(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】3次元樹脂成形回路部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/18 20060101AFI20220415BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20220415BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20220415BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
H05K3/18 K
H05K1/02 B
H05K3/38 A
H05K3/00 A
(21)【出願番号】P 2017252216
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】594183299
【氏名又は名称】株式会社松尾製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】516167967
【氏名又は名称】株式会社IMUZAK
(73)【特許権者】
【識別番号】516035471
【氏名又は名称】株式会社IBUKI
(73)【特許権者】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】関冨 勇治
(72)【発明者】
【氏名】竹内 邦人
(72)【発明者】
【氏名】澤村 一実
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 剛
(72)【発明者】
【氏名】清水 信哉
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0180773(US,A1)
【文献】特開2010-239259(JP,A)
【文献】実開平6-2822(JP,U)
【文献】特開昭54-75074(JP,A)
【文献】特開昭61-79292(JP,A)
【文献】特開平6-216500(JP,A)
【文献】特開平10-12995(JP,A)
【文献】特開2015-175038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0119251(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0091818(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の表面に導体回路パターンが形成されている3次元樹脂成形回路部品の製造方法であって、
凸部と凹部を組み合わせてなる凹凸構造によって親水性を発揮する親水性領域を前記樹脂成形体の表面に形成する工程であって、前記親水性領域となる前記凹凸構造を反転させた断面形状の凹凸構造からなる親水性領域転写部が、前記導体回路パターンに対応するパターンで型面に形成されてなる金型を用いて樹脂成形を行い、前記親水性領域転写部を転写させて前記親水性領域を表面に有する前記樹脂成形体を得る工程と、
得られた前記樹脂成形体の前記親水性領域に、無電解めっき時に触媒核として作用する金属粒子を含む金属粒子分散液を接触させ、前記親水性領域に前記金属粒子を含む導電性下地層を形成する工程と、
前記導電性下地層に導電金属の無電解めっき処理を施して、前記導電性下地層に前記導電金属からなる金属めっき層を積層する工程と
を含み、
前記親水性領域上に、前記導電性下地層と前記金属めっき層とからなる導体回路パターンを形成することを特徴とする3次元樹脂成形回路部品の製造方法。
【請求項2】
凸部と凹部を組み合わせてなる凹凸構造によって撥水性を発揮する撥水性領域を前記樹脂成形体の表面に形成するため、前記金型として、前記親水性領域転写部を除いた型面の少なくとも一部に、前記撥水性領域となる前記凹凸構造を反転させた断面形状の凹凸構造からなる撥水性領域転写部が形成されているものを用い、前記親水性領域を除いた前記樹脂成形体の表面の少なくとも一部を前記撥水性領域とする請求項1記載の3次元樹脂成形回路部品の製造方法。
【請求項3】
前記金属粒子分散液を接触させる処理が、前記樹脂成形体を前記金属粒子分散液へ浸漬する処理、又は前記導電性分散液を前記親水性領域へ塗布する処理である請求項1又は2記載の3次元樹脂成形回路部品の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬処理後又は前記塗布処理後に、更に乾燥処理又は焼成処理を行う請求項3記載の3次元樹脂成形回路部品の製造方法。
【請求項5】
前記金属粒子が金属ナノ粒子である請求項1~4のいずれか1に記載の3次元樹脂成形回路部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元構造の樹脂成形体に導体回路パターンが一体的に形成されている3次元樹脂成形回路部品、その製造方法及びめっき用中間部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、携帯電話、スマートフォン、自動車の電装部品など各種の電気・電子機器に組み込む構成部品として、例えば金型を用いた射出成形によって所望形状の立体構造からなる樹脂成形体を成形し、その表面に、直接、所望パターンの導体回路を形成したMID(Molded Interconnect Device)と呼ばれる部品(3次元樹脂成形回路部品)が知られている。
【0003】
この3次元樹脂成形回路部品は、構成部品(基材)としての樹脂成形体の表面に所望の導体回路パターンが形成されているので、これを組み込んだ電気・電子機器は、構成部品とは別にその駆動用のプリント回路基板などを組み込まなければなければならない一般的な電気・電子機器の場合に比べ、小型化(省スペース化)、薄型化、軽量化、そして多機能化を図ることができる。
【0004】
樹脂成形体の表面に、直接、導体回路パターンを形成する方法としては様々な方法が知られている。例えば、特許文献1では、樹脂成形品の表面全体に無電解めっき、スパッタリング、真空蒸着などの方法で金属薄膜を形成し、ついでその金属薄膜にレーザー光を照射して、目的とする導体回路パターンの部分は残し、残りの金属薄膜は全て除去して導体回路パターンを形成し、更にその導体回路パターンに例えば銅の電解めっきを行って所望する厚みの導体回路にする方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、樹脂成形品の表面を例えば化学エッチングして凹凸構造の粗化面とし、その粗化面のうち目的とする導体回路パターンに対応する部位以外の表面にめっきレジストを塗布(マスキング)し、しかる後、表出している導体回路パターンに対応する部位の凹凸構造に化学(無電解)めっき時の触媒核となる金属を含む触媒液を塗布して当該触媒核を被着させ、そこに例えば銅の無電解めっきを行って所望する厚みの導体回路にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6―164105号公報
【文献】特開平8―288621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した先行技術には次のような問題がある。
特許文献1では、目的とする回路部品の製造に際して、少なくとも樹脂成形工程と、得られた樹脂成形品の一つ一つに対して行うレーザー加工工程と、無電解めっき工程という3工程が必要となる。言い換えれば、特許文献1の場合、高価なレーザー照射装置とその複雑な操作が必要となって製造コストは高くなり、製造時間も長くなり、また回路部品は単品生産となるので大量生産には向いていないという問題がある。
【0008】
特許文献2の場合、樹脂成形工程で得た樹脂成形品の一つ一つに対して、少なくとも、それぞれの表面全体を粗化面にするエッチング工程、目的とする導体回路パターンに対応する部位以外の表面にめっきレジストを塗布する工程、導体回路パターンに対応する部位に行う無電解めっき工程、そして最後に塗布しためっきレジストを除去する工程という5工程が必要となる。この場合も、特許文献1に開示の技術と同じように、製造工程は複雑であり、回路部品の製造コストは高くなり、製造時間も長くなり、回路部品の大量生産には向いていないという問題がある。
【0009】
また、特許文献1,2に開示の製造方法はいずれも、樹脂成形品の表面のうち比較的平坦な外側表面に対しては適用可能であるが、外側表面であっても深い凹部になっている表面部分や、また樹脂成形品の一方の外側表面から他方の外側表面に向かって樹脂成形品の内部を貫通するスルーホールの内側表面に目的とする導体回路パターンを形成することは事実上不可能であるという問題がある。そのため、樹脂成形して得られた樹脂成形体の表面において、導体回路パターンを形成する箇所は制約を受けることになる。
【0010】
本発明は上記した先行技術の問題を解消し、導体回路パターンを各樹脂成形品に個別に形成するためのレーザー照射工程、マスキングやエッチング処理工程などの専用の工程や設備を不要とし、導体回路パターンの形成を複数個の樹脂成形体に同時に又は連続して行うことができ、製造時間や製造コストの低減を図ることができると共に、樹脂成形体の深い凹部やスルーホールの各表面にも導体回路パターンを形成することができ、さらには、導体回路パターンの位置精度のばらつきも少なくすることができる3次元樹脂成形回路部品、その製造方法、及びめっき用中間部品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明の3次元樹脂成形回路部品は、樹脂成形体の表面に導体回路パターンが形成されている3次元樹脂成形回路部品であって、前記樹脂成形体の表面に、前記導体回路パターンに対応するパターンで形成された凹凸構造からなる親水性領域を有し、前記導体回路パターンが、前記親水性領域を被覆してなり、かつ無電解めっき時に触媒核として作用する金属粒子を含む導電性下地層と、前記導電性下地層に積層された金属めっき層とを有していること特徴とする。
【0012】
前記親水性領域を除いた前記樹脂成形体の表面の少なくとも一部が、凹凸構造からなる撥水性領域になっていることが好ましい。
前記金属粒子が金属ナノ粒子であることが好ましく、さらには、前記金属粒子が銀ナノ粒子であり、前記金属めっき層が銅めっき層であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の3次元樹脂成形回路部品の製造方法は、樹脂成形体の表面に導体回路パターンが形成されている3次元樹脂成形回路部品の製造方法であって、凹凸構造からなる親水性領域転写部が、前記導体回路パターンに対応するパターンで型面に形成されてなる金型を用いて樹脂成形を行い、前記親水性領域転写部が転写された、凹凸構造からなる親水性領域を表面に有する樹脂成形体を得る工程と、得られた樹脂成形体の前記親水性領域に、無電解めっき時に触媒核として作用する金属粒子を含む金属粒子分散液を接触させ、前記親水性領域に前記金属粒子を含む導電性下地層を形成する工程と、前記導電性下地層に導電金属の無電解めっき処理を施して、前記導電性下地層に前記導電金属からなる金属めっき層を積層する工程とを含み、前記親水性領域上に、前記導電性下地層と前記金属めっき層とからなる導体回路パターンを形成することを特徴とする。
【0014】
前記金型として、前記親水性領域転写部を除いた型面の少なくとも一部に、凹凸構造からなる撥水性領域転写部が形成されているものを用い、前記親水性領域を除いた前記樹脂成形体の表面の少なくとも一部を、凹凸構造からなる撥水性領域とするものを用いることが好ましい。
前記金属粒子分散液を接触させる処理が、前記樹脂成形体を前記金属粒子分散液へ浸漬する処理、又は前記導電性分散液を前記親水性領域へ塗布する処理であることが好ましく、前記浸漬処理後又は前記塗布処理後に、更に乾燥処理又は焼成処理を行うことが好ましい。また、前記金属粒子として金属ナノ粒子を用いることが好ましい。
【0015】
また、本発明のめっき用中間部品は、めっき処理によって表面に導体回路パターンが形成された3次元樹脂成形回路部品を製造するための樹脂成形体からなるめっき用中間部品であって、前記樹脂成形体の表面に、前記導体回路パターンに対応するパターンで形成された凹凸構造からなる親水性領域と、前記親水性領域を除いた表面の少なくとも一部に形成された凹凸構造からなる撥水性領域とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の3次元樹脂成形回路部品は、基材である樹脂成形体に、目的とする導体回路パターンに対応するパターンの親水性領域が形成されている。そのため、この樹脂成形体を、触媒核として作用する金属粒子を含む金属粒子分散液と接触させるだけで、親水性領域に金属粒子からなる導電性下地層を形成することができる。したがって、導電性下地層とその上に形成される金属めっき層からなる導体回路パターンは、従来のように、レーザー加工、マスキング処理、エッチング処理など特別の処理を行うことなく形成することができる。
【0017】
また、樹脂成形体の表面に形成される親水性領域は、その表面を凹凸構造とすることによって親水性が付与された領域になっているので、それに対応する金型の型面の部位に親水性を発揮する凹凸構造の親水性領域転写部を形成しておくことにより、目的とする樹脂成形体を成形すると同時に、当該樹脂成形体の表面に親水性領域を形成することができる。
したがって、樹脂成形体に用いる樹脂材料は成形可能な材料であれば何であってもよく、材料コストや全体の製造コストも低減する。
【0018】
また、金型側に親水性を発揮する凹凸構造の親水性領域転写部を形成するだけでよいのであるから、樹脂成形体の一つ一つに対して個別に導体回路パターンの加工を行わなくてもよく、製造工程は簡略化され、製造コストや製造時間の大幅な低減に寄与する。
また、樹脂成形だけで親水性領域を形成できるので、樹脂成形体の凹部表面やスルーホールの内側の表面(内面)にも目的とする導体回路パターンを形成することができる。
【0019】
また、樹脂成形体の表面には、親水性領域のほかに同じく凹凸構造からなる撥水性領域を形成すると、導電性下地層を形成する際に使用する金属粒子分散液が親水性領域以外に留まることをより確実に抑制でき、得られる導体回路パターンの位置精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係る3次元樹脂成形回路部品を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面拡大図である。
【
図4】
図4は、親水性領域を形成する凹凸構造の一例を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、金型の一例を模式的に示した図であり、(a)は一方側から見た断面模式図、(b)は(a)と直交する方向から見た断面模式図である。
【
図6】
図6は、
図5の金型で成形された樹脂成形体の断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の他の実施形態に係る3次元樹脂成形回路部品を示す図であり、(a)は上側表面から見た斜視図であり、(b)は裏側表面から見た斜視図であり、(c)は(b)のA矢視図である。
【
図8】
図8は、
図7のVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図9】
図9は、撥水性領域を形成する凹凸構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を用いて本発明の一の実施形態を説明する。
図1は本実施形態に係る3次元樹脂成形回路部品Aを示す斜視図であり、
図2は
図1のII-II線に沿う断面図であり、
図3は
図2のIII-III線に沿う断面の一部切り欠き拡大図である。
【0022】
図1及び
図2において、3次元樹脂成形回路部品Aには、基材である樹脂成形体1の上側表面1aから下側表面1bに向かって貫通するスルーホール2が形成されている。樹脂成形体1の上側表面1a、下側表面1b、側面1c、1dには所望するパターンで導体回路パターン3が形成され、またスルーホール2の内面2aにも導体回路パターン3が形成されている。
【0023】
図3は、樹脂成形体1の表面とそこに形成された導体回路パターン3との一体的な結合構造を示す断面図であり、導体回路パターン3が形成されている樹脂成形体1の表面(図では上側表面1aの一部表面)には、親水性領域4が形成されている。この親水性領域4は、凸部4aと凹部4bを組み合わせた凹凸構造4Aから構成される。親水性機能を備えた凹凸構造4Aの構成は何ら限定されるものではなく、凸部4aや凹部4bの形状(畝状、多角形、円形等)、凸部4aの凹部4bからの立ち上げ角度、凸部4aの高さ(凹部4bの深さと同じ)、凸部4aの幅、凸部4aと凹部4bのピッチ間隔(凹部4bの溝幅)を適切に設定することにより、水滴の接触角が90度未満となる親水性を発揮する面として形成することができる。
【0024】
本実施形態の親水性領域4を形成する凹凸構造4Aは、
図4に示したように、導体回路パターン3の配線方向(X方向)に沿って断面矩形の畝状に延びる複数の凸部4aが導体回路パターン3の線幅方向(Y方向)に配列され、凹部4bが凸部4aに沿って溝状に延びる構造になっている。例えば、
図4の例において、凹部4bの断面方向の幅を20~35μm、凸部4aの断面方向のピッチ(隣接する凸部4aの幅中心間の距離)を40~60μm、凸部4aの高さ(凹部4bの深さ)を30~50μmに設定することにより、樹脂成形体1の表面のうち、この凹凸構造4Aが形成されている表面だけを親水性領域4とすることができる。
【0025】
また、凸部4a及び凹部4bの各表面をさらに幅方向に沿って上記よりも各寸法が1/5~1/10程度の細かな凹凸構造とすることにより、親水性をより高めることもできる。このほか、例えば、実用新案登録第3188769号に示されているように、種々の形状、寸法の凸部4aや凹部4bにより親水性領域4を形成することができる。
【0026】
このような凹凸構造4Aからなる親水性領域4は、後述する樹脂成形工程において、金型を用いた樹脂成形時に樹脂成形体1を成形すると同時にその表面に形成される。この凹凸構造4Aからなる親水性領域4の表面は、導電性下地層5により被覆されている。
【0027】
導電性下地層5は、後述する金属めっき積層工程で導電金属の無電解めっきを行うときに触媒核として作用する金属粒子、好ましくはnmオーダーの金属粒子(金属ナノ粒子)が付着して形成された薄い導電性の被覆層になっている。
【0028】
導電性下地層5に用いられる金属粒子(好ましくは金属ナノ粒子)を構成する金属としては、例えば、銀、金、銅、パラジウム、ニッケルなどをあげることができ、それらの一種又は二種以上を含んでいてもよい。但し、導電性の点から金、銀、銅が好ましく、銅より酸化しにくく、金より安価であることから銀(好ましくは銀ナノ粒子)がより好ましい。
【0029】
この導電性下地層5に金属めっき層6が積層され、導体回路パターン3が形成されている。具体的には導電性下地層5に導電金属の無電解めっき処理を行って当該導電金属をめっき析出させ、凹凸構造4Aの全体を埋設した状態で形成されている。導電金属としては、銅、ニッケル、銀、金などをあげることができるが、導電性、経済性などの点から銅であることが好ましい。なお、金属めっき層6の形成に際しては、上記した無電解めっき処理に続けて、更に通常の電解めっきを施すこともできる。
【0030】
次に、3次元樹脂成形回路部品Aの製造方法を図面に則して説明する。
(樹脂成形工程)
この工程では、樹脂成形体1を成形すると同時に、その表面に目的とする導体回路パターン3に対応したパターンの凹凸構造4A(親水性領域4)を形成する。この凹凸構造4Aのパターンは金型を用いた樹脂成形(例えば射出成形)によって成形した樹脂成形体1の表面に一体に形成される。
【0031】
まず、
図5(a),(b)で示した金型7を用意する。この金型7は、上型7Aと下型7Bとが組み合わさることにより所定形状の樹脂成形体1を形成するが、この例では、樹脂成形体1のスルーホール2を形成するための突出部7aが上型7Aに、下型7B方向に突出するように形成されている。
【0032】
上型7Aと下型7Bの型面(両者の対向する内面)のうち、樹脂成形体1の表面に形成される親水性領域4となる凹凸構造4Aに対応する部位には、当該凹凸構造4Aと同じパターンで、当該凹凸構造4Aを反転させた断面形状の凹凸構造からなる親水性領域転写部71が形成されている。このため、樹脂成形体1の表面には、成形時に、親水性領域転写部71が転写され、凹凸構造4Aが形成される。樹脂成形体1の凹凸構造4Aを親水性領域4として機能させるため、親水性領域転写部71は、
図4に示した凹凸構造4の凸部4a、凹部4bと全く同様の条件の凸部71aと凹部71bを備えている。なお、親水性領域転写部71として、
図4に示したものと同様の微細な凸部71aと凹部71bとを有する凹凸構造を、金型7の型面(内面)に形成するに当たっては、レーザー加工、切削加工、研削加工、半導体プロセス加工などを用いた超微細加工方法によって形成することができる。
【0033】
次に、この金型7を用いて樹脂材料を射出する。これにより、突出部7aに対応する位置にスルーホール2を備えた樹脂成形体1が形成される。このとき、樹脂成形体1の成形と同時に、上型7Aと下型7Bの型面に形成されている親水性領域転写部71が転写されるため、当該親水性領域転写部71の凸部71aに対応する位置の樹脂成形体1の表面に凹部4bが形成され、当該親水性領域転写部71の凹部71bに対応する位置の樹脂成形体1の表面に凸部4aが形成される。親水性領域転写部71の凸部71a及び凹部71bの形状、寸法等は、
図4に示したとおりであるため、それと同様の形状、寸法等の凹部4b及び凸部4aを備えた微細な凹凸構造4が樹脂成形体1の表面に形成される。このようにして、表面に、目的とする導体回路パターン3に対応するパターンの凹凸構造4Aからなる親水性領域4が形成された樹脂成形体1が製造される(
図6参照)。
【0034】
本実施形態では、樹脂成形工程で樹脂成形と同時に形成した親水性領域4に後述するように導電性下地層5及び金属めっき層6を形成し、樹脂成形体1の一つ一つにレーザー加工等を行う必要がないため、ここで用いる樹脂は、レーザー加工等に対応した特殊な樹脂である必要はなく、金型成形が可能な樹脂であれば格別限定されるものではない。例えば、PPS、PBT、PA、POM、PP、ABSのような汎用樹脂を用いることができる。
【0035】
(導電性下地層形成工程)
この工程では、樹脂成形工程で製造された樹脂成形体1の親水性領域4の表面に導電性下地層5を形成する。
そのために、
図6で示した樹脂成形体1の表面に転写されてなる凹凸構造4Aからなる親水性領域4に、次工程で導電金属の無電解めっき処理を行ったときに当該導電金属を析出させるための触媒核として作用するnmオーダーの金属粒子を含有する金属粒子分散液を接触させる。
【0036】
両者を接触させる処理としては、金属粒子分散液の中に樹脂成形体1を浸漬する処理、又は、金属粒子分散液を例えばインクジェットプリンターやピペットなどを用いて塗布する処理などが好適である。とくに浸漬する処理は 特別の器具を用いることも必要としないという点で好適である。
【0037】
凹凸構造4Aが親水性領域4になっているため、上記した処理を施すことにより、金属粒子分散液は親和性の高い当該凹凸構造4A(親水性領域4)を濡らし、当該凹凸構造4A(親水性領域4)の表面を被覆する一方で、樹脂成形体1の表面のうち、親水性領域4以外の部位には、親和性が低く付着しにくい。凹凸構造4Aからなる親水性領域4が、上記のように導体回路パターン3に対応したパターンで形成されるため、このように、例えば浸漬処理するだけで、金属粒子分散液が導体回路パターン3に従ったパターンで樹脂成形体1の表面に付着することになる。
【0038】
次に、樹脂成形体1に対して、温風やオーブンなどを用いて乾燥し、さらに、好ましくは、100~300℃で温度で、10~120分間焼成し、金属粒子分散液の分散媒を蒸発除去することが好ましい。このような処理を施すことにより、凹凸構造4A(親水性領域4)の表面に金属粒子(金属ナノ粒子)が当該表面を100nm~20μm程度の厚みで薄膜状に被覆して残り、触媒核として有効に作用する導電性下地層5となる。
【0039】
なお、金属粒子分散液としては、粒径1~500nm、好ましくは10~100nmの金属粒子が、水などの分散媒に質量比で5%~60%、より好ましくは10%~30%濃度で分散してなるものが用いられる。
【0040】
また金属粒子としては、上記のように銀ナノ粒子、金ナノ粒子などをあげることができる。これらのうち、触媒核としての機能や入手が比較的容易であるという点からして、銀ナノ粒子が好適である。銀ナノ粒子を含有する金属粒子分散液としては、例えば銀ナノ粒子インクをあげることができる。
【0041】
(金属めっき積層工程)
この工程では、凹凸構造4Aからなる親水性領域4を被覆する上記した導電性下地層5に導電金属の無電解めっきを行って、当該導電性下地層5の上に導電金属のめっき層を形成する。すなわち、導電性下地層5を有する樹脂成形体1を、そのまま、導電金属の無電解めっき液に浸漬する。導電性下地層5を構成する金属粒子が触媒核として作用するので、その上に、当該導電金属が析出する。その後、必要に応じて、電解めっきを行い金属めっき層6を形成する(
図3参照)。この際、導電性下地層5は、予め導体回路パターン3に対応するように形成された凹凸構造4A(親水性領域4)上に形成されており、導電性下地層5上に積層される金属めっき層6もそのパターンで形成されることになる。ここに、樹脂成形体1の表面に、導電性下地層5と金属めっき層6が積層されてなる所定の導体回路パターン3が形成された3次元樹脂成形回路部品Aが得られる(
図1参照)。
【0042】
金属めっき積層工程で用いる導電金属としては、例えば銅、ニッケル、銀、金などをあげることができ、導電性等に優れていることからして銅を用いることが好ましいことは上記のとおりである。
【0043】
なお、金属めっき積層工程後に、形成された導体回路パターン3に対して例えば温度100~300℃、圧力50Pa程度かそれ以上の熱圧着処理を施すと、凹凸構造4A、導電性下地層5、金属めっき層6間の相互密着力が高まるので好適である。
【0044】
次に、本発明の他の実施形態を
図7~
図9に基づき説明する。上記実施形態の3次元樹脂成形回路部品Aは、樹脂成形体1の表面に、導体回路パターン3に対応したパターンで形成された親水性領域4を形成しただけであったが、本実施形態の3次元樹脂成形回路部品Bでは、親水性領域4を除いた表面における少なくとも一部に凹凸構造40Aからなる撥水性領域40を形成した構造である(
図8及び
図9参照)。撥水性領域40は、特に、親水性領域4との境界部10付近に形成されていることが好ましい。上記のように、親水性領域4は樹脂成形体1の成形時に形成され、その後、金属粒子分散液に浸漬や塗布するだけで親水性領域4に導電性下地層5が付着されるが、少なくとも親水性領域4の隣接部(境界部10)付近を撥水性領域40とすることにより、金属粒子分散液が撥水性領域40には付着せず、親水性領域4にだけ選択的に形成され、その後に形成される金属めっき層6の線幅のばらつきが小さくなり、導体回路パターン3の位置精度が高くなる。
【0045】
したがって、導電性下地層形成工程及び金属めっき積層工程の前の段階で成形されためっき用中間部品である樹脂成形体1としては、本実施形態のように、導体回路パターン3に対応するパターンで形成された凹凸構造4Aからなる親水性領域4と、親水性領域4を除いた表面の少なくとも一部、好ましくは少なくとも親水性領域4の隣接部(境界部10)付近に形成された凹凸構造40Aからなる撥水性領域40とを備えている構成であることが望ましい。
【0046】
撥水性領域40は、親水性領域4と同様に、型7の型面(内面)における親水性領域転写部71以外の少なくとも一部、好ましくは、少なくとも親水性領域転写部71の隣接部(例えば、
図5において符号75で示した部位)に撥水性領域転写部(図示せず)を形成することで、樹脂成形体1を成形すると同時に、その表面に目的とする導体回路パターン3に対応したパターンの親水性領域4と共に、凹凸構造40Aからなる撥水性領域40を形成することができる。
【0047】
例えば、本実施形態の撥水性領域40は、
図9に示したような凹凸構造40Aから形成される。凹凸構造40Aの形状、寸法等を適切に設定することにより、水滴との接触角が90度以上となる撥水性を発揮させることができる。例えば、
図9では、凹凸構造40Aを、凸部40aと凹部40bがX方向とY方向に互いに格子模様で配列された構造とし、凹部40bの断面方向の幅を10μm以下、凸部40aの断面方向のピッチ(隣接する凸部40aの幅中心間の距離)を20μm以下、凸部40aの高さ(凹部40bの深さ)を20~50μmに設定して撥水性を付与している。また、凹部40bの断面形状は略矩形又は略V字形とすることが好ましい。撥水性をより高める場合、凸部40aの表面にこれらの1/5~1/10程度の寸法のより微細な凹凸構造を形成することで達成することができる。このほか、例えば、実用新案登録第3188770号に示されているように、種々の形状、寸法の凸部40aや凹部40bにより撥水性領域40を形成することができる。
【0048】
なお、このような撥水性領域40を形成するために型7に形成される上記の撥水性転写部は、
図9に示した凹凸構造40Aを反転させた微細な凹凸構造から形成されることは、上記実施形態で説明した親水性領域4の凹凸構造4Aと親水性領域転写部71の凹凸構造との関係と同様である。
【0049】
また、本実施形態の3次元樹脂成形回路部品Bは、
図7(a),(b)に示したように、断面凹状に形成され、導体回路パターン3を、樹脂成形体1の上側表面1aからスルーホール2を介して裏側表面1eに至るまで形成している。また、裏側表面1eの角部には、
図7(c)に示したように窪み部1fが形成されており、その内表面にも導体回路パターン3が形成されている。本実施形態においても、樹脂成形時に親水性領域4を一体形成する構成であるため、スルーホール2やこのような窪み部1f等、従来、導体回路の形成が困難であった部位にも容易に導体回路パターン3を形成することができる。なお、
図7においては、上側表面1aに形成した導体回路パターン3をアンテナ回路3aとし、裏側表面1eに沿った導体回路パターン3に、LED、ダイオード、抵抗等の電子回路部品3bを実装した例を示している。
【0050】
上記各実施形態によれば、樹脂成形時に、めっき中間体としての樹脂成形体1の表面に、凹凸構造4Aからなる親水性領域4を、導体回路パターン3に対応したパターンで一体的に形成している。そのため、金属めっき層6を積層するために必要な導電性下地層5を、所定の金属粒子分散液に樹脂成形体1を接触するだけで導体回路パターン3と同じパターンで形成することができる。したがって、従来のように所定パターンの導体回路を得るための加工工程の中で、レーザー等により樹脂成形体の表面を一つずつ加工したりする必要がなく、複数個同時の加工や連続的加工が可能であり、大量生産に適し、製造工程の簡略化、製造コストの低減に寄与できる。しかも、深い凹部やスルーホール等、様々な部位への回路形成が可能となり、応用範囲の広い3次元樹脂成形回路部品を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
A,B 3次元樹脂成形回路部品
1 樹脂成形体
1a 樹脂成形体1の上側表面
1b 樹脂成形体1の下側表面
1c,1d 樹脂成形体1の側面
1f 窪み部
2 スルーホール
2a スルーホール2の内面
3 導体回路パターン
4 親水性領域
4A 凹凸構造(親水性領域)
4a 凸部
4b 凹部
40 撥水性領域
40A 凹凸構造(撥水性領域)
40a 凸部
40b 凹部
5 導電性下地層(金属粒子の被覆層)
6 金属めっき層
7 金型
7A 金型7の上型
7a 突出部
7B 金型7の下型
71 親水性領域転写部
71a 凸部
71b 凹部