IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サルポント コンサルティング リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-S-ニトロソチオールの減菌 図1
  • 特許-S-ニトロソチオールの減菌 図2
  • 特許-S-ニトロソチオールの減菌 図3
  • 特許-S-ニトロソチオールの減菌 図4
  • 特許-S-ニトロソチオールの減菌 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】S-ニトロソチオールの減菌
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/06 20060101AFI20220414BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 41/17 20200101ALI20220414BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220414BHJP
   C07K 5/037 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/145 20060101ALN20220414BHJP
【FI】
A61K38/06
A61K9/16
A61K41/17
A61P9/00
A61P7/02
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P15/08
A61P9/10
A61P9/12
A61P9/10 101
A61P9/04
A61P29/00
A61P1/00
A61P1/16
A61P15/10
A61P11/00
A61P11/06
A61P31/00
C07K5/037
A61K31/145
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018500870
(86)(22)【出願日】2016-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-04-19
(86)【国際出願番号】 GB2016050772
(87)【国際公開番号】W WO2016156794
(87)【国際公開日】2016-10-06
【審査請求日】2019-03-12
(31)【優先権主張番号】1505347.3
(32)【優先日】2015-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517337851
【氏名又は名称】サルポント コンサルティング リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SALUPONT CONSULTING LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ダリル リース
(72)【発明者】
【氏名】アントニア オーシー
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/153762(WO,A1)
【文献】LIN CHIA-EN; GARVEY DAVID S,IDENTIFICATION OF THE NITRATE PRODUCED FROM GAMMA-RADIATION STERILIZATION OF S-NITROSOGLUTATHIONE,ABSTRACTS OF PAPERS ; ACS NATIONAL MEETING & EXPOSITION; 以下備考,米国,AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2005年08月28日,PAGE(S):1,1-3,1-6,http://oasys2.confex.com/acs/230nm/techprogram/P885814.HTM,230TH NATIONAL MEETING OF THE AMERICAN-CHEMICAL-SOCIETY
【文献】最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針,平成23年度厚生労働科学研究(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業) 医薬品の微生物学的品質確保のための新規試験法導入に関する研究,2012年11月09日,p.1-9,35-38,52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 41/00-41/17
A61P 1/00-43/00
C07K 5/037
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌性保証水準(SAL)が、10-6以下であり、
S-ニトロソグルタチオン純度が少なくとも95.0%である、
滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体。
【請求項2】
密閉容器内の乾燥滅菌環境にある、請求項1に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体。
【請求項3】
前記容器を滅菌条件下で開封し、前記滅菌S-ニトロソグルタチオンを他の所望の成分と配合し、投与用の最終医薬組成物を作製することができるようにシールが配置される、請求項2に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体。
【請求項4】
滅菌液体を、前記容器に導入し、前記滅菌S-ニトロソグルタチオンを該容器内でそのまま溶解又は懸濁することができるようにシールが配置される、請求項2に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体。
【請求項5】
前記S-ニトロソグルタチオン純度が少なくとも98.0%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体。
【請求項6】
S-ニトロソグルタチオンの既知の重量を含有する前記滅菌S-ニトロソグルタチオンの量が、所望の最終医学的用途に従って選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体。
【請求項7】
乾燥固体形態であるS-ニトロソグルタチオンを含み、
S-ニトロソグルタチオン純度が少なくとも95.0%であり、
無菌性保証水準(SAL)が、10-6以下である、滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項8】
密閉容器内の乾燥滅菌環境にある、請求項に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項9】
前記容器を滅菌条件下で開封し、前記滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を他の所望の成分と配合し、投与用の最終医薬組成物を作製することができるようにシールが配置される、請求項8に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項10】
滅菌液体を、前記容器に導入し、前記滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を該容器内でそのまま溶解又は懸濁することができるようにシールが配置される、請求項8に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項11】
前記S-ニトロソグルタチオン純度が少なくとも98.0%である、請求項7~10のいずれか一項に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項12】
S-ニトロソグルタチオンの既知の重量を含有する前記滅菌乾燥固体医薬前駆組成物の量が、所望の最終医学的用途に従って選択される、請求項7~11のいずれか一項に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体又は請求項7~12のいずれか一項に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を作製する方法であって、乾燥固体形態のS-ニトロソグルタチオン又は乾燥固体形態の医薬前駆組成物を、外部汚染から遮断された環境内で滅菌線量の電離放射に曝露することを含み、
前記電離放射への滅菌曝露中に、乾燥固体材料の温度を、40℃以下に維持する、方法。
【請求項14】
前記電離放射が電子ビーム(eビーム)放射、γ線放射及びX線から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記電離放射への曝露を、前記S-ニトロソグルタチオン純度が低下しないか、又はその純度が分解により2.0%以下しか低下しないような条件下で行う、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
滅菌製品が少なくとも98.0%のS-ニトロソグルタチオン純度を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
乾燥固体材料の温度を、前記電離放射への滅菌曝露中に-100℃~+40℃の範囲に維持する、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
最大50kGyの吸収線量の電離放射を乾燥固体材料の滅菌に用い、
(a)電子ビーム(eビーム)放射を1時間未満の曝露時間にわたって用いるか、又は、
(b)γ線放射を24時間未満の曝露時間にわたって用いる、請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
(a)前記電離放射が電子ビーム(eビーム)放射であり、乾燥固体材料の温度を該電離放射への滅菌曝露中に35℃以下に維持するか、又は、
(b)前記電離放射がγ線放射であり、乾燥固体材料の温度を該電離放射への滅菌曝露中に35℃以下に維持する、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法を最大50kGyの吸収線量の電子ビーム(eビーム)放射を用いて行い、滅菌すべき材料の温度を室温条件(18℃~24℃)から開始して自由により高く変動させ、前記電子ビーム(eビーム)放射への曝露を最大1時間にわたって行う、請求項13~
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法を最大50kGyの吸収線量の電子ビーム(eビーム)放射を用いて行い、滅菌すべき材料の温度を35℃未満の温度に維持し、前記電子ビーム(eビーム)放射への曝露を最大1時間にわたって行う、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記方法を最大50kGyの吸収線量のγ線放射を用いて行い、滅菌すべき材料の温度を35℃未満の温度に維持し、前記γ線放射への曝露を最大24時間にわたって行う、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ヒト又は動物への使用のための滅菌乾燥固体医薬組成物を作製する方法であって、請求項1~6のいずれか一項に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体又は請求項7~12のいずれか一項に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を、1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せと混合して、S-ニトロソグルタチオンを所望の濃度で含有する薬学的用途の医薬組成物を得ることを含む、方法。
【請求項24】
前記S-ニトロソグルタチオンが、それを必要とするヒト若しくは動物被験体における動脈平滑筋若しくは静脈平滑筋の弛緩の誘導、脈波増大係数の低減、動脈壁硬化の低減、血小板凝集の阻害、T細胞アポトーシスの誘導若しくはグアニル酸シクラーゼの活性化、又はS-ニトロソグルタチオン若しくはNO療法に応答するヒト若しくは動物被験体の疾患若しくは障害を治療若しくは予防する方法に使用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の滅菌S-ニトロソチオール乾燥固体若しくは請求項7~12のいずれか一項に記載の滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項25】
前記S-ニトロソグルタチオンが、それを必要とするヒト若しくは動物被験体における動脈平滑筋若しくは静脈平滑筋の弛緩の誘導、脈波増大係数の低減、動脈壁硬化の低減、血小板凝集の阻害、T細胞アポトーシスの誘導若しくはグアニル酸シクラーゼの活性化、又はS-ニトロソグルタチオン若しくはNO療法に応答するヒト若しくは動物被験体の疾患若しくは障害を治療若しくは予防する方法に使用される、請求項13~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記S-ニトロソグルタチオン又はNO療法に応答する疾患又は障害が子癇前症、重症子癇前症、子癇、HELLP症候群、臓器移植灌流、臓器透析、バルーン血管形成術の術後病態、急性心筋梗塞、不安定狭心症、脳塞栓、高血圧、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、虚血及び心不全、他の心臓血管増殖性、炎症性、収縮性及び高血圧性障害、並びに心臓及び脳のプレコンディショニング関連障害、食道痙攣、胆管痙攣、結腸及び他の胃腸管の運動性障害及び平滑筋障害、勃起障害、脳卒中、細気管支狭窄、嚢胞性線維症、肺炎、喘息、肺線維症及びガス交換低下又は炎症を伴う他の肺障害、並びにウイルス、細菌及び他の起源の感染性疾患、S-ニトロソグルタチオン欠乏を特徴とする赤血球の障害、レオロジー異常又は血管拡張の障害(鎌状赤血球疾患及び保存血液関連の素因等)、並びに血栓性障害から選択される、請求項24に記載の滅菌S-ニトロソグルタチオン乾燥固体、又は滅菌乾燥固体医薬前駆組成物。
【請求項27】
前記S-ニトロソグルタチオン又はNO療法に応答する疾患又は障害が子癇前症、重症子癇前症、子癇、HELLP症候群、臓器移植灌流、臓器透析、バルーン血管形成術の術後病態、急性心筋梗塞、不安定狭心症、脳塞栓、高血圧、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、虚血及び心不全、他の心臓血管増殖性、炎症性、収縮性及び高血圧性障害、並びに心臓及び脳のプレコンディショニング関連障害、食道痙攣、胆管痙攣、結腸及び他の胃腸管の運動性障害及び平滑筋障害、勃起障害、脳卒中、細気管支狭窄、嚢胞性線維症、肺炎、喘息、肺線維症及びガス交換低下又は炎症を伴う他の肺障害、並びにウイルス、細菌及び
他の
起源の感染性疾患、S-ニトロソグルタチオン欠乏を特徴とする赤血球の障害、レオロジー異常又は血管拡張の障害(鎌状赤血球疾患及び保存血液関連の素因等)、並びに血栓性障害から選択される、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望に応じて1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せと共に薬学的又は獣医学的用途のための滅菌医薬組成物を構成することができる、滅菌S-ニトロソチオール及びS-ニトロソチオールを含有する滅菌医薬前駆組成物に関する。本発明は、S-ニトロソチオール純度を実質的に失うことなく滅菌材料を作製するプロセス、並びに使用準備済の医薬組成物を調製するためのキット及び方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
S-ニトロソチオール、すなわち基本構造R-S-N=O(式中、Rは任意の有機基である)を有する分子、例えばS-ニトロソグルタチオン(GSNO)、S-NO-システイン(S-NO-Cys)、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン(SNAP)、並びにアルブミン及びヘモグロビン(Hb)等のタンパク質のニトロソ誘導体、例えばSNO-アルブミン及びポリ-SNO-アルブミンは、in vivoで一酸化窒素様活性を示す。これらは動脈平滑筋及び静脈平滑筋の弛緩を引き起こし、血小板凝集を阻害し、グアニル酸シクラーゼを活性化する(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。S-ニトロソチオールは例えば免疫抑制、神経伝達及び宿主防御にも関与する。
【0003】
血管作動性S-ニトロソチオールは、in vivoで生成することが知られている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。血漿中の総S-ニトロソチオールは、ヒト及び齧歯動物において非炎症状態下で40nM~7μMの範囲であることが報告されている(非特許文献6)。S-ニトロソチオール化合物は、必要な場合に遷移金属イオン又は他の還元剤との反応によって一酸化窒素を放出することができる。これらはNOの細胞内及び細胞外活性を制御し、その作用範囲を拡大する緩衝系として考えられている。S-ニトロソチオールは形成された後、いわゆるトランスニトロソ化(transnitrosation)反応によりニトロシルカチオン(NO)を別のチオールへと直接移動することができ、これによりS-ニトロソチオールのin vivoでの動的状態が確実となる(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。
【0004】
S-ニトロソグルタチオン(GSNO):
【化1】
はヒト又は動物用の治療法又は予防法のための医薬組成物として臨床開発中である。
【0005】
S-ニトロソチオールは空気、温度、水分及び電磁放射に感受性があり、分解を回避するために慎重な保管及び取扱いを必要とする(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14)。それにもかかわらず、厳密に制御された空気、放射及び温度条件下であっても、医薬品に必要とされるS-ニトロソチオールの長期貯蔵は分解を生じる。薬学的用途にとっては、この不安定さは、活性物質の純度及び医薬品グレード要件への準拠、並びに活性物質の投与の精度及び予測可能性の点で深刻な問題を引き起こす。
-20℃及び暗所の不活性雰囲気(アルゴン及び窒素)下での保管では、固体として保管されるS-ニトロソグルタチオンは、6ヶ月間しか安定していないことが報告されている(非特許文献14)。更に制御した空気、放射及び温度条件での保管では、固体形態に安定性を付与すると言われている特定の方法によって調製されたS-ニトロソグルタチオンは、9ヶ月間しか安定していないことが報告されている(非特許文献15、特許文献1の実施例3)。
【0006】
S-ニトロソチオールの液体配合物は更により不安定であり、数時間で量的に分解し、4℃~25℃での保管の少なくとも8時間~12時間後には初期S-ニトロソグルタチオンの約85%しか存在していない(非特許文献15、特許文献1)。
【0007】
S-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンは様々な疾患の治療にとって魅力的ではあるが、生理学的条件下で急速に分解し、十分な量の活性部分NOを長時間にわたって又は制御して所望の位置へと送達することが不可能であることから、固体経口投与配合物は不適切である。非経口注射溶液は好適な投与形態とみなされ、連続点滴では十分な量のS-ニトロソチオールを長時間にわたって制御して所望の位置へと急速に到達させることが可能である。溶液中でのS-ニトロソグルタチオン等のS-ニトロソチオールの極めて不安定な性質から、「使用準備済の液体投薬形態」として直接の配合が妨げられる。そのため、溶液はS-ニトロソチオール固体乾燥粒子から投与の直前に(即席で)構成する必要がある。
【0008】
非経口投薬形態は、注射、点滴又は注入によって直接ヒト又は動物の身体に投与されることから、滅菌であり(生存微生物の非存在)、物理的、化学的及び生物学的汚染物質を含まない必要があるという点で他の全ての投薬形態とは異なる。S-ニトロソチオール非経口製品の滅菌の医薬品グレード要件には重大な商業的開発の問題がある。
【0009】
静脈内(IV)投与用のいわゆる最終フィルター装置は、投与用のIV針に入る直前に粒子状物質及び細菌又は真菌等の幾つかの微生物を濾過によって除去するIV投与セットの管の末端に取り付けられたフィルターを備える。0.5μm以下領域(例えば0.22μm)の多孔性を有するフィルターの使用は、原則として細菌及び真菌の除去を可能とする。しかしながら、最終フィルター装置の使用には付随する問題がある。第一に、均一なサイズ又は球状ではない幾つかの細菌及び真菌が、ウイルス及びマイコプラズマのようにフィルター膜を通過する可能性がある。加えて、低濃度の薬物が注射用溶液中に存在する場合、フィルター膜への薬物の吸収が薬物の不慮の過少量投与につながる可能性がある。さらに、微細フィルターは湿っている場合に高圧下でなければ空気を通すことができず、設置時の管内の気泡の残留、結果的には使用時に注射圧が適用された場合に空気が患者に注射されるリスクにつながる可能性がある。最終フィルター装置の使用により装置コストが増大し、特殊な消耗品の安定供給の必要性が生じ、通常の医療従事者の特別な訓練又は専門家の雇用が要求される。最後に、規制当局はこの手順の厳しい管理を要求しており、これを滅菌非経口溶液の準備ではなく、単に粒子状物質を除去する工程と考えている。
【0010】
欧州医薬品庁(EMA)は、広範な医薬品について最も適切な滅菌方法を選択する指針を公表している。乾燥粉末については、この指針に従う好ましい方法は密閉最終容器内での乾式加熱による滅菌(最終滅菌)である。しかしながら、S-ニトロソチオール等の感熱性医薬品では、S-ニトロソチオールが分解することから、この滅菌方法は実現不可能である。代替アプローチは放射滅菌(電離電磁放射への曝露による滅菌)である(CPMP/QWP/054/98 corr)。照射による滅菌はまた、薬物開発企業に法的所有利益(legal proprietary benefits)をもたらす。米国食品医薬品局(FDA)は照射により滅菌された薬物を新たな薬物として分類しており、これは新たな薬物申請の認可が販売に必要であることを意味する(21 CFR 310.502(a)(11))。し
かしながら、S-ニトロソチオールは電磁放射にも極めて感受性が高く、フリーラジカル曝露後にも非常に不安定である。実際に、γ線放射を用いて隔膜密閉バイアル内でS-ニトロソグルタチオンの注射配合物を滅菌する試みは、予期せぬ無機硝酸塩不純物が生成することが報告されたため、明らかに失敗であった(非特許文献16)。さらに、含硫アミノ酸(S-ニトロソグルタチオン中のシステイン等)は特に照射に感受性があり、おそらくはフリーラジカル攻撃への感受性のために、5kGyと低いγ線放射レベルで分解を生じることが報告されている(非特許文献17)。
【0011】
温度及び電離電磁放射に対するS-ニトロソチオールの感受性のために、滅菌された医薬品グレードのS-ニトロソチオールの調製にとって現実的又は信頼性が高いと考えられるこれらの方法がこれまで妨げられていた。全ての滅菌方法と同様、照射でも汚染微生物の不活性化と滅菌される製品の損傷との妥協を要する。γ光子又は電子の形態の付与エネルギーでは、汚染微生物の分子と医薬品の分子とは特に区別されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2008/153762号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Rees et al., 1989b
【文献】Rees et al., 1989a
【文献】Rees et al., 2001
【文献】Radomski et al., 1992
【文献】Keaney et al., 1993
【文献】Stamler et al., 1992
【文献】Al-Sa'doni et al., 2000
【文献】Singh et al., 1996a
【文献】Singh et al., 1996b
【文献】Butler et al., 1997
【文献】Singh et al., 1995
【文献】Stamler et al., 2002
【文献】Manoj et al., 2009
【文献】Parent et al., 2013
【文献】Looker et al., 2008
【文献】Lin, et al, 2005
【文献】Ahn et al., 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
これら及び他の理由から、臨床純度グレードのS-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンの効果的な単純滅菌は乗り越えられない障壁となっており、これらの潜在的に有益な薬物のヒト及び動物用の薬剤への薬学的使用の開発を妨げている。
【0015】
本発明は、純度が低下しない又は純度が分解により約5.0%以下しか低下しないS-ニトロソチオールの滅菌に電離放射が効果的であり、予め計量された投与重量の、好ましくは医療用バイアル又は同様の容器内の例えば固体粒子の形態のこれらの活性物質を、臨床純度グレードで滅菌することができるという本発明者らの驚くべき発見に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、添付の特許請求の範囲に規定される通りである。
【0017】
本発明は、第1の態様において、滅菌S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物であって、該S-ニトロソチオールが乾燥固体形態である、滅菌S-ニトロソチオール又は滅菌医薬前駆組成物を提供する。
【0018】
S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物は、使用前に乾燥滅菌環境、例えば密閉容器内に収容されるのが好ましい。シールは、滅菌S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物を1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せと配合し、投与のための最終医薬組成物を作製することが可能なように滅菌条件下で容器を開封する、例えば穴を開けることができるような単純なシールであり得る。シールは例えば、滅菌液体を例えば中空針を備えた注射器を用いて容器に導入し、滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又は滅菌医薬前駆組成物を容器内でそのまま溶解又は懸濁することができるように配置してもよい。従来の隔膜シールがかかるシールの一例である。その場合、シールにより、そのように形成された滅菌医薬溶液又は懸濁液を、例えば皮下注射針を備えた注射器を用いて患者への投与のために容器から吸引することが更に可能となり得る。保管及び輸送のために、滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又は滅菌医薬前駆組成物を収容する密閉容器は、不透過密閉キャップを備えていてもよい。容器の内容物の無菌性を失うことなく滅菌液体を導入し、密閉容器から吸引することを可能にする隔膜シール等が存在する場合、不透過密閉キャップは、輸送及び保管のために従来通りに隔膜障壁等を覆うように適切に設けることができる。
【0019】
このことから、本明細書で使用される「医薬前駆組成物」という表現が特に医薬組成物の前駆体を指すことが明らかである。医薬前駆組成物自体が、1つ以上のS-ニトロソチオールに加えて1つ以上の医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せを含み得る。乾燥固体組成物が意図する投与経路に十分である場合に医薬前駆組成物自体を医薬組成物として使用可能である場合もあるが、より通常には、下記により詳細に説明するように、医薬前駆組成物が1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せとの混合によって使用準備済の最終医薬組成物を構成するために使用されることが期待される。
【0020】
滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又は滅菌乾燥固体S-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物は、本発明の第1の態様によると、非滅菌形態の乾燥固体S-ニトロソチオール又は乾燥固体S-ニトロソチオールを含む医薬前駆組成物を、外部汚染から遮断された環境で滅菌線量の電離放射に曝露することによって得るのが好ましい。かかる方法は新しく、本発明の第2の態様となる。電離放射への曝露は、非滅菌形態のS-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む医薬前駆組成物が、それが保管され、使用前に移されるのと同じ乾燥環境、例えば本発明の第1の態様との関連で記載される密閉容器にある場合に行うのが好ましい。
【0021】
密閉容器及びその内部の環境は、保管又は使用前の輸送中のS-ニトロソチオールの分解を最小限に抑えるように適切に配置することができる。例えば、S-ニトロソチオールの光分解を低減又は排除するために、密閉容器の壁を着色(例えばアンバー着色)するか、又は光を通さないようにすることができる。密閉容器内の乾燥滅菌環境は乾燥空気、別の乾燥ガス、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン又はそれらの混合物等の乾燥不活性ガスの1つ以上を含有するか、又はそれからなり、S-ニトロソチオールと水分及び/又は酸素との接触を低減又は排除するために、任意に外部周囲空気と比較して減圧下とすることができる。密閉容器は、例えば容器の内容物の1つ以上によって導入される結晶水又は大気水分等の任意の残留水分を吸収することによって乾燥状態を維持する既知の形で好適な乾燥剤を適切に収容することができる。本発明で使用する
ことができる好適な乾燥剤は薬学的に安全なものであり、例えば医薬品グレードのシリカゲル、結晶ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム又はアルミノケイ酸カルシウム、コロイドシリカ、無水硫酸カルシウム等が挙げられる。乾燥剤は、S-ニトロソチオールの重量に対して約1.0%(w/w)~20.0%(w/w)又は約2%(w/w)~15%(w/w)の量で存在し得る。
【0022】
密閉容器は、既知の形で1つ以上の脱酸素剤を収容することができる。
【0023】
S-ニトロソチオール含有材料は、滅菌前及び滅菌後のどちらにおいても暗所に適切に保管され、可能な限り光に曝露されないようにする。アンバー着色ガラスバイアル等の着色された又は光を通さない容器が、乾燥形態の材料を収容するために都合よく使用される。酸素及び光に対して不透過性のオーバーラップ又はパウチ、例えばアルミニウムパウチを、S-ニトロソチオールを分解から更に保護するために既知の形で使用することができる。
【0024】
乾燥固体S-ニトロソチオール又は乾燥固体S-ニトロソチオールを含む医薬前駆組成物は定量、例えば最終医学的用途に応じて選択されるS-ニトロソチオールの既知の重量で容器内に適切に存在し得る。医薬組成物を使用に所望される濃度で得るための1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せ、例えば滅菌液体又はペースト又はゲル、例えば滅菌生理食塩水又は他の固体賦形剤若しくは担体との混合の説明書は、適切に提供することができる。第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による滅菌S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物を含有する容器(単数又は複数)を、滅菌S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物と1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せとを混合して、S-ニトロソチオールを所望の濃度で含有する薬学的用途の医薬組成物を得るための説明書と共に含むキットを提供する。
【0025】
滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又は滅菌乾燥固体S-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物を、非滅菌形態の乾燥固体S-ニトロソチオール又は乾燥固体S-ニトロソチオールを含む医薬前駆組成物を外部汚染から遮断された環境で滅菌線量の電離放射に曝露することによって調製する場合、得られる滅菌材料は電離放射によって死滅した微生物の死細胞を含有する可能性があり、任意の不純物の性質及び濃度が滅菌を本発明に従って乾燥固体材料に対して行う放射滅菌S-ニトロソチオールに特徴的である。このプロセスによって調製される又は調製可能な製品、及び滅菌材料で構成される最終医薬組成物は、このようにして特定することができる。
【0026】
滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又は滅菌乾燥固体S-ニトロソチオールを含む滅菌医薬前駆組成物は、少なくとも約95.0%、例えば少なくとも約98.0%、例えば少なくとも約98.5%、例えば少なくとも約99.0%、例えば少なくとも約99.5%のS-ニトロソチオール純度を適切に有することができる。滅菌医薬前駆組成物の場合、「S-ニトロソチオール純度」は、医薬前駆組成物の任意の他の構成成分を無視した固体S-ニトロソチオール材料の純度を指す。
【0027】
単独又は医薬前駆組成物の一部としての乾燥固体S-ニトロソチオールは粒子形態、すなわちS-ニトロソチオールの粒子の集団であるのが好ましい。S-ニトロソチオールの粒子は結晶を適切に含み得る。
【0028】
非滅菌形態の乾燥固体S-ニトロソチオール又は乾燥固体S-ニトロソチオールを含む医薬前駆組成物を、外部汚染から遮断された環境で滅菌線量の電離放射に曝露することを
含む本発明の第2の態様の方法は、S-ニトロソチオールの純度が低下しない又はその純度が分解により約5.0%以下しか低下しない条件下で行うことができる。このため、例えば、S-ニトロソチオールの純度が約99.5%純度である材料から出発する場合、プロセスの条件は、S-ニトロソチオール純度の低下が約1.5%以下であり、滅菌製品が少なくとも約98.0%のS-ニトロソチオール純度を有するようなものとする。
【0029】
電離放射への滅菌曝露中にS-ニトロソチオールの温度を約40℃以下に維持することで、固体乾燥材料中のS-ニトロソチオールの純度を少なくとも約95.0%に維持することができ、及び/又は固体乾燥材料中のS-ニトロソチオールの純度の任意の減少を約5.0%以下、例えば約2.0%以下、例えば約1.5%以下に維持することができることが見出された。
【0030】
S-ニトロソチオールを滅菌するために好適な電離放射の滅菌線量は、最大約50kGy、最大約35kGy、最大約25kGy、最大約15kGy又は最大約5kGyの吸収線量である。上記方法では、S-ニトロソチオールは例えば、滅菌線量の電離放射に約24時間未満、例えば約18時間未満、例えば約12時間未満、例えば約10時間未満、例えば約6時間未満、例えば約3時間未満、例えば約2時間未満、例えば約1時間未満、例えば約45分未満、例えば約30分未満、例えば約15分未満、例えば約2分未満、例えば約1分未満、例えば約45秒未満、例えば約30秒未満にわたって曝露することができる。
【0031】
第4の態様では、本発明は、ヒト又は動物への使用のための滅菌医薬組成物を作製する方法であって、上記滅菌S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含有する滅菌前駆組成物と1つ以上の滅菌医薬希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せ、例えば滅菌液体、ペースト若しくはゲル、又は他の固体賦形剤若しくは担体、及び任意に1つ以上の他の成分とを混合して、治療用途又は予防用途の滅菌S-ニトロソチオール含有医薬組成物を得ることを含む、方法を提供する。本発明は更なる態様で、そのように形成される又は形成可能なS-ニトロソチオール含有医薬組成物も提供する。
【0032】
治療用途又は予防用途の最終S-ニトロソチオール含有医薬組成物は、ヒト又は動物の治療法又は予防法の方法に用いることができる。治療法又は予防法の方法は、例えばヒト若しくは動物において動脈平滑筋若しくは静脈平滑筋の弛緩を誘導すること、脈波増大係数(augmentation index)を低減すること、圧増大(augmentation pressure)を低減すること、動脈壁硬化を低減すること、血小板凝集を阻害すること、T細胞アポトーシスを誘導すること、及びグアニル酸シクラーゼを活性化することを含み、又はS-ニトロソチオール若しくはNO療法に応答する疾患若しくは障害、例えば子癇前症、重症子癇前症、子癇、HELLP症候群、臓器移植灌流、臓器透析、バルーン血管形成術の術後病態、急性心筋梗塞、不安定狭心症、脳塞栓、高血圧、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、虚血及び心不全、他の心臓血管増殖性、炎症性、収縮性及び高血圧性障害、並びに心臓及び脳のプレコンディショニング関連障害、食道痙攣、胆管痙攣、結腸及び他の胃腸管の運動性障害及び平滑筋障害、勃起障害、脳卒中、細気管支狭窄、嚢胞性線維症、肺炎、喘息、肺線維症及びガス交換低下若しくは炎症を伴う他の肺障害、並びにウイルス、細菌及び他の起源の感染性疾患、S-ニトロソチオール欠乏を特徴とする赤血球の障害、レオロジー異常若しくは血管拡張の障害(鎌状赤血球疾患及び保存血液関連の素因等)、並びに血栓性障害を治療若しくは予防する方法であり得る。
【0033】
電離放射は電子ビーム放射、γ線放射及びX線から選択することができる。
【0034】
電子ビーム(eビーム)放射は低い透過性及び高い線量率を特徴とし、S-ニトロソチ
オールを照射するために最も短い曝露時間が必要とされる。eビーム放射の場合の滅菌線量の電離放射への曝露時間は、例えば約1時間未満、例えば約45分未満、例えば約30分未満、例えば約15分未満、例えば約2分未満、例えば約1分未満、例えば約45秒未満、例えば約30秒未満であり得る。
【0035】
γ線放射は高い透過性及び低い線量率を特徴とし、より長い曝露時間を必要とする均一な照射をもたらす。γ線放射の場合の滅菌線量の電離放射への曝露時間は、例えば約24時間未満、例えば約18時間未満、例えば約12時間未満、例えば約10時間未満、例えば約6時間未満、例えば約3時間未満、例えば約2時間未満、例えば約1時間、通例少なくとも約1時間であり得る。
【0036】
電離放射への曝露中のS-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオール含有材料の温度は、約-100℃~約+40℃の範囲であるのが好ましい。約-80℃~約+35℃の範囲の温度が特に好適である。温度は照射中に、約(+)40℃を超えずに変動させることができ、これは照射を温度制御容器内で行うことによって確実にすることができる。しかしながら、電離放射への滅菌曝露中に照射時の温度の上昇を例えば約-80℃~約+35℃、例えば約-80℃~約+30℃の範囲、例えば約30℃以下、例えば約28℃以下、例えば約20℃以下、例えば約15℃以下、例えば約10℃以下、例えば約0℃以下、例えば約-30℃以下、例えば約-60℃以下、例えば約-70℃以下の温度に制限するS-ニトロソチオールの積極的冷却によって非常に良好な結果が達成されることが見出された。
【0037】
本発明の第2の態様による滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を作製する方法は、最大約50kGy、例えば約5kGy(例えば約3kGy~約7kGy)、又は約15kGy(例えば約13kGy~約17kGy)、又は約25kGy(例えば約23kGy~約27kGy)、又は約35kGy(例えば約33kGy~約37kGy)、又は約50kGy(例えば約47kGy~約53kGy)の吸収線量の電子ビーム放射を用いて適切に行うことができ、滅菌すべき材料の温度を室温条件(約18℃~約24℃)から開始するが、自由により高く変動させ、eビーム放射への曝露を最大約1時間、例えば最大約45分、例えば最大約30分、例えば最大約15分、例えば最大約2分、例えば最大約1分、例えば最大約45秒、例えば最大約30秒にわたって行う。滅菌すべき材料の最大温度は、約40℃以下、例えば約35℃以下、例えば約30℃以下、例えば約28℃以下、例えば約20℃以下に適切に制御することができる。
【0038】
別の実施の形態では、本発明の第2の態様による滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を作製する方法は、最大約50kGy、例えば約5kGy(例えば約3kGy~約7kGy)又は約15kGy(例えば約13kGy~約17kGy)又は約25kGy(例えば約23kGy~約27kGy)又は約35kGy(例えば約33kGy~約37kGy)又は約50kGy(例えば約47kGy~約53kGy)の吸収線量の電子ビーム放射を用いて適切に行うことができ、滅菌すべき材料の温度を約35℃未満、例えば約30℃未満、例えば約28℃未満、例えば約20℃未満、例えば約15℃未満、例えば約5℃未満、例えば約0℃未満、例えば約-30℃未満、例えば約-60℃未満、例えば約-70℃未満、例えば約-80℃の温度に維持し、放射への曝露を最大約1時間、例えば最大約45分、例えば最大約30分、例えば最大約15分、例えば最大約2分、例えば最大約1分、例えば最大約45秒、例えば最大約30秒にわたって行う。
【0039】
別の実施の形態では、本発明の第2の態様による滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又はS-ニトロソチオールを含む滅菌乾燥固体医薬前駆組成物を作製する方法は、最大約5
0kGy、例えば約5kGy(例えば約3kGy~約7kGy)又は約15kGy(例えば約13kGy~約17kGy)又は約25kGy(例えば約23kGy~約27kGy)又は約35kGy(例えば約33kGy~約37kGy)又は約50kGy(例えば約47kGy~約53kGy)の吸収線量のγ線放射を用いて適切に行うことができ、滅菌すべき材料の温度を約35℃未満、例えば約30℃未満、例えば約30℃未満、例えば約28℃未満、例えば約20℃未満、例えば約15℃未満、例えば約5℃未満、例えば約0℃未満、例えば約-30℃未満、例えば約-60℃未満、例えば約-70℃未満、例えば約-80℃の温度に維持し、放射への曝露を最大約24時間、例えば最大約18時間、例えば最大約12時間、例えば最大約10時間、例えば最大約6時間、例えば最大約3時間、例えば最大約2時間、例えば約1時間、通例少なくとも約1時間にわたって行う。
【0040】
滅菌すべき材料の温度を室温条件(約18℃~約24℃)から開始するが、自由により高く変動させるγ線放射を用いた滅菌が約1時間超、例えば約1時間~約24時間、例えば最大約18時間、例えば最大約12時間、例えば最大約10時間、例えば最大約6時間、例えば最大約3時間、例えば最大約2時間にわたる放射への曝露を必要とし得ることが見出された。加えて、このような温度制御のないγ線放射への長い曝露は、温度が約40℃を超えて例えば約60℃まで上昇し、その結果としてS-ニトロソチオールの純度が、例えば非照射マッチング対照に対して約4%~約10%低下する可能性があるという望ましくない結果を有する。
【0041】
驚くべきことに、本発明の第2の態様の方法では、分解により純度が約5.0%を超えて低下することなくS-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンが滅菌される。S-ニトロソチオールの分解が、NOを高量子収率(0.2~0.8)で放出するS-NO結合の均一開裂によって進行し、紫外光又は日光等の比較的低エネルギーの電磁放射によって誘導されることから(非特許文献13)、分解が電離放射への曝露下で顕著であり得ることが予想されている。しかしながら、低温の維持(積極的冷却)と同時に、短い照射時間間隔及び遮光保管容器が、分子が分解する傾向を抑制し、薬学的用途のための高純度を維持することが見出された。
【0042】
「滅菌した(sterile)」、「滅菌する(sterilise)」という表現、及び本明細書で用いられる関連の表現は、薬学的及び獣医学的製品の無菌性についての欧州医薬品庁(EMA)の要件を満たす無菌性のレベル(微生物の非存在)を指す。無菌性保証水準(SAL)は、単一単位(例えば、固体S-ニトロソチオール含有材料及び上部のガスで満たされた空間を含むバイアル、アンプル、バッグ又は他の容器の内面及び全内容物)が滅菌に供した後に滅菌されていない可能性を指す。本発明では、SALが10-6以下である場合に単位は「滅菌である」又は「滅菌されている」。すなわち、この単位の100万分の1以下が滅菌されていない。
【0043】
本発明を添付の図面を参照して下記により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】S-ニトロソグルタチオンの純度(GSNO;非照射対照サンプルと比較した純度の減少%)に対する実施例1の(a)eビーム及び(b)γ滅菌処理の影響を示す図である。
図2】S-ニトロソグルタチオンの純度(GSNO;非照射対照サンプルと比較した純度の減少%)に対する実施例2の(a)eビーム及び(b)γ滅菌処理の影響を示す図である。
図3図1図2との合成であり、S-ニトロソグルタチオンの純度(GSNO;非照射対照サンプルと比較した純度の減少%;実施例1のデータは(1)で識別される;実施例2のデータは(2)で識別される)に対する実施例1及び実施例2の(a)eビーム及び(b)γ滅菌処理の影響を示す図である。
図4】実施例2のS-ニトロソグルタチオン(GSNO)を含有するeビーム照射バイアル用の装置の概略図である。
図5】実施例2のS-ニトロソグルタチオン(GSNO)を含有するγ照射バイアル用の装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
S-ニトロソチオール
本発明で使用されるS-ニトロソチオールを、例えば以下のもの又はそれらの1つ以上の任意の組合せから選択することができる:
S-ニトロソグルタチオン(GSNO)
S-ニトロソ-L-システイン(CySNO)
S-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNAC)
S-ニトロソ-L-システインメチル-エステル(CMESNO)
S-ニトロソ-D,L-ペニシラミン(PSNO)
S-ニトロソ-N-アセチル-D,L-ペニシラミン(SNAP)
S-ニトロソ-N-アセチルシステアミン(ACSNO)
S-ニトロソ-β-メルカプトコハク酸
1-S-ニトロソチオ-β-D-ガラクトピラノース
S-ニトロソチオグリセロール
S-ニトロソホモシステイン
S-ニトロソシステイニルグリシン
S-ニトロソカプトプリル
チオ亜硝酸アルキル、シクロアルキル又はアリール、例えばチオ亜硝酸メチル、チオ亜硝酸エチル、チオ亜硝酸n-プロピル、チオ亜硝酸s-プロピル、チオ亜硝酸n-ブチル、チオ亜硝酸s-ブチル、チオ亜硝酸tert-ブチル、チオ亜硝酸n-ペンチル、チオ亜硝酸n-ヘキシル、チオ亜硝酸シクロヘキシル、チオ亜硝酸フェニル
システイン含有タンパク質、オリゴペプチド及びポリペプチドのS-ニトロソ誘導体、例えばS-ニトロソアルブミン、ポリ-S-ニトロソアルブミン又はS-ニトロソヘモグロビン
及びそれらの任意の誘導体
及び以上のいずれかの塩。
【0046】
本発明で使用される好ましいS-ニトロソチオールは、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)又はその誘導体若しくは塩である。グルタチオン及びL-システインのそれぞれからのS-ニトロソグルタチオン及びS-ニトロソ-L-システインの合成は、Hart (1985)によって記載されている。
【0047】
S-ニトロソチオールを指すために本明細書で用いられる「誘導体」という表現は、特徴的な-S-N=O部分を保持するが、指定のS-ニトロソチオールとは以下の点の1つ以上、好ましくはこの又はこれらの点のみが異なる化合物を特に意味する:
ヒドロカルビル部分が以下の置換基の1つ以上で置換される:1つ以上のハロゲン原子、1つ以上のヒドロキシル基、1つ以上のC1~8アルキル基、1つ以上のC2~8アルケニル基、1つ以上のC2~8アルキニル基、1つ以上のC1~8アルコキシ基、1つ以上のエノールエーテル基-C=C(OR)(式中、Rが水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル及びヘテロシクリルから選択されるのが好ましい)、1つ以上のエノールエステル基-C=C(OC(O)R)(式中、Rが水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル及びヘテロシクリルから
選択されるのが好ましい)、1つ以上のカルボキシレート基、1つ以上のエステル化カルボキシレート基;
ヒドロキシル部分がエステル化されている;
化合物が水和物、溶媒和物若しくは金属キレート、又は任意のプロドラッグ形態として調製される。
【0048】
前項では、「エステル化」という表現は酸性基、例えばカルボン酸、リン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、スルフィン酸及びボロン酸のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル及びヘテロシクリルエステルから選択されるエステルを含むが、これらに限定されない。
【0049】
S-ニトロソチオールの塩形態には、S-ニトロソチオールの任意の酸基又は部分が好適な塩基により形成される塩の形態で存在する、及び/又はS-ニトロソチオールの任意の塩基性基又は部分が好適な酸により形成される塩の形態で存在するという点で指定のS-ニトロソチオールとは異なる化合物が含まれる。好適な酸基を含有するS-ニトロソチオールと共に塩を形成するのに使用することができる塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の塩基、水酸化亜鉛等の遷移金属水酸化物、アンモニア、有機アミン塩基(例えば、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン等のヒドロキシアルキルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、1-p-クロロベンジル-2-ピロリジン-1’-イル-メチルベンズイミダゾール、ジエチルアミン等のアルキルアミン、ピペラジン及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムが挙げられる。好適な塩基性基を含有するS-ニトロソチオールと共に塩を形成するのに使用することができる酸としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、酪酸、吉草酸、フマル酸、酒石酸及びプロピオン酸等の酸が挙げられる。
【0050】
上記の化合物は既知であるか、又は利用可能な供給源から当該技術分野で既知の標準的な化学合成法によって容易に調製することができる。薬学的用途については、化合物は毒性作用なしに動物及びヒトに好適な投与量で投与することができ、薬学的に活性であるか、又は薬学的に活性な化合物のプロドラッグである。
【0051】
純度レベル及び測定、不純物
本発明で使用されるS-ニトロソチオールは、限られた量の不純物を含有し得る。S-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンが当該技術分野で既知の方法、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は直接UV吸着(A 210nm~335nm)によって決定される約95.0%以上の純度を有するのが好ましい。
【0052】
一実施形態では、本発明で使用されるS-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンは、約95.0%~約100.0%の範囲又はその範囲内の任意の値、例えば少なくとも約97.0%又は少なくとも約98.0%又は少なくとも約99.0%の純度を有する。
【0053】
本発明による滅菌方法では、分解により純度が約5.0%を超えて低下することなくS-ニトロソチオールが滅菌されるのが好ましい。分解が生じる場合、分解はS-N結合でのS-ニトロソチオールの単分子均一開裂、酵素分解、還元分解及び酸化分解(崩壊)の1つ以上の生成物の増大によって検出可能である。このような分解生成物の検出は、当該技術分野で既知の方法、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は直接UV吸着(A 210nm~335nm)によって行うことができる。
【0054】
S-ニトロソチオール中に存在する不純物は通例、酸化又は還元を有する又は有しない対応する脱ニトロソ化化合物を含み得る。任意の特定のS-ニトロソチオール中に生じる主要不純物は、化学分析によって容易に確認することができる。例えば、S-ニトロソグルタチオンの一般的な不純物としては、グルタチオン(GSH)及びグルタチオンジスルフィド(GSSG)が挙げられる。一実施形態では、本発明で使用される化合物及び配合物は、約0.0%~約5.0%の範囲又はその範囲内の任意の特定の値、例えば約3.0%未満又は約2.5%未満又は約2.0%未満の全不純物量(還元型及び酸化型L-グルタチオンを含む)を有する。
【0055】
無菌性レベル及び測定
S-ニトロソチオールを滅菌するための放射線量は、当該技術分野で既知の方法によって決定することができる。ISO 11137-2:2013は、無菌性の指定要件を達成するのに必要とされる最小線量を決定する方法、及び10-6という無菌性保証水準SALを達成する滅菌線量としての25kGy又は15kGyの使用を具体化する方法を規定する。ISO 11137-2:2013はまた、滅菌線量の継続的有効性を実証するために用いられる滅菌線量監査の方法を規定する。EMA、ヨーロッパ薬局方及び米国薬局方では通例、10-6の無菌性保証水準(SAL)を達成するために参照滅菌線量として25kGy以上の放射線量が期待される。
【0056】
本発明に好適な放射線量は15kGy~35kGyである。しかしながら、この滅菌線量は、ISO 11137-2:2013指針に従って変更することができる(例えば、適切に判断される場合に5kGy~50kGyが使用され得る)。
【0057】
本発明で使用される放射線量は、10-6の無菌性保証水準(SAL)、すなわち医薬材料の単一滅菌バイアルの100万分の1が処理後に滅菌されていない可能性が達成されるものとする。
【0058】
電離放射及び線源
照射による滅菌は、汚染微生物の不活性化と滅菌される製品の損傷との間の妥協を要する。
【0059】
γ線放射はその深い透過性及び低い線量率を特徴とする。電磁量子波としてのγ線放射のエネルギーは光と同様であるが、より高い光子エネルギー及びより短い波長を有する。高エネルギーγ線放射と物質との間の相互作用は、電子を放出し、フリーラジカルの形成及び励起をもたらすことによってイオン対を形成する。フリーラジカルは、各々がその外部軌道の1つに不対電子を有することから極めて反応性である。フリーラジカル反応はガス遊離、二重結合形成及び開裂、交換反応、電子移動及び架橋を伴い得る。実際に、任意の化学結合が破壊され、任意の潜在的化学反応が起こる場合がある。結晶性物質では、これにより空孔、格子間原子、衝突、熱スパー(thermal spurs)及び電離作用が引き起こされ得る。
【0060】
γ照射器はコバルト-60によって作動し、製品及びその包装全体を通して微生物を効果的に死滅させる。受ける放射線量は製品のタイプ及びその線量要件に左右される。
【0061】
eビーム放射は、その低い透過性及び高い線量率を特徴とする電離エネルギーの形態である。「ビーム」(集中した高電荷の電子流)は、連続ビーム又はパルスビームを生じることが可能な加速器によって生成する。滅菌される製品がeビームの下又は前を通過することで、エネルギーが電子から吸収され、微生物の様々な化学結合及び生物学的結合が変化し、DNA及び生殖能力が破壊される。
【0062】
X線放射は更なる形態の電離電磁放射である。γ線放射は核から発生するが、X線は核の周辺の電界から発生するか、又は機械により生じる。
【0063】
化学物質の滅菌のための電離放射、例えばγ線放射、eビーム放射又はX線放射を生じる装置及び設備は既知であり、市販されている。
【0064】
本発明による方法において適用される放射線量は、線量計を用いてモニタリングするのが好ましい。線量計は市販されており、当業者に既知である。線量計によりモニタリングされる放射の適用により製品を処理し、検証し、即座に出荷に出すことが可能となる。
【0065】
本発明の方法では、再現可能な滅菌線量が得られるように電離放射を適用するのが好ましい。γ線放射は数時間のサイクルで大量に照射するのに適している。eビームは、個々のボックス通過としてeビーム加速器により必要とされる線量を数秒間で送達することができる連続プロセスである。
【0066】
本発明において、γ及びeビーム照射の或る特定の制御条件が驚くほど低い製品の分解程度をもたらし、初期化学物質の純度を医学的又は他の生理学的用途の滅菌製品まで効果的に維持することが可能であることが特に見出された。
【0067】
本発明を行うための装置及び方法
本発明の滅菌方法は、
滅菌すべき材料を適切な容器内に支持する支持システムと、
放射線場を照射するのに適合した電離放射線源と、
材料を放射線場内に保持する容器の相対運動を生じ、放射の均等な分布を可能にするのに適合した駆動システムと、
容器内の材料に吸収された放射線量を測定する線量計システムと、
材料を保持する容器周辺に所望の温度をもたらす温度制御システムと、
必要とされる滅菌線量が達成された時点で容器への放射の適用を終了する手段と、
を備える装置内で適切に行われる。
【0068】
この一般的なタイプの装置は市販されており、詳細な説明は必要でない。
【0069】
温度制御
照射により照射材料の温度が上昇し得ることが当業者に既知である。電離放射への曝露中のS-ニトロソチオール含有材料の温度は、約-100℃~+40℃以下の範囲に維持するのが好ましい。約-80℃~約+35℃の範囲の温度が特に好適である。温度は照射中に、好ましくは約(+)40℃を超えずに変動させることができ、これは照射を温度制御容器内で行うことによって確実にすることができる。しかしながら、電離放射への滅菌曝露中に照射時の温度をS-ニトロソチオール含有材料の積極的温度制御又は冷却により規定の範囲内、例えば約-80℃~約+35℃の範囲、例えば約30℃以下、約28℃以下、約20℃以下、約15℃以下、約10℃以下、約5℃以下、約0℃以下、例えば約-30℃以下、例えば約-60℃以下、例えば約-70℃以下の温度に維持することによって非常に良好な結果が達成されることが見出された。
【0070】
例えば大量規模又は連続作製プロセスでの商業用途については、適切な冷却又は低温工学システムを備える従来のサーモスタット制御容器を、照射に所望される温度条件を達成及び維持するために本発明の実施に使用することができる。
【0071】
少量規模では、非限定的な例として下記実施例2に説明されるように、-80℃のドラ
イアイス(固体CO)、0℃の水氷又は既知の温度の他の低温物質が、約+40℃~約-80℃の範囲の照射に所望される温度を確立及び維持するのに効果的である。
【0072】
医薬組成物及び配合物
本発明で使用される滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール又は滅菌医薬前駆組成物は、無菌性を失うことなく乾燥固体材料を溶解又は分散させるために、好適な滅菌希釈剤、賦形剤及び/又は担体、例えば液体、ペースト若しくはゲル、又は他の固体賦形剤若しくは担体と混合し、任意に1つ以上の付加的な成分と混合することで、意図する治療又は予防法及び意図する投与経路に適合する滅菌医薬配合物が形成されるように配合するのが好ましい。投与経路の例としては、非経口(例えば静脈内)、皮内、皮下、吸入、経皮(局所)、経粘膜(歯肉又は頬)、膣内及び直腸投与経路が挙げられる。
【0073】
(a)本発明の第1の態様による乾燥固体材料と、(b)滅菌液体及び任意の付加的な成分(複数の場合もある)とを合わせた滅菌S-ニトロソチオール含有医薬組成物は、本発明の第1の態様による滅菌S-ニトロソチオール又は医薬前駆組成物から調製される。滅菌S-ニトロソチオール含有医薬組成物は、ヒト又は動物患者への投与直前にこのように調製するのが好ましい。
【0074】
全最終組成物に必要とされる成分、並びに本発明の第1の態様による乾燥固体材料におけるそれらの分布、最終医薬組成物を構成する方法においてそれに混合すべき滅菌液体及びそのいずれか又は両方と混合すべき任意の付加的な成分(複数の場合もある)は、当業者に既知であるか、又は通常の配合手法に従って当業者が個別的に容易に決定することができる。例えば、既知のように、使用準備済の最終溶液又は懸濁液は、以下の構成成分の1つ以上を含み得る:注射用水、食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒等の滅菌希釈剤、ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗菌剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩等の緩衝液、及び塩化ナトリウム又はデキストロース等の等張化剤(agents for the adjustment of tonicity)。
【0075】
このため、本発明の滅菌前駆組成物、又は本発明に従って滅菌して調製される非滅菌前駆組成物、又は本発明による滅菌S-ニトロソチオール若しくは滅菌前駆組成物を用いて投与のために構成された後の滅菌組成物は、少なくとも1つのS-ニトロソチオールを少なくとも1つの薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、担体、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せと組み合わせて含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な賦形剤」又は「薬学的に許容可能な担体」は、薬学的投与に適合したあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等を含むことを意図したものである。好適な希釈剤、賦形剤及び担体は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 22ndEdition, 2012, Pharmaceutical Press(引用することにより本明細書の一部をなすものとする)に記載されている。かかる希釈剤、賦形剤及び担体の例としては、水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソーム及び固定油等の非水性ビヒクルを使用してもよい。薬学的に許容可能な担体としては、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等の固体担体を挙げることもできる。例示的な液体担体としては、シロップ、ラッカセイ油、オリーブ油、水等が挙げられる。
【0076】
賦形剤又は担体は、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル等の当該技術分野で既知の時間遅延物質(time-delay material)を、単独で又はろう、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルメタクリレート等と共に含み
得る。他の充填剤、希釈剤、香料、及び当該技術分野で既知のもののような他の添加剤が本発明の滅菌前駆組成物、又は本発明に従って滅菌して調製される非滅菌前駆組成物、又は本発明による滅菌S-ニトロソチオール若しくは滅菌前駆組成物を用いて投与のために構成された後の滅菌組成物に含まれていてもよい。薬学的に活性な物質へのかかる媒体及び作用物質の使用は当該技術分野で既知である。任意の従来の媒体又は作用物質が活性化合物と不相溶である場合を除いて、組成物におけるその使用が企図される。2つ以上のS-ニトロソチオールが、患者の臨床的必要性に応じて組成物及び前駆組成物中に存在していてもよい。S-ニトロソチオール以外の種類の1つ以上の補助的な生理活性化合物を、組成物及び前駆組成物に組み込むこともできる。
【0077】
非経口用途に好適な完成した医薬組成物は通例、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(BASF,Parsippany,NJ.)及びリン酸緩衝食塩水(PBS)から選択される好適な担体を含む。いかなる場合でも、投与される組成物は滅菌しなければならず、容易な注射性(syringability)が存在する程度まで流体であるものとする。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒とすることができる。適当な流動性は、例えばレシチン等のコーティングの使用、分散液の場合に必要とされる粒子サイズの維持、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトール等の多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物に加えるのが好ましい。注射組成物の持続的吸収は、組成物中に吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを加えることによってもたらすことができる。
【0078】
吸入による投与については、完成した組成物を微粒子粉末、又は好適な噴射剤、例えば二酸化炭素等のガスを含有する加圧容器若しくはディスペンサー、若しくはネブライザーからのエアゾールスプレーの形態で送達することが可能であり得る。
【0079】
経粘膜又は経皮投与については、透過すべき障壁に適切な浸透剤が完成した組成物中に適切に含まれる。かかる浸透剤は当該技術分野で一般に知られており、例えば経粘膜投与については、洗浄剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレー又は坐剤を用いて達成することができる。経皮投与については、S-ニトロソチオール(複数の場合もある)及び任意の他の活性成分(複数の場合もある)を、当該技術分野で一般に知られている膏薬(ointments)、軟膏(salves)、ゲル又はクリームに適切に配合する。
【0080】
最終組成物は、直腸送達のための坐剤(例えば、ココアバター及び他のグリセリド等の従来の坐剤基剤を用いる)又は停留浣腸の形態で調製することができる。
【0081】
最終組成物は安定化緩衝液を含んでいてもよく、界面活性剤を更に含むことができる。緩衝液及び/又は界面活性剤又はその成分は、必要に応じて本発明の滅菌前駆組成物若しくは本発明に従って滅菌して調製される非滅菌前駆組成物中に存在していてもよく、又は投与のための滅菌最終組成物を本発明による滅菌S-ニトロソチオール若しくは滅菌前駆組成物から構成する際に添加してもよい。存在し得る界面活性剤の量は、S-ニトロソチオールに対して約0.1%(w/w)~約10%(w/w)の範囲であり得る。一実施形態では、存在する界面活性剤の量はS-ニトロソチオールに対して少なくとも1%(w/w)である。一実施形態では、存在する界面活性剤の量はS-ニトロソチオールに対して最大約5%(w/w)である。好適な界面活性剤の例としては、脂肪酸、脂肪酸トリグリセリドを含む脂肪酸エステル、脂肪アルコール、脂肪酸の塩、オレイルアルコール、ソル
ビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)モノオレエート、天然レシチン、オレイルポリオキシエチレン(2)エーテル、ステアリルポリオキシエチレン(2)エーテル、ラウリルポリオキシエチレン(4)エーテル、オキシエチレンとオキシプロピレンとのブロックコポリマー、オレイン酸、オレイン酸の塩、合成レシチン、ジエチレングリコールジオレエート、テトラヒドロフルフリルオレエート、エチルオレエート、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、グリセリルモノリシノレエート、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セチルピリジニウムクロリド、オリーブ油、グリセリルモノラウレート、コーン油、綿実油、ヒマワリ種子油、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、オリゴ乳酸、レシチン、ポリアルコキシアルコール、特に2-(2-エトキシエトキシ)エタノールを含む(ポリ)アルコキシ誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。さらに(ポリ)アルコキシ誘導体としては、ポリオキシアルキルエーテル及びエステル、例えば以下に限定されるものではないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンステアレートを含むポリオキシエチレンエーテル及びエステルが挙げられる。
【0082】
最終組成物は保存料、酸化防止剤、ラジカルクエンチャー、薬学活性物質、アジュバント、担体、化学安定剤及び/又はポリマーとして働く添加剤等の付加的な成分を既知の形で任意に含んでいてもよい。かかる任意の付加的な成分又はそれらの一部は、必要に応じて本発明の滅菌前駆組成物若しくは本発明に従って滅菌して調製される非滅菌前駆組成物中に存在していてもよく、又は投与のための滅菌最終組成物を本発明による滅菌S-ニトロソチオール又は滅菌前駆組成物から構成する際に添加してもよい。S-ニトロソチオールの完成した最終配合物中に含まれる付加的な成分の量は、例えば0%(w/w)~約1%(w/w)である。
【0083】
投与の容易さ及び投与量の均一性のために使用準備済の最終組成物を投与単位形態に配合することが特に有利である。本明細書で使用される「投与単位形態」は、治療すべき被験体に対する単位投与量として適した物理的に個別の単位を指し、各単位は所望の治療効果をもたらすように算出された所定量の活性物質を、必要とされる1つ以上の医薬担体、賦形剤、希釈剤、付加的な活性物質又はそれらの任意の組合せと共に含有する。当業者に既知のように、投与単位形態の詳細は、活性S-ニトロソチオール物質の固有の特徴、及び達成すべき特定の治療効果、及び個体の治療のためのこのような活性物質を調剤する技術分野に特有の制限によって決まり、それらに直接左右される。
【0084】
本発明の乾燥固体材料、すなわち滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオン、又はS-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンを含有する滅菌乾燥固体前駆組成物は、投与のための最終滅菌医薬組成物を構成した後、投与のための最終組成物が、最終組成物の一部を、新たな組成物を乾燥固体材料から構成することが必要となる前に順次投与することができるように単位用量のS-ニトロソチオール活性物質又は複数の該単位用量を含有するよう、測定重量で存在し得る。
【0085】
この目的で、測定重量の乾燥固体材料、すなわち滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオン、又はS-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンを含有する滅菌乾燥固体前駆組成物は、単回投与若しくは複数回投与バイアル、単回投与アンプル、単回投与若しくは複数回投与バッグ、又は使い捨ての単回投与注射器等の単回投与又は複数回投与容器に入れられ、容器はいずれの場合にも、例えばガラス若しくはプラスチック、又はそれらの組合せから作られたものとすることができる。前述したように、S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)は感光性であるため、投与容器の構成成分は好適なオーバーラップを有するか、又は例えば着色若しくは不
透明にすることによって光から保護される。医薬組成物、又は本発明による滅菌乾燥固体材料で構成されるS-ニトロソチオールを含有する滅菌液体等の医薬組成物を調製する経路の任意の中間配合物の全ての取扱装置及び容器は、同様に光から保護するために着色若しくは不透明であるか、又は好適なオーバーラップを備えるものとする。かかる取扱装置及び容器は、例えば点滴ライン及び注射器を含み得る。
【0086】
固体形態
乾燥固体S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)又はS-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)を含有する乾燥固体前駆組成物は、所望のサイズ範囲の粒子を生じさせるために滅菌前に従来通りに適切に処理することができる。例えば、乾燥固体材料を好適な装置、例えばエアジェットミル、ハンマーミル、ボールミル又はマイクロナイザーを用いて粉砕又は微粉化することができる。
【0087】
代替的には、所望の粒子範囲の粒子を、例えば凍結乾燥、噴霧乾燥又は制御結晶化法、例えば超臨界流体を用いた結晶化によって得ることができる。
【0088】
乾燥固体S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)粒子又はS-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)粒子を含有する乾燥固体前駆組成物は、例えば約0.1μm~約50μm、例えば約0.2μm~約20μm又は約1μm~約15μmの範囲の重量平均粒径を有し得る。
【0089】
容器
例えば乾燥固体粒子としての乾燥固体S-ニトロソチオール(例えば、S-ニトロソグルタチオン)又はS-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)を含有する乾燥固体前駆組成物の容器は、酸素不透過性かつ水分不透過性であるのが好ましい。容器は好都合なサイズ、特に単位投与量サイズ、又は複数の単位用量のサイズを有する。当業者は、適切な容器サイズ及び乾燥固体S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)又はS-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)を含有する乾燥固体前駆組成物の重量を、意図する用途及び投与方法に応じて容易に決定することができる。先に記載したように、乾燥固体S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)又はS-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)を含有する乾燥固体前駆組成物を容器に入れ、容器を密閉した後、容器の内容物及び容器の内壁を本発明により滅菌することが好ましい。次いで、最終医薬組成物を構成することが所望される時間まで、保管及び輸送のために滅菌乾燥固体S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)又はS-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)を含有する滅菌乾燥固体前駆組成物を容器に保持する。
【0090】
乾燥固体材料を滅菌前に当業者に既知の充填方法によって容器に入れることができる。かかる容器は例えば粉末配合物を保持するためのバイアル、チューブ、注射器、アンプル等であり、プラスチック、ポリマー、ガラス等の任意の不活性の材料から作られたものとすることができる。
【0091】
前述したように、S-ニトロソチオール(例えばS-ニトロソグルタチオン)は感光性であるため、好適なオーバーラップ、又は酸素及び光に対して不透過性の容器、例えば着色容器(例えばアンバー着色した)、又はアルミニウムパウチ内に保管され得る。当業者は、S-ニトロソチオール及びS-ニトロソチオールの安定性を維持するのに有用な他の構成成分の保管に好適な容器、オーバーラップ等を容易に決定することができる。密閉の前に、保管システムを少なくとも1つの不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン及びキセノンで処理し、システム内の酸素含量を低減してもよい。次いで、測定用量のS-ニトロソチオールの入った密閉保管システム(例えばアンバーバイ
アル及び他の遮光保管容器)を、本発明に従って滅菌処理に供することができる。保管システムは固体配合物を安定化し、S-ニトロソチオールの純度レベルを長期間にわたって通常周囲温度で保持するのに役立つ。
【実施例
【0092】
以下の非限定的な実施例は、本発明を更に説明するために提示する。
【0093】
実施例1
無制約温度設定でのeビーム及びγ線放射を用いたS-ニトロソグルタチオンの滅菌
ガラスバイアルに収容される(最大250mg/バイアル)、単一製造バッチからのS-ニトロソグルタチオン顆粒サンプルを、滅菌前に約-80℃のドライアイス(固体CO)で覆って保管した。マッチング対照は照射されないが、照射前、照射中及び照射後に照射したS-ニトロソグルタチオンバイアルと比較して同様の保管及び温度管理条件を受けた。S-ニトロソグルタチオンの制御純度レベル、及び特定の不純物グルタチオン(GSH)のレベル、及び酸化型グルタチオン(GSSG)含量、及び全不純物含量を分析した。バイアルを、電子ビーム(eビーム)照射又はγ線照射のいずれかに曝露した。バイアルをドライアイス容器から取り出し、下記の2つの放射線量条件(15kGy及び35kGy)によって、より高温の条件(約18℃~24℃の範囲の周囲空気温度、及び自由により高温に変動させたバイアルの温度)下で滅菌した。照射後に、バイアルを即座に約-80℃のドライアイスで覆い、対照に対する純度の任意の変化の滅菌後決定のために分析した。
【0094】
eビーム放射を、15kGy線量及び35kGy線量を送達する移動キャリアシステム設定を用いて行った。15kGy放射線量は約10分~15分持続させ、温度はほぼ27.5℃に達した(表及び図面中では約27.5℃と表す)。35kGy放射線量は約30分持続させ、温度はほぼ27.5℃に達した(表及び図面中では約27.5℃と表す)。放射線量を従来の線量計によって測定した。
【0095】
γ線放射を、15kGy線量及び35kGy線量を送達する移動キャリアシステム設定を用いて行った。15kGy線量の放射は約8時間~10時間持続させ、温度は最大40℃に達した。35kGy線量の放射は約18時間~24時間持続させ、温度は最大60℃に達した。受けた放射線量を従来の線量計によって測定した。
【0096】
結果を図1及び図3(実施例1の(1)と表記したバー)、並びに表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
15kGy及び35kGyでの実施例1の無制約温度でのeビーム照射は、S-ニトロソグルタチオンのHPLC純度の用量依存的な減少をもたらした。15kGy及び35kGyでの実施例1の無制約温度でのγ線照射は、温度、時間及び放射線量レベルに依存したS-ニトロソグルタチオンのHPLC純度の顕著な減少をもたらした。無制約温度での電離放射(eビーム及びγ線放射)の使用は、対照と比較した純度の減少によって示されるようにS-ニトロソグルタチオンの分解につながる。しかしながら、分解はeビーム放射の場合よりもγ線放射の場合に悪化する。
【0099】
データから、特定の不純物GSH及びGSSG、並びに全不純物のレベルがeビーム及びγ線照射後に温度、時間及び放射線量レベルに依存して増大したことが示される。
【0100】
実施例2
制約温度でのeビーム及びγ線放射を用いたS-ニトロソグルタチオンの滅菌
本実施例の実験プロトコルは、(a)約-80℃及び(b)積極的冷却下(約18℃~24℃の範囲の周囲空気温度、及び制御したバイアル温度による)の滅菌照射温度の純度に対する影響を制御して試験することを意図する。例えば実施例1に記載のものと同じ放射線量を適用した。
【0101】
本実施例については、アンバーガラスバイアルに収容される(100mg/バイアル)、実施例1と同じ単一製造バッチからのS-ニトロソグルタチオン顆粒サンプルを、滅菌前に約-80℃で保管した。-80℃での照射プロセスは、放射線量送達特徴に影響を与えることなく低いバイアル温度を確実にするために設置したドライアイスの存在によって達成された。マッチング対照は照射されないが、照射前、照射中及び照射後に照射したS-ニトロソグルタチオンバイアルと比較して同様の温度管理条件を受けた。
【0102】
この実験のeビーム群に用いた方法は以下の通りであった。
【0103】
eビーム放射を、移動キャリアシステムを用いて行った。S-ニトロソグルタチオンバイアルを-80℃の冷凍庫に保管し、照射前にドライアイス容器に移した。照射の開始前
に、周囲温度で照射予定のS-ニトロソグルタチオンバイアル(及び対照バイアル)を-80℃の冷凍庫から取り出し、周囲空気温度を18℃に制御した位置に移した。
【0104】
個々の低温容器を、各々の標的線量及び温度管理条件について指定のバイアルに使用した。二次包装ボックスを、第1の低温容器の底部の横方向中央にバイアルを直立させて設置した。構成中の各バイアルの位置を報告した。バイアルを常に同じ側から照射した。図4にeビーム照射用の容器内のバイアルの考え得る配置を示す。「e」と表示した矢印は放射方向を示す。コールドチェーン管理を必要とするS-ニトロソグルタチオンバイアルについては、ドライアイスを容器の各側面短辺に設置し、照射プロセス中にコールドチェーンが確実に維持されるようにした。各容器を照射容器内に入れた。
【0105】
15kGyのeビーム及び35kGyの放射線量の両方を数秒間持続させた。
【0106】
所望の照射プロセスの完了後に、照射したS-ニトロソグルタチオン含有バイアル及び対応する対照を、その後の分析のために-80℃で冷凍庫内に保管した。
【0107】
この実験のγ群に用いた方法は以下の通りであった。
【0108】
γ線放射を、コバルト-60放射線源から放出されるγ線を用いて行った。S-ニトロソグルタチオンバイアルを-80℃で冷凍庫内に保管し、照射前にドライアイス容器に移した。照射の開始前に、周囲温度で照射予定のS-ニトロソグルタチオンバイアル(及び対照バイアル)を-80℃の冷凍庫から取り出し、周囲温度を18℃に制御した位置に移した。
【0109】
個々の低温容器を、本実施例のeビーム群との関連で上に記載したように各々の標的線量及び温度管理条件について指定のサンプルに使用した。
【0110】
二次包装ボックスを、第1の低温容器の底部の横方向中央にバイアルを直立させて設置した。図5にγ線照射用の容器内のバイアルの考え得る配置を示す。「γ」と表示した矢印は放射方向を示す。コールドチェーン管理を必要とするS-ニトロソグルタチオン製品については、ドライアイスを低温容器の各側面短辺に設置し、照射プロセス中にコールドチェーンが確実に維持されるようにした。
【0111】
各低温容器を照射容器の横方向中央に設置した。
【0112】
15kGy放射線量は2時間8分持続させ、35kGy線量は約5時間8分持続させた。
【0113】
必要に応じて、ドライアイスを第2の照射の実施前に補充した。
【0114】
照射プロセスの完了後に、照射したS-ニトロソグルタチオン製品を指定の-80℃の冷凍庫に入れた。対照サンプルを第2の照射の完了時に18℃に制御した位置から、指定の-80℃の冷凍庫に移動した。移送の時間を記録した。
【0115】
結果を図2及び図3(実施例2の(2)と表記)、並びに表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
15kGy及び35kGyでの実施例2のeビーム照射は温度、時間及び線量レベルに僅かに依存したS-ニトロソグルタチオン(GSNO)のHPLC純度の減少をもたらした(図2及び図3(実施例2の(2)と表記)並びに表2)。
【0118】
15kGy及び35kGyでの実施例2のγ線照射は温度、時間及び線量レベルに僅かに依存したS-ニトロソグルタチオン(GSNO)のHPLC純度の減少をもたらした(図2及び図3(実施例2の(2)と表記)並びに表6)。
【0119】
実施例2の照射の全てで、eビーム及びγ線放射後に特定の不純物GSH及びGSSG、並びに全不純物のレベルが温度、時間及び線量レベルに僅かに依存して増大した(表2)。
【0120】
論考
実施例1及び実施例2の結果を表3及び表4にまとめる。
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
上記の結果から、医薬S-ニトロソチオール、例えばS-ニトロソグルタチオンを滅菌するために特定の最適化条件が存在することが示される。バイアル内でのS-ニトロソグルタチオンの分解を、2つの異なる実験で異なる条件(異なるバイアル、異なる照射の期間及び温度)を用いた2つの線量レベル(15kGy及び35kGy)での照射(eビーム及びγによる)後に検査した。これらの研究から、電離放射によりS-ニトロソグルタチオンが分解し得ることが確認されるが、特定の温度及び照射時間及び線量の条件によってその分解を最小限に抑えることができ、薬学的な規制上の要件を満たすことが可能となることが初めて実証される。eビーム放射では、同様の投与量でγ線放射よりもS-ニトロソグルタチオンの分解が少ないようである。分解は温度を下げ、照射期間を短縮することによって最小限に抑えられる。
【0124】
以上に本発明を大まかに説明しているが、本発明はこれに限定されない。当業者に容易に明らかな変更及び修正が包含されることが意図される。本発明の保護範囲は、法令に従って適切に解釈されるように添付の特許請求の範囲を参照することによって決定されるものとする。
【0125】
参照文献
上記の本発明の説明における参照文献は以下の通りである。
Ahn DU, Lee EJ (2002). Production of off-odor volatiles from liposome-containing
aminoacid homopolymers by irradiation. J Food Sci 67: 7.
Al-Sa'doni H, Ferro A (2000). S-Nitrosothiols: a class of nitric oxide-donor drugs. Clin Sci (Lond) 98: 507-520.
Butler AR, Rhodes P (1997). Chemistry, analysis, and biological roles of S-nitrosothiols. Anal Biochem 249: 1-9.
Hart TW (1985). Tetrahedron Letters, 26(16), 1985, 2013 to 2016.
Keaney JF, Jr., Simon DI, Stamler JS, Jaraki O, Scharfstein J, Vita JA, et al. (1993). NO forms an adduct with serum albumin that has endothelium-derived relaxing factor-like properties. J Clin Invest 91: 1582-1589.
Lin C-E, Garvey DS (2005). Identification of the nitrate produced from gamma-radiation sterilization of S-Nitrosoglutathione. Abstract ANYL174, General Papers
1.00pm to 9.00pm, 28 August 2005, Hall A Poster, 230th ACS Meeting, Washington DC, 28 August - 1 September 2005.
Looker D, Beyer W (2008). WO 2008/153762 A2 S-nitrosothiol formulations and storage systems.
Manoj VM, Aravind Usha K, Aravindakumar CT (2009). Decomposition of S-Nitrosothiols Induced by UV and Sunlight. Advances in Physical Chemistry 2009: 6.
Parent M, Dahboul F, Schneider R, Clarot I, Maincent P, Leroy P, et al. (2013). A Complete Physicochemical Identity Card of S-nitrosoglutathione. Current Pharmaceutical Analysis 9: 12.
Radomski MW, Rees DD, Dutra A, Moncada S (1992). S-nitroso-glutathione inhibits platelet activation in vitro and in vivo. Br J Pharmacol 107: 745-749.
Rees DD, Palmer RM, Moncada S (1989a). Role of endothelium-derived nitric oxide in the regulation of blood pressure. Proc Natl Acad Sci U S A 86: 3375-3378.
Rees DD, Higgs A, Moncada S (2001). Nitric Oxide and the Vessel Wall. In: Wilkins LW (ed). Hemostasis and Thrombosis, edn. p^pp 10.
Rees DD, Palmer RM, Hodson HF, Moncada S (1989b). A specific inhibitor of nitric
oxide formation from L-arginine attenuates endothelium-dependent relaxation. Br
J Pharmacol 96: 418-424.
Singh RJ, Hogg N, Joseph J, Kalyanaraman B (1995). Photosensitized decomposition
of S-nitrosothiols and 2-methyl-2-nitrosopropane. Possible use for site-directed nitric oxide production. FEBS Lett 360: 47-51.
Singh RJ, Hogg N, Joseph J, Kalyanaraman B (1996a). Mechanism of nitric oxide release from S-nitrosothiols. J Biol Chem 271: 18596-18603.
Singh SP, Wishnok JS, Keshive M, Deen WM, Tannenbaum SR (1996b). The chemistry of the S-nitrosoglutathione/glutathione system. Proc Natl Acad Sci U S A 93: 14428-14433.
Stamler JS, Toone EJ (2002). The decomposition of thionitrites. Current opinion in chemical biology 6: 779-785.
Stamler JS, Jaraki O, Osborne J, Simon DI, Keaney J, Vita J, et al. (1992). Nitric oxide circulates in mammalian plasma primarily as an S-nitroso adduct of serum albumin. Proc Natl Acad Sci U S A 89: 7674-7677.
図1
図2
図3
図4
図5