(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-13
(45)【発行日】2022-04-21
(54)【発明の名称】SiO粉末製造方法及び球形粒子状SiO粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 33/113 20060101AFI20220414BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20220414BHJP
C23C 14/10 20060101ALI20220414BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220414BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220414BHJP
【FI】
C01B33/113 A
C23C14/00 A
C23C14/10
H01M4/48
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2020539437
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033231
(87)【国際公開番号】W WO2020045333
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018158003
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】397064944
【氏名又は名称】株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100123467
【氏名又は名称】柳舘 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】竹下 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】柏谷 悠介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 剛央
(72)【発明者】
【氏名】木崎 信吾
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519046(JP,A)
【文献】特開2001-220123(JP,A)
【文献】特開平3-8437(JP,A)
【文献】特開2017-92009(JP,A)
【文献】特開2004-217515(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002356(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/113
C23C 14/00
C23C 14/10
H01M 4/48
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOガスを冷却された析出基体上に堆積させると共に、析出基体上に堆積したSiO析出物をブレードにより削り取る際に、析出基体からブレードを離し、析出基体上に堆積したSiO析出物の一部を析出基体上に残したまま、残りのSiO析出物をブレードにより削り取って回収するSiO粉末製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のSiO粉末製造方法において、析出基体からブレードまでの距離を一定にして、一定周期で削り取りを繰り返すSiO粉末製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のSiO粉末製造方法において、析出基体上におけるSiO析出物の堆積速度、すなわち成長速度d(μm/min))と削り取り周期n(1/min)との比d/n(μm)が0.5~20μmであるSiO粉末製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のSiO粉末製造方法において、析出基体からブレードまでの距離g(mm)が0.1~3mmであるSiO粉末製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のSiO粉末製造方法において、SiOガス発生原料にSiとO以外の元素Mを添加し、元素MがドープされたSiO粉末を製造するSiO粉末製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のSiO粉末製造方法において、前記元素Mが金属元素であるSiO粉末製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のSiO粉末製造方法において、SiOガス発生原料への前記元素Mの添加が、Mの酸化物またはケイ酸塩を前記原料へ混ぜることでなされるSiO粉末製造方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れかに記載のSiO粉末製造方法において、回収されたSiO粉末を不活性ガス雰囲気中で加熱するSiO粉末製造方法。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載のSiO製造方法において、回収されたSiO粉末をさらに粉砕するSiO粉末製造方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載のSiO粉末製造方法において、回収されたSiO粉末を導電性炭素により被覆するSiO粉末製造方法。
【請求項11】
・SiO粉末を用いて合材電極を作製し、
・3D-SEM画像を取得し、
・無作為に選んだ20粒子の3次元再構築像を生成し、
・各粒子について最大面積をもつ断面に対してフラクタル次元解析を行い、
前記解析により算出したフラクタル次元Dの平均値Dfiが1.03以上1.50以下となる球形粒子状SiO粉末。
【請求項12】
請求項11に記載の球形粒子状SiO粉末において、当該SiO粉末は負極活物質用である球形粒子状SiO粉末。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の球形粒子状SiO粉末において、粉末粒子の円形度が0.8以上である球形粒子状SiO粉末。
【請求項14】
請求項11~13の何れかに記載の球形粒子状SiO粉末において、SiとO以外の他元素Mがドープされている球形粒子状SiO粉末。
【請求項15】
請求項14に記載の球形粒子状SiO粉末において、当該SiO粉末に含まれる前記元素MのOに対する物質量比(M/O)が、0.05≦M/O≦1である球形粒子状SiO粉末。
【請求項16】
請求項15に記載の球形粒子状SiO粉末において、前記MがLi、Mg、Al、P、Bからなる群より選ばれる球形粒子状SiO粉末
【請求項17】
請求項11~16の何れかに記載の球形粒子状SiO粉末において、当該SiO粉末を構成する粒子の粒径がメディアン径で0.5~30μmである球形粒子状SiO粉末。
【請求項18】
請求項11~17の何れかに記載の球形粒子状SiO粉末において、当該SiO粉末を構成する粒子の少なくとも一部に導電性炭素皮膜が形成された球形粒子状SiO粉末。
【請求項19】
請求項18に記載の球形粒子状SiO粉末において、導電性炭素皮膜の形成量が、SiO粉末全体の質量に対する炭素の重量比率で表して0.5~20wt%である球形粒子状SiO粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の負極材等として使用されるSiO粉末の製造方法及び球形粒子状SiO粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
SiOは電気容量が大きく、優れたリチウムイオン二次電池用負極材であることが知られている。このSiO系負極材は、SiO粉末、導電助剤及びバインダーを混合してスラリー化したものを、銅箔等からなる集電体上に塗布し乾燥させることにより、薄膜状の負極とされる。ここにおけるSiO粉末は、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成したSiOガスを冷却し、析出させた後、細かく破砕することにより得られる。
【0003】
このような析出法で製造されるSiO粉末は、非晶質の部分を多く含み、熱膨張係数を小さくして、サイクル特性等の電池特性を向上させることなどから有利とされており、特に、角がとれた円形度の高いSiO粉末は、その電池特性の向上に有効であることが、特許文献1~3により報告されている。
【0004】
しかしながら、角がとれた球形粒子状のSiO粉末を工業的な規模で経済的に製造することは容易でない。なぜなら、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成したSiOガスを冷却し、析出させた後、細かく破砕することにより得られるSiO粉末は、破砕に伴って角のある非球形粒子状の粒子となり、そのなかから角がとれた球形粒子状の粒子を選別する過程で大量の損失が生じ、歩留りが極端に低下するという大きな問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、引用文献1では気流を利用して微粉砕を行うジェットミルやサイクロンミルが使用され、引用文献3ではボールミルを使用した微粉砕が行われているが、粉砕コストが上昇するのは避けられず、歩留りも依然として低い。また引用文献2では、特に粒子同士を衝突させる技術が提案されているが、粉砕コストが上昇するのは避けられない。
【0006】
これらの問題に加え、粉砕を入念に行えば行うほど、粉砕容器や粉砕媒体との接触の機会、頻度が増加するため、得られる粒子の不純物による汚染度が高くなる本質的な問題もある。
【0007】
これらとは別に、SiO粉末を工業的に安価に製造する方法の一つとして、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成したSiOガスを冷却された析出基体上に堆積させながら、その堆積析出物をブレードで析出基体上から機械的に削り取って回収する技術が、特許文献4及び5により提示されている。
【0008】
この技術によると、析出基体上に堆積したSiO析出物からSiO粉末を直接的且つ連続的に製造することが可能となり、なかでも、特許文献5に記載されているように析出基体として回転体を使用すると、特に高い製造効率が得られる。しかしながら、析出基体上から削り取られるSiO粉末が鱗片状の粒子となり、角がとれた球形状の粒子を直接的かつ連続的に製造することまではできない。また、その鱗片状の粒子においては粒径が大きくなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-225347号公報
【文献】WO2015/004834号再表公報
【文献】特開2017-92009号公報
【文献】特開2001-220123号公報
【文献】特表2016-519046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、角がとれた球形粒子状で粒径も小さく、更には不純物による汚染度も低いSiOの粉末を効率的、経済的に製造できるSiO粉末製造方法、及びその球形粒子状SiO粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的、特に製造されるSiO粉末の不純物による汚染度を低下させる観点から、本発明者らは、冷却された析出基体上に堆積したSiO析出物を、析出基体上からブレードにより機械的に削り取る技術に着目した。この技術によると、削り取り時にのみSiO析出物にブレードが接触することから、不純物による汚染の機会が低減し、汚染度が低下することが期待される。しかしながら、この削り取り技術においても、量的なことはともかくとして、ブレードによる機械的な削り取りに伴ってSiO粉末に不純物による汚染が生じるのを避け得ない。
【0012】
そこで、本発明者はブレードによる析出基体上からの機械的な削り取りにおける、不純物による汚染の原因が、単に析出物とブレードとの接触だけでなく、冷却された析出基体とブレードとの間の金属間接触にもあると考え、ブレードを析出基体から離して析出基体上の析出物を掻き取る方法を創案し、様々な実験検討を繰り返した。その結果、析出基体にブレードを接触させて析出基体上の析出物を削り取る場合に比べて、不純物による汚染が抑制されるだけでなく、ブレードによって削り取られる析出物が、角がとれた球形粒子状で粒径も小さい粉末となって、析出基体上から直接的かつ効率的に回収されることが判明した。
【0013】
すなわち、冷却された析出基体上に堆積したSiO析出物の一部を析出基体上に残したまま、残りのSiO析出物を削り取るのである。
【0014】
また、このようにして得られたSiO粉末の粒子形状は、単に円形度が高い単純な球体ではなく、核となる大きな球状コア部に複数の小さな球状サテライト部が一体的に組み合わさった、いわばカリフラワーの如き複合球形状であり、コア部の外表面及びサテライト部の外表面ともに比較的平滑である(
図2参照)。そして、このような特殊な複合球形状の粒子形状は、電池に用いられる活物質粒子形状の認識に通常用いる円形度やBET比表面積では識別困難であること、その一方、フラクタル次元解析によると、その特殊な複合球形状の定量的識別が可能となること、及び、そのような特殊な複合球形状の粒子からなるSiO粉末は、その粒子形状に起因して負極活物質として、あるいはさらに粉砕して負極活物質として使用するための中間体として、以下の優れた特質を示すことが判明した。
【0015】
すなわち、析出SiOを粉砕する場合のような微粉が生じず、かつ球状コア部に対して比較的小径で複数の球状サテライト部が一体化した複合球形状のため、ハンドリングが容易である(舞いにくく、付着しにくい)。比表面積が適度に大きくなり、またLiの挿入による膨張が空隙によって緩和されるため、一次粒子でありながら二次粒子のような特長をもち、主にサイクル特性が向上する。粉砕して使用する場合にもネック部で簡単に分割されるため、粉砕性が良好で、粉砕に必要なエネルギーが節約される。
【0016】
本発明はかかる一連の知見に基づいて開発されたものであり、そのSiO粉末製造方法は、SiOガスを冷却された析出基体上に堆積させると共に、析出基体上に堆積したSiO析出物をブレードにより削り取る際に、析出基体からブレードを離し、析出基体上に堆積したSiO析出物の一部を析出基体上に残したまま、残りのSiO析出物をブレードにより削り取って回収するものである。換言すれば、析出基体上に堆積したSiO析出物の両表面のうち、析出基体と接触する接触側表面を析出基体の表面に接触させたまま、反対側の非接触側表面のみを削り取って回収するのである。
【0017】
現実的には、析出基体からブレードまでの距離を一定にして、一定周期で削り取りを繰り返すことになるので、析出基体の上に一定厚のSiO析出物が残り、その上に新たにSiO析出物が堆積し、これを削り取るプロセスが繰り返されることになる。析出基体としては効率面からドラム状回転体が好ましいが、平板状の析出基体でも一定周期でブレードによる削り取りを繰り返すことにより、SiO粉末の回収が可能である。
【0018】
本発明のSiO粉末製造方法においては、析出基体上に堆積したSiO析出物を削り取る際に、削り取り用の工具であるブレードが析出基体の表面に接触しない。その結果、析出基体上に堆積したSiO析出物は、角がとれた円形度の高いSiO粉末として析出基体上から直接的に回収され、しかも、そのSiO粉末は粒径が小さく、不純物による汚染度も低いものとなる。その理由は次のように考えられる。
【0019】
析出基体上に堆積したSiO析出物をブレードにて削り取る際に、析出基体上に堆積したSiO析出物の一部を析出基体上に残しておくと、その残ったSiO析出物の上に新たなSi析出物が堆積し、これが次に削り取られて回収される。すなわち、析出基体上に一定量のSiO析出物が残ったまま、その上に新たなSiO析出物が堆積し、これが削り取られるというプロセスが繰り返される。このとき、析出基体上に残ったSiO析出物の表面は削り取りの後であるため、微粉の付着も含め、ミクロ的に荒れた状態にある。そのミクロ的に荒れた表面の上に新たにSiO析出物が堆積することにより、表面のミクロ的な荒れが起点となって、新たに堆積するSiO析出物の球状化が進むと考えられ、この新たに堆積した微細球状のSiO析出物の集合体がブレードにて削り取られることにより、角がとれた円形度の高い微細なSiO粉末が得られ、なおかつ、析出基体とブレードとの接触回避により、そのSiO粉末の不純物による汚染度も低下する。
【0020】
析出基体上に堆積したSiO析出物の全量を削り取る場合は、析出物が文字どおり削り取られるため、得られる粉末は球状とならず、鱗片状となる。また、析出基体上に残ったSiO析出体の上にSiO析出物を堆積させる場合であっても、堆積から削り取りまでの周期時間が極端に長くなると、新たに堆積したSiO析出物が下の残存析出物と一体化するため、得られる粉末は、やはり鱗片状となる。
【0021】
このような観点から、本発明のSiO粉末製造方法においては、析出基体上におけるSiO析出物の堆積速度、すなわち成長速度d(μm/min))と削り取り周期n(1/min)との関係であるd/n(μm)なる因子が重要とる。これは、削り取りによる析出基体上から回収されるSiO粉末の性状(粒径、形状)に大きな影響を与える因子であり、0.5~20μmが望ましく、0.5~15μmが更に望ましく、1~10μmが特に望ましい。
【0022】
すなわち、d/n(μm)の値が小さくなり過ぎると、残ったSiO析出物上における新たなSiO析出物の堆積が進まず、削り取りによる得られるSiO粉末の微粉化が進み、ハンドリング性が悪化するだけでなく、SiO粉末の比表面積が過大となる。反対に、d/n(μm)の値が大きくなり過ぎると、残ったSiO析出物上における新たなSiO析出物の堆積が進みすぎ、この間に残ったSiO析出物との一体化が進み、削り取りにより得られるSiO粉末が鱗片状になる。
【0023】
d/n(μm)以外の因子としては、析出基体からブレードまでの距離g(mm)が重要である。これは、析出基体上に残るSiO析出物の層厚を決定する因子である。これが小さすぎると、析出基体上に残るSiO析出物の層厚が薄くなり、削り取りによる生じるSiO粉末が鱗片状になる危険がある。反対に、この層厚が大きすぎると、削り取られないで析出基体上に残るSiO析出物が多くなることから、歩留りが悪化する。これらの点から、析出基体からブレードまでの距離g(mm)は0.1~3mmが望ましく、0.5~2.5mmがより望ましく、0.5~2mmが特に望ましい。
【0024】
ブレードの材質は製品粉末の不純物汚染に影響する。その影響を抑制する観点から、この材質はステンレス鋼やセラミックスが好ましく、セラミックスが特に好ましい。
【0025】
削り取り工程の前段階として、SiとSiO2の混合材料をSiOガス発生原料として、この原料を反応室内で減圧加熱してSiOガスを発生させる必要があり、また、そのSiOガスを、冷却された析出基体上に凝縮・析出させて堆積させる必要がある。このときの反応室の圧力は、高すぎると原料からSiOガスが発生する反応が起こりにくくなるので、10Pa以下が望ましく、7Pa以下がより望ましく、5Pa以下が特に望ましい。
【0026】
反応室内の温度t1(℃)は、SiOの反応速度に影響し、低すぎると反応速度が遅く、高すぎると原料が融解して反応面積が減少し、同様に反応速度が遅くなる。また、るつぼの損傷も問題となる。この観点から、反応室内の温度t1(℃)は、1000~1600℃が望ましく、1100~1500℃がより望ましく、1100~1400℃が特に望ましい。
【0027】
析出基体の温度t2は、析出基体上に残ったSiO析出物の上に堆積するSiO析出物(球状粉末の集合体)の結晶性に影響を与える。この温度が低すぎると、SiOの組織構造が疎になりすぎて比表面積が大きくなり、反対に高すぎると不均化が生じる。この観点から、この温度t2は、800℃以下が望ましく、150℃以上750℃以下がより望ましく、150℃以上650℃以下が特に望ましい。
【0028】
ブレードによる削り取りにより回収したSiO粉末は、熱処理を行うことで組織の緻密化、これによる比表面積の低減が進み、これにより負極材としての電池性能の向上が期待できる。具体的には、電池の中に活物質として組み込まれた際にSiO粉末の粒子表面に成長するSEI皮膜の量を低減することにより、初期効率を改善することができる。更に、そのSiO粉末に導電性炭素を被覆することによりサイクル特性を改善することができる。
【0029】
ここにおける熱処理の雰囲気は、酸化を抑制するために不活性ガス雰囲気が望ましい。熱処理の温度t3(℃)は、結晶性の最適化という観点から、500~900℃が望ましく、550~850℃がより望ましく、600~850℃が特に望ましい。熱処理の温度t3(℃)が低すぎると、粉末の組織構造が疎になり過ぎて比表面積が大きくなり、高すぎると不均化が生じる。導電性炭素の被覆量は、粉末全体の質量に対する炭素の重量比で表して0.5~20wt%が好ましい。この被覆量が少なすぎると導電性向上によるサイクル特性向上の効果が不十分となり、多すぎるとSiOの比率が少なくなり、容量向上の効果が不十分となる。
【0030】
また、SiOガス発生用原料としては、SiとSiO2の混合物だけでなく、この混合物に他元素を含む材料を加えたものを使用することもできる。他元素を含む材料を加えた原料を使用することにより、角が取れた球形粒子状の粉末が得られることに加え、他元素がドープされたSiO粉末を製造することができる。他元素を含む材料としては、例えば珪酸リチウムや珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの金属珪酸塩や金属酸化物、或いはリンやホウ酸などの所謂ドーパントとして使用される材料が使用可能である。この際、Si、SiO2、珪酸リチウムの混合物主体の元素比を調整することにより、所望のLi濃度のLiドープSiO粉末を得ることができる。
【0031】
また、本発明の球形粒子状SiO粉末は、単に円形度が高いというだけでなく、ランダムに選んだ20粒子に対して、それぞれの最大断面積を持つ断面において、ディバイダ法によるフラクタル次元解析を行った場合に、20粒子のフラクタル次元Dの平均値Dfiが1.03以上1.50以下となるSiO粉末である。円形度は0.8以上が好ましい。
【0032】
具体的なフラクタル次元解析方法としては、合材電極を作製、或いは樹脂埋めなどをした後にFIB法で断面を作製し、SEMによって観察した視野からランダムに選んだ充放電前の20粒子の各断面に対して、ディバイダ法によるフラクタル次元解析を行う方法、すなわちSiO粉末を使用して合材電極を作製した後に、SiO20粒子を含む範囲に対して3D-SEM画像を取得して20粒子の3次元再構築像を生成したのちに、XY断面の各面積を画像解析ソフトを使用して算出し、各粒子について最大の面積を持つXY断面像に対してフラクタル次元を算出するといった方法がある。
【0033】
3D-SEMはFIB による試料加工、SEM観察、試料加工を約100nm間隔にて繰り返し実施(約400枚のSEM像を取得)することで、奥行き方向情報を連続的に得ることができる。また、取得した連続SEM像は、FIBのステージ傾斜角度を考慮して補正を行い、一連のSEM像が奥行き方向へ連続的に観察されることを確認した上で、連続SEM画像のAlignmentを実施すれば、画像シリーズを重ね合わせることで3次元再構築像を取得できる。
【0034】
前記3D-SEMで抽出されたSiO粒子(20粒子)それぞれについてThermo Fisher Scientific社製画像解析ソフトAvizo9.7.0を用いてXY断面(FIB加工方向)の面積を算出した後、日本ローパー社製 Image-Pro10を使用すれば、ディバイダ法によるフラクタル次元を算出できる。
【0035】
ディバイダ法によるフラクタル次元とは、周知のとおり、輪郭線を特徴的な長さの線分で折れ線近似することによりフラクタル次元を求める方法であり、長さrの線分の集合で投影粒子像の輪郭線を折れ線近似するときに必要な線分の本数をN(r)としたとき、N(r)=a・r-DにおけるDがフラクタル次元となる(aは係数である)。
【0036】
表面に凹凸がある粒子では、線分の長さrを小さくすれば、rが大きいときには表れなかった粒子表面の小さな凹凸が折れ線近似により表れてくるので、N(r)はrの減少分以上に増加する。この増加割合を表すのがフラクタル次元Dであり、核となる大きな球体部(コア部)に複数の小さな球体部(サテライト部)が一体的に組み合わさった、いわばカリフラワーの如き複合球形状粒子表面の凹凸の複雑さ、すなわち粒子形状を表現することができる。
【0037】
電池に用いられる活物質粒子の形状を表す因子として円形度やBET比表面積がよく知られているが、核となる大きな球状コア部に複数の小さな球状サテライト部が一体的に組み合わさった複合球形状の場合、円形度では形質上の特長が正確に反映されない。またBET比表面積の場合は、巨視的な形状の単純さに比して、微視的な形状である表面粗さやミクロな孔の影響が顕著支配的であるので、従来の塊状のSiOを粉砕したものと前記複合球形状との間に差が表現されない。一方、ディバイダ法によるフラクタル次元Dは、微視的な表面積因子の影響を受けず、前記複合球形状の形質上の特徴を正確に反映する。
【0038】
ランダムに選んだ20粒子に対して、それぞれの最大断面積を持つ断面において、ディバイダ法によるフラクタル次元解析を行った場合の、20粒子のフラクタル次元Dの平均値Dfiが1.03未満の場合は、全体形状が単純過ぎて複合球形状粒子における所期の効果が得られない。反対にこの平均値Dfiが1.50を超えると、球状コア部と球状サテライト部を繋ぐネック部が多くなり、また細くなるため、充放電に伴う体積変化によって崩壊し易くなり、結果サイクル特性が悪化する。また、粒子の崩壊によって新生線面が現れるので、電解液との副反応が進み、初期効率も低下する。特に好ましいフラクタル次元Dの平均値Dfiは1.05以上1.50以下である。
【0039】
本発明の球形粒子状SiO粉末においては、フラクタル次元を算出する際の拡大率が重要である。この拡大率は、フラクタル次元を算出する粒子の断面積が、視野の20~90%を占める値に設定する。こうしなければ複雑な輪郭の形状が見えなくなってしまい、見掛けのフラクタル次元が低くなるためである。逆に、最大面積を持つ断面が視野の20~90%の範囲に収まらない場合は、その粒子をフラクタル次元の算出対象から外す。
【発明の効果】
【0040】
本発明のSiO粉末製造方法は、冷却された析出基体上に堆積したSiO析出物の一部を析出基体上に残したまま、残りのSiO析出物を削り取って回収することにより、不純物による汚染度が低いSiO粉末を効率的、経済的に製造できるのみならず、角がとれた円形度が高く、しかも粒径が小さいSiO粉末を効率的、経済的に製造でき、そのSiO粉末をリチウムイオン二次電池の負極材として使用することにより、そのイオン二次電池の電池性能の向上に効果的に寄与することができる。
【0041】
また、本発明の球形粒子状SiO粉末は、その特殊な粉末粒子の形質上の特徴を、ディバイダ法によるフラクタル次元Dにより、巨視的に数値化して適正に管理することにより、そのSiO粉末をリチウムイオン二次電池の負極材として使用した場合の電池性能を効果的に向上させることができる。
【0042】
また、本発明の球形粒子状SiO粉末は、さらに粉砕して負極活物質として使用する中間体として使用可能であり、その際の粉砕性に優れるため、粉砕エネルギーを低減して製造コストの削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明のSiO粉末製造方法に使用するSiO粉末製造装置の一例を示す模式である。
【
図2】本発明法により製造されたSiO粉末の顕微鏡写真である。
【
図3】比較のために従来法で製造されたSiO粉末の顕微鏡写真である。
【
図4】従来法で製造されたSiO粉末を粉砕した後の顕微鏡写真である。
【
図5A】本発明のSiO粉末粒子の三次元再構築像である。
【
図6A】従来のSiO粉末粒子の三次元再構築像である。
【
図7】同粉末粒子の円形度とサイクル特性との関係を示すグラフである。
【
図8】同粉末のフラクタル次元Dfiとサイクル特性との関係を示すグラフである。
【
図9】同粉末粒子のフラクタル次元Dfiと粉砕所要時間(粉砕性)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0045】
本実施形態のSiO粉末製造方法は、SiOガスを発生させるSiOガス発生工程と、発生したSiOガスを、冷却された析出基体上に凝縮・析出させて堆積させるSiO析出工程と、析出基体上に堆積したSiO析出物をブレードにより削り取ってSiO粉末として回収するSiO粉末回収工程とを含んでおり、これらの工程は同時並行的に進行し、これらの工程のうちのSiO粉末回収工程に大きな特徴がある。
【0046】
本実施形態のSiO粉末製造方法に使用するSiO粉末製造装置は、
図1に示すように、炉体1と、炉体1内に設置されたるつぼ2と、るつぼ2内を加熱するべくるつぼ2を包囲するヒータ3と、るつぼ2の上方開口部を残してこれらを覆う断熱材4と、るつぼ2の上方開口部の上に配置されたドラム状回転体からなる析出基体5と、析出基体5の外周面に堆積するSiO析出物を削り取るために析出基体5の正面側から析出基体5に向けて配置されたブレード7と、ブレード7の下方に配置されたSiO粉末の受皿8とを備えている。
【0047】
SiO粉末を製造するには先ず、反応室であるるつぼ2内に、SiOガス発生原料9として例えばSiとSiO2の混合材料を装填する。そして、炉体1内を減圧しながらるつぼ2内をヒータ3により加熱する。前述したとおり、炉体1内の圧力は10Pa以下が望ましく、7Pa以下がより望ましく、5Pa以下が特に望ましい。また、るつぼ2内の加熱温度、すなわち反応室内の温度t1は1000~1600℃が望ましく、1100~1500℃がより望ましく、1100~1400℃が特に望ましい。
【0048】
るつぼ2内のかかる減圧加熱により、るつぼ2内のSiOガス発生原料9からSiOガスが発生する。これがSiOガス発生工程である。
【0049】
このとき、るつぼ2の上では、ドラム状回転体からなる析出基体5が回転している。析出基体5の温度t2は、反応室内のt1より低く設定されており、より詳しくはSiOガスの凝縮温度より低く設定されており、その温度t2は前述したとおり、800℃以下が望ましく、150℃以上750℃以下がより望ましく、150℃以上650℃以下が特に望ましい。これにより、るつぼ2内のSiOガス発生原料9から発生したSiOガスが、析出基体5の表面に凝縮・析出し堆積していく。これがSiO析出工程である。
【0050】
これと同時に、回転する析出基体5に対しては、正面側からブレード7が対向している。ここで重要なのは、析出基体5の表面にブレード7の先が接触しないことであり、析出基体5の表面からブレード7の先端までの間に所定の距離g(ギャップ)が確保されている。この距離g(ギャップ)は前述したとおり0.1~3mmが望ましく、0.5~2.5mmがより望ましく、0.5~2mmが特に望ましい。
【0051】
これにより、析出基体5の表面に堆積するSiO析出物10がブレード7により削り取られ、SiO粉末11として受皿8に回収されるが、析出基体5の表面にブレード7の先が接触せず、析出基体5の表面からブレード7の先端までの間に所定の距離g(ギャップ)が確保されているため、回収されるSiO粉末10においては、析出基体5とブレード7の直接接触による不純物汚染が防止されると共に、そのSiO粉末11が、角がとれた球形粒子状で粒径も小さい高品質の粉末となる。その理由は前述したとおりである。
【0052】
これがSiO粉末回収工程であり、SiOガス発生工程及びSiO析出工程と同時並行的に進行し、上述した高品質のSiO粉末が連続的に製造される。
【0053】
SiO粉末回収工程を、析出基体5の周方向における特定位置に着目し、ブレード7による削り取り位置を起点にして、より具体的に説明すると、特定位置が削り取り位置に到達すると、それまでに堆積したSiO析出体10が削り取られ、削り取りの後も所定厚さのSi析出物10が析出基体5の表面上に残る。そして、この上に、次に特定位置が削り取り位置に到達するまでの間にSiO析出物10が堆積し、この新たに堆積したSi析出物10が削り取り位置で削り取られ、これが繰り返される。つまり、析出基体5の表面上には一定厚のSi析出物10が残り続け、その上に新たに堆積するSi析出物10がブレード7により削り取られる。単位時間中にSiO析出物10が堆積する速度がSiO析出物10の成長速度d(μm/min)であり、析出基体5の単位時間内に回転数が削り取り周期n(1/min)となる。
【0054】
SiO析出物10の成長速度d(μm/min)と削り取り周期n(1/min)の関係d/n(μm)が、回収されるSiO粉末の性状(粒径、形状)に大きな影響を与えることは前述したとおりである。
【0055】
また、こうして得られたSiO粉末は、単に円形度が高い単純な球体粒子ではなく、核となる大きな球状コア部に複数の小さな球状サテライト部が一体的に組み合わさった、いわばカリフラワーの如き複合球形状の粒子となり、20粒子のフラクタル次元Dの平均値Dfiでその粒子形状を表して1.03以上1.50以下を示し、特に1.05以上1.50以下を示すことにより、サイクル特性、粉砕性に優れることも前述したとおりである。また、その円形度は、粉末粒子が球体形状に近づくという観点から、前述したとおり0.8以上が好ましい。
【0056】
SiO粒子の粒径はメディアン径で0.5~30μmが好ましい。この粒径が小さすぎると粒子表面における電解液の分解反応の影響が大きくなりクーロン効率の低下を招くと共に、凝集性の増大や嵩密度の低下によるハンドリング性の低下がおこる。大きすぎるとLiを吸蔵した際の電極の膨張が大きくなり、サイクル特性が低下する。
【実施例】
【0057】
次に、上述した装置及び手順で実際にSiO粉末を製造した結果を次に説明する。ドラム状回転体からなる析出基体はステンレス鋼製で油冷、ブレードはステンレス鋼からなるドクターブレードとした。
【0058】
(実施例1-1)
反応室であるるつぼ内にSiOガス発生原料としてSiとSiO2の混合物(Si:O=1:1)を装填し、そのるつぼを炉体内の所定位置にセットした後、炉体内を1Paに減圧すると共にるつぼ内を1300℃に加熱して、SiOガスを発生させた。これと同時にるつぼの上の析出基体を150℃に温度管理しながら回転させて、析出基体の表面にSiOガスを凝縮・析出させた。
【0059】
このときの析出基体の表面におけるSiO析出物の成長速度d、すなわち成膜速度は4.8μm/minであり、析出基体の回転速度を調整することにより、削り取り周期nを2.4min-1、両者の比d/nを2とした。また、析出基体の表面からブレードの先端までの距離gは0.5mmとした。
【0060】
ブレードによる削り取り位置においては、0.5mm厚のSiO析出層を残してSiO析出物が削り取られ、SiO粉末が回収されることにより、SiO粉末が連続的に生産される。生産されたSiO粉末のうち、篩分けにより45μm以下の微粉末を活物質として評価した。
【0061】
また、SiO粉末の析出基体単位長さあたりの生産能力(g/(hr・m))、歩留り(回収SiO重量/原料の重量減少量)、微粉末回収率(回収SiO45μm篩下重量/回収SiO重量)を調査した。
【0062】
製造されたSiO粉末の粒子形状を、円形度(投影面積の等しい円の周長/粒子の周長)、により調査した。円形度の測定方法を表1に示す。
【0063】
【0064】
次に、最終粉末製品である45μm以下のSiO微粉末を負極活物質に用いてリチウイオン二次電池の負極を作製した。具体的には、SiO粉末、ケッチェンブラック、及び非水溶剤系バインダーであるポリイミド前駆体を85:5:10の質量比で混合し、更にNMP(nメチルピロリドン)を加えて混練することでスラリーを作製した。そして、そのスラリーを厚さ40μmの銅箔上に塗布し、80℃で15分間予備乾燥し、直径11mmに打ち抜いた後、イミド化処理して負極とした。
【0065】
更に、作製された負極を用いてリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、二次電池おける対極にリチウム箔を用いた。電解質にはエチレンカーボネイト、及びジエチルカーボネイトを1:1の体積比で混合した溶液に、LiPF6(六フッ化リンチリウム)を1モル/リットルの割合になるように溶解させた溶液を用いた。そして、セパレータに厚さ20μmのポリエチレン製多孔質フィルムを用いて、コインセルを作製した。
【0066】
作製されたリチウムイオン二次電池に対して、二次電池充放電試験装置(株式会社ナガノ製)を用いて充放電試験を行った。充放電試験における試験条件を表2に示す。この充放電試験により、初回充電容量、初回放電容量、初回充電容量に対する初回放電容量の比(初回クーロン効率)、初回の放電容量に対する50回目の放電容量の比(50サイクル後容量維持率)をそれぞれ求めた。
【0067】
【0068】
SiO粉末の粒子形状を評価するために、前述した円形度の測定に加え、前述の負極に対して、以下に述べる方法で3D-SEM画像の取得、及びSiO粒子断面のフラクタル解析を行った。
【0069】
(1)電極に対して3D-SEM画像を取得する。
試料作製および観察装置:FEI製 Helios G4
FIB加工条件:加速電圧30kV
SEM観察条件:加速電圧 2kV 二次電子像
加工エリア:約40μm(幅)×約40μm(高さ)
スライスStep:100nm
スライス枚数:約400枚
試料傾斜:52°
【0070】
(2)FIBによる試料加工、SEM観察、試料加工を約100nm間隔にて繰り返し実施(約400枚枚のSEM像を取得)することで、奥行き方向に約40μmの厚み情報を連続的に得た。また、取得した連続SEM像は、FIBのステージ傾斜角度を考慮して補正を行った。一連のSEM像が奥行き方向へ連続的に観察されることを確認した上で、連続SEM画像のAlignmentを実施し、画像シリーズを重ね合わせることで、三次元再構築像を取得した。観察した視野に20粒子が含まれるように、観察範囲を選択した。
【0071】
(3)そして、フラクタル次元解析を以下のとおり行う。
使用ソフト:Thermo Fisher Scientific社製
Avizo9.7.0
日本ローパー社製 Image-Pro10
画像解析方法:前記3D-SEMで抽出されたSiO粒子(20粒子)それぞれについてAvizo9.7.0を用いてXY断面(FIB加工方向)の面積を算出した。各粒子について、最大の面積を持つXY断面像からImage-Pro10を用いて各粒子のフラクタル次元Dを算出し、平均値を比較した。
【0072】
また、これらの測定とは別に、このSiO粉末を更に粉砕して活物質として使用することを考慮して、粉砕性を以下の方法により調査した。
【0073】
(1)回収粉末を目開き45μmの篩でふるった篩下粉末の粒度分布を測定し、体積基準のメディアン径D50(以下平均粒径と記載)を求める。粒度分布はレーザー回折式の粒度分布測定装置を使用して測定する。本実施例ではMalvern社製のMastersizer2000を使用した。溶媒にはイソプロピルアルコールを使用した。
【0074】
(2)45μmでふるった篩下粉末を、乾式のアトライターを使用して平均粒度5μmまで粉砕した。使用した装置は日本コークス製乾式アトライターMA1D、使用したボールは材質ジルコニア・直径5mmであり、回転数は300rpmとした。所望の粒度(5μm)に到達するまでに掛かる時間を測定した。
【0075】
製造されたSiO粉末の仕様、生産性、電池性能、粉砕性等についての各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0076】
(実施例1-2)
実施例1-1において、析出基体の回転速度を遅くして削り取り周期nを2.4min-1から0.24min-1に変更し、これに伴ってd/nを2から20に変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例1-1と同じである。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0077】
(実施例1-3)
実施例1-1において、析出基体の回転速度を速くして削り取り周期nを2.4min-1から48min-1に変更し、これに伴ってd/nを2から0.1に変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例1-1と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0078】
(実施例2)
実施例1-1において、析出基体の表面からブレードの先端までの距離gを0.5mmから1mmに変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例1-1と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0079】
(実施例2-i)
実施例2において、作製された最終製品(SiO微粉末)に対して熱処理を施した。具体的には、最終製品(SiO微粉末)をアルミナ製のるつぼに装填し、電気炉内で不活性ガス雰囲気(Arガス雰囲気)中にて850℃で2時間加熱した。他の条件は実施例2と同じである。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0080】
(実施例2-ii)
実施例2-iにおいて、熱処理後の最終製品(SiO微粉末)に対して、導電性炭素の被覆処理(Cコート)を実施した。具体的には、熱処理後の粉末をロータリーキルンに仕込み、アルゴンとプロパンの混合ガスを炭素源とする熱CVDにより炭素被覆処理を行った。炭素被覆量(粉末全体におけるC元素の重量比率)は2wt%であった。他の条件は実施例2-iと同じである。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0081】
(実施例3)
実施例2において、析出基体の表面からブレードの先端までの距離gを1mmから3mmに変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例2と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0082】
(実施例4)
実施例3において、析出基体の温度を150℃から500℃に変更した。これに伴って成膜速度が4.8μm/minから4.5μm/minに低下し、d/nは2から1.88に低下した。他の製造条件、及び試験方法は実施例3と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0083】
(実施例5)
実施例1において、SiOガス発生原料としてSiとSiO2の混合物(Si:O=1:1)をSiとSiO2と珪酸リチウムの混合物(Li:Si:O=0.1:1:1)に変更した。また、析出基体の表面からブレードの先端までの距離gを0.5mmから1mmに変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例1-1と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0084】
(実施例5-i)
実施例5において、作製された最終製品(SiO微粉末)に対して熱処理を施した。具体的には、最終製品(SiO微粉末)をアルミナ製のるつぼに装填し、電気炉内で不活性ガス雰囲気(Arガス雰囲気)中にて850℃で2時間加熱した。他の条件は実施例5と同じである。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0085】
(実施例5-ii)
実施例5-iにおいて、熱処理後の最終製品(SiO微粉末)に対して、導電性炭素の被覆処理(Cコート)を実施した。具体的には、熱処理後の粉末をロータリーキルンに仕込み、アルゴンとプロパンの混合ガスを炭素源とする熱CVDにより炭素被覆処理を行った。炭素被覆量(粉末全体におけるC元素の重量比率)は2wt%であった。他の条件は実施例5-iと同じである。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0086】
(実施例6)
実施例5において、SiOガス発生原料としてSiとSiO2と珪酸リチウムの混合物(Li:Si:O=0.1:1:1)をSiとSiO2とMgOの混合物(Mg:Si:O=0.1:1:1)に変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例5と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0087】
(実施例7)
実施例1-1において、析出基体の回転速度を遅くして削り取り周期nを2.4min-1から0.08min-1に変更し、これに伴ってd/nを2から60に変更した。他の製造条件、及び試験方法は実施例1-1と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0088】
(比較例1)
実施例1-1において、析出基体の表面からブレードの先端までの距離gを0.5mmから0mmに変更した。すなわち、析出基体の表面にブレードの先端を接触させた。他の製造条件、及び試験方法は実施例1-1と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0089】
(比較例2)
実施例7において、析出基体の表面からブレードの先端までの距離gを0.5mmから0mmに変更した。すなわち、実施例1-1において、析出基体の回転速度を遅くして削り取り周期nを2.4min-1から0.08min-1に変更し、これに伴ってd/nを2から60に変更すると共に、析出基体の表面にブレードの先端を接触させた。他の製造条件、及び試験方法は実施例7或いは実施例1-1と同じてある。各種調査結果をSiO粉末の製造条件と共に表3に示す。
【0090】
【0091】
表3からわかるように、析出基体の表面からブレードの先端が離された本発明の実施例では、析出基体の表面にブレードの先端が接触した比較例と比べて、電池性能としての50サイクル後容量維持率が向上している。これは、本発明の実施例では、析出基体の表面にブレードの先端が接触することによるSiO粉末の不純物による汚染が低減されたためと考えられる。
【0092】
また、SiO粉末の粒子形状は、比較例1,2では円形度が0.8未満で鱗片状であるのに対し、本発明の実施例では円形度が0.8以上と高く、実施例7を除けば、何れの円形度も0.9以上と特に高く球形状である。実施例1-1で製造されたSiO粉末(篩分け前の回収粉末)の顕微鏡写真を
図2に示す。また、比較例1で製造されたSiO粉末(篩分け前の回収粉末)の顕微鏡写真を
図3に示し、その粉末を粉砕した後の状態を
図4に示す。
【0093】
実施例1-1で製造されたSiO粉末は、角がとれた球形粒子状の粉末であることが分かる。また、より詳細には、核となる大きな球状コア部に複数の小さな球状サテライト部が一体的に組み合わさった、いわばカリフラワーの如き複合球形状に成長していることが分かる。一方、比較例1で製造されたSiO粉末は明らかな鱗片状である。これを粉砕しても、実施例1-1で製造された、角がとれた球形粒子状の粉末のようにはならない。
【0094】
実施例7での円形度が他の実施例での円形度に比べて低く、形状がほぼ球形粒子状となるのは、析出基体の回転速度が遅いために、削り取り周期nが0.08min-1と極端に短くなり、削り取りから次の削り取りまでの時間が長くなったために、残ったSiO析出物上に堆積した新たなSiO析出物が、下の残ったSiO析出物との一体化が進み、削り取りにより得られるSiO粉末の鱗片状化が生じ、球形粒子状と比較的大きな鱗片状の2形態で析出基体から剥がれるが、篩分けにより球形粒子状粉末を回収でき、その球形粒子状粉末の円形度が比較例より高いことは前述したとおりである。
【0095】
そして、実施例7を除く他の実施例では、角がない球形粒子状の微粉末が得られたことから、電池性能としての初期効率が、比較例及び実施例7と比べて大きく向上している。また、SiO粉末製造での微粉回収率が高い。これは、ブレードによる削り取り・回収の段階で既に微粉化が進んでいることを意味する。
【0096】
実施例2,2-i,2-ii及び実施例3,4では他の実施例に比べて歩留りが若干低下しているが、析出基体の表面からブレードの先端までの間隔が必ずしも最適でなかったことによる。
【0097】
また、実施例2-i,2-ii及び実施例5-i,5-iiに見られるように、回収後のSiO粉末に対する熱処理は初期効率の向上に有効であり、導電性炭素の被覆は50サイクル後容量維持率の向上にも有効である。特に実施例4は、SiO粉末に対する熱処理も導電性炭素の被覆も行っていないにもかかわらず、初期効率、50サイクル後容量維持率が比較的高い。これは、析出基体の温度が他より高く、成膜速度が抑制された反面、SiO析出物の組織が緻密になる傾向があり、これが電池評価に反映されているためと考えられる。回収後のSiO粉末に対する熱処理でも組織の緻密化が進むが(実施例2-i)、それよりも電池性能が向上する。それは、回収後、大気暴露した後に加熱を受けるより、大気非暴露の状態で加熱を受ける方が、ピックアップする酸素の量が少ない為と考えられる。
【0098】
また、実施例5,6に見られるように、原料がドープ源を含むことによるLiドープ、Mgドープは電池性能の向上に有効であり、その上での熱処理、導電性炭素の被覆もまた電池性能の向上に有効である(実施例5-i,5-ii)。
【0099】
また、20粒子のフラクタル次元Dの平均値Dfiにより、実施例及び比較例での粒子形状を評価すると、実施例ではこれが1.03以上1.50以下の範囲内に入っているのに対し、比較例ではこれが1.03未満である。実施例1-1で得たSiO粉末中の1粒子についての三次元再構築像を
図5Aに示し、その断面像を
図5Bに示す。この断面像のフラクタル次元Dは1.055である。また、比較例1-1で得たSiO粉末中の1粒子についての三次元再構築像を
図6Aに示し、その断面像を
図6Bに示す。この断面像のフラクタル次元Dは1.017であり、実施例1-1で得たSiO粒子との間に明確な相違がある。
【0100】
そして、実施例及び比較例における円形度と50サイクル後の容量維持率(サイクル特性)との関係を
図7に示す。また、実施例及び比較例におけるフラクタル次元Dの平均値Dfiと50サイクル後の容量維持率(サイクル特性)との関係を
図8に示す。
【0101】
図7から分かるように、円形度が高い実施例は容量維持率の改善が見られることはわかるが、単調な相関関係ではなく、円形度によって制御が可能とは言いがたい。これに対し、
図8から分かるとおり、フラクタル次元Dは、容量維持率に対しては強い相関を示し、フラクタル次元Dによって容量維持率を制御可能である。これは、フラクタル次元Dが、核となる大きな球状コア部に複数の小さな球状サテライト部が一体的に組み合わさった、いわばカリフラワーの如き複合球形状粒子の形質上の特徴を正確に反映しているためと考えられる。
【0102】
また、実施例及び比較例におけるフラクタル次元Dの平均値Dfiと粉砕所要時間(粉砕性)との関係を
図9に示す。同図から明らかなように、フラクタル次元の平均値Dfiが大きくなるほど粉砕性が向上しており、このことからも、フライタル次元Dがカリフラワーの如き複合球形状粒子の形質上の特徴の定量的評価に有効であることがわかる。
【0103】
なお、本発明においてSiOは、SiOx(x=1)を意味しない。広義のSiOを意味し、他元素をドープしたものも包含する。化学式で表せばMySiOxであり、0.5≦x≦1.5、0≦y≦1である。ここにおけるx、すなわちSi原子量に対するO原子量の割合が0.5未満であると、SiOxがSiに近くなりすぎ、酸素に対する活性が高くなって安全性が低下する。反対にxが1.5超であると、初期効率が低下し、電池性能が低下する。
【0104】
x及びyについては、更に0.05≦y/x≦1を満足することが好ましい。y/xが0.05未満であるとMをドープする効果が薄く、1を超えると安定性が低下する恐れがある。
【0105】
前述の各実施例及び各比較例においては、得られたSiO粉末中のSi、O及びLiまたはMgの各元素量を測定した。Si、LiおよびMgについてはICP発光分光分析により元素量を測定し、OについてはLECO社製TC-436を使用して、不活性ガス融解-赤外線吸収法(GFA)により元素量を測定した。各例におけるO/Si元素比、Li/O元素比、及びMg/O元素比を表3中に併記した。
【符号の説明】
【0106】
1 炉体
2 るつぼ
3 ヒータ
4 断熱材
5 析出基体
7 ブレード
8 受皿
9 SiOガス発生原料
10 SiO析出物
11 SiO粉末