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  • 特許-粘着剤組成物および粘着シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20220414BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220414BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220414BHJP
   C09J 7/10 20180101ALN20220414BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J11/06
C09J7/38
C09J7/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018107863
(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公開番号】P2019210381
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】平野 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】川竹 郁佳
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄希
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-189601(JP,A)
【文献】特開2015-189852(JP,A)
【文献】特開2014-214219(JP,A)
【文献】特開2013-159662(JP,A)
【文献】特開2015-151514(JP,A)
【文献】特開2006-213821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー成分の重合物を含む粘着剤組成物であって、
前記粘着剤組成物は、さらに架橋剤と、粘着付与樹脂とを含み、
前記モノマー成分は、60重量%以上の(メタ)アクリル酸C 4-10 アルキルエステルと、0.5重量%以上25重量%以下のアクリル酸と、0.01重量%以上15重量%以下の水酸基含有モノマーとを含み、
前記重合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定に基づく分子量分布のピーク分離解析において、以下の条件:
(a)分子量のピークトップが100万以上2000万以下の範囲にあるピークHの面積比が、前記分子量分布のピーク面積全体の3%以上30%以下である;
(b)分子量のピークトップが1000以上100万未満の範囲にあるピークLの面積比が、前記分子量分布のピーク面積全体の70%以上97%以下である;および、
前記ピークHの重量平均分子量が200万以上800万以下である;
を満たす、粘着剤組成物。
【請求項2】
前記モノマー成分の組成に基づいて算出されるガラス転移温度が-70℃以上-40℃以下の範囲にある、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記モノマー成分の重合転化率が90重量%以上であり、
不揮発分含量が20重量%以上50重量%以下の有機溶媒溶液として調製されている、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記ピークLの重量平均分子量が5万以上50万以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層の厚さが1μm以上30μm以下である、粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤層のゲル分率が70%以下である、請求項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記粘着剤層の厚さが3μm以上8μm以下であり、
ステンレス鋼板に対する貼付け30分間後の180°ピール粘着力が8N/20mm以上である、請求項またはに記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような使い勝手のよさから粘着剤への期待が高まっており、これまで接着剤が使用されてきた分野においても粘着剤への置き換えが検討されている。粘着剤に関する技術文献として特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-75999号公報
【文献】特開2015-93981号公報
【文献】特開2017-160454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に粘着剤は、接着剤に比べて被着体に対する接合強度が弱い。そのため粘着剤の強粘着力化が求められている。通常、粘着力をより高くするには、粘着剤層をより厚くすることが有利である。しかし、近年各種機器は小型軽量化の流れにあることから、薄い粘着剤層によっても信頼性の高い接合を実現することが望まれている。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、薄くても粘着力の高い粘着剤層を形成可能な粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書によると、モノマー成分の重合物を含む粘着剤組成物が提供される。上記重合物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく分子量分布のピーク分離解析において、以下の条件(a)、(b)を満たす。
(a)分子量のピークトップが100万以上2000万以下の範囲にあるピークHの面積比が、上記分子量分布のピーク面積全体の3%以上30%以下である。
(b)分子量のピークトップが1000以上100万未満の範囲にあるピークLの面積比が、上記分子量分布のピーク面積全体の70%以上97%以下である。
【0007】
上記(a),(b)を満たす重合物を含むことにより、厚みが小さくても高い粘着力が実現され得る。特に限定するものではないが、上記ピークHの重量平均分子量は、例えば200万以上800万以下の範囲であり得る。また、上記ピークLの重量平均分子量は、例えば5万以上50万以下であり得る。このような粘着剤組成物によると、粘着性と凝集性とを高レベルで両立させやすい。
【0008】
上記モノマー成分は、該モノマー成分の組成に基づいて算出されるガラス転移温度(Tg)が-70℃以上-40℃以下の範囲となる組成を有することが好ましい。かかる組成のモノマー成分によると、粘着性と凝集性とを高レベルで両立させやすい。
【0009】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分の50重量%超が(メタ)アクリル系モノマーである態様で好ましく実施することができる。このようにモノマー成分が(メタ)アクリル系モノマーを主成分とする構成において、上記(a),(b)を満たすことの効果が特によく発揮され得る。いくつかの好ましい態様において、上記モノマー成分は、(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステルと、アクリル酸と、水酸基含有モノマーとを含み得る。
【0010】
上記モノマー成分の重合転化率は、90重量%以上であることが好ましい。このように重合転化率の高い粘着剤組成物において、上記(a),(b)を満たすことの効果が好適に発揮され得る。上記粘着剤組成物は、該組成物の塗工性等の観点から、不揮発分含量が20重量%以上50重量%以下の有機溶媒溶液として調製されていることが好ましい。
【0011】
ここに開示される粘着剤組成物には、必要に応じて、架橋剤および粘着付与樹脂の一方または両方を含有させることができる。架橋剤および/または粘着付与樹脂の使用により、粘着性と凝集性とをより高レベルで両立させ得る。
【0012】
この明細書によると、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートが提供される。かかる構成の粘着シートによると、高い粘着力が発揮され得る。上記粘着剤層の厚さは、例えば1μm以上30μm以下であり得る。
【0013】
上記粘着剤層は、ゲル分率が70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。粘着剤層のゲル分率が高すぎないことは、より高い粘着力を発揮する観点から有利となり得る。
【0014】
この明細書によると、例えば、上記粘着剤層の厚さが3μm以上8μm以下であり、ステンレス鋼板に対する貼付け30分間後の180°ピール粘着力が8N/20mm以上が8N/20mm以上である粘着シートが提供される。このような粘着シートは、粘着剤層が薄く、かつ粘着力が高いので有用性が高い。かかる粘着シートは、小型軽量化の要請の強い携帯電子機器を始めとする各種用途において、例えば接合や固定等の目的で好ましく用いられ得る。
【0015】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
図2】他の一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
図3】他の一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0018】
<粘着剤組成物>
ここに開示される粘着剤組成物は、モノマー成分の重合物を含む。モノマー成分の組成は、上記重合物をベースポリマーとして含む粘着剤を形成し得るものであればよく、特に限定されない。ここに開示される粘着剤組成物は、例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の、室温域においてゴム弾性を示す各種のポリマーから選択される一種または二種以上をベースポリマー(すなわち、ポリマー成分の50重量%以上を占める成分)として含む粘着剤組成物であり得る。粘着剤組成物の形態は特に制限されず、例えば水分散型、溶剤型、ホットメルト型、活性エネルギー線硬化型(例えば光硬化型)等の各種の形態であり得る。なお、本明細書において「活性エネルギー線」とは、重合反応、架橋反応、開始剤の分解等の化学反応を引き起こし得るエネルギーをもったエネルギー線を指す。ここでいう活性エネルギー線の例には、紫外線(UV)、可視光線、赤外線のような光や、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線のような放射線等が含まれる。
【0019】
(分子量分布)
ここに開示される粘着剤組成物は、GPC測定に基づく分子量分布のピーク分離解析において、以下の条件(a),(b)を満たす重合物を含むことによって特徴づけられる。
(a)分子量のピークトップが100万以上2000万以下の範囲にあるピークHの面積が、上記分子量分布のピーク面積全体の3%以上30%以下である。
(b)分子量のピークトップが1000以上100万未満の範囲にあるピークLの面積が、上記分子量分布のピーク面積全体の70%以上97%以下である。
かかる重合物をベースポリマーとして含む粘着剤組成物が好ましい。ベースポリマーが上記(a),(b)の条件を満たす粘着剤組成物によると、かかる条件を満たさない粘着剤組成物に比べて、より高い粘着力が実現され得る。
【0020】
上記GPC測定は、後述する実施例の記載の方法に準じて行われる。その測定結果について市販のピーク分離ソフトORIGIN(LightStone社)を用いてピーク分離解析を行う。より具体的には、分子量100万以上2000万以下の範囲および分子量1000以上100万未満の範囲でピークフィッティングを行い、前者でピークトップを有するピークの成分と後者でピークトップを有するピークの成分とを分離して、それぞれの面積比を算出する。後述の実施例においても同様である。
【0021】
いくつかの態様において、ピークHの面積比は、例えば5%以上25%以下であってよく、7%以上20%以上であってもよい。ピークHの面積比が小さすぎないことは、粘着剤の凝集性向上の観点から有利となり得る。また、ピークHの面積比が大きすぎないことにより、粘着剤の弾性率を低くして被着体に対する密着性を向上させ得る。
なお、ピークLの面積比とピークHの面積比との合計は、ピーク面積全体の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ピークLの面積比とピークHの面積比との合計は、原理上は100以下であり、実用上は凡そ102以下である。
【0022】
ピークHの重量平均分子量(Mw)は、典型的には100万以上2000万以下であり、通常は150万以上1000万以下であることが適当であり、200万以上800万以下であることが好ましい。ピークHのMwが高くなると、粘着剤の凝集性が向上する傾向にある。ピークHのMwが低くなると、粘着剤の弾性率が下がり、被着体に対する密着性が向上する傾向にある。ここに開示される粘着剤組成物のいくつかの態様において、ピークHのMwは、例えば250万以上であってよく、350万以上でもよく、450万以上でもよく、また、例えば700万以下であってよく、600万以下でもよく、500万以下でもよい。かかる態様において、より高性能な粘着シートが形成され得る。
【0023】
ピークLのMwは、典型的には1000以上100万未満であり、通常は1万以上70万以下であることが適当であり、5万以上50万以下であることが好ましい。ここに開示される粘着剤組成物のいくつかの態様において、ピークLのMwは、例えば8万以上または10万以上であってよく、また、35万以下、25万以下または20万以下であってより得る。かかる態様において、より高性能な粘着シートが形成され得る。なお、ピークHおよびピークLのMwは、GPCの測定値から算出される。後述の実施例においても同様である。
【0024】
(ガラス転移温度(Tg))
モノマー成分の組成は、例えば、該モノマー成分の組成に基づいて算出されるガラス転移温度(Tg)が0℃未満となるように設定することができる。ここで、モノマー成分の組成に基づいて算出されるTgとは、上記モノマー成分の組成に基づいてFoxの式により求められるTgをいう。Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。
【0025】
Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料に記載の値を用いるものとする。具体的には、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に数値が挙げられている。上記Polymer Handbookに複数種類の値が記載されているモノマーについては、最も高い値を採用する。上記Polymer Handbookに記載のないモノマーのホモポリマーのガラス転移温度としては、特開2007-51271号公報に記載の測定方法により得られる値を用いることができる。
【0026】
上記モノマー成分の組成に基づいて算出されるTgは、該モノマー成分の重合物(典型的には、ここに開示される粘着剤組成物におけるベースポリマー)のTgとして把握され得る。上記重合物のTgは、-10℃以下であることが好ましく、-20℃以下でもよく、-30℃以下でもよく、-40℃以下でもよい。上記Tgが低くなると、被着体に対する密着性が向上する傾向にある。いくつかの態様において、上記重合物のTgは、-50℃以下であってもよく、-55℃以下でもよく、-60℃以下でもよい。上記重合物のTgの下限は特に制限されないが、材料の入手容易性や粘着剤層の凝集性向上の観点から、通常は-80℃以上であることが適当であり、-70℃以上であることが好ましい。
【0027】
(アクリル系ポリマー)
ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分の50重量%超が(メタ)アクリル系モノマーである態様で好ましく実施することができる。ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分の重合物であるアクリル系ポリマーをベースポリマーとして含む粘着剤組成物、すなわちアクリル系粘着剤組成物であることが好ましい。いくつかの好ましい態様に係る粘着剤組成物は、該組成物に含まれるポリマー成分のうち、70重量%超、80重量%超または90重量%超がアクリル系ポリマーであり得る。上記ポリマー成分の95重量%以上または98重量%以上がアクリル系ポリマーであってもよい。
【0028】
なお、この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、(メタ)アクリル系モノマーに由来するモノマー単位をポリマー構造中に含む重合物をいい、典型的には(メタ)アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を50重量%を超える割合で含む重合物をいう。また、この明細書において、(メタ)アクリル系モノマーとは、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。ここで、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。したがって、ここでいう(メタ)アクリル系モノマーの概念には、アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)とメタクリロイル基を有するモノマー(メタクリル系モノマー)との両方が包含され得る。同様に、この明細書において「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸およびメタクリル酸を、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0029】
上記アクリル系ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を50重量%以上含有するポリマー、すなわちアクリル系ポリマーを調製するためのモノマー成分全量のうち50重量%以上が(メタ)アクリル酸アルキルエステルであるポリマーであり得る。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1以上20以下の(すなわち、C1-20の)直鎖または分岐鎖状のアルキル基をエステル末端に有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられ得る。特性のバランスをとりやすいことから、モノマー成分全量のうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、例えば50重量%以上であってよく、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。同様の理由から、モノマー成分全量のうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、例えば99.9重量%以下であってよく、好ましくは98重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。いくつかの態様において、モノマー成分全量のうち(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの割合は、例えば80重量%以上でもよく、85重量%以上でもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルの非限定的な具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等が挙げられる。
【0031】
これらのうち、少なくとも(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステルを用いることが好ましく、少なくとも(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステルを用いることがより好ましい。いくつかの態様において、アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(好ましくはアクリル酸C4-10アルキルエステル)から選択される少なくとも一種を、モノマー単位として含有し得る。例えば、アクリル酸n-ブチル(BA)およびアクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)の一方または両方を含むアクリル系ポリマーが好ましく、少なくとも2EHAを含むアクリル系ポリマーが特に好ましい。好ましく用いられ得る他の(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステルの例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸n-ブチル(BMA)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(2EHMA)、アクリル酸イソステアリル(ISTA)等が挙げられる。上記アクリル系ポリマーの好適例として、アクリル酸C4-8アルキルエステルの少なくとも一種をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー、アクリル酸C4-6アルキルエステルの少なくとも一種をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー、アクリル酸C6-10アルキルエステルの少なくとも一種をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー、等が挙げられる。
【0032】
アクリル系ポリマーを構成するモノマー単位は、主成分としての(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに、必要に応じて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のモノマー(共重合性モノマー)を含んでいてもよい。共重合性モノマーとしては、極性基(例えば、カルボキシ基、水酸基、アミド基等)を有するモノマーを好適に使用することができる。極性基を有するモノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。共重合性モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
共重合性モノマーの非限定的な具体例としては、以下のものが挙げられる。
カルボキシ基含有モノマー:例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等。
酸無水物基含有モノマー:例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸。
水酸基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等。
スルホン酸基またはリン酸基を含有するモノマー:例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等。
エポキシ基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルや(メタ)アクリル酸-2-エチルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有アクリレート、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等。
シアノ基含有モノマー:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
イソシアネート基含有モノマー:例えば、2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等。
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミド等の、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等の、N-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド類;水酸基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等の、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;アルコキシ基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の、N-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;その他、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、N-ビニルイソチアゾール、N-ビニルピリダジン等(例えば、N-ビニル-2-カプロラクタム等のラクタム類)。
スクシンイミド骨格を有するモノマー:例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド等。
マレイミド類:例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド等。
イタコンイミド類:例えば、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等。
(メタ)アクリル酸アミノアルキル類:例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル。
アルコキシ基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等の、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコール類。
ビニルエステル類:例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等。
ビニルエーテル類:例えば、例えば、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテル等のビニルアルキルエーテル。
芳香族ビニル化合物:例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等。
オレフィン類:例えば、エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等。
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル:例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等。
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル:例えば、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等。
その他、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環含有(メタ)アクリレート、塩化ビニルやフッ素原子含有(メタ)アクリレート等のハロゲン原子含有(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等のケイ素原子含有(メタ)アクリレート、テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリル酸エステル等。
【0034】
上述のような共重合性モノマーを使用する場合、その使用量は特に限定されないが、通常はモノマー成分全量の0.01重量%以上とすることが適当である。共重合性モノマーの使用による効果をよりよく発揮する観点から、共重合性モノマーの使用量をモノマー成分全量の0.1重量%以上としてもよく、1重量%以上としてもよい。また、共重合性モノマーの使用量は、モノマー成分全量の50重量%以下とすることができ、40重量%以下とすることが好ましい。これにより、粘着剤の凝集力が高くなり過ぎることを防ぎ、被着体に対する密着性を向上させ得る。
【0035】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分が、(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステルを含み、さらにアクリル酸および水酸基含有モノマーの一方または両方を含む態様で好ましく実施することができる。水酸基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを好ましく採用することができる。アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)やアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)等のアクリル酸ヒドロキシC1-4アルキルが特に好ましい。
【0036】
モノマー成分が(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステルを含み、さらにアクリル酸および水酸基含有モノマーの一方または両方を含む態様において、上記モノマー成分における(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステルの含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、例えば80重量%以上であってよく、また、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下、例えば94重量%以下であり得る。また、上記モノマー成分がアクリル酸を含む場合におけるその含有量は、例えば0.5重量%以上であってよく、好ましくは2.5重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、また、例えば25重量%以下、好ましくは20重量%以下であり、15重量%以下であってもよい。上記モノマー成分が水酸基含有モノマーを含む場合におけるその含有量は、例えば0.01重量%以上であってよく、好ましくは0.05重量%以上であり、また、例えば15重量%以下であってよく、好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下、3重量%以下または1重量%以下でもよい。上記モノマー成分が、(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステルを含み、さらにアクリル酸および水酸基含有モノマーの両方を含む態様がより好ましい。
【0037】
(架橋剤)
ここに開示される粘着剤組成物には、凝集力の調整等の目的で、必要に応じて架橋剤を含有させることができる。架橋剤としては、粘着剤の分野において公知の架橋剤を使用することができ、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、シリコーン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、シラン系架橋剤、アルキルエーテル化メラミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等を挙げることができる。なかでも好ましい架橋剤として、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が挙げられる。架橋剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
イソシアネート系架橋剤の例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、および、これらとトリメチロールプロパン等のポリオールとのアダクト体、等を挙げることができる。あるいは、1分子中に少なくとも1つ以上のイソシアネート基と1つ以上の不飽和結合を有する化合物、具体的には、2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等も、イソシアネート系架橋剤として使用することができる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
エポキシ系架橋剤の例としては、ビスフェノールA、エピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンおよび1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
架橋剤を使用する場合における使用量は、特に限定されず、例えばベースポリマー100重量部に対して0重量部を超える量とすることができる。また、架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、0.05重量部以上とすることが好ましい。架橋剤の使用量の増大により、より高い凝集力が得られる傾向にある。いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、1重量部以上、2重量部以上または3重量部以上であってもよい。一方、過度な凝集力向上による粘着力の低下を避ける観点から、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、通常、15重量部以下とすることが適当であり、10重量部以下としてもよく、7重量部以下としてもよい。
【0041】
上述したいずれかの架橋反応をより効果的に進行させるために、架橋触媒を用いてもよい。架橋触媒としては、例えばスズ系触媒(特にジラウリン酸ジオクチルスズ)を好ましく用いることができる。架橋触媒の使用量は特に制限されないが、例えば、ベースポリマー100重量部に対して凡そ0.0001重量部~1重量部とすることができる。
【0042】
(多官能モノマー)
ここに開示される粘着剤組成物の調製には、必要に応じて多官能性モノマーが用いられ得る。多官能性モノマーは、上述のような架橋剤に代えて、あるいは該架橋剤と組み合わせて用いられることで、凝集力の調整等の目的のために役立ち得る。多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ブチルジオール(メタ)アクリレート、ヘキシルジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも好ましい多官能性モノマーとして、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能性モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。多官能性モノマーの使用量は、その分子量や官能基数等により異なるが、通常は、ベースポリマー100重量部に対して0.01重量部~3.0重量部程度の範囲とすることが適当である。ここに開示される粘着剤組成物は、多官能性モノマーを実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0043】
(粘着付与樹脂)
粘着剤組成物には、必要に応じて粘着付与樹脂を含ませることができる。粘着付与樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、フェノール系粘着付与樹脂、炭化水素系粘着付与樹脂、ケトン系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂等が挙げられる。粘着付与樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
ロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの未変性ロジン(生ロジン)や、これらの未変性ロジンを重合、不均化、水添化などにより変性した変性ロジン(重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンや、その他の化学的に修飾されたロジンなど)の他、各種のロジン誘導体などが挙げられる。
上記ロジン誘導体としては、例えば、ロジン類(未変性ロジン、変性ロジンや、各種ロジン誘導体など)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール系樹脂;
未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したロジンのエステル化合物(未変性ロジンエステル)や、重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンなどの変性ロジンをアルコール類によりエステル化した変性ロジンのエステル化合物(重合ロジンエステル、安定化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、完全水添ロジンエステル、部分水添ロジンエステルなど)などのロジンエステル系樹脂;
未変性ロジンや変性ロジン(重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンなど)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン系樹脂;
ロジンエステル系樹脂を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル系樹脂;
未変性ロジン、変性ロジン(重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンなど)、不飽和脂肪酸変性ロジン系樹脂や不飽和脂肪酸変性ロジンエステル系樹脂におけるカルボキシ基を還元処理したロジンアルコール系樹脂;
未変性ロジン、変性ロジンや、各種ロジン誘導体等のロジン系樹脂(特に、ロジンエステル系樹脂)の金属塩;などが挙げられる。
【0045】
テルペン系粘着付与樹脂としては、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体などのテルペン系樹脂や、これらのテルペン系樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性など)した変性テルペン系樹脂(例えば、テルペンフェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂など)などが挙げられる。
【0046】
フェノール系粘着付与樹脂としては、例えば、各種フェノール類(例えば、フェノール、m-クレゾール、3,5-キシレノール、p-アルキルフェノール、レゾルシンなど)とホルムアルデヒドとの縮合物(例えば、アルキルフェノール系樹脂、キシレンホルムアルデヒド系樹脂など)、上記フェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒で付加反応させたレゾールや、上記フェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒で縮合反応させて得られるノボラックなどが挙げられる。
【0047】
炭化水素系粘着付与樹脂の例としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン-オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。
【0048】
好ましく使用され得る重合ロジンエステルの市販品としては、荒川化学工業株式会社製の商品名「ペンセルD-125」、「ペンセルD-135」、「ペンセルD-160」、「ペンセルKK」、「ペンセルC」等が例示されるが、これらに限定されない。
【0049】
好ましく使用され得るテルペンフェノール系樹脂の市販品としては、ヤスハラケミカル株式会社製の商品名「YSポリスターS145」、「YSポリスターG125」、「YSポリスターN125」、「YSポリスターU115」、荒川化学工業株式会社製の商品名「タマノル803L」、「タマノル901」、住友ベークライト株式会社製の商品名「スミライトレジンPR-12603」等が例示されるが、これらに限定されない。
【0050】
粘着付与樹脂としては、軟化点が凡そ80℃以上(より好ましくは凡そ100℃以上、例えば凡そ120℃以上)であるものを好ましく使用し得る。軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ200℃以下(典型的には180℃以下)であり得る。なお、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定することができる。
【0051】
粘着付与樹脂を用いる場合におけるその使用量は特に限定されず、目的や用途に応じて適切な粘着性能が発揮されるように設定することができる。ベースポリマー100重量部に対する粘着付与樹脂の含有量は、例えば5重量部以上、10重量部以上または15重量部以上とすることができ、また、50重量部以下、40重量部以下または30重量部以下とすることができる。あるいは、粘着付与樹脂を用いなくてもよい。
【0052】
その他、ここに開示される技術における粘着剤組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、レベリング剤、可塑剤、軟化剤、着色剤(染料、顔料等)、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、防腐剤等の、粘着剤に使用され得る公知の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。
【0053】
いくつかの態様にかかる粘着剤組成物は、不揮発分含量が凡そ10重量%以上70重量%以下の範囲にある有機溶媒溶液またはエマルションの形態であり得る。上記不揮発分含量は、20重量%以上または30重量%以上でもよく、また、60重量%以下または50重量%以下でもよい。ここに開示される粘着剤組成物は、塗工性等の観点から、不揮発分含量が20重量%以上50重量%以下の有機溶媒溶液として調製されていることが好ましい。厚さが10μm以下、さらには8μm以下の粘着剤層を形成する用途に用いられ得る粘着剤組成物では、不揮発分含量が上記範囲にある有機溶媒溶液の形態であることが特に有意義である。
【0054】
なお、粘着剤組成物の不揮発分含量は、既知の重量(W1)を有するアルミニウムパンにサンプルを入れてその重量(W2)を測定し、これを130℃に2時間加熱した後の重量(W3)を測定し、以下の式に代入することにより算出される。
不揮発分含量(%)=(W3-W1)/(W2-W1)×100
【0055】
ここに開示される粘着剤組成物の粘度は、特に限定されない。いくつかの態様において、上記粘着剤組成物の粘度は、例えば5cP以上であってよく、10cP以上でもよく、20cP以上でもよく、25cP以上でもよい。また、上記粘着剤組成物の粘度は、例えば150cP以下であってよく、120cP以下でもよく、90cP以下でもよく、75cP以下でもよい。粘着剤組成物の粘度が高すぎると、塗工性が低下して均一な粘着面が得られにくくなる、ラインスピードが制約されて生産性が低下する、等の不都合が生じやすくなる傾向にある。また、粘着剤組成物の粘度が低すぎると、特に該組成物を剥離ライナーの剥離面上に塗工する場合、はじき等の塗工不良が発生しやすくなることがある。上述した粘度の各上限値および各下限値は、例えば、比較的厚みの小さい粘着剤層の形成に用いられ得る粘着剤組成物に好ましく適用され得る。なお、粘着剤組成物の粘度は、室温(23℃)において、市販のB型粘度計を使用して回転数10rpmの条件で測定することができる。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
【0056】
<粘着剤組成物の製造>
上述のようなモノマー成分から重合物を得る方法は特に限定されず、例えば、溶液重合法、エマルション重合法、バルク重合法、懸濁重合法、光重合法等の各種の重合方法を適宜採用することができる。いくつかの態様において、溶液重合法または光重合法を好ましく採用し得る。
【0057】
重合に用いる開始剤は、重合方法に応じて、従来公知の熱重合開始剤や光重合開始剤等から適宜選択することができる。重合開始剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤(例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等);過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化物系重合開始剤(例えば、ジベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルマレエート、過酸化ラウロイル等);レドックス系重合開始剤等が挙げられる。熱重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、例えば、アクリル系ポリマーの調製に用いられるモノマー成分100重量部に対して0.01重量部~5重量部、好ましくは0.05重量部~3重量部の範囲内の量とすることができる。
【0059】
光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等を用いることができる。光重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、例えば、モノマー成分100重量部に対して0.01重量部~5重量部、好ましくは0.05重量部~3重量部の範囲内の量とすることができる。
【0060】
ここに開示される粘着剤組成物は、例えば、該組成物の調製に用いられるモノマー成分の一部を重合させて部分重合物を得る第一段階と、該第一段階の後、未反応の上記モノマー成分を上記部分重合物および重合溶媒の存在下で重合させる第二段階と、を含む方法で製造することができる。このように二段階で重合を行うことを含む製造方法は、上記(a),(b)を満たすように重合物の分子量分布を調整しやすいので好ましい。
【0061】
第一段階の重合は、重合溶媒なしのバルク重合により、または上記第二段階の重合より少量(低濃度)の重合溶媒の存在下で行うことが好ましい。よりモノマー濃度の高い条件で第一段階の重合を行うことにより、より高分子量の重合物が生成する傾向にある。第一段階の重合におけるモノマー濃度が低すぎると、分子量が低くなり、狙った高分子量成分の重合が困難となる。第一段階の重合を少量の重合溶媒の存在下で行う場合、該重合溶媒の使用量は、第一段階で用いるモノマー成分と重合溶媒との合計量を100重量%として、例えば35重量%以下、30重量%以下または25重量%以下となる量とすることができる。いくつかの態様において、第一段階の重合の際に少量の重合溶媒、具体的には上記合計量の例えば1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上または15重量%以上の重合溶媒を用いてもよい。第一段階の重合において少量の重合溶媒を用いることは、例えば、該第一段階の重合における粘度上昇を抑制して操作性や反応制御性を向上させる観点から有利となり得る。重合溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられ、例えば酢酸エチル等の酢酸エステル類、トルエン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等の低級アルコール、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフランやジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、等から選択されるいずれか一種の溶媒、または二種以上の混合溶媒等を用いることができる。上記(a),(b)を満たす分子量分布を実現しやすくする観点から、第一段階の重合溶媒としては、酢酸エチルを単独で使用するか、酢酸エチルとトルエンとの混合溶媒を使用することが好ましい。酢酸エチルを単独で用いることが特に好ましい。
【0062】
いくつかの態様において、第一段階の重合は、上述のような熱重合開始剤(例えば、アゾ系重合開始剤)を用いて、例えば凡そ40℃~90℃程度、好ましくは凡そ50℃~70℃程度の温度で行うことができる。他のいくつかの態様において、第一段階の重合は、上述のような光重合開始剤を用いて、紫外線等の光を照射して行うことができる。
【0063】
第一段階の重合に使用するモノマー成分は、粘着剤組成物の製造に用いるモノマー成分全体のうち、一部であってもよく、全部であってもよい。モノマー成分全体のうちの一部を第一段階の重合に使用する場合、上記一部とは、モノマー成分全体のうち一部の分量であってもよく、モノマー成分全体に含まれる複数種類のモノマーのうち一部の種類であってもよい。
【0064】
第一段階の重合は、粘着剤組成物の調製に用いられるモノマー成分全体を100重量%として、該モノマー成分の重合転化率(モノマーコンバーション)が凡そ3重量%以上となるように行うことが好ましい。以下、第一段階の終了時におけるモノマー成分の重合転化率を「中間重合率」ということがある。いくつかの態様において、中間重合率は、凡そ5重量%以上でもよく、凡そ8重量%以上でもよい。また、中間重合率は、通常、凡そ50重量%以下とすることが適当であり、凡そ40重量%以下とすることが好ましく、凡そ30重量%以下でもよく、凡そ25重量%以下でもよい。中間重合率が高くなると、第二段階後におけるピークHの面積比は大きくなる傾向にある。また、中間重合率が低くなると、第二段階後におけるピークLの面積比は大きくなる傾向にある。
【0065】
なお、第一段階で用いたモノマー成分の重合転化率は、既知の重量(W1)を有するアルミニウムパンに、第一段階終了時の反応液から採取したサンプルを入れてその重量(W2)を測定し、次いでこれを130℃に2時間加熱した後の重量(W3)を測定し、以下の式に代入することにより算出される。ここで、下記式におけるm1は、上記第一段階終了時の反応液の重量に対する、第一段階で用いたモノマーの重量の割合を示す。
第一段階で用いたモノマー成分の重合転化率(%)=(W3-W1)/((W2-W1)×m1)×100
【0066】
粘着剤組成物の調製に用いられるモノマー成分全体のうち第一段階で重合されたモノマー成分の重量割合、すなわち中間重合率は、上記第一段階で用いたモノマー成分の重合転化合率および第一段階の重合終了後に用いられるモノマー成分の量に基づいて算出することができる。第一段階終了時の反応液に、粘着剤組成物の調製に使用するモノマー成分の全部がすでに投入されている場合は、第一段階で用いたモノマー成分の重合転化率と中間重合率とは一致する。後述する実施例においても同様の方法で中間重合率を求めた。
【0067】
第一段階においてモノマー成分の重合が所望の程度まで(例えば、所望の中間重合率に到達するまで)進行したら、いったん反応を終了させる。例えば、系に重合溶媒を加え、熱重合の場合は冷却し、光重合の場合は光照射を止める。第一段階の重合終了時に加える重合溶媒としては、第一段階の重合に使用し得る重合溶媒として例示したものと同様の有機溶媒から選択されるいずれか一種の溶媒または二種以上の混合溶媒を好ましく使用し得る。第一段階の重合を重合溶媒の存在下で行う場合、該重合溶媒と、第一段階の重合終了時に加える重合溶媒とは、同一でもよく異なってもよい。
【0068】
第二段階では、上記第一段階により得られた部分重合物および重合溶媒の存在下で、上記モノマー成分全体のうち未反応のモノマー成分の重合反応を進行させる。第二段階の重合は、第一段階の重合より重合溶媒を多く含む条件下で進行させることが好ましい。このことは、例えば、第一段階の重合における重合溶媒の含有量(重量%)に比べて、第二段階の重合における重合溶媒の含有量(重量%)が5重量%以上または10重量%以上高いことが好ましい。粘度上昇抑制等の観点から、いくつかの態様において、第二段階における重合溶媒の含有量は、例えば35重量%超であってよく、40重量%以上であることが好ましく、45重量%以上であることがより好ましく、50重量%または55重量%以上であってもよい。また、第二段階における重合溶媒の含有量は、通常、90重量%以下とすることが適当であり、80重量%以下または70重量%以下でもよい。
【0069】
第二段階の重合は、上述のような熱重合開始剤(例えば、アゾ系重合開始剤)を新たに追加して、例えば凡そ35℃~90℃程度、好ましくは凡そ35℃~70℃程度の温度で行うことができる。第一段階で使用する熱重合開始剤と、第二段階で使用する熱重合開始剤とは、同一でもよく異なってもよい。他のいくつかの態様において、第一段階の重合は、上述のような光重合開始剤を新たに追加して、紫外線等の光を照射して行うことができる。第一段階で使用する光重合開始剤と、第二段階で使用する光重合開始剤とは、同一でもよく異なってもよい。また、例えば第一段階で光重合開始剤、第二段階で熱重合開始剤を用いてもよく、第一段階で熱重合開始剤、第二段階で光重合開始剤を用いてもよい。第一段階において使用した重合開始剤の残存分(未分解分)を第二段階の重合において利用し得ることから、通常は、第一段階および第二段階をいずれも熱重合開始剤により行うか、第一段階および第二段階をいずれも光重合開始剤により行うことが好ましい。第二段階の重合における重合開始剤の種類や量、重合温度や光照射強度等の重合条件等を適切に設定することにより、ピークLの重量平均分子量を調節することができる。
【0070】
第二段階の重合は、粘着剤組成物の調製に用いられるモノマー成分全体を100重量%として、該モノマー成分の重合転化率が凡そ90重量%以上となるように行うことが好ましい。このように重合転化率の高い構成において、上記(a),(b)を満たすことの効果が好適に発揮され得る。以下、第二段階の終了時におけるモノマー成分の重合転化率を「最終重合率」ということがある。第二段階の重合は、上記最終重合率が凡そ95重量%以上となるように行うことが好ましく、凡そ97重量%以上となるように行うことがさらに好ましい。一態様において、上記最終重合率は100重量%であってよく、生産性やコスト等の実用上の観点から99.5重量%以下または99.0重量%以下でもよい。
【0071】
なお、最終重合率は、既知の重量(W1)を有するアルミニウムパンに、第二段階終了時の反応液から採取したサンプルを入れてその重量(W2)を測定し、次いでこれを130℃に2時間加熱した後の重量(W3)を測定し、以下の式に代入することにより算出される。ここで、下記式におけるm2は、上記第二段階終了時の反応液の重量に対する、モノマー成分全体の重量の割合を示す。
最終重合率(%)=(W3-W1)/((W2-W1)×m2)×100
後述する実施例においても同様の方法で最終重合率を求めた。
【0072】
ここに開示される粘着剤組成物が架橋剤および/または粘着付与樹脂を含む場合、これらの成分は、すべての重合が終わった後に添加混合することが望ましい。
【0073】
<粘着シート>
ここに開示される粘着シートは、粘着剤層を含んで構成されている。上記粘着シートは、例えば、粘着剤層の一方の表面により構成された第一粘着面と、該粘着剤層の他方の表面により構成された第二粘着面と、を備える基材レス両面粘着シートの形態であり得る。あるいは、ここに開示される粘着シートは、上記粘着剤層が支持基材の片面または両面に積層された基材付き粘着シートの形態であってもよい。以下、支持基材のことを単に「基材」ということもある。
【0074】
一実施形態に係る粘着シートの構造を図1に模式的に示す。この粘着シート1は、粘着剤層21からなる基材レスの両面粘着シートとして構成されている。粘着シート1は、粘着剤層21の一方の表面(第一面)により構成された第一粘着面21Aと、粘着剤層21の他方の表面(第二面)により構成された第二粘着面21Bとを、被着体の異なる箇所に貼り付けて用いられる。粘着面21A,21Bが貼り付けられる箇所は、異なる部材のそれぞれの箇所であってもよく、単一の部材内の異なる箇所であってもよい。使用前(すなわち、被着体への貼付け前)の粘着シート1は、図1に示すように、第一粘着面21Aおよび第二粘着面21Bが、少なくとも粘着剤層21に対向する側がそれぞれ剥離面となっている剥離ライナー31,32によって保護された形態の剥離ライナー付き粘着シート100の構成要素であり得る。剥離ライナー31,32としては、例えば、シート状の基材(ライナー基材)の片面に剥離処理剤による剥離層を設けることで該片面が剥離面となるように構成されたものを好ましく使用し得る。あるいは、剥離ライナー32を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー31を用い、これと粘着シート1とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面21Bが剥離ライナー31の背面に当接して保護された形態(ロール形態)の剥離ライナー付き粘着シートを構成していてもよい。
【0075】
他の一実施形態に係る粘着シートの構造を図2に模式的に示す。この粘着シート2は、第一面10Aおよび第二面10Bを有するシート状の支持基材(例えば樹脂フィルム)10と、その第一面10A側に設けられた粘着剤層21とを備える基材付き片面粘着シートとして構成されている。粘着剤層21は、支持基材10の第一面10A側に固定的に、すなわち当該支持基材10から粘着剤層21を分離する意図なく、設けられている。使用前の粘着シート2は、図2に示すように、粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも粘着剤層21に対向する側が剥離面となっている剥離ライナー31によって保護された形態の剥離ライナー付き粘着シート200の構成要素であり得る。あるいは、剥離ライナー31を省略し、第二面10Bが剥離面となっている支持基材10を用い、粘着シート2を巻回することにより粘着面21Aが支持基材10の第二面(背面)10Bに当接して保護された形態(ロール形態)であってもよい。
【0076】
さらに他の一実施形態に係る粘着シートの構造を図3に模式的に示す。この粘着シート3は、第一面10Aおよび第二面10Bを有するシート状の支持基材(例えば樹脂フィルム)10と、その第一面10A側に固定的に設けられた第一粘着剤層21と、第二面10B側に固定的に設けられた第二粘着剤層22と、を備える基材付き両面粘着シートとして構成されている。使用前の粘着シート3は、図3に示すように、第一粘着剤層21の表面(第一粘着面)21Aおよび第二粘着剤層22の表面(第二粘着面)22Aが剥離ライナー31,32によって保護された形態の剥離ライナー付き粘着シート300の構成要素であり得る。あるいは、剥離ライナー32を省略し、両面が剥離面となっている剥離ライナー31を用い、これと粘着シート3とを重ね合わせて渦巻き状に巻回することにより第二粘着面22Aが剥離ライナー31の背面に当接して保護された形態(ロール形態)の剥離ライナー付き粘着シートを構成していてもよい。
【0077】
なお、ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着フィルム、粘着ラベル等と称されるものが包含され得る。粘着シートは、ロール形態であってもよく、枚葉形態であってもよく、用途や使用態様に応じて適宜な形状に切断、打ち抜き加工等されたものであってもよい。ここに開示される技術における粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、これに限定されず、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されていてもよい。
【0078】
(粘着剤層)
ここに開示される粘着シートを構成する粘着剤層は、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物の硬化層であり得る。かかる粘着剤層は、粘着剤組成物を適当な表面に付与(例えば塗布)した後、乾燥、重合、冷却、架橋等の硬化処理を適宜施すことにより形成され得る。溶剤型や水分散型の粘着剤組成物では、通常、上記硬化処理として少なくとも乾燥が行われる。光硬化型の粘着剤組成物では光照射が実施される。ホットメルト型の粘着剤組成物は、塗布後に冷却することにより硬化する。二種以上の硬化処理(例えば、乾燥および架橋)を行う場合、これらは、同時に、または多段階にわたって行うことができる。
【0079】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて実施することができる。
支持基材を有する形態の粘着シートでは、支持基材上に粘着剤層を設ける方法として、該支持基材に粘着剤組成物を直接付与して粘着剤層を形成する直接法を用いてもよく、剥離性を有する表面(剥離面)上に形成した粘着剤層を支持基材に転写する転写法を用いてもよく、これらの方法を組み合わせてもよい。上記剥離面としては、剥離ライナーの表面や、剥離処理された支持基材背面等を利用し得る。
【0080】
粘着剤層の厚さは、特に限定されず、例えば凡そ1μm以上500μm以下であり得る。軽量化や薄型化の観点から、いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、例えば200μm以下であってよく、100μm以下または50μm以下でもよい。ここに開示される粘着剤組成物によると、薄くても強粘着力を発揮する粘着剤層が形成され得る。かかる特徴を活かして、上記粘着剤層の厚さは、例えば30μm以下であってよく、25μm以下でもよく、20μm以下でもよく、10μm以下または10μm未満でもよく、8μm以下または7μm以下でもよい。また、強粘着力を発揮しやすくする観点から、粘着剤層の厚さは、2μm以上であることが好ましく、3μm以上でもよい。ここに開示される粘着シートにおける粘着剤層の厚さの好ましい範囲として、1μm以上30μm以下の範囲、2μm以上25μm以下の範囲、3μm以上20μm以下の範囲、3μm以上10μm未満の範囲、3μm以上8μm以下の範囲、等が例示される。なお、粘着剤層からなる基材レスの粘着シートでは、粘着剤層の厚さと粘着シートの厚さとは一致する。また、基材の両面に粘着剤層を有する両面粘着シートの場合、上述した粘着剤層の厚さは、基材の片面当たりの粘着剤層の厚さである。ここに開示される粘着シートを構成する粘着剤層(基材の両面に粘着剤層を有する両面粘着シートでは、各粘着剤層)は、単層構造であってもよく、二層以上の多層構造であってもよい。
【0081】
ここに開示される粘着シートにおいて、粘着剤層のゲル分率は、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。ゲル分率が高すぎない粘着剤層は、薄くても被着体に対して良好な密着性を示す傾向にある。このことは粘着力向上の観点から有利となり得る。いくつかの態様において、粘着剤層のゲル分率は、45%以下でもよく、40%以下でもよい。一方、粘着剤層に適切な凝集性を付与する観点から、粘着剤層のゲル分率は、通常、5%以上であることが適当であり、10%以上でもよく、20%以上でもよい。
【0082】
粘着剤層のゲル分率は、該粘着剤層から採取したサンプルの重量(W1)を測定した後、該サンプルを酢酸エチルに浸漬して室温(典型的には23℃)で7日間保持した後、上記サンプルの不溶分を取り出して乾燥させた後の重量(W2)を測定し、以下の式に代入することにより算出される。後述の実施例でも同様の方法が用いられる。
ゲル分率(%)=(W2/W1)×100
【0083】
(支持基材)
いくつかの態様に係る粘着シートは、支持基材の片面または両面に粘着剤層を備える基材付き粘着シートの形態であり得る。支持基材の材質は特に限定されず、粘着シートの使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。使用し得る基材の非限定的な例としては、ポリプロピレンやエチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィンを主成分とするポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを主成分とするポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルを主成分とするポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム;ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリクロロプレンフォーム等の発泡体からなる発泡体シート;各種の繊維状物質(麻、綿等の天然繊維、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、等であり得る。)の単独または混紡等による織布および不織布;和紙、上質紙、クラフト紙、クレープ紙等の紙類;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;等が挙げられる。これらを複合した構成の基材であってもよい。このような複合基材の例として、例えば、金属箔と上記プラスチックフィルムとが積層した構造の基材、ガラスクロス等の無機繊維で強化されたプラスチック基材等が挙げられる。
【0084】
ここに開示される粘着シートの基材としては、各種のフィルム基材を好ましく用いることができる。上記フィルム基材は、発泡体フィルムや不織布シート等のように多孔質の基材であってもよく、非多孔質の基材であってもよく、多孔質の層と非多孔質の層とが積層した構造の基材であってもよい。いくつかの態様において、上記フィルム基材としては、独立して形状維持可能な(自立型の、あるいは非依存性の)樹脂フィルムをベースフィルムとして含むものを好ましく用いることができる。ここで「樹脂フィルム」とは、非多孔質の構造であって、典型的には実質的に気泡を含まない(ボイドレスの)樹脂フィルムを意味する。したがって、上記樹脂フィルムは、発泡体フィルムや不織布とは区別される概念である。上記樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、二層以上の多層構造(例えば三層構造)であってもよい。
【0085】
樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66、部分芳香族ポリアミド等のポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂を用いることができる。上記樹脂フィルムは、このような樹脂の一種を単独で含む樹脂材料を用いて形成されたものであってもよく、二種以上がブレンドされた樹脂材料を用いて形成されたものであってもよい。上記樹脂フィルムは、無延伸であってもよく、延伸(例えば一軸延伸または二軸延伸)されたものであってもよい。
【0086】
樹脂フィルムを構成する樹脂材料の好適例として、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン樹脂が挙げられる。ここで、ポリエステル系樹脂とは、ポリエステルを50重量%を超える割合で含有する樹脂を意味する。同様に、ポリオレフィン系樹脂とはポリオレフィンを50重量%を超える割合で含有する樹脂、ポリウレタン系樹脂とはポリウレタンを50重量%を超える割合で含有する樹脂を意味する。
【0087】
ポリエステル系樹脂は、典型的には、ジカルボン酸とジオールを重縮合して得られるポリエステルを主成分として含む。ポリエステル系樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンナフタレートフィルム等が挙げられる。
【0088】
ポリオレフィン系樹脂としては、一種のポリオレフィンを単独で、または二種以上のポリオレフィンを組み合わせて用いることができる。該ポリオレフィンは、例えばα-オレフィンのホモポリマー、二種以上のα-オレフィンの共重合体、一種または二種以上のα-オレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体等であり得る。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレンプロピレンゴム(EPR)等のエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。低密度(LD)ポリオレフィンおよび高密度(HD)ポリオレフィンのいずれも使用可能である。ポリオレフィン系樹脂フィルムの例としては、無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、中密度ポリエチレン(MDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム、二種以上のポリエチレン(PE)をブレンドしたポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)をブレンドしたPP/PEブレンドフィルム等が挙げられる。
【0089】
ポリウレタン系樹脂を構成するポリウレタンとしては、エーテル系ポリウレタン、エステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン等のいずれも使用可能である。ポリウレタン系樹脂フィルムは、このようなポリウレタンのいずれか一種を含むポリウレタン樹脂から構成されたものであってもよく、二種以上のポリウレタンを任意の割合で含むポリウレタン樹脂から構成されたものであってもよい。
【0090】
基材の第一面には、必要に応じて、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤(プライマー)の塗布、帯電防止処理等の、従来公知の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、基材と粘着剤層との密着性、言い換えると粘着剤層の基材への投錨性を向上させるための処理であり得る。プライマーの組成は特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。下塗り層の厚さは特に制限されないが、通常、0.01μm~1μm程度が適当であり、0.1μm~1μm程度が好ましい。
【0091】
ここに開示される粘着シートを構成する基材の厚さは、特に限定されず、粘着シートの使用目的や使用態様等に応じて適宜選択し得る。取扱い性や加工性等の観点から、いくつかの態様において、基材の厚さは、例えば凡そ1μm以上であってよく、2μm以上、5μm以上、10μm以上または20μm以上でもよい。また、粘着シートの軽量化や薄型化の観点から、いくつかの態様において、基材の厚さは、例えば100μm以下であってよく、70μm以下でもよく、50μm以下でもよく、40μm以下でもよい。
【0092】
基材を有する粘着シートの厚さは、特に限定されず、該粘着シートの使用目的や使用態様等に応じて適宜選択し得る。取扱い性や加工性等の観点から、いくつかの態様において、粘着シートの厚さは、例えば凡そ3μm以上であってよく、7μm以上でもよく、12μm以上でもよく、22μm以上でもよい。また、粘着シートの軽量化や薄型化の観点から、いくつかの態様において、粘着シートの厚さは、例えば150μm以下であってよく、130μm以下でもよく、100μm以下でもよく、75μm以下でもよく、50μm以下でもよく、35μm以下でもよい。
【0093】
(ピール粘着力)
ここに開示される粘着シートは、上述のような粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有することにより、該粘着剤層が比較的薄くても強粘着性を示し得る。この明細書によると、例えば、ステンレス鋼板に対する貼付け30分間後の180°ピール粘着力(以下、対SUSピール粘着力ともいう。)が8N/20mm以上、10N/20mm以上または12N/20mm以上である粘着シートが提供され得る。上記ピール粘着力を満たし、かつ粘着剤層の厚さが3μm以上10μm未満である粘着シートがより好ましく、粘着剤層の厚さが3μm以上8μm以下(例えば4~6μm程度、典型的には5μm程度)である粘着シートがさらに好ましい。
【0094】
対SUSピール粘着力は、後述の実施例に記載の方法で測定される。基材レスの粘着剤層からなる粘着シートでは、180°ピール粘着力の測定にあたり、上記粘着剤層の片面に適当な裏打ち材(例えば、厚さ25μm~50μm程度のPETフィルム)を貼り合わせて補強することができる。また、基材付きの片面粘着シートまたは基材付きの両面粘着シートにおいても、必要に応じて同様の補強を行うことができる。
【0095】
また、ここに開示される粘着剤組成物は、該粘着剤組成物を用いて後述する実施例と同様の手順で塗工、乾燥およびエージング処理を行って得られる粘着シート(すなわち、厚さ25μmのPETフィルムの片面に厚さ5μmの粘着剤層を有する粘着シート)が、例えば8N/20mm以上、好ましくは10N/20mm以上、または12N/20mm以上の対SUSピール粘着力を示すものであり得る。上記粘着シートの対SUSピール粘着力は、例えば30N/20mm以下であってよく、20N/20mm以下でもよい。上記粘着シートにおいて、粘着剤層のゲル分率は、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、45%以下または40%以下でもよい。また、上記粘着剤層のゲル分率は、通常、5%以上であることが適当であり、10%以上でもよく、20%以上でもよい。
【0096】
<用途>
ここに開示される粘着剤組成物および該組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートは、高い粘着力を発揮し得ることから、各種の機器において部材の固定や接合等の用途に好ましく用いられ得る。特に、粘着剤層の厚みが小さくても高い粘着力を発揮し得ることから、小型軽量化の要請の強い携帯機器(ポータブル機器)を構成する部材に貼り付けられる粘着シートまたは該粘着シートの粘着剤層を形成するための粘着剤組成物として好適である。ここで「携帯」とは、単に携帯することが可能であるだけでは充分ではなく、個人(標準的な成人)が相対的に容易に持ち運び可能なレベルの携帯性を有することを意味するものとする。また、ここでいう携帯機器の例には、携帯電話、スマートフォン、タブレット型パソコン、ノート型パソコン、各種ウェアラブル機器、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、音響機器(携帯音楽プレーヤー、ICレコーダー等)、計算機(電卓等)、携帯ゲーム機器、電子辞書、電子手帳、電子書籍、車載用情報機器、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯プリンター、携帯スキャナ、携帯モデム等の携帯電子機器の他、機械式の腕時計や懐中時計、懐中電灯、手鏡等が含まれ得る。上記携帯電子機器を構成する部材の例には、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置に用いられる光学フィルムや表示パネル等が含まれ得る。また、ここに開示される粘着シートは、自動車、家電製品等における各種部材に貼り付けられる態様で、該部材の固定や接合等の用途にも好ましく用いられ得る。
【0097】
なお、この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
(1) モノマー成分の重合物を含む粘着剤組成物であって、
上記重合物は、GPC測定に基づく分子量分布のピーク分離解析において、以下の条件:
(a)分子量のピークトップが100万以上2000万以下の範囲にあるピークHの面積比が、上記分子量分布のピーク面積全体の3%以上30%以下である;および、
(b)分子量のピークトップが1000以上100万未満の範囲にあるピークLの面積比が、上記分子量分布のピーク面積全体の70%以上97%以下である;
を満たす、粘着剤組成物。
(2) 上記モノマー成分の組成に基づいて算出されるTgが-70℃以上-40℃以下の範囲にある、上記(1)に記載の粘着剤組成物。
(3) 上記モノマー成分の50重量%超が(メタ)アクリル系モノマーである、上記(1)または(2)に記載の粘着剤組成物。
(4) 上記モノマー成分は、(メタ)アクリル酸C4-10アルキルエステルと、アクリル酸と、水酸基含有モノマーとを含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の粘着剤組成物。
(5) 上記モノマー成分の重合転化率が90重量%以上であり、
不揮発分含量が20重量%以上50重量%以下の有機溶媒溶液として調製されている、上記(1)~(4)のいずれかに記載の粘着剤組成物。
(6) 上記ピークHのMwが200万以上800万以下である、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
(7) 上記ピークLのMwが5万以上50万以下である、上記(1)~(6)のいずれかに記載の粘着剤組成物。
(8) さらに架橋剤を含む、上記(1)~(7)のいずれかに記載の粘着剤組成物。
(9) さらに粘着付与樹脂を含む、上記(1)~(8)のいずれかに記載の粘着剤組成物。
(10) 厚さ25μmのPETフィルム(基材)に乾燥後の厚さが5μmとなるように塗工し、122℃で乾燥させて粘着剤層を形成し、50℃で24時間のエージング処理を行って粘着シートを形成した場合において、該粘着シートのステンレス鋼板に対する貼付け30分間後の180°ピール粘着力が8N/20mm以上である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の粘着剤組成物。
(11) 上記粘着剤層のゲル分率が70%以下である、上記(10)に記載の粘着剤組成物。
【0098】
(12) 上記(1)~(11)のいずれかに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有することを特徴とする、粘着シート。
(13) 上記粘着剤層の厚さが1μm以上30μm以下である、上記(12)に記載の粘着シート。
(14) 上記粘着剤層のゲル分率が70%以下である、上記(12)または(13)に記載の粘着シート。
(15) 上記粘着剤層の厚さが3μm以上8μm以下であり、
ステンレス鋼板に対する貼付け30分間後の180°ピール粘着力が8N/20mm以上である、上記(12)~(14)のいずれかに記載の粘着シート。
【0099】
(16) 上記(1)~(11)のいずれかに記載の粘着剤組成物を製造する方法であって、
上記モノマー成分の一部を重合させて部分重合物を得る第一段階と、
上記第一段階の後、未反応の上記モノマー成分を上記部分重合物および重合溶媒の存在下で重合させる第二段階と、
を含む、粘着剤組成物製造方法。
(17) 上記第一段階の重合は重合溶媒の存在下で行われ、
上記第一段階の重合における上記重合溶媒の使用量は、該第一段階で用いるモノマー成分と重合溶媒との合計量を100重量%として1重量%以上30重量%以下の量である、上記(16)に記載の製造方法。
(18) 上記第一段階の重合は、上記製造方法に使用するモノマー成分全体を100重量%として、該モノマー成分の重合転化率が3重量%以上30重量%以下となるように行う、上記(16)または(17)に記載の製造方法。
(19) 上記第一段階により得られた反応液に重合溶媒を加えて希釈した後に上記第二段階の重合を行う、上記(16)~(18)のいずれかに記載の製造方法。
(20) 上記モノマー成分は水酸基含有モノマーを含み、
少なくとも上記第一段階の重合初期には上記モノマー成分のうち上記水酸基含有モノマーを含まないモノマー成分を用いて重合反応を進行させる、上記(16)~(19)のいずれかに記載の製造方法。
(21) 上記第二段階により得られた反応液に、架橋剤および/または粘着付与樹脂を配合することをさらに含む、上記(16)~(20)のいずれかに記載の製造方法。
【実施例
【0100】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0101】
<ベースポリマーの合成>
(製造例1)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応容器に、モノマー成分としての2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)200部およびアクリル酸(AA)10部と、重合溶媒としての酢酸エチル50部とを加え、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した(窒素置換)。水浴により反応容器内の温度を55℃に調整し、重合開始剤として2,2’-アゾイソブチロニトリル(AIBN)0.2部を加え、同温度で反応を行った。反応開始から5分後に、モノマー成分としての4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)0.1部と、重合溶媒としての酢酸エチル290部とを加えて希釈し、いったん反応を終了させた。この時点で少量の反応液(約19%の重合溶媒を含有する。)をスポイトで採取し、上述の要領で中間重合率を求めた。
残りの反応液が入った反応容器を再び窒素置換した後、62℃に昇温し、追加の重合開始剤としてAIBN0.1部を加え、同温度で8時間反応を行って、重合物Aの溶液を得た。この溶液(約38%の重合溶媒を含有する。)を採取して最終重合率を測定した。室温においてB型粘度計により(以下同じ。)上記溶液の粘度を測定したところ、54cPであった。
【0102】
(製造例2)
製造例1において、モノマー成分としての2EHA200部およびAA10部とともに反応容器に入れる酢酸エチルの量を50部から90部に変更し、第一段階の重合後に4HBA0.1部とともに反応容器に加える酢酸エチルの量を290部から240部に変更した。その他の点については製造例1と同様の処理を行い、ポリマーBの溶液を得た。この溶液の粘度は36cPであった。
【0103】
(製造例3)
製造例1において、2EHA200部に代えて、2EHA100部とn-ブチルアクリレート100部との混合物を使用した。その他の点については製造例1と同様の処理を行い、ポリマーCの溶液を得た。この溶液の粘度は28cPであった。
(製造例4)
製造例1と同様の設備を用い、モノマー成分としての2EHA200部およびAA10部と、酢酸エチル50部とを反応容器に加え、1時間の窒素置換を行った。水浴により反応容器内の温度を55℃に調整し、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社のV-65)0.02部を加え、同温度で反応を行った。反応開始から5時間後に、モノマー成分としての4HBA0.1部と、酢酸エチル290部とを加え、いったん反応を終了させた。
再び窒素置換を行った後、62℃に昇温し、0.18部のV-65および0.1部のAIBNを加え、同温度で3時間反応を行って、重合物Dの溶液を得た。この溶液の粘度は48cPであった。
【0104】
(製造例5)
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および紫外線照射装置(EXECURE4000、HOYA CANDEOOPTRONICS社製)を備えた反応容器に、2EHA200部、AA10部、酢酸エチル90部、および光重合開始剤としてIRGACURE819(BASF社製)0.02部を加えた。1時間の窒素置換を行い、紫外線を照射して5分間反応を行った。照射を中止し、4HBA0.1部、酢酸エチル240部、重合開始剤として0.4部のIRGACURE819および0.2部のIRGACURE184(BASF社製)を加えた。再び窒素置換を行った後、紫外線を照射し、1時間反応を行って、重合物Eの溶液を得た。この溶液の粘度は41cPであった。
【0105】
(製造例6)
製造例1と同様の設備を用い、2EHA200部およびAA10部を反応容器に加えて、1時間の窒素置換を行った。水浴で反応容器内の温度を60℃に調整し、0.02部のAIBNを加え、同温度で反応を行った。反応開始から15分後に4HBA0.1部および酢酸エチル330部を加え、いったん反応を終了させた。
再び窒素置換を行った後、40℃に昇温し、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社のV-70)0.4部を加えて1時間反応を行い、次いで65℃に昇温し、追加の重合開始剤として0.06部のAIBNを加え、同温度で6時間反応を行って、重合物Fの溶液を得た。この溶液の粘度は31cPであった。
【0106】
(製造例7)
製造例1と同様の設備を用い、2EHA200部、AA10部、4HBA0.1部および酢酸エチル330部を反応容器に加えて、1時間の窒素置換を行った。水浴で反応容器内の温度を60℃に調整し、0.2部のAIBNを加え、同温度で6時間反応を行った後、引き続き70℃に昇温してさらに3時間反応を行って、重合物Gの溶液を得た。この溶液の粘度は68cPであった。
【0107】
(製造例8)
製造例1と同様の設備を用い、2EHA200部、AA10部および4HBA0.1部を反応容器に加えて、1時間の窒素置換を行った。水浴で反応容器内の温度を60℃に調整し、重合開始剤として0.02部のAIBNを加え、同温度で反応を行った。反応開始から15分後、0.08部のAIBNを溶解した酢酸エチル330部を8時間かけて加え、いったん反応を終了させた。
再び窒素置換を行った後、40℃に昇温し、0.4部のV-70を加えて1時間反応を行い、次いで65℃に昇温し、0.06部のAIBNを加え、同温度で6時間重合反応を行って、重合物Hの溶液を得た。この溶液の粘度は33cPであった。
【0108】
(製造例9)
製造例5と同じ装置を用い、2EHA200部、AA10部、4HBA0.1部、酢酸エチル90部、および光重合開始剤として0.02部のIRGACURE819を反応容器に加えた。1時間窒素置換を行い、紫外線を照射し、20分間反応を行った。次いで、0.4部のIRGACURE819および0.2部のIRGACURE184を溶解した窒素置換済の酢酸エチル240部を1時間かけて紫外線を照射しながら滴下した。滴下終了後、さらに1時間紫外線を照射して反応を行い、重合物Iの溶液を得た。この溶液の粘度は145cPであった。
【0109】
(製造例10)
製造例5と同じ装置を用い、2EHA200部、AA10部、4HBA0.1部、酢酸エチル330部、および光重合開始剤として0.2部のIRGACURE819と0.1部のIRGACURE184を反応容器に加えた。1時間の窒素置換を行い、紫外線を照射し、1時間反応を行って、重合物Jの溶液を得た。この溶液の粘度は14cPであった。
【0110】
<重量平均分子量の測定>
各製造例により得られた重合物の分子量分布をGPCにより測定した。測定用のサンプルとしては、各製造例により得られた重合物の溶液を常温で乾燥させて残った固形分をテトラヒドロフランに溶解して濃度0.1%の溶液を調製し、この溶液を一晩放置した後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した濾液を使用した。下記の装置および条件にてGPC測定を行い、標準ポリスチレン換算の分子量分布を求めた。
[GPC条件]
使用装置:東ソー社製、HLC-8220GPC
カラム:GMHHR-H(20)、7.8mm(内径)×30.0cm(長さ)
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.8mL/分
サンプル注入量:100μL
測定温度:25℃
検出器:示差屈折計
標準試料:ポリスチレン
【0111】
上記GPC測定に基づいて、上述した方法によりピークHおよびピークLの面積比および各ピークのMwを求めた。
【0112】
製造例1~10について、上述した方法により求めた中間重合率および最終重合率、得られた重合物のGPC測定結果から求めたピークHおよびピークLの各々の面積比とMw、ならびにモノマー成分の組成に基づいて算出したTgを、表1にまとめて示す。
【0113】
【表1】
【0114】
<粘着剤組成物の調製>
(例1)
製造例1で得られた重合物A溶液100部に、粘着付与樹脂としてYSポリスターN125(ヤスハラケミカル社製、軟化点125℃のテルペンフェノール樹脂)の50%酢酸エチル溶液16部、酢酸エチル84部、架橋剤としてコロネートL(東ソー社製、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)2部およびタケネートD140(三井化学社製、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)0.002部を加え、攪拌混合して粘着剤組成物を得た。
【0115】
(例2)
重合物A溶液に代えて製造例2で得られた重合物B溶液を用い、粘着付与樹脂としてYSポリスターN125に代えてYSポリスターU115(ヤスハラケミカル社製、軟化点115℃のテルペンフェノール樹脂)を用いた他は例1と同様にして、本例に係る粘着剤組成物を得た。
【0116】
(例3)
重合物A溶液に代えて製造例3で得られた重合物C溶液を用い、粘着付与樹脂としてYSポリスターN125に代えてペンセルD125(荒川化学社製、軟化点125℃の重合ロジンエステル)を用いた他は例1と同様にして、本例に係る粘着剤組成物を得た。
【0117】
(例4~10)
重合物A溶液に代えて製造例4~10で得られた重合物D~I溶液をそれぞれ使用した他は例1と同様にして、各例に係る粘着剤組成物を得た。
【0118】
<粘着シートの作製>
各例に係る粘着剤組成物を、厚さ25μmのPETフィルム(基材)に、乾燥後の厚さが5μmとなるように塗工し、122℃で乾燥させて溶媒を除去することにより、上記PETフィルムの片面に粘着剤層を形成した。上記粘着剤層の表面に剥離ライナーを貼り合わせ、50℃で24時間エージング処理を行って、目的の粘着シート(基材付き片面粘着シート)を得た。上記剥離ライナーとしては、片面にシリコーン系樹脂による剥離処理が施された厚さ38μmのPETフィルム(三菱ケミカル社製、MRF-38)を使用した。
また、各例に係る粘着剤組成物を、上記剥離ライナー(三菱ケミカル社製、MRF-38)に、乾燥後の厚みが5μmとなるように塗工し、122℃で乾燥させることにより、上記剥離ライナー上に粘着剤層を形成した。この粘着剤層の表面に、より軽剥離の剥離ライナー(三菱ケミカル社製、MRE-38)を貼り合わせ、50℃で24時間エージング処理を行った。基材レスの粘着シートを得た。この粘着シートの第一粘着面および第二粘着面はそれぞれ上記剥離ライナーによって保護されている。
【0119】
上記エージング処理後の基材レス粘着シートの粘着剤層からサンプルを採取し、上述した方法でゲル分率を求めた。また、上記エージング処理後の粘着シートについて、以下の評価試験を行った。結果を表2に示した。
【0120】
<評価試験>
(180°ピール粘着力)
各例に係る基材付き片面粘着シートを、剥離ライナーごと幅20mm、長さ100mmサイズにカットして、測定用サンプルを作成した。23℃、50%RHの標準環境下において、上記測定サンプルから剥離ライナーを剥がして粘着面(粘着剤層の表面)を露出させ、その粘着面を被着体に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを上記標準環境下に30分間放置した後、テスター産業社製の剥離試験機を使用して、JIS Z0237に準じて引張速度300mm/分の条件で180°ピール粘着力を測定した。結果を表2に示した。この表2において、粘着力を示す欄の「対SUS板」は被着体としてステンレス板(SUS304BA板)を用いて得られた測定値、「対PMMA板」は被着体としてアクリル樹脂板(三菱ケミカル社製、アクリライト)を用いて得られた測定値である。
【0121】
(耐反撥性)
各例に係る基材レス粘着シートを、剥離ライナーごと幅10mm、長さ90mmサイズにカットし、片面に厚さ0.3mm、幅10mm、長さ90mmの清浄なアルミニウム板を貼り合わせたものを試験片とした。
次いで、上記試験片を円柱の外周に、該アルミニウム板側を内側として巻き付けるように沿わせることにより、上記試験片を曲率半径Rが50mmとなるように湾曲させた。上記湾曲させた状態に10秒間保持した後、上記試験片から剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させ、該粘着面を上記アクリル樹脂板(三菱ケミカル社製、アクリライト)の表面に、2kgのローラを1往復させて圧着した。これを上記標準条件下に24時間静置した後、上記試験片の長手方向の一端および他端について、該試験片の端がアクリル樹脂板の表面から浮き上がった高さ、すなわちアクリル樹脂板の表面から粘着面までの距離(浮き距離)を測定した。上記一端および他端における浮き距離の平均値(単位:mm)を求め、その結果が10mm以下であった場合は「G」(耐反撥性良好)、10mmを超えた場合は「P」(耐反撥性に乏しい)と評価した。
【0122】
(保持特性)
各例に係る粘着シートの基材背面に、対応する各例に係る基材レス粘着シートを貼り合わせ、この基材レス粘着シートを介して厚さ50μmのPETフィルム(裏打ち材)を貼り付けた。上記粘着シートを裏打ち材および剥離ライナーごと10mmの幅に裁断したものを試験片とした。上記試験片から剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させ、トルエンで清浄化したベークライト板に、幅10mm、長さ20mmの接着面積にて、2kgのローラを一往復させて圧着した。このようにして試験片を貼り付けたベークライト板を60℃の環境下に垂下して30分間放置した後、500gの荷重がせん断方向に加わるように上記試験片の錘を付加し、該錘が宙吊りの状態となるようにして60℃の環境下に1時間放置した。1時間後、試験片がベークライト板から落下していなかった場合には「G」(保持特性良好)、落下していなかった場合は「P」(保持特性不良)と評価した。
【0123】
【表2】
【0124】
表1、2からわかるように、上記(a),(b)を満たす分子量分布を有する重合物を含む例1~6の粘着剤組成物によると、厚さ5μmの粘着剤層においても高いピール粘着力を示す粘着シートが得られた。これらの粘着シートは、耐反撥性および保持特性も良好であった。
【0125】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0126】
1,2,3 粘着シート
10 支持基材
10A 第一面
10B 第二面(背面)
21 粘着剤層(第一粘着剤層)
21A 粘着面(第一粘着面)
21B 第二粘着面
22 粘着剤層(第二粘着剤層)
22A 粘着面(第二粘着面)
31,32 剥離ライナー
100,200,300 剥離ライナー付き粘着シート

図1
図2
図3