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特許7058219CD3及びPSMAに結合するヘテロ二量体抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】CD3及びPSMAに結合するヘテロ二量体抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220414BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220414BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220414BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220414BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220414BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220414BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220414BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220414BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K39/395 N
A61P35/00
C07K16/28
C07K16/46 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018527865
(86)(22)【出願日】2016-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 US2016065459
(87)【国際公開番号】W WO2017100372
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】62/264,261
(32)【優先日】2015-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/324,823
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510089100
【氏名又は名称】ゼンコア インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】デスジャルレイス,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チュ,スン
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/149077(WO,A1)
【文献】特表2014-518615(JP,A)
【文献】特表2013-528569(JP,A)
【文献】The Prostate,2011, 7, p.588-596
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)第1の単量体であって、
i)第1のFcドメインと、
ii)第1の可変重ドメイン、scFvリンカー、及び第1の可変軽ドメインを含む抗CD3 scFvであって、前記scFvが、ドメインリンカーを使用して前記FcドメインのN末端に共有結合されている、抗CD3 scFvと、
を含む、第1の単量体と、
b)重鎖を含む第2の単量体であって、
i)第2の可変重ドメインと、
ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインと、を含む、第2の単量体と、
c)第2の可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む軽鎖と、を含み、
前記第1の可変重ドメインが配列番号10のアミノ酸配列を含み、前記第1の可変軽ドメインが配列番号14のアミノ酸配列を含み、
前記第2の可変重ドメインが配列番号110のアミノ酸配列を含み、前記第2の可変軽ドメインが配列番号106のアミノ酸配列を含む、ヘテロ二量体抗体。
【請求項2】
前記第1の単量体が配列番号125のアミノ酸配列を含み、前記第2の単量体が配列番号124のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖が配列番号126のアミノ酸配列を含む、請求項に記載のヘテロ二量体抗体。
【請求項3】
前記第1のFcドメイン及び前記第2のFcドメインが、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットの変異体を含む、請求項1に記載のヘテロ二量体抗体。
【請求項4】
前記scFvリンカーが、荷電リンカーである、請求項1に記載のヘテロ二量体抗体。
【請求項5】
前記重鎖定常ドメインが、アミノ酸置換N208D/Q295E/N384D/Q418E/N421Dを更に含む、請求項に記載のヘテロ二量体抗体。
【請求項6】
前記第1及び第2のFcドメインが、アミノ酸置換E233P/L234V/L235A/G236del/S267Kを含む、請求項に記載のヘテロ二量体抗体。
【請求項7】
ヘテロ二量体抗体をコードする核酸組成物であって、
a)請求項1に記載の前記第1の単量体をコードする第1の核酸と、
b)請求項1に記載の前記第2の単量体をコードする第2の核酸と、
c)請求項1に記載の前記軽鎖をコードする第3の核酸と、を含む、核酸組成物。
【請求項8】
請求項に記載の核酸組成物を含む、発現ベクター組成物。
【請求項9】
請求項に記載の核酸組成物又は請求項に記載の発現ベクター組成物を含む、宿主細胞。
【請求項10】
ヘテロ二量体抗体を作製する方法であって、前記抗体が発現される条件下で請求項に記載の宿主細胞を培養することと、前記抗体を回収することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2015年12月7日出願の米国仮出願第62/264,261号及び2016年4月19日出願の同第62/324,823号に対して優先権を主張し、これらは、参照によりそれらの全体が明確に組み込まれる。
【0002】
本開示は、癌(例えば、前立腺癌)の治療のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
抗体に基づく療法は、癌及び自己免疫疾患/炎症疾患を含む様々な疾患の治療に、成功裏に使用されてきた。しかしながら、このクラスの薬物には、依然として改善が必要であり、特に、その臨床的有効性の増強に関して改善が必要である。探索されている1つの手段は、単一免疫グロブリン分子が、2つの異なる抗原を共捕捉するように、追加かつ新規の抗原結合部位を操作し、抗体に基づく薬物にすることである。2つの異なる抗原を捕捉するそのような非天然または代替の抗体形式は、二重特異性体と称されることが多い。抗体可変領域(Fv)の相当な多様性によって、実質的にあらゆる分子を認識するFvを産生することが可能であるため、二重特異性の生成に対する典型的な手法は、新しい可変領域を抗体へ導入することである。
【0004】
多くの代替抗体形式が、二重特異性ターゲッティングに向けて探索されてきた(Chames&Baty,2009,mAbs 1[6]:1-9;Holliger&Hudson,2005,Nature Biotechnology 23[9]:1126-1136;Kontermann,mAbs 4(2):182(2012)、これらのすべてが、参照によって、本明細書に明確に組み込まれる)。初期には、二重特異性抗体は、それぞれが単一のモノクローナル抗体を産生する2つの細胞株を融合することによって作製された(Milstein et al.,1983,Nature 305:537-540)。得られたハイブリッドのハイブリドーマまたはクアドローマは、二重特異性抗体を確かに産生はしたが、少数集団にすぎず、所望の抗体の単離には、広範な精製が必要であった。これに対する操作的な解決策は、抗体断片を使用して、二重特異性体を作製することであった。そのような断片は、完全長抗体の複雑な四次構造を欠いているため、可変軽鎖及び可変重鎖を、単一の遺伝子構築物において連結することができる。ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、直列型scFv、及びFabの二重特異性体を含む、多くの異なる形態の抗体断片が生成されてきた(Chames&Baty,2009,mAbs 1[6]:1-9;Holliger&Hudson,2005,Nature Biotechnology 23[9]:1126-1136が、参照により本明細書に明確に組み込まれる)。こうした形式は、細菌において高レベルで発現でき、サイズが小さいため、有利に浸透する利点を有し得るが、一方で、インビボにおいて速やかに減失し、それらの産生及び安定性に関して、製造性上の障壁が存在し得る。こうした弱点の主要な原因は、抗体断片が、それに関連する機能特性を有する抗体の定常領域を典型的には欠いていることにあり、この関連機能特性には、サイズの大型化、高安定性、ならびに血清における長期半減期の維持(すなわち、新生児型Fc受容体であるFcRn)または精製のための結合部位として機能する(すなわち、プロテインA及びプロテインG)様々なFc受容体及びFcリガンドへの結合が含まれる。
【0005】
より最新の研究では、二重結合を完全長抗体様形式へと操作することによって、断片に基づく二重特異性体の欠点に対処することが試みられている(Wu et al.,2007,Nature Biotechnology 25[11]:1290-1297;USSN12/477,711;Michaelson et al.,2009,mAbs 1[2]:128-141;PCT/US2008/074693;Zuo et al.,2000,Protein Engineering 13[5]:361-367;USSN09/865,198;Shen et al.,2006,J Biol Chem 281[16]:10706-10714;Lu et al.,2005,J Biol Chem 280[20]:19665-19672;PCT/US2005/025472、これらはすべて、参照により本明細書に明確に組み込まれる)。こうした形式は、抗体断片二重特異性体の障壁のいくつかを克服しており、これは、それらがFc領域を含んでいることが主な理由である。こうした形式の1つの重大な弱点は、それらが、ホモ二量体定常鎖に加えて新しい抗原結合部位を構築するため、新しい抗原に対する結合が、常に二価であるということである。
【0006】
治療用の二重特異性形式において、共標的(co-target)として注目される多くの抗原に関して、所望の結合は、二価というよりもむしろ一価である。多くの免疫受容体では、細胞活性化は、一価の結合相互作用の架橋結合によって達成される。架橋結合の機構は、典型的には、抗体/抗原免疫複合体によって媒介されるものであるか、またはエフェクター細胞が、標的細胞へと会合することを介するものである。例えば、FcγRIIa、FcγRIIb、及びFcγRIIIaなどの低親和性Fcガンマ受容体(FcγR)は、抗体Fc領域に一価で結合する。一価の結合は、こうしたFcγRを発現している細胞を活性化しないが、免疫複合体形成または細胞対細胞接触の際は、受容体は、架橋結合され、細胞表面にクラスターを形成し、活性化を引き起こす。例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞上のFcγRIIIaのような、細胞殺傷の媒介を担う受容体では、エフェクター細胞が、非常に親和性が高い形式において標的細胞を捕捉するとき、受容体の架橋結合及び細胞の活性化が起こる(Bowles&Weiner,2005,J Immunol Methods304:88-99が、参照により明確に組み込まれる)。同様に、B細胞上で、抑制性受容体であるFcγRIIbは、B細胞活性化の下方制御を行い、これは、FcγRIIbが、細胞表面B細胞受容体(BCR)との免疫複合体へと捕捉されるときにのみ起こるものであり、BCRによって認識されるものと同一の抗原と、可溶性IgGのものとの免疫複合体形成によって媒介される機構である(Heyman 2003,Immunol Lett 88[2]:157-161;Smith and Clatworthy,2010,Nature Reviews Immunology 10:328-343が、参照により本明細書に明確に組み込まれる)。別の例として、T細胞のCD3活性化は、その関連するT細胞受容体(TCR)が、非常に親和性が高い細胞対細胞シナプスにおいて、抗原提示細胞上の抗原負荷されたMHCを捕捉するときにのみ起こる(Kuhns et al.,2006,Immunity 24:133-139)。実際、抗CD3抗体を使用したCD3の非特異的二価架橋結合は、サイトカインの急増及び毒性を誘発する(Perruche et al.,2009,J Immunol 183[2]:953-61;Chatenoud&Bluestone,2007,Nature Reviews Immunology 7:622-632が、参照により明確に組み込まれる)。したがって、実践的な臨床使用に向けた、標的細胞の再配向化殺傷(redirected killing)のためのCD3共会合の好ましいモードは、共捕捉される標的との会合時にのみ活性化をもたらす一価の結合である。
【0007】
したがって、抗体断片から生成された二重特異性体は、生物物理学的及び薬物動態学的なハードルに直面している上に、完全長抗体様形式で構築されたこれらの弱点は、一次標的抗原が存在しない状態において、共標的抗原を多価で捕捉し、非特異的な活性化及び潜在的毒性を引き起こすことである。本発明は、この問題を、CD3及び前立腺特異的膜抗原(PSMA)を対象とする新規の二重特異抗体を導入することによって解決する。
【発明の概要】
【0008】
CD3及び大半の前立腺癌細胞上で大幅に過剰発現される膜貫通タンパク質である前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合するヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。そのような抗体は、例えば、PSMA発現腫瘍細胞へのターゲティングCD3+T細胞を促進することにより、癌(例えば、前立腺癌)の治療に有用である。
【0009】
一態様では、a)配列番号64を含む第1の単量体と、b)配列番号65を含む第2の単量体と、c)配列番号66を含む軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。さらなる態様では、a)配列番号64を含む第1の単量体をコードする第1の核酸と、b)配列番号65を含む第2の単量体をコードする第2の核酸と、c)配列番号66を含む軽鎖をコードする第3の核酸とを含む核酸組成物が本明細書において提供される。別の態様では、a)配列番号64を含む第1の単量体をコードする第1の核酸を含む第1の発現ベクターと、b)配列番号65を含む第2の単量体をコードする第2の核酸を含む第2の発現ベクターと、c)配列番号66を含む軽鎖をコードする第3の核酸を含む第3の発現ベクターとを含む発現ベクター組成物が本明細書において提供される。
【0010】
別の態様では、a)配列番号118を含む第1の単量体と、b)配列番号119を含む第2の単量体と、c)配列番号120を含む軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。さらなる態様では、a)配列番号118を含む第1の単量体をコードする第1の核酸と、b)配列番号119を含む第2の単量体をコードする第2の核酸と、c)配列番号120を含む軽鎖をコードする第3の核酸とを含む核酸組成物が本明細書において提供される。別の態様では、a)配列番号118を含む第1の単量体をコードする第1の核酸を含む第1の発現ベクターと、b)配列番号119を含む第2の単量体をコードする第2の核酸を含む第2の発現ベクターと、c)配列番号120を含む軽鎖をコードする第3の核酸を含む核酸を含む第3の発現ベクターとを含む発現ベクター組成物が本明細書において提供される。
【0011】
一態様では、a)配列番号121を含む第1の単量体と、b)配列番号122を含む第2の単量体と、c)配列番号123を含む軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。別の態様では、a)配列番号121を含む第1の単量体をコードする第1の核酸と、b)配列番号122を含む第2の単量体をコードする第2の核酸と、c)配列番号123を含む軽鎖をコードする第3の核酸とを含む核酸組成物が本明細書において提供される。さらなる態様では、a)配列番号121を含む第1の単量体をコードする第1の核酸を含む第1の発現ベクターと、b)配列番号122を含む第2の単量体をコードする第2の核酸を含む第2の発現ベクターと、c)配列番号123を含む軽鎖をコードする第3の核酸をコードする核酸を含む第3の発現ベクターとを含む発現ベクター組成物が本明細書において提供される。
【0012】
一態様では、a)配列番号124を含む第1の単量体と、b)配列番号125を含む第2の単量体と、c)配列番号126を含む軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。別の態様では、a)配列番号124を含む第1の単量体をコードする第1の核酸と、b)配列番号125を含む第2の単量体をコードする第2の核酸と、c)配列番号126を含む軽鎖をコードする第3の核酸とを含む核酸組成物が本明細書において提供される。さらなる別の態様では、a)配列番号124を含む第1の単量体をコードする第1の核酸を含む第1の発現ベクターと、b)配列番号125を含む第2の単量体をコードする第2の核酸を含む第2の発現ベクターと、c)配列番号126を含む軽鎖をコードする第3の核酸をコードする核酸を含む第3の発現ベクターとを含む発現ベクター組成物が本明細書において提供される。
【0013】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメイン、ii)scFv可変軽ドメイン、及びscFvリンカー、ならびにscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。
【0014】
別の態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。scFv可変軽ドメインは、CD3 L1.47のvlCDR(配列番号6を有するvlCDR1、配列番号7を有するvlCDR2、及び配列番号8を有するvlCDR3)を含み、scFv可変重ドメインが、CD3 H1.30のvhCDR(配列番号2を有するvhCDR1、配列番号3を有するvhCDR2、及び配列番号4を有するvhCDR3)を含み、重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。
【0015】
別の態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。scFv可変軽ドメインは、CD3 L1.47のvlCDR(配列番号15を有するvlCDR1、配列番号16を有するvlCDR2、及び配列番号17を有するvlCDR3)を含み、scFv可変重ドメインは、CD3 H1.32のvhCDR(配列番号11を有するvhCDR1、配列番号12を有するvhCDR2、及び配列番号13を有するvhCDR3)を含み、重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。
【0016】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。scFv可変軽ドメインは、CD3 L1.47のvlCDR(配列番号24を有するvlCDR1、配列番号25を有するvlCDR2、及び配列番号26を有するvlCDR3)を含み、scFv可変重ドメインは、CD3 H1.89のvhCDR(配列番号20を有するvhCDR1、配列番号21を有するvhCDR2、及び配列番号22を有するvhCDR3)を含み、重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。
【0017】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。scFv可変軽ドメインは、CD3 L1.47のvlCDR(配列番号33を有するvlCDR1、配列番号34を有するvlCDR2、及び配列番号35を有するvlCDR3)を含み、scFv可変重ドメインは、CD3 H1.90のvhCDR(配列番号29を有するvhCDR1、配列番号30を有するvhCDR2、及び配列番号31を有するvhCDR3)を含み、重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。
【0018】
別の態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。scFv可変軽ドメインは、CD3 L1.47のvlCDR(配列番号42を有するvlCDR1、配列番号43を有するvlCDR2、及び配列番号44を有するvlCDR3)を含み、scFv可変重ドメインは、CD3 H1.33のvhCDR(配列番号38を有するvhCDR1、配列番号39を有するvhCDR2、及び配列番号40を有するvhCDR3)を含み、重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAにする。
【0019】
別の態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。scFv可変軽ドメインは、CD3 L1.47のvlCDR(配列番号51を有するvlCDR1、配列番号52を有するvlCDR2、及び配列番号53を有するvlCDR3)を含み、scFv可変重ドメインは、CD3 H1.31のvhCDR(配列番号47を有するvhCDR1、配列番号48を有するvhCDR2、及び配列番号49を有するvhCDR3)を含み、重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。
【0020】
上述の抗体の一実施形態では、重可変ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1のvhCDR(配列番号111を有するvhCDR1、配列番号112を有するvhCDR2、及び配列番号113を有するvhCDR3)を含み、可変軽ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1のvlCDR(配列番号107を有するvlCDR1、配列番号108を有するvlCDR2、及び配列番号109を有するvlCDR3)を含む。例示的な実施形態では、重可変ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1の可変重ドメイン(配列番号110)を含み、可変軽ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1の可変軽ドメイン(配列番号106)を含む。
【0021】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)第1のFcドメインと、ii)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む抗CD3 scFvとを含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのN末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)重可変ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む重定常ドメインとを含む重鎖を含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。重可変ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1のvhCDR(配列番号111を有するvhCDR1、配列番号112を有するvhCDR2、及び配列番号113を有するvhCDR3)を含み、可変軽ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1のvlCDR(配列番号107を有するvlCDR1、配列番号108を有するvlCDR2、及び配列番号109を有するvlCDR3)を含む。重可変ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合する。いくつかの実施形態では、重可変ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1の可変重ドメイン(配列番号110)を含み、可変軽ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1の可変軽ドメイン(配列番号106)を含む。
【0022】
上述の抗体のいくつかの実施形態では、第1のFcドメイン及び第2のFcドメインは、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットの変異体を含む。
【0023】
上述の抗体のいくつかの実施形態では、scFvリンカーは、荷電リンカーである。
【0024】
上述の抗体のいくつかの実施形態では、重鎖定常ドメインは、アミノ酸置換N208D/Q295E/N384D/Q418E/N421Dを含む。
【0025】
上述の抗体のいくつかの実施形態では、第1及び第2のFcドメインは、アミノ酸置換E233P/L234V/L235A/G236del/S267Kを含む。
【0026】
別の態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、共通の軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)1)第1の可変重ドメイン、2)第1のFcドメインを含む第1の定常重鎖、及び3)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含むscFvを含む、第1の重鎖を含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してFcドメインのC末端に共有結合されている。第2の単量体は、第2の可変重ドメインを含む第2の重鎖、及び第2のFcドメインを含む第2の定常重鎖を含む。共通の軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。第1及び第2のFcドメインは、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットのアミノ酸置換を有する。第1の可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、ヒトPSMA(配列番号131)に結合し、第2の可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、ヒトPSMAに結合し、scFvは、ヒトCD3に結合する。
【0027】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、共通の軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)1)第1の可変重ドメイン、2)第1のFcドメインを含む第1の定常重ドメイン、及び3)第1の可変軽ドメインを含む、第1の重鎖を含み、この第1の可変軽ドメインは、ドメインリンカーを使用して第1のFcドメインのC末端に共有結合されている。第2の単量体は、i)第2の可変重ドメイン、ii)第2のFcドメインを含む第2の定常重ドメイン、及びiii)第3の可変重ドメインを含み、この第3の可変重ドメインは、ドメインリンカーを使用して第2のFcドメインのC末端に共有結合されている。共通の軽鎖は、第2の可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。第1及び第2のFcドメインは、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットのアミノ酸置換を有する。第1の可変重ドメイン及び第2の可変軽ドメインは、PSMAに結合し、第2の可変重ドメイン及び第2の可変軽ドメインは、PSMAに結合し、第1の可変軽ドメイン及び第3の可変重ドメインは、CD3に結合する。
【0028】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、共通の軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)i)1)第1の可変重ドメイン、2)第1のCH1ドメイン及び第1のFcドメインを含む第1の定常重鎖、ならびに3)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含むscFvを含む、第1の重鎖を含む、第1の重鎖を含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている 第2の単量体は、第2の可変重ドメインを含む第2の重鎖、及び第2のFcドメインを含む第2の定常重鎖を含む。共通の軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。第1及び第2のFcドメインは、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットのアミノ酸置換を有する。第1の可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合し、第2の可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、PSMAに結合し、scFvは、CD3に結合する。
【0029】
一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、共通の軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)i)第1の可変重ドメインと、ii)第1のFcドメインを含む第1の定常重ドメインと、iii)第1の可変軽ドメインとを含む、第1の重鎖を含み、この第1の可変軽ドメインは、ドメインリンカーを使用して第1の定常重ドメインのCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている。第2の単量体は、i)第2の可変重ドメインと、ii)第2のFcドメインを含む第2の定常重ドメインと、iii)第3の可変重ドメインとを含み、この第3の可変重ドメインは、ドメインリンカーを使用して第2の定常重ドメインのCH1ドメインのC末端と第2のFcドメインのN末端との間で共有結合されている。共通の軽鎖は、第2の可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。第1及び第2のFcドメインは、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットのアミノ酸置換を有する。第1の可変重ドメイン及び第2の可変軽ドメインは、PSMAに結合し、第2の可変重ドメイン及び第2の可変軽ドメインは、PSMAに結合し、第1の可変軽ドメイン及び第3の可変重ドメインは、CD3に結合する。
【0030】
[0025]一態様では、第1の単量体と、第2の単量体と、軽鎖とを含むヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。第1の単量体は、i)i)1)第1の可変重ドメイン、2)第1のCH1ドメイン及び第1のFcドメインを含む第1の定常重鎖、ならびに3)scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含むscFvを含む、第1の重鎖を含む、第1の重鎖を含み、このscFvは、ドメインリンカーを使用してCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている 第2の単量体は、第2のFcドメインを含む。軽鎖は、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む。第1及び第2のFcドメインは、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される1セットのアミノ酸置換を有する。第1の可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、第1の抗原に結合し、scFvは、第2の抗原に結合し、第1及び第2の抗原のうちの一方がPSMAであり、他方がCD3である。
【0031】
別の態様では、本明細書に記載の対象のヘテロ二量体抗体のいずれかをコードする核酸組成物が本明細書において提供される。いくつかの実施形態では、核酸組成物は、a)第1の単量体をコードする第1の核酸と、b)第2の単量体をコードする第2の核酸と、c)軽鎖をコードする第3の核酸とを含む。
【0032】
別の態様では、XENP14484、XENP16873、XENP16874、及びXENP19722からなる群から選択されるヘテロ二量体抗体が本明細書において提供される。
【0033】
別の態様では、本明細書に記載の核酸組成物のいずれか1つを含む発現ベクター組成物が本明細書において提供される。別の態様では、本明細書に記載の核酸組成物または発現ベクター組成物の任意の1つを含む宿主細胞が本明細書において提供される。また別の態様では、抗体が発現される条件下で、本明細書に記載の宿主細胞を培養することと、抗体を回収することとを含む、本明細書に記載の対象のヘテロ二量体抗体を作製する方法が本明細書において提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A】本発明のいくつかの形式を示す。「ボトルオープナー」形式の2つの形態が示され、1つは、scFvを含む抗CD3抗原結合ドメイン、及びFabを含む抗PSMA抗原結合ドメインを有し、1つはこれらの逆を有する。mAb-Fv、mAb-scFv、中心scFv、及び中心Fv、共通の軽鎖、及び二重特異性IgG形式がすべて示される。これらの図における構造のそれぞれは、scFvまたはFvとして抗PSMA及び抗CD3ドメインを示すが、これらの構造のそれぞれの抗PSMA及び抗CD3ドメインも「逆」であってもよい。例えば、図1Aに示されるmAb-scFvが抗PSMA scFv及び抗CD3 Fvを有し得ることも企図される。加えて、1つの単量体がFcドメインのみを含む「ワンアーム化(one-armed)」形式が示され、これには、ワンアーム中心scFv及びワンアーム中心Fvが含まれる。二重scFv形式もまた示される。
図1B】本発明のいくつかの形式を示す。「ボトルオープナー」形式の2つの形態が示され、1つは、scFvを含む抗CD3抗原結合ドメイン、及びFabを含む抗PSMA抗原結合ドメインを有し、1つはこれらの逆を有する。mAb-Fv、mAb-scFv、中心scFv、及び中心Fv、共通の軽鎖、及び二重特異性IgG形式がすべて示される。これらの図における構造のそれぞれは、scFvまたはFvとして抗PSMA及び抗CD3ドメインを示すが、これらの構造のそれぞれの抗PSMA及び抗CD3ドメインも「逆」であってもよい。例えば、図1Aに示されるmAb-scFvが抗PSMA scFv及び抗CD3 Fvを有し得ることも企図される。加えて、1つの単量体がFcドメインのみを含む「ワンアーム化(one-armed)」形式が示され、これには、ワンアーム中心scFv及びワンアーム中心Fvが含まれる。二重scFv形式もまた示される。
図2】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含む「高CD3」抗CD3_H1.30_L1.47構築物の配列を示す。図に示す配列のすべてにあてはまるように、この荷電リンカーは、必要に応じて、非荷電リンカーまたは異なる荷電リンカーによって置き換えられ得る。
図3】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含む「高中間(High-Int)#1」抗CD3_H1.32_L1.47構築物の配列を示す。図に示す配列のすべてにあてはまるように、この荷電リンカーは、必要に応じて、非荷電リンカーまたは異なる荷電リンカーによって置き換えられ得る。
図4】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含む「高中間#2」抗CD3_H1.89_L1.47構築物の配列を示す。図に示す配列のすべてにあてはまるように、この荷電リンカーは、必要に応じて、非荷電リンカーまたは異なる荷電リンカーによって置き換えられ得る。
図5】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含む「高中間#3」抗CD3_H1.90_L1.47構築物の配列を示す。図に示す配列のすべてにあてはまるように、この荷電リンカーは、必要に応じて、非荷電リンカーまたは異なる荷電リンカーによって置き換えられ得る。
図6】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含む「中間」抗CD3_H1.33_L1.47構築物の配列を示す。図に示す配列のすべてにあてはまるように、この荷電リンカーは、必要に応じて、非荷電リンカーまたは異なる荷電リンカー(例えば、図14の任意の荷電リンカー)によって置き換えられ得る。
図7】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含む「低」抗CD3_H1.31_L1.47構築物の配列を示す。図に示す配列のすべてにあてはまるように、この荷電リンカーは、必要に応じて、非荷電リンカーまたは異なる荷電リンカー(例えば、図14の任意の荷電リンカー)によって置き換えられ得る。
図8】可変重及び軽ドメイン(CDRには下線が引かれている)、ならびに個々のvl及びvhCDR、ならびに荷電リンカー(二重下線が引かれている)を有するscFv構築物を含むXENP14484の可変重ドメイン及び可変軽ドメインの配列を示す。しかしながら、当業者に理解されるように、PSMAの実施形態の場合の荷電リンカーの正に荷電したリンカーも、図14に示される負に荷電したリンカーまたは非荷電の従来のGSリンカーによって置き換えられ得る。
図9】XENP14484の配列を示す。
図10A】ヘテロ二量体化変異体のセットの有用な対(歪曲及びpI変異体を含む)を示す。図10Eで、対応する「単量体2」変異体が存在しない変異体があり、これらは、例えば、どちらかの単量体上で単独で使用されるか、またはボトルオープナーのFab側上に含まれ得るpI変異体であり、適切な荷電scFvリンカーが、第2の抗原結合ドメインとしてscFvを利用する第2の単量体上で使用され得る。好適な荷電リンカーは、図14に示される。
図10B】ヘテロ二量体化変異体のセットの有用な対(歪曲及びpI変異体を含む)を示す。図10Eで、対応する「単量体2」変異体が存在しない変異体があり、これらは、例えば、どちらかの単量体上で単独で使用されるか、またはボトルオープナーのFab側上に含まれ得るpI変異体であり、適切な荷電scFvリンカーが、第2の抗原結合ドメインとしてscFvを利用する第2の単量体上で使用され得る。好適な荷電リンカーは、図14に示される。
図10C】ヘテロ二量体化変異体のセットの有用な対(歪曲及びpI変異体を含む)を示す。図10Eで、対応する「単量体2」変異体が存在しない変異体があり、これらは、例えば、どちらかの単量体上で単独で使用されるか、またはボトルオープナーのFab側上に含まれ得るpI変異体であり、適切な荷電scFvリンカーが、第2の抗原結合ドメインとしてscFvを利用する第2の単量体上で使用され得る。好適な荷電リンカーは、図14に示される。
図10D】ヘテロ二量体化変異体のセットの有用な対(歪曲及びpI変異体を含む)を示す。図10Eで、対応する「単量体2」変異体が存在しない変異体があり、これらは、例えば、どちらかの単量体上で単独で使用されるか、またはボトルオープナーのFab側上に含まれ得るpI変異体であり、適切な荷電scFvリンカーが、第2の抗原結合ドメインとしてscFvを利用する第2の単量体上で使用され得る。好適な荷電リンカーは、図14に示される。
図10E】ヘテロ二量体化変異体のセットの有用な対(歪曲及びpI変異体を含む)を示す。図10Eで、対応する「単量体2」変異体が存在しない変異体があり、これらは、例えば、どちらかの単量体上で単独で使用されるか、またはボトルオープナーのFab側上に含まれ得るpI変異体であり、適切な荷電scFvリンカーが、第2の抗原結合ドメインとしてscFvを利用する第2の単量体上で使用され得る。好適な荷電リンカーは、図14に示される。
図11】等比体積変異体抗体の定常領域、及びそのそれぞれの置換の一覧を示す。pI_(-)は、より低いpI変異体を示す一方で、pI_(+)は、より高いpI変異体を示す。これらは、本発明の他の二量体化変異体と、(かつ本明細書に概要が記載されるように、他の変異体型と)任意選択かつ独立して組み合わせられ得る。
図12】FcγR結合を消去する有用な消去変異体(「ノックアウト」または「KO」変異体と称されることがある)を示す。
図13】本発明の2つの特に有用な実施形態を示す。
図14A】1つ以上のscFvを成分として利用するヘテロ二量体抗体のpIを増加または減少させることにおいて用途を見出すいくつかの荷電scFvリンカーを示す。(+H)の正のリンカーは、本明細書において、特に本明細書に示される抗CD3及びvh配列で特定の用途を見出す。単一電荷を有する、単一の先行技術scFvリンカーは、Whitlow et al.,Protein Engineering 6(8):989-995(1993)にちなんで、「Whitlow」と呼ばれる。このリンカーは、scFvにおいて、凝集の低減、及びタンパク質分解に対する安定性の増進に向けて使用されることに留意するべきである。
図14B】1つ以上のscFvを成分として利用するヘテロ二量体抗体のpIを増加または減少させることにおいて用途を見出すいくつかの荷電scFvリンカーを示す。(+H)の正のリンカーは、本明細書において、特に本明細書に示される抗CD3及びvh配列で特定の用途を見出す。単一電荷を有する、単一の先行技術scFvリンカーは、Whitlow et al.,Protein Engineering 6(8):989-995(1993)にちなんで、「Whitlow」と呼ばれる。このリンカーは、scFvにおいて、凝集の低減、及びタンパク質分解に対する安定性の増進に向けて使用されることに留意するべきである。
図15】操作されたヘテロ二量体歪曲Fc変異体の一覧をヘテロ二量体の収率(HPLC-CIEXにより決定)及び熱安定性(DSCにより決定)と共に示す。未決定の熱安定性は、「n.d.」と示される。
図16】試験物は、抗PSMAまたは抗RSV×抗CD3二重特異性体である。上のパネル:100,000個のLNCaP細胞への細胞表面結合。検出には、FITC標識抗ヒトIgG Fc二次抗体が使用された。下のパネル:再配向化T細胞の細胞傷害性アッセイ、24時間のインキュベーション、10,000個のLNCaP細胞、400,000個の精製されたT細胞。検出には、LDHが使用された。
図17A】T細胞応答及びサイトカイン放出症候群(CRS)がサルにおいて標的細胞の会合に依存することを示すグラフを含む。カニクイザル(n=3)に、XENP14484(抗PSMA×抗CD3、30μg/kg)またはXENP13245(抗RSV×CD3、3mg/kg)のいずれかを単回投与した。図17AのCD4T細胞の辺縁趨向(上のパネル)及びCD69 MFIによる活性化(中央のパネル)は、フローサイトメトリーによって調べられた。IL-6血清レベルは、ELISA(下のパネル)によって調べられた。
図17B図17BのCD8T細胞の辺縁趨向(上のパネル)及びCD69 MFIによる活性化(中央のパネル)は、フローサイトメトリーによって調べられた。TNF血清レベルは、ELISA(下のパネル)によって調べられた。
図18】本発明の実施形態の可能性のある組み合わせのマトリックスを示す。「A」は、参照される抗CD3配列のCDRが、左手側で抗PSMA構築物のCDRと組み合わせることができることを意味する。すなわち、例えば左上のセルについて、可変重鎖抗CD3 H1.30配列からのvhCDR及び抗CD3 L1.47配列の可変軽鎖からのvlCDRが、抗PSMA J591 H1_L1配列からのvhCDR及びJ591 H1_L1配列からのvlCDRと組み合わせることができるということである(図20を参照されたい)。「B」は、抗CD3構築物からのCDRが、抗PSMA構築物からの可変重及び軽ドメインと組み合わせることができることを意味する。すわなち、例えば左上のセルについて、可変重鎖抗CD3 H1.30配列からのvhCDR及び抗CD3 L1.47配列の可変軽鎖からのvlCDRが、可変重ドメインJ591 H1_L1配列及びJ591 H1_L1配列と組み合わせることができるということである。「C」は、CD3配列からの可変重ドメイン及び可変軽ドメインが、PSMA配列のCDRと共に使用されるように逆にされる。「D」では、それぞれからの可変重鎖及び可変軽鎖の両方が組み合わされる。「E」では、抗CD3のscFvがPSMA抗原結合ドメイン構築物のCDRと共に使用される。「F」では、CD3のscFvがPSMA抗原結合ドメインの可変重及び可変軽ドメインと共に使用される。「G」では、抗CD3構築物のCDRがPSMA構築物のscFvと共に使用される。「H」では、抗CD3の可変重ドメイン及び可変軽ドメインが抗PSMAのscFvと共に使用される。
図19】様々な前立腺特異的膜抗原(PSMA)のアミノ酸配列を示し、これには、完全ヒトPSMA、ヒトPSMA細胞外ドメイン、完全Macaca fascicularis PSMA、及びMacaca fascicularis PSMA細胞外ドメインが含まれる。
図20】非ヒト化抗PSMA抗体J591及びヒト化抗PSMA抗体J591 H1_L1の可変重(VH)及び可変軽(VL)ドメインのアミノ酸配列を示す。これらの可変重及び可変軽ドメインに含まれる可変重(vhCDR1~3)及び可変軽(vlCDR1~3)ドメインの相補性決定領域も示される。いくつかの実施形態では、抗PSMA CDR、ならびにVH及びVLは、本明細書に記載の抗体である単一特異性及びヘテロ二量体抗体(例えば、抗PSMA×抗CD3)において使用され得る。いくつかの実施形態では、ヘテロ二量体抗体が抗CD3結合ドメインをさらに含む場合、抗CD3結合ドメインは、図5~7に示されるVH、VL、またはCDRのいずれかを含むことができる。
図21A】XENP14484(図21A)、XENP16873(図21B)、XENP16874(図21C)、及びXENP19722(図21D)を含む、本明細書に記載の例示的な抗PSMA×抗CD3抗体のアミノ酸配列を示す。図22Eは、例示的なボトルオープナー骨格のアミノ酸配列を示す。そのような骨格は、本明細書に記載の様々な可変重ドメイン、可変軽ドメイン、及びscFvと組み合わされ得る。
図21B】XENP14484(図21A)、XENP16873(図21B)、XENP16874(図21C)、及びXENP19722(図21D)を含む、本明細書に記載の例示的な抗PSMA×抗CD3抗体のアミノ酸配列を示す。図22Eは、例示的なボトルオープナー骨格のアミノ酸配列を示す。そのような骨格は、本明細書に記載の様々な可変重ドメイン、可変軽ドメイン、及びscFvと組み合わされ得る。
図21C】XENP14484(図21A)、XENP16873(図21B)、XENP16874(図21C)、及びXENP19722(図21D)を含む、本明細書に記載の例示的な抗PSMA×抗CD3抗体のアミノ酸配列を示す。図22Eは、例示的なボトルオープナー骨格のアミノ酸配列を示す。そのような骨格は、本明細書に記載の様々な可変重ドメイン、可変軽ドメイン、及びscFvと組み合わされ得る。
図21D】XENP14484(図21A)、XENP16873(図21B)、XENP16874(図21C)、及びXENP19722(図21D)を含む、本明細書に記載の例示的な抗PSMA×抗CD3抗体のアミノ酸配列を示す。図22Eは、例示的なボトルオープナー骨格のアミノ酸配列を示す。そのような骨格は、本明細書に記載の様々な可変重ドメイン、可変軽ドメイン、及びscFvと組み合わされ得る。
図21E】XENP14484(図21A)、XENP16873(図21B)、XENP16874(図21C)、及びXENP19722(図21D)を含む、本明細書に記載の例示的な抗PSMA×抗CD3抗体のアミノ酸配列を示す。図22Eは、例示的なボトルオープナー骨格のアミノ酸配列を示す。そのような骨格は、本明細書に記載の様々な可変重ドメイン、可変軽ドメイン、及びscFvと組み合わされ得る。
図22】抗PSMA×抗CD3抗体XENP14484及びXENP19722のPSMA親和性(Kd)決定を示すグラフを示す。
図23】例示的な抗PSMA×抗CD3抗体XENP14484及びXENP19722のLNCaP前立腺癌細胞(LNCaP)への結合(上)、ならびにそのような例示的な抗体がLNCaP前立腺癌細胞株の再配向化T細胞の細胞傷害性(RTCC)を媒介する能力(下)を示すグラフである。上のパネル:100,000個のLNCaP細胞への細胞表面結合。検出は、FITC標識抗ヒトIgG Fc二次抗体が使用された。下のパネル:再配向化T細胞の細胞傷害性アッセイ、一晩のインキュベーション、10,000個のLNCaP細胞、ヒトPBMCからの100,000個の精製されたT細胞。検出には、LDHが使用された。
図24】CD3親和性が低下している抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体(XENP19722)は類似するT細胞活性を示すが(上、中央)、高CD3親和性を有する抗PSMA×抗CD3二重特異性抗体(XENP14484)(下)と比較して、サルにおいてCRSが低いことを示すグラフである。
図25A】Fv配列(例えば、Fab側のscFv、ならびにvh及びvl)を伴わない、いくつかの有用なボトルオープナー形式主鎖の配列を示す。当業者に理解され、また以下に概要が記載されるように、これらの配列は、本明細書に概要が記載される任意のvh及びvl対と共に使用され得、一方の単量体はscFv(任意選択で荷電scFvリンカーを含む)を含み、他方の単量体はFab配列(例えば、「Fab側の重鎖に結合されるvh及び「定常軽鎖」に結合されるvl)を含む。scFvは抗CD3または抗TTAであってもよく、Fabは他方である。すなわち、本明細書に概要が記載される任意の抗CD3及び抗PSMA Fv配列(そのような配列のCDRを含む)は、これらの図25の主鎖に任意の組み合わせで組み込まれ得る。 これらのボトルオープナー主鎖が、第1のFabと同じ抗原結合を有する追加の第2のFab(vh-CH1及びvl定常軽)が「ボトルオープナー側」上のscFvのN末端に付加される図1Bの中心scFv形式に用途を見出すことに留意するべきである。
図25B】Fv配列(例えば、Fab側のscFv、ならびにvh及びvl)を伴わない、いくつかの有用なボトルオープナー形式主鎖の配列を示す。当業者に理解され、また以下に概要が記載されるように、これらの配列は、本明細書に概要が記載される任意のvh及びvl対と共に使用され得、一方の単量体はscFv(任意選択で荷電scFvリンカーを含む)を含み、他方の単量体はFab配列(例えば、「Fab側の重鎖に結合されるvh及び「定常軽鎖」に結合されるvl)を含む。scFvは抗CD3または抗TTAであってもよく、Fabは他方である。すなわち、本明細書に概要が記載される任意の抗CD3及び抗PSMA Fv配列(そのような配列のCDRを含む)は、これらの図25の主鎖に任意の組み合わせで組み込まれ得る。 これらのボトルオープナー主鎖が、第1のFabと同じ抗原結合を有する追加の第2のFab(vh-CH1及びvl定常軽)が「ボトルオープナー側」上のscFvのN末端に付加される図1Bの中心scFv形式に用途を見出すことに留意するべきである。
図25C】Fv配列(例えば、Fab側のscFv、ならびにvh及びvl)を伴わない、いくつかの有用なボトルオープナー形式主鎖の配列を示す。当業者に理解され、また以下に概要が記載されるように、これらの配列は、本明細書に概要が記載される任意のvh及びvl対と共に使用され得、一方の単量体はscFv(任意選択で荷電scFvリンカーを含む)を含み、他方の単量体はFab配列(例えば、「Fab側の重鎖に結合されるvh及び「定常軽鎖」に結合されるvl)を含む。scFvは抗CD3または抗TTAであってもよく、Fabは他方である。すなわち、本明細書に概要が記載される任意の抗CD3及び抗PSMA Fv配列(そのような配列のCDRを含む)は、これらの図25の主鎖に任意の組み合わせで組み込まれ得る。 これらのボトルオープナー主鎖が、第1のFabと同じ抗原結合を有する追加の第2のFab(vh-CH1及びvl定常軽)が「ボトルオープナー側」上のscFvのN末端に付加される図1Bの中心scFv形式に用途を見出すことに留意するべきである。
図25D】Fv配列(例えば、Fab側のscFv、ならびにvh及びvl)を伴わない、いくつかの有用なボトルオープナー形式主鎖の配列を示す。当業者に理解され、また以下に概要が記載されるように、これらの配列は、本明細書に概要が記載される任意のvh及びvl対と共に使用され得、一方の単量体はscFv(任意選択で荷電scFvリンカーを含む)を含み、他方の単量体はFab配列(例えば、「Fab側の重鎖に結合されるvh及び「定常軽鎖」に結合されるvl)を含む。scFvは抗CD3または抗TTAであってもよく、Fabは他方である。すなわち、本明細書に概要が記載される任意の抗CD3及び抗PSMA Fv配列(そのような配列のCDRを含む)は、これらの図25の主鎖に任意の組み合わせで組み込まれ得る。 これらのボトルオープナー主鎖が、第1のFabと同じ抗原結合を有する追加の第2のFab(vh-CH1及びvl定常軽)が「ボトルオープナー側」上のscFvのN末端に付加される図1Bの中心scFv形式に用途を見出すことに留意するべきである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
I.定義
本出願をより完全に理解し得るために、いくつかの定義を以下に示す。そのような定義は、文法的に等価であるものを包含することを意図する。
【0036】
本明細書において、「消去」は、活性の減少または除去を意味する。したがって、例えば、「FcγR結合の消去」は、特定の変異体を含まないFc領域と比較して、Fc領域アミノ酸変異体が、出発結合の50%未満を有することを意味し、活性を70~80~90~95~98%喪失していることが好ましく、一般に、活性は、Biacoreアッセイにおいて、検出可能な結合レベルを下回る。FcγR結合の消去において特に使用されるものは、図12に示されるものである。
【0037】
本明細書で使用される「ADCC」または「抗体依存性細胞媒介細胞傷害性」は、細胞が媒介する反応であり、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、その後に標的細胞の溶解を引き起こすことを意味する。ADCCは、FcγRIIIaに対する結合と相関しており、FcγRIIIaに対する結合の増加は、ADCC活性の増加につながる。
【0038】
本明細書で使用される「ADCP」または抗体依存性細胞媒介貪食は、細胞が媒介する反応であり、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、その後に標的細胞の貪食を引き起こすことを意味する。
【0039】
本明細書において、「改変」とは、ポリペプチド配列における、アミノ酸の置換、挿入、及び/もしくは欠失、またはタンパク質に化学的に連結された部分に対する変更を意味する。例えば、改変は、糖質の変更またはタンパク質に結合されたPEG構造であってよい。本明細書において、「アミノ酸改変」とは、ポリペプチド配列における、アミノ酸の置換、挿入、及び/または欠失を意味する。明確化のため、別段の記載がない限り、アミノ酸改変は、常に、DNAよってコードされるアミノ酸への改変であり、例えば、DNA及びRNAにおいてコドンを有する20個のアミノ酸である。
【0040】
本明細書において、「アミノ酸置換」または「置換」とは、親ポリペプチド配列における特定位置で、アミノ酸を異なるアミノ酸と置き換えることを意味する。具体的には、いくつかの実施形態では、置換は、特定位置で自然発生しないアミノ酸に対するものであり、生物内において、または任意の生物において、いずれでも自然発生しない。例えば、置換E272Yは、変異体ポリペプチドを指し、この場合、位置272で、グルタミン酸が、チロシンで置き換えられているFc変異体である。明確化のため、核酸コード配列を変更するが、出発アミノ酸を変更しない(例えば、宿主生物の発現レベルを増加させるために、CGG(アルギニンをコードする)をCGA(依然としてアルギニンをコードする)に交換する)ように操作されたタンパク質は、「アミノ酸置換」ではない、すなわち、同じタンパク質をコードする新しい遺伝子の創出にも関わらず、タンパク質が出発した特定位置で同じアミノ酸を有する場合、それはアミノ酸置換ではない。
【0041】
本明細書で使用される「アミノ酸挿入」または「挿入」とは、親ポリペプチド配列における特定位置でのアミノ酸配列の追加を意味する。例えば、-233Eまたは233Eは、位置233の後かつ位置234の前でのグルタミン酸の挿入を指定する。加えて、-233ADEまたはA233ADEは、位置233の後かつ位置234の前でのAlaAspGluの挿入を指定する。
【0042】
本明細書で使用される「アミノ酸欠失」または「欠失」とは、親ポリペプチド配列における特定位置でのアミノ酸配列の除去を意味する。例えば、E233-またはE233#またはE233()は、位置233でグルタミン酸の欠失を指定する。加えて、EDA233-またはEDA233#は、位置233から始まる配列GluAspAlaの欠失を指定する。
【0043】
本明細書で使用される「変異体タンパク質」または「タンパク質変異体」または「変異体」とは、少なくとも1つのアミノ酸改変の理由によって、親タンパク質のそれとは異なるタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質自体、タンパク質を含む組成物、またはそれをコードするアミノ配列を指し得る。好ましくは、タンパク質変異体は、親タンパク質と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を有し、例えば、親と比較して、約1~約70個のアミノ酸改変、好ましくは、約1~約5個のアミノ酸改変を有する。以下に記載されるように、いくつかの実施形態では、親ポリペプチド、例えば、Fc親ポリペプチドは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4由来のFc領域などのヒト野生型配列であるが、変異体を有するヒト配列は、「親ポリペプチド」、例えば、既に開示されているIgG1/2ハイブリッドとしても機能することができる。本明細書のタンパク質変異体配列は、好ましくは、親タンパク質配列と少なくとも約80%の同一性、最も好ましくは、少なくとも約90%の同一性、より好ましくは、少なくとも95~98~99%の同一性を有する。変異体タンパク質は、変異体タンパク質自体、タンパク質変異体を含む組成物、またはそれをコードするDNA配列を指し得る。したがって、本明細書で使用される「抗体変異体」または「変異体抗体」とは、少なくとも1つのアミノ酸改変の理由によって、親抗体とは異なる抗体を意味し、本明細書で使用される「IgG変異体」または「変異体IgG」は、少なくとも1つのアミノ酸改変の理由によって、親IgG(同様に、多くの場合、ヒトIgG配列由来)とは異なる抗体を意味し、本明細書で使用される「免疫グロブリン変異体」または「変異体免疫グロブリン」は、少なくとも1つのアミノ酸改変の理由によって、親免疫グロブリン配列のそれとは異なる免疫グロブリン配列を意味する。本明細書で使用される「Fc変異体」または「変異体Fc」は、Fcドメインにおいてアミノ酸改変を含むタンパク質を意味する。本発明のFc変異体は、それらを構成するアミノ酸改変に従って定義される。したがって、例えば、N434Sまたは434Sは、親Fcポリペプチドに対して、位置434で置換セリンを有するFc変異体であり、番号付けは、EUインデックスに従うものである。同様に、M428L/N434Sは、親Fcポリペプチドに対して、置換M428L及び置換N434Sを有するFc変異体を定義する。WTアミノ酸の同一性が、特定されていなくてもよく、その場合、先に記載した変異体は、428L/434Sと称される。置換が提供される規則は任意であることに留意されたい。つまり、例えば、428L/434Sは、M428L/N434Sと同一のFc変異体であるなどである。抗体に関連する本発明において論じられるすべての位置に関して、別段の記載がない限り、アミノ酸位置の番号付けは、EUインデックスに従うものである。EUインデックス、またはKabatもしくはEUの番号付けスキームにあるようなEUインデックスは、EU抗体の番号付けを指す(Edelman et al.,1969,Proc Natl Acad Sci USA 63:78-85は参照により完全に本明細書に組み込まれる。)改変は、付加、欠失、または置換であり得る。置換は、自然発生するアミノ酸を含み得、場合によっては、合成アミノ酸を含み得る。例には、米国特許第6,586,207号、WO98/48032、WO03/073238、US2004-0214988A1、WO05/35727A2、WO05/74524A2、J.W.Chin et al.,(2002),Journal of the American Chemical Society 124:9026-9027、J.W.Chin,&P.G.Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135-1137、J.W.Chin,et al.,(2002),PICAS United States of America 99:11020-11024、及びL.Wang,&P.G.Schultz,(2002),Chem.1-10が含まれ、すべてが参照により完全に組み込まれる。
【0044】
本明細書で使用される、本明細書の「タンパク質」は、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味し、これには、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、及びペプチドが含まれる。ペプチジル基は、自然発生するアミノ酸及びペプチド結合、または合成ペプチド模倣構造、すなわち、ペプトイドなどの「類似体」を含み得る(Simon et al.,PNAS USA 89(20):9367(1992)を参照されたい、参照により完全に組み込まれる)。当業者に理解されるように、アミノ酸は、自然発生または合成(例えば、DNAによってコードされるアミノ酸ではない)のいずれでもよい。例えば、ホモ-フェニルアラニン、シトルリン、オルニチン、及びノルロイシンは、本発明の目的のための合成アミノ酸であると考えられ、D-及びL-(RまたはS)で形成されたアミノ酸の両方を利用してもよい。本発明の変異体は、例えば、Schultz及び共同研究者によって開発された技術を使用して組み込まれた合成アミノ酸の使用を含む改変を含んでもよく、限定されないが、Cropp&Shultz,2004,Trends Genet.20(12):625-30、Anderson et al.,2004,Proc Natl Acad Sci USA 101(2):7566-71、Zhang et al.,2003,303(5656):371-3、及びChin et al.,2003,Science 301(5635):964-7によって説明される方法が含まれ、すべてが参照により完全に組み込まれる。加えて、ポリペプチドは、1つまたは複数の側鎖または末端の合成誘導体化、グリコシル化、PEG化、円順列、環化、他の分子へのリンカー、タンパク質またはタンパク質ドメインへの融合、及びペプチドタグまたはペプチド標識の付加を含んでもよい。
【0045】
本明細書で使用される「残基」とは、タンパク質及びその関連するアミノ酸同一性における位置を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297またはN297とも呼ばれる)は、ヒト抗体IgG1における位置297の残基である。
【0046】
本明細書で使用される「Fab」または「Fab領域」とは、VH、CH1、VL、及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、この領域を単独で、または完全長抗体、抗体断片、もしくはFab融合タンパク質の構成におけるこの領域を指し得る。本明細書で使用される「Fv」または「Fv断片」または「Fv領域」とは、単一抗体のVLドメイン及びVHドメインを含むポリペプチドを意味する。当業者に理解されるように、これらは一般に、2つの鎖で構成されている。
【0047】
本明細書で使用される「IgGサブクラス改変」または「アイソタイプ改変」とは、1つのIgGアイソタイプの1つのアミノ酸を、異なる、位置合わせされたIgGアイソタイプにおいて、対応するアミノ酸に変換するアミノ酸改変を意味する。例えば、EU位置296に、IgG1は、チロシンを含み、IgG2は、フェニルアラニンを含むため、IgG2におけるF296Y置換は、IgGサブクラス改変であると考えられる。
【0048】
本明細書で使用される「非自然発生改変」とは、アイソタイプではないアミノ酸改変を意味する。例えば、IgGのいずれも位置434にセリンを含まないため、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4(またはそのハイブリッド)における置換434Sは、非自然発生改変であると考えられる。
【0049】
本明細書で使用される「アミノ酸」及び「アミノ酸同一性」とは、DNA及びRNAによってコードされる自然発生する20個のアミノ酸のうちの1つを意味する。
【0050】
本明細書で使用される「エフェクター機能」とは、抗体Fc領域と、Fc受容体またはFcリガンドとの相互作用からもたらされる生化学的現象を意味する。エフェクター機能には、限定されないが、ADCC、ADCP、及びCDCが含まれる。
【0051】
本明細書で使用される「IgG Fcリガンド」とは、IgG抗体のFc領域に結合し、Fc/Fcリガンド複合体を形成する、任意の生物由来の分子、好ましくは、ポリペプチドを意味する。Fcリガンドには、限定されないが、FcγRI、FcγRII、FcγRIII、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、ブドウ球菌プロテインA、ブドウ球菌プロテインG、及びウイルスFcγRが含まれる。Fcリガンドは、FcγRに相同性のFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,2002,Immunological Reviews 190:123-136は参照により完全に組み込まれる)も含む。Fcリガンドには、Fcに結合する未発見分子を含み得る。特定のIgG Fcリガンドは、FcRn及びFcガンマ受容体である。本明細書で使用される「Fcリガンド」とは、抗体のFc領域に結合し、Fc/Fcリガンド複合体を形成する、任意の生物由来の分子、好ましくは、ポリペプチドを意味する。
【0052】
本明細書で使用される「Fcガンマ受容体」、「FcγR」、または「FcqammaR」は、IgG抗体のFc領域に結合するタンパク質ファミリーの任意のメンバーを意味し、FcγR遺伝子によってコードされる。ヒトにおいては、このファミリーには、限定されないが、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、及びFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131及びアロタイプR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1及びFcγRIIb-2を含む)、ならびにFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)、ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158及びアロタイプF158を含む)及びFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIb-NA1及びアロタイプFcγRIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57-65は参照により完全に組み込まれる)、ならびに任意の未発見のヒトFcγRまたはFcγRアイソフォームもしくはFcγRアロタイプが含まれる。FcγRは、任意の生物由来であってもよく、限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルが含まれる。マウスFcγRには、限定されないが、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、及びFcγRIII-2(CD16-2)、ならびに任意の未発見のマウスFcγRまたはFcγRアイソフォームもしくはFcγRアロタイプが含まれる。
【0053】
本明細書で使用される「FcRn」または「新生児型Fc受容体」は、IgG抗体のFc領域に結合するタンパク質を意味し、少なくとも一部がFcRn遺伝子によってコードされる。FcRnは、任意の生物由来であってもよく、限定されないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルが含まれる。当該技術分野で知られるように、機能性FcRnタンパク質は、2つのポリペプチドを含み、重鎖及び軽鎖と称されることが多い。軽鎖は、ベータ-2-ミクログロブリンであり、重鎖は、FcRn遺伝子によってコードされる。別段の記載がない限り、FcRnまたはFcRnタンパク質は、FcRn重鎖のベータ-2-ミクログロブリンとの複合体を指す。428L/434Sなど、本明細書に概要が記載されるように、様々なFcRn変異体が、FcRn受容体に対する結合の増加に使用され、場合によっては、血清半減期の増加に使用される。
【0054】
本明細書で使用される「親ポリペプチド」は、後に改変されて変異体を生成する出発ポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、自然発生するポリペプチド、または変異体、または自然発生するポリペプチドの操作された型であってよい。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指し得る。したがって、本明細書で使用される「親免疫グロブリン」とは、改変されて変異体を生成する未改変の免疫グロブリンポリペプチドを意味し、本明細書で使用される「親抗体」とは、改変されて変異体抗体を生成する未改変の抗体を意味する。「親抗体」は、以下に概要が記載されるように、既知の市販の組換え産生された抗体を含むことに留意するべきである。
【0055】
本明細書で使用される「Fc」または「Fc領域」または「Fcドメイン」は、第1の定常領域免疫グロブリンドメイン、及び場合によっては、ヒンジ部分を除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがって、Fcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、IgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにこれらのドメインに対する可動性のヒンジN末端を指す。IgA及びIgM向けに、Fcは、J鎖を含んでもよい。IgG向けに、Fcドメインは、免疫グロブリンドメインCγ2及びCγ3(Cγ2及びCγ3)、ならびにCγ1(Cγ1)とCγ2(Cγ2)との間の下位ヒンジ領域を含む。Fc領域の境界は、変わってもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、残基C226またはP230をそのカルボキシル末端に含むと定義され、番号付けは、Kabatにあるように、EUインデックスに従う。いくつかの実施形態では、以下により完全に記載されるように、アミノ酸改変がFc領域に対してなされることで、例えば、1つ以上のFcγR受容体に対する結合、またはFcRn受容体に対する結合が変更される。
【0056】
本明細書において、「重定常領域」とは、抗体のCH1-ヒンジ-CH2-CH3部分を意味する。
【0057】
本明細書において、「Fc融合タンパク質」または「イムノアドヘシン」は、一般に、本明細書に記載される、標的タンパク質に対する結合部分などの異なるタンパク質に連結(任意選択で、本明細書に記載されるリンカー部分を介する)される、Fc領域を含むタンパク質を意味する。場合によっては、ヘテロ二量体抗体の一方の単量体は、抗体重鎖(scFvを含むか、または軽鎖をさらに含むかのいずれか)を含み、もう一方の単量体はFc融合であり、変異体Fcドメイン及びリガンドを含む。いくつかの実施形態では、これらの「半抗体半融合タンパク質」は、「融合体」と呼ばれる。
【0058】
本明細書で使用される「位置」とは、タンパク質の配列における場所(location)を意味する。位置は、連続して番号付けされるか、または確立された形式に従ってもよく、例えば、抗体の番号付けのためのEUインデックスに従ってもよい。
【0059】
本明細書で使用される「標的抗原」とは、所与の抗体の可変領域によって特異的に結合される分子を意味する。標的抗原は、タンパク質、糖質、脂質、または他の化学化合物であってもよい。幅広い数の好適な標的抗原が以下に記載される。
【0060】
本明細書において、本発明のヘテロ二量体抗体の単量体の構成における「鎖性(strandedness)」とは、「適合」するDNAの2つの鎖(strand)と同様に、ヘテロ二量体化変異体が、「適合」してヘテロ二量体を形成する能力を保つように、それぞれの単量体へと取り込まれることを意味する。例えば、いくつかのpI変異体が、単量体Aへと操作導入されている(例えば、pIを高くする)場合、「電荷対」である立体変異体も利用することができ、pI変異体を妨害しない。例えば、pIを高くする電荷変異体を、同一「鎖」または同一「単量体」に加えることにより、両機能性が保たれる。同様に、以下により完全に概要が記載されるセットの対で起こる「歪曲」変異体については、当業者は、pI分離も歪曲のpIを使用して最大になるように、1セットの対を組み込む鎖または単量体のどれが機能するか決定するときにpIを考慮する。
【0061】
本明細書で使用される「標的細胞」は、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0062】
本明細書で使用される「可変領域」とは、カッパ、ラムダ、及び重鎖免疫グロブリンの遺伝子座位をそれぞれ構成するV.カッパ、V.ラムダ、及び/またはVH遺伝子のいずれかによって実質的にコードされる1つ以上のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。
【0063】
本明細書において、「野生型またはWT」は、天然においてみられるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味し、対立遺伝子変動を含む。WTタンパク質は、意図的に改変されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0064】
本発明の抗体は、一般に、単離されているか、または組換え体である。「単離された」が、本明細書に開示される様々なポリペプチドについての説明に使用されるとき、それが発現される細胞または細胞培養から、同定され、分離され、及び/または回収されたポリペプチドを意味する。通常、単離されたポリペプチドは、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。「組換え体」は、抗体が、外来宿主細胞において組換え核酸技術を使用して生成されることを意味する。
【0065】
「特異的結合」、または特定の抗原もしくはエピトープ「に特異的に結合する」、または特定の抗原もしくはエピトープ「に対して特異的」は、非特異的相互作用とは、測定可能な程に異なる結合を意味する。特異的結合は、例えば、一般に、結合活性を有さない類似構造の分子である対照分子の結合と比較した分子の結合を決定することによって、測定することができる。例えば、特異的結合は、標的に類似した対照分子との競合によって決定することができる。
【0066】
特定の抗原またはエピトープに対する特異的結合は、例えば、抗原またはエピトープに対して、抗体が、少なくとも約10~4M、少なくとも約10~5M、少なくとも約10~6M、少なくとも約10~7M、少なくとも約10~8M、少なくとも約10~9M、あるいは、少なくとも約10~10M、少なくとも約10~11M、少なくとも約10~12M以上のKDを有することによって示すことができ、KDは、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指す。典型的には、抗原を特異的に結合する抗体は、抗原またはエピトープに対して、対照分子が、20倍~、50倍~、100倍~、500倍~、1000倍~、5,000倍~、10,000倍~以上のKDを有する。
【0067】
また、特定の抗原またはエピトープに対する特異的結合は、例えば、対照に対して、抗体が、そのエピトープに対して、少なくとも20倍~、50倍~、100倍~、500倍~、1000倍~、5,000倍~、10,000倍~以上の、抗原またはエピトープに対するKAまたはKaを有することによって示すことができ、KAまたはKaは、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指す。
【0068】
II.概要
CD3及び腫瘍抗原標的を共捕捉する二重特異性抗体は、T細胞を再配向化して標的腫瘍細胞を攻撃し溶解するために、設計され使用されてきた。例には、CD3及び腫瘍抗原を一価で捕捉するBiTE及びDART形式が含まれる。CD3ターゲティング手法が相当な見込みを示した一方、そのような治療の共通の副作用は、サイトカインの関連する産生であり、毒性サイトカイン放出症候群につながることが多い。二重特異性抗体の抗CD3結合ドメインが、すべてのT細胞を捕捉するため、高サイトカイン産生CD4 T細胞サブセットが補充される。その上、CD4 T細胞サブセットは、制御性T細胞を含み、その補充及び拡大は、免疫抑制に潜在的につながり、長期の腫瘍抑制に悪影響を有し得る。さらに、これらの形式は、Fcドメインを含有せず、患者において非常に短い血清半減期を示す。
【0069】
CD3ターゲティング手法が相当な見込みを示した一方、そのような治療の共通の副作用は、サイトカインの関連する産生であり、毒性サイトカイン放出症候群につながることが多い。二重特異性抗体の抗CD3結合ドメインが、すべてのT細胞を捕捉するため、高サイトカイン産生CD4 T細胞サブセットが補充される。その上、CD4 T細胞サブセットは、制御性T細胞を含み、その補充及び拡大は、免疫抑制に潜在的につながり、長期の腫瘍抑制に悪影響を有し得る。サイトカイン産生を低下させ、かつCD4 T細胞の活性化をおそらく低下させる1つのそのような可能性のある方法は、CD3に対する抗CD3ドメインの親和性を低下させることによるものである。
【0070】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合する抗原結合ドメインと組み合わせて抗CD3抗原結合ドメインを含む抗体構築物を提供する。
【0071】
さらに、いくつかの実施形態では、抗CD3抗原結合ドメインは、CD3に対する「強」または「高親和性」結合体(例えば、1つの例は、H1.30_L1.47として示される重及び軽可変ドメインである(必要に応じて任意選択で荷電リンカーを含む))であり、PSMAにも結合する。他の実施形態では、本発明は、CD3に対する「軽(lite)」または「低親和性」結合体である抗CD3抗原結合ドメインを含む抗体構築物を提供する。追加の実施形態は、CD3に対して中間または「中」親和性を有し、PSMAにも結合する抗CD3抗原結合ドメインを含む抗体構築物を提供する。親和性は、一般に、Biacoreアッセイを使用して測定される。
【0072】
本発明の「高、中、低」抗CD3配列が、様々なヘテロ二量体化形式において使用され得ることを理解するべきである。本明細書の開示の大部分が、ヘテロ二量体の「ボトルオープナー」形式を使用する一方で、これらの可変重及び軽配列、ならびにscFv配列(ならびにこれらの可変重及び軽配列を含むFab配列)は、WO公開第2014/145806号の図2に示されるもの、参照により明確に本明細書に組み込まれる図、形式、及び説明文などの他の形式で使用され得る。
【0073】
したがって、本発明は、2つの異なる抗原に結合するヘテロ二量体抗体を提供し、例えば、その抗体は、本発明において2つの異なる標的抗原、例えば、CD3及びPSMAに結合するという点で「二重特異性」である。これらのヘテロ二量体抗体は、一価(例えば、可変重及び可変軽ドメインの対などの単一抗原結合ドメインがある)または二価(それぞれが独立して抗原に結合する2つの抗原結合ドメインがある)のいずれかでこれらの標的抗原に結合し得る。本発明のヘテロ二量体抗体は、以下により詳細に概要が記載されるように、ヘテロ二量体形成をホモ二量体形成より優先させるアミノ酸置換を含有する異なる単量体と、以下に同様に概要が記載されるように、ホモ二量体を除去するヘテロ二量体の単純な精製を可能にする「pI変異体」と組み合わせて使用することに基づく。本発明のヘテロ二量体二重特異性抗体に関して、本発明は、一般に、ヘテロ二量体タンパク質を産生するために産生細胞内で自己組織化し得る操作されたFcドメインまたは変異体Fcドメインの使用、及びそのようなヘテロ二量体タンパク質を生成し精製するための方法に依存する。
【0074】
III.抗体
本発明は、CD3及びPSMAに結合する二重特異性抗体、一般には、治療用抗体の生成に関する。以下に論じられるように、「抗体」という用語が、一般に使用される。本発明において用途を見出す抗体は、本明細書に記載されるいくつかの形式で使用でき、伝統的な抗体、ならびに以下に記載される抗体の誘導体、断片、及び模倣体が含まれる。
【0075】
伝統的な抗体構造単位は、典型的には、四量体を含む。それぞれの四量体は、典型的には、ポリペプチド鎖の2つの同一対からなり、それぞれの対が、1つの「軽」鎖(典型的には、約25kDaの分子量を有する)、及び1つの「重」鎖(典型的には、約50~70kDaの分子量を有する)を有する。ヒト軽鎖は、カッパ軽鎖及びラムダ軽鎖として分類される。本発明は、IgGクラスを対象とし、IgGクラスは、いくつかのサブクラスを有し、限定されないが、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が含まれる。IgG1は、356(DまたはE)及び358(LまたはM)に多型を有する、異なるアロタイプを有することに留意するべきである。本明細書に示される配列は、356D/358Mアロタイプを使用するが、他のアロタイプも本明細書に含まれる。すなわち、本明細書に含まれるIgG1 Fcドメインを含む任意の配列は、356D/358Mアロタイプを置き換える356E/358Lを有し得る。
【0076】
加えて、本明細書の配列の多くは、位置220に、セリンに置き換えられる少なくとも1つのシステインを有し、一般に、これは、本明細書に示される配列の大半に関して、ジスルフィド形成を低下させるために、「scFv単量体」側上にあるが、「Fab単量体」側またはその両方上にあってもよい。本明細書の配列内に具体的に含まれるものは、これらの置き換えられたシステイン(C220S)のうちの1つまたは両方である。
【0077】
したがって、本明細書で使用される「アイソタイプ」は、その定常領域の化学的及び抗原特徴によって定義される免疫グロブリンのサブクラスのいずれかを意味する。治療用抗体は、アイソタイプ及び/またはサブクラスのハイブリッドも含み得ることを理解するべきである。例えば、参照によって組み込まれる米国公開第2009/0163699号に示されるように、本発明は、IgG1/G2ハイブリッドのpI操作を含む。
【0078】
それぞれの鎖のアミノ末端部分は、抗原認識を第1に担う約100~110個以上のアミノ酸の可変領域を含み、可変領域は、一般に、当該技術分野及び本明細書において「Fvドメイン」または「Fv領域」と呼ばれる。可変領域では、3つのループが、重鎖及び軽鎖のVドメインのそれぞれのために集まり、抗原結合部位を形成する。ループのそれぞれは、相補性決定領域と称され(以後「CDR」と称される)、アミノ酸配列における変動が最も顕著である。「可変」は、可変領域のある特定のセグメントが、抗体間の配列において広く異なるという事実を指す。可変領域内の可変性は、均等に分布していない。その代わりに、V領域は、相対的に不変な区間からなり、この区間は、それぞれの長さが9~15個以上のアミノ酸である、「超可変領域」と呼ばれる極度に可変性の、より短い領域によって分離されている、15~30個のアミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。
【0079】
VH及びVLは、それぞれが3つの超可変領域(「相補性決定領域」、「CDR」)及び4つのFRから構成され、次の順序で、アミノ末端からカルボキシ末端へと配置される:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。
【0080】
超可変領域は、軽鎖可変領域における約アミノ酸残基24~34(LCDR1;「L」は軽鎖を示す)、50~56(LCDR2)、及び89~97(LCDR3)、ならびに重鎖可変領域におけるおよそ約31~35B(HCDR1;「H」は、重鎖を示す)、約50~65(HCDR2)、及び約95~102(HCDR3)のアミノ酸残基;Kabat et al.,SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)、ならびに/または超可変ループを形成するそうした残基(例えば、軽鎖可変領域における残基26~32(LCDR1)、50~52(LCDR2)、及び91~96(LCDR3)、ならびに重鎖可変領域における26~32(HCDR1)、53~55(HCDR2)、及び96~101(HCDR3);Chothia and Lesk(1987)J.Mol.Biol.196:901-917、由来のアミノ酸残基を包含することが一般的である。本発明の特定のCDRは、以下に記載される。
【0081】
当業者に理解されるように、CDRの正確な番号付け及び配置は、異なる番号付けシステム間で異なり得る。しかしながら、可変重及び/または可変軽配列の開示は関連するCDRの開示を含むことを理解するべきである。したがって、それぞれの可変重領域の開示は、vhCDR(例えば、vhCDR1、vhCDR2、及びvhCDR3)の開示であり、それぞれの可変軽領域の開示は、vlCDR(例えば、vlCDR1、vlCDR2、及びvlCDR3)の開示である。
【0082】
本明細書を通して、可変ドメイン(およそ、軽鎖可変領域の残基1~107、及び重鎖可変領域の残基1~113)における残基を指すときは、Kabat番号付けシステム、Fc領域についてはEU番号付けシステムが一般に使用される(例えば、Kabat et al.,上記(1991))。
【0083】
本発明は、多数の異なるCDRのセットを提供する。この場合、「完全なCDRのセット」は、3つの可変軽CDR及び3つの可変重CDR、例えば、vlCDR1、vlCDR2、vlCDR3、vhCDR1、vhCDR2、及びvhCDR3を含む。これらは、それぞれより大きい可変軽または可変重ドメインの一部であり得る。加えて、より完全に本明細書に概要が記載されるように、可変重及び可変軽ドメインは、重鎖及び軽鎖が使用される場合(例えば、Fabが使用される場合)別個のポリペプチド鎖上に、またはscFv配列の場合は単一ポリペプチド鎖上にあり得る。
【0084】
CDRは、抗原結合の形成、またはより具体的には、抗体のエピトープ結合部位の形成に寄与する。「エピトープ」は、パラトープとして知られる、抗体分子の可変領域における特定抗原結合部位と相互作用する決定基を指す。エピトープは、アミノ酸または糖側鎖などの分子の分類であり、通常、特定の構造特徴、及び特定の電荷特徴を有する。単一抗原が2つ以上のエピトープを有してもよい。
【0085】
エピトープは、結合に直接関与するアミノ酸残基(エピトープの免疫優性成分とも呼ばれる)、及び特異的な抗原結合ペプチドによって、効果的に遮断されるアミノ残基などの、結合に直接関与しない他のアミノ酸残基を含んでもよい。換言すれば、このアミノ酸残基は、特異的な抗原結合ペプチドのフットプリントの範疇である。
【0086】
エピトープは、立体構造的、または直線的のいずれでもよい。立体構造的エピトープは、空間的に並置されたアミノ酸によって、直線的ポリペプチド鎖の異なるセグメントから産生される。直線的エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接アミノ酸残基によって産生されるものである。立体的及び非立体的エピトープは、前者に対する結合であって、後者に対するものではない結合が、変性溶媒の存在下で消失するという点で区別されてもよい。
【0087】
エピトープは、特有の空間的立体構造において、典型的には少なくとも3個、より典型的には、少なくとも5または8~10個のアミノ酸を含む。同じエピトープを認識する抗体は、1つの抗体が、標的抗原に対する別の抗体の結合を遮断する能力を示す単純なイムノアッセイ、例えば、「ビニング(binning)」において検証することができる。
【0088】
それぞれの鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能を第1に担う定常領域を定義する。Kabatらは、重鎖及び軽鎖の可変領域の多数の一次配列を収集した。配列保存の程度に基づき、彼らは、個々の一次配列をCDR及びフレームワークへと分類し、その一覧を作成した(SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,5th edition,NIH publication,No.91-3242,E.A.Kabat et al.を参照のこと。参照により完全に組み込まれる)。
【0089】
免疫グロブリンのIgGサブクラスでは、重鎖において、いくつかの免疫グロブリンドメインが存在する。本明細書において、「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、明確に異なる三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本発明における対象は、定常重(CH)ドメイン及びヒンジドメインを含む重鎖ドメインにある。IgG抗体の構成では、IgGアイソタイプは、それぞれが3つのCH領域を有する。したがって、IgGの構成における「CH」ドメインは、次のとおりである。「CH1」は、Kabatにあるように、EUインデックスに従う位置118~220を指す。「CH2」は、Kabatにあるように、EUインデックスに従う位置237~340を指し、「CH3」は、Kabatにあるように、EUインデックスに従う位置341~447を指す。本明細書に示され、以下に記載されるように、pI変異体は、以下に論じられるCH領域のうちの1つ以上、及びヒンジ領域にあり得る。
【0090】
本明細書に示される配列は、位置118であるCH1領域から始まり、別段の記載がない限り、可変領域は含まれないことに留意するべきである。例えば、配列番号2の第1のアミノ酸は、配列一覧表で、位置「1」であると指定されるが、EU番号付けに従うCH1領域の位置118に対応する。
【0091】
重鎖のIgドメインの別の型は、ヒンジ領域である。本明細書において、「ヒンジ」または「ヒンジ領域」または「抗体ヒンジ領域」または「免疫グロブリンヒンジ領域」とは、抗体の第1の定常ドメイン及び第二定常ドメインの間にアミノ酸を含む可動性ポリペプチドを意味する。構造的に、IgG CH1ドメインは、EU位置220で終了し、IgG CH2ドメインは、残基EU位置237から始まる。したがって、IgGに関して、抗体ヒンジは、本明細書において、位置221(IgG1においてD221)~236(IgG1においてG236)を含むように定義され、番号付けは、Kabatにあるように、EUインデックスに従う。いくつかの実施形態では、例えば、Fc領域の構成において、下位ヒンジが含まれ、「下位ヒンジ」は、一般に、位置226または230を指す。本明細書に留意されるように、pI変異体は、ヒンジ領域においても作製することができる。
【0092】
軽鎖は、一般に、2つのドメイン、可変軽ドメイン(Fv領域を形成する可変重ドメインと共に軽鎖CDRを含む)、及び定常軽鎖領域(CLまたはCκと称されることが多い)を含む。
【0093】
以下に概要が記載される、追加の置換に関する別の関心領域は、Fc領域である。
【0094】
したがって、本発明は、異なる抗体ドメインを提供する。本明細書に記載され、当該技術分野で知られるように、本発明のヘテロ二量体抗体は、重鎖及び軽鎖内に異なるドメインを含み、そのドメインはまた、重複し得る。これらのドメインには、限定されないが、Fcドメイン、CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、ヒンジドメイン、重定常ドメイン(CH1-ヒンジ-FcドメインまたはCH1-ヒンジ-CH2-CH3)、可変重ドメイン、可変軽ドメイン、軽定常ドメイン、FAbドメイン、及びscFvドメインが含まれる。
【0095】
したがって、「Fcドメイン」は、-CH2-CH3ドメイン、及び任意選択でヒンジドメインを含む。本明細書の実施形態では、scFvがFcドメインに結合されるとき、それは、Fcドメインのヒンジに結合されるscFv構築物のC末端であり、例えば、それは、一般に、ヒンジの最初の配列EPKSに結合される。重鎖は、可変重ドメイン及び定常ドメインを含み、CH2-CH3を含むCH1-任意選択のヒンジ-Fcドメインを含む。軽鎖は、可変軽鎖及び軽定常ドメインを含む。scFvは、可変重鎖、scFvリンカー、及び可変軽ドメインを含む。本明細書に概要が記載される構築物及び配列の大半において、可変軽鎖のC末端は、scFvリンカーのN末端に結合され、そのC末端は、可変重鎖のN末端に結合される(N-vh-リンカー-vl-C)が、それは交換されてもよい(N-vl-リンカー-vh-C)。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態は、自然に発生しないが、一般に、scFvリンカーによって一緒に連結される可変重ドメイン及び可変軽ドメインを含む少なくとも1つのscFvドメインを含む。本明細書に示されるように、使用され得るいくつかの好適なscFvリンカーがあり、それらのリンカーは、組換え技術によって生成される伝統的なペプチド結合を含む。
【0097】
リンカーペプチドは、次のアミノ酸残基を主に含み得る:Gly、Ser、Ala、またはThr。リンカーペプチドは、2つの分子を連結するために適切な長さを有するべきであり、そのようにして、それらは、お互いに対して正しい立体構造をとり、その結果、それらは、所望の活性を保持する。一実施形態では、リンカーは、長さが約1~50個のアミノ酸、好ましくは、長さが約1~30個のアミノ酸である。一実施形態では、長さが1~20個のアミノ酸であるリンカーを、いくつかの実施形態では用途を見出す約5~約10個のアミノ酸と共に使用してもよい。有用なリンカーには、グリシン-セリン重合体、例えば、(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、及び(GGGS)n(ここで、nは、少なくとも1(及び一般に3~4)の整数である)、グリシン-アラニン重合体、アラニン-セリン重合体、ならびに他の可動性リンカーが含まれる。あるいは、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの共重合体を含む様々な非タンパク質性の重合体が、リンカーとして用途を見出すことができ、すなわち、リンカーとして用途を見出すことができる。
【0098】
他のリンカー配列は、CL/CH1ドメインのすべての残基ではないが、CL/CH1ドメインの任意の長さの任意の配列を含んでもよく、例えば、CL/CH1ドメインの最初の5~12個のアミノ酸残基を含んでよい。リンカーは、免疫グロブリン軽鎖由来であり得、例えば、CκまたはCλである。リンカーは、任意のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖由来であり得、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cα1、Cα2、Cδ、Cε、及びCμが含まれる。リンカー配列は、Ig様タンパク質(例えば、TCR、FcR、KIR)、ヒンジ領域由来の配列、及び他のタンパク質由来の他の天然の配列などの他のタンパク質由来であってもよい。
【0099】
いくつかの実施形態では、リンカーは、本明細書に一緒に概要が記載される任意の2つのドメインを連結させるために使用される「ドメインリンカー」である。任意の好適なリンカーが使用され得るが、多くの実施形態は、グリシン-セリン重合体を利用し、このグリシン-セリン重合体には、例えば、(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、及び(GGGS)n(ここで、nは、少なくとも1(及び一般に3~4~5)の整数である)、ならびに2つのドメインの組換え付加を可能にする任意のペプチド配列が含まれ、この2つのドメインは、各ドメインがその生物学的機能を保持することを可能にするのに十分な長さ及び可動性を有する。。場合によっては、以下に概要が記載されるように「鎖性」に注目すると、scFvリンカーのいくつかの実施形態において使用されるように、荷電ドメインリンカーが使用され得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、scFvリンカーは、荷電scFvリンカーであり、そのいくつかが、図14に示される。したがって、本発明は、第1の単量体と第2の単量体との間でpIにおける分離を促進するために荷電scFvリンカーをさらに提供する。すなわち、荷電scFvリンカーを組み込むことによって、正であっても、負であっても(あるいは異なる単量体上でscFvを使用する骨格の場合は両方)、これは、荷電リンカーを含む単量体が、Fcドメインをさらに変更することなくpIを変えることを可能にする。これらの荷電リンカーは、標準リンカーを含有するあらゆるscFvに置換されることができる。かさねて、当業者によって理解されるように、荷電scFvリンカーは、pIにおける所望の変更に従って、正しい「鎖」または単量体上で使用される。例えば、本明細書で論じられるように、三重F形式のヘテロ二量体抗体を作製するために、所望の抗原結合ドメインのそれぞれについてのFv領域の最初のpIが計算され、1つがscFvを作製するために選択され、pIによって、正または負のリンカーいずれかが選択される。
【0101】
荷電ドメインリンカーはまた、本発明の単量体のpI分離を増加させるためにも使用することができ、したがって、図14に含まれるものは、リンカーが利用される本明細書のいずれの実施形態においても使用することができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、抗体は、完全長である。本明細書において、「完全長抗体」とは、抗体の天然の生物学的形態を構成する構造を意味し、特にホモ二量体を除去してヘテロ二量体化形成またはヘテロ二量体の精製のいずれかを可能にするためにFcドメインに、以下に概要が記載される1つ以上の改変を含む可変及び定常領域を含む。完全長抗体は、一般に、Fab及びFcドメインを含み、図1に一般に示されるように、scFvなどの余分な抗原結合ドメインをさらに含有し得る。
【0103】
一実施形態では、抗体は、抗体断片であり、それが、pI操作などで、ヘテロ二量体を産生するように操作され得る少なくとも1つの定常ドメインを含む場合に限られる。使用することができる他の抗体断片には、pIが操作される、本発明のCH1、CH2、CH3、ヒンジ、及びCLドメインのうちの1つ以上を含有する断片が含まれる。例えば、Fc融合体は、Fc領域(CH2及びCH3、任意選択でヒンジ領域を有する)が別のタンパク質に融合した融合体である。いくつかのFc融合体が、当該技術分野で知られており、本発明のヘテロ二量体化変異体の付加によって改良することができる。この場合、抗体融合体を、CH1と、CH1、CH2、及びCH3と、CH2と、CH3と、CH2及びCH3と、CH1及びCH3と、を含めて作製することができ、それらのいずれか、またはすべてを、本明細書に記載されるヘテロ二量体化変異体のいずれかの組み合わせを利用して、任意選択でヒンジ領域を含めて作製することができる。
【0104】
具体的には、図1に示される形式は、通常「ヘテロ二量体抗体」と呼ばれる抗体であり、タンパク質が、ヘテロ二量体Fcドメインに自己組織化される少なくとも2つの関連Fc配列を有することを意味する。
【0105】
キメラ及びヒト化抗体
いくつかの実施形態では、抗体は、異なる種由来の混合物であり得、例えば、キメラ抗体及び/またはヒト化抗体である。一般に、「キメラ抗体」及び「ヒト化抗体」の両方が、2つ以上の種由来の領域を組み合わせる抗体を指す。例えば、「キメラ抗体」は、伝統的に、マウス(または場合によってはラット)由来の可変領域(複数可)、及びヒト由来の定常領域(複数可)を含む。「ヒト化抗体」は、一般に、ヒト抗体においてみられる配列と交換された可変ドメインフレームワーク領域を有する非ヒト抗体を指す。一般に、ヒト化抗体では、CDRを除き、抗体全体が、ヒト起源のポリヌクレオチドによってコードされるか、またはそのCDR内は除いて、そのような抗体と同一である。CDRのいくつか、またはすべては、非ヒト生物起源の核酸によってコードされており、抗体を創出するためにヒト抗体可変領域のベータシートフレームワークへ移植され、その特異性は、移植されたCDRによって決定される。そのような抗体の創出は、例えば、WO92/11018、Jones,1986,Nature 321:522-525、Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534-1536において説明されており、これらはすべて、参照により完全に組み込まれる。対応するドナー残基に対して選択されたアクセプターフレームワーク残基の「復帰突然変異(Backmutation)」が、初期移植構築物において消失した親和性を回復するために必要であることが多い(US5530101、US5585089、US5693761、US5693762、US6180370、US5859205、US5821337、US6054297、US6407213、これらはすべて、参照により完全に組み込まれる)。ヒト化抗体は、免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も最適に含み、これは、典型的には、ヒト免疫グロブリンのものであり、したがって、典型的には、ヒトFc領域を含む。ヒト化抗体は、遺伝学的に操作された免疫系を有するマウスを使用して生成させることもできる。Roque et al.,2004,Biotechnol.Prog.20:639-654が、参照により完全に組み込まれる。非ヒト抗体のヒト化及び再形成のための様々な技術及び方法が、当該技術分野でよく知られている(Tsurushita&Vasquez,2004,Humanization of Monoclonal Antibodies,Molecular Biology of B Cells,533-545,Elsevier Science(USA)、及びそこで引用される参照文献を参照のこと。これらはすべて、参照により完全に組み込まれる)。ヒト化の方法には、限定されないが、Jones et al.,1986,Nature 321:522-525、Riechmann et al.,1988、Nature 332:323-329、Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534-1536、Queen et al.,1989,Proc Natl Acad Sci,USA 86:10029-33、He et al.,1998,J.Immunol.160:1029-1035、Carter et al.,1992,Proc Natl Acad Sci USA 89:4285-9,Presta et al.,1997,Cancer Res.57(20):4593-9、Gorman et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4181-4185、O’Connor et al.,1998,Protein Eng 11:321-8において説明される方法が含まれ、これらはすべて、参照により完全に組み込まれる。非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低下させるヒト化または他の方法には、例えば、Roguska et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:969-973において説明されるような表面再構成法(resurfacing method)が含まれ、参照により完全に組み込まれる。
【0106】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体は、特定の生殖系列重鎖免疫グロブリン遺伝子由来の重鎖可変領域及び/または特定の生殖系列軽鎖免疫グロブリン遺伝子由来の軽鎖可変領域を含む。例えば、そのような抗体は、特定の生殖系列配列の「産物」または「由来」の重鎖もしくは軽鎖可変領域を含むヒト抗体を含むか、またはそれからなり得る。ヒト生殖系列免疫グロブリン配列の「産物」または「由来」のヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をヒト生殖系列免疫グロブリンのアミノ酸配列と比較し、ヒト抗体の配列に対して配列が最も近い(すなわち、最大同一性%)ヒト生殖系列免疫グロブリン配列を選択することによって、そのように特定することができる。特定のヒト生殖系列免疫グロブリン配列の「産物」または「由来」のヒト抗体は、例えば、自然発生する体細胞変異または部位特異的変異の意図的な導入により、生殖系列配列と比較したときにアミノ酸差異を含有し得る。しかしながら、ヒト化抗体は、典型的には、アミノ酸配列において、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも90%同一であり、他の種の生殖系列免疫グロブリンアミノ酸配列(例えば、マウス生殖系列配列)と比較したときに、抗体がヒト配列由来であると特定するアミノ酸残基を含有する。ある特定の場合では、ヒト化抗体は、アミノ酸配列において、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列に対して少なくとも95、96、97、98、もしくは99%、またはさらには少なくとも96%、97%、98%、もしくは99%同一であり得る。典型的には、特定のヒト生殖系列配列由来のヒト化抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列とは10~20個以下のアミノ酸差異を示す(任意の歪曲の導入前の、本明細書のpI及び消去変異体、すなわち、本発明の変異体の導入前には、変異体の数が一般に低い)。ある特定の場合では、ヒト化抗体は、生殖系列免疫グロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列とは5個以下、またはさらには4、3、2、もしくは1個以下のアミノ酸差異を示し得る(同様に、任意の歪曲の導入前の、本明細書のpI及び消去変異体、すなわち、本発明の変異体の導入前には、変異体の数が一般に低い)。
【0107】
一実施形態では、親抗体は、親和性が成熟しており、当該技術分野で知られるとおりである。構造に基づく方法が、ヒト化及び親和性の成熟に用いられてもよく、例えば、USSN11/004,590において記載されるとおりである。ヒト化及び/または抗体可変領域の親和性成熟のために、選択に基づく方法が用いられてもよく、限定されないが、Wu et al.,1999,J.Mol.Biol.294:151-162、Baca et al.,1997,J.Biol.Chem.272(16):10678-10684、Rosok et al.,1996,J.Biol.Chem.271(37):22611-22618、Rader et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:8910-8915、Krauss et al.,2003,Protein Engineering 16(10):753-759において説明される方法が含まれ、これらはすべて、参照により完全に組み込まれる。他のヒト化方法は、CDRの一部のみの移植を伴うものでもよく、限定されないが、USSN09/810,510、Tan et al.,2002,J.Immunol.169:1119-1125、De Pascalis et al.,2002,J.Immunol.169:3076-3084に記載される方法が含まれ、これらはすべて、参照により完全に組み込まれる。
【0108】
IV.ヘテロ二量体抗体
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、ヘテロ二量体抗体を形成するために自己組織化する2つの異なる重鎖変異体Fcドメインの使用に依存するヘテロ二量体抗体を提供する。
【0109】
本発明は、例えば、二重特異性結合を可能にするために、2つ以上の抗原またはリガンドへの結合を可能にするヘテロ二量体抗体を提供するための新規構築物を対象とする。ヘテロ二量体抗体構築物は、抗体の重鎖の2つのFcドメイン、例えば、「二量体」に組織化する2つの「単量体」の自己組織化の性質に基づく。ヘテロ二量体抗体は、以下により完全に論じられる各単量体のアミノ酸配列を変えることによって作製される。したがって、本発明は、一般に、いくつかの方法で、抗原を共捕捉することができるヘテロ二量体抗体の創出を対象とし、それぞれの鎖で異なる、定常領域のアミノ酸変異体に依存することで、ヘテロ二量体形成が促進され、かつ/またはホモ二量体よりもヘテロ二量体精製を容易にすることが可能となる。
【0110】
したがって、本発明は、二重特異性抗体を提供する。抗体技術における進行中の問題は、2つの異なる抗原に同時に結合し、一般に、そのようにして、異なる抗原を近接させることを可能にし、新しい機能性及び新しい治療をもたらす「二重特異性」抗体が、所望されていることである。一般に、こうした抗体は、重鎖及び軽鎖それぞれの遺伝子を宿主細胞へと含めることによって作製される。これにより、一般に、所望のヘテロ二量体(A-B)、ならびに2つのホモ二量体(A-A及びB-B(軽鎖ヘテロ二量体の問題を含まない))の形成がもたらされる。しかしながら、二重特異性抗体形成における主な障壁は、ヘテロ二量体抗体を精製してホモ二量体抗体を除去すること、及び/またはホモ二量体形成を上回るようにヘテロ二量体形成に偏らせることが困難であるということである。
【0111】
本発明のヘテロ二量体を生成するために使用することができる機構がいくつか存在する。加えて、当業者によって理解されるように、こうした機構は、高いヘテロ二量体化を確実にするために組み合わせることができる。したがって、ヘテロ二量体の産生につながるアミノ酸変異体は、「ヘテロ二量体化変異体」と称される。以下に論じられるように、ヘテロ二量体化変異体は、立体変異体(例えば、以下に記載される「ノブアンドホール」または「歪曲」変異体、及び以下に記載される「電荷対」変異体)、及びヘテロ二量体を除去してホモ二量体の精製を可能にする「pI変異体」を含み得る。その全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/145806に一般に記載されるように、また具体的に「ヘテロ二量体化変異体」の議論について以下のように、ヘテロ二量体化の有用な機構には、「ノブアンドホール」(「KIH」、時折、本明細書において「歪曲」変異体として(WO2014/145806の議論参照)、WO2014/145806に記載される「静電操縦」または「電荷対」、WO2014/145806に記載されるpI変異体、及びWO2014/145806及び以下に概要が記載される一般的な追加のFc変異体が含まれる。
【0112】
本発明において、ヘテロ二量体抗体の精製を容易にすることができるいくつかの基礎的な機構が存在する。すなわち、pI変異体の使用に依存し、その結果、単量体は、それぞれが異なるpIを有し、そうすることで、A-A、A-B、及びB-B二量体タンパク質の等電点精製を可能にするものである。あるいは、「三重F」形式などのいくつかの骨格形式は、サイズに基づく分離も可能にする。以下にさらに概要が記載されるように、ヘテロ二量体形成が、ホモ二量体を上回るようにする「歪曲」も可能である。したがって、立体二量体化変異体、及びpIまたは電荷対変異体の組み合わせは、本発明において、特定の用途を見出す。
【0113】
一般に、本発明において特に使用される実施形態は、歪曲変異体を含む変異体のセットに依存し、この変異体は、2つの単量体の間でpI差異を増加させるpI変異体と組み合わせて使用するホモ二量体化形成よりもヘテロ二量体化の形成を促す。
【0114】
加えて、以下に、より完全に概要が記載されるように、ヘテロ二量体抗体の形式に応じて、pI変異体は、単量体の定常及び/またはFcドメイン内のいずれかに含有され得るか、あるいはドメインリンカーまたはscFvリンカーのいずれかである荷電リンカーが使用され得る。すなわち、三重F形式などのscFv(複数可)を利用する骨格は、精製目的のため、さらなるpIの増大を与える荷電scFvリンカー(正か負のいずれか)を含むことができる。当業者により理解されるように、三重F形式によっては、荷電scFvリンカーのみを有し、追加のpI調整無しでも有用であるが、本発明は、単量体のうちの1つまたは両方にあるpI変異体、及び/または荷電ドメインリンカーも提供する。加えて、代替機能性のために操作する追加のアミノ酸はまた、Fc、FcRn、及びKO変異体などのpIの変更も付与し得る。
【0115】
ヘテロ二量体タンパク質の精製を可能にする分離機構としてpIを利用する本発明において、アミノ酸変異体は、単量体ポリペプチドのうちの1つまたは両方に導入され得る、すなわち、単量体(本明細書において、単純化のため「単量体A」と称される)のうちの1つのpIが、単量体Bから離れるように操作され得るか、または単量体A及びBの両方の変更が変更され得、単量体AのpIは増加し、単量体BのpIは減少する。以下に、より完全に概要が記載されるように、単量体のいずれか、または両方のpIの変更は、荷電残基を除去もしくは追加(例えば、中性アミノ酸は、正もしくは負に荷電したアミノ酸残基によって、例えば、グリシンからグルタミン酸に置き換えられる)するか、荷電残基を正もしくは負から反対の電荷へと変更(アスパラギン酸からリジンへ)するか、または荷電残基を中性残基へと変更(例えば、リジンからセリンへの荷電の消失)することによって実施することができる。いくつかのこうした変異体が、図に示される。
【0116】
したがって、本発明のこの実施形態は、単量体のうちの少なくとも1つにおいて、pIの十分な変更の創出を提供し、その結果、ヘテロ二量体は、ホモ二量体から分離され得る。当業者により理解されるように、そして、以下にさらに論じられるように、これは、「野生型」重鎖定常領域と、そのpIが増加もしくは減少(wt A-+Bもしくはwt A- -B)のいずれかとなるように操作された変異体領域と、を使用することによって、または一方の領域を増加し、もう一方の領域を減少させること(A+ -B-もしくはA- B+)によって実施され得る。
【0117】
したがって、一般に、本発明のいくつかの実施形態の成分は、抗体の定常領域におけるアミノ酸変異体であり、このアミノ酸変異体は、アミノ酸置換(「pI変異体」または「pI置換」)を単量体のうちの1つまたは両方に組み込むことによって、「pI抗体」)を形成するために、二量体タンパク質の単量体の両方か、もし両方でない場合、少なくとも1つの等電点(pI)を変えることに向けられる。本明細書で示されるように、2つのホモ二量体からのヘテロ二量体の分離は、2つの単量体のpIが、わずか0.1pH単位でも異なれば達成することができ、0.2、0.3、0.4、及び0.5以上の差異は、すべて本発明において用途を見出す。
【0118】
当業者により理解されるように、良好な分離を得るために単量体のそれぞれまたは両方に含まれるpI変異体の数は、成分の出発pI、例えば、三重F形式で、対象のscFv及びFabの出発pIに依存する部分があるであろう。すなわち、どの単量体を操作するか、またはどの「方向」(例えば、より正、もしくはより負)にするかを決定するために、2つの標的抗原のFv配列が計算され、そこから決定がなされる。当該技術分野で知られるように、異なるFvであれば、本発明で活用される異なる出発pIを有する。一般に、本明細書に概要が記載されるように、pIが操作されることにより、それぞれの単量体で、少なくとも約0.1logの総pI差異がもたらされ、本明細書に概要が記載されるように総pI差異は、0.2~0.5であることが好ましい。
【0119】
さらに、当業者により理解され、本明細書に概要が記載されるように、いくつかの実施形態では、ヘテロ二量体は、サイズに基づいてホモ二量体から分離することができる。例えば図1に示されるように、形式のいくつかは、サイズに基づくヘテロ二量体及びホモ二量体の分離を可能にする。
【0120】
pI変異体が、重鎖(複数可)の定常領域(複数可)を使用することによって、ヘテロ二量体化を達成するために使用される場合は、抗体を含む二重特異性タンパク質の設計及び精製に対する、よりモジュール型の手法が提供される。したがって、いくつかの実施形態では、ヘテロ二量体化変異体(歪曲及び精製ヘテロ二量体化変異体を含む)は、可変領域に含まれておらず、その結果、個々の抗体は、それぞれ操作されなければならない。加えて、いくつかの実施形態では、pI変異体からもたらされる免疫原性の可能性は、異なるIgGアイソタイプ由来のpI変異体を移入することによって、著しく低下し、その結果、pIは、著しい免疫原性を導入することなく変更される。したがって、解決すべきさらなる問題は、ヒト配列含量が高い低pI定常ドメインの解明であり、例えば、任意の特定位置における非ヒト残基の最小化または回避である。
【0121】
このpI操作で起こり得る付帯利点は、血清半減期の延長及びFcRn結合の増加でもある。すなわち、USSN13/194,904に記載されるように(参照によりその全体が組み込まれる)、抗体定常ドメイン(抗体及びFc融合体においてみられるものを含む)のpIを下げることは、インビボにおける血清保持の長期化につながり得る。血清半減期の増加のための、こうしたpI変異体によって、精製のためのpIの変更も促進される。
【0122】
加えて、ホモ二量体が存在する場合に、排除、最小化、及び区別するいずれかの能力が顕著であるため、ヘテロ二量体化変異体のpI変異体が、二重特異性抗体の分析論及び品質管理工程のための追加の利点をもたらすことに留意するべきである。同様に、ヘテロ二量体抗体産生の再現性を確実に試験する能力が重要である。
【0123】
ヘテロ二量体化変異体
本発明は、ホモ二量体を除去してヘテロ二量体形成及び/または精製を可能にするためにヘテロ二量体変異体を利用する様々な形式のヘテロ二量体抗体を含む、ヘテロ二量体タンパク質を提供する。
【0124】
いくつかの好適なヘテロ二量体化歪曲変異体のセットの対がある。これらの変異体は、「セット」の「対」で起こる。すなわち、対の一方のセットは、第1の単量体に組み込まれ、対のもう一方のセットは、第2の単量体に組み込まれる。これらのセットは、一方の単量体上の残基ともう一方の単量体上の残基との間の1対1の対応を有する「ノブインホール」変異体として必ずしも機能せず、すなわち、これらの対のセットは、ヘテロ二量体形成を促し、ホモ二量体形成を防止する2つの単量体の間で境界面を形成し、生物学的条件下で自発的に形成するヘテロ二量体のパーセンテージが、予想された50%よりもむしろ90%を超えることを可能にする(25%のホモ二量体A/A:50%のヘテロ二量体A/B:25%のホモ二量体B/B)ことに留意するべきである。
【0125】
立体変異体
いくつかの実施形態では、ヘテロ二量体の形成は、立体変異体の追加によって促進され得る。すなわち、それぞれの重鎖におけるアミノ酸を変更することによって、同一Fcアミノ酸配列を有するホモ二量体の形成と比較して、異なる重鎖が、会合してヘテロ二量体構造を形成する可能性が高くなる。好適な立体変異体は、図10に含まれる。
【0126】
1つの機構は、当該技術分野において、「ノブアンドホール」と一般に称されるものであり、立体的な影響を創出し、ヘテロ二量体形成に有利に働き、ホモ二量体形成を抑制するアミノ酸操作を指し、任意選択で使用することもできる。これは、「ノブアンドホール」と称されることがあり、USSN61/596,846,Ridgway et al.,Protein Engineering 9(7):617(1996)、Atwell et al.,J.Mol.Biol.1997 270:26、米国特許第8,216,805号に記載されるとおりであり、これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。図によっていくつかの「ノブアンドホール」に依存する「単量体A-単量体B」の対が特定されている。加えて、Merchant et al.,Nature Biotech.16:677(1998)に記載されるように、こうした「ノブアンドホール」変異は、ジスルフィド結合と組み合わせて、形成をヘテロ二量体化へと歪曲することができる。
【0127】
ヘテロ二量体の生成に用途を見出すさらなる機構は、「静電操縦」と称されることがあり、Gunasekaran et al.,J.Biol.Chem.285(25):19637(2010)に記載されるとおりであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。これは、本明細書で「電荷対」と称されることがある。この実施形態では、静電気が、形成をヘテロ二量体化へと歪曲するために使用される。当業者であれば、これらは、pIに対しても効果を有し得、そうすることで、精製に対しても効果を有し得、したがって、場合によっては、pI変異体であり得るとも考えられることを理解するであろう。しかしながら、これらは、ヘテロ二量体化を押し進めるために生成され、精製手段としては使用されなかったため、それらは、「立体変異体」として分類される。これらには、限定されないが、D221R/P228R/K409Rと対であるD221E/P228E/L368E(例えば、これらは、「単量体が対応するセットである)及びC220R/E224R/P228R/K409Rと対であるC220E/P228E/368Eが含まれる。
【0128】
追加の単量体A及び単量体B変異体を、本明細書に概要が記載されるpI変異体、またはUS2012/0149876の図37に示される他の立体変異体などの他の変異体と、任意選択かつ独立して、任意の量で、組み合わせることができる。この特許文献の図及び説明文ならびに配列番号は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0129】
いくつかの実施形態では、本明細書に概要が記載される立体変異体を、任意のpI変異体(またはFc変異体、FcRn変異体などの他の変異体)と共に1つまたは両方の単量体に、任意選択かつ独立して、組み込むことができ、本発明のタンパク質を独立かつ任意選択で含む、またはそれから除外することができる。
【0130】
好適な歪曲変異体の一覧は、図10にみられ、併せて図15は、多くの実施形態における特定の有用性のいくつかの対を示す。多くの実施形態における特定用途には、限定されないが、を含むセットの対である、特に好ましい立体変異体対には、限定されないが、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411E/K360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、K370S:S364K/E357Q、及びS364K/E357Q:L368D/K370Sが含まれる。命名法の点から、対「S364K/E357Q:L368D/K370S」は、単量体の一方が二重変異体セットS364K/E357Qを有し、もう一方が二重変異体セットL368D/K370Sを有することを意味する。
【0131】
ヘテロ二量体のpI(等電点)変異体
一般に、当業者に理解されるように、pI変異体には2つの一般的なカテゴリー:タンパク質のpIを増加させるもの(塩基性の変更)、及びタンパク質のpIを減少させるもの(酸性の変更)が存在する。本明細書に記載されるように、これらの変異体の組み合わせはすべて実施することができる、すなわち、一方の単量体が、野生型、または野生型と顕著に異なるpIを示さない変異体であり得、他方は、より塩基性、またはより酸性であり得る。あるいは、それぞれの単量体が、1つは、より塩基性へ、1つは、より酸性へと変更される。
【0132】
pI変異体の好ましい組み合わせは図11に示される。本明細書に概要が記載され、図に示されるように、こうした変更は、IgG1に対して示されるが、すべてのアイソタイプ及びアイソタイプハイブリッドを、このように変えることができる。重鎖定常ドメインが、IgG2~4由来である場合は、R133E及びR133Qも使用することができる。
【0133】
一実施形態では、例えば、ボトルオープナー形式において、pI変異体の好ましい組み合わせは、208D/295E/384D/418E/421D変異体(ヒトIgG1に対するときは、N208D/Q295E/N384D/Q418E/N421D)を含む1つの単量体(負のFab側)、及び(GKPGS)を含む正に荷電したscFvリンカーを含む第2の単量体(正のscFv側)を有する。しかしながら、当業者に理解されるように、第1の単量体は、位置208を含む、CH1ドメインを含む。したがって、CH1ドメインを含まない構築物において(例えば、二重scFv形式において、例えば、ドメインのうちの1つにCH1ドメインを利用しないヘテロ二量体Fc融合タンパク質に関して)、好ましい負のpI変異体Fcセットは、295E/384D/418E/421D変異体(ヒトIgG1に対するときは、Q295E/N384D/Q418E/N421D)を含む。
【0134】
抗体ヘテロ二量体軽鎖変異体
抗体に基づくヘテロ二量体の場合では、例えば、単量体のうちの少なくとも1つが、重鎖ドメインに加えて軽鎖を含む場合、pI変異体を軽鎖に作ることもできる。軽鎖のpIを低下させるためのアミノ酸置換には、限定されないが、K126E、K126Q、K145E、K145Q、N152D、S156E、K169E、S202E、K207E、及び軽鎖のC末端におけるペプチドDEDEの追加が含まれる。定常ラムダ軽鎖に基づくこのカテゴリーにおける変更には、R108Q、Q124E、K126Q、N138D、K145T、及びQ199Eでの1つ以上の置換が含まれる。加えて、軽鎖のpIの増加も可能である。
【0135】
アイソタイプ変異体
加えて、本発明の多くの実施形態が、1つのIgGアイソタイプから別のものへの、特定位置でのpIアミノ酸の「取り込み」に依存しており、したがって、変異体へ導入される不要な免疫原性の可能性を低下または除去している。これらのいくつかは、米国公開第2014/0370013号の図21に示され、参照により本明細書に組み込まれる。すなわち、IgG1は、高いエフェクター機能を含む様々な理由のため、治療用抗体のための共通のアイソタイプである。しかしながら、IgG1の重定常領域は、IgG2よりも高いpIを有する(8.10対7.31)。特定位置で、IgG2残基を、IgG1主鎖へ導入することによって、得られる単量体のpIは低下(または増加)し、付加的に血清半減期の長期化を示す。例えば、IgG1は、位置137にグリシン(pI5.97)を有し、IgG2は、グルタミン酸(pI3.22)を有する。つまり、グルタミン酸の取り込みは、得られるタンパク質のpIに影響を与える。以下に記載されるように、いくつかのアミノ酸置換は、一般に、変異体抗体のpIに顕著な影響を与えることが必要とされている。しかしながら、以下に論じられるように、IgG2分子における変更でさえ、血清半減期の増加を可能にすることに留意するべきである。
【0136】
他の実施形態では、以下にさらに記載されるように、得られるタンパク質の全体の電荷状態を低下(例えば、より高いpIアミノ酸を、より低いpIアミノ酸へと変更することによって)させるか、または安定のための構造の適応を可能にするなどのいずれかのために、非アイソタイプアミノ酸の変更が行われる。
【0137】
加えて、重及び軽定常ドメインの両方のpI操作によって、ヘテロ二量体のそれぞれの単量体において、顕著な変化をみることができる。本明細書で論じられるように、2つの単量体のpIを少なくとも0.5異なるようにすることで、イオン交換クロマトグラフィーもしくは等電点電気泳動、または等電点感受性の他の方法によっての分離が可能になる。
【0138】
pIの計算
それぞれの単量体のpIは、変異体重鎖定常ドメイン及び融合パートナーを含む、変異体重鎖定常ドメイン及び総単量体のpIに依存し得る。したがって、いくつかの実施形態では、米国公開第2014/0370013号の図19中のチャートを使用して、変異体重鎖定常ドメインに基づいて、pIの変化が計算される。本明細書で論じられるように、どの単量体を操作するかは、一般に、Fv及び骨格領域の固有pIによって決定される。あるいは、それぞれの単量体のpIを、比較することができる。
【0139】
より良好なFcRnインビボ結合も付与するpI変異体
pI変異体が、単量体のpIを減少させる場合、インビボにおける血清保持の改善という利点が追加され得る。
【0140】
未だ試験中であるが、Fc領域は、インビボにおいてより長い半減期を有すると考えられ、これは、エンドソームにおける、pH6でのFcRnに対する結合が、Fcを隔離するためである(Ghetie and Ward,1997 Immunol Today.18(12):592-598、参照により完全に組み込まれる)。その後、エンドソームの区画は、細胞表面へとFcを再循環させる。区画が、より高いpHである約7.4の細胞外空間へと一旦開くと、Fcの放出が誘導され、血液へ戻る。マウスにおいて、Dall’Acquaらは、pH6及びpH7.4でのFcRn結合が増加したFc変異型(Fc mutant)が、実際は、血清濃度を低下させ、野生型Fcと同じ半減期を有することを示した(Dall’Acqua et al.2002,J.Immunol.169:5171-5180、参照により完全に組み込まれる)。pH7.4でのFcRnに対するFcの親和性の増加は、Fcが放出されて血流へ戻ることを妨げると考えられる。それ故に、インビボにおけるFcの半減期を増加させるFc変異は、より高いpHでのFcの放出を、可能なままにしつつ、より低いpHでFcRn結合を理想的に増加させる。アミノ酸であるヒスチジンは、6.0~7.4のpH範囲でその電荷状態が変化する。したがって、His残基が、Fc/FcRn複合体において、重要な位置を占めるという発見は、驚くべきことではない。
【0141】
最近、より低い等電点を有する可変領域を有する抗体が、より長い血清半減期も有し得ることが示唆された(Igawa et al.,2010 PEDS.23(5):385-392、参照により完全に組み込まれる)。しかしながら、この機構の理解は、依然として不十分である。その上、可変領域は、抗体毎に異なる。本明細書に記載されるように、pIを低下させ、半減期を延長する定常領域変異体は、抗体の薬物動態特性の改善に対する、よりモジュール型の手法を提供するであろう。
【0142】
追加の機能性のための追加のFc変異体
pIアミノ酸変異体に加えて、様々な理由から実施することのできる、いくつかの有用なFcアミノ酸改変が存在し、限定されないが、1つ以上のFcγR受容体に対する結合の変更、FcRn受容体に対する結合の変更などが含まれる。
【0143】
したがって、本発明のタンパク質は、アミノ酸改変を含むことができ、アミノ酸改変には、pI変異体及び立体変異体を含む、本明細書に概要が記載されるヘテロ二量体化変異体が含まれる。変異体の各セットは、任意の特定のヘテロ二量体タンパク質を独立かつ任意選択で含むか、またはそれから除外することができる。
【0144】
FcγR変異体
したがって、FcγR受容体のうちの1つ以上に対する結合を変えるために作製することができるいくつかの有用なFc置換が存在する。結合の増加及び結合の減少をもたらす置換が有用であり得る。例えば、FcγRIIIaに対する結合の増加は、一般に、ADCC(抗体依存性細胞媒介細胞傷害性。これは、細胞が媒介する反応であって、FcγRを発現する非特異性である細胞傷害性の細胞が、標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後に標的細胞の溶解を引き起こす反応である)の増加をもたらすことが知られている。同様に、FcγRIIb(抑制性受容体)に対する結合の減少も、状況によっては、有益であり得る。本発明において用途を見出すアミノ酸置換には、USSN11/124,620(特に図41)、11/174,287、11/396,495、11/538,406において記載されるものが含まれ、これらはすべて参照によりその全体、及び特に、そこで開示される変異体に関して明確に本明細書に組み込まれる。用途を見出す特定の変異体には、限定されないが、236A、239D、239E、332E、332D、239D/332E、267D、267E、328F、267E/328F、236A/332E、239D/332E/330Y、239D、332E/330L、243A、243L、264A、264V、及び299Tが含まれる。
【0145】
加えて、USSN12/341,769(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)において具体的に開示されるように、FcRn受容体に対する結合の増加、及び血清半減期の増加において用途を見出す追加のFc置換が存在し、限定されないが、434S、434A、428L、308F、259I、428L/434S、259I/308F、436I/428L、436I、またはV/434S、436V/428L、及び259I/308F/428Lが含まれる。
【0146】
消去変異体
同様に、機能性変異体の別のカテゴリーは、「FcγR消去変異体」または「Fcノックアウト(FcKOもしくはKO)」変異体である。こうした実施形態では、いくつかの治療用途のため、Fcγ受容体(例えば、FcγR1、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaなど)のうちの1つ以上またはすべてに対するFcドメインの通常の結合を低下または除去して、作用の付加的な機構を回避することが望ましい。すなわち、例えば、多くの実施形態では、特にCD3を一価で結合する二重特異性抗体の使用において、FcγRIIIa結合を消去して、ADCC活性を排除、または著しく低下させることが一般に望ましい。Fcドメインのうちの1つは、1つ以上のFcγ受容体消去変異体を含む。これらの消去変異体は、図12に示され、それぞれは、G236R/L328R、E233P/L234V/L235A/G236del/S239K、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K、E233P/L234V/L235A/G236del/S239K/A327G、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K/A327G、及びE233P/L234V/L235A/G236delからなる群から選択される消去変異体を利用する好ましい態様と共に独立かつ任意選択で含むか、または除外することができる。本明細書において参照される消去変異体が、一般に、FcRn結合ではなくFcγR結合を消去することに留意するべきである。
【0147】
ヘテロ二量体及びFc変異体の組み合わせ
当業者により理解されるように、列挙されるヘテロ二量体化変異体(歪曲及び/またはpI変異体を含む)のすべては、その「鎖性」または「単量体区分(monomer partition)」が保持される限り、任意選択かつ独立して、任意の方法で組み合わせることができる。加えて、これらの変異体のすべてが、ヘテロ二量体化形式のいずれかに組み入れることができる。
【0148】
pI変異体の場合、特定用途を見出す実施形態は、図に示されているが、精製を促進するために2つの単量体間のpI差異を変える基礎的な規則に従って、他の組み合わせを生成することができる。
【0149】
加えて、ヘテロ二量体化変異体、歪曲、及びpIのうちのいずれかはまた、一般に本明細書に概要が記載されるように、Fc消去変異体、Fc変異体、FcRn変異体と独立かつ任意選択で組み合わせられる。
【0150】
本発明の有用な形式
当業者によって理解され、以下により完全に論じられるように、本発明のヘテロ二量体融合タンパク質は、一般に、図1に示されるように、幅広い種類の立体配置をとることができる。いくつかの図は、分子の一方の「アーム」上に1種類の特異性、及びもう一方の「アーム」上に異なる特異性がある「シングルエンド化(single ended)」立体配置を示す。他の図は、分子の「上部」に少なくとも1種類の特異性、及び分子の「下部」に1つ以上の異なる特異性がある「二重エンド化(dual ended)」立体配置を示す。したがって、本発明は、異なる第1及び第2の抗原を共捕捉する新規の免疫グロブリン組成物を対象とする。
【0151】
当業者により理解されるように、本発明のヘテロ二量体形式は、異なる原子価を有し、かつ二重特異性であり得る。すなわち、本発明のヘテロ二量体抗体は、二価かつ二重特異性であってもよく、CD3が、1つの結合ドメインによって結合され、PSMAが、第2の結合ドメインによって結合される。ヘテロ二量体抗体はまた、三価かつ二重特異性であってもよく、PSMAが、2つの結合ドメインによって結合され、CD3が、第2の結合ドメインによって結合される。本明細書に概要が記載されるように、潜在的な副作用を減少させるために、CD3が一価のみで結合されることが好ましい。
【0152】
本発明は、抗CD3抗原結合ドメイン及び抗PSMA抗原結合ドメインを利用する。当業者により理解されるように、図のいずれか(特に図2~7、及び21を参照されたい)に示される抗CD3 CDR、抗CD3可変軽及び可変重ドメイン、Fab、及びscFvのいずれの集合を使用することができる。
【0153】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.30_L1.47(図2)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.30_L1.47(図2)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 _H1.30_L1.47 scFv(図2)を含む。
【0154】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.32_L1.47(図3)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.32_L1.47(図3)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.32_L1.47 scFv(図3)を含む。
【0155】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.89_L1.47(図4)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.89_L1.47(図4)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.89_L1.47 scFv(図4)を含む。
【0156】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.90_L1.47(図5)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.90_L1.47(図5)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.90_L1.47 scFv(図5)を含む。
【0157】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.33_L1.47(図6)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.33_L1.47(図6)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.33_L1.47 scFv(図6)を含む。
【0158】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.31_L1.47(図7)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.31_L1.47(図7)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗CD3抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗CD3 H1.31_L1.47 scFv(図7)を含む。
【0159】
同様に、図8及び20に示される抗PSMA CDR、抗PSMA可変軽及び可変重ドメイン、Fab、及びscFvにかかわらず、抗PSMA抗原結合ドメインのいずれかが、使用され、任意の組み合わせで任意選択かつ独立して組み合わされ得る。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗PSMA J591 H1_L1(図20)の可変軽及び可変重ドメインを含む抗PSMA抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗PSMA J591 H1_L1(図20)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む抗PSMA抗原結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、対象抗体は、抗PSMA J591 H1_L1(図20)の可変軽及び可変重ドメインまたはvhCDR1~3及びvlCDR1~3を有する抗PSMA J591 H1_L1 scFvを含む。
【0160】
ボトルオープナー形式
本発明において特に用途が見出される1つのヘテロ二量体骨格は、「三重F」または図1Aに示される「ボトルオープナー」骨格形式である。この実施形態では、抗体の一方の重鎖は、単鎖Fv(以下に定義される「scFv」)を含み、もう一方の重鎖は、「定型的な(regular)」FAb形式であって、可変重鎖及び軽鎖を含む。この構造は、本明細書において「三重F」形式(scFv-FAb-Fc)、またはボトルオープナーにおおよそ視覚的に類似している(図1を参照されたい)ことから「ボトルオープナー」形式と称されることがある。以下により完全に記載されるように、2つの鎖は、ヘテロ二量体抗体の形成を促進する定常領域(例えば、Fcドメイン、CH1ドメイン、及び/またはヒンジ領域)において、アミノ酸変異体を使用することによって一緒にまとめられている。
【0161】
本発明の「三重F」形式には、いくつかの明確に異なる利点が存在する。当該技術分野で知られるとおり、2つのscFv構築物に依存する抗体類似体は、安定性及び凝集の問題を有することが多いが、本発明においては、「定型的な」重鎖及び軽鎖の対を追加することによって、こうした問題を軽減することができる。加えて、2つの重鎖及び2つの軽鎖に依存する形式とは対照的に、重鎖及び軽鎖が、不正確に対になる(例えば、重1が、軽2と対になるなど)という問題は存在しない。
【0162】
本明細書に概要が記載される実施形態の多くは、一般に、scFvを含む第1の単量体を含むボトルオープナー形式に依存し、このscFvは、scFvリンカー(多くの実施例において荷電)を使用して共有結合される可変重及び可変軽ドメインを含み、scFvは、ドメインリンカー(本明細書に概要が記載されるように、非荷電または荷電のいずれかであり得る)を通常介して、第1のFcドメインのN末端に共有結合される。ボトルオープナー形式の第2の単量体は重鎖であり、組成物は、軽鎖をさらに含む。
【0163】
一般に、多くの好ましい実施形態では、scFvは、PSMAに結合する重及び軽鎖のFabを用いて、CD3に結合するドメインである。加えて、本発明のFcドメインは、一般に、歪曲変異体(例えば、S364K/E357Q:L368D/K370S、L368D/K370S:S364K、L368E/K370S:S364K、T411T/E360E/Q362E:D401K、L368D/K370S:S364K/E357L、及びK370S:S364K/E357Qからなる群から選択される特に有用な歪曲変異体を有する図10及び15に示されるアミノ酸置換のセット)、任意選択で消去変異体を含み、重鎖は、pI変異体を含む。
【0164】
いくつかの実施形態では、本明細書に示されるvh及びvl配列のいずれか(図に示されるすべての抗PSMA及び抗CD3vh及びvl配列、ならびに関連するCDR配列を含む)が、図に示される抗CD3 scFv配列のいずれかを使用して、「Fab側」として、図25のボトルオープナー主鎖形式に付加され得る。これらの実施形態において特に用途を見出す抗CD3配列は、図25に示される主鎖のscFv側として結合される、抗CD3 H1.30_L1.47、抗CD3 H1.32_L1.47、抗CD3 H1.89_L1.47、抗CD3 H1.90_L1.47、抗CD3 H1.33_L1.47、及び抗CD3 H1.31_L1.47(それぞれ、図2~7に示される、vh、vl、及びCDR配列)である。
【0165】
本発明は、抗CD3 scFv配列が図2~7及び図21に示される(図25の主鎖形式との任意の組み合わせを含む)、ボトルオープナー形式を提供する。加えて、図2~7及び21に示される抗CD3 vh、vl、及びCDR配列のいずれかがFab側として使用され得る。
【0166】
本発明は、ボトルオープナー形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び20に示されるとおりである。上記と同様に、それぞれの抗PSMA vh、vl、及び関連するCDR配列は、Fab側またはscFv側のいずれかであってもよく、図25のものを含む、ボトルオープナー形式の抗原結合ドメインのうちの1つとして連結され得る。抗PSMA配列がFab側である場合、図に記載される任意の抗CD3 scFv配列、ならびに関連するvh、vl、及びCDR配列を使用することができ、特に、図25に示される主鎖のscFv側として結合される、抗CD3 H1.30_L1.47、抗CD3 H1.32_L1.47、抗CD3 H1.89_L1.47、抗CD3 H1.90_L1.47、抗CD3 H1.33_L1.47、及び抗CD3 H1.31_L1.47を含む。
【0167】
いくつかの実施形態では、対象抗体は、図21Eに示されるFab-Fc重鎖骨格、scFv-Fc重鎖骨格、及び軽鎖骨格を有するボトルオープナー形式抗体である。限定されないが、本明細書に記載の可変重ドメインのいずれかを含む任意の可変重ドメインは、図21Eに記載のFab-Fc重鎖骨格に作動可能に連結され得る。限定されないが、本明細書に記載の可変軽ドメインのいずれかを含む任意の可変軽ドメインは、図21Eに記載の軽鎖骨格に作動可能に連結され得る。
【0168】
いくつかの実施形態では、それぞれ、Fab-Fc重鎖骨格及び軽鎖骨格(図21E)に作動可能に連結される可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、抗PSMA結合ドメインの可変重及び軽ドメインである。いくつかの実施形態では、可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、抗PSMA J591 H1_L1(図20)の可変軽及び可変重ドメインを含む。いくつかの実施形態では、可変重ドメインは、J591 H1_L1(図20)のvhCDR1~3を含み、可変軽ドメインは、J591 H1_L1(図20)のvlCDR1~3を含む。
【0169】
いくつかの実施形態では、それぞれ、Fab-Fc重鎖骨格及び軽鎖骨格(図21E)に作動可能に連結される可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、抗CD3結合ドメインの可変重及び軽ドメインである。いくつかの実施形態では、可変重ドメイン及び可変軽ドメインは、抗CD3 H1.30_L1.47(図2)、抗CD3 H1.32_L1.47(図3)、抗CD3 H1.89_L1.47(図4)、H1.90_L1.47(図5)、H1.33_L1.47(図6)、またはH1.31_L1.47(図7)の可変軽及び可変重ドメインを含む。いくつかの実施形態では、それぞれ、可変重ドメインは、CD3 H1.30_L1.47(図2)、抗CD3 H1.32_L1.47(図3)、抗CD3 H1.89_L1.47(図4)、H1.90_L1.47(図5)、H1.33_L1.47(図6)、またはH1.31_L1.47(図7)のvhCDR1~3を含み、可変軽ドメインは、抗CD3 H1.30_L1.47(図2)、抗CD3 H1.32_L1.47(図3)、抗CD3 H1.89_L1.47(図4)、H1.90_L1.47(図5)、H1.33_L1.47(図6)、またはH1.31_L1.47(図7)のvlCDR1~3を含む(例えば、可変重ドメインは、抗CD3 H1.30_L1.47のvhCDR1~3を含み、可変軽ドメインは、抗CD3 H1.30_L1.47のvlCDR1~3を含む)。
【0170】
いくつかの実施形態では、scFv-Fc重鎖骨格(図21E)は、抗CD3 scFvに作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、抗CD3 scFvは、H1.30_L1.47(図2)、H1.32_L1.47(図3)、H1.89_L1.47(図4)、H1.90_L1.47(図5)、H1.33_L1.47(図6)、またはH1.31_L1.47(図7)の可変重及び可変軽ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗CD3 scFvは、H1.30_L1.47(図2)、H1.32_L1.47(図3)、H1.89_L1.47(図4)、H1.90_L1.47(図5)、H1.33_L1.47(図6)、またはH1.31_L1.47(図7)のvhCDR1~3及びvlCDR1~3を含む。いくつかの実施形態では、抗CD3 scFvは、H1.30_L1.47 scFv(図2)、H1.32_L1.47 scFv(図3)、H1.89_L1.47 scFv(図4)、H1.90_L1.47 scFv(図5)、H1.33_L1.47 scFv(図6)、またはH1.31_L1.47 scFv(図7)である。
【0171】
いくつかの実施形態では、scFv-Fc重鎖骨格(図21E)は、抗PSMAに作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、抗PSMA scFvは、抗PSMA J591 H1_L1(図20)の可変重ドメイン及び可変軽ドメインを含む。いくつかの実施形態では、scFvは、J591 H1_L1(図20)のvhCDR1~3、及びJ591 H1_L1(図20)のvlCDR1~3を含む。いくつかの実施形態では、抗PSMA scFvは、J591 H1_L1 scFv(図20)である。
【0172】
ある特定の実施形態では、対象抗PSMA×抗×CD3抗体は、図9、21A~D、及び25に示されるボトルオープナー形式のうちのいずれか1つの配列を有する。
【0173】
mAb-Fv形式
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示されるmAb-Fv形式である。この実施形態では、形式は、一方の単量体への「余分な」可変重ドメインのC末端付加、及びもう一方の単量体への「余分な」可変軽ドメインのC末端付加の使用に依存し、したがって、第3の抗原結合ドメインを形成し、2つの単量体のFab部分は、PSMAに結合し、「余分な」Fvドメインは、CD3に結合する。
【0174】
この実施形態では、第1の単量体は、第1の可変重ドメイン及び第1の定常重ドメインを含む第1の重鎖を含み、この第1の定常重ドメインは、ドメインリンカーを使用して第1のFcドメインのC末端に共有結合されている第1の可変軽ドメインを有する第1のFcドメインを含む。第2の単量体は、第2の可変重ドメイン、第2のFcドメインを含む第2の定常重ドメイン、及びドメインリンカーを使用して第2のFcドメインのC末端に共有結合されている第3の可変重ドメインを含む。いくつかの実施形態では、2つのC末端に結合された可変ドメインは、CD3に結合するFvを構成する(二価のCD3結合を有するのはあまり好ましくないため)。この実施形態は、PSMAに結合する2つの同一Fabを形成するために重鎖に関連する、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む共通の軽鎖をさらに利用する。
【0175】
いくつかの実施形態では、第1の重鎖は、vh1-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-[任意選択のリンカー]-vl2を含み、第2の単量体は、vh1-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-[任意選択のリンカー]-vh2を含み、共通の軽鎖はvl1を含む。この実施形態では、vh1及びvl1は、PSMA結合ドメインを形成し、vh2及びvl2は、CD3結合ドメインを形成する。
【0176】
本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0177】
本発明は、mAb-Fv形式を提供し、抗CD3 scFv配列は、図2図7に示される。
【0178】
本発明は、ボトルオープナー形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0179】
本発明は、図12に示される消去変異体を含むmAb-Fv形式を提供する。
【0180】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含むmAb-Fv形式を提供する。
【0181】
mAb-scFv
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示されるmAb-scFv形式である。この実施形態では、形式は、単量体のうちの1つへのscFvのC末端付加の使用に依存し、したがって、第3の抗原結合ドメインを形成し、2つの単量体のFab部分は、PSMAに結合し、「余分な」scFvドメインは、CD3に結合する。したがって、第1の単量体は、第1の重鎖(可変重ドメイン及び定常ドメインを含む)を含み、C末端共有結合されたscFvは、いずれの配向で(vh1-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-[任意選択のリンカー]-vh2-scFvリンカー-vl2またはvh1-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-[任意選択のリンカー]-vl2-scFv linker-vh2)、scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む。この実施形態は、PSMAに結合する2つの同一Fabを形成するために重鎖に関連する、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む共通の軽鎖をさらに利用する。本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0182】
本発明は、mAb-scFv形式を提供し、抗CD3scFv配列は、図2図7に示されるとおりである。
【0183】
本発明は、mAb-scFv形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0184】
本発明は、図12に示される消去変異体を含むmAb-scFv形式を提供する。
【0185】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含むmAb-scFv形式を提供する。
【0186】
二重scFv形式
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示される中心scFv形式である。この実施形態では、形式は、挿入scFvドメインの使用に依存し、したがって、第3の抗原結合ドメインを形成し、2つの単量体のFab部分は、PSMAに結合し、「余分な」scFvドメインは、CD3に結合する。scFvドメインは、単量体のうちの1つのFcドメインとCH1-Fv領域との間に挿入され、したがって、第3の抗原結合ドメインを提供する。
【0187】
この実施形態では、1つの単量体は、第1の可変重ドメイン、CH1ドメイン、及びFcドメイン(及び任意選択のリンカー)を含む第1の重鎖を含み、scFvは、scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを有する。scFvは、任意選択のドメインリンカーを使用して重定常ドメインのCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている(例えば、vh1-CH1-[任意選択のリンカー]-vh2-scFvリンカー-vl2-[ヒンジを含む任意選択のリンカー]-CH2-CH3またはvh1-CH1-[任意選択のリンカー]-vl2-scFvリンカー-vh2-[ヒンジを含む任意選択のリンカー]-CH2-CH3。第2の単量体は、標準的なFab側(例えば、vh1-CH1-[ヒンジを含む任意選択のリンカー]-CH2-CH3)である。この実施形態は、PSMAに結合する2つの同一Fabを形成するために重鎖に関連する、可変軽ドメイン(例えば、vl1)及び定常軽ドメインを含む共通の軽鎖をさらに利用する。本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0188】
本発明は、中心scFv形式を提供し、抗CD3scFv配列は、図2~7に示されるとおりである。
【0189】
本発明は、中心scFv形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0190】
本発明は、図12に示される消去変異体を含む中心scFv形式を提供する。
【0191】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含む中心scFv形式を提供する。
【0192】
中心Fv形式
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示される中心Fv形式である。この実施形態では、形式は、挿入scFvドメインの使用に依存し、したがって、第3の抗原結合ドメインを形成し、2つの単量体のFab部分は、PSMAに結合し、「余分な」Fvドメインは、CD3に結合する。scFvドメインは、単量体のFcドメインとCH1-Fv領域との間に挿入され、したがって、第3の抗原結合ドメインを提供し、各単量体は、Fvの成分を含有する(例えば、一方の単量体は、可変重ドメインを含み、もう一方は、可変軽ドメインを含む)。
【0193】
この実施形態では、一方の単量体は、第1の可変重ドメイン、CH1ドメイン、及びFcドメイン、ならびに追加の可変軽ドメインを含む第1の重鎖を含む。追加の可変軽ドメインは、ドメインリンカーを使用して重定常ドメインのCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている(例えば、vh1-CH1-[任意選択のリンカー]-vl2-ヒンジ-CH2-CH3)。もう一方の単量体は、第1の可変重ドメイン、CH1ドメイン、及びFcドメイン、ならびに追加の可変重ドメインを含む第1の重鎖を含む(例えば、vh1-CH1-[任意選択のリンカー]-vh2-ヒンジ-CH2-CH3)。追加の可変重ドメインは、ドメインリンカーを使用して重定常ドメインのCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている。
【0194】
この実施形態は、PSMAに結合する2つの同一Fabを形成するために重鎖に関連する、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む共通の軽鎖をさらに利用する。本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0195】
本発明は、中心scFv形式を提供し、抗CD3 scFv配列は、図2~7に示されるとおりである。
【0196】
本発明は、中心scFv形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0197】
本発明は、図12に示される消去変異体を含む中心scFv形式を提供する。
【0198】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含む中心scFv形式を提供する。
【0199】
ワンアーム化中心scFv
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示されるワンアーム化中心scFv形式である。この実施形態では、一方の単量体は、Fcドメインのみを含み、もう一方の単量体は、挿入scFvドメインを使用し、したがって、第2の抗原結合ドメインを形成する。この形式では、Fab部分が、PSMAに結合し、scFvが、CD3に結合するか、またはその逆のいずれかである。scFvドメインは、単量体のうちの1つのFcドメインとCH1-Fv領域との間に挿入される。
【0200】
この実施形態では、1つの単量体は、第1の可変重ドメイン、CH1ドメイン、及びFcドメインを含む第1の重鎖を含み、scFvは、scFv可変軽ドメイン、scFvリンカー、及びscFv可変重ドメインを含む。scFvは、ドメインリンカーを使用して重定常ドメインのCH1ドメインのC末端と第1のFcドメインのN末端との間で共有結合されている(例えば、vh1-CH1-[任意選択のリンカー]-vh2-scFvリンカー-vl2-[ヒンジを含む任意選択のリンカー]-CH2-CH3またはvh1-CH1-[任意選択のリンカー]-vl2-scFvリンカー-vh2-[ヒンジを含む任意選択のリンカー]-CH2-CH3)。第2の単量体は、Fcドメインを含む(CH2-CH3)。この実施形態は、Fabを形成するために重鎖に関連する、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む軽鎖をさらに利用する。本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0201】
本発明は、ワンアーム化中心scFv形式を提供し、抗CD3 scFv配列は、図2図7に示されるとおりである。
【0202】
本発明は、ワンアーム化中心scFv形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0203】
本発明は、図12に示される消去変異体を含むワンアーム化中心scFv形式を提供する。
【0204】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含むワンアーム化中心scFv形式を提供する。
【0205】
二重scFv形式
本発明はまた、当該技術分野で知られ、図1に示される二重scFv形式も提供する。具体的には、本発明は、二重scFv形式を提供し、抗CD3 scFv配列は、図2図7に示されるとおりである。
【0206】
本発明は、二重scFv形式を提供し、抗PSMA配列は、図8に示されるとおりである。実施形態のいくつかでは、抗PSMA及び抗CD3 scFvは、scFvリンカーを含む。ある特定の実施形態では、scFvリンカーは、図14に示されるscFvリンカーである。
【0207】
本発明は、図12に示される消去変異体を含む二重scFv形式を提供する。
【0208】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含む二重scFv形式を提供する。
【0209】
共通の軽鎖形式
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示される共通の軽鎖形式である。この実施形態では、第1の単量体は、第1の可変重ドメイン、及び第1のFcドメインを含む第1の定常重ドメインを含む、第1の重鎖を含む。第2の単量体は、第2の可変重ドメイン、及び第2のFcドメインを含む第2の定常重鎖を含む。第1及び第2の単量体のそれぞれは、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む共通の軽鎖に関連する。本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0210】
本発明は、共通の軽鎖形式を提供し、抗CD3配列は、図2図7に示されるとおりである。
【0211】
本発明は、共通の軽鎖形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0212】
本発明は、図12に示される消去変異体を含む共通の軽鎖形式を提供する。
【0213】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含む共通の軽鎖形式を提供する。
【0214】
二重特異性IgG
本発明において特定の用途を見出す1つのヘテロ二量体骨格は、図1に示される二重特異性形式である。この実施形態では、第1の単量体は、第1の可変重ドメイン、及び第1のFcドメインを含む第1の定常重ドメインを含む、第1の重鎖を含む。第2の単量体は、第2の可変重ドメイン、及び第2のFcドメインを含む第2の定常重鎖を含む。第1及び第2の単量体のそれぞれは、可変軽ドメイン及び定常軽ドメインを含む軽鎖(すなわち、それぞれ、第1の軽鎖及び第2の軽鎖)に関連する。本明細書の実施形態の多くに関して、これらの構築物には、本明細書で所望され記載される立体変異体(例えば、ノブイントゥホール変異体)、歪曲変異体、pI変異体、消去変異体、追加のFc変異体などが含まれる。
【0215】
本発明は、二重特異性IgG形式を提供し、抗CD3配列は、図2図7に示されるとおりである。
【0216】
本発明は、二重特異性IgG形式を提供し、抗PSMA配列は、図8及び図20に示されるとおりである。
【0217】
本発明は、図12に示される消去変異体を含む二重特異性IgG形式を提供する。
【0218】
本発明は、図10及び図15に示される歪曲変異体を含む二重特異性IgG形式を提供する。
【0219】
本発明の核酸
本発明は、本発明の二重特異性抗体をコードする核酸組成物をさらに提供する。当業者により理解されるように、核酸組成物は、ヘテロ二量体タンパク質の形式及び骨格に依存する。したがって、例えば、形式が、三重F形式などのために3つのアミノ酸配列を必要とするとき(例えば、Fcドメイン及びscFvを含む第1のアミノ酸単量体、重鎖及び軽鎖を含む第2のアミノ酸単量体)、3つの核酸配列は、発現のための1つ以上の発現ベクターに組み込まれ得る。同様に、いくつかの形式(例えば、図1に開示されるものなどの二重scFv形式)2つの核酸のみが必要とされ、再度それらは、1つまたは2つの発現ベクターに加えられ得る。
【0220】
当該技術分野で知られるように、本発明の成分をコードする核酸は、当該技術分野で知られる、及び本発明のヘテロ二量体抗体を産生するために使用される宿主細胞によって、発現ベクターに組み込まれ得る。一般に、核酸は、任意の数の制御要素(プロモーター、複製の起源、選択可能なマーカー、リボソーム結合部位、誘導物質など)に作動可能に連結される。発現ベクターは、外部染色体または統合ベクターであってもよい。
【0221】
本発明の核酸及び/または発現ベクターは、その後、哺乳類、細菌、酵母菌、昆虫、及び/または真菌細胞を含む当該技術分野でよく知られる任意の数の異なる型の宿主細胞に変換され、哺乳類細胞(例えば、CHO細胞)は、多くの実施形態において用途を見出す。
【0222】
いくつかの実施形態では、形式に応じて適用可能であるように、各単量体をコードする核酸及び軽鎖をコードする任意選択の核酸は、一般に、異なるまたは同一のプロモーター制御下で、単一の発現ベクター内にそれぞれ含有される。本発明の特定の用途の実施形態では、これらの2つまたは3つの核酸のそれぞれは、異なる発現ベクター上に含有される。本明細書及び第62/025,931号(参照により本明細書に組み込まれる)で示されるように、異なるベクターの比は、ヘテロ二量体形成を誘起するために使用され得る。すなわち、驚くべきことに、タンパク質は、1:1:2の比で第1の単量体:第2の単量体:軽鎖(ヘテロ二量体抗体を含む3つのポリペプチドを有する本明細書の実施形態の多くの場合)を含むが、これらは、最良の結果をもたらす比ではない。
【0223】
本発明のヘテロ二量体抗体は、当該技術分野においてよく知られている発現ベクター(複数可)を含む宿主細胞を培養することによって作製される。一旦産生されると、イオン交換クロマトグラフィーステップを含む伝統的な抗体精製ステップが行われる。本明細書で論じられるように、2つの単量体のpIを少なくとも0.5異なるようにすることで、イオン交換クロマトグラフィーもしくは等電点電気泳動、または等電点感受性の他の方法によっての分離が可能になる。すなわち、各単量体が異なるpIを有し、ヘテロ二量体も明確に異なるpIを有するように、各単量体の等電点(pI)を変えるpI置換を含むことにより、「三重F」ヘテロ二量体の等電精製(例えば、アニオン交換カラム、カチオン交換カラム)を容易にする。こうした置換は、任意の混入している二重scFv-Fc及びmAbホモ二量体の、精製後の判定及び監視においても役に立つ(例えば、IEFゲル、cIEF、及び分析IEXカラム)。
【0224】
治療
一旦作製されると、本発明の組成物は、限定されないが、前立腺癌を含む、PSMAを発現または過剰発現する癌の治療を含むいくつかの用途に用途を見出す。
【0225】
したがって、本発明のヘテロ二量体組成物は、これらの癌の治療において用途を見出す。
【0226】
インビボ投与用の抗体組成物
本発明に従って使用する抗体の製剤は、所望の純度を有し、任意選択で、医薬的に許容可能な担体、賦形剤、または安定剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.[1980])と共に抗体を混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、貯蔵のために調製される。許容可能な担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる投与量及び濃度で、レシピエントに対して非毒性であり、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸などの緩衝剤、アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤、保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド、フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール、メチルもしくはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾールなど)、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性重合体、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなどのアミノ酸、単糖、二糖、及びグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の糖質、EDTAなどのキレート物質、スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖、ナトリウムなどの塩形成対イオン、金属複合体(例えば、亜鉛-タンパク質複合体)、ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0227】
本明細書の製剤は、治療される特定の徴候のために、必要に応じて2つ以上の活性化合物を含んでもよく、好ましくは、お互いに有害な影響を及ぼすことのない相補的な活性を有するものである。例えば、他の特異性を有する抗体を提供することが望ましい場合がある。あるいは、または加えて、組成物は、細胞傷害性物質、サイトカイン、成長阻害物質、及び/または小分子アンタゴニストを含んでもよい。そのような分子は、意図する目的に有効な量の組み合わせで、適切に存在する。
【0228】
活性成分は、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)、またはマイクロエマルジョンにおいて、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースマイクロカプセルまたはゼラチンマイクロカプセル、及びポリ-(メチルメタクリル酸)マイクロカプセルに封入されてもよい。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)において開示される。
【0229】
インビボ投与に使用される製剤は、無菌、またはそれに近くあるべきである。これは、無菌ろ過膜を通過させるろ過によって容易に達成される。
【0230】
持続放出調製物を調製してよい。持続放出調製物の好適な例には、抗体を含有する固体疎水性重合体の半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスは、成形物品の形態であり、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルである。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリル酸)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸及び.ガンマ.エチル-L-グルタミン酸の共重合体、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸共重合体及び酢酸リュープロリドからなる注射可能なマイクロスフェア)などの分解性乳酸-グリコール酸共重合体、ならびにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸などの重合体は、100日を超える期間の分子放出を可能にする一方で、ある特定のヒドロゲルでは、タンパク質の放出期間は、より短い。
【0231】
カプセル化された抗体が、体内に長期間残存するとき、抗体は、37℃での水分へ暴露の結果として変性または凝集し得、生物学的活性の消失と共に免疫原性が変化する可能性をもたらす。関与する機構に応じて、安定化に向けた合理的な方針を立てることができる。例えば、凝集機構が、チオ-ジスルフィド相互交換を介した分子間S--S結合形成であると見出された場合、スルフヒドリル残基の改変、酸性溶液からの凍結乾燥、水分含量の制御、適切な添加物の使用、及び特定の重合体マトリックス組成物の開発によって、安定化を達成してもよい。
【0232】
投与様式
本発明の抗体物質及び化学療法物質は、ボーラスとしての静脈内投与、または一定期間にわたる継続注入によるなどの既知の方法に従って、筋肉内経路、腹腔内経路、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下経路、関節内経路、関節滑液嚢内経路、くも膜下腔内、口腔、局所、または吸入経路によって、対象に投与される。抗体の静脈内投与または皮下投与が好ましい。
【0233】
治療様式
本発明の方法において、療法は、疾患または状態に関する有益な治療応答を提供するために使用される。「有益な治療応答」は、疾患もしくは状態における改善、及び/または疾患もしくは状態と関連する症状における改善を意図する。例えば、有益な治療応答は、疾患における下記の改善のうちの1つ以上を指すであろう。(1)新生細胞数の減少、(2)新生細胞死の増加、(3)新生細胞の生存阻害、(5)腫瘍成長の阻害(例えば、ある程度の鈍化、好ましくは停止)、(6)患者生存率の増加、及び(7)疾患または状態と関連する1つ以上の症状のある程度の緩和。
【0234】
任意の所与の疾患または状態における有益な治療応答は、疾患または状態に特有の標準化された応答基準によって決定することができる。腫瘍応答は、磁気共鳴画像法(MRI)スキャン、x-線画像法、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、骨スキャン画像法、内視鏡検査、ならびに骨髄穿刺(BMA)及び循環における腫瘍細胞の計数を含む腫瘍生検試料採取などの選別技術を使用して、腫瘍形態学(すなわち、全体的な腫瘍量、腫瘍サイズ、及び同様のもの)における変化で評価することができる。
【0235】
こうした有益な治療応答に加えて、療法を受けている対象は、疾患に関連する症状において、改善の有益な効果を経験し得る。
【0236】
疾患の改善は、完全応答として特徴付けられてもよい。「完全応答」は、任意の、以前には異常であったX線検査、骨髄、及び脳脊髄液(CSF)の正常化、または骨髄腫の場合は、異常なモノクローナルタンパク質の正常化を伴って、臨床的に検出可能な疾患が存在しないことを意図する。
【0237】
そのような応答は、本発明の方法による治療の後、少なくとも4~8週間、または時には6~8週間持続し得る。あるいは、疾患の改善は、部分応答であるとして分類されてもよい。「部分応答」は、新しい病変が存在せず、すべての測定可能な腫瘍量(すなわち、対象に存在する悪性細胞の数、または腫瘍質量の測定容積、または異常なモノクローナルタンパク質の量)が、少なくとも約50%減少することを意図し、それが4~8週間、または6~8週間持続し得る。
【0238】
本発明による治療は、使用する薬剤の「治療有効量」を含む。「治療有効量」は、必要な投与量及び期間で、所望の治療結果を達成するために有効な量を指す。
【0239】
治療有効量は、個々の疾患の状況、年齢、性別及び体重などの要因、ならびに個々における、薬剤の所望応答を引き出す能力に応じて変化してもよい。治療有効量は、抗体または抗体部分の治療上有利な効果が、任意の毒性作用または有害作用を凌ぐ量でもある。
【0240】
腫瘍療法の「治療有効量」は、疾患の進行を安定化させるその能力によって測定されてもよい。癌を阻害する化合物の能力を、ヒト腫瘍における有効性を予測する動物モデル系において評価してもよい。
【0241】
あるいは、組成物のこの性質は、当業者に知られるインビトロアッセイによって、化合物が、細胞の成長を阻害する能力、またはアポトーシスを誘導する能力を試験することによって評価してもよい。治療用化合物の治療有効量は、対象の腫瘍サイズを減少させるか、またはそうでなければ、対象の症状を回復させることができる。当業者であれば、対象のサイズ、対象の症状の重症度、及び特定組成物、または選択される投与経路などの要因に基づいてそのような量を決定できるであろう。
【0242】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療応答)を提供するように調整される。例えば、単回ボーラスが投与されてもよく、いくつかに分割された用量が経時的に投与され得るか、または治療状況の要件が示すように、比例的に用量が減少または増加されてもよい。非経口組成物を、投与の容易化及び投与量の均一性のために、投与量単位形態で製剤化してもよい。本明細書で使用される投与量単位形態は、治療される対象の単位投与量として適した、物理的に別々の単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体に関連して所望の治療効果をもたらすように計算された予め決められた量の活性化合物を含有する。
【0243】
本発明の投与量単位形態のための規格は、(a)活性化合物特有の特徴、及び達成される特定の治療効果、ならびに(b)そのような活性化合物を、個々の感受性の治療のために配合する技術分野での固有の制限によって決定され、直接的にそれらに依存する。
【0244】
本発明で使用される二重特異性抗体の効率的な投与量及び投与レジメンは、治療される疾患または状態に依存し、当業者によって決定されてもよい。
【0245】
本発明で使用される二重特異性抗体の治療有効量のための例示的な非限定範囲は、約0.1~50mg/kgなどの約0.1~100mg/kg、例えば、約0.1~10mg/kgなどの約0.1~20mg/kg、例えば、約0.3mg/kgなどの約0.5mg/kg、約1mg/kg、または約3mg/kgである。別の実施形態では、抗体は、1~20mg/kgの用量などの1mg/kg以上の用量、例えば、5~20mg/kgの用量、例えば、8mg/kgの用量で投与される。
【0246】
当該技術分野の医療従事者であれば、必要な薬学的組成物の有効量を容易に決定し、処方することができる。例えば、医者または獣医師であれば、薬学的組成物において用いられる薬剤の投与を、所望の治療効果を達成するために必要となるよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることができるであろう。
【0247】
一実施形態では、二重特異性抗体は、注入によって、200~400mg/kgなどの10~500mg/kgの投与量で毎週投与される そのような投与は、例えば、3~5回など、1~8回繰り返されてもよい。投与は、2~12時間の時間などの2~24時間の時間にわたる継続注入によって実施され得る。
【0248】
一実施形態では、毒性を含む副作用を低減する必要がある場合、二重特異性抗体は、24時間超などの長時間にわたる、緩徐な継続注入によって投与される。
【0249】
一実施形態では、二重特異性抗体は、4~6回などの最大8回にわたって、250mg~2000mg、例えば、300mg、500mg、700mg、1000mg、1500mg、または2000mgなどの投与量が毎週投与される。投与は、2~12時間の時間などの2~24時間の時間にわたる継続注入によって実施され得る。そのようなレジメンは、必要に応じて1回以上、例えば、6ヶ月後または12カ月後に繰り返されてもよい。投与量は、例えば、生物学的試料を採取し、二重特異性抗体の抗原結合領域を標的とする抗イディオタイプ抗体を使用することにより、投与の際に血液中の本発明の化合物の量を測定することによって、決定または調整することができる。
【0250】
さらなる実施形態では、二重特異性抗体は、3~10週間など、4~8週間など、毎週1回、2~12週間投与される。
【0251】
一実施形態では、二重特異性抗体は、例えば、6ヶ月以上の期間にわたって1週間に1回など、維持療法によって投与される。
【0252】
一実施形態では、二重特異性抗体は、二重特異性抗体の1回の注入、続いて放射性同位体にコンジュゲートされた二重特異性抗体の注入を含むレジメンによって投与される。レジメンは、例えば、7~9日後に繰り返されてもよい。
【0253】
非限定的な例として、本発明による治療は、治療の開始後、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、もしくは40日目のうちの少なくとも1日に、あるいは治療の開始後、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20週間目のうちの少なくとも1週に、またはそれらのいずれかの組み合わせで、1日当たり、0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90、または100mg/kgなどの約0.1~100mg/kgの1日の抗体投与量として、単一または分割された用量を使用して、24、12、8、6、4、もしくは2時間毎に、またはそれらのいずれかの組み合わせで提供されてもよい。
【0254】
いくつかの実施形態では、その二重特異性抗体分子は、例えば、化学療法物質といった、1つ以上の追加の治療用物質と組み合わせて使用される。DNA損傷化学療法物質の非限定的な例には、トポイソメラーゼI阻害物質(例えば、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、及びそれらの類似体または代謝物、ならびにドキソルビシン)、トポイソメラーゼII阻害物質(例えば、エトポシド、テニポシド、及びダウノルビシン)、アルキル化物質(例えば、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、チオテパ、イホスファミド、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、デカルバジン(decarbazine)、メトトレキサート、マイトマイシンC、及びシクロホスファミド)、DNAインターカレーター(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、及びカルボプラチン)、ブレオマイシンなどのDNAインターカレーター兼遊離ラジカル発生物質、ならびにヌクレオシド模倣物質(例えば、5-フルオロウラシル、カペシチビン(capecitibine)、ゲムシタビン、フルダラビン、シタラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、及びヒドロキシウレア)が含まれる。
【0255】
細胞複製を攪乱する化学療法物質には、パクリタキセル、ドセタキセル、及び関連類似体、ビンクリスチン、ビンブラスチン及び関連類似体、サリドマイド、レナリドミド及び関連類似体(例えば、CC-5013及びCC-4047)、タンパク質チロシンキナーゼ阻害物質(例えば、メシル酸イマチニブ及びゲフィチニブ)、プロテアソーム阻害物質(例えば、ボルテゾミブ)、IκBキナーゼの阻害物質を含むNF-κB阻害物質、癌において過剰発現されるタンパク質に結合し、それによって細胞複製を下方制御する抗体(例えば、トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、及びベバシズマブ)、癌において上方制御、過剰発現、または活性化されることが知られており、それを阻害することにより、細胞複製が下方制御されるタンパク質または酵素の他の阻害物質が含まれる。
【0256】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、Velcade(登録商標)(ボルテゾミブ)での治療の前に、同時に、または後に使用することができる。
【0257】
すべての引用文献は、それらの全体が、参照により明確に本明細書に組み込まれる。
【0258】
本発明の特定の実施形態を例示目的のために上に説明したが、添付の特許請求の範囲において説明される本発明から逸脱することなく、詳細の変更を数多く実施することができることを当業者は理解するであろう。
【実施例
【0259】
本発明を図示するために、実施例を以下に提供する。こうした実施例は、本発明を任意の特定の応用、または実施理論に限定することを意図するものではない。本発明において論じられるすべての定常領域の位置に関して、番号付けは、Kabat(Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,United States Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda。参照により完全に組み込まれる)にあるように、EUインデックスに従う。抗体技術分野の当業者であれば、この慣習が、免疫グロブリン配列の特定領域における、非連続的な番号付けからなっており、免疫グロブリンファミリーにおける保存位置に対する標準化された参照を可能にすることを理解するであろう。したがって、EUインデックスによって定義される、任意の所与の免疫グロブリンの位置は、その連続配列に必ずしも対応しない。
【0260】
一般的かつ特定の科学技術は、米国公開第2015/0307629号、同第2014/0288275号、及びWO2014/145806に概要が記載され、これらはすべて、その全体、及び特に、それらに概要が記載される技術に関して、参照により明確に組み込まれる。
【0261】
実施例1:二重特異性体産生
抗PSMA×抗CD3二重特異性体のアミノ酸配列を図9及び21A~Dに列記する。二重特異性発現のために必要とされる3つの鎖をコードするDNAを、遺伝子合成(Blue Heron Biotechnology,Bothell,Wash.)により生成し、発現ベクターpTT5に標準的な分子生物学的技術を使用してサブクローニングした。置換を、部位特異的な突然変異誘発(QuikChange,Stratagene,Cedar Creek,Tex.)または追加の遺伝子合成及びサブクローニングのいずれかを使用して導入した。DNAを、発現のためのHEK293E細胞にトランスフェクトし、得られたタンパク質を、プロテインA親和性(GE Healthcare)及びカチオンイオン交換クロマトグラフィーを使用して上清から精製した。カチオンイオン交換クロマトグラフィー精製を、50mM MES、pH6.0の洗浄/平衡緩衝剤及び50mM MES、pH6.0+1M NaCl直線勾配の溶離緩衝剤を用いるHiTrap SP HPカラム(GE Healthcare)を使用して実施した。
【0262】
例示の抗体XENP14484及びXENP19722のPSMA親和性(K)は、Octet Red機器(ForteBio)のバイオレイヤー干渉(BLI)により測定された(図22)。二重特異性体(XENP14484、XENP19722)を、AHCセンサー上に捕捉し、続いて50~0.78125nM(2倍希釈)の濃度でヒトまたはカニクイザルPSMAを捕捉した。
【0263】
実施例2:再配向化T細胞の細胞傷害性
抗PSMA×抗CD3二重特異性体を、PSMALNCaP前立腺癌細胞株への細胞表面結合及びその再配向化T細胞の細胞傷害性(RTCC)に関して、インビトロで特徴付けした。(図16及び23)アッセイの詳細は図の説明文に示される。これらの図に示されるように、対象抗PSMA×抗CD3抗体XENP14484及びXENP19722は、インビトロにおいてLNCaP前立腺癌細胞に結合し、RTCC殺傷を媒介することができたが、抗RSV対照XENP13245は、PSMAまたはRTCCを示さなかった。
【0264】
実施例3:カニクイザル薬理学
カニクイザル(n=3)に、XENP14484(抗PSMA×抗CD3、30μg/kg)またはXENP13245(抗RSV×CD3、3mg/kg)のいずれかを単回投与した。CD4T細胞の辺縁趨向及びCD69 MFIによる活性化は、フローサイトメトリーによって調べられた。IL-6血清レベルは、ELISAによって調べられた(図17A)。加えて、CD8T細胞の辺縁趨向及びCD69 MFIによる活性化は、フローサイトメトリーによって調べられ、TNFα血清レベルは、ELISAによって調べられた(図17B)。これらの図に示されるように、T細胞の応答及びサイトカイン放出症候群(CRS)は、サルにおいて、抗PSMA×抗CD3抗体による標的細胞の会合に依存する。
【0265】
実施例4:CD3親和性及びサイトカイン放出症候群
カニクイザルカニクイザル(n=3)に、0.06mg/kgのXENP14484(高CD3親和性)または1mg/kgのXENP19722(低CD3親和性)のいずれかの単回静脈内(i.v.)用量を投与した。図24に示されるように、XENP14484及びXENP19722抗体は、異なるCD3親和性を有するにも関わらず、類似するT細胞の辺縁趨向及び活性化(CD4+(上のパネル)及びCD8+(中央のパネル))を示す。しかしながら、T細胞活性化における類似性にも関わらず、CD3に対して低親和性を有するXENP19722が、CD3に対して高親和性を有するXENP14484と比較して、より少ないサイトカイン放出症候群(CRS)を誘導した(図24、下のパネル)。そのようなより低いCD3親和性は、より高い用量レベルにおいてもサイトカイン放出の低減と相関する。そのため、抗PSMA二重特異性体の効力は、T細胞を補充するその能力を調整することによって調節することができる。
図1A
図1B
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図10B
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【配列表】
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