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特許7058225イソキサントフモールを含む脂質代謝促進用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】イソキサントフモールを含む脂質代謝促進用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220414BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20220414BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20220414BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20220414BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20220414BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220414BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20220414BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20220414BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20220414BHJP
【FI】
A23L33/105
A23C11/10
A23F3/16
A23F5/24
A23L2/00 F
A23L2/00 T
A23L2/02 A
A23L2/38 P
A23L2/52
A23L2/56
A23L3/00
C12G3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018557972
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2017045364
(87)【国際公開番号】W WO2018117041
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2016246974
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富貴澤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 麻衣
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-173942(JP,A)
【文献】国際公開第2005/074961(WO,A1)
【文献】国際公開第03/068205(WO,A1)
【文献】特開2006-306800(JP,A)
【文献】YANG, Jeong-Yeh et al.,Effect of xanthohumol and isoxanthohumolon 3T3-L1 cell apoptosis and adipogenesis,Apoptosis,2007年,Vol.12, No.11,p.1953-1963
【文献】GIL-RAMIREZ, A. et al.,Highly isoxanthohumol enriched hop extract obtained by pressurized hot water extraction (PHWE). Chemical and functional characterization,Innovative Food Science and Emerging Technologies,2012年,Vol. 16,pp. 54-60
【文献】YANG, Liping et al.,Conformational modulation of the farnesoid X receptor by prenylflavonoids: Insights from hydrogen de,Biochimica et Biophysica Acta,2016年,vol.1864,p.1667-1677
【文献】YANG, Jeong-Yeh et al.,Effect of xanthohumol and isoxanthohumolon 3T3-L1 cell apoptosis and adipogenesis,Apoptosis,2007年,Vol.12, No.11,p.1953-1963
【文献】YANG, Liping et al.,Conformational modulation of the farnesoid X receptor by prenylflavonoids: Insights from hydrogen de,Biochimica et Biophysica Acta,2016年,vol.1864,p.1667-1677
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 33/105
A23C 11/10
A23F 3/16 - 5/24
C12G 3/04
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソキサントフモールを含み、成人1日あたり、体重60kgあたり、イソキサントフモールとして5~200mg経口摂取するものである、脂肪燃焼促進用組成物。
【請求項2】
飲食品である請求項に記載の脂肪燃焼促進用組成物。
【請求項3】
飲料である請求項1又は2に記載の脂肪燃焼促進用組成物。
【請求項4】
飲料が茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビール、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターである請求項に記載脂肪燃焼促進用組成物。
【請求項5】
脂肪燃焼」機能の表示を付した請求項1~4のいずれか一項に記載の脂肪燃焼促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質代謝促進用組成物及び脂肪蓄積抑制用組成物に関する。本発明はまた、抗肥満用組成物に関する。本発明はまた、脂質代謝を促進する方法、脂肪蓄積を抑制する方法及び肥満を予防又は改善する方法に関する。本発明はさらに、脂質代謝を促進するため、脂肪蓄積を抑制するため、又は、肥満を予防又は改善するための、イソキサントフモールの使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
高カロリーの食事、運動不足等の要因により、全身又は局所に過剰な脂肪が蓄積して肥満が生じる。肥満は、各種生活習慣病の原因となっており、社会的にも問題となっている。このため肥満の予防又は改善に有効であり、医薬品、特定保健用食品、機能性食品等への応用が可能な成分の探索に関して、精力的な研究が行われている。
【0003】
アサ科の植物であり、ビールの原料として使用されるホップ(学名:Humulus lupulus)に含まれる成分としてキサントフモールが知られている。キサントフモールは分子式がC2122で表されるポリフェノールの一種であり、特にポリフェノールの中では「プレニルカルコン」に分類される。キサントフモールの生理活性としては発がん抑制作用、抗炎症作用、抗肥満作用、骨吸収抑制作用等が報告されている。
【0004】
非特許文献1には、高脂肪食負荷モデルマウスにキサントフモールを30mg/kg/dayで反復投与した場合に、体重上昇が抑制されたこと等が記載されている。特許文献1には、キサントフモールを1%濃度で添加した餌を用いてII型糖尿病モデルマウスを飼育した場合に、体重増加の抑制傾向があったこと、腎周囲脂肪等の重量が低下したことが記載されている。
【0005】
キサントフモールは、加熱に伴い不可逆的にイソキサントフモールに構造変換される。特に、ビールの製造過程においてはその大部分がイソキサントフモールに変化することが報告されている。
【0006】
非特許文献2には、マウスマクロファージ由来細胞(J774.1)にイソキサントフモールを添加して培養すると、脂肪分解促進因子AIM(Apotosis Inhibitor of Macrophage)の発現が増強されたことが報告されている。しかし非特許文献2には、マウス脂肪前駆細胞(3T3-L1)に細胞毒性を与えない濃度でイソキサントフモールを処理した場合に、脂肪細胞への分化を抑制せず、表現系としての脂肪滴減少効果が確認できなかったことから、実際にイソキサントフモールが脂肪滴を減少させるかは不明であると記載されている。
【0007】
キサントフモールとイソキサントフモールはともにプレニル基を有するものの、前者はカルコン骨格を、後者はフラバノン骨格を部分構造として含み、互いに異なる物理化学的性質及び生理活性を示すことが報告されている。特許文献2には、抗がん作用が、キサントフモールでは非常に有効であるものの、イソキサントフモールでは非常に少ないことが記載されている。従って、キサントフモールの生理活性に関する情報に基づいてイソキサントフモールの生理活性を類推することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-306800号公報
【文献】特開2007-289185号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Arch Biochem Biophys. 2016 Jun 1;599:22-30.
【文献】細谷孝博,“脂肪分解促進因子AIMを標的としたポリフェノール成分の探索研究”、食生活科学・文化及び環境に関する研究助成研究紀要 28,21-28,2013 アサヒビール学術振興財団
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び非特許文献1より、キサントフモールが体重上昇抑制作用等を示したことが、動物実験レベルで報告されている。しかしながら、キサントフモールが加熱に伴い不可逆的に構造変換した結果生成するイソキサントフモールに関しては、このような抗肥満作用を示すことは報告されていない。非特許文献2には、イソキサントフモールがマウスマクロファージ由来細胞において脂肪分解促進因子AIMの発現を増強したことが記載されているものの、実際にイソキサントフモールが脂肪滴を減少させるかは不明であると記載されている。
また、例えば飲料製造においては食品衛生法に基づいた殺菌条件による加熱が必要であり、飲料に配合する成分には水溶性の性質が求められるため、熱安定性及び水溶性に乏しいキサントフモールを一定量以上配合した飲料の製造は難しいという問題がある。このため熱に安定で、適度な水溶性の性質を有し、なおかつ肥満の予防又は改善に資する物質が求められている。
【0011】
本発明は、熱に安定で、適度な水溶性の性質を有し、脂質代謝促進作用を有する物質を有効成分とする、脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、イソキサントフモールが脂肪蓄積抑制作用を示すことを初めて見出した。イソキサントフモールは、機能性食品素材として使用されるカテキン類と比較して、優れた脂肪蓄積抑制作用を示した。本発明者はまた、肝臓及び褐色脂肪組織中の脂質代謝関連遺伝子の発現等を調べることにより、イソキサントフモールが脂肪燃焼を促進し、脂質代謝促進作用を有することを見出した。脂質代謝促進につながるアプローチとして、脂肪合成を抑制する方法、蓄積した脂肪の分解を促進する方法、脂肪酸をエネルギーに変換する脂肪燃焼(脂肪消費)を促進する方法等が挙げられる。例えば脂肪分解とは、トリグリセリドをグリセロールと遊離脂肪酸に加水分解する反応過程を指し、脂肪組織内のリパーゼの働きによって反応が進む。脂肪燃焼とは、脂肪分解等により生成した脂肪酸を熱やATP等の形態としてエネルギーに変換する過程を指し、細胞内小器官であるミトコンドリアやペルオキシソームに局在する各種酵素の働きによって進められる反応として捉えることが出来る。従って、例えば蓄積した脂肪の分解を促進することと、脂肪燃焼を促進することは、異なる作用機序である。イソキサントフモールが脂肪燃焼を促進して脂質代謝を促進する作用を有し、これにより脂肪蓄積抑制効果、抗肥満効果を奏することは驚くべき知見であった。また本発明者は、イソキサントフモールがキサントフモールと比較して水溶性に優れることを確認し、イソキサントフモールがキサントフモールと比較して飲料適性の観点で優れることから、様々な飲料等に応用できることに想到し、本発明の完成に至った。
イソキサントフモールは、ホップ(Humulus lupulus)にも微量に含まれる物質であり、脂質代謝促進進作用等を示しかつ飲料適性に優れる。このためイソキサントフモールを配合することにより、安全性が高く、健康の維持、増進に資する機能性飲料等の開発が可能となる。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物等に関する。
本発明の脂質代謝促進用組成物は、イソキサントフモールを含む。
一態様において、本発明の脂質代謝促進用組成物は、脂肪燃焼を促進することにより脂質代謝を促進する脂質代謝促進用組成物であることが好ましい。
本発明の一態様は、脂肪酸β酸化又は熱産生促進により脂質代謝を促進する脂質代謝促進用組成物である。また、本発明の一態様は、ミトコンドリア機能の活性化により脂質代謝を促進する脂質代謝促進用組成物でもある。
本発明の脂質代謝促進用組成物は、飲食品であることが好ましい。
一実施態様において、本発明の脂質代謝促進用組成物は、飲料であることが好ましく、飲料として、茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビール、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターが好ましい。
【0014】
本発明の脂質代謝促進用組成物は、「抗肥満」、「肥満の予防」、「肥満の改善」、「ウエスト周囲径の低減」、「ウエスト周囲径の維持」、「スリムな身体の維持」、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「肝臓中の脂肪の蓄積を抑える」、「肝臓中の脂肪の低減」、「体重減少」、「減量」、「ダイエット」、「脂肪燃焼」、「脂肪消費」、「脂質代謝」、「ミトコンドリア機能」、「熱産生」、「基礎代謝」、「代謝機能」、「代謝力」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」の1又は2以上の機能の表示を付したものであってよい。
【0015】
本発明の脂肪蓄積抑制用組成物は、イソキサントフモールを含む。
一実施態様において、本発明の脂肪蓄積抑制用組成物は、内臓脂肪又は肝臓中の脂肪蓄積を抑制するために好ましく用いられる。
本発明の一態様は、脂肪燃焼を促進することにより脂肪蓄積を抑制するための脂肪蓄積抑制用組成物である。
本発明の脂肪蓄積抑制用組成物は、飲食品であることが好ましい。
一実施形態において、本発明の脂肪蓄積抑制用組成物は、飲料であることが好ましい。本発明の脂肪蓄積抑制用組成物が飲料である場合、飲料は、茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビール、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターであることが好ましい。
本発明の脂肪蓄積抑制用組成物は、「抗肥満」、「肥満の予防」、「肥満の改善」、「ウエスト周囲径の低減」、「ウエスト周囲径の維持」、「スリムな身体の維持」、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「肝臓中の脂肪の蓄積を抑える」、「肝臓中の脂肪の低減」、「体重減少」、「減量」、「ダイエット」、「脂肪燃焼」、「脂肪消費」、「脂質代謝」、「ミトコンドリア機能」、「熱産生」、「基礎代謝」、「代謝機能」、「代謝力」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」の1又は2以上の機能の表示を付したものであってよい。
本発明の脂肪蓄積抑制用組成物は、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」の1又は2以上の機能の表示を付したものであってもよい。
【0016】
本発明の抗肥満用組成物は、イソキサントフモールを含む、脂質代謝を促進して肥満を予防又は改善するための抗肥満用組成物である。
一態様において、抗肥満用組成物は、脂肪燃焼を促進することにより脂質代謝を促進する抗肥満用組成物であることが好ましい。
本発明の抗肥満用組成物は、飲食品であることが好ましい。
一実施形態において、本発明の抗肥満用組成物は、飲料であることが好ましい。本発明の抗肥満用組成物が飲料である場合、飲料は、茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビール、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターであることが好ましい。
本発明の抗肥満用組成物は、「抗肥満」、「肥満の予防」、「肥満の改善」、「ウエスト周囲径の低減」、「ウエスト周囲径の維持」、「スリムな身体の維持」、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「肝臓中の脂肪の蓄積を抑える」、「肝臓中の脂肪の低減」、「体重減少」、「減量」、「ダイエット」、「脂肪燃焼」、「脂肪消費」、「脂質代謝」、「ミトコンドリア機能」、「熱産生」、「基礎代謝」、「代謝機能」、「代謝力」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」の1又は2以上の機能の表示を付したものであってよい。
【0017】
本発明は、以下の方法及び使用も包含する。
イソキサントフモールを投与することにより、脂質代謝を促進する方法。
イソキサントフモールを投与することにより、脂肪蓄積を抑制する方法。
イソキサントフモールを投与することにより脂質代謝を促進する肥満の予防又は改善方法。
脂質代謝を促進するための、イソキサントフモールの使用。
脂肪蓄積を抑制するための、イソキサントフモールの使用。
脂質代謝を促進して肥満を予防又は改善するための、イソキサントフモールの使用。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱に安定で、適度な水溶性を示し、脂質代謝促進作用を有する物質を有効成分とする、脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、各群の体重の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01、N.S.:p≧0.10 vs.高脂肪食群)。
図2図2は、各群の精巣上体周囲脂肪重量の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01 vs.高脂肪食群)。
図3図3は、各群の腎周囲及び後腹壁周囲脂肪重量の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01 vs.高脂肪食群)。
図4図4は、各群の腸間膜周囲脂肪重量の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01 vs.高脂肪食群)。
図5図5は、各群における単位重量中の肝臓に含まれるトリグリセリド量(mg/g)を示すグラフである(#:p<0.05 vs.高脂肪食群)。
図6図6は、コントロール群及びイソキサントフモール0.2%群の呼吸商(RQ)をプロットしたグラフである。
図7図7は、肝臓におけるAcox1遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
図8図8は、肝臓におけるCpt1a遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
図9図9は、褐色脂肪組織におけるUcp1遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
図10図10は、褐色脂肪組織におけるPgc-1α遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物及び抗肥満用組成物は、イソキサントフモールを含む。
イソキサントフモールは、脂質代謝促進作用を示す。またイソキサントフモールは、脂肪蓄積抑制作用、肥満を予防又は改善する抗肥満作用を示す。また、イソキサントフモールは、体重上昇(体重増加)抑制作用を示す。従ってイソキサントフモールは、脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物及び抗肥満用組成物の有効成分として好適に使用される。本発明の脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物及び抗肥満用組成物は、イソキサントフモールを有効成分として含むことにより、脂質代謝促進効果、脂肪蓄積抑制効果、肥満の予防又は改善効果を奏する。以下では、本発明の脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物及び抗肥満用組成物をまとめて、本発明の脂質代謝促進用組成物等ともいう。一態様において、本発明の脂質代謝促進用組成物等は、体重上昇抑制用組成物として使用することもできる。
【0021】
イソキサントフモールは、例えば、ホップ(Humulus lupulus)抽出物から加熱等のプロセスを経て調製することができる。ホップ抽出物を加熱することにより、該抽出物中にイソキサントフモールを生成させることができる。ホップ抽出物は、通常、ホップの毬花を溶媒で抽出し、必要に応じて精製に係るプロセスを介して調製され、公知のホップ抽出物の調製方法により得ることができる。抽出方法として、例えば、ビール醸造に用いられるホップ抽出物の調製法として用いられる、エタノール溶媒による抽出法が挙げられる。ホップ抽出物は市販されており、市販のホップ抽出物を使用することもできる。イソキサントフモールを生成させるためのホップ抽出物の加熱は、80~140℃(より好ましくは85~100℃)で15分~5時間(より好ましくは20分~3時間)行うことが好ましい。イソキサントフモールを調製するためのホップ抽出物の精製は、公知の方法で実施される。精製方法として、例えば、HPLCや吸着カラム等の使用や、溶解度の変化を利用した析出などの方法が挙げられる。また、イソキサントフモールは、キサントフモールを加熱することによって製造することもできる。この際の加熱温度は、好ましくは80~140℃(より好ましくは85~100℃)で15分~5時間(より好ましくは20分~3時間)を採用することができる。
【0022】
イソキサントフモールは、例えば100℃の高温条件でも安定であることが報告されている。食品衛生法においては清涼飲料水の製造基準として殺菌条件が定められているが、例えばpH4.0以上のものにおいては85℃において30分間の加熱が必要である。このような殺菌工程における成分変換を考慮した場合、熱安定性が乏しいキサントフモールと比較してイソキサントフモールは飲料適性が高いと考えられる。さらに、イソキサントフモールは、キサントフモールと比較して水溶性が高いことから、例えば飲料に配合しやすいという利点もある。従って本発明によれば、脂質代謝促進作用、脂肪蓄積抑制作用及び抗肥満作用を示し、安全性が高く、健康の維持、増進に資する種々の機能性飲料を提供することが可能となる。
【0023】
本発明において、脂質代謝促進は、脂肪燃焼促進(脂肪消費促進)による脂質代謝促進であることが好ましい。
脂肪蓄積抑制は、脂肪蓄積の予防及び脂肪蓄積の低減のいずれか又は両方を包含する。本発明において、脂肪は、体脂肪であり、内臓脂肪、肝臓中の脂肪及び皮下脂肪のいずれか又は2以上であってよいが、好ましくは内臓脂肪、肝臓中の脂肪を含む。一態様において、本発明の脂質代謝促進用組成物等を脂肪蓄積を抑制するために用いる場合、内臓脂肪蓄積の抑制又は肝臓中の脂肪蓄積の抑制のために好ましく用いられる。肝臓中の脂肪蓄積を抑制することは、脂肪肝の予防又は改善にも有効である。
本明細書において、予防は、発症の防止、遅延、又は、発症率の低下を包含する。改善は、症状の軽快、症状の進行抑制、及び治癒又は完快を包含する。
イソキサントフモールは、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、飼料添加剤等に配合され、脂質代謝を促進するため、脂肪蓄積を抑制するため、肥満予防又は改善のための有効成分であり得る。肥満の予防又は改善の程度は、例えば、体脂肪の量や体重を指標として評価することができる。一態様において、イソキサントフモールは、体重上昇抑制のための有効成分としても使用され得る。
【0024】
後記の実施例に示されるように、高脂肪食を摂取させたマウスにイソキサントフモールを摂取させると、イソキサントフモールを摂取させないマウスと比較して、脂肪蓄積が抑制された。また、イソキサントフモールの摂取により、摂取させないマウスと比較して体重上昇が抑制された。このためイソキサントフモールは、例えば、高脂肪食により引き起こされる脂肪蓄積の抑制(例えば脂肪蓄積の予防)、肥満の予防又は改善、体重上昇抑制等に有効である。
【0025】
また、脂質代謝に関連する遺伝子として、Cpt1遺伝子(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1型をコードする遺伝子)、Acox1遺伝子(アシルCoA酸化酵素をコードする遺伝子)、Ucp1遺伝子(ミトコンドリア脱共役蛋白質をコードする遺伝子)、Pgc-1α遺伝子(ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子をコードする遺伝子)等が知られている。
【0026】
ミトコンドリアは、真核生物が有する細胞内小器官の一つである。ミトコンドリアの主要な機能はエネルギー供給である。
脂肪酸β酸化は、ミトコンドリア及びペルオキシソームにおいて脂肪酸からエネルギーを取り出すための重要な代謝経路の一つである。特にミトコンドリアにおいては、脂肪酸を酸化してアシルCoAを生成し、そこからアセチルCoAを取り出す代謝経路のことを指す。
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1型(carnitine O-palmitoyltransferase type I;Cpt1)は、アシルCoAをカルニチンと結合させることでミトコンドリアの内膜を通過させる役割を果たしている。Cpt1は、脂肪酸β酸化において、アシルCoAのミトコンドリアへの取り込みにおける律速段階を担う酵素であり、Cpt1の活性化により脂肪酸β酸化、ひいては脂肪燃焼が亢進する(Bulletin of Hiroshima Jogakuin University 61:139-153)。ペルオキシソームにおいてはアシルCoA酸化酵素(acyl-CoA oxidase;Acox、ACO又はFAO)が脂肪酸β酸化における初発酸化反応を触媒する。従って、Cpt1a遺伝子及びAcox1遺伝子の発現を促進することにより、脂肪酸β酸化が促進され、脂肪燃焼が促進される。
【0027】
後記の実施例に示されるように、イソキサントフモールを摂取した動物では、肝臓におけるCpt1a遺伝子及びAcox1遺伝子の発現量が増加した。このことから、イソキサントフモールは、脂肪酸β酸化を促進し、脂肪燃焼を促進することが示された。
【0028】
ミトコンドリア脱共役蛋白質(uncoupling protein;UCP)は細胞内小器官であるミトコンドリア内膜における酸化的リン酸化反応を脱共役させ、エネルギーを熱として散逸する機能を持つタンパク質である。そのうち褐色脂肪組織(BAT)のミトコンドリア内膜において発現するUCP1については特に機能解析が進んでおり、寒冷又は食物摂取によって誘導される熱産生を促す機能を担っていることが報告されている(J Biol Chem. 2006 Oct 20;281(42):31894-908.)。脂肪酸は、褐色組織脂肪内で分解を受け、UCP1の働きを受けて熱に変換される。これまでの報告により、肥満動物ではUCP1の機能が低下しているほか、人為的にUCP1の発現を低下させたマウスは肥満し高発現マウスはやせるなどの事実が知られている(第124回日本医学会シンポジウム、斉藤昌之、4.エネルギー代謝調節機構―UCPを中心に)。上記より、Ucp1遺伝子の発現量を高めることにより、熱産生が促進され、脂肪燃焼が促進される。脂肪燃焼が促進されることにより、脂肪蓄積抑制効果、抗肥満効果が得られる。
【0029】
ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子(peroxisome proliferator-activated receptor c coactivator 1;PGC-1α)は、交感神経活動の亢進によって誘導され、ミトコンドリアの合成を正に制御する転写活性補助因子であるとともに、脂肪組織におけるUcp1遺伝子発現を正に制御し、脂質代謝調節機能を示す(PLoS One. 2013;8(5):e64123.)。従って、褐色脂肪組織におけるPgc-1α遺伝子の発現を促進することにより、Ucp1遺伝子の発現が促進され、脂肪燃焼が促進される。
【0030】
後記の実施例に示されるように、イソキサントフモールを摂取した動物では、褐色脂肪組織におけるUcp1遺伝子及びPgc-1α遺伝子の発現量が増加した。このことから、イソキサントフモールの摂取により熱産生に関わる遺伝子発現が変動し、その結果、脂肪燃焼が促進されることが示唆される。
また、ミトコンドリアにおけるCpt1遺伝子、Ucp1遺伝子等の遺伝子の発現促進は、ミトコンドリア機能を活性化する。従ってイソキサントフモールは、ミトコンドリア機能活性化作用を有する。
【0031】
従ってイソキサントフモールは、脂肪燃焼を促進するために有用である。イソキサントフモールは、脂肪燃焼を促進し、脂質代謝を促進することができる。イソキサントフモールを含む本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂肪燃焼を促進するために使用され得る。
また、イソキサントフモールは、脂肪酸β酸化を促進し、これによって、脂肪燃焼を促進することができる。脂肪酸β酸化の促進は、Cpt1遺伝子又はAcox遺伝子発現促進によるものであり得る。イソキサントフモールを含む本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂肪酸β酸化促進により脂質代謝を促進するために使用され得る。
また、イソキサントフモールは、熱産生を促進し、この作用により脂質代謝を促進することができる。例えば、褐色脂肪組織における熱産生を促進することにより、脂肪燃焼を促進することができる。褐色脂肪組織における熱産生は、例えば、褐色脂肪組織におけるUcp1遺伝子又はPgc-1α遺伝子発現促進によるものであり得る。本発明の一態様において、脂質代謝促進用組成物等は、褐色脂肪組織における熱産生促進により、脂質代謝を促進するために使用され得る。
また、イソキサントフモールは、例えば、ミトコンドリア機能活性化により、脂肪燃焼を促進することができる。従って本発明の脂質代謝促進用組成物等は、ミトコンドリア機能活性化により脂質代謝を促進するためにも使用され得る。
本発明の一態様において、脂質代謝促進用組成物等は、例えば、脂肪酸β酸化促進又は熱産生促進により脂質代謝を促進する脂質代謝促進用組成物等である。また一態様において、脂質代謝促進用組成物等は、ミトコンドリア機能活性化により脂質代謝を促進する脂質代謝促進用組成物である。
【0032】
イソキサントフモールは、脂質代謝促進作用を有し、この作用によって脂肪蓄積を抑制し、肥満の予防又は改善効果を奏することができる。従って本発明の一態様は、脂質代謝を促進(好ましくは、脂肪燃焼を促進することにより脂質代謝を促進)して肥満を予防又は改善するための、抗肥満用組成物である。上記抗肥満用組成物は、脂肪燃焼を促進することにより肥満を予防又は改善するためのものであってよい。また、本発明の一態様は、脂肪燃焼を促進することにより脂肪蓄積を抑制するための、脂肪蓄積抑制用組成物である。本発明の一態様は、脂質代謝を促進することにより脂肪蓄積を抑制するための脂質代謝促進用組成物;脂質代謝促進により肥満を予防又は改善するための脂質代謝促進用組成物でもある。本発明は一態様において、脂質代謝を促進することにより体重上昇を抑制するための体重上昇抑制用組成物も含む。
【0033】
本発明の脂質代謝促進用組成物等はイソキサントフモールを含み、脂質代謝を促進するため、脂肪蓄積を抑制するために使用することができる。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂質代謝促進作用を示し、肥満の予防又は改善のため、体重上昇抑制のために使用することもできる。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、治療用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。
本発明の脂質代謝促進用組成物等は、例えば、飲食品(飲食品組成物)、医薬品(医薬品組成物)、医薬部外品(医薬部外品組成物)、飼料(飼料組成物)、飼料用添加剤等の形態とすることができる。本発明の脂質代謝促進用組成物等は経口摂取用の組成物として好適であり、飲食品としてより好適に用いられる。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂質代謝を促進するため、脂肪蓄積を抑制するため、肥満の予防又は改善のため又は体重上昇抑制のための、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、飼料用添加剤等として好適に使用される。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、それ自体が、このような目的のために使用される飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、飼料用添加剤等であってもよく、これらに配合して使用される原料又は製剤であってもよい。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。当該剤をそのまま組成物として、又は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。
【0034】
本発明の脂質代謝促進用組成物等には、本発明の効果を損なわない限り、イソキサントフモールに加えて、その他の成分を配合することができる。その他の成分としては、例えば、後述する飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、飼料用添加剤等に使用し得る成分が挙げられる。飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、飼料用添加剤等は、配合成分に応じて常法により製造することができる。
本発明の脂質代謝促進用組成物等の形態は特に限定されず、粉末状、顆粒状、ペースト状、固形状、液状等のいずれであってもよい。
【0035】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を飲食品とする場合、飲食品は特に限定されない。例えば、一般的な飲食品、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用飲食品、食品添加剤等が挙げられる。上記健康食品、機能性表示食品は、例えば、細粒剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、シロップ剤、液剤、流動食等の各種製剤形態として使用することができる。
脂質代謝促進用組成物等を飲食品とする場合、例えば、イソキサントフモールを、飲食品を製造するのに通常配合する物質(例えば、任意の飲食品原料)と組み合わせて使用してよい。
【0036】
飲食品の形態は特に限定されず、種々の形態とすることができるが、例えば、飲料、菓子類、サプリメント等が挙げられる。
本発明の脂質代謝促進用組成物等の好ましい形態の一例として、飲料が挙げられる。飲料は、ノンアルコール飲料、アルコール飲料のいずれであってもよい。ノンアルコール飲料として、例えば、茶系飲料、コーヒー飲料、ノンアルコールビール、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料、フレーバーウォーター等が挙げられる。
【0037】
本発明の脂質代謝促進用組成物等が飲料である場合、茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビール、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターであることが好ましい。
本発明の脂質代謝促進用組成物等が茶系飲料である場合、紅茶飲料又は無糖茶飲料であることが好ましい。無糖茶飲料として、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、麦茶飲料、玄米茶飲料、ハト麦茶飲料、無糖の紅茶飲料等が挙げられる。
本発明の脂質代謝促進用組成物等がコーヒー飲料である場合、容器詰コーヒー又はリキッドコーヒーであることが好ましい。
【0038】
アルコール飲料としては、ビール、ビール系飲料、ビール及びビール系飲料以外のアルコール飲料が挙げられる。
本発明の脂質代謝促進用組成物等がビール系飲料である場合、発泡酒又は第三のビールであることが好ましい。
本発明の脂質代謝促進用組成物等がビール及びビール系飲料以外のアルコール飲料である場合、焼酎、チューハイ、リキュール、カクテル、スピリッツ、ウイスキーであることが好ましい。
【0039】
本明細書における「ノンアルコールビール」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料を意味し、非発酵のノンアルコールタイプのものであり、これはアルコールを実質的に含まない。ここで、ノンアルコールビールは、検出できない程度の極く微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。
【0040】
本発明の脂質代謝促進用組成物等が炭酸飲料である場合、コーラフレーバー飲料、透明炭酸飲料、ジンジャエール、果汁系炭酸飲料、乳類入炭酸飲料又は無糖炭酸飲料であることが好ましい。
本発明の脂質代謝促進用組成物等が機能性飲料である場合、スポーツドリンク、エナジードリンク、健康サポート飲料又はパウチゼリー飲料であることが好ましい。
【0041】
本発明の脂質代謝促進用組成物等が果実・野菜系飲料である場合、100%果実飲料、果実入飲料、低果汁入清涼飲料、果粒含有果実飲料又は果肉飲料であることが好ましい。
本発明の脂質代謝促進用組成物等が乳性飲料である場合、牛乳、ドリンクヨーグルト、乳酸菌飲料又は乳類入清涼飲料であることが好ましい。
本発明の脂質代謝促進用組成物等が豆乳飲料である場合、豆乳又は大豆飲料であることが好ましい。
【0042】
飲料の形態は特に限定されず、容器詰飲料とすることができる。容器詰飲料の容器は特に限定されず、いずれの形態及び材質の容器を用いてもよく、例えば、アルミ缶、スチール缶等の金属製容器;ペットボトル等の樹脂製容器;紙パック等の紙容器;ガラス瓶等のガラス製容器;樽等の木製容器等の通常用いられる容器のいずれも用いることができる。このような容器に飲料を充填及び密閉することにより、容器詰飲料が得られる。
【0043】
飲食品は、例えば、イソキサントフモールを、飲食品の製造に使用される物質(例えば、任意の飲食品原料)に配合して調製することができる。また、飲食品の製造においてホップ抽出物を配合し、該ホップ抽出物を加熱する工程を行うことによって、イソキサントフモールを含有する飲食品を製造することもできる。飲食品には、後述するように、イソキサントフモールの溶解性を向上させるために、γ-シクロデキストリン及び/又はβ-シクロデキストリンを配合してもよい。
【0044】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を医薬品又は医薬部外品とする場合、医薬品又は医薬部外品の投与(摂取)形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射等が挙げられるが、経口投与が好ましい。経口投与のための製剤の剤型としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与のための製剤の剤型としては、注射剤、吸入剤、輸液剤、坐薬、経皮吸収剤、点鼻剤、点眼剤、クリーム、ゲル、ローション等が挙げられる。
【0045】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を医薬品又は医薬部外品として提供する場合、例えば、イソキサントフモールを、医薬品又は医薬部外品に許容される担体、必要に応じて添加される添加剤等と組み合わせて使用してよい。そのような担体、添加剤等は、医薬品又は医薬部外品に許容されるものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられる。
【0046】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を医薬品又は医薬部外品とする場合、これらの製造方法も特に限定されず、自体公知の方法により製造すればよい。例えば、医薬品又は医薬部外品の製造において、イソキサントフモールを配合すればよい。また、医薬品又は医薬部外品の製造においてホップ抽出物を配合し、該ホップ抽出物を加熱する工程を行うことによって、イソキサントフモールを含有する医薬品又は医薬部外品を製造することもできる。
【0047】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を飲食品、医薬品及び医薬部外品とする場合、イソキサントフモールの含量は特に限定されず、その形態等に応じて設定することができる。例えば、イソキサントフモールの含量は、脂質代謝促進用組成物等中に0.0001重量%以上が好ましく、また、90重量%以下が好ましい。一態様において、イソキサントフモールの含量は、脂質代謝促進用組成物等中に0.0001~90重量%が好ましく、0.0003~90重量%がより好ましく、0.001~50重量%がさらに好ましく、0.003~30重量%が特に好ましい。
【0048】
例えば、脂質代謝促進用組成物等を飲料とする場合、イソキサントフモール濃度は、飲料中に0.001~0.050重量%が好ましく、0.003~0.030重量%がより好ましい。例えば、200~500mLの容量を有する容器詰飲料の場合、該飲料中に、イソキサントフモールを5~100mg含有することが好ましく、15~60mgがより好ましい。
【0049】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を飲食品、医薬品又は医薬部外品として用いる場合のイソキサントフモールの投与量又は摂取量は、脂質代謝促進効果、脂肪蓄積抑制効果等が得られる量であればよく、対象者の状態、体重、年齢、性別等の要因によって適宜設定すればよい。例えば、成人のヒトであれば、イソキサントフモールとして、1日当たり体重60kgで、好ましくは5~200mgであり、より好ましくは5~100mg、さらに好ましくは15~60mgである。上記量を、1日1回~数回に分けて、経口摂取又は経口投与することが好ましい。
【0050】
本発明の脂質代謝促進用組成物等を飼料、飼料用添加剤とする場合には、イソキサントフモールを飼料、飼料添加剤に配合すればよい。飼料としては、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料;ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料;犬、猫、小鳥等に用いるペットフードなどが挙げられる。飼料を製造する場合は、例えば、イソキサントフモールに、これらの動物に一般的に用いられる飼料原料及び所望により配合される添加剤を配合して、常法により飼料を製造することができる。飼料、飼料用添加剤におけるイソキサントフモールの含量は特に限定されず、例えば、飼料、飼料用添加剤中に0.0001重量%以上が好ましく、また、90重量%以下が好ましく、一態様において、0.0001~90重量%が好ましく、0.0003~90重量%がより好ましく、0.001~50重量%がさらに好ましく、0.003~30重量%が特に好ましい。
【0051】
本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂質代謝促進作用、脂肪蓄積抑制作用、抗肥満作用、体重上昇抑制作用を示すため、例えば、ウエスト周囲径の低減、ウエスト周囲径の維持、スリムな身体の維持、体脂肪の蓄積を抑える、体脂肪の低減、内臓脂肪の蓄積を抑える、内臓脂肪の低減、体重減少(減量)、ダイエット、メタボリックシンドロームの予防又は改善等のために有用であり、このような目的のために使用することができる。例えば、脂肪蓄積抑制用組成物は、体脂肪の蓄積を抑える、体脂肪の低減、内臓脂肪の蓄積を抑える、内臓脂肪の低減、肝臓中の脂肪の蓄積を抑える、肝臓中の脂肪の低減、メタボリックシンドロームの予防又は改善の1又は2以上の作用を得るために有用である。
【0052】
本発明の脂質代謝促進用組成物等には、脂質代謝促進作用又は脂肪蓄積抑制作用に基づく機能の表示が付されていてもよい。また、抗肥満作用又は体重上昇抑制作用に基づく機能の表示が付されていてもよい。
本発明の脂質代謝促進用組成物等には、例えば、「抗肥満」、「肥満の予防」、「肥満の改善」、「ウエスト周囲径の低減」、「ウエスト周囲径の維持」、「スリムな身体の維持」、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「肝臓中の脂肪の蓄積を抑える」、「肝臓中の脂肪の低減」、「体重減少」、「減量」、「ダイエット」、「脂肪燃焼」、「脂肪消費」、「脂質代謝」、「ミトコンドリア機能」、「熱産生」、「基礎代謝」、「代謝機能」、「代謝力」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。
また、例えば、本発明の抗肥満用組成物及び脂肪蓄積抑制用組成物には、「抗肥満」、「肥満の予防」、「肥満の改善」、「ウエスト周囲径の低減」、「ウエスト周囲径の維持」、「スリムな身体の維持」、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「体重減少」、「減量」、「ダイエット」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」等の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。一実施形態において、本発明の脂肪蓄積抑制用組成物に表示を付す場合は、「体脂肪の蓄積を抑える」、「体脂肪の低減」、「内臓脂肪の蓄積を抑える」、「内臓脂肪の低減」、「メタボリックシンドロームの予防」及び「メタボリックシンドロームの改善」の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。脂質代謝促進用組成物には、「脂肪燃焼」、「脂肪消費」、「脂質代謝」、「ミトコンドリア機能」、「熱産生」、「基礎代謝」、「代謝機能」及び「代謝力」の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよく、「脂肪燃焼」、「脂肪消費」及び「脂質代謝」の1又は2以上の機能の表示が付されていてもよい。
本発明の一実施態様において、本発明の脂質代謝促進用組成物等は、上記の表示が付された飲食品であることが好ましい。また上記機能の表示は、該機能を得るために用いる旨の表示であってもよい。
【0053】
本発明の脂質代謝促進用組成物等の摂取又は投与対象は、好ましくは動物であり、脊椎動物がより好ましく、さらに好ましくは哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)である。中でも、本発明の脂質代謝促進用組成物等の摂取又は投与対象は、ヒトが好ましい。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂質代謝の促進が必要な対象、脂肪蓄積の抑制が必要な対象、肥満の予防又は改善が必要な対象に好適に使用される。また、本発明の脂質代謝促進用組成物等は、脂質代謝の促進、脂肪蓄積の抑制、肥満の予防又は改善等を希望する対象に好適に使用することができる。本発明の脂質代謝促進用組成物等は、体重上昇の抑制が必要な対象又は体重上昇の抑制を希望する対象に使用することもできる。
【0054】
イソキサントフモールを投与することにより、脂質代謝を促進する方法も本発明に包含される。イソキサントフモールを投与することにより、脂肪蓄積を抑制する方法も本発明に包含される。イソキサントフモールを投与することを含む、肥満の予防又は改善方法も本発明に包含される。肥満の予防又は改善方法は、好ましくは、イソキサントフモールを投与することにより脂質代謝を促進する肥満の予防又は改善である。
イソキサントフモールを投与することにより、体重増加を抑制する方法も本発明に包含される。
上記方法においては、脂質代謝促進効果(例えば脂肪燃焼促進効果)、脂肪蓄積抑制効果等が得られる量(有効量ということもできる)のイソキサントフモールを対象に投与すればよい。イソキサントフモールの好ましい投与量や投与対象等は上述した本発明の脂質代謝促進用組成物等の場合と同じである。例えば、投与は、好ましくは経口投与である。イソキサントフモールは、そのまま投与してもよく、イソキサントフモールを含む組成物として投与してもよい。例えば、上述した本発明の脂質代謝促進用組成物等を投与してもよい。上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。「非治療的」とは、医療行為、すなわち手術、治療又は診断を含まない概念である。
【0055】
本発明は、以下の使用も包含する。
脂質代謝を促進するための、イソキサントフモールの使用。
脂肪蓄積を抑制するための、イソキサントフモールの使用。
体重増加抑制のためのイソキサントフモールの使用。
肥満を予防又は改善するための、イソキサントフモールの使用。肥満を予防又は改善するための使用において、イソキサントフモールは、好ましくは、脂質代謝を促進して肥満を予防又は改善するために使用される。
イソキサントフモールは、脂肪燃焼を促進するためにも好適に使用される。
上記の使用は、動物(好ましくは哺乳動物)における使用である。使用は、治療的使用であってもよく、非治療的使用であってもよい。
イソキサントフモールの使用量(投与量)等は上述した本発明の脂質代謝促進用組成物等の場合と同じである。イソキサントフモールの使用においては、イソキサントフモールをそのまま使用してもよく、イソキサントフモールを含有する組成物として使用してもよい。例えば、上述した本発明の脂質代謝促進用組成物等を使用してもよい。
また、イソキサントフモールは、上記目的のために使用される飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料、飼料添加剤等の製造のために使用することができる。本発明は一態様において、脂質代謝促進用組成物、脂肪蓄積抑制用組成物又は抗肥満用組成物を製造するための、イソキサントフモールの使用、も包含する。
上記方法及び使用において、脂質代謝促進及び脂肪蓄積抑制は、上記と同じである。例えば脂質代謝の促進は、好ましくは脂肪燃焼促進による脂質代謝の促進である。脂質代謝の促進は、脂肪酸β酸化又は熱産生促進による脂質代謝の促進であってよい。脂質代謝の促進は、ミトコンドリア機能の活性化による脂質代謝の促進であってもよい。
脂肪蓄積の抑制は、好ましくは、内臓脂肪又は肝臓中の脂肪蓄積の抑制である。イソキサントフモールは、好ましくは、脂肪燃焼を促進することにより脂肪蓄積を抑制するために使用される。
【0056】
本発明は、以下のイソキサントフモールの溶解性を向上させる方法等も包含する。
<1>イソキサントフモールを含む組成物に、ホップ抽出物、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1種を配合する、イソキサントフモールの溶解性を向上させる方法。
<2>イソキサントフモールの溶解性を向上させるための、ホップ抽出物、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1種の使用。
<3>ホップ抽出物、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む、イソキサントフモールの溶解性向上剤。
溶解性は、好ましくは水に対する溶解性(水溶性)である。ホップ抽出物、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンは、イソキサントフモールの溶解性向上効果を示す。これらを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ホップ抽出物としては、ホップの毬花の水抽出液、その濃縮物又は乾燥物等を使用することができる。
【0057】
イソキサントフモールの溶解性向上効果が高い点からは、γ-シクロデキストリンを使用することが好ましい。後記の実施例に示されるように、例えば、氷冷条件下で、イソキサントフモールを含む水溶液にγ-シクロデキストリンを0.2(w/v)%配合すると、イソキサントフモールのみを溶解させる場合と比較して、イソキサントフモールの溶解度が約5倍向上した。上記条件下で、イソキサントフモールを含む水溶液にγ-シクロデキストリンを1.0(w/v)%配合すると、イソキサントフモールのみを溶解させる場合と比較して、イソキサントフモールの溶解度が約18倍向上した。
【0058】
イソキサントフモールを含む組成物にホップ抽出物、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1種を配合する場合、その配合量は、溶解性向上効果が得られる範囲であればよい。イソキサントフモールの溶解性向上の観点から、例えば、β-シクロデキストリンの配合量は、組成物中に0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上がより好ましく、0.2~1.0重量%がさらに好ましい。γ-シクロデキストリンの配合量は、組成物中に0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上がより好ましく、0.2~1.0重量%がさらに好ましい。
【0059】
イソキサントフモールの溶解性向上の観点から、β-シクロデキストリンの配合量は、イソキサントフモールに対して重量比(β-シクロデキストリン/イソキサントフモール)で10~3000が好ましく、38~1587がより好ましい。γ-シクロデキストリンの配合量は、イソキサントフモールに対して重量比(γ-シクロデキストリン/イソキサントフモール)で10~3000が好ましく、17~1587がより好ましい。
【0060】
本発明は、以下の組成物も包含する。
(A)β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1種、及び、(B)イソキサントフモールを含む組成物。
イソキサントフモールの溶解性向上の観点から、上記(A)及び(B)の配合比の好ましい範囲は、上記の通りである。上記(A)及び(B)を含む組成物は、上述した本発明の脂質代謝促進用組成物等として使用してもよい。
【実施例
【0061】
以下、本発明をより具体的に説明する実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
一連の動物実験は、動物愛護管理法他関連法令を遵守し、社内動物実験委員会の審査を経て機関の長が承認した計画に基づき実施した。
【0063】
<調製例1>
キサントフモール及びイソキサントフモールの調製
ホップ抽出物(アサマ化成社製)から、以下の方法でイソキサントフモール及びキサントフモールを単離精製した。すなわち、順相カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、分取HPLC精製によりホップ抽出物を原料に、イソキサントフモール及びキサントフモールをそれぞれ精製し、HPLC分析により純度が95%以上であることを確認した。なおHPLC分析においては、カラムとしてDevelosil C30-UG-5(野村化学社)を使用し、検出器の紫外線吸収測定波長は280nm(イソキサントフモール)及び350nm(キサントフモール)とした。
得られたイソキサントフモール及びキサントフモールを、それぞれ標品(いずれも純度95%以上)として以下の実験で使用した。
【0064】
<実施例1>
高脂肪食負荷モデルにおけるイソキサントフモールの抗肥満作用に関する評価
高脂肪食負荷に伴う体重上昇及び脂肪蓄積に与えるイソキサントフモールの影響を、以下の手順で検討した。
【0065】
(群構成)
本試験における群構成(群名、基礎飼料、被験物質及び被験物質の投与量)を表1に示す。
なお表中、普通食は「コントロール飼料」(D12450J)(製品名)を、60kcal%高脂肪食は「超高脂肪飼料」(D12492)(製品名)(以上、Research Diets社製)を、カテキン類は製剤として「ポリフェノン70A」(製品名、三井農林社製)を使用した。キサントフモール及びイソキサントフモールは、調製例1で得られた標品(純度95%以上)を使用した。表中の「投与量」は、体重1kgあたり、1日当たりの被験物質の投与量(mg)である。
【0066】
【表1】
【0067】
(評価項目)
主要評価項目は、各個体における体重及び脂肪重量(精巣上体周囲脂肪、腎周囲・後腹壁周囲脂肪、腸間膜周囲脂肪)(いずれも最終日:投与55日)とした。
【0068】
(馴化及び群分け)
マウス(C57BL/6J、雄性、7週齢、日本クレア社)を入荷して1週間検疫及び馴化した後、一般状態観察において異常の認められなかった動物より、体重推移を基準に動物を選択した。選択した動物は、馴化期間終了時の体重による層別連続無作為化法により、表1に示す群構成中の各群(1群につきn=8)に割り付け、所定の基礎飼料及び水は自由摂取できる状況で飼育を行った。
【0069】
(被験物質投与の方法)
被験物質を8週間、1日1回経口投与を行った。
なお、被験物質の投与は投与開始日を投与0日と定義して投与55日まで実施し、この間を投与期間とした。投与期間中、飼料は週2回の頻度ですべて交換した。なお投与液量は10mL/kgとし、投与日における最新体重を基準として被験物質量及び液量を算出した。
【0070】
(組織の摘出及び重量測定)
投与期間終了後、脂肪組織(精巣上体周囲脂肪、腎周囲・後腹壁周囲脂肪、腸間膜周囲脂肪)を摘出し、重量測定を行った。
【0071】
(統計解析)
統計解析は以下のように実施した。すなわち、体重、脂肪重量について各群で平均値及び標準誤差を算出した。なお統計処理はMicrosoft Office Excel 2003を用いて実施し、有意差検定は、普通食群と高脂肪食群との間、及び、高脂肪食群と普通食群を除く各群との間で行った。統計手法はF検定により等分散性の検定を行い、等分散の場合にはStudentのt検定を、不等分散の場合はAspin-Welchのt検定を行った。
【0072】
(結果)
各群の体重及び脂肪重量(精巣上体周囲脂肪、腎周囲・後腹壁周囲脂肪及び腸間膜周囲脂肪)の平均値(n=8)を図1~4に示す。図1~4中、XNはキサントフモール、IXはイソキサントフモールである。図1~4に示す結果は、いずれも最終日(投与55日)の測定結果である(有意差は、高脂肪食群に対する有意差)。
図1は、各群の体重の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01、N.S.:p≧0.10 vs.高脂肪食群)。
図2は、各群の精巣上体周囲脂肪重量の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01 vs.高脂肪食群)
図3は、各群の腎周囲・後腹壁周囲脂肪重量の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01 vs.高脂肪食群)。
図4は、各群の腸間膜周囲脂肪重量の平均値を示すグラフである(#:p<0.05、##:p<0.01 vs.高脂肪食群)。
【0073】
高脂肪食群と比較して、イソキサントフモール中用量群(60mg/kg)では体重が低い傾向があり、精巣上体周囲脂肪、腸間膜周囲脂肪重量が有意に低かった。イソキサントフモール高用量群(180mg/kg)では体重及び全ての脂肪重量が有意に低いという結果が得られた。また、イソキサントフモール中用量群(60mg/kg)における体重の平均値はキサントフモール中用量群(60mg/kg)と同等であり、イソキサントフモール高用量群(180mg/kg)における体重の平均値はカテキン類群(300mg/kg)と同等以上であった。以上より、イソキサントフモールの抗肥満作用及び脂肪蓄積抑制作用はキサントフモールと同等の強度であり、カテキン類と比較して強力であることが示された。
【0074】
<実施例2>
肝臓のトリグリセリド(TG)量測定
実施例1において摘出した肝臓を用いて、肝臓中中性脂肪量(トリグリセリド量、TG量ともいう)を測定した。詳細には、摘出した肝臓を約30mgとなるよう切り取り、メタノール(ナカライテスク社製):クロロホルム(ナカライテスク社製)=1:1で混合した溶液を1mL添加し、ビーズビーターで粉砕することにより肝臓中トリグリセリドを抽出した。遠心処理(12000g、15分間)の後、上清を回収して溶液留去し、イソプロパノールを添加して再溶解することによりサンプルを調整した。トリグリセライドE-テストワコー(Wako社)を用いてサンプル中に含まれるトリグリセリド量を測定し、単位重量中の肝臓に含まれるトリグリセリド量(mg/g)を算出した。データは平均値±標準誤差で表示し、統計学的検定はStudent’s t-testを用いてp<0.05で有意差ありとした。
【0075】
(結果)
各群における単位重量中の肝臓に含まれるトリグリセリド量(mg/g)を図5に示す(#:p<0.05 vs.高脂肪食群)。図5において、XNはキサントフモール、IXはイソキサントフモールである。肝臓中トリグリセリド(TG)量測定の結果、イソキサントフモール投与群における肝臓中中性脂肪量は高脂肪食群と比較して有意に低く、作用の強さはキサントフモールと比較しても強いという結果が得られた。すなわちイソキサントフモールによる肝臓中中性脂肪蓄積抑制作用が確認された。
【0076】
<実施例3>
イソキサントフモールの摂取が脂肪燃焼に与える影響の評価
イソキサントフモールの摂取が脂肪燃焼に与える影響を、呼気分析装置Oxymax(バイオリサーチセンター社製)を用いて以下の手順で検討した。
【0077】
(群構成、馴化及び群分け)
群構成は「コントロール群」と「イソキサントフモール0.2%群」の2群とした。マウス(C57BL/6J、雄性、14週齢、日本クレア社)8匹を入荷して約1週間馴化した後、体重による層別連続無作為化法により、「コントロール群」と「イソキサントフモール0.2%群」(各群につきn=4)に割り付けた。基礎飼料は「コントロール飼料」(D12450J)(Research Diets社製)を使用した。試験期間中、「コントロール群」においては基礎飼料を用いて飼育し、「イソキサントフモール0.2%群」においては、被験物質(調製例1で得られたイソキサントフモール)を基礎飼料に対して0.2%(重量比)の割合で配合した混餌を用いて飼育した。
【0078】
(試験期間中の操作)
試験期間(被験物質を摂取し、呼気分析を行う期間)は7日間とし、試験期間中はテストチャンバー内において、飼料及び水は自由摂取できる状況で飼育を行った。Oxymax(バイオリサーチセンター社製)を用いて各個体における酸素消費量(VO)と二酸化炭素産出量(VCO)を経時的に測定し、記録した。
【0079】
(解析方法)
各時点における酸素消費量(VO)と二酸化炭素産出量(VCO)から、呼吸商(RQ)を以下の(式1)を用いて算出した。
(式1)
呼吸商(RQ)=二酸化炭素産出量(VCO)/酸素消費量(VO
【0080】
なお、呼吸商(RQ)は、脂肪燃焼(脂肪消費)割合が高まると低値を示す。各時点における呼吸商(RQ)について、明期(午前7時~午後7時)、暗期(午後7時~午前7時)ごとに平均値と標準誤差を算出し、グラフの縦軸にプロットした。コントロール群及びイソキサントフモール0.2%群の呼吸商(RQ)をプロットしたグラフを図6に示す(横軸は、1日目の暗期から7日目の明期まで、評価期間の順にプロットしている)。図6のグラフでは、黒がコントロール群、白がイソキサントフモール0.2%群である。
【0081】
(統計解析)
統計解析はMicrosoft Office Excel 2003を用いて実施した。有意差検定は、各期間における「コントロール群」と「イソキサントフモール0.2%群」の間において、Student’s t-test(有意水準:5%)により行った(*:p<0.05)。
【0082】
(結果)
イソキサントフモール0.2%群では、コントロール群と比較して呼吸商(RQ)の値が低かった。すなわち、イソキサントフモールの摂取によって脂肪燃焼(脂肪消費)が高まるという結果が得られた。
【0083】
<実施例4>
イソキサントフモールの摂取が脂肪燃焼に関わる遺伝子発現に与える影響
高脂肪食負荷モデルを用いて、イソキサントフモールの摂取が脂肪燃焼に関わる遺伝子発現に与える影響を、以下の手順で検討した。
【0084】
(群構成、馴化及び群分け)
マウス(C57BL/6J、雄性、8週齢、日本クレア社)32匹を入荷して約1週間馴化した後、体重による層別連続無作為化法により、表2に示す群構成中の各群(1群につきn=8)に割り付けた。本試験における群構成(群名、基礎飼料、被験物質及び被験物質の投与量)を表2に示す。なお表2中、普通食は「コントロール飼料」(D12450J)を、60kcal%高脂肪食は「超高脂肪飼料」(D12492)(以上、ResearchDiets社製)を使用した。被験物質として用いるイソキサントフモールは、調製例1で得られた標品(純度95%以上)を使用した。表中の「投与量」は、体重1kgあたり、1日当たりの被験物質の投与量(mg)である。
【0085】
【表2】
【0086】
(試験期間中の操作)
試験期間は14日間とし、試験期間中は1日1回、溶媒及び被験物質の経口投与を行った。投与液はカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)0.5%水溶液を溶媒として使用し、投与液量は10mL/kgとした。液量は投与日における最新体重を基準として被験物質量及び液量を算出した。飼料及び水は自由摂取できる状況で飼育を行った。
【0087】
(組織の摘出)
試験期間の最終日に、肝臓と褐色脂肪組織を摘出した。
【0088】
(脂質代謝関連遺伝子発現の検討)
摘出した肝臓及び褐色脂肪組織を用いて、脂質代謝に関連する複数の遺伝子発現にイソキサントフモールの摂取が与える影響を検討した。この検討によって、イソキサントフモールの脂質代謝に係る機能性を探索することができる。詳細には、Qiazol(製品名、キアゲン社)を用いて肝臓及び褐色脂肪組織細胞からRNAを抽出し、RNeasy Mini Kit(製品名、キアゲン社)を用いてRNAを精製した。High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(製品名、ライフテクノロジーズ社)を使用してcDNAを合成し、Fast Universal PCR Master Mix(製品名、ライフテクノロジーズ社)を用いた定量的PCR(TaqManプローブ法)により表3に示す遺伝子に関して遺伝子発現量を調べた。表3には、使用したプライマー(製品番号、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)も示した。解析には内部標準遺伝子として18S rRNA遺伝子を用いた比較Ct法を適用し、18S rRNA遺伝子により補正することで遺伝子発現量を算出した。結果を図7~10に示す。なお、遺伝子発現量は普通食群(Control、被験物質非添加群)に対する相対発現量で示した。データは平均値±標準誤差で表示し、統計学的検定はStudent’s t-testを用いてp<0.05で有意差ありとした。
【0089】
【表3】
【0090】
図7は、肝臓におけるAcox1遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
図8は、肝臓におけるCpt1a遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
図9は、褐色脂肪組織におけるUcp1遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
図10は、褐色脂肪組織におけるPgc-1α遺伝子の相対発現量(普通食群(Control)を1としたときの相対値)を示す(*:p<0.05)。
データは平均値±標準誤差で表示し、統計学的検定はStudent’s t-testを用いてp<0.05で有意差ありとした。
図7~10中、HFは、高脂肪食群、IXは、イソキサントフモール投与群である。
【0091】
(結果)
上記検討から、イソキサントフモールの摂取によって肝臓におけるCpt1a遺伝子及びAcox1遺伝子の遺伝子発現量が有意に上昇した。このことから脂肪酸β酸化が亢進し、その結果、脂肪燃焼が高まっていることが示唆される。また上記検討により、イソキサントフモールの摂取によって褐色脂肪組織におけるPgc-1α遺伝子が有意に上昇した。このことから、熱産生に関わる遺伝子が変動し、その結果、脂肪燃焼が高まっていることが示唆される。
【0092】
<試験例1>
氷冷条件におけるキサントフモール及びイソキサントフモールの溶解性の評価
キサントフモール及びイソキサントフモールの標品を用いて、氷冷条件における水(実験A)及び各種溶媒(実験B)への溶解性を検討し、飲料適性を評価した。キサントフモール及びイソキサントフモールは調製例1で得た標品(純度95%以上)をそれぞれ使用した。
【0093】
(手順)
(実験A:キサントフモール、イソキサントフモールの水への溶解性の検討)
蒸留水に対して0.2(w/v)%に相当する重量のキサントフモール又はイソキサントフモールを添加した試料を準備し、氷冷条件においてボルテックスによる撹拌を10秒以上、振盪を約60分間行うことで、それぞれの標品を可能な限り蒸留水に溶解させた。さらに遠心分離(12,000rpm、4℃、5分間)を行い、上清を回収する操作を3回繰り返すことで、最終的に取得した上清をキサントフモール飽和水溶液及びイソキサントフモールの飽和水溶液とした。25%エタノール水溶液で100倍希釈したものを分析用サンプルとし、LC-MS/MSシステム(TSQ Quantiva、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて定量解析することで水への溶解性を評価した。上清におけるキサントフモール、イソキサントフモールそれぞれの濃度(ppm)を表5に示す。特に断らない場合、ppmはppm(w/v)を表す。キサントフモール及びイソキサントフモール検量線は、調製例1で得た標品を使用して作成した。
【0094】
キサントフモール、イソキサントフモールのLC-MS/MS測定条件を以下に示す。
<LC-MS/MSの分析条件>
[HPLC条件]
移動相は以下の溶媒を使用し、下記の基本条件、グラジェント条件を適用した。
(基本条件)
装置:UltiMate 3000(製品名、サーモサイエンティフィック社)
流速:0.25mL/分
分析時間:17.0分/サンプル
カラム:Atlantis T3, 2.1×150(mm),粒子径3μm
カラム温度:40℃
(移動相)
A相:0.1% ギ酸水溶液(フィッシャーサイエンス社)
B相:0.1% ギ酸含有アセトニトリル(フィッシャーサイエンス社)
(グラジェント条件)
表4にグラジェント条件を示す。B相の比率(%)はv/v%である。
【0095】
【表4】
【0096】
[MS/MS条件]
装置:TSQ QUANTIVIA(製品名、サーモサイエンティフィック社)
測定モード:MRM negative
Q1/Q3:353.3>119.2
インジェクション量:2μL
【0097】
(実験B:イソキサントフモールの各種溶媒への溶解性の検討)
溶媒として、蒸留水のほかにホップ抽出液、及びβ-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリン(以上、ナカライテスク社製)を0.2(w/v)%、1.0(w/v)%で溶解した水溶液を調製し、イソキサントフモールの溶解性を氷冷条件において検討した。なお、ホップ抽出液は、ペレット状のホップ粉砕品(ザーツ)重量の10倍に相当する蒸留水を用いて約60分間室温で振とう抽出し、吸引濾過により取得した濾液を試験に供した。このホップ抽出液中のイソキサントフモール濃度は、0.5ppm未満であった。各種溶媒に対して0.2(w/v)%に相当する重量のイソキサントフモールを添加した試料を準備し、氷冷条件においてボルテックスによる撹拌を10秒以上、振盪を約60分間行うことで、それぞれの標品を可能な限り水に溶解させた。実験Aと同様の遠心操作、定量解析を行い、イソキサントフモールの各種溶媒への溶解性を評価した。上清におけるイソキサントフモールそれぞれの濃度(ppm)を表6に示す。
(結果)
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
以上の結果より、イソキサントフモールはキサントフモールと比較して水への溶解性に優れることが明らかとなった。また、イソキサントフモールの溶解性はホップ抽出液やβ-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンによって向上させることが可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、飲食品分野、医薬品分野等において有用である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10