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  • 特許-腹膜透析用の新規グルコースポリマー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】腹膜透析用の新規グルコースポリマー
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/14 20060101AFI20220414BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220414BHJP
   A61K 31/718 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220414BHJP
   A61P 7/08 20060101ALI20220414BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20220414BHJP
   C08B 30/12 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C12P19/14 Z
A61K9/08
A61K47/36
A61K31/718
A61P3/02
A61P7/08
C08L3/00
C08B30/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019514226
(86)(22)【出願日】2017-09-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 FR2017052446
(87)【国際公開番号】W WO2018051020
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】1658648
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】デニス シモン
(72)【発明者】
【氏名】オラフ ホイスラー
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518562(JP,A)
【文献】特開2005-213496(JP,A)
【文献】特表2002-531226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C08B 1/00-37/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミロースの含有量が少なくとも10%であるデンプンを、
(a)分岐工程;および
(b)還元工程;
、この順で供することを含α-1,6-結合の含有量が20%未満であることを特徴とする、グルコースポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記グルコースポリマーは、α-1,6-結合の含有量が7%を超えることを特徴とする、請求項1に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項3】
前記デンプンは、アミロースの含有量が少なくとも20%であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項4】
前記グルコースポリマーは、重量平均分子量(M)が20000~200000ダルトン(Da)の範囲から選択され;このMは、液体クロマトグラフィーと示差屈折率測定による検出によって決定されることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項5】
前記グルコースポリマーは、多分散度(polyD)が3.0未満であることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項6】
前記グルコースポリマーは、121℃で45分間滅菌した後のpHが6~8の範囲であり、前記pHは前記グルコースポリマーの5%水溶液に基づいて測定されることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項7】
前記グルコースポリマーは、浸透圧が200~300mOsm/kg浸透圧であり;前記浸透圧は、前記グルコースポリマーの0.4%溶液に基づいて決定されることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項8】
前記グルコースポリマーは、還元糖含有量が3.5%未満であり、このパーセンテージは前記グルコースポリマーの全乾燥重量に対する還元糖の乾燥重量で表されることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項9】
前記グルコースポリマーは、周囲温度で可溶ないし極めて可溶であることを特徴とする、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項10】
前記グルコースポリマーは、置換されていないことを特徴とする、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項11】
薬剤製造における、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項12】
腹膜透析、および/または非経口栄養における、および/または血漿充填における、および/または浸透圧剤としての、および/または血漿増量剤としての、および/またはワクチンにおける、および/またはアジュバントとしての、および/またはタンパク質安定剤としての、および/またはタンパク質担体としての、グルコースポリマーの製造における、請求項1~11のいずれか一項に記載のグルコースポリマーの製造方法
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のグルコースポリマーに、少なくとも1種類の他の物質および/または溶媒混合することを含む、組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口投与に特に有用な新規グルコースポリマー、およびその調製方法に関する。本発明はまた、かかるグルコースポリマーを含む組成物、および前記組成物の調製方法に関する。最後に、本発明は、薬剤、例えば腹膜透析用の浸透圧剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
透析は、特定の患者における腎機能の補完または代替を目的とした方法である。これを行うために、現在主に使用されている方法は血液透析および腹膜透析である。
【0003】
血液透析において、患者の血液は、血液を濾過し、精製するために、人工腎臓として機能する膜を含む腎臓透析機器を通過する。これは特別な機器を必要とする体外治療であるため、血液透析は必然的に透析装置の利用可能性や、感染や汚染の可能性などの特定の欠点に直面する。
【0004】
腹膜透析は、濾過膜として患者の腹膜を有利に使用するので、そのような装置を必要としない。腹膜は、その多数の血管および毛細血管のために、天然の半透膜として機能できる体壁を覆う膜状の腹骨盤壁である。その治療は、カテーテルを介して腹膜透析液を腹膜腔に導入することからなる。所定の曝露時間の間、平衡に達するまで、流体と固体の交換が溶液と血液の間で起こる。透析液または透析物は、その後カテーテルによって体から排泄される。
【0005】
腹膜透析液は無菌であり、そして通常は水、電解質(Na、Cl、Ca2+、Mg2+)、緩衝剤(乳酸塩および/または炭酸塩)および浸透圧剤を含む。
【0006】
浸透圧剤の役割は、透析液をわずかに高張にすることである。したがって、流体と溶質の移動は、血液から透析液まで勾配効果によって起こる。
【0007】
従来の溶液では、浸透圧剤としてグルコースを使用し、グルコースは、高度の限外濾過を生じるという利点を有する安価な化合物である。
【0008】
しかしながら、主な欠点は、これらの溶液は生体適合性がないことである。これらの生体不適合性の問題の原因となる主な要因は、グルコース含有量が高く、グルコース分解物(GDP)の存在、ならびにこれらの溶液のpHが低いことにある。
【0009】
GDPは低分子量の分子であり、中でも主に5-ヒドロキシメチルフルアルデヒド(5-HMF)、また例えばフルアルデヒドと3,4-ジデオキシグルコソン-3-エン(3,4-DGE)である。GDPは、腹痛や、灌流中に不快感を引き起こし、細胞毒性がある。これらは細胞増殖を抑制し、炎症細胞の機能に有害である。例えば、3,4-DGEは、腹膜透析液中で通常見られる濃度で白血球と中皮細胞に対して致死的である。GDPはまた、終末糖化産物(AGE)の生成を促進し、タンパク質や細胞機能の機能障害を引き起こす。
【0010】
さらに、透析液の酸性は腹膜壁を刺激し、これは多くの患者が数年後に腹膜透析を拒否する原因となっている。
【0011】
GDPの存在とこれらの溶液の低pHは密接に関連した問題であり、この関連性は、低GDP含有量と生理的pH(7.35~7.45)の調整が難しい理由を説明する。GDPがグルコース溶液の加熱滅菌の必須の工程中に生成されることは今や十分に確立されている。実際に、生成される量は、主に滅菌に供される溶液のpHに依存する。滅菌のpHが低いほど、生成されるGDPは少なくなる。したがって、GDP生成量を最小にするための最適な滅菌のpHは、2.0~3.1であると決定された。しかしながら、これほどの酸性の溶液は患者に投与できないのは明らかである。逆に、滅菌のpHが高いほど、生成されるGDPは多くなる。これらの現象に加えて、生成されるGDPが溶液のpHを下げるという事実がある。
【0012】
この結果、現在の溶液は、pHとGDP含有量との間の妥協が最も少ない。したがって、従来の溶液は、通常pH約5.5でGDP濃度が比較的高い。
【0013】
これらの欠点を最小限に抑えるために、2つの方法が開発された。
【0014】
第1の方法は、従来は2または3に分けられたバッグに入った2つの別々の溶液を使用する方法に基づく。第1の溶液はGDPの形成を最小限にするために、極めて酸性の条件下で別々に滅菌されたグルコースを含む。第2の溶液はpHが高い緩衝剤を含む。次に、これらの2つの溶液を混合して、GDPの量が低減され、pHが生理的pHに近い溶液を得る。この方法の主な欠点は、この混合工程が方法を複雑にすることに加えて、汚染のリスクを高めることである。
【0015】
第2の方法は、生体適合性がより高いと考えられる新規な浸透圧剤の開発に基づいている。これに関して、現時点において市場で入手可能な2つのグルコース代替物のみに言及できる:アミノ酸とイコデキストリン、デンプン加水分解によって得られるマルトデキストリンの群に属するグルコースポリマーである。
【0016】
イコデキストリンなどのグルコースポリマーの使用は、グルコースの魅力的な代替物である。グルコースとGDPへの曝露の制限に加えて、これらの化合物はより持続可能で線形の限外濾過を可能にする。さらに、その有効性は、小さな溶質に対する腹膜透過性とは無関係であるので、腹膜炎の発症中に限外濾過を維持可能である。
【0017】
しかしながら、イコデキストリンはそのグルコシドの性質のために、厳密には生体適合性と考えられない。たとえ、より少ない程度であったとしても、イコデキストリンの加熱滅菌は有毒なGDPの生成をもたらし、含有する透析液のpHは低い(5~6)ままである。
【0018】
イコデキストリン中のGDP量を減らすために、最近、米国特許第6770148B1号明細書(BAXTER)において、還元、酸化とグリコシル化反応によって修飾されたイコデキストリンの使用が提案されている。
【0019】
この技術は、生成されるGDPの量の低減を可能にするが、GDPを排除しない。さらに、透析液のpHが低いという問題は、この技術によって解決されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、従来技術のグルコースまたはグルコースポリマーの使用に関連する上記の欠点の克服を可能にする浸透圧剤を提供することである。本発明の目的は、特に、GDP含有量が極めて低い非経口投与用の溶液の調製を可能にするグルコースポリマーを提供することである。また、本発明の目的は、生理的pHに近いpHで溶液の調製が可能な
グルコースポリマーを提供することであり、これは2または3に分けられたバッグの使用に頼らない。本発明の目的はまた、良好な薬物動態学的特性を有する浸透圧剤を提供することによって、これらの問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
新規グルコースポリマーの開発によって、上記の問題の解決に成功したことは本出願人の功績である。
【0022】
本出願人によって提案される新規グルコースポリマーは、特にデンプンから得られる修飾グルコースポリマーであって、アミロース含有量が少なくとも10%のデンプンの分岐および還元によって得られ、前記ポリマーは、α-1,6-結合含有量が20%未満であることを特徴とする。
【0023】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本出願人は、これが本発明によって包含される用途によく適した、特定の三次元構造を有する生成物をもたらすと信じる。
【0024】
最良の結果は、α-1,6-結合含有量(または「分岐含有量」)が少なくとも10%、特に少なくとも12%、しかし絶対的には20%未満であるデンプンで特に得られた。
【0025】
最良の結果はまた、アミロース含有量が25%超、特に少なくとも30%であるデンプンで得られた。この結果は、アミロース含有量が40%超、またはさらに50%超のデンプンを用いた場合にさらに良い。
【0026】
上記の米国特許6770148B1号明細書には分岐状デンプンは記載されておらず、以下の実施例で明らかなように、本発明の問題を解決できない。
【0027】
本発明の新規グルコースポリマーは、滅菌後にGDPが検出されない溶液の調製を可能にし、これは、溶液の高いpHにかかわらず;2または3に分けられたバッグの使用に頼ることなく、pHが生理的pHに近い溶液の調製の想定を可能にする。
【0028】
さらに、本発明のグルコースポリマーは、良好な薬物動態学的特性を有し、特にアミロースが少ないデンプンおよび/または分岐含有量が高すぎるデンプンで得られるものよりも優れた薬物動態学的特性を有する。
【0029】
したがって、本発明の第1の主題は、アミロース含有量が少なくとも10%であるデンプンの分岐および還元によって得られ、前記グルコースポリマーは、α-1,6-結合含有量が20%未満であることを特徴とするグルコースポリマーである。
【0030】
本発明の主題はまた、かかるグルコースポリマーを調製する方法である。
【0031】
本発明の主題はまた、かかるグルコースポリマーを含む組成物、特に例えば腹膜透析液などの医薬組成物である。
【0032】
本発明の主題はまた、かかる組成物を調製する方法である。
【0033】
本発明の主題はまた、かかるグルコースポリマーの使用、あるいは薬剤としての、および/または腹膜透析における、および/または腹膜栄養における、および/または血漿充填における、および/または浸透圧剤としての、および/または血漿増量剤としての、および/またはワクチンにおける、および/またはアジュバントとしての、および/または
タンパク質安定剤としての、および/またはタンパク質担体としての、かかる組成物の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】種々のグルコースポリマーまたはグルコース(ポジティブコントロール)を使用した溶液のpHに対する滅菌の影響。121℃で15分または45分間滅菌した後にpHを測定する。
図2】種々のグルコースポリマーまたはグルコース(ポジティブコントロール)を使用した溶液のGDP、すなわち5-ヒドロキシメチルフルアルデヒド(5-HMF)、フルアルデヒドおよび3,4-ジデオキシグルコソン-3-エン(3,4-DGE)の調製に対する滅菌の影響。
図3】284nmでの吸光度を測定することによる、種々のグルコースポリマーまたはグルコース(ポジティブコントロール)を用いた溶液の、タンパク質に関する反応性に対する滅菌の影響。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の第1の主題は、アミロース含有量が少なくとも10%であるデンプンの分岐および還元によって得られ、α-1,6-結合含有量が20%未満であることを特徴とするグルコースポリマーである。
【0036】
したがって、第1に、本発明のグルコースポリマーは、アミロース含有量が少なくとも10%であるデンプンに由来し、このパーセンテージは、デンプンの全乾燥重量に対するアミロースの乾燥重量によって表されることを特徴とする。
【0037】
「デンプン」という用語は、任意の適切な供給源から、例えば穀類、塊茎植物とマメ科植物から選択される植物から単離されたデンプンを意味することが慣例的に意図される。このデンプンは、好ましくはエンドウデンプンまたはトウモロコシデンプンである。
【0038】
デンプンのアミロース含有量は、複合体を形成するためにアミロースによって吸収されたヨウ素の電位差測定によって当業者によって慣例的に決定できる。
【0039】
好ましくは、このアミロース含有量は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%である。それは一般に、最大で85%または80%に等しい。このアミロース含有量は、例えば、20~85%、好ましくは30~80%、好ましくは50~75%の範囲で選択される。
【0040】
本発明のグルコースポリマーはまた、デンプンの還元によって得られることを特徴とする。この還元は、通常、カルボニル基のヒドロキシル基への変換をもたらす。
【0041】
したがって、あるいはまたはさらに、本発明のグルコースポリマーは、ヒドロキシルに変換されたカルボニル基を含むという事実によって定義される。
【0042】
本発明のグルコースポリマーはまた、デンプンの分岐によって得られ、α-1,6-結合含有量が20%未満であることを特徴とする。
【0043】
「分岐」という用語は、慣例的に、デンプンは、例えば、グリコーゲン-分岐酵素、デンプン-分岐酵素、またはその混合物から選択される、α-1,6-結合を形成する分岐酵素に供されるという事実を意味することを意図する。
【0044】
これらの分岐によって、天然デンプンから得ることは不可能であるα-1,6-結合含有量の達成が可能となる。特に、この含有量は通常7%を超える。
【0045】
一方、本発明の文脈において、この分岐含有量は20%を超えない。
【0046】
このα-1,6-グルコシド結合含有量は、プロトンNMRによって当業者によって慣例的に決定できる。例えば、以下のBの実施例に記載の方法を参照できる。
【0047】
好ましくは、このα-1,6-グルコシド結合含有量は、少なくとも8%、好ましくは少なくとも9%、好ましくは少なくとも10%、好ましくは少なくとも11%、好ましくは少なくとも12%である。このα-1,6-グルコシド結合含有量は、例えば8~19
%、9~19%、10~19%、10~18%、10~17%、10~16%または11~16%、好ましくは12~16%、好ましくは13~15%の範囲から選択される。
【0048】
好ましくは、本発明のグルコースポリマーは、特に腹膜透析に使用する場合、重量平均分子量(M)は20000~200000ダルトン(Da)の範囲で選択され;このMは、液体クロマトグラフィーと、好ましくは較正にプルランを用いた示差屈折率測定による検出によって決定される。
【0049】
好ましくは、このMは、特に腹膜透析での使用に関しては100000Da未満、さらに好ましくは50000Da未満である。好ましくは25000Daより大きい。例えば、25000~50000Da、好ましくは30000~40000Daの範囲で選択される。
【0050】
あるいはまたはさらに、本発明のグルコースポリマーは、光散乱検出を用いる液体クロマトグラフィーによって決定されるMにより定義される。
【0051】
この方法によれば、本発明によるグルコースポリマーは優先的には、特に腹膜透析での使用のために、Mが少なくとも30000Daである。このMは、好ましくは少なくとも40000Da、好ましくは少なくとも50000Da、好ましくは少なくとも60000Da、好ましくは少なくとも70000Da、好ましくは少なくとも80000Da、好ましくは少なくとも90000Da、好ましくは少なくとも100000Daである。それは一般に、1500000Da、またはさらには1000000Da、またはさらには800000Da、またはさらには700000Da、またはさらには600000Da、またはさらには500000Da、またはさらには400000Da、またはさらには300000Daを超えない。好ましくは、特に腹膜透析での使用では、Mは、30000~600000Da、好ましくは40000~500000Da、好ましくは50000~400000Da、好ましくは60000~300000Da、例えば100000~200000Daの範囲で選択される。
【0052】
好ましくは、本発明によるグルコースポリマーの多分散度(polyD)は、3.0未満、好ましくは2.5未満、さらに好ましくは2.0未満である。それは一般に、0.5を超え、例えば1.0~3.0、好ましくは1.5~2.5である。
【0053】
このpolyDは、グルコースポリマーの重量平均分子量Mと数平均分子量Mとの比に相当する。
【0054】
本発明において、これらのMとMは、上記で定義される2つの方法によって決定できる。例えば、以下のBにおける実施例に記載の方法1と2を参照できる。
【0055】
一実施形態において、ポリマーはマルトデキストリン、特にイコデキストリンである。
【0056】
さらに、本発明によるグルコースポリマーはまた、121℃で45分間滅菌した後のpHによって定義され、pHは6~8、優先的には7~8の範囲であり;pHは前記グルコースポリマーの5%水溶液に基づいて測定される。
【0057】
優先的には、本発明のグルコースポリマーは、特に加熱滅菌、特に121℃で15分間後に:
-135ppb未満、好ましくは100ppb未満、好ましくは50ppb未満、好ましくは30ppb未満、好ましくは20ppb未満、好ましくは10ppb未満、好ましくは8ppb未満、好ましくは6ppb未満、好ましくは4ppb未満、好ましくは2p
pb未満の5-ヒドロキシメチルフルアルデヒド(5-HMF)含有量;および/または
-65ppb未満、好ましくは8ppb未満、好ましくは6ppb未満、好ましくは4ppb未満、好ましくは2ppb未満のフルフルアルデヒド含有量;および/または
-20ppm未満、好ましくは10ppm未満、好ましくは5ppm未満、好ましくは2ppm未満、好ましくは1ppm未満、好ましくは0ppmに等しい3,4-ジデオキシグルコソン-3-エン(3,4-DGE)含有量;
を有し、これらの含有量は、浸透水中で調製された本発明の前記グルコースポリマーの4%溶液の重量に対する重量によって表される。
【0058】
5-HMFとフルアルデヒド含有量は、液体クロマトグラフィーと280nmでのUV分光測定による検出によって当業者により決定できる。3,4-DGE含有量は、好ましくは較正にピラジンカルボキサミドを使用した液体クロマトグラフィー、および230nmでのUV分光測定による検出によって当業者により決定できる。例えば、以下のC.2における実施例に記載の方法が参照される。
【0059】
一般に、本発明によるグルコースポリマーは、浸透圧が200~300mOsm/kgであり;前記浸透圧は、前記グルコースポリマーの0.4%溶液に基づいて決定される。浸透圧は、例えば230~280mOsm/kg、またはさらには230~250mOsm/kgである。
【0060】
この浸透圧は、浸透圧計を使用して当業者によって慣例的に決定される。例えば、以下のBにおける実施例に記載の方法が参照される。
【0061】
好ましくは、本発明によるグルコースポリマーは、還元糖含有量が3.5%未満のであり、このパーセンテージは、グルコースポリマーの全乾燥重量に対する還元糖の乾燥重量で表される。この含有量は、好ましくは2.5%未満、好ましくは1.0%未満、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.1%未満、さらに好ましくは0.05%未満である。それは一般に、0.001%より大きく、またはさらには0.005%より大きい。
【0062】
この還元糖含有量は、ベルトラン法を用いて当業者によって慣例的に決定できる。例えば、以下のポイントBにおける実施例に記載の方法が参照される。
【0063】
一般的に、かつ有利には、本発明によるグルコースポリマーは、周囲温度(25℃)で可溶ないし極めて可溶である。「可溶ないし極めて可溶」という用語は、慣例的に、前記化合物の1乾燥グラムを溶解するためには最大容量30mlの水が必要なことを意味する(例えば、European Pharmacopeia“1.4.Monographs,07/2014:10000”参照)。
【0064】
本発明のグルコースポリマーは、特に有効性および無害という観点から、本発明において求められる特性に反しない限り、他の修飾を含んでもよい。これらの修飾は、物理的および/または化学的なの修飾であってもよい。グルコースポリマーは例えば置換されてもよい。しかしながら、一般にかつ有利には、本発明のグルコースポリマーは置換されず、すなわちエステル化および/またはエーテル化されていない。
【0065】
本発明の主題はまた、本発明によるグルコースポリマーを調製するのに特に有用な方法であって、少なくとも10%のアミロース含有量を有するデンプンを以下
(a)分岐工程;および
(b)還元工程;
に供することを含む方法である。
【0066】
分岐工程は、分岐酵素、例えばグリコーゲン分岐酵素、デンプン分岐酵素、またはその混合物を用いて実施できる。
【0067】
かかる酵素は市販されている。例えば、BRANCHZYME(登録商標)製品(Novozyme社)が挙げられる。
【0068】
還元は、当業者に公知の任意の技術によって、例えばテトラヒドロホウ酸ナトリウムまたは二水素を用いて、任意にラネーニッケルなどの触媒の存在下で実施できる。
【0069】
好ましくは、分岐工程は、還元工程の前に実施される。したがって、還元の操作条件は、グルコースポリマーの多分岐構造を損なうことなく、還元性をもつ官能基のヒドロキシルへと変換を可能とする条件である。特に、生成物の多分岐構造を損傷しないように、すなわち、生成物を酸化または加水分解しないように、pHは還元工程中に調整される。
【0070】
例えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを用いた還元の場合、反応はデンプンの多分岐構造を維持しながら、可能な限り低い環元糖含有量を得るための反応時間、例えば約20時間、約40℃の温度で実施できる。
【0071】
水素化/ラネーニッケルを用いて、反応は、例えば、約120℃にて約2~4時間実施できる。
【0072】
好ましくは、その方法はまた、好ましくは酵素処理による、好ましくはβ-アミラーゼおよび/またはアミログルコシダーゼによる、加水分解工程を含む。
【0073】
好ましくは、この加水分解工程は、分岐工程の後に行われる。好ましくは、還元工程の前である。
【0074】
好ましくは、本発明の方法は、好ましくは加熱(「デンプンの調理」としても一般に知られている)によってデンプンを溶解する前工程を含む。
【0075】
この方法はさらに、特に、得られるグルコースポリマーのpolyDを減少させるために、クロマトグラフィーの追加の工程を含んでもよい。
【0076】
次いで、当業者に公知の技術によって、デンプンを精製および/または乾燥することができる。
【0077】
本発明のグルコースポリマーの(全部または一部の)精製に有用な処理例は、濾過、限外濾過、活性炭による処理であり、これらの処理は、場合により一緒に組み合わされる。
【0078】
乾燥として、例えば噴霧乾燥を使用できる。
【0079】
本発明の主題はまた、本発明のグルコースポリマーを含む組成物、特に医薬組成物である。したがって、この組成物は、薬剤として許容される担体または賦形剤を含んでもよい。
【0080】
これは、すぐに投与できる溶液、特に非経口的に、例えば好ましくは水性および滅菌溶液であってもよい。また、投与を意図した溶液を調製するのに有用な組成物であってもよい。後者の場合、例えば、すぐに使用可能な粉末状組成物であってもよく、これは、滅菌および/または投与の前に単に水を加えることによって再構成できる。
【0081】
好ましくは、投与される溶液は、腹膜透析液、非経口栄養液および血漿充填液から選択される。最も優先的には腹膜透析液である。
【0082】
一般に、本発明の投与される溶液において、本発明のグルコースポリマーの濃度は、1~20%、好ましくは1~15%、好ましくは1~10%の範囲で選択される。この濃度は、好ましくは少なくとも2%、好ましくは少なくとも3%、好ましくは少なくとも4%である。それは例えば、4~10%、好ましくは5~9%、好ましくは6~9%、例えば7~8%の範囲で選択される。
【0083】
好ましくは、この組成物が腹膜透析液である場合、高張性である。したがって、浸透圧は、好ましくは280mOsm/kg超、好ましくは320mOsm/kg超である。
【0084】
好ましくは、この組成物が非経口栄養用、または血漿充填用の溶液である場合、等張性である。したがって、浸透圧は、好ましくは260~340mOsm/kgの範囲であり、理想的には280mOsm/kg~320mOsm/kgの範囲で選択される。好ましくは、本発明による組成物は、pHが6.00~9.00、好ましくは7.00~8.00、特に7.30~7.50、例えば7.35~7.45の範囲で選択される。
【0085】
好ましくは、特に加熱滅菌後に、特に投与を意図した溶液である本発明の組成物は:
-135ppb未満、好ましくは100ppb未満、好ましくは50ppb未満、好ましくは30ppb未満、好ましくは20ppb未満、好ましくは10ppb未満、好ましくは8ppb未満、好ましくは6ppb未満、好ましくは4ppb未満、好ましくは2ppb未満の5-ヒドロキシメチルフルアルデヒド(5-HMF)含有量;および/または
-65ppb未満、好ましくは8ppb未満、好ましくは6ppb未満、好ましくは4ppb未満、好ましくは2ppb未満のフルフルアルデヒド含有量;および/または
-20ppm未満、好ましくは10ppm未満、好ましくは5ppm未満、好ましくは2ppm未満、好ましくは1ppm未満、好ましくは0ppmに等しい3,4-ジデオキシグルコソン-3-エン(3,4-DGE)含有量;
を有し、これらの含有量は、その組成物が、本発明の前記グルコースポリマーの4%溶液状態である場合、前記組成物の重量に対する重量によって表される。
【0086】
一般に、本発明の組成物は、特に無害および有効性に関して本発明において求められる特性に反しない限り、他の物質を含む。これらの他の物質は通常:
-活性剤、例えば(i)本発明のグルコースポリマー以外の浸透圧剤、および/または血漿増量剤および/または非経口栄養剤、例えばイコデキストリン、グルコース、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、(ii)治療用タンパク質、例えばワクチン、抗体;
-緩衝剤、例えば乳酸塩またはクエン酸塩緩衝剤;
-電解質;
から選択される。
【0087】
しかしながら、好ましくは、本発明の物質は、組成物に対して少なくとも50重量%(乾燥重量)、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の浸透圧剤、および/または血漿増量剤および/または非経口栄養剤を占める。非常に優先的には、本発明の物質は、本発明の組成物の唯一の浸透圧剤および/または血漿増量剤および/または非経口栄養剤である。
【0088】
本発明はまた、腹膜透析組成物、および/または非経口栄養組成物、および/または血漿充填組成物を調製するための、および/または浸透圧剤としての、および/または血漿増量剤としての、および/または特にアジュバントとしてワクチンを調製するための、お
よび/またはタンパク質を安定化するための、および/またはタンパク質担体としての、本発明によるグルコースポリマーの使用に関する。
【0089】
本発明の主題はまた、本発明による組成物、特に腹膜透析液を調製する方法であって、特に本発明の組成物について上記で定義される少なくとも1種の他の物質と、および/または溶媒、優先的には水と、本発明のポリマーを混合する工程を含む方法である。
【0090】
好ましくは、この方法は、前記組成物を滅菌する、好ましくは加熱滅菌する工程を含む。
【0091】
本発明はまた、薬剤としての、本発明によるグルコースポリマーまたは組成物の使用に関する。本発明はまた、それを必要とする患者への、本発明によるグルコースポリマーまたは組成物の投与を含む治療方法に関する。
【0092】
好ましくは、本発明のグルコースポリマーまたは組成物は、非経口的使用である。
【0093】
グルコースポリマーは腹膜透析での使用、特に浸透圧剤としての使用に適している。したがって、本発明は、腹膜透析、特に腹膜透析液での、特に浸透圧剤としての使用のための、本発明によるグルコースポリマーに関する。本発明はまた、特に慢性腎不全の治療を目的として腹膜透析液を調製するための、本発明によるグルコースポリマーの使用に関する。本発明はまた、被検体における腹膜透析によって慢性腎不全を治療する方法であって、本発明によるグルコースポリマーを含む透析液を前記被検体に、特に腹腔内への注射によって投与を含む、方法に関する。
【0094】
これは、グルコース溶液に加えて、またはグルコース溶液の代わりに、典型的には持続携帯式腹膜透析(CAPD)または自動腹膜透析(APD)で使用できる。
【0095】
本発明のグルコースポリマーはまた、非経口投与が望まれる他の用途において、例えば、非経口栄養において、血漿充填において、特に血漿増量剤として、またはワクチンにおいて、特にアジュバントとして、またはタンパク質安定剤として、またはタンパク質担体として使用できる。
【0096】
腹膜透析における用途では、本発明の薬物は通常、腎不全の患者を対象としている。すなわち、例えば糖尿病または感染症に続いて、腎機能が完全にまたは部分的に喪失した患者である。したがって、本発明は、腹膜透析液における使用ための、本発明によるグルコースポリマーに関する。また、特に腎不全の治療を目的とする、腹膜透析液を調製するための、本発明によるグルコースポリマーの使用に関する。本発明はまた、本発明によるグルコースポリマーを含む腹膜透析液の被検体への投与を含む、腎不全を治療する方法に関する。
【0097】
血漿充填における用途では、本発明の薬剤は、通常、例えば外傷、外科的処置、または熱傷に続いて、血管区画の連続性の破裂によって引き起こされる血液量減少の患者を対象とする。したがって、本発明は、血漿充填溶液における使用のための、本発明によるグルコースポリマーに関する。また、特に血液量減少の治療を目的とした血漿充填溶液を調製するための、本発明によるグルコースポリマーの使用に関する。本発明はまた、本発明によるグルコースポリマーを含む血漿充填溶液の被検体への投与を含む、被検体における血液量減少を治療する方法に関する。
【0098】
非経口栄養における用途では、本発明の薬剤は、通常、経腸的または経口的栄養が不可能な患者、例えば腸疾患または嘔吐を伴う食物不耐性の患者を対象とする。したがって、
本発明は、非経口栄養液で使用するための、本発明によるグルコースポリマーに関する。また、特に腸疾患または嘔吐を伴う食物不耐性の治療を目的とした、非経口栄養液を調製するための、本発明によるグルコースポリマーの使用に関する。本発明はまた、本発明によるグルコースポリマーを含む非経口栄養液の被検体への投与を含む被検体における非経口栄養の方法に関し、被検体が、場合により、腸疾患または嘔吐を伴う食物不耐性を患っている。
【0099】
本発明において、「XとYとの間」という表現は、前述の境界線を除いた範囲を含むのに対し、「X~Yの範囲で選択される」という表現は、前述の末端を含む値の範囲を含むことが理解されることに留意されたい。
【0100】
本発明において、溶解中の物質のパーセンテージとして表される濃度を参照するとき、この濃度は実際には前記溶液100mL当たりの前記物質のグラム数を表すことがさらに理解される。このグラム単位の重量は、実際には乾燥重量であり、すなわち、溶解前に粉末状の形態で物質中に存在する可能性がある水の重量を特に除外している。
【0101】
本発明は、例証的で非制限的であることを意図する以下の実施例によって、より明確に理解されるだろう。
【実施例
【0102】
A.試験物質
1.本発明によるグルコースポリマー[HSB-red]
使用したデンプンは、アミロース含有量65%(EURLYON(登録商標)7,Roquette社製)だった。固形分10%、pH7.5のスターチミルク糊(懸濁液)を160℃で焼成した。得られたペーストを75℃に冷却し、pHを7.0に調整した。
【0103】
次いで、デンプンを625~1000U/g乾燥デンプン重量の割合で使用される分岐酵素(BRANCHZYME(登録商標),Novozymes社製)を用いて、65℃、pH7.0で22時間分岐工程に供した。次いで、反応媒体を48℃に冷却し、pHを5.5に調整した。
【0104】
このようにして得られた分岐デンプンを、1~4U/g乾燥デンプン重量の割合で使用されるβ-アミラーゼ(OPTIMALT(登録商標)BBA,Genencor International社製)を用いて、48℃、pH5.5で2時間加水分解工程に供した。次いで、85℃で1時間加熱して、酵素を失活させた。反応混合物を50℃に冷却し、pHを3.5に調整した。
【0105】
反応生成物を5000rpmで遠心分離し、上清を回収した。
【0106】
このようにして得られた分岐状デンプンを30%含有する溶液を調製した。可溶化を90℃で加熱することによって促進し、次いで温度を40℃に下げた。水酸化ナトリウム(NaOH3%)でpHを10.5に調整した。
【0107】
溶液中のデンプンを還元性の官能基に対してNaBH200mol%を使用した還元工程に供した。反応終了時にpHを6.5に調整した。18%HSOを反応生成物に添加した。
【0108】
溶液を1000Da膜で一晩透析した。このようにして得られた生成物をロータリーエバポレーターで乾燥し、ナイフミルで粉砕した。
【0109】
2.比較用グルコースポリマー([ICO-red],[ICO],[HBS])
[ICO]生成物は、未修飾のイコデキストリン、すなわち、非還元イコデキストリンに相当する。
【0110】
[ICO-red]生成物を生成するために、米国特許第6770148号明細書による先行技術の還元イコデキストリンを、イコデキストリンの還元によって調製した。還元のために、このプロセスを上記1に記載したように実施した。
【0111】
[HBS]生成物は、デンプンの分岐によって得られた生成物に相当するが、還元されていない。分岐のために、そして上記1に記載したように、グルコースポリマーを分岐酵素によって分岐させ、β-アミラーゼによる加水分解工程に供した。
【0112】
3.グルコース(参照)
使用したグルコースは無水デキストロース(ROQUETTE社製)だった。
【0113】
B.使用したグルコースポリマーの特徴付け
本発明によるグルコースポリマー[HBS-red]および比較用グルコースポリマー[ICO-red]、[ICO]、[HBS]の特性は、以下の方法に従って決定した。
【0114】
1.α-1,6-結合含有量の測定
α-1,6-結合含有量は、プロトンNMRにより決定した。パーセンテージで表したα-1,6-グルコシド結合の量は、前記グルコースポリマーのグルコース残基の全てのC1によって運ばれる全てのグルコシドプロトンのシグナルに100の値が与えられている場合に、α-1,6-結合によって他の無水グルコース単位と結合する無水グルコース単位のC1によって運ばれるプロトンのシグナルの量に相当する。
【0115】
2.浸透圧の測定
浸透圧は、グルコースポリマー0.4%を含む脱イオン水で調製された水溶液に基づいて測定した。この溶液の浸透圧の測定は、製造業者の指示に従って、浸透圧計(FISKE(登録商標)ASSOCIATESMARK3)を用いて行った。
【0116】
3.重量平均分子量(M)および数平均分子量(M)の決定、ならびに多分散度(polyD)の計算。
平均分子量MおよびMは、2つの方法に従って決定した。
【0117】
方法1:液体クロマトグラフィー(較正に種々のMのプルランを使用)および示差屈折率測定による検出。
【0118】
以下のカラム:
-粒径8μm、孔径100Å、内径8.0mm、長さ300mmのカラム(OH pak SB-802 HQ-Waters ref.JWE034256)
-粒径6μm、孔径800Å、内径8.0mm、長さ300mmのカラム(OH pak SB-803 HQ-Waters ref.JWE034257)
-粒径13μm、孔径7000Å、内径8.0mm、長さ300mmのカラム(OH pak SB-805 HQ-Waters ref.JWE034259)
で構成された一組のカラム(Shodex OH pak SB-800 QH)を使用した。
【0119】
使用したプルラン標準(Waters kit-Ref.JWE034207)は以下のM(Da):78000、40400;211000;112000;47300;22800;11800;5900であった。
【0120】
溶離溶媒は、アジ化ナトリウムを0.02%含有する0.2M硝酸ナトリウム水溶液であり、0.02μmフィルターで濾過した。クロマトグラフィーの移動相の流速は0.5mL/分だった。
【0121】
方法2:光散乱による検出(RI検出器および光散乱検出器、DAWN-HELEOS II)を用いた液体クロマトグラフィー。
【0122】
以下のカラム:
-粒径10μm、孔径100Å、内径8.0mm、長さ300mmのカラム(PSS SUPREMA 100-Ref.SUA0830101E2);
-粒径10μm、孔径1000Å、内径8.0mm、長さ300mmのカラム(PSS
SUPREMA 1000-Ref.SUA0830101E3);
で構成された一組のカラムを使用した。
【0123】
溶離溶媒は、0.02μmフィルターで濾過したアジ化ナトリウムを0.02%含有する0.1M硝酸ナトリウム水溶液であり、希釈溶媒は硝酸ナトリウムを0.1M含有するジメチルスルホキシド(DMSO)あった。クロマトグラフィーの移動相の流速は0.5mL/分だった。較正はプルラン(Pullulan P50,Shodex)を用いて実施した。
【0124】
4.還元糖含有量の測定。
還元糖含有量はベルトラン法により測定した。具体的には、250mL三角フラスコに、以下を入れた:1mLあたり0.5~5.0mgのグルコース当量を含む標準液20mL;第二銅溶液20mL(硫酸銅五水和物4%);酒石酸ナトリウム溶液20mL(酒石酸ナトリウムカリウム20%および水酸化ナトリウム15%);いくらかのガラスビーズ。混合物全体を3分間穏やかに沸騰するまで加熱し、次に2分間静置した。上清を除去し、CuO沈殿物を第二鉄溶液20mL(硫酸第二鉄5%および硫酸20%)に溶解した。得られた溶液を0.1Nの過マンガン酸カリウム溶液で、ベルトラン表を用いて滴定した。
【0125】
結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
C.グルコースポリマー試験
1.滅菌がpHに及ぼす影響
この実施例では、本発明者らは、種々のグルコースポリマーまたはグルコース(ポジティブコントロール)を使用して、溶液のpHに対する滅菌の影響を調べた。
【0128】
各試験物質を乾燥重量で5%含有する溶液20mLを逆浸透水中で調製した。攪拌した溶液を121℃で15または45分間滅菌した後にpHを測定した。
【0129】
結果を図1に示す。
【0130】
本発明によるグルコースポリマー[HBS-red]は、滅菌後に生理的pHに最も近いpHを示す。比較用ポリマー[ICO-red]、[ICO]および[HBS]はそうではなく、滅菌後に6.5未満、さらには6.0の酸性pHを示す;すなわち、生理的pHと比較して1pH単位以上の差がある。
【0131】
さらに、本発明者らは、グルコースポリマー[ICO-red]を滅菌すると、望ましくない褐色の着色が起こることに気付いた。
【0132】
2.滅菌がGDP生産に及ぼす影響
この実施例では、本発明者らは、種々のグルコースポリマーまたはグルコースを用いた溶液の、GDP、すなわち5-ヒドロキシメチルフルアルデヒド(5-HMF)、フルアルデヒドおよび3,4-ジデオキシグルコソン-3-エン(3,4-DGE)の生成に対する滅菌の影響を調べた。
【0133】
各試験物質を4%含有する溶液20mLを逆浸透水中で調製した。GDP含有量は、121℃で15分間滅菌した後に測定した。
【0134】
5-HMFおよびフルアルデヒド含有量は、液体クロマトグラフィー(較正に5-HMF標準(Merck-Ref.8,206,78,001)またはフルアルデヒド標準を使用)、および280nmにおけるUV分光測定による検出によって決定した。クロマトグラフィーのために、粒径9μm、架橋8%、内径7.8mmおよび長さ300mmのカラム(HPX 87Hカラム-Biorad-Ref.125,0140)を使用した。
条件は以下の通りであった:溶離剤5mN HSO(1N硫酸)、流量0.8mL/分。
【0135】
3,4-DGE含有量は、液体クロマトグラフィー(較正にピラジンカルボキサミド(Sigma-Ref.P7136)を使用)、および230nmにおけるUV分光測定による検出によって決定した。クロマトグラフィーのために、粒径5μm、孔径120Å、内径4.6mmおよび長さ15cmのカラム(Supelcosil LC-18-Supelco-Ref.58230)を使用した。条件は以下の通りであった:溶離溶媒HO/MeOH、流量1.0mL/分。
【0136】
結果を図2に示す。
【0137】
予想通り、グルコースは、グルコースポリマーよりもはるかに高いGDP含有量を生じる。比較用グルコースポリマー[ICO]および[HBS]はより低いが、それでも高い含有量を示す。
【0138】
米国特許第6770148号明細書のグルコースポリマー[ICO-red]は、検出可能な含有量の5-HMFを示す。
【0139】
本発明によるグルコースポリマー[HBS-red]は、滅菌後にGDPが検出されない唯一のグルコースポリマーである。
【0140】
これらの観察結果は、本発明によるグルコースポリマー[HBS-red]の滅菌pHが特に高いという点でいっそう驚くべきことである。これは、正確にGDPの形成を回避するために酸性pHでの溶液の滅菌を推奨する先行技術の教示に反する。
【0141】
3.滅菌がタンパク質の反応性に及ぼす影響
この実施例では、本発明者らは、タンパク質に関して、種々のグルコースポリマーまたはグルコースを用いた溶液の反応性に対する滅菌の影響を調べた。
【0142】
L-リジン0.5%の非存在または存在下で、各試験物質をそれぞれ0.5%含有する溶液をリン酸緩衝液(pH7,200mM)中で調製した。
【0143】
284nmでの溶液の吸光度を、121℃で45分間の滅菌前後に測定した。
【0144】
溶液を調製するために使用したリン酸緩衝液をネガティブコントロールとして使用した。
【0145】
最良の2つの物質、すなわち本発明による[HBS-red]および比較用[ICO-red]で得られた結果を図3に示す。
【0146】
滅菌前後に、単独で試験物質の間で観察された吸光度の差(破線のヒストグラム)は、分解物の生成に起因すると考えられる。この結果は、本発明のグルコースポリマー[HBS-red]が、滅菌中の分解に対して最大の耐性を示す物質であるという事実を裏付ける。
【0147】
滅菌後にリジンの存在下および非存在下にて試験物質の間で観察された吸光度の差(灰色のヒストグラム)は、試験物質とリジンとの間で生じる反応に起因する。したがって、タンパク質に対するこれらの物質の反応性を反映している(メイラード反応)。吸光度の差が大きければ大きいほど、その物質はタンパク質に対して反応性があると判断できる。
この結果は、本発明によるグルコースポリマー[HBS-red]は、タンパク質に対して最も反応性が低い物質であることを示している。この非常に低い反応性は、本発明のグルコースポリマーの優れた耐性を示唆している。
図1
図2
図3