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特許7058031タキシフォリンを含有する肝線維化抑制剤及び褐色脂肪細胞活性化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】タキシフォリンを含有する肝線維化抑制剤及び褐色脂肪細胞活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20220414BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P1/16
A61P3/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021528307
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020025740
(87)【国際公開番号】W WO2020262703
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019117229
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】518444691
【氏名又は名称】株式会社次々世代イノベーション開発
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】浅原 哲子
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田中 将志
(72)【発明者】
【氏名】猪原 匡史
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 聡
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102477453(CN,A)
【文献】WAN X. et al.,Euonymus alatus and its monomers alleviate liver fibrosis both in mice and LX2 cells by blocking TβR1-Smad2/3 and TNF-α-NF-κB pathways,Am J Transl Res.,2019年01月30日,11(1),p. 106-119
【文献】西田 直生志,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH),日本臨床,2010年,68(Suppl 2),p. 372-377
【文献】坂井田 功,肝線維化治療の最前線,医学と薬学,2006年09月,56(3),p. 340-344
【文献】MEHANNA E. T. et al.,Isolated compounds from Cuscuta pedicellata ameliorate oxidative stress and upregulate expression of some energy regulatory genes in high fat diet induced obesity in rats,Biomedicine & Pharmacotherapy,2018年,108,p. 1253-1258
【文献】PISONERO-VAQUERO S. et al.,Flavonoids and related compounds in non-alcoholic fatty liver disease therapy,Current Medicinal Chemistry,2015年,22,p. 2991-3012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項9】
タキシフォリンを有効成分として含有する、インスリン抵抗性を併発する非アルコール性脂肪肝炎における、肝脂肪化、インスリン抵抗性及び肝線維化を共に改善するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タキシフォリンを有効成分として含有する肝線維化抑制剤及び褐色脂肪細胞活性化剤に関する。また、本発明は、タキシフォリン含有肝線維化抑制剤による、非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療用途にも関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化や運動不足等より、わが国でも肥満が増加し、糖尿病およびメタボリック症候群は予備軍含め、各々2200万人、2000万人に上る。さらに近年、肥満人口の増加に伴い非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:以下、「NASH」と称する。)等の非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:以下、「NAFLD」と称する。)有病者が、健診の約3割、推定1500~2300万人近くと急増しており、最新のデータによると、その約25%程度がNASHに進行し、さらにNASHの線維化が進行すると、約25%程度が肝硬変に、そして更にその約25%が10年で肝細胞癌を発症すると推定されている。しかし、脂肪肝がNASHに進行するメカニズムは未だ不明であり、また、NASHの確定診断には侵襲的な肝生検が必要な為大規模研究が難しく、明確な進展因子・バイオマーカーは確立されていない(非特許文献1)。さらに現在、治療法としては、食事・運動療法などの生活習慣の改善が基本であり、薬物療法としてはエビデンスレベルの高い報告が少なく、標準的治療法が確立されていない。ウイルス性肝炎が治療できる時代となった現在、NASHの予防・治療対策が喫緊の課題である。
【0003】
肥満とは、白色脂肪細胞に脂肪が蓄積して肥大化するとともに、白色脂肪細胞が分化し、その数が増加した状態である。これに対して、褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞と同様に脂肪を貯蔵するものの、ミトコンドリアに存在する脱共役タンパク質1(uncoupling protein 1:以下、「UCP1」と称する。)の働きにより、電子伝達系におけるATP合成を経ずに脂肪を熱へ変換する。生体内では、白色脂肪細胞によるエネルギーの貯蔵ならびにATP合成系を介したエネルギーの補給と、褐色脂肪細胞の熱産生によるエネルギーの消費により、全身のエネルギー代謝や体脂肪の調節が行われていると考えられている。最近の研究では、褐色脂肪細胞には胚発生初期時にすでに細胞運命が決定している「既存型」と成人において様々な環境要因等により白色脂肪細胞から分化誘導される「誘導型」の2種類が存在することが分かっている(非特許文献2)。ヒトでは、「既存型」の褐色脂肪細胞は、肩甲骨周辺と首の後ろ、腎周囲等の限られた場所に少量存在し、加齢とともに減少するが、長期の寒冷刺激等の環境要因等により、成人の白色脂肪組織に存在する白色脂肪前駆細胞が「誘導型」の褐色脂肪細胞に分化することが報告されている。それ故、白色脂肪前駆細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進したり、褐色脂肪細胞を活性化することでエネルギー消費を亢進して、生体における過剰な脂肪の蓄積を抑制し、メタボリックシンドローム(例えば、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症等)等を予防又は改善することが可能である。一般に、メタボリックシンドローム等に由来する慢性炎症は間質線維化を誘導して、最終的には臓器機能不全をもたらすが、これは脂肪組織も例外ではない。最近、褐色脂肪細胞の分化及びその機能の維持に働く転写因子であるPRDM16が、熱産生とは関係なく(UCP1非依存的に)、脂肪組織の線維化を抑制することが報告されている(非特許文献3)。
【0004】
近年、最も安全な薬剤としての植物性製剤が注目されている。中でも植物性製剤における有効成分であるフラボノイドは、その固有の抗酸化活性と広範囲に渡る生物学的効果(免疫増強作用、抗腫瘍作用、心臓保護作用、放射線障害防護作用、老化防止作用、抗血小板作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用等)が知られている(非特許文献4~6)。特に、ロシアでは様々な植物性製剤が生産されており、200種以上の植物原料が医療目的に利用されている。ロシアでは、製造される薬剤の種類の約40%を植物性製剤が占め、そのうちの大部分にフラボノイドが含まれている。
【0005】
最近、このフラボノイド含有薬剤のリストに、ダフリアカラマツ又はシベリアカラマツの木質部から分離されるバイオフラボノイド複合体であるジクベルチンが加わった。「ジクベルチン」の有効成分の大部分(90%以上)を占めているのが、タキシフォリンである(非特許文献7)。タキシフォリンは、抗酸化特性および毛細血管保護特性を有することが報告されており(非特許文献8)、ロシア連邦保健省により、毛細血管保護、及び抗酸化特性を有する医薬品として承認されている。また、機能性食品として、食品の賞味期限を延ばす食品添加物としても承認されている。さらに、タキシフォリンは最近、摂取上の安全性が確認される(非特許文献9)と共に、急性膵炎モデルマウスにおける抗酸化作用(非特許文献10)や1型糖尿病モデルラットにおける血糖改善効果(非特許文献11)、アルツハイマー病モデルマウスにおけるアミロイドβ凝集抑制、脳血流の改善、水迷路試験でのマウスの空間認識機能の改善等の認知症改善効果が確認されている(特許文献1、非特許文献12)。
しかし、タキシフォリンの、肝線維化抑制作用や褐色脂肪細胞活性化作用に関する報告例はなく、また、線維化を伴うNASHの予防及び/又は治療剤としてのタキシフォリンの使用に関する報告例もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/199755号
【非特許文献】
【0007】
【文献】NAFLD/NASH診療ガイドライン2014,日本消化器病学会編,南江堂
【文献】Cell Metabolism,2010,11:257-262
【文献】Cell Metabolism,2018,27:180-194.e6
【文献】Pharmacol.Rev.,2000,52(4):673-751
【文献】Fitoterapia,1991,62(5):371-389
【文献】Drug Metabol.Drug Interact.,2000,17(1-4):291-310
【文献】опчоп.вeн,1998,19
【文献】хйм-фарм.журн,1995,29,9,61-64
【文献】Int.J.Toxicol.,2015,34(2),162-181
【文献】J.Ethnopharmacol.,2018,224,261-272
【文献】J.Cell.Biochem.,2019,120(1),425-438
【文献】Acta Neuropathol.Commun.,2017,5(1),26,doi:10.1186/s40478-017-0429-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景のもと、未だ予防法や治療法が確立されていないNASH、特に、肝硬変や肝細胞癌へと進行し得る肝線維化を伴うNASHを標的とした新規な肝線維化抑制剤の開発、及びそれによるNASHの予防剤及び/又は治療剤の創出、並びに体内のエネルギー消費を効果的に促進させ、且つ脂肪組織の線維化も抑制し得る褐色脂肪細胞活性化剤の開発が切望されている。
【0009】
本発明は、NASHに対して線維化の進展を抑制する新規な肝線維化抑制剤を提供することを目的とする。また、本発明は、新規な褐色脂肪細胞活性化剤を提供することを目的とする。本発明の更なる目的は、肝線維化を伴う慢性肝疾患(C型肝炎、B型肝炎、NASH等の非B、非C型肝炎、自己免疫性肝炎等)、特に、肝線維化を伴うNASH、の予防及び/又は治療(若しくは改善)に有効な医薬組成物又は食品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる状況下、鋭意検討を重ねた結果、タキシフォリン又はその塩が、優れた肝線維化抑制作用及び褐色脂肪細胞活性化作用を示すことを見出すと共に、これまで有効な予防法や治療法が無かった肝線維化を伴うNASHの予防及び/又は治療において、有用且つ安全な医薬組成物又は食品組成物となり得ることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]タキシフォリンを有効成分として含有する肝線維化抑制剤。
[2]肝線維化が、肝炎ウイルス感染、非アルコール性脂肪肝炎、又は自己免疫性肝炎により引き起こされるものである、上記[1]に記載の肝線維化抑制剤。
[3]肝線維化が、非アルコール性脂肪肝炎により引き起こされるものである、上記[1]に記載の肝線維化抑制剤。
[4]タキシフォリンを有効成分として含有する褐色脂肪細胞活性化剤。
[5]肝線維化を抑制するための、上記[4]に記載の褐色脂肪細胞活性化剤。
[6]肝線維化が、肝炎ウイルス感染、非アルコール性脂肪肝炎、又は自己免疫性肝炎により引き起こされるものである、上記[5]に記載の褐色脂肪細胞活性化剤。
[7]肝線維化が、非アルコール性脂肪肝炎により引き起こされるものである、上記[5]に記載の褐色脂肪細胞活性化剤。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の剤を有効成分として含有する、肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療剤。
[9]エネルギー消費を促進するための、上記[5]に記載の褐色脂肪細胞活性化剤。
[10]UCP1の発現を亢進するための、上記[5]に記載の褐色脂肪細胞活性化剤。
[11]錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ、又は液剤の形態で調製されていることを特徴とする、上記[1]~[10]のいずれかに記載の剤。
[12]予防及び/又は治療的有効量のタキシフォリン又はその塩を有効成分として含有する、肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療剤。
[13]有効量のタキシフォリン又はその塩を有効成分として含有する、肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防又は改善用食品組成物。
[14]「肝線維化のリスク低減用」、及び/又は「エネルギー代謝促進用」である旨の表示が付された、上記[13]に記載の食品組成物。
[15]サプリメント、機能性食品、健康食品、特別用途食品、保険機能食品、特定保健用食品、又は栄養機能食品として調製されていることを特徴とする、上記[13]又は[14]に記載の食品組成物。
[16]錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ、又は液剤の形態で調製されていることを特徴とする、上記[13]~[15]のいずれかに記載の食品組成物。
[17]予防及び/又は治療的有効量のタキシフォリン又はその塩を対象に経口投与することを特徴とする、肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療方法。
[18]肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療において使用するためのタキシフォリン又はその塩。
[19]肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療において使用するための、タキシフォリン含有医薬組成物。
[20]肝線維化の予防及び/又は改善において使用するための、タキシフォリン含有食品組成物。
[21]肝線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎の予防及び/又は治療において使用するための医薬の製造のためのタキシフォリン又はその塩の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全な植物由来成分であるタキシフォリン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする優れた肝線維化抑制剤を提供することができる。これにより、NASHに対しても線維化の進展を抑制することができる。また、本発明によれば、タキシフォリン又はその塩を有効成分として含有する優れた褐色脂肪細胞活性化剤を提供することができる。これにより、エネルギー消費を促進したり、UCP1の発現を亢進することができ、また、脂肪組織の線維化も効果的に抑制することができ、その結果として、メタボリックシンドローム等を予防又は改善することが可能である。さらに、本発明によれば、肝線維化抑制剤及び/又は褐色脂肪細胞活性化剤であるタキシフォリン又はその塩の予防及び/又は治療的有効量を対象に投与することにより、様々な原因(肝炎ウイルス感染、NASH、自己免疫性肝炎等)により引き起こされる肝線維化の予防及び/又は治療(若しくは改善)において有用な医薬又は食品組成物を提供することができる。とりわけ、本発明によれば、これまで有効な予防又は治療法が知られていなかった線維化を伴うNASHの新規且つ効果的な予防剤を提供することができる。また、食事療法、運動療法、薬物療法(他の薬物との併用療法)、除鉄療法、及び/又は外科的治療(減量手術、肝移植)と組み合わせることにより、本発明におけるタキシフォリン又はその塩の予防及び/又は治療効果を増強することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1Aは、摂食実験におけるマウスの体重変化を示すグラフであり、図1Bは、摂食実験最終日における各群のマウスの外観を示す写真である。
図2図2は、摂食実験期間におけるマウスの摂食量の変化を示すグラフである。
図3図3Aは、空腹時血糖の変化を示すグラフであり、図3Bは、腹腔内ブドウ糖負荷試験の開始時刻を0分として、30分、60分、及び120分後の血糖値の変化を示すグラフであり、図3Cは、各群のマウスの食後血糖曲線下面積を示すグラフである。
図4図4Aは、摂食実験開始から8週及び12週経過時のマウスの直腸温の変化を示すグラフであり、図4Bは、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスにおけるUCP1遺伝子発現を示すグラフである。
図5図5は、解剖時の各群のマウスの組織重量を示すグラフ(図5A:肝臓重量、図5B:精巣上体脂肪(EPI WAT)重量、図5C:褐色脂肪組織(BAT)重量)である。
図6図6は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの空腹時血糖(FBC)(図6A)、インスリン濃度(図6B)、及びインスリン抵抗性指標(HOMA-R)(図6C)を示すグラフである。
図7図7は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの血中トリグリセリド濃度を示すグラフである。
図8図8は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの血中レプチン濃度(図8A)、血中アディポネクチン濃度(図8B)、血中TNF-α濃度(図8C)、及び血中IL-1β濃度(図8D)を示すグラフである。
図9図9は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの血中AST値(図9A)、血中ALT値(図9B)、及び肝臓トリグリセリド濃度(図9C)を示すグラフであり、図9Dは、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの肝臓外観の写真である。
図10図10は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの肝臓AMPKリン酸化(上段:ウエスタンブロッティングバンド)(図10A)、及び肝臓ACCリン酸化(上段:ウエスタンブロッティングバンド)(図10B)を示すグラフである。
図11図11は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスにおける肝臓脂肪酸合成関連遺伝子の発現の比較(図11A)、及び脂肪酸酸化関連遺伝子の発現の比較(図11B)を示すグラフである。
図12図12は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの血中過酸化脂質濃度(図12A)、肝臓過酸化脂質濃度(図12B)、Mn-SOD遺伝子発現(図12C)、CuZn-SOD遺伝子発現(図12D)、Catalase遺伝子発現(図12E)、及びGP-x(glutathione peroxidase)遺伝子発現(図12F)を示すグラフである。
図13図13は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの肝臓のF4/80遺伝子発現(図13A)、TNF-α遺伝子発現(図13B)、及びIL-1β遺伝子発現(図13C)を示すグラフである。
図14図14は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの肝臓のp38 MAPKリン酸化(図14A)、NF-κBリン酸化(図14B)、及びJNKリン酸化(図14C)を示すグラフである。
図15図15は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウスの肝臓線維化指標群の遺伝子発現(αSMA遺伝子発現(図15A)、PAI1遺伝子発現(図15B)、TGF-β1遺伝子発現(図15C)、及びType1 collagen遺伝子発現(図15D))、並びにタンパク量(F4/80タンパク量(図15E)、αSMAタンパク量(図15F)、及びTGF-β1タンパク(図15G))を示すグラフである。
図16図16は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウス(A:普通食のみ、B:普通食+3%タキシフォリン、C:高脂肪食のみ、D:高脂肪食+3%タキシフォリン)の肝臓組織をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した写真(スケールバー:白枠内100μm、他500μm)を示す。
図17図17は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウス(A:普通食のみ、B:普通食+3%タキシフォリン、C:高脂肪食のみ、D:高脂肪食+3%タキシフォリン)の肝臓組織をアザン(Azan)染色した写真(スケールバー:50μm)を示す。
図18図18は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウス(A:普通食のみ、B:普通食+3%タキシフォリン、C:高脂肪食のみ、D:高脂肪食+3%タキシフォリン)の肝臓組織をシリウスレッド(SiriusRed)染色した写真(スケールバー:100μm)を示す。
図19図19は、摂食実験開始12週経過後の各群のマウス(A:普通食のみ、B:普通食+3%タキシフォリン、C:高脂肪食のみ、D:高脂肪食+3%タキシフォリン)の肝臓組織の抗F4/80抗体により免疫組織化学染色した写真(スケールバー:100μm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において用いる用語を以下のように定義する。
【0015】
本明細書中、「タキシフォリン」とは、下記式(1):
【0016】
【化1】
【0017】
で示される化合物である。タキシフォリンは、ダフリアカラマツ又はシベリアカラマツの木質部から分離されるバイオフラボノイド複合体であるジクベルチンの有効成分の大部分(90%以上)を占めるフラボノイドの一種である。
【0018】
本明細書中、タキシフォリンの塩としては、医薬的に許容される塩基を作用させることによって容易に形成し得る塩が挙げられる。そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0019】
シベリアカラマツ由来のタキシフォリンは、光学活性体((+)-タキシフォリン)である。本発明のタキシフォリンには、(+)-タキシフォリンだけでなく、その鏡像異性体である(-)-タキシフォリン、光学純度の低い化合物(光学的に純粋な両鏡像異性体を適当な配合比で混合したもの)、及びラセミ体も包含される。また、本発明のタキシフォリンは、ラベル体、すなわち、タキシフォリンを構成する1又は2以上の原子を同位元素(例えば、H、H、11C、13C、14C、15N、18O、18F、35S等)で標識された化合物も包含される。
【0020】
本発明のタキシフォリン又はその塩の光学活性体は、自体公知の方法により化学合成することにより、或いはダフリアカラマツ又はシベリアカラマツの木質部から抽出及び/又は精製することにより製造することができる。具体的には、光学活性な合成中間体を用いることにより、又は、最終物のラセミ体を常法(例えば、J.Jacquesらの、「Enantiomers,Racemates and Resolution,John Wiley And Sons,Inc.」等参照)に従って光学分割することにより光学活性体を得ることができる。また、(+)-タキシフォリンは市販されており、市販品をそのまま使用することも可能である。
【0021】
本発明のタキシフォリン又はその塩は、結晶であってもよく、結晶形が単一であっても結晶形混合物であってもタキシフォリン又はその塩に包含される。結晶は、自体公知の結晶化法を適用して、結晶化することによって製造することができる。
【0022】
本発明のタキシフォリン又はその塩には、それらの溶媒和物も包含され得る。それらの溶媒和物とは、タキシフォリン又はその塩に、溶媒の分子が配位したものであり、水和物も包含される。例えば、タキシフォリン又はその塩の水和物、エタノール和物、ジメチルスルホキシド和物等が挙げられる。
【0023】
本明細書中、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とは、NAFLD/NASH診療ガイドライン2014(日本消化器病学会編,南江堂;非特許文献1)によれば、組織診断又は画像診断で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害等の他の肝疾患を除外した病態である。NAFLDは、組織学的に大滴性(核を偏在させるほどの大きな脂肪滴)の肝脂肪変性を基盤に発症し、病態が殆ど進行しないと考えられる非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver:以下、「NAFL」と称する。)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類される。NAFLでは、肝細胞障害(風船様変性)や線維化は認められない。
【0024】
本明細書中、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」とは、NAFLD/NASH診療ガイドライン2014(日本消化器病学会編,南江堂;非特許文献1)によれば、進行性で肝硬変や肝細胞癌の発症母地にもなる病態であり、肝細胞の大滴性脂肪化(肝脂肪変性)に加えて、炎症を伴う肝細胞の風船様変性(肝細胞障害)や線維化を認める病態である。脂肪化の程度、風船様変性等の肝細胞の変化、炎症の程度、線維化の進展・増悪の程度により軽度、中等度、重症と分類される。また、NASHは、初期であれば線維化を認めない症例もあるが、線維化の進展により多くの例で脂肪滴の減少・消失がみられるため注意が必要である。Younossiらの診断基準(Hepatology,2011;53:1874-1882)によれば、NASHの病理診断においては、線維化の程度こそが重症度を規定するものであるとされている。本発明の肝線維化抑制剤は、肝線維化を伴うNASH(中等度以上のNASH)の予防、及び/又は治療に特に有効である。
【0025】
本明細書中、「肝線維化」とは、びまん性肝疾患(急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変等)の基本的な病態であり、その程度は病態の進行と相関する。高度の肝線維化は、肝硬変への移行を意味し、且つ肝細胞癌発生の高リスクを示唆するものである。様々な肝疾患において、肝線維化の程度は全死亡率を含めた予後に強く相関するという報告がある(例えば、J.Gastroenterol.,2016;51:380-389等)。また、近年のウイルス性肝炎治療の進歩により、肝線維化が可逆的な病態であることが証明された。
肝線維化の評価は、肝生検による組織診断の他、フィブロスキャンを用いて、肝臓の硬さを非侵襲に測定することも可能である。最近、crown-like structure(CLS)と呼ばれる特徴的な組織像が肥満の脂肪組織やNASHに共通して形成され、ここを起点として組織線維化が進行することが報告されている(例えば、菅波孝祥,上原記念生命科学財団研究報告集,31(2017)等)。
【0026】
本明細書中、「肝線維化抑制剤」とは、対象に投与することにより、肝線維化の進展を抑制する薬剤を意味する。また、「肝線維化抑制剤」には、線維肝を改善する薬剤も包含される。本発明の「肝線維化抑制剤」の対象となる肝線維化は、特に限定されないが、好適には、肝炎ウイルス感染、NASH、又は自己免疫性肝炎により引き起こされるものであり、より好適には、NASHにより引き起こされるものである。
【0027】
本明細書中、「褐色脂肪細胞活性化剤」とは、対象の白色脂肪組織中に褐色脂肪細胞が分化誘導されることを促進する作用(すなわち、褐色脂肪細胞数を増加させる作用)、及び/又は褐色脂肪細胞を活性化することでUCP1の発現を亢進し、それにより、エネルギー消費を亢進する作用を示す物質を意味する。
褐色脂肪細胞の存在、褐色脂肪細胞数の変化、及び/又は褐色脂肪細胞におけるエネルギー消費量の上昇は、褐色脂肪組織重量や直腸温を測定すること、UCP1 mRNA発現やUCP1タンパク質量を測定すること、組織学的に細胞を観察すること、18F標識グルコースの集積をPETで測定すること、寒冷誘導熱産生を測定すること等により評価することができる。
【0028】
本明細書中、「エネルギー消費を促進する」とは、熱産生により、褐色脂肪細胞のエネルギー消費量を向上させることを意味する。
【0029】
本明細書中、「UCP1の発現を亢進する」とは、対象におけるUCP1遺伝子の発現量を促進すること、UCP1タンパク質の翻訳量を増大させること、及びUCP1を活性化することのうち少なくともいずれか1つの作用を意味する。UCP1の発現を亢進することにより、白色脂肪細胞での脂肪分解を促すと同時にUCP1を活性化して、遊離した脂肪酸を熱に変え、最終的に体脂肪を減少させることができるので、抗肥満効果が期待できる。
【0030】
本明細書中、「予防」には、疾患の発症の防止、疾患の発症の遅延、及び病態発生の防止が含まれる。「予防的有効量」とは、予防目的を達成するに足る有効成分の用量をいう。
【0031】
本明細書中、「治療」には、疾患の治癒、疾患の病態(例えば、1つ又は複数の症状)の改善、及び疾患(の重篤度)の進展の抑制が含まれる。「治療的有効量」とは、治療目的を達成するに足る有効成分の用量をいう。従って、「改善」は、「治療」に包含される概念である。
【0032】
本明細書中、「対象」とは、疾患又は疾患の病態を予防及び/又は治療(若しくは改善)するために必要な有効量の有効成分を含有する医薬又は食品を投与又は摂食させる対象を意味する。当該「対象」としては、ヒト又は非ヒト動物(特に哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等))が挙げられる。
【0033】
本明細書中、「食事療法」とは、炭水化物のエネルギー比率が50~60%に、脂質のエネルギー比率が20~25%に制限された低カロリー食摂取により体重減少を図る療法である。具体的な体重減少の目標としては、例えば、BMI(Body Mass Index)25~30の肥満症の場合、現体重の3%以上の体重減少、BMI35以上の高肥満症の場合、現体重の5~10%の体重減少(肥満症診療ガイドライン2016参照)、NAFLD/NASH患者の場合、7%以上の体重減少(NAFLD/NASH診療ガイドライン2014参照)を図ること等が挙げられる。
【0034】
本明細書中、「運動療法」とは、例えば、最大強度の50%程度(軽く汗ばむ程度)の有酸素運動を、1回あたり30~60分、週3~4回を4~12週間継続することにより、肝脂肪化を改善する療法である。
【0035】
本明細書中、「薬物療法」とは、後述するような他の薬剤との併用により作用の増強、副作用の低減等を図る療法である。
【0036】
本明細書中、「除鉄療法」とは、肝臓に負担をかける過剰な鉄の摂取を減らす療法である。除鉄療法としては、具体的には、瀉血療法(1回に200~400mLの血液を2週毎に抜く療法)、及び鉄制限食(1日の食事中の鉄を6~7mg以下にする)が挙げられる。
【0037】
本発明の医薬組成物(本発明の予防及び/又は治療剤)
後述する試験例に示されるように、タキシフォリンは優れた肝線維化抑制作用(肝臓のAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化、肝臓組織における炎症性サイトカインの発現抑制、及び肝臓組織の線維化の減少)及び褐色脂肪細胞活性化作用(直腸温の上昇、及びUCP1遺伝子の発現の増加)を示すことから、タキシフォリン又はその塩、或いはそれを有効成分として含有する組成物は、肝線維化抑制剤(以下、「本発明の肝線維化抑制剤」と称する。)、及び/又は褐色脂肪細胞活性化剤(以下、「本発明の褐色脂肪細胞活性化剤」と称する。)として好適に使用することができる。また、当該肝線維化抑制作用や褐色脂肪細胞活性化作用に関連して、NASHの線維化防止効果、抗肥満効果、耐糖能改善、及びインスリン抵抗性向上が見られることから、本発明の肝線維化抑制剤、及び/又は褐色脂肪細胞活性化剤は、各種メタボリックシンドロームの予防及び/又は治療剤としてのみならず、線維化を伴うNASHの予防及び/又は治療剤として有用である。肝臓組織の線維化を有意に抑制する薬剤は、これまで殆ど知られていないことから、本発明の医薬は、重症度の高いNASHの有効な予防及び/又は治療剤となり得る。
以下、本明細書中、タキシフォリン又はその塩、或いはそれを有効成分として含有する医薬組成物を「本発明の医薬」又は「本発明の予防及び/又は治療剤」と称することもある。
【0038】
本発明の医薬は、タキシフォリン又はその塩のみからなる医薬、或いはタキシフォリン又はその塩と医薬上許容される担体等を配合した医薬のいずれでもよい。本発明の医薬は、その予防的有効量又は治療的有効量を対象に経口投与することができる。
【0039】
医薬上許容される担体としては、例えば、賦形剤(例えば、デンプン、乳糖、砂糖、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等)、結合剤(例えば、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、タルク等)、溶剤(例えば、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等)、溶解補助剤(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等)、懸濁化剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のコーティング基材;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖等)、緩衝剤(例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等)、増粘剤(例えば、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポビドン等)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等)、抗酸化剤(例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩等)、着色剤(例えば、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号及び3号、食用黄色4号及び5号、食用青色1号及び2号等の食用色素)、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩)、天然色素(例、β-カロチン、クロロフィル、ベンガラ)等)、甘味剤(例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビア等)等が挙げられる。
【0040】
本発明の医薬(すなわち、本発明の予防及び/又は治療剤)は、上記諸成分を混合した後、混合物を自体公知の手段に従い、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ、又は液剤(シロップ剤、乳剤、懸濁剤を含む)等の経口投与用の製剤とすることができる。
【0041】
錠剤、顆粒剤、細粒剤の形状の食品組成物に関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上あるいは腸溶性等の目的のため、前記コーティング基材を用いて自体公知の方法でコーティングしてもよい。
【0042】
本発明の医薬中のタキシフォリン又はその塩の含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して、約10~100重量%、好ましくは、約30~100重量%、より好ましくは、約50~100重量%である。
【0043】
タキシフォリン又はその塩の投与量(すなわち、予防的有効量又は治療的有効量)は、投与対象、疾患、症状、剤形、投与ルート等により異なるが、例えば、ヒトの場合、成人の患者(体重約60kg)に経口投与する場合、1日あたり、有効成分であるタキシフォリンに換算すると通常10~10000mg、好ましくは30~1000mg、より好ましくは50~500mgを、1日1回から数回に分けて投与することができ、食前、食後、食間を問わない。投与期間は特に限定されない。
【0044】
タキシフォリン又はその塩は、他の療法(すなわち、前記した食事療法、運動療法、薬物療法、除鉄療法、外科的治療)と組み合わせて使用することができる。これにより、タキシフォリン又はその塩の予防及び/又は治療効果を増強することが可能である。これらのうち、食事療法及び運動療法との組み合わせ、又は薬物療法との組み合わせが特に好ましい。
【0045】
薬物療法との組み合わせの具体的な態様を以下に示す。
タキシフォリン又はその塩は、その薬効を損なわない限り、他の薬剤(併用薬)と併用することができる。この際、投与時期は限定されず、これらを対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。また、タキシフォリン又はその塩と併用薬とを組み合わせて含有する単一の製剤として投与することもできる。
【0046】
併用薬の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、タキシフォリン又はその塩と併用薬の配合比は、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、併用薬の種類等に応じて適宜選択することができる。
【0047】
タキシフォリン又はその塩(若しくは、本発明の褐色脂肪細胞活性化剤)を、NASHの予防及び/又は治療に使用する際の併用薬としては、例えば、インスリン抵抗性改善薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、非スタチン系高コレステロール血症治療薬、抗酸化薬等が挙げられる。
【0048】
「インスリン抵抗性改善薬」としては、例えば、チアゾリジン誘導体(例、塩酸ピオグリタゾン、トログリタゾン、ロシグリタゾンまたはそのマレイン酸塩、GI-262570、JTT-501、MCC-555、YM-440、KRP-297、CS-011、FK-614、NN-622、AZ-242、BMS-298585、ONO-5816、LM-4156、BM-13-1258、MBX-102、GW-1536等)、ビグアナイド(例、フェンホルミン、メトホルミン、ブホルミン等)等が用いられる。
【0049】
「HMG-CoA還元酵素阻害薬」としては、例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、リパンチル、セリバスタチン、イタバスタチン、ロスバスタチン、またはそれらの塩(例、ナトリウム塩等)等が用いられる。
【0050】
「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」としては、例えば、カンデサルタンシレキセチル、ロサルタン、エプロサルタン、バルサンタン、テルミサルタン、イルベサルタン、タソサルタン等が用いられる。
【0051】
「非スタチン系高コレステロール血症治療薬」としては、例えば、エゼチニブ等が用いられる。
【0052】
「抗酸化薬」としては、例えば、ビタミンE、ベタイン、ペントキシフィリン、N-アセチル-L-システイン等が用いられる。
【0053】
本発明の食品組成物
以下、本明細書中、タキシフォリン又はその塩、或いはそれを有効成分として含有する食品組成物を「本発明の食品組成物」と称することもある。
本発明の食品組成物は、タキシフォリン又はその塩のみからなるもの、或いはタキシフォリン又はその塩と食品添加物等を配合したもののいずれでもよい。本発明の食品組成物としては、タキシフォリン又はその塩を含有し、かつ、対象が経口的に摂取し得るものであればよく、食品組成物の種類、形状等に特に制限はない。また、後述する試験例に示されるように、タキシフォリンは優れた肝線維化抑制作用及び褐色脂肪細胞活性化作用を示すことから、本発明の食品組成物は、肝線維化抑制用途、褐色脂肪細胞活性化の用途、NASHの予防及び/又は改善用途等に使用することができる。
【0054】
本発明の食品組成物としては、例えば、ドロップ、キャンディー、ラムネ、グミ、チューインガム等の菓子類;クッキー、クラッカー、ビスケット、ポテトチップス、パン、ケーキ、チョコレート、ドーナツ、プリン、ゼリー等の洋菓子;煎餅、羊羹、大福、おはぎ、饅頭、カステラ等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、ジェラート等の冷菓;食パン、フランスパン、クロワッサン等のパン類;うどん、そば、中華麺、きしめん等の麺類;かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;ハム、ソーセージ、ハンバーグ、コーンビーフ等の畜肉製品;塩、胡椒、みそ、しょう油、ソース、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、甘味料(例えば、砂糖、ハチミツ、粉末あめ、水あめ、ジャム、マーマレード等)、辛味料(例えば、からし、コショウ等)等の調味類;明石焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き、お好み焼き、焼きそば、焼きうどん等の鉄板焼き食品;チーズ、バター、マーガリン、ヨーグルト等の乳製品;納豆、厚揚げ、豆腐、こんにゃく、団子、漬物、佃煮、餃子、シューマイ、コロッケ、サンドイッチ、ピザ、ハンバーガー、サラダ等の各種総菜;ビーフ、ポーク、チキン等の畜産物;海老、帆立、蜆、昆布等の水産物;野菜・果実類、植物、酵母、藻類等を粉末にした各種粉末;油脂類・香料類(バニラ、柑橘類、かつお等)を粉末固形化したもの;飲料等が挙げられる。
【0055】
飲料としては、スープ、味噌汁等の飲食品;インスタントコーヒー、インスタント紅茶、インスタントミルク、インスタントスープ、インスタント味噌汁等の粉末飲食品;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイ等のアルコール飲料;果汁(例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、ウメの果汁等)入り飲料、野菜汁(例えば、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ、スイカの野菜汁等)入り飲料、果汁及び野菜汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、コーヒー、ココア、茶飲料(紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボス茶、ローズ茶、キク茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)等)、栄養ドリンク、スポーツ飲料、ミネラルウォーター等の非アルコール飲料等が挙げられる。
【0056】
このような食品組成物としての好適な例としては、例えば、ゼリー、茶飲料、アルコール飲料、ドロップ、キャンディー、ラムネ、クッキー、クラッカー、ビスケット、チョコレート、チーズ、バター、マーガリン、チューインガム等が挙げられる。
【0057】
また、本発明の食品組成物は、機能性食品、健康食品、特定保健用食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、サプリメント等として調製されてもよく、特定保健用食品、特別用途食品、又はサプリメントとして調製されるのが好ましい。
【0058】
本発明の食品組成物の形状としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ、又は液剤(シロップ剤、乳剤、懸濁剤を含む)等が挙げられ、錠剤又はカプセル剤が好ましい。
【0059】
本発明の食品組成物としては、特に錠剤、又はカプセル剤の形状の特定保健用食品、特別用途食品、又はサプリメントであるのが好ましい。
【0060】
本明細書において、サプリメントとは、栄養素等を補うための栄養補助食品、栄養機能食品等を意味するだけではなく、健康の保持、回復、増進等のために役立つ機能(特に、NASHの予防及び/又は改善機能)等を有する健康補助食品、健康機能食品等をも意味する。
【0061】
本発明の食品組成物は、例えば、公知の方法によって食品中にタキシフォリン又はその塩を添加することによって製造することができる。具体的には、例えば、錠剤の食品組成物は、例えば、タキシフォリン又はその塩、及び、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、マンニトール等)、甘味剤、着香剤等の材料を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて錠剤の形状に成形することにより製造することができる。必要に応じて、その他の材料(例えば、ビタミンC等のビタミン類、鉄等ミネラル類、食物繊維等の他の添加物)を添加することもできる。カプセル剤の食品組成物は、例えば、タキシフォリン又はその塩を含有する液状、懸濁状、のり状、粉末状、又は顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、又はカプセル基剤で被包成形して製造することができる。
【0062】
本発明の食品組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、通常用いられる食品素材、食品添加物、各種の栄養素、ビタミン類、風味物質(例えば、チーズやチョコレート等)等に加え、生理学的に許容される担体等を配合することができる。生理学的に許容される担体等としては、慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤、増粘剤、乳化剤等が挙げられる。また食品添加物としては、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤、着香剤等が挙げられる。さらに、その他の材料、例えば、鉄等のミネラル類、ペクチン、カラギーナン、マンナン等の食物繊維等を含有していてもよい。
【0063】
賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤としては、それぞれ前記した本発明の医薬に用いられるものと同様のものが挙げられる。
【0064】
ビタミン類としては、水溶性であっても脂溶性であってもよく、例えば、パルミチン酸レチノール、トコフェロール、ビスベンチアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸ナトリウム、コレカルシフェロール、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチン、重酒石酸コリン等が挙げられる。
【0065】
錠剤、顆粒剤、細粒剤の形状の食品組成物に関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上あるいは腸溶性等の目的のため、コーティング基材を用いて自体公知の方法でコーティングしてもよい。そのコーティング基材としては、前記した本発明の医薬に用いられるものと同様のものが挙げられ、同様にして実施することができる。
【0066】
本発明の食品組成物中のタキシフォリン又はその塩の含有量は、食品組成物全体に対して約0.1~50重量%、好ましくは、約0.5~30重量%、より好ましくは、約1~20重量%である。
【0067】
このようにして得られる食品組成物は、安全であるので、対象、特に好ましくはヒトに対して継続的に与えることができる。
【0068】
本発明の食品組成物の摂取量は、タキシフォリン又はその塩の褐色脂肪細胞を活性化する有効量、或いはNASHを予防及び/又は改善する有効量の範囲内であればよい。例えば、本発明の食品組成物をNASHの予防及び/又は改善目的で成人に摂取させる場合、摂取させる対象、摂取形態、摂食量等によっても異なるが、タキシフォリン又はその塩の摂取量として、一般的に1日あたり、有効成分であるタキシフォリンに換算すると通常10~10000mg、好ましくは30~1000mg、より好ましくは50~500mgを、1日1回から数回に分けて摂取することができる。また、嗜好性や摂食量に影響を与えずに効果が発現するという観点からも、上記の摂取量が好ましい。対象が他の動物の場合も、同様の量を摂取することができる。
【0069】
さらに、本発明の食品組成物は、それのみで使用してもよいが、他の療法(すなわち、前記した食事療法、運動療法、薬物療法、除鉄療法、外科的治療)と組み合わせて使用してもよい。具体的には、例えば、その他の肝機能改善作用を有する医薬組成物、食品組成物、又は飼料と組み合わせて用いることができる。他の療法との組み合わせによって、肝線維化抑制効果、褐色脂肪細胞活性化効果(具体的には、例えば、エネルギー消費促進効果)、NASH(特に、肝線維化を伴うNASH)の予防及び/又は改善効果等をより高めることができる。
【0070】
また、本発明の食品組成物には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、保健機能食品、疾病リスク低減表示を付した食品、又は特別用途食品(例えば、病者用食品)のような分類のものも包含される。疾病リスク低減表示としては、例えば、肝線維化のリスクを低減するためのもの、褐色脂肪細胞を活性化し、エネルギー代謝を促進するものである旨の表示等が挙げられる。従って、本発明の食品組成物は、例えば、タキシフォリン又はその塩を含み、肝線維化のリスクを低減するためのものである旨、タキシフォリン又はその塩を含み、褐色脂肪細胞を活性化し、エネルギー代謝を促進するものである旨等の表示を付した飲食品である。
【0071】
ここで、これら食品組成物に付される機能表示は、製品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、又は宣伝物のいずれかにされてなることができる。
【実施例
【0072】
以下に、試験例及び製剤例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、試験例及び製剤例により限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。また、本発明において使用する試薬や装置、材料等は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0073】
以下の試験例で使用したタキシフォリンは、Ametis JSC(ロシア)から購入したものをそのまま使用した。
【0074】
試験例1:高脂肪食誘導性肥満モデルマウスにおけるタキシフォリン摂取によるNASHに及ぼす効果
(1)方法
(1-1)摂食実験
実験動物としては、C57BL/6Jマウスを使用した。日本クレア株式会社から7週齢で購入し、1週間の馴化後8週齢で下表1の通り、無作為に4群に分けた。
【0075】
【表1】
【0076】
摂食・飲水は自由とし、1週間に1度の摂食量計測、体重測定を行った。また摂食実験開始日およびそれから4週に一度(摂食開始から4週間、8週間、12週間経過時)空腹時血糖を測定した。12週間経過時に、耐糖能を解析するために腹腔内ブドウ糖負荷試験(IPGTT)を施した。また8週および12週経過時に直腸温を計測した(表2)。
【0077】
【表2】
【0078】
IPGTT施行日の5日後に最終の空腹時血糖を測定し、エーテル麻酔下で全採血後、頚椎脱臼により安楽死させ下表3の通り、サンプル採取ならびに一部重量測定を行った。
【0079】
【表3】
【0080】
(1-2)サンプルの調製(肝臓のみ)・保存
肝臓サンプルは、一部組織観察用トリミングして洗浄後、4%パラフォルムアルデヒドに浸漬し、4℃で一晩固定した。固定したサンプルを洗浄後、上昇エタノール系列にて脱水後、パラフィン包埋した。
残りの肝臓サンプルは、液体窒素にて急速冷凍後、各実験に供するまで-80℃で保存した。
【0081】
(1-3)解析
(i)血中濃度・生化学検査
・インスリン濃度:超高感度マウスインスリン ELISAキット(モリナガ)
・レプチン濃度:マウス/ラットレプチン ELISAキット(モリナガ)
・アディポネクチン濃度:マウス/ラットアディポネクチン ELISAキット(大塚製薬)
・トリグリセライド:ラボアッセイキット(和光)
・TNF-α、IL-1β濃度:ELISAキット(Proteintech)
・ALT、AST量:Assay Kit(フナコシ)
・耐糖能:空腹時血糖値から摂取後120分までの血糖値変動曲線より,血糖曲線下面積(area under curve,AUC)を台形公式で算出した。
【0082】
(ii)酸化ストレス
・血中・肝臓組織脂質過酸化:Lipid Peroxidation (MDA) Colorimetric Assay Kit(BioVision, Inc)
・抗酸化酵素遺伝子(Mn-SOD、CuZn-SOD、Catalase、GPx)発現:Real-time Quantitative RT PCR
【0083】
(iii)肝臓脂肪酸合成/脂肪酸酸化
・Srebp1c、Lxrα、FAS、Scd1、PPARα、Cpt1a遺伝子発現:Real-time Quantitative RT PCR
【0084】
(iv)AMPK/ACC活性
・AMPKリン酸化、ACCリン酸化:Western blotting
【0085】
(v)肝臓組織炎症指標/炎症誘導シグナル経路活性
・F4/80、TNF-α、IL-1β遺伝子発現:Real-time Quantitative RT PCR
・P38 MAPKリン酸化、NF-κB p65リン酸化、JNKリン酸化:Western blotting
【0086】
(vi)肝臓線維化指標
・αSMA、PAI1、TGF-β、1型Collagen遺伝子発現:Real-time Quantitative RT PCR
・F4/80、αSMA、TGF-β1タンパク量:Western blotting
【0087】
(vii)肝臓・組織学的解析
・形態、脂肪蓄積観察:ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin Eosin:HE)染色
・線維化観察:アザン(Azan)染色、SiriusRed染色、免疫組織化学(抗F4/80抗体)
【0088】
(viii)褐色脂肪細胞・UCP1に関する解析
・対象組織:褐色脂肪組織
・ターゲット:UCP1遺伝子
・解析手段:real-time RT PCR解析
【0089】
(2)結果
(i)体重変化(1/週測定)
図1の結果から、摂食実験開始後、3週で高脂肪食のみ群(高脂肪食/Taxなし)に体重差(増加)が確認され、4週で高脂肪食のみ群と他の群との間で有意差が確認された。また、摂食実験開始後、6週で普通食+タキシフォリン群(普通食/Taxあり)で体重減少に有意差が確認され、8週で普通食+タキシフォリン群と他の群全てで体重減少に有意差が確認された。摂食実験開始から12週で、高脂肪食のみ群で顕著な体重増加が確認された。これに対し、高脂肪食+タキシフォリン群(高脂肪食/Taxあり)の体重は普通食のみ群(普通食/Taxなし)と同等であり、普通食+タキシフォリン群でも他の群に比して体重増加が確認されなかった。
【0090】
(ii)摂食量(1/週測定)
図2の結果によれば、摂食期間中、普通食のみ群(普通食/Taxなし)、普通食+タキシフォリン群(普通食/Taxあり)間で摂食量に差は見られず、高脂肪食のみ群(高脂肪食/Taxなし)、高脂肪食+タキシフォリン群(高脂肪食/Taxあり)間でも摂食量に差は見られなかった。一日のタキシフォリン摂食量は摂食実験開始12週経過時で以下の通りであった。
高脂肪食+タキシフォリン摂取群(高脂肪食/Taxあり):約100mg / 約36g BW/匹/日
【0091】
(iii)空腹時血糖(1/4週測定)、及び耐糖能
図3Aによれば、実験開始から12週経過時の空腹時血糖は高脂肪食のみ群(高脂肪食/Taxなし)で有意に高値を示し、普通食+タキシフォリン群(普通食/Taxあり)で有意に低値を示した。
図3Bによれば、腹腔内ブドウ糖負荷試験開始後、60分の血糖値は高脂肪食のみ群(高脂肪食/Taxなし)で有意に高値を示し、普通食+タキシフォリン群(普通食/Taxあり)で有意に低値を示した。
図3Cによれば、AUCにおいても高脂肪食のみ群(高脂肪食/Taxなし)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(普通食/Taxあり)で有意に減少した。
【0092】
(iv)直腸温(摂食実験開始から8週、12週経過時)
図4Aによれば、実験開始から8週時の直腸温は、高脂肪食のみ群(高脂肪食/Taxなし)で有意に低値を示し、普通食+タキシフォリン群(普通食/Taxあり)で有意に高値を示した。この傾向は、12週時の直腸温についても同様であった。このことから、タキシフォリンの摂食により褐色脂肪細胞が活性化した結果、エネルギー消費が亢進して直腸温が上昇したことが示唆された。
【0093】
(v)UCP1遺伝子発現
図4Bによれば、UCP1遺伝子発現は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に増加することが確認された。このことから、タキシフォリンの摂食により、熱産生に関わるUCP1遺伝子の発現が亢進したことが示唆された。
【0094】
(vi)臓器重量
図5Aによれば、肝臓重量(Liver weight)は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図5Bによれば、精巣上体脂肪重量(EPI WAT weight)は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
また、図5Cによれば、褐色脂肪組織重量(BAT Weight)は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
【0095】
(vii)血中インスリン濃度/インスリン抵抗性指標(HOMA-R)
図6Aによれば、摂食実験開始12週経過後の空腹時血糖は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少し、また、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)でも有意に減少することが確認された。
図6Bによれば、血中インスリン濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
また、図6Cによれば、インスリン抵抗性指標(HOMA-R)についても、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
【0096】
(viii)血液生化学
図7によれば、血中トリグリセリド濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少傾向(P=0.079)を示した。
【0097】
(ix)血中アディポサイトカイン濃度
図8Aによれば、血中レプチン濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図8Cによれば、TNF-α濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少する傾向(P=0.076)を示した。
図8Dによれば、IL-1β濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少する傾向(P=0.0932)を示した。
【0098】
(x)肝機能検査
図9Bによれば、血中ALT値は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図9Cによれば、肝臓トリグリセリド濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
【0099】
(xi)肝臓AMPK/アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ(ACC)活性
図10Aによれば、AMPKリン酸化は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に増加し、また、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)でも有意に増加することが確認された。
図10Bによれば、ACCリン酸化は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に増加し、また、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)でも有意に増加することが確認された。
【0100】
(xii)肝臓脂肪酸合成/脂肪酸酸化
図11Aによれば、Srebp1c、Lxrα、FAS、及びScd1遺伝子の発現が、高脂肪食のみ群(高脂肪食/タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(高脂肪食/タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図11Bによれば、Cd36遺伝子の発現が、高脂肪食のみ群(高脂肪食/タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(高脂肪食/タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
【0101】
(xiii)酸化ストレス及び抗酸化作用
図12Aによれば、血中脂質過酸化マーカーであるマロンジアルデヒド(MDA)濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図12Bによれば、肝臓脂質過酸化マーカーである肝臓のMDA濃度は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少し、また、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)でも有意に減少することが確認された。
また、図12C、D、E及びFによれば、酸化ストレスにより誘導される抗酸化酵素群(Mn-SOD、CuZn-SOD、Catalase、GP-x)の遺伝子発現は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。さらに、図12Cによれば、Mn-SODの遺伝子発現は、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)でも有意に減少することが確認された。
【0102】
(xiv)肝臓組織炎症指標遺伝子発現
図13Aによれば、成熟マクロファージマーカーF4/80遺伝子発現は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図13B及びCによれば、TNF-α、IL-1β遺伝子発現は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
【0103】
(xv)炎症誘導シグナル経路活性
図14Aによれば、P38 MAPKリン酸化は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少傾向であること(P=0.1045)が確認された。
図14Bによれば、NF-κB p65リン酸化は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図14Cによれば、c-Junアミノ末端キナーゼ(JNK)リン酸化は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少傾向(P=0.1701)が認められた。
【0104】
(xvi)肝臓線維化指標解析
(遺伝子発現解析)
図15A~Cによれば、線維化指標群(αSMA、PAI1、TGF-β1)の遺伝子発現は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
図15Dによれば、Collagen 1は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少傾向(P=0.07)が認められた。
【0105】
(タンパク量解析)
図15Eによれば、F4/80は、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。また、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することも確認された。
図15Fによれば、αSMAは、高脂肪食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で減少傾向(P=0.054)が認められた。
図15Gによれば、TGF-β1は、普通食のみ群(タキシフォリン無)に比べ、普通食+タキシフォリン群(タキシフォリン有)で有意に減少することが確認された。
【0106】
(xvii)組織学的観察
図16のヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin Eosin:HE)染色の写真によれば、高脂肪食のみ群で顕著な脂肪蓄積が確認された。一方、高脂肪食+タキシフォリン群では、脂肪蓄積は確認されたものの、高脂肪食のみ群に比べ、顕著に減少しており、脂肪肝を抑制することが確認された。
図17のアザン(Azan)染色の写真(青く線維状に濃染された箇所がコラーゲン線維を示す)によれば、高脂肪食のみ群に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群では青く染められたコラーゲンの量が減少しており、肝臓組織の線維化を抑制することが確認された。
図18のシリウスレッド(Sirius Red)染色の写真(赤く線維状に濃染された箇所がコラーゲ線維を示す)によれば、高脂肪食のみ群に比べ、高脂肪食+タキシフォリン群では赤く染められたコラーゲンの量が減少しており、図17のアザン染色同様、肝臓組織の線維化を抑制することが確認された。
図19の抗F4/80抗体による免疫組織化学的染色の写真によれば、高脂肪食のみ群に肝組織CLS(hepatic crown-like structures:hCLS)(部分拡大図参照)が認められる傾向があったが、高脂肪食+タキシフォリン群ではほとんど見られず、肝臓組織における炎症抑制が確認された。
【0107】
製剤例1(錠剤の製造)
1)タキシフォリン 50g
2)乳糖 50g
3)トウモロコシデンプン 15g
4)カルボキシメチルセルロースカルシウム 44g
5)ステアリン酸マグネシウム 1g
1000錠 計 160g
1)、2)、3)の全量および30gの4)を水で練合し、真空乾燥後、整粒を行う。この整粒末に14gの4)および1gの5)を混合し、打錠機により打錠する。このようにして、1錠あたりタキシフォリン50mgを含有する錠剤1000錠を得る。
【0108】
製剤例2(カプセル剤の製造)
1)タキシフォリン 50mg
2)微粉末セルロース 10mg
3)乳糖 19mg
4)ステアリン酸マグネシウム 1mg
計 80mg
1)、2)、3)および4)を混合して、ゼラチンカプセルに充填する。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、安全な植物由来成分であるタキシフォリン又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする優れた肝線維化抑制剤を提供することができる。これにより、NASHに対しても線維化の進展を抑制することができ、結果として、NASHの重症化を予防することができる。また、本発明によれば、タキシフォリン又はその塩を有効成分として含有する優れた褐色脂肪細胞活性化剤を提供することができる。これにより、エネルギー消費を促進したり、UCP1の発現を亢進することができ、また、脂肪組織の線維化も効果的に抑制することができる。その結果として、メタボリックシンドローム等を予防又は改善することが可能である。さらに、本発明によれば、肝線維化抑制剤及び/又は褐色脂肪細胞活性化剤であるタキシフォリン又はその塩の予防及び/又は治療的有効量を対象に投与することにより、様々な原因(肝炎ウイルス感染、NASH、自己免疫性肝炎等)により引き起こされる肝線維化の予防及び/又は治療(若しくは改善)において有用な医薬組成物又は食品組成物を提供することができる。とりわけ、本発明によれば、これまで有効な予防又は治療法が知られていなかった線維化を伴うNASHの新規且つ効果的な予防及び/又は治療剤を提供することができる。また、食事療法、運動療法、薬物療法(他の薬物との併用療法)、除鉄療法、及び/又は外科的治療(減量手術、肝移植)と組み合わせることにより、本発明におけるタキシフォリン又はその塩の予防及び/又は治療効果を増強することも可能である。
【0110】
本出願は、日本国で2019年6月25日に出願された特願2019-117229を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
図1
図2
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