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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】造形装置、造形方法および造形システム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/393 20170101AFI20220414BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20220414BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20220414BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20220414BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220414BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220414BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20220414BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/118
B29C64/268
B29C64/295
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018029753
(22)【出願日】2018-02-22
(65)【公開番号】P2019142147
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】516262549
【氏名又は名称】エス.ラボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー
(72)【発明者】
【氏名】竹山 佳伸
(72)【発明者】
【氏名】荒生 剛志
(72)【発明者】
【氏名】伊東 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高井 篤
(72)【発明者】
【氏名】秋枝 智美
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314528(US,A1)
【文献】特開2017-217791(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102016200522(DE,A1)
【文献】国際公開第2016/151740(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B33Y 10/00,30/00,50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形材料で形成された第1の造形材料層を加熱する加熱手段と、
加熱された第1の造形材料層に対し、溶融した造形材料を吐出して、第2の造形材料層を積層する吐出手段と、
前記第1の造形材料層の加熱に際し、形状データに基づいて、前記加熱手段の加熱量を制御する加熱制御手段と
を有し、
前記加熱制御手段は、前記第1の造形材料層の加熱に際し、前記第1の造形材料層の外周部が溶融しないように、前記加熱手段による加熱を制御する、造形装置。
【請求項2】
前記加熱制御手段は、前記第1の造形材料層のうち外周部を除いた領域の加熱開始端部を加熱する際に、加熱を強くするように制御することを特徴とする、請求項に記載の造形装置。
【請求項3】
前記加熱制御手段は、前記第1の造形材料層のうち外周部を除いた領域の加熱終了端部を加熱する際に、加熱を弱くするように制御することを特徴とする、請求項1または2に記載の造形装置。
【請求項4】
前記加熱制御手段は、前記領域の加熱終了端部では、加熱を終了するように制御することを特徴とする、請求項に記載の造形装置。
【請求項5】
前記加熱制御手段は、前記加熱手段の単位時間当たりの駆動時間および駆動電流を変化させることにより前記加熱手段による加熱の強さを制御することを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の造形装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、非接触で前記第1の造形材料層を加熱する、請求項1~のいずれか1項に記載の造形装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、レーザ光を照射する照射装置である、請求項に記載の造形装置。
【請求項8】
造形装置が実行する造形方法であって、
前記造形装置が、造形材料で形成された第1の造形材料層を準備するステップと、
前記造形装置が、前記第1の造形材料層を加熱するステップと、
前記造形装置が、前記加熱するステップで加熱された前記第1の造形材料層に対し、溶融した造形材料を吐出して、第2の造形材料層を積層するステップと
を含み、
前記加熱するステップは、前記造形装置が、
形状データに基づいて、加熱量を制御するステップを含み、
前記加熱量を制御するステップは、前記造形装置が、前記第1の造形材料層の加熱に際し、前記第1の造形材料層の外周部が溶融しないように、加熱量を制御する、造形方法。
【請求項9】
前記加熱量を制御するステップは、前記造形装置が、前記第1の造形材料層のうち外周部を除いた領域の加熱開始端部を加熱する際に、加熱を強くするように制御することを特徴とする、請求項8に記載の造形方法。
【請求項10】
前記加熱量を制御するステップは、前記造形装置が、前記第1の造形材料層のうち外周部を除いた領域の加熱終了端部を加熱する際に、加熱を弱くするように制御することを特徴とする、請求項8または9に記載の造形方法。
【請求項11】
造形材料で形成された第1の造形材料層を加熱する加熱手段と、
加熱された第1の造形材料層に対し、溶融した造形材料を吐出して、第2の造形材料層を積層する吐出手段と、
前記第1の造形材料層の加熱に際し、形状データに基づいて、前記加熱手段の加熱量を制御する加熱制御手段と
を有し、
前記加熱制御手段は、前記第1の造形材料層の加熱に際し、前記第1の造形材料層の外周部が溶融しないように、前記加熱手段による加熱を制御する、造形システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形装置、造形方法および造形システムに関する。
【背景技術】
【0002】
金型などを用いずに造形物を多品種少量生産可能な装置として、3Dプリンタが普及しつつある。熱溶解積層法(以下、FFF(Fused Filament Fabrication)と略す)を用いる3Dプリンタは、近年低価格化が進んでおり、コンシューマ向けにも浸透している。
【0003】
このような3Dプリンタにおいて、三次元造形物の積層方向における強度の低下を防止するための技術が検討されている。例えば、特許文献1は、層間の溶着強度を十分に確保し得る、溶融樹脂の押し出し積層技術を提供することを目的とした技術を開示する。特許文献1には、溶融樹脂の押し出し積層装置が、溶融樹脂を押し出しながら多段に積層する装置であって、溶融樹脂を押し出す吐出ユニットと、すでに押し出されている樹脂材料を加熱する加熱ユニットと、吐出ユニットおよび加熱ユニットの作動を制御するコントローラと、を有している装置が開示される。コントローラは、ある段の層を形成するために吐出ユニットから溶融樹脂を押し出す際に、前の段の層を形成している樹脂材料を加熱するように加熱ユニットを制御する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、各層の外周部が溶融されることから、外形崩れによる造形品質が劣化する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示にかかる造形装置は、
造形材料で形成された第1の造形材料層を加熱する加熱手段と、
加熱された第1の造形材料層に対し、溶融した造形材料を吐出して、第2の造形材料層を積層する吐出手段と、
前記第1の造形材料層の加熱に際し、形状データに基づいて、前記加熱手段の加熱量を制御する加熱制御手段と
を有する。
【発明の効果】
【0006】
上記構成によれば、造形品質の劣化を防止し、造形材料層間の接着性を向上させつつ、造形物の視認性の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。
図2図1の三次元造形装置における吐出モジュールの断面を示す模式図である。
図3】一実施形態に係る三次元造形装置のハードウェア構成図である。
図4】下層を加熱する動作の一例を示す模式図である。
図5】一実施形態における加熱モジュールを造形テーブル側から見た平面図である。
図6】上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。
図7】上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。
図8】上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。
図9】上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。
図10】本実施形態における再加熱範囲の一例を示す模式図である。
図11】本実施形態における再加熱範囲の他の例を示す模式図である。
図12】一実施形態に係る三次元造形装置の再溶融に関する機能ブロック図である。
図13】レーザ装置を加熱手段として用いる場合に、加熱量を調整するための方法を説明する模式図である。
図14】一実施形態に係る造形処理を示すフロー図である。
図15図10の三次元造形物Mの最表面を加熱する例を示す図である。
図16】本実施形態における加熱制御部が加熱手段の動作を制御するタイミングチャートである。
図17】一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
図18】一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
図19】一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
図20】一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
図21】材料構成を偏在させたフィラメントの一例を示す断面図である。
図22図21のフィラメントの吐出物の断面図である。
図23図21のフィラメントを用いて造形される造形物の断面図である。
図24】規制手段を有する三次元造形装置の一例を示す模式図である。
図25】フィラメントの方向を規制する処理の一例を示すフロー図である。
図26】一実施形態における造形および表面処理動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<<<全体構成>>>
本発明の一実施形態として、熱溶解積層法(FFF)により三次元造形物を造形する三次元造形装置について説明する。なお、本実施形態における三次元造形装置は、熱溶解積層法(FFF)を用いたものに限定されるものではなく、造形手段により載置台の載置面上に積層して三次元造形物を造形する任意の造形方法を用いたものであってもよい。
【0010】
図1は、一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。図2は、図1の三次元造形装置における吐出モジュールの断面を示す模式図である。三次元造形装置1は、射出成形では金型が複雑になる、あるいは、成形できないような三次元造形物を造形することができる。
【0011】
三次元造形装置1における筐体2の内部は、三次元造形物Mを造形するための処理空間となっている。筐体2の内部には載置台としての造形テーブル3が設けられており、造形テーブル3上に三次元造形物Mが造形される。
【0012】
造形には、熱可塑性樹脂をマトリックスとした樹脂組成物からなる長尺のフィラメントFが用いられる。フィラメントFは、細長いワイヤー形状の固体材料であり、巻き回された状態で三次元造形装置1における筐体2の外部のリール4にセットされている。リール4は、フィラメントFの駆動手段であるエクストルーダ11の回転に引っ張られることで、大きく抵抗力を働かせることなく自転する。
【0013】
筐体2の内部の造形テーブル3の上方には、造形材料吐出部材としての吐出モジュール10(造形ヘッド)が設けられている。吐出モジュール10は、エクストルーダ11、冷却ブロック12、フィラメントガイド14、加熱ブロック15、吐出ノズル18、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、およびその他の部品によってモジュール化されている。フィラメントFは、エクストルーダ11によって引き込まれることで、三次元造形装置1の吐出モジュール10へ供給される。
【0014】
撮像モジュール101は、吐出モジュール10に引き込まれるフィラメントFの360°像、すなわち、フィラメントFにおけるある部分の全方位の画像を撮像する。図2の吐出モジュールには2つの撮像モジュールが設けられているが、例えば、反射板を用いるなどして、1つの撮像モジュール101により、フィラメントFの360°像を撮像してもよい。なお、撮像モジュール101としては、レンズなどの結像光学系と、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary
Metal Oxide Semiconductor)センサなどの撮像素子と、を備えたカメラが例示される。
【0015】
ねじり回転機構102は、ローラにより構築されており、吐出モジュール10に引き込まれるフィラメントFを、幅方向に回転させることでフィラメントFの方向を規制する。径測定部103は、撮像モジュール101により撮像されたフィラメントの画像から、X軸、Y軸の2方向におけるフィラメントのエッジ間の幅を、それぞれ径として測定し、規格外の径を検出した際、エラー情報を出力する。エラー情報の出力先は、ディスプレイであってもよいし、スピーカであってもよいし、他の装置であってもよい。径測定部103は、回路であってもよいし、CPUの処理によって実現される機能であってもよい。
【0016】
加熱ブロック15は、ヒータなどの熱源16と、ヒータの温度を制御するための熱電対17と、を有し、移送路を介して、吐出モジュール10に供給されたフィラメントFを加熱溶融させて、吐出ノズル18へ供給する。
【0017】
冷却ブロック12は、加熱ブロック15の上部に設けられる。冷却ブロック12は、冷却源13を有し、フィラメントを冷却する。これにより、冷却ブロック12は、溶融したフィラメントFMの吐出モジュール10内の上部への逆流、フィラメントを押し出す抵抗の増大、あるいは、フィラメントの固化による移送路内での詰まりを防ぐ。加熱ブロック15と冷却ブロック12との間には、フィラメントガイド14が設けられている。
【0018】
図1及び図2に示すように、吐出モジュール10の下端部に、造形材料であるフィラメントFを吐出する吐出ノズル18が設けられている。吐出ノズル18は、加熱ブロック15から供給された溶融状態あるいは半溶融のフィラメントFMを造形テーブル3上に線状に押し出すようにして吐出する。吐出されたフィラメントFMは、冷却固化されて所定の形状の層が形成される。さらに、吐出ノズル18は、形成した層に、溶融状態あるいは半溶融状態のフィラメントFMを、線状に押し出すようにして吐出する操作を繰り返すことで、新たな層を積み上げて積層させる。これにより、三次元造形物が得られる。
【0019】
本実施形態では、吐出モジュール10に2つの吐出ノズルが設けられている。第一の吐出ノズルは、三次元造形物を構成するモデル材のフィラメントを溶融して吐出し、第二の吐出ノズルは、サポート材のフィラメントを溶融して吐出する。なお、図1において、第一の吐出ノズルの奥側に第二の吐出ノズルが配置されている。なお、吐出ノズルの数は2個に限らず任意である。
【0020】
第二の吐出ノズルから吐出されるサポート材は、通常、三次元造形物を構成するモデル材とは異なる材料である。サポート材により形成されるサポート部は、最終的にはモデル材により形成されるモデル部から除去される。サポート材のフィラメントおよびモデル材のフィラメントは、それぞれ、加熱ブロック15にて溶融され、それぞれの吐出ノズル18から押し出されるように吐出されて、層状に順次積層される。
【0021】
また、三次元造形装置1には、吐出モジュール10により形成中の層の下層を加熱する加熱モジュール20が設けられている。加熱モジュールには、レーザを照射するレーザ光源21が設けられている。レーザ光源21は、下層におけるフィラメントFMが吐出される直前の位置にレーザを照射する。レーザ光源としては、特に限定されないが、半導体レーザが例示され、レーザの照射波長としては、445nmが例示される。
【0022】
吐出モジュール10および加熱モジュール20は、装置左右方向(図1中の左右方向=X軸方向)に延びるX軸駆動軸31(X軸方向)に対し、連結部材を介して、スライド移動可能に保持されている。吐出モジュール10は、X軸駆動モータ32の駆動力により、装置左右方向(X軸方向)へ移動することができる。
【0023】
X軸駆動モータ32は、装置前後方向(図1中の奥行方向=Y軸方向)に延びるY軸駆動軸(Y軸方向)に沿ってスライド移動可能に保持されている。X軸駆動軸31がX軸駆動モータ32ごとY軸駆動モータ33の駆動力によってY軸方向に沿って移動することにより、吐出モジュール10および加熱モジュール20はY軸方向に移動する。
【0024】
一方、造形テーブル3は、Z軸駆動軸34、及び、ガイド軸35に通され、装置上下方向(図1中の上下方向=Z軸方向)に延びるZ軸駆動軸34に沿って移動可能に保持されている。造形テーブル3は、Z軸駆動モータ36の駆動力により、装置上下方向(Z軸方向)へ移動する。造形テーブル3には、積載された造形物を加熱するための加熱部が設けられていてもよい。
【0025】
フィラメントの溶融吐出を経時で続けると、吐出ノズル18周辺部が溶融した樹脂で汚れることがある。これに対して、三次元造形装置1に設けられたクリーニングブラシ37により、吐出ノズル18周辺部に対し定期的にクリーニング動作を行うことで、吐出ノズル18の先端に樹脂が固着することを防ぐことができる。好ましくは、クリーニング動作は、固着防止の観点から、樹脂の温度が下がりきらないうちに実行されることが好ましい。この場合、クリーニングブラシ37は、耐熱性部材からなることが好ましい。クリーニング動作時に生じる研磨粉については、三次元造形装置1に設けられたダストボックス38に集積させて、定期的に捨ててもよいし、あるいは吸引路を設けて、外部へ排出させてもよい。
【0026】
図3は、一実施形態に係る三次元造形装置のハードウェア構成図である。三次元造形装置1は、制御部100を有する。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)あるいは回路などによって構築されており、図3に示すように各部と電気的に接続されている。
【0027】
三次元造形装置1には、吐出モジュール10のX軸方向位置を検知するX軸座標検知機構が設けられている。X軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてX軸駆動モータ32の駆動を制御して、吐出モジュール10を目標のX軸方向位置へ移動させる。
【0028】
三次元造形装置1には、吐出モジュール10のY軸方向位置を検知するY軸座標検知機構が設けられている。Y軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてY軸駆動モータ33の駆動を制御して、吐出モジュール10を目標のY軸方向位置へ移動させる。
【0029】
三次元造形装置1には、造形テーブル3のZ軸方向位置を検知するZ軸座標検知機構が設けられている。Z軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてZ軸駆動モータ36の駆動を制御して、造形テーブル3を目標のZ軸方向位置へ移動させる。
【0030】
このように、制御部100は、吐出モジュール10および造形テーブル3の移動を制御することにより、吐出モジュール10および造形テーブル3の相対的な三次元位置を、目標の三次元位置に移動させる。
【0031】
さらに、制御部100は、エクストルーダ11、冷却ブロック12、吐出ノズル18、レーザ光源21、クリーニングブラシ37、回転ステージRS、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、径測定部103、および温度センサ104の各駆動部に制御信号を送信することで、これらの駆動を制御する。なお、回転ステージRS、側面冷却部39、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、径測定部103、および温度センサ104については後述で説明する。
【0032】
<<加熱方法>>
図4は、下層を加熱する動作の一例を示す模式図である。以下、一実施形態として、レーザを用いて加熱する方法について説明する。
【0033】
吐出モジュール10による上層の造形中、レーザ光源21は、下層における、フィラメントFMが吐出される直前の位置にレーザを照射して再加熱する。再加熱とは、溶融したフィラメントFMが冷却されて固化した後、再度加熱することを表す。再加熱の温度は、特に限定されないが、下層のフィラメントFMが溶融する温度以上であることが好ましい。
【0034】
加熱前の下層温度は、温度センサ104により、センシングされる。温度センサ104の位置は、加熱前の下層面をセンシング可能な任意の位置に配置される。本実施形態では、図4において、レーザ光源21の奥側に温度センサ104が配置されている。加熱前の下層温度を温度センサ104によりセンシングして、センシングの結果に基づいてレーザの出力を調整することで、下層を所定の温度以上に再加熱することができる。別の方法として、再加熱中の下層温度を温度センサ104によりセンシングして、センシングの結果が任意温度以上になるまで、レーザから下層へのエネルギーの入力を行ってもよい。その際は、温度センサ104の位置は、加熱面をセンシング可能な任意の位置に配置する。温度センサ104としては、公知の任意の装置が用いられ、接触式であってもよいし、非接触式であってもよい。
【0035】
下層の表面を再加熱することにより、下層と、下層の表面に吐出されたフィラメントFMとの温度差が小さくなり、下層と吐出されたフィラメントが混ざり合うことで、積層方向の接着性が向上する。
【0036】
図5は、一実施形態における加熱モジュールを造形テーブル3側から見た平面図である。図5において、加熱モジュール20は、回転ステージRSに取り付けられている。回転ステージRSは、吐出ノズル18を中心に回転する。レーザ光源21は、回転ステージRSの回転に伴い回転移動する。これにより、レーザ光源21は、吐出ノズル18の移動方向が変わっても、吐出ノズル18による吐出位置に先回りしてレーザ光を照射することができる。
【0037】
図6は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。以下、吐出モジュール10により造形中の層を上層Ln、造形中の層の一つ下の層を下層Ln-1、下層Ln-1の一つ下の層を下層Ln-2と表す。図6中の矢印は、吐出モジュールの移動経路(ツールパス)を示す。図6以降では、吐出モジュールのツールパスが分かるように、吐出されたフィラメントを楕円柱で表している。このため、フィラメントとフィラメントとの間に空隙が形成されているが、実際は、強度の点で空隙が形成されないように造形することが好ましい。
【0038】
図6の(A)は、下層を再加熱せずに上層を形成するときの造形物を示す模式図である。下層Ln-1を再加熱せずに上層Lnを形成すると、下層Ln-1が固化した状態で上層Lnを形成できるため、外形面OSの変形は、生じない。ただし、この場合、上層Lnと下層Ln-1との間で十分な接着強度が得られない。
【0039】
図6の(B)は、下層を再加熱しながら上層を形成するときの造形物を示す模式図である。下層Ln-1を再加熱しながら上層Lnを形成すると、下層Ln-1が溶融した状態で、上層Lnを形成できるため外形面OSが変形する。
【0040】
図6の(C)は、下層を再加熱しながら上層を形成するときの造形物を示す模式図である。図6の(C)の例では、モデル部Mの下層Ln-1を再加熱しながら上層Lnを形成しても、サポート部Sによりモデル部Mは支えらえるため、モデル部Mの外形面OSは変形しない。
【0041】
本実施形態では、下層Ln-1を部分的に再溶融させた状態で上層Ln層を形成する。これにより、上層Lnと、下層Ln-1との間の高分子の絡み合いが促進され、造形物の強度が向上する。また、再溶融の条件を適切に設定することで、形状精度とモデル部の積層方向強度の両立を図ることができる。以下、本実施形態における、再溶融領域の設定例と、その効果について説明する。
【0042】
なお、モデル材とサポート材とは、同じ材料であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、モデル部Mとサポート部Sとを同じ材料で形成した場合でも、これらの界面の強度をコントロールすることで、造形後に分離することができる。
【0043】
図7は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。図7の(A)の造形方法では、三次元造形装置1は、下層Ln-1におけるモデル部Mの表面および、サポート部Sにおける外周部を除く表面を再加熱し、再溶融部RMを形成して、上層Lnを形成する。この方法によると、モデル部Mにおける外形面OS側の領域を再溶融させて造形するので、層間の接着性が向上し、積層方向の強度が向上する。また、外形面OS側を溶融させることで、サポート部Sとモデル部Mとの造形中の剥がれが生じにくくなり、造形精度が向上する。ただし、サポート部Sとモデル部Mとの接着性が高くなりすぎると、造形後のサポート部Sの離形性が低下する。さらに、加熱温度によっては、モデル部Mの中にサポート部Sが混ざり合うことで、モデル部Mの強度が減少することもある。材料の混ざり合いは、積層面に対し非接触により加熱する方法を用いたり、接触して加熱する場合には、接触部材の動きを工夫したり、接触部材をクリーニングしたりすることで、防止することができる。また、サポート部Sの離形性については、サポート材として、モデル材と異なる材料であり、モデル材よりも融点が低い材料を用いることで、改良される。
【0044】
図7(B)の造形方法では、三次元造形装置1は、モデル材およびサポート材を用いてサポート部Sを形成する。この場合、三次元造形装置1は、サポート部Sにおけるモデル部M側の領域Ssにサポート材を配置し、外周側の領域Smにモデル材を配置する。この場合、三次元造形装置1は、モデル部Mおよびサポート部Sにおける領域Smをモデル材により形成し、続いて、モデル材の隙間にサポート材を流し込むことで造形してもよい。続いて、三次元造形装置1は、下層Ln-1におけるモデル部Mの表面、ならびにサポート部Sの外周部を除く表面を再加熱しながら上層Lnを形成する。
【0045】
図7(B)の造形方法は、サポート部Sの離形性に優れる場合に適している。また、図7(B)の造形方法は、領域Ssの形状精度や構造体としての強度が低い場合でも、領域Smが、領域Ssを支えることで、領域Ssの形状精度や強度を補える点で好ましい。
【0046】
図7の(C)の造形方法では、三次元造形装置1は、モデル部Mにおける外形面OS近傍を除く表面を再加熱しながら上層Lnを形成する。この方法によると、再溶融時に、モデル部Mの熱はサポート部Sに伝わりにくいので、サポート部Sの形状が安定する。図7の(C)の造形方法は、モデル部Mの形状を維持しやすく、モデル部Mとサポート部Sとの離形性を確保しやすい点で有効であるが、モデル部Mの表面の全体を再溶融する造形方法と比較すると、積層方向の強度は弱くなる。従って、図7の(C)の造形方法は、内部構造が強固な造形物を造形する場合や、造形精度や離形性に重点を置く場合に有効である。
【0047】
図8は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。図8の(A)の造形方法は、モデル部Mの表面における再溶融しない領域を外形面OSからより離れた位置まで広げて、再溶融部RMをより小さくした点で図7の(C)の造形方法と異なる。図8の(A)の造形方法によると、図7の(C)の造形方法と比較して、サポート部Sの形状が安定するので、モデル部Mの形状を維持できる点でより有効である一方で、モデル部Mにおける積層方向の強度はより小さくなる。
【0048】
図8の(B)の造形方法は、モデル部Mにおける外形面OS近傍まで下層Ln-1の表面を再加熱する点で、図7の(C)の造形方法と異なる。図8の(B)の造形方法は、モデル材よりもサポート材の融点が高い場合に有効である。図8の(B)の造形方法によると、図7の(C)の造形方法と比較して、モデル部Mにおける積層方向の強度が大きくなる。
【0049】
図8の(C)の造形方法では、三次元造形装置1は、先に上層Lnのサポート材を吐出してサポート部Sを形成してから、下層Ln-1のモデル部Mを再溶融させて、上層Lnのモデル部Mを形成する。サポート部Sは、造形後に最終的には除去されるため、造形中に剥がれない程度の強度を有していればよく、モデル材ほどの強度は要求されない。このため、サポート材としては、モデル材もより高精度に積層可能な材料を選択することが好ましい。下層Ln-1が固化している状態で上層Lnのサポート部Sを形成することで、サポート部Sの造形精度は向上する。図8の(C)の造形方法によると、サポート部Sとモデル部Mとを独立して形成する。このため、三次元造形装置1は、サポート部Sの積層ピッチをモデル部Mの積層ピッチよりも細かくすることもできる。例えば、図8の(C)の構成では、サポート部の積層ピッチは、モデル部Mの積層ピッチの1/2となっている。溶融したモデル材はサポート部Sの形状にならうため、サポート部Sの積層ピッチを細かくすることで、モデル部Mの外形面OSがより滑らかになる。モデル部Mに比べサポート部Sの方が精度よく造形できる場合には、図8の(C)の方法は好適である。
【0050】
図9は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。図9の(A)の造形方法は、先に上層Lnにおけるサポート部Sを形成してから、上層Lnにおけるモデル部Mを形成する点で、図8の(B)と異なる。モデル材よりもサポート材の融点が高い場合、モデル部Mにおける外形面OSの近傍まで加熱しても、サポート部Sは溶融しない。図9の(A)の造形方法によると、離形性に優れ、積層方向の強度が高い造形物が得られ、造形精度が向上する。
【0051】
図9の(B)の造形方法は、先に上層Lnにおけるサポート部Sを形成してから、上層Lnにおけるモデル部Mを形成する点で、図7の(B)の方法と異なる。図9の(B)の方法によると、領域Ssの形状精度や構造体としての強度が低い場合でも、領域Smが、領域Ssを支えることで、領域Ssの形状精度や構造体としての強度を補える。ただし、図9の(B)の造形方法によると、再溶融時に領域Ssが溶融すると、サポート部Sの離形性が低下することもある。
【0052】
図9の(C)の造形方法は、先に上層Lnにおけるモデル部Mの外周側を形成してから、上層におけるモデル部Mの残りの部分を造形する点で図8の(A)と異なる。図9の(C)の造形方法によると、モデル部Mのみで造形するので、形状が安定し、造形精度が向上する。また、上層Lnにおけるモデル部Mの側面の一部を再溶融させながら造形するためモデル部Mの強度も向上する。
【0053】
図10は、本実施形態における再加熱範囲の一例を示す模式図である。三次元造形装置1は、外形形状維持を目的として、三次元造形物Mにおける外周部を再加熱せず、再溶融部RMを意図的に狭めることで、造形物の形状を維持しつつ、積層間の密着性を向上させる。なお、図10では、フィラメントの形状を示しておらず、造形物形状のみを示している。また、図10に示す造形物は、典型的には、モデル材のものである。図10に示すように再溶融部RMを意図的に狭めることにより、内側で積層間の密着性を向上させることができる一方で、三次元造形物Mの外形を乱すことがないので、造形品質の維持を図ることができる。
【0054】
一方、図10に示すように再溶融部RMを意図的に狭めると、三次元造形物Mの形状を維持することができる一方で、外周部が再溶融されないため、外周部における積層間の密着性の向上が充分に図れない可能性がある。
【0055】
図11は、本実施形態における再加熱範囲の他の例を示す模式図である。なお、図11でも、図10と同様に、フィラメントの形状を示さず、造形物形状のみを示しており、また、図11に示す造形物も、典型的には、モデル材のものである点に留意されたい。三次元造形装置1は、三次元造形物Mの形状の外周部の強度の向上を目的として、三次元造形物Mにおける外周部を含めて再加熱し、再溶融部RMを可能な限り広げることができる。これにより、外周部を含めた積層間の密着性を向上させることができる。この場合には、外周部の再溶融により造形乱れが生じる可能性がある。しかしながら、外周部の強度が向上しているため、形状乱れが生じても二次加工で対応することが可能である。
【0056】
<<機能ブロック>>
以下、図12を参照しながら、適切な再加熱の範囲および再加熱の条件を設定することにより、造形物の積層強度の向上および造形材料の品質の維持の両立を図るための三次元造形装置1の構成について、より詳細に説明する。
【0057】
図12は、制御部100の機能ブロックを周辺のコンポーネントとともに説明する図である。なお、図12には、制御部100の周辺コンポーネントとして、吐出ノズル18を含む吐出モジュール10と、回転ステージRSおよびレーザ光源21を含む加熱モジュール20と、Z軸座標検知部114と、X軸座標検知部116と、Y軸座標検知部118とが示されている。
【0058】
Z軸座標検知部114は、造形テーブル3のZ軸方向位置を検知する、上述したZ軸座標検知機構である。X軸座標検知部116およびY軸座標検知部118は、それぞれ、吐出モジュール10および加熱モジュール20のX軸方向位置およびY軸方向位置を検知する、上述したX軸およびY軸座標検知機構である。Z軸座標検知部114、X軸座標検知部116およびY軸座標検知部118の各検知結果は、制御部100に送られる。
【0059】
制御部100は、これらの検知結果に基づいて、Z軸駆動モータ36、X軸駆動モータ32およびY軸駆動モータ33の駆動を制御し、吐出モジュール10および加熱モジュール20と、造形テーブル3との相対的な三次元位置を目標の三次元位置に移動させる。そして、制御部100は、入力された立体モデルのデータに基づいて、目標の三次元位置で、吐出ノズル18から溶融状態のフィラメントFMを吐出させる。
【0060】
本実施形態による制御部100は、加熱制御部110を含み構成され、加熱制御部110は、フィラメントFMの吐出に際して加熱モジュール20による造形材料層の再加熱を制御する。加熱制御部110は、再加熱においては、加熱モジュール20のレーザ光源21からレーザ光を照射させ、造形中の上層Lnの下にある下層Ln-1を再加熱する。なお、図5を参照しながら説明したように、レーザ光源21は、回転ステージRSにより、吐出ノズル18による吐出位置に先回りして、下層におけるフィラメントFMが吐出される直前の所定位置にレーザ光を照射するよう構成されているものとして、以下説明を続ける。
【0061】
加熱制御部110は、入力された立体モデルをデータ解析する造形データ解析部112を含み構成される。ここで、立体モデルのデータは、立体モデルを所定間隔でスライスしたときの層毎の画像データを含み構成されるものであり、この層毎の画像データを造形データDと参照する。造形データ解析部112は、各層毎に、造形データDを解析し、形成中の上層Lnに対する下層Ln-1における再加熱を行う範囲(再加熱範囲)および再加熱範囲内の各位置座標での再加熱の際の条件(再加熱条件)を適宜決定する。
【0062】
再加熱範囲および再加熱条件は、造形が完了した最も上の層(下層Ln-1)の造形データ、および、造形が完了していない層のうちの最も下の層(上層Ln)の造形データに基づいて決定することができる。再加熱範囲および再加熱条件は、好ましくは、下層Ln-1の下にある1以上の下層(Ln-2,Ln-3…)の造形データを考慮して決定してもよい。再加熱範囲としては、上述したように、外周部を含めず、あるいは、外周部を含めて、下層Ln-1においてその上に上層Lnが形成される領域が決定される。なお、造形が完了した層(Ln-1,…)の造形データに代えて、造形済みの構造を三次元形状測定して得られる形状測定データを用いてもよい。
【0063】
造形データ解析部112により再加熱範囲および再加熱条件を決定すると、加熱制御部110は、造形テーブル3に対する加熱モジュール20の相対位置座標(これに基づいて加熱モジュール20によって加熱される所定位置が定められる。)に応じて、レーザ光源21の出力を調整する。レーザ光源21の出力を調整することで、下層を所定の温度範囲内で再加熱することができる。
【0064】
図13は、レーザ装置を加熱手段として用いる場合に、レーザ光源21の出力(加熱量)を調整するための方法を説明する模式図である。レーザ装置を用いて光エネルギーによって造形材料層を加熱する特定の実施形態においては、加熱制御部110は、レーザ光源21の単位時間当たりの駆動時間およびレーザ光源21の駆動電流のいずれか一方または両方を変化させることにより、レーザ光源21による加熱量を制御することができる。
【0065】
単位時間当たりの駆動時間を制御する駆動時間制御では、チャート300に模式的に示すように、レーザの発光タイミングTONや消灯タイミングTOFFを制御することで、単位時間あたりにレーザ光が下層を照射する正味の時間の比率(TON/T;T=TON+TOFF)が調整される。単位時間あたりの照射時間の比率(デューティ比)を増加させると加熱量が増加する。このような駆動時間制御は、一般的には、PWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる。駆動時間制御では、レーザを駆動する駆動電流が同一であっても、単位時間あたりの照射時間を変更することで加熱量をコントロールすることができる。
【0066】
レーザ光源21の駆動量を制御する駆動量制御では、チャート302で模式的に示すように、レーザを駆動する電流値を調整することでレーザ光の光量が調整される。駆動電流を増大させると加熱量が増加する。なお、駆動電流制御では、デューティ比が同一であっても、駆動電流を制御することで加熱量をコントロールすることができるが、駆動電流制御と駆動時間制御とを組み合わせて使用してもよい。
【0067】
ここで、再び図12を参照する。図12には、制御部100の周辺コンポーネントとして、さらに、温度センサ104が示されている。温度センサ104は、下層Ln-1において再加熱される部位の温度を計測する。
【0068】
特定の実施形態においては、温度センサ104は、加熱前の下層温度を計測することができる。この場合、加熱制御部110は、温度センサ104により計測された加熱前の下層温度の測定値に基づいて、レーザの出力をさらに調整することで、より精度高く下層の再加熱を制御することができる。例えば、加熱前の下層温度が比較的低い場合は、加熱量を大きい側に補正することで、所定の温度範囲の下限を下回りにくくし、一方、加熱前の下層温度が比較的高い場合は、加熱量を小さい側に補正することで、所定の温度範囲の上限を上回りにくくする。
【0069】
さらに別の特定の実施形態では、温度センサ104は、再加熱中の下層温度を計測することができる。加熱制御部110は、温度センサ104により計測された加熱中の下層温度の測定値に基づいて、レーザ光源21から下層へのエネルギーの入力を行うことで、所定の温度範囲に収まるように下層を再加熱することができる。例えば、加熱中の下層温度が目標温度よりも低い場合は、加熱量を増加させることで、目標温度に近づけ、加熱中の下層温度が目標温度よりも高い場合は、加熱量を減少させて目標温度に近づける。このような加熱中の下層温度を測定する温度センサ104としては、例えば、サーモグラフィカメラなどで実現することができる。
【0070】
<<処理および動作>>
続いて、一実施形態における三次元造形装置1の処理および動作について説明する。図14は、一実施形態に係る造形処理を示すフロー図である。
【0071】
三次元造形装置1の制御部100は、立体モデルのデータの入力を受け付ける。立体モデルのデータは、立体モデルを所定間隔でスライスしたときの層ごとの画像データによって構築される。
【0072】
三次元造形装置1の制御部100は、X軸駆動モータ32またはY軸駆動モータ33を駆動して吐出モジュール10をX軸またはY軸方向に移動させる。吐出モジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、最下層の画像データに基づいて、吐出ノズル18から造形テーブル3へ溶融状態または半溶融状態のフィラメントFMを吐出させる。これにより、三次元造形装置1は、造形テーブル3上に画像データに基づいた形状の層を形成する(ステップS11)。
【0073】
吐出モジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、造形が完了していない層のうち最も下の層の画像データに基づいて、レーザ光源21からレーザを照射させる。これにより、下層におけるレーザ照射位置が再溶融する(ステップS12)。なお、制御部100は、図7の(C)、図8の(A)、(C)、図9の(C)の造形方法のように、画像データの示す範囲の内部にレーザを照射させてもよい。あるいは、制御部100は、例えば、図7の(A)、(B)、図9の(B)の造形方法のように、画像データの示す範囲を超えて、レーザを照射させてもよい。ステップS12における下層の加熱温度は、フィラメントの溶融温度以上に制御される。
【0074】
吐出モジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、造形が完了していない層のうち最も下の層の画像データに基づいて、吐出ノズル18から造形テーブル3上の下層へフィラメントFMを吐出させる。これにより、下層の上に、画像データに対応する形状を有する層が形成される(ステップS13)。このとき、下層は再溶融しているので、造形する層と下層の層間の界面の接着性が向上する。
【0075】
なお、ステップS12における下層を再溶融させる処理と、ステップS13における層の形成処理と、をオーバーラップさせてもよい。この場合、三次元造形装置1は、下層にレーザを照射する処理を開始してから、照射範囲全体へのレーザの照射が完了する前に、フィラメントFMの吐出を開始する。
【0076】
三次元造形装置1の制御部100は、ステップS13で形成された層が最表層であるか判断する(ステップS14)。最表層とは、立体モデルのデータのうち、積層方向(Z軸)の座標が最も大きい画像データに基づいて形成される層である。ステップS14でNOと判断された場合、三次元造形装置1の制御部100は、最表層が形成されるまで、再溶融の処理(ステップS12)と、層形成の処理(ステップS13)と、を繰り返す。
【0077】
最表層の形成が完了すると(ステップS14のYES)、三次元造形装置1は、造形処理を終了する。
【0078】
<<図10に示すような再加熱範囲を設定する特定の実施形態>>
図10を参照して説明したように、再溶融部RMを意図的に狭めることにより、内側で積層間の密着性を向上させることができる一方で、三次元造形物Mの外形を乱すことがないので、造形品質の維持を図ることができる。そこで、本実施形態では、造形データに基づいて、加熱される下層の加熱量を調節するように制御する。例えば、下層のうち、溶融させる領域(再溶融部RM)と溶融させない領域(外周部)とでは、異なる加熱量で制御する。また、再溶融部RMであっても、その位置に応じて、加熱量を制御してもよい。
【0079】
以下では、下層の各位置における好ましい加熱量について説明する。図15は、図10の三次元造形物Mの最表面を加熱する例を示す図である。図15(A)は、レーザ光の照射位置のツールパスの例を示し、図15(B)では、レーザ光の照射によって溶融した領域を濃い色で示している。以下の説明では、適宜図15を参照し、図15に示すモデルMの最表面に上層を造形するために、下層を加熱して溶融する場合を例に説明する。また、吐出モジュール10の移動に追随して、レーザ光の照射位置を移動させながら加熱する場合に説明する。
【0080】
上述したように、外形の崩れを防止するためには、図15(A)の外周部は、溶融させないことが好ましい。したがって、下層の加熱に際して、加熱制御部110は、外周部を加熱しないようにレーザ光源21の出力を制御する。または、吐出モジュール10と連動するレーザ光源21の照射位置が外周部にある場合には、加熱制御部110は、溶融しない程度に加熱量を低減するようにレーザ光源21を制御してもよい。レーザ光源21の出力の制御については、後述する。
【0081】
また、再溶融部RMを加熱する場合には、加熱制御部110は、レーザ光が所定の加熱量で出力されるように制御する。下層の加熱に際して、直近かつ直前に加熱をしていない箇所を加熱する場合には、温度が上昇しにくい。したがって、図15(A)のツールパスPに沿って加熱する場合には、加熱開始端部、すなわち、外周部と再溶融部RM左側との境界部は、所定の加熱量よりも大きい加熱量で加熱されることが好ましい。以下では、再溶融部RMのうち、加熱開始端部と、加熱終了端部とを除いた領域を、再溶融部RMの内部として参照する。
【0082】
加熱開始端部を加熱した後、加熱制御部110は、所定の加熱量で以てレーザ光を出力し、レーザ光の照射位置がツールパスPに沿って再溶融部RMの内部を移動するように制御する。レーザ光の照射位置が、加熱終了端部、すなわち、外周部と再溶融部RM右側との境界部の近傍まで移動した場合には、加熱制御部110は、外周部を溶融させないようにレーザ光源21の出力を制御する。具体的には、加熱制御部110は、外周部が溶融しない程度に加熱量を低減するようにレーザ光源21の出力を制御する。または、加熱終了端部の近傍が充分に加熱されている場合には、レーザ光の照射による加熱を終了してもよい。
【0083】
このように、加熱される範囲の形状や位置に応じて、レーザ光源21の出力を制御することで、再溶融部RMを適切に溶融させることができ、積層間の密着性を向上できる。また、下層の外周部は溶融されないので、外形の崩れを防止できる。
【0084】
以下では、図16を参照して、再溶融部RMを適切に溶融させるように制御するための具体的な加熱制御方法について説明する。図16は、本実施形態における加熱制御部110が加熱手段の動作を制御するタイミングチャートである。以下の説明では、図15に示したように、照射位置を三次元造形物M内のツールパスPに沿って移動させて加熱する場合を例に説明する。
【0085】
造形データ解析部112は、造形データDに応じて、図16のような、再加熱条件を示すタイミングチャートを生成する。加熱制御部110は、タイミングチャートの条件に基づいて、加熱手段を制御する。
【0086】
図16(A)では、レーザ光源21のオン/オフの切り替えと、照射位置の移動の有無によって加熱量を制御する。例えば、吐出モジュール10が外周部にあるために加熱が不要であるような場合には(加熱開始時以前)、レーザ光源21をオフ状態とする。その後、再溶融部RMの加熱を開始する時点で、加熱開始端部の加熱を開始する。上述したように、加熱開始端部近傍は、直近かつ直前に加熱をしていないことから、温度が上昇しにくい。したがって、加熱開始端部近傍では、加熱量を大きくすることが好ましい。レーザ光を照射することによる加熱では、1つの箇所に対してレーザ光の照射を継続すると、時間の経過とともに材料の温度が上昇する。したがって、レーザ光を照射する位置を固定することで、加熱量を増大させることができる。
【0087】
本実施形態では、再溶融部RMの加熱開始端近傍ではレーザ光源21をオン状態とし、かつ、加熱位置を一定時間固定して加熱する。図16(A)の例では、加熱開始時から時刻tまで加熱位置を加熱開始端近傍に固定している。これによって、温度が上昇しにくい加熱開始端部であっても、比較的短時間で加熱できる。なお、加熱位置固定期間は、材料の物性、周囲温度、形状などの種々の環境に依るものであり、あらかじめ実験やシミュレーションによって求めておいてもよい。
【0088】
加熱開始端部を加熱した後(時刻t経過後)、加熱制御部110は、照射位置をツールパスPに沿って移動させるように、レーザ光源21を制御する。このとき、加熱制御部110は、造形データに基づく所定の速度で照射位置を移動させることで、再溶融部RMを溶融させることができる。
【0089】
時間の経過に伴って、照射位置が加熱終了端部の近傍まで移動すると、外周部の溶融を防止するために、レーザの出力を低下させて、加熱量を低減させる。また、加熱終了端部の近傍が充分に加熱されている場合には、図16(A)に示すように、加熱終了端部に到達する前に、レーザの出力をオフとしてもよい。加熱量を低減したり、レーザをオフとすることで、外形の崩れを防止し、造形品質の劣化を抑制できる。
【0090】
また、図16(B)では、駆動時間制御によって加熱量を制御する。この方法では、図13のチャート300のように、レーザの発光タイミングTONや消灯タイミングTOFFを制御する。図13にて説明したように、PWM制御において、デューティ比を増加させると加熱量が増加する。
【0091】
具体的には、加熱制御部110は、レーザ光の照射位置を加熱開始端部から加熱終了端部へ移動させつつ、時間の経過に伴って、デューティ比が低下するように制御する。例えば、温度が上昇しにくい加熱開始端部近傍では、加熱量が大きくなるように、デューティ比を増加させる。再溶融部RMの内部を加熱する場合には、一定のデューティ比を保ちながら、照射位置を移動させる。加熱終了端部近傍では、加熱量が小さくなるように、デューティ比を低下させる。また、加熱終了端部近傍では、図16(A)と同様に、オフ状態の時間を継続させ、加熱を終了してもよい。
【0092】
これによって、加熱開始端部では加熱量を大きくでき、加熱終了端部近傍では加熱量を小さくできる。したがって、外周部を溶融させることなく下層を加熱できるので、外形の崩れによる造形精度の劣化を防止できる。
【0093】
さらに、図16(C)では、レーザ光源21の駆動電流によって加熱量を制御する。この方法では、図13のチャート302のように、レーザを駆動する駆動電流を制御する。レーザ光源21の出力は、電流量に比例するため、加熱量を大きくする場合には、電流量を大きくしてレーザ光を照射し、加熱量を小さくする場合には、電流量を小さくしてレーザ光を照射する。
【0094】
具体的には、加熱制御部110は、レーザ光の照射位置を加熱開始端部から加熱終了端部へ移動させながら、電流量を制御する。例えば、温度が上昇しにくい加熱開始端部近傍では、加熱量が大きくなるように、電流量を大きくする。図16では、加熱開始端部では電流量がIpeakとなるように制御されており、これにより、加熱開始端部を、短時間で加熱することができる。その後、照射位置が加熱開始端部から再溶融部RMの内部に向かって移動する。このとき、時間の経過とともに、電流量を低下させる。照射位置が再溶融部RMの内部にある場合には、一定の電流量でレーザ光源21を駆動させながら、加熱終了端部へ向かって照射位置を移動させる。加熱終了端部近傍では、加熱量が小さくなるように、時間の経過に伴って、電流量を低下させながら、照射位置を移動させる。
【0095】
これによって、加熱開始端部では加熱量を大きくでき、加熱終了端部近傍では加熱量を小さくできる。したがって、外周部を溶融させることなく下層を加熱できるので、外形の崩れによる造形精度の劣化を防止できる。
【0096】
本実施形態によれば、加熱される層の形状や位置に基づいて加熱量を制御できるので、再溶融部RMを適切に加熱できる。したがって、外形の崩れによる造形精度の劣化を防止できる。
【0097】
<<<実施形態の変形例A>>>
続いて、実施形態の変形例Aについて上記の実施形態と異なる点を説明する。図17は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
【0098】
実施形態の変形例Aにおいて、加熱モジュール20は、温風源21´を有する。温風源21´としては、ヒータおよびファンが例示される。実施形態の変形例Aにおいて、温風源21´は、高温の温風を吹き付けることにより下層を加熱して、再溶融させる。実施形態の変形例Aにおいても、再溶融させた下層にフィラメントFMを吐出して上層を形成することで、下層と上層の材料が混ざり合い、上層と下層の接着性が向上する。
【0099】
<<<実施形態の変形例B>>>
続いて、実施形態の変形例Bについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。図18は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
【0100】
実施形態の変形例Bにおいて、三次元造形装置1の加熱モジュール20は、加熱モジュール20´に置き換えられる。加熱モジュール20´は、三次元造形物Mにおける下層を加熱および加圧する加熱プレート28と、加熱プレート28を加熱する加熱ブロック25と、加熱ブロック25からの熱伝導を防ぐための冷却ブロック22と、を備える。加熱ブロック25は、ヒータなどの熱源26と、加熱プレート28の温度を制御するための熱電対27と、を備える。冷却ブロック22は、冷却源23を備える。加熱ブロック25と冷却ブロック22との間には、ガイド24が設けられている。
【0101】
加熱モジュール20´は、装置左右方向(図1中の左右方向=X軸方向)に延びるX軸駆動軸31(X軸方向)に対し、連結部材を介して、スライド移動可能に保持されている。加熱モジュール20´は、加熱ブロック25によって加熱されて高温になる。その熱がX軸駆動モータ32に伝わるのを低減するため、フィラメントガイド14等を含めた移送路またはガイド24は、低熱伝導性であることが好ましい。
【0102】
加熱モジュール20´において、加熱プレート28の下端は、吐出ノズル18の下端よりも、1層分低くなるように配置されている。吐出モジュール10および加熱モジュール20を、図18に示す白抜き矢印方向に走査しながら、フィラメントを吐出すると同時に、加熱プレート28は、造形中の層の一つ下の層を再加熱する。これにより、造形中の層と、一つ下の層との温度差が小さくなり、層間で材料が混ざり合うので、造形物の層間強度が向上する。なお、加熱した層を冷却する方法としては、雰囲気温度を設定する方法、所定の時間放置する方法、もしくは、ファンなどを利用する方法などが例示される。
【0103】
実施形態の変形例Bによると、層間の材料を物理的に混ぜる事で、層間の界面の密着力を向上させることができる。また、実施形態の変形例Bによると、造形物の外形を崩さずに、選択的に下層を加熱し、下層が再溶融している間に次の吐出を行うことで、界面の密着力が向上する。
【0104】
<<<実施形態の変形例C>>>
続いて、実施形態の変形例Cについて、上記の実施形態の変形例Bと異なる点を説明する。図19は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
【0105】
実施形態の変形例Cにおいて、加熱モジュール20´における加熱プレート28は、タップノズル28´に置き換えられる。タップノズル28´は、加熱ブロック25によって加熱される。タップノズル28´は、モータ等の動力により、三次元造形物Mを垂直上方から繰り返しタップするタップ動作により、三次元造形物Mにおける下層を加熱し加圧する。これにより、造形中の層と、一つ下の層との温度差が小さくなり、層間で材料が混ざり合うので、造形物の層間の強度が向上する。タップ動作後、吐出ノズル18からは、タップ動作によって凹んだ下層の表面を埋めるようにフィラメントFMを吐出する。下層の凹んだ部分がフィラメントFMによって埋められることで、最表面の形状が平滑に仕上がる。
【0106】
<<<実施形態の変形例D>>>
続いて、実施形態の変形例Dについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。図20は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
【0107】
実施形態の変形例Dにおいて、加熱モジュール20には、三次元造形物Mの側面、すなわちZ軸に対し平行な面を冷却する側面冷却部39が設けられている。側面冷却部39としては、三次元造形物Mの側面を冷却可能な冷却源であれば特に限定されないが、ファンが例示される。
【0108】
外形を維持する処理を行うことなく、三次元造形物Mにおける外周部を再加熱すると、外形が崩れ、造形精度が劣化する。そこで、実施形態の変形例Dでは、三次元造形物Mの側面に冷却風を当てつつ、三次元造形物Mの外周部を再加熱することで、造形部の形状を維持しつつ、材料を積層することができる。
【0109】
<<<実施形態の変形例E>>>
続いて、実施形態の変形例Eについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。
【0110】
下層、あるいは造形空間を加熱しながら造形すると、三次元造形物Mにおける加熱部の粘性が下がることで、外形が崩れて、造形精度が失われることがある。一方、下層、あるいは造形空間を加熱せずに造形すると、三次元造形物Mの粘性は高くなるが、積層方向の強度の維持が困難となる。そこで、実施形態の変形例Eでは、材料構成を偏在させたフィラメントを用いて造形する。
【0111】
図21は、材料構成を偏在させたフィラメントの一例を示す断面図である。図21の(A)の例では、フィラメントFの両側に高粘性の樹脂Rhが配置され、中心部には低粘性の樹脂Rlが配置されている。
【0112】
フィラメントFの両側に配置される高粘性の樹脂Rhとしては、特に限定されないが、アルミナ、カーボンブラック、カーボンファイバー、ガラスファイバー等といったフィラーを配合することで高粘性とした樹脂が例示される。フィラーが所望の機能を阻害する場合は、高粘性の樹脂Rhとして、分子量をコントロールした樹脂を用いてもよい。
【0113】
フィラメントFの中心部に配置される低粘性の樹脂Rlとしては、特に限定されないが低分子量グレードである樹脂が例示される。
【0114】
図22は、図21のフィラメントの吐出物の断面図である。図23は、図21のフィラメントを用いて造形される造形物の断面図である。図21の(A)のフィラメントを吐出することで、図22の(A)の形状の吐出物が得られ、図23の造形物が得られる。図23の造形物において、外周部には高粘性の樹脂が配置されるため、必然的に造形物が崩れにくくなる。
【0115】
図21の(B)は、材料構成を偏在させたフィラメントの他の一例を示す。図21の(B)のフィラメントを吐出することで、図22の(B)の形状の吐出物が得られる。このように、図21の(B)のフィラメントを用いても、外周部に粘性の高い樹脂が配置された造形物が得られる。加えて、製造方法の観点でも低粘性樹脂を包み込む本構成の方が、図22の(A)の構成よりもフィラメントを作りやすいといったメリットもある。
【0116】
ただし、図22の(B)のフィラメントを用いる際は、層の下部も粘性の高い状態となる。粘性の高い樹脂は、粘性の低い樹脂と比較して融点が高い場合が多い。高温で下層を再溶融させたときに、溶融した樹脂が水平方向に移動することを防ぐため、造形物の外周部の加熱を避けることが好ましい。このため、加熱手段としては、小スポットで加熱できるレーザ等が好ましい。
【0117】
外周部の積層方向密着力を向上させるため、外周部を加熱する場合には、造形物の横から板などを直接当てる形で加熱すると良い。これにより、粘度低下による樹脂の水平方向の移動は規制される。図24は、規制手段を有する三次元造形装置の一例を示す模式図である。
【0118】
図24の例では、三次元造形装置1には、規制手段の一例としてアシスト機構41が設けられている。FFF方式においては、1層の厚みは0.10~0.30mm程度である。そのため、アシスト機構41における板はシックネスゲージのような薄い板となる。アシスト機構41は、吐出モジュール10、あるいは、吐出モジュール10に対し間接的に固定されたブラケットに固定される。
【0119】
アシスト機構41における板は、常温よりも高い温度に加熱されていることが好ましい。用いる樹脂にもよるが、結晶性樹脂の場合は、常温の板が当たると急冷されることにより、アモルファス化が進行し、所望の強度が得られなくなることがある。
【0120】
一般的に粘度は、温度およびせん断速度の関数で表される。熱溶解積層法(FFF)で用いられるエンプラ(Engineering plastic)、あるいは、スーパーエンプラ等は、温度あるいはせん断速度などの変数に対して非線形挙動を示すので、樹脂の融点Tm以上でなくても、FFF方式で必要なせん断抵抗、すなわち、樹脂の粘度が得られることがある。一方で、Tm以上の領域において所望のせん断速度(S.Rate)における粘度が低すぎる場合はノズルからの液垂れ、フィラメント引き込み(リトラクト動作)時における引き込み不足、それに付随する吐出初期のショートショット、造形物の崩れ等といった課題が生じる。
【0121】
Tm以上の所定の温度の樹脂において、一般的には、S.Rate=0、すなわち、非吐出動作時に、当該温度における最も粘度が高い状態となる。この状態でも液垂れするような場合は、フィラーによる樹脂のコンポジット化が、液垂れを防止するための、有効な手段となり得る。樹脂にフィラー添加して、配合比、あるいは、配合するものの粒度/繊維長分布等をコントロールすることで、溶融時のチキソトロピー性が付与され、非吐出動作時には垂れにくく、吐出動作時には粘性の低い状態となる。
【0122】
下層温度の上昇に付随して生じやすい造形物の崩れにおいても、フィラメントにフィラーを添加する方法は好適である。フィラーの添加によっても、造形精度を保てない場合は、造形物の側面を規制することが好ましい。
【0123】
<<<実施形態の変形例F>>>
続いて、実施形態の変形例Fについて、上記の実施形態の変形例Eと異なる点を説明する。
【0124】
材料構成を偏在させたフィラメントを用いる場合、造形物の外周部に高粘性の樹脂Rhが配置されるように、吐出モジュール10へ導入されるフィラメントの方向を規制することが好ましい。
【0125】
図25は、フィラメントの方向を規制する処理の一例を示すフロー図である。三次元造形装置1の撮像モジュール101は、吐出モジュール10へ導入されるフィラメントを撮像し、得られた画像データを制御部100へ送信する。
【0126】
制御部100は、撮像モジュール101によって送信されたフィラメントの画像データを受信する(ステップS21)。制御部100は、受信したフィラメントの画像データを解析して回転量を演算する(ステップS22)。回転量の演算方法としては、特に限定されないが、フィラメントFにおける高粘度の樹脂Rhと低粘度の樹脂Rlとの境界が所定の位置となるように、回転量を決定する方法が例示される。例えば、吐出モジュール10をX軸方向に移動させながらフィラメントを吐出する場合、フィラメントにおける高粘度の樹脂RhをY軸の正負方向に偏在させておくことで、造形物における最外殻に高粘性の樹脂が配置される。このため、制御部100は、樹脂RhがY軸の正負方向に偏在した配置となるように、フィラメントの回転量を決定する。
【0127】
制御部100は、決定された回転量に基づいて、フィラメントを回転させるための信号をねじり回転機構102へ送信する。ねじり回転機構102は、信号に基づいてフィラメントを回転させる(ステップS23)。これにより、フィラメントが、所望の方向に規制される。
【0128】
なお、フィラメントの外側に高粘性の樹脂が配置されると、移送路において、フィラメントの壁部側の流速が極端に遅くなり、高粘性の樹脂が滞留することで、所望の配置でフィラメントを吐出できなくことがある。このため、加熱ブロック25よりも搬送経路下流側の領域、すなわち融点以上の温度が付与される領域においては、移送路の内壁は耐熱性の高いフッ素等により加工されていることが好ましい。移送路に離形層が形成されることで、溶融樹脂と移送路の内壁との摩擦抵抗が下がり、高粘性の樹脂の滞留は起こりにくくなる。
【0129】
また、制御部100は、ねじり回転機構102から吐出ノズル18までの区間の搬送のタイムラグを考慮して、制御の遅れを防ぐためフィードフォワード制御を行うことが好ましい。例えば、制御部100は、吐出モジュール10の進行方向が曲がるタイミングで、フィラメントの方向が切り替わるように、ねじり回転機構102の駆動を制御する。また、吐出モジュール10を曲線に進行させる場合も、制御部100は、タイムラグ考慮して段階的にねじり回転機構102の駆動を制御する。
【0130】
なお、フィラメントが極端にねじられている状態だと、リール4から吐出モジュール10の導入部までの経路で絡まる恐れがある。この絡まりをほどくのはユーザーにとっては非常に煩雑である。このため、リール4から導入部まではガイドチューブが導入されていることが好ましい。ただし、極端にフィラメントがねじられている場合は、ガイドチューブとフィラメントの摩擦抵抗が高まり、正常にフィラメントが導入されないこともある。また、ガイドチューブの継ぎ手等の内径の狭いオリフィス部において、フィラメントが削られる恐れがある。また、フィラーが配合された強化フィラメント等においては、樹脂特有の柔軟性が失われていることも多い。このようなフィラメントに、ねじり負荷がかけられるとフィラメントが折れて、正常な造形が出来ないことがある。
【0131】
このため、制御部100は、フィラメントの累積ねじり量を、例えば、基準角度から±180°に規制することが好ましい。
【0132】
また、例えば図22のように、吐出物において樹脂が所望の状態に配置されるように、フィラメントを回転させる機構に代えて、吐出モジュール10の全体を回転可能な機構を用いてもよい。この場合は、熱源16を制御する熱電対17や、熱源16自体の配線、冷却源13の配線、及び、オーバーヒートプロテクター等の複数の配線系も同時に回転することになるため、フィラメントの回転方向よりも配線の観点では煩雑になる。
【0133】
<<<実施形態の変形例G>>>
続いて、実施形態の変形例Gについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。図26は、一実施形態における造形および表面処理動作を示す模式図である。
【0134】
実施形態の変形例Gにおいて、三次元造形装置1は、加熱モジュール20´´を備える。加熱モジュール20´´は、三次元造形物Mを加熱および加圧するホーン30を有する。三次元造形装置1には、超音波振動装置が設けられている。ホーン30は、Z軸駆動モータによって三次元造形物Mにおける積層面の上方から下方へ移動し、積層面に圧力を印加する。これにより、超音波振動装置によって発生させた超音波の振動を、三次元造形物Mに伝達する。三次元造形物Mに超音波の振動が伝達されると、三次元造形物Mにおける上層Lnおよび下層Ln-1が溶着して接合する。三次元造形装置1において、ホーン30の数は、一つに限定されず、適宜選択される。ホーン30が複数設けられる場合、ホーンの形状は、統一されていなくてもよく、異なる形状のホーンが搭載されていてもよい。
【0135】
<<実施形態の主な効果>>
上記実施形態の三次元造形装置1(造形装置の一例)の吐出モジュール10(吐出手段の一例)は、溶融したフィラメント(造形材料の一例)を吐出して、造形材料層を形成する。三次元造形装置1の加熱モジュール20(加熱手段の一例)は、形成された造形材料層を加熱する。吐出モジュール10は、加熱された造形材料層に対し、溶融したフィラメントを吐出することで、造形材料層を積層させて造形する。上記実施形態によると、再溶融し造形材料層(下層)にフィラメントを吐出して造形材料層(上層)を積層させることで、層間の材料が混ざり合うので、造形物における積層方向の強度を向上させることができる。また、上層を積層させる処理により、外形の視認性に影響を与えることなく、造形することができる。
【0136】
三次元造形装置1の加熱モジュール20は、造形材料層の所定の領域を選択的に加熱する。これにより、造形物の形状を維持しながら造形することが可能となる。
【0137】
特に、再加熱する範囲から形状の周縁部を除くことにより、外形乱れの発生が防止される。
【0138】
加熱される層の形状に基づいて加熱量を制御することにより、再溶融部RMを適切に溶融させることができ、積層間の密着性を向上できる。また、下層の外周部は溶融されないので、外形の崩れによる造形精度の劣化を防止できる。
【0139】
三次元造形装置1の回転ステージRS(搬送手段の一例)は、所定位置に対し異なる方向から加熱可能になるよう加熱モジュール20を搬送する。これにより、加熱モジュール20は、吐出モジュール10の移動に追随して、造形材料層を加熱することが可能となる。
【0140】
三次元造形装置1は、加熱モジュール20によって加熱される造形材料層の温度を測定する温度センサ104(測定手段の一例)を備える。加熱モジュール20は、温度センサ104によって測定された温度に基づいて、造形材料層を加熱する。これにより、三次元造形装置1は、層間の接着強度あるいは造形精度などの所望の特性に応じて、適切に造形材料層を再加熱することができる。
【0141】
加熱モジュール20は、レーザ光を照射するレーザ光源21(源照射装置の一例)であってもよい。これにより、加熱モジュール20は、造形物に接触することなく、選択的に造形物を加熱することができる。
【0142】
加熱モジュール20は、加熱した空気を送風する温風源(送風手段の一例)であってもよい。これにより、加熱モジュール20は、造形物に接触することなく、造形物を選択的に加熱することができる。
【0143】
加熱モジュール20´は、造形材料層に接触して加熱する加熱プレート28またはタップノズル28´(部材の一例)であってもよい。これにより、加熱モジュール20´は、造形物を選択的に加熱することができる。
【0144】
三次元造形装置1は、複数の加熱モジュール20を備えていてもよい。これにより、吐出モジュール10の走査方向が変わっても、いずれかの加熱モジュール20により造形物を加熱できるようになるので、造形時間が短縮される。
【0145】
三次元造形装置1の側面冷却部39(冷却手段の一例)は、造形材料により形成される造形物の外周部を冷却する。これにより、三次元造形装置1は、造形物の形状を維持したまま造形することができる。
【0146】
フィラメントには、粘度の異なる複数の材料が配置されている。これにより、吐出モジュール10は、制御部100による制御に基づいて、外周部により粘度の低い材料が配置されるように、フィラメントを吐出することが可能となる。
【0147】
三次元造形装置1のアシスト機構41(支持部材の一例)は、形成された造形材料層を支持する。これにより、形成された造形材料層の形状を維持しながら造形することが可能となる。
【符号の説明】
【0148】
1 三次元造形装置
3 造形テーブル
10 吐出モジュール
18 吐出ノズル
20、20´、20´´ 加熱モジュール
21 レーザ光源
28 加熱プレート
28´ タップノズル
37 クリーニングブラシ
38 ダストボックス
39 側面冷却部
41 アシスト機構
100 制御部
110 加熱制御部
112 造形データ解析部
114、116、118 各軸座標検知部
RS 回転ステージ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0149】
【文献】特開2005-335380号公報
図1
図2
図3
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図5
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