(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】工作機械、欠損検知方法、および欠損検知プログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20220414BHJP
G05B 19/4065 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
B23Q17/09 F
G05B19/4065
(21)【出願番号】P 2018230512
(22)【出願日】2018-12-10
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 静雄
(72)【発明者】
【氏名】河合 謙吾
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054587(JP,A)
【文献】特開2017-077618(JP,A)
【文献】特開2016-083759(JP,A)
【文献】特開昭62-193751(JP,A)
【文献】特開昭56-033256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0285626(US,A1)
【文献】特開平11-309649(JP,A)
【文献】特開平01-164537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
G05B 19/4065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械であって、
ワークを切削するための複数の刃を有する工具と、
前記工具を回転するための主軸と、
前記主軸の振動に相関する時系列の物理量を取得するための取得部と、
前記工作機械を制御するための制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記時系列の物理量に基づいて、前記主軸の回転速度と前記工具の刃数とに相関するTPF(Tooth Passing Frequency)から前記主軸の回転速度に相関するSRF(Spindle Rotation Frequency)を減算した第1周波数に対応する前記主軸の第1振動強度と、前記TPFに前記SRFを加算した第2周波数に対応する前記主軸の第2振動強度との少なくとも一方を算出し、
前記第1振動強度と、前記第2振動強度と、前記第1振動強度および前記第2振動強度の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件を満たした場合に、前記工具の欠損を検知する、工作機械。
【請求項2】
前記予め定められた条件は、前記第1振動強度が所定の第1閾値を超え、かつ、前記第2振動強度が所定の第2閾値を超えた場合に満たされる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記第1閾値は、前記第2閾値よりも大きい、請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記予め定められた条件は、前記第1振動強度が所定閾値を超えた場合に満たされる、請求項1に記載の工作機械。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1振動強度に所定の第1の重みを乗算した値と、前記第2振動強度に所定の第2の重みを乗算した値とを加算した結果を前記合成値として算出し、
前記予め定められた条件は、前記合成値が所定閾値を超えた場合に満たされる、請求項2に記載の工作機械。
【請求項6】
前記第1の重みは、前記第2の重みよりも大きい、請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
前記制御装置は、前記主軸の回転速度の変更前後で前記第1振動強度および前記第2振動強度が変化しないときには、当該第1振動強度および当該第2振動強度を前記工具の欠損の検知には用いない、請求項1~6のいずれか1項に記載の工作機械。
【請求項8】
工作機械で用いられる工具の欠損を検知するための欠損検知方法であって、
前記工具は、ワークを切削するための複数の刃を有し、
前記工作機械は、前記工具を回転するための主軸を備え、
前記欠損検知方法は、
前記主軸の振動に相関する時系列の物理量を取得するステップと、
前記時系列の物理量に基づいて、前記主軸の回転速度と前記工具の刃数とに相関するTPF(Tooth Passing Frequency)から前記主軸の回転速度に相関するSRF(Spindle Rotation Frequency)を減算した第1周波数に対応する前記主軸の第1振動強度と、前記TPFに前記SRFを加算した第2周波数に対応する前記主軸の第2振動強度との少なくとも一方を算出するステップと、
前記第1振動強度と、前記第2振動強度と、前記第1振動強度および前記第2振動強度の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件を満たした場合に、前記工具の欠損を検知するステップとを備える、欠損検知方法。
【請求項9】
工作機械で用いられる工具の欠損を検知するための欠損検知プログラムであって、
前記工具は、ワークを切削するための複数の刃を有し、
前記工作機械は、前記工具を回転するための主軸を備え、
前記欠損検知プログラムは、前記工作機械に、
前記主軸の振動に相関する時系列の物理量を取得するステップと、
前記時系列の物理量に基づいて、前記主軸の回転速度と前記工具の刃数とに相関するTPF(Tooth Passing Frequency)から前記主軸の回転速度に相関するSRF(Spindle Rotation Frequency)を減算した第1周波数に対応する前記主軸の第1振動強度と、前記TPFに前記SRFを加算した第2周波数に対応する前記主軸の第2振動強度との少なくとも一方を算出するステップと、
前記第1振動強度と、前記第2振動強度と、前記第1振動強度および前記第2振動強度の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件を満たした場合に、前記工具の欠損を検知するステップとを実行させる、欠損検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械で利用される工具の欠損を検知するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開昭62-193751号公報(特許文献1)は、工具の欠損を検知することが可能な工作機械を開示している。より具体的には、特許文献1は、工具の近傍に設けられたAE(Acoustic Emission)センサから出力されるAE信号の周波数成分の内、SRF(Spindle Rotation Frequency)に対応する周波数成分が、工具の欠損時において正常時よりも大きくなることを開示している。この点に着目して、特許文献1に開示される工作機械は、SRFに対応する周波数成分に基づいて、工具の欠損を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SRFに相当する信号強度は、工具の欠損時において正常時よりも必ず大きくなるとは限らない。そのため、他の方法で工具の欠損を検知することが望まれている。
【0005】
本開示は上述のような問題点を解決するためになされたものであって、ある局面における目的は、従来とは異なる方法で工具の欠損を検知することができる工作機械を提供することである。他の局面における目的は、従来とは異なる方法で工具の欠損を検知することができる欠損検知方法を提供することである。他の局面における目的は、従来とは異なる方法で工具の欠損を検知することができる欠損検知プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例では、工作機械は、ワークを切削するための複数の刃を有する工具と、上記工具を回転するための主軸と、上記主軸の振動に相関する時系列の物理量を取得するための取得部と、上記工作機械を制御するための制御装置とを備える。上記制御装置は、上記時系列の物理量に基づいて、上記主軸の回転速度と上記工具の刃数とに相関するTPF(Tooth Passing Frequency)から上記主軸の回転速度に相関するSRF(Spindle Rotation Frequency)を減算した第1周波数に対応する上記主軸の第1振動強度と、上記TPFに上記SRFを加算した第2周波数に対応する上記主軸の第2振動強度との少なくとも一方を算出し、上記第1振動強度と、上記第2振動強度と、上記第1振動強度および上記第2振動強度の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件を満たした場合に、上記工具の欠損を検知する。
【0007】
本開示の一例では、上記予め定められた条件は、上記第1振動強度が所定の第1閾値を超え、かつ、上記第2振動強度が所定の第2閾値を超えた場合に満たされる。
【0008】
本開示の一例では、上記第1閾値は、上記第2閾値よりも大きい。
本開示の一例では、上記予め定められた条件は、上記第1振動強度が所定閾値を超えた場合に満たされる。
【0009】
本開示の一例では、上記制御装置は、上記第1振動強度に所定の第1の重みを乗算した値と、上記第2振動強度に所定の第2の重みを乗算した値とを加算した結果を上記合成値として算出し、上記予め定められた条件は、上記合成値が所定閾値を超えた場合に満たされる。
【0010】
本開示の一例では、上記第1の重みは、上記第2の重みよりも大きい。
本開示の一例では、上記制御装置は、上記主軸の回転速度の変更前後で上記第1振動強度および上記第2振動強度が変化しないときには、当該第1振動強度および当該第2振動強度を上記工具の欠損の検知には用いない。
【0011】
本開示の他の例では、工作機械で用いられる工具の欠損を検知するための欠損検知方法が提供される。上記工具は、ワークを切削するための複数の刃を有する。上記工作機械は、上記工具を回転するための主軸を備える。上記欠損検知方法は、上記主軸の振動に相関する時系列の物理量を取得するステップと、上記時系列の物理量に基づいて、上記主軸の回転速度と上記工具の刃数とに相関するTPF(Tooth Passing Frequency)から上記主軸の回転速度に相関するSRF(Spindle Rotation Frequency)を減算した第1周波数に対応する上記主軸の第1振動強度と、上記TPFに上記SRFを加算した第2周波数に対応する上記主軸の第2振動強度との少なくとも一方を算出するステップと、上記第1振動強度と、上記第2振動強度と、上記第1振動強度および上記第2振動強度の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件を満たした場合に、上記工具の欠損を検知するステップとを備える。
【0012】
本開示の他の例では、工作機械で用いられる工具の欠損を検知するための欠損検知プログラムが提供される。上記工具は、ワークを切削するための複数の刃を有する。上記工作機械は、上記工具を回転するための主軸を備える。上記欠損検知プログラムは、上記工作機械に、上記主軸の振動に相関する時系列の物理量を取得するステップと、上記時系列の物理量に基づいて、上記主軸の回転速度と上記工具の刃数とに相関するTPF(Tooth Passing Frequency)から上記主軸の回転速度に相関するSRF(Spindle Rotation Frequency)を減算した第1周波数に対応する上記主軸の第1振動強度と、上記TPFに上記SRFを加算した第2周波数に対応する上記主軸の第2振動強度との少なくとも一方を算出するステップと、上記第1振動強度と、上記第2振動強度と、上記第1振動強度および上記第2振動強度の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件を満たした場合に、上記工具の欠損を検知するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0013】
ある局面において、従来とは異なる方法で工具の欠損を検知することができる。
本発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解される本発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】工具によるワークの切削態様を示す図である。
【
図4】ワークの切削中において加速度センサから出力される信号波形の2つの例を示す図である。
【
図6】工具欠損時の近似波形をフーリエ変換した結果を示す図である。
【
図8】サンプリングされた振動周波数を示す図である。
【
図10】欠損条件の他の例を説明するための図である。
【
図11】工作機械の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図12】工作機械が実行する処理の一部を表わすフローチャートである。
【
図13】実験例1に基づく実験結果を示す図である。
【
図14】実験例2に基づく実験結果を示す図である。
【
図15】実験例3に基づく実験結果を示す図である。
【
図16】実験例4に基づく実験結果を示す図である。
【
図17】実験例5に基づく実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0016】
<A.工作機械100の構成>
図1および
図2を参照して、工作機械100の構成について説明する。
図1は、工作機械100の外観を示す図である。
図2は、工作機械100の内部構造の一例を示す図である。
【0017】
図1および
図2には、マシニングセンタとしての工作機械100が示されている。以下では、マシニングセンタとしての工作機械100について説明するが、工作機械100は、マシニングセンタに限定されない。たとえば、工作機械100は、旋盤であってもよいし、その他の切削機械や研削機械であってもよい。また、工作機械100は、工具が鉛直方向に取り付けられる縦形のマシニングセンタであってもよいし、工具が水平方向に取り付けられる横形のマシニングセンタであってもよい。
【0018】
工作機械100は、切削に関する各種情報を表示するためのディスプレイ130と、工作機械100に対する各種操作を受け付ける入力デバイス131とを含む。
【0019】
また、工作機械100は、その内部に、主軸頭21を有する。主軸頭21は、主軸22と、ハウジング23とで構成されている。主軸22は、ハウジング23の内部に配置されている。主軸22には、被加工物であるワークを加工するための工具が装着される。
図2の例では、エンドミルとしての工具32が主軸22に装着されている。
【0020】
主軸頭21は、ボールねじ25に沿ってZ軸方向に駆動可能に構成されている。ボールねじ25にはサーボモータなどの駆動機構が接続されている。当該駆動機構は、ボールねじ25を駆動することで主軸頭21を移動させ、Z軸方向の任意の位置に主軸頭21を移動する。
【0021】
また、主軸22にはサーボモータなどの駆動機構が接続される。当該駆動機構は、Z軸方向(鉛直方向)に平行な中心軸AX1を中心に主軸22を回転駆動する。その結果、主軸22に装着された工具32は、主軸22の回転に伴って中心軸AX1を中心に回転する。なお、工作機械100が旋盤である場合には、主軸22には、ワークが装着される。この場合、主軸22の回転に伴って、主軸22に装着されたワークが回転する。
【0022】
工作機械100は、自動工具交換装置(ATC:Automatic Tool Changer)30をさらに有する。自動工具交換装置30は、マガジン31と、押出し機構33と、アーム36とで構成されている。マガジン31は、ワークを加工するための種々の工具32を収容するための装置である。マガジン31は、複数の工具保持部34と、スプロケット35とで構成されている。
【0023】
工具保持部34は、種々の工具32を保持可能なように構成されている。複数の工具保持部34は、スプロケット35の周囲に環状に配列されている。スプロケット35は、モータ駆動により、X軸に平行な中心軸AX2を中心に回転可能に設けられている。スプロケット35の回転に伴って、複数の工具保持部34が中心軸AX2を中心に回転移動する。
【0024】
自動工具交換装置30は、工具の交換命令を受けたことに基づいて、マガジン31から装着対象の工具32を抜き取り、当該工具32を主軸22に装着する。より具体的には、自動工具交換装置30は、目的の工具32を保持する工具保持部34を押出し機構33の前に移動する。次に、押出し機構33は、アーム36による交換位置に向けて目的の工具32を押し出す。その後、アーム36は、目的の工具32を工具保持部34から抜き取るとともに、現在装着されている工具32を主軸22から抜き取る。その後、アーム36は、これらの工具32を保持した状態で半回転し、目的の工具32を主軸22に装着するとともに、元の工具32を工具保持部34に収容する。これにより、工具32の交換が行われる。
【0025】
工作機械100は、加工対象のワークをXY平面上で移動するための移動機構50をさらに有する。移動機構50は、ガイド51,53と、ボールねじ52,54と、ワークを保持するためのテーブル55(ワーク保持部)とで構成されている。
【0026】
ガイド51は、Y軸に対して平行に設置されている。ガイド53は、ガイド51上に設けられており、X軸に対して平行に設置されている。ガイド53は、ガイド51に沿って駆動可能に構成されている。テーブル55は、ガイド53上に設けられており、ガイド53に沿って駆動可能に構成されている。
【0027】
ボールねじ52にはサーボモータなどの駆動機構が接続されている。当該駆動機構は、ボールねじ52を駆動することでガイド53をガイド51に沿って移動し、Y軸方向の任意の位置にガイド53を移動する。同様に、ボールねじ54にもサーボモータなどの駆動機構が接続されている。当該駆動機構は、ボールねじ54を駆動することでテーブル55をガイド53に沿って移動し、X軸方向の任意の位置にテーブル55を移動する。すなわち、工作機械100は、ボールねじ52,54のそれぞれに接続される駆動機構を協働して制御することで、XY平面上の任意の位置にテーブル55を移動する。これにより、工作機械100は、テーブル55上で保持されるワークをXY平面上で移動させながら加工を行うことができる。
【0028】
ハウジング23には、主軸22または工具32の振動周波数を検知するための加速度センサ110が設けられている。好ましくは、複数の加速度センサ110がハウジング23に設けられ、各加速度センサ110は、主軸22または工具32の異なる方向(たとえば、X,Y,Z方向)の振動を検知する。なお、振動周波数を検知するためのセンサは、加速度センサ110に限定されず、工具32または主軸22の振動周波数を検知することが可能な任意のセンサが用いられ得る。
【0029】
<B.欠損検知方法の原理>
本実施の形態に従う工作機械100は、下記の「C.欠損検知機能」で説明するように、工具32の欠損を検知する。具体的な欠損検知方法を説明する前に、まず、工具32の欠損を検知するための原理について説明する。
【0030】
図3は、工具32によるワークWの切削態様を示す図である。
図3には、エンドミルとしての工具32が示されている。工具32は、その側面に複数の刃を有し、回転しながらワークWに接触することでワークWを切削する。一例として、工具32は、切込み幅Apの1段目の切削部分を切込み幅Aeごとに順次切削する。次に、工具32は、切込み幅Apの2段目の切削部分を切込み幅Aeごとに順次切削する。このような切削が繰り返されることで、ワークWは、任意の形状に切削される。
【0031】
工作機械100は、ワークWの切削中において、主軸22の振動に相関する時系列の物理量を取得する。取得される物理量は、主軸22の振動に伴って変化する物理量であれば、いずれの種類の物理量でもよい。一例として、当該物理量は、上述の加速度センサ110から出力される加速度である。以下では、理解を容易にするために、主軸22の振動に相関する物理量として、加速度センサ110から出力される加速度を例に挙げて欠損検知方法の原理を説明する。
【0032】
図4は、ワークWの切削中において加速度センサ110から出力される信号波形の2つの例を示す図である。より詳細には、
図4(A)には、工具32が欠損していない場合に加速度センサ110から出力される正常な信号波形W1が示されている。
図4(B)には、工具32が欠損している場合に加速度センサ110から出力される異常な信号波形W2が示されている。
【0033】
図4に示される「f
S」は、SRF(Spindle Rotation Frequency)を表わす。すなわち、「f
S」は、主軸回転速度に相関する周波数である。より具体的には、「f
S」は、下記の式(1)で表わされる。
【0034】
fS=S/60・・・(1)
式(1)に示される「fS」は、1秒当たりの主軸22の回転数を示す。「S」は、1分間当たりの主軸22の回転数を示す。式(1)に示されるように、60で割ることで「fS」の単位と「S」の単位とが揃えられる。
【0035】
図4に示される「f
T」は、切刃通過周波数(TPF:Tooth Passing Frequency)を表わす。「f
T」は、主軸回転速度と工具32の刃数とに相関する周波数である。より具体的には、「f
T」は、下記の式(2)で表わされる。
【0036】
fT=S*Z/60=fS*Z・・・(2)
式(2)に示される「S」は、主軸回転速度を示す。「S」は、1分間当たりの主軸22の回転数に相当する。「Z」は、工具32の刃数を示す。式(2)に示されるように、60で割ることで「fS」の単位と「S」の単位とが揃えられる。
【0037】
ワークWの切削中において、工具32は、回転しながらワークWを切削する。そのため、工具32の刃は、ワークWに対して接触と非接触とを繰り返す。その結果、信号波形W1に示されるように、加速度センサ110から出力される加速度は、周期的に変化する。
【0038】
信号波形W1の周波数は、切刃通過周波数「f
T」に依存する。たとえば、工具32の刃数が「4」である場合には、ワークWに対する工具32の刃の接触/非接触は、工具32の1回転当たりに4回繰り返される。その結果、
図4(A)に示されるように、信号波形W1は、工具32が1回転する1/f
S秒の間に4回振動することとなる。このように、信号波形W1の周波数は、工具32の各刃が接触/非接触を繰り返す周期に依存する。
【0039】
これに対して、工具32の刃が欠損している場合には、信号波形W2に示されるように、工具32の刃が欠損している部分において、加速度が正常時よりも小さくなる。この理由は、刃の欠損部分においては、ワークWとの接触が弱くなるため、あるいは、ワークWとの接触が生じないためである。工具32は、回転しながらワークWを切削するため、工具32の刃が欠損している場合には、
図4(B)に示される信号波形W2が繰り返し出力される。
【0040】
図4(A)に示される正常時の信号波形W1と、
図4(B)に示される工具欠損時の信号波形W2とは、周期的に変化するため、それぞれ式で近似することができる。
図5は、信号波形W1,W2の近似式を示す図である。より詳細には、
図5(A)には、正常時の信号波形W1の近似波形W1’が示されている。
図5(B)には、工具欠損時の信号波形W2の近似波形W2’が示されている。
【0041】
正常時の信号波形W1は、下記の式(3)で近似することができ、
図5(A)に示される近似波形W1’として表わされる。
【0042】
W=Acos(2πfTt)・・・(3)
式(3)に示される「A」は、定数である。「fT」は、TFPを表わす。「t」は、時間を表わす。式(3)に示されるように、信号波形W1’の周波数は、切刃通過周波数「fT」と等しい。
【0043】
これに対して、工具欠損時の信号波形W2は、下記の式(4)で近似することができ、
図5(B)に示される近似波形W2’として表わされる。
【0044】
W={A+Bcos(2πfSt)}cos(2πfTt)・・・(4)
式(4)に示される「A」,「B」は、定数である。「fS」は、SRFを表わす。「fT」は、TFPを表わす。「t」は、時間を表わす。
【0045】
上記式(4)の右辺は、三角関数の加法定理により、下記の式(5)のように展開され得る。
【0046】
{A+Bcos(2πfSt)}cos(2πfTt)=Acos(2πfTt)+Bcos(2πfSt)cos(2πfTt)=Acos(2πfTt)+(B/2)cos{2π(fTt-fSt)}+(B/2)cos{2π(fTt+fSt)}・・・(5)
上記式(5)に示されるように、工具欠損時の近似波形W2’には、TPF「fT」の周波数成分だけでなく、TPFからSRFを差分した「fT-fS」の周波数成分と、TPFにSRFを加算した「fT+fS」の周波数成分とが含まれている。これに対して、正常時の近似波形W1’には、上記式(3)に示されるように、「fT-fS」の周波数成分と「fT+fS」の周波数成分とが含まれていない。このことから、「fT-fS」の周波数成分と「fT+fS」の周波数成分とが現れる場合には、工具32の欠損が生じている可能性が高い。このような発見自体が新規であり、発明者らの功績と言える。
【0047】
図6は、工具欠損時の近似波形W2’をフーリエ変換した結果を示す図である。
図6に示されるグラフの横軸は、周波数を表わす。
図6に示されるグラフの縦軸は、振動強度を表わす。
【0048】
図6に示されるグラフからも分かるように、工具欠損時の近似波形W2’には、「f
T」の周波数成分だけでなく、「f
T-f
S」の周波数成分と、「f
T+f
S」の周波数成分とが含まれている。本実施の形態に従う工作機械100は、「f
T-f
S」の周波数成分と「f
T+f
S」の周波数成分との少なくとも一方に基づいて、工具32の欠損を検知する。
【0049】
<C.欠損検知機能>
次に、
図7~
図10を参照して、工具32の欠損の検知機能について説明する。
図7は、工作機械100の機能構成の一例を示す図である。
【0050】
図7に示されるように、工作機械100は、主要なハードウェア構成として、取得部90と、制御装置101とを含む。
【0051】
取得部90は、ワークWの切削中において、主軸22の振動に相関する時系列の物理量を取得する。取得部90によって取得される物理量は、主軸22の振動に伴って変化する物理量であればいずれの種類の物理量でもよい。一例として、当該物理量は、上述の加速度センサ110から出力される加速度である。他の例として、当該物理量は、主軸22を回転制御する後述のサーボモータ112D(
図11参照)に出力する制御信号(電流値)である。他の例として、当該物理量は、主軸22の回転速度や回転角度を検知する後述のエンコーダ113D(
図11参照)の出力信号(電流値)である。他の例として、当該物理量は、後述の位置検知ユニット115(
図11参照)によって検知される主軸22の位置信号である。
【0052】
なお、工具32は主軸22に取り付けられているため、工具32および主軸22は連動する。そのため、「主軸22の振動に相関する時系列の物理量」は、「工具32の振動に相関する時系列の物理量」と同義である。
【0053】
取得部90は、主軸22の振動に相関する物理量を逐次的に検知する。検知された物理量は、制御装置101に逐次出力される。
【0054】
制御装置101は、たとえば、NC(Numerical Control)プログラムを実行可能なNC制御装置である。NC制御装置は、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)、少なくとも1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはそれらの組み合わせなどによって構成される。
【0055】
制御装置101は、後述の欠損検知プログラム127(
図11参照)の実行時において、算出部154、欠損検知部156、および異常処理部160として機能する。以下では、算出部154、欠損検知部156、および異常処理部160の機能について順に説明する。
【0056】
(C1.算出部154)
算出部154は、取得部90によってワークWの切削中に取得された上記物理量を所定のサンプリングレートでサンプリングし、当該サンプリング結果を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)する。より具体的には、算出部154は、取得された時系列の物理量から、一定の時間範囲の物理量を切り出し、当該一定の時間範囲の物理量を高速フーリエ変換する。当該高速フーリエ変換は、ワークWの加工中に行われてもよいし、ワークWの加工が完了した後に行われてもよい。
【0057】
図8は、サンプリングされた振動周波数69Aを示す図である。算出部154は、高速フーリエ変換により振動周波数69Aを周波数分解し、周波数ごとの振動強度を算出する。
図8には、フーリエ変換の結果の一例として、スペクトル69Bが示されている。スペクトル69Bの横軸は、周波数を表わす。スペクトル69Bの縦軸は、振動強度を表わす。当該振動強度は、各周波数成分の振幅の大きさを示す。
【0058】
算出部154は、スペクトル69Bに含まれる周波数成分の中から、TPF「fT」からSRF「fS」を差分した周波数「f1」(第1周波数)に対応する振動強度「AM1」(第1振動強度)と、「fT」に「fS」を加算した「f2」(第2周波数)に対応する振動強度「AM2」(第2振動強度)との少なくとも一方を算出する。すなわち、異なる言い方をすれば、算出部154は、振動強度「AM1」,「AM2」のいずれかを算出しなくてもよい。算出された振動強度「AM1」,「AM2」は、欠損検知部156に出力される。
【0059】
なお、振動強度「AM1」,「AM2」の算出方法は、フーリエ変換に限定されない。たとえば、算出部154は、取得部90によって取得された時系列の物理量に対して周波数「f1」を乗算し、その乗算結果を振動強度「AM1」として算出してもよい。あるいは、算出部154は、取得部90によって取得された時系列の物理量に対して周波数「f2」を乗算し、その乗算結果を振動強度「AM2」として算出してもよい。
【0060】
(C2.欠損検知部156)
次に、
図9および
図10を参照して、欠損検知部156の機能について説明する。
【0061】
欠損検知部156は、周波数「f1(=TPF-SRF)」に対応する振動強度「AM1」と、周波数「f2(=TPF+SRF)」に対応する振動強度「AM2」と、振動強度「AM1」および振動強度「AM2」の合成値との内の少なくとも1つが予め定められた条件(以下、「欠損条件」ともいう。)を満たした場合に、工具32の欠損を検知する。欠損条件が満たされたか否かは、種々の方法で判断され得る。
【0062】
図9は、欠損条件の一例を説明するための図である。ある局面において、欠損条件は、振動強度「AM1」が閾値「th1」(第1閾値)を超え、かつ、振動強度「AM2」が閾値「th2」(第2閾値)を超えた場合に満たされる。このように、振動強度「AM1」,M2の両方に着目することで、欠損検知の精度がより高くなる。
【0063】
なお、閾値「th1」および閾値「th2」の大小関係は、任意である。閾値「th1」は、閾値「th2」と等しくてもよいし、閾値「th2」よりも大きくてもよいし、閾値「th2」よりも小さくてもよい。好ましくは、閾値「th1」は、閾値「th2」よりも大きい。これは、工具欠損時において、周波数「f1」に対応する振動強度AM1は、周波数「f2」に対応する振動強度AM2よりも大きくなる傾向にあるためである。
【0064】
閾値「th1」,「th2」は、予め設定されていてもよいし、自動で決定されてもよい。閾値「th1」,「th2」の大きさを自動で決定する方法について説明する。上記式(5)から、「fT(=TPF)」の振動強度「AM」と、「fT±fS(=TPF±SRF)」の振動強度「AM1」,「AM2」との比は、「A」:「B/2」となる。すなわち、TPFの振幅は「A」になるのに対して、TPF±SRFの振幅は「B/2」となる。定数「A」は、正常時のTPFの振幅を示し、定数「B」は、工具32の欠損時においてTPFの振幅が正常時から減少する量を示すので、刃が完全に欠けた場合には「A」=「B」となる。この場合、振動強度「AM」と振動強度「AM1」,「AM2」との比は、「1」:「1/2」となる。そのため、閾値「th1」,「th2」は、振動強度「AM」の1/2以下であることが好ましい。
【0065】
但し、これは、1つの刃が完全に無くなった場合を前提としている。すなわち、振動強度「AM1」,「AM2」は、工具32の刃の欠損が進むにつれて大きくなり、当該刃が完全に無くなった時点で、振動強度「AM」の1/2の大きさとなる。そのため、閾値「th1」,「th2」は、ある程度余裕を見て、TPFの振動強度「AM」の1/4程度であることが好ましい。これらの点に鑑みて、閾値「th1」,「th2」は、たとえば、振動強度「AM」の1/4以上で、かつ、振動強度「AM」の1/2以下に設定される。
【0066】
図10は、欠損条件の他の例を説明するための図である。他の局面において、欠損条件は、振動強度「AM1」が所定の閾値「th1」(第1閾値)を超えた場合に満たされる。すなわち、本例においては、欠損検知部156は、欠損検知のために振動強度「AM2」を用いない。上述のように、工具欠損時において、振動強度AM1は、振動強度AM2よりも大きくなる傾向にある。そのため、振動強度「AM2」に着目するよりも、振動強度「AM1」に着目する方が、欠損検知の精度が高くなる。そのため、欠損検知部156は、振動強度「AM1」が所定の閾値「th1」を超えた場合に、工具32の欠損を検知する。
【0067】
好ましくは、上述のように、閾値「th1」は、振動強度「AM」の1/4以上で、かつ、振動強度「AM」の1/2以下に設定される。
【0068】
他の局面において、欠損条件は、振動強度「AM1」および振動強度「AM2」の合成値が所定閾値を超えた場合に満たされる。一例として、当該合成値は、振動強度「AM1」に第1の重みを乗算した値と、振動強度「AM2」に第2の重みを乗算した値とを加算することで算出される。すなわち、当該合成値は、下記式(6)によって算出される。
【0069】
AM3=w1・AM1+w2・AM2・・・(6)
式(6)に示される「w1」は、第1の重みを示す。「w2」は、第2の重みを示す。重み「w1」,「w2」は、たとえば、正数である。重み「w1」,「w2」の大小関係は、任意である。重み「w1」は、重み「w2」と等しくてもよいし、重み「w2」よりも大きくてもよいし、重み「w2」よりも小さくてもよい。好ましくは、欠損検知の指標としては、振動強度「AM1」の信頼性の方が振動強度「AM2」の信頼性よりも高いため、重み「w1」は、重み「w2」よりも大きく設定される。これにより、欠損検知の精度がより高くなる。
【0070】
好ましくは、欠損検知部156は、振動強度「AM1」,「AM2」が工具欠損に起因して現れたものであるか否かを主軸回転数を変更することで判断する。上述のように、工具32が欠損している場合には、周波数「f1」と周波数「f2」とにおいて、振動強度「AM1」,「AM2」が大きくなる。これらの周波数「f1」,「f2」は、主軸周波数「fT」を基準として決まる。そのため、振動強度「AM1」,「AM2」が工具欠損に起因して現れたものであれば、振動強度「AM1」,「AM2」に対応する周波数「f1」,「f2」は、主軸回転速度に連動するはずである。反対に、振動強度「AM1」,「AM2」に対応する周波数「f1」,「f2」が主軸回転速度に連動しないのであれば、振動強度「AM1」,「AM2」は、工具欠損とは異なる他の要因で生じたものと言える。この点に着目して、欠損検知部156は、主軸回転速度の変更前後で振動強度「AM1」および振動強度「AM2」が所定値以上変化しないときには、当該振動強度「AM1」および当該振動強度「AM2」を工具32の欠損の検知には用いない。これにより、欠損検知精度がさらに改善される。
【0071】
(C3.異常処理部160)
次に、異常処理部160の機能について説明する。異常処理部160は、欠損検知部156によって工具32の欠損が検知された場合に、異常対応処理を実行する。
【0072】
ある局面において、異常処理部160は、工具32の欠損が検知された場合に、ワークWの切削を中断するための指令を工作機械100に出力する。工具32が欠損した状態でワークWの切削が続けられると、工作機械100内の各種部品が故障する可能性がある。工具欠損時において切削処理が中断されることで、工作機械100内の各種部品の故障が防止される。
【0073】
他の局面において、異常処理部160は、工具欠損が検知された場合に、工具欠損を示す異常を報知する。工具欠損の報知方法には、任意の報知手段が採用される。一例として、異常処理部160は、工具欠損を示すメッセージを画面上(たとえば、工作機械100のディスプレイ130上)に表示してもよいし、工具欠損を示すメッセージを音で出力してもよい。あるいは、異常処理部160は、工具欠損を示すメッセージを工作機械100と通信可能な他のユーザ端末に送信してもよい。
【0074】
<D.工作機械100のハードウェア構成>
図11を参照して、工作機械100のハードウェア構成の一例について説明する。
図11は、工作機械100の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
【0075】
工作機械100は、主軸22と、ボールねじ25,52,54と、制御装置101と、ROM102と、RAM103と、通信インターフェイス104と、表示インターフェイス105と、入力インターフェイス109と、加速度センサ110と、サーボドライバ111A~111Dと、サーボモータ112A~112Dと、エンコーダ113A~113Dと、位置検知ユニット115と、記憶装置120とを含む。
【0076】
制御装置101は、工作機械100の制御プログラム126(NCプログラム)などの各種プログラムを実行することで工作機械100の動作を制御する。制御装置101は、制御プログラム126の実行命令を受け付けたことに基づいて、記憶装置120からROM102に制御プログラム126を読み出す。RAM103は、ワーキングメモリとして機能し、制御プログラム126の実行に必要な各種データを一時的に格納する。
【0077】
通信インターフェイス104には、LANやアンテナなどが接続される。工作機械100は、通信インターフェイス104を介して、外部の通信機器との間でデータをやり取りする。外部の通信機器は、たとえば、サーバーや、その他の通信端末などを含む。工作機械100は、当該通信端末から欠損検知プログラム127をダウンロードできるように構成されてもよい。
【0078】
表示インターフェイス105は、ディスプレイ130などの表示機器と接続され、制御装置101などからの指令に従って、ディスプレイ130に対して、画像を表示するための画像信号を送出する。ディスプレイ130は、たとえば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはその他の表示機器である。
【0079】
入力インターフェイス109は、入力デバイス131に接続され得る。入力デバイス131は、たとえば、ディスプレイ130に設けられるタッチパネル、マウス、キーボード、またはユーザ操作を受け付けることが可能なその他の入力機器である。
【0080】
サーボドライバ111Aは、制御装置101から目標回転速度(または目標位置)の入力を逐次的に受け、サーボモータ112Aが目標回転速度で回転するようにサーボモータ112Aを制御する。より具体的には、サーボドライバ111Aは、エンコーダ113Aのフィードバック信号からサーボモータ112Aの実回転速度(または実位置)を算出し、当該実回転速度が目標回転速度よりも小さい場合にはサーボモータ112Aの回転速度を上げ、当該実回転速度が目標回転速度よりも大きい場合にはサーボモータ112Aの回転速度を下げる。このように、サーボドライバ111Aは、サーボモータ112Aの回転速度のフィードバックを逐次的に受けながらサーボモータ112Aの回転速度を目標回転速度に近付ける。サーボドライバ111Aは、ボールねじ54に接続されるテーブル55(
図2参照)をX軸方向に沿って移動し、テーブル55をX軸方向の任意の位置に移動する。
【0081】
同様のモータ制御により、サーボドライバ111Bは、ボールねじ52に接続されるガイド53(
図2参照)をY軸方向に沿って移動し、ガイド53上のテーブル55(
図2参照)をY軸方向の任意の位置に移動する。同様のモータ制御を行うことにより、サーボドライバ111Cは、ボールねじ25に接続される主軸頭21(
図2参照)をZ軸方向の任意の位置に移動する。同様のモータ制御を行うことにより、サーボドライバ111Dは、主軸回転速度を制御する。
【0082】
位置検知ユニット115は、ボールねじ54に接続されるテーブル55の位置を検知する。より具体的には、位置検知ユニット115は、磁気スケール116と、磁気センサ117とを含む。磁気スケール116は、非可動の部品に取り付けられる。磁気センサ117は、テーブル55と連動する可動部品に設けられる。磁気センサ117は、磁気スケール116と対向して配置される。磁気スケール116には、複数の磁石が配置される。第1の磁石のN極は、第2の磁石のN極に対向する。第2の磁石のS極は、第3の磁石のS極に対向する。このように、複数の磁石は、磁気スケール116上において同じ極が対向するように配置される。すなわち、磁気スケール116と磁気センサ117との位置関係は、テーブル55の移動に伴って変化する。磁気センサ117は、テーブル55の位置に伴って変化する磁気スケール116の磁界の変化を検知する。
【0083】
なお、上述では、位置検知ユニット115がボールねじ54に接続されるテーブル55の位置を検知する例について説明を行ったが、位置検知ユニット115は、他の移動体の位置を検知するように設けられてもよい。一例として、位置検知ユニット115は、ボールねじ52に接続されるガイド53の位置を検知するために設けられてもよい。あるいは、位置検知ユニット115は、ボールねじ25に接続される主軸22の位置を検知するために設けられてもよい。
【0084】
記憶装置120は、たとえば、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記憶媒体である。記憶装置120は、切削経路や主軸回転速度などの切削条件を規定した制御プログラム126、各工具の直径や刃数などを規定した工具情報128などを格納する。制御プログラム126は、上述の工具欠損検知機能を実現するための欠損検知プログラム127を含む。制御プログラム126および工具情報128の格納場所は、記憶装置120に限定されず、制御装置101の記憶領域(たとえば、キャッシュ領域など)、ROM102、RAM103、外部機器(たとえば、サーバー)などに格納されていてもよい。
【0085】
欠損検知プログラム127は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、本実施の形態に従う制御処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う欠損検知プログラム127の趣旨を逸脱するものではない。さらに、欠損検知プログラム127によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが欠損検知プログラム127の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で工作機械100が構成されてもよい。
【0086】
<E.工作機械100の制御構造>
図12を参照して、工作機械100の制御構造について説明する。
図12は、工作機械100が実行する処理の一部を表わすフローチャートである。
【0087】
ステップS110において、制御装置101は、上述の取得部90(
図7参照)から、主軸22の振動に相関する時系列の物理量を取得する。当該物理量は、主軸22の振動に伴って変化する物理量であれば、いずれの種類の物理量でもよい。一例として、当該物理量は、上述の加速度センサ110から出力される加速度である。
【0088】
ステップS112において、制御装置101は、上述の算出部154(
図7参照)として機能し、制御プログラム126(
図11参照)や現在の設定情報などから現在の主軸回転速度を読み取る。その後、制御装置101は、当該主軸回転速度を上記式(1)に代入し、SRFを算出する。
【0089】
ステップS114において、制御装置101は、上述の算出部154として機能し、制御プログラム126(
図11参照)や工具情報128などから現在の工具32の刃数を読み取る。その後、制御装置101は、当該刃数と、ステップS112で算出したSRFとを上記式(2)に代入し、TPFを算出する。
【0090】
ステップS116において、制御装置101は、上述の算出部154として機能し、ステップS110で取得された時系列の物理量を周波数変換し、TPFからSRFを差分した周波数に対応する振動強度「AM1」と、TPFにSRFを加算した周波数に対応する振動強度「AM2」との少なくとも一方を算出する。振動強度「AM1」,「AM2」の算出方法については上記「C1.算出部154」で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0091】
ステップS120において、制御装置101は、上述の欠損検知部156(
図7参照)として機能し、振動強度「AM1」と振動強度「AM2」との少なくとも一方に基づいて、上記欠損条件が満たされたか否かを判断する。上記欠損条件については上記「C2.欠損検知部156」で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。制御装置101は、上記欠損条件が満たされたと判断した場合(ステップS120においてYES)、制御をステップS122に切り替える。そうでない場合には(ステップS120においてNO)、制御装置101は、制御をステップS130に切り替える。
【0092】
ステップS122において、制御装置101は、上述の異常処理部160(
図7参照)として機能し、異常対応処理を実行する。当該異常対応処理については上記「C3.異常処理部160」で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0093】
ステップS130において、制御装置101は、欠損検知処理を終了するか否かを判断する。一例として、制御装置101は、上述の欠損検知プログラム127(
図11参照)の終了指示を受けたことに基づいて、欠損検知処理を終了する。当該終了指示は、たとえば、ワークWの切削が終了した場合や、ユーザから終了操作を受けた場合に発せられる。制御装置101は、欠損検知処理を終了すると判断した場合(ステップS130においてYES)、
図12に示される処理を終了する。そうでない場合には(ステップS130においてNO)、制御装置101は、制御をステップS110に戻す。
【0094】
<F.実験結果>
出願人は、TPFからSRFを差分した周波数「f1」に対応する振動強度AM1と、TPFにSRFを加算した周波数「f2」に対応する振動強度AM2とが、工具32の欠損時において大きくなることを確認するために、振動強度AM1,AM2の大きさを正常時と工具欠損時とで比較する実験を行った。以下では、
図13~
図17を参照して、実験例1~5について順に説明する。
【0095】
(F1.実験例1)
図13は、実験例1に基づく実験結果を示す図である。本実験例では、主軸22の振動に相関する物理量として、主軸22の制御信号(以下、「主軸電流値」ともいう。)が用いられた。また、本実験例では、ワークWの切込み幅Aeが「5mm」に設定された。
【0096】
図13(A)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル71Aが示されている。スペクトル71Aは、欠損が無い正常な工具32を用いた場合の実験結果を示す。
【0097】
図13(B)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル71Bが示されている。スペクトル71Bは、インサート(すなわち、刃)を1枚外した工具32を用いた場合の実験結果を示す。
【0098】
スペクトル71A,71Bを比較すると、スペクトル71Bにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度は、スペクトル71Aにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例1により、正常時と欠損時との間で周波数「f1」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0099】
(F2.実験例2)
図14は、実験例2に基づく実験結果を示す図である。上述の実験例1では、ワークWの切込み幅Aeが「5mm」であったのに対して、本実験例では、ワークWの切込み幅Aeは「12.5mm」である。実験例2のその他の実験条件は、上述の実験例1と同じである。
【0100】
図14(A)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル72Aが示されている。スペクトル72Aは、欠損が無い正常な工具32を用いた場合の実験結果を示す。
【0101】
図14(B)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル72Bが示されている。スペクトル72Bは、インサート(すなわち、刃)が1枚外された工具32を用いた場合の実験結果を示す。
【0102】
スペクトル72A,72Bを比較すると、スペクトル72Bにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度は、スペクトル72Aにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例2により、正常時と欠損時との間で周波数「f1」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0103】
(F3.実験例3)
図15は、実験例3に基づく実験結果を示す図である。本実験例では、主軸22の振動に相関する物理量として、主軸電流値が用いられた。また、本実験例では、工具32として、グラインダが用いられた。
【0104】
図15(A)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル73Aが示されている。スペクトル73Aは、欠損が無い正常なグラインダを用いた場合の実験結果を示す。
【0105】
図15(B)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル73Bが示されている。スペクトル73Bは、刃の一部(刃先を除く)が欠けているグラインダを用いた場合の実験結果を示す。
【0106】
スペクトル73A,73Bを比較すると、スペクトル73Bにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度は、スペクトル73Aにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例3により、正常時と欠損時との間で周波数「f1」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0107】
また、スペクトル73Bにおける周波数「f2(=TPF+SRF)」の振動強度は、スペクトル73Aにおける周波数「f2(=TPF+SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例3により、正常時と欠損時との間で周波数「f2」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0108】
(F4.実験例4)
図16は、実験例4に基づく実験結果を示す図である。上述の実験例3では、グラインダの欠損箇所が刃の一部(刃先を除く)であったのに対して、本実験例は、グラインダの欠損箇所は刃先である。実験例4のその他の実験条件は、上述の実験例3と同じである。
【0109】
図16(A)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル74Aが示されている。スペクトル74Aは、欠損が無い正常なグラインダを用いた場合の実験結果を示す。
【0110】
図16(B)には、時系列の主軸電流値を高速フーリエ変換して得られたスペクトル74Bが示されている。スペクトル74Bは、刃先が欠けているグラインダを用いた場合の実験結果を示す。
【0111】
スペクトル74A,74Bを比較すると、スペクトル74Bにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度は、スペクトル74Aにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例4により、正常時と欠損時との間で周波数「f1」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0112】
また、スペクトル74Bにおける周波数「f2(=TPF+SRF)」の振動強度は、スペクトル74Aにおける周波数「f2(=TPF+SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例4により、正常時と欠損時との間で周波数「f2」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0113】
(F5.実験例5)
図17は、実験例5に基づく実験結果を示す図である。本実験例では、主軸22の振動に相関する物理量として、上述の加速度センサ110の出力値(加速度)が用いられた。また、本実験例では、工具32として、グラインダが用いられた。
【0114】
図17(A)には、時系列の加速度を高速フーリエ変換して得られたスペクトル75Aが示されている。スペクトル75Aは、欠損が無い正常なグラインダを用いた場合の実験結果を示す。
【0115】
図17(B)には、時系列の加速度を高速フーリエ変換して得られたスペクトル75Bが示されている。スペクトル75Bは、刃先が欠けているグラインダを用いた場合の実験結果を示す。
【0116】
スペクトル75A,75Bを比較すると、スペクトル75Bにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度は、スペクトル75Aにおける周波数「f1(=TPF-SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例5により、正常時と欠損時との間で周波数「f1」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0117】
また、スペクトル75Bにおける周波数「f2(=TPF+SRF)」の振動強度は、スペクトル75Aにおける周波数「f2(=TPF+SRF)」の振動強度よりも大きい。実験例5により、正常時と欠損時との間で周波数「f2」の振動強度に差が現れることが明らかになった。
【0118】
<G.まとめ>
以上のようにして、工作機械100は、主軸22の振動に相関する時系列の物理量を取得し、当該時系列の物理量に基づいて、TPFからSRFを差分した周波数「f1」に対応する振動強度AM1と、TPFにSRFを加算した周波数「f2」に対応する振動強度AM2との少なくとも一方を算出する。そして、工作機械100は、振動強度AM1と、振動強度AM2と、振動強度AM1,AM2の合成値との少なくとも1つが予め定められた条件(すなわち、上述の欠損条件)を満たした場合に、工具32の欠損を検知する。
【0119】
このように、工作機械100は、TPFからSRFを差分した周波数「f1」に対応する振動強度AM1と、TPFにSRFを加算した周波数「f2」に対応する振動強度AM2との少なくとも一方に着目することで、工具32の欠損を検知する。振動強度AM1,AM2が工具32の欠損と相関があることを発見したこと自体が新規である。工作機械100は、このような新規な指標に基づいて工具32の欠損を検知することで、より確実に工具32の欠損を検知することができる。
【0120】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0121】
21 主軸頭、22 主軸、23 ハウジング、25,52,54 ボールねじ、30 自動工具交換装置、31 マガジン、32 工具、33 押出し機構、34 工具保持部、35 スプロケット、36 アーム、50 移動機構、51,53 ガイド、55 テーブル、69A 振動周波数、69B,71A,71B,72A,72B,73A,73B,74A,74B,75A,75B スペクトル、90 取得部、100 工作機械、101 制御装置、102 ROM、103 RAM、104 通信インターフェイス、105 表示インターフェイス、109 入力インターフェイス、110 加速度センサ、111A,111B,111C,111D サーボドライバ、112A,112B,112C,112D サーボモータ、113A,113B,113C,113D エンコーダ、115 位置検知ユニット、116 磁気スケール、117 磁気センサ、120 記憶装置、126 制御プログラム、127 欠損検知プログラム、128 工具情報、130 ディスプレイ、131 入力デバイス、154 算出部、156 欠損検知部、160 異常処理部。