(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】脳卒中の予測のための循環アンジオポエチン-2(Ang-2)およびインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220414BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220414BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220414BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220414BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
A61K45/00
A61P9/00
A61P7/02
(21)【出願番号】P 2020532555
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2018084577
(87)【国際公開番号】W WO2019115620
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-08-07
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】カール,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】コネン,ダーフィット
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502659(JP,A)
【文献】特表2014-528576(JP,A)
【文献】特表2017-530356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0018234(US,A1)
【文献】北川 一夫,Embolic Stroke of Underterminated Souces (ESUS) の病態,神経治療,Vol.33/No.3,日本,2016年,p.382-386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の脳卒中のリスクを予測するために、心房細動を患う被検者からのサンプル中のアンジオポエチン-2(Ang-2)の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定し、基準量とAng-2の量および/またはIGFBP7の量を比較する方法であって、該サンプルが血液、血清または血漿である、前記方法。
【請求項2】
前記心房細動は、発作性、持続性または恒久性の心房細動である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被検者は、脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)の病歴を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記被検者は、抗凝固療法を
既に受けている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記被検者はヒトである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基準量と比較して、Ang-2の量および/もしくはIGFBP7の量が増加する場合は、脳卒中を患うリスクがある被検者を示唆する、ならびに/または、前記基準量と比較して、Ang-2の量および/もしくはIGFBP7の量が減少するもしくは変化しない場合は、脳卒中を患うリスクがない被検者を示唆する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
予測ウィンドウが最大10年の期間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合に、抗凝固療法を推奨する
ために被験者をスクリーニングすることにおける使用のための、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合に、抗凝固療法の強化を推奨するために被験者をスクリーニングすることにおける使用のための、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
被検者における脳卒中のリスクを予測するために、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有し心房細動を患う被検者からのサンプルにおいて、Ang-2の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定し、前記被検者の前記臨床的脳卒中リスクスコアを評価する方法であって、該サンプルが血液、血清または血漿である、前記方法。
【請求項11】
被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有し心房細動を患う被検者からのサンプルにおいて、Ang-2の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、ならびに
b)Ang-2および/またはIGFBP-7の量の値を前記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それによって、前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるステップ、
を含み、該サンプルが血液、血清または血漿である、前記方法。
【請求項12】
前記臨床的脳卒中リスクスコアは、CHA2DS2-VAScスコア、CHADS2スコアまたはABCスコアである、請求項
10または
11に記載の方法。
【請求項13】
心房細動を患う被検者の脳卒中のリスクを予測するための、前記被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用であって、該サンプルが血液、血清または血漿である、前記使用。
【請求項14】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための、心房細動を患う被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用であって、該サンプルが血液、血清または血漿である、前記使用。
【請求項15】
被検者が脳卒中を患うリスクを予測するための、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされた、心房細動を患う被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の使用であって、該サンプルが血液、血清または血漿である、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法、および臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を向上させる方法、に関する。本発明の方法は、被検者からのサンプル中のアンジオポエチン-2(Ang-2)の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量の決定に基づくものである。さらに、本発明は、被検者の脳卒中のリスクを予測するための、前記被検者からのサンプルにおける、i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/またはii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、高所得国における失われた障害調整生存年数の原因として、また世界中の死因として、虚血性心疾患に次いで、2番目となっている。脳卒中のリスクを低減するためには、抗凝固療法が最も適切な治療法と考えられる。
【0003】
心房細動(Atrial fibrillation:AF)は、脳卒中の重要なリスク因子である(Hart et al.,Ann Intern Med 2007,146(12):857-67;Go AS et al JAMA 2001;285(18):2370-5)。心房細動は、不規則な心臓の拍動を特徴とし、短時間の異常な拍動から始まることが多く、時間の経過とともに増加し、恒久性の状態となる可能性がある。米国では推定270~610万人が心房細動を発症し、全世界で約3300万人が心房細動を発症している(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。
【0004】
心房細動のリスクが最も高いAF患者を評価することは、重要であり、ひいては脳卒中のリスクを軽減するために強化抗凝固療法から恩恵を受ける可能性がある(Hijazi et al.,European Heart Journal doi:10.1093/eurheartj/ehw054.2016)。
【0005】
CHADS2、CHA2DS2-VAScスコア、およびABCスコアは、心房細動患者の脳卒中のリスクを推定するための臨床的予測ルールである。これらのスコアは、抗凝固療法による治療が必要かどうかを評価するために使用される。ABC脳卒中スコアには、年齢、バイオマーカー(N末端断片B型ナトリウム利尿ペプチドおよび高感度の心筋トロポニン)、および病歴(過去の脳卒中)が含まれている(Oldgren et al.,Circulation.2016;134:1697-1707を参照のこと)。
【0006】
アンジオポエチンは、血管新生に関与する糖タンパク質である。これらはまた、健康な組織において発現されるため、既存の血管を安定させ、内皮細胞と周囲の血管平滑筋細胞との間の相互作用を調節するものである(Wong AL,et al.Circ Res.1997;81:567-74)。アンジオポエチン-1(Ang-1)からアンジオポエチン-4(Ang-4)までの4種のアンジオポエチンが知られている。ヒトアンジオポエチン-2(Ang-2)は、例えばMaisonpierre PC et al.(Science 277(1997)55-60 and Cheung,A.H.,et al,Genomics 48(1998)389-91)に記載されており、また、アンジオポエチンファミリーの4種の要素の1つである。Ang-2は、血管内皮内で選択的に発現するチロシンキナーゼのファミリーであるTieのリガンドとして発見された(Yancopoulos,G.D.,et al.,Nature 407(2000)242-48)。
【0007】
Ang-1は、内皮細胞に特異的なTie2受容体チロシンキナーゼの作用物質であり、血管新生促進作用を有するが、Ang-2は、血管形成を阻害し、Tie-2受容体を介した拮抗シグナル伝達作用を有することがわかった(Maisonpierre PC et al.,Science 1997;277:55-60)。
【0008】
アンジオポエチン-2(Ang-2)は、内皮的完全性を損なうことが知られており、心不全で上昇したことが示された(例えば、Poss et al.Angiopoietin-2 and outcome in patients with acute decompensated heart failure.Clin Res Cardiol.May 2015;104(5):380-387、またはLukasz et al.Angiopoietin-2 in adults with congenital heart disease and heart failure.PLoS One.2013;8(6):e66861を参照のこと)。
【0009】
Ang-2は、心房細動の患者において上昇することがわかっている(Freestone et al.,Angiogenic factors in atrial fibrillation:a possible role in thrombogenesis?Ann Med 2005;37:365-72またはChoudhury et al.,Relationship of Soluble CD40 Ligand to Vascular Endothelial Growth Factor,Angiopoietins、およびTissue Factor in atrial fibrillation,CHEST 2007;132:1913-1919)。
【0010】
国際特許出願PCT/EP2017/064970は、心房細動の再発予測にAng-2およびIGFB7が使用できることについて開示している。
【0011】
国際公開第2014/072500号パンフレットは、心房細動の診断のバイオマーカーとしてIGPBP7を開示している。
【0012】
国際公開第2014/040759号パンフレットは、心血管イベントおよび死亡率の予測因子としてIGFBP7を開示している。さらに、心血管イベントのリスクがある駆出が減少した心不全患者では、IGFBP-7が上昇することがわかっている(Ghandi et al.,Am J Cardiol 2014;114:1543e1549)。IGFBP-7レベルは、総死亡率、心血管系入院、およびHF入院またはHF死の複合に関して、HFpEF患者の予後徴候であることがわかった(Ghandi et al。J Cardiac Failure 2017)。主な転帰は、総死亡率とプロトコル指定の心血管系入院の複合であり、その入院は、HF、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、心室性または心房性の不整脈、または入院時に生じた心筋梗塞または脳卒中の悪化に対する入院として定義された。ただし、IGFBP-7レベルのデータは、転帰脳卒中と関連して表示されない。
【0013】
脳卒中の予測と予防薬の選択は、満たされていない重要な臨床的ニーズである。
【0014】
これまで、心房細動をすでに患っている患者の脳卒中を予測するためにIGFBP7とAng-2は使用されていなかった。
【0015】
本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応する方法の提供としてとらえることができる。この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲および本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0016】
有利には、被検者からのサンプル中のAng-2および/またはIGFBP7の量を決定することで、脳卒中予測が可能であるという本発明の研究との関連において発見された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)上記被検者からのサンプル中のアンジオポエチン-2(Ang-2)の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、ならびに
(b)基準量とAng-2の量および/またはIGFBP7の量を比較し、それによって脳卒中のリスクが予測されるステップ、
を含む、方法。
【0018】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、心房細動を患う。
【0019】
本発明の方法の一実施形態では、上記心房細動は、発作性、持続性または恒久性の心房細動である。
【0020】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、脳卒中またはTIA(一過性虚血発作)の病歴を有する。
【0021】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者の年齢は、65歳以上である。さらに、上記被検者の年齢は、55歳以上であってもよい。
【0022】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、抗凝固療法を受ける。
【0023】
本発明の方法の一実施形態では、脳卒中は、心塞栓性脳卒中である。
【0024】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、ヒトである。
【0025】
本発明の方法の一実施形態では、上記サンプルは、血液、血清または血漿である。
【0026】
本発明の方法の態様において、上記基準量と比較して、Ang-2および/もしくはIGFBP7の量が増加する場合は、脳卒中を患うリスクがある被検者を示唆する、ならびに/または、上記基準量と比較して、Ang-2および/もしくはIGFBP7の量が減少するもしくは変化しない場合は、脳卒中を患うリスクがない被検者を示唆する。
【0027】
本発明の方法の一実施形態では、予測ウィンドウは、最大10年の期間である。
【0028】
本発明の方法の一実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である。
【0029】
本発明の方法の特定の好ましい一実施形態では、予測ウィンドウは、最大3年の期間である。
【0030】
本発明の方法の一実施形態では、方法は、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、抗凝固療法を推奨するか、または抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。
【0031】
本発明はさらに、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する上記被検者からのサンプルにおいて、Ang-2の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、
b)上記被検者の上記臨床的脳卒中リスクスコアを評価するステップ、ならびに
c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中の上記リスクを予測するステップ
を含む、方法に関する。
【0032】
本発明はさらに、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する上記被検者からのサンプルにおいて、Ang-2の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、ならびに
b)Ang-2および/またはIGFBP-7の量の値を上記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それによって、上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるステップ、
を含む、方法に関する。
【0033】
上述の方法の実施形態では、上記方法は、上記被検者の臨床リスクスコアの評価をさらに含む。
【0034】
本発明の一実施形態では、上記臨床的脳卒中リスクスコアは、CHA2DS2-VAScスコア、CHADS2スコアまたはABCスコアである。
【0035】
本発明はさらに、被検者の脳卒中のリスクを予測するための、前記被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用、に関する。
【0036】
本発明はさらに、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための、被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用、に関する。
【0037】
本発明はさらに、被検者が脳卒中を患うリスクを予測するための、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされた、被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用、に関する。
【0038】
一実施形態では、IGFBP7に特異的に結合する検出剤は、IGFBP7に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である。
【0039】
一実施形態では、Ang-2に特異的に結合する検出剤は、Ang-2に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
上記のように、本発明は、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
(a)上記被検者からのサンプル中のアンジオポエチン-2(Ang-2)の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、ならびに
(b)基準量とAng-2の量および/またはIGFBP7の量を比較し、それによって脳卒中のリスクが予測されるステップ、
を含む、方法に関する。
【0041】
脳卒中の予測は、上記比較ステップ(b)の結果に基づくものとする。
【0042】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、
a)被検者からのサンプルにおいて、アンジオポエチン-2(Ang-2)の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、
b)基準量とAng-2および/またはIGFBP7の量を比較し、それによって脳卒中のリスクが予測されるステップ、ならびに
c)好ましくはステップb)の結果に基づいて、被検者における脳卒中のリスクを予測するステップ、
を含む、方法である。
【0043】
本発明によって言及される方法は、本質的に上述のステップからなる方法、またはさらなるステップを含む方法、を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、エクスビボ、より好ましくはインビトロの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えて、ステップを含んでもよい。例えば、さらなるステップは、さらにマーカーを決定したり、および/または治療前のサンプルを採取したり、その方法で得られた結果を評価したりし得る。この方法は、手動で実行しても、自動化によって支援してもよい。好ましくは、ステップ(a)、(b)および/または(c)は、全体的または部分的に、自動化によって、例えば、ステップ(a)における決定またはステップ(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボットおよび感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0044】
当業者によって理解されるように、本発明に関連して行われる予測は、通常、試験される被検者の100%について正しいことを意図していない。この用語は、好ましくは、被検者の統計的に有意な部分に対して、正しい評価(例えば、本明細書でいう治療の診断、区別、予測、識別、または評価)を行うことができること、を必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者がすぐさま決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.4、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0045】
本発明の方法によれば、脳卒中のリスクが予測されるものとする。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。この用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳またはその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症または塞栓症によって、凝固障害または非アテローム性血管疾患によって、または全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。上記虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中および小窩性卒中からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、予測される脳卒中は、急性虚血性脳卒中、特に心塞栓性脳卒中である。心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。
【0046】
「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。被検者が、脳卒中、特に虚血性脳卒中を患うかどうかは、周知の方法によって判定することができる。さらに、脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目または両目の突然の見えづらさ、突然の歩行困難、めまい、バランスまたは調整の喪失などが挙げられる。
【0047】
さまざまな疾患や障害において、バイオマーカーが増加し得ることは、当該技術分野において公知である。これは、Ang-2とIGFBP7にも当てはまる。例えば、心不全患者ではIGFBP7が増加することが知られている。しかしながら、これは当業者により考慮される。したがって、「脳卒中のリスク予測」という表現は、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測するのに役立つ。
【0048】
本明細書でいう「被検者」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられる。好ましくは、被検者は、ヒト被検者である。
【0049】
好ましくは、試験される被検者は、任意の年齢であり、より好ましくは、試験される被検者は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上である。さらに、試験される被検者は、70歳以上であることが想定される。加えて、試験される被検者は、75歳以上であることが想定される。また、被検者は、50歳から90歳の間であってよい。
【0050】
さらに、上記被検者の年齢は、55歳以上であってもよい。
【0051】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、試験される被検者は、心房細動を患う。心房細動は、発作性、持続性、または恒久性の心房細動であってもよい。したがって、被検者は、発作性、持続性または恒久性の心房細動を患ってもよい。特に、被検者は、発作性、持続性、または恒久性の心房細動を患うことが想定される。本発明の基礎となる研究において、本明細書でいうバイオマーカーの決定により、すべてのサブグループにおける脳卒中の予測が可能になることが示される。ベストパフォーマンスは、持続性および恒久性の心房細動の患者で観察された。
【0052】
したがって、本発明の方法の一実施形態では、被検者は、発作性心房細動を患う。
【0053】
本発明の別の実施形態では、被検者は、持続性心房細動を患う。
【0054】
本発明の別の実施形態では、被検者は、恒久性心房細動を患う。
【0055】
「心房細動」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能の結果としての悪化を伴う、非協調的な心房活動を特徴とする上室性頻拍性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。それは、心臓の2つの上部房と関連する。正常な心臓のリズムでは、洞房結節によって生成されたインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心拍を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。ただし、ほとんどのエピソードには症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、およびタイミングが変化する急速な振動または細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0056】
The American College of Cardiology(ACC)、American Heart Association(AHA)、およびthe European Society of Cardiology(ESC)は、次の分類システムを提案する。(これとともに、その全体が参考として組み込まれるFuster(2006)Circulation 114(7):e257-354を参照のこと、例えば、書類中
図3を参照のこと):最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、および恒久性AF。
【0057】
AFがあるすべての人々は、病初では、最初に検出されたAFと呼ばれるカテゴリに属する。ただし、被検者は、以前に検出されなかったエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。AFが1年以上持続した場合、被検者は恒久性AFを患う。特に、洞調律へ戻る変換は、行われない(または医学的介入によってのみ)。AFが7日を超えて続く場合、被検者は持続性AFを患う。被検者が、心房細動を止めるには、薬理学的または電気的な介入が必要な場合がある。したがって、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、通常自発的に(つまり、医学的介入なしで)洞調律へ戻る変換はされない。発作性心房細動とは、好ましくは、心房細動の断続的なエピソードを指し、7日以上持続せずに、自然に(すなわち、医学的介入なしで)終了する心房細動である。発作性AFのほとんどの場合、エピソードが続くのは、24時間未満である。したがって、発作性心房細動は自然に終了するが、持続性心房細動は自然には終了せず、止めるために電気的または薬理的心臓除細動、またはアブレーション処置(Fuster(2006)Circulation 114(7):e257-354)などの他の処置が必要である。「発作性心房細動」という用語は、48時間未満、より好ましくは24時間未満、最も好ましくは12時間未満で自然に終了するAFのエピソードとして定義される。持続性AFと発作性AFのどちらも再発する可能性がある。
【0058】
上記のように、試験される被検者は、発作性、持続性または恒久性の心房細動を患うことが好ましい。
【0059】
さらに、サンプルを採取する際に、その時点で被検者が心房細動のエピソードを患うことが想定される。これは、例えば、被検者が恒久性または持続性AFを患う場合である。
【0060】
または、サンプルを採取する際に、その時点で被検者が心房細動のエピソードを患わないことが想定される。これは、例えば、被検者が発作性AFを患う場合である。したがって、被検者は、サンプルを採取する際に、正常洞調律を有するものとする、すなわち洞調律にあるものとする。
【0061】
さらに、心房細動は、被検者において以前に診断されていると考えられる。したがって、心房細動は、診断された、すなわち検出された心房細動である。
【0062】
実施例に示すように、心不全の患者ではリスクの予測が可能である。したがって、試験される被検者は、心不全を患ってもよい。本発明の方法による「心不全」という用語は、好ましくは、左心室駆出率が減少した心不全に関する。
【0063】
さらに、心不全の病歴がない被検者では、リスクの予測が可能であることが示される。したがって、試験される被検者は、好ましくは心不全を患わない。特に、試験される被検者は、NYHAクラスII、III、およびIVにかかる心不全を患わない。
【0064】
本発明の一実施形態では、被検者は、左室駆出率を維持した心不全を患わない。
【0065】
特に好ましい実施形態では、被検者は、心不全を患わないが、心房細動を患う。
【0066】
有利なことに、本発明の方法の基礎となる研究では、被検者が抗凝固療法、すなわち脳卒中のリスクを減らすことを目的とした治療を受けていても、信頼性の高い予測が可能であることが示されている。(治療を受けた患者の約70%は、経口抗凝固薬と、約30%のビタミンK拮抗薬、例えばワルファリンやジクマロールが、投与された)。驚くべきことに、IGFBP7および/またはAng-2の量を決定することで、集団またはリスク患者(すなわち、抗凝固療法を受けている心房細動の患者)内で区別できることが示されており、脳卒中のリスク低下とリスク上昇を確実に区別できることが示されている。脳卒中のリスクが増加したAF患者には、抗凝固療法の強化が効果的である可能性がある。さらに、脳卒中のリスクが低下したAF患者は、過剰治療される可能性があり、そうすると強度の低い抗凝固療法が効果的である可能性がある。(その結果、例えば、医療費の削減につながる)。
【0067】
このように、本発明によれば、被検者は抗凝固療法を受けることが好ましい。
【0068】
上記のように、抗凝固療法は、好ましくは、上記被検者における抗凝固のリスクを低減することを目的とする療法である。より好ましくは、抗凝固療法は、少なくとも1種の抗凝固剤の投与である。少なくとも1種の抗凝固剤を投与することは、血液の凝固および関連する脳卒中を抑制または防止することを目的とする。好ましい一実施形態では、少なくとも1種の抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリンまたはジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、およびトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。したがって、被検者は上記の少なくともいずれか1種の薬剤を服用することが想定される。
【0069】
好ましい実施形態では、上記抗凝固剤は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬である。ワルファリンやジクマロールなどのビタミンK拮抗薬は、安価だが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い治療が多いため、患者のコンプライアンスを向上する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0070】
別の好ましい実施形態では、抗凝固剤および経口抗凝固剤、特にアピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ボラパクサル、またはアトパキサール。
【0071】
したがって、試験される被検者は、試験時(すなわち、サンプルを受け取る時)に、経口抗凝固剤またはビタミンK拮抗薬による治療を受けている可能性がある。
【0072】
好ましい一実施形態では、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法は、上記被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合に、抗凝固療法を推奨するステップまたは抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。好ましい一実施形態では、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法は、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、i)抗凝固療法を開始するステップ、またはii)抗凝固療法を強化するステップをさらに含む。
【0073】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、被検者に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療は、本発明の方法によって提供される結果に依存する。
【0074】
特に、以下が適用される。
【0075】
試験される被検者が抗凝固療法を受けていない場合、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法を開始するものとする。
【0076】
試験される被検者がすでに抗凝固療法を受けている場合、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法を強化するものとする。
【0077】
好ましい一実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている抗凝固剤の投与量を増やすことにより強化される。
【0078】
特に好ましい一実施形態では、現在投与されている抗凝固剤のより効果的な抗凝固剤への置き換えを増やすことにより、抗凝固療法が強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0079】
Hijazi et al,2016,
図4に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬ワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0080】
したがって、試験される被検者は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬で治療される被検者であることが想定される。被検者が脳卒中を患うリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬を経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバンによる置き換えが推奨される。ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固薬による治療が開始される。
【0081】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、被検者は、脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)の病歴を有する。特に、被検者は脳卒中の病歴を有する。
【0082】
したがって、この被検者は、本発明の方法を実施する前に(または、もっと正確に言うと、試験されるサンプルを採取する前に)、脳卒中またはTIAを患っていたことが想定される。被検者は、過去に脳卒中またはTIAを患っていたことがあるものとするが、被検者は、試験されるサンプルを採取する時点では、脳卒中およびTIAを患わないものとする)。
【0083】
上記のように、バイオマーカーのAng-2およびIGFBP7は、心房細動以外のさまざまな疾患や障害において、増加する可能性がある。本発明の一実施形態では、被検者がこのような病気や障害を患わないことが想定される。
【0084】
本発明の方法は、より多くの集団の被検者のスクリーニングにも使用できる。したがって、脳卒中のリスクに関して、少なくとも100人の被検者、特に少なくとも1000人の被検者が評価されることが想定される。したがって、バイオマーカーの量は、被検者の少なくとも100人から、または特に1000人以上からのサンプルにおいて、判定される。さらに、少なくとも1万人の被検者が評価されることが想定される。
【0085】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、または組織や臓器からのサンプルを指す。体液のサンプルは、周知の技術によって採取することができ、また血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、またはその他の体分泌物もしくはその誘導体のサンプルが含まれる。組織または臓器のサンプルは、例えば生検によって、任意の組織または臓器から採取してもよい。分離された細胞は、体液または組織もしくは器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技術によって、採取してもよい。例えば、バイオマーカーを発現または生成する細胞、組織、臓器から、細胞、組織、臓器のサンプルを採取してもよい。サンプルは、凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離、および/または包埋(例えばパラフィン包埋)などをされてもよい。もちろん、細胞サンプルは、サンプル中のバイオマーカーの量を評価する前に、さまざまな周知の収集後の分取および保管技術(例えば、核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、保管、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)を実施され得る。
【0086】
本発明の好ましい一実施形態では、サンプルは、血液(すなわち、全血)、血清または血漿サンプルである。血清とは、血液が血餅になった後に採取される全血の液体分画のことである。血清を採取するためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿サンプルを得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)で収集される。遠心分離により細胞をサンプルから除去し、それから上清(すなわち、血漿サンプル)を採取する。
【0087】
好ましくは、本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、被検者が脳卒中を患うであろう確率を評価することを指す。通常は、被検者が脳卒中を患うリスクがある(また、それ故にリスクが高い)か、リスクがない(また、それ故にリスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法は、脳卒中のリスクがある被検者と脳卒中のリスクがない被検者とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、脳卒中のリスクが低い、平均、および高い、の区別を可能にすることが想定される。
【0088】
上記のように、特定の時間枠内に脳卒中を患うリスク(および確率)が予測されるものとする。本発明によれば、短期リスクまたは長期リスクが予測されることが想定される。例えば、1週間以内または1カ月以内に脳卒中を患うリスクが予測される。本発明の基礎となる研究で観察された最短期間は11日間であった。被検者は、Ang-2(14,57ng/ml)およびIGFB7(318ng/ml)のレベルが上昇した。
これは、長期的な予測だけでなく、短期的な予測も可能であることを示すものである。
【0089】
本発明の一実施形態では、予測ウィンドウは、少なくとも約3カ月、少なくとも約6カ月、または少なくとも約1年の期間である。別の好ましい一実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である。さらに、予測ウィンドウは、約6年の期間であってもよい(例えば、脳卒中の予測において)。
【0090】
一実施形態では、予測ウィンドウは、最大10年の期間である。したがって、10年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0091】
別の実施形態では、予測ウィンドウは、最大7年の期間である。したがって、7年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0092】
別の実施形態では、予測ウィンドウは、最大3年の期間である。したがって、3年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0093】
また、予測ウィンドウは、1~10年の期間であることが想定される。
【0094】
好ましくは、予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、上記予測ウィンドウは、試験されるサンプルが採取された時点から計算される。
【0095】
上記のように、「脳卒中のリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される被検者が、脳卒中を患うリスクがある被検者のグループ、または脳卒中のリスクがない被検者のグループのいずれかに割り当てられることを意味する。このように、脳卒中を患うリスクがあるか否かが予測される。本明細書で使用される「脳卒中を患うリスクがある被検者」は、好ましくは脳卒中を患うリスクが高い(好ましくは、予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、被検者のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「脳卒中を患うリスクがない被検者」は、好ましくは、脳卒中を患うリスクが低い(好ましくは予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、被検者のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。脳卒中を患うリスクがある被検者は、好ましくは5年の予測ウィンドウ内で、少なくとも7%、より好ましくは少なくとも10%の脳卒中を患うリスクがある。脳卒中を患うリスクがない被検者は、好ましくは5年の予測ウィンドウ内で、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満の脳卒中を患うリスクがある。
【0096】
バイオマーカーであるアンジオポエチン-2(「Ang-2」と略され、しばしばANGPT2とも呼ばれる)は、当該技術分野において周知である。これは、天然に存在するAng-1とTIE2の両方に対する拮抗薬である(例えば、Maisonpierre et al.,Science 277(1997)55-60を参照のこと)。タンパク質は、ANG-1の不存在下で、TEK/TIE2のチロシンのリン酸化を誘導できる。VEGFなどの血管新生誘発物質が存在しない場合、ANG2を介した細胞マトリックス接触の緩みにより、結果として生じる血管退縮を伴う内皮細胞アポトーシスが誘発されることがある。VEGFと連携して、内皮細胞の遊走と増殖を促進することがあり、それ故に許容的な血管新生シグナルとして機能する。ヒトのアンジオポエチンの配列は、当該技術分野において周知である。Uniprotは、アンジオポエチン-2の3つのアイソフォームを収載する:アイソフォーム1(Uniprot識別子:O15123-1)、アイソフォーム2(識別子:O15123-2)およびアイソフォーム3(O15123-3)。好ましい一実施形態では、アンジオポエチン-2の総量が決定される。この総量は、好ましくは複合型および遊離型のアンジオポエチン-2の量の合計である。
【0097】
IGFBP-7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞から分泌されることが知られている30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.,et al、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490-1496)。好ましくは、「IGFBP-7」という用語は、ヒトIGFBP-7を指す。タンパク質の配列は、当該技術分野で周知であり、例えば、UniProt(Q16270、IBP7 HUMAN)、またはGenBank(NP 001240764.1)を介してアクセスできる。バイオマーカーのIGFBP-7の詳細な定義は、例えば、国際公開第2008/089994号パンフレットに提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。IGFBP-7には2つのアイソフォーム、アイソフォーム1および2があり、これらは選択的スプライシングによって生成される。本発明の一実施形態では、両方のアイソフォームの総量が測定される(配列については、UniProtデータベースエントリ(Q16270-1およびQ16270-2)を参照のこと)。
【0098】
明細書でいうバイオマーカー(Ang-2もしくはIGFBP7、または両方のバイオマーカー)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を使用して、サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することである。「測定する」および「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0099】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、サンプルをバイオマーカーと特異的に結合する作用物質と接触させ、それにより作用物質と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を測定することにより、決定される。
【0100】
本明細書でいうバイオマーカー(Ang-2など)は、当該技術分野で一般的に知られている方法を使用して検出することができる。検出方法は、一般に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のどれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適しているかは、当業者に一般に知られている。サンプルは、例えば、ウエスタン法およびELISA、RIA、蛍光および発光ベースの免疫学的検定法のような免疫学的検定法、ならびに市販されている近接拡張アッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトルなどを測定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連結した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボット免疫学的検定(Elecsys(商標)アナライザーなどで利用可能)、CBA(酵素的Cobalt Binding Assay、Roche-Hitachi(商標)アナライザーなどで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)アナライザーで使用可能)が含まれる。
【0101】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広い免疫学的測定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号明細書、第4,424,279号明細書、および第4,018,653号明細書を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイは、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0102】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。そのような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、そこから基底状態へ減衰して、電気化学発光の放出を得る。審査においては、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照のこと。
【0103】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)またはイリジウム化(iridinylated)されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態において、上記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態において、上記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号パンフレットで開示される錯体である。
【0104】
Ang-2の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)Ang-2に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および(検出抗体として)Ang-2と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナルのF(ab’)2-断片を含む。2種の抗体は、サンプル中、Ang-2とサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0105】
IGFBP7の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)IGFBP7に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および(検出抗体として)IGFBP7と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナルのF(ab’)2-断片を含む。2種の抗体は、サンプル中、IGFBP7とサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0106】
ポリペプチド(例えば、Ang-2またはIGFBP7)の量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを上記ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させるステップ、(b)(任意選択で)結合していない薬剤を除去するステップ、(c)結合した結合剤、すなわちステップ(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定するステップ、を含んでよい。好ましい実施形態によれば、上記接触させるステップ、除去するステップおよび測定するステップは、分析装置ユニットにより実施してもよい。一部の実施形態によれば、上記ステップは、上記システムの単一の分析装置ユニット、または互いに作動可能に連絡した2つ以上の分析装置ユニットにより実施してもよい。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、上記接触させるステップおよび除去するステップを実施するための第1の分析装置ユニット、ならびに上記測定するステップを実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでよい。
【0107】
バイオマーカーと特異的に結合する薬剤(本明細書では「結合剤」とも呼ばれる)は、結合した薬剤の検出および測定を可能にする標識に、共有結合または非共有結合をしてよい。標識化は、直接または間接の方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。上記第2の結合剤は、適切な標識と結合する、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含んでよい。結合剤または基質は、当該技術分野で公知の1つまたは複数のタグで「タグ付け」されていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出のための好適な基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsから既成品の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウム塩化物および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸塩)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組合せにより、着色された反応産物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法に従って(例えば感光膜または適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を測定することについては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。さらなる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、想到される。放射性標識は、公知かつ好適な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)などの任意の方法により検出され得る。
【0108】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り測定することもできる:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させること、および(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定すること。支持体を製造するための物質は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム物質、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。
【0109】
さらなる一態様では、結合剤と少なくとも1種のマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、サンプルが除去される。したがって、一態様では、結合剤は固体支持体に固定されてもよい。さらなる態様では、洗浄溶液を使用することによって、固体支持体上で形成された複合体からサンプルが除去され得る。
【0110】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかの変形形態を包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されている、または固体基質上に固定化され得る、それから試験されるサンプルを、捕捉結合剤との接触にいたらせることができる。結合剤-バイオマーカー複合体を形成させるのに十分な期間のため、適切なインキュベート期間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識化された第2の(検出)結合剤が添加され、またインキュベートされ、結合剤-バイオマーカー-標識化された結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を確保する。未反応の物質は洗い流されてよく、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、判定される。結果は、可視シグナルの単純な観察による定性的なものでもよく、既知量のバイオマーカーを含む対照サンプルとの比較による定量的なものであってもよい。
【0111】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーションステップは、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤およびバイオマーカーがともにインキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0112】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性および/または感度が、サンプル中に含まれる、特異的に結合されうる少なくとも1種のマーカーの割合の程度を規定することと理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0113】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「検体に特異的な結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では互換可能に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。好ましい薬剤は、測定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、さまざまな抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(または、それからの抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体(またはそれからの抗原結合断片)である。さらに、本明細書の他の箇所で説明するように、(サンドイッチ免疫学的検定において)Ang-2の異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、Ang-2の量を決定するために少なくとも1種の抗体が使用される。
【0114】
「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、結合する対の分子が、その他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合することを示す結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに関する場合、結合剤が、対応するバイオマーカーに少なくとも107M-1の親和性(「会合定数」Ka)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、標的分子に対して、好ましくは少なくとも108M-1、またはさらにより好ましくは少なくとも109M-1の親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、サンプル中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0115】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、Ang-2またはIGFBP7)の絶対量、上記バイオマーカーの相対量または濃度、およびそれらと相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接測定により上記ペプチドから得られる、特定の物理的または化学的特性すべてに由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルでの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値またはパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量、が包含される。上述の量またはパラメータに相関する値は、すべての標準的な数学的演算によっても得られるということを理解されたい。
【0116】
「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、被検者からのサンプル中のバイオマーカー(Ang-2またはIGFBP7)の量を、本明細書の別の箇所で明示されるバイオマーカーの基準量と比較することを指す。比較する、は本明細書で使用される場合、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指すということを理解すべきであり、例えば、絶対量は絶対基準量と比較され、濃度は基準濃度と比較され、サンプル中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは基準サンプルから得られる同じタイプの強度シグナルと比較される。比較は、手作業またはコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、計算装置により実施してもよい。被検者からのサンプル中のバイオマーカーの決定量または検出量、および基準量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また上記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施されうる。上記評価を実施するコンピュータプログラムは、好適なアウトプット様式で、所望の評価を提供することになる。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価する、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価する、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の予測を自動的に提供してもよい。
【0117】
本発明によれば、本明細書でいうバイオマーカーの量、すなわちAng-2の量および/またはIGFBP7の量は、基準、すなわち基準量(または基準量)と比較されるものとする。したがって、基準は、好ましくは基準量である。「基準量」という用語は、当業者によく理解されている。基準量は、本明細書の他の箇所に記載されているような、脳卒中の予測、または脳卒中の臨床的予測ルールの最適化を可能にするものであることを理解されたい。例えば、脳卒中のリスクを予測するための方法に関連して、「基準量」という用語は、好ましくは、(i)心房細動を患う被検者のグループ、または(ii)心房細動を患わない被検者のグループ、のいずれかに、被検者を割り当てられる量を指す。好適な基準量は、試験サンプルとともに、すなわち同時にまたは続いて分析される基準サンプルより決定されてもよい。
【0118】
Ang-2の量はAng-2の基準量と比較され、および/またはIGFBP7の量はIGFBP7の基準量と比較されることを理解されたい。2種のマーカーの量が決定される場合、Ang-2およびIGFBP7の量に基づいて、併用スコアが計算されることもまた想定される。次のステップでは、このスコアが基準スコアと比較される。
【0119】
基準量は、原則として、統計学の標準的方法を適用することにより、所定のバイオマーカーの平均または平均値に基づいて、上記で特定したように被検者のコホートに対し算出され得る。特に、イベントの診断を目的とする方法などの試験精度は、レシーバー動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、すべての感度対特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち被検者を特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、すなわち真陽性率であり、真陽性試験結果の数および偽陰性試験結果の数の積に対する、真陽性試験結果の数の比率として定義される。それは影響を受けるサブグループからのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または1-特異性であり、これは、真陰性の数および偽陽性結果の数の積(product)に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。これは特異性の指標であり、影響を受けないサブグループからのみ計算される。真陽性および偽陽性率は、2つの異なるサブグループからの試験結果を使用して完全に別々に算出されるため、ROCプロットはコホートにおけるイベント有病率から独立である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/1-特異性のペアを表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重複がない)試験は、左上隅を通るROCプロットを有し、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つのグループでの結果の分布が同一である)試験における理論上のプロットは、左上隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間にある。ROCプロットが45°対角線を完全に下回る場合、これは、「陽性」の基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることで、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことができ、これにより、感度および特異性それぞれの適切なバランスを備えた所定のイベントについての診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される基準、すなわち心房細動を評価することを可能にする閾値は、好ましくは、上記のように上記コホートのROCを確立し、またそこから閾値量を導出することによって、生成され得る。診断方法における所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導出することができる。脳卒中のリスクがある被検者を除外する場合(すなわちルールアウト)、最適な感度が望ましく、脳卒中のリスクがあると予測される被検者に対しては(すなわちルールイン)、最適な特異性が想定されることが理解されるはずである。
【0120】
好ましくは、本明細書における「基準量」という用語は、所定の値を指す。上記所定の値は、脳卒中のリスクを予測することを可能にするものとする。
【0121】
好ましくは、基準量、すなわち基準量は、脳卒中を患うリスクがある被検者、および脳卒中を患うリスクがない被検者との間の区別を可能にするものとする。
【0122】
診断アルゴリズムは、好ましくは、以下の通りである。
【0123】
好ましくは、上記基準量と比較して、Ang-2の量および/もしくはIGFBP7の量が増加する場合は、脳卒中を患うリスクがある被検者を示唆する、ならびに/または、上記基準量と比較して、Ang-2の量および/もしくはIGFBP7の量が減少する(もしくは変化しない)場合は、脳卒中を患うリスクがない被検者を示唆する。
【0124】
好ましい基準量は、実施例セクションに示す。好ましくは血液、血清または血漿サンプル中で、例えば、Ang-2に関しては、基準量は2.4ng/mlであり、IGFBP7に関しては178pg/mlである。しかしながら、所望の感度および特異性に応じて、他の基準量もまた信頼できる予測を可能にすることが、当業者により理解されるであろう。
【0125】
本発明の基礎となる研究では、Ang-2および/またはIGFBP7の決定により、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善できることがさらに示されている。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの決定とAng-2および/またはIGFBP7の決定を組み合わせることにより、単独のAng-2および/またはIGFBP7の決定または臨床的脳卒中リスクスコアの決定と比較して、脳卒中のより信頼性の高い予測が可能になる。
【0126】
したがって、脳卒中のリスクを予測するための方法は、Ang-2の量および/またはIGFBP7の量、ならびに臨床的脳卒中リスクスコアの組み合わせをさらに含んでもよい。Ang-2の量および/またはIGFBP7の量ならびに臨床的リスクスコアの組み合わせに基づいて、被検者の脳卒中のリスクが予測される。
【0127】
したがって、本発明は、特に、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する上記被検者からのサンプルにおいて、Ang-2の量および/またはインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)の量を決定するステップ、
b)上記被検者の上記臨床的脳卒中リスクスコアを評価するステップ、ならびに
c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中の上記リスクを予測するステップ、
を含む、方法に関する。
【0128】
本発明の方法によれば、被検者は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被検者であることが想定される。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの値は、被検者について既知である。
【0129】
あるいは、本方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。したがって、ステップb)は、好ましくは、臨床的リスクスコアの値を提供することを含む。好ましくは、上記値は数値である。一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、その値は、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、被検者の値は、その被検者の患者記録データベースおよび病歴から得られる。したがって、上記スコアの値は、被検者の病歴または公開データを使用して決定することもできる。
【0130】
本発明によれば、Ang-2の量および/またはIGFBP7の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、Ang-2の量および/またはIGFBP7の量の値が、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。したがって、これらの値は、被検者が脳卒中を患うリスクを予測するために機能的に組み合わされる。これらの値を組み合わせることにより、単一の値を計算でき、それ自体を上記予測に使用することができる。
【0131】
臨床的脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、上記スコアは、Kirchhof P.et al(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されている。一実施形態では、上記スコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。別の実施形態では、上記スコアは、CHADS2スコアである。(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)およびABCスコア、すわなち、the ABC(age,biomarkers,clinical history)stroke risk score(Hijazi Z.et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)。この段落のすべての出版物は、そのすべての開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0132】
したがって、本発明の一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。
【0133】
本発明の別の実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、CHADS2スコアである。
【0134】
さらなる一実施形態では、臨床的リスクスコアは、上記ABCスコアである。上記ABC脳卒中リスクスコアは、AFの脳卒中を予測するため新規のバイオマーカーベースのリスクスコアで、AF患者の大規模なコホートで検証され、さらに独立したAFコホートで外部的に検証された(Hijazi et al,2016を参照のこと)。それは、被検者の年齢、被検者における心臓トロポニンTおよびNT-proBNPの血液、血清または血漿レベル、および被検者が脳卒中の病歴を有するかどうかに関する情報を含む。好ましくは、ABC脳卒中スコアは、Hijazi et al.で開示されたスコアである。
【0135】
好ましい実施形態では、(本明細書の他の個所に記載されるように)被検者における脳卒中のリスクを予測するための上記方法は、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、抗凝固療法を推奨するステップ、または抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。
【0136】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法
本発明はさらに、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)本明細書の他の箇所で規定されているように、被検者からのサンプル中のAng-2および/またはIGFBP7の量を決定するステップ、ならびに
b)Ang-2および/またはIGFBP7の量(特に、量の値)を上記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それによって、上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるステップ
を含む、方法に関する。
【0137】
この方法は、c)ステップb)の結果に基づいて、上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するさらなるステップを含んでもよい。
【0138】
本明細書での上記の定義および説明は、心房細動の評価方法、特に有害事象(脳卒中など)のリスクを予測する方法に関連して、好ましくは、上述の方法にも適用され、なお、例えば、被検者は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被検者であることが想定される。あるいは、本方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0139】
本発明によれば、Ang-2および/またはIGFBP7の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、Ang-2および/またはIGFBP7の量の値が、臨床脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。その結果、これらの値を機能的に組み合わせて、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を向上させる。
【0140】
本発明はさらに、被検者の脳卒中のリスクの予測を支援する方法であって、
a)本発明の方法に関連して、本明細書でいう被検者からサンプルを採取するステップ、
b)上記サンプル中のバイオマーカーAng-2および/またはIGFBP7の量を決定するステップ、ならびに
c)バイオマーカーAng-2および/またはIGFBP7の決定された量に関する情報を上記被検者の主治医に提供するステップと、これにより、リスクの予測を支援するステップ、
を含む、方法に関する。
【0141】
主治医は、バイオマーカーの決定を依頼した医師であるものとする。上記方法は、心房細動の評価において主治医を支援するものとする。したがって、この方法は、実際のリスクの予測を包含しない。
【0142】
サンプルを採取する上記方法のステップa)は、被検者からのサンプルの抽出を包含しない。好ましくは、サンプルは、上記被検者からサンプルを受け取ることによって採取する。このように、サンプルは引き渡される可能性がある。
【0143】
本発明はさらに、
a)バイオマーカーAng-2および/またはIGFBP7の試験を提供すること、ならびに
b)心房細動の評価における上記試験によって得られた、または得られうる試験結果の使用に対する指示を提供すること、
を含む、方法に関する。
【0144】
上述の方法の目的は、好ましくは、本明細書の他の箇所でより詳細に説明されるように、脳卒中のリスクの予測を支援することである。
【0145】
本明細書に記載されるように、上記指示は、心房細動を評価する方法を実行するためのプロトコルを含むものとする。さらに、上記指示は、Ang-2および/またはIGFBP7の基準量の少なくとも1つの値を含むものとする。
【0146】
「試験」は、心房細動を評価する方法を実行するように適合したキットであることが好ましい。「キット」という用語については、以下で説明する。例えば、上記キットは、バイオマーカーAng-2用の少なくとも1種の検出剤および/またはバイオマーカーIGFBP7用の少なくとも1種の検出剤を含むものとする。2種のバイオマーカーの検出試薬は、1つのキットまたは2つの別々のキットで提供され得る。
【0147】
上記試験により得られた試験結果または得ることができる試験結果は、バイオマーカーの量の値である。
【0148】
一実施形態では、ステップb)は、(本明細書の他の箇所で記載されるように)脳卒中の予測における上記試験によって得られたまたは得ることができる試験結果を使用するための指示を提供することを含む。
【0149】
本明細書での上記の定義および説明は、好ましくは、以下について準用する。
【0150】
本発明はさらに、被検者の脳卒中のリスクを予測するための、前記被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用、に関する。
【0151】
さらに、本発明は、脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための、被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用、に関する。
【0152】
最後に、本発明は、被検者が脳卒中を患うリスクを予測するための、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされた、被検者からのサンプルにおける、
i)バイオマーカーAng-2および/もしくはバイオマーカーIGFBP7、ならびに/または
ii)Ang-2に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤および/もしくはIGFBP7に特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
の使用、に関する。
【0153】
「サンプル」、「被検者」、「検出剤」、「Ang-2」、「IGFBP7」、「特異的結合」、「脳卒中」、および「リスクの予測」など、上述の使用に関連して言及された用語は、本発明の方法に関連して定義されている。定義と説明はそれに応じて適用される。
【0154】
好ましくは、上述の使用は、インビトロでの使用である。さらに、検出剤は、好ましくは、バイオマーカーに特異的に結合するモノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)などの抗体である。
【0155】
本明細書で引用されたすべての参考文献は、その全体の開示内容および本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0156】
図は以下を示す
【
図1a】ベースラインIGFBP-7測定値が、≦178pg/mL vs >178pg/mLによって定義された、2つのグループにおいて、加重カプラン・マイヤー生存率を推定する。この図は、ベースラインIGFBP-7測定値が、≦178pg/mL vs >178pg/mLである2つの患者グループの加重カプラン・マイヤー曲線を示す。容易にわかるように、脳卒中の発症に対する2つのグループのリスクは大きく異なる。
図1aに示すように、IGFBP-7は、経口抗凝固薬またはビタミン拮抗薬を投与されている心房細動のある患者の集団においてさえ、脳卒中のリスクが高い患者を特定するのに役立つことがある。
【
図1b】ベースラインアンジオポエチン-2測定値が、≦2.4ng/ml vs >2.4ng/mlで定義された、2つのグループにおいて、加重カプラン・マイヤー生存率を推定する。この図は、ベースラインのアンジオポエチン-2測定値が、≦2.4ng/ml vs >2.4ng/mlである2つの患者グループの加重カプラン・マイヤー曲線を示す。容易にわかるように、脳卒中の発症に対する2つのグループのリスクは大きく異なる。
図1bに示すように、Ang-2は、経口抗凝固薬またはビタミン拮抗薬を投与されている心房細動のある患者の集団においてさえ、脳卒中のリスクが高い患者を特定するのに役立つことがある。
【実施例】
【0157】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。上記実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を限定する方法で解釈されないものとする。
【実施例1】
【0158】
脳卒中の発症リスクを予測するためのIGFBP-7の循環およびAng-2の循環の能力は、心房細動が確認された患者の前向きな多中心的登録において評価された(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862;Blum S.(J Am Heart Assoc.2017;6:e005401.DOI:10.1161/JAHA.116.005401)。
【0159】
Beat AFコホートは、7年間追跡された患者1553人のベースライン血漿サンプルで構成される。平均年齢は、女性が70+/-11歳、男性が67+/-12歳であった。主要評価項目は、脳卒中または全身性塞栓症であった。70人の患者が経過観察期間内に脳卒中を経験し、そのほとんどが3年以内に脳卒中を経験した。2010年から2014年の間に、AFが確認された患者1553人がスイスの7つのセンターにまたがって登録された。その時点で、治療はビタミンK拮抗薬から経口抗凝固療法に変更されたばかりであり、登録された患者の約70%が経口抗凝固療法を受け、また一部の患者はまだ採血時にビタミン拮抗薬を投与されていた。Beat AFコホートの患者の大多数は、血栓予防と脳卒中予防のために、ビタミンK拮抗薬の代わりに「新しい治療法、新規の経口抗凝固薬」(NOAC、OAC)をすでに投与された。
【0160】
NOACは、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。ビタミンK拮抗薬は、ワルファリンおよびジクマロールを含む。すべての患者に、以前にECG、リズムストリップ、またはデバイスの照合によって、確認されたAFがあることが求められた。登録された患者の約60%に発作性AF、20%に持続性AF、20%に恒久性AFがあった。発作性AFは、採血時に洞調律を呈する患者の自己制限型AF、さらに、採取時にAFおよび進行中のAFのいくつかのエピソードを有する患者を含む臨床診断によって評価された。除外基準は、インフォームドコンセントに署名できないこと、およびAFの短い一過性のエピソード(例:心臓手術後のAF)の唯一の存在であった。
【0161】
IGFBP-7レベルは、脳卒中転帰のある69人の患者と脳卒中のない1435人の患者において、有効であった。アンジオポエチン-2レベルは、脳卒中転帰のある69人の患者と脳卒中のない1430人の患者において、有用であった。
【0162】
IGFBP-7およびAng-2の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中で使用した。
【0163】
IGFBP-7またはAng-2の一変量予後パフォーマンスは、IGFBP-7またはAng-2によってそれぞれ与えられる予後情報を2つの異なる方法で組み込むことによって評価された。
【0164】
最初の比例ハザードモデルには、中央値(それぞれ178pg/mLまたは2.4ng/ml)で二値化されたIGFBP-7またはAng-2が含まれていたため、IGFBP-7またはAng-2が中央値以下の患者と、IGFBP-7またはAng-2が中央値を超える患者のリスクを比較した。
【0165】
2番目の比例ハザードモデルは、元のIGFBP-7またはAng-2レベルが含んだが、log2スケールに変換した。log2変換は、モデルキャリブレーションを改善するために実行された。
【0166】
【0167】
表1は、2値化またはlog2変換されたIGFBP-7またはAng-2を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。
【0168】
脳卒中を経験するリスクとIGFBP-7またはAng-2のベースライン値との関連は、両モデルともに非常に有意である。
【0169】
2値化されたIGFBP-7のハザード比は、ベースラインIGFBP-7>178pg/mLの患者グループは、ベースラインIGFBP-7≦178pg/<mLの患者グループに対して、脳卒中のリスクが3.14倍高くなることを意味する。
【0170】
log2変換線形リスク予報値として、IGFBP-7を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値IGFBP-7が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比3.09は、IGFBP-7の2倍の増加が、脳卒中のリスクの3.09の増加に関連すると解釈されうる。
【0171】
2値化されたアンジオポエチン-2のハザード比は、ベースラインアンジオポエチン-2>2.4ng/mlの患者グループは、ベースラインアンジオポエチン-2≦2.4ng/mlの患者グループに対して、脳卒中のリスクが3.31倍高くなることを意味する。
【0172】
log2変換線形リスク予報値として、アンジオポエチン-2を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値アンジオポエチン-2が脳卒中を経験するリスクに比例することを示唆する。ハザード比1.78は、アンジオポエチン-2の2倍の増加が、脳卒中のリスクの1.78の増加に関連すると解釈されうる。
【0173】
二分されたベースラインIGFBP-7またはAng-2測定に基づく、2つのグループの絶対生存率(≦178pg/mL vs >178pg/mL;≦2.4ng/ml vs >2.4ng/ml)は、カプラン・マイヤープロットで示される。
【0174】
IGFBP-7またはAng-2の予後値が、既知の臨床的および人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを評価するために、年齢、性別、CHF病歴、高血圧の病歴、脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴、血管疾患の病歴、糖尿病の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルが、計算された。
【0175】
図1は、ベースラインIGFBP-7測定値が、≦178pg/mL vs >178pg/mLである2つの患者グループの加重カプラン・マイヤー曲線を示す。容易にわかるように、脳卒中の発症に対する2つのグループのリスクは大きく異なる。
図1に示すように、IGFBP-7は、経口抗凝固薬またはビタミン拮抗薬を投与されている心房細動のある患者の集団においてさえ、脳卒中のリスクが高い患者を特定するのに役立つことがある。
【0176】
図1bは、ベースラインのアンジオポエチン-2測定値が、≦2.4ng/ml vs >2.4ng/mlである2つの患者グループの加重カプラン・マイヤー曲線を示す。容易にわかるように、脳卒中の発症に対する2つのグループのリスクは大きく異なる。
図1bに示すように、Ang-2は、経口抗凝固薬またはビタミン拮抗薬を投与されている心房細動のある患者の集団においてさえ、脳卒中のリスクが高い患者を特定するのに役立つことがある。
【0177】
【0178】
表2は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたIGFBP-7(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。IGFBP-7のハザード比の点推定量が1を超えることは注目に値するが、p値は0.05を超える。
【0179】
ただし、ハザード比が依然として高いこと、および表2に示す臨床的変数のみを含むモデルのc-indexが、IGFBP-7の追加により、0.0054改善することを考えると、IGFBP-7の効果は、例えば、140のイベントを有する、より大きなコホートにおいて有意であると予想されうる。
【0180】
表2は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたアンジオポエチン-2(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。これは、関連する臨床的および人口統計学的変数の予後効果を調整すると、アンジオポエチン-2の予後効果が依然として有意であることを明確に示す。
【0181】
CHADS2を含む脳卒中加重比例ハザードモデルの予後における既存のリスクスコアを改善するためのIGFBP-7またはAng-2の能力を評価するために、CHA2DS2-VASCスコアおよびIGFBP-7またはAng-2(log2変換)が計算された。
【0182】
【0183】
表3は、CHADS2スコアに、IGFBP-7およびAng-2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、IGFBP-7およびAng-2は、予後情報をCHADS2スコアに追加できる。
【0184】
【0185】
表4は、CHA2DS2-VAScスコアに、IGFBP-7およびAng-2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。表2と同様に、IGFBP-7のハザード比は依然として1を超えるが、p値は0.05に達していない。また、ここでは比較的少数のイベントを考慮する必要がある。また、このモデルでは、アンジオポエチン-2は、予後情報をCHA2DS2-VAScスコアに追加できる。
【0186】
CHADS2およびCHA2DS2-VAScスコアのc-indexを、これらのモデルのc-indexと比較した。
【0187】
【0188】
観察された脳卒中までの最短時間は、脳卒中、TIA、血管疾患、高血圧または糖尿病の病歴のない恒久性心房細動のある75歳の女性患者から採血後11日であった。ベースラインでは、IGFBP-7(318pg/mL)およびAng-2(14.6ng/mL)の上昇した力価が検出された。この患者は、恒久性心房細動を患っており、抗凝固剤を投与された。患者は、心不全の病歴がなく、心不全の診断も受けていない。
【0189】
IGFBP-7とAng-2の中央値は、脳卒中を発症している患者の心不全(HF)の病歴あり/なしで比較された。
【0190】
【0191】
表6に示すように、脳卒中を発症した患者では、心不全の病歴に関係なく、178pg/mLを超えるIGFBP-7、および2.4ng/mLを超えるAng-2のレベルの上昇が観察された。心不全の診断がなく、また心不全の病歴もない一部集団の患者54名においてもまた、178pg/mLを超えるIGFBP-7、および2.4ng/mLを超えるAng-2のレベルの上昇が観察された。
【0192】
この結果は、IGFBP-7が、新しい患者の将来の脳卒中のリスクを予測するために、単独で、または組み合わせとして、脳卒中リスク(CHADS2、CHA2DS2-VAScおよびABCなど)の予測における臨床的スコアを大幅に改善するために、複数の方法で使用できることを示唆する。患者は、心房細動のある患者でもよく、また、すでに抗凝固薬またはビタミンKa拮抗薬を投与されていてもよい。
【0193】
新しい患者の場合、IGFBP-7を測定し、あらかじめ定義されたカットオフ(例:178pg/mL)と比較できる。新しい患者の測定値が、あらかじめ定義されたカットオフを超えている場合、患者は脳卒中の経験に対してリスクが高いと見なされ、適切な臨床的措置が開始されうる。
【0194】
カットオフのセットを増加させることに基づいて、3つ以上のリスクグループを定義することもできる。次に、患者は、IGFBP-7の測定値に基づいて、リスクグループの1つに割り当てられる。脳卒中のリスクは、さまざまなリスクグループにわたって増加すると予想される。
【0195】
あるいは、あらかじめ定義された好適な変換関数に基づいて、IGFBP-7の結果を連続的なリスクスコアに直接的に変換することもできる。
【0196】
さらに、IGFBP-7の値を、臨床的および人口統計学的変数(例:CHA2DS2-VAScスコアまたはABCスコア)に基づくリスクスコアと組み合わせて使用することもでき、これにより、リスク予測の精度が向上する。
【0197】
新しい患者の場合、リスクスコアの値は、適切な方法で評価される、それから測定されたIGFBP-7値(潜在的にlog2変換された)とともに、適切な方法で、例えば、リスクスコア結果、および適切にあらかじめ定義された重みをもつIGFBP-7値の重み付き合計を作成することによって(例えば、表3に示すように)、組み合わされる。
【0198】
この結果は、アンジオポエチン-2が、新しい患者の将来の脳卒中のリスクを予測するために、単独で、または組み合わせとして、脳卒中リスク(CHADS2、CHA2DS2-VAScおよびABCなど)の予測における臨床的スコアを大幅に改善するために、複数の方法で使用できることを示唆する。患者は、心房細動のある患者でもよく、また、すでに抗凝固薬またはビタミンKa拮抗薬を投与されていてもよい。
【0199】
新しい患者の場合、アンジオポエチン-2を測定し、あらかじめ定義されたカットオフ(例:2.4ng/ml)と比較できる。新しい患者の測定値が、あらかじめ定義されたカットオフを超えている場合、患者は脳卒中の経験に対してリスクが高いと見なされ、適切な臨床的措置が開始されうる。
【0200】
カットオフのセットを増加させることに基づいて、3つ以上のリスクグループを定義することもできる。
【0201】
次に、患者は、アンジオポエチン-2の測定値に基づいて、リスクグループの1つに割り当てられる。脳卒中のリスクは、さまざまなリスクグループにわたって増加すると予想される。
【0202】
あるいは、あらかじめ定義された好適な変換関数に基づいて、アンジオポエチン-2の結果を連続的なリスクスコアに直接的に変換することもできる。
【0203】
さらに、アンジオポエチン-2の値を、臨床的および人口統計学的変数(例:CHA2DS2-VAScスコアまたはABCスコア)に基づくリスクスコアと組み合わせて使用することもでき、これにより、リスク予測の精度が向上する。
新しい患者の場合、リスクスコアの値は、適切な方法で評価される、それから測定されたアンジオポエチン-2値(潜在的にlog2変換された)とともに、適切な方法で、例えば、リスクスコア結果、および適切にあらかじめ定義された重みをもつアンジオポエチン-2値の重み付き合計を作成することによって(例えば、表3に示すように)、結合される。