(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/50 20180101AFI20220415BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20220415BHJP
G06T 13/40 20110101ALI20220415BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
G16H50/50
G06F3/01 510
G06F3/01 560
G06T13/40
G09B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020177224
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501435901
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・ビズリンク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】矢部 幸保
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏明
(72)【発明者】
【氏名】小泉 憲裕
(72)【発明者】
【氏名】重成 佑香
(72)【発明者】
【氏名】小路 直
【審査官】後藤 昂彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-000649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0362651(US,A1)
【文献】重成佑香,ほか,“超楕円を用いた前立腺輪郭の形状抽出・モデリング手法に関する研究”,ロボティクスメカトロニクス講演会2018講演会論文集,一般社団法人日本機械学会,2018年06月01日,1A1-G01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06F 3/01
G06T 13/40
G09B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力の作用によって変形した球の写像変換の結果を表す画像である写像変換画像の集合を、前記球に作用した外力ごとに、超楕円関数を用いて導出し、導出された前記写像変換画像の集合と前記球に作用した外力とを対応付けて記憶部に記録する導出部と、
表示部の画面上に表示された対象物に外力を作用させる手動操作を受け付ける操作部と、
前記対象物に作用した外力と前記球に作用した外力との対応付けに基づいて、前記球に作用した外力ごとに記録された前記写像変換画像の集合のうちから、複数の写像変換画像を選択する選択部と、
選択された前記複数の写像変換画像を、外力の作用によって変形した前記対象物の形状として前記画面上に表示させる画像再生部と
を備えるシミュレーション装置。
【請求項2】
前記導出部は、前記球に作用した外力を入力として、外力の作用を受けた前記球の形状を出力とする伝達関数の複数のパラメータのうちの少なくとも一つを変更して、前記写像変換画像の集合を導出する、請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記複数のパラメータのうちの一つは、外力の作用を受ける前記対象物の硬さを表すパラメータである、請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記操作部は、外力の作用を受けた前記対象物の反力をユーザに作用させる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記対象物は臓器である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
シミュレーション装置が実行するシミュレーション方法であって、
外力の作用によって変形した球の写像変換の結果を表す画像である写像変換画像の集合を、前記球に作用した外力ごとに、超楕円関数を用いて導出し、導出された前記写像変換画像の集合と前記球に作用した外力とを対応付けて記憶部に記録する導出ステップと、
表示部の画面上に表示された対象物に外力を作用させる手動操作を受け付ける操作
ステップと、
前記対象物に作用した外力と前記球に作用した外力との対応付けに基づいて、前記球に作用した外力ごとに記録された前記写像変換画像の集合のうちから、複数の写像変換画像を
選択する選択ステップと、
選択された前記複数の写像変換画像を、外力の作用によって変形した前記対象物の形状として前記画面上に表示させる画像再生ステップと
を含むシミュレーション方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のシミュレーション装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
術前の手術シミュレーションとしてではなく、手術のターゲットとされた臓器を医師や医学生などに触診させ、経験の少ない医師や医学生などに手術プロセスを理解させるための医療教育用のシミュレーション装置(シミュレータ)が求められている。実際の手術では手術用器具が臓器に接触した際に、手術用器具からの外力の作用によって臓器が変形する。シミュレーション装置は、変形した臓器の形状を仮想空間において再現するため、コンピュータグラフィックスで表された臓器を含む仮想空間を画面上に表示する。シミュレーション装置を操作する医師や医学生などの手の動きに応じて、画面上に表示された仮想空間内で手術用器具が移動する。ここで、手術用器具による外力の作用によって変形した臓器の形状を画面上で精度よく再現することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4129527号公報
【文献】特許第5762321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、臓器の構造は複雑であり、また臓器は常に動いているので、外力の作用によって臓器は複雑に変形する。このため、変形した臓器の形状を画面上で精度よく再現することが難しいという問題がある。このような問題は、臓器に限られた問題ではなく、複雑な構造を有する対象物に関して、外力の作用によって変形した対象物の形状を画面上で精度よく再現するという用途に共通する問題である。このように従来では、外力の作用によって変形した対象物の形状を画面上で精度よく再現することができなかった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、外力の作用によって変形した対象物の形状を画面上で再現する精度を向上させることが可能であるシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、外力の作用によって変形した球の写像変換の結果を表す画像である写像変換画像の集合を、前記球に作用した外力ごとに、超楕円関数を用いて導出し、導出された前記写像変換画像の集合と前記球に作用した外力とを対応付けて記憶部に記録する導出部と、表示部の画面上に表示された対象物に外力を作用させる手動操作を受け付ける操作部と、前記対象物に作用した外力と前記球に作用した外力との対応付けに基づいて、前記球に作用した外力ごとに記録された前記写像変換画像の集合のうちから、複数の写像変換画像を選択する選択部と、選択された前記複数の写像変換画像を、外力の作用によって変形した前記対象物の形状として前記画面上に表示させる画像再生部とを備えるシミュレーション装置である。
【0007】
本発明の一態様は、上記のシミュレーション装置であって、前記導出部は、前記球に作用した外力を入力として、外力の作用を受けた前記球の形状を出力とする伝達関数の複数のパラメータのうちの少なくとも一つを変更して、前記写像変換画像の集合を導出する。
【0008】
本発明の一態様は、上記のシミュレーション装置であって、前記複数のパラメータのうちの一つは、外力の作用を受ける前記対象物の硬さを表すパラメータである。
【0009】
本発明の一態様は、上記のシミュレーション装置であって、前記操作部は、外力の作用を受けた前記対象物の反力をユーザに作用させる。
【0010】
本発明の一態様は、上記のシミュレーション装置であって、前記対象物は臓器である。
【0011】
本発明の一態様は、上記のシミュレーション装置が実行するシミュレーション方法であって、外力の作用によって変形した球の写像変換の結果を表す画像である写像変換画像の集合を、前記球に作用した外力ごとに、超楕円関数を用いて導出し、導出された前記写像変換画像の集合と前記球に作用した外力とを対応付けて記憶部に記録する導出ステップと、表示部の画面上に表示された対象物に外力を作用させる手動操作を受け付ける操作ステップと、前記対象物に作用した外力と前記球に作用した外力との対応付けに基づいて、前記球に作用した外力ごとに記録された前記写像変換画像の集合のうちから、複数の写像変換画像を選択する選択ステップと、選択された前記複数の写像変換画像を、外力の作用によって変形した前記対象物の形状として前記画面上に表示させる画像再生ステップとを含むシミュレーション方法である。
【0012】
本発明の一態様は、上記のシミュレーション装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、外力の作用によって変形した対象物の形状を画面上で再現する精度を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態における、シミュレーション装置の構成例を示す図である。
【
図2】実施形態における、対象物の輪郭を表す写像変換画像としての楕円の例を示す図である。
【
図3】実施形態における、変形後又は移動後の楕円の各例を示す図である。
【
図4】実施形態における、第1スライスと第2スライスとの例を示す図である。
【
図5】実施形態における、変形前の球と、変形後の球と、写像変換画像との例を示す図である。
【
図6】実施形態における、写像変換画像の集合の例を示す図である。
【
図7】実施形態における、変形後の前立腺の輪郭の例を臓器変形例として示す図である。
【
図8】実施形態における、写像変換画像の選択の例を示す図である。
【
図9】実施形態における、変形後の対象物の3次元画像の例を示す図である。
【
図10】実施形態における、画像導出装置の構成例を示すフローチャートである。
【
図11】実施形態における、画像再生装置の構成例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、シミュレーション装置1(シミュレータ)の構成例を示す図である。シミュレーション装置1は、変形した対象物の形状を画面上で模擬する装置である。シミュレーション装置1は、外力の作用によって変形した対象物の形状を、画面上で精度よく再現することが可能である。対象物は、例えば、前立腺等の臓器である。変形は、塑性変形に限られる必要はなく、弾性変形でもよい。
【0016】
シミュレーション装置1は、画像導出装置10と、画像再生装置20と、通信回線30とを備える。画像導出装置10と画像再生装置20とは、通信回線30を経由して互いに通信可能である。画像導出装置10は、導出部100と、第1記憶部110と、第1通信部120とを備える。画像再生装置20は、第2通信部200と、第2記憶部210と、操作部220と、選択部230と、画像再生部240と、表示部250とを備える。表示部250は、液晶ディスプレイ、スマートグラス又はヘッドマウントディスプレイ等の表示デバイスを画面として備える。
【0017】
シミュレーション装置1の各機能部のうちの少なくとも一部は、サーバ等のコンピュータにおける、GPGPU/GPU(General Purpose Computing on Graphics Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが、記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。記憶部は、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記録媒体(非一時的な記録媒体)が好ましい。記憶部は、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の記録媒体を備えてもよい。シミュレーション装置1の各機能部のうちの少なくとも一部は、例えば、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア(電子回路)を用いて実現されてもよい。
【0018】
以下、外力の作用によって変形した球の写像変換の結果を表す画像を「写像変換画像」という。以下では、対象物は、一例として前立腺である。前立腺は複雑な構造及び形状を有しているが、シミュレーション装置1は外力の作用によって変形した前立腺の形状を、画面上で精度よく再現することが可能である。
【0019】
次に、画像導出装置10について説明する。画像導出装置10において、球と外力とは、記憶部におけるデータとしてそれぞれ扱われる。すなわち、球と外力とは、仮想空間における球と外力としてそれぞれ扱われる。球に作用する外力には、力の大きさと力の方向とに関して複数のパターンが予め定められる。
【0020】
導出部100は、写像変換画像の集合を、球に作用した外力ごとに形状を近似する手法としてよく使われる超楕円関数を用いて導出する。すなわち、導出部100は、球に作用した外力ごとに、超楕円関数の近似精度を上げるための多数パラメータを変更して写像変換画像の集合を導出する。導出部100は、導出された写像変換画像の集合と、球に作用した外力とを対応付けて、写像変換画像の集合と外力とを第1記憶部110に記録する。
【0021】
第1記憶部110は、導出部100によって導出された写像変換画像の集合と、球に作用した外力とを対応付けて記憶する。第1通信部120は、通信回線30を経由して第2通信部200と通信する。第1通信部120は、導出部100によって導出された写像変換画像の集合と、球に作用した外力のデータとを、第2通信部200からの要求に応じて第2通信部200に送信する。導出部100及び第1記憶部110は、データを一括して画像再生装置20に予め転送してもよい。
【0022】
次に、画像再生装置20について説明する。画像再生装置20において、対象物と外力とは、記憶部におけるデータとしてそれぞれ扱われる。すなわち、対象物と外力とは、仮想空間における対象物と外力としてそれぞれ扱われる。
【0023】
第2通信部200は、通信回線30を経由して第1通信部120と通信する。第2通信部200は、第1記憶部110から通信回線30を経由してダウンロードされた写像変換画像の集合と、球に作用した外力データとを、互いに対応付けて第2記憶部210に記録する。第2記憶部210は、ダウンロードされた写像変換画像の集合と、球に作用した外力データとを、互いに対応付けて記憶する。なお、第2記憶部210は、シミュレーション装置1におけるシミュレーション処理が終了した場合、写像変換画像の集合と球に作用した外力データとを、第2記憶部210から消去する。
【0024】
操作部220は、表示部250の画面上に表示された対象物に外力を作用させる手動操作を受け付ける。操作部220は、例えば、力覚デバイス(力触覚デバイス)である。操作部220は、仮想空間において外力の作用を受けた対象物の反力を、物理的な反力としてユーザに作用させてもよい。これによって、操作部220は、臓器等の患部の触感をユーザに与えることができる。
【0025】
選択部230は、表示部250の画面上に表示された対象物に作用した外力と、画像導出装置10において球に作用した外力との対応付けに基づいて、球に作用した外力ごとに記録された写像変換画像の集合のうちから、コンピュータグラフィックスを用いて3次元画像として再生される複数の写像変換画像を選択する。
【0026】
例えば、選択部230は、球に作用した外力のパターンのうちから、対象物に作用した外力と等しい外力を選択する。この選択の結果に基づいて、選択部230は、第2記憶部210に記録されている写像変換画像の集合のうちから、対象物に作用した外力に対応付けられている複数の写像変換画像を選択する。なお、選択部230は、導出部100によって遠隔操作されてもよい。
【0027】
画像再生部240は、選択された複数の写像変換画像を、互いに交差している第1スライス(sq平面)及び第2スライス(r平面)を用いて、コンピュータグラフィックスを用いて3次元画像として再生する。画像再生部240は、再生された複数の写像変換画像を、手動操作に応じた外力の作用によって変形した対象物(変形対象物)の形状として、表示部250の画面上に表示させる。この画面上では、操作部220を操作する医師などの操作者の手の動きに応じて、手術用器具が移動する。表示部250は、再生された複数の写像変換画像を、手動操作に応じて移動した手術用器具による外力の作用によって変形した対象物の形状として、表示部250の画面上に表示する。操作者による操作によって変形対象物に加えられた外力の反力が、画面上に表示されている変形対象物から操作部220を通して操作者に返送される。
【0028】
次に、写像変換画像の導出方法を説明する。
図2は、対象物の輪郭を表す写像変換画像としての楕円300の例を示す図である。写像変換画像には、第1領域310(i=1)と、第2領域320(i=2)と、第3領域330(i=3)と、第4領域340(i=4)と、第5領域350(j=1)と、第6領域360(j=2)とが定められている。
【0029】
第1領域310は、写像変換画像における第1象限の領域である。第2領域320は、写像変換画像における第2象限の領域である。第3領域330は、写像変換画像における第3象限の領域である。第4領域340は、写像変換画像における第4象限の領域である。第5領域350は、写像変換画像における第1象限及び第4象限の領域である。第6領域360は、写像変換画像における第2象限及び第3象限の領域である。なお、各領域は更に細分化されてもよい。
【0030】
図3は、変形後又は移動後の楕円300の各例を示す図である。導出部100は、球に作用した外力ごとに、楕円300に対してジューコフスキー変換を実行する。すなわち、導出部100は、球に作用した外力ごとに超楕円関数の各パラメータを変更して、楕円300を変形又は移動させる。導出部100は、変形後又は移動後の楕円300を、写像変換画像として導出する。変形後又は移動後の楕円(超楕円関数を用いた変形等の結果)を表現する関数「Vi」は、式(1)のように表される。
【0031】
【0032】
ここで、「lx」は、楕円300をx軸方向に移動させるためのパラメータである。「ly」は、楕円300をy軸方向に移動させるためのパラメータである。「r」は、楕円300を回転(変形)させるためのパラメータである。「sy」は、楕円300をy軸方向に変形させるためのパラメータである。「xy」は、楕円300をx軸方向に変形させるためのパラメータである。
【0033】
超楕円関数のパラメータのうちの「sqi」と「ti」と「bi」と「shi」とは、領域「i」ごとに用意される。「sqi」は、楕円300を点対称に変形させるためのパラメータである。「ti」は、楕円300をy軸対称に第1態様で変形させるためのパラメータである。「bi」は、楕円300をy軸対称に第2態様で変形させるためのパラメータである。「shi」は、楕円300の変形し難さを変更するためのパラメータであり、例えば0から1までの範囲の値である。楕円300の変形し難さは、対象物の硬さに相当する。対象物の硬さは、対象物の材質に応じて変わる。
【0034】
図2及び
図3に示された例では、式(1)における複数のパラメータの個数(超楕円関数を用いて楕円300を変形又は移動させるためのパラメータの個数)は、「lx」と「ly」と「r」と「sy」と「xy」との5個と、「sq
1」から「sq
4」までの4個と、「t
1」から「t
4」までの4個と、「b
1」から「b
4」までの4個と、「sh
1」から「sh
4」までの4個との合計21個である。「i」及び「j」の各値は、領域の個数に対応した値であり、領域の細分化に応じて大きくなる。
【0035】
なお、式(1)における複数のパラメータのうちの例えば「b」は、領域「j」ごとに用意されてもよい。すなわち、「bi」(「b1」から「b4」まで)の代わりに、「bj」(「b1」から「b2」まで)が、式(1)における複数のパラメータの一部として用意されていてもよい。この場合、超楕円関数を用いて楕円300を変形又は移動させるためのパラメータの個数は、合計19個である。
【0036】
図4は、第1スライス400(sq平面)と、第2スライス410(r平面)との例を示す図である。第1スライス400と第2スライス410とは、角度「θ」を成すように交差している。例えば、第1スライス400と第2スライス410とは、互いに直交している。
【0037】
第1スライス400-1から第1スライス400-P(Pは2以上の整数)までのように、第1スライス400の枚数は複数でもよい。それぞれの第1スライス400-p(pは、1からPまでの整数)は、互いに平行である。同様に、第2スライス410-1から第2スライス410-R(Rは2以上の整数)までのように、第2スライス410の枚数は複数でもよい。それぞれの第2スライス410-r(rは、1からRまでの整数)は、互いに平行である。
【0038】
図5は、変形前の球500と、変形後の球500と、写像変換画像420との例を示す図である。球500は、外力510の作用によって変形又は移動する。外力510の方向は、球500に対して様々なパターンで変更される。また、外力510のベクトル量は、所定範囲で様々なパターンで変更される。導出部100は、変形した球500の輪郭を例えば有限要素法を用いて導出する。
【0039】
導出部100は、球500の輪郭が第1スライス400に写像変換された結果を近似するように、球500に作用した外力510ごとに、式(1)における超楕円関数の各パラメータを変更して写像変換画像420を導出する。同様に、導出部100は、球500の輪郭が第2スライス410に写像変換された結果を近似するように、球500に作用した外力510ごとに、式(1)における超楕円関数の各パラメータを変更して写像変換画像420を導出する。
【0040】
図6は、写像変換画像420の集合の例を示す図である。導出部100は、導出された写像変換画像420の集合と、球500に作用した外力510とを対応付けて、写像変換画像420手術用器具と外力510のデータ(大きさ及び方向)とを、第1記憶部110に記録する。領域「i」における外力を表現する関数「Fi」は、式(2)のように表される。
【0041】
【0042】
ここで、「fx」は、外力510のx軸成分である。「fy」は、外力510のy軸成分である。「fz」は、外力510のz軸成分である。
【0043】
領域「i」における伝達関数「Hi」と、領域「i」における外力を表現する関数「Fi」と、変形後又は移動後の楕円(超楕円関数を用いた変形等の結果)を表現する関数「Vi」との関係は、式(3)のような行列式で表される。なお、式(3)は、転置行列を用いて、「tHi・tFi=tVi」と変形表現されてもよい。
【0044】
【0045】
図7は、変形後の前立腺620の輪郭630の例を臓器変形例として示す図である。前立腺620の輪郭630は、例えば、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging : MRI)装置等によって予め撮影される。
図7には、膀胱600と、尿道610と、前立腺620とが表されている。外力510の作用によって、前立腺620の形状は輪郭630のように変形している。式(3)に示された伝達関数「Hi」は、式(4)のように表される。伝達関数「Hi」は、球に作用した外力を入力とし、外力の作用を受けた球の形状を決定して、決定された形状を出力するための関数である。なお、式(4)は、転置行列を用いて、「
tHi=
tVi・Fi」と変形表現されてもよい。
【0046】
【0047】
ここで、「tFi」は、「Fi」の転置行列であり、操作部220(力覚デバイス)を通して領域「i」に伝達される外力を表す。「tFi」の物理的な意味と「Fi」の物理的な意味とは同じであり、転置行列「tFi」は伝達関数「Hi」の導出に用いられる変形表現の一例である。行列の形式で表現される伝達関数(ベクトル型の伝達関数)「Hi」の列の数は、式(1)における複数のパラメータの個数に等しい。すなわち、伝達関数「Hi」において「n」は、式(1)における複数のパラメータの個数から1を減算した結果の数である。磁気共鳴画像等を用いて近似変形が予め決定されたパラメータと外力とに基づいて伝達関数「Hi」が予め決定されることで、前立腺620に加えられた外力「Fi」に対する輪郭630の変形が決定できる。
【0048】
係数「a0」から係数「an」までは、x軸方向の各変形成分を表す。係数「b0」から係数「bn」までは、y軸方向の各変形成分を表す。係数「c0」から係数「cn」までは、z軸方向の各変形成分を表す。変形成分は、仮想空間内に臓器が表現される際に、拡大又は縮小のパラメータとなる。
【0049】
仮想空間のx軸方向に関して、操作部220による外力「Fi」が前立腺620に加えられた場合に、又は、操作部220による外力「Fi」で前立腺620が引っ張られた場合に、変形後又は移動後の楕円300を表現する関数「Vi」が輪郭630を近似するように、「h0」から「hn」までの各値は、伝達関数におけるx軸方向の各成分に関して予め定められる。仮想空間のy軸方向に関して、操作部220による外力「Fi」が前立腺620に加えられた場合に、又は、操作部220による外力「Fi」で前立腺620が引っ張られた場合に、変形後又は移動後の楕円300を表現する関数「Vi」が輪郭630を近似するように、「h’0」から「h’n」までの各値は、伝達関数におけるy軸方向の各成分に関して予め定められる。仮想空間のz軸方向に関して、操作部220による外力「Fi」が前立腺620に加えられた場合に、又は、操作部220による外力「Fi」で前立腺620が引っ張られた場合に、変形後又は移動後の楕円300を表現する関数「Vi」が輪郭630を近似するように、「h’’0」から「h’’0」までの各値は、伝達関数におけるz軸方向の各成分に関して予め定められる。
【0050】
次に、写像変換画像420の選択方法について説明する。
図8は、写像変換画像420の選択の例を示す図である。選択部230は、例えば、輪郭630と写像変換画像420との画素値の差分を導出することによって、変形後の前立腺620の輪郭630と写像変換画像420との近似度を導出する。選択部230は、球500に外力510が作用している場合について、変形後の前立腺620の輪郭630を近似する写像変換画像420を、第2記憶部210に記憶されている写像変換画像420の集合のうちから選択する。
【0051】
図9は、変形後の対象物の3次元画像の例を示す図である。画像再生部240は、前立腺620の輪郭630を近似する写像変換画像として選択された写像変換画像420-sを、第1スライス400-pに配置する。画像再生部240は、前立腺620の輪郭630を近似する写像変換画像として選択された写像変換画像420-nを、第2スライス410-rに配置する。画像再生部240は、複数の第1スライス400と複数の第2スライス410とについて、写像変換画像420の配置処理を実行する。このようにして、画像再生部240は、選択された複数の写像変換画像を、互いに交差している第1スライス400(sq平面)及び第2スライス410(r平面)を用いて、コンピュータグラフィックスを用いて3次元画像として再生する。
【0052】
次に、シミュレーション装置1の動作を説明する。
図10は、画像導出装置10の構成例を示すフローチャートである。導出部100は、球500に作用した外力510ごとに、式(1)に示された超楕円関数のパラメータを
図2の各領域「i」について
図3のように変更して、
図6に示されたような写像変換画像420の集合を導出する(ステップS101)。導出部100は、導出された写像変換画像420の集合と、球500に作用した外力510とを対応付けて、写像変換画像420の集合を第1記憶部110に記録する(ステップS102)。
【0053】
図11は、画像再生装置20の構成例を示すフローチャートである。第2通信部200は、第1記憶部110から通信回線30を経由してダウンロードされた写像変換画像420の集合と、球に作用した外力データとを、互いに対応付けて第2記憶部210に記録する(ステップS201)。
【0054】
操作部220は、表示部250の画面上に表示された対象物(例えば、前立腺)に外力510「Fi」を作用させる手動操作を受け付ける(ステップS202)。選択部230は、表示部250の画面上に表示された対象物に作用した外力510と、球500に作用した外力510との対応付けに基づいて、球500に作用した外力510ごとに記録された写像変換画像420の集合のうちから、再生される写像変換画像420-n及び写像変換画像420-mを選択する(ステップS203)。
【0055】
画像再生部240は、選択された写像変換画像420-n及び写像変換画像420-mを、互いに交差している第1スライス400及び第2スライス410を用いて、
図9のように再生する。写像変換画像420-n及び写像変換画像420-mは、第1スライス400及び第2スライス410による前立腺620の各断面の輪郭を近似する(ステップS204)。画像再生部240は、前立腺620の輪郭を近似するように再生された複数の写像変換画像420を、外力510の作用によって変形した対象物の形状として、表示部250の画面上に表示させる(ステップS205)。
【0056】
以上のように、導出部100は、球500に作用した外力510ごとに、式(1)に示された超楕円関数のパラメータを
図2の各領域「i」について
図3のように変更して、
図6に示されたような写像変換画像420の集合を導出する。写像変換画像420は、外力510の作用によって変形した球500の写像変換の結果を表す画像である。導出部100は、複数の写像変換画像420の集合と、球500に作用した外力510とを対応付けて、写像変換画像420の集合を第1記憶部110に記録する。
【0057】
第2記憶部210は、第1記憶部110から通信回線30を経由してダウンロードされた写像変換画像420の集合を記憶する。操作部220は、表示部250の画面上に表示された対象物に外力510を作用させる手動操作を受け付ける。選択部230は、対象物に作用した外力510と球500に作用した外力510との対応付けに基づいて、球500に作用した外力510ごとに記録された写像変換画像420の集合のうちから、コンピュータグラフィックで再生される対象の3次元画像として、例えば
図8のように写像変換画像420-n及び写像変換画像420-mを選択する。
【0058】
画像再生部240は、選択された写像変換画像420-n及び写像変換画像420-mを、互いに交差している第1スライス400及び第2スライス410を用いて、例えば
図9のように再生する。複数の写像変換画像420は、対象物の輪郭(例えば、磁気共鳴画像装置等によって予め撮影された前立腺620の輪郭630)を3次元で近似するように、
図9のように互いに交差している。画像再生部240は、例えば
図9のように再生された複数の写像変換画像420を、外力510の作用によって変形した対象物の形状として、表示部250の画面上に表示させる。写像変換画像420-n及び写像変換画像420-mは、対象物の輪郭を
図9のように3次元で近似する。操作部220(力覚デバイス)は、外力510の作用を受けた対象物の反力を、ユーザに作用させてもよい。
【0059】
このように、導出部100は、写像変換画像420の集合を、球500に作用した外力ごとに、超楕円関数を用いて導出する。これによって、外力の作用によって変形した対象物(例えば、前立腺等の臓器)の形状を画面上で再現する精度を向上させることが可能である。医療分野において、手術用器具による患部の触診と臓器の変形とを伴う手術のプロセスをユーザに確認させるように、操作部220は臓器等の患部の触感をユーザに与えることができる。また、医学部生及び医師等は、例えば腹腔鏡手術におけるプロセスを、医療技術学習又は手術前触診として疑似体験することができる。
【0060】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0061】
例えば、画像再生部240は、選択された複数の写像変換画像420を、互いに交差している第1スライス(sq平面)及び第2スライス(r平面)のいずれかを用いて、コンピュータグラフィックスを用いて2次元画像として再生してもよい。
【0062】
例えば、導出部100は、写像変換画像420の集合を、ディープラーニングによって導出してもよい。
【0063】
例えば、上述の各数式では様々な変形表現が可能であり、各数式の表現は特定の表現(型)に限定されない。
【符号の説明】
【0064】
1…シミュレーション装置、20…画像再生装置、30…通信回線、100…導出部、110…第1記憶部、120…第1通信部、200…第2通信部、210…第2記憶部、220…操作部、230…選択部、240…画像再生部、250…表示部、300…楕円、310…第1領域、320…第2領域、330…第3領域、340…第4領域、350…第5領域、360…第6領域、400…第1スライス、410…第2スライス、420…写像変換画像、500…球、510…外力、600…膀胱、610…尿道、620…前立腺、630…輪郭
【要約】
【課題】外力の作用によって変形した対象物の形状を画面上で再現する精度を向上させることが可能であるシミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】シミュレーション装置は、外力の作用によって変形した球の写像変換の結果を表す画像であって互いに交差している複数の写像変換画像を、球に作用した外力ごとに、超楕円関数を用いて導出し、複数の写像変換画像と球に作用した外力とを対応付けて記憶部に記録する導出部と、外力を作用させる手動操作を受け付ける操作部と、対象物に作用した外力と球に作用した外力との対応付けに基づいて、球に作用した外力ごとに記録された複数の写像変換画像のうちから、再生される複数の写像変換画像を選択する選択部と、選択された複数の写像変換画像を再生し、再生された複数の写像変換画像を、変形した対象物の形状として画面上に表示させる画像再生部とを備える。
【選択図】
図1