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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】サイクリン依存性キナーゼ基質
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20220414BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20220414BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20220414BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
C07K14/00
C12Q1/48 Z ZNA
G01N33/573 Z
C12N9/12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017100193
(22)【出願日】2017-05-19
(65)【公開番号】P2018193347
(43)【公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-02-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 範子
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 政俊
(72)【発明者】
【氏名】野田 健太
(72)【発明者】
【氏名】西山 直希
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-500710(JP,A)
【文献】The EMBO Journal, (1996), Vol.15, No,24, pp.7060-7069
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 4/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):R1-P(式中:R1はセリン残基又はトレオニン残基を示す。Pはプロリン残基を示す。-は単結合を示す。左側がN末端側を示す。)で表されるアミノ酸配列を含み、且つ下記(a1)及び(b1):
(a1)前記式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であること、及び
(b1)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1番目のアミノ酸残基、2番目のアミノ酸残基、4番目のアミノ酸残基、5番目のアミノ酸残基及び6番目のアミノ酸残基うち少なくとも2つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、
を満たし、且つ構成するアミノ酸残基の数が30以下であるポリペプチドからなる、サイクリン依存性キナーゼ6に対する基質。
【請求項2】
下記(a2):
(a2)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて5番目のアミノ酸残基が塩基性アミノ酸であること、
を満たす、請求項1に記載の基質。
【請求項3】
下記(a3):
(a3)前記式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基が環構造含有アミノ酸残基であること、
を満たす、請求項1又は2に記載の基質。
【請求項4】
前記環構造含有アミノ酸残基がプロリン残基である、請求項3に記載の基質。
【請求項5】
下記(a5):
(a5)前記式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて4番目のアミノ酸残基がアラニン残基であること、
を満たす、請求項1~4のいずれかに記載の基質。
【請求項6】
下記(b2):
(b2)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~3番目のアミノ酸残基の少なくとも1つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、
を満たす、請求項1~5のいずれかに記載の基質。
【請求項7】
下記(b4):
(b4)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1番目のアミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基ではないこと
を満たす、請求項1~のいずれかに記載の基質。
【請求項8】
下記(b5):
(b5)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~5番目のアミノ酸残基の全てのアミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基ではないこと
を満たす、請求項1~のいずれかに記載の基質。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の基質を含有する、組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の基質を含有する、サイクリン依存性キナーゼ6の活性測定用試薬。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の基質を含む、サイクリン依存性キナーゼ6の活性測定用キット。
【請求項12】
下記工程(i)及び(ii):
(i)被検試料と請求項1~のいずれかに記載の基質とを接触させる工程、及び
(ii)前記被検試料中のサイクリン依存性キナーゼ6によって生成された物質の量を測定する工程
を含む、被検試料のサイクリン依存性キナーゼ6の活性を測定する方法。
【請求項13】
前記生成された物質が、修飾された前記基質であり、
前記工程(ii)が、下記工程(iia)及び(iic):
(iia)前記修飾された前記基質と、前記修飾された前記基質に対する結合性分子とを混合し、前記修飾された前記基質と前記結合性分子とを含む複合体を形成させる工程、及び(iic)前記複合体の量を測定することによって、前記修飾された前記基質の量を測定する工程
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(iia)において、前記複合体が、固相担体上に形成される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(iia)において、前記複合体の形成が溶液中で行われ、且つ
前記工程(iia)及び(iic)の間に、(iib)前記複合体が形成された固相担体と、前記溶液とを分離する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ基質に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の生理反応、がん等の疾患等には、細胞の成長、DNAの複製、染色体の分配、細胞の分裂などからなる複数の連続反応(細胞周期)の調節機構が深く関わっている。この細胞周期は、主にリン酸化酵素であるサイクリン依存性キナーゼの活性によって調節される。
【0003】
サイクリン依存性キナーゼの活性は、通常、サイクリンの結合によって活性型となり、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子の結合によって不活性型となる。また、サイクリン依存性キナーゼには、複数種存在することが報告されており、代表的にはサイクリン依存性キナーゼ1、2、4、6等が存在する。これらは、通常、それぞれ、細胞周期における異なる反応を制御している。
【0004】
このため、各種生理反応、疾患等の解析には、サイクリン依存性キナーゼの活性を評価する系の構築が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4828752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、サイクリン依存性キナーゼ4及び6は、乳がんの分子標的とされている。このことから、本発明者は、これらのサイクリン依存性キナーゼの活性を評価することに着目するに至った。
【0007】
特許文献1では、基質としてRB(網膜芽細胞腫)タンパク質を用いて、各キナーゼ毎に、別々のリン酸化部位に対する特異的抗体を用いてリン酸化を検出することにより、サイクリン依存性キナーゼ4や6の活性を評価する方法が報告されている。しかしながら、RBタンパク質は比較的分子量が大きいので、生産コストや安定性等の観点から、その試薬化には困難を伴うと考えられる。
【0008】
一方、分子量の比較的小さい基質ペプチドに関しては、一般的にサイクリン依存性キナーゼのリン酸化標的部位の至適コンセンサス配列は(S/T)PX(K/R)(Xは任意のアミノ酸残基)であることが知られている。しかしながら、このコンセンサス配列を含む市販のサイクリン依存性キナーゼ4/6基質ペプチドは、反応性及び特異性が低い。
【0009】
そこで、本発明では、サイクリン依存性キナーゼに対する反応性高く、且つ/或いはサイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対する特異性がより高い、サイクリン依存性キナーゼ基質、好ましくはより分子量の小さいサイクリン依存性キナーゼ基質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、サイクリン依存性キナーゼのリン酸化サイト(SP又はTP)の中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であること、及び/又は該プロリン残基からC末端側の少なくとも2つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であることを満たすポリペプチドであれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、一態様として下記の態様を包含する:
項A. 式(1):R1-P(式中:R1はセリン残基又はトレオニン残基を示す。Pはプロリン残基を示す。-は単結合を示す。左側がN末端側を示す。)で表されるアミノ酸配列を含み、且つ下記(a1)及び/又は(b1):
(a1)前記式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であること、及び/又は
(b1)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側の少なくとも2つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、
を満たすポリペプチドからなる、サイクリン依存性キナーゼ基質.
項B. 項Aに記載の基質を含有する、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬。
項C. 項Aに記載の基質を含む、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用キット.
項D. 下記工程(i)及び(ii):
(i)被検試料と項Aに記載の基質とを接触させる工程、、及び
(ii)前記被検試料中のサイクリン依存性キナーゼによって生成された物質の量を測定する工程を含む、被検試料のサイクリン依存性キナーゼ活性を測定する方法.
項E. 項Aの基質の、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬の製造のための使用。
項F. サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬としての使用のための、項Aの基質。
項G 項Aの基質の、サイクリン依存性キナーゼ活性測定のための使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイクリン依存性キナーゼに対する反応性高く、且つ/或いはサイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対する特異性がより高い、より分子量の小さいサイクリン依存性キナーゼ基質を提供することができる。また、該基質を用いた、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬、サイクリン依存性キナーゼ活性測定方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本明細書において、「式(1)中のプロリン残基からN末端(又はC末端)側へ向けて数えてN番目のアミノ酸残基」なる表現が表すアミノ酸残基を示す、模式図である。
図2】試験例1のCDK反応性試験の結果を示す。縦軸は、各ポリペプチドのCDKに対する反応性を表す発光強度である。横軸は、反応性の測定に供したCDKとサイクリンとの複合体を示す。
図3】試験例6のCDK反応性試験の結果を示す。縦軸は、各CDKに対する反応性を表す発光強度である。横軸は、反応性測定時のCDK濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0015】
本明細書において、アミノ酸には、天然アミノ酸及び人工アミノ酸のいずれも包含される。
【0016】
本明細書において、各種アミノ酸の「残基」とは、ポリペプチドを構成するアミノ酸の構成単位であり、アミノ酸から、主鎖状のアミノ基については水素原子が除かれ、且つ/或いは主鎖状のカルボキシル基については-OHが除かれてなる基を表す。
【0017】
本明細書において、「式(1)中のプロリン残基からN末端(又はC末端)側へ向けて数えてN番目のアミノ酸残基」とは、図1に例示されるように、式(1)のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、式(1)中のプロリン残基を基点(0番目のアミノ酸)として、N末端(又はC末端)側へ向けて数えてN番目のアミノ酸残基を意味する。その他、同様の表現で示されるアミノ酸残基についても、同様である。
【0018】
本明細書において、サイクリン依存性キナーゼと基質との「反応性」は、サイクリン依存性キナーゼによる基質の修飾の程度を指標として測定することができる。サイクリン依存性キナーゼによる基質の修飾の程度は、例えば試験例1等のようにして測定することができる。
【0019】
本明細書において、サイクリン依存性キナーゼとサイクリンの組み合わせは特に限定されるものではない。
【0020】
1.サイクリン依存性キナーゼ基質
本発明は、その一態様において、式(1):R1-P(式中:R1はセリン残基又はトレオニン残基を示す。Pはプロリン残基を示す。-は単結合を示す。左側がN末端側を示す。)で表されるアミノ酸配列を含み、且つ下記(a1)及び/又は(b1):
(a1)前記式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であること、及び/又は
(b1)前記式(1)中のプロリン残基からC末端側の少なくとも2つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、
を満たすポリペプチドからなる、サイクリン依存性キナーゼ基質(本明細書において、「本発明の基質」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0021】
式(1):R1-Pで表されるアミノ酸配列は、サイクリン依存性キナーゼによるリン酸化対象アミノ酸残基(R1)を含むアミノ酸配列である。R1は、好ましくはセリン残基である。
【0022】
本発明の基質は、サイクリン依存性キナーゼ(特に、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種)に対する反応性がより向上するという観点から、要件(a1)、すなわち式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であること、を満たすことが好ましい。
【0023】
要件(a1)における芳香族アミノ酸残基は、側鎖上に芳香族基を有する(好ましくは側鎖の末端が芳香族基である)アミノ酸残基である限り特に制限されない。芳香族基としては、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化反応を著しく阻害しないものである限り特に制限されず、例えば、環構成炭素原子数6~20、好ましくは6~12、さらに好ましくは6~8のアリール基、具体的にはフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アントラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基等の単環又は多環アリール基や、環構成原子数が3~20、好ましくは3~12、より好ましくは7~11のヘテロアリール基(好ましくはヘテロ原子が窒素原子であるヘテロアリール基)、具体的にはピロリル基、ピリジル基、ピロリジル基、ピペリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピペラジル基、トリアジニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、モルホリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、チオフェニル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾイミダゾリル基、キナゾリル基、フタラジル基、プリニル基、プテリジル基、ベンゾフラニル基、クマリル基、クロモニル基、ベンゾチオフェニル基等の単環又は多環ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0024】
芳香族基として、サイクリン依存性キナーゼ(特に、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種)に対する反応性がより向上するという観点から、好ましくはヘテロアリール基が挙げられ、より好ましくはヘテロ原子が窒素原子であるヘテロアリール基が挙げられ、さらに好ましくはヘテロ原子が1~3個(好ましくは1個)の窒素原子であるヘテロアリール基が挙げられ、よりさらに好ましくはヘテロ原子が1個の窒素原子である環構成原子数7~11のヘテロアリール基が挙げられ、特に好ましくはインドリル基が挙げられる。
【0025】
芳香族アミノ酸残基の好ましい一態様としては、側鎖が式(A):-LA-RA(式中:LAは置換されていてもよいアルキレン基を示す。RAは芳香族基を示す。-は単結合を示す。)で表される基であるアミノ酸残基が挙げられる。
【0026】
LAで示されるアルキレン基は、特に制限されないが、例えば炭素原子数1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1の直鎖状又は分岐鎖状(好ましくは直鎖状)のアルキレン基が挙げられる。該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。
【0027】
LAで示されるアルキレン基は、置換されていてもよい。置換基としては、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化反応を著しく阻害しないものである限り特に制限されず、例えばアミノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、水酸基等が挙げられる。置換基の数は、特に制限されないが、例えば0~3、好ましくは0~1、より好ましくは0である。
【0028】
RAで示される芳香族基は、上述の芳香族基と同様である。
【0029】
芳香族アミノ酸残基の具体例としては、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、ヒスチジン残基、チロキシン残基等が挙げられ、好ましくはトリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基等が挙げられ、より好ましくはトリプトファン残基が挙げられる。
【0030】
本発明の基質は、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対する特異性がより向上するという観点から、要件(b1)、すなわち式(1)中のプロリン残基からC末端側の少なくとも2つ(好ましくは2~5、より好ましくは2~4、さらに好ましくは2~3)のアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、を満たすことが好ましい。
【0031】
「式(1)中のプロリン残基からC末端側の少なくとも2つのアミノ酸残基」とは、換言すれば式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~n番目(nは任意の整数)のアミノ酸残基の少なくとも2つのアミノ酸残基である。
【0032】
要件(b1)における酸性アミノ酸残基は、酸性の側鎖を有する(例えば側鎖状に酸性基を有する、好ましくは側鎖の末端が酸性基である)アミノ酸残基である限り特に制限されない。酸性基としては、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化を著しく阻害しないものである限り特に制限されない。酸性基としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、硫酸基、ヒドロキシフェニル基等が挙げられ、好ましくはカルボキシル基が挙げられる。酸性アミノ酸残基が有する側鎖状の酸性基の数は、特に制限されないが、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、さらに好ましくは2である。
【0033】
酸性アミノ酸残基の好ましい一態様としては、側鎖が式(B):-LB-RB(式中:LBは置換されていてもよいアルキレン基を示す。RBは酸性基を示す。-は単結合を示す。)で表される基であるアミノ酸残基が挙げられる。
【0034】
LBで示されるアルキレン基は、特に制限されないが、例えば炭素原子数1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、よりさらに好ましくは2の直鎖状又は分岐鎖状(好ましくは直鎖状)のアルキレン基が挙げられる。該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。
【0035】
LBで示されるアルキレン基は、置換されていてもよい。置換基としては、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化反応を著しく阻害せず、且つ酸性側鎖の酸性の程度を大きく損なわないものである限り特に制限されず、例えば上述の酸性基、カルバモイル基、水酸基等が挙げられる、好ましくは上述の酸性基が挙げられる。置換基の数は、特に制限されないが、例えば0~3、好ましくは1~2、より好ましくは1である。
【0036】
RBで示される酸性基は、上述の酸性基と同様である。
【0037】
酸性アミノ酸残基は、好ましくは等電点が4以下、より好ましくは2~4のアミノ酸の残基である。
【0038】
酸性アミノ酸残基の具体例としては、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸の側鎖上のアルキレン基が例えば1~3つの、好ましくは1~2つの、より好ましくは1つの)酸性基(好ましくはカルボキシ基)で置換されてなるアミノ酸残基等が挙げられる。
【0039】
本発明の基質は、サイクリン依存性キナーゼ(特に、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種)に対する反応性がより向上するという観点から、要件(a1)及び/又は(b1)に加えて、さらに要件(a2)、(a3)、(a4)、(a5)、(a6)、(a7)、(a8)、(a9)、及び(a10):
(a2)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて5番目のアミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基であること、
(a3)式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基が環構造含有アミノ酸残基であること、
(a4)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて6番目のアミノ酸残基がグリシン残基であること、
(a5)(a5A)式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて4番目のアミノ酸残基がアラニン残基であること、及び(a5B)式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて4番目のアミノ酸残基がメチオニン残基であること、のいずれかを満たすこと、
(a6)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基がプロリン残基であること、
(a7)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基であること、
(a8)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であること、
(a9)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて4番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基であること、及び
(a10)式(1)中のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて5番目のアミノ酸残基がグリシン残基であること、
からなる群より選択される少なくとも1つの要件を満たすことが好ましい。
【0040】
要件(a2)において、塩基性アミノ酸残基は、塩基性の側鎖を有するアミノ酸残基である限り特に制限されない。塩基性の側鎖としては、特に制限されないが、例えばアミノ基、アミンである芳香環から1つの水素原子を除いてなる基等を有する側鎖等が挙げられる。塩基性アミノ酸残基は、例えば等電点が7を超えるアミノ酸の残基、好ましくは等電点が7.5以上のアミノ酸の残基である。塩基性アミノ酸残基の具体例としては、アルギニン残基、リシン残基、ヒスチジン残基等が挙げられ、好ましくはアルギニン残基が挙げられる。
【0041】
要件(a3)における環構造含有アミノ酸残基は、要件(a1)における芳香族アミノ酸残基に加えて、プロリン等の環状アミノ酸残基を含むアミノ酸残基である。要件(a3)における環構造含有アミノ酸残基としては、好ましくは環状アミノ酸残基が挙げられ、より好ましくはプロリン残基が挙げられる。
【0042】
要件(a2)、(a3)、(a4)、(a5)、(a6)、(a7)、(a8)、(a9)、及び(a10)の組み合わせは任意である。本発明の基質の好ましい一態様においては、要件(a3)、(a4)、(a5)(好ましくは(a5A))、(a7)、及び(a10)の5つの要件を含む要件を満たし、より好ましい一態様においては、要件(a3)、(a4)、(a5)(好ましくは(a5A))、(a6)、(a7)、及び(a10)の6つの要件を含む要件を満たす。
【0043】
サイクリン依存性キナーゼ(特に、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種)に対する反応性がより向上するという観点から、要件(a2)、(a3)、(a4)、(a5)、(a6)、(a7)、及び(a8)からなる群より選択される少なくとも1つの要件を満たすことがより好ましく、要件(a2)、(a3)、(a4)、及び(a5)からなる群より選択される少なくとも1つの要件を満たすことがより好ましく、要件(a2)、(a3)、(a4)、及び(a5A)からなる群より選択される少なくとも1つの要件を満たすことがさらに好ましい。
【0044】
本発明の基質は、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対する特異性がより向上するという観点から、要件(a1)及び/又は(b1)に加えて、さらに要件(b2)、(b3)、(b4)、及び(b5):
(b2)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~3番目のアミノ酸残基の少なくとも1つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、
(b3)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~10番目のアミノ酸残基の少なくとも2つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であること、
(b4)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1番目のアミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基ではないこと、及び
(b5)式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~5番目のアミノ酸残基の全てのアミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基ではないこと
からなる群より選択される少なくとも1つの要件を満たすことが好ましい。
【0045】
要件(b2)、(b3)、(b4)、及び(b5)の組み合わせは任意である。本発明の基質の好ましい一態様においては、要件(b2)及び(b3)を含む要件を満たし、より好ましい一態様においては、要件(b2)、(b3)、及び(b4)を含む要件を満たし、さらに好ましい一態様においては、(b2)、(b3)、(b4)、及び(b5)の全てを満たす。
【0046】
要件(b2)、(b3)、(b4)、及び(b5)における酸性アミノ酸残基は、要件(b1)における酸性アミノ酸残基と同様である。
【0047】
要件(b2)において、酸性アミノ酸残基であるのは、好ましくは式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~2番目の少なくとも1つのアミノ酸残基である。また、要件(b2)において、酸性アミノ酸残基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1である。
【0048】
要件(b3)において、酸性アミノ酸残基であるのは、好ましくは式(1)中のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1~8番目(好ましくは1~7番目、より好ましくは1~6番目)のアミノ酸残基の少なくとも2つのアミノ酸残基である。また、要件(b3)において、酸性アミノ酸残基の数は、例えば2~7、好ましくは2~5、より好ましくは2~4、さらに好ましくは2~3である。
【0049】
要件(b4)及び(b5)において、塩基性アミノ酸残基は、塩基性の側鎖を有するアミノ酸残基である限り特に制限されない。塩基性の側鎖としては、特に制限されないが、例えばアミノ基、アミンである芳香環から1つの水素原子を除いてなる基等を有する側鎖等が挙げられる。塩基性アミノ酸残基は、例えば等電点が7を超えるアミノ酸の残基、好ましくは等電点が7.5以上のアミノ酸の残基である。塩基性アミノ酸残基の具体例としては、ヒスチジン残基、リシン残基、アルギニン残基等が挙げられる。
【0050】
要件(b4)及び(b5)において、「塩基性アミノ酸ではない」アミノ酸残基としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン等の非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン等の非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシン等のβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン等の芳香族側鎖を有するアミノ酸残基等が挙げられる。
【0051】
本発明の基質であるポリペプチドを構成するアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば50以下、好ましくは4~40、より好ましくは6~30、さらに好ましくは7~20である。本発明の基質であるポリペプチドの好ましい一態様においては、式(1)で表されるアミノ酸配列のN末端側に少なくとも3つのアミノ酸残基が存在し、且つ/或いは式(1)で表されるアミノ酸配列のC末端側に少なくとも2つのアミノ酸残基が存在する。
【0052】
本発明の基質であるポリペプチドは、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化反応が著しく阻害されない限りにおいて、必要に応じて適当なリンカーを介して、各種タグ(例えばビオチンタグ、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等)が付加されたものも包含する。
【0053】
本発明の基質であるポリペプチドは、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化反応が著しく阻害されない限りにおいて、末端のアミノ酸残基が化学修飾されたものも包含する。
【0054】
本発明の基質であるポリペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)であるもの、等も包含する。
【0055】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0056】
さらに、本発明の基質であるポリペプチドは、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、なども包含する。
【0057】
本発明の基質であるポリペプチドは、サイクリン依存性キナーゼによる本発明の基質のリン酸化反応が著しく阻害されない限りにおいて、末端以外の、式(1)、要件(a1)、及び(b1)~(b4)を構成するアミノ酸残基(好ましくは式(1)、要件(a1)~(a5)、及び(b1)~(b4)を構成するアミノ酸残基、より好ましくは式(1)、要件(a1)~(a8)、及び(b1)~(b4)を構成するアミノ酸残基、さらに好ましくは式(1)、要件(a1)~(a10)、及び(b1)~(b4)を構成するアミノ酸残基)以外のアミノ酸残基が、化学修飾されたものも包含する。この場合の化学修飾としては、例えばカルボキシル基のアミド化、エステル化等; 保護基によるアミノ基の保護等が挙げられる。エステル化、保護基については、上記した末端の化学修飾と同様である。
【0058】
本発明の基質であるポリペプチドは、酸または塩基との塩の形態も包含する。塩は、特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0059】
本発明の基質であるポリペプチドは、溶媒和物の形態も包含する。溶媒は、特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0060】
本発明の基質は、好ましい一態様においては、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対して特異的な反応性を示す。例えば、本発明の基質は、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対する反応性の値が、サイクリン依存性キナーゼ1に対する反応性の値及びサイクリン依存性キナーゼ2に対する反応性の値の平均値の、例えば1.5倍、好ましくは2倍、より好ましくは5倍、さらに好ましくは10倍、よりさらに好ましくは20倍、特に好ましくは50倍である。また、別の例として、本発明の基質は、サイクリン依存性キナーゼ6に対する反応性の値が、サイクリン依存性キナーゼ1に対する反応性の値、サイクリン依存性キナーゼ2に対する反応性の値、及びサイクリン依存性キナーゼ4に対する反応性の値の平均値の、例えば1.5倍、好ましくは2倍、より好ましくは5倍、さらに好ましくは10倍、よりさらに好ましくは20倍、特に好ましくは50倍である。
【0061】
このため、本発明の基質は、好ましい一態様においては、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種の基質として、又はサイクリン依存性キナーゼ6の基質として、特に有用である。
【0062】
2.サイクリン依存性キナーゼ活性の測定方法
本発明は、その一態様において、下記工程(i)及び(ii):(i)被検試料と本発明の基質とを接触させる工程、及び(ii)前記被検試料中のサイクリン依存性キナーゼによって生成された物質の量を測定する工程を含む、被検試料のサイクリン依存性キナーゼ活性を測定する方法(本明細書において、「本発明の測定方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0063】
本発明の測定方法は、全ての工程が、インビトロで行われる方法である。
【0064】
被検試料は、サイクリン依存性キナーゼを含み得る試料である限り特に制限さない。被検試料は、例えば細胞試料又は生物から採取された組織試料(以下、これらを総称して「生物試料」と示す。)の抽出物又はその精製物を採用することができる。
【0065】
生物試料の由来する生物は、サイクリン依存性キナーゼを含み得る生物である限り特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ等の種々の哺乳類動物が挙げられる。これらの中でも、ヒトが好ましい。
【0066】
細胞試料としては、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞(例えば腎臓がん細胞、白血病細胞、食道がん細胞、胃がん細胞、大腸がん細胞、肝臓がん細胞、すい臓がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、皮膚がん細胞、乳がん細胞、子宮頚がん細胞等)等が挙げられ、好ましくは乳がん細胞が挙げられる。
【0067】
組織試料としては、特に制限されず、例えば上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等の試料が挙げられる。
【0068】
生物試料は、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞(例えば腎臓がん細胞、白血病細胞、食道がん細胞、胃がん細胞、大腸がん細胞、肝臓がん細胞、すい臓がん細胞、肺がん細胞、前立腺がん細胞、皮膚がん細胞、乳がん細胞、子宮頚がん細胞等)等を含む。生物試料として、好ましくは乳がん細胞を含む生物試料が挙げられる。
【0069】
生物試料の抽出物は、生物試料中の細胞膜又は核膜破壊物である限り、特に制限されない。細胞膜又は核膜の破壊は、生物試料に対して可溶化処理を施すことによって得られる。可溶化処理は、生物試料に対して、可溶化処理用の緩衝液(以下、「可溶化剤」という)中で超音波処理、ピペットでの吸引攪拌などを施すことなどによって行なうことができる。
【0070】
可溶化剤は、細胞膜又は核膜を破壊する物質を含有する緩衝液である。可溶化剤は、サイクリン依存性キナーゼの変性又は分解を阻害する物質などをさらに含有してもよい。
【0071】
細胞膜又は核膜を破壊する物質としては、例えば、界面活性剤、カオトロピック剤などが挙げられるが、特に限定されない。界面活性剤は、測定対象のキナーゼの活性を阻害しない範囲で用いることができる。界面活性剤としては、例えば、ノニデットP-40(NP-40)、トリトンX-100〔ダウケミカルカンパニー(Dow Chemical Company)の登録商標〕などのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;デオキシコール酸、CHAPSなどが挙げられる。細胞膜又は核膜を破壊する物質は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。可溶化剤における細胞膜又は核膜を破壊する物質の濃度は、通常、0.1~2 w/v%である。
【0072】
サイクリン依存性キナーゼの変性又は分解を阻害する物質としては、例えば、プロテアーゼインヒビターなどが挙げられるが、特に限定されない。プロテアーゼインヒビターとしては、例えば、EDTA、EGTAなどのメタロプロテアーゼインヒビター;PMSF、トリプシンインヒビター、キモトリプシンなどのセリンプロテアーゼインヒビター;ヨードアセトアミド、E-64などのシステインプロテアーゼインヒビターなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのキナーゼの変性又は分解を阻害する物質は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。可溶化剤における前記キナーゼの変性又は分解を阻害する物質の濃度は、通常、EDTA、EGTAおよびPMSFの場合、0.5~10mMである。
【0073】
生物試料の抽出物の精製は、公知の方法に従って、又は準じて行うことができる。例えば、不溶物の除去や、サイクリン依存性キナーゼの濃縮等が挙げられる。サイクリン依存性キナーゼの濃縮方法としては、特に制限されないが、例えばサイクリン依存性キナーゼに対する抗体を用いた免疫沈降法等が挙げられる。
【0074】
被検試料と本発明の基質との接触は、サイクリン依存性キナーゼがその酵素作用によって本発明の基質を修飾し得る条件下である限り特に制限されない。該接触は、通常は、ATP、ATP標識物、ATP誘導体等の修飾基供与体の存在下、緩衝液中で行われる。
【0075】
緩衝液としては、サイクリン依存性キナーゼの活性を発揮できるpH(通常、6~8、好ましくは7~7.8)を維持できる緩衝液が好適に用いられ、例えばHEPES緩衝液、Tris塩酸緩衝液等が用いられる。緩衝液は、必要に応じて、サイクリン依存性キナーゼの活性の発揮に必要な金属イオン、例えばマグネシウムイオン、マンガンイオン等を含有する。
【0076】
ATP標識物としては、特に制限されないが、例えばATPを構成するリン原子を放射性同位元素(例えば32P)に置き換えてなる、放射性同位体ATP標識物が挙げられる。
【0077】
ATP誘導体としては、特に制限されないが、例えば特開2002-335997号公報に開示されるATP-γS(アデノシン-5'-(γ-チオ)-三リン酸塩)、特開2015-192635号公報に開示されるATPのγ位にジニトロフェニル(DNP)基が連結されてなるDNP基連結ATP誘導体等が挙げられる。
【0078】
上記した接触により、被検試料のサイクリン依存性キナーゼの活性に応じて、本発明の基質の式(1)中のR1で示されるアミノ酸残基が、サイクリン依存性キナーゼの酵素作用に基づいて修飾される。修飾の態様は、接触の条件や修飾基供与体によって異なり、例えば修飾基供与体としてATPを用いた場合であれば修飾はリン酸基の付加であり、修飾基供与体として放射性同位体ATP標識物を用いた場合であれば修飾は放射性同位元素標識リン酸基の付加であり、修飾基供与体としてATP-γSを用いた場合であれば修飾はチオリン酸基の付加であり、修飾基供与体としてDNP基連結ATP誘導体を用いた場合であればDNP基連結リン酸基の付加である。
【0079】
本発明の測定方法では、被検試料と本発明の基質との接触により、被検試料中のサイクリン依存性キナーゼによって生成された物質の量を測定することにより、サイクリン依存性キナーゼ活性を測定することができる。換言すれば、上記物質の量の定量値を、サイクリン依存性キナーゼ活性値とすることができる。上記物質としては、例えば、修飾された本発明の基質(=修飾物)、修飾基(例えば、リン酸基、放射性同位元素標識リン酸基、チオリン酸基、DNP基連結リン酸基等)供与体由来の物質(例えば、ADP等)が挙げられ、好ましくは修飾された本発明の基質が挙げられる。
【0080】
前記生成された物質の量の測定は、該物質の種類、修飾の態様等に応じて、公知の方法に従って、又は準じて行うことができる。測定は、例えばリン酸基やDNP基連結リン酸基等が付加されたペプチドに対する特異的結合パートナー(標識物質が付加されたものであってもよい)との反応; チオリン酸基への結合部位(例えばアルキルハライド、マレイミド、アジリジン部位等)を有する標識物質等との反応、各種標識物質に対する特異的結合パートナー(標識物質が付加されたものであってもよい)との反応、酵素作用に基づく発光反応・検出、蛍光検出、放射線検出、クロマトグラフィー、質量分析、電気泳動等を単独で、或いは適宜組み合わせて行うことができる。
【0081】
特異的結合パートナーとしては、例えば抗体が挙げられる。標識物質としては、例えば蛍光物質、酵素、ビオチンなどが挙げられる。蛍光物質としては、例えば、ヨードアセチル-フルオレセインイソチオシアネート、5-(ブロモメチル)フルオレセイン、フルオレセイン-5-マレイミド、5-ヨードアセトアミドフルオレセイン、6-ヨードアセトアミドフルオレセインなどのフルオレセイン誘導体;4-ブロモメチル-7-メトキシクマリンなどのクマリン誘導体;エオシン-5-マレイミド、エオシン-5-ヨードアセトアミドなどのエオシン誘導体;N-(1,10-フェナントロリン-5-イル)ブロモアセトアミドなどのフェナントロリン誘導体;1-ピレンブチリルクロリド、N-(1-ピレンエチル)ヨードアセトアミド、N-(1-ピレンメチル)ヨードアセトアミド、1-ピレンメチルヨードアセテートなどのピレン誘導体;ローダミンレッドC2マレンイミドなどのローダミン誘導体などが挙げられるが、特に限定されない。酵素としては、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0082】
前記生成された物質が、修飾された前記基質である場合、本発明の測定方法の好ましい一態様においては、工程(ii)が、下記工程(iia)及び(iic):
(iia)前記修飾された前記基質と、前記修飾された前記基質に対する結合性分子とを混合し、前記修飾された前記基質と前記結合性分子とを含む複合体を形成させる工程、及び
(iic)前記複合体の量を測定することによって、前記修飾された前記基質の量を測定する工程
を含む。
【0083】
前記結合性分子としては、前記修飾された前記基質に対して特異的に結合可能な分子であれば特に制限されず、修飾の態様に応じて適宜選択することができる。該結合性分子としては、リン酸基やDNP基連結リン酸基等が付加されたペプチドに対する特異的結合パートナー(標識物質が付加されたものであってもよい); チオリン酸基への結合部位(例えばアルキルハライド、マレイミド、アジリジン部位等)を有する標識物質; 各種標識物質に対する特異的結合パートナー(標識物質が付加されたものであってもよい)等が挙げられる。
【0084】
前記修飾された前記基質と前記結合性分子とを含む複合体の形成は、1段階で行ってもよく、2段階以上で行ってもよい。1段階で行う場合、例えば、前記修飾された前記基質と前記結合性分子を混合することにより、前記複合体を形成することができる。2段階で行う場合であれば、例えば、前記修飾された前記基質と前記結合性分子を混合した後、さらに、得られた複合体と、前記結合性分子(ここでは、「結合性分子1」とする。)に対する結合性分子(ここでは、「結合性分子2」)とを混合することにより、前記修飾された前記基質及び前記結合性分子(結合性分子1)に加えてさらに結合性分子2を含む複合体を形成することができる。
【0085】
前記複合体は、固相担体上に形成させることが好ましい。後の工程において、当該複合体の回収を簡便な操作で行なうことができ、当該複合体の検出を効率よく行なうことができるためである。前記固相担体としては、例えば、磁性ビーズ、マイクロプレートなどが挙げられるが、特に限定されない。固相担体として磁性ビーズを用いる場合、当該磁性ビーズとして、例えば、ストレプトアビジン固定磁性ビーズ、ビオチン固定磁性ビーズなどを用いることができる。
【0086】
前記複合体の形成は、溶液中で行なうことができる。前記溶液は、複合体を形成させるのに適した溶液であればよい。前記溶液は、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液などの緩衝液;塩化ナトリウムなどの塩;ウシ血清アルブミン(BSA)などのブロッキング剤などを含有する。前記溶液のpHは、前記DNP基含有基質および抗体の機能を維持する範囲であればよい。前記溶液のpHは、通常、6~8、好ましくは6.5~7.5である。
【0087】
前記複合体の形成を溶液中で行う場合、前記工程(iia)及び(iic)の間に、(iib)前記複合体が形成された固相担体と、前記溶液とを分離する工程を行うことができる。これにより、非特異的な夾雑物質などの混入を抑制し、複合体の検出精度を向上させることができる。前記固相担体と前記溶液との分離は、例えば、固相担体として磁性ビーズを用いる場合、磁石で前記磁性ビーズを集めることによって、前記複合体が形成された固相担体と前記溶液とを分離することができる。また、前記固相担体と前記溶液との分離は遠心分離などによって行なってもよい。さらに、非特異的な夾雑物質などの混入を抑制し、複合体の検出精度を向上させる観点から、必要に応じ、前記複合体が形成された固相担体を固相担体洗浄用の洗浄液で洗浄してもよい。
【0088】
前記複合体の量の測定は、前記複合体が標識物質を含む場合、前記複合体中の標識物質を検出することによって行うことができる。具体的には、前記標識物質が蛍光物質である場合、当該蛍光物質に応じた励起光を照射することによってシグナルとしての蛍光を生じさせる。この蛍光の量(強度)を測定することによって、前記複合体の量を測定することができる。この場合、既知量の前記複合体と蛍光の量(強度)とから作成された検量線を用い、蛍光の量(強度)の測定値から前記複合体の量を算出する。算出された前記複合体の量は、前記修飾された前記基質の量を反映しているので、該量を、被検試料中のサイクリン依存性キナーゼの活性値として得ることができる。
【0089】
また、前記標識物質が酵素である場合、前記酵素を当該酵素との反応によって発光が生じる酵素基質に作用させることによって発光を生じさせる。この発光の量(強度)を検出することによって、前記複合体の量を測定することができる。この場合、既知量の前記複合体と発光の量(強度)とから作成された検量線を用い、発光の量(強度)の測定値から前記複合体の量を算出する。算出された前記複合体の量は、前記修飾された前記基質の量を反映しているので、該量を、被検試料中のサイクリン依存性キナーゼの活性値として得ることができる。
【0090】
本発明の基質は、好ましい一態様においては、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対して特異的な反応性を示す。例えば、サイクリン依存性キナーゼ1、2、4及び6全てに対して比較的高い反応性を示すことは特異的ではなく、サイクリン依存性キナーゼ4及び6に対する反応性がサイクリン依存性キナーゼに対する反応性よりも高いことは特異的であるといえ、サイクリン依存性キナーゼ4に対する反応性がサイクリン依存性キナーゼに対する反応性よりも高いことは特異的であるといえ、サイクリン依存性キナーゼ6に対する反応性がサイクリン依存性キナーゼに対する反応性よりも高いことは特異的であるといえる。
【0091】
このため、本発明の測定方法は、好ましい一態様においては、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種の活性の測定方法として、又はサイクリン依存性キナーゼ6の活性の測定方法として、特に有用である。
【0092】
3.サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬、キット
本発明は、その一態様において、本発明の基質を含有する、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用試薬(本明細書において、「本発明の試薬」と示すこともある。)、及び本発明の基質を含む、サイクリン依存性キナーゼ活性測定用キット(本明細書において、「本発明のキット」を示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0093】
本発明の試薬は、本発明の基質からなるものであってもよいし、その他の成分を含むものであってもよい。その他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0094】
本発明の試薬における本発明の基質の含有量は、特に制限されないが、例えば0.0001~100質量%とすることができる。
【0095】
本発明のキットは、本発明の基質若しくは本発明の試薬のみからなるものであってもよいし、又は必要に応じてこれに加えて、本発明の測定方法の実施に用いられ得る器具、試薬などが含まれていてもよい。
【0096】
器具としては、例えば試験管、マイクロタイタープレート、アガロース粒子、ラテックス粒子、精製用カラム、エポキシコーティングスライドガラス、金コロイドコーティングスライドガラスなどが挙げられる。本発明のキットにおいて、本発明の基質は、マイクロタイタープレート上に固定された状態であってもよい。
【0097】
試薬としては、例えばATP、ATP標識物、ATP誘導体、緩衝液、リン酸基やDNP基連結リン酸基等が付加されたペプチドに対する抗体、チオリン酸基への結合部位を有する物質(例えば蛍光物質、ビオチン、酵素等)、各種物質(例えば蛍光物質、ビオチン、酵素等)に対する抗体、各種酵素の発光検出試薬、サイクリン依存性キナーゼ活性を有する陽性対照試料、サイクリン依存性キナーゼ活性を有しない陰性対照試料等が挙げられる。
【0098】
本発明の基質は、好ましい一態様においては、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種に対して特異的な反応性を示す。例えば、サイクリン依存性キナーゼ1、2、4及び6全てに対して比較的高い反応性を示すことは特異的ではなく、サイクリン依存性キナーゼ4及び6に対する反応性がサイクリン依存性キナーゼに対する反応性よりも高いことは特異的であるといえ、サイクリン依存性キナーゼ4に対する反応性がサイクリン依存性キナーゼに対する反応性よりも高いことは特異的であるといえ、サイクリン依存性キナーゼ6に対する反応性がサイクリン依存性キナーゼに対する反応性よりも高いことは特異的であるといえる。
【0099】
このため、本発明の試薬及び本発明のキットは、好ましい一態様においては、サイクリン依存性キナーゼ4及びサイクリン依存性キナーゼ6からなる群より選択される少なくとも1種の活性の測定試薬及びキットとして、又はサイクリン依存性キナーゼ6の活性の測定試薬及びキットとして、特に有用である。
【実施例
【0100】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0101】
特に断りのない限り、各種溶液の溶媒は水である。反応液のインキュベーションや洗浄などに用いた恒温振盪器は、アズワン社製のSHAKING INCUBATOR SI-300である。アミノ酸配列は一文字表記で示す。
【0102】
各略号の意味は次のとおりである。CDK:サイクリン依存性キナーゼ、BSA:ウシ血清アルブミン、HEPES:4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸、NaOH:水酸化ナトリウム、ATP-γS:アデノシン-5'-(γ-チオ)-三リン酸塩、FITC:フルオレセインイソチオシアネート、EDTA:エチレンジアミン四酢酸、DTT:ジチオトレイトール、St-Av:ストレプトアビジン、TBS-T:Tween 20(登録商標)添加トリス緩衝生理食塩水、ALP:アルカリホスファターゼ、HRP:ホースラディッシュペルオキシダーゼ。
【0103】
製造例1.ポリペプチドの調製1
CDKの生体内基質であるRbタンパク質の部分ペプチド(比較ポリペプチド1)、CDK4及びCDK6に対して比較ポリペプチド1よりも高い反応性を示すポリペプチド(比較ポリペプチド2)、及びポリペプチド1を、Genscript社に委託して合成した。これらのポリペプチドのアミノ酸配列を表1に示す。なお、これらのポリペプチドは、N末端のアミノ酸残基が、リンカー(アミノヘキサン)を介してビオチン修飾されたものである。
【0104】
【表1】
【0105】
試験例1.CDK反応性試験1
CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6に対する、製造例1で得られたポリペプチドの反応性を調べた。具体的には以下のようにして行った。
【0106】
チューブ内で、CDK1/cyclin A2、CDK2/cyclin E1、CDK4/cyclin D3、又はCDK6/cyclin D3(いずれもSignalChem社製)を含むCDK溶液(組成:10μg/mL CDK/cyclin複合体、1% BSA、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5))15μLと、基質ペプチドとしてポリペプチド1、比較ポリペプチド1、又は比較ポリペプチド2を含むキナーゼ反応液(組成:4μg/mL 基質ペプチド、50 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.4)、15 mM MgCl2、2 mM ATP-γS)15μLとを混合し、該チューブを、恒温振盪器を用いて900 rpmで撹拌しながら、37℃で1時間インキュベーションした。チューブに蛍光標識試薬(組成:180 μg/ml 5-(ヨードアセトアミド)-FITC、50mM EDTA、300mM MOPS-NaOH, pH 7.4)21.4μLを添加して、5回ピペッティングした後、チューブを遮光し、恒温振盪器を用いて400 rpmで撹拌しながら、37℃で10分間インキュベーションした。チューブに蛍光標識反応停止液(組成:30 mM N-アセチル-L-システイン、2M MOPS-NaOH, pH7.4)100μLを添加して、5回ピペッティングした。チューブに、HISCL HBsAg R2試薬(シスメックス社製)30μL(磁性St-Abビーズを0.15μg含む)を添加した後、チューブを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10分間インキュベーションした。磁石を用いてチューブ内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、TBS-Tを添加して、1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10秒間、ビーズを洗浄した。この洗浄工程を計3回行った。チューブに、ALP標識抗FITC抗体溶液(組成:0.2~1μg/mL ALP標識抗FITC抗体(Jackson ImmunoResearch社製)、100mM MES, 150mM NaCl, 1% BSA, pH6.5)100μLを添加した後、チューブを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10分間インキュベーションした。磁石を用いてチューブ内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、TBS-Tを添加して、1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10秒間、ビーズを洗浄した。この洗浄工程を計3回行った。チューブに、Trisを含む緩衝液(シスメックス社製、HISCL R4試薬)50μLを添加して、恒温振盪器を用いて、37℃で10秒間、2000 rpmで撹拌した。チューブに、ALP発光基質(ジナトリウム2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート)を含む緩衝液(シスメックス社製、HISCL R5試薬)100μLを添加した後、チューブを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で4分間インキュベーションした。磁石を用いてチューブ内のビーズを沈殿させた後、上清を黒色プレートに移した。発光をルミノメーターで検出し、発光強度を測定した。
【0107】
発光強度の測定結果を図2及び表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
さらに、発光強度の相対値を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
図2、表2及び表3に示されるように、CDK4に対するポリペプチド1の反応性は、比較ポリペプチド2の反応性の約18倍も高く、またCDK6に対するポリペプチド1の反応性は、比較ポリペプチド2の反応性の約7倍も高いことが分かった。
【0112】
製造例2.ポリペプチドの調製2
CDK4及びCDK6に対するポリペプチド1の反応性に重要なアミノ酸を調べるために、ポリペプチド1の各アミノ酸残基を別のアミノ酸残基に変異させた変異体(ポリペプチド2~13)を、ユーロフィンジェノミクス社に委託して合成した。これらのポリペプチド及びポリペプチド1のアミノ酸配列を表4に示す(表4中、太字下線のアミノ酸残基はポリペプチド1から変異しているアミノ酸残基を示す。)。なお、これらのポリペプチドは、N末端のアミノ酸残基が、リンカー(アミノヘキサン)を介してビオチン修飾されたものである。
【0113】
【表4】
【0114】
試験例2.CDK反応性試験2
CDKとしてCDK4又はCDK6を用い、且つ基質ペプチドとして製造例2で得られたポリペプチド(ポリペプチド2~13)又は比較ポリペプチド2を用いる以外は、試験例1と同様にして行った。下記V1~V4:
V1:比較ポリペプチド2及びCDK4を用いた場合の発光強度、
V2:ポリペプチド2~17及びA~Eのいずれか及びCDK4を用いた場合の発光強度、
V3:比較ポリペプチド2及びCDK6を用いた場合の発光強度、及び
V4:ポリペプチド2~17及びA~Eのいずれか及びCDK6を用いた場合の発光強度
を測定して、式([(V2/V1)+(V4/V3)]/2)に基づいて、CDK4/6反応性を算出した。CDK4/6反応性は比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性を1とした場合の相対値である。結果を表5(表5中、太字下線のアミノ酸残基はポリペプチド1から変異しているアミノ酸残基を示す。)に示す。表5には、試験例1の結果に基づいて算出された同平均値も載せた。
【0115】
【表5】
【0116】
ポリペプチド1とポリペプチド6、15、16、及び17との比較結果から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基をアラニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、又はチロシン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の1倍にまで低下した。このことから、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基は、CDK4及びCDK6に対する高反応性に重要であることが分かった。
【0117】
ポリペプチド1とポリペプチド5、13、及び14との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の1倍にまで低下する一方、フェニルアラニン残基又はチロシン残基に置換しても、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の5倍にまでしか低下しなかった。このことから、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であることが、CDK4及びCDK6に対する高反応性に重要であることが分かった。また、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基としては、芳香族アミノ酸残基の中でも、トリプトファン残基が好ましいことが分かった。
【0118】
ポリペプチド1とポリペプチド11及びポリペプチドA~Bとの比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて5番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の3倍にまで低下する一方、H、Kに置換しても、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の5~7倍にまでしか低下しなかった。このことから、CDK4及びCDK6に対するCDK4/6反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて5番目のアミノ酸残基が塩基性アミノ酸残基であることが、好ましいことが分かった。また、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて5番目のアミノ酸残基としては、塩基性アミノ酸残基の中でも、アルギニン残基がより好ましいことが分かった。
【0119】
ポリペプチド1とポリペプチド4との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の5倍にまで低下した。また、ポリペプチド4とポリペプチドC~Eとの比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換した場合と、トリプトファン残基に置換した場合と、フェニルアラニン残基に置換した場合と、チロシン残基に置換した場合とで、同程度CDK4/6反応性が低下した。このことから、CDK4及びCDK6に対する反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基がプロリン残基であることが、好ましいことが分かった。
【0120】
ポリペプチド1とポリペプチド12との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて6番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の6倍にまで低下した。このことから、CDK4及びCDK6に対する反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて6番目のアミノ酸残基がグリシン残基であることが、好ましいことが分かった。
【0121】
ポリペプチド1とポリペプチド3との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて4番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の33倍にまで向上した。このことから、CDK4及びCDK6に対する反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からN末端側へ向けて数えて4番目のアミノ酸残基がアラニン残基であることが、好ましいことが分かった。
【0122】
ポリペプチド1とポリペプチド8との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の7倍にまで低下した。このことから、CDK4及びCDK6に対する反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて2番目のアミノ酸残基がプロリン残基であることが、好ましいことが分かった。
【0123】
ポリペプチド1とポリペプチド9との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の7倍にまで低下した。このことから、CDK4及びCDK6に対する反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて3番目のアミノ酸残基がトリプトファン残基であることが、好ましいことが分かった。
【0124】
ポリペプチド1とポリペプチド7との比較結果から、ポリペプチド1のリン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1番目のアミノ酸残基をアラニン残基に置換すると、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の13倍だったポリペプチド1のCDK4/6反応性が、比較ポリペプチド2のCDK4/6反応性の8倍にまで低下した。このことから、CDK4及びCDK6に対する反応性をより向上させる観点から、リン酸化サイト配列(SP)のプロリン残基からC末端側へ向けて数えて1番目のアミノ酸残基がアスパラギン残基であることが、好ましいことが分かった。
【0125】
製造例3.ポリペプチドの調製3
CDK4及びCDK6の基質として知られているポリペプチド(比較ポリペプチド2)、CDKの生体内基質であるRbタンパク質におけるCDK4リン酸化サイト及びCDK6リン酸化サイトを含む部位のポリペプチド(比較ポリペプチド3)、及び比較ポリペプチド3においてCDK4リン酸化サイトのアミノ酸残基をアラニン残基に置換してなるポリペプチド(比較ポリペプチド4)を、Genscript社合成サービスで合成した。これらのポリペプチドのアミノ酸配列を表6に示す。なお、これらのポリペプチドは、N末端のアミノ酸残基が、リンカー(アミノヘキサン)を介してビオチン修飾されたものである。また、比較ポリペプチド3及び4は、C末端のアミノ酸残基のカルボキシル基がアミド化して(即ち、末端の-COOHが-CO-NH2になって)いる。
【0126】
【表6】
【0127】
試験例3.CDK反応性試験3
CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6に対する、製造例3で得られたポリペプチドの反応性を調べた。具体的には以下のようにして行った。
【0128】
親水性フィルタープレートのウェル内で、CDK1/cyclin A2、CDK2/cyclin E1、CDK4/cyclin D3、又はCDK6/cyclin D3(いずれもSignalChem社製)を含むCDK溶液(組成:10μg/mL CDK/cyclin複合体、1% BSA、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5))30μLと、基質ペプチドとして比較ポリペプチド2~4のいずれかを含むキナーゼ反応液(組成:4μg/mL 基質ペプチド、50 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.4)、15 mM MgCl2、2 mM ATP-γS)30μLとを混合し、該プレートを、恒温振盪器を用いて900 rpmで撹拌しながら、37℃で1時間インキュベーションした。反応液を遠心分離(4℃、2000 rpm、5分間)により回収し、反応液28.6μLをPCRプレートの各ウェルに分注した。ウェルに、蛍光標識試薬(組成:180 μg/ml 5-(ヨードアセトアミド)-FITC, 50mM EDTA, 300mM MOPS-NaOH, pH 7.4)21.4μLを添加して、5回ピペッティングした後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて400 rpmで撹拌しながら、37℃で10分間インキュベーションした。ウェルに蛍光標識反応停止液(組成:30 mM N-アセチル-L-システイン,2M MOPS-NaOH, pH7.4)100μLを添加して、5回ピペッティングした。ウェルに、HISCL HBsAg R2試薬(シスメックス社製)30μL(磁性St-Abビーズを0.15μg含む)を添加した後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、HISCL洗浄液(シスメックス社製)180μLを添加して、1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10秒間、ビーズを洗浄した。この洗浄工程を計3回行った。ウェルに、HRP標識抗FITC抗体(Acris社製)の希釈用溶液(組成:100mM MES, 150mM NaCl, 1% BSA, pH6.5)による希釈液(4μg/mL HRP標識抗FITC抗体)100μLを添加した後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、HISCL洗浄液(シスメックス社製)を添加して、1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10秒間、ビーズを洗浄した。この洗浄工程を計3回行った。ウェルに、ELISA Femto試薬(Thermo Scientific社製)150μLを添加した後、プレートを遮光して、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で4分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させた後、上清を黒色プレートに移した。発光を発光プレートリーダーで検出し、発光強度を測定した。各ポリペプチドについて、CDK6を用いた場合の発光強度を100%とした場合の、他のCDKを用いた場合の発光強度の相対値を算出した。結果を表7に示す。
【0129】
【表7】
【0130】
表7に示されるように、比較ポリペプチド2~4のいずれも、CDK4又はCDK6への特異性は無かった。
【0131】
製造例4.ポリペプチドの調製4
CDK4及びCDK6の基質として知られているポリペプチド(比較ポリペプチド2)、その他の比較ポリペプチド(比較ポリペプチド5~7)と、これらの比較ポリペプチドのリン酸化サイト(SP又はTP)のプロリン残基からC末端側の2つのアミノ酸残基を酸性アミノ酸残基に置換してなるポリペプチド(ポリペプチド18~26)を、ユーロフィンジェネティクス社合成サービスで合成した。これらのポリペプチドのアミノ酸配列を表8(表8中、太字下線のアミノ酸残基は、対応の比較ポリペプチドから変異しているアミノ酸残基を示し、Xはγ-カルボキシグルタミン酸を示す。)に示す。なお、これらのポリペプチドは、N末端のアミノ酸残基が、リンカー(アミノヘキサン)を介してビオチン修飾されたものである。
【0132】
【表8】
【0133】
試験例4.CDK反応性試験4
CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6に対する、製造例4で得られたポリペプチドの反応性を調べた。具体的には以下のようにして行った。
【0134】
PCRプレートのウェル内で、CDK1/cyclin A2、CDK2/cyclin E1、CDK4/cyclin D3、又はCDK6/cyclin D3(いずれもSignalChem社製)を含むCDK溶液(組成:10μg/mL CDK/cyclin複合体、1% BSA、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5))15μLと、基質ペプチドとして比較ポリペプチド5~7及びポリペプチド18~26のいずれかを含むキナーゼ反応液(組成:4μg/mL 基質ペプチド、50 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.4)、15 mM MgCl2、2 mM ATP-γS )15μLとを混合し、該プレートを、恒温振盪器を用いて900 rpmで撹拌しながら、37℃で1時間インキュベーションした。ウェルに、蛍光標識試薬(組成:180 μg/ml 5-(ヨードアセトアミド)-FITC, 50mM EDTA, 300mM MOPS-NaOH, pH 7.4)21μLを添加して、5回ピペッティングした後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて400 rpmで撹拌しながら、37℃で10分間インキュベーションした。ウェルに蛍光標識反応停止液(組成:30 mM N-アセチル-L-システイン, 2M MOPS-NaOH, pH7.4)100μLを添加して、5回ピペッティングした。ウェルに、HISCL HBsAg R2試薬(シスメックス社製)30μL(磁性St-Abビーズを0.15μg含む)を添加した後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、HISCL洗浄液(シスメックス社製)180μLを添加して、1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10秒間、ビーズを洗浄した。この洗浄工程を計3回行った。ウェルに、ALP標識抗FITC抗体(Jackson Immuno Research社製)の希釈用溶液(組成:100mM MES, 150mM NaCl, 1% BSA, pH6.5)による希釈液(1μg/mL ALP標識抗FITC抗体)100μLを添加した後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、HISCL洗浄液(シスメックス社製)を添加して、1600 rpmで撹拌しながら、37℃で約10秒間、ビーズを洗浄した。この洗浄工程を計3回行った。ウェルに、Trisを含む緩衝液(シスメックス社製、HISCL R4試薬)50μLを添加して、恒温振盪器を用いて、37℃で10秒間、2000 rpmで撹拌した。ウェルに、ALP発光基質(ジナトリウム2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート)を含む緩衝液(シスメックス社製、HISCL R5試薬)100μLを添加した後、プレートを遮光し、恒温振盪器を用いて1600 rpmで撹拌しながら、37℃で4分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させた後、上清100μLを黒色プレートに移した。発光を発光プレートリーダーで検出し、発光強度を測定した。各ポリペプチドについて、CDK6を用いた場合の発光強度を100%とした場合の、他のCDKを用いた場合の発光強度の相対値を算出した。結果を表9(表9中、太字下線のアミノ酸残基は、対応の比較ポリペプチドから変異しているアミノ酸残基を示し、Xはγ-カルボキシグルタミン酸を示す。)に示す。
【0135】
【表9】
【0136】
表9に示されるように、リン酸化サイト(SP又はTP)のプロリン残基からC末端側の少なくとも2つのアミノ酸残基が酸性アミノ酸残基であることが、CDK4及びCDK6に対する特異性、特にCDK6に対する特異性に重要であることが分かった。
【0137】
製造例5.ポリペプチドの調製5
試験例2においてCDK4及びCDK6に対する反応性が高いことが分かったポリペプチド(ポリペプチド3)に対して、試験例4で明らかとなったCDK4及びCDK6に対する特異性、特にCDK6に対する特異性に重要な変異(リン酸化サイト(SP又はTP)のプロリン残基からC末端側の少なくとも2つのアミノ酸残基の、酸性アミノ酸残基への変異)が導入されたポリペプチド(ポリペプチド27及び28)を、ユーロフィンジェノミクス社に委託して合成した。これらのポリペプチドのアミノ酸配列を表10(表10中、太字下線のアミノ酸残基は、ポリペプチド3から変異しているアミノ酸残基を示す。)に示す。なお、これらのポリペプチドは、N末端のアミノ酸残基が、リンカー(アミノヘキサン)を介してビオチン修飾されたものである。
【0138】
【表10】
【0139】
試験例5.CDK反応性試験5
CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6に対する、製造例5で得られたポリペプチドの反応性を、試験例4と同様にして調べた。各CDKに対する反応性は、ポリペプチド3を用いた場合の反応性を100%とする、相対値として算出した。結果を表11に示す。
【0140】
【表11】
【0141】
表11に示されるように、ポリペプチド3に対して、試験例4で明らかとなったCDK4及びCDK6に対する特異性、特にCDK6に対する特異性に重要な変異を導入することによって、CDK1及びCDK2に対する反応性がより低下し、結果としてCDK4及びCDK6に対する特異性が向上することが分かった。
【0142】
試験例6.CDK反応性試験6
CDK1、CDK2、CDK4及びCDK6に対する、製造例5で得られたポリペプチド(ポリペプチド28)の反応性を、自動免疫測定装置(シスメックス社製、HISCL-800)を用いて調べた。具体的には以下のようにして行った。
【0143】
プレートのウェル中で、CDK1/cyclin A2、CDK2/cyclin E1、CDK4/cyclin D3、又はCDK6/cyclin D3(いずれもSignalChem社製)を含むCDK溶液(組成:0.01~10μg/mL CDK/cyclin複合体、1% BSA、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5))30μLと、基質ペプチドとしてポリペプチド28を含むキナーゼ反応液(組成:4μg/mL 基質ペプチド、50 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.4)、15 mM MgCl2、16 mM ATP)30μLとを混合し、42℃で3分間インキュベーションした。ウェルに、HISCL HBsAg R2試薬(シスメックス社製)30μL(磁性St-Abビーズを0.15μg含む)を添加して、42℃で2分間インキュベーションした。磁石を用いてウェル内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、HISCL洗浄液(シスメックス社製)を添加して、数回、振盪洗浄した。ウェルに、検出用抗体溶液(組成:0.1μg/mL ポリクローナル抗リン酸化抗体(abcam社製)、0.3μg/mL ALP標識ポリクローナル抗ウサギ抗体(Dako社製)、100mM MES, 150mM NaCl, 1% BSA, pH6.5)100μLを添加して、42℃で3分間インキュベーションした。磁石を用いてチューブ内のビーズを沈殿させて上清を除去した後、HISCL洗浄液(シスメックス社製)を添加して、数回、振盪洗浄した。ウェルに、Trisを含む緩衝液(シスメックス社製、HISCL R4試薬)50μLを添加して、撹拌した。ウェルに、ALP発光基質(ジナトリウム2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート)を含む緩衝液(シスメックス社製、HISCL R5試薬)100μLを添加して、42℃で5分間インキュベーションした。発光をルミノメーターで検出し、発光強度を測定した。結果を図3に示す。
【0144】
図3に示されるように、本試験系において、ポリペプチド28は、CDK6を特異的に検出できる基質であることが分かった。
図1
図2
図3
【配列表】
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