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特許7058069修整済みギヤ歯形状を有するワークピースの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】修整済みギヤ歯形状を有するワークピースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/20 20060101AFI20220414BHJP
   B23F 5/04 20060101ALI20220414BHJP
   B23F 19/00 20060101ALI20220414BHJP
   B23F 23/12 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
B23F5/20
B23F5/04
B23F19/00
B23F23/12
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016175610
(22)【出願日】2016-09-08
(65)【公開番号】P2017109298
(43)【公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-05-17
(31)【優先権主張番号】10 2015 012 308.4
(32)【優先日】2015-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】16183528.5
(32)【優先日】2016-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】594012634
【氏名又は名称】リープヘル-フェアツァーンテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴュルフェル ローベルト
(72)【発明者】
【氏名】ガイザー ハンスイェルク
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220530(JP,A)
【文献】特開2006-035340(JP,A)
【文献】特開2007-229841(JP,A)
【文献】特開昭53-075591(JP,A)
【文献】特開2005-305645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/20
B23F 5/04
B23F 19/00
B23F 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤ歯形状を有するワークピースを所望の歯形修整を施すように創成法により製造する方法であって、
前記ワークピースは、修整済みのギヤ歯形状を有する工具による1回以上の機械加工ストロークで創成機械加工され、
前記工具は、歯形修整及び歯すじ修整の結合よりなる位相修整が施され、
前記ワークピースとの接触パスは、前記機械加工ストローク中に、前記工具上でシフトされず、
前記工具の位相修整及び接触パスの少なくとも1つは、前記接触パスに沿う前記工具の位相修整が前記ワークピースの所望の歯形修整を生成するような形状を有するように、選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1において、
円柱形のワークピースが機械加工され、前記機械加工が、前記機械加工ストローク中に回転軸に沿って前記工具をシフトさせずに、軸方向創成法により実施される
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1において、
円錐形のワークピースが機械加工され、前記機械加工が、前記機械加工ストローク中に回転軸に沿って前記工具をシフトさせながら、斜め創成法により実施され、
前記機械加工ストローク中に前記工具上の前記接触パスがシフトしないように、前記工具の軸方向の送りの前記ワークピースの軸方向の送りに対する対角比が選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つにおいて、
前記工具の表面形状の前記位相修整は、前記工具の第1の方向においては創成パターン内で少なくとも局所的に一定であり、前記第1の方向に垂直に延びる前記工具の第2の方向においては、変化し、及び/又は
前記工具の第1の方向における創成パターン内の前記工具の前記表面形状の前記位相修整は、一次又は二次の定数関数により少なくとも近似的に表され、前記一次又は二次の定数関数の係数関数は、前記工具の幅方向において変化し、
前記第1の方向が、ドレッシング中のドレッサの作用線の方向である
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つにおいて、
前記所望の歯形修整が、自由に指定可能であり、及び/又は
前記歯形修整の特性である、
クラウニングと、
プロファイル角偏差と、
歯先リリーフと
歯底リリーフと
のうちの1つを指定可能である
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つにおいて、
前記工具の前記位相修整は、ドレッシング中に、前記工具に対するドレッサの位置を、前記工具の回転角度及び工具幅位置の少なくとも一方に応じて変化させることにより施される
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つにおいて、
前記接触パスに沿った前記工具の前記位相修整の形状が、前記ワークピースに所望の歯形修整を施すような形状となるように、前記位相修整が前記接触パスに応じて選択され、又は、前記接触パスが前記位相修整に応じて選択され、及び/又は
規定の接触パスを利用した機械加工が、前記工具の規定の初期シフト位置を利用した機械加工を含み、
円柱形のワークピースの機械加工時には、前記初期シフト位置が維持され、及び/又は
円錐形のワークピースの機械加工時には、前記接触パスがシフトしないような前記工具の軸方向の送りの前記ワークピースの軸方向の送りに対する対角比分だけ、前記工具が前記初期シフト位置を始点としてシフトされる
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つにおいて、
前記ワークピースの前記所望の歯形修整を指定する工程と、
前記ワークピースに前記所望の歯形修整を施すために必要な接触パスに沿った、前記工具の前記位相修整を決定する工程と、
前記工程で決定された前記歯形修整に対応する工具の位相修整を、前記接触パスに沿って決定する工程、及び/又は、前記工程で決定された前記歯形修整に対応する位相修整を、前記接触パスに沿って決定するのに用いられる、前記工具のドレッシング中のドレッサの前記工具に対する位置の変化を決定する工程と、を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記ワークピースに前記所望の歯形修整を施すのに用いられる接触パスに沿った、前記工具の前記修整を決定するために、接触パスを形成する前記ワークピースと前記工具との接触点が創成機械加工中に最初に決定され、及び/又は、
位相修整を施すのに用いられる、前記工具に対する前記ドレッサの位置の変化を決定するために、前記工具に入り込んだ前記ドレッサの作用線が、前記工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて決定される
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つにおいて、
上記創成法の枠組み内で機械加工運動が修整され、前記機械加工運動の修整により施された修整が、前記工具の前記位相修整により施された前記ワークピースの歯形修整に重畳される
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つにおいて、
前記工具のドレッシングに、修整済みドレッサが使用され、
前記ドレッサの修整により施された前記工具の歯形修整には、位相修整が重畳され、
前記位相修整は、ドレッシング中に前記工具に対する前記ドレッサの位置を、前記工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させることにより、施され、
前記ワークピースとの選択された接触パスに沿った、前記工具への前記修整の重畳が、前記ワークピースに前記所望の歯形修整を施すために必要な前記接触パスに沿った修整に一致するように、位相変化が選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1つにおいて、
異なるマクロ形状を有する工具のために設計された工具のドレッシングに、ドレッサが使用され、
前記ワークピースとの選択された接触パスにおける、ドレッサにより施された前記工具の表面形状の修整が、ドレッシング中に工具に対するドレッサの位置を前記工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させることにより補償され、
前記創成機械加工が、前記選択された接触パスを利用して実施される
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
ドレッシングされた工具により、所望のギヤ歯形状を有するワークピースを製造するための、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法であって、
前記ワークピースの所望の歯形修整を指定する工程と、
ドレッシングプロセスの修整を行うことなく、前記所望の歯形修整からの偏差を最小とするドレッサと工具との組み合わせを、複数の組み合わせから選択する工程と、
前記偏差を補償するための工具の位相修整を施すために、前記ドレッサを線接触させて、前記工具を修整ドレッシングする工程と、
機械加工ストローク中に変化しない接触パスを有する前記ドレッシングされた工具を使用して、ワークピースを機械加工し、前記所望の歯形修整を施す工程とを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
ドレッシングされた工具により、所望のギヤ歯形状を有する1つ以上のワークピースを製造するための、請求項1~13のいずれか1つに記載の方法であって、
1つ以上の機械加工工程を実行した後、同じワークピース又は別のワークピースにさらなる機械加工工程を行う前に、前記工具がそれぞれドレッシングされ、
後続のドレッシングプロセスにおいて、先行するドレッシングプロセスとは異なる歯形修整及び歯すじ修整の結合よりなる位相修整が前記工具に施される
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1つにおいて、
1つ以上のワークピースの機械加工中、前記工具の第1の初期シフト位置及び/又は第1の接触パスを利用して、少なくとも1回のストロークが実行され、
前記工具の第2のシフトされた初期シフト位置及び/又は第2のシフトされた接触パスを利用して、少なくとも1回の第2のストロークが実行される
ことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1つにおいて、
前記工具の修整を、前記工具の創成パターン内で、第1の方向において少なくとも局所的に、一次及び/又は二次関数によって少なくとも近似的に表すことができ、
前記一次及び/又は二次関数の係数は、前記第1の方向に垂直に延びる上記工具の第2の方向において、定数部分については係数関数により、一次部分については係数関数により,及び/又は二次部分については係数関数により構成され、
前記定数部分の前記係数関数は、所望の歯形修整が、創成機械加工において、指定されたシフト位置において、及び/又は、指定された接触パスを利用して施されるように決定され、
前記一次部分の係数関数及び/又は前記二次部分の係数関数は、少なくとも1つのシフトされた初期シフト位置及び/又は少なくとも1つの接触パスを利用した、及び/又は、複数の初期シフト位置及び/又は複数の接触パスの少なくとも1つの帯状部分又は少なくとも1つの範囲を利用した創成機械加工時にワークピースに生じる、所望の歯形修整からの偏差が最小となるよう決定される
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1つにおいて、
前記工具は、第1の位相修整を有する少なくとも1つの第1の領域と、第2の位相修整を有する第2の領域とを備え、
第1の初期シフト位置における前記ワークピースとの接触パスに沿った前記第1の位相修整は、第2の初期シフト位置における前記ワークピースとの接触パスに沿った前記第2の位相修整と同一であり、
1つ以上のワークピースの機械加工中に、前記工具の前記第1の初期シフト位置を利用して、少なくとも1回のストロークが行われ、前記工具の前記第2の初期シフト位置を利用して、少なくとも1回の第2のストロークが行われ、及び/又は、
前記第1の初期シフト位置における前記第1の領域、及び、前記第2の初期シフト位置における前記第2の領域は、それぞれ、前記ワークピースとの接触パスを含み、及び/又は
前記第1の位相修整は、前記第2の位相修整と同一である
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1つにおいて、
前記ワークピースの所望の歯形修整が指定され、この所望の修整を施すのに用いられる記工具の修整、及び/又は、前記工具に対するドレッサの位置の変化が、前記工具の修整を行うドレッシング中に、前記工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて決定される
ことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1つにおいて、
前記工具は、歯形ローラドレッサ及び/又はフォームローラドレッサによって、修整済みの方法でドレッシングされ、
前記ドレッシングは、前記工具と線接触した状態で実施され、
前記工具の前記位相修整は、
a) 前記工具からのドレッサの軸方向の間隔を、前記工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させる切り込みと、
b) 前記工具又は前記ドレッサの軸方向送り出しを、前記工具の回転角度及び/又は前記工具幅位置に応じて変化させるシフトと、
c) 前記工具及び前記ドレッサの軸交差角を、前記工具の回転角度及び/又は前記工具幅位置に応じて変化させる回動と、
d) 前記工具の速度を、前記工具の回転角度及び/又は前記工具幅位置に応じて変化させること
のうちの1つ以上を行って施される
ことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1つの方法を実施する制御器を備えたギヤ製造機であって、
前記ギヤ製造機は、入力関数を有し、前記入力関数を介して、ワークピースの所望の歯形修整を指定可能であり、
前記ギヤ製造機はドレッシング機能を備え、前記ドレッシング機能は、前記工具のドレッシング中に、前記ワークピースの前記所望の歯形修整を施すために用いられる前記工具の位相修整を施す
ことを特徴とするギヤ製造機。
【請求項21】
ギヤ製造機にインストールするための、及び/又は、ギヤ製造機において使用するデータのための出力関数を有するコンピュータプログラムであって、
ワークピースの所望の歯形修整についてのデータを入力するための入力関数と、
前記所望の修整を施すのに用いられる歯形修整及び歯すじ修整の結合よりなる工具の位相修整、及
機械加工ストローク中に変化しない接触パスを有する位相修整済みの前記工具を使用した創成機械加工により、前記ワークピースの前記所望の歯形修整が施されるように、前記工具の回転角度及び工具幅位置の少なくとも一方に応じて前記工具に対するドレッサの位置の変化
の少なくとも一方を決定するための関数とを備え、
前記工具の位相修整及び接触パスの少なくとも1つは、前記接触パスに沿う前記工具の位相修整が前記ワークピースの所望の歯形修整を行う形状となるように、選択される
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項22】
請求項20のギヤ製造機であって、
前記所望の歯形修整及び/又は前記所望の歯形修整の特性が、自由に指定可能であり、及び/又は
前記歯形修整の前記特性である、
クラウニングと、
プロファイル角偏差と、
歯先リリーフと
歯底リリーフと
のうちの少なくとも1つを指定可能である
ことを特徴とするギヤ製造機。
【請求項23】
請求項21のコンピュータプログラムであって、
前記所望の歯形修整及び/又は前記所望の歯形修整の特性が、自由に指定可能であり、及び/又は
前記歯形修整の前記特性である、
クラウニングと、
プロファイル角偏差と、
歯先リリーフと
歯底リリーフと
のうちの少なくとも1つを指定可能である
ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修整済みギヤ歯形状を有するワークピースを創成法により製造する方法に関する。本発明の方法では、ワークピースは、修整済みギヤ歯形状を有する工具を使用して、少なくとも1回の機械加工ストロークで、創成法により機械加工される。上記工具は、位相修整(topological modifications)を有する。この創成法は、具体的には、創成研削法であってもよい。さらに、上記工具は、具体的には、研削ウォームであってもよい。
【背景技術】
【0002】
例えば、独国特許出願公開第102012015846号明細書、欧州特許出願公開第1995010号明細書、国際公開第2010/060596号、独国特許出願公開19624842号明細書、独国特許第19706867号明細書、独国特許出願公開102005030846号明細書、及び独国特許出願公開第102006061759号明細書によれば、斜め創成法によって、位相修整された工具を使用して対応の位相修整がワークピースに施される。この目的のための対角比は、1回の機械加工ストロークの間に、ワークピースとの接触パスが、工具の位相修整が適用された規定の領域を通過するよう選択される。これにより、この位相修整が、ワークピースに施される。
【0003】
これとは対照的に、従来技術によれば、歯形修整は、歯形の所望の修整を提供するとともに、ドレッシング中にこの修整を工具に転写するドレッサを使用して、工具をドレッシングすることにより実行されるのが典型的である。創成機械加工においては、今度は、この修整がワークピースに転写される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これには、所望の歯形修整ごとに、対応するドレッサを作成しなければならないという短所がある。これに伴う費用、時間労力は、あらゆる状況に見合うものではない。
【0005】
あるいは、工具の所望の歯形は、外形ドレッシング(contour dressing)によっても形成できる。しかし、外形ドレッシングは、非常に時間がかかる上、多くの場合、望まない表面粗さを生み出す。
【0006】
したがって、本発明は、修整済みギヤ歯形状を有するワークピースを製造するための、改良された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記目的は、請求項1に記載の方法により達成される。
【0008】
本発明の好適な実施形態が、従属クレームの主題を構成する。
【0009】
本発明は、修整済みのギヤ歯形状を有するワークピースを創成法により製造する方法を包含する。このワークピースは、修整済みギヤ歯形状を有する工具による少なくとも1回の機械加工ストロークにより創成機械加工される。上記工具は、位相修整を有する。本発明の方法は、ワークピースとの接触パスが、機械加工ストローク中に、工具上でシフトされないことを特徴とする。
【0010】
本発明の発明者は、位相修整された工具の使用によっても、創成法で機械加工されるワークピースに歯形修整を施すことができるという知見を得た。本発明が提供する方法は、安価に且つ迅速に実施できる。本発明の方法により、対応の修整済みドレッサがなくても、また、外形ドレッシングプロセスを使用しなくても、ワークピースに歯形修整を施すことができる。このことは、従来技術により公知の位相修整された工具の使用とは異なり、接触パスが工具の規定の領域でシフトされることがなくなり、機械加工ストローク中に変化しないことで、達成される。したがって、工具の同じ接触パスを利用して、ワークピースの全幅が機械加工される。これにより、位相修整された工具にもかかわらず、ワークピースには、位相修整ではなく、歯形修整が施される。
【0011】
好ましくは、本発明は、平歯車のギヤ歯を有する歯車の製造に使用される。さらに、ワークピースの基本形状は、円柱形であっても円錐形であってもよい。
【0012】
本発明の第1の実施形態では、本発明の方法が円柱形のワークピースの機械加工に使用される。この場合、ワークピースの機械加工は、好ましくは、軸方向創成法により、すなわち、機械加工ストローク中に工具をその回転軸に沿ってシフトさせずに、実施される。軸方向創成法では、機械加工ストローク中に、工具上の接触パスがシフトされることが確実になくなる。
【0013】
本発明の第2の実施形態では、本発明の方法が、円錐形のワークピースの機械加工に使用される。この場合、ワークピースの機械加工は、好ましくは、斜め創成法により実施される。斜め創成法では、機械加工ストローク中に工具上の接触パスがシフトしないように対角比が選択される。円柱形ワークピースの機械加工とは異なり、円錐形ワークピースの機械加工に軸方向創成法を適用すると、工具上の接触パスがシフトする結果となり得る。したがって、本発明の方法による円錐形ワークピースの機械加工には、斜め創成法の使用が必要である。これにより、機械加工ストローク中に工具をその回転軸に沿って相応にシフトさせることによって、接触パスのシフトを確実に防止する。
【0014】
第1の変形例では、円柱形の基本形状を有する工具が使用される。この場合、好ましくは、1つの歯面で機械加工が行われる。これは、接触パスがシフトされないようにするためには、左右の歯面で異なる対角比が概して必要であるという事実による。したがって、ワークピースの両歯面機械加工は、概して不可能となる。
【0015】
対照的に、第2の変形例では、円錐形の基本形状を有する工具が使用される。円錐形工具の使用により、円錐角とともにさらなる1の自由度が利用可能である。この自由度は、本発明の方法による両歯面機械加工が可能となるように、選択され得る。したがって、円錐形の基本形状を有する工具を使用する際には、ワークピースの機械加工は2つの歯面に実施される。さらに好ましくは、両歯面機械加工の間、左右の歯面上で接触パスがシフトしないように、上記工具の円錐角と対角比とが選択される。
【0016】
以下、円柱形ワークピースの機械加工と円錐形ワークピースの機械加工の両方に使用可能な、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0017】
工具の位相修整とは、工具が歯形修整と歯すじ修整の組み合わせを有することを意味する。
【0018】
本発明の第1の実施形態によれば、工具の表面形状の位相修整は、工具の第1の方向においては創成パターン内で少なくとも局所的に一定値を有し得るとともに、上記第1の方向に垂直に延びる工具の第2の方向においては、関数FFt1により表され得る。工具の少なくとも1つの領域において、上記位相修整が一括してこの方法で表されることも好ましい。このような位相修整は、工具に比較的簡単に適用可能であるにも関わらず、実質的に自由に指定可能な歯形修整をワークピースに施すことを可能にする。
【0019】
本発明の代替的な展開された実施形態では、工具の第1の方向における創成パターン内の工具の表面形状の位相修整は、一次又は二次の定数関数により少なくとも近似的に表され、この一次又は二次の定数関数の工具の幅方向における係数は、定数部分については係数関数FFtC,1により表され、一次部分については係数関数FFtL,1により表され、及び/又は、二次部分については係数関数FFtQ,1により表される。このような修整も、同様に簡単に施すことができ、工具の使用可能な領域を広げることができる。一次部分の係数関数FFtL,1及び二次部分の関数FFtQ,1が0に等しいときには、2番目の選択肢が1番目の選択肢に相当する。しかし、少なくとも1つの係数関数が0ではないことが好ましく、一次部分の係数関数FFtL,1及び二次部分の関数FFtQ,1の両方が0ではないことがより好ましい。
【0020】
好ましくは、第1の選択肢及び第2の選択肢の両方において、工具の修整の第1の方向は、ドレッシング中のドレッサの作用線の方向に一致する。これにより、ドレッシングプロセス中にドレッサと工具との間の相対位置を変化させることによって、修整を特に簡単に施すことができる。
【0021】
上述の通り、本発明の方法により、歯形修整を施すことができる。したがって、本発明の枠組み内での工具の創成機械加工により、ワークピースの所望の歯形修整を具体的に指定し、施すことができる。
【0022】
所望の歯形修整及び/又は所望の歯形修整の特性は、好ましくは、一定の条件下で自由に指定可能である。代替的又は追加的に、歯形修整の特性、すなわち、クラウニング、プロファイル角偏差、歯先リリーフ、及び歯底リリーフのうちの1つを指定可能である。好ましくは、これらの特性の少なくとも1つに関し、クラウニングの大きさ、プロファイル角偏差の大きさ、歯先リリーフの量と位置、又は歯底リリーフの量と位置のデータを指定可能である。
【0023】
好ましくは、上記特性のうちの複数及び/又は上記データのうちの複数を指定可能である。より好ましくは、上記特性の全て及び/又は上記データの全てを指定可能である。
【0024】
さらに好ましくは、上記特性及び/又はそのデータのうちの少なくとも1つのための入力ボックスを有する少なくとも1つの入力マスクが設けられる。入力マスクは、上記特性及び/又はそのデータのうちの複数のための入力ボックスを有することが好ましく、上記特性及び/又はそのデータの全てのための入力ボックスを有することがさらに好ましい。
【0025】
代替的又は追加的に、所望の歯形修整は、また、連続修整として及び/又は複数のロール角において自由に指定可能である。修整が複数のロール角において自由に指定可能である場合、本発明の方法の枠組み内で、上記修整の範囲がこれらのロール角の間で補間されることが好ましい。
【0026】
本発明に係る工具の位相修整は、ドレッシング中に、工具に対するドレッサの位置を、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させることにより施され得る。これにより、位相修整、すなわち、その値が工具の回転角度及び/又は工具幅位置に依存する修整をドレッシング中に施すことができる。位相修整は、既に詳細に示したように施されることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、工具上の規定の接触パスを利用して、ワークピースを機械加工する創成法を実施することが好ましい。工具の位相修整が、ワークピースに所望の歯形修整を施すような、接触パスに沿った形状を有するように、位相修整及び/又は接触パスが選択される。
【0028】
工具の位相修整が、ワークピースに所望の歯形修整を施すような、接触パスに沿った形状を有するように、具体的には、接触パスに応じて位相修整を選択可能であり、又は、位相修整に応じて接触パスを選択可能である。
【0029】
好ましくは、規定の接触パスを利用した機械加工が、機械加工ストロークの開始時に、工具の規定の初期シフト位置を利用した機械加工を含む。
【0030】
円柱形のワークピースの機械加工時には、機械加工ストロークの全体にわたって、この初期シフト位置が維持されることが好ましい。
【0031】
対照的に、円錐形のワークピースの機械加工時には、接触パスがシフトしないように、工具が好ましくは初期シフト位置を始点として機械加工ストローク全体にわたって対角比分だけシフトされる。
【0032】
本発明は、創成機械加工中に接触点が工具上に描く接触パスは、典型的には、当該工具のドレッシング時のドレッサの作用線と同じ方向を有することはないという基礎的な知見に基づく。したがって、上記でより詳細に定義した方式によれば、任意の規定の接触パスについて、この接触パスに沿った所望の修整を施す位相修整が常に存在し得る。最も簡単な事例では、ドレッサの作用線に沿った修整が工具上で一定であるので、接触パスに沿った所望の修整は関数FFt1の形状を画定する。あるいは、展開例では、好ましくは、修整の定数部分の係数関数FFtC,1を画定する。本発明によれば、実質的にあらゆる所望の歯形修整を施すことが可能である。
【0033】
本発明の方法は、具体的には、
ワークピースの所望の歯形修整を指定する工程と、
上記ワークピースの所望の歯形修整を施すために必要な規定の接触パスに沿って、工具の修整を決定する工程と、
この方法で決定された修整に対応する工具の位相修整を、上記接触パスに沿って決定する工程、及び/又は、この方法で決定された修整に対応する位相修整を、上記接触パスに沿って決定するのに適した、工具のドレッシング中のドレッサの工具に対する位置の変化を決定する工程とを含む。
【0034】
ドレッシング中に、工具に対するドレッサの位置を、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させることで、上記位相修整が施されることが好ましい。さらに好ましくは、工具の特定の回転角度によって及び特定の工具幅位置においてそれぞれ表される、工具に対するドレッサの作用線とワークピースに対する工具の接触パスとの交点において、特定の修整が現れるように、上記の変化が決定されるか又は起こる。その後、創成機械加工法の枠組み内において、上記の特定の修整により、ワークピースに所望の修整が施される。
【0035】
好ましくは、上記規定の接触パスは、工具の規定の初期シフト位置により特定される。
【0036】
さらに好ましくは、ワークピースに所望の修整を施すのに適した接触パスに沿った工具の修整を決定するために、創成機械加工における接触パスを形成するワークピースと工具との接触点が最初に決定されるものとされる。ここで、上記接触点又は接触パスは、解析的に決定されることが好ましい。
【0037】
さらには、位相修整を施すのに適した、工具に対するドレッサの位置の変化を決定するために、工具に入り込んだドレッサの作用線の位置が、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて決定され得る。例えば、この決定は、ドレッシングシミュレーションにより行われ得る。
【0038】
好ましくは、上記作用線の方向が、一定であると仮定され、具体的には、使用される修整には依存しないと仮定される。これは、特にインボリュートギヤ歯について、良好に近似して当てはまる。
【0039】
あるいは、修整が作用線の方向に及ぼす影響を考慮してもよい。特に、修整が作用線の方向により大きな影響を及ぼし得る非インボリュートギヤ歯について、このような考慮をしてもよい。非インボリュートギヤ歯については、上記作用線が直線ではなくなることをさらに考慮しなければならない。
【0040】
また、本発明により施される歯形修整には、他の修整が重畳され得る。
【0041】
第1の態様によれば、創成法の枠組み内で機械加工運動が修整され、機械加工運動の修整により施された修整が、工具の前記位相修整により施されたワークピースの修整に重畳され得る。本発明により施された歯形修整には、特に、自然ねじれの歯すじ修整が重畳され得る。
【0042】
本発明の枠組み内では、さらに、修整済みのドレッサを工具のドレッシングに使用することができる。ドレッサの修整により施された工具の修整には、位相修整が重畳され得る。この位相修整は、ドレッシング中に工具に対するドレッサの位置を、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させて施される。上記位相修整は、具体的には、上述したものと同じ方法で決定され、施され得る。
【0043】
好ましくは、選択されたワークピースとの接触パスに沿った、工具への修整の重畳が、ワークピースに所望の歯形修整を施すのに適した接触パスに沿った修整に一致するように、前記位相変化が選択される。したがって、本発明の方法のこの実施形態では、ドレッシングに修整済みドレッサを使用することは、上記の選択された接触パスに沿った修整の形状には何ら影響を及ぼさない。むしろ、ここでは、創成機械加工の枠組み内で、所望の歯形修整を施すこの選択された接触パスに沿った形状を有するように、位相修整も選択される。
【0044】
しかし、本発明の枠組み内での修整済みドレッサの使用が好適となるのは、修整済みドレッサだけが特定のドレッシング作業に利用可能な場合においてである。ドレッサの修整は、接触パスに沿った修整について、したがって、歯形修整について補償されるので、本発明によれば、修整済みドレッサを使用することができる。
【0045】
修整済みドレッサの選択には、位相歯形修整を施す際の選択された接触パスだけでなく、修整が最適ではなくなる他の接触パスさえも創成機械加工のために使用されるという点において、本発明の枠組み内での関連性がある。許容差範囲においてワークピースに修整を施す接触パスの量又は領域は、必要であれば、修整済みドレッサの使用によって拡張できる。
【0046】
本発明によれば、異なるマクロ形状を有する工具、具体的には、直径及び/又はネジ山の数が異なる工具のために設計された工具のドレッシングにも、ドレッサを使用できる。
【0047】
異なる工具用に設計されたドレッサは、ドレッシングプロセスの修整を行わないと、ワークピースの所望の修整からの偏差を引き起こす。したがって、本発明によれば、ドレッシング中に工具に対するドレッサの位置を工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて適切に変化させて、整合しないドレッサにより施された工具の表面形状の修整を選択されたワークピースとの接触パスにおいて補償するのが好ましい。整合しないドレッサにより施された不要な修整は、少なくとも1本の接触パスについて補償され得る。よって、創成機械加工法は、それについては修整が補償された、選択された接触パスを利用して実施される。
【0048】
このような方法は、具体的には、複数のドレッシング手順の後に工具の直径が小さくなり、その結果、ドレッサが工具に整合しなくなったとき、又は、ドレッシング中に小さくなった工具の直径により施される修整が許容差範囲外になったときに使用可能である。従来技術によれば、直径が小さくなったこのような工具は、別のドレッサでドレッシングしなければならないか、使用し続けることができないかのいずれかである。本発明により、このような工具をさらに使用できるようになるが、これは、許容されない修整が1本の接触パスについて少なくとも補償され得るからである。
【0049】
本発明は、第2の独立した態様において、適切にドレッシングされた工具により、所望のギヤ歯形状を有するワークピースを製造する方法を包含する。この方法は、
ワークピースの所望の歯形修整を指定する工程と、
ドレッシングプロセスの修整を行うことなく、上記所望の歯形修整からの偏差を最小とするドレッサと工具との組み合わせを、複数のドレッサと工具との組み合わせから選択する工程と、
前記偏差を補償するための工具の位相修整を施すために、前記ドレッサを線接触させて、前記工具を修整ドレッシング(modified dressing)する工程と、
機械加工ストローク中に変化しない接触パスを有する上記のドレッシングされた工具を使用して、ワークピースを創成機械加工し、所望の歯形修整を施す工程とを含む。
【0050】
上述の通り、本発明の方法を使用せずにワークピースに歯形範囲を施すドレッサと工具との組み合わせを選択することが好適であり得る。この歯形範囲は、所望の歯形修整からの偏差が可能な限り小さい。ここでは、本発明の方法を使用することによって、及び、使用される工具の位相修整によって、より小さい偏差のみが生じなければならないか、又は、より小さい修整が施されなくてはならない。これは、具体的には、許容差範囲内でまだ使用可能な接触パスの量又は領域がより大きくなるという利点を有し得る。
【0051】
好ましくは、上記ドレッサ及び/又は工具は、少なくとも部分的に指定された種類又は既存の種類である。この種類の中から選択することにより、可能な限り好適に整合するドレッサと工具との組み合わせを見つけることが好ましい。
【0052】
好ましくは、本発明の第2の態様に係る方法は、第1の態様について上記でさらに詳細に説明したように、実施される。工具の位相修整の決定及び/又は形成、並びに、創成機械加工は、具体的には、上記でより詳細に示したように実施される。
【0053】
本発明の、同様に独立した第3の態様は、適切にドレッシングされた工具により所望のギヤ歯形状を有する1つ以上のワークピースを製造する方法を包含する。この方法では、1つ以上の機械加工工程を実行した後、同じワークピース又は別のワークピースにさらなる機械加工工程を行う前に、工具がそれぞれドレッシングされる。本発明によれば、後続のドレッシングプロセスにおいて、先行するドレッシングプロセスとは異なる位相修整が工具に施されるものとされる。したがって、本発明の枠組み内では、位相修整を施す際に、複数のドレッシングプロセスが原因で小さくなった工具の直径が具体的に考慮される。ここで、具体的には、ワークピースの創成研削の枠組み内で所望の歯形修整を施す指定の接触パスに沿って修整が適用されるように、各ドレッシングプロセスについて位相修整が施されてもよい。
【0054】
第3の態様に係る方法は、第1及び/又は第2の態様の方法と組み合わせ可能であることが好ましい。ここで、位相ドレッシング及び/又は創成機械加工は、具体的には、上記でより詳細に説明したように実施される。
【0055】
本発明の上記の態様のいずれにも、また、これら態様のいかなる所望の組み合わせにも適用可能な好適な実施形態を、以下に詳細に示す。
上記でより詳細に述べた通り、本発明の方法によれば、創成機械加工において、指定された初期シフト位置又はこの初期シフト位置により規定される接触パスを利用して、指定された歯形修整を実質的に正確に施すことができる。これとは対照的に、このような理想的な初期シフト位置又は理想的な接触パスに対してシフトされた初期シフト位置又は接触パスを利用すると、所望の歯形修整からの偏差が生じる。これは、位相修整は、1本の接触パス又は1つの初期シフト位置について、所望の形状を正確に有することができるに過ぎないからである。しかし、多くの場合、それを利用して所望の歯形修整を許容差範囲で施し得る、複数のシフトされた接触パス又は複数の初期シフト位置が存在する。これにより、工具又は工具幅を、よりよく利用できる。
【0056】
本発明によれば、1つ以上のワークピースの機械加工中、工具の第1の初期シフト位置及び/又は第1の接触パスを利用して、少なくとも1回のストロークを実行可能であり、工具の第2のシフトされた初期シフト位置及び/又は第2のシフトされた接触パスを利用して、少なくとも1回の第2のストロークを実行可能である。
【0057】
理想的な初期シフト位置及び/又は理想的な接触パスに対して、第1の初期シフト位置及び/又は第1の接触パスは、好ましくは、第2の初期シフト位置及び/又は第2の接触パスよりも少なくシフトされている。具体的には、第1の初期シフト位置は理想的シフト位置に一致し、及び/又は、第1の接触パスは理想的接触パスに一致する。したがって、本発明によれば、理想的初期シフト位置又は理想的接触パスを利用して創成機械加工を実施可能である。その一方、工具をより均等に利用するために、このような理想的初期シフト位置又は理想的接触パスに対してシフトされた第2の初期シフト位置又は第2の接触パスを利用して、加工作業を行うこともできる。特に、この第2の初期シフト位置及び/又は第2の接触パスが、所望の歯形修整についての許容差範囲にある修整を施すときには、第2の初期シフト位置又は第2の接触パスを利用できる。
【0058】
本発明の可能な実施形態では、荒加工工程、具体的には、ラフィング(roughing)工程が、第2の初期シフト位置を利用して行われる。このような荒加工工程では、歯形形状についての許容差範囲がより大きく、理想的初期シフト位置又は理想的接触パスからの偏差と、これにより生じる所望の修整からの偏差とが、より容易に許容される。より好ましくは、仕上げ加工工程が、第1の初期シフト位置及び/又は前記第1の接触線を利用して行われる。仕上げ加工工程では、許容差範囲がより小さいので、ここでは、理想的接触線又は理想的初期シフト位置により近接して、又は、理想的初期シフト位置及び/又は理想的接触パスを利用して、加工作業が行われるべきである。
【0059】
上記に示した通り、本発明の方法を使用せずに修整を工具に施すドレッサを選択し、創成法においてこの修整が、所望の修整にできるだけ近い修整をワークピースに施すようにすることで、初期シフト位置及び/又は接触線の使用可能な範囲を大きくすることができる。但し、本発明は、これとは別に、位相修整の相応の設計によって上記使用可能な範囲を大きくする可能性も提供する。
【0060】
本発明によれば、工具の修整を、前記工具の創成パターン内で、第1の方向において少なくとも局所的に、一次及び/又は二次関数によって少なくとも近似的に表すことができ、上記一次及び/又は二次関数の係数は、上記第1の方向に垂直に延びる上記工具の第2の方向において、定数部分については係数関数FFtC,1,により、一次部分については係数関数FFtL,1により,及び/又は二次部分についてはFFtQ,1により構成される。一次及び/又は二次部分を有するこのような修整は、第1の方向において一定である修整に比べて、より多くの自由度を有する。好ましくは、このより多くの自由度を、使用可能な範囲を拡張するために使用できる。
【0061】
本発明によれば、上記定数部分の係数関数FFtC,1,は、所望の歯形修整が、創成研削において、指定されたシフト位置において、及び/又は、指定された接触パスを利用して、施されるように決定される。上記一次部分の係数関数FFtL,1及び/又は上記二次部分の係数関数FFtQ,1は、好ましくは、少なくとも1つのシフトされた初期シフト位置及び/又は少なくとも1つの接触パスを利用した創成機械加工時に、及び/又は、複数の初期シフト位置又は複数の接触パスの帯状部分又は範囲を少なくとも1つ利用した創成機械加工時にワークピースに生じる、所望の歯形修整からの偏差が最小となるように決定される。例えば、上記係数関数は、補償計算により決定される。
【0062】
本発明の可能な実施形態では、歯形に沿った異なる許容差範囲を考慮するために、上記偏差が創成パスに応じて、様々に加重される。
【0063】
さらに、上記複数のシフトされた初期シフト位置及び/又は上記複数の接触パスの間隔、又は、帯状部分の幅は、ワークピースに生じる偏差が、全ての接触パスにおいて、指定された許容差範囲内に収まるように、繰返し決定されてもよい。
【0064】
本発明によれば、さらに、工具幅を最大限に利用可能となる。
【0065】
本発明によれば、上記工具は、第1の位相修整を有する少なくとも1つの領域と、第2の位相修整を有する第2の領域とを備える。第1の初期シフト位置におけるワークピースとの接触パスに沿った上記第1の位相修整は、第2の初期のシフト位置におけるワークピースとの接触パスに沿った上記第2の位相修整と同一である。これにより、この場合には、第1及び第2の初期シフト位置において、所望の歯形修整を施すことができる。
【0066】
ここで、1つ以上のワークピースの機械加工中に、工具の第1の初期シフト位置を利用して、少なくとも1回のストロークが行われ得、工具の第2の初期シフト位置を利用して、少なくとも1回の第2のストロークが行われ得る。これにより、本発明の枠組み内で、ワークピースを機械加工するために、工具の第1の領域と第2の領域の両方が使用される。
【0067】
好ましくは、上記第1の領域は、第1の初期シフト位置において、ワークピースとの完全な接触パスを含み、第2の領域も同様に、第2の初期シフト位置において、ワークピースとの完全な接触パスを含む。したがって、これら第1の領域と第2の領域のそれぞれを使用して、ワークピースの完全な歯形を形成し、所望の歯形修整を施すことができる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記第1の位相修整は、上記第2の位相修整と同一である。したがって、具体的には、工具には、複数の同一の位相修整が互いに隣接して配置される。これにより、工具幅をより好適に使用できる。
【0069】
本発明によれば、ワークピースの所望の歯形修整が指定され得、この所望の修整を施すのに適した上記工具の修整、及び/又は、上記工具に対するドレッサの位置の適切な変化が、ドレッシング中に、上記工具の回転角度及び/又は上記工具幅位置に応じて決定され得る。工具の特定の初期シフト位置を利用した創成研削時の、ワークピースの表面への工具の表面のマッピングを表す関連付関数の反転を介して、工具とワークピースとの間の接触線に沿った工具の修整が、ワークピースの所望の歯形修整から決定されることが好ましい。好ましくは、この決定は、創成研削時のワークピースの表面への工具の表面のマッピングを解析的に表す関数を使用して行われる。具体的に、この関数は、ワークピース上の接触パスに沿った1点、したがって、ワークピースの歯形に沿った1点を、工具上の接触パスに沿った各点に関連付ける。
【0070】
本発明によれば、前記工具は、好ましくは、歯形ローラドレッサ及び/又はフォームローラドレッサによって、修整済みの形状にドレッシングされる。このような歯形ローラドレッサ及び/又はフォームローラドレッサは、回転軸と、この回転軸について回転対称な歯形とを有する。
【0071】
本発明によれば、上記ドレッシングは、好ましくは、工具と線接触した状態で実施される。本発明の位相修整は、外形ドレッシング(contour dressing)を行わなくても施せるよう設計されている。この修整は、むしろ、線接触した状態でのドレッシング中に、上述のように、ドレッサと工具との間の位置を工具幅位置及び/又は工具の回転角に応じて変化させて、施すことも可能である。
【0072】
本発明の第1の変形例によれば、一回のストロークで歯たけ全体にわたって上記修整が生じるように、歯形ローラドレッサ又はフォームローラドレッサは、ドレッシング中、工具の歯の歯元領域から歯先領域にわたって接触してもよい。第2の代替的な変形例では、複数回のストロークにより且つドレッサの異なる相対位置決めのそれぞれにおいて、特定の修整が歯たけ全体にわたって生じるように、上記歯形ローラドレッサあるいはフォームローラドレッサは、ドレッシング中、歯元領域と歯先領域との間の一部領域のみで工具の歯と接触してもよい。このような複数回のストロークによる工具のドレッシングには、原則として、より大きい種類の位相修整であっても施すことができるという利点がある。しかし、これは、本発明の実施に必要ではない。なぜなら、本発明の方法に適した位相修整は、一回のストロークでも施すことができるからである。但し、例えば、十分な歯形長さを有するようなドレッサが利用できないときには、複数回のストロークによるドレッシングが技術的な利点を有し得る。
【0073】
本発明に係る工具の位相修整は、従来のドレッシング運動に対する次の軸方向運動の補正、すなわち、
a) 工具からのドレッサの中心距離を、工具の回転角度又は工具幅位置に応じて変化させること、すなわち、送り出しを工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させることと、
b) 工具又はドレッサの軸方向送り出しを、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させること、すなわち、ドレッサ又は工具のシフト運動を工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させることと、
c) 工具及びドレッサの軸交差角を、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させること、すなわち、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて可変な、工具に対するドレッサの回動運動と、
d) 工具の速度を、工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて変化させること
のうちの1つ以上を行って施され得る。
工具の回転角度は、典型的には工具幅位置に固定的に結びついているので、ドレッサによって工具に施される歯形を歯面に沿ってシフトさせる。したがって、工具の回転角度と工具幅位置との比を変化させることによって、修整を施すことができる。
【0074】
代替的又は追加的に、上記工具の修整ドレッシングは、工具の角度位置及び/又は工具幅位置に応じてドレッサの送り出しを増減させて、又は、工具の角度位置及び/又は工具幅位置に応じてドレッサに対する工具の送り出し、又は、その逆の送り出しを増減させて行われてもよい。
さらに、所望の修整を施すためのドレッサと工具との相対位置決めの間、少なくとも3の自由度、好ましくは4あるいは5の自由度が用いられてもよい。好ましくは、これら自由度は、所望の修整を施すことを目的として、互いから独立して設定される。具体的には、工具の回転角度、工具の軸方向位置、ドレッサのy位置、中心距離、及び軸方向交差角の5のうちの少なくとも3、又は4、又は全てが使用できるのが好ましい。工具の軸方向位置、すなわち、工具幅位置は、好ましくは、ドレッサの接触線を変位させるのに使用される。残りの4の自由度のうちの2、又は3、又は4は、接触線に沿った特定の修整を施すために、互いから独立して設定され得る。
【0075】
本発明は、上記で示した本発明に係る方法を実行するための工具を包含する。本発明の工具は、第1の位相修整を有する少なくとも1つの第1の領域を備える。本発明の位相修整は、機械加工ストローク中に変化しない接触パスを利用する創成機械加工中に、ワークピースとの接触パスに沿って所望の修整を施すように構成されている。好ましくは、この位相修整は、上記でより詳細に説明したような実施形態を有する。
【0076】
本発明の工具は、可能な実施形態では、位相修整を1つ有する領域を1つだけ備え得る。しかし、工具幅をより好適に利用するためには、本発明の工具は、第2の位相修整を有する第2の領域をさらに備え得る。第1の初期シフト位置において前記ワークピースとの接触パスに沿った前記第1の位相修整は、第2の初期シフト位置において前記ワークピースとの接触パスに沿った前記第2の位相修整と同一である。したがって、いずれの場合においても、同じ歯形を形成する目的で、第1と第2の初期シフト位置を利用して上記工具を使用できる。上記工具は、修整済み領域に加え、非修整領域を備え得る。好ましくは、この非修整領域は、ワークピースの荒加工に使用され、修整済み領域は仕上げ加工に使用される。この実施形態では、これにより、ドレッシングサイクル間に機械加工されるワークピースの数がより多くなる。なぜなら、上記の非修整ラフィング領域が主な機械加工性能を発揮し、上記の修整済み仕上げ領域では質を決定する切削のみが行われ、この修整済み仕上げ領域はそれほど早くは摩耗しないからである。
【0077】
本発明によれば、いずれの場合も、上記第1の領域は、上記第1の初期シフト位置においてワークピースとの完全な接触パスを含み、及び/又は、上記第2の領域は、上記第2の初期シフト位置においてワークピースとの完全な接触パスを含む。
【0078】
本発明によれば、好ましくは、前記第1の位相修整は、前記第2の位相修整と同一であってもよい。この場合は、工具は、隣り合う同一の位相修整を少なくとも2つ有する。
【0079】
本発明は、さらに、上記により詳細に説明したような方法を実施するためのギヤ製造機を包含する。このギヤ製造機は、ここでは、本発明の方法を実施するための制御器を有することが好ましい。
【0080】
本発明のギヤ製造機は、具体的には、入力関数を有していてもよく、この入力関数を介して、ワークピースの所望の修整を指定可能である。好ましくは、ギヤ製造機は決定関数を有し、この決定関数によって、上記所望の修整を施すのに適した前記工具の修整が決定され、及び/又は、ドレッシング中の前記工具に対する前記ドレッサの位置の適切な変化が、前記工具の回転角度及び/又は前記工具幅位置に応じて決定される。ギヤ製造機は、さらに、ドレッシング機能を備えていてもよく、このドレッシング機能は、前記工具のドレッシング中に、ワークピースの所望の修整を施すのに適した修整を工具に施す。
【0081】
具体的には、ギヤ製造機は、ワークピースホルダと工具ホルダとを備える。本発明の創成機械加工を実施する目的で、これらのホルダは、回転軸を中心にそれぞれ回転自在に、且つ、ギヤ製造機のさらなる運動軸上で互いに対して移動可能に構成されている。さらに好ましくは、ギヤ製造機は、ドレッサホルダを備える。ドレッサで工具をドレッシングするために、このドレッサホルダは、同様に回転軸周りで運動可能に構成されている。工具はドレッシングされている間、工具ホルダか、ワークピースホルダか、又は別個の他のホルダに配置されていてもよい。ギヤ製造機は、ドレッシング中に本発明によるドレッサと工具との相対位置を変化させるための運動軸を有することが好ましい。
【0082】
本発明はコンピュータプログラムをさらに包含する。このコンピュータプログラムは、ワークピースの所望の修整についてのデータを入力するための入力関数と、上記所望の修整を施すのに適した工具の位相修整、及び/又は、機械加工ストローク中に変化しない接触パスを有する位相修整済みの上記工具を使用した創成機械加工により、ワークピースの上記所望の修整が施されるように、上記工具の回転角度及び/又は工具幅位置に応じて上記工具に対する上記ドレッサの位置の適切な変化を決定するための関数とを備える。円錐形ワークピースの場合は、上記コンピュータプログラムは、左右の歯面の少なくとも一方のために単歯面創成機械加工における対角比を、機械加工中に工具上で接触パスがシフトされないように、決定するための関数をさらに備えてもよい。また、必要に応じ、上記コンピュータプログラムは、左右の歯面両方について同じ対角比となるように、工具の形状、具体的には、円錐角及び/又はプロファイル角を決定し、好ましくは、この対角比の決定も行う関数を有する。本発明のコンピュータプログラムは、例えば、データ媒体又はメモリに格納されていてもよい。好ましくは、このコンピュータプログラムは、ギヤ製造機にインストール可能であり、及び/又は、ギヤ製造機において使用するデータのための出力関数を有していてもよい。好ましくは、上記コンピュータプログラムのこれらの関数が、上記でより詳細に説明した方法を実行する。
【0083】
好ましくは、本発明のギヤ製造機の上記入力関数又は本発明のコンピュータプログラムにより、所望の歯形修正を指定可能である。この所望の歯形修整及び/又はその特性は、特定の条件下で指定可能であることが好ましい。代替的又は追加的に、次のような歯形修整の特性、すなわち、クラウニング、プロファイル角偏差、歯先リリーフ、及び歯元リリーフのうちの少なくとも1つを指定可能であってもよい。
【0084】
次の特性、すなわち、クラウニングの大きさ、プロファイル角偏差の大きさ、歯先リリーフの量と位置、歯元リリーフの量と位置の少なくとも1つについて、次のデータが指定可能であることが好ましい。
【0085】
上記の特性及び/又はデータのうちの複数を指定可能であることが特に好ましく、上記の特性及び/又はデータの全てを指定可能であることがさらに好ましい。
【0086】
特に好ましくは、上記ギヤ製造機又は上記コンピュータプログラムが上記特性及び/又はそのデータのうちの少なくとも1つのための入力ボックスを有する入力マスクを備える。入力マスクは、上記特性及び/又はそのデータのうちの複数のための入力ボックスを有することが好ましく、上記特性及び/又はそのデータの全てのための入力ボックスを有することがさらに好ましい。
【0087】
代替的又は追加的に、所望の歯形修整は、連続修整として及び/又は複数のロール角において自由に指定可能であってもよい。
【0088】
本発明のギヤ製造機及び/又は本発明のコンピュータプログラムの入力関数と、決定関数と、ドレッシング機能のうちの少なくとも1つは、上記のような本発明の方法を実施するように構成されていることが好ましい。具体的には、上記ギヤ製造機及び/又は上記コンピュータプログラムが、本発明の方法について上記により詳細に説明した決定を行うことが好ましい。
【0089】
本発明は、原則として、ワークピースを機械加工するための任意の所望の創成法とともに使用できる。しかし、特にワークピースを高硬度仕上げ機械加工する目的で、創成研削法に使用されることが特に好ましい。
【0090】
上記ワークピースは、任意の所望の歯付きワークピースであってよい。本発明は、歯車の製造に使用されるのが特に好ましい。好ましくは、上記歯車は、平歯車ギヤ歯を有する。上記歯車は、内歯又は外歯を有していてもよい。このギヤ歯は、直歯であっても、斜歯であってもよい。上記ワークピース又は歯車は、円柱形又は円錐形の基本形状を有し得る。
【0091】
工具として、研削ウォームを使用するのが特に好ましい。好ましくは、上記研削ウォームはドレッシング可能であり、例えば、コランダム材料でなる研削本体を有する。
【0092】
本発明は、対称ギヤ歯の製造と、非対称ギヤ歯の製造の両方に使用可能である。
【0093】
さらに、本発明は、円柱形ギヤ歯の製造及び円錐形ギヤ歯の製造に使用可能である。
【0094】
円柱形研削ウォーム、及び、円錐形の基本形状を有する研削ウォームの両方が、工具として使用できる。
【0095】
本発明は、インボリュートギヤ歯の製造に使用されるのが好ましいが、非インボリュートギヤ歯の製造にも使用可能である。
【0096】
本発明に係るドレッシングは、2つの歯面に行われるのが好ましい。ワークピースの機械加工も、2つの歯面に行われるのがより好ましい。円柱形工具を使用しての円錐形ギヤ歯の製造においては、加工作業は1つの歯面に行われるのが好ましい。
【0097】
以下、図面と実施形態とを参照して、本発明をさらに詳細に説明する。以下の図面は、円柱形ギヤ歯のw-z図を例として示すに過ぎない。円錐形ギヤ歯のw-z図は、概して、矩形ではなく、典型的には、台形である。なぜなら、創成パスの評価領域は、ギヤ歯の幅全体にわたって変動するからである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1】ウォームのネジ山における歯面の一部分を、幅全体にわたってドレッシングされていないウォームの法線方向のベクトルとともに示す模式図である。
図2】本明細書に記載の方法で、ワークピースに直線状の歯先リリーフを設けるために必要な、インボリュートウォームの位相表面修整の一例を示す図である。
図3図2と同じ位相表面修整を、接触パス22に対してわずかにずれた別の接触パス23とともに示す図である。
図4】本明細書に記載の方法で、ワークピースに直線状の歯先リリーフを設けるために必要な、非インボリュートウォームの位相表面修整の一例を示す図である。
図5】連続創成ギヤ列における2つのギヤ歯であって、共通のラックと両ギヤ歯の係合面を有する2つのギヤ歯配列を示す図である。
図6】円錐形ギヤ歯とこれらを創成するラックとを示す図である。
図7】右歯面と創成非対称ラックの係合を示す断面図である。
図8】ワークピースの歯面の一部分を、幅全体にわたって研削されていないワークピースの法線方向のベクトルとともに模式的に示す図である。
図9】本明細書に例示する移動装置を有するギヤ製造機を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
図1は、ウォームのネジ山における歯面の一部分を、幅全体にわたってドレッシングされていないウォームの法線方向のベクトルとともに示す模式図であり、図中のベクトルの数は、シミュレーション計算に比較して、大幅に減少させた。図中に模式的に示す面4は、ベクトルが配置された非修整ウォームの、概して湾曲した歯面に相当する。ベクトル1及び1’は、既に接触線の通過を受け、したがって、完全に短縮されている。ベクトル2及び2’は、既に少なくとも1回短縮されているが、接触線による通過はまだ受けていない。ベクトル3及び3’は、まだ短縮されておらず、選択された許容量に相当する長さのままである。図2は、本明細書に記載の方法で、ワークピースに直線状の歯先リリーフを設けるために必要な、インボリュートウォームの位相表面修整の一例を示す図であり、図中、符号22は、接触パスを示し、符号25~27は、ドレッサとウォームとの間の様々な接触線を示す。図3は、図2と同じ位相表面修整を、接触パス22に対してわずかにずれた別の接触パス23とともに示す図であり、接触パス23は、研削中の別のシフト位置に対応する。図4は、本明細書に記載の方法で、ワークピースに直線状の歯先リリーフを設けるために必要な、非インボリュートウォームの位相表面修整の一例を示す図であり、図中、符号32は、接触パスを示し、符号35~37は、ドレッサとウォームとの間の様々な接触線を示す。図5は、連続創成ギヤ列における2つのギヤ歯であって、共通のラックと両ギヤ歯の係合面を有する2つのギヤ歯配列を示す図であり、よりわかりやすく図示するために、2つのギヤ歯の相対位置は、連続創成ギヤ列におけるものとは対応していない。この図には、また、円柱形のギヤ歯の創成ラックに対する相対位置が示されている(出典:Niemann, G; Winter, H: Maschinenelemente Band 3 2. Auflage, [Machine Elements Vol. 3, 2nd Edition]Springer Verlag, ベルリン,1983年)。図6は、円錐形ギヤ歯とこれらを創成するラックとを示す図であり、ラックは、ねじれ角β=βだけ旋回され、円錐角θ=VARθ分だけ傾斜している(出典:Zierau, S: Die geometrische Auslegung konischer Zahnraeder und Paarungen mit parallelen Achsen [The Geometrical Designof Conical Gearsand Pairs Having Parallel Axes], Report No. 32, Institute For Construction Science, Braunschweig Technical University)。図7は、右歯面と創成非対称ラックの係合を示す断面図であり、断面図におけるプロファイル角αtwrは、係合面Pの傾斜を定義する。ギヤ歯は、回転角度φだけ回転される。図8は、ワークピースの歯面の一部分を、幅全体にわたって研削されていないワークピースの法線方向のベクトルとともに模式的に示す図であり、図中のベクトルの数は、シミュレーション計算に比較して、大幅に減少した。図中に模式的に示す面104は、ベクトルが配置された非修整ワークピースの、概して湾曲した歯面に相当する。ベクトル101及び101’は、既に接触パスの通過を受け、したがって、完全に短縮されている。ベクトル102及び102’は、既に少なくとも1回に短縮されているが、接触パスの通過はまだ受けていない。ベクトル103及び103’は、まだ短縮されておらず、選択された許容量に相当する長さのままである。図9は、本明細書に例示する移動装置を有するギヤ製造機を模式的に示す図である。
本発明は、ウォームをドレッシングし、対応のドレッシングされたウォームを使用して平歯車のギヤ歯を創成研削する方法に関する。本発明の方法により、時間のかかる外形ドレッサの使用をせずに、創成研削されたギヤ歯の歯形を所定のドレッサの一定の制限内で自由に指定できる。クラウニング又は歯元/歯先リリーフのような、自由な歯形修整は、具体的には、これらの修整を保存しない又は他の修整を保存するドレッサを使用して施すことができる。これらのギヤ歯は全て、創成可能な歯形、すなわち、ウォームを使用して研削可能な歯形を有する。これらのギヤ歯は、具体的には、インボリュート歯形を有し得る。これらのギヤ歯は、対称でも非対称でもよい。インボリュート歯形については、このことは、左右の歯面のプロファイル角及び/又は歯形修整も互いに異なり得ることを意味する。さらには、ウォームと機械加工されたワークピースの両方が、円柱形又は円錐形であってもよい。円錐形ウォーム又は円錐形ワークピースは、左右の歯面上の異なるリードにより特徴付けられる。円柱形の場合には、リードは両側で同じである。インボリュート円錐形ギヤ歯は、ベベロイドギヤとも呼ばれることも多い。
【0100】
研削プロセスは、工具長さにわたって位相修整されたウォームを使用して行われる。このウォーム上の接触パスが機械加工中にシフトされることがないように、研削プロセス中はこのウォームの軸方向がワークピースの軸方向送り出し位置に応じてシフトされる。円柱形ワークピースを研削する場合には、この条件は、軸方向にシフトされないウォームと同等である(軸方向創成研削)。円錐形ワークピースを研削する場合には、この方法は概して斜め創成法において行われる。接触パスがウォーム上に延びる箇所が、ここでは、この方法にとって決定的に重要である。円柱形ワークピースを研削する場合は、したがって、研削が行われるシフト位置(ウォームの軸方向位置)が決め手となる。円錐形ワークピースを研削する場合は、対角比と研削が行われるシフト範囲、すなわち、研削中にストロークが開始されるシフト位置が決め手となる。
【0101】
左右の歯面で異なる又は異なってもよいパラメータは、指数Fを用いて提供される。Fはl(左)又はr(右)であり得る。指数Fが含まれる式は、常に左右の歯面で成り立つ。
【0102】
以下でより詳細に検討するインボリュートギヤ歯は、基礎円の半径(rbr,rbl)及び基礎円筒ねじれ角(βbr,βbl)に応じて、次の4種類に分類される。
【数1】
【0103】
工具に関係のある値には、指数1が付与され、ワークピースに関係のある値には指数2が付与される。
【0104】
ギヤ歯の歯形修整は、関数fFt2(wF2)により表される。wF2は創成パスであり、zF2は幅線方向における位置である。
【0105】
本明細書に記載の方法において、インボリュートである場合のウォームに施される、又は使用される位相表面修整の集合を以下に定義する。位相修整は、一般的に、関数fFt1(wF1,zF1)を用いて表される。wF1は創成パスであり、zF1は幅線方向における位置である。ウォームの位相表面修整は、関数FFt1が少なくとも次式に近似するときには、本明細書で取り上げる表面修整の集合に属する。
Ft1(wF1,zF1)=FFt1(wF1sinρF1+zF1cosρF1)=FFt1(XF1) ・・・(1)
【0106】
説明的に言うと、このことは、表面修整が、歯面上の全てのwF1及びzF1について同じ値を有することを意味する。ここで、
F1sinρF1+zF1cosρF1=XF1 ・・・(2)
であり、式中、XF1は同じ値を有する任意の実数である。したがって、それぞれのXF1は、座標wF1及びzF1における歯面上の直線を一義的に定義する。
【0107】
以下、本発明の基本となる思想をより詳細に検討する。インボリュートギヤ歯の創成研削には、概してねじれ角が大きいインボリュートギヤ歯を同様に有するウォームが使用される。このウォームと、機械加工プロセス中に作製されるギヤ歯の端部形状との間には、理論上の点接触がある。ワークピース及び工具の両者の歯面の表面は、典型的には、ロールパス(w)と幅線方向(z)における位置についてパラメータ化される。
ηbF:独国特許出願公開第102012015846号明細書も参照のこと
sF:左右の両歯面についての方程式を簡潔な形式で記述するのに用いられ、以下のように規定される。
【数2】
【0108】
このパラメータ化により、簡単な関係を計算することで、工具上及びワークピース上の接触点の経路(接触パス)が得られる。この経路は、ワークピースの軸方向送り出しにより、ワークピース上で連続的に変位させられる。これら経路を知ることで、ワークピース上の1点を工具上の1点に、又はその反対に、一義的に関連付けすることができる。ワークピースに所望の修整が施されるように、工具の表面形状をこの関連付けを利用して調節できる。
【0109】
上記の関係を数学的に公式化するために、次の定義づけをする。
【0110】
次の用語が変換のために使用される。
・Rχ(φ) χ軸周りの角度φの回転。y及びzに類似。
・Tχ(ν) χ方向へのパスνによる並進運動。y及びzに類似
・H(A1,・・・AN) N座標のAからAまでの合計により同次変換行列で表記可能な一般変換
【0111】
本明細書中、「座標」という用語は一般的な座標を指し、必ずしも独立的(非依存)座標を指すとは限らない。
【0112】
静止系(system of rest)におけるギヤ歯の回転軸は常にz軸と一致する。ギヤ歯の中心はz=0の位置にある。
【0113】
上記関係を表す公式によって、ワークピースと工具との相対位置を説明する運動連鎖が決定されることがさらに重要である。これは、工具又はワークピースが円柱形か円錐形かに左右される。本明細書では、全ての可能な組み合わせ4つについて検討する。
【0114】
<円柱形工具と円柱形ワークピースとの運動連鎖>
工具とワークピースとの相対的位置は、次の運動連鎖Kによって表される:
=R(-φ)×T(-zV1)×T(d)×R(γ)×T(zV2)×R(φ) ・・・(4)
・φ1:工具の回転角度
・φ2:ワークピースの回転角度
・zV1:工具の軸方向送り出し(シフト位置とも呼ばれる)
・zV2:ワークピースの軸方向送り出し
・d:中心間隔(工具/ワークピース)
・γ:軸交差角(工具/ワークピース)
【0115】
<円錐形工具と円柱形ワークピースとの運動連鎖>
工具とワークピースとの相対的位置は、次の運動連鎖Kによって表される:
=R(-φ)×T(rw1)×R(VARθ)×T(-zV1)×T(d)×R(γ)×T(zV2)×R(φ2) ・・・(5)
・φ1:工具の回転角度
・φ2:ワークピースの回転角度
・zV1:工具の送り出し(シフト位置とも呼ばれる)
・zV2:ワークピースの軸方向送り出し
・d:中心間隔の寸法(工具/ワークピース)
・γ:軸交差角(工具/ワークピース)
・VARθ:工具の円錐角
・γw1:工具のピッチ円の半径
【0116】
<円柱形工具と円錐形ワークピースとの運動連鎖>
工具とワークピースとの相対的位置は、次の運動連鎖Kによって表される:
=R(-φ1)×T(-zV1)×T(d)×R(γ)×T(zV2)×R(-VARθ)×T(-rw2)×R(φ2) ・・・(6)
・φ1:工具の回転角度
・φ2:ワークピースの回転角度
・zV1:工具の軸方向送り出し(シフト位置とも呼ばれる)
・zV2:ワークピースの送り出し
・d:中心間隔の寸法(工具/ワークピース)
・γ:軸交差角(工具/ワークピース)
・VARθ:ワークピースの円錐角
・γw2:ワークピースのピッチ円の半径
【0117】
<円錐形工具と円錐形ワークピースとの運動連鎖>
工具とワークピースとの相対的位置は、次の運動連鎖Kによって表される:
=R(-φ)×T(rw1)×R(VARθ)×T(-zV1)×T(d)×R(γ)×T(zV2)×R(-VARθ)×T(-rw2)×R(φ2) ・・・(7)
・φ1:工具の回転角度
・φ2:ワークピースの回転角度
・zV1:工具の送り出し(シフト位置とも呼ばれる)
・zV2:ワークピースの送り出し
・d:中心間隔の寸法(工具/ワークピース)
・γ:軸交差角(工具/ワークピース)
・VARθ:工具の円錐角
・VARθ:ワークピースの円錐角
・γw1:工具のピッチ円の半径
・γw2:ワークピースのピッチ円の半径
【0118】
これらの運動連鎖は、本明細書に記載の発明を初めて数学的に説明するのに役立つ。これらの運動連鎖は、本発明が使用される機械の物理的な軸と適合しなくてもよい。この機械が、次の式(8)の変換に応じて工具とワークピースとの相対位置を可能にする移動装置を有する場合において、上記の運動連鎖からの座標軸の各組につき、座標A,…ANsが存在するときには、本発明をこの機械に使用できる。本発明においては、座標軸の組が計算される。
H(A,・・・,ANs)(但し、N≧1) ・・・(8)
ここで、
H(A,・・・,ANs)=K ・・・(9)
である。座標A,・・・ANsの計算は、座標変換によって行われ得る。
【0119】
必要な相対位置の全てを可能にする典型的な移動装置は、例えば、次の運動連鎖によって表される:
Bsp1=R(φB1)×T(-νV1)×R(90°-φA1)×T(-νZ1)×T(-νX1)×R(φC2) ・・・(10)
Bsp2=R(φB1)×R(90°-φA1)×T(-νY1)×T(-νZ1)×T(-νX1)×R(φC2) ・・・(11)
【0120】
図9には、HBSp1で表される移動装置を有するギヤ製造機を概略的に示す。
【0121】
このギヤ製造機は、製造機とドレッシング機とを組み合わせたものである。このギヤ製造機は、左側に図示されている、工具ホルダを有する機械加工ヘッドと、中央に図示されているワークピースホルダと、右側に模式的に図示されているドレッサホルダとを有する。ワークピースホルダに把持されたワークピースは、工具ホルダに把持された工具によって機械加工され、ギヤ製造機械加工が実施され得る。ドレッシングプロセスを実施するには、工具ホルダに把持された工具が、ドレッサホルダに把持されたドレッサによってドレッシングされ得る。これには、ドレッシング用の工具を工具ホルダ内に残せるという利点がある。機械加工ヘッドの運動軸は、さらに、ドレッサ上で工具とドレッサの相対位置を設定するためにも使用され得る。
【0122】
ギヤ製造機は、工具ホルダを動かすための運動軸A1,B1,V1,X1,Z1と、ワークピースホルダを動かすための運動軸C2と、ドレッサを動かすための運動軸B3,C5とを有する。
【0123】
詳細には、B1によって、工具はその回転軸周りに回転可能である。X1によって、工具は、工具又はワークピースの回転軸に対して垂直に並進可能である。Z1によって、工具は上下方向に又はワークピースの回転軸と平行に並進可能である。A1によって、工具は旋回可能である。V1によって、工具は接線方向に移動可能又はその回転軸方向へシフト移動可能である。C2によって、ワークピースが回転運動可能である。B3によって、ドレッシング工具はその回転軸周りに回転可能である。C5によって、ドレッシング工具は旋回可能であり、これにより工具における圧力角αを変更可能である。
【0124】
その他のギヤ製造機及び/又はドレッシング機も、本発明の方法を実施するために使用可能である。zV2座標は機械加工プロセス中に移動させられ、ワークピースの送り出しが実行される。円柱形ホイールにより行われるのは、軸方向送り出しである。円錐形のホイールで行われるのは、軸方向送り出しではなく、ギヤ歯の軸に対して円錐角度VARθ分傾斜している。
【0125】
しかし、後には、「送り出し」という用語は、円柱形工具又はワークピースのzV1とzV2にもそれぞれ使用される。
【0126】
円柱形及び/又は円錐形の工具とワークピースとの可能な4つの組み合わせを、別々に検討する。各組み合わせの出発点は、創成研削における、工具上及びワークピース上の接触点の経路を、送り出し位置zV1及びzV2に応じて、創成パス(w)と幅線方向(z)における位置との関係として、数学的に表すことである。
【0127】
このための準備において、この目的のために必要なウォームの修整及びドレッシングよるこの修整の実施について、まず検討する。
【0128】
ここで検討する、工具、つまり、対称又は非対称の、円柱形と円錐形のウォームは、同様に、式(1)による修整を有する。この種類の修整は、特に、ドレッシング可能な研削ウォームについて非常に好適である。なぜなら、ドレッシングホイールでドレッシングすると、ウォームに容易に修整を施すことができるからである。ドレッシングホイールでドレッシングするときには、ドレッシングホイールとウォームの歯面とは線接触している。この接触線を、両方の歯面について、wF1とzF1との関係として表すと、次式により直線が非常に近似に得られる:
F1sinρF1+zF1cosρF1=XF1 ・・・(12)
【0129】
ρF1はこの直線の方向を決定する。これは、ネジ山の数、ウォームの直径、ドレッシングホイールの直径、ウォームのプロファイル角、ドレッサに対するウォームの相対位置により、わずかに影響され得る。
【0130】
F1は、ウォーム上の直線の位置を定義する。したがって、ウォームがその長さに沿ってドレッシングされている間、XF1は変化する。ドレッシングプロセス中に、ウォームとドレッシングホイールとの相対位置の補正が行われると、修整がウォームに適用され得る。これらの補正の効果は、常に、現在の接触線に沿って現れる。
【0131】
ウォームとドレッサとの相対位置は、次の運動連鎖KBRによって表される。
BR=R(-φ)×T(-z)×R(-γ)×T(-d)×T(y)×R(φ) ・・・(13)
・φ:ウォームの回転角度
・φ:ドレッサの回転角度
・y:ドレッサのy位置
・z:ウォームの軸方向位置
・d:中心距離
・γ:軸交差角
【0132】
この運動連鎖は、最初は、本明細書に記載の発明を数学的に説明することのみに役立つ。この運動連鎖は、本発明が使用される機械の物理的な軸と適合しなくてもよい。この機械が、次の式(14)の変換に従ったウォームとドレッサとの相対位置を可能にする移動装置を有する場合において、上記の運動連鎖からの、本発明において計算される座標軸の各組につき、座標B,…BNAが存在するときには、本発明をこの機械に使用できる。
H(B,・・・,BNA)(但しN≧1) ・・・(14)
ここで
H(B,・・・,BNA)=KBR ・・・(15)
座標B,・・・,BNAの計算は、座標変換によって行われ得る。
【0133】
必要な相対位置の全てを可能にする典型的な移動装置は、例えば、次の運動連鎖によって表される。
BBsp1=R(-φB1)×T(-νV1)×R(-φA1)×T(-νX1)×T(νZ1)×R(φC5)×R(φB3) ・・・(16)
BBsp2=R(-φB1)×T(-νV1)×R(-φA1)×T(-νX1)×T(νZ1)×R(φB3) ・・・(17)
【0134】
図9には、HBBSρ1又はHBBSρ2で表される移動装置を有するギヤ製造装置を概略的に示す。
・中心距離と、
・ウォームの軸方向位置と、
・ドレッサのy位置と、
・ウォームの回転角度と、
・ウォームの軸とドレッサの軸との軸交差角と、
のうちの少なくとも1つを、現在の接触線に沿ってコンスタント修整(constant modification)が施されるように、補正可能である。
【0135】
ウォームが非修整状態でドレッシングされると、ドレッシングプロセス中に、ウォームの軸方向位置と、ウォームのピッチ高さを介して関連するため、ウォームの回転角度のみが変更される。このため、接触線は、らせんに従って、ウォーム長さに沿って移動し、歯面のある領域を通過してその領域をドレッシングする。よって、XF1は、ウォームの軸方向位置の関数である。
【0136】
F1=XF1(z) ・・・(18)
この関係は、単歯面ドレッシングと両歯面ドレッシングとの両方で成り立つ。
【0137】
2つの歯面にドレッシングが行われる場合、所望のコンスタント修整ftl1及びftr1がウォームの両歯面上の現在の接触線に沿って左右に、ある範囲内でそれぞれ独立して適用され得るように、相対位置の補正は選択され得る。ある範囲内において自由な、左右の歯面上における修整のこの選択は、上述の相対位置の補正の全てが左右の歯面に等しく作用しないという事実による。例えば、軸間隔におけるある変更は、左右の歯面に同じ符合の修整を施す結果となり、対称円柱形ウォームの場合には、量も同じである。これに対し、ウォームの回転角度におけるある変更は、左右の歯面に異なる符合の修整を施す結果となり、対称円柱形ウォームの場合には、量は同じである。このように、ウォームの軸間隔と回転角度は、例えば、所望の修整ftl1及びftr1が現在の接触線に沿って得られるように、設定され得る。このことは、次のように概説できる。上記の機械が、移動装置を有し、この移動装置がドレッシングプロセス中に使用可能であり、座標B,・・・,BNAを有し、且つ、左右の歯面の修整を自由に選択可能なようにウォームとドレッシングホイールとの相対位置を変えることができる場合、これらの座標の補正ΔB,・・・,ΔBNAは、非修整ウォームのドレッシングと比較すると、次式のようにftl1及びftr1に依存する。
ΔB=ΔB(ftl1,ftr1)(但し、1≦i≦N) ・・・(19)
【0138】
ウォームが非修整状態でドレッシングされると、上述のように、ウォームの軸方向位置zだけが変化する。この位置は、座標B,・・・,BNAにより設定され、これら座標はこの場合のzの関数である。
=B(z)(但し、1≦i≦N) ・・・(20)
【0139】
これは、本明細書に記載の修整を有するウォームのドレッシングの際の座標B,・・・,BNAについての直近の2つの関係から導かれる。
=B(z)+ΔB(ftl1,ftr1)(但し、1≦i≦N) ・・・(21)
【0140】
一般に、座標の補正ΔB,・・・,ΔBNAは、ウォームに修整を施すだけでなく、現在の接触線の位置に、非修整のウォームに対するわずかな変位を生じさせる。したがって、修整済みウォームのドレッシングのためには、式(18)をΔB,・・・,ΔBNAの依存により展開しなくてはならない。
F1=XF1(z,ΔB,・・・,ΔBNA) ・・・(22)
【0141】
本明細書に記載の方法に必要なウォームは、式(1)で表す修整を有し、式中、方向ρは、ドレッシング中の接触線の方向ρF1により事前定義される。しかし、関数FFt1は、ある範囲内で自由に事前定義可能な連続関数である。上記の修整ftl1及びftr1は、接触線XF1の特定の位置によりρF1が決定する方向に沿ったコンスタント修整を表し、したがって、左右の歯面の関数Ftl1(Xl1)及びFtr1(Xr1)にぴったりと一致する。
【0142】
修整Ftl1(Xl1)及びFtr1(Xr1)がわかると、これらを式(19)とともに、式(22)に挿入できる。
F1=XF1(z,ΔB(Ftl1(Xl1),Ftr1(Xr1)),・・・,ΔBNA(Ftl1(Xl1),Ftr1(Xr1))) ・・・(23)
【0143】
接触線XF1の位置は、概して数値的に、ウォームの任意の軸方向位置zにおいて、この方程式系を利用して計算できる。必要とされる座標の補正ΔB,・・・,ΔBNAは、式(19)を用いて決定できる。左右の歯面上の接触線がウォームのドレッシング対象である部分を通過するために必要な全てのzについて、この計算を行う。
【0144】
本明細書に記載の、両歯面ドレッシングのための方法は、そのまま、単歯面ドレッシングに転用できる。この場合、左右の歯面のための式を完全に切り離して、各々の歯面について別々に計算を行うことができる。
【0145】
式(13)による必要な軸補正ΔKBR、又は、製造機の物理的軸に従った軸補正ΔB,・・・ΔBNAを決定可能とするには、任意のドレッサと任意の軸補正ΔKBRとを用いて、どの歯形、特にどの歯形修整がウォームの歯面に施されるかを判定できる必要がある。ここで最初に検討するのは、ドレッシングプロセス中に軸補正が固定的に設定され、z及びΦだけがウォームのリードにしたがってともに移動する事例である。歯面に対する法線方向の偏差(ズレ)として定義される修整は、軸補正に依存し、ここでは、fnF1(wF1;ΔKBR)で表される。fnF1(wF1;ΔKBR)は、例えば、ドレッシングシミュレーションを利用して計算可能である。このようなドレッシングシミュレーションの入力データは、一般に、ドレッサの形状及びドレッシング運動に加え、ドレッシング前のウォームの形状である。ドレッシング前のウォームは、ドレッシング後のウォームに対し、ネジ山のあらゆる場所で正のストック(positive stock)を有するように選択される。このようなドレッシングシミュレーションにおいて、ドレッシングプロセスは、典型的には、有限数の時間ステップに分割される。時間ステップでは、ドレッサによりウォームの材料が除去され、各時点について判定される。
【0146】
後に必要とされる全ての情報を提供できる、適当なアルゴリズムをここで詳細に提示する。この目的で、まず、原則として修整されていないウォームを取り上げる。既定の長さを有する法線方向のベクトルが、座標(wF1,bF1)を有するこのウォームのネジ山上の個々の点に配置される。非修整のウォームを参照すると、ベクトルの長さは、ドレッシング前のウォームのストックに相当する。以下に記載するシミュレーション中に、各ベクトルが少なくとも1回は短縮されるように、ストックの大きさが典型的には選択される。ネジ山上の点の数が、結果の精度を決定する。これらの点は、好ましくは等距離となるよう選択される。ウォームのドレッサに対する相対位置は、例えば、非補正運動の座標φ,γ,d,yとこれらの補正ΔKBRとによって、各時点で指定される。全てのベクトルとドレッサとの交差は、各離散時間において計算される。いずれかのベクトルがドレッサと交差しないときは、そのベクトルは変化しない。しかし、ベクトルがドレッサと交差するときは、交点が計算され、ベクトルはその交点に終端が来るように短縮される。ドレッサの軸から交点までの距離は、該交点におけるドレッサの半径γである。この距離はさらに計算され、短縮されたベクトルへの追加情報として保存される。ここでのドレッシング時には、座標の補正は変更されないので、ウォームの任意の半径γF1上の、又は、任意の創成パスwF1上の全てのベクトルは、ウォームの全幅にわたってシミュレーションが行われた後も、ほぼ同じ長さのままである。この長さは、補正ΔKBRに依存するウォームの修整fnF1に相当する。
【0147】
長さのわずかな違いは、ここで説明するアルゴリズムが、時間の離散化による送り出しマーク(feed markings)を起こすことに起因する。これらの送り出しマークと、したがって、ウォームの任意の半径上の複数のベクトルにおける長さの違いとは、時間ステップの短縮と等価である、より微細な時間の離散化により縮小できる。ウォームの全幅にわたってシミュレーションが行われず、ウォームの任意の軸方向シフト位置zで中止された場合は、ドレッサとウォームとの接触線の通過を既に受けたベクトルだけが、ウォームの任意の半径について、ほぼ同じ長さを有する。その他のベクトルは、当初に選択された長さを有するか、既に少なくとも1回は短縮されているが、まだ最終長さを有してはいないかである。これは、これらのベクトルは後に再度短縮されるからである。この事実を利用して、任意のドレッサと、ΔKBRで表される、該ドレッサに対するウォームの相対位置とについて、非常に正確に接触線を判定可能である。ウォームの任意の半径γF1上、又は創成パスwF1上の全てのベクトルが、この目的のために観察され、どの幅線位置で、ほぼ同じ長さを有するベクトルから、これとは異なる長さを有するベクトルに移行するのかが判定される。したがって、接触線は、補正ΔKBR及びzに依存して、関数bBRF1又はbBwF1で表される。
F1=bBRF1(γF1;z,ΔKBR) 又は zF1=bBwF1(wF1;z,ΔKBR) ・・・(24)
【0148】
インボリュートウォームについて、接触線は座標(wF1,zF1)における直線によって、非常に近似して表される。
F1sinρF1(ΔKBR)+zF1cosρF1(ΔKBR)=XF1(z,ΔKBR) ・・・(25)
式中、ρF1(ΔKBR)は方向を表し、XF1(z,ΔKBR)は直線の位置を表す。方向ρF1(ΔKBR)の補正ΔKBRへの依存は、ウォームの形状とドレッサの形状によってのみ得られる程度によく近似しており、方向を仮定できるほど、小さいものである。
【0149】
接触線が沿って延びるベクトルが決定されると、これらについて事前に保存されたドレッサの半径γFAを読み出し、ウォームの各半径γF1について、ドレッサのどの半径γFAによってその半径がドレッシングされたかが判定される。この関連は、補正ΔKBRに依存する。
γFA=γFA(γF1;ΔKBR) ・・・(26)
【0150】
この方法で接触線の判定及び半径の関連の判定が行われる際の精度は、上記点の選択された距離と離散時間ステップの長さの両方に依存する。理論的には、両方の値は、いくらでも小さいものが選択できるが、実際には、利用可能なRAMと許容可能な最長計算時間とによって制限される。この計算は、実際に、2ギガバイト以上のRAMと高速マルチコアシステムを搭載した、現在入手可能なPCを使用して、十分正確に実行可能である。
【0151】
ウォームのネジ山表面上の法線方向において決定される、ウォーム上の1点における修整fnF1を施すと、ワークピース上の対応する点に、歯面の表面上の法線方向において決定される、ワークピースの修整fnF2=-fnF1が施される。ギヤの修整は、典型的には、法線方向(fFn)においてではなく、正面断面(fFt)において決定されるが、これら2つの修正の定義は互いに容易に変換できる。
Fn=fFt×cosβbF ・・・(27)
【0152】
式(19)で表すように、fnl1及びfnr1から、一群の軸補正ΔB,・・・,ΔBNAを決定するためには、左右の歯面について同時にfnF1(wF1;ΔKBR)=fnF1を解いてもよい。
【0153】
<円柱形工具及び円柱形ワークピース>
円柱形工具と円柱形ワークピースとの組み合わせにおいて、式(1)の修整を有するウォームを使用して、軸方向創成研削で歯形のみの修整を施す方法を以下に説明する。この目的のために、最初に、ワークピースとウォームとの接触点の経路を軸方向送り出しzV1及びzV2に関連して説明する。この経路は、ワークピースとウォームの基礎円半径と基礎円筒ねじれ角、並びに、中心距離d及び軸交差角γに依存する。この考察において、ウォームに対するワークピースの相対位置は、式(4)で表される。この経路は、数学的には、幅線方向(z)における位置と、ウォーム(指数1)及びワークピース(指数2)の創成パス(w)との関係(R6)として、次式のように表せる:
F1=CFw1×wF1-zV1+CFc1 ・・・(28)
F2=CFw2×wF2-zV2+CFc2 ・・・(29)
【0154】
ここで、式中の係数CFw1,CFc1,CFw2及びCFc2には、以下の依存関係がある。
Fw1=CFw1(βbF1) ・・・(30)
Fc1=CFc1(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ) ・・・(31)
Fw2=CFw2(βbF2) ・・・(32)
Fc2=CFc2(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ) ・・・(33)
【0155】
この関係は、z,w及びzの間に、ウォームとワークピースの両方について線形関係があることを示す。
【0156】
この製造プロセスにおいて、ワークピース上の固定の創成パスwF2を有する全ての点を検討する
と、ワークピース上のこれら全ての点は、この結果である創成パスwF1を有する点とのみ接触する。
ウォーム上の接触点の創成パスとワークピース上の接触点の創成パスとの関係(R7)は、以下の
ように表せる:
【数3】
【0157】
ここで、式中の係数^CFw1,^CFw2,及び^CFcには、次の依存関係がある:
【数4】
【0158】
上記の関係は、式(4)の運動連鎖に従って、互いに配向された2つのインボリュートギヤ歯の接触点の分析的計算から直接導かれる。
【0159】
本発明の基本的な思想は、上記の関係を利用して、ウォーム上の1点をワークピース上の各点に関連付けることである。ウォームが、式(1)に係る一定の範囲内で所望の修整を有し得、歯形修整がワークピースに施されるべきであるという事実がここで利用される。
【0160】
この目的のために、ワークピース上の創成パスwF2を、ウォームの任意のシフト位置zV1について検討する。これにより、式(34)を用いて、ウォーム上の創成パスwF1を決定でき、式(28)を用いて、幅線位置zF1を決定できる。ワークピース上の各創成パスは、zV2とは無関係に、ウォーム上の接触パス上の点にマッピングされる。XF1は、wF1及びzF1から、式(2)を用いて決定できる。したがって、wF2をXF1にマッピングできる。ウォーム上の必要な修整FFt1について、次式が得られる。
【数5】
【0161】
任意のzV1は、次(28)から導かれる。
F1-CFW1×wF1=const ・・・(39)
この式は、ウォーム上の接触パスが、1回のストロークの間にはシフトされないことに相当する。
【0162】
ここで、図2を参照して、移行領域のない直線的歯先リリーフの例について、原則を説明的に示す。この図は、wとzにわたって適用された、ウォームの位相表面修整を示す。符号22は接触パスを示す。ウォームは、ワークピースとの理論上の点接触をこの接触パスに沿って有する。ウォーム上の領域20は修整されていない。領域21は修整済みである。FFt1は、XF1における一次関数である。ドレッサとウォームとの間の接触線26は、XF1により表される。XF1は、ワークピースの利用可能な歯底円における創成パスwF2に対応する。この接触線は、ギヤ歯の利用可能な歯底円を機械加工するウォーム上の点において、接触パス22と交差する。これと類似して、接触線27は、ワークピースの利用可能な歯先円を機械加工するウォーム上の点において、接触パス22と交差する。また、上記接触線は、歯先リリーフの始点のキンクを機械加工するウォーム上の点において、接触パス22と交差する。これにより、時間的に別々にドレッシングされ、そのため、異なって修整され得るウォーム上の各点により、ワークピースの異なる直径が形成されることが明らかである。
【0163】
<円錐形工具と円柱形ワークピース>
今日の創成研削は、円柱形ウォームを使用するもののみが知られている。しかし、円錐形ウォームを工具として使用することも可能である。このプロセス運動は、円錐形ホイール及び円柱形ホイールを有する連続的創成研削ギヤ列により説明可能である。この運動は、式(5)により表される運動連鎖により説明される。2つの円柱形ホイールを有する連続的創成研削ギヤ列の場合と同様に、両ホイールの間にも理論上の点接触が存在する。これにより円柱形工具のものと同じ手法が使用できる。すなわち、式(1)の修整を有するウォームを、斜め創成法に使用して、ワークピースに同じく式(1)の修整を施す。ワークピースとウォームとの接触点の経路は、数学的に次式により表される。
【0164】
F1=CFw1×wF1+CFzV11×zV1+CFc1 ・・・(40)
F2=CFw2×wF2+CFzV12×zV1-zV2+CFc2 ・・・(41)
ここで、式中の係数CFw1,CFc1,CFw2,CFzV11,CFzV12,及びCFc2には次の依存関係がある:
Fw1=CFw1(βbF1) ・・・(42)
Fc1=CFc1(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ) ・・・(43)
Fw2=CFw2(βbF2) ・・・(44)
Fc2=CFc2(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ) ・・・(45)
FzV11=CFzV11(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ) ・・・(46)
FzV12=CFzV12(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ) ・・・(47)
式(34)は次式と置換される:
【0165】
【数6】
ここで、係数^CFw1,^CFw2,^CFzv1,及び^CFcには、次の依存関係がある:
【0166】
【数7】
【0167】
これらの関係を知っておくことで、ウォーム上の点のワークピース上の点へのマッピングを、円柱形工具と円柱形ワークピースの組み合わせの場合と類似の方法で、計算することができる。ここで、式(1)によるウォーム上の修整を再度想定すると、FFt1を純粋な円柱形の場合と同様にして求めることができ、これにより歯形のみの修整fFt2がワークピースに施される。この目的のために、wF2のそれぞれについて、上記の関係を利用して、対応のXF1を同様に計算可能である。
【0168】
<円柱形工具と円錐形ワークピース>
本明細書に記載の方法は、円錐形ワークピースの創成研削に転用できる。ここでの研削は、概して、斜め創成法により行われなければならない。最初に、式(1)の修整を有する円柱形ウォームの場合について検討する。ここでも、ウォームとワークピースとは、連続創成ギヤ列を形成し、このギヤ列運動は式(6)により表される。また、ここでもウォームとワークピースとの間には、理論上の点接触がある。ウォームとワークピースとの接触点の経路は、数学的に次式により表される。
【0169】
F1=CFw1×wF1-zV1+CFzV21×zV2+CFc1 ・・・(53)
F2=CFw2×wF2+CFzV22×zV2+CFc2 ・・・(54)
ここで、式中の係数CFw1,CFc1,CFw2,CFzV22,CFzV21及びCFc2には、次の依存関係がある:
Fw1=CFw1(βbF1) ・・・(55)
Fc1=CFc1(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ) ・・・(56)
Fw2=CFw2(βbF2) ・・・(57)
Fc2=CFc2(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ) ・・・(58)
FzV22=CFzV22(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ) ・・・(59)
FzV21=CFzV21(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ)・・・(60)
式(34)は次式により置換される:
【0170】
【数8】
ここで、式中の係数^CFw1,^CFw2,^CFzV2,及び^CFcには、次の依存関係がある:
【0171】
【数9】
【0172】
円錐形ワークピースの場合、式(53)は、zF1、wF1及びzV1の間の関係が、zV2にも依存することを示している。これにより、次のような結果となる。すなわち、式(39)が、概して、固定のzV1ではもはや成立せず、zF1-CFw1×wF1がzV2に依存し、1回のストローク中に接触パスがウォーム上でシフトされる。本発明に係るウォーム上に接触パスを動かないように保持するために、1回のストローク中にzV1が一次関数的にzV2に依存する斜め創成研削を適用可能である。一定の対角比で研削が行われる場合、zV1はzV2の関数であり、次式の関係が成り立つ:
V1(zV2)=KzV1×zV2+zV01 ・・・(66)
【0173】
ここで、KZV1は対角比であり、zV01は固定オフセットである。この固定オフセットによって、ウォームの様々な点に本明細書に記載の修整を位置させることができ、又は、ウォーム上の使用すべき領域を選択することができる。KZV1が0でない場合に、斜め創成法について言及される。KzV1=CFzV21は、シフトされない接触パスを得るための式(53)から直接導かれる。しかし、概して、この条件では、左右の歯面で対角比が異なる結果となる。よって、本発明の方法を用いた場合、創成研削は、最初は一方の歯面においてのみ可能である。
【0174】
式(66)に係るzV1が、式(53)において置換されると、zF1とwF1との関係がzV2には依存しなくなり、これにより、上記の計算手法により再度zF2とXF1との関係が得られる。しかし、円錐形ワークピースの場合、概して、この関係はもはやzF2に非依存ではない。これは、式(61)に表される関係の、式(54)により消去可能なzV2に対する依存から導かれる。しかし、テーパに起因して、ワークピースの歯形修整の所望の位置が、ギヤ歯幅にわたってシフトされるのが通常である。よって、外端における歯先リリーフの所望の始点は、内端における場合よりも、例えばより大きい創成パスにある。上記の式から、wF2、ZF2及びXF1の間の関係が一次関数的であるという結果が直接得られる。したがって、本明細書に記載の方法により形成される歯先リリーフの始点は、例えば、ワークピースの幅にわたって創成パス内で直線的に変化し、よって、この歯先リリーフの始点は、ワークピースのw-z図において直線を描く。この直線の方向は、ウォームのマクロ形状の影響、特に、プロファイル角のマクロ形状の影響を受け得る。ウォームのこのようなプロファイル角の変化は、ウォームとワークピースとが互いに噛み合い続ける限り、起こり得る。この直線の方向に直接影響し得る別のものとしては、1回のストローク中にウォーム上の接触パスがシフトされ、よって、ウォームにおける好ましくは異なる修整が施された異なる領域が使用される、斜め創成法の使用が挙げられる。このような方法は、独国特許出願公開第102015000907号明細書に記載されている。よって、ワークピースのこのような修整は、三角エンドリリーフとして扱われ得る。
【0175】
円錐形ワークピースの両歯面研削は、円錐形工具の使用により可能となる。
【0176】
<円錐形工具と円錐形ワークピース>
円錐形工具と円錐形ワークピースのとの組み合わせの計算は、上述の組み合わせの場合と類似の方法で行える。ここでも、ウォームとワークピースとは連続創成ギヤ列を形成し、このギヤ列運動は式(7)により表される。また、ここでもウォームとワークピースとの間には、理論上の点接触がある。ウォームとワークピースとの接触点の経路は、数学的に次式により表される。
【0177】
F1=CFw1×wF1+CFzV11×zV1+CFzV21×zV2+CFc1 ・・・(67)
F2=CFw2×wF2+CFzV12×zV1+CFzV22×zV2+CFc2 ・・・(68)
ここで、式中の係数CFw1,CFc1,CFw2,CFzV22,CFzV21,CFzV12,CFzV11及びCFc2には、次の依存関係がある:
Fw1=CFw1(βbF1) ・・・(69)
Fc1=CFc1(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ,VARθ) ・・・(70)
Fw2=CFw2(βbF2) ・・・(71)
Fc2=CFc2(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ,VARθ) ・・・(72)
FzV22=CFzV22(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ,VARθ) ・・・(73)
FzV21=CFzV21(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ,VARθ) ・・・(74)
FzV12=CFzV12(βbF1,βbF2,γbF2,d,γ,VARθ,VARθ) ・・・(75)
FzV11=CFzV11(βbF1,βbF2,γbF1,d,γ,VARθ,VARθ) ・・・(76)
式(34)は、次式に置き換えられる:
【0178】
【数10】
ここで、式中の係数^CFw1,^CFw2,^CFzV1,^CFzV2,及び^CFcには、次の依存関係がある:
【0179】
【数11】
【0180】
式(67)も、円錐形工具について、zV2へのさらなる依存を表している。よって、ここでも、シフトされない接触パスが、斜め創成研削によってのみ得られる。対角比については、式(67)から、KzV1=-CFzV21/CFzV11が得られる。よって、円柱形工具及び円錐形ワークピースのための計算手法が再度適用され、この手法は、ここでも一般的にzF2には依存しないwF2とXF1との関係に関する。ここでも、同じXF1に関連する点は直線上にある。よって、円錐形ギヤ歯を用いて、w-z図中において、歯形修整の位置を一般的に望まれるようにシフトさせることができる。ここで、この直線の方向は、ウォームのプロファイル角を変更することによる影響、及び/又は、ウォームの円錐角VARθ1を変更することによる影響を受け得る。
【0181】
概して、左右の歯面について計算された対角比は、ここでも異なり、よって、単歯面研削だけが可能である。しかし、両側で対角比が同じになるように、ウォームの形状、特に円錐角VARθの形状、及び/又はウォームのプロファイル角を選択可能である。これにより両歯面研削が可能になる。特に、円錐角VARθが対角比に及ぼす影響は、両側で異なる。工具の形状に対する対角比の依存は、係数CFzV21及びCFzV11の対応の依存によるものである。
【0182】
ここで、ずれた対角比を使用した斜め創成研削への移行も、さらなる可能性を生む。これについても、同様に、独国特許出願公開第102015000907号明細書に記載されている。
【0183】
<工具上及びワークピース上の接触パスを計算するための計算アプローチ>
送り出しに応じて、上記で用いた接触パスを計算可能な計算アプローチを、以下に示す。2つの理論ラック(基本ラックとも呼ばれる)を用いて、ワークピースと工具との接触を算出する。2つの理論ラックのうち一方はワークピース用、もう一方は工具用であり、それぞれ、概して非対称の台形の歯形を有し、これら歯形により、ギヤ歯が創成され得る。工具及びワークピースの両方がインボリュートギヤ歯であるので、この観察結果は、工具とワークピースとを入れ替えをしても、対称である。
【0184】
図7は、正面断面における、右のインボリュート歯面の、プロファイル角αtwrを有する創成ラックとの接触を例として示す。回転角度φ分だけギヤ歯を回転させる。歯面とラックとは、プロファイル角αtwr分傾斜した係合面Pγで接触する。全ての回転角度φについて、歯面とラックとの接触点は、歯面と係合面との交点となる。ギヤ歯が回転している間、ラックは、水平方向にずれて、スリップすることなく、半径γを有するピッチ円をロールオフするようにする。こうして、歯面とラックとは、接触したままである。ギヤ歯を幅全体について表すためには、ギヤ歯に対するラックの相対的な位置は、3次元で観察されなければならない。円柱形ギヤのギヤ歯の場合、このラックは、ねじれ角β分だけ旋回される。円錐形ギヤのギヤ歯の場合、ギヤ歯に対するラックの位置は、ツィーラウ(Zierau)著、「平行軸を有する円錐形の歯車及び歯車対の幾何学的設計」、レポート32号、建築技術研究所(Institute For Construction Science)、ブラウンシュヴァイク工科大学に余すところなく記載されている。ねじれ角β分の旋回に加えて、円錐角VARθ分傾斜させる(図6参照)。どちらの場合も、ラックは、歯直角断面で、プロファイル角αnwFを有する。角度αtwF、αnwF、及びβ並びに歯直角モジュールm及び正面モジュールmのどの組み合わせによって、所定のギヤ歯を形成可能かは、円柱形ギヤのギヤ歯についてはDIN3930の式一組からわかり、さらに円錐形ギヤのギヤ歯についてはツィーラウの式一組からわかる。これに必要な式は、左側と右側で別々のプロファイル角を導入することにより非対称のギヤ歯に直接転用され得る。
【0185】
ラックの形状及びギヤ歯に対するラックの相対的な位置がわかれば、いかなる所望の幅方向位置でも、正面断面を求め、これら断面の範囲内で、ラックと歯面との間の接触点を求め得る。個々の正面断面におけるこれら接触点全てにより、回転角度φの場合の係合面に直線(直線状の接触線)が形成される。式(3)におけるパラメータ化から、これら接触点をw及びzにより表す場合、wと、zと、φとの直線関係(R1)を実現する。ラックが間隙を介してしっかりと保持される場合、円柱形ギヤのギヤ歯を軸方向に移動させることが可能である。この軸方向送り出しzは、典型的には、ワークピースについては、歯付の幅全体にわたってワークピースを機械加工するために設定され、工具については、対角比を設定するために設定される。ギヤ歯は、原則として2つの歯面でラックと接触し続けるように、シフトに加えて、これら歯の軸を中心として回転させられなければならない。回転量は、ギヤ歯の1回転あたりの前進距離と、シフトされた量とから得られ、回転方向は、ネジ山のズレから得られる。円錐形ギヤ歯の場合、軸方向には送り出しzが実施されないが、軸方向から円錐角VARθ分傾斜する。円柱形ギヤ歯についての式と同じ式を用いて、回転角度の補正の計算に必要な前進距離をβ及びmから計算する。正面断面は、軸方向送り出し、又は、個別の正面断面における接触点を計算するためにそれぞれ補正された回転角度での送り出しに応じて観察されるべきである。w、z、zv、φの直線関係(R2)は、接触点を表すための(R1)から得られる。
【0186】
連続創成ギヤ列において、2組のギヤ歯が対にされる場合、これらの2つのラックは、図5に示すように、常に適合していなければならない。このことは、両組のギヤ歯について、プロファイル角αnwFが等しくなければならないことを示唆する。(R3)が、この式γ+βW1+βW2=0からさらに得られる。この条件により、プロファイル角は、互いに噛合し得る所定の2組のギヤ歯についての所定の軸交差角から、2つのラックの歯直角断面又は正面断面において求めることができる。従って、ウォームの基礎円の半径及び基礎らせん角度の変更は、プロファイル角と、円錐角と、軸交差角とのうちいずれか1つの変更と等価である。
【0187】
ラックが常に適合するように、線形制約(R4)が、2つの回転角度と2つの送り出しとの間に生じる。
【0188】
これら2つの回転角度及びこれら2つの送り出しがわかれば、2本の直線状の接触線の交点を計算することにより、2組のギヤ歯の接触点を直接求め得る。ギヤ歯1又はギヤ歯2との接触点を表すパラメータzF1及びwF1、又はzF2及びwF2は、φ、φ、zV1、及びzV2に線形依存している(R5)。回転角度が、これらの関係において消去される場合、求める接触パス(R6)がわかる。
【0189】
両組のギヤ歯について、φ及びφを消去することにより、wF1、wF2、zV1、zV2間の直線関係(R7)が(R4)及び(R2)から得られ、この関係は、送り出しに応じて、ギヤ歯1上のどの創成パスが、ギヤ歯2上のどの創成パスと接触するのかを表す。
【0190】
工具とワークピースとが互いに噛み合うように、以下の式が成立しなければならない。
bF1×cosβbF1=mbF2×cosβbF2 ・・・(83)
【0191】
上述したアプローチ又はインボリュートギヤ歯に代わり、シミュレーション計算を利用して、接触パス(R6)と、ピッチ角度間の関係(R7)とを実行することも可能である。このようなシミュレーションにより、所定の工具(具体的にはウォーム)と、所定の運動(具体的には、工具とワークピースとの所定の相対的な位置)とから、ワークピースの正確な形状を計算することが可能である。このようなシミュレーションを拡張して、これらシミュレーションにより、工具の送り出しと、ワークピースの送り出しとに応じて、工具のどの点がワークピースのどの点を形成しているのかを求めることも可能であり得る。このパスにおいては、インボリュート特性は使用されないので、非インボリュート歯形にも使用可能である。これに適したアルゴリズムについて、以下に説明する。
【0192】
このために、まず、原則として、修整が施されていないワークピースを検討する。事前に固定された長さを有する歯直角方向のベクトルを、このワークピースの歯の上の座標(wF2,zF2)を有する個別の点上に配置する。ベクトルの長さは、非修整ワークピースについては、研削前のワークピースの許容量に相当する。典型的には、ストックは、非常に大きいものが選択されるので、各ベクトルが、以下に記載のシミュレーション中に少なくとも1回短くされる。歯上の点の数により、結果の精度が決まる。これらの点は、等距離系として選択されることが好ましい。ウォームに対するワークピースの相対的位置は、例えば、運動連鎖Kγにより毎回指定される。全てのベクトルのウォームとの交差は、離散的な時間のそれぞれにおいて計算される。ベクトルがウォームと交差しない場合、ベクトルはそのままである。しかしながら、ベクトルがウォームと交差する場合、交点が計算され、ベクトルは、ちょうど交点で終わるように短くされる。ウォーム軸からの交点の間隔は、交点におけるウォーム半径γF1であり、さらに計算されて、短くされたばかりのベクトルに対して、付加情報として記憶される。ここでの研削の間には、座標の補正を変更していないので、所定のワークピースの半径γF2又は所定の創成パスwF2についての全てのベクトルは、ウォームの幅全体にわたってシミュレーションが行われた後には、ほぼ同じ長さを有する。
【0193】
長さのわずかな差異は、本明細書に記載のアルゴリズムが、時間の離散化のせいで、創成中の創成切断と同様な印を形成することによる。時間の離散化を精密にすることにより、これらの印、ひいてはワークピースの所定の半径についてのベクトルの長さの差異を小さくし得る。時間の離散化を精密にすることは、工程時間の短縮と同等である。ワークピースの幅全体にわたってシミュレーションを行わずに、ワークピースの所定の軸方向シフト位置zv2でシミュレーションを中断すれば、接触パスにより既に通過されたベクトルのみが、所定の半径について、ウォーム上でほぼ同じ長さを有する。残りのベクトルは、最初に選択された長さと、少なくとも1回既に短縮された長さとのいずれかを有するが、まだ最終的な長さに定められていない。なぜなら、これらベクトルは、後に、再び短縮されるからである(図8参照)。これを利用して、現在送り出しについてのワークピースとウォームとの接触パスを高い精度で求め得る。ワークピースの所定の半径γF2又は創成パスw上のベクトル全部がこのために観察され、ほぼ同じ長さを有するベクトルから、これらベクトルとは異なる長さのベクトルまで移行するのはどの幅方向線位置なのかを求める。連続創成ギヤ列が、ワークピースとウォームとを入れ替えても対称なので、ウォームに対する接触パスを同様に求め得る。インボリュートの場合において、ワークピース及びウォームの両方が円柱形であれば、例えば、このように計算された接触パス上の点からの曲線適合により、式(28)又は式(29)からの係数を求め得る。接触パスに沿って延びるベクトルを求める場合、これらベクトルのために以前に記憶されたウォームの半径γF1を読み出し、従って、ワークピースの各半径rF2がウォームのどの半径rF2よって研削されたかを判定し得る。これら半径は、創成パスに変換され得る。円柱形ワークピース及び円柱形ウォームについてのこれらの値の対から、例えば曲線適合により、式(34)からの係数を求め得る。
【0194】
インボリュートの場合において、ウォームが円錐形であり、ワークピースが円柱形であれば、式(40)、式(41)、及び式(48)におけるzV1の前の係数をさらに求めるために、少なくとも2つの別々の送り出しzV1についての接触パスを求めなければならない。同様に、少なくとも2つの別々の送り出しzV2は、ワークピースが円錐形であり、ウォームが円柱形である場合に検討されなければならない。ワークピースとウォームとが円錐形である場合、少なくとも2つの送り出しzV1と、少なくとも2つの送り出しzV2とについての接触パスを検討して、式(67)、式(68)、及び式(77)からの係数を全て求めなければならない。
【0195】
<他の修整との重畳>
従来技術から公知の修整は、本明細書に記載された方法を用いて施し得る歯形のみの修整に対して干渉することなく、付加的に重畳され得る。一方で、これらの修整は、使用されるドレッサに保存可能な、さらなる歯形のみの修整である。よって、本明細書に記載された方法によって、一定の範囲内で、歯形修整を保存するドレッサを使って、ウォームに、したがってワークピースに、別の自由歯形修整を施すことも可能である。この目的のために、所望の歯形修整との差異、及びドレッサに保存された歯形修整との差異のみが、本明細書に記載された方法によって、施されなければならない。したがって、例えば、歯形クラウニングのみを変更又は形成が可能である一方、歯先リリーフ及び/又は歯底リリーフを、ドレッサにこれらが既に保存されているかどうかに関わらず又はこれらの量や長さに関わらず、自由に創成することも可能である。
【0196】
例えば、ドレッサに歯形クラウニングを保存する場合、本明細書に記載された方法によって、さらなる歯形クラウニングを施すことができる。このようにして得られるクラウニングと、ドレッサのクラウニングとの間にはズレがある。
【0197】
従来技術(独国特許第10208531号明細書)から公知の、ギヤ歯上の修整を施すための別の方法は、研削プロセス中の運動を補正する工程を備える。このような修整は、例えば、軸間隔を変更し、且つ/又は、回転角度を補正し、且つ/又は、送り出し量を補正することにより、実行され得る。このような補正は、常に、接触パスに沿って効果があり、この接触パスに沿って同じ値を有する。したがって、この方法で施すことができる修整もまた、式(1)により表すことができる。しかしながら、ρKFによって表される方向は、この方法においては影響を受け得ない。なぜなら、この方向は、ワークピースの基礎ねじれ角に依存するに過ぎないからである。この修整fKFtは、以下のように数学的に表すことができる。
KFt(w,z)=FKFt(wtanρKF+z) ・・・(84)
【0198】
ここでは、関数FKFtは、任意の所望の連続関数であり得る。研削運動の必要な補正は、左右の歯面について、関数FKFtから計算され得る。自然ねじれを有するクラウニング又は歪んだエンドリリーフも、例えば、この方法を用いて製造し得る。
【0199】
本願の基礎をなす発明では研削運動の補正が不要なので、斜め創成研削又は円柱形ワークピースに対しての研削を行わなければならない規定のシフト位置とは別に、研削運動の補正と、ひいては式(84)に従った修整とが、干渉することなく、付加的に重畳され得る。
【0200】
<工具の分割と利用>
本明細書に記載の方法でワークピースを研削するためには、ウォーム上に一定の幅を有する領域が必要である。軸方向創成研削において一般的なように、この幅は、歯面あたり、接触パス22のウォームの幅方向における範囲に相当する。本方法を円錐形ワークピースに適用する場合は、研削が斜めであることは明白であるが、接触パスはシフトされない。よって、ウォーム上の実際に使用されている領域の幅は、軸方向創成研削におけるそれに相当する。ウォームを最適に利用するために、複数のこのような領域をウォームに適用してもよい。しかし、これらの領域のそれぞれには、歯形修整を正確に施すのに利用される接触パスは1本のみ存在するので、ウォームの表面のうち狭い部分のみが使用され得る。ウォームをより効率的に使用するためには、ウォームをシフトさせることによって、理想的な接触パスに対してわずかにシフトされた接触パスを利用することも可能である。円錐形ワークピース及びこれに必要な斜め創成研削の場合、上記のようにシフトさせることは固定オフセット(zV01)の変更に相当する。図3において、符号23は、理想的接触パス22に対してオフセットされた、そのような接触パスを示す。これを研削に使用する場合は、歯形修整のシフトの結果は、ワークピースの歯先の方向に現れる。すなわち、図示の例では、リリーフの始点が、より外側にシフトする。許容誤差範囲の枠組み内でこれが可能なら、このような接触パスもここで利用可能となる。ウォームが荒加工と仕上げ加工とに用いられる場合、オフセット接触パスを荒加工のみに使用し、理想的接触パスを仕上げ加工に使用することも可能である。又は、理想的接触パスに加えて、少しだけシフトされた接触パスを仕上げ加工に使用し、より大きくシフトされた接触パスを荒加工に使用する。これにより、一領域あたりにより広い帯状部分を使用でき、よって、ウォームの噛み合い表面をより大きくすることが可能となる。ウォームの一部を非修整の方法でドレッシングして、この領域を荒加工に使用することも可能である。
【0201】
<接触線に沿った一定ではない修整>
理想的接触パスに対して接触パスがシフトしたときに発生する、所望の修整に対する偏差(ズレ)を抑制するため、ドレッサとウォームとの接触線に沿った修整が一定でないことが好適であり得る。ウォームをドレッシングする際に全ての利用可能な自由度を利用することによって、wにおいて少なくとも近似的に一次的又は二次的である修整を施すことができる。したがって、ウォームの位相修整は、少なくとも近似的に次式で表され得る。
【数12】
【0202】
所望の一次又は二次修整を得るために、XF1で表される接触線に沿ってどの軸補正が必要かは、例えば、軸補正の変更及び上記のシミュレーションを繰り返すことによってこの方法で得られる修整の決定によって、判定される。
【0203】
関数FFt1C,FFt1L及びFFt1Qは、次のようにして求められる。FFt1Cは、接触線に沿った一定の修整の場合について、上記のようにして求められる。これにより、ワークピースの修整が、接触パスについて正確に施される。一方、関数FFt1L及びFFt1Qは、例えば、曲線適合により求められる。これにより、ワークピースで発生する所望の修整からの偏差が、離散的なシフトされた接触パス又は接触パスの帯について、最小となる。ここで、必要であれば、歯形に沿った様々な許容差を考慮するために、上記の偏差を創成パスに応じて様々に加重してもよい。ワークピースで発生する偏差が全ての接触パスにおいて許容差範囲内に収まるように、シフトされた接触パスの距離又は上記帯の幅を繰返し決定してもよい。ここで、仕上げ加工用により狭い許容差範囲を有する接触パスを決定してもよく、荒加工用により大きい許容差範囲を有する領域を決定してもよい。
【0204】
<非インボリュートギヤ歯との適用>
上述のような方法は、非インボリュートギヤ歯又は歯形にも直接展開可能である。非インボリュートギヤ歯又は歯形においても、ギヤ歯は、非対称及び/又は円錐形であり得る。ここで、インボリュートギヤ歯について上記した線形関係は、概して線形ではない。ここでは、パラメータwは、インボリュートギヤ歯から既知の創成パスには相当せず、より一般的な観点からは、ギヤ歯の歯形をパラメータ化するパラメータに相当する。しかし、接触パスの決定の代替としての上記のシミュレーション、及び、ウォーム上の点のワークピースの点へのマッピングを用いて、非インボリュート歯形についてもこれらを決定することができる。ドレッサとウォームとの接触線、及び、ウォームに施される修整は、ドレッシング中の軸補正に応じて、上記のドレッシングシミュレーションにより同様に決定できる。しかし、ここでは概して、式(24)で表される接触線の経路についてのwF1とzF1との間に非線形関係が発生する。インボリュート歯形については、ここでは、パラメータXF1も導入できる。これは、ウォームの幅に沿って、関数bを介して、接触線の位置を暗黙的に表す。
【0205】
(wF1,zF1)=XF1 ・・・(86)
この式は、式(25)の一般化を表す。ウォームに適用された法線方向の位相修整は、式(1)の一般化により表すことができる。
Fn1(wF1,zF1)=FFn1(b(wF1,zF1))=FFn1(XF1) ・・・(87)
【0206】
F1に対する接触線が、パラメータwF2と関連するwF1において接触パスと交差するように、XF1をワークピース上のパラメータwF2ごとに計算することができる。この関連を利用してウォームの修整FFn1を、ワークピースの修整fFn2から計算することができる。
Fn1(XF1)=-fFn2(wF2) ・・・(88)
【0207】
インボリュートの場合とは対照的に、ここでは、歯直角断面における修整が考慮された。上記両方の関係と接触パスと接触線とが、線形関係では表せなくなったので、上記関連を、一般的には、数値的に計算しなければならない。図4には、異なる3つのXF1についての接触線35~37を示す。インボリュートの場合とは異なり、この接触線は湾曲している。接触パス32もまた、概して、湾曲している。
【0208】
<異なるマクロ形状のためのドレッサ>
1つのドレッサは、常に、1つのウォームの形状に、数学的に正確に整合するのみである。ウォームのマクロ形状、特にネジ山の数及び/又は直径が変化すると、ドレッサは正確に整合しなくなり、ドレッシング中に望ましくない歯形誤差が発生する。プロファイル角のみの誤差は、従来技術に従ってドレッサを内方に回動させることで補正できるが、その他の歯形誤差は補正できない。例えば、インボリュートギヤ歯においては、とりわけドレッサがドレッシング対象のウォームに正確に整合しないときに、歯形クラウニングが発生する。以前は、このような歯形誤差の補正は不可能であり、整合しないドレッサは使用できなかった。しかし、本明細書に記載の方法を用いれば、整合しないドレッサに起因する歯形誤差を補正することができる。この目的のために、所望の歯形修整と、整合しないドレッサに起因する歯形誤差との差異の結果である歯形修整が、本発明の方法を用いて施される。したがって、既存の利用可能なドレッサをより頻繁に使用することが可能となり、新しいドレッサのための投資コスト、及び、ドレッサの引き渡しまでの待ち時間の両方が省かれる。
【0209】
整合しないドレッサ形状の問題は、ドレッシング対象のウォーム用には設計されていないドレッサを使用するときだけではなく、ウォームの直径がドレッシングサイクルごとに小さくなるときにも発生する。多くの場合、ウォームの直径の変化に起因する歯形誤差は、許容差範囲に収まるほどの非常に小さいものである。しかし、研削対象ギヤ歯のモジュールに対するウォーム直径の比が小さ過ぎるとき、及び/又は、ネジ山の数が多過ぎるときは、このようにはならない。例えば、干渉する輪郭が原因で、より大きいウォームを用いた創成研削ができなくなったときには、直径の小さいウォームを使用できる。別の応用例としては、大型のモジュールを有するギヤ歯の研削が挙げられる。利用可能なウォームの直径には上限があるので、モジュールが増大するにつれて、モジュールに対するウォームの直径の比は低下する。また、近年のギヤ製造機が高いテーブル回転速度(table speeds)を実現する能力を考慮すれば、より多くの条数を有するウォームを用いることも可能である。
【0210】
このようなウォームを用いる場合、新品状態のウォーム用に構成されたドレッサは、従来技術の方法によりドレッシングを行うと、小さい直径に対しては歯形欠陥を生じ、インボリュートウォームの場合には、歯形クラウニングを生じるという問題がある。この歯形誤差又はこの歯形クラウニングが、許容誤差を除くウォーム直径未満である場合、与えられたドレッサを用いてウォームをこれ以上ドレッシングすることはできなくなる。これにより、最大有用層厚さ(maximum useful layer thickness)が制限される。従来、このような問題は、異なる直径範囲については異なるドレッサを用いることによってのみ、解決可能であった。しかしながら、上に述べた方法によれば、ドレッサを一個だけ用いることにより、歯形形状をより広い直径範囲で一定に保つことが可能になる。この目的で、ドレッサは、ウォームに整合しないドレッサとなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9