13は、臨床的サブタイプのDEDを識別することが、工程138で主要な臨床的サブタイプを主に涙液減少型のDEDとして分類すること、又は工程140で主に蒸発型のDEDとして分類することを含みうることを示す。少なくとも1つの物理的パラメータ値が、主に涙液減少型のDEDを示す閾値未満又は基準値の範囲内にあるときに、臨床的サブタイプは、工程138で主に涙液減少型のDEDとして分類される。そうでなければ、臨床的サブタイプは、工程140で主に蒸発型のDEDとして分類される。
【0066】
いくつかの実施形態(図示されず)において、DEDの重症度を評価することは、確定的DEDの臨床的重症度を軽度、中程度、又は重度の確定的DEDのうちの1つとして分類することをさらに含む。確定的DEDの臨床的重症度は、涙液サンプルの少なくとも1つの物理的パラメータ値及び追加の物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいて分類されうる。
【0067】
いくつかの実施形態(図示されず)において、本方法は、DEDの評価の1以上の結果を提供することをさらに含む。本方法は、被験体に対するDEDの以前の評価の1以上の結果を提供する工程をさらに含みうる。1以上の結果は、以下のもの:DEDの存在;境界域DED又は確定的DED;軽度、中等度、又は重度の確定的DED;涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED;及び主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDED;のうちの1以上を含みうる。本方法は、DEDの評価の1以上の結果をDEDの以前の評価と比較することによる、及び1以上の結果における変化を観察することによる、DEDを監視する工程をさらに含みうる。例えば、観察された変化は、1以上の結果における偏移又は傾向でありうる。
【0068】
従って、本発明の実施形態は、被験体におけるDEDの評価、及び健康な被験体と境界域DED又は確定的DEDを有する被験体とを区別する能力を有利に提供する。さらに、確定的DEDを有すると評価された被験体について、本発明の実施形態はまた、軽度、中等度及び重度の確定的DEDの1つとして、確定的DEDの重症度の評価を有利に提供する。DEDについての疾患重症度に基づいて層別化する能力は、DEDを評価しそして監視するために望ましい。
【0069】
図14は、本発明の好ましい実施形態による、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価するための別の方法における工程を表すフローチャートを示す。本方法は、工程126で、DEDを評価するための1以上の基準値を識別することを含む。本方法はまた、工程142で、被験体の涙液サンプル228の少なくとも1つの物理的パラメータ値を識別することを含む。少なくとも1つの物理的パラメータ値は、涙液サンプル228の測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて算出されている。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの物理的パラメータ値の効果は、涙液サンプル228の糸状流動化動態の測定された広範な測定に少なくとも部分的に基づいて見掛けの粘性として算出される。本方法はまた、工程128及び130で、識別された少なくとも1つの物理的パラメータ値と1以上の基準値との比較に基づいてDEDを評価することを含む。
【0070】
いくつかの実施形態において、本方法は、工程132でDEDの存在を診断すること、工程134、136でDEDの重症度を確定的DED又は境界域DEDとして分類すること、及び図11~13に示された工程を実行することにより、工程138、140で主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDとして、DEDの主要な臨床的サブタイプを分類することによってDEDの臨床的サブタイプを識別することを含む。したがって、識別された1以上の基準値は、DEDの存在、DEDの重症度、及びDEDの臨床的サブタイプのうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値、又は基準値の範囲を含みうる。さらに、糸状流動化動態は、特に図2図4を参照して本明細書で記載された方法の工程の何れか1つに従って、ADMiER機器200を用いて確定されうる。
【0071】
本発明の好ましい実施形態において、コンピュータプログラム製品が提供され、これはヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価するために処理装置302を制御するための命令を格納する(図15も参照のこと)。処理装置302は、当業者によって理解されるように、プロセッサ又はコントローラを含みうる。命令は、処理装置302に、ADMiER機器200を用いて被験体の涙液サンプル228の糸状流動化動態を確定させ、そして測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて、涙液サンプル228の少なくとも1つの物理パラメータ値を算出させうる。命令はまた、涙液サンプル228の算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいて、処理装置にDEDを評価させうる。
【0072】
命令は、処理装置302に、ADMiER機器200を用いて取得された涙液サンプル228の糸状流動化データを受信させ、糸状流動化データを分析させ、糸状流動化動態を確定させうる。糸状流動化データは、糸状流動化の間の涙液サンプル228の流体毛管現象ブリッジ224に沿った半径の変化を含みうる。流体毛管現象ブリッジ224は、本明細書に記載されるようにADMiER機器200を用いて形成されうる。命令は、処理装置302に、本明細書に記載されるような方法の工程のうちのいずれか1つに従って、特に図2図4を参照して、ADMiER機器200を用いて糸状流動化動態を確定させうる。
【0073】
いくつかの実施形態において、糸状流動化データは、処理装置302と通信しているメモリ装置304から受信される(図15も参照のこと)。命令はまた、処理装置302に、DEDを評価するための1以上の基準値を受け取らせうる。この基準値は、メモリ装置304から受信されてもよく、各個人の母集団から得られたデータを用いて識別されていてもよい。命令はさらに、少なくとも1つの物理パラメータ値を1以上の基準値と比較し、その比較に基づいてDEDを評価することによって、処理装置302にDEDを評価させうる。
【0074】
命令はまた、処理装置302に、工程132でDEDの存在を診断させること、工程134、136で確定的DED又は境界域DEDとしてDEDの重症度を分類させること、及び図11図13に示される方法の工程を実行させることによって、工程138、140において主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDとしてDEDの主要な臨床的サブタイプを分類することによりDEDの臨床的サブタイプを識別させることによって、DEDを評価させうる。命令はまた、処理装置302に、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方としてDEDの臨床的サブタイプを分類させることによってDEDの臨床的サブタイプを識別させうる(図示せず)。従って、識別された1以上の基準値は、DEDの存在、DEDの重症度、及びDEDの臨床的サブタイプのうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を含みうる。
【0075】
いくつかの実施形態において、命令は、表示装置316にDEDの評価の1以上の結果を提供させるための表示信号を処理装置に生成させる(図15も参照のこと)。1以上の結果は、DEDの存在、境界域又は確定的なDED、涙液減少型DED、及び/又は蒸発型DED、及び主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDのうちの1以上を含みうる。命令はまた、DEDの以前の評価の1以上の結果を、例えばメモリ装置304から処理装置302に受信させうる。いくつかの実施形態において、命令は、処理装置302にDEDの評価の1以上の結果とDEDの以前の評価とを比較させ、そして1以上の結果における傾向又は偏差を表示装置316に表示させる。
【0076】
本発明の好ましい実施形態において、ヒト又は動物の被験体においてDEDを評価するために、処理装置302を制御するための命令を格納する別のコンピュータプログラム製品が提供される(図15も参照のこと)。命令は、処理装置302に、DEDを評価するための1以上の基準値を受信させ、被験体の涙液サンプル228の少なくとも1つの物理的パラメータ値を識別させ、そして識別された少なくとも1つの物理パラメータ値と1以上の参照値との比較に基づいてDEDを評価させうる。少なくとも1つの物理的パラメータ値は、涙液サンプル228の測定された流動化動態に少なくとも部分的に基づいて算出されていてもよい。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの物理的パラメータ値の効果は、涙液サンプル228の糸状流動化動態の測定された伸長測定に少なくとも部分的に基づく見掛けの粘性として算出される。
【0077】
命令はまた、処理装置302に、工程132でDEDの存在を診断させること、工程134、136で確定的DED又は境界域DEDとしてDEDの重症度を分類させること、及び図11図13に示される方法の工程を実行させることによって、工程138、140において主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDとしてDEDの主要な臨床的サブタイプを分類することによりDEDの臨床的サブタイプを識別させることによって、DEDを評価させうる。命令はまた、処理装置302に、涙液減少型DED及び蒸発型DEDの1つ又は両方としてDEDの臨床的サブタイプを分類させることによってDEDの臨床的サブタイプを識別させうる(図示せず)。従って、識別された1以上の基準値は、DEDの存在、DEDの重症度、及びDEDの臨床的サブタイプのうちの1以上を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を含みうる。
【0078】
図15は、本発明の好ましい実施形態による、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを評価するための装置300の構成要素を示す概略図である。装置300は、ADMiER機器200と処理装置302とを含む。処理装置302は、ADMiER機器200を用いて被験体の涙液サンプル228の糸状流動化動態を測定するように構成され、測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて涙液サンプル228の少なくとも1つの物理的パラメータ値を算出するように構成され、且つ涙液サンプル228の算出された少なくとも1つの物理的パラメータ値に少なくとも部分的に基づいてDEDを評価するように構成されている。
【0079】
いくつかの実施形態において、処理装置302は、糸状流動化動態を測定するための分析モジュール306を含む。この分析モジュール306は、ADMiER機器200を用いて得られた涙液サンプル228の糸状流動化データを受け取ること、及び糸状流動化動態を測定するために糸状流動化データを分析することによって、糸状流動化動態を測定する。糸状流動化データは、糸状流動化の間の涙液サンプル228の流体毛管現象ブリッジ224に沿った半径の変化を含みうる。流体毛管現象ブリッジ224は、本明細書で特に図2~8を参照して記載されたように、ADMiER機器200を用いて形成されうる。装置300はまた、糸状流動化データを記憶するための、処理装置302と通信する記憶装置304を含みうる。分析モジュール306はまた、測定された糸状流動化動態に少なくとも部分的に基づいて、涙液サンプル228の少なくとも1つの物理的パラメータ値を算出するように構成されている。いくつかの実施形態入力おいて、少なくとも1つの物理的パラメータ値の効果は、涙液サンプル228の糸状流動化動態の測定された伸長測定に少なくとも部分的に基づいて見掛けの粘性として算出される。算出は、ここで参照することによって本明細書に組み込まれる米国特許出願第13/805,711号に記載されているような確立された方法を用いて実行されうる。
【0080】
処理装置302はまた、DEDを評価するための評価モジュール308を含みうる。評価モジュール308は、DEDを評価するための1以上の基準値を、例えばメモリ装置304から受け取るように構成されうる。1以上の基準値は、各個人の母集団から得られたデータを用いて識別されうる。評価モジュール308はまた、少なくとも1つの物理パラメータ値を1以上の基準値と比較しその比較に基づいてDEDを評価することによって、DEDを評価するように構成されうる。
【0081】
評価モジュール308は、DEDの存在を診断すること、DEDの重症度を評価すること、及びDEDの臨床的サブタイプを識別することのうちの1つ又は複数によって、DEDを評価するように構成されうる。いくつかの実施形態において、評価モジュール308は、図11図13に示された方法、例えば、工程132でDEDの存在を診断すること、工程134、136で確定的DED又は境界域DEDとしてDEDの重症度を分類すること、及び工程138、140で涙液減少型DED又は蒸発型DEDとしてDEDの主要な臨床的サブタイプを分類することによって臨床的サブタイプのDEDを識別すること、のうちの1以上の工程を実行するように構成されている。評価モジュール308はまた、涙液減少型DED及び蒸発型DEDのうちの1つ又は両方としてDEDの臨床的的サブタイプを分類することによって、臨床的サブタイプを識別するように構成されうる(図示されず)。従って、識別された1以上の基準値は、DEDの存在、DEDの重症度、及びDEDの臨床的サブタイプのうちの1つ又は複数を示す少なくとも1つの閾値又は基準値の範囲を含みうる。
【0082】
いくつかの実施形態において、処理装置302は、DEDの評価の1以上の結果を表示装置316に表示するように構成されている。表示装置316は、図15に示されたように装置300内に含められうる。1以上の結果は、DEDの存在、境界域又は確定的DED、涙液減少型DED及び/又は蒸発型DED、及び主に涙液減少型のDED又は主に蒸発型のDEDのうちの1つ又は複数を含みうる。装置300はまた、図15に示されたようにユーザインタフェース314を含みうる。ユーザインタフェース314は、DEDの以前の評価の1以上の結果を、例えばメモリ装置304から受け取るように構成されうる。評価モジュール308は、評価の1つ又は複数の結果を以前のDEDの評価と比較するように、かつ1以上の結果における傾向又は偏差を表示装置316に表示するように構成されうる。
【0083】
装置300は、涙液サンプル228を格納するサンプル用カートリッジ318(図示されず)を受容するように構成されたハウジングを含みうる。装置300は、一体型アセンブリとしてサンプル用カートリッジ318と共に、表示装置316を有するADMiER機器200、処理装置302、ユーザインタフェース314を収容しうる。好ましくは、サンプル用カートリッジ318は、涙液サンプルの完全性を保つために装置300内の他の構成要素とは別に収容される。装置300はまた、図15に示されたように、装置ハウジングに対するサンプル用カートリッジ318の装填及び取り外しを検出するためのトランスデューサ(変換器)320及びドライバ(駆動器)322を含みうる。
【0084】
いくつかの実施形態において、装置300は、涙液サンプル228をサンプル用カートリッジ318から投与し、それをADMiER機器200の弾性波アクチュエータ206の作動面に施与するように構成されうる。さらに装置300は、新たなサンプル用カートリッジ318を受け取る際にADMiER機器の表面を洗浄するように構成されうる。装置300は、弾性波アクチュエータ206の作動面、ADMiER機器200のプレート202、及びADMiER機器200のプレート204のうちの1つ又は複数を洗浄しうる。好ましくは、装置300は、ADMiER機器200の作動面、及びプレート202、204を洗浄する。いくつかの実施形態において、サンプル用カートリッジは使い捨て、及び1回使用でありうる。
【0085】
図15に示されるように、装置300は、商用電源に接続された電源(電力供給装置)324と、電源324に接続されたバッテリー326とを含みうる。バッテリー326は、装置300の携帯使用、例えば病院若しくは診療所、又は病理検査施設における使用のために再充電されうる。
【0086】
本明細書に記載されたような方法、コンピュータ製品プログラム、及び装置における少なくとも1つの物理パラメータ値は、表面/界面の粘性、表面/界面の弾性、最終破断時間、緩和時間、ずり粘度、及び伸長粘性を含むがこれらに限定されないグループのうちの1つから選択されうる。本発明者らは、涙液粘弾性測定値(表面/界面の張力、表面/界面の粘性、表面/界面の弾性、最終破断時間、緩和時間、剪断粘性、及び伸長粘性を含む)とDEDの臨床診断との間に相関があると仮定する。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの物理的パラメータ値は、ADMiER機器を用いて得られた伸長測定値に基づく見掛けの粘性又は伸長粘性として現れる。見掛けの粘性測定値とDEDの臨床診断との間の可能な相関関係は、実施例1及び2において後述される。本発明者らは、同様の相関関係が本明細書に記載の他の涙液粘弾性測定値に当てはまると仮定する。
【0087】
本発明の方法、コンピュータ製品プログラム、及び装置は、ヒト又は動物の被験体におけるDEDを確実かつ正確に評価するための新規な診断様式を提供する。実施された新規な診断方法は、簡単、迅速、かつ客観的であり、且つ被験体の涙液層の状態を捕捉しそしてDEDを評価するために単一の物理的パラメータの測定を可能にする。さらなる物理的パラメータが、DEDの診断に関する追加の情報を提供するために用いられうる。有利には、本発明の方法、コンピュータ製品プログラム、及び装置は、ヒト又は動物の涙液サンプルの粘弾性特性を定量化するためにADMiER機器の使用を含む。従来技術とは対照的に、ADMiER機器は、涙液膜の毛管現象流動化の客観的でかつ頑強な測定を提供するために、マイクロリットルの涙液サンプルから低粘性流体についての毛管現象ブリッジを一貫して形成しうる。さらに、従来技術の診断様式とは対照的に、消耗品が全く不要か最小限でよいので、それは検査コストを大幅に削減する。
【0088】
添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲から逸脱することなく、前述の部分に対して様々な修正、追加、及び/又は交替がなされてもよいことが理解されるべきである。
【0089】
「含む」、「備える」又は「有する」のいずれか又は全ての用語が本明細書(請求項を含む)において使用される場合、それらは記載された特徴の存在を識別するものとして解釈されるべきである。ただし、1以上の他の特徴、整数、工程、又は構成要素の存在を排除するものではない。
【0090】
本発明の実施形態の適用を説明する実施例がこれから記載される。実施例は、文脈を提供し且つ本発明の特徴及び利点を説明するために与えられるのであり、請求項において規定されるような本発明の範囲を限定するものではない。
【0091】
実施例1
11人の成人(22の眼)を含む研究において、涙液層の状態は、涙液浸透圧濃度の知見に基づいて、3つのカテゴリー:「健康」(<308mOsmol/L);「境界域」(308~315mOsmol/L);又は「ドライ」(≧316mOsmol/L);のうちの1つに等級付けされた。基礎涙液サンプル(眼当たり約2μl)が、ガラス製の微小な毛細管を用いて非侵襲的に採取され、涙液粘弾性測定値を導き出すために、直ちにADMiER機器を用いて分析された。DEDの臨床的発現を特徴付けるために、一連の標準的なドライアイ診断試験が以下のように実施された。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】

表2は、実施例1に関するDEDについての一連の標準的な診断試験からの結果を示す。
【0094】
添付された図面の中に見出せる表2(訳注:日本の特許出願書式に適合させるため表2は本明細書中に上記したように移動させた)は、表1に概説されたプロトコルに従って行われた一連の標準的なドライアイ診断試験の結果を示す。因子「n」は分析に含まれる眼の数を表し、データは、p<0.05を表している*記号を伴う、平均値±SEMとして示される。予想通り、臨床的パラメータ間の有意差は「健康な」眼と「ドライ」眼との間で明らかであり(表2参照)、後者(「ドライ」眼)は、比較的高い涙浸透圧、低い涙液層安定性(NITBUT及びNaF1 TBUT)、高いレベルの眼表面染色、及び涙液産生の減少(全ての比較についてp<0.05)を示す。
【0095】
グループの涙液粘弾性データの分析は、図16のチャートに示されたように、健康な眼と比較してドライアイでは有意に低い見掛けの粘性を示した。データは平均値±SEM(Standard Error of the Mean:標準誤差)として示され、*記号はp<0.05を表す。涙液層状態の範疇についての涙液見掛け粘性の代表的な範囲は以下:「健康な」涙液は0.011506Pa.s~0.02266Pa.s; 「境界域」涙液は0.007857 Pa.s~0.011506 Pa.s;そして「ドライ」涙液は0.005973Pa.s~0.007857Pa.sであった。本発明者らは、0.00873Pa.sの見掛けの粘性カットオフ基準を使用すると、DEDの存在を診断するための83%の潜在的感度及び94%の特異性が得られることを見出した。
【0096】
したがって、この研究は、DEDの存在の診断及び重症度の評価に使用することができる見掛けの涙液粘性の代表的な範囲及び閾値を提供する。特に、DEDの存在を示す基準値の範囲は、0.0059Pa.s~0.0115Pa.sの範囲を含みうる。確定的DED(「ドライ」涙液)を示す基準値の範囲は、0.0059Pa.s~0.0079Pa.sの範囲を含みうる。さらに、境界域DEDを示す基準値の範囲は、0.0079Pa.s~0.0115Pa.sの範囲を含みうる。測定された涙液見掛け粘性が0.0115Pa.s、より好ましくは0.00873Pa.sの閾値未満である場合にも、DEDと診断されうる。さらに、測定された涙液見掛け粘性が0.0079Pa.sの閾値未満である場合に、確定的DED(「ドライ」涙液)と評価され得、そうでなければDEDの重症度は境界域DEDとして評価される。
【0097】
涙液粘弾性がDEDにおいて損なわれるという発見は、涙液保持を増加させるための比較的粘性のある合成涙液サプリメントの点眼を含む、最も一般的なDED治療法の理論的根拠と一致する。本発明者らは、ADMiER機器を用いていくつかの人工涙液製品の分析を行い、それらの粘弾性が健康な涙液の粘弾性を超えることを確認した(データは示さず)。このデータは、涙液サンプルの見掛けの粘性値とDEDの臨床診断の間に相関があるという仮説を支持する。
【0098】
涙液高浸透圧は、異なるDEDサブタイプを区別することはできないが、DED重症度の好ましい指標であると考えられている。本発明者らは、DEDのより深刻な臨床的発現が、涙液の見掛け粘性のより大きな低下(すなわち、全体的な涙液層の粘弾性がより低い)と関連すると仮定している。この仮説を支持するものは、22の眼の研究からのデータであり、このデータは、涙液浸透圧に対する涙液見掛け粘性をプロットしている図17のチャートに示されている。本発明者らは、涙液見掛け粘性と涙液モル浸透圧濃度との間に中程度の強い負の相関(スピアマンの相関係数:r=-0.65、p=0.0008)を見出した。したがって、本発明者らは、各疾患サブタイプ(即ち、減少した房水対改変脂質)で起こる涙液層の完全性への異なる変化の結果として、主に蒸発型ドライアイ対涙液減少型ドライアイのサンプル間の涙液見掛け粘性に差が存在すると仮定する。
【0099】
図18は、臨床的に定義された涙液減少型DEDと蒸発型DEDとの間の細糸状流動化の減衰における潜在的な差を示唆する、22の眼の研究からの細糸状破壊データを提供するチャートである。確定的な涙液減少型DEDは、5分で5mm以下のシルマー片試験測定と関連して、有意な涙液高浸透圧(≧316 mOsmol/L)の存在によって規定された。確定的な蒸発型DEDは、5分で少なくとも10mmのシルマー片試験測定とマイボーム腺機能不全の証拠(マイバムの質;腺の発現性のレベル;及びBron/Foulks採点システムを用いる腺の分泌量;のうちの1以上における、少なくともグレード2の発見として考えられる)とに関連して、有意な涙液高浸透圧(≧316 mOsmol/L)の存在によって規定された。
【0100】
図18は、より短時間の破壊がより粘性の低い不健康な涙液において生じることを示しており、さもなければ健康なサンプルにおいて見られる成分の不在を示唆する。本発明者らはまた、これらのサブタイプについて特に販売されている涙液サプリメント製品の粘弾性特性における有意差を定量化した(データは示さず)。まとめると、データは、涙液粘弾性分析がDEDの重症度を評価するのに、及び/又はその臨床的サブタイプを区別するのに有用でありうるという仮説を支持する。
【0101】
実施例2
DED(DEDの存在又は不存在)を診断し、DEDの重症度(確定的又は境界域DED)を評価し、DEDをその主な臨床的サブタイプ(涙液減少型DED又は蒸発型DED)に分類するために、ADMiER機器を用いて得られた涙液伸長粘性測定値を用いる際の診断試験の精度を評価するために横断試験が実施された。この研究は、平均±標準偏差(SD)の年齢で32±12歳(18~77歳の範囲)且つ性別で69%の女性を含む78人の成人(156眼)の眼の初期診療集団を含んだ。
【0102】
【表3】

表3は、実施例2に関するDED及び涙液伸長粘性測定のための一連の標準的な診断試験からの結果を示す。
【0103】
添付図面中に見出される表3(訳注:日本の特許出願書式に適合させるため表3は本明細書中に上記したように移動させた)は、表1において概説されたプロトコルに基づいて行われたDEDに対する一連の標準ドライアイ診断試験及びADMiERを用いて行われた涙液伸長粘性測定からの要約結果を示す。臨床的ドライアイ重症度スコア(0.0~4.0)は、標準化されたドライアイ質問表(眼球面疾患指数(OSDI:Ocular Surface Disease Index))及び標準化された患者の眼の乾燥評価(SPEED:Standardized Patient Evaluation of Eye Dryness))及びDEDの臨床的徴候(包括的なスリットランプ検査、赤目評価、フルオレセインナトリウム涙液層破壊時間、角膜フルオレセインナトリウム染色、結膜リサミングリーン染色、マイボーム腺評価及びシルマー試験スコアからの所見の組み合わせに関する複合スコアによって確定されるような)を用いて客観的に導き出された。スコア(0.0~4.0)は、DEWS(2007)Diagnostic Methodology(診断方法)小委員会の分類に基づいていた。臨床的に有意なDEDは、1.0以上の臨床的ドライアイスコアによって参照された。因子「n」は分析の眼の数を表し、データは平均値±SDとして示される。実施例1と同様に、臨床パラメータ間の統計的に有意な差は、「健康な」眼と「ドライ」眼との間で明らかであり、後者はより高い臨床的ドライアイ重症度スコア、涙液層安定性(TBUT)の低下及び涙液生成の低下(シルマー試験)を示す。
【0104】
グループの涙液伸長粘性データの分析は、図19のチャートに示されるように、「健康な」眼及び「境界域の」眼と比較して、確定的な「ドライ」眼において統計的に有意な低い伸長粘性値を示した(p<0.0001)。涙液層状態のカテゴリーについての平均値±SD涙伸長粘性値は、表3に示されたように以下の通り:「健康な」涙液は0.0133±0.005Pa.s、「境界域」涙液は0.012±0.005 Pa.s、そして「ドライ」涙液は0.007±0.003 Pa.sであった。涙液層状態のカテゴリーについての涙伸長粘性値の代表的な範囲は以下の通り:「健康な」涙液は0.00699Pa.s~0.0275Pa.s、「境界域」涙液は0.00455Pa.s~0.029Pa.s、そして、「ドライ」涙液は0.00307Pa.s~0.0151Pa.sであった
【0105】
図20は、この研究についての涙液伸長粘性と臨床的ドライアイ重症度スコアとの間の関係の結果を示すチャートである。本発明者らは、涙液伸長粘性と臨床的ドライアイ重症度スコアとの間に中程度の負の相関(スピアマンの相関係数:r=-0.46、p<0.0001)を見出した。1.0を超える臨床的ドライアイ重症度スコアについて、低い涙液伸長粘性とDEDの軽度又は中等度の重症度との間に統計的に有意な相関があった。したがって、より低い涙液伸長粘性はより厳しいDEDを示す。
【0106】
図21は、この研究についての受容器オペレータ特性(ROC:Receiver Operator Characteristic)曲線分析を示すチャートである。分析は、0.0093Pa.sのカットオフ基準がDEDの存在(「ドライ」涙液対「健康」及び「境界域」涙液の組合せ)を診断するために83%の感度と75%の特異度をもたらすことを明らかにした。曲線下方面積(AUC:Area Under Curve)は、0.78~0.91の95%信頼限界(CL:Confidence Limit)(p<0.0001)で、0.84あった。図22は、DEDを診断するための例示的な涙液伸長粘性値を示す図20のチャートを示す。DEDの陽性適中率は81%、DEDの陰性適中率は78%であった。
【0107】
したがって、この研究は、DEDの存在の診断とその重症度の評価に用いられうる伸長粘性の代表的な範囲及び閾値を提供する。DEDの存在を示す基準値の範囲は、約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.sの範囲、より具体的には約0.0059Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。確定的DED(「ドライ」涙液)を示す基準値の範囲は、約0.0031Pa.s~約0.0151Pa.sの範囲、より具体的には約0.0059Pa.s~約0.0079Pa.sの範囲を含みうる。さらに、境界域DEDを示す基準値の範囲は、約0.00455Pa.s~0.0259Pa.sの範囲、より具体的には約0.0079Pa.s~約0.0115Pa.sの範囲を含みうる。測定された涙液伸長粘性が約0.0093Pa.sの閾値未満である場合にも、DEDと診断されうる。さらに、測定された涙液伸長粘性が約0.0093Pa.sの閾値未満であるときに、確定的なDED(「ドライ」涙液)が評価されてもよく、そうでなければ涙液は健康又は境界域として評価される。
【0108】
図23は、この研究についての涙液伸長粘性とフルオレセインナトリウム涙液層破壊時間(TBUT)との間の関係の結果を示すチャートである。本発明者らは、涙液伸長粘性とTBUTとの間に適度な正の相関(スピアマンの相関係数:r=0.28、p=0.0005)を見出した。したがって、涙液伸長粘性は臨床的に定義された涙液層安定性(TBUT)と統計的に有意な相関関係を示す。
【0109】
図24は、涙液減少型DED又は蒸発型DEDとして主要な臨床的サブタイプのDEDを分類するための、この研究からの涙液伸長粘性測定の結果を示すチャートである。本発明者らは、主に涙液減少型眼と蒸発型眼との間で平均涙液伸帳粘性値に統計的に有意な差を見出し、後者はより高い平均涙伸展粘性値(p=0.01)を示している。従って、涙液伸長粘性は、主に蒸発型のドライアイと比較して主に涙液減少型の眼においてより低い。
【0110】
図25は、DEDの臨床的サブタイプを区別するための涙液伸長粘性とシルマー試験スコアとの間の関係の結果を示すチャートである。本発明者らは、涙液伸長粘性とシルマー試験スコアとの間に中程度の正の相関(スピアマンの相関係数:r=0.22、p=0.006)を見出した。5mm/5分以下のシルマー試験スコア値は、確定的な涙液減少型DEDと蒸発型DEDについて伸長粘性において統計的に有意な差を示す。特に、確定的蒸発型DEDは、確定的涙液減少型DED及び5mm/5分を超えるシルマー試験スコアよりもより高い涙液伸長粘性値と関連している。
【0111】
伸長粘性データ群の分析は、涙液層状態のカテゴリーについての平均値±SDでの涙液伸長粘性が以下の通り:「主に水分性」の(n=47)涙液は0.00665±0.002Pa.s。;そして「主に蒸発型」(n=40)涙液は0.00807±0.003Pa.s;であることを示す。臨床的サブタイプDEDについての涙液伸長粘性の代表的な範囲は以下の通り:「主に水分性」の涙液は0.00007Pa.s~0.0105Pa.s;そして「主に蒸発型」涙液は0.00455Pa.s~0.0151Pa.s;であった。
【0112】
従って、この研究は、DEDのサブタイプを分類するために用いられうる伸長粘性の代表的な範囲及び閾値を提供する。主に涙液減少型のDEDを示す基準値の範囲は、0.00307Pa.s~0.0105Pa.sの範囲を含みうる。主に蒸発型のDEDを示す基準値の範囲は、0.00455Pa.s~0.0151Pa.sの範囲を含みうる。さらに、測定された涙液伸長粘性が約0.00651Pa.sの閾値未満である場合には、涙液減少型DEDと分類されて得、そうでなければ臨床的サブタイプは蒸発型DEDとして分類される。
【0113】
添付の特許請求の範囲は例としてのみ提供されており、将来の任意の出願において特許請求されうるものの範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。諸特徴は、本発明を後日さらに定義又は再定義するように、請求項に追加又は請求項から削除されうる。
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