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特許7058397組織再生培養細胞シート、製造方法及びその利用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】組織再生培養細胞シート、製造方法及びその利用方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20220415BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220415BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220415BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20220415BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20220415BHJP
【FI】
A61L27/38 112
A61L27/38 300
A61P19/02
A61K35/28
A61K35/32
C12N5/077
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019165747
(22)【出願日】2019-09-11
(62)【分割の表示】P 2017546927の分割
【原出願日】2017-08-30
(65)【公開番号】P2020006207
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2017033924
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実用化研究事業」「関節治療を加速する細胞シートによる再生医療の実現」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501345220
【氏名又は名称】株式会社セルシード
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 千香子
(72)【発明者】
【氏名】幸得 友美
(72)【発明者】
【氏名】河毛 知子
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第4666257(JP,B2)
【文献】特表2004-531297(JP,A)
【文献】特開2005-130838(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036246(WO,A1)
【文献】前原美樹 他,多指症由来同種軟骨細胞シートの継代による軟骨特性変化,日本再生医療学会雑誌 再生医療,2017年02月01日,増刊号 Vol. 16 Suppl,p. 440, P-03-064,全体
【文献】TAKAHAHSHI, Takumi et al.,Rabbit Xenotransplantation Model for Evaluating Human Chondrocyte Sheets for Articular Cartilage Repair,ORS 2016 Annual Meeting abstract,Poster No. 1407,2016年,Methods, Results
【文献】MAEHARA, Miki et al.,Characterization of polydactyly-derived chondrocyte sheets versus adult chondrocyte sheets for articular cartilage repair,Inflammation and Regeneration,2017年,Vol. 37:22,p. 1-10,p. 4右欄, Fig 3
【文献】NUMASAWA, Yohei et al.,Treatment of Human Mesenchymal Stem Cells with Angiotensin Receptor Blocker Improved Efficiency of Cardiomyogenic Transdifferentiation and Improved Cardiac Function via Angiogenesis,STEM CELLS,2011年,Vol. 29,p. 1405-1414,p. 1406左欄
【文献】片野尚子 他,関節組織再生の最前線:滑膜幹細胞による半月板再生,日耳鼻,2015年,Vol. 118,p. 723-727,p. 725、図3
【文献】再生医療に向けた細胞シートの自動培養装置と輸送技術,日立評論,2013年06月07日,Vol. 95, No. 06-07,p. 75-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/38
C12N 5/077
A61L 27/50
A61P 19/02
A61K 35/28
A61K 35/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものであり、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、且つ、
前記培養物は、FBSを含むDMEM/F12培地において前記軟骨組織由来の細胞を培養して得られたものであり、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まない、
前記細胞シート。
【請求項2】
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものであり、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養物は、FBSを含むDMEM/F12培地において前記軟骨組織由来の細胞を培養して得られたものであり、且つ、
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである、
前記細胞シート。
【請求項3】
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものであり、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養物は、FBSを含むDMEM/F12培地において前記軟骨組織由来の細胞を培養して得られたものであり、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まず、且つ、
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである、
前記細胞シート。
【請求項4】
1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項5】
サフラニンO染色に対して陰性を示すものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項6】
アグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項7】
前記細胞が、多指症の動物の軟骨組織に由来するものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項8】
前記細胞が、間葉系幹細胞を含むものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞シート。
【請求項9】
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養は、FBSを含むDMEM/F12培地において行われ、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まず、且つ
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了される、
前記製造方法。
【請求項10】
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養は、FBSを含むDMEM/F12培地において行われ、
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了され、且つ
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである
前記製造方法。
【請求項11】
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養は、FBSを含むDMEM/F12培地において行われ、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まず、
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了され、且つ
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである
前記製造方法。
【請求項12】
前記細胞シートが、前記培養終了時に1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す、請求項9~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記培養は、前記細胞シートがアグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すまで継続される、請求項9~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記培養は、サフラニンO染色に対して陽性を示す前に終了される、請求項9~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記面上の前記ポリマーの固定化量が0.3~5.0μg/cmである、請求項9~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記膜が多孔膜であり、
前記培養において、前記細胞は、前記多孔膜の上側の培地と接し、且つ、前記多孔膜の下側の培地と前記多孔膜の孔を介して接している、請求項9~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記培養が、セルカルチャーインサートを用いて行われる、請求項9~16のいずれか一項に記載の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シート及びその製造方法に関し、より詳しくは軟骨修復用細胞シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症などの運動器疾患の処置に関して、組織再生工学技術を利用した軟骨組織の治療が行われている。この治療において、培養した軟骨細胞又は軟骨細胞に基づき作られた軟骨組織が患部に移植されうる。これまでに種々の移植材料が提案されている。
【0003】
例えば下記非特許文献1は、健康な軟骨細胞を培養し、当該培養された軟骨細胞を軟骨全層欠損部に注入する旨を記載する(Abstract)。下記特許文献1は、「所定の移植部位へ移植する移植用材料であって、体組織から入手した前記所定の移植部位と同種の組織構造物に該組織構造物の形状を維持したまま抗原性抑制処理を施して得た細胞保持担体に、前記所定の移植部位に応じた細胞が保持された移植用材料。」(請求項1)を記載する。下記特許文献2は、「骨軟骨欠損部に補填するための骨軟骨移植材であって、移植の際に骨内への埋植部となるβ-リン酸三カルシウム多孔体に、可溶化したアテロコラーゲンに軟骨細胞または骨髄細胞を包埋してゲル化したものを、移植の際に軟骨欠損部に相当する部分となるように一体化し、この系で前記軟骨細胞または骨髄細胞を培養してなることを特徴とする骨軟骨移植材。」(請求項1)を記載する。下記特許文献3は、「生体相容性の移植片において、一定の生体相容性の支持骨格材料、および前記支持骨格材料の少なくとも一部分に結合している少なくとも1種類の組織フラグメントを備えており、この場合に、当該組織フラグメントがこの組織フラグメントから外に移動して前記支持骨格材料において集団化する一定の有効量の生活可能な細胞を含有している移植片。」(請求項1)を記載する。下記特許文献4は、「キャリアに密着され、軟骨組織又は骨組織に対する付着性が良好で軟骨様組織として形質発現された培養細胞シート。」(請求項1)を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-180819号公報
【文献】特開2003-111831号公報
【文献】特開2004-136096号公報
【文献】国際公開第2006/093151号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Brittbergら,New England Journal of Medicine,1994,331(14),889
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、軟骨の修復に適した新たな細胞シートを提供することを目的とする。また、本発明は、当該細胞シートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の特徴を有する細胞シートが、軟骨の修復に適していることを発見した。
【0008】
すなわち、本発明は、
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものであり、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、且つ、
前記培養物は、FBSを含むDMEM/F12培地において前記軟骨組織由来の細胞を培養して得られたものであり、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まない、
前記細胞シートを提供する。
また、本発明は、
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものであり、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養物は、FBSを含むDMEM/F12培地において前記軟骨組織由来の細胞を培養して得られたものであり、且つ、
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである、
前記細胞シートも提供する。
また、本発明は、
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものであり、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養物は、FBSを含むDMEM/F12培地において前記軟骨組織由来の細胞を培養して得られたものであり、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まず、且つ、
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである、
前記細胞シートも提供する。
前記細胞シートは、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。
前記細胞シートは、サフラニンO染色に対して陰性を示すものでありうる。
前記細胞シートは、アグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。
前記細胞シートにおいて、前記細胞は、多指症の動物の軟骨組織に由来するものでありうる。
前記細胞シートにおいて、前記細胞は、間葉系幹細胞を含むものでありうる。
【0009】
また、本発明は、
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養は、FBSを含むDMEM/F12培地において行われ、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まず、且つ
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了される、
前記製造方法も提供する。
また、本発明は、
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養は、FBSを含むDMEM/F12培地において行われ、
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了され、且つ
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである
前記製造方法も提供する。
また、本発明は、
軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記軟骨組織由来の細胞は、滑膜に由来するものでなく、
前記培養は、FBSを含むDMEM/F12培地において行われ、当該DMEM/F12培地は、TGF-βを含まず、
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了され、且つ
当該細胞シートは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する免疫染色において陽性を示すものである
前記製造方法も提供する。
前記製造方法において、前記細胞シートは、前記培養終了時に1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示しうる。
前記製造方法において、前記培養は、前記細胞シートがアグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すまで継続されうる。
前記製造方法において、前記培養は、サフラニンO染色に対して陽性を示す前に終了されうる。
前記製造方法において、前記面上の前記ポリマーの固定化量が0.3~5.0μg/cmでありうる。
前記製造方法において、前記膜が多孔膜であり、前記培養において、前記細胞は、前記多孔膜の上側の培地と接し、且つ、前記多孔膜の下側の培地と前記多孔膜の孔を介して接していてもよい。
前記製造方法において、前記培養は、セルカルチャーインサートを用いて行われてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞シートは、軟骨の修復に適している。また、本発明の製造方法によって、軟骨の修復に適した細胞シートが製造される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】切片の薄切方向を示す図である。
図2】移植後の軟骨組織の組織学的評価の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.細胞シート
【0013】
本発明の細胞シートは軟骨修復用である。すなわち、本発明の細胞シートは、軟骨組織の外科的な処置、特には外科的な治療、に適している。本発明において、軟骨の修復とは、炎症及び/又は損傷を有する軟骨組織を治療すること、軟骨組織を補強すること、軟骨組織の欠損部分を補うこと、及び軟骨組織を再生することを包含するが、これらに限定されない。また、本発明の細胞シートは、軟骨組織に関する疾患を予防する為に用いられてもよい。本発明の細胞シートは例えば疾患を有する軟骨組織又は骨組織に施与されうる。本発明の細胞シートが適用される疾患の例としては、例えば関節炎、関節症、軟骨損傷、骨軟骨損傷、半月板損傷、及び/又は椎間板変性を挙げられるがこれらに限定されない。
【0014】
本発明の細胞シートによる軟骨の修復は、例えば、修復が必要な軟骨部分を外科的処置により露出させ、当該露出した部分に前記細胞シートを施与することによって行われうる。施与されるべき細胞シートの数及び大きさは、例えば処置されるべき部分の状態又は疾患の種類などを考慮して、当業者により適宜定められうる。また、本発明の細胞シートは、好ましくは、当該シートの施与の前に、軟骨下骨から出血が確認されるように軟骨下骨が処理されうる。当該処理は当業者に既知の方法により行われてよく、例えばマイクロフラクチャー又はドリリングにより行われてよい。当該処理が行われることで、本発明の細胞シートによる軟骨の修復がより促進される。
本発明の細胞シートを患部へ施与する際に、生体内で使用可能な接着剤による接合又は縫合が行われてもよい。又は、当該接合又は縫合を行うことなく、当該細胞シートを単に患部に付着させるだけでもよい。
【0015】
本発明の細胞シートは、軟骨組織由来の細胞の培養物から形成されたものである。すなわち、本発明の細胞シートは、シート状の細胞培養物であって、当該培養物は、軟骨組織由来の細胞の培養物である。本発明の細胞シートは生体外での人工的な培養により得られるものであるので、天然物でない。当該軟骨組織由来の細胞は、例えば、軟骨組織に含まれる細胞を軟骨基質から分離することにより得られる複数の細胞でありうる。例えば、当該軟骨組織由来の細胞は、軟骨組織を酵素で処理することによって、軟骨組織中の細胞を軟骨基質から遊離させ、そして、遊離した細胞を遠心分離によって回収することにより回収された複数の細胞でありうる。
【0016】
本発明において、前記軟骨組織由来の細胞は、多指症の動物の軟骨組織に由来するものであってよく、又は、多肢症の動物の軟骨組織に由来するものであってもよい。当該動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくは霊長類の動物であり、さらにより好ましくはヒトでありうる。当該軟骨組織は例えば余剰指の切除術などの際に得られる組織から採取されうる。当該組織は例えば、レントゲンで撮影した際に白く写らない部分であり、すなわち、黒く抜けたように写る部分でありうる。多指症は、末節骨型、中節骨型、又は基節骨型のいずれでもよい。余剰指は、いずれの指であってもよく、例えば親指又は小指でありうる。採取する余剰指(肢)がイボ状で小型の場合は採取した皮下組織すべてが用いられうる。当該動物がヒトである場合、より効率的な培養のために、当該ヒトの年齢は好ましくは5歳以下、より好ましくは3歳以下、さらにより好ましくは2歳以下でありうる。
前記軟骨組織由来の細胞は、好ましくは、滑膜に由来するものでない。すなわち、本発明の細胞シートは、好ましくは、滑膜由来の細胞の培養物から形成されたものでなく、滑膜細胞の培養物から形成されたものでもない。
【0017】
前記酵素処理において用いられる酵素の例として、コラゲナーゼ、カゼイナーゼ、クロストリパイン、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、プロナーゼ、及びディスパーゼを挙げることができる。好ましくは、これら酵素の組合せが用いられうる。好ましい酵素の組合せの例は例えば、コラゲナーゼ、カゼイナーゼ、クロストリパイン、及びトリプシンの組合せである。この組合せを含む酵素製剤として例えば、コラゲナーゼタイプI、コラゲナーゼタイプII、コラゲナーゼタイプIII、コラゲナーゼタイプIV、及びコラゲナーゼタイプV(いずれも和光純薬工業株式会社から入手可能)を挙げることができるが、これらに限定されない。また、好ましい酵素の組合せの他の例は例えば、コラゲナーゼとディスパーゼ又はサーモリシンとの組合せである。この組合せを含む酵素製剤として例えばリベラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社から入手可能)を挙げることができるが、これに限定されない。また、組織の状態によっては、複数種の酵素によって段階的に酵素処理が行われてもよい。例えば、コラゲナーゼ、カゼイナーゼ、クロストリパイン及びトリプシンによってこの順に処理することで単離が行われてもよい。酵素処理の条件は、用いられる酵素の種類及び/又は軟骨組織の状態によって当業者により適宜定められうる。酵素処理は、例えば30~50℃、好ましくは33~45℃、35~40℃で、例えば1~12時間、好ましくは3~5時間、さらに好ましくは4~4.5時間行われうる。酵素処理の温度が高すぎる場合、細胞の変性、生細胞の減少、増殖能の低下、単離不能などの問題が起こりうる。また、酵素処理温度が低すぎる場合、十分な酵素活性が達成されず、細胞の単離が出来ない場合がありうる。酵素処理の際、物理的刺激を加えることで高効率に細胞回収を成し得る。
【0018】
上記酵素反応は、関節軟骨が酵素処理されている細胞懸濁液に、血清を添加した培地を加えることで停止されうる。酵素反応停止後、当該細胞懸濁液が遠心分離により細胞塊と上清とに分けられうる。リベラーゼに関しては、二回以上の洗いにより酵素反応を停止させうる。当該遠心分離は、前記遠心分離は、25μm未満、特には20μm以下、15μm以上の細胞をより多く集められる条件で行われうる。そのような細胞をより多く集める為に、当該遠心分離は、例えば1000rpm以上、1500rpm以上、又は2000rpm以上で、例えば5分間以上、7分間以上、又は10分間以上行われうる。
【0019】
前記軟骨組織由来の細胞は、いわゆるアウトグロース法により得られてもよい。アウトグロース法は、採取された軟骨組織を細かく切る工程、細かく切られた軟骨組織片を少量の培地と共に培養皿に播種し、培養する工程を含みうる。当該培養によって、当該軟骨組織片から、増殖した細胞が生成される。当該生成された細胞が、酵素処理及び遠心分離によって回収される。当該回収された細胞が、本発明の細胞シートの製造に用いられうる。
アウトグロース法は器材表面へ接する組織断片の面積が小さいほど効率的に細胞が採取出来るため、組織片の大きさは好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下、さらにより好ましくは1mm以下でありうる。また、細胞を得る為にアウトグロース法において用いた組織片を、再度アウトグロース法に用いることで、一つの組織片からより多くの細胞を採取することもできる。一つの組織片に対してアウトグロース法が行われる回数は、好ましくは5回以下、より好ましくは3回以下、さらにより好ましくは2回以下でありうる。一つの組織片に対してアウトグロース法が5回超行われると、得られる細胞、特には間葉系幹細胞、の生存率が低下し、製造された細胞シートによる軟骨の修復が効率的に行われない場合がある。
【0020】
前記軟骨組織を細かく切る工程は、例えば湿潤状態で行われうる。当該工程は、例えば、50ml遠沈管に組織片と少量の培地を入れてMetzenbaum Scissors, SuperCut Tungsten Carbide 18cm Long Curve(World Precision Instruments社)によって切り刻むことで行われうる。可能な限り小さい軟骨組織片を得ることが好ましい。また、細かく切られた軟骨組織片を培養するための培地は、当業者により適宜選択されうるが、好ましくはDMEM/F12+20%FBS+抗生物質(以下ABともいう)でありうる。培養開始後に培養皿への細胞の接着が確認された後、好ましくはDMEM/F12+20%FBS+AB+アスコルビン酸(以下AAともいう)に培地が交換されうる。培地がアスコルビン酸を培養開始時から含む場合、細胞の培養皿への接着が阻害されうる。また、前記培養は一般的な培養条件で行われてよく、例えば37℃、5%CO2のインキュベータ内で行われうる。培養は、サブコンフルエントが達成されるまで行われうる。また、培養において生成された細胞の回収において用いられる酵素製剤は、例えばトリプシン及びEDTAを含むものでありうる。遠心分離は、上記で述べたとおりに行われうる。
【0021】
本発明において、前記軟骨組織由来の細胞は、多孔膜上での培養前に、継代及び/又は拡大培養されうる。すなわち、前記培養物は、前記細胞を継代及び/又は拡大培養して得られた細胞の培養物であってもよい。本発明において継代とは、培養されている細胞がサブコンフルエントに達し細胞の増殖速度が頭打ち(プラトーとも呼ばれる)となる前に、新たな培地と共に植え次ぐことである。継代数は、得られる細胞シートにおいて目的とする軟骨再生又は修復能力が実現される数であればよく、例えば1~10、特には2~9、より特には2~5でありうる。
【0022】
本発明において、前記軟骨組織由来の細胞は、好ましくは間葉系幹細胞を含みうる。前記軟骨組織由来の細胞は、間葉系幹細胞に加えて、軟骨組織に含まれる細胞をさらに含みうる。すなわち、本発明において、前記軟骨組織由来の細胞は、間葉系幹細胞を含む複数種類の細胞の集団でありうる。間葉系幹細胞以外の細胞の例として、例えば軟骨細胞及び軟骨芽細胞を挙げることができるがこれらに限定されない。本発明の細胞シートは、前記軟骨組織由来の細胞の培養物から形成されていることにより、軟骨の修復により適している。
【0023】
本発明の細胞シートの厚みは、例えば5~100μmであり、好ましくは7~70μmであり、より好ましくは10~50μmでありうる。本発明の細胞シートは、細胞の増殖過程で細胞が自然に重層化したものでありうる。すなわち、本発明の細胞シートは、別々に製造された2又はそれより多い細胞シートを人為的に積層化し培養を継続したものでなくてよい。
【0024】
本発明の細胞シートは、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものである。
軟骨組織は2型コラーゲン陽性である。そのため、軟骨修復用移植片の開発において一般的には移植片が2型コラーゲン陽性であることが必要と考えられていた。本発明者らは、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示す細胞シートが軟骨修復に適していることを発見した。本発明は、当該発見に基づくものである。本発明の細胞シートは、2型コラーゲン陰性であるにもかかわらず、軟骨の修復に適している。
【0025】
本発明において、2型コラーゲンに対する抗体として、市販入手可能なものが用いられてよい。市販入手可能な抗体の例として、例えば抗ヒト・コラーゲンII型抗体(協和ファーマケミカル株式会社、F-57)、F(ab')2-Goat anti-Mouse IgG(H+L)Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 488(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11017)、及びImmPRESS(商標) Reagent Anti-Mouse Ig(Vector Laboratories, Inc.、MP-7402-50)が挙げられる。本発明において、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色は、当業者に既知の方法により行われてよい。
【0026】
本発明の細胞シートを施与された軟骨組織は、施与後に、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示しうる。当該免疫染色が行われる時期は当業者により適宜選択されてよいが、例えば移植後1~8週目、特には2~7週目、より特には3~6週目に行われうる。免疫染色において用いられる抗体は、上記で述べたものと同じでありうる。
【0027】
また、本発明の細胞シートは、好ましくは、動物への移植後に、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。すなわち、本発明の細胞シートは、移植前において、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性であり、且つ、移植後において同免疫染色において陽性でありうる。移植後に免疫染色が行われる時期は当業者により適宜選択されてよいが、例えば移植後1~8週目、特には2~7週目、より特には3~6週目に行われうる。免疫染色において用いられる抗体は、上記で述べたものと同じでありうる。
【0028】
本発明の細胞シートは、好ましくは、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。この特性を有することで、より軟骨の修復に適したものとなりうる。本発明において、1型コラーゲンに対する抗体として、市販入手可能なものが用いられてよい。市販入手可能な抗体の例として、例えばGoat Anti-Type ICollagen-UNLB(Southern Biotechnology Associates Inc.、1310-01)、Donkey anti-Goat IgG(H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 546(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11056)、及びImmPRESS(商標) Reagent Anti-Goat Ig(Vector Laboratories, Inc.、MP-7405)が挙げられる。本発明において、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色は、当業者に既知の方法により行われてよい。
【0029】
本発明の細胞シートは、好ましくは、サフラニンO染色に対して陰性を示すものでありうる。この特性を有することで、より軟骨の修復に適したものとなりうる。サフラニンOは、例えばSafranine O(Chroma Gesellschaft Schmidt & Co.、1B463)でありうる。本発明において、サフラニンO染色は、当業者に既知の方法により行われてよい。
軟骨組織はサフラニンO染色で陽性を示す。そのため、軟骨修復用移植片の開発において一般的には移植片がサフラニンO染色で陽性であることが必要と考えられていた。本発明の細胞シートは、サフラニンO染色で陰性を示すにもかかわらず、軟骨の修復に適している。
【0030】
本発明の細胞シートを移植された軟骨組織は、移植後に、サフラニンO染色において陽性を示しうる。当該染色が行われる時期は当業者により適宜選択されてよいが、例えば移植後1~8週目、特には2~7週目、より特には3~6週目に行われうる。
【0031】
本発明の細胞シートは、好ましくは、アグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。この特性を有することで、より軟骨の修復に適したものとなりうる。本発明において、アグリカンに対する抗体として、市販入手可能なものが用いられてよい。市販入手可能な抗体の例として、例えばAggrecan, G1-IGD-G2 Domain, Human, Recombinant, Carrier-free(R&D Systems, Inc.、1220-PG-025)、及び、Donkey anti-Goat IgG(H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 546(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11056)が挙げられる。本発明において、アグリカンに対する抗体を用いた免疫染色は、当業者に既知の方法により行われてよい。
【0032】
好ましい実施態様において、本発明の細胞シートは、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示し、且つ、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。より好ましい実施態様において、本発明の細胞シートは、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示し、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものであり、且つ、サフラニンO染色に対して陰性を示し且つ/又はアグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものでありうる。このような特徴を有することによって、本発明の細胞シートはより軟骨修復に適したものとなりうる。
【0033】
本発明の細胞シートは好ましくは、前記細胞シートの全ての面に基質を有しうる。好ましくは、前記基質はフィブロネクチンを含みうる。細胞を基材上で培養する場合、通常は、細胞と基材との間に基質が産生され、基材と反対側、すなわち基材と接さない部分には基質は産生されない。本発明の細胞シートは、基材と接する面だけではなく、基材と接さない面においても基質が生産されたものでありうる。本発明の細胞シートは、細胞シートの全ての面に基質を有することで、軟骨修復により適したものとなりうる。
【0034】
本発明の細胞シートは好ましくは、培養時に形成される細胞‐多孔膜間の基底膜様タンパク質が、例えばディスパーゼ及びトリプシンなどのタンパク質分解酵素などの酵素による破壊を受けていないものでありうる。すなわち、本発明の細胞シートは、細胞‐多孔膜間の基底膜様タンパク質を有しうる。特には、本発明の細胞シートは、細胞‐多孔膜間の基底膜様タンパク質を当該シートの1つの面に又は当該シートの両面に有しうる。当該基底膜様タンパク質を細胞シートが有することで、細胞シートがより良い軟骨修復能を発揮しうる。
【0035】
本発明の細胞シートは好ましくは、細胞密度が、100×10~100×10個/cm、より好ましくは100×106~100×107個/cm、より好ましくは100×10~500×106個/cm、さらにより好ましくは200×106~300×106個/cmでありうる。
【0036】
本発明の細胞シートは、同種(他家)移植されたとしても、免疫反応を引き起こすことなく、軟骨の修復に寄与しうる。そのため、当該細胞シートは、同種(他家)移植されうる。当該細胞シート中の軟骨細胞が免疫反応を引き起こさないこと、及び、産生された基質が当該細胞シートが抗原として認識されることを防ぐことが、当該細胞シートが免疫反応を引き起こさないことに貢献していると考えられる。
【0037】
本発明の細胞シートは好ましくは、人工的な足場成分を含まない。すなわち、本発明の細胞シートは、前記培養物中の細胞及び当該細胞から産生された成分(並びに、細胞シートに付着している培地成分)のみからなるものでありうる。本発明の細胞シートは好ましくは、人工的な足場成分を含まない状態で患者に移植されうる。
【0038】
本発明の細胞シートは、以下2.で述べる本発明の製造方法により製造されうる。そのため、本発明の細胞シートの製造方法については、以下2.を参照されたい。
【0039】
2.細胞シートの製造方法
【0040】
本発明は、軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法を提供する。前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、且つ、前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了される。すなわち、本発明の製造方法において製造される細胞シートは、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示す。前記方法によって、軟骨修復に適した細胞シートが製造される。
【0041】
本発明の製造方法において、前記培養終了時に、好ましくは、前記細胞シートが、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示しうる。すなわち、前記培養は、1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を確認し終了されうる。このような培養によって、軟骨修復により適した細胞シートが製造されうる。
【0042】
本発明の製造方法において、前記培養は、好ましくは、サフラニンO染色に対して陽性を示す前に終了されうる。このような培養によって、軟骨修復により適した細胞シートが製造されうる。
【0043】
本発明の製造方法において、前記培養は、好ましくは、前記細胞シートがアグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すまで継続されうる。すなわち、前記培養は、アグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示した後に終了されうる。このような培養によって、軟骨修復により適した細胞シートが製造されうる。
【0044】
本発明の製造方法において、温度応答性ポリマーを固定化された面を有する膜の当該面上で、前記軟骨組織由来の細胞が培養される。温度応答性ポリマーを固定化された面上で培養することで、培養後に当該面上の培養物を損傷することなく剥離することが可能となる。すなわち、培養後に、培地の温度を当該温度応答性ポリマーの上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下とすることで、当該面が疎水性から親水性に変化し、その結果、培養物と多孔膜との間の剥離が容易になる。なお、本発明の製造方法における培養は、いわゆる二次元培養(平面培養ともよばれる)である。二次元培養は、浮遊培養やペレット培養等の三次元培養でない。
【0045】
本発明の製造方法において、前記膜は、多孔膜であり、且つ、前記培養において、前記細胞は、前記多孔膜の上側の培地と接し、且つ、前記多孔膜の下側の培地と前記多孔膜の孔を介して接していてよい。このような状態で培養を行うことで、より軟骨修復に適した細胞が得られうる。
【0046】
本発明の製造方法において製造された細胞シートを多孔膜から剥離する場合、例えばディスパーゼ及びトリプシンなどのタンパク質分解酵素による処理が不要である。上記温度応答性ポリマーの特性を利用し、培地の温度を変化させることで、当該細胞シートは、多孔膜から剥離されうる。そのため、本発明の製造方法により製造された細胞シートは、当該酵素による損傷を受けずに多孔膜から剥離できるという利点を有する。
タンパク質分解酵素による処理は、細胞-細胞間のデスモソーム構造及び細胞-基材間の基底膜様タンパク質の分解をもたらし、その結果、剥離された細胞シート中の細胞が個々に分かれていることがある。一方、本発明の製造方法により得られた細胞シートは、タンパク質分解酵素により処理を行わずに、培地の温度を変化させることによって多孔膜から剥離されうる。その結果、上記デスモソーム構造が保持され、且つ、細胞シートの構造的欠陥が少なく、その強度はより高いものでありうる。また、本発明の製造方法により得られた細胞シートを培地の温度を変化させることによって多孔膜から剥離した場合は、上記基底膜様タンパク質も酵素により破壊されていない。そのため、移植時において患部組織とより良好に接着することができ、効率良い治療を実施することができる。
タンパク質分解酵素であるディスパーゼは、上記デスモソーム構造を10~60%保持した状態で細胞シートを剥離させることができることで知られているが、上記基底膜様タンパク質を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞シートの強度は弱い。
本発明の製造方法により製造された細胞シートは、上記デスモソーム構造及び上記基底膜様タンパク質をいずれも80%以上残存した状態で多孔膜から剥離されうる。
【0047】
本発明において用いられる温度応答性ポリマーの上限臨界溶液温度又は下限臨界溶液温度は、好ましくは0℃~80℃、より好ましくは20℃~50℃、さらにより好ましくは25~45℃でありうる。上限臨界溶液温度又は下限臨界溶液温度が高すぎる場合、細胞が死滅しうる。上限臨界溶液温度又は下限臨界溶液温度が高すぎる場合、細胞増殖速度が低下するか又は細胞が死滅しうる。
【0048】
本発明の製造方法において、温度応答性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーのいずれであってもよい。当該ポリマーは例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-(若しくはN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、若しくはビニルエーテル誘導体の単独重合体であってよく、又は、これらモノマーの共重合体でありうる。
前記(メタ)アクリルアミド化合物は例えば、アクリルアミド又はメタクリルアミドでありうる。
前記N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体は例えば、N-エチルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶液温度72℃)、N-n-プロピルアクリルアミド(同21℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(同27℃)、N-イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、N-イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、N-シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、N-シクロプロピルメタクリルアミド(同60℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、N-エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、又はN-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)でありうる。
前記N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体は例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶液温度56℃)、又はN,N-ジエチルアクリルアミド(同32℃)でありうる。
前記ビニルエーテル誘導体は例えば、メチルビニルエーテル(単独重合体の下限臨界溶液温度35℃)でありうる。
本発明において、温度応答性ポリマーとして、上記モノマー以外のモノマーとの共重合体が用いられてもよく、重合体同士をグラフト重合若しくは共重合したもの、又は重合体若しくは共重合体の混合物を用いてもよい。また、重合体本来の性質を損なわない範囲で架橋が行われてもよい。
本発明における培養又は剥離により適した臨界溶解温度を有する温度応答性ポリマーを選択するために、又は、多孔膜と培養物との間の相互作用を調節するために、又は、多孔膜の面の親水性又は疎水性を調整するために、上記ポリマーが適宜選択されうる。
好ましい実施態様において、前記温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。
【0049】
本発明の製造方法において、膜の面に固定化される温度応答性ポリマーの量は好ましくは0.3~5.0μg/cmであり、より好ましくは0.3~4.8μg/cmでありうる。また、膜の面に固定化される温度応答性ポリマーの量は、当該膜が多孔膜である場合、特には当該膜が多孔膜であり且つセルカルチャーインサートを用いて培養が行われる場合、好ましくは0.3~1.5μg/cmでありうる。また、当該膜が多孔膜でない場合は、膜の面に固定化される温度応答性ポリマーの量は、好ましくは1~2μg/cmでありうる。温度応答性ポリマーの固定化量がこの範囲内にあることによって、前記より効率的な培養が行われうる。当該固定化量がこの範囲外にある場合、細胞シートが形成されず又は細胞シートが効率的に製造されない場合がありうる。また、当該固定化量がこの範囲内にあることで、前記細胞シートがより容易に膜から剥離されうる。
【0050】
本発明の製造方法において、好ましくは、前記膜は多孔膜であり、前記培養において、前記軟骨組織由来の細胞は、前記多孔膜の上側の培地と接し、且つ、前記多孔膜の下側の培地と前記多孔膜の孔を介して接している。このような状態で培養を行うことで、より効率的に培養が行われうる。
【0051】
本発明の製造方法において、膜、特には多孔膜の材料は例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、又はポリテトラフルオロエチレンでありうる。これらのうち特にPETが好ましい。PETの多孔膜を用いることによって、本発明の細胞シートがより効率的に作成されうる。
【0052】
温度応答性ポリマーを多孔膜に面に固定化する方法は、例えば特開平2-211865号公報に記載された方法により行われうる。すなわち、多孔膜と上記温度応答性ポリマーとを化学的な反応によって結合させる方法、又は、物理的な相互作用によって結合させる方法により、当該固定化が行われうる。これらの方法は併用されてもよい。
前記化学的な反応によって結合させる方法において、例えば電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、可視光照射、LED照射、プラズマ処理、又はコロナ処理が行われうる。あるいは、ラジカル反応、アニオンラジカル反応、カチオンラジカル反応等の一般に用いられる有機反応により温度応答性ポリマーが多孔膜に固定化されてもよい。また、水不溶性ポリマーセグメントと温度応答性ポリマーセグメントが結合した構造をとるブロックコポリマーを基材表面に温度応答性ポリマー分として被覆してもよい。物理吸着やハイドロフォビックによる固定化をさせてもよい。
前記物理的な相互作用によって結合させる方法において、温度応答性ポリマー又は当該ポリマーと任意の媒体との混合物が多孔膜に塗布されうる。
【0053】
本発明の製造方法における培養において用いられる培地は、細胞培養、特には哺乳類細胞の培養に用いられうる培地、例えばDMEM/F12(Dulbecco's Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12)などでありうる。当該培地は添加因子を含みうる。添加因子としては、例えば細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、及び脂質並びにその他の成分などを挙げることができる。
【0054】
前記細胞成長因子としては、例えばTGF‐β、b‐FGF、IGF、EGF(Epidermal Growth Factor:上皮成長因子)、BMP(Bone morphogeneticprotein:骨成長因子)、Fibroblast growth factor receptor3(FGFR-3)、Frizzled-related protein(FRZB)、CDMP‐1、Growth differetiation factor5(GDF‐5)、G‐CSF(GranulocycyteColonySitimulatingFactor:顆粒球コロニー刺激因子)、LIF(LeukemiaInhibitoryFactor:白血球阻害因子)、インターロイキン、PDGF(Platelet‐DerivedGrowthFactor:血小板由来成長因子)、NGF(NerveGrowthFactor)、アクチビンAなどのTGF(TransformingGrowthFactor:トランスフォーミング成長因子)ファミリー、Wntファミリー、特にWnt-3a(Wingless‐typeMMTVintegrationsitefamily, member 3A)などが挙げられるがこれらに限定されない。TGFファミリーには、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3がある。
【0055】
前記ホルモンとしては、インスリン、トランスフェリン、デキサメサゾン、エストラジオール、プロラクチン、グルカゴン、サイロキシン、成長ホルモン、FSH(FollicleStimulationgHormone:卵胞刺激ホルモン)、LH(LeutenizingHormone:黄体形成ホルモン)、グルココルチノイド、及びプロスタグランチンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0056】
前記細胞接着因子としては、コラーゲン、コラーゲン様ペプチド、フィブロネクチン、ラミニン、及びビトロネクチンが挙げられるがこれらに限定されない。コラーゲン様ペプチドとしては、例えばコラーゲン中のRGD配列含有領域を連結した組み換えペプチドなどを挙げることができる。そのような組み換えペプチドとして、例えばcellnest(富士フイルム社)を挙げることができる。
【0057】
前記脂質としては、リン脂質及び不飽和脂肪酸などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0058】
培地に添加されうる上記その他の成分としては、アスコルビン酸、血清、インスリントランスフェリン亜セレン酸塩(ITS)、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ピルビン酸、プロリン、アルブミン、リポタンパク質、セルトプラスミンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。当該血清としては、ウシ胎児血清(FBS)及びヒト血清を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明の製造方法において、前記培地は、好ましくはFBSを含む培地であり、特にはFBSを含むDMEM/F12でありうる。FBSの含有割合は、より効率的な培養の為に、好ましくは培地の合計容量に対して1~30容量%、好ましくは10~30容量%、より好ましくは12~28容量%、さらにより好ましくは15~25容量%でありうる。
また、本発明の製造方法において培地は無血清培地であってもよい。ITSなどの添加因子は、血清の機能を代替することができるので、当該添加因子を培地に含めることで、無血清培地において本発明の製造方法における培養が行われうる。また、無血清培地を用いることで、ヒトへの移植に際して生物原料資源を用いることのリスクが回避されうる。
【0059】
好ましくは、本発明において用いられる培地は、より良い細胞増殖の為に、アスコルビン酸を、培地体積に対して例えば0.01~1mg/mL、好ましくは0.05~0.5mg/mL、より好ましくは0.07~0.3mg/mLの含有割合で含みうる。アスコルビン酸によって、培養されている細胞からの関節軟骨特異的な基質の産生が促進され、及び/又は、細胞シートの形質発現が軟骨修復により適したものとなりうる。すなわち、アスコルビン酸は、関節軟骨の損傷部位を硝子軟骨により再生することに寄与しうる。アスコルビン酸濃度が高すぎる場合は、培養されている細胞の多孔膜への接着が妨げられうる。アスコルビン酸濃度が低すぎる場合は、その効果が奏されない場合がありうる。
【0060】
本発明の製造方法において、軟骨組織由来の細胞の膜上での培養期間は、培養物の状態、例えば形質発現状態など、によって適宜選択されてよいが、例えば10~20日間、好ましくは11~18日間、より好ましくは12~16日間でありうる。当該培養期間によって、細胞シートが軟骨修復により適したものとなりうる。
【0061】
前記培養において、前記細胞集団は、前記多孔膜の上側の培地と接し、且つ、前記多孔膜の下側の培地と前記多孔膜の孔を介して接した状態で行われうる。当該状態で培養を行うことによって、接着タンパク質が、細胞シートの多孔膜への接着面だけでなく、当該接着面の反対側の面、前記上側の培地と接している面においても産生されうる。本発明の細胞シートは、細胞シートの両面に基質を有することで、軟骨修復により適したものとなりうる。
前記状態における培養のために、例えばセルインサート(セルカルチャーインサートとも呼ばれる)又は同様の構造体を有する培養容器が用いられうる。例えば、多孔膜部分に温度応答性ポリマーを固定化したセルインサートを有する培養容器が、本発明の製造方法において用いられうる。当該多孔膜の温度応答性ポリマーを固定化した面上で前記細胞集団の培養が行われうる。
当該温度応答性ポリマーの固定化は当業者に既知の方法によって行われてよく、例えば、特開平2-211865号公報に記載の方法により行われてよい。また、温度応答性ポリマーが固定化されるセルインサートは市販入手可能なものが用いられてよく、例えば、Thermo Scientific(商標)Nunc(商標)CCインサート#140660、BD Falcon セルカルチャーインサート#353090、#353490、353102、#353091、#353092、#353093が用いられうる。
【0062】
本発明の製造方法において、培養容器は当業者により適宜選択されてよく、例えばディッシュ、マルチウェルプレート、及びフラスコ、並びにこれらに類似する形態の容器を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の製造方法において得られる細胞シートの特徴は上記1.で述べたとおりである。また、本発明の製造方法に用いられる前記軟骨組織由来の細胞及びその調製方法は、上記1.で述べたとおりである。
【0064】
本発明の製造方法において、前記培養は、一般的な細胞培養において採用される条件下において行われうる。前記培養は、例えば35~40℃、特には37℃、且つ2~8%CO2、特には5%CO2のインキュベータ内で行われうる。
本発明の製造方法において、低酸素培養が採用されてもよい。例えば酸素濃度20%未満、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらにより好ましくは5%以下、最も好ましくは2%以下の雰囲気下で培養が行われうる。但し、酸素濃度は0%超であることが必要である。低酸素濃度下で細胞を培養することによって、軟骨細胞増殖能が亢進し、より効率的に細胞シートが産生されうる。また、低酸素濃度下で細胞を培養することによって、細胞外基質、特には軟骨特異的基質がより効率よく合成されるとともに、軟骨組織又は骨組織の修復に寄与する液性因子及び/又はタンパク質の産生が促進されうる。
【0065】
本発明の製造方法により製造された細胞シートは例えば、以下のとおりに多孔膜から剥離されうる。
(1)培養液温度を上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下とし、
(2)キャリアとしての支持膜を細胞シートに重ね、好ましくは支持膜と細胞シートとを密着させ、
(3)細胞シートをキャリアと共に多孔膜から剥離する。
【0066】
前記キャリアと共に細胞シートを多孔膜から剥離することによって、剥離の際に当該細胞シートが収縮しないように保持されうる。当該キャリアは、例えば高分子膜または高分子膜から成型された構造物、金属性治具などを使用することができる。例えば、キャリアの材質の例として、例えばヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、多血小板血漿、セルロース、その他の多糖類、タンパク質などの生体由来高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、紙類、キチン、キトサン、ウレタンなどを挙げることができる。
【0067】
前記キャリアは、好ましくはPVDFシートであり、より好ましくは円形であり且つ中心部に穴の開いたPVDFシートでありうる。当該PVDFシートを細胞シートに重ね、そして、当該PVDFシートと当該細胞シートとを一緒に多孔膜からはがすことで、多孔膜からの当該細胞シートの剥離はより容易になりうる。また、当該PVDFシートと一緒に細胞シートが患部に移植されることで、細胞シートが収縮すること又は破れることが回避されうる。
【0068】
前記キャリアは、前記細胞シート一緒に患部に施与されうる。その後、前記キャリアは、例えば、キャリアを濡らしてキャリアと当該細胞シートの密着性を弱めることによって、前記細胞シートからはがされうる。その後、当該細胞シートは必要に応じて、メス、はさみ、レーザー光、又はプラズマ波などの手段を用いて適宜切断されうる。
例えば上記した円形であり且つ中心部に穴の開いたPVDFシートをキャリアとして用いた場合、PVDFシートと細胞シートとを一緒に患部に施与した後に、例えばレーザー光によって当該細胞シートを切断することで、患部以外の部分への細胞シートの付着が回避されうる。
【0069】
本発明の製造方法により製造された細胞シートは前記キャリアを用いた剥離方法に限定されず、剥離が可能である。キャリアを用いない剥離は、例えば、サルカルチャーインサートの多孔膜をメスなどで外して、患部への移植冶具へ載せることが可能であるがこれに限定されない。
【0070】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例1】
【0071】
(序論)
【0072】
関節軟骨の再生は、整形外科学研究において特に関心をひくものである。我々は、細胞シート技術を応用して、膝変形性関節炎における関節軟骨の再生の為の軟骨細胞シートを開発し、そして、2011年から2014年の臨床試験において自己由来軟骨細胞シートの安全性及び有効性を確認した。現在進行中の臨床試験において、我々は、多指症由来軟骨細胞(polydactyly-derived chondrocytes、PDC)から作られた同種他家の軟骨細胞シートのヒト移植を準備している。そのような軟骨細胞を評価する為の前臨床モデルとして、我々は以前に、ヒト軟骨細胞シートを直接的に評価する為のウサギ異種移植モデルの有用性を報告した(Takahashi, T. et al. Poster presentation: ORS Annual Meeting 2016.)。本研究において、我々は、このモデルを使用して、種々の培養条件下で作られたPDCシートを評価した。
【0073】
(方法)
【0074】
実験は、東海大学動物実験委員会及び倫理委員会の承認及び指導の下で且つ患者のインフォームドコンセントを得たうえで行われた。軟骨細胞は、東海大学病院での多指症手術を受けた患者(男性、月齢8ヶ月)から得られた。PDCは、2継代され、そして次に凍結保存された。移植の約3週前に、PDCが解凍され、そして1継代され、そして次に、温度応答性培養インサートに1×104 cells/cm2で播種された。インサートはセルカルチャーインサートコンパニオンプレートに設置され、インサートの内側、インサートの外側(コンパニオンプレート側)に培地を入れることで、多孔膜の上面、下面ともに培地に接する。当該インサートは、温度応答性ポリマーを市販入手可能なカルチャーインサートの表面に被覆することにより製造された。当該PDCが当該インサート中で2週間、以下の条件下で培養された:グループA(DMEM/F12中の20% FBS)、グループB(DMEM/F12中の20体積% FBS。形質転換成長因子(TGF)β1を10ng/mlの濃度で含む。)、及びグループC(DMEM/F12中の20% FBS。10ng/mlの濃度のTGFβ1、0.2%インスリン-トランスフェリン-セレン(41400-045、Life technologies社)、1mMのピルビン酸、0.35mMのプロリン、及び0.1μMのデキサメタゾンを含む。)。当該培養の結果、細胞シートが得られた。当該シートは、細胞計数、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay;酵素結合免疫吸着法)(72時間の1% FBS中におけるTGFβ1及びメラノーマ阻害活性(MIA) 産生を測定する為)、及び組織学的分析(サフラニンO染色及び、アグリカン、フィブロネクチン、I型コラーゲン、及びII型コラーゲンについての免疫染色)により評価された。これら染色試験において陽性か陰性かは、当技術分野の熟練の技術者により判断された。アグリカンに対する抗体として、一次抗体にAggrecan, G1-IGD-G2 Domain, Human, Recombinant, Carrier-free(R&D Systems, Inc.、1220-PG-025)、二次抗体にDonkey anti-Goat IgG(H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 546(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11056)を用いた。フィブロネクチンに対する抗体として、一次抗体にAnti-Fibronectin Antibody, cellular, clone DH1(メルク株式会社、MAB1940)、二次抗体にF(ab')2-Goat anti-Mouse IgG(H+L)Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 488(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11017)を用いた。I型コラーゲンに対する抗体として、細胞シートの染色においてGoat Anti-Type ICollagen-UNLB(Southern Biotechnology Associates Inc.、1310-01)を用い、移植部位の染色においてImmPRESS(商標) Reagent Anti-Goat Ig(Vector Laboratories, Inc.、MP-7405)を用いた。II型コラーゲンに対する抗体として、細胞シートの染色に抗ヒト・コラーゲンII型抗体(協和ファーマケミカル株式会社、F-57)を用いた。上記組織学的分析の手順の詳細は以下のとおりである。
【0075】
(組織学的分析に付される凍結切片の調製方法)
細胞シートがティシュー・テックO.C.T.コンパウンド(4583、サクラファインテックジャパン株式会社)に包埋され、そして、凍結切片が作製された。当該細胞シートの凍結切片は、図1に示されるとおり、温度応答性培養皿に接していた面に対して垂直に薄切された。図1において、矢印の方向が薄切の方向であり、及び、点線が切断面を示す。薄切された切片の厚みは、当該切片を免疫染色に付す場合は20μmであり、及び、免疫染色以外の染色に付す場合は10μmであった。薄切された凍結切片は、スライドガラスに載せられ、4%PFA/PBSで室温10分間固定化処理され以下で述べる染色に付された。
【0076】
(試薬の調製)
組織学的分析に用いられた試薬類は以下の手順で調製された。
ヘマトキシリン水溶液:フラスコにイオン交換水を入れて、沸騰させる。沸騰したイオン交換水にヘマトキシリン(品番:1.15938、製造会社名:MERCK)1.5gを添加し、スターラーでヘマトキシリンを溶解させる。攪拌しながら、溶解液を室温に下げる。当該溶解液に酢酸(017-00256、和光純薬株式会社)を加えてpH3.0に調整する。当該溶解液に、ヨウ素酸ナトリウム(190-02252、和光純薬株式会社)0.3gを加え攪拌し、そして、アンモニウムみょうばん(018-01825、和光純薬)75gを加え攪拌する。撹拌後、イオン交換水を加えて1Lとし、そして、濾過してヘマトキシリン水溶液を得る。
エオシン溶液:ピュアエオシン液(3204-2、武藤化学)30mLと95%エタノール120mLとを混合してエオシン液を作成する。染色において用いるときに時に、当該エオシン液は95%エタノールで5倍希釈して、希釈された溶液がエオシン溶液として用いられる。
ファストグリーン水溶液:ファストグリーン(1A304、CHROMA)80mgをイオン交換水100mLで溶解し、そして、当該溶解液を濾過して、0.08質量%ファストグリーン水溶液を得る。
サフラニンO水溶液:サフラニンO(1B463、CHROMA)100mgをイオン交換水100mLで溶解し0.1質量%サフラニンO水溶液を得る。
クエン酸緩衝液:クエン酸一水和物をイオン交換水で溶解し、0.01Mクエン酸水溶液(以下A液という)を得る。クエン酸三ナトリウム2水和物をイオン交換水で溶解し。0.1Mクエン酸ナトリウム水溶液(以下B液という)を得る。A液95mL及びB液415mLを合わせ攪拌し、そして、1N NaOHでpH6.0に調整して、0.01Mクエン酸緩衝液を得る。
【0077】
(細胞シートのサフラニンO染色)
1.前処理
前記切片の100%エタノールへの10分間の浸漬が1回行われた。
2.水洗処理
上記1.で処理された切片が、水で洗浄された。
3.イオン交換水への浸漬
上記2.の水洗後、当該切片が、イオン交換水に5分間浸漬された。
4.ヘマトキシリン処理
上記3.の浸漬後、当該切片が、前記ヘマトキシリン水溶液中に4~5秒間浸漬された。
5.水洗処理
上記4.の処理後、当該切片が、お湯(50℃)で3~4分間洗浄された。
6.ファストグリーン処理
上記5.の洗浄後、当該切片が、前記0.08質量%ファストグリーン水溶液中に10分間浸漬された。
7.酢酸処理
上記6.の処理後、当該切片が、1体積%酢酸水溶液によって1又は2回処理された。
8.サフラニン処理
上記7.の処理後、当該切片が、前記0.1質量%サフラニンO水溶液中に10分間浸漬された。
9.脱水
上記8.の処理後、当該切片が、エタノール列を用いて脱水された。当該エタノール列は、7つの100体積%エタノールであった。
10.透徹
上記9.の脱水後、当該切片が、キシレン列を用いて透徹された。すなわち、キシレンが入った容器を7つ用意し、当該切片は、各容器中のキシレンに浸漬された。
11.封入
上記10.の透徹後、当該切片を封入した。当該封入において、封入剤としてMalinol(品番:2009-3、会社名:武藤化学株式会社)を用いた。
【0078】
(細胞シートのアグリカン染色)
上記「細胞シートのI型コラーゲン染色」の「10.一次抗体反応」及び「12.二次抗体反応」において用いた試薬を変更した以外は、同じ方法でアグリカン染色が行われた。一次抗体反応において用いた抗体は、Goat anti-human-aggrecan (SC006、R&D、BlockAidTM Blocking Solution(Thermo Fisher Scientific Inc.、Catalog no. B10710)で10 mg/mLに希釈)であった。二次抗体反応において用いた試薬は、Donkey anti-Goat IgG(H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 546(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11056)であった。
【0079】
(細胞シートのフィブロネクチン染色)
上記「細胞シートのI型コラーゲン染色」の「10.一次抗体反応」及び「12.二次抗体反応」において用いた試薬を変更した以外は、同じ方法でアグリカン染色が行われた。一次抗体反応において用いた抗体は、Anti-Fibronectin mIgG (MAB1940、Chemicon、1% Goat Normal Serumで0.2μg/mLに希釈)であった。二次抗体反応において用いた試薬は、F(ab')2-Goat anti-Mouse IgG(H+L)Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 488(Thermo Fisher Scientific Inc.、A-11017)であった。
【0080】
(細胞シートのI型コラーゲン染色)
1.前処理
切片の100%エタノールへの5分間の浸漬が3回行われた。次に、当該切片の70%エタノールへの5分間の浸漬が1回行われた。
2.水洗処理
上記1.で処理された切片が、水で洗浄された。
3.イオン交換水への浸漬
上記2.の水洗後、当該切片が、イオン交換水に5分間浸漬された。
4.抗原賦活化処理
上記3.の浸漬後、当該切片が、前記クエン酸緩衝液中に、98℃で10分間浸漬された。
5.イオン交換水への浸漬
上記4.の処理後、当該切片のイオン交換水への5分間の浸漬が3回行われた。
6.過酸化水素含有メタノール溶液への浸漬
上記5.の浸漬後、当該切片が、過酸化水素含有メタノール溶液(0.3質量%H)中に15分間浸漬された。
7.イオン交換水への浸漬
上記6.の浸漬後、当該切片のイオン交換水への5分間の浸漬が3回行われた。
8.PBS洗浄
上記7.の浸漬後、当該切片の0.01M PBSへの5分間の浸漬が3回行われた。
9.血清によるブロッキング
上記8.の洗浄後、当該切片が、2.5% normal horse serum(VECTOR社のImmPRESS HRP REAGENT KIT Anti-GOAT IgG(#MP-7405)に添付されている血清)中に10分間浸漬された。
10.一次抗体反応
上記9.のブロッキング後、当該切片が、I型コラーゲンに対する抗体(1310-01、SouthernBiotech社、0.01MのPBSによる1:100希釈)を用いた一次抗体反応に2時間付された。
11.PBS洗浄
上記10.の反応後、当該切片の0.01M PBSへの5分間の浸漬が3回行われた。
12.二次抗体反応
上記11.の洗浄後、当該切片が、ImmPRESS Polymer Anti-Goat IgG Reagent (MP-7405、Vector Laboratories)を用いた二次抗体反応に1時間付された。
13.PBS洗浄
上記12.の反応後、当該切片の0.01M PBSへの5分間の浸漬が3回行われた。
14.発色
上記13.の洗浄後、当該切片が、DAB(0.05M Tris-HCl (200ml)、DAB(40 mg)、30% H (34μl))による発色反応に2分間付された。
15.イオン交換水への浸漬
上記14.の発色反応後、当該切片が、イオン交換水に5分間浸漬された。
16.核染色
上記15.の浸漬後、当該切片が、前記ヘマトキシリン水溶液によって2秒間処理された。
17.水洗処理
上記16.の処理後、当該切片が水で洗浄された。
18.脱水、透徹、及び封入
上記「細胞シートのサフラニンO染色」において述べたとおりに、これらの処理が行われた。
【0081】
(細胞シートのII型コラーゲン染色)
上記「細胞シートのI型コラーゲン染色」の「10.一次抗体反応」及び「12.二次抗体反応」において用いた試薬を変更した以外は、同じ方法でII型コラーゲン染色が行われた。一次抗体反応において用いた抗体は、II型コラーゲン1次抗体 (協和ファーマケミカル株式会社、0.01MのPBSにより1:100希釈したもの)であった。二次抗体反応において用いた試薬は、ImmPRESS Polymer Anti-Mouse IgG Reagent(MP-7402、Vector Laboratories社)であった。
【0082】
16匹のメスの日本白色ウサギ(平均3.0kg)が本研究に用いられた。以前に報告されたとおり(Ito, S. et al. Biomaterials 2012.)、骨軟骨欠損が、各ウサギの右膝中の大腿の膝蓋骨の溝中に直径方向5mm、深さ方向3mmで作られ、下骨から骨髄の流出を確認した。そして、各ウサギは無作為に処置グループに割り当てられた(各群についてn=4)。グループA、B、及びCは、1つの膝当たり1つのPDCシートの移植を受け、グループDは、処置を受けなかった。ウサギは、タクロリムス(アステラス製薬株式会社)により4週間免疫抑制され、そして、移植後4週目で犠牲にされた。軟骨修復が、染色(ヘマトキシリン及びエオシン、サフラニンO)及び免疫染色(I型コラーゲン、II型コラーゲン、及びヒト特異的ビメンチン)によって組織学的に評価された。サフラニンOにより染色された切片が、2人の熟練の整形外科医によって、国際軟骨修復学会(International Cartilage Repair Society、ICRS) の修正版グレーディングシステム(最大で45点)を用いて点数付けされた。切片はまた、全修復組織内及びヒト由来の組織を有する領域内におけるI型コラーゲン及びII型コラーゲンの発現について、100点のスケールを用いてグレード分けされた。Turkey’s事後検定による一元配置分散分析が、グループ間の点数の比較のために用いられた。これら評価に付された切片の調製方法及び染色方法の手順は以下のとおりである。
【0083】
(切片の調製方法)
軟骨部分が固定化され、そして、パラフィン中に包埋された。固定化は、20%ホルマリンに浸漬することにより行われた。包埋は、包埋剤としてヒストプレップ586(415-25791、和光純薬株式会社)を用い且つエンベディングコンソールシステム(Tissue-Tek、サクラファインテックジャパン株式会)により行われた。包埋された試料を立位の状態としたときに垂直方向に薄切された。薄切された切片の厚みは、当該切片を免疫染色に付す場合は20μmであり、及び、免疫染色以外の染色に付す場合は10μmであった。薄切された切片は、スライドガラスに載せられ、以下で述べる染色に付された。
【0084】
(軟骨のヘマトキシリン及びエオシン染色)
1.脱パラフィン処理
切片のキシレンへの5分間の浸漬が3回行われた。次に、当該切片の100%エタノールへの5分間の浸漬が3回行われた。次に、当該切片の70%エタノールへの5分間の浸漬が1回行われた。
2.水洗処理
上記1.の処理後、当該切片が水で洗浄された。
3.イオン交換水への浸漬
上記2.の水洗後、当該切片がイオン交換水に5分間浸漬された。
4.ヘマトキシリン処理
上記3.の浸漬後、当該切片が、前記ヘマトキシリン水溶液中に3~4分間浸漬された。
5.水洗処理
上記4.の処理後、当該切片が、お湯(50℃)で3~4分間洗浄された。
6.エオシン処理
上記5.の洗浄後、当該切片が、前記エオシン溶液中に10分間浸漬された。
7.脱水、透徹、及び封入
上記「細胞シートのサフラニンO染色」において述べたとおりに、これらの処理が行われた。
【0085】
(軟骨のサフラニンO染色)
上記「細胞シートのサフラニンO染色」における「1.前処理」の代わりに上記「軟骨のヘマトキシリン及びエオシン染色」で述べた「1.脱パラフィン処理」が行われたこと以外は、上記「細胞シートのサフラニンO染色」と同じ方法で染色が行われた。
【0086】
(軟骨のI型コラーゲン染色)
上記「細胞シートのI型コラーゲン染色」における「1.前処理」の代わりに上記「軟骨のヘマトキシリン及びエオシン染色」で述べた「1.脱パラフィン処理」が行われたこと以外は、上記「細胞シートのI型コラーゲン染色」と同じ方法で染色が行われた。
【0087】
(軟骨のII型コラーゲン染色)
上記「細胞シートのII型コラーゲン染色」における「1.前処理」の代わりに上記「軟骨のヘマトキシリン及びエオシン染色」で述べた「1.脱パラフィン処理」が行われたこと以外は、上記「細胞シートのII型コラーゲン染色」と同じ方法で染色が行われた。
【0088】
(軟骨のhVimentin染色)
1.脱パラフィン処理
上記「ヘマトキシリン及びエオシン染色」で述べたとおりに、脱パラフィン処理が行われた。
2.水洗処理
上記1.の脱パラフィン処理後、当該切片が水で洗浄された。
3.イオン交換水への浸漬
上記2.の水洗後、当該切片が、イオン交換水に5分間浸漬された。
4.抗原賦活化
上記3.の浸漬後、当該切片が、前記クエン酸緩衝液中に、98℃で10分間浸漬された。
5.冷却
上記4.の処理後、当該切片が、実験台で30分間冷却された。
6.血清によるブロッキング
上記5.の冷却後、当該切片が、5%のnormal goat serum(品番:D204-00-0100、会社名:ROCKLAND)を含む0.01M PBS(0.2%のTweenを含む)により1時間処理された。
7.抗体反応
上記6.のブロッキング後、当該切片が、anti-human Vimentin抗体Alexa Fluor 647 Conjugate (#9856、CST社、0.01MのPBSで1:100 希釈)を用いた抗体反応に4℃で16時間付された。
8.PBS洗浄
上記7.の反応後、当該切片の0.01M PBSへの5分間の浸漬が3回行われた。
9.封入
上記8.の洗浄後、当該切片が、VECTASHIELD HardSet Antifade Mounting Medium with DAPI(Vector Laboratories社)を用いて封入された。
【0089】
(結果)
【0090】
異なる培養条件下で作られたPDCシートのインビトロでの特徴が、以下表1にまとめられる。
【0091】
【表1】
【0092】
表1に示されるとおり、1シート当たりの細胞数は、Aにおいて、B(p<0.01)又はC (p<0.01)におけるよりも有意に高かった。TGFβ1産生は、3つのグループ全ての間で有意に異なっており(A vs. B, p<0.05; Avs. C, p<0.01; B vs. C, p<0.01)、及び、Cにおいて最も高く且つBにおいて最も低かった。MIA産生は、Aにおいて、B(p<0.01)又はC(p<0.05)におけるよりも有意に高かった。シートの厚みは、Cにおいて、A(p<0.01)又はB(p<0.01)におけるよりも有意に大きかった。全てのグループが、アグリカン、フィブロネクチン、及びI型コラーゲンについて染色され、及び、サフラニンO又はII型コラーゲンについて染色されなかった。
【0093】
移植後4週目での修復組織の組織学的評価が以下表2及び図2にまとめられる。
【0094】
【表2】
【0095】
表2に示されるとおり、ICRSスコアは、A、B、及びCにおいて、Dにおけるよりも有意に高かった(A又はC vs. D, p<0.01; Bvs. D, p<0.05)。ヒト組織中でのII型コラーゲンは、Aにおいて、B(p<0.05)又はC (p<0.01)におけるよりも、有意に高かった。ヒト組織中におけるII型コラーゲン対I型コラーゲンの比は、Aにおいて、C(p<0.05)におけるよりも有意に高かった。
【0096】
以上の結果から分かるとおり、軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された細胞シートであって、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示す前記細胞シートが、軟骨修復作用を有する。
【0097】
なお、本発明は以下も提供する。
[1]軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートであって、
前記細胞シートは2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陰性を示すものである、前記細胞シート。
[2]1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものである、[1]に記載の細胞シート。
[3]サフラニンO染色に対して陰性を示すものである、[1]又は[2]に記載の細胞シート。
[4]アグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すものである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の細胞シート。
[5]前記細胞が、多指症の動物の軟骨組織に由来するものである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の細胞シート。
[6]前記細胞が、間葉系幹細胞を含むものである、[1]~[5]のいずれか一つに記載の細胞シート。
[7]軟骨組織由来の細胞の培養物から形成された軟骨修復用細胞シートの製造方法であって、
前記方法は、温度応答性ポリマーが固定化された面を有する膜の当該面上で、軟骨組織由来の細胞を培養して前記細胞シートを得ることを含み、
前記培養は、前記細胞シートが、2型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す前に終了される、
前記製造方法。
[8]前記細胞シートが、前記培養終了時に1型コラーゲンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示す、[7]に記載の製造方法。
[9]前記培養は、前記細胞シートがアグリカンに対する抗体を用いた免疫染色において陽性を示すまで継続される、[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10]前記培養は、サフラニンO染色に対して陽性を示す前に終了される、[7]~[9]のいずれか一つに記載の製造方法。
[11]前記面上の前記ポリマーの固定化量が0.3~5.0μg/cmである、[7]~[10]のいずれか一つに記載の製造方法。
[12]前記膜が多孔膜であり、
前記培養において、前記細胞は、前記多孔膜の上側の培地と接し、且つ、前記多孔膜の下側の培地と前記多孔膜の孔を介して接している、[7]~[11]のいずれか一つに記載の製造方法。
[13]前記培養が、セルカルチャーインサートを用いて行われる、[7]~[12]のいずれか一つに記載の製造方法。
図1
図2