(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/035 20060101AFI20220414BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
B41J2/035
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2018061474
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 聡
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
(72)【発明者】
【氏名】邱 安
(72)【発明者】
【氏名】有馬 崇博
【審査官】四垂 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-064365(JP,A)
【文献】特開昭60-154079(JP,A)
【文献】特開2001-162807(JP,A)
【文献】特開平09-029973(JP,A)
【文献】特開2013-039788(JP,A)
【文献】特開2013-039545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク粒子を帯電させる帯電電極と、
帯電したインク粒子を偏向する偏向電極と、
位相探索用帯電電圧を前記帯電電極にて印加したインク粒子を回収する回収手段と、
回収したインク粒子の帯電量に基づいた位相検出信号を判定する位相判定部と、
一文字の印字が終了し、次の印字をする前の文字間スペース調整用の非印字期間に、前記位相探索用帯電電圧を発生させるように制御をする制御部とを有
し、
前記制御部は、
印字する文字数が、第1の文字数以上であるかを判断し、前記第1の文字数以上である場合には、一文字の印字が終了し、次の印字をする前の文字間スペース調整用の非印字期間に前記位相探索用帯電電圧を発生させるように制御し、
前記位相判定部で判定した位相から最適位相を判断することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、
印字する文字数が、第1の文字数未満である場合には、印字文字数が第2の文字数以上であるかを判断し、印字する文字数が、前記第2の文字数以上で前記第1の文字数未満である場合には、
印字する文字数が前記第1の文字数以上の場合に比べて、前記位相探索用帯電電圧を生成するために励振信号を分割する分割数を少なくするように制御することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のインクジェット記録装置において、
前記制御部は、
印字する文字数が第2の文字数未満の場合には、
印字間で前記位相探索用帯電電圧を発生させるように制御し、
前記位相判定部で判定した位相から最適位相を判断することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインクジェット記録装置において、
前記位相探索用帯電電圧を発生する位相探索用帯電信号発生部を有し、
前記位相探索用帯電信号発生部は、励振信号を16分割した前記位相探索用帯電電圧を生成し、
前記制御部は、
前記文字間スペース調整用の非印字期間に、前記16分割した前記位相探索用帯電電圧を発生するように制御し、前記位相判定部で判定した位相から最適位相を判断することを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関し、特に、文字と文字の間の非印字期間において、最適位相を判断できるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置が、連続印字をする場合に、帯電タイミングを検出して印字の乱れを防ぐ技術として、特許文献1がある。特許文献1は、文字幅調整用インク粒子に位相探索用帯電信号を与えることで、無限印字のアプリケーションにおいて常時最適な帯電タイミングの検出を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
文字幅調整用インクが設定されていない場合において、特許文献1では、位相探索用帯電電圧を、インク粒子に与えることはできず、従来と同様に印字乱れが発生する可能性がある。つまり、特許文献1は、文字幅調整用インク粒子が存在する場合にのみ有効であるが、例えば、高速印字をする際には印字の1スキャンの使用粒子数を削減するために、通常は、文字幅調整用インク粒子を設定しない。この場合でも無限印字のアプリケーションにおいて、最適な帯電タイミングを検出するためには、文字幅調整用インク粒子とは別のインク粒子を活用して位相探索用帯電電圧を印加して最適位相を決定する必要があった。
【0005】
本発明の目的は、文字と文字の間に存在する文字間スペース調整用の非印字期間を利用して、最適位相を判断するインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい一例は、インク粒子を帯電させる帯電電極と、帯電したインク粒子を偏向する偏向電極と、位相探索用帯電電圧を前記帯電電極に印加したインク粒子を回収する回収手段と、回収したインク粒子の帯電量に基づいた位相検出信号を判定する位相判定部と、一文字の印字が終了し、次の印字をする前の文字間スペース調整用の非印字期間に、前記位相探索用帯電電圧を発生させるように制御をする制御部とを有するインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、文字と文字の間に存在する文字間スペース調整用の非印字期間を利用して、最適位相を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】印字中に、非印字用粒子を活用した位相検出を行うための概略図である。
【
図2】インクジェット記録装置の外観斜視図を示す。
【
図4】励振信号と位相探索用帯電電圧の位相関係を示すタイムチャートである。
【
図5】位相検出波形のスレショルドレベルに対する変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、帯電制御型インクジェット記録装置の動作原理を説明する。
帯電制御型インクジェット記録装置において、ポンプにより加圧され、印字ヘッドに圧送されるインクは、圧電素子によって加振されて規則的に切断されて粒子化する。
インク粒子は粒子化の際に帯電された状態でインク流から切断されるため、インク粒子には文字の大きさに応じた帯電がされている。帯電したインク粒子は、飛行中に偏向電極による静電力を受け偏向される。偏向されたインク粒子は、印字ヘッドに対し移動する印字物に付着し、文字(印字ドットマトリクスの文字)を形成する。その際、インク粒子への帯電状態が良好でない場合は、所望の電荷量をインク粒子に帯電させることができず、正確な印字ができない。
【0010】
最適な帯電状態となるインク粒子を生成するために必要となる諸条件のうち最も重要な条件のひとつは、インク柱からインク粒子へと切り替わる際に、帯電電極からインク粒子へ印加される帯電電圧の位相である。
これまでインク粒子への最適な帯電位相の設定条件は、インクジェット記録装置が一回の印字を実行している際には設定できなかった。
【0011】
これは、印字中非印字粒子から最適位相を決定しようとする場合、印字中インク粒子が印字中に前記帯電電極からの帯電電圧による電界の影響、および印字用の帯電電圧が印加された印字用インク粒子からの電界の影響を受けて、非印字用のインク粒子へ所望の位相探索用帯電電圧以外の電気的ノイズが加わり、また印字ヘッド内インク回収経路中にある位相センサに電気的ノイズが加わるためである。
【0012】
インク粒子への最適帯電位相を再度設定するためには、いったん一回の印字を終了させて、位相探索用の帯電電圧が連続的にインク粒子回収用ガターに回収されて、ガター部に設置された位相探索帯電量検出用のセンサで非印字粒子の帯電位相を検出する必要があった。
【0013】
したがって、例えば、一回の印字内容が非常に長大で、加えて、印字対象物を搬送するラインの速度が非常に遅いなどの印字条件下では、一回の印字を開始してから終了するまでに長い時間がかかり、時間経過とともにインク粒子が生成されるタイミングがずれて最適な帯電量が印字用のインク粒子に付与されず印字不良を引き起こす可能性がある、という問題があった。
【0014】
本実施例は、上記した問題を解決して、インクジェット記録装置が一回の印字を実行している際に最適な帯電位相を設定することを可能にし、インクジェット記録装置が印字している際は常に最適帯電位相を維持できるようにしたインクジェット記録装置およびそれを用いた印字方法を提供するものである。
【実施例1】
【0015】
図2に、実施例1に関わるインクジェット記録装置の外観斜視図を示す。インクジェット記録装置は、産業用として生産ライン上の飲料缶、瓶や商品を詰めた袋に直接、賞味期限やバーコードなどを印字するのに使用されている。
【0016】
インクジェット記録装置本体1は、使用者が操作できる位置に設置される。印字ヘッド2は、ベルトコンベア6などの生産ライン上を給送される印字対象物3に近接できる位置に設置される。給送速度によらず同じ幅で印字するために、ベルトコンベア6などの生産ライン上には、給送速度に応じた信号をインクジェット記録装置本体1に出力するエンコーダ5や、印字対象物3を検出してインクジェット記録装置本体1に印字を指示する信号を出力する印字センサ4が設置されていて、それぞれは、インクジェット記録装置本体1内の図示しない制御部に接続されている。エンコーダ5や印字センサ4からの信号に応じて制御部が、
図3に示すように、ノズル14から吐出されるインク粒子19への帯電量や帯電タイミングを制御し、印字対象物3が印字ヘッド2近傍を通過する間に帯電、偏向されたインク粒子19を印字対象物3へ付着させて印字を行うようになっている。
【0017】
<実施例の構成概要>
次に、
図3に、実施例1に係るインクジェット記録装置の構成を示すブロック図を示す。
インクジェット記録装置は、主インク容器7からインク供給ポンプ12によって加圧して供給されるインク8を、ノズル14からインク柱15として噴出し、その先端が分離してインク粒子19となる位置を包囲するように帯電電極18を備える。
【0018】
更に、インクジェット記録装置は、帯電して飛行するインク粒子19を帯電量に応じて偏向し、被印字物(不図示)に差し向けて印字する偏向電界を発生する偏向電極(
図3は、21がグランド電極、22がプラス電極である)と、印字に使用しなかったインク粒子を捕捉する回収用ガター25と、この回収用ガター25で捕捉したインク粒子の中で微少電荷を帯びたインク粒子の帯電量に応じた位相検出信号を発生する位相センサ20を備える。
【0019】
更に、インク供給ポンプ12と回収用ガター25で捕捉したインクを主インク容器7に回収するインク回収ポンプ17を、制御するポンプ駆動回路を設けた。また、前記ノズル14から噴射したインク柱15からインク粒子19に分離するタイミングに規則性をもたせるために、ノズル14に内蔵した電歪素子(不図示)を励振する励振電圧発生回路41を設けた。また、印字用帯電信号発生回路39および位相探索用帯電信号発生回路40を設ける構成とした。つまり、本実施例では、印字用帯電信号発生回路39に加えて位相探索用帯電信号発生回路40を設ける構成とした。しかし、印字用帯電信号発生回路39のみを用いて、
図3のMPU(制御部)が、位相検索用帯電電圧46を発生させるようにし、帯電電極18を用いて帯電量を制御するようにしてもよい。
【0020】
また、印字用帯電信号発生回路39および位相探索用帯電信号発生回路40から出力されるデジタル信号形態の帯電信号をアナログ形態の電圧信号に変換するD/Aコンバータ29を設けた。さらに、D/Aコンバータ29から出力されるアナログ信号形態の電圧信号を増幅して帯電電極に印加する帯電電圧を発生する増幅回路28を設けた。さらに、偏向電極22に印加する偏向電圧を発生する偏向電圧発生回路26を設けた。さらに、本実施例のブロック図には、位相センサ20から出力するアナログ信号形態の位相検出信号を増幅する増幅回路27を設け、増幅された位相検出信号を入力して帯電良否を判定する位相判定回路38と、増幅された位相検出信号を入力してA/D変換するA/Dコンバータ37を備える。
【0021】
このように構成したインクジェット記録装置本体1におけるMPU31は、バスライン42を介してポンプ駆動回路36を制御してインク供給ポンプ12とインク回収ポンプ17を運転することにより、主インク容器7内のインク8を吸引、加圧してノズル14に供給することによりノズル14からインク柱15として噴出させ、回収用ガター25で捕捉したインク粒子を吸引して主インク容器7に回収する。ノズルから噴出するインク柱は、その先端が分離してインク粒子19となる。
【0022】
インク粒子19の帯電量は、インク柱の先端からからインク粒子19が分離するときにインク柱が帯電電極18の電位によって帯電している帯電量に比例する。印字用帯電信号発生回路39は、インク柱15の先端が、インク粒子19に分離するときに、インク粒子19を所定の位置に偏向するために必要な帯電量となるように帯電電極18に帯電電圧を印加するための印字用帯電信号を発生する。
【0023】
印字用帯電信号に基づいて発生した帯電電圧に応じて帯電したインク粒子19は、偏向電極21、22の間を飛行する間に静電偏向されて被印字物(不図示)の目的の位置に付着する。帯電しなかったインク粒子は、直進して回収用ガター25に捕捉されて回収される。
【0024】
印字用帯電信号を発生するタイミングは、インク柱15が、インク粒子19に分離するときに、インク粒子19を、所定の位置に偏向するために必要な帯電量となるように、帯電電極18に帯電電圧を印加することができるタイミングであることが必要である。
MPU31は、適正な位相関係のタイミングで印字用帯電電圧を発生するための位相探索を実行する。
【0025】
図4に、帯電電圧印加タイミングを検出する例として、粒子化の基準となる励振信号を16分割し、各位相から始まる半周期分の帯電信号を印加する場合の各位相における帯電波形を示す。
【0026】
インクジェット記録装置においては、最適な帯電電圧印加タイミングを検出するために、印字を行なっていない状態(印字と印字のインターバル等)において、粒子化の基準となる励振信号に対し帯電位相をずらしてガターを飛び越えない程度の帯電電圧を印加し、各位相での帯電電荷量を検出している。つまり、位相探索用帯電電圧46を発生して位相探索を行っている。
【0027】
この位相探索のための位相探索用帯電電圧46を発生するために、位相探索用帯電信号発生回路40は、励振電圧に対する位相を変えた複数種類の位相探索用帯電電圧46を発生するための帯電信号を発生する。この位相探索用帯電電圧46は、この帯電電圧で帯電したインク粒子19がガターを飛び越えない(ガターで捕捉できる)程度の偏向量となるような大きさとし、この帯電電圧で帯電したインク粒子19の帯電量に応じて位相センサ20から出力される位相検出信号を、増幅回路27を介して位相判定回路38およびA/Dコンバータ37に入力する。
【0028】
粒子化の基準となる励振信号を16分割したうち、そのうちの一つの帯電位相について非印字用インク粒子に位相探索用帯電電圧46を印加する。回収用ガターに回収された非印字用インク粒子の帯電量は、印字ヘッド2内に内蔵された位相センサ20によって検出され、位相センサ20から出力するアナログ信号形態の位相検出信号を増幅する増幅回路27を通して信号が増幅される。そして、増幅された位相検出信号を、位相判定回路38が入力して、帯電良否を判定する。また、増幅された位相検出信号を入力してA/D変換するA/Dコンバータ37は、位相検出信号の波形を生成する。
【0029】
増幅回路から出力する位相検出信号の波形は、例えば、
図5に示すように変化する。インクジェット記録装置が正常な状態にあるときには、位相検出信号の波形は、位相探索用帯電電圧46の発生位相の変更に伴って、
図5に示すように変化する。
【0030】
位相判定回路38は、このような位相検出信号を入力し、入力した各位相の位相検出信号をスレッショルドレベルと比較して2値化して、スレッシュドレベルを超えたものを「1」、超えないものを「0」と判定して、MPU31に入力する。MPU31は、2値化された位相検出信号が「0」から「1」になった位相を、インク粒子19を帯電させる帯電電圧発生に最適な位相であると判断し、その位相でその後の印字用帯電電圧45を発生するように印字用帯電信号を発生する。
【0031】
印字中において一つの印字内容を印字している最中では、インク粒子19に印字用帯電電圧45が印加されてしまい位相探索用帯電電圧46が検出できない。また印字用帯電電圧45が印加されたインク粒子は、偏向電極21、22から印加された偏向電圧により飛翔経路を曲げられ回収用ガター25に回収されなくなってしまう。そのため回収用ガター25で連続的な位相探索用帯電電圧46を検出されていなかった。
【0032】
ここからは、一つの印字内容を印字している最中であっても上記の帯電位相の検出を可能にする技術について説明する。
【0033】
図1に、印字中に、非印字用粒子を活用した位相検出を行うための概略図を示す。
図1に示す実施例では、インク粒子19の帯電量を検出するためのセンサは、回収用ガター25内に位相センサ20として設置されている。または、帯電電極18と偏向電極21、22の間に設置されていて、センサ上に配置する構造であっても良い。インク液滴の帯電量は、偏向電極21、22によってインク液滴が飛行軌跡を偏向される前に検出される。
以下に説明する印字動作における印字粒子への帯電電圧、および非印字粒子への非印字用帯電電圧の印加制御については、
図3で示した機能部にて行われる。
【0034】
実施例は、一つの印字内容を印字している最中に非印字粒子に印加された位相探索用帯電電圧46を検出して帯電位相の最適化を制御する技術に関する。つまり、
図4を用いて説明した位相探索方法を、一つの印字内容を印字している最中における、各文字間の非印字期間に存在する縦一列の文字間スペース調整用の非印字粒子に対して適用する。
【0035】
例えば、
図1には、5×5の印字マトリクスにおける「0」、「A」、「B」を印字する際の印字ドットマトリクスの例および印字用帯電電圧の印加例を示している。印字順番は、最初に
図1の印字ドットマトリクスM1における最も左側に配列されている縦一列の印字マトリクスの下方から上方にかけて順番に印字する。その縦一列の印字が終了すると、印字した縦一列の右側に位置する縦一列の印字マトリクスの下方から上方にかけて順番に印字する。この動作を繰り返すことによって、5×5の印字マトリクスを印字する。
このとき、MPU31は、ROM32に記憶されているプログラムにより、インク粒子19に帯電させる帯電データを、RAM33に格納されている印字内容データに応じて算出する。
【0036】
図1において、黒丸で示した粒子は、印字粒子を示しており、塗りつぶしの無い白丸で示した粒子は、非印字粒子を示している。非印字粒子は偏向電極21、22によって偏向電圧が加えられてインク粒子19が、偏向電極21、22の正側へ引き寄せられても、回収用ガター25幅を飛び越えない程度の非印字用帯電電圧が印加された粒子である。
【0037】
MPU31は、印字内容データから、一文字の印字の終了を検出し、すなわち印字ドットマトリクスM1における印字動作が終了すると、次の印字ドットマトリクスM2を印字する前の非印字期間として縦一列の下方から上方にかけて存在する非印字粒子に、回収用ガター25を飛び越えない程度の位相探索用帯電電圧46aを印加するように、帯電データを生成する。そして、位相探索用帯電信号発生回路40に、位相探索用帯電信号を発生させるように制御する。
【0038】
図1に示した5×5の印字マトリクスの印字例では、印字ドットマトリクスM1である文字「0」と印字ドットマトリクスM2である文字「A」の間の縦一列の印字マトリクスの下方から上方にかけて存在する計5個の非印字粒子43aに、位相探索用帯電電圧46aを印加するように帯電電圧信号を生成し、帯電電極18に帯電電圧を印加する。この帯電したインク粒子の帯電量に応じて位相センサから出力される位相検出信号を、増幅回路27を介して、位相判定回路38およびA/Dコンバータ37に入力する。
【0039】
印字ドットマトリクスM2を印字し終えた後も、印字ドットマトリクスM1を印字し終えた場合における動作と同様に、印字ドットマトリクスM2における印字動作が終了すると、次の印字ドットマトリクスM3を印字する前の非印字期間として縦一列の下方から上方にかけて存在する非印字粒子43bに、ガターを飛び越えない程度の位相探索用帯電電圧46bを印加するように、MPU31は帯電データを生成する。
【0040】
ここで、印字ドットマトリクスM2と印字ドットマトリクスM3の間に存在する非印字粒子43bに印加させるための位相探索用帯電電圧46bのもととなるMPU31で生成される帯電データは、印字ドットマトリクスM1とM2の間に存在する非印字粒子43bに印加される位相探索用帯電電圧46bのもとになる帯電データとは出力させるタイミングが異なる。つまり、ここでは、
図4を用いて説明した位相探索方法に基づき、粒子化の基準となる励振信号の1周期を16分割したうちの1相分だけ帯電タイミングを遅延させた帯電電圧が、位相探索用帯電電圧46bとして印字ドットマトリクスM2と印字ドットマトリクスM3の間の縦一列に存在する非印字用粒子に印加される。
【0041】
上記ドットマトリクス以降、印字ドットマトリクスは、M4,M5…と続き、位相探索用帯電電圧46を印加する位相を各ドットマトリクス間で遷移させていく制御は、各ドットマトリクス間に印加される帯電電圧の位相が、粒子化の基準となる励振信号を16分割したうちの全ての位相を網羅し終えるまで、すなわちM16まで続き、一つの印字内容を印字している最中に帯電位相を計16種類(図示せず)検出する。
【0042】
印字ドットマトリクスM17以降の文字を印字する場合、すなわち粒子化の基準となる励振信号を16分割したうちの全ての帯電位相で非印字用インク粒子に帯電電圧を印加して1周期分の位相検出を網羅し終えて、次の非印字用インク粒子である印字ドットマトリクスM17と、印字ドットマトリクスM18の間の非印字用インク粒子に印加するための位相探索用帯電電圧46は、はじめの印字ドットマトリクスM1と、印字ドットマトリクスM2の間に存在する非印字粒子に印加した位相探索用帯電電圧46aと同じ位相で印加される。
【0043】
これ以降、印字ドットマトリクスは、M19、M20と続き、印字ドットマトリクスM1からM16までにおいて行った位相探索用帯電電圧46の検出制御と同様に、各ドットマトリクス間に印加される位相探索用帯電電圧46の位相が、粒子化の基準となる励振信号を16分割したうちの位相を全て網羅するまで、一つの印字内容を印字している最中に帯電位相を検出する。
【0044】
ここでの制御系の処理に関して、増幅回路から出力する位相検出信号の波形は一回の印字が終了した際に、位相検出波形を表示する手法と同様に、例えば、
図5に示すように変化する。インクジェット記録装置が正常な状態にあるときには、位相検出信号の波形は、位相探索用帯電電圧46の発生位相の変更に伴って
図5に示すように変化する。
【0045】
位相判定回路38は、このような位相検出信号を入力し、入力した各位相の位相検出信号をスレッショルドレベルと比較して2値化して、スレッシュドレベルを超えたものを「1」、超えないものを「0」と判定して、MPU31に入力する。MPU31は、2値化された位相検出信号が「0」ではなく「1」になっている位相のうち、位相検出信号の最も高い位相を、インク粒子を帯電させる帯電電圧発生に最適な位相であると判断する。
図5に示す場合では、8相となる。そして、その位相でその後の印字用帯電電圧を発生するように印字用帯電信号を発生させるように制御する。
【0046】
ここでは、文字フォント5×5について述べたが、これよりも縦列を印字するドット数が大きい場合、例えば文字フォント5×7でも、前記文字フォント5×5の印字の際に位相検出した方法と同様の手法を用いて位相検出波形を出力する。つまり、印字中のドットマトリクスにつづいて次の印字マトリクスを印字する際に、その前の非印字期間として縦一列の下方から上方にかけて存在する、文字間スペース調整用の非印字粒子5個に、ガターを飛び越えない程度の位相探索用帯電電圧46を印加して、位相検出波形を生成する。
【0047】
また、ここでは印字する文字フォントの下端から上端にかけて印字用の帯電電圧を順番に大きくしてインク粒子に印加する順方向の印字方式による印字時の帯電位相の検出方法について述べたが、これとは逆に、印字する文字フォントの上端から下端にかけて印字用の帯電電圧を順番に大きくしていく印字制御方式、つまり印字する文字を上下反転させた印字制御をする場合による帯電位相の検出方法も同様である。
【実施例2】
【0048】
実施例1で述べた最適帯電位相の検出技術は、1回の印字文字数が、第1の文字数である16文字以上ある場合に有効になる制御技術である。印字文字数が、16文字未満の場合は、異なる制御をする。これを
図6のフローチャートを用いて説明する。ここでは、実施例1と相違する部分を中心に説明し、実施例1と基本的に同じ部分は、説明は省略する。
【0049】
インクジェット記録装置本体1のMPU31(以下、制御部という)が、インク噴出するように制御する(S1)。次に、MPU31は、インクジェット記録装置本体1が、印字中であるかを判断する(S2)。印字中である場合には、制御部は、印字内容が16文字以上であるかどうかを判断する(S3)。印字内容が16文字以上である場合には、実施例1で述べたように、励振信号を16分割した位相探索用帯電電圧を、位相探索用帯電信号発生回路40が生成する(S4)。そして、実施例1で述べたように、制御部は、文字間スペース調整用の非印字粒子に対して位相検索用帯電電圧を帯電させるように、位相探索用帯電信号発生回路40、もしくは、印字用帯電信号発生回路39を制御する。そして、位相検索用帯電電圧を発生させ、非印字粒子に帯電させるようにする(S8)。制御部は、S8で発生した位相検索用帯電電圧に基づいて、位相を検出するように制御する(S10)。そして、制御部は、S10で検出した位相に基づいて、位相判定回路を制御し、最適位相を設定する(S11)。そして、S2にもどり、印字中であるかを判断する。
【0050】
制御部は、印字内容が16文字未満と判断した場合(S3でNo)には、印字内容が、第2の文字数である8文字以上で16文字未満であるかどうかを判断する(S5)。印字内容が8文字以上で16文字未満である場合には、励振信号を8分割した帯電データを生成する(S6)。つまり、印字内容が16文字以上の場合と比較して、励振信号の分割数は少なくし、文字間で位相検索用帯電電圧の種類を少なくする。そして、制御部は、文字間で位相検索用帯電電圧を発生させる(S8)。制御部は、S8で発生した位相検索用帯電電圧に基づいて、位相を検出する(S10)。そして、制御部は、S10で検出した位相に基づいて、最適位相を設定する(S11)。そして、S2にもどり、印字中であるかを判断する。
【0051】
制御部が、印字内容が8文字未満であると判断した場合(S7)は、制御部は、文字間ではなく、ある印字が終了し、次の印字が始まる前の印字間で、位相探索用帯電電圧を発生させる(S9)。制御部は、S9で発生した位相検索用帯電電圧に基づいて、位相を検出する(S10)。そして、制御部は、S10で検出した位相に基づいて、最適位相を設定する(S11)。そして、S2にもどり、印字中であるかを判断する。
【0052】
印字中で無い場合(S2でNoの場合)には、従来のように、位相を検出(S10)して、最適位相を設定する(S11)。
【0053】
実施例2では、一回の印字が終了するごとに連続的に噴出される非印字用インク粒子に印加された位相探索用帯電電圧46を位相センサで検知し、増幅回路に入力信号を通し、増幅された位相検出信号を入力して位相判定回路38が帯電良否を判定する。また、増幅された位相検出信号を入力してA/D変換するA/Dコンバータ37は、位相検出信号の波形を生成する。
【0054】
実施例2によれば、印字する文字数が少ない場合でも、文字間で発生させる位相検索用帯電電圧の種類を少なくすることで最適位相を求めることができる。
【0055】
印字内容の印字ドットマトリクス一文字と一文字の間に挿入されるスペースが存在しない場合は、一つの印字内容中で、位相探索用帯電電圧46を印加するための非印字粒子が存在しないため、一回の印字が終了するごとに連続的に噴出される非印字用インク粒子に、印加された位相探索用帯電電圧を位相センサ20で検知し、増幅回路に入力信号を通し、増幅された位相検出信号を入力して、位相判定回路38が帯電良否を判定する。そして、増幅された位相検出信号を入力してA/D変換するA/Dコンバータ37が位相検出信号の波形を生成する。
【0056】
また、実施例1および実施例2を行うにあたり、印字中のインク粒子19は、前記帯電電極18からの帯電電圧による電界の影響、および印字用帯電電圧45が印加された印字用インク粒子からの電界の影響を受ける。非印字用のインク粒子へ所望の位相探索用帯電電圧46以外の電気的ノイズが加わり、印字ヘッド内のインク回収経路中にある位相センサに、電気的ノイズが加わる可能性がある。したがって、印字ヘッド2内には、非印字粒子への電界の影響を遮断することを目的として、金属シールド部材を設置することが望ましい。
【0057】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
1…インクジェット記録装置本体、2…印字ヘッド、14…ノズル、18…帯電電極、
20…位相センサ、25…回収用ガター、38…位相判定回路、40…位相探索用帯電信号発生回路