(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20220414BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220414BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20220414BHJP
A61K 31/295 20060101ALI20220414BHJP
A61K 31/30 20060101ALI20220414BHJP
A61K 31/315 20060101ALI20220414BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20220414BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220414BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20220414BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20220414BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61K31/197
A61P31/14
A61K31/28
A61K31/295
A61K31/30
A61K31/315
A61K33/24
A61K33/26
A61K33/30
A61K33/34
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021072865
(22)【出願日】2021-04-22
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2020076370
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020174820
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517198735
【氏名又は名称】ネオファーマジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】北 潔
(72)【発明者】
【氏名】森田 公一
(72)【発明者】
【氏名】安田 二朗
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 康晃
(72)【発明者】
【氏名】河田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】富岡 基康
(72)【発明者】
【氏名】藤根 清考
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10987329(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0330622(US,A1)
【文献】国際公開第2016/163082(WO,A1)
【文献】特表2000-510123(JP,A)
【文献】国際公開第2014/013664(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218577(WO,A1)
【文献】Nature,2020年02月03日,Vol. 579,pp. 265-269
【文献】Free Radical Biology and Medicine,2020年10月19日,Vol. 161,pp. 263-271
【文献】Medical Hypotheses,2020年09月03日,Vol. 144, 110242,pp. 1-4
【文献】PLoS ONE,2008年,Vol. 3, issue 12, e4023,pp. 1-14
【文献】History of Changes for Study: NCT04542850,ClinicalTrials.gov archive [online], [retrieved on 2021.05.24],2020年09月06日,Retrieved from the Internet: <URL: https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT04542850?V_1=View#StudyPageTop>
【文献】European Journal of Pharmacology,2018年,Vol. 833,pp. 25-33
【文献】Am J Physiol Cell Physiol,2015年,Vol. 308,pp. C665-C672
【文献】International Journal of Molecular Sciences,2015年,Vol. 16,pp. 25865-25880
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications,2021年01月29日,Vol. 545,pp. 203-207
【文献】Frontiers in Veterinary Science,2021年02月10日,Vol. 8, Article 647189,pp. 1-6
【文献】bioRxiv (INTERNET ARCHIVE WAYBACK MACHINE) [online], [retrieved on 2021.05.17],2020年11月05日,Retrieved from the Internet: <URL: https://web.archive.org/web/20201105145733/https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.30.071290v2>
【文献】Bioorganic Chemistry,2021年01月05日,Vol. 107, 104619,pp. 1-11
【文献】Journal of Molecular Medicine,2020年06月29日,Vol. 98,pp. 1053-1054
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
A61P 31/12-31/22
A01P 1/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
【請求項2】
R
1及びR
2が水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
【請求項3】
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有
し、該金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
【請求項4】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
【請求項5】
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤に関し、さらに詳しくは、5-アミノレブリン酸(5-ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩を含む新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤およびこれを用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月に発症例が報告された、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新型肺炎である。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)を引き起こすSARS-CoVに類似性を有する、新規に同定されたウイルスである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は肺炎症状の他、発熱、咳、息切れ、呼吸困難、悪寒、悪寒を伴う震え、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、味覚障害、または嗅覚障害などの、幅広い症状を引き起こすことが知られている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者は世界各地で急速に増大しており、15万人以上の死亡が報告されている。
【0003】
現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して特異的な治療法は存在しておらず、他のウイルスに対する既存薬の効果が試験されているが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して効果を示す既存の抗ウイルス薬剤は限定されている(非特許文献1)。したがって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して有効な、更なる治療薬の開発が急務となっている。
【0004】
さらに、最近では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株が複数検出されているが、これらの変異株は、従来株よりも、感染力が強い可能性、病原性が高い可能性、及び/または、従来株よりも免疫やワクチンの効果を低下させる可能性が指摘され、新たな臨床上の問題となっていることから(非特許文献3及び4)、これらの変異株に対しても有効な、更なる治療薬の開発が切望されている。
【0005】
5-ALAは、細胞内のミトコンドリア内で産生されるヘム系化合物の共通前駆体であり、最終的にプロトポルフィリン(PPIX)からヘム(Heme)に変換される5-ALAは特定の炎症性疾患に対して抗炎症作用を示すことなどが知られている。また、癌細胞の一部においてはPPIXからヘムへの変換の阻害によりPPIXが蓄積することが知られており、蓄積したPPIXを用いて癌細胞を可視化する研究が行われている(非特許文献2)。しかしながら、5-ALAおよびその誘導体が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染、増殖および/またはウイルスタンパク質発現を抑制し新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療または予防し得ること、ならびにPPIX排出阻害剤の併用が当該治療または予防効果を増強することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
非特許文献1:Cell Research,2020,Vol.30,pp.269-271
【文献】Scientific Reports,2019,Vol.9,pp.no.8666,doi:https://doi.org/10.1038/s41598-019-44981-y
【文献】Review in Medical Virology. 2021 Mar 16. doi: 10.1002/rmv.2231
【文献】「新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応」厚生労働省(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000766545.pdf、アクセス日:2021年4月20日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤を提供することである。より詳細には、5-ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩を含む新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤を提供することである。また、別の態様において、5-ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防方法を提供することである。別の態様において、本発明の課題は5-ALA又はその誘導体又はそれらの塩とPPIX排出阻害剤を併用し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防方法、ならびに当該治療及び/又は予防のために用いるための医薬を提供することである。また別の態様において、本願発明は5-ALA又はその誘導体又はそれらの塩を、好ましくはPPIX排出阻害剤と併用して用いることにより、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染、増殖および/またはウイルス核酸もしくはタンパク質の発現を抑制する方法、ならびに当該方法に用いるための医薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題解決に向けて鋭意研究を重ねた結果、全く意外にも5-ALAが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染、増殖および/またはウイルスタンパク質発現を抑制し、COVID-19を治療または予防することを見いだし、さらにPPIX排出阻害剤を併用することで相乗的に優れた効果を有することを見出して本発明を完成した。
【0009】
5-ALAは、細胞内のミトコンドリア内で産生されるヘム系化合物の共通前駆体である。5-ALAは特定の炎症性疾患に対して抗炎症作用を示すことなどが知られていたが、5-ALAおよびその誘導体が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染、増殖および/またはウイルスタンパク質発現を抑制し新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療または予防し得ることは知られていなかった。本発明は新たに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療または予防するための、5-ALAおよびその誘導体を含有する医薬およびその使用を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明者等は、5-ALAとクエン酸第一鉄ナトリウム(Sodium Ferrous Citrate、SFC)などの金属含有化合物を組み合わせて用いることにより、極めて優れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療または予防効果が得られることも見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[項目1]
下記式(I)
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目2]
R1及びR2が水素原子であることを特徴とする、項目1に記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目3]
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする項目1又は2記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目4]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする項目3記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目5]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする項目3記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目6]
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする項目3記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目7]
PPIX排出阻害剤と併用するための、項目1~6のいずれか1項記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目8]
PPIX排出阻害剤が、トランスポータ阻害剤またはエキソサイトーシス阻害剤である、項目7記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目9]
PPIX排出阻害剤が、ABCG2阻害剤またはダイナミン阻害剤である、項目7又は8記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目10]
PPIX排出阻害剤が、ABCG2阻害剤である、項目7~9のいずれか1項記載の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤。
[項目11]
下記式(I)
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を、薬学的許容される賦形剤と共に投与することを含む、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防方法。
[項目12]
下記式(I)
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩の、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防における使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤は、特にウイルスの細胞感染もしくは増殖、ウイルスキャプシドタンパク質の発現もしくは集合、及び/又はウイルス粒子の放出等を強力に抑制することにより、感染細胞の増加を抑制し、優れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療及び/または予防効果を奏する。また、別の態様において、本発明の5-アミノレブリン酸(5-ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩をPPIX排出阻害剤と併用する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防方法、および当該治療及び/又は予防のために用いる医薬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療及び/または予防を提供するという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、VeroE6細胞におけるSARS-CoV-2感染に対する5-ALAおよびFTCの効果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、VeroE6細胞におけるSARS-CoV-2感染に対する5-ALAおよびFTCの効果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、Caco-2細胞におけるSARS-CoV-2感染に対する5-ALA又は5-ALAおよびSFCの効果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、Caco-2細胞におけるSARS-CoV-2感染に対する5-ALA又は5-ALAおよびSFCの効果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、VeroE6細胞におけるSARS-CoV-2感染に対する5-ALA、5-ALAおよびSFC、並びにSFC単独適用の濃度依存的感染阻害効果および細胞毒性効果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、Caco-2細胞におけるSARS-CoV-2感染に対する5-ALA、5-ALAおよびSFC、並びにSFC単独適用の濃度依存的感染阻害効果および細胞毒性効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(定義)
本明細書において、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の任意の下限値および上限値の組み合わせからなる範囲も同様に意味する。
【0015】
(新型コロナウイルス(SARS-CoV-2))
本発明の対象である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、従来株のみでなく、変異株をも含む(非特許文献3、4等参照)。例えば、「N501Yの変異がある変異株」としては、英国で確認された変異株(VOC-202012/01)、南アフリカで確認された変異株(501Y.V2)、ブラジルで確認された変異株(501Y.V3)及びフィリピンで確認された変異株が挙げられ、また、「E484Kの変異がある変異株」としては、南アフリカで確認された変異株(501Y.V2)、ブラジルで確認された変異株(501Y.V3)及びフィリピンで確認された変異株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
(本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤、並びに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)タンパク質発現抑制剤の有効成分)
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤、並びに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)タンパク質発現抑制剤の有効成分として用いられる化合物は、式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)として例示することができる。δ-アミノレブリン酸とも呼ばれる5-ALAは、式(I)のR1及びR2が共に水素原子の場合であり、アミノ酸の1種である。5-ALA誘導体としては、式(I)のR1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、5-ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0017】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0018】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0019】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0020】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0021】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0022】
上記5-ALA誘導体としては、R1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記R2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記R1とR2の組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せである化合物などを好ましく挙げることができる。
【0023】
5-ALA類は、生体内で式(I)の5-ALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩、エステル、または生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与すればよい。例えば、5-ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0024】
以上のALA類のうち、望ましいものは、5-ALA、及び5-ALAメチルエステル、5-ALAエチルエステル、5-ALAプロピルエステル、5-ALAブチルエステル、5-ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、ALA塩酸塩、5-ALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0025】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤、並びに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)タンパク質発現抑制剤は、過剰症を生じない範囲で、さらに金属含有化合物を含有するものが好ましく、かかる金属含有化合物の金属部分としては、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、コバルト、銅、クロム、モリブデンを挙げることができるが、鉄、マグネシウム、亜鉛が好ましく、中でも鉄を好適に例示することができる。
【0027】
上記ALA類と金属含有化合物を併用することで、より低濃度のALA類の使用でも、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染、増殖及び/又はウイルスタンパク質発現抑制効果、並びに優れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防効果を得ることができる。
【0028】
上記鉄化合物としては、有機塩でも無機塩でもよく、無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができ、有機塩としては、カルボン酸塩、例えばヒドロキシカルボン酸塩である、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム(Sodium Ferrous Citrate、SFC)、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、グリシン第一鉄硫酸塩を挙げることができる。
【0029】
上記マグネシウム化合物としては、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ジエチレントリアミン五酢酸マグネシウムジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸マグネシウムジナトリウム、マグネシウムプロトポルフィリンを挙げることができる。
【0030】
上記亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジエチレントリアミン五酢酸亜鉛ジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸亜鉛ジナトリウム、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛含有酵母を挙げることができる。
【0031】
上記金属含有化合物は、それぞれ1種類又は2種類以上を用いることができ、金属含有化合物の投与量としては、5-ALAの投与量に対してモル比で0~100倍であればよく、0.01倍~10倍が望ましく、0.1倍~8倍がより望ましい。
【0032】
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤は、過剰症を生じない範囲で、さらに他の抗ウイルス剤や、他の疾患治療薬と併用することができる。これら他の薬剤の投与量、および5-ALAの投与量との比率は、当業者が適宜調整することができる。
【0033】
本発明のALA類は、好ましくはPPIX排出阻害剤と併用される。PPIX排出阻害剤としては、トランスポータ阻害剤またはエキソサイトーシス阻害剤を使用することができ、これらとして例えばABCG2阻害剤などの多剤耐性トランスポータ阻害剤、ダイナミン阻害剤、キレート剤、ビタミンDの活性化体を使用することができる。
【0034】
本発明に使用される具体的なPPIX排出阻害剤は特に限定されない。例えばABCG2阻害剤、キレート剤、ビタミンDの活性化体が挙げられる。キレート剤が細胞内のPpIXの蓄積量の増加に用い得ることは、例えば、WO2014/2023833、Photochem Photobiol.2010,Vol.86,no.2,pp.471-475に記載されている。また、ビタミンDの活性化体が細胞内のPpIXの蓄積量の増加に用い得ることは、例えば、Cancer Res,2011,Vol,71,no.18,pp.6040-6050に記載されている。
【0035】
本発明において任意選択的に用い得るABCG2阻害剤は、例えば、Int J Biochem Mol Biol,2012,Vol.3,no.1,pp.1-27のTable 3およびTable 4に記載された化合物、Chin J Cancer,2012,Vol.31,no.2,p75-99のTable 2に記載された化合物、topoisomerase II inhibitor (Mitoxantrone、Bisantrene、Etoposide、Becatecarin、NB-506,J-107088など); Anthracyclines (Daunorubicin、Doxobucincin、Epirubicin、Pirarubicinなど); Camptothecin analogs(topoisomerase I inhibitor) (Topotecan、SN-38、CPT-11、9-aminocamptothecin、NX211、DX-8951f、Homocamptothecins、BN80915(diflomotecan)、Gimatecan、Belotecanなど);チロシンキナーゼ阻害剤(Dasatinib、Vandetanib、Nilotinib、Sorafenib、Tandutinib、CI1033 (Pan-HER TKI)、CP-724,714 (HER2 TKI)、Symadex (fms-like tyrosine kinase 3 inhibitor)など); Antimetabolites(MTX, MTX diglutamate, MTX triglutamate (antifolate)、GW1843, Tomudex (antifolates)、Trimetrexatte, piritrexim, metoprine, pyrimethamine (lipophilic antifolates)、5-fluorouracil (pyrimidine analog)、CdAMP (nucleotide), cladribine (nucleoside)など);cyclin-dependent kinase inhibitor(Flavopiridolなど);CDK and aurora kinases inhibitor(JNJ-7706621など);non-steroidal anti-androgen(Bicalutamideなど);PEITC(Phenethyl isothiocyanateなど);indazole-based tubulin inhibitors(TH-337など);Sufate and glucuronide conjugates of xenobiotics (Estrone 3-sulfate (E1S)、17beta-estradiol sulfate、DHEAS、4[35S]-methylumbelliferone sulfate、E3040 sulfate、Troglitazone sulfate、3-O-sulfate conjugate of 17alpha-ethinylestradiol、SN-38-glucuronide、[3H]17beta-estradiol-17beta-D-glucuronide、[14C]4-methylumbelliferone glucuronide、BP-3-sulfate、BP-3-glucuronide、Phenolic MPA glucuronideなど);Natural compounds and toxins (Folic acid、Urate、Genistein、Riboflavin (vitamin B2)、plumbagin (Vitamin K3)、Glutathione (GSH)、Sphingosine 1-phosphate、PhIP (carcinogen)など);その他([(125)I]lodoarylazidoprazosin (IAAP), [(3)H]azidopine; Sulfasalazine (anti-inflammatory); Erythromycin (macrolide antibiotic); Ciprofloxacin、ofloxacin、norfloxacin、enrofloxacin、grepafloxacin、ulifloxacin(fluoroquinolone antibiotics); Nitrofurantoin (urinary tract antibiotic); Moxidectin (parasiticide);Albendazole sulox
ide and oxfendazole(anthelmintics); Ganciclovir (antiviral drug); Zidovudine、Lamivudine (NRTI);Leflunomide、A771726 (antirheumatic drugs); Diclofenac (analgesic and anti-inflammatory drug); Cimetidine (histamine H2-receptor antagonist); ME3277 (hydrophilic glycoprotein IIb/IIIa antagonist); Pitavastatin、Rosuvastatin (HMG-CoA reductase inhibitor); Dipyridamole (thromboxane synthase inhibitor); Glyburide (hypoglycemic agent); Nicardipine、nifedipine、nitrendipine (Ca2+ channel blocker); Olmesartan medoxomil (angiotensin II AT1-R antagonist); Befloxatone (selective monoamine oxidase inhibitor); Prazosin (alpha-1-adrenergic receptor antagonist); Riluzole (Na+ channels blocker); Amyloid-beta Zoledronic acid (osteotropic compound); Hesperetin conjugates、Kaempferol (flavonoid、WO2004/069233も参照); FTC (Fumitremorgin C)およびその誘導体 (Mol. Cancer Ther.,2002,1:417-425参照); エストロゲンや抗エストロゲン(Mol. Cancer Ther.,2003,2:105-112参照); novobiocin (Int.J.Cancer,2004,108:146-151参照); ジフェニルアクリロニトリル誘導体(WO2004/069243参照); 複素環
を有するアクリロニトリル誘導体(WO2006/106778、WO2009/072267参照)等を使用することができる。
【0036】
上記PPIX排出阻害剤は、それぞれ1種類又は2種類以上を用いることができ、PPIX排出阻害剤の投与量は、所望の治療効果に併せて適宜選択することができ、例えば、5-ALAの投与量に対してモル比で0~10000倍、好ましくは0.0倍~1000倍、より好ましくは1倍~300倍、さらに好ましくは10~100倍の投与量を用いることができる。
【0037】
(本発明の治療及び/又は予防剤の投与方法)
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防方法またはこれらの方法に用いるための医薬において、ALA類、PPIX排出阻害剤、金属含有化合物または他の薬剤は、これらすべてを含む組成物としても、あるいは、それぞれを単独あるいはその一部のみを含有する組成物としても投与することできる。一態様において、ALA類と他の薬剤とを、それぞれ単独あるいはその一部のみを含有する組成物を用いる場合、これらを同時に投与してもよく、また、別々に投与してもよい。好ましくは、ALA類と他の薬剤との投与が相加的効果あるいは相乗的効果を奏することができるように組み合わせて投与することができる。ALA類と他の薬剤をそれぞれ単独あるいはその一部のみを含有する組成物を別々に投与する場合、それらの投与間隔は5分、10分、15分、20分、30分、45分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間等に設定できるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤の投与経路としては特に限定されないが、経口投与、吸入投与、注射、点滴等による静脈内投与、経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを使用することができる。
【0039】
(本発明の治療及び/又は予防剤の剤型)
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤の剤型としては、上記投与経路に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0040】
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤を調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、当業者は各具体的な成分を目的に応じて選択することができる。
【0041】
(本発明の治療及び/又は予防剤の投与量)
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤の投与量・頻度・期間としては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療又は予防しようとする動物の種類、年齢、体重、症状等により異なるが、例えばヒトに投与する場合、ALA類の投与量としては、5-ALA重量換算で、0.01-200mg/体重kg/日、好ましくは0.5-100mg/体重kg/日、より好ましくは1-50mg/体重kg/日、さらに好ましくは5-30mg/体重kg/日を挙げることができ、特に予防剤として用いる場合は、低用量を継続して摂取することが望ましい。例えば予防剤サプリメントとして投与する場合には、0.1-30mg/体重kg/日、好ましくは0.3~10mg/体重kg/日、より好ましくは1.0~5mg/体重kg/日などの投与量で投与することができる。投与頻度としては、一日一回~複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。治療剤または予防剤としての投与期間は、医師等当該技術分野の専門家が既知の方法により決定することができる。
【0042】
(本発明の治療及び/又は予防剤の適用症状)
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染および/または新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発症を原因として生じる様々な症状の治療および予防に適用することができる。そのような症状として、肺炎、発熱、咳、息切れ、呼吸困難、悪寒、悪寒を伴う震え、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、味覚障害、または嗅覚障害を例示することができるが、これらに限定されない。
【0043】
(本発明の治療及び/又は予防剤の適用動物)
本発明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療及び/又は予防剤は、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ミンク、牛、豚およびこれらの近縁動物、その他の哺乳類、鳥類等に投与することができる。
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
(治療例)
1.患者:53歳男性 1名
2.治療経過
2020年2月28日金曜日の夜から普段感じたことのない強い倦怠感と悪寒、鼻水、のどの痛み、胸の痛みを感じ、空咳があり、夜中に目が覚め、体温を測ったところ37.5℃であった。喉の渇きを癒やすためにオレンジジュースを飲用したが味を感じなかった。
耐えがたい倦怠感に眠ることもままならず、5-ALAリン酸塩50mgとSFC28.7mgを含有するサプリメント(カプセル)の摂取を2月29日土曜日に開始したところ、以下の経過が観察された。
2月29日土曜日
2:00 4カプセル摂取したところ悪寒が改善、体温は37.5℃
4:00 再び悪寒を感じたため2カプセル摂取、体温は37.2℃
5:00 咳、くしゃみは続く物ののどの痛みが軽減、体温は36.8℃
8:00 体温が37.9℃に上昇したため再び4カプセル摂取、体温は37.2に低下
10:00 体温37.5℃、2カプセル摂取、体温は37.1℃に低下
12:00 体温37.4℃、2カプセル摂取、体温は37.0℃に低下
15:00 体温37.2℃、2カプセル摂取、体温36.8℃に正常化、倦怠感が改善し始める。
19:00 体温36.9℃、夕食を採ることが出来、味覚が正常化、2カプセル摂取、就寝
3月1日日曜日
5:00 体温36.8℃ 4カプセル摂取、風邪症状軽快
10:00 体温36.9℃ 4カプセル摂取、症状なし
12:00 体温36.8℃ 4カプセル摂取、症状なし
16:00 体温36.8℃ 軽い筋肉痛を覚え、4カプセル摂取
17:30 筋肉痛軽快 体温36.9℃ 症状なし
その後4月17日に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット(倉敷紡績株式会社製品コードRF-NC002)を用いて男性患者の抗新型コロナウイルス抗体を調べたところ陽性であった。
【0046】
3.結果
以上の経過より、5-ALAの摂取によって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の諸症状が短期間に著しく改善できることが明らかとなった。
【実施例2】
【0047】
(細胞試験)
(方法)
実験材料
アフリカミドリザル腎臓由来のVeroE6は北海道大学の高田博士より入手した。ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞は大阪大学の飯田博士より入手した。
アフリカミドリザル腎臓由来のVeroE6細胞は、10% Fetal Bovine Serum (FBS)及び1% penicillin/streptomycin溶液を添加したDulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)にて培養した。
Caco-2細胞も同様の方法で培養した。
5-アミノレブリン酸(5-ALA)塩酸塩は純水にて100 mM溶液に調製、クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)は純水と1N HClにて25 mM溶液に調製、fumitremorgin C(FTC)はDMSOにて5 mMに調製し、実験毎にそれらをDMEMにて希釈して使用した。免疫染色法では、goat serum、rabbit anti-SARS-CoV N antibody(NOVUS社)、Alexa Fluor 488 goat anti-rabbit(ThermoFisher Scientific社)、Hoechst 33342(ThermoFisher Scientific社)を使用した。
【0048】
ウイルス
本実験で使用したSARS-CoV-2は、日本国内の感染者より分離された(A JPN/NGS/IA-1/2020,GISAID accession no. EPI-ISL-481251)。また、SARS-CoV-2の変異株として、国立感染症研究所より入手した英国株QK002(hCoV-19/Japan/QK002/2020、GISAID ID: EPI_ISL_768526)、英国株QHN001(hCoV-19/Japan/QHN001/2020、GISAID ID: EPI_ISL_804007)、英国株QHN002(hCoV-19/Japan/QHN002/2020、GISAID ID: EPI_ISL_804008)、ブラジル株TY7-501(hCoV-19/Japan/TY7-501/2021、GISAID ID: EPI_ISL_833366)、ブラジル株TY7-503(hCoV-19/Japan/TY7-503/2021、GISAID ID: EPI_ISL_877769)、南アフリカ株TY8-612(hCoV-19/Japan/ TY8-612/2021、GISAID ID: EPI_ISL_1123289)、の6株を用いた。ウイルスはVeroE6細胞を用いて継代し、3~4日間培養した後に培養上清を回収し、2000xgにて15分間遠心した後、上清を-80℃にて保存し、実験毎に解凍した後に使用した。本ウイルスを用いた感染実験は全て、長崎大学が有するBSL3実験室にて行った。
【0049】
薬効評価試験
(a)VeroE6細胞を用いた試験
VeroE6細胞を96ウェルプレートに0.5x10^4 cells/wellの密度で播種し、細胞がプレート底に接着した後、各薬剤を培地に添加した。試験薬剤としては、5-ALA(1000uM)、5-ALA(1000uM)+FTC(10uM)、5-ALA(1000uM)+SFC(250uM)、5-ALA(1000uM)+SFC(250uM)+FTC(10uM)、FTC(10uM)を用いた。薬剤添加後、細胞を37℃にて48時間又は72時間培養した。その後、BSL3実験室にて、SARS-CoV-2を感染させた。感染開始から48時間後、感染細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)にて一晩浸漬し、細胞の固定とウイルスの不活化を行った。更に細胞を0.2% TritonX-100にて透過処理した後、10% goat serumにてブロッキングを行い、rabbit anti-SARS-CoV N antibodyにて一次抗体処理し、Alexa Fluor 488 goat anti-rabbitにて二次抗体処理し、Hoechst 33342により細胞核の染色を行った。そして、Cytation 5細胞イメージングプレートリーダー(BioTek社)を用いて感染細胞の画像撮影を行った。それら画像の解析はCellProfiler画像解析ソフト(Broad Institute,MIT)を用いて行い、感染細胞数及び全細胞数を算出し、GraphPad Prism(MDF社)を用いてグラフの作成と統計処理を行った。
各薬剤にて48時間の前処理を行った条件では、5-ALAとFTCを共添加することでSARS-CoV-2の感染を有意に抑制した。その他の薬剤添加条件では効果が認められなかった(
図1)。各薬剤にて72時間の前処理を行った条件では、5-ALAとFTCの共添加、又は5-ALAとSFCとFTCの共添加により、SARS-CoV-2の感染が強く抑制された(
図2)。
【0050】
以上の結果より、5-ALAとFTCの共添加、又は5-ALAとSFCとFTCにより抗ウイルス活性の増強が認められた。
また、播種細胞数を1x10^4細胞/wellにすると、5-ALA単独の添加あるいは5-ALAとSFCの添加によりSARS-CoV-2の感染を有意に抑制した。
【0051】
(b)Caco-2細胞を用いた試験
Caco-2細胞を用いた薬物評価試験では、SARS-CoV-2を感染させてから不活化までの時間を72時間に変更した点、および、感染させたウイルス量がVeroE6細胞では0.002MOIであったのに対して、Caco-2細胞では0.02MOIであった点を除いて同様に行った。
薬剤添加後72時間培養した後にSARS-CoV-2を感染させた場合、5-ALA単独又は5ALAとSFCの併用処理した細胞では、SARS-CoV-2の感染及び/又は増殖が強力に阻害された(
図3)。Caco-2細胞では、薬剤添加後48時間培養した後にSARS-CoV-2を感染させた場合にも、同様のSARS-CoV-2感染及び/又は増殖阻害作用が得られた(
図4)。
また、同様に変異株を感染させた場合でも、5-ALA単独又は5ALAとSFCの併用処理した細胞では、SARS-CoV-2への感染及び/又は増殖阻害効果が期待される。
本結果は、5-ALAがヒト細胞においてSARS-CoV-2感染及び/又は増殖阻害効果を示すことを裏付けるものである。
なお、Caco-2細胞は細胞外から供給される5-ALAの代謝を行うことが知られている(Biochem.Biophys.Rep.,2017.Vol/11,pp.105-111)。
【0052】
(c)用量依存的感染及び/又は増殖阻害効果
SARS-CoV-2感染及び/又は増殖阻害効果における用量依存性を確認するために、各濃度の薬剤を試験した。
その結果、VeroE6細胞に対して5-ALA単独のIC
50は570uMであり、5-ALAとSFCの併用適用のIC
50は695uMであった。一方、SFCの単独適用はSARS-CoV-2感染及び/又は増殖阻害効果を示さなかった(
図5)。
また、Caco-2細胞に対して5-ALA単独のIC
50は39uMであり、5-ALAとSFCの併用適用のIC
50は63uMであった。一方、SFCの単独適用はSARS-CoV-2感染及び/又は増殖阻害効果を示さなかった(
図6)。
なお、試験したすべての濃度範囲(最大2000uM)で、5-ALAは有意な細胞毒性を示さなかった。
以上の結果は、5-ALAが様々な細胞型において、特異的かつ強力なSARS-CoV-2感染及び/又は増殖阻害効果を有することを示している。