(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】木造柱と木造梁との接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20220414BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220414BHJP
E04C 3/14 20060101ALI20220414BHJP
E04C 3/18 20060101ALI20220414BHJP
E04C 5/08 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
E04B1/26 G
E04B1/58 503L
E04B1/58 505L
E04B1/58 506L
E04C3/14
E04C3/18
E04C5/08
(21)【出願番号】P 2018130189
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白山 貴志
(72)【発明者】
【氏名】徳武 茂隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 希
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-176529(JP,A)
【文献】特開平11-022006(JP,A)
【文献】登録実用新案第3016302(JP,U)
【文献】特開2003-239401(JP,A)
【文献】特開昭60-212542(JP,A)
【文献】特開平10-212761(JP,A)
【文献】実開平02-150302(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/26
E04B 1/58
E04C 3/14
E04C 3/18
E04C 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造柱と木造梁との接合構造であって、
木造の柱と、
前記柱に接合する木造の梁と、
前記梁にプレストレスを与える緊張材と、
前記柱及び前記梁の接合部に配置された接合体とを有し、
前記接合体は、
前記柱を挟んで互いに対向し、前記緊張材の張力によって互いに近づく方向に力を受ける鋼製の1対の第1側壁と、
前記1対の第1側壁間を連結して該1対の第1側壁間に働く力を伝達する鋼製の連結部材とを有
し、
前記連結部材は、両端部がそれぞれ前記1対の第1側壁に固定され、中間部が前記柱に形成された溝に受容された第1連結板を有することを特徴とする接合構造。
【請求項2】
木造柱と木造梁との接合構造であって、
木造の柱と、
前記柱に接合する木造の梁と、
前記梁にプレストレスを与える緊張材と、
前記柱及び前記梁の接合部に配置された接合体とを有し、
前記接合体は、
前記柱を挟んで互いに対向し、前記緊張材の張力によって互いに近づく方向に力を受ける鋼製の1対の第1側壁と、
前記1対の第1側壁間を連結して該1対の第1側壁間に働く力を伝達する鋼製の連結部材とを有し、
前記連結部材は、前記1対の第1側壁に対して直角に配置された1対の第2側壁からなり、
前記1対の第1側壁と、前記1対の第2側壁とによって前記柱の側面を囲う筒状部材が形成され、
前記接合体は、前記筒状部材と前記柱との間に充填された充填材を含
み、
前記柱は、第1柱部材と、前記第1柱部材の上方に配置された第2柱部材とを有し、
前記1対の第1側壁及び前記1対の第2側壁の各々は、前記第1柱部材の上端側の側面及び前記第2柱部材の下端側の側面に対向し、
前記緊張材は、前記第1柱部材の上端側及び前記第2柱部材の下端側の一方と前記1対の第1側壁とを貫通し、
前記第1柱部材の上端側及び前記第2柱部材の下端側の他方と、前記1対の第1側壁及び/又は前記1対の第2側壁とを貫通して、両端部において該1対の第1側壁及び/又は該1対の第2側壁に固定されたロッドを更に有することを特徴と
する接合構造。
【請求項3】
前記柱は、横断面視で矩形をなし、
前記接合体は、前記1対の第1側壁の主面の延長面に対して主面の延長面が直交するように配置されて、前記柱を挟んで互いに対向する鋼製の1対の第2側壁を有し、
両端部がそれぞれ前記1対の第2側壁に固定され、中間部が前記柱に形成された前記溝に受容された鋼製の第2連結板を更に有し、
前記第1連結板及び前記第2連結板の組み合わせは井桁状に配置されたことを特徴とする請求項
1に記載の接合構造。
【請求項4】
前記柱は、第1柱部材と、前記第1柱部材の上方に配置された第2柱部材とを有し、
前記1対の第1側壁及び前記1対の第2側壁の各々は、前記第1柱部材の上端側の側面及び前記第2柱部材の下端側の側面に対向し、
前記緊張材は、前記第1柱部材の上端側及び前記第2柱部材の下端側の一方と前記1対の第1側壁とを貫通し、
前記第1柱部材の上端側及び前記第2柱部材の下端側の他方と、前記1対の第1側壁及び/又は前記1対の第2側壁とを貫通して、両端部において該1対の第1側壁及び/又は該1対の第2側壁に固定されたロッドを更に有することを特徴とする請求項
3に記載の接合構造。
【請求項5】
前記緊張材は、アンボンド緊張材であることを特徴とする請求項1~
4の何れか一項に記載の接合構造。
【請求項6】
前記梁における前記接合体に圧接する端部では、金属板又は繊維強化プラスチックシートからなる梁補強部材が該梁の延在方向に平行な面を拘束していることを特徴とする請求項1~
5の何れか一項に記載の接合構造。
【請求項7】
前記梁に圧接する前記第1側壁の外面には、水平方向に延在し前記梁の下面に当接する第1突条と、前記第1突条に交差するように鉛直方向に延在し、前記梁の端部を係止する第2突条とが固定されていることを特徴とする請求項1~
6の何れか一項に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、木造柱とプレストレスト木造梁との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な木造住宅の梁は、概ね4~6m程度以下のスパンを有する。オフィスや店舗を木造とする場合、梁のスパンをこれよりも大きくし、柱梁の接合部を強化することが好ましい。例えば、特許文献1には、木造梁にプレストレスを導入することにより、梁の断面を増大させずに梁のスパンを大きくできることが示されている。また、特許文献2には、木造の柱梁の接合部にプレストレスを導入することにより、接合部の回転剛性と耐力を増大させることが示されている。柱や梁に使用される集成材や単板積層材等の木質材料は、直交異方性、すなわち、繊維に平行な方向の圧縮力には強いが繊維に直交する方向の圧縮力には弱いという性質を有する。そこで、特許文献2に記載の構造では柱に鉄筋を挿入することにより補強し、プレストレスを導入している。特許文献3には、柱を貫通するように緊張材を配置し、柱の側面を囲う角筒状の胴体に緊張材の端部を定着させ、梁にプレストレスを導入することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-176385号公報
【文献】特開2009-197416号公報
【文献】特開2005-076318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構造では、木造梁を強化することはできるが、柱梁の接合部を強化することはできなかった。特許文献2に記載の構造は、木造の柱梁の接合部を強化している。しかし、梁端部の角座金の部分にしか圧着力が入らないため、梁に十分なプレストレスを与えることができなかった。また、鉄筋による柱の補強は、手間がかかるとともに、木材柱としての欠損が生じ、接合部の損傷が早期に生じるおそれがあった。特許文献3に記載の柱梁接合部では、梁から柱の側面に力が加わる部分において、梁は、角筒状の胴体に設けられた嵌入口に案内されて柱の側面に圧縮力を加える。このため、木造の柱の直交異方性から梁に十分なプレストレスを与えることができなかった。
【0005】
このような問題を鑑み、本発明は、梁に大きなプレストレスを与えることができる、モーメント抵抗接合の柱と木造梁との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、木造柱と木造梁との接合構造(1,31,41)であって、木造の柱(2)と、前記柱に接合する木造の梁(3)と、前記梁にプレストレスを与える緊張材(4)と、前記柱及び前記梁の接合部に配置された接合体(25,32,43)とを有し、前記接合体は、前記柱を挟んで互いに対向し、前記緊張材の張力によって互いに近づく方向に力を受ける鋼製の1対の第1側壁(9,9)と、前記1対の第1側壁間を連結して該1対の第1側壁間に働く力を伝達する鋼製の連結部材(10,33)とを有ることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、連結部材によって1対の第1側壁間の力が伝達されるため、柱には、緊張材の張力によって生じる力が実質的に作用しない。そのため、柱と木造梁との接合部に大きなプレストレスを与えて、モーメント抵抗接合の接合構造とすることができる。また、再生可能資源である木材を有効利用することができる。
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記構成において、前記連結部材は、前記1対の第1側壁に対して直角に配置された1対の第2側壁(10,10)からなり、前記1対の第1側壁と、前記1対の第2側壁とによって前記柱の側面を囲う筒状部材(5,44)が形成され、前記接合体は、前記筒状部材と前記柱との間に充填された充填材(19)を含むことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、簡易な構成で接合体を設けることができる。
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記の最初の構成において、前記連結部材は、両端部がそれぞれ前記1対の第1側壁に固定され、中間部が前記柱に形成された溝(35)に受容された第1連結板(33)を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、簡易な構成で接合体を設けることができる。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記構成において、前記柱は、横断面視で矩形をなし、前記接合体(32)は、前記1対の第1側壁の主面の延長面に対して主面の延長面が直交するように配置されて、前記柱を挟んで互いに対向する鋼製の1対の第2側壁(10)を有し、両端部がそれぞれ前記1対の第2側壁に固定され、中間部が前記柱に形成された前記溝に受容された鋼製の第2連結板(34)を更に有し、前記第1連結板及び前記第2連結板の組み合わせは井桁状に配置されたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、互いに直交する2方向に緊張材を配置でき、井桁状に配置された第1連結板及び第2連結板によって1対の第1側壁及び1対の第2側壁を安定して支持することができる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記の第2側壁を有する構成において、前記柱は、第1柱部材(11)と、前記第1柱部材の上方に配置された第2柱部材(12)とを有し、前記1対の第1側壁及び前記1対の第2側壁の各々は、前記第1柱部材の上端側の側面及び前記第2柱部材の下端側の側面に対向し、前記緊張材は、前記第1柱部材の上端側及び前記第2柱部材の下端側の一方と前記1対の第1側壁とを貫通し、前記第1柱部材の上端側及び前記第2柱部材の下端側の他方と、前記1対の第1側壁及び/又は前記1対の第2側壁とを貫通して、両端部において該1対の第1側壁及び/又は該1対の第2側壁に固定されたロッド(14)を更に有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、柱と梁の接合部において、2つの柱部材を互いに接合することができる。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記構成の何れかにおいて、前記緊張材は、アンボンド緊張材であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、アンボンドプレストレスによるリセンタリング機能により、地震終了後の残留変形が小さくなる。
【0018】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記構成の何れかにおいて、前記梁における前記接合体に圧接する端部では、金属板又は繊維強化プラスチックシートからなる梁補強部材(21)が該梁の延在方向に平行な面を拘束していることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、梁の圧縮強度及び靭性を増大させ、地震時に梁の端部が圧縮力によって壊れることを防止できる。
【0020】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る接合構造は、上記構成の何れかにおいて、前記梁に圧接する前記第1側壁の外面には、水平方向に延在し前記梁の下面に当接する第1突条(45)と、前記第1突条に交差するように鉛直方向に延在し、前記梁の端部を係止する第2突条(46)とが固定されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、第1突条及び第2突条がシアキーとなり、せん断力が梁及び接合体間で伝達されるとともに、緊張材が切断しても梁の落下が防止される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、梁に大きなプレストレスを与えることができる、モーメント抵抗接合の柱と木造梁との接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係る接合構造を適用したラーメン構造の正面図
【
図8】第3実施形態の第1変形例に係る筒状体の斜視図側
【
図9】第3実施形態の第2変形例に係る筒状体の斜視図側
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は第1実施形態に係る接合構造1を適用したラーメン構造の正面図である。接合構造1は、木造の柱2と、柱2に接合する木造の梁3と、梁3に対してプレストレスを与える緊張材4と、柱2と梁3との接合部に配置された筒状部材5とを有する。
【0025】
図1に示すように、柱2は、紙面左側に配置された第1柱2aと、紙面右側に配置された第2柱2bと、第1柱2a及び第2柱2bの間に配置された第3柱2cとを備える。梁3は、第1柱2a及び第3柱2c間に架け渡された第1梁3aと、第2柱2b及び第3柱2c間に架け渡された第2梁3bとを備える。第1柱2a及び第2柱2b間に複数の第3柱2cが配置されてもよく、この場合、互いに隣接する2つの第3柱2c間に1本の梁3が架け渡される。筒状部材5は、第1~第3柱2a,2b,2cにそれぞれ取り付けられた第1~第3筒状部材5a,5b,5cを備える。以下、第1~第3柱2a,2b,2cについて、これらを総称する場合又は互いに区別する必要がない場合は、単に柱2と記す。同様に、第1及び第2梁3a,3bについて、これらを総称する場合又は互いに区別する必要がない場合は、単に梁3と記し、第1~第3筒状部材5a,5b,5cについて、これらを総称する場合又は互いに区別する必要がない場合は、単に筒状部材5と記す。
【0026】
緊張材4は、第1~第3柱2a,2b,2c、第1及び第2梁3a,3b、並びに、第1~第3筒状部材5a,5b,5cに挿通され、両端部において、それぞれ、第1筒状部材5a及び第2筒状部材5bに定着具6によって定着している。緊張材4は、PC鋼棒、PC鋼線、PC鋼より線、又は、アラミド繊維、炭素繊維若しくはガラス繊維等の繊維強化プラスチック製の棒若しくはケーブル等を素材とする。クリープ等による緊張力減退の影響を減らすため、緊張材として弾性係数の小さな素材を採用することが好ましい。緊張材4はアンボンド緊張材とすることが好ましい。アンボンドとすることによって、地震終了後の残留変形が小さくなる。
【0027】
柱2の木材の繊維は概ね鉛直方向に延びており、梁3の木材の繊維は概ね水平方向に延びている。柱2及び梁3は、木質材料、すなわち、木材を切削してひき板7(
図5参照)、小角材8(
図3参照)又は単板とし、欠点を除去したあとで、ふたたび、それらの繊維方向をそろえて多数重ね、接着・成形した集成材又は単板積層材であることが好ましい。
【0028】
図2~
図4に示すように、柱2の横断面は矩形をなし、柱2が内挿される筒状部材5は、矩形の筒形状をなす。筒状部材は、緊張材4が挿通される1対の第1側壁9,9と、1対の第1側壁に対して直角をなすように配置された1対の第2側壁10,10とを有する。1対の第1側壁9,9及び1対の第2側壁10,10は、下層側に配置された第1柱部材11の上端側の側面と、上層側に配置された第2柱部材12の下端側との側面に対向するよう配置される。第1柱部材11の上端側には、緊張材4が挿通される第1貫通孔13と、ロッド14が挿通される複数の第2貫通孔15とが形成されている。第2柱部材12の下端側には、ロッド14が挿通される複数の第2貫通孔15が形成されている。本実施形態では、緊張材4は1方向にのみ配置され、第1柱部材11の第2貫通孔15は、第1貫通孔13に直交する方向に設けられ、第2柱部材12の第2貫通孔15は、第1貫通孔13に平行な方向と、第1貫通孔13に直交する方向との2方向に設けられており、互いに直交する第2貫通孔15は、ロッド14が互いにぶつからないように、互いの上下方向位置が相違する。第1側壁9及び第2側壁10には、第1貫通孔13及び第2貫通孔15に整合する位置に第3貫通孔16及び第4貫通孔17が設けられている。ロッド14の両端部にはねじ部が設けられており、ロッド14の両端部はナット18によって、第1側壁9又は第2側壁10に固定される。
【0029】
なお、第1柱部材11の第2貫通孔15は、第1貫通孔13に直交する方向に代えて、又は加えて、第1貫通孔13に平行な方向に設けられてもよく、第2柱部材12の第2貫通孔15は、1方向にのみ設けられてもよく、これらの場合、第3貫通孔16及び第4貫通孔17は、それぞれ第1貫通孔13及び第2貫通孔15に整合するように設けられる。緊張材4が互いに直交する2方向に配置されるときは、第1貫通孔13は、緊張材4がぶつからないように互いの上下方向位置を変えて、2方向に設けられる。また、第1貫通孔13を第2柱部材12に設け、第2貫通孔15を第1柱部材11及び第2柱部材12に設けてもよい。また、第1柱部材11及び第2柱部材12の内、第1貫通孔13が設けられる方には、第2貫通孔15を設けなくてもよい。
【0030】
平面視で、筒状部材5の内輪郭は、柱2の輪郭よりも大きい。柱2と筒状部材5の間には、グラウト等の充填材19が充填されている。なお、充填材19としてグラウトを使用する場合には、第1柱部材11の上端側及び第2柱部材12の下端側に撥水材等を塗布し、グラウトの水分の吸収を防ぐことが好ましい。また、第1貫通孔13と第3貫通孔16との間には、充填材19が流れ込まないように、第1貫通孔13及び第3貫通孔16に連通するパイプ20が配置される。ロッド14及びナット18によって、筒状部材5を固定した後、充填材19を充填し、その後、緊張材4を緊張する。梁3の端面は、その全面で第1側壁9に圧接している。
【0031】
図5に示すように、梁3の端部を梁補強部材21で拘束することにより、梁3の圧縮強度及び靭性を増大させ、地震時に梁3の端部が圧縮力によって壊れることを防止することが好ましい。梁補強部材21は、梁3の端部における梁3の延在方向に平行な面(上面、下面及び幅方向に直交する側面)を覆う4つの金属板によって形成された筒状部21aと、筒状部21aにおける梁3の接合面側に取り付けられた金属板からなる蓋部21bとを有する。蓋部21bには、第1貫通孔13及び第3貫通孔16に連通して、緊張材4を挿通させる孔21cが設けられている。各金属板は互いに溶接等により結合される。金属板によって形成された梁補強部材21と梁3の端部との間にはグラウト(図示せず)等が充填される。なお、梁補強部材21は、蓋部21bを省略して、筒状部21aのみから形成してもよい。また、梁補強部材21の材料として、アラミド繊維、炭素繊維又はガラス繊維等の繊維強化プラスチックシートを使用してもよい。この場合、梁3の端部における延在方向に平行な面に繊維強化プラスチックシートを巻き付けることによって筒状部21aを形成するため、筒状部21aと梁3の端部との間にグラウト等を充填するべき隙間はない。さらに、繊維強化プラスチックシートからなる蓋部21bを取り付けてもよく、蓋部21bを設けなくてもよい。
【0032】
梁3には緊張材4が挿通される挿通孔22が設けられている。挿通孔22の形成方法を説明する。梁3の材料をその中心軸を通る鉛直面で切断し、切断された2つの分割部材23,23を再び合わせたときに、挿通孔22が形成されるように、切断面を切削して、溝24を設ける。その後、2つの分割部材23,23を切断面で接着して梁3とする。1対の溝24,24が挿通孔22を構成する。
【0033】
図1に示すように、1本の緊張材4により第1梁3a及び第2梁3bにプレストレスを与えている。第1及び第2筒状部材5a,5bでは、外側(
図1の紙面における第1筒状部材5aの左側、第2筒状部材5bの右側)の第1側壁9に定着具6が定着し、内側(
図1の紙面における第1筒状部材5aの右側、第2筒状部材5bの左側)の第1側壁に梁3が圧接している。第3筒状部材5cでは、1対の第1側壁9の双方に梁3が圧接している。
【0034】
接合構造1を有する建物には、粘弾性系制振装置(図示せず)を併用することが好ましい。粘弾性系制振装置により、初期建物剛性を付加できる。また、木造の接合構造1は、非線形弾性型の復元力特性のため減衰が不足するが、粘弾性系制振装置によって減衰が補助される。
【0035】
接合構造1の作用効果について説明する。緊張材4の張力によって、梁3の延在方向にプレストレスが生じるとともに、梁3と柱2に取り付けられた筒状部材5との間にも力が作用する。鋼製の筒状部材5と、筒状部材5を柱2に対して安定させるとともに筒状部材5の撓みを抑制する充填材19とから構成される接合体25において、定着具6及び梁3からの力は、1対の第1側壁9,9及び1対の第2側壁10,10によって伝達される。ここで、1対の第2側壁10,10は、1対の第1側壁9,9を連結してその間で力を伝達する連結部材として機能するため、柱2には、緊張材4の張力によって生じる力が実質的に作用しない。また、充填材が筒状部材5の撓みを抑制するため、第1側壁9が撓んで定着具6の近傍で柱2に大きな力が加わることを抑制できる。よって、緊張材4によるプレストレスを大きくしても、柱2の直交異方性によって柱2が破壊せず、梁3と接合体25との互いの接合をモーメント抵抗接合とすることができる。梁3を接合体25に高い圧力で押し付けることにより、梁3が接合体25から離間するまで接合構造1の剛性を確保でき、また、離間後の接合構造1の曲げ耐力を増大させることができ、ラーメン架構としての剛性及び耐力が増大する。また、接合構造1の剛性が大きくなるため、架構全体の剛性を増大させることができる。さらに、梁3の端部の柔らかい層は、接合体25に圧接することによりつぶれるため、より確実な剛接合とすることが可能となる。また、梁3の端部は、全面で第1側壁9に圧接するため、高い圧着力を得ることができる。
【0036】
接合構造1によって、木造梁のスパンを比較的大きくでき、広く開放的な空間を作ることができる。また、木造建物の剛性及び耐力が増大するため、木材の利用可能範囲が広がり、再生可能資源である木材、特に木質材料の利用促進に貢献する。また、木材は、コンクリートや鉄骨に比べて軽いため、建物の自重を低減させることができる。
【0037】
筒状部材5、ロッド14及びナット18という簡易な構成により、第1柱部材11及び第2柱部材12を互いに接合できる。
【0038】
アンボンドプレストレスによるリセンタリング機能により、地震終了後の残留変形が小さくなる。また、接合体25が筒状部材5及び充填材19からなるため、第1柱部材11及び第2柱部材12の接合端部や、梁3の端部を含め加工手間等が低減される。また、延在方向が整合する複数の梁3に対して共通の緊張材4でプレストレスを導入できるため、緊張作業の手間を軽減できる。
【0039】
図6を参照して、第2実施形態に係る接合構造31を説明する。説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、同一の名称及び符号を用い、その説明を省略する。また、第1実施形態と類似する構成は、同一の名称及び符号を用い、その異なる部分を説明する。第2実施形態に係る接合構造31は、接合体32の形状や、接合体32の柱2への取り付け方において第1実施形態と相違する。
【0040】
柱2及び梁3(
図1参照)の接合部に配置される接合体32は、柱2を挟んで互いに対向する鋼製の1対の第1側壁9,9と、第1側壁9,9の主面の延長面に対して自身の主面の延長面が直交するように柱2を挟んで互いに対向する鋼製の1対の第2側壁10,10と、両端部が鋼製の1対の第1側壁9,9の互いに対向する面に溶接等により固定されて互いに平行な鋼製の1対の第1連結板33,33と、両端部が鋼製の1対の第2側壁10,10の互いに対向する面に溶接等により固定されて互いに平行な鋼製の1対の第2連結板34,34とを有する。
【0041】
第1連結板33及び第2連結板34は、それぞれ、第1側壁9及び第2側壁10に直角をなすように取り付けられる。1対の第1連結板33,33及び1対の第2連結板34,34は、互いに直交するように組み合わせられて井桁状をなす。第1側壁9、第2側壁10、第1連結板33及び第2連結板34の上端及び下端の位置は互いに一致することが好ましい。第1側壁9及び第2側壁10の側縁は、互いに離間している。
【0042】
第1側壁9及び第2側壁10は、下層側に配置された第1柱部材11の上端側の側面と、上層側に配置された第2柱部材12の下端側の側面とに対向している。第1柱部材11の上端面及び第2柱部材12の下端面には、1対の第1連結板33,33及び1対の第2連結板34,34の中間部を嵌入させる溝35が形成されている。1対の第1連結板33,33及び1対の第2連結板34,34の中間部は、接着剤により溝35に固定されている。第1柱部材11の上端面と第2柱部材12の下端面とは、グラウト(図示せず)を介して又は直接に互いに当接している。
【0043】
接合体32が取り付けられる柱2には、互いに直交する2方向に緊張材4(
図1参照)が配置できる。第1柱部材11の上端側は、その側面に直交するように緊張材4が挿通される2つの第1貫通孔13が形成されている。緊張材4が互いにぶつからないように、2つの第1貫通孔13の上下方向位置は互いにずれている。第2柱部材12の下端側には、その側面に直交するようにロッド14が挿通される複数の第2貫通孔15が形成されている。互いに直交する第2貫通孔15は、ロッド14が互いにぶつからないように、互いの上下方向位置がずれている。第1側壁9及び第2側壁10には、第1貫通孔13及び第2貫通孔15に整合する位置に第3貫通孔16及び第4貫通孔17が形成されている。なお、緊張材4が1方向にのみ配置される場合は、1対の第2側壁10,10及び1対の第2連結板34,34を設けなくてもよい。また、第2柱部材12に第1貫通孔13を設け、第1柱部材11に第2貫通孔15を設けてもよく、第1貫通孔13が設けられた第1柱部材11又は第2柱部材12にも第2貫通孔15を設けてもよい。
【0044】
第1連結板33及び第2連結板34は、それぞれ、1対の第1側壁9,9間の力及び1対の第2側壁10,10間の力を伝達する。そのため、柱2には、緊張材4の張力によって生じる力が実質的に作用しない。また、接合体32、ロッド14、ナット18及び接着剤という簡易な構成におり、第1柱部材11及び第2柱部材12を互いに接合できる。
【0045】
図7を参照して、第3実施形態に係る接合構造41を説明する。第3実施形態に係る接合構造41は、1本の柱部材42の中間部に設けられる点で第1実施形態と相違する。
【0046】
接合体43は、筒状部材44と、柱2と筒状部材44間を充填するグラウト等の充填材19(
図4参照)とを有する。筒状部材44は、筒状部材44及び柱部材42を貫通する緊張材4(
図1参照)に係止されるとともに、充填材19が付着することにより柱部材42に固定される。そのため、柱部材42及び筒状部材44には、緊張材4が挿通される孔は設けられる。筒状部材44が柱部材42に対して滑ることを防止するため、柱部材42及び筒状部材44にそれぞれ第2貫通孔15及び第4貫通孔17(
図2参照)は設け、これらにロッド14(
図3参照)を挿通して固定することが好ましい。
【0047】
図8は、第3実施形態の第1変形例を示す。第1変形例に係る接合構造41では、筒状部材44における梁3が接合される側面に、水平方向に延在する上下1対の第1突条45,45と、1対の第1突条45,45間に配置され鉛直方向に延在する1対の第2突条46,46とが溶接等により固定されている。1対の第1突条45,45及び1対の第2突条46,46の突出長は、互いに等しいことが好ましい。1対の第1突条45,45の延在方向の長さは、梁3の幅に略等しく、1対の第1突条45,45間の長さは梁3の梁せいに略等しい。梁3の端部は、1対の第1突条45,45に挟持されている。また、梁3の端部には、1対の第2突条46,46に補完的な形状の溝が設けられており、その溝に1対の第2突条46,46が突入している。梁3の端部と1対の第1突条45,45及び1対の第2突条46,46との間には、グラウトや接着剤を入れてもよいが、緊張材4(
図1参照)の張力によって、梁3の端部が、筒状部材44の側面に押し付けられているため、グラウトや接着剤を用いずとも、梁3の端部は、1対の第1突条45,45及び1対の第2突条46,46が形成された筒状部材44の側面に固定される。
【0048】
1対の第1突条45,45及び1対の第2突条46,46は、シアキーとして機能し、梁3と柱2及び筒状部材44との間でせん断力を伝達する。また、緊張材4(
図1参照)が切断しても、下側の第1突条45が梁3の端部の下面を支持しているため、梁3の落下が防止される。
【0049】
図9は、第3実施形態の第2変形例を示す。第2変形例に係る接合構造41は、第1突条45が梁3の下側にのみ設けられている点と、1対の第2突条46,46の突出長が、上方に向かうにつれ短くなっている点で第1変形例と相違する。第1突条45及び1対の第2突条46,46がシアキーとして機能し、第1突条45が梁の端部の下面を支持する。第1突条45が梁3の下方にのみ存在するため、梁3を上方から下方に移動させて所定の位置に配置することができる。
【0050】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、第3実施形態の第1又は第2変形例の第1突条及び第2突条を、第1実施形態又は第2実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,31,41:接合構造
2:柱
3:梁
4:緊張材
5,44:筒状部材
6:定着具
9:第1側壁
10:第2側壁
11:第1柱部材
12:第2柱部材
14:ロッド
19:充填材
21:梁補強部材
25,32,43:接合体
33:第1連結板
34:第2連結板
35:溝
45:第1突条
46:第2突条