(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】静止誘導機器および静止誘導機器の故障監視システム
(51)【国際特許分類】
H01F 41/00 20060101AFI20220414BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20220414BHJP
H01F 30/12 20060101ALI20220414BHJP
H02H 7/04 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
H01F41/00 D
H01F30/10 K
H01F30/12 K
H02H7/04 E
(21)【出願番号】P 2017117982
(22)【出願日】2017-06-15
【審査請求日】2020-02-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 千絵
(72)【発明者】
【氏名】中ノ上 賢治
(72)【発明者】
【氏名】平野 雄大
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-72481(JP,A)
【文献】特開平11-40429(JP,A)
【文献】特開昭61-289975(JP,A)
【文献】特開平1-157219(JP,A)
【文献】特開2004-37147(JP,A)
【文献】特開昭56-58624(JP,A)
【文献】特開昭61-167884(JP,A)
【文献】特開平9-251918(JP,A)
【文献】特開平10-41146(JP,A)
【文献】特開2002-343647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/00
H01F 30/10
H01F 30/12
H02H 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、該鉄心に巻回された巻線を備える静止誘導機器であって、
前記鉄心は、複数枚の薄帯状磁性材料を積層して略環状に成形した2つの隣接する内側巻鉄心と、該2つの内側巻鉄心の外周に備えられた1つの外側巻鉄心からなる三相三脚型巻鉄心であり、
前記三相三脚型巻鉄心の中央の磁脚の上下端に形成された、2つの内側巻鉄心と1つの外側巻鉄心の間隙部の、内側巻鉄心の表面に、絶縁体の外周に細線を巻回して構成されるコイルからなる磁界検出手段を、前記コイルの巻回軸が、前記鉄心の表面に対して略垂直方向となるように配置し、
前記磁界検出手段は、前記鉄心の磁束密度に応じた磁界を検出することを特徴とする静止誘導機器。
【請求項2】
請求項
1に記載の静止誘導機器と、
前記鉄心に配置した磁界検出手段を鎖交する磁界の大きさに応じて出力される電圧の振幅が一定値以上の場合に判定信号を出力する第1の判定手段と、
を備える静止誘導機器の故障監視システム。
【請求項3】
請求項
2に記載の静止誘導機器の故障監視システムにおいて、更に、
前記磁界検出手段を鎖交する磁界の大きさに応じて出力される電圧の正負の振幅の差の絶対値が一定値以上の場合に判定信号を出力する第2の判定手段を設けたことを特徴とする静止誘導機器の故障監視システム。
【請求項4】
請求項
2に記載の静止誘導機器の故障監視システムにおいて、更に、
前記静止誘導機器の低圧側巻線に接続されるバスバーの表面から一定の距離に第2の磁界検出手段を配置し、
前記第2の磁界検出手段を鎖交する磁界の大きさに応じて出力される電圧が一定値以上の場合に判定信号を出力する第3の判定手段を設けたことを特徴とする静止誘導機器の故障監視システム。
【請求項5】
請求項
2に記載の静止誘導機器の故障監視システムにおいて、
前記判定信号に基づいて、異常が発生したと判断された際に、警報信号を発する、または、
静止誘導機器のタップ切り替え信号を出力し、前記巻線に備えられたタップ端子を切り替え、低負荷率の条件で稼働する、または、
静止誘導機器の遮断信号を出力し、前記巻線の接続を遮断し、静止誘導機器の稼働を停止する、
ことを特徴とする静止誘導機器の故障監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器、リアクトル等の静止誘導機器の過電圧、過電流運転状態を事前に監視し、故障の発生を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
配電用変圧器等の静止誘導機器は、珪素鋼板、アモルファス合金、ナノ結晶合金等の軟磁性材料により構成された鉄心に高圧側と低圧側の2系統の巻線が巻回されている。高圧側巻線に印加される電圧が設計値以下の場合、鉄心に発生する磁束密度が、その材質の許容値(飽和磁束密度)を超えないように設計される。しかし、変圧器に印加される電圧に変動が生じて設計値を超えた場合、変圧器の鉄心内の磁束密度が飽和磁束密度を超え、磁束が鉄心の外に漏洩する。漏洩した磁界が鉄心自体や変圧器を構成する周辺部品を鎖交すると渦電流が流れてジュール熱が発生し、過熱して故障に至ることがある。
【0003】
また、設計値を超えなくても電圧の振幅が正負で非対称となる等の異常が発生すると、鉄心の磁束密度振幅が非対称となる偏磁現象が発生し、想定を超える大きな損失が生じて鉄心が過熱し、やはり故障に至ることがある。なお、鉄心に1系統の巻線が巻回されたリアクトル素子においても、全く同様の機構により故障が発生することがある。
【0004】
そこで、静止誘導機器に印加される電圧値を直接監視する方法に加えて、巻線を流れる電流により生じる漏洩磁界を検出する手段を付加し、上記の原因により発生する故障を未然に防ぐための技術が開示されている。例えば特許文献1には、巻線の内部に磁気光学効果の一種であるファラデー効果を利用する素子を複数備え、巻線に印加される電圧による電界の影響を受けずに磁界を検出し、静止誘導機器の運転状態を監視する技術が開示されている。また、特許文献2には、変圧器等の周辺に小形コイルやホール素子等の磁界検出手段を設けて巻線から漏洩する磁界を検出し、印加される電圧値と周波数の比率の監視と合わせることで、より精度よく運転状態を監視する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-307677号公報
【文献】特開2004-350353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や2により開示されている技術において、静止誘導機器に追加する磁界検出手段は、いずれも主に巻線を流れる電流により生じる漏洩磁界を検出するものであり、鉄心内の磁束密度の振幅や波形の異常を直接検出することが難しいという課題がある。
【0007】
本発明は、静止誘導機器の鉄心内の磁束密度の振幅や波形の異常を直接検出することができる故障監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、本発明の「静止誘導機器」の一例を挙げるならば、鉄心と、該鉄心に巻回された巻線を備える静止誘導機器であって、前記鉄心は、複数枚の薄帯状磁性材料を積層して略環状に成形した2つの隣接する内側巻鉄心と、該2つの内側巻鉄心の外周に備えられた1つの外側巻鉄心からなる三相三脚型巻鉄心であり、前記三相三脚型巻鉄心の中央の磁脚の上下端に形成された、2つの内側巻鉄心と1つの外側巻鉄心の間隙部の、内側巻鉄心の表面に、絶縁体の外周に細線を巻回して構成されるコイルからなる磁界検出手段を、前記コイルの巻回軸が、前記鉄心の表面に対して略垂直方向となるように配置し、前記磁界検出手段は、前記鉄心の磁束密度に応じた磁界を検出するものである。
【0009】
また、本発明の「静止誘導機器の故障監視システム」の一例を挙げるならば、上記の静止誘導機器と、前記鉄心に配置した磁界検出手段を鎖交する磁界の大きさに応じて出力される電圧の振幅が一定値以上の場合に判定信号を出力する第1の判定手段と、を備えるものである。
【0011】
なお、本発明において、「静止誘導機器」とは、閉磁路鉄心の周囲に1つ以上の巻線が巻回された機器である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、静止誘導機器に印加される電圧の振幅、または波形の異常により生じる、鉄心内の磁束密度の振幅や波形の異常を直接検出することが可能となり、より簡便な構成でその運転状態を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施例を示す、三相三脚型静止誘導機器の縦断面図と故障監視システムを示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施例に用いられる、磁界検出手段の構造図である。
【
図3】本発明の第1の実施例における、磁界検出手段の鉄心への配置状態を示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施例を示す、三相三脚型静止誘導機器の縦断面図と故障監視システムの構成図である。
【
図5】本発明の第3の実施例を示す、単相静止誘導機器の縦断面図と故障監視システムの構成図である。
【
図6】本発明の第4の実施例を示す、三相三脚型静止誘導機器の縦断面図と故障監視システムの構成図である。
【
図7】本発明の第4の実施例における、磁界検出手段の鉄心への配置状態を示す図である。
【
図8】本発明の第5の実施例を示す、磁界検出手段の鉄心への配置状態と故障監視システムの構成図である。
【
図9】本発明の第5の実施例を説明するための、鉄心の磁気履歴曲線を示す図である。
【
図10】本発明の第5の実施例を説明するための、電圧波形を示す図である。
【
図11】本発明の第6の実施例を示す、三相三脚型静止誘導機器の縦断面図と故障監視システムの構成図である。
【
図12】本発明の第6の実施例における、磁界検出手段のバスバーへの配置状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複数の実施例を、図面を用いて詳細に説明する。なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0015】
図1から
図3は、本発明の第1の実施例を示す。
図1は三脚型巻鉄心を用いた三相変圧器を例とした故障監視システムの構成を、
図2は磁界検出手段の構造を、
図3は磁界検出手段の鉄心への配置状態を示したものである。
【0016】
図1に示した三相変圧器用鉄心1は、薄帯状の軟磁性材料を積層し、略環状に成形した2つの内側巻鉄心1aおよび1bを隣接して配置し、その外周に第3の外側巻鉄心1cを配置して構成される。該鉄心1の3本の磁脚部1d,1e,1fには、低圧巻線2aと高圧巻線2bが重ねて巻回される。本実施例では、該鉄心1の中央の磁脚1eの上下の、巻線が巻回されていないヨーク部1gにおいて、2つの内側巻鉄心1a,1bと、1つの外側巻鉄心1cに挟まれた間隙部に、磁界検出手段3を備える。図中には磁界検出手段3を上下の間隙部に2つ備えた構成を示しているが、その数を限定するものではなく、磁界検出手段3の数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0017】
磁界検出手段3は、
図2に示すように、板状の絶縁体3bの外周に細線を巻回してコイルを形成し、コイルの巻回軸3cの方向に鎖交する磁界Hに応じた電圧V(H)を出力する機能を有する。なお、磁界検出手段として
図2に示すコイルのほか、ホール素子を用いてもよい。
【0018】
磁界検出手段3から出力される電圧V(H)は、導線3aを経由して
図1に示したアンプ10に入力され、その振幅が増幅される。増幅された電圧Va(H)は振幅変換手段11に入力されて電圧信号Va(H)の振幅値Vpが求められる。Vpは判定手段12に入力され、あらかじめ設定した基準の振幅値Vsと比較され、Vsより大きなVpが検出された場合、鉄心1内の磁束密度Bが許容値を超える異常が発生していると判定し、判定信号を出力する。
【0019】
図1では、判定信号に基づいて、警報信号を発し、例えば表示や音で警報を行う。なお、判定信号に基づいて変圧器のタップ切り替え信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に構成されたタップ端子を切り替えて、低負荷率の条件で変圧器を稼動するようにしてもよい。また、判定信号に基づいて変圧器の遮断信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に接続される系統線を遮断して、変圧器の稼動を停止させるようにしてもよい。
【0020】
図3は、
図1に示した磁界検出手段3の鉄心への配置状態を拡大して示した例である。
図には、
図1中の左側の内側巻鉄心1aのみを示しており、他の巻鉄心は図示していない。巻鉄心1aの内部には、薄帯状軟磁性材料の薄帯の方向に沿った磁束密度Bが発生する。鉄心1aの外部には、その表面に対して略垂直方向に、磁束密度Bの大きさに応じた磁界Hが発生する。磁界検出手段3は、そのコイルの巻回軸3cと磁界Hの方向が一致する場合に最も高感度となるので、コイルの巻回軸3cの方向を鉄心1aの表面に対して略垂直方向に備えるのが好適である。
【0021】
本実施例に示す三相三脚型巻鉄心では、
図1の鉄心1の中央の磁脚1eの上下のヨーク部1gにおいて、2つの内側巻鉄心1a,1bと、1つの外側巻鉄心1cに挟まれた間隙部は、巻線2aおよび2bにより発生する電界、および該巻線を流れる電流により発生する磁界の影響をほとんど受けない。よって、磁界検出手段3には電気的な絶縁対策を施す必要がなく、かつ鉄心1から発生する磁界Hのみを検出でき、鉄心1内の磁束密度Bの大きさを精度よく検出することができる。
【0022】
なお、本実施例において、磁界検出手段3を備える際の巻回軸3cの方向を限定するものではない。磁界検出手段3を備える箇所によっては、鉄心から発生する最も大きな磁界成分が、表面に対して略垂直方向ではなく、水平方向となる場合がある。その場合は、巻回軸3cを、鉄心表面に対して水平方向となるように備えることで、本発明の効果を最も良好に得ることができる。
【0023】
本実施例によれば、3相変圧器において、鉄心内の磁束密度の振幅や波形の異常を直接検出することが可能となり、より簡便な構成でその運転状態を監視することができる。
【実施例2】
【0024】
図4は、本発明の第2の実施例を示す。実施例1と同じ構成物の詳細な説明は省略する。
本実施例では、薄帯状の軟磁性材料を積層し、略環状に成形した三相変圧器用巻鉄心1の上下の、巻線が巻回されていないヨーク部1gの表面に、4つの磁界検出手段3を備え、検出される磁界に応じた電圧V(H)が導線3aを経由してアンプ10に入力される。なお、本図は磁界検出手段3の数を限定するものではなく、備える数は3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。
【0025】
増幅された電圧Va(H)は振幅変換手段11に入力されて振幅値Vpが求められる。Vpは判定手段12に入力され、あらかじめ設定した基準の振幅値Vsと比較され、Vsより大きなVpが検出された場合、鉄心1内の磁束密度Bが許容値を超える異常が発生していると判定し、判定信号を出力する。
図4では、判定信号に基づいて、警報信号を発する。なお、判定信号に基づいて変圧器のタップ切り替え信号、或いは、遮断信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に構成されたタップ端子を切り替えて、低負荷率の条件で稼動するようにしても、或いは、変圧器の巻線に接続される系統線を遮断して、変圧器の稼動を停止させるようにしてもよい。
【0026】
本実施例においても、磁界検出手段3は巻線2aおよび2bから離れた箇所に配置されるので、巻線から発生する電界、および巻線を流れる電流により発生する磁界の影響をほとんど受けず、かつ鉄心1から発生する磁界Hのみを検出でき、鉄心1内の磁束密度Bの大きさを精度よく検出することができる。
【実施例3】
【0027】
図5は、本発明の第3の実施例を示す、単相巻鉄心を用いた変圧器を例とした故障監視システムを示す図である。実施例1、実施例2と同じ構造物の詳細な説明は省略する。
【0028】
本実施例では、薄帯状の軟磁性材料を積層し、略環状に成形した単相変圧器用巻鉄心1の上下の、巻線が巻回されていないヨーク部1gの側面に、1つの磁界検出手段3を備えている。そして、磁界検出手段3で検出される磁界に応じた電圧V(H)が導線3aを経由してアンプ10に入力される。なお、本図は磁界検出手段の数を限定するものではなく、備える数は2つ以上でもよい。増幅された電圧Va(H)は振幅変換手段11に入力されて電圧信号Va(H)の振幅値Vpが求められる。Vpは判定手段12に入力され、あらかじめ設定した基準の振幅値Vsと比較され、Vsより大きなVpが検出された場合、鉄心1内の磁束密度Bが許容値を超える異常が発生していると判定し、判定信号を出力する。
図5では、判定信号に基づいて、警報信号を発する。
【0029】
なお、判定信号に基づいて変圧器のタップ切り替え信号、或いは、遮断信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に構成されたタップ端子を切り替えて、低負荷率の条件で稼動するようにしても、或いは、変圧器の巻線に接続される系統線を遮断して、変圧器の稼動を停止させるようにしてもよい。
【0030】
本実施例によれば、単相変圧器において、鉄心内の磁束密度の振幅や波形の異常を直接検出することが可能となり、より簡便な構成でその運転状態を監視することができる。
【実施例4】
【0031】
図6および
図7は、本発明の第4の実施例を示す、三相三脚型積層鉄心を用いた変圧器を例とした故障監視システムを示す図である。実施例1から実施例3と同じ構造物の詳細な説明は省略する。
【0032】
本実施例では、
図6に示す如く、台形板状の軟磁性材料を額縁型に組み合わせつつ紙面の垂直方向に積層して構成される積層鉄心50において、磁性材料同士の接続部50aの表面に形成されたギャップ50bの直上に2つの磁界検出手段3を備え、検出される磁界に応じた電圧が導線3aを経由してアンプ10に入力される。なお、本図は磁界検出手段3の数を限定するものではなく、備える数は1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0033】
増幅された電圧Va(H)は振幅変換手段11に入力されて電圧信号Va(H)の振幅値Vpが求められる。Vpは判定手段12に入力され、あらかじめ設定した基準の振幅値Vsと比較され、Vsより大きなVpが検出された場合、積層鉄心50内の磁束密度Bが許容値を超える異常が発生していると判定し、判定信号を出力する。
図6では、判定信号に基づいて、警報信号を発する。なお、判定信号に基づいて変圧器のタップ切り替え信号、或いは、遮断信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に構成されたタップ端子を切り替えて、低負荷率の条件で稼動するようにしても、或いは、変圧器の巻線に接続される系統線を遮断して、変圧器の稼動を停止させるようにしてもよい。
【0034】
図7は、
図6に示したA-A’線に沿った断面を示したものである。板状磁性材料同士の接続部50aは、一定枚数の磁性材料ごとに、その接続位置をずらしながら積層されており、各接続位置にギャップ50bが形成される。鉄心の最表面に形成されるギャップ50bからは鉄心の外部に磁束密度Bが漏洩し、それに対して略垂直方向に磁界Hが発生する。磁界検出手段3は、そのコイルの巻回軸3cと磁界Hの方向が一致する場合に最も高感度となるので、コイルの巻回軸3cの方向を鉄心50の表面に対して略垂直方向に備えるのが好適である。
【0035】
本実施例によれば、積層鉄心を用いた変圧器において、鉄心内の磁束密度の振幅や波形の異常を直接検出することが可能となり、より簡便な構成でその運転状態を監視することができる。
【実施例5】
【0036】
図8から
図10は、本発明の第5の実施例を示す図である。
図8は、鉄心1への磁界検出手段3の配置状態を拡大して示したものであり、実施例1から実施例4のいずれにも共通する構成の一例である。鉄心1の内部には、図に示す鉄心の巻回方向に磁束密度Bが発生し、それに伴って鉄心1の外部には、その表面に対して略垂直方向に磁界Hが発生する。磁界検出手段3は、そのコイルの巻回軸3cと磁界Hの方向が一致する方向に配置するのが好ましい。
【0037】
図9は、鉄心1内の磁界Hを横軸に、磁束密度Bを縦軸にとってプロットした、磁気履歴曲線(ヒステリシス曲線)を示したものである。鉄心1に巻回された巻線に印加される電圧の振幅が正負に対称な正常状態の場合、磁気履歴曲線は左側(a)に示すように、原点に対して点対称な図形となる。これに対し、巻線に印加される電圧の振幅が正負のいずれかの方向にずれる異常が発生した場合、磁気履歴曲線は右側(b)に示すように、磁束密度Bが正負いずれかの方向にΔBだけずれ、それに伴い磁界Hも正負いずれかの方向にΔHだけずれた偏磁状態となる。
【0038】
以上の2つの状態において、
図8に示した磁界検出手段3で検出される電圧信号V(H)を、アンプ10で増幅した電圧Va(H)の波形の比較を示したのが
図10である。左側(a)の正常時には、電圧波形は正負に対称であり、電圧振幅V
+、およびV
-の大きさは同一であって、その振幅はVpと検出される。それに対し、右側(b)の偏磁発生時には、電圧波形は正負いずれかの方向にずれ、V
+とV
-の値が異なり、両電圧振幅の差の絶対値|V
+-V
-|を求めることで、鉄心1で発生している偏磁の量を推定することができる。
【0039】
図8において、磁界検出手段3から出力される電圧V(H)は導線3aを経由してアンプ10で増幅され、電圧Va(H)に変換され、さらに振幅変換手段11において、電圧の振幅値Vpと、正負の電圧振幅の差の絶対値|V
+-V
-|の2つの値を求める。これらの2つの値のうち、まず|V
+-V
-|があらかじめ設定した偏磁の量の許容値ΔVsと第2の判定手段13で比較され、ΔVsより大きな|V
+-V
-|が検出された場合、鉄心1は偏磁により大きな損失が発生し、過熱の可能性が高いと判定し、判定信号を出力する。偏磁の量が許容値以下の場合は、第1の判定手段12にて振幅値Vpとあらかじめ設定した振幅値Vsが比較され、Vsより大きなVpが検出された場合、鉄心1内の磁束密度Bが許容値を超える異常が発生していると判定し、判定信号を出力する。
【0040】
図8では、第2の判定手段13或いは第1の判定手段12の判定信号に基づいて、警報信号を発する。なお、判定信号に基づいて変圧器のタップ切り替え信号、或いは、遮断信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に構成されたタップ端子を切り替えて、低負荷率の条件で稼動するようにしても、或いは、変圧器の巻線に接続される系統線を遮断して、変圧器の稼動を停止させるようにしてもよい。
【0041】
本実施例によれば、変圧器に印加される電圧が許容値より高くなる異常に加えて、電圧の振幅が正負いずれかの方向にずれて発生する鉄心の偏磁も検出可能な、変圧器の故障監視システムが実現できる。
【実施例6】
【0042】
図11は、本発明の第6の実施例における変圧器の故障監視システムの構成図である。
実施例1から実施例5と同じ構造物の詳細な説明は省略する。
【0043】
本実施例では、変圧器用鉄心1の表面に備えた、鉄心内の磁束密度Bの検出を目的とした第1の磁界検出手段3と、変圧器の低圧巻線2aに接続される低圧バスバーの近傍に備えた、該バスバーを流れる電流の検出を目的とした第2の磁界検出手段31により、変圧器の故障監視システムが構成される。
図11には、変圧器の高圧巻線2bに接続された高圧バスバー22も明示しているが、該バスバーには高電圧が印加される。よって第2の磁界検出手段31は、電圧が低く絶縁対策がより簡便となり、より大きな電流が流れるので高精度で電流を検出できる、低圧バスバー21の近傍に備えるのが好適である。図中には磁界検出手段3および31を1つずつ備えた構成を示しているが、その数を限定するものではなく、備える数はそれぞれ2つ以上でもよい。
【0044】
図12は、本実施例において、低圧バスバー21の近傍に備えられる第2の磁界検出手段31の配置状態を示す拡大図である。左側(a)が低圧バスバー21と磁界検出手段31の正面図であり、図中にAと示した線に沿った断面図を右側に示している。低圧バスバー21に電流Iが流れると、該バスバーの周辺には磁界Hが発生する。図に示す如く、磁界Hを最も高感度で検出できる方向に磁界検出手段31を配置すると、導線3aには磁界Hの大きさに応じた電圧V’(H)が発生し、バスバー21を流れる電流の大きさ、および波形を検出することができる。なお、磁界検出手段31はバスバー21から適切な距離dだけ離れた箇所に備え、絶縁を確保するのが好適である。
【0045】
第2の磁界検出手段31から出力される電圧V’(H)は、導線3aを経由して
図11に示したアンプ10aに入力され、その振幅が増幅される。増幅された電圧Va’(H)は振幅変換手段11aに入力されて該電圧信号Va’(H)の振幅値Vp’が求められる。Vp’は第3の判定手段14に入力され、あらかじめ設定した振幅値Vs’と比較され、Vs’より大きなVp’が検出された場合、低圧バスバー21を流れる電流の振幅が許容値を超える異常が発生していると判定し、判定信号を出力する。
図11では、第3の判定手段14の判定信号に基づいて、警報信号を発する。
【0046】
なお、第3の判定手段14の判定信号に基づいて変圧器のタップ切り替え信号、或いは、遮断信号を出力し、異常が発生したと判断した場合、変圧器の巻線に構成されたタップ端子を切り替えて、低負荷率の条件で稼動するようにしても、或いは、変圧器の巻線に接続される系統線を遮断して、変圧器の稼動を停止させるようにしてもよい。
【0047】
また、鉄心1の表面に備えられた磁界検出手段3では、実施例1と同じ構成により、鉄心1内の磁束密度Bの大きさ、および波形が検出される。
【0048】
本実施例によれば、鉄心内の磁束密度に加えて、低圧バスバーを流れる電流Iも検出することが可能なので、これら2つの信号を監視することにより、変圧器に印加される電圧の異常だけではなく、負荷に流れる電流の異常に起因する故障も監視することが可能になる。
【0049】
本発明の静止誘導機器は、静止誘導機器に所定の磁界検出手段を備えるものである。また、本発明の静止誘導機器の故障監視システムは、静止誘導機器と、磁界検出手段と、判定手段を組み合わせた製品としても良いし、或いは、故障監視システムを備えていない既存の静止誘導機器に後から組み合わせるための、磁界検出手段と判定手段からなる製品としても良い。
【0050】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:鉄心
1a,1b:内側巻鉄心
1c:外側巻鉄心
1d,1e,1f:磁脚部
1g:ヨーク部
2a:低圧巻線
2b:高圧巻線
3:第1の磁界検出手段
3a:導線
3b:絶縁材
3c:コイルの巻回軸
10,10a:アンプ
11,11a:振幅変換手段
12:第1の判定手段
13:第2の判定手段
14:第3の判定手段
21:低圧バスバー
22:高圧バスバー
31:第2の磁界検出手段
50:積層鉄心
50a:接続部
50b:ギャップ