(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】航空機に関する評価支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20220414BHJP
【FI】
G06Q50/10
(21)【出願番号】P 2020091004
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】508208007
【氏名又は名称】三菱航空機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】土肥 猛
【審査官】田中 寛人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205696(JP,A)
【文献】特開2005-193891(JP,A)
【文献】特開2015-104516(JP,A)
【文献】特開平07-311900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0122636(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた評価基準に基づく、模擬的な飛行試験または実機による飛行試験を行ったパイロットによる評価結果に対する評価参照値を算出する評価部と、
前記飛行試験が行われた最中に前記パイロットの生体データを収集する生体データ収集部と、を備え、
前記評価部は、前記生体データ収集部で収集された前記生体データに基づいて、前記評価参照値を特定する、航空機に関する評価支援システム。
【請求項2】
前記評価部は、
前記パイロットの身体的および精神的な負荷であるパイロットワークロードと前記生体データとを比較することにより前記評価参照値を特定する、
請求項1に記載の評価支援システム。
【請求項3】
前記評価部は、
前記飛行試験における飛行データとタスク要求とを比較し、前記評価結果を補正して前記評価参照値とするか、または、
テキストデータとされた前記飛行試験を行った前記パイロットのコメントに含まれるキーワードに基づいて前記評価結果を補正して前記評価参照値とする、
請求項1または請求項2に記載の評価支援システム。
【請求項4】
前記評価部は、
テキストデータとされた前記飛行試験を行った前記パイロットのコメントに含まれる前記パイロットのワークロードに関するワークロード情報と前記生体データとを比較し、前記ワークロード情報を前記生体データに沿うように補正する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の評価支援システム。
【請求項5】
前記パイロットの音声による前記コメントを取得する音声収録部を備え、
前記評価部は、
音声による前記コメントを前記テキストデータに変換し、変換された前記テキストデータについて、前記ワークロード情報と前記生体データとを比較する、
請求項4に記載の評価支援システム。
【請求項6】
前記評価部は、
前記テキストデータとされた前記飛行試験を行った前記パイロットのコメントに含まれる飛行条件に関する飛行情報と前記飛行試験における飛行データとを比較し、前記飛行情報を前記飛行データに一致または沿うように補正する、
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の評価支援システム。
【請求項7】
前記評価部により特定された前記評価参照値を表示する表示部を備える、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の評価支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、航空機の操縦性、パイロットのワークロードなどの航空機に関する評価を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の操縦性や操縦系統についてパイロット適合性の評価が行われる。この評価は、例えば新たな航空機を設計、製造する過程で行われる。この評価は、タスクとタスクに対する定量的な飛行条件である性能要求とをパイロットに与えて行われる。パイロットは、タスクおよび性能要求に従ってフライトシミュレータまたは実際の航空機を用いて操縦を実施する。ここで「タスク」とは、航空機の運航や操縦に関するパイロットに対する指令である。
【0003】
飛行試験の結果は、パイロットがタスク要求に応じて、意図した通りに操縦できたか否か、という視点で評価される。評価の結果として、例えばCooper-Harper Rating Scale(非特許文献1,以下C-H Ratingと略記することがある)やPIO Rating Scaleなどの評価基準に従った評価値が特定される。C-H Ratingにおいては、パイロットワークロードや性能要求の達成度に応じて、操縦性に対して10段階の評価値が付けられる(
図2参照)。評価値の裏付けとして、パイロットコメントおよび飛行データが評価値とともに評価の報告書に掲載される。
【0004】
パイロットコメントは、操縦状況の説明や、パイロットの操縦に対しての機体の反応、パイロットの身体的および精神的な負荷などを含み、報告書にまとめられて、当該航空機の設計者にフィードバックされる。パイロットの身体的および精神的な負荷はパイロットワークロード(Pilot Workload)と称される。ここで「身体的負荷」とは、操縦するための力学的な負荷が大きいなどといったことである。また、「精神的負荷」とはモニタ箇所が多く、一か所に注力できないなどといったことである。
【0005】
フライトシミュレータまたは航空機の操縦を終えた後にパイロットコメントの取得が行われる。しかし、現状においてパイロットコメントの取得は人による聞き取りと手書きでの記録にて行われている。パイロットコメントに、独特な言い回しがふくまれることや、多岐にわたる試験状況の記載などを行うため、記録自体にも一定の技術を要する。また、取得当初のパイロットコメント、つまり一次コメントは、パイロットによる音声情報であるため、それらを評価報告書に掲載するために行うテキスト情報への変換は、相当の労力を要する。加えて時折、記録したパイロットコメントのニュアンス確認が必要となり、更なる時間を要する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cooper, G. E. and Harper, R. P. Jr.: The Use of Pilot Rating in the Evaluation of Aircraft Handling Qualities, NASA TN D-5153, 1969.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上より、本開示は、航空機の評価に関する労力を軽減できるとともに、客観性のあるデータにより評価の精度を向上できる航空機の評価支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る航空機に関する評価支援システムは、予め定められた評価基準に基づく、模擬的な飛行試験または実機による飛行試験を行ったパイロットによる評価結果に対する評価参照値を算出する評価部と、飛行試験が行われた最中にパイロットの生体データを収集する生体データ収集部と、を備える。本開示に係る評価部は、生体データ収集部で収集された生体データに基づいて、評価参照値を特定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、航空機の評価に関する労力を軽減できるとともに、客観性のあるデータにより評価の精度を向上できる航空機の評価支援システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る評価システムの構成を示す図である。
【
図2】Cooper-Harper Rating Scaleを示すフローチャートである。
【
図3】飛行試験における評価の報告書の一例を示す図である。
【
図4】飛行試験における飛行データの一例を示す図である。
【
図5】飛行データの各種要素(変数)の代表例を示す図である。
【
図6】飛行試験において取得されるパイロットコメントの音声データをテキストデータに変換する一例を示す図である。
【
図7】飛行試験において取得されるパイロットコメントの音声データをテキストデータに変換する他の一例を示す図である。
【
図8】飛行試験において取得される生体データの一例であって、心拍の変動および呼吸の変動を示すグラフである。
【
図9】飛行試験において取得される生体データの一例であって、発汗の変動および視点移動を示すグラフである。
【
図10】音声によるパイロットコメントをテキストデータに変換する手順を示すフローチャートである。
【
図11】評価参照値を特定する手順を示すフローチャートである。
【
図12】飛行データをグラフ化する手順を示すフローチャートである。
【
図13】生体データをグラフ化する手順を示すフローチャートである。
【
図14】評価結果の報告書を出力する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、飛行試験を行った際のパイロットによる航空機の評価に関する実施形態を説明する。
本実施形態に係る評価支援システム1は、
図1に示すように、評価部10と、評価に必要なデータを記憶し、かつ、評価部10に当該データを提供する記憶部20と、を備える。また、評価支援システム1は、音声によるパイロットコメントを収録し評価部10に提供する音声収録部30と、パイロットの生体データを収集し評価部10に提供する生体データ収集部40と、飛行データを生成し評価部10に提供するシミュレータ/航空機50と、を備える。シミュレータ/航空機50とは、操縦シミュレータで飛行データを生成する場合もあれば、実際に飛行機を操縦して飛行データを生成する場合もあることを意図している。つまり、本開示における飛行試験とは、シミュレータによる模擬的な飛行試験および実際の飛行機を操縦する飛行試験の双方を含んでいる。また、飛行データも、模擬的な飛行試験により得られるデータおよび実際の飛行機を操縦する飛行試験により得られるデータの双方を含んでいる。
【0012】
評価支援システム1は、記憶部20に予め記憶されているデータ、音声収録部30から提供されるパイロットコメント、生体データ収集部40から提供される生体データに基づいて評価部10が以下の第1処理および第2処理を行う。第1処理および第2処理を含む処理の結果として、評価支援システム1は当該航空機の評価に関する報告書を作成する。
第1処理:航空機の定量的な評価。定量的な評価の結果は、評価参照値として出力される。
第2処理:音声データによるパイロットコメントのテキストデータ化。テキストデータ化の過程で、複数のパイロットのばらつきのある表現や文言の統一が図られる。
【0013】
評価部10は、一例として液晶表示装置を備えるコンピュータ装置からなり、この液晶表示部が評価支援システム1の表示部60を構成する。この表示部60には、以下で説明される評価参照値をはじめ、種々の情報が表示される。表示部60は評価部10から分離されていてもよい。
【0014】
本実施形態において用いられる語は以下を意味する。単に「評価」というときは、評価値、参照評価値、パイロットコメントおよび飛行データなどを含む、当該航空機の地上・飛行試験における全体に対して用いられる語を意味する。「評価値」とは、C-H Ratingなどの評価基準に基づいて、パイロットが主観的に特定する数値をいう。「評価参照値」とは、評価部10が取得された生体データなどを参照することで特定した数値をいう。「評価参照値」は「評価値」の妥当性を判断するために参照される。
【0015】
以下、記憶部20、音声収録部30、生体データ収集部40、シミュレータ/航空機50の順にその内容を説明した後に、評価部10による評価、報告書作成の内容、手順を説明する。
【0016】
[記憶部20]
記憶部20は、以下の評価基準と過去の試験データの2種類のデータを保持する。これら情報は、評価に先立って記憶されているが、評価にあたって評価部10に提供される。
【0017】
評価基準(Rating Scale)
評価基準は、前述したC-H Ratingなどの公知のものを用いることができる。
例として、記憶部20には
図2にて示されるC-H Ratingのフローチャートに示される手順を実行することができるプログラムが記憶させる。以下、C-H Ratingを本件評価基準と称することがある。評価基準は、評価部10における当該航空機の評価を行うのに用いられる。評価基準はPIO Ratingを用いてもよい。
【0018】
本件評価基準の概要は以下の通りである。
本件評価基準は、
図2に示すように、パイロットが制御可能か否か(S10)、許容可能なパイロットワークロードでパイロットが十分にパフォーマンスを達成できるか否か(S20)、および、改善なしでパイロットが満足できるか否か(S30)の3段階の基準を備えている。S20においてパフォーマンスを達成できない場合(S20 No)、S30においてパイロットが満足できない場合(S30 No)、および、S30においてパイロットが満足できる場合(S30 Yes)は、さらにそれぞれが3段階の基準を備えている。このように、本件評価基準によれば、航空機について10段階の評価値が設定されており、飛行試験を行ったパイロットは本件評価基準にしたがって評価値を特定する。
【0019】
過去の試験データ
過去の試験データとは、過去に行った飛行試験で得られたパイロットコメント、評価値、飛行データを含んでいる。本実施形態においては、新たに行われる試験において得られるパイロットコメントなどの試験データと本件評価基準に基づく評価値の相関の見いだしは、例えば人工知能(Artificial Intelligence:AI)が行う。AIは過去の試験データを用いて、学習、推論および判断を行う。過去の試験データは、他のデータを含むことを許容する。
なお、新たに行われる試験で得られる試験データであるパイロットコメント、評価値および飛行データ、生体データは、その後に行われる飛行試験に用いるために即座に記憶部20に記憶されることが好ましい。
【0020】
AIによる相関の学習の一例は以下の通りである。
[パイロットコメントと評価基準の相関の学習]:
パイロットコメントの中からパイロットの問題意識やワークロードにかかわるキーワードをAIが抽出してRatingと関連付けを行う。コメント中のキーワードとRatingの学習によって相関づけられる例としては、下記が掲げられる。
例えば「特に問題ない」、「良好」などのコメントでそのほかの指摘事項が特にない場合にはCH-Rは1~2と評価されることが多い。また、「わずかにワークロードがあがるが概ね良好」や「最低限の修正により意図通りにコントロール可能」という表現があった場合にはCH-Rは3と評価されることが多い。また、「意図通りにコントロールできるが修正が常に必要となる」、「Desired要求内ではあるが、ワークロードはやや高く、エレベータのゲインを見直してほしい」など、コントロールは意図通りできるというキーワードと改善を求める、またはワークロードが最低限度を上回るコメントがあればCH-Rが4と評価されることが多い。
【0021】
[飛行データと評価基準の相関の学習]:
飛行データ、特にタスク要求となっているパラメータと要求範囲から、例えばそのパラメータがほとんど変化することなくDesiredタスク要求を満たしていればCH-R1~2、Desired要求は満たしているが、変動しておりパイロットが持続的な修正を加えている傾向にあればCH-Rが4といったように相関が学習される。また、持続的な修正が必要な場合、現状は修正する時間の長さや修正が必要なパラメータの種類に応じてCH-R3と4に評価される。AIを用いて過去データを含む膨大な試験データ(飛行データとパイロットによる評価)を利用することにより、例えば、CH-R3と4の境目などにおいても、精度の高い相関を見出すことより適切な評価が行えるようになる。
【0022】
[生体データと評価基準の相関の学習:
例えば、ワークロードの高さによってもパイロットが耐えられない(CH-R7より大きくなる)ワークロードに関与する生体データは視線移動が閾値を超えた時と心拍呼吸がある値を超えた状態が重なったときである、という相関関係が学習される。また評価基準中にあるpilot compensationのminimal、moderate、considerableといった程度が学習によりデータに対する基準値が示されるようになる。
【0023】
図3および
図4に過去の試験データの例を示す。
図3はパイロットコメントおよびC-H Rating(評価値)を示し、
図4は飛行データを示す。
え
データα、データβにおいて、Case No.およびフライトNo.(FLT No.)は、試験の識別データである。例えば、データαにおける試験データは、「1-1-1」というCase No.および「1002」、「2003」というフライトNo.により、他の試験データと識別される。このデータαは、「A」と「B」の二人のパイロットによる試験データが示されており、FLT No.は、パイロットごとに付与されている。これらの識別データは、試験に先立って評価部10に入力される。
【0024】
データα、データβにはパイロットコメントおよびC-H Ratingに関するデータが含まれている。データβにおいて、パイロット「A」、「B」はともにC-H Rating(評価値)を3としている。
データα、データβには性能要求に関するデータが含まれており、例えばデータαにおいて、C-H Ratingの要求値、および、旋回中のバンク角が「望ましい(Desired)性能要求」および「適切な(Adequate)性能要求」の2段階で特定されている。
【0025】
データα、データβにおいて、試験項目はタスクをまとめた名称がつけられており、また、高度、速度、重量重心および形態は飛行諸元を示している。さらに、
図3におけるタスク要求は、それぞれのタスク中の性能要求である。タスクは試験項目をさらに細分化して定義されたものである。例えば、着陸試験において、デクラブ操作(滑走路端を通過したあたりから横風に対して振られていた機首を滑走路の方向に向けなおす操作)においてバンク角を与えられた角度以内に維持するというタスクA、その後フレア操作(接地直前に機首を上げる操作)を経て接地時の昇降率を与えられた昇降率以下にするというタスクBなど、各フェーズごとに細分化される。タスクAおよびタスクBはデータβのタスク要求に具体的な数値要求が記載されている。
【0026】
図4は、数多くの飛行条件の中から、飛行速度(Vc)、コラム角(c)、スロットルレバー右(TR)、コラム操作力(fe)、エレベータ舵角左(eL)およびエレベータ舵角右(eR)に関する飛行データが示されている。
図4のグラフにおいて、横軸が時間を示し、縦軸がそれぞれの値を示しており、記憶部20にはそれぞれの飛行条件における経時的なデータが蓄積されている。この飛行データは、例えば、
図3のデータαの試験データを取得したときのものである。つまり、
図3のデータと
図4のデータは互いに関連付けられて記憶部20に記憶されている。なお、
図4にスロットルレバー左(TL)、エレベータ舵角左(eL)が示されていないが、スロットルレバー左(TL)、エレベータ舵角左(eL)はスロットルレバー右(TR)、エレベータ舵角右(eR)とほとんど同じ値で重ね描きされているためである。
飛行条件は、
図4に示される事項の他、
図5に示される事項を含むことができる。
【0027】
[音声収録部30]
音声収録部30は、飛行試験を行ったパイロットのコメントを音声として収録し、かつ、この音声データをテキストデータに変換する。変換されたパイロットコメントのテキストデータは、評価部10において補正がなされる。
音声収録部30は、音声データを収録するために、音声を電気信号に変換するマイクロフォンを備える。本開示において用いられるマイクロフォンの種類に制限はない。
【0028】
また、音声収録部30は、マイクロフォンで電気信号に変換された音声に関するデータをテキストデータに変換する音声認識機能を有する。音声認識機能は、収録する音声のデータと言語のデータを照合しながら、音声をテキストに変換する。
【0029】
音声認識機能は、一般的に、音声認識辞書を備えており、収録された音声を音響分析するとともに、音響分析の結果と音声認識辞書を照合する。音声認識辞書は、一例として、音響モデル、言語モデルおよび発音辞書を備えている。音響モデルとは、認識対象の音の周波数成分や時間変化の分析を行い、その周波数特性を見出す。一般的な音響モデルは、数千人、数千時間の音声を統計的に処理したものを基礎としている。言語モデルは、文字列や単語列が日本語として適切か否かを評価するためのものであって、日本語テキストを多く集め、統計処理したものである。発音辞書は、言語モデルの単語と音響モデルを結びつける役割を果たす。音響モデルは声の最小単位の"音素"ごとにモデル化されており、音素音響モデルを発音辞書に従って連結して、単語発話に相当する単語音響モデルを構成する。過去のパイロットコメントを収集することで学習を深化させ、より航空機評価に特化した単語モデルを構築することができる。
【0030】
ここでは、音声収録部30が音声認識機能を有することとしたが、音声認識機能を音声収録部30以外の部位、例えば評価部10に持たせてもよい。この場合、音声収録部30は、マイクロフォンを備えていれば足りる。また、音声収録部30で収録された音声を視聴できるように、スピーカを設けてもよい。スピーカとは、電気信号を音声に変換して出力する装置をいう。
【0031】
図6を参照して、パイロットコメントの音声データをテキストデータに変換する一例を説明する。この補正は、一例として、記憶部20に記憶されている過去の試験データを人工知能が参照することで行うことができる。
この例は、ロールイン/アウト時のロール、および、バンク中およびバンク保持時のFeに関するパイロットコメントである。その中で、いくつかの特徴的な補正を含む変換例を以下に示しておく。なお、「Fe」はコラム操作力を意味する。
【0032】
図6の上段は、パイロットコメントの音声データを編集することなくそのままテキストデータ化した基礎テキストデータである。
図6の下段は、この基礎テキストデータを人工知能が過去の試験データを参照して補正した補正テキストデータである。次に説明する
図7も同様である。
基礎テキストデータにおいては、「機体応答が遅いのは初動のみです。」という結論が末尾にあるのに対して、補正テキストデータにおいては、この結論が冒頭に置かれている。また、音声データにおいては、「ひとつ前のケース」との抽象的な表現が、変換された最終テキストデータにおいては「FLT No.3004」と具体的に特定された表現に変換されている。この変換は、一例として示した
図3の過去の試験データに含まれるフライトNo.と今回の飛行試験におけるフライトNo.を照合することによって、実行できる。さらに、音声データにおいては、「ワークロード」と表現されていたものが、変換された最終テキストデータにおいては、「パイロットワークロード」とワークロードの対象が明確にして変換されている。この変換は、過去の試験データの特にパイロットコメントを参照し、例えば「ワークロード」を含む語が一部の例外を除いて「パイロットワークロード」であることを根拠として統一された表現に変換される。
【0033】
図7を参照して、パイロットコメントの音声データをテキストデータに変換する他の例を説明する。
この例は、ゴーアラウンド時の引き操舵力、ならびに、Flap Upおよび機体速度の増速に伴う押し操舵力に関するパイロットコメントである。その中で、補正を含むいくつかの特徴的な変換例を以下に示しておく。
【0034】
図7に示す例は、飛行データとパイロットコメントの不整合を飛行データに基づいて補正しているのに加えて、従来のワークロードとパイロットコメントの相関からワークロードの高さを補正している。
【0035】
前者について具体的には、基礎テキストデータにおいては、「90ポンド,80ポンドくらいかな,で重く」、および、「80ポンドくらいで重く」であるのが、飛行データを参照することにより、「約80lbsと重く」、および、「重く(約70~80lbs)」と補正テキストデータに変換されている。また、音声データにおいては、「約±0.5°」であるのが、飛行データを参照することにより、「約±1°」と補正テキストデータに変換されている。
【0036】
後者について具体的には、基礎テキストデータにおいては、「パイロットワークロードは高い」というのが、補正テキストデータにおいては、「パイロットワークロードは非常に高い」と補正を伴って変換されている。
【0037】
以上のように、当該飛行試験における飛行データ、過去の試験データ、特に記憶されている過去のワークロードに関するデータを参照することにより、パイロットの主観によるパイロットコメントのばらつきを減らすことができる。
【0038】
[生体データ収集部40]
生体データ収集部40は、飛行試験を行っているパイロットの生体データを測定して評価部10に送信する。評価部10は、飛行試験を評価する一つの要素として、生体データを用いる。生体データは、定量的なデータであり、これに基づいてパイロットワークロードの定量化を可能にする。
【0039】
生体データ収集部40は、一例として、腕時計型のウエラブルデバイス(Wearable Device)が適用される。パイロットは、このウエラブルデバイスを腕に装着して、飛行試験を行う。ウエラブルデバイスは、飛行試験を行っているパイロットの生体データを継続的に測定する。測定された生体データは、評価部10に送られる。
ウエラブルデバイスは腕時計型に限られず身体の一部に装着されればよい。ウエラブルデバイスの他の一例として、アイトラッキングデバイス(Eye Tracking Device)を用いることができる。アイトラッキングデバイスは、被験者としてのパイロットの視点の動きを認識する。アイトラッキングデバイスは、眼鏡に装着されたり、帽子に装着されたりすることでウエラブルになる。
【0040】
生体データ収集部40が取得する生体データとして、
図8および
図9に示すように、心拍数、呼吸、発汗量および視点移動を例示する。生体データは、
図8および
図9に示すように、グラフ化することができ、このグラフを報告書に含めることができる。
図8の心拍を示すグラフは、横軸が経過時間を示し、縦軸が心拍の強さを示している。
図8のデータにおいて、試験開始6秒後を境に心拍が急変しており、パイロットの身体的負荷が大きくなったと判断できる。
図8の呼吸を示すデータは、横軸が経過時間を示し、縦軸が呼吸の深さを示している。
図8のデータにおいて、試験開始8秒前後に呼吸の深さ、頻度がある閾値、例えば呼吸の深さが-0.15を超えており、パイロットの身体的負荷が大きくなったと判断できる。
【0041】
図9の発汗のグラフは、横軸が経過時間を示し、縦軸が発汗量を示している。
図9の発汗量を示すデータにおいて、例えば閾値0.1を超えると、パイロットの身体的負荷および精神的負荷の一方または双方が大きくなったと判断できる。
図9の視点移動のグラフは、横軸が経過時間を示し、縦軸が視点の移動距離を示している。
図9の視点移動を示すデータにおいて、例えば0.5秒間に5で示される距離の視点移動があると、パイロットの注意力が削がれ、精神的負荷が大きくなったと判断できる。
【0042】
これまでパイロットワークロードは、これまでパイロットコメントに依存しており、その特定は、定性的であった。これに対して、本実施形態に係る評価支援システム1では、前述のように試験後に得られるパイロットコメントを試験中に取得される生体データを基に補正することで、パイロットワークロードを定量的に特定できる。例えば、心拍について、その強度を大、中、小の3段階に区分し、この区分に応じてパイロットワークロードの大きさを大、中、小のいずれかに特定することができる。パイロットワークロードは、心拍に限らず、呼吸、発汗、視点移動などの他の身体データに基づいて、パイロットワークロードを定量的に特定できるし、心拍、呼吸、発汗および視点移動に関するデータを組み合わせて特定することもできる。さらに、心拍、呼吸、発汗および視点移動を除く他の脳波などの生体データに基づいて、パイロットワークロードを定量的に特定してもよい。
また、生体データは、これまでの評価値の妥当性を判定するための評価参照値を特定するのに用いることができる。
【0043】
[シミュレータ/航空機50]
シミュレータ/航空機50は、試験に供されるフライトシミュレータまたは現実の航空機である。シミュレータは現実の航空機の操縦と等価な感覚、及び操縦のための情報をパイロットに対して与えるための装置であり、具体的に適用される装置に制限はない。シミュレータを利用すれば、実際に航空機を使用することに比較して高い安全性を確保しつつ、低コストで航空機に関する種々の実験や評価研究を行うことができる。
シミュレータで利用されるデータ処理ソフトウェアや計器表示プログラムを、試験用の航空機と共通にすれば、評価部10の処理を共有でき、飛行シミュレーションと実際の航空機を利用した飛行実験とを併せた総合的な実証試験を行うこともできる。
【0044】
[評価部10]
次に、評価部10について説明する。
評価部10は、記憶部20に記憶されているデータ、特に過去の試験データおよび今回の施行試験に関して得られる試験データに基づいて、当該航空機の評価を行う。評価部10における評価の手順を
図10~
図17を参照して説明する。
この手順は、パイロットコメントのテキストデータ化、評価参照値出力、飛行データのグラフ化、生体データのグラフ化および報告書の出力を含んでいる。以下、この順にそれぞれの内容を説明するが、実際の手順がこの順に行われることを限定するものではない。少なくとも報告書の出力は手順の最後に行われるが、それ以外は並行して同時に行うこともできる。
【0045】
[パイロットコメントのテキストデータ化(
図10)]
はじめに、
図10を参照して、パイロットコメントの音声データをテキストデータに変換する手順を説明する。この手順は、音声データをテキストデータに単純に変換するのに留まらず、変換されたテキストデータを補正する。音声データの中にパイロットの錯誤により誤った情報が含まれるのを防ぐためである。この補正は、パイロットの操作による飛行データおよび飛行操作中のパイロットの生体データを用いて行われる。
【0046】
この手順は、評価作業を行う操作者により、評価部10に対して「コメント出力」というコマンドがキーボードから入力されることにより開始される(
図10 S101)。
評価部10は、このコマンドを受けると、すでに取得している音声データをテキストデータに変換する(
図10 S103)。ここで変換されたテキストデータは、基礎テキストデータと称する。基礎テキストデータは、音声認識技術に基づき音声データが忠実にテキストデータに変換されたものである。
【0047】
評価部10は、この基礎テキストデータを補正して、補正テキストデータを生成する。補正は、シミュレータを操作することで得られる飛行データおよび生体データを用いて以下のように、第一段階の処理と第二段階の処理を経て行われる。飛行データは、実際の航空機で得られたものを用いることもできる。
第一段階の処理として、基礎テキストデータの中で飛行条件に関する部分を飛行データと比較し、差異があるか否か判断する(
図10 S105,S107)。差異があれば、飛行データに一致または沿うように、基礎テキストデータを修正する(
図10 S107 yes,S109)。例えば、基礎テキストデータにおける飛行条件の中の引き操作力が90ポンドぐらいとあるのに対して、飛行データの中の引き操作力が79.2lbsであれば、基礎テキストデータの中の90ポンドぐらいを約80lbsに書き換えて修正する(
図10 S109)。差異がなければ、基礎テキストデータをそのままにする(
図10 S107 no)。
修正が施されたテキストデータおよび修正が施されない基礎テキストデータは、第一段階の処理後のデータと総称される。
【0048】
次に、第二段階の補正として、第一段階の処理後のデータでパイロットワークロードに関するデータを生体データと比較し、差異があるか否か判断する(
図10 S111,S113)。差異があれば、生体データに一致するように、第一段階の処理後のデータを修正する(
図10 S113 yes,S115)。例えば、第一段階の処理後のデータにおけるワークロードの中のワークロードが「高い」とあるのに対して、生体データの中のワークロードを示す心拍、発汗量が「非常に高い」に相当する閾値を上回っていれば、第一段階の処理後のデータの中のワークロードを示す「高い」という表現を生体データに沿うように「非常に高い」に書き換えて補正する(
図10 S115)。差異がなければ、第一段階の処理後のデータをそのままにする(
図10 S113 no)。
【0049】
以上説明した二段階の補正を行った後に、パイロットのコメントを出力する(
図10 S117)。出力は、補正後のパイロットコメントに加えて、純粋な音声データをテキスト化した基礎テキストデータを含める。これにより、エンジニアやパイロットが補正の内容を確認し加筆修正できる。最終的にはその修正されたコメントが、報告書に掲載される。何が修正されたのかをシステムが学習することで、以降はより精度の高い補正を行えるようになる。
【0050】
[評価参照値出力(
図11)]
次に、
図11を参照して、評価参照値の出力の手順を説明する。この手順は、評価支援システム1を操作する操作者から入力されるコマンドにより実行される(
図11 S201)。
操作者から当該コマンドが入力されると、以下の3つの処理が並行して実行される。
1つ目の処理は、飛行データとタスク要求を比較する(
図11 S203)。この処理は、タスク要求に対して、飛行データがクライテリアをどの程度満たしているかを確認するために行われる。
2つ目の処理は、生体データおよびパイロットコメントとワークロードとを比較する(
図11 S205)。この処理は、Rating scaleのワークロード表現との合致性を確認するために行われる。
3つ目の処理は、パイロットコメントとキーワードを照合する(
図11 S207)。この処理は、パイロットコメントから他の試験ケースとの評価の差をつけたいか、機体に対する改善の要求があるかなどを考慮するために行われる。
【0051】
以上の3つの処理を並行して行った後に、Rating scaleとパイロットコメントを含めて比較する(
図11 S209)。
比較の結果、パイロットの評価値がRating scaleと差があれば(
図11 S211 Y)、Rating scaleに基づいてパイロットの評価値が補正される(
図11 S213)。補正された評価値が評価参照値とされる(
図11 S215)。比較の結果、パイロットの評価値がRating scaleと差がなければ(
図11 S211 N)、パイロットの評価値がそのまま評価参照値とされる(
図11 S215)。
それぞれの項目の補正について、より具体的には、以下の通りである。
飛行データとタスク要求との比較については。例えば、高度2500ftの保持タスクでDesired要求が±100ft、Adequate要求が±200ftである時に、高度が最大で2634ftまで逸脱した場合、
図2の基準からはCH-Rは5もしくは6と補正する。それにもかかわらずパイロットの評価値がCH-Rが4である場合は、評価参照値をCH-R5(もしくは6)として提示する。同様に高度2250ftまで変更された場合、評価参照値はCH-R7より大きい値を提示する。
【0052】
生体データおよびパイロットコメントとワークロードとの比較については、以下が例示される。パイロットからのコメントにおいて「ワークロードがかなり高く常に修正操舵を必要とする」とある一方でパイロットからの評価値は3であった場合は、3の最低限の補償操作ではないと解される。さらにこの時に生体データの心拍、発汗量からも「ワークロードがかなり高い」と裏付けられた場合はCH-R 4よりも大きい値にパイロットの評価値を補正する。
【0053】
パイロットコメントのキーワードとの照合に基づいて評価参照値を変更する例は以下の通りである。コメントに「操舵に対する応答が緩慢であり意図通りで満足できるピッチコントロールを得るにはエレベータのゲインを見直す必要がある」とある。それにもかかわらず、パイロットからのCH-Rが3の場合は、「見直し]というキーワードに基づいて、評価参照値を4とより大きい値に補正する。他の例として、一連の試験項目の中の別の諸元と比較したFLT No.A12のコメントが「FLT No.A13と比較して安定せずふらつきが継続する」とあるにもかかわらず、評価値はFLT No.A12はCH―Rが3、FLT No.A13はCH-R2であった場合には、「FLT No.**と比較]というキーワードに基づいて、FLT No.A13のCH-2を評価参照値としては3や4に補正することも必要となる。
以上の処理を通じて、評価参照値を特定する(
図11 S215)。
3つの処理により、同じ方向になるなら処理は明解だが、相反する方向であれば処理間で重みづけを行って処理調整や要すれば再試験を要請することも選択肢としてはあり得る。同じ方向とは、例えばパイロットの評価値よりも悪い評価参照値になることをいう。相反する方向とは、例えばS203では悪い側に評価されるのに対して、S205では良い側に評価される場合をいう。
【0054】
[飛行データのグラフ化(
図12)]
次に、
図12を参照して、飛行データをグラフ化して出力する手順を説明する。この手順は、評価支援システム1を操作する操作者から入力されるコマンドにより実行される(
図12 S301)。
はじめに、飛行データとタスク要求を比較する(
図12 S303)。例えば、「Gear Downまでの間は高度2500ftの保持」というタスク要求があり、高度±100ftがDesired要求、±200ftがAdequate要求である場合、高度のデータにおいて2600ft・2400ft、2700ft・2300ftに基準線を表示し、要求の範囲を逸脱した箇所には表示部60において強調表示されるようにできる。
次に、飛行データのうち基本データおよびタスク要求に関するデータをグラフ化する(
図12 S305)。ここで、飛行データのうち基本データとしては、あらかじめ設定されている、高度、速度、ピッチ角、バンク角、操縦桿入力量などである。また、パイロットコメントから特記事項のある飛行データを抽出してグラフ化する(
図12 S307)。以上を通じて飛行データをグラフ化する(
図12 S309)。
【0055】
[生体データのグラフ化(
図13)]
次に、
図13を参照して、生体データをグラフ化して出力する手順を説明する。この手順は、評価支援システム1を操作する操作者から入力されるコマンドにより実行される(
図13 S401)。
はじめに、生体データをグラフ化する(
図13 S403)。また、パイロットコメントから特記事項のある生体データおよび変化の顕著なデータを抽出してグラフ化する(
図13 S405)。以上を通じて生体データがグラフ化される(
図13 S407)。
【0056】
[報告書の出力(
図14)]
パイロットコメントのテキストデータ化、評価参照値出力、飛行データのグラフ化、生体データのグラフ化が終わると、操作者から入力されるコマンドにより、報告書の出力が実行される(
図14 S501)。報告書を出力するためには、テキストデータ化されたパイロットコメント、評価(参照値)、グラフ化された飛行データおよびグラフ化された生体データが用意される(
図14 S503)。用意された上記データ類は、報告書フォーマットの所定位置に入力され(
図14 S505)、入力が完了すると、評価支援システム1が備えるLCD(Liquid Crystal Display)などの画像表示装置に表示させる、印刷機により所定の用紙に印刷させるなどして報告書を出力する(
図14 S507)。
【0057】
出力された報告書の一例を
図15および
図16,
図17に区分して示す。
図15に示すように、報告書には、試験項目、形態、飛行諸元、重量重心、パイロット、フライトNo.、パイロット・コメント、評価値、タスク要求および評価参照値が記述される。
この報告書は、
図15に示される同じ試験項目について、パイロットDおよびパイロットBの二人の分を含んでいる。
図16は
図15におけるFLT No.D74の飛行データ出力の例であり、
図17は
図15におけるFLT No.B57の飛行データ出力および生体データ出力である。どちらの飛行データも基本データである速度(較正対気速度とピッチ角)、タスクの要求である高度(Desired要求の±100ftに基準線が引かれている)、コメント中に特記のあるスラストのスラストレバー角度及びN1(エンジン回転数)が追加されている。また、
図17はコメント中にワークロードの記載があり、さらに心拍データがあるところから閾値を超えたため、心拍データが選択され表示されている。
図15のFLT No.B57の評価参照値は高度がDesired要求を逸脱していること、ワークロードが高いことから5に変更されている。
【0058】
[効果]
次に、本実施形態に係る評価支援システム1が奏する効果について説明する。
[評価に関する労力の軽減]
コメントを記録するのに一定の技量と時間を要していたが、パイロットの音声データからテキスト化できることで正確なコメントを記録する効率が上がる。
また、飛行データを評価基準や要求性能と比較する作業も自動化することでエンジニアの負担が減り、ミスも起きにくくなる。
【0059】
[客観性のあるデータにより評価制度の向上]
ワークロードをセンシングした生体データから定量的に出すことで、パイロットコメントの中のワークロードの高さの裏付けとなる。また、パイロット間のばらつきなども抑えることができる。
最終的に、主観的なパイロットの評価結果とシステムの算出した評価参照値と比較して、修正を加えることでパイロットの思い込みによる評価エラーを防ぎ、より精度の高い評価を最小限の労力で得ることができる。
【0060】
[付記]
以上の実施形態に記載の評価支援システム1は、以下のように把握される。
[第1の態様に係る評価支援システム1]
第1の態様に係る評価支援システム1は、予め定められた評価基準に基づく、飛行試験を行ったパイロットによる評価結果に対する評価参照値を特定する評価部10と、飛行試験が行われた最中にパイロットの生体データを収集する生体データ収集部40と、を備える。評価部10は、生体データ収集部40で収集された前記生体データに基づいて、評価参照値を特定する。
【0061】
第1の態様に係る評価支援システム1によれば、主観的なパイロットの評価結果とシステムの算出した評価参照値と比較して、修正を加えることでパイロットの思い込みによる評価エラーを防ぎ、より精度の高い評価を、最小限の労力で得ることができる。
【0062】
[第2の態様に係る評価支援システム1]
第2の態様に係る評価支援システム1の評価部10は、パイロットの身体的および精神的な負荷であるパイロットワークロードと生体データとを比較することにより評価参照値を特定する。
第2の態様に係る評価支援システム1によれば、より精度の高い評価を得ることができる。
【0063】
[第3の態様に係る評価支援システム1]
第3の態様に係る評価支援システム1の評価部10は、飛行試験における飛行データとタスク要求とを比較し、評価結果を補正して評価参照値とするか、または、テキストデータとされた飛行試験を行ったパイロットのコメントに含まれるキーワードに基づいて評価結果を補正して評価参照値とする。
第3の態様に係る評価支援システム1によっても、より精度の高い評価を得ることができる。
【0064】
[第4の態様に係る評価支援システム1]
第4の態様に係る評価支援システム1の評価部10は、テキストデータとされた飛行試験を行ったパイロットのコメントに含まれるパイロットのワークロードに関するワークロード情報と生体データとを比較し、ワークロード情報を生体データに沿うように補正する。
第4の態様に係る評価支援システム1によっても、より精度の高い評価を得ることができる。
【0065】
[第5の態様に係る評価支援システム1]
第5の態様に係る評価支援システム1の評価部10は、パイロットの音声によるコメントを取得する音声収録部を備える。この評価部10は、音声によるコメントをテキストデータに変換し、変換されたテキストデータについて、ワークロード情報と生体データとを比較する。
第5の態様に係る評価支援システム1によっても、労力を軽減しつつ、より精度の高い評価を得ることができる。
【0066】
[第6の態様に係る評価支援システム1]
第6の態様に係る評価支援システム1の評価部10は、テキストデータにされた飛行試験を行ったパイロットのコメントに含まれる飛行条件に関する飛行情報と飛行試験における飛行データとを比較し、飛行情報を飛行データに一致または沿うように補正する。
第6の態様に係る評価支援システム1によっても、より精度の高い評価を得ることができる。
【0067】
上記以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
つまり、本開示はパイロットによる航空機の評価にとどまらず、乗員訓練における技量評価の自動化にも応用できる。乗員の技量評価では、パイロットあるいはコパイロットの操縦に対して、教官がコメントを出すため、以上の実施形態におけるパイロットコメントの取得を教官からのコメントに変更すればよい。そして、従来の評価における飛行データや教官のコメント、評価ポイントをデータベース化し、自動評価装置に学習させる。また、訓練用シミュレータに組み込んで、評価支援を行い、結果を報告書として出力することができる。より公平で客観的な技量評価を行うことができる。
【0068】
また、取得した生体データと他の試験データとを関連付けて記憶させていけば、パイロットワークロードの高さを定量的に求めることができる。つまり、蓄積した過去の生体データおよびパイロットコメントとの相関を照合することで、パイロットワークロードの高さを定量的に求めることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 評価支援システム
10 評価部
20 記憶部
30 音声収録部
40 生体データ収集部
50 シミュレータ/航空機
60 表示部