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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】繊維用撥水撥油剤及び繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20220414BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20220414BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
D06M15/263
C08F265/06
C09K3/18 102
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020539481
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033468
(87)【国際公開番号】W WO2020045407
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2018159265
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】寺田 佳世
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 祥太
(72)【発明者】
【氏名】田中 義人
(72)【発明者】
【氏名】川部 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】山本 育男
【審査官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-092346(JP,A)
【文献】特開2001-158811(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163383(WO,A1)
【文献】特開2015-067709(JP,A)
【文献】国際公開第2015/047196(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/110893(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/215849(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、Rは、H又はCH;Rは、2価の有機基;Rは、下記式(2):
【化2】
(式中、Rは、H又はCH;Rは、炭素数16~40の1価の炭化水素基;nは、10~1000の整数)で示される構造を有するポリマー鎖;mは、10~5000の整数)で示される構造を有するボトルブラシポリマーを含むことを特徴とする繊維用撥水撥油剤。
【請求項2】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される前記ボトルブラシポリマーの数平均分子量が5,000~2,000,000である請求項1記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項3】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される前記ボトルブラシポリマーの分子量分布が1.0~5.0である請求項1又は2記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項4】
前記ボトルブラシポリマー中のハロゲン原子の合計量が0.01~30質量%である請求項1~3のいずれかに記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項5】
前記ボトルブラシポリマー中の臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量が0.01~30質量%である請求項1~4のいずれかに記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項6】
が炭素数16~24の1価の炭化水素基である請求項1~5のいずれかに記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項7】
が、下記式(a):
-(CH-O-C(=O)-R- (a)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキレン基;pは1~10の整数)
で示される基である請求項1~6のいずれかに記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項8】
前記ボトルブラシポリマーがフッ素原子を含まない請求項1~7のいずれかに記載の繊維用撥水撥油剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の繊維用撥水撥油剤で被覆された繊維を含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維用撥水撥油剤及び繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品に撥水性や撥油性を付与する目的で、繊維製品の表面を撥水剤や撥油剤で処理することが広く行われている。このような撥水剤、撥油剤としては、従来、フッ素系のものが広く用いられている。
【0003】
また、他の分野においては、グラフトコポリマー、多分岐ポリマー、星型ポリマー等の複雑な構造を有するポリマーが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6245719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、新規な繊維用撥水撥油剤及び繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、下記式(1):
【化1】
(式中、Rは、H又はCH;Rは、2価の有機基;Rは、下記式(2):
【化2】
(式中、Rは、H又はCH;Rは、炭素数16~40の1価の炭化水素基;nは、10~1000の整数)で示される構造を有するポリマー鎖;mは、10~5000の整数)で示される構造を有するボトルブラシポリマーを含むことを特徴とする繊維用撥水撥油剤に関する。
【0007】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される上記ボトルブラシポリマーの数平均分子量が5,000~2,000,000であることが好ましい。
【0008】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される上記ボトルブラシポリマーの分子量分布が1.0~5.0であることが好ましい。
【0009】
上記ボトルブラシポリマー中のハロゲン原子の合計量が0.01~30質量%であることが好ましい。
【0010】
上記ボトルブラシポリマー中の臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量が0.01~30質量%であることが好ましい。
【0011】
が炭素数16~24の1価の炭化水素基であることが好ましい。
【0012】
が、下記式(a):
-(CH-O-C(=O)-R- (a)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキレン基;pは1~10の整数)
で示される基であることが好ましい。
【0013】
上記ボトルブラシポリマーがフッ素原子を含まないことが好ましい。
【0014】
本開示は、上記繊維用撥水撥油剤で被覆された繊維を含む繊維製品にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、新規な繊維用撥水撥油剤及び繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を具体的に説明する。
本開示は、下記式(1):
【化3】
(式中、Rは、H又はCH;Rは、2価の有機基;Rは、下記式(2):
【化4】
(式中、Rは、H又はCH;Rは、炭素数16~40の1価の炭化水素基;nは、10~1000の整数)で示される構造を有するポリマー鎖;mは、10~5000の整数)で示される構造を有するボトルブラシポリマーを含むことを特徴とする繊維用撥水撥油剤に関する。
【0017】
本発明者らは、上記構造を有するボトルブラシポリマーが優れた撥水撥油性を有することを初めて見出し、更に当該ボトルブラシポリマーが繊維用の撥水撥油剤として特に好適であることを見出し、本開示の繊維用撥水撥油剤(以下、本開示の撥水撥油剤ともいう)を完成するに至った。
【0018】
本開示の撥水撥油剤を構成する上記ボトルブラシポリマーは、下記式(1):
【化5】
で示される。
【0019】
式(1)中、Rは、H又はCHである。Rとしては、CHが好ましい。
【0020】
式(1)中、Rは、2価の有機基である。上記2価の有機基は、1個以上の炭素原子を含有する2価の基、又は、有機化合物から2個の水素原子を除去して形成される2価の基を意味する。Rとしての上記有機基は、末端以外の部位に酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等を有していてもよい。
【0021】
上記有機基の炭素数は、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましく、また、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
【0022】
は、下記式(a):
-(CH-O-C(=O)-R- (a)
(式中、Rは炭素数1~3のアルキレン基;pは1~10の整数)
で示される基であることが好ましい。この場合、式(1)においては、RがRと結合する。
【0023】
式(a)中、Rは炭素数1~3のアルキレン基である。上記アルキレン基としては、例えば、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CH(CH)-、-CH(CH)CH-、-C(CH-が挙げられる。なかでも、-C(CH-が好ましい。
【0024】
式(a)中、pは1~10の整数である。pは、1~5の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましい。
【0025】
式(1)中、Rは、下記式(2):
【化6】
で示される構造を有するポリマー鎖である。
【0026】
式(2)中、Rは、H又はCHである。
【0027】
式(2)中、Rは、炭素数16~40の1価の炭化水素基である。Rとしての上記炭化水素基の炭素数が上記範囲内にあることにより、上記ボトルブラシポリマーは、極めて優れた撥水撥油性を発揮することができる。
上記炭化水素基の炭素数は、16~30であることが好ましく、16~24であることがより好ましく、16~22であることが更に好ましく、18~22であることが特に好ましい。
【0028】
としては、炭素数が上述した範囲内にある直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、ステアリル基、エイコシル基、ベヘニル基が特に好ましい。
【0029】
式(2)中、nは、10~1000の整数である。nは、10~500の整数であることが好ましく、20~200の整数であることがより好ましく、20~100の整数であることが更に好ましい。
【0030】
式(1)中、mは、10~5000の整数である。mは、20~1000の整数であることがより好ましく、30~500の整数であることがより好ましく、40~300の整数であることが更に好ましい。
【0031】
また、Rは、更に硬化性官能基含有単量体に基づく重合単位を含んでもよい。上記硬化性官能基含有単量体の具体例としては、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシ-2-メチルブチルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテルなどの水酸基含有ビニルエーテル類;2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテルなどの水酸基含有アリルエーテル類;アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルが好ましく、なかでも特にアクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)が好ましい。なお、Rにおける式(2)で示される構造における繰り返し単位と上記硬化性官能基含有単量体に基づく重合単位との並び順は、特に限定されない。
【0032】
上記ボトルブラシポリマーは、アスペクト比が0.004~200であることが好ましい。上記アスペクト比は、0.08~15であることがより好ましく、0.2~5であることが更に好ましい。
上記アスペクト比は、式(1)におけるm/2nの値を意味し、各ポリマー鎖に対応するモノマーの仕込み量から求めることができる。
【0033】
上記ボトルブラシポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量が5,000~2,000,000であることが好ましい。上記数平均分子量は、10,000~1,000,000であることがより好ましく、30,000~500,000であることが更に好ましい。
【0034】
上記ボトルブラシポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される分子量分布が1.0~5.0であることが好ましい。上記分子量分布は、1.0~3.0であることがより好ましく、1.0~2.5であることが更に好ましい。
上記分子量分布は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnを意味する。
【0035】
上記ボトルブラシポリマー中のハロゲン原子の合計量が0.01~30質量%であることが好ましい。上記ハロゲン原子の合計量は、0.02~15質量%であることがより好ましく、0.05~5質量%であることが更に好ましい。
上記ハロゲン原子としては、例えば、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
上記ハロゲン原子の合計量は、上記ボトルブラシポリマーの分子鎖に結合する(遊離していない)ハロゲン原子の合計量であることが好ましい。
上記ハロゲン原子の合計量は、元素分析(燃焼法)により測定することができる。
【0036】
上記ボトルブラシポリマー中の臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量が0.01~30質量%であることが好ましい。上記臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量は、0.02~15質量%であることがより好ましく、0.05~5質量%であることが更に好ましい。
上記臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量は、上記ボトルブラシポリマーの分子鎖に結合する(遊離していない)臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量であることが好ましい。
上記臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子の合計量は、元素分析(燃焼法)により測定することができる。
【0037】
上記ボトルブラシポリマーは、フッ素原子を含まないことが好ましい。上記ボトルブラシポリマーは、フッ素原子を含まなくても、撥水撥油性に優れる。
【0038】
上記ボトルブラシポリマーのボトルブラシ構造は、ポリマーブラシ構造の公知の解析方法に準じて解析することが可能である。
ポリマーブラシ構造の解析方法については、多くの方法が知られており、例えば、Macromolecules,Vol.39,4983,2006及びMacromolecules,Vol.45,9243,2012には、AFMによる直接観察方法により、ボトルブラシポリマーの構造が観察できることが報告されている。
また、Macromolecules,Vol.39,4983,2006には、GPC-MALS法で枝ポリマーの解析が可能であり、直鎖のポリマーと挙動が異なることが報告されている。
また、井上正志,「ソフトマターのレオロジー:流動光学による精密解析」,生産と技術,一般社団法人生産技術振興協会,2014年,第66巻,第1号,p.68-70、及び、井上正志,「2-3-6.分岐ポリマー」,ディビジョンレポート13,[online],公益社団法人日本化学会,[平成30年8月1日検索],<URL:https://division.csj.jp/div-report/13/1320306.pdf>には、流動光学的手法による粘弾性の解析から構造が解析可能であり、セグメント毎に分離解析ができることが報告されている。
【0039】
上記ボトルブラシポリマーは、例えば、下記式(3):
【化7】
(式中、R及びRは、式(1)について記載したとおり;Xは、ハロゲン原子)で示される単量体を重合することにより、下記式(4):
【化8】
(式中、R、R及びmは、式(1)について記載したとおり;Xは、式(3)について記載したとおり)で示される前駆体ポリマーを得る工程(1-1)、及び、
上記前駆体ポリマーのXを起点に、下記式(5):
【化9】
(式中、R及びRは、式(2)について記載したとおり)で示される単量体を重合させて、上記式(1)で示される構造を有するボトルブラシポリマーを得る工程(1-2)を含む製造方法により、好適に製造することができる。
【0040】
式(3)中、Xは、ハロゲン原子である。上記ハロゲン原子としては、例えば、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が挙げられ、なかでも、臭素原子が好ましい。
【0041】
工程(1-1)における重合は、例えば、ラジカル重合、リビングラジカル重合等の公知の重合方法により、実施できる。
重合条件は、(メタ)アクリレートモノマーの重合において通常採用される条件を採用してよい。
【0042】
工程(1-2)における重合は、例えば、原子移動ラジカル重合開始剤系を用いて、実施できる。
上記原子移動ラジカル重合開始剤系においては、上記式(4)で示される前駆体ポリマーと、(a-1)短周期型周期表8族の遷移金属錯体と、必要により、(a-2)アミンとによって複合系重合開始剤を構成することが好ましい。
【0043】
(a-1)は、短周期型周期表8族元素を中心金属とする遷移金属錯体であり、このような遷移金属錯体は1又は2以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
中心金属の短周期型周期表8族元素としては、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt等を挙げることができるが、これらの中でもFe、Ruが好ましく、Ruが特に好ましい。
【0045】
これらの中心金属に単座で又は多座で配位して錯体を形成する配位子は特に制限されないが、例えば、鎖状炭化水素配位子(エチレン、2-ブテン、アリル、2-メチルアリル等のオレフィン類、アレン類等)、炭化水素環を含む炭化水素配位子(シクロペンタジエニル、ペンタメチルシクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニル、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン等)、リン原子を含む配位子(トリフェニルホスフィン、トリナフチルホスフィン等のトリアリールホスフィン、トリn-ブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン、トリフェニルホスファイト等のトリアリールホスファイト等)、窒素原子を含む配位子(窒素、ビピリジン、フェナントロリン等)、硫黄原子を含む配位子(ジチオカルバメート、ジチオレン等)、酸素原子を含む配位子(アセチルアセトナト、一酸化炭素)、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素等)、擬ハロゲン基(CN、SCN、OCN、ONC、N3等)水素原子等を挙げることができる。
【0046】
(a-1)の遷移金属錯体としては、式(11)で表されるものが好ましい。
【0047】
ML (11)
(式中、Mは短周期型周期表8族の遷移金属元素を示し、Lは炭化水素環を含む炭化水素配位子を示し、置換基を有していてもよい。Lは同一又は異なっていてもよい、金属に配位して錯体を形成する配位子を示す。iは0~2の整数、jは0~5の整数を示す。)
【0048】
式(11)において、Mで表される短周期型周期表8族の遷移金属元素は上記の通りである。Lで表される配位子としては、上記金属錯体に単座で又は多座で配位又は結合可能な炭化水素環を含む炭化水素配位子であれば特に制限されず、炭化水素配位子は置換基を有していてもよい。例えば、ベンゼン、シクロブタジエン、シクロペンタジエニル、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロヘプタトリエニル、シクロオクタジエン、シクロオクタテトラエン、ノルボルナジエン等が挙げられる。特に、5員環を有する炭化水素環が好ましく、例えば、シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニル等を挙げることができる。
【0049】
これらの炭化水素配位子は、種々の置換基、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、ニトロ基、シアノ基、シリル基、チオエステル基、チオケトン基、チオエーテル基、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素等)等を有していてもよい。置換基を有する炭化水素配位子としては、ペンタメチルシクロペンタジエニル、トリメチルシリルシクロペンタジエニル等を挙げることができる。
【0050】
で表される配位子としては、中心金属に単座で又は多座で配位して、錯体を形成する配位子であれば特に制限されず、炭化水素環を含む炭化水素配位子以外の上記の通りである。Lの具体例は、水素原子、ハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。これらの配位子は同一又は異なっていてもよい。
【0051】
iは0~2の整数であり、1~2の整数が好ましく、1がより好ましい。jは0~5の整数であり、2~5の整数が好ましく、3~5の整数がより好ましい。
【0052】
(a-1)の遷移金属錯体の具体例としては、クロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルトリシクロヘキシルホスフィンルテニウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリブチルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリドテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ヨードジカルボニルシクロペンタジエニル鉄、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)鉄等を挙げることができるが、これらの中でもクロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムが好ましい。
【0053】
(a-2)のアミンは、(a-1)に作用してラジカル重合を促進させる活性化剤として用いられる。このようなアミンは1又は2以上を組み合わせて使用できる。
【0054】
(a-2)のアミンとしては、脂肪族第一級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン等)、脂肪族第二級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン等)、脂肪族第三級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン等)、脂肪族ポリアミン(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン等)、芳香族第一級アミン(アニリン、トルイジン等)、芳香族第二級アミン(ジフェニルアミン等)、芳香族第三級アミン(トリフェニルアミン等)等を挙げることができ、これらの中でも、脂肪族アミンが好ましい。
【0055】
複合系重合開始剤において、(a-1)と上記式(4)で示される前駆体ポリマーとの割合(a-1)/前駆体ポリマー(モル比)は、好ましくは0.01~10、より好ましくは0.05~5である。この範囲内であると、分子量分布が狭い重合体が早い重合速度で得られる。
【0056】
(a-1)と(a-2)との割合(a-1)/(a-2)(モル比)は、好ましくは0.01~10、より好ましくは0.05~5である。この範囲内であると、分子量分布が狭い重合体が早い重合速度で得られる。
【0057】
また、工程(1-1)及び工程(1-2)における原子移動ラジカル重合開始剤系において銅錯体も採用することができる。
【0058】
銅錯体としては1価の銅錯体又は2価の銅錯体が好適である。具体的に例示するならば、臭化第二銅、臭化第一銅、塩化第一銅、塩化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅である。これら銅錯体を用いる場合、触媒活性を高めるためにアミン配位子が添加される。
【0059】
アミン配位子としては、触媒活性が高い点で多座アミンが好ましい。配位子として使用される多座アミンを以下に例示するが、この限りではない。二座配位の多座アミン:2,2-ビピリジン、三座配位の多座アミン:N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、四座配位の多座アミン:トリス[(2-ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TRENと略されることが多い)、トリス(2-ピコリル)アミン、六座配位の多座アミン:N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、ポリアミン:ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0060】
また、原子移動ラジカル重合において、還元剤を用いて重合遅延、停止の原因となる高酸化遷移金属錯体を減らすことで、遷移金属錯体が少ない低濃度触媒条件であっても速やかに、高反応率まで重合反応を進行させることができるActivators Regenerated by Electron Transfer:ARGET(Macromolecules.2006,39,39)が報告されている。
【0061】
ARGETで使用できる還元剤を以下に例示するが、この限りではない。クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル等の有機酸化合物が挙げられる。これらの他、金属、金属水素化物、ヒドラジン、ジイミド等の窒素水素化合物、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物も挙げられる。固体の還元剤はそのまま添加しても良いし、溶媒で溶解させて添加しても良い。これら還元剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもかまわない。また、還元剤は、直接反応系に添加してもよいし、反応系中で発生させてもよい。後者には、電解還元も含まれる。電解還元では陰極で生じた電子が直ちに、あるいは一度溶媒和した後、還元作用を示すことが知られている。つまり、還元剤が電気分解により生じるものも用いることができる。
【0062】
上記重合の方法は特に制限されず、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状-懸濁重合等を適用することができる。
【0063】
溶液重合を行う場合、溶媒としては、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等)、脂環族炭化水素(シクロヘキサン等)、脂肪族炭化水素(ヘキサン、オクタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類〔ジオキサン(1,4-ジオキサン等)、テトラヒドロフラン等〕、エステル類(酢酸エチル等)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アルコール類(メタノール、エタノール等)等が使用できる。特にトルエン、エチルベンゼン、ベンゼン、N,N-ジメチルホルムアミド、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等が好ましい。このような溶媒は1又は2以上を混合して使用できる。
【0064】
上記重合は、常圧又は加圧下で行うことができる。重合温度は、重合法の種類、複合系重合開始剤の構成、重合速度等に応じて、0~200℃程度の広い範囲から選択でき、好ましくは50~200℃、より好ましくは60~160℃、更に好ましくは80~140℃である。重合は、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、例えば、不活性ガスの流通下で行ってよい。重合時には、熱、光、放射線等のラジカル発生手段を適用する。
【0065】
各重合反応終了後、必要により、溶媒で希釈し、貧溶媒中で析出させたり、単量体や溶媒等の揮発性成分を除去することにより分離精製してもよい。
【0066】
本開示の撥水撥油剤は、上記ボトルブラシポリマーとともに、上記式(2)で示される構造を有するポリマー(上記ボトルブラシポリマーの分子鎖に結合していないもの)を含んでもよい。また、本開示の撥水撥油剤は、上記ボトルブラシポリマーとともに、硬化性官能基含有単量体に基づく重合単位を有するポリマー(上記ボトルブラシポリマーの分子鎖に結合していないもの)を含んでもよい。
【0067】
本開示の撥水撥油剤は、上記ボトルブラシポリマーが硬化性官能基含有単量体に基づく重合単位を含む場合、更に硬化剤を含むことが好ましい。
【0068】
上記硬化剤としては、上記ボトルブラシポリマーの硬化性官能基と反応して架橋する化合物であり、たとえばイソシアネート類やアミノ樹脂類、酸無水物類、ポリエポキシ化合物、イソシアネート基含有シラン化合物などが通常用いられる。なかでも、イソシアネート類が好ましい。
【0069】
上記イソシアネート類の具体例としては、たとえば2,4-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート、これらの三量体、これらのアダクト体、ビュウレット体やイソシアヌレート体、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、さらにブロック化されたイソシアネート類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、イソシアヌレート体が好ましい。
【0070】
上記アミノ樹脂類の具体例としては、たとえば尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、グリコールウリル樹脂のほか、メラミンをメチロール化したメチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミンをメタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類でエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
上記酸無水物類の具体例としては、たとえば無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水メリット酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
ポリエポキシ化合物やイソシアネート基含有シラン化合物としては、たとえば特開平2-232250号公報、特開平2-232251号公報などに記載されているものが使用できる。好適な例としては、たとえば
【化10】
などが挙げられる。
【0073】
上記硬化剤の配合量は、上記ボトルブラシポリマー中の硬化性官能基1当量に対して0.1~5当量、好ましくは0.3~0.7当量であることが好ましい。上記組成物が硬化性官能基含有単量体に基づく重合単位を有するボトルブラシポリマー及び硬化剤を含む場合、通常0~200℃で数分間ないし10日間程度で硬化させることができる。
【0074】
本開示の撥水撥油剤は、後述の方法で測定する水に対する静的接触角が100度以上であることが好ましく、102度以上であることがより好ましく、また、上限は特に制限を設けないが、115度以下であってよい。
【0075】
本開示の撥水撥油剤は、後述の方法で測定するジヨードメタンに対する静的接触角が55度以上であることが好ましく、56度以上であることがより好ましく、また、上限は特に制限を設けないが、65度以下であってよい。
【0076】
本開示の撥水撥油剤は、後述の方法で測定するn-ヘキサデカンに対する静的接触角が20度以上であることが好ましく、23度以上であることがより好ましく、また、上限は特に制限を設けないが、55度以下であってよい。
【0077】
上記静的接触角は、以下の方法(1)又は(2)により測定する。
(1)ボトルブラシポリマーの固形分濃度0.1%のクロロホルム溶液をPET基板上にスピンコートして得られた塗膜上に、2μLの水又はジヨードメタンを滴下し、着滴30秒後の接触角を測定する。
(2)ボトルブラシポリマーの固形分濃度1.0%のクロロホルム溶液をPET基板上にスピンコートして得られた塗膜上に、2μLの水又はヘキサデカンを滴下し、着滴1秒後の接触角を測定する。
水に対する静的接触角は、方法(1)及び(2)による測定値の少なくとも一方が上述の範囲内にあることが好ましく、方法(1)及び(2)による測定値の両方が上述の範囲内にあることがより好ましい。
【0078】
本開示の撥水撥油剤は、後述の方法で測定する水の転落角が20度以下であることが好ましく、17度以下であることがより好ましく、また、4度以上であってよい。
【0079】
本開示の撥水撥油剤は、後述の方法で測定するn-ヘキサデカンの転落角が15度以下であることが好ましく、12度以下であることがより好ましく、また、4度以上であってよい。
【0080】
上記転落角は、以下の方法により測定する。
ボトルブラシポリマーの固形分濃度1.0%のクロロホルム溶液をPET基板上にスピンコートして得られた塗膜上に、20μLの水、又は5μLのn-ヘキサデカンを滴下し、基板を毎秒2°の速度で傾斜させて液滴が転落し始める角度を転落角として測定する。
【0081】
本開示の撥水撥油剤は、繊維用の撥水撥油剤である。本開示の撥水撥油剤により繊維の表面を処理することにより、繊維に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0082】
本開示の撥水撥油剤で処理され得る繊維としては、綿、麻、羊毛、絹等の動植物性天然繊維;ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の合成繊維;レーヨン、アセテート等の半合成繊維;ビスコースレーヨン、レオセル等の化学繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維等の無機繊維;これらの混合繊維;これらの繊維の織物、編物、不織布等が挙げられる。なかでも、動植物性天然繊維、合成繊維、半合成繊維、並びに、これらの織物、編物及び不織布が好ましい。
上記繊維は、衣料品形態の布及びカーペットであってもよい。
【0083】
本開示の撥水撥油剤は、服飾及びインテリア用のテキスタイルに用いられるものであることが好ましい。
【0084】
本開示の撥水撥油剤により繊維を処理する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記撥水撥油剤を溶媒に溶解又は分散させた溶液又は分散液を、浸漬塗布法等のような被覆加工の既知の方法により、繊維の表面に付着させ乾燥、熱処理する方法が挙げられる。
【0085】
上記溶媒としては、上記撥水撥油剤を溶解又は分散し得るものあれば限定されないが、有機溶媒が好ましく、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、n-デカン、イソドデカン、トリデカン等の非芳香族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、ベラトロール、ジエチルベンゼン、メチルナフタレン、ニトロベンゼン、o-ニトロトルエン、メシチレン、インデン、ジフェニルスルフィド等の芳香族炭化水素溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ジイソブチルケトン、イソホロン等のケトン溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジグライム、フェネトール、1,1-ジメトキシシクロヘキサン、ジイソアミルエーテル等のエーテル溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、マロン酸ジエチル、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、α-アセチル-γ-ブチロラクトン等のエステル溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。
上記溶媒としては、水も好ましい。
【0086】
上記繊維を処理する際に、他の撥水剤や撥油剤、あるいは柔軟剤、抗菌剤、架橋剤、防虫剤、難燃剤、帯電防止剤、染料安定剤、防シワ剤等を併用してもよい。
【0087】
本開示は、上述した本開示の撥水撥油剤で被覆された繊維を含む繊維製品にも関する。本開示の繊維製品は、本開示の撥水撥油剤で被覆された繊維を含むので、撥水撥油性に優れる。
【0088】
本開示の繊維製品に使用可能な繊維としては、本開示の撥水撥油剤により処理することが可能な上述した繊維が挙げられる。本開示の繊維製品の形態は特に限定されず、上記繊維の織物、編物、不織布等が挙げられる。本開示の繊維製品は、原料の繊維を本開示の撥水撥油剤により処理した後、織物等の所望の形態を構成することによって製造してもよく、原料の繊維で所望の形態を構成した後、本開示の撥水撥油剤により処理することによって製造してもよい。
【0089】
本開示の繊維製品は、服飾及びインテリア用のテキスタイルであることが好ましい。
【実施例
【0090】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
<合成例1(幹ポリマー(PBIEMA)の合成>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン34.4mL、メタクリル酸2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチル(BIEMA)5.58g、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)32.8mgを加えて、60℃で24時間反応させ、幹ポリマーPBIEMAを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、このポリマーの数平均分子量(M)は32,000、分子量分布(PDI)は2.15であった。
【0092】
<合成例2(ポリマー(1):StMAボトルブラシ 仕込みPBIEMA:StMA=1:30)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン185mL、Ru(Ind)Cl(PPh・CHCl(クロロインデニルビストリフェニルホスフィンルテニウム(II)(CHCl))43.1mg、n-トリブチルアミン(520mMトルエン溶液)1.92mL、メタクリル酸ステアリル(StMA)10.2g、合成例1で得たPBIEMA279mg、1,4-ジオキサン0.5mLを加えて80℃で168時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ73%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、二峰性のピークが確認され、それぞれのピークはMn:132,000、PDI:1.24及びM:14,000、PDI:1.33であった。また、このポリマーの元素分析を行ったところ、0.24wt%の臭素原子が検出された。
【0093】
<合成例3(ポリマー(2):StMAボトルブラシ 仕込みPBIEMA:StMA=1:80)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン166mL、Ru(Ind)Cl(PPh・CHCl43.1mg、n-トリブチルアミン(520mMトルエン溶液)1.92mL、メタクリル酸ステアリル(StMA)27.1g、合成例1で得たPBIEMA279mg、1,4-ジオキサン0.5mLを加えて80℃で30時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ83%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、二峰性のピークが確認され、それぞれのピークはM:224,000、PDI:1.59及びM:23,000、PDI:1.29であった。また、このポリマーの元素分析を行ったところ、0.15wt%の臭素原子が検出された。
【0094】
<合成例4(ポリマー(3):StAボトルブラシ 仕込みPBIEMA:StA=1:30)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン17.5mL、Ru(Ind)Cl(PPh 17.2mg、n-トリブチルアミン(470mMトルエン溶液)0.43mL,アクリル酸ステアリル(StA)1.95g、合成例1で得たPBIEMA55.8mgを加えて80℃で312時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ83%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、二峰性のピークが確認され、それぞれのピークはMn:98,000、PDI:2.05及びMn:6,000、PDI:1.39であった。また、このポリマーの元素分析を行ったところ、0.46wt%の臭素原子が検出された。
【0095】
<合成例5(ポリマー(4):StAボトルブラシ 仕込みPBIEMA:StA=1:80)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン14.1mL、Ru(Ind)Cl(PPh 17.2mg、n-トリブチルアミン(470mMトルエン溶液)0.43mL,アクリル酸ステアリル(StA)5.19g、合成例1で得たPBIEMA55.8mgを加えて80℃で150時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ83%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、二峰性のピークが確認され、それぞれのピークはMn:307,000、PDI:1.98及びMn:13,000、PDI:1.49であった。また、このポリマーの元素分析を行ったところ、0.19wt%の臭素原子が検出された。
【0096】
<合成例6(ポリマー(5):TdMAボトルブラシ)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン17.4mL、Ru(Ind)Cl(PPh・CHCl4.31mg、n-トリブチルアミン(430mMトルエン溶液)0.23mL、メタクリル酸テトラデシル(TdMA)2.26g、合成例1で得たPBIEMA27.9mg、1,4-ジオキサン0.05mLを加えて80℃で30時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ76%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、二峰性のピークが確認され、それぞれのピークはM:215,000、PDI:1.68及びM:21,000、PDI:1.29であった。
【0097】
<合成例7(ポリマー(6):StMA直鎖ポリマー 100量体仕込み)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン24.4mL、Ru(Ind)Cl(PPh・CHCl60.3mg、n-トリブチルアミン(490mMトルエン溶液)1.43mL、メタクリル酸ステアリル(StMA)35.5g、2-クロロ-2-フェニル酢酸メチル(MCPA)(520mMトルエン溶液)2.02mL1,4-ジオキサン1mLを加えて80℃で35.5時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ88%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。テトラヒドロフラン(THF)を溶離液としたGPC測定を行ったところ、M:30,000、PDI:1.37であった。
【0098】
<合成例8(ポリマー(7):StMA直鎖ポリマー 30量体仕込み)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン18.4mL、Ru(Ind)Cl(PPh・CHCl4.31mg、n-トリブチルアミン(520mMトルエン溶液)0.19mL、メタクリル酸ステアリル(StMA)1.02g、2-ブロモイソ酪酸メチル(MBIB)(550mMトルエン溶液)0.18mL、1,4-ジオキサン0.05mLを加えて80℃で72時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ74%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、M:9,100、PDI:1.17であった。
【0099】
<合成例9(ポリマー(8):StMA直鎖ポリマー 80量体仕込み)>
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン16.4mL、Ru(Ind)Cl(PPh・CHCl4.31mg、n-トリブチルアミン(520mMトルエン溶液)0.19mL、メタクリル酸ステアリル(StMA)2.71g、2-ブロモイソ酪酸メチル(MBIB)(550mMトルエン溶液)0.18mL、1,4-ジオキサン0.05mLを加えて80℃で28時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ83%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、M:18,000、PDI:1.17であった。
【0100】
<合成例10>
(ポリマー(9):StA/HEAボトルブラシ 仕込みPBIEMA:StA:HEA=1:76:4)
アルゴン置換した反応容器内に、トルエン14.5mL、Ru(Ind)Cl(PPh)2 17.2mg、n-トリブチルアミン(470mMトルエン溶液)0.43mL,アクリル酸ステアリル(StA)4.93g、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEA)92.8mg、合成例1で得たPBIEMA55.8mgを加えて80℃で72時間反応させた。サンプリングし、重合率を測定したところ80%であった。重合溶液を多量のメタノールに滴下し、沈殿精製することでポリマーを得た。クロロホルムを溶離液としたGPC測定を行ったところ、二峰性のピークが確認され、それぞれのピークはMn:360,000、PDI:1.85及びMn:12,000、PDI:1.76であった。また、このポリマーの元素分析を行ったところ、0.21wt%の臭素原子が検出された。
【0101】
<接触角測定>
上記合成例で得られたポリマー(1)、(2)、(7)及び(8)の固形分濃度0.1%のクロロホルム溶液をPET基板上にスピンコートして得られた塗膜上に、2μLの水ないしジヨードメタンを滴下し、着滴30秒後の接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
また、上記合成例で得られたポリマー(1)~(6)、(9)の固形分濃度1.0%のクロロホルム溶液およびポリマー(9)の固形分濃度1.0%のクロロホルム溶液にスミジュールN-3300(住化コベストロウレタン社製)をHEAユニットに対して0.3当量加えて調製した溶液をPET基板上にスピンコートして得られた塗膜上に、2μLの水ないしn-ヘキサデカンを滴下し、着滴1秒後の接触角を測定した。結果を表2に示す。「<10」は液滴が塗膜上で濡れ広がり、接触角が10°未満になることを示す。
【0104】
【表2】
【0105】
<転落角測定>
上記合成例で得られたポリマー(1)~(6)、(9)の固形分濃度1.0%のクロロホルム溶液およびポリマー(9)の固形分濃度1.0%のクロロホルム溶液にスミジュールN-3300をHEAユニットに対して0.3当量加えて調製した溶液をPET基板上にスピンコートして得られた塗膜上に、20μLの水、又は5μLのn-ヘキサデカンを滴下し、基板を毎秒2°の速度で傾斜させて液滴が転落し始める角度を転落角として測定した。結果を表3に示す。「>85」は基板を85°傾けても液滴が転落しないことを示す。
【0106】
【表3】
【0107】
<撥水性試験>
上記合成例で得られたポリマー(1)~(6)、(9)の固形分濃度1.5%のトルエン溶液およびポリマー(9)の固形分濃度1.5%のトルエン溶液にスミジュールN-3300をHEAユニットに対して0.3当量加えて調製した溶液を処理浴とし、ナイロン製布をこの試験溶液に浸してからマングルに通し、170℃で3分間熱処理した試験布で撥水性を評価した。JIS-L-1092(AATCC-22)のスプレー法に準じて処理布の撥水性を評価し、表4に示される撥水性No.によって撥水性を表した。点数が大きいほど撥水性が良好なことを示す。結果を表5に示す。
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】