(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】粘膜刺激・苦味抑制剤及び口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20220414BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20220414BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K8/46
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2017175199
(22)【出願日】2017-09-12
【審査請求日】2020-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今崎 麻里
(72)【発明者】
【氏名】小熊 友一
(72)【発明者】
【氏名】大野 慶貴
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-040408(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094579(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩からなる、α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩による
口腔用組成物の粘膜刺激・苦味を抑制する
口腔用組成物用粘膜刺激・苦味抑制剤
であって、
前記口腔用組成物に対する、
α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩の含有量が0.1~2質量%
ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩の含有量が0.1~10質量%
となるようにピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩が添加される、口腔用組成物用粘膜刺激・苦味抑制剤。
【請求項2】
(A)成分:α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩、及び
(B)成分:ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩
を含有
し、
組成物全量に対する(A)成分の含有量が0.1~2質量%であり、(B)成分の含有量が0.1~10質量%である、
口腔用組成物。
【請求項3】
(A)成分の含有量に対する(B)成分の含有量の質量比((B)/(A))が0.05~100である、請求項2
に記載の
口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜刺激・苦味抑制剤及び口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬部外品、食品、医薬部外品に含まれる成分が粘膜刺激及び/又は苦味を呈すると、経口摂取や口腔内での使用に際し不快感を伴い、使用感を損なう。例えば、α-オレフィンスルホン酸塩は、う蝕バイオフィルム除去効果が高く、う蝕防止に有用な成分であり(特許文献1)、口腔用組成物における薬効成分として期待されている。しかしながら、α-オレフィンスルホン酸塩には特有の苦味があり、舌にピリピリした刺激感を感じることから、十分に効果を発揮するために製剤中の含有量を増加させることが困難である。
【0003】
特許文献2には、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤と、アシルアミノ酸及び/又はアルギニンを含有する口腔用組成物は、α-オレフィンスルホン酸特有の苦味が抑制されていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/8823号
【文献】特開2013-151474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の口腔用組成物はアルギニンやアシルアミノ酸を添加することにより、組成によっては製剤安定性の点で課題が生じる場合があるため、他の解決手段が求められていた。
【0006】
本発明の課題は、粘膜刺激・苦味抑制に有用であり、口腔用組成物の使用感を向上させることのできる、粘膜刺激・苦味抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、下記の〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩からなる、粘膜刺激・苦味抑制剤。
〔2〕α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩による粘膜刺激・苦味を抑制する、〔1〕に記載の剤。
〔3〕(A)成分:α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩、及び
(B)成分:ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩
を含有する、口腔用組成物。
〔4〕組成物全量に対する(A)成分の含有量が0.1~2質量%である、〔3〕に記載の組成物。
〔5〕組成物全量に対する(B)成分の含有量が0.1~10質量%である、〔3〕又は〔4〕に記載の組成物。
〔6〕(A)成分の含有量に対する(B)成分の含有量の質量比((B)/(A))が0.05~100である、〔3〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘膜刺激・苦味抑制剤は、粘膜刺激・苦味を呈する口腔用組成物に使用することができ、該組成物の、粘膜刺激・苦味を良好に抑制できる。また、本発明の口腔用組成物は、粘膜刺激・苦味が抑制され、良好な使用感を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本発明において、口腔用組成物中の各成分の含有量は、組成物を調製する際の各成分の仕込み量を基準とする。
【0010】
[1.粘膜刺激・苦味抑制剤]
本発明の粘膜刺激・苦味抑制剤は、ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩を有効成分とする。
【0011】
ピロリドンカルボン酸は、下記式(1):
【化1】
で表される構造を有する。ピロリドンカルボン酸は、海草・小麦粉、サトウキビから抽出されたグルタミン酸を脱水することで生成され得る。
【0012】
ピロリドンカルボン酸の無機塩基塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、銅塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。ピロリドンカルボン酸のナトリウム塩(PCAソーダ)は、良好な安定性(例えば、酸化安定性)を有すること、及び、皮膚角質層の水分保持物質であるNMF(天然保湿因子)の構成要素であり安全性も高いことから、より好ましい。
【0013】
ピロリドンカルボン酸及びその無機塩基塩は、公知のスキームに従って合成したもの、又は市販品でもよい。ピロリドンカルボン酸の市販品としては、例えば、「AJIDEW(登録商標)A-100」(味の素ヘルシーサプライ社製)が挙げられる。ピロリドンカルボン酸の無機塩基塩として、例えば、「AJIDEW(登録商標)N-50、PCAソーダ(AI=50%水溶液)」(味の素ヘルシーサプライ社製、ピロリドンカルボン酸ナトリウム)が挙げられる。
【0014】
本発明の粘膜刺激・苦味抑制剤は、口腔粘膜への刺激及び苦味の少なくともいずれかを呈する対象に添加することができる。斯かる対象としては、例えば、経口投与製剤や口腔用製剤が挙げられる。前記製剤の形状、剤形は特に限定されず、例えば、液体系(液体、液状、ペースト状)、固体系(固体、固形状)が挙げられる。前記製剤は、医薬品、医薬部外品及び食品のいずれでもよいが、医薬部外品及び食品が好ましい。口腔用製剤としては例えば、歯磨剤(例えば、練歯磨剤、液体歯磨剤、液状歯磨剤、粉歯磨剤)、洗口剤、塗布剤、口腔用パスタ、口中清涼剤、食品(例えば、チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、フィルム、トローチ)が挙げられる。
【0015】
粘膜刺激及び苦味の少なくともいずれかを呈する成分としては、例えば、炭素原子数12~18の炭化水素基を有するα-オレフィンスルホン酸及びその塩が挙げられ、特に、前記α-オレフィンスルホン酸とその塩が好ましい。具体的には、炭素原子数14~16の炭化水素基を有するα-オレフィンスルホン酸及びその塩が好ましく挙げられる。前記塩としては例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、銅塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩が挙げられる。これらの塩の中でも水溶性の塩、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩やカリウム塩がより好ましい。α-オレフィンスルホン酸及びその塩としては、テトラデセンスルホン酸及びその塩が好ましい。
【0016】
本発明の粘膜刺激・苦味抑制剤の使用量は、粘膜刺激・苦味成分の種類等により適宜設定でき、特に限定されない。例えば、粘膜刺激・苦味成分がα-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩である場合、α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩に対する本発明の粘膜刺激・苦味抑制剤(ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩)の量比が、0.05以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、1.6以上が更に好ましい。上限は、100以下が好ましく、25以下がより好ましい。斯かる量比は、0.05~100が好ましく、0.25~25がより好ましく、1.6~25が更に好ましい。
【0017】
[2.口腔用組成物]
本発明の口腔用組成物は、(A)成分:α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩、及び(B)成分:ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩を含有する。
【0018】
[2-1.(A)成分]
(A)成分は、α-オレフィンスルホン酸及び/又はその塩である。α-オレフィンスルホン酸としては、テトラデセンスルホン酸が好ましい。本発明の口腔用組成物は、(A)成分を含有することにより、バイオフィルム除去効果を発揮することができる。α-オレフィンスルホン酸及びその塩については、前段の「1.粘膜刺激・苦味抑制剤」の項目で説明したのと同様である。
【0019】
[2-2.(B)成分]
(B)成分は、ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩である。本発明の口腔用組成物が(B)成分を含有することにより、(A)成分に起因する粘膜刺激及び/又は苦味を抑えることができる。ピロリドンカルボン酸及び/又はその無機塩基塩については、前段の「1.粘膜刺激・苦味抑制剤」の項目で説明したのと同様である。
【0020】
[2-3.含有量及び量比]
本発明の口腔用組成物全量に対する(A)成分の含有量は特に制限されないが、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。これにより、本発明の口腔用組成物は、バイオフィルム除去効果を効率よく発揮することができる。上限は、2質量%以下が好ましい。これにより、粘膜刺激及び/又は苦味抑制効果を発揮できる。(A)成分の含有量は、0.1~2質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の口腔用組成物における(B)成分の含有量は特に制限されないが、その下限は、口腔用組成物全体に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。これにより、口腔用組成物は、粘膜刺激・苦味抑制効果を効率よく発揮することができる。上限は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。これにより、口腔用組成物の粘度を適度に調整することができ、練歯磨剤の場合押し出し性が良好となり得る。(B)成分の含有量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましい。
【0022】
本発明の口腔用組成物における(A)成分の含有量に対する(B)成分の含有量の質量比((B)/(A))は、0.05以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、1.6以上が更に好ましい。これにより、粘膜刺激・苦味抑制効果を効率よく発揮できる。上限は、100以下が好ましく、25以下がより好ましい。これにより、口腔用組成物の粘度を適度に調整することができ、押し出し性が良好となり得る。(B)/(A)は、0.05~100が好ましく、0.25~25がより好ましく、1.6~25が更に好ましい。
【0023】
[2-4.任意成分]
本発明の口腔用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて任意成分を含有してもよい。斯かる添加成分は、口腔用組成物に使用し得る成分であればよく、例えば、界面活性剤、粘結剤、研磨剤、粘稠剤、甘味剤、防腐剤、香料、薬用成分、溶剤、酸味料、滑沢剤、着色剤、光沢剤、流動化剤、結合剤、崩壊剤、pH調整剤、賦形剤が挙げられる。以下に添加成分の具体例を示すが、本発明の口腔用組成物に配合可能な成分はこれらに制限されるものではない。
【0024】
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0025】
アニオン界面活性剤としては、(A)成分以外のアニオン界面活性剤であればよく、例えば、N-アシルアミノ酸塩、アルキル硫酸塩、N-アシルスルホン酸塩、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩が挙げられる。これらのうち、汎用性の点で、N-アシルアミノ酸塩、アルキル硫酸塩等が好ましく、発泡性及び耐硬水性の点で、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等がより好ましい。また、N-アシルアミノ酸塩としては例えば、飽和または不飽和炭化水素基(例えば、炭素原子数が8~18、好ましくは12~16;直鎖及び分岐鎖のいずれでもよい)を有する、アシルアミノ酸、アシルタウリン及びこれらの塩が挙げられ、詳しくは例えば、ラウロイルメチルタウリン塩、ヤシ油脂肪酸メチルタウリン塩、ミリストイルメチルタウリン塩などのメチルタウリン塩;ラウロイルメチルアラニン塩などのメチルアラニン塩;ラウロイルグルタミン酸塩、ミリストイルグルタミン酸塩などのグルタミン酸塩が挙げられる。
【0026】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤が挙げられ、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインが好ましい。
【0027】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキロールアミドなどが挙げられる。
【0028】
界面活性剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。口腔用組成物が界面活性剤を含有する場合、その含有量は、(A)成分を含めて、口腔用組成物全体に対して、通常、10質量%以下であり、0.01~10質量%が好ましい。
【0029】
粘結剤としては、有機系粘結剤、無機系粘結剤が例示される。なお、粘結剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
有機系粘結剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、プルラン、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
【0031】
無機系粘結剤としては、例えば、無水ケイ酸(以下、粘結剤としての無水ケイ酸を「増粘性シリカ」又は「無水ケイ酸(増粘性)」ともいう)、ベントナイトが挙げられる。中でも、増粘性シリカが好ましい。増粘性シリカの吸液量は、2.1mL/g以上が好ましく、2.1~5mL/gであることがより好ましい。
【0032】
本明細書において吸液量は、以下の方法により測定した値である。即ち、試料1gをガラス板上に量りとり、ビュレットを用いて42.5質量%グリセリン水溶液を滴下しながらヘラで液が均一になるように混合する。試料が1つの塊となり、ヘラでガラス板よりきれいにはがれるようになったときを終点とし、試料1.0gに対して要したグリセリン水溶液量を吸液量(mL/g)として表す。
【0033】
粘結剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。口腔用組成物が粘結剤を含む場合、その含有量は、口腔用組成物全体に対して、通常、0.01~10質量%である。
【0034】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジンヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、p-メトキシシンナミックアルデヒド、ソーマチン、パラチノース、マルチトール、キシリトール、アラビトール、エリスリトール等が挙げられる。甘味剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。甘味剤を用いる場合、含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0035】
防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等)、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。防腐剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。防腐剤を用いる場合、含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0036】
香料としては、例えば、精油(例えば、ペパーミント、スペアミント)、フルーツ系(例えば、レモン、ストロベリー)エッセンス、1-メントール、カルボン、オイゲノール、アネトール、リナロール、リモネン、オシメン、シネオール、n-デシルアルコール、シトロネロール、ワニリン、α-テルピネオール、サリチル酸メチル、チモール、ローズマリー油、セージ油、シソ油、レモン油、オレンジ油等の香料素材が挙げられる。香料は、前記香料のうち、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
薬用成分として、例えば、以下の成分が挙げられる:クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛等の殺菌又は抗菌剤;縮合リン酸塩、エタンヒドロキシジホスフォネート等の歯石予防剤;トラネキサム酸、グリチルリチン2カリウム塩、ε-アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、オウバクエキス等の抗炎症剤;ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド等のコーティング剤;デキストラナーゼ、ムタナーゼ等の酵素剤;ビタミンC、塩化ナトリウム等の収斂剤;酢酸トコフェロールなどの各種ビタミン類;乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、硝酸カリウム等の知覚過敏抑制剤;フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物などが挙げられる。薬用成分は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。薬用成分の含有量は、薬剤学的に許容できる範囲で定めることができる。
【0038】
研磨剤としては、例えば、無水ケイ酸(以下、研磨剤としての無水ケイ酸を「研磨性シリカ」又は「無水ケイ酸(研磨性)」ともいう)、結晶性シリカ、非晶性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート等のシリカ系研磨剤、ゼオライト、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム2水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第4リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤が挙げられる。研磨性シリカの吸液量は、通常、0.5~2.0mL/gであり、好ましくは0.7~1.5mL/gである。
【0039】
研磨剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。研磨剤を含有する場合、その含有量は、歯磨剤においては組成物全体の2~40質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0040】
粘稠剤(湿潤剤)としては、例えば、ソルビトール(ソルビット)、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。粘稠剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。口腔用組成物が粘稠剤を含有する場合、その含有量は、本発明の効果を妨げない範囲で定めることができ、口腔用組成物全体に対して、通常、1~60質量%である。
【0041】
酸味料としては、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸が挙げられる。酸味料を含有する場合、含有量は組成物全体に対して、0.001~5質量%が好ましい。
【0042】
滑沢剤としては、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0043】
着色剤としては、例えば、ベニバナ赤色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、シソ色素、紅麹色素、赤キャベツ色素、ニンジン色素、ハイビスカス色素、カカオ色素、スピルリナ青色素、タマリンド色素等の天然色素や、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等の法定色素、リボフラビン、銅クロロフィリンナトリウム、二酸化チタン等が挙げられる。口腔用組成物が着色剤を含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全体に対して0.00001~3質量%が好ましい。
【0044】
光沢剤としては、例えば、シェラック、カルナウバロウ、キャンデリラロウなどのワックス類、ステアリン酸カルシウムが挙げられる。口腔用組成物が光沢剤を含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全体に対して0.01~5質量%が好ましい。
【0045】
流動化剤としては、微粒子二酸化ケイ素等が挙げられる。口腔用組成物が流動化剤を含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全体に対して0.01~5質量%が好ましい。
【0046】
結合剤としては、例えば、プルラン、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カラヤガムが挙げられる。
【0047】
結合剤を含有する場合、含有量は製剤により異なり一律に規定することはできない。例えばフィルムの場合には、通常、組成物全体に対し0.01~90質量%が好ましい。フィルム以外の場合には、通常、組成物全体に対して0.01~10質量%が好ましい。
【0048】
崩壊剤としては、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、クロスポピドン、クロスカルメロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。崩壊剤は錠菓において含有されることが多い。また錠菓において含有される結合剤の例としては、前記のうち、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カラヤガム等が挙げられる。錠菓において崩壊剤及び/又は結合剤を含有する場合、それぞれの含有量は、組成物全体に対して0.1~10質量%が好ましい。
【0049】
本発明の口腔用組成物のpH(20℃)は、通常、6~9である。本発明の口腔用組成物は、必要に応じて、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、例えば、酸、アルカリ、緩衝剤が挙げられ、詳しくは例えば、リン酸及びその塩(例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム)、クエン酸及びその塩(例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム)、リンゴ酸及びその塩、グルコン酸及びその塩、マレイン酸及びその塩、コハク酸及びその塩、グルタミン酸及びその塩、乳酸及びその塩、塩酸及びその塩、酢酸及びその塩(例えば、酢酸ナトリウム)、硝酸及びその塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸及びその塩が挙げられる。pH調整剤を含有する場合、その含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0050】
溶剤としては、例えば、水;及び、エタノール、プロパノール等の炭素原子数3以下の低級アルコールが挙げられる。溶剤は、液体系の口腔用組成物には通常含有される。口腔用組成物が溶剤として水を含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全体に対して20~95質量%が好ましい。口腔用組成物が溶剤として低級アルコールを含有する場合、その含有量は、口腔用組成物全体に対して、通常、20質量%以下、好ましくは1~20質量%が好ましい。
【0051】
賦形剤としては、例えば、水飴、ブドウ糖、果糖、転化糖、デキストリン、オリゴ糖が挙げられる。口腔用組成物が食品製剤である場合、通常、賦形剤を含有する。賦形剤を含有する場合、その含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0052】
[2-5.形状、剤形]
本発明の口腔用組成物の形状、剤形は特に限定されない。例えば、液体系(液体、液状、ペースト状)、固体系(固体、固形状)等の各種形状に調製できる。剤形の例としては、練歯磨剤、液体歯磨剤、液状歯磨剤、粉歯磨剤等の歯磨剤組成物、洗口剤組成物、塗布剤組成物、口腔用パスタ、口中清涼剤組成物、食品形態(チューインガム、錠菓、キャンディ、グミ、フィルム、トローチ等)が挙げられる。
【0053】
口腔内の湿潤効果をより高く奏することができることから、本発明の口腔用組成物は、歯磨剤組成物又は洗口剤組成物であることが好ましく、歯磨剤組成物であることがより好ましい。本発明の口腔用組成物が歯磨剤組成物である場合、練歯磨剤であることがより好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0055】
実施例1~25及び比較例1(練歯磨剤)
1.製剤調製方法:
以下の手順で製剤を調製した。精製水にピロリドンカルボン酸Na((B)成分)、サッカリンナトリウム、ソルビット液等を溶解させた後、別途、プロピレングリコールに、高分子などの粘結剤を分散させた液を加え、撹拌した。その後、香料、研磨剤、テトラデセンスルホン酸((A)成分)等を加え、更に減圧下で撹拌し、歯磨剤組成物を得た。製造には、1.5Lニーダー(石山工作所社製)を用いた。
【0056】
2.使用原料:
歯磨剤組成物の調製に用いた各成分の詳細を下記に示す。
(A)成分:テトラデセンスルホン酸(KリポランPJ-400CJ、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
(B)成分:ピロリドンカルボン酸Na(AJIDEW(登録商標)N-50、味の素ヘルシーサプライ社製)
任意成分:無水ケイ酸(研磨性、吸液量1.0mL/g)(多木化学社製)、ソルビット液(ソルビトール)(70質量%水溶液品、粘調剤)(ロケット社製)、キサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル(株)社製、粘結剤)、アルギン酸ナトリウム((株)キミカ社製、粘結剤)、フッ化ナトリウム(ステラケミファ(株)社製、薬効成分)、サッカリンナトリウム(愛三化学工業(株)社製、甘味剤)、精製水。
なお、任意成分は、医薬部外品原料規格2006に適合したものを用いた。
【0057】
3.評価方法:
(1)口腔粘膜刺激性及び苦味評価
口腔用組成物の口腔粘膜刺激性及び苦味を、下記評点基準で官能評価(パネル10名)を行った。尚、歯磨剤1gを歯ブラシにとり、3分間ブラッシングすることで評価した。口腔粘膜刺激性及び苦味は、10名の平均から下記評価基準に基づき評価した。
【0058】
<口腔粘膜刺激性>
(評点基準)
5点:刺激を感じない
4点:殆ど刺激を感じない
3点:やや刺激を感じるが問題ないレベルである
2点:刺激を感じる
1点:強い刺激を感じる
(評価基準)
A:平均値が4点以上5点以下
B:平均値が3点以上4点未満
C:平均値が2点以上3点未満
D:平均値が1点以上2点未満
【0059】
<苦味>
(評点基準)
5点:苦味を感じない
4点:苦味を殆ど感じない
3点:やや苦味を感じるが問題ないレベルである
2点:苦味を感じる
1点:強い苦味を感じる
(評価基準)
A:平均値が4点以上5点以下
B:平均値が3点以上4点未満
C:平均値が2点以上3点未満
D:平均値が1点以上2点未満
【0060】
(2)押し出し易さの官能評価
10名の被験者を用い、各組成の歯磨剤組成物をチューブから押し出したときの指圧の程度から、押し出し易さについて下記5段階の評点で評価した。10名の評価結果を平均し、以下の評価基準で評価した。
(評点基準)
3点:わずかな力で簡単に歯磨剤をチューブから出すことができる。
2点:やや強い力で歯磨剤をチューブから出すことができる。
1点:強く握らないと歯磨剤がチューブから出てこない。
〔評価基準〕
A:平均値が2.5点以上3点以下
B:平均値が2点以上2.5点未満
C:平均値が1.5点以上2点未満
D:平均値が1.5点未満
【0061】
(3)バイオフィルム除去評価
<バイオフィルム除去効果の評価方法>
(3-1)モデルバイオフィルム作製方法
幅1mm、深さ1mmの隙間のある未処置のハイドロキシアパタイト(HA)ペレットを0.45μmのフィルターでろ過したヒト無刺激唾液で4時間処理したものをモデルバイオフィルム作製の担体に用い、24穴マルチプレート(住友ベークライト(株)製)の底部に設置した。培養液には、ベイサルメディウムムチン培養液(BMM)*1を用いた。
【0062】
モデルバイオフィルムを作製するために使用した菌株は、American Type Culture Collectionより購入したアクチノマイセス ヴィスコサス(Actinomyces viscosus)ATCC43146、ベイヨネラ パルビュラ(Veillonella parvula)ATCC17745、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)ATCC10953、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)ATCC10557、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)ATCC25175を用いた。これら5菌株は予めBMM3,000mLを入れたRotating Disk Reactor(培養槽)にそれぞれ1×107cfu/mL(cfu:colony forming units)になるように接種し、唾液処理したHA担体と共に37℃、嫌気的条件下(5vol%炭酸ガス、95vol%窒素)で24時間培養した。その後、同条件でBMM培地を置換率5vol%/時間の割合で連続的に供給し10日間培養を行い、HA表面に5菌株種混合のモデルバイオフィルムを形成させた。
【0063】
*1 BMMの組成:1リットル中の質量で表す。
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社製):
4g/L
トリプトン(Becton and Dickinson社製): 2g/L
イーストエキス(Becton and Dickinson社製):
2g/L
ムチン((株)シグマ社製): 5g/L
ヘミン((株)シグマ社製): 2.5mg/L
ビタミンK(和光純薬工業(株)製): 0.5mg/L
KCl(和光純薬工業(株)製): 1g/L
システイン(和光純薬工業(株)製): 0.2g/L
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップし、121℃で20分間オートクレーブした。)
【0064】
(3-2)モデルバイオフィルムの除去効果
バイオフィルムを形成させる前のHAの隙間以外の部分に白色のシールを貼り、隙間部分を色差計で測定した値を基準色としてL0とした。シールを剥がし、上記の方法でバイオフィルムを形成させた後、再びHAの隙間以外の部分に白色のシールを貼り、隙間部分を色差計で測定した値をL1とした。シールを剥がし、HA表面を、調製した歯磨剤1gを載せた歯ブラシで20回ブラッシングした後、流水で軽く洗浄、乾燥させた。再びHAの隙間以外の部分に白色のシールを貼り、隙間部分を色差計で測定した値をL2とした。次式によりバイオフィルム除去率を算出し、10回の平均値について、以下の評価基準で評価し、この評価結果から歯と歯の隙間に対するバイオフィルム除去効果を判断した。
[式]
バイオフィルム除去率(%)=〔(L1-L2)/(L1-L0)〕×100
【0065】
評価基準
A:バイオフィルム除去率が80%以上
B:バイオフィルム除去率が60%以上80%未満
C:バイオフィルム除去率が40%以上60%未満
D:バイオフィルム除去率が40%未満
【0066】
結果を表1~3に記す。表中の数値は配合量(質量%)である。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
表1~3から、以下のことが分かる。(B)成分を含まず(A)成分のみを含む比較例1では粘膜刺激性が高く苦味も強かったのに対し、(A)及び(B)成分を含む実施例では、粘膜刺激性及び苦味が抑制されていた。また、実施例の歯磨剤組成物は、押し出し性及びバイオフィルム除去効果も良好であった。これらの結果は、本発明の口腔用組成物が(A)成分の粘膜刺激性及び苦味を抑制できること、(A)成分本来のバイオフィルム除去効果を発揮できること、及び、歯磨剤組成物である場合に押し出し性が良好であり使用性が良好であること、を示している。
【0071】
本発明の口腔用組成物は、上記実施例の練歯磨剤に限定されず、液体、液状、ペースト状などの形態として調製されてもよい。また、上記実施例の組成に限定されず、他の組成の、練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等の歯磨剤、洗口剤などとして調製でき、これらは通常の方法で調製することができる。