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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/19 20150101AFI20220415BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220415BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220415BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220415BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20220415BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220415BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220415BHJP
   C12N 5/078 20100101ALN20220415BHJP
【FI】
A61K35/19 Z
A61K9/19
A61P17/00
A61P19/08
A61K38/18
A61P43/00 121
C12N5/10
C12N5/078
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021516510
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046355
(87)【国際公開番号】W WO2021117886
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019224781
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】大鳥 精司
(72)【発明者】
【氏名】志賀 康浩
(72)【発明者】
【氏名】小坂 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】江藤 浩之
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/157586(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/122747(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/034073(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208675(WO,A1)
【文献】特開平08-109136(JP,A)
【文献】Cell Stem Cell, (2014), 14, [4], p.535-548
【文献】Asian Spine J., (2017), 11, [3], p.329-336
【文献】日内会誌, (2017), 106, [4], p.843-849
【文献】浜松大学保健医療学部紀要, (2012), 3, [1], p.7-15
【文献】血栓止血誌, (1993), 4, [1], p.36-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/19
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子およびBCL-xL遺伝子
(ii)MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子およびBMI-1遺伝子;または
(iii)MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子、BMI-1遺伝子およびBCL-xL遺伝子
のいずれかの遺伝子の組み合わせが導入されている不死化巨核球由来の巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤。
【請求項2】
MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子がc-MYC遺伝子、n-MYC遺伝子およびL-MYC遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも一つの遺伝子である、請求項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項3】
MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子がc-MYC遺伝子である、請求項2記載の凍結乾燥製剤。
【請求項4】
不死化巨核球が、多能性造血前駆細胞由来である、請求項1から3のいずれか記載の凍結乾燥製剤。
【請求項5】
多能性造血前駆細胞が、iPS細胞由来である、請求項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項6】
請求項1からのいずれかにおける巨核球および/または血小板から放出される成長因子をさらに含有する、請求項1からのいずれか記載の凍結乾燥製剤。
【請求項7】
請求項における成長因子が、請求項1からのいずれかにおける巨核球および/または血小板から、その活性化または破砕することにより放出される、請求項記載の凍結乾燥製剤。
【請求項8】
成長因子が、骨形成タンパク質、血小板由来増殖因子、血小板由来血管形成因子、トランスフォーミング増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、血小板由来内皮細胞増殖因子、インスリン様成長因子、および血小板因子IVからなる群から選ばれる少なくとも一つの因子である、請求項または記載の凍結乾燥製剤。
【請求項9】
骨癒合を促進するための、請求項1からのいずれか記載の凍結乾燥製剤。
【請求項10】
皮膚疾患を処置もしくは予防するための、請求項1からのいずれか記載の凍結乾燥製剤。
【請求項11】
請求項1からのいずれか記載の凍結乾燥製剤を含む、骨癒合を促進するための医薬組成物。
【請求項12】
請求項1からのいずれか記載の凍結乾燥製剤を含む、皮膚疾患を処置もしくは予防するための医薬組成物。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか記載の凍結乾燥製剤を調製する方法であって、
(A)不死化巨核球から血小板および巨核球の細胞混合液を調製する工程、および
(B)血小板および巨核球の細胞混合液を凍結乾燥する工程、
を含み、
前記不死化巨核球が、
(i)MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子およびBCL-xL遺伝子
(ii)MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子およびBMI-1遺伝子;または
(iii)MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子、BMI-1遺伝子およびBCL-xL遺伝子
のいずれかの遺伝子の組み合わせが導入されているものである、
方法。
【請求項14】
工程(A)にて調製する細胞混合液を活性化させる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子がc-MYC遺伝子、n-MYC遺伝子およびL-MYC遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも一つの遺伝子である、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
MYCファミリー遺伝子から選択される癌遺伝子がc-MYC遺伝子である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
不死化巨核球が、多能性造血前駆細胞由来である、請求項13から16のいずれか記載の方法。
【請求項18】
多能性造血前駆細胞が、iPS細胞由来である、請求項17記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤に関する。詳細には、本発明は、巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤、ならびに当該製剤における骨癒合を促進させる、または皮膚疾患を処置もしくは予防する用途に関する。
【背景技術】
【0002】
外傷による骨折、および腰椎すべり症や腰部脊柱管狭窄症等の腰椎変性疾患では、不安定性に伴う痛み・麻痺などの症状が問題となるため、病変部の安定化を目的として骨の連続性が絶たれた部分や隣接する可動性の複数要素を固定する手術が行われる。これらの手術において、骨癒合による安定化は非常に重要な要素であり、整形外科手術の大きな目的の一つである。しかし、現状では、術後でも自然経過による骨癒合を期待せざるを得ず、完全な骨癒合には早くとも数週間、場合により一年近くを要することがあり、経過によっては、完全な骨癒合は得られず慢性的な不安定状態である偽関節を生じ、慢性的な不安定化・疼痛を来たすことも見受けられる。
【0003】
骨癒合に関するこのような治療経過は時に、患者のADL(Activities of Daily Living、日常生活動作)やQOL(Quality of Life、生活の質)の重大な障害にもつながるため、術後の骨癒合促進の効率化に関する追究は整形外科領域において急務である。
【0004】
この命題に対し、自己血漿の遠心、濃縮により安全に得られる多血小板血漿(Platelet Rich Plasma: PRP)が注目されている。PRPは旺盛な組織修復能を持つことが知られ、形成外科や歯科領域、そして整形外科領域では腱や靭帯の修復効果を期待した研究が多くなされ、そしてスポーツ領域ではメジャーリーガーに対する自家PRP治療としても注目を浴びており、世界的にさらなる研究が進められている。しかし、PRPについて骨癒合を目的とした研究は、これまでのところあまり行われていない。本発明者らは既に先行研究においてラット脊椎固定術におけるPRP投与が、感染や拒絶反応の危険性がなく有意に骨癒合を促進することを確認した(非特許文献1)。さらに、これまで人工骨として用いられてきたハイドロキシアパタイトとPRPの併用にて良好な骨癒合が得られる事もラットを用いた動物実験で報告した(非特許文献2)。そして、動物実験で得られた結果をもとに、トランスレーショナルリサーチとしてPRPを用いた2つの臨床試験を行った結果、脊椎固定術において、自家骨もしくは他家骨に新鮮PRPを併用すると、いずれも、平均約1-2ヶ月間の骨癒合期間短縮を得られるという結果を得た(非特許文献3)。このようにPRPは、安全性が高く、優れた骨癒合促進効果を持つため、整形外科領域の治療において非常に有用であり、将来性のある治療法を提供できることが強く示唆されている。
【0005】
さらに、PRPは、PRP療法に用いることができる。PRP療法は、自己血液中に含まれる血小板の成長因子等の生理活性を保有するタンパク質が持つ組織修復能力を利用し、ヒトに本来備わっている「治癒力」を高める再生医療である。例えば、難治性皮膚潰瘍や褥瘡(床ずれ)、熱傷、糖尿病患者の下肢の壊死または壊疽、歯科の歯槽骨や歯肉の再生促進のためにこれらの患部にPRPを投与することができる。さらには、顔や首などの皮膚のしわ改善や発毛促進のために患者にPRPを投与してもよい。特に、PRPは、皮膚内に投与すると成長因子等の生理活性を保有する複数のタンパク質を放出し、皮膚内に毛細リンパ管を増加させ、また皮膚線維芽細胞が遊走することから、毛細リンパ管や毛細血管および皮膚新生肉芽組織を再生できると期待される。
【0006】
しかし、PRPは問題点として、寿命が数時間~数日程度と極めて短いため、効果的な使用のためには、使用直前に患者本人から一定量の血液を採取し自家PRPとして用事調製する必要がある。具体的には、手術での使用の際には術直前に約200cc程度の採血をする必要があり、患者の身体に大きな負担になるのみではなく、短時間での用事調製となるため品質を一定にすることが難しいことに加え、多くの人手と手間を要する。その理由から、特に外傷等の緊急を要する場面での使用は極めて困難であった。新鮮PRPの持つこのような問題点を克服するため、本発明者らは凍結乾燥PRP(Freeze-dried PRP: FD-PRP)に注目し、研究を重ねてきた。結果、FD-PRPは常温で8週間保存後も成長因子が消失せずに大半が維持されること、そして新鮮PRPと同等の骨癒合促進効果を有することが確認出来、FD-PRPの有効性が示された(非特許文献4、非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kamoda H, et al., J Bone Joint Surg Am. 2013 Jun 19; 95 (12): 1109-16
【文献】Kamoda et al., Spine (Phila Pa 1976). 2012 Sep 15; 37 (20): 1727-33
【文献】Kubota, et al. Asian Spine J. 2017 Apr; 11 (2): 272-277
【文献】Shiga, et al. Sci Rep. 2016 Nov 11; 6: 36715
【文献】Shiga Y et al., Asian Spine J., 2017, Jun; 11 (3): 329-336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方で、PRPおよび凍結乾燥PRPのいずれであっても、さらなる患者侵襲の低減および供給効率化の観点からすると、自己の採血でその都度ごとに用事調製する自己血由来ではなく、既成の製品化された安全な製剤がより望ましいと考えられる。また、治療対象範囲が広い場合や重症例には、PRPおよび凍結乾燥PRPは多くの使用量となりうる。しかし、PRPの原料である血小板は有効期限が4日間と極端に短く、安定供給が困難である。現状では本人もしくは献血ドナーに依存し、近い将来、日本を含む多くの国において、需要に供給が追いつかないことが予想される。また、自己血漿由来の多血小板血漿およびその凍結乾燥製剤における成長因子等の成分および量におけるロット差が大きく、効果が一定でない点も問題である。
【0009】
自己採血や献血にとって代わる新たな生産システムとして、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells: iPSC)を用いた血小板作製技術が希求されてきた。江藤らは、2010年にヒトiPS細胞から血小板が生産できることを発表し(Takayama, Eto, et al. J Exp Med. Vol. 207, December 20, 2010)、さらに同グループでは2014年にヒトiPS細胞から自己複製が可能な巨核球を、生体外で凍結保存が可能な不死化巨核球株として作製する方法を確立した(Nakamura, Eto, et al. Cell Stem Cell 14, 535-548, April 3, 2014)。2019年6月より京都大学にて同血小板を用いた臨床試験が世界に先駆けて開始されている。
そこで、iPS細胞を含む多能性幹細胞から分化誘導される血小板を用いて調製された凍結乾燥製剤が、自己血漿由来のPRPおよび凍結乾燥PRPと同様、副作用や有害事象無く、所望の効果、例えば骨癒合促進効果を有するか否かが問題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、インビトロにおいて幹細胞から分化誘導した血小板を用いて凍結乾燥製剤を調製し、調製された凍結乾燥製剤が、自己血漿由来のPRPおよび凍結乾燥PRPと同様、豊富な成長因子を含むことを確認した。この凍結乾燥製剤には、血小板に加えて巨核球が含まれ、BMP2やBMP4の含有量が自己血漿由来のPRPや凍結乾燥PRPよりも高かった。同凍結乾燥製剤を用いて、ラットを使用した腰椎後側方固定術モデルにおける骨癒合促進効果を検討したところ、骨癒合および骨形成能が旺盛であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
したがって、本発明は、以下の態様を含む。
<凍結乾燥製剤>
[1]
巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤。
[2]
巨核球および血小板が、インビトロで幹細胞から分化誘導される、[1]記載の凍結乾燥製剤。
[3]
幹細胞が多能性幹細胞または造血幹細胞である、[1]または[2]記載の凍結乾燥製剤。
[4]
多能性幹細胞がiPS細胞である、[2]または[3]記載の凍結乾燥製剤。
[5]
巨核球および/または血小板から放出される成長因子をさらに含有する、[1]から[4]のいずれか記載の凍結乾燥製剤。
[6]
成長因子が、骨形成タンパク質、血小板由来増殖因子、血小板由来血管形成因子、トランスフォーミング増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、血小板由来内皮細胞増殖因子、インスリン様成長因子、および血小板因子IVからなる群から選ばれる少なくとも一つの因子である、[5]記載の凍結乾燥製剤。
<医薬組成物>
[7]
[1]から[6]のいずれか記載の凍結乾燥製剤を含む、骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための医薬組成物。
[8]
[1]から[6]のいずれか記載の凍結乾燥製剤を、骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するのに有効な量で含む、[7]記載の医薬組成物。
<医薬用途>
[9]
骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための方法であって、請求項1から6のいずれか記載の凍結乾燥製剤を、そのような処置等を必要としている対象に投与することを含む方法。
[10]
骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための方法であって、請求項1から6のいずれか記載の凍結乾燥製剤を、そのような処置等を必要としている対象に、その有効量を投与することを含む、[9]記載の方法。
[11]
骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための、[1]から[6]のいずれか記載の凍結乾燥製剤。
[12]
骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための医薬を製造するための、[1]から[6]のいずれか記載の凍結乾燥製剤の使用。
<凍結乾燥製剤の調製方法>
[13]
巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤を調製する方法であって、
(A)血小板および巨核球の細胞混合液を調製し、および
(B)血小板および巨核球の細胞混合液を凍結乾燥する、ことを特徴とする方法。
[14]
工程(A)において、巨核球が、幹細胞から分化誘導される不死化巨核球である、[13]記載の方法。
[15]
工程(A)にて調製する細胞混合液を活性化させる、[13]または[14]記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、iPS細胞を含む幹細胞から分化誘導される血小板由来PRPを凍結乾燥することにより、必要時に医薬製剤として供給することが可能となる。抗原性フリーのiPS細胞由来FD-PRPを開発し、他患者への安全使用が可能になれば、手術における用事調製を不要とし、有効な新規製剤としての汎用性の可能性が格段に高まる。また、患者の侵襲や医療者の負担なく、既存の製品化された材料で骨折や脊椎手術における早期の骨癒合が効率的に促進されれば、患者のADLおよびQOLの劇的な改善が図られ、手術による合併症の減少・緩和、入院期間の短縮による医療経済の改善に大きく寄与するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、腰椎固定術ラットモデルにおいて、iPS細胞由来不死化巨核球および血小板を含む本発明の凍結乾燥製剤が優れた骨癒合促進効果および骨形成能を有していることを示す、ラット脊椎のレントゲン画像である。
図2図2は、本発明の凍結乾燥製剤の調製過程において、巨核球/血小板活性化直後(凍結乾燥前)における製剤(FD化前)、同じ数の血小板を含むヒト末梢血から調製したPRPを同様に活性化したもの(ヒトPRP1、ヒトPRP2)、および対照(分化培地)におけるBMP2およびBMP4濃度を測定した結果を示すグラフである。本発明の製剤(FD化前)は、同一血小板数を含む活性化PRPよりもBMP2およびBMP4濃度が高いことが分かる。
図3図3は、iPS細胞由来不死化巨核球株 (imMKCL)由来の成熟巨核球および血小板 (MMK-PLT)におけるサイトカイン遺伝子発現の成熟に伴う変化を示すグラフである。
図4図4は、iPS細胞由来不死化巨核球株 (imMKCL)由来の成熟巨核球および血小板 (MMK-PLT)から活性化により放出されるサイトカインタンパク質量(pg/ml)の成熟に伴う変化を示すグラフである。
図5図5(左)は、iPS細胞由来不死化巨核球株 (imMKCL)由来の成熟巨核球および血小板 (MMK/PLT)を活性化して得た上清がヒト初代培養線維芽細胞の増殖に与える影響を示すグラフである。図5(右)は、培養5日目のヒト初代培養線維芽細胞の写真である。
図6図6(左)は、iPS細胞由来不死化巨核球株 (imMKCL)由来の成熟巨核球および血小板 (MMK/PLT)が創面積縮小率に与える影響を示すグラフである。図6(右)は、7日目における創面積縮小率のグラフと創部の写真である。
図7図7は、ラット腰椎固定術モデルにおける、iPS細胞由来不死化巨核球株由来の巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤の新規骨形成への効果を示すグラフである。
図8図8は、iPS細胞由来不死化巨核球株由来の血小板への分化を経時的にフローサイトメーターでモニターした結果である。右上の画分が血小板に相当する。縦軸は側方散乱を、横軸は前方散乱をそれぞれ示す。
図9図9は、iPS細胞由来不死化巨核球株由来の成熟巨核球への分化を経時的にフローサイトメーターでモニターした結果である。右上の画分が成熟巨核球に相当する。縦軸は側方散乱を、横軸は前方散乱をそれぞれ示す。
図10図10は、分化培養後の血小板(CD41+42+Plt)および成熟巨核球(CD41+MK)の数の経時的な変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<凍結乾燥製剤>
本発明はひとつの態様として、巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤に関する。
本発明の凍結乾燥製剤は、組織修復能を有している。同様に、組織修復能を持つ、形成外科、歯科領域および整形外科領域において広くその効果が確認されている血液由来の多血小板血漿(PRP)および/またはそれを凍結乾燥した凍結乾燥PRP製剤が知られている(Kamoda H, et al., J Bone Joint Surg Am. 2013 Jun 19;95(12):1109-16, Shiga, et al. Sci Rep. 2016 Nov 11;6: 36715, , Shiga Y, Asian Spine J. 2017 Jun;11(3):329-336.)。これらPRP製剤には、「巨核球」が実質的に含まれないため、この点、本発明の凍結乾燥製剤とは構成を異にする。詳細には、本発明の凍結乾燥製剤は、従来のPRP製剤と比較し、巨核球を比較的多く含む点で相違している。また、本発明の凍結乾燥製剤は、従来のPRP製剤と比較し、特定の液性因子、例えばBMP2および/またはBMP4の含有量が高い点で、相違し得る。巨核球は生体内では造血幹細胞に由来し、骨髄の中で、巨核球系前駆細胞(CFU-Meg)、巨核芽球、前巨核球を経て巨核球へと成熟するが、細胞分裂せずに核のみ2Nから64Nまで分裂するため、大きな多形核を持つ大型細胞へと成熟した結果である。巨核球は骨髄内では一般に洞様血管付近に存在するが、骨髄から出ることは出来ず、末梢血中では観察できない。細胞分裂を伴わない胞体内核分裂を起こし多形核を持つ。1個の巨核球から数千個の血小板が作成される。血小板は、血栓の形成や止血に必須の細胞であるため、白血病、骨髄移植、血小板減少症、抗癌治療などにおいて、血小板の需要は極めて高い。
【0015】
本発明において、巨核球は、不死化巨核球、未熟巨核球、成熟巨核球など、血小板を提供できるあらゆる巨核球を意味する。ここに、本発明における「未熟巨核球」とは、多核化が進んでいない巨核球(2Nから8N程度)であり、例えば、CD41が発現している巨核球のうち、巨核球成熟関連遺伝子群(GATA1、NF-E2、c-MPL、β1-チューブリンおよびMYH9)の発現量が低く、MYH10の発現量が高い巨核球である。従って、未熟巨核球は、「巨核球前駆細胞」と言い換えることができる。このような未熟巨核球として、造血前駆細胞から人工的に製造された未熟巨核球が例示される。本発明において、未熟巨核球は、クローン化されていても、されていなくても良く、特に限定されないが、クローン化されたものを未熟巨核球株と呼ぶこともある。一方、「成熟巨核球」とは、巨核球成熟関連遺伝子群の発現量が高く、MYH10の発現量が低い巨核球であり、多核化が進んでいる巨核球(8N以上)である。本発明において、「成熟化」とは、巨核球細胞の成熟が進むこと、即ち多核化あるいは細胞質の増加が進むこと、巨核球成熟関連遺伝子の発現量が増加すること、巨核球未熟関連遺伝子の発現量が低下することなどを意味し、成熟化させる工程を行う前と比較してこれらの傾向が見られる限り、必ずしも上記定義にいう成熟巨核球に至らない場合も含む。また、「成熟化」は、培養前後の細胞群を比較して、群全体として成熟化が進んでいる場合、即ち細胞群全体の核の合計が増加しているもしくは(加えて)細胞質が増加している(体積が増加している)場合をいう。
【0016】
本発明において、凍結乾燥製剤とは、当業者に周知のフリーズドライまたは凍結乾燥などのプロセスによって調製される、粉末状または粒状の製剤である。化学的かつ生物学的に安定な製剤であり、長期にわたり保存することができる。凍結乾燥製剤は、対象に投与する用時に水または生理食塩水等で溶解または懸濁して使用する。
【0017】
本発明は具体的な態様として、巨核球および血小板を含む本発明の凍結乾燥製剤において、巨核球および血小板が、インビトロで幹細胞から分化誘導される本発明の凍結乾燥製剤、より具体的には幹細胞が多能性幹細胞または造血幹細胞、さらに具体的には、多能性幹細胞がiPS細胞である本発明の凍結乾燥製剤に関する。
【0018】
本発明において、幹細胞は、生体を構成する多くの種類の細胞に分化できる分化多能性(pluripotency)と、分裂増殖を経ても分化多能性を維持できる自己複製能を併せ持つ細胞を意味し、血小板に分化できる幹細胞であれば何でもよい。
本発明において、多能性幹細胞は、個体は形成しないが、三胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)に属する細胞系列すべてに分化し得る能力を有する幹細胞を意味し、血小板に分化できる多能性幹細胞であれば何でもよい。多能性幹細胞の好ましい例としては、ES細胞、iPS細胞、始原生殖細胞に由来する胚性生殖幹細胞(EG細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(GS細胞)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが挙げられる。ES細胞は体細胞から核初期化されて生じたES細胞であってもよい。多能性幹細胞は、好ましくはES細胞またはiPS細胞である。多能性幹細胞は哺乳動物に由来するものであってもよく、好ましくはヒト由来の多能性幹細胞である。
【0019】
造血幹細胞とは、血球系細胞に分化可能な幹細胞であり、ヒト成体では主に骨髄に存在し、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞を生み出す。造血幹細胞は、血球芽細胞または骨髄幹細胞とも呼ばれる。
【0020】
以下、多能性幹細胞の好ましい例について、説明する。
ES細胞とは、動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚に由来する多能性幹細胞である。ES細胞は、哺乳動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848;Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147;H. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
【0021】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にして行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、などの遺伝子マーカーの発現をReal-Time PCR法で検出する、および/または、細胞表面抗原であるSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81を免疫染色法にて検出することで行うことができる(Klimanskaya I,et al.(2006),Nature.444:481-485)。
【0022】
マウスES細胞としては、inGenious社、理化学研究所(理研)等が樹立した各種マウスES細胞株が利用可能である。ヒトES細胞としては、米国国立衛生研究所(NIH)、理研、京都大学、Cellartis社が樹立した各種ヒトES細胞株が利用可能である。たとえばES細胞株としては、NIHのCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WisCell Research InstituteのWA01(H1)株、WA09(H9)株、理研のKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株等を利用することができる。また、ヒトES細胞株としては、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Research Instituteから、KhES-1、KhES-2、KhES-3およびKthES11は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0023】
iPS細胞とは、人工多能性幹細胞もしくは誘導多能性幹細胞とも称され、線維芽細胞などの体細胞へ特定の1種もしくは複数種の核初期化物質を、DNA又はタンパク質の形態で導入することによるか、または、ある特定の1種もしくは複数種の薬剤の使用により該核初期化物質の内在性のmRNAおよびタンパク質の発現量を上昇させることによって作製することができる、分化多能性と自己複製能を獲得した細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら, Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。ここで「体細胞」とは、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)を意味し、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0024】
核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。特に限定されないが、例えば、Oct3/4、Klf4、Klf1、Klf2、Klf5、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18、c-Myc、L-Myc、N-Myc、TERT、SV40LargeTantigen、HPV16E6、HPV16E7、Bmil、Lin28、Lin28b、Nanog、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Sall1、Sall4、Esrrb 、Esrrg、Nr5a2、Tbx3およびGlis1が例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、単独で使用されてもよく、組み合わされて使用されてもよい。そのような組合せは、上記初期化物質を、少なくとも1種、2種もしくは3種を含む組み合わせ、好ましくは3種もしくは4種を含む組み合わせとすることができる。
【0025】
上記の各核初期化物質のマウスおよびヒトcDNAのヌクレオチド配列情報、並びに、該cDNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列情報は、WO2007/069666に記載のGenBank(米国NCBI)またはEMBL(ドイツ国)のAccession numbersにアクセスすることによって入手可能である。また、L-Myc、Lin28、Lin28b、Esrrb、EsrrgおよびGlis1のマウスおよびヒトのcDNA配列情報およびアミノ酸配列情報については、表1に示したNCBI Accession numbersにアクセスすることにより取得できる。当業者は、該cDNA配列またはアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。
【0026】
【表1】
【0027】
これらの核初期化物質は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAまたはRNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソームの使用、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(これらのベクターは、Cell,126,pp.663-676,2006;Cell,131,pp.861-872,2007;Science,318,pp.1917-1920,2007に準ずる。)、アデノウイルスベクター(Science,322,945-949,2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci.85,348-62,2009)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BACおよびPAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science,322:949-953,2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトもしくはポリアデニル化シグナルなどの制御配列を含むことができる。使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい例として挙げられる。さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子またはピューロマイシン耐性遺伝子)、チミジンキナーゼ遺伝子、およびジフテリアトキシン遺伝子もしくはその断片などの選択マーカー配列、並びに、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)またはFLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。別の好ましい実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji,K.et al.,(2009),Nature,458:771-775、Woltjen et al.,(2009),Nature,458:766-770、WO 2010/012077)。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルスおよび牛乳頭腫ウイルス(Bovine papillomavirus)の起点とその複製に関わる配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA-1およびoriP、または、Large TおよびSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201およびWO 2009/149233)。また、2種またはそれ以上の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させることができる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列と配列の間は、IRESまたは口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい(Science,322:949-953,2008、WO 2009/092042およびWO 2009/152529)。
【0028】
核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat.Biotechnol.,26(7):795-797(2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例えば、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-アザシチジン(5’-azacytidine))(Nat.Biotechnol.,26(7):795-797(2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294(Cell Stem Cell,2:525-528(2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human)(Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-チャネルカルシウムアゴニスト(L-channel calcium agonist)(例えばBayk8644)(Cell Stem Cell,3,568-574(2008))、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)(Cell Stem Cell,3,475-479(2008))、Wntシグナル伝達活性化因子(例えば可溶性Wnt3a)(Cell Stem Cell,3,132-135(2008))、LIFまたはbFGFなどの増殖因子、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat.Methods,6:805-8(2009))、有糸分裂活性化プロテインキナーゼシグナル伝達(mitogen-activated protein kinase signaling)阻害剤、グリコーゲンシンターゼキナーゼ(glycogen synthase kinase)-3阻害剤(PloS Biology,6(10),2237-2247(2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA(R.L.Judson et al.,Nat.Biotech.,27:459-461(2009))、等を使用することができる。
【0029】
薬剤によって核初期化物質の内在性のタンパク質の発現量を上昇させる方法に使用される。そのような薬剤としては、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム、インジルビン-5-ニトロ-3’-オキシム、バルプロ酸、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、1-(4-メチルフェニル)-2-(4,5,6,7-テトラヒドロ-2-イミノ-3(2H)-ベンゾチアゾリル)エタノンHBr(pifithrin-alpha)、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンJ2およびプロスタグランジンE2)等が例示される(WO 2010/068955)。
【0030】
また、樹立効率を高めることを目的として、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、神経ペプチドY、UTF1、IRX6、PITX2、DMRTBl等を用いてもよい。
【0031】
核初期化物質等の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0032】
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1)10~15%FBS(ウシ胎児血清)を含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2)bFGFまたはSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)または霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒトまたはサル)ES細胞用培地(販売先:リプロセル、京都、日本)、mTeSR-1)、などが含まれる。
【0033】
培養法の例としては、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培地中で体細胞と核初期化物質(DNA、RNAまたはタンパク質)を接触させ約4~7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30~約45日またはそれ以上ののちにES細胞様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5~10%と低い酸素濃度の条件下で培養してもよい。
【0034】
あるいは、上記細胞を、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞またはSNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、b-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25~約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを形成させることができる。フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外マトリックス(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法も例示される。
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ(100cm2)あたり約5 x 103~約5 x 106細胞の範囲である。
【0035】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。マーカー遺伝子として、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子を含むDNAを用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(すなわち、選択培地)で細胞の培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞(すなわち、樹立したiPS細胞)を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、または、発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞(すなわち、樹立したiPS細胞)を検出又は選択することができる。
【0036】
本明細書中で使用する「体細胞」は、生殖細胞以外のいかなる細胞(好ましくは、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタおよびラット)細胞)であってもよい。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞もしくは幹細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な幹細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0037】
iPS細胞および/またはそれらから分化誘導した細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、HLAの型が「実質的に同一」とは、細胞を移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLA遺伝子型が一致していることをいう。例えば、主たるHLA(例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座、あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる。
【0038】
EG細胞とは、精原細胞に由来する多能性幹細胞である(参考文献:Nature. 2008, 456, 344-49)。EG細胞は、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y.Matsui et al.(1992),Cell,70:841-847;J.L.Resnick et al.(1992),Nature,359:550-551)。
【0039】
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES(nuclear transfer ES)細胞である。ntES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0040】
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M.Kanatsu-Shinohara et al.(2003)Biol.Reprod.,69:612-616; K.Shinohara et al.(2004),Cell,119:1001-1012)。精子幹細胞は、神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF))を含む培地で自己複製可能であるし、ES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41~46頁,羊土社(東京、日本))。
【0041】
Muse細胞とは、間葉系細胞から分離される多能性幹細胞である(参考文献:Proc Natl Acad Sci USA. 2010, 107, 8639-43)。WO2011/007900に記載された方法にて製造することができ、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
【0042】
本発明においては、多能性幹細胞以外の「巨核球への分化能を有する細胞」からインビトロで分化誘導された巨核球および血小板を用いてもよい。例えば、造血幹細胞に由来する細胞であって分化誘導条件によっては巨核球へ分化することができる細胞を出発材料として用いることができる。その例として、造血幹細胞、造血前駆細胞、CD34 陽性細胞、巨核球細胞・赤芽球前駆細胞(MEP)、巨核球前駆細胞などが挙げられる。巨核球への分化能を有する細胞は公知の方法で得ることができ、例えば骨髄、臍帯血、末梢血等から単離するほか、ES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導することもできる。巨核球への分化能を有する細胞として造血前駆細胞を使用する場合、本発明の培養工程前に予め、癌遺伝子(例えばc-MYC遺伝子)およびアポトーシス抑制遺伝子(例えばBCL-xL遺伝子)、癌遺伝子(例えばc-MYC遺伝子)およびポリコーム遺伝子(例えばBMI1遺伝子)、または癌遺伝子(例えばc-MYC遺伝子)、ポリコーム遺伝子(例えばBMI1遺伝子)およびアポトーシス抑制遺伝子(例えばおよびBCL-xL遺伝子)を細胞に導入してもよい(WO2014/123242、WO2011/034073、WO2012/157586、US2016/002599、US2012/238023、US2014/127815)。
【0043】
本発明の凍結乾燥製剤は、巨核球および血小板を含むことを特徴とする。本発明の凍結乾燥製剤において、巨核球および血小板の混合比率は所望の比率で混合することができる。巨核球および血小板の混合比率とは具体的には、巨核球および血小板の個数の比率で表される。本発明において、巨核球および血小板の個数の比率は特に制限されるものではないが、例えば1×106個の血小板に対し、1×103~1×105個の巨核球(不死化巨核球株)、好ましくは1×106個の血小板に対し、1×103~5×104個の巨核球(不死化巨核球株)、より好ましくは1×106個の血小板に対し、2×103~1×104個の巨核球(不死化巨核球株)、さらに好ましくは1×106個の血小板に対し、2×103~5×103個の巨核球(不死化巨核球株)が含まれる。より、詳細には、本発明の凍結乾燥製剤は、2-3 x 106個の血小板に対し、5-6 x 103個から最大104個の巨核球(不死化巨核球株)を含むことができる。更なる局面において、本発明の凍結乾燥製剤に含まれる巨核球と血小板の個数の比率は、1×103個の巨核球(不死化巨核球株、成熟巨核球等)に対して、2×102~1.5×104個の血小板、好ましくは1.1×103~1.5×104個の血小板である。更なる局面において、特に限定されないが、本発明の凍結乾燥製剤に含まれる巨核球の個数は、一例として、同一製剤に含まれる血小板の個数の3%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり得る。本発明の凍結乾燥製剤に含まれる巨核球の個数の上限値は、特に限定されないが、一例として、同一製剤に含まれる血小板の個数の500%以下、好ましくは100%以下、より好ましくは50%以下であり得る。
【0044】
本発明の凍結乾燥製剤は巨核球および血小板を含むが、血小板と巨核球の混合比率は所望の比率に調整することができる。所望の比率で調整する手法としては、多能性幹細胞、例えばiPS細胞からの分化誘導段階のどの時点で凍結乾燥するかで、製剤中における巨核球および血小板の比率を、血小板に対して巨核球が大なのか、血小板に対して巨核球が小なのかを調整できる。あるいは、血小板が放出される前の段階、すなわち巨核球のみの段階で回収したものと、放出された血小板のみを分離・回収したものを用意しておき、所望の比率で混合することもできる(例えば、WO2009/122747、US2011/053267)。当業者であれば任意の方法で、例えば培養液の一部分を採取して観察することにより、巨核球から血小板が放出されているかどうかを判別することができる。また、放出された血小板を任意の方法で回収することもできる。したがって、巨核球のみ、あるいは血小板のみを回収し、それらを任意の比率で混合して得た混合液を本発明の製剤に用いることができる。あるいは、任意の方法で、例えば培養液の一部分を採取して観察することにより、巨核球および血小板を任意の比率で含む混合物を回収し、それを本発明の製剤の作製に用いることもできる。
【0045】
本発明の凍結乾燥製剤に含まれる巨核球および血小板は、生存している細胞であっても、生存していない細胞であってもよい。さらに、本発明の凍結乾燥製剤は、調製における活性化またはその後の凍結乾燥により、巨核球および血小板が破砕されている可能性もあるが、このような凍結乾燥製剤も、本発明の巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤に含まれる。
【0046】
本発明の凍結乾燥製剤は、インビトロでiPS細胞から分化誘導された不死化巨核球株を血小板へ分化誘導して調製することができる(Cell Stem Cell 14, 535-548, April 3, 2014/WO2012/157586、US2014/127815)。本発明の目的のひとつに、自己血漿由来のPRPおよび凍結乾燥PRPにおける成長因子等の成分および量におけるロット差が大きく、ロット毎に効果が一定でない点を解消することである。一般に、再生医療の普及には目的とする細胞の大量供給システムの構築が重要である。本発明では、一定の確度で効果を保証するため、幹細胞から有効成分を調製するが、大量供給システムとして、iPS細胞および不死化巨核球株をストックしておき、これらを血小板に分化誘導するビジネスが可能となる。また、ストックしてある不死化巨核球株を第三者が入手し、これを血小板へ分化させる可能性もある。このように、本発明の調製工程においては、出発原料として、幹細胞(例:多能性幹細胞(iPS細胞等)、造血幹細胞)のみならず、インビトロで幹細胞から分化誘導された不死化巨核球株を利用し、血小板を分化誘導することもできる。このように、インビトロで幹細胞(例:多能性幹細胞(iPS細胞等)、造血幹細胞)から分化誘導された不死化巨核球株を出発材料として使用し、この不死化巨核球株を更にインビトロで分化誘導することにより得られた巨核球および血小板も「インビトロで幹細胞から分化誘導された巨核球および血小板」に含まれるものとする。
【0047】
本発明の凍結乾燥製剤は、巨核球および/または血小板から放出される成長因子をさらに含有していてもよい。本発明における成長因子には、骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein)、例えばBMP2、BMP4、BMP7;血小板由来増殖因子(Platelet-Derived Growth Factor:PDGF)、例えばPDGF-BB;血小板由来血管形成因子(Platelet-Derived Angiogenesis Factor:PDAF);トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor:TGF)、例えばTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3;血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF);上皮細胞増殖因子(Epidermal Growth Factor:EGF);線維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth factors:FGF)、例えばBasic FGF;肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF);血小板由来内皮細胞増殖因子(Platelet-Derived Endothelial Cell Growth Factor:PD-ECGF) ;インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor:IGF);および血小板因子IV(Platelet Factor IV:PF4)の中から選ばれる少なくとも一つが含まれる。好ましい態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、少なくともBMP2および/またはBMP4を含有する。これらの成長因子は、巨核球および/または血小板の活性化により、あるいは凍結乾燥による巨核球および/または血小板の破砕により、巨核球および/または血小板から放出されるため、本発明の凍結乾燥製剤は、巨核球および血小板、ならびにこれら成長因子の混合物を構成し得る。好ましい態様では、本発明の凍結乾燥製剤は、BMP2および/またはBMP4を含み、これに加えて他の成長因子、例えばPDGF、PDAF、TGF、VEGF、EGF、FGF、HGF、PD-ECGF、IGFおよびPF4等の中から選ばれる1または複数の因子をさらに含むことができ、それにより、より優れた効果を発揮することができる。
【0048】
好ましい本発明の凍結乾燥製剤としては、BMP-2が高い血小板/巨核球混合物と、BMP-4が高い血小板/巨核球混合物を、所望の比率で混合している製剤が挙げられる。
【0049】
本発明の製剤には、これら成長因子が有効成分として複数含有される。これら成長因子は安定であるから、水や生理食塩水等に溶解または懸濁し、低温保存しても使用でき、凍結乾燥しておき、用時に水や生理食塩水等に溶解または懸濁して使用できる。なお、活性化した巨核球および/または血小板から放出された成長因子の方が、有効成分として重要であるため、例えば巨核球および/または血小板を残存させたままで、または血小板を濾別して製剤として、対象に投与することも可能である。
【0050】
本発明の凍結乾燥製剤には、当業者に周知の凍結乾燥製剤に一般的に使用される安定化剤、pH調整剤、等張化剤、賦形剤など、あるいは血漿が含まれていてもよい。凍結乾燥製剤に使用される安定化剤としては、糖類、例えばショ糖,トレハロースなど、糖アルコール類、例えばソルビトールなど、アミノ酸類、例えばL-アルギニンなど、水溶性高分子、例えばHES,PVPなど、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベートなどが挙げられる。pH調整剤としては、リン酸ナトリウム緩衝液、ヒスチジン緩衝液などが、等張化剤としては、塩化ナトリウムなどが、賦形剤としては、マンニトール、グリシンなどが挙げられる。
【0051】
本発明の凍結乾燥製剤は、幹細胞からインビトロで分化誘導された巨核球および血小板を含むことを特徴とし、多血小板血漿(PRP)同様、組織修復能を有している。従って、本発明の凍結乾燥製剤は、皮膚科、形成外科、歯科領域、そして整形外科領域において広くその効果が期待され、例えば、皮膚科の難治性皮膚潰瘍や褥瘡(床ずれ)、やけど、糖尿病の患者の壊疽、歯科の歯槽骨や歯肉の再生促進、および骨癒合促進という用途に使用できる。また、本発明の凍結乾燥製剤は、軟骨や筋肉の損傷部位に,外科手術の際に患部に、変形性関節症やリウマチ、半月板損傷、上腕骨外側上顆炎の患部に、また、顔や首などの皮膚のしわ改善や発毛促進のために投与することができる。
【0052】
<凍結乾燥製剤の調製方法>
本発明は、さらなる態様として、巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤を調製する方法であって、
(A)血小板および巨核球の細胞混合液、具体的には血小板および、インビトロにおいて幹細胞から分化誘導された不死化巨核球の細胞混合液を調製し、好ましくは、得られた細胞混合液を活性化し、および
(B)血小板および巨核球の細胞混合液を凍結乾燥する、ことを特徴とする方法に関する。
【0053】
工程(A)にて使用する血小板は、インビトロにて幹細胞から分化誘導された血小板である。好ましくはインビトロにて幹細胞から分化誘導された巨核球から分化誘導された血小板が好ましい。巨核球は、公知の方法により、幹細胞、好ましくは造血幹細胞またはiPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導することができる(WO2012/157586、US2014/127815、Nakamura, Eto, et al. Cell Stem Cell 14, 535-548, April 3, 2014)。巨核球から血小板を分化培養した後の培養物中には、通常、血小板および巨核球が含まれるので、これを血小板および巨核球の細胞混合液とすることができる。次いで、遠心分離などにより、細胞と培養上清とを分離し、選ばれる細胞部分をピペッティング等にて分散させ、次いで、好ましくは、細胞を活性化させる。これらはすべて、無菌的に行うのが好ましい。
【0054】
工程(A)において、細胞混合液(血小板および巨核球)を活性化する場合、刺激の手法としては、トロンビン、CaCl2、TXA2、エピネフリン、ADP が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、CaCl2、またはトロンビンとCaCl2との組み合わせが用いられる。これにより血小板および/または巨核球中に含まれる成長因子が細胞外へ放出される。
【0055】
工程(B)では、当業者に良く知られている凍結乾燥機を利用し、凍結乾燥を行う。凍結乾燥なる手法に特に拘るものでなく、水分を留去するすべての手法を適用することができる。従って、本発明の凍結乾燥製剤には、凍結乾燥なる手法を経ずに、任意の手法により水分が除去されている製剤が包含される。
【0056】
本発明の凍結乾燥製剤を調製する手法は以下に詳述するが、一例では、(a)血小板と不死化巨核球の細胞混合液の活性化、および(b)血小板と不死化巨核球の細胞混合液の凍結乾燥処理の2工程を実施する:
(a)血小板と不死化巨核球の細胞混合液の活性化
105細胞/mlオーダーでの不死化巨核球の分化培養で得た培養後6~7日目の血小板と、不死化巨核球の細胞混合液を900rpm(170G)、15分の条件下で遠心分離した後、培養上清を廃棄する。次に、細胞濃度が培養時の10倍となるように、遠心沈渣に対して培養上清の1/10量の滅菌済み0.1%CaCl2 in Tyrode bufferを添加する。これをピペッティングにて、前記血小板と不死化巨核球の細胞混合液を緩くほぐし、そのままインキュベータ中で37℃で1時間反応させ、血小板と巨核球を無菌的に活性化させる。
(b)血小板と不死化巨核球の細胞混合液の凍結乾燥処理
前記活性化された血小板と不死化巨核球の細胞混合液をメンブレンフィルター付きの無菌培養容器に移し、これを凍結乾燥処理用サンプルとする。凍結乾燥処理用サンプルを、まず共晶点以下の-60℃にて、1昼夜以上かけて十分に予備凍結する。次に予め-45℃以下に設定した凍結乾燥機(EYELA FDU-1200)に供し、バキュームポンプによる減圧で1昼夜以上かけて凍結乾燥処理し製剤を作成する。
【0057】
本発明の凍結乾燥製剤には、当業者に周知の凍結乾燥製剤に一般的に使用される安定化剤、pH調整剤、等張化剤、賦形剤など、あるいは血漿を添加することができる。凍結乾燥製剤に使用される安定化剤としては、糖類、例えばショ糖,トレハロースなど、糖アルコール類、例えばソルビトールなど、アミノ酸類、例えばL-アルギニンなど、水溶性高分子、例えばHES,PVPなど、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベートなどが挙げられる。pH調整剤としては、リン酸ナトリウム緩衝液、ヒスチジン緩衝液などが、等張化剤としては、塩化ナトリウムなどが、賦形剤としては、マンニトール、グリシンなどが挙げられる。
【0058】
本発明の凍結乾燥製剤を調製する別の例では、本発明における多能性幹細胞を自体公知の方法で)多能性造血前駆細胞に分化誘導したのち、前述の一連の遺伝子(c-MYC/BMI1/BCL-xL等)を例えばドキシサイクリン依存的に発現が制御可能なベクターによって細胞導入して製造する不死化巨核球細胞株を、ドキシサイクリン存在下で(即ち、c-MYC/BMI1/BCL-xL等を発現させた状態で)培養することにより増殖させ、次にドキシサイクリンを除いた培地条件にて(即ち、c-MYC/BMI1/BCL-xL等の発現を停止した状態で)培養することにより、不死化巨核球細胞株から血小板への分化が誘導される(培地条件:例えば、WO2012/157586、US2014/127815、Nakamura, Eto, et al. Cell Stem Cell 14, 535-548, April 3, 2014、WO2019/009364)。この条件の培養物中には依然、不死化巨核球株が残存する(一例として、2-3 x 105/mlの不死化巨核球株を播種し、ドキシサイクリン除去の血小板製造培地条件に付す。フラスコでは2-3 x 106/ml程度の血小板が産生される。1個の不死化巨核球細胞株あたり、10-15個の血小板が産生される。1つのフラスコにつき、5-6 x 103から104/ml程度の不死化巨核球細胞株が残存する。)。例えば、分化誘導(ドキシサイクリン除去)後4日目以降(例、4日目、5日目、6日目、7日目)に細胞培養物(血小板と不死化巨核球株の混合物)を回収する。得られた血小板と不死化巨核球株の混合物を活性化する(例、CaCl2 1mM+トロンビン1U)ことにより、活性化された巨核球および血小板を含む混合物を得ることができる。
【0059】
上述の通り、本発明の凍結乾燥製剤は、巨核球および血小板に加え、巨核球および/または血小板から放出される成長因子をさらに含有し、混合物を構成し得る。これらの成長因子は、巨核球および/または血小板の活性化により、あるいは凍結乾燥による巨核球および/または血小板の破砕により、巨核球および/または血小板から放出される。本発明における混合物は、多能性幹細胞由来の巨核球および/または血小板を刺激し、成長因子を放出させ、それにより調製することができる。刺激の手法としては、トロンビン、CaCl2、TXA2、エピネフリン、ADP が挙げられる。
【0060】
好ましい本発明の凍結乾燥製剤の調製方法としては、BMP-2が高い血小板/巨核球混合物と、BMP-4が高い血小板/巨核球混合物を、所望の比率で混合して調製する方法が挙げられる。
【0061】
本発明の凍結乾燥製剤を調製するさらなる別の例として、以下を挙げることができる。
ア.本発明で使用される巨核球および/または血小板は、ヒト由来のES細胞あるいはiPS細胞を、C3H10T1/2細胞またはOP9細胞などのフィーダー細胞上に播き、例えば、VEGF存在下、14~17日間培養する造血前駆細胞の分化誘導に適した条件で培養して得られる、造血前駆細胞を内包するネット様構造物の産生能力の高いES細胞あるいはiPS細胞クローンを選択し、該ES細胞あるいはiPS細胞クローンが産生するネット様構造物の隔壁を形成する細胞と造血前駆細胞を分離し、得られた造血前駆細胞をフィーダー細胞上に播き、巨核球および/または血小板の分化誘導に適した条件で培養することで、調製することができる(WO2009/122747)。また、巨核球および/または血小板は、ヒト由来のES細胞あるいはiPS細胞を液体培養することで、胚様体の内部に造血前駆細胞を形成させ、該胚様体を、例えば5~7日間、TPOおよびSCFの存在下、さらに培養することで、調製することができる(同上)。
【0062】
イ.本発明で使用される成熟巨核球細胞および/または血小板は、ヒトES細胞またはiPS細胞から分化誘導された細胞、例えば多核化前の巨核球前駆細胞を増幅するために、MYCファミリー遺伝子などの外来の癌遺伝子、または、癌遺伝子およびBMI1などのポリコーム遺伝子を導入し、該癌遺伝子または、該癌遺伝子および該ポリコーム遺伝子を強制発現させることによって、調製することができる(WO2011/034073、WO2011/034073、特開2015-130866)。
【0063】
ウ.本発明で使用される多核化巨核球細胞は、多核化前の巨核球細胞において、BCL-XL遺伝子などのアポトーシス抑制遺伝子を強制発現させ、(a) ブレビスタチンなどのアクトミオシン複合体機能阻害剤による処理、(b) Y27632などのROCK阻害剤による処理、(c) StemRegenin (SR)-1(4-(2-(2-(ベンゾ[b]チオフェン-3-イル)-9-イソプロピル-9H-プリン-6-イルアミノ)エチル)フェノール)などの芳香族炭化水素受容体(アリールハイドロカーボン受容体; AhR)アンタゴニストによる処理、または(d) バルプロ酸などのHDAC阻害剤による処理を行いつつ、該細胞を培養することで、調製することができる(WO2012/157586、特開2019-026591)。本発明で使用される血小板は、ここで得られた多核化巨核球細胞を、前記アポトーシス抑制遺伝子の強制発現を抑制し、または、前記アポトーシス抑制遺伝子を細胞から除去し、ROCK阻害剤および/またはアクトミオシン複合体機能阻害剤を加えた培地において、培養を行うことで、調製することができる(同上)。
【0064】
エ.本発明で使用される血小板は、(a)培養液が通過可能な多孔構造を有する保持部に巨核球を保持すること:および(b)前記保持部の一方側に設けられた前室部から、前記保持部の他方側に設けられた流路部へ、前記保持部を介して前記培養液を通過させながら前記巨核球を培養することにより、巨核球から調製することができる(特開2013-031428)。
【0065】
オ.本発明で使用される巨核球細胞は、多能性幹細胞をVEGFが含有されている培養液中でC3H10T1/2細胞上で培養し、造血前駆細胞に分化誘導し、得られた造血前駆細胞においてアポトーシス抑制遺伝子および癌遺伝子を強制発現させて培養し、得られた細胞について、アポトーシス抑制遺伝子および癌遺伝子の強制発現を止めて培養することで、調製することができる(WO2014/123242、US2016/002599)。本発明で使用される血小板は、ここに得られた巨核球の培養物から回収することで、調製することができる(同上)。
【0066】
カ.本発明で使用される巨核球細胞は、ABCトランスポーターのCファミリーの阻害剤、例えば、プロベネシドなどのABCトランスポーター阻害剤を含む培養液中で、例えば多能性幹細胞由来の造血前駆細胞から製造された未熟巨核球を培養することで調製することができる(再表2014/168255)。
【0067】
キ.本発明で使用される巨核球は、巨核球特異的に発現する遺伝子を発現しない細胞が致死する条件下、巨核球または巨核球への分化能を有する細胞を含む細胞群を培養することにより、巨核球または巨核球前駆細胞を含む培養物を調製することにより、調製することができる(WO2016/143836、US2018/044634)。本発明で使用される血小板は、ここに得られた巨核球を用いることで、調製することができる(同上)。
【0068】
ク.本発明で使用される血小板は、1または複数の芳香族炭化水素受容体(アリールハイドロカーボン受容体; AhR)アンタゴニストと1または複数のROCK(Rho結合キナーゼ)阻害剤とを含む、機能性の高いの血小板産生促進剤と巨核球細胞またはその前駆細胞とを接触させることにより、調製することができる(WO2016/204256)。
【0069】
ケ.本発明で使用される巨核球および/または血小板は、IL-1αの存在下で巨核球または血小板の前駆細胞を培養し、産生される巨核球または血小板を採取することにより、調製することができる(特開2017-122049)。
【0070】
コ.本発明で使用される血小板は、Wnt阻害剤およびFLT阻害剤から成る群より選択される1または複数の物質を含む血小板産生促進剤と、巨核球細胞および/またはその前駆細胞とを接触させる工程を含む培養法により、調製することができる(WO2017/131230)。
【0071】
サ.本発明で使用される血小板は、受容体型チロシンキナーゼ阻害剤、バニロイド受容体阻害剤、PDGFR阻害剤、TrioN阻害剤、SIRT2阻害剤、H+,K+-ATPase阻害剤、ベンゾジアゼピン逆作動薬および神経発生促進剤からなる群より選択される1または複数のAhRアンタゴニストを含む血小板産生促進剤と、巨核球細胞および/またはその前駆細胞とを接触させる工程を含む培養法により、調製することができる(特開2019-026591)。
【0072】
シ.本発明で使用される血小板は、血小板産生培地中の巨核球細胞を培養する工程を含む血小板の製造方法であって、前記培養する工程が、撹拌翼を用いて容器内の前記血小板産生培地を撹拌する工程を含み、撹拌する工程が、以下:(a)約0.0005m2/s2~約0.02m2/s2の乱流エネルギー;(b)約0.2Pa~約6.0Paの剪断応力;および(c)約100μm~約600μmのコルモゴロフスケールから選択される1以上の指標を充足するように、前記撹拌翼を往復動させることを含む、血小板の製造方法により、調製することができる(WO2019/009364)。
【0073】
<医薬組成物>
本発明はさらなる別の態様として、本発明の凍結乾燥製剤を含む、医薬組成物に関する。
本発明の凍結乾燥製剤は、血液から調製された多血小板血漿(PRP)やその凍結乾燥製剤と同様に、組織修復能を有している。従って、本発明の医薬組成物は、皮膚科、形成外科、歯科領域、そして整形外科領域において広くその効果が期待され、例えば、皮膚科の難治性皮膚潰瘍や褥瘡(床ずれ)、やけど、糖尿病の患者の壊疽、歯科の歯槽骨や歯肉の再生促進、および骨癒合促進という用途に使用できる。また、本発明の医薬組成物は、軟骨や筋肉の損傷部位に,外科手術の際に患部に、変形性関節症やリウマチ、半月板損傷、上腕骨外側上顆炎の患部に、また、顔や首などの皮膚のしわ改善や発毛促進のために投与することができる。本発明の凍結乾燥製剤は、BMP2および/またはBMP4を豊富に含むので、上述の用途のなかでも、とりわけ骨癒合を促進する用途、または皮膚疾患を処置もしくは予防する用途に好適に用いられる。好ましくは本発明の凍結乾燥製剤を、骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するのに有効な量で含む、本発明の医薬組成物に関する。
【0074】
骨が壊れることを骨折と言い、骨のヒビ、骨の一部分が欠け、または骨が凹んだ場合も骨折である。通常、骨折の症状として、骨とその周囲は神経と血管が豊富であるため、骨折するとその部位に痛みと腫脹が出現し、骨折がひどい場合は、動かせなくなり、外見が変形する。骨折には、骨折と同時に皮膚が破れて骨折部が露出した開放骨折、骨折部が複雑に粉砕した粉砕骨折、また、転位(ずれ)の無いヒビだけの不全骨折を含む。骨折を起こすと、骨や骨を覆う骨膜あるいは周囲の軟部組織が損傷し、出血が起こる。出血した血液の中には一定の線維が含まれ、その線維がコラーゲンやプロテオグリカンを産生・分泌する骨芽細胞を分化誘導し、骨組織の支柱となる膠原線維を形成し、骨組織を構築する。この骨組織を再構築する過程が「骨癒合」である。骨癒合は、骨癒着と同義である。
【0075】
本発明において「骨癒合を促進」とは、骨折により破壊、分離された骨片を再構築し、折れた骨組織の連続性を回復させ、骨の支持性と強度を取り戻す過程を意味する。また、本発明において「骨癒合を促進」とは、この単なる骨の支持性と強度を取り戻す過程に加え、上記自然な骨組織の再構成よりも、早期かつ適切に、骨折により破壊、分離された骨片を再構築し、折れた骨組織の連続性を回復させ、骨の支持性と強度を取り戻す過程をも意味する。
【0076】
一般に、骨折部の治癒は以下の第1期から第5期を所定の期間経て起こる。骨膜・骨髄・筋肉・血管が損傷され、血腫を作る骨折血腫期(第1期、8~10日)、増殖した組織が周囲と明らかに区別でき、線維軟骨の硬さになる初期仮骨形成期(第2期、10~25日)、初期仮骨が縮小し全体が骨になる骨芽細胞増殖期(第3期、20~60日)、海綿骨様仮骨が硬い骨に変わる硬化期(第4期、50日~6ヶ月)、および正常な骨膜に包まれた完全な骨となる改変期(第5期、4~12ヶ月)という過程を得る。
本発明における「骨癒合を促進」の「この自然な骨組織の再構成よりも、早期かつ適切に」とは、この治癒過程よりも早期かつ、確実な骨癒合を招来させる態様を意味する。
【0077】
本発明において、皮膚疾患とは、皮膚における創傷、例えば難治性皮膚潰瘍や褥瘡(床ずれ)、熱傷、糖尿病患者の下肢の壊死または壊疽を意味する。本発明の医薬組成物は、皮膚内に投与すると成長因子等の生理活性を保有する複数のタンパク質を放出し、皮膚内に毛細リンパ管を増加させ、また皮膚線維芽細胞が遊走することから、毛細リンパ管や毛細血管および皮膚新生肉芽組織を再生でき、下肢虚血時に発生する皮膚潰瘍、皮膚褥瘡、皮膚損傷等の皮膚疾患を、処置または予防できると期待される。さらには、顔や首などの皮膚のしわ改善や発毛促進のために対象に投与することもできる。
【0078】
現在、iPS細胞などの幹細胞から分化誘導される血小板から献血PRP同様の創傷治癒用製剤を作製し、その効果や安全性を検討した報告は皆無である。本発明者らは、ドナー非依存的な輸血用血小板製剤の開発を通じ(Ito Y, Nakamura S, Sugimoto N. et al, Cell, 174(3): 636-648, 2018: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30017246)、ドナーが全く見出せない再生不良性貧血患者への自家iPS細胞を原材料とするiPS人工自家血小板輸血治療法の臨床研究が開始される段階まで到達済みである。
【0079】
また、血小板は細胞核がなく、科学的には増殖しない機能細胞もしくは、薬事上、細胞断片化製剤として位置付けられており、混在する有核細胞を死滅させる等の目的で輸血製剤において適応している15-25Gy以上の放射線を照射した後に使用する。そのため、iPS細胞を用いる移植医療、再生医療において安全性が高く(癌化リスク低減等)、本発明は極めて大きなアドバンテージを有すると考えられる。
【0080】
本発明の医薬組成物の有効成分である巨核球および血小板は、幹細胞からインビトロにて分化誘導された巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤と同様に、調製することができる。幹細胞等の定義およびその調製方法等は、本発明の凍結乾燥製剤におけるそれらと同様である。本発明の医薬組成物における「骨癒合を促進するのに有効な量」の巨核球および血小板とは、骨癒合を促進できる量であれば、良く、その数値にこだわるものではない。「皮膚疾患を処置もしくは予防するのに有効な量」も同様である。敢えて例示すれば、巨核球および血小板は、1回の投与につき、血小板数として約2 x 106から約2 x 1010細胞、好ましくは約2 x 107から約2 x 109細胞の用量で、投与され得る。更なる局面において、皮膚創傷の処置のため、巨核球および血小板は、創部1cm2あたり、1回の投与につき血小板の個数として約2 x 106から約2 x 1010細胞、好ましくは約2 x 107から約2 x 109細胞(例、4.5×107細胞)で投与され得る。更なる局面において、1回の投与につき投与される巨核球の個数は、特に限定されないが、一例として、1回の投与につき投与される血小板の個数の3%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり得る。1回の投与につき投与される巨核球の個数の上限値は、特に限定されないが、一例として、1回の投与につき投与される血小板の個数の500%以下、好ましくは100%以下、より好ましくは50%以下であり得る。投与される量は、年齢、体重、対象の性別、治療される疾患・病態、およびその範囲と重症度を含む、種々の因子に依存する。
【0081】
本発明の医薬組成物は、巨核球および血小板に加え、巨核球および/または血小板から放出される成長因子をさらに含有することができる。本発明における成長因子には、骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein)、例えばBMP2、BMP4、BMP7;血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor:PDGF)、例えばPDGF-BB;血小板由来血管形成因子(Platelet-Derived Angiogenesis Factor:PDAF);トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor:TGF)、例えばTGF-β1、TGF-β2、TGF-β3;血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)、上皮細胞増殖因子(Epidermal Growth Factor:EGF)、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth factors:FGF)、例えばBasic FGF;肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor:HGF)血小板由来内皮細胞増殖因子(Platelet-Derived Endothelial Cell Growth Factor:PD-ECGF) ;インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor:IGF);および血小板因子IV(Platelet Factor IV:PF4)の中から選ばれる少なくとも一つが含まれる。好ましい態様において、本発明の医薬組成物は、少なくともBMP2および/またはBMP4を含有する。これら成長因子の定義およびその調製方法は、本発明の凍結乾燥製剤におけるそれらと同様である。
【0082】
本発明の組成物は、薬学的に許容できる担体と共に調合してもよい。例えば本発明の医薬組成物は単独で、または製剤処方成分として投与してもよい。被験化合物は、医薬に使用するための任意の都合良い方法での投与のために、調合してよい。投与に適する医薬品は、1つまたは複数の薬学的に許容可能な無菌等張水性または非水性溶液(例えば平衡塩類溶液(BSS))、分散体、懸濁液またはエマルジョン、または使用直前に、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、溶質または懸濁または増粘剤を含有してもよい無菌の注入可能な溶液または分散体に戻されてもよい無菌粉末と組み合わせることができる。
【0083】
本発明の組成物は、発熱性物質なし、または実質的発熱性物質なし、および無菌など、治療で使用するのに適する製剤であってよい。投与時に、本発明で使用される医薬は、発熱性物質なしで無菌の生理学的に許容できる形態であってよい。本発明の医薬組成物は、懸濁液、ゲル、コロイド、スラリー、または混合物中で投与されてよい。
【0084】
本発明の医薬組成物および凍結乾燥製剤のために使用される基材は次の通りである。
本発明では、典型的には、骨折患部に移植片として、本発明の医薬組成物または凍結乾燥製剤を投与するステップを含むことができる。特定の実施形態では、本発明は、生分解性ポリマー基材に分散した活性薬剤を含んでいる。生分解性ポリマーは、例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)共重合体、生分解性ポリ(DL-乳酸‐コ‐グリコール酸)フィルム、またはPLLA/PLGAポリマー基質であってもよい。ポリマー中のグリコール酸モノマーの比率は、約25/75、40/60、50/50、60/40、75/25、より好ましくは約50/50重量パーセントである。PLGA共重合体は、生体内分解性移植片の約20、30、40、50、60、70、80~約90重量%であってもよい。PLGA共重合体は、生体内分解性移植片の約30~約50重量%、好ましくは約40重量%であってもよい。本発明の医薬組成物および凍結乾燥製剤は、ポリ乳酸、ポリ(乳酸‐コ‐グリコール酸)、50:50 PDLGA、85:15 PDLGA、およびINION GTR(登録商標)生分解性膜(生体適合性ポリマー混合物)などの生体適合性ポリマーと併せて移植してもよい。Lu,et al.(1998)J Biomater Sci Polym Ed 9:1187-205;およびTomita,et al.(2005)Stem Cells 23:1579-88も参照。
【0085】
本発明は別の態様として、骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための方法であって、本発明の巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤を、そのような処置等を必要としている対象に投与することを含む方法、好ましくは、本発明の凍結乾燥製剤の有効量をそのような対象に投与することを含む方法に関する。
さらに、本発明は別の態様として、骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための本発明の巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤に関する。
本発明はさらなる別の態様として、骨癒合を促進する、または皮膚疾患を処置もしくは予防するための医薬を製造するための、本発明の巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤の使用に関する。
本明細書で使用する場合、用語「対象」または「患者」はヒトおよび非ヒト動物を意味し、非ヒト動物として、霊長類、イヌ、ネコ、小鳥等に代表される愛玩動物、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ブタ、ウマ、ヒツジおよびウシが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、対象または患者はヒトおよび愛玩動物であり、より好ましくはヒトである。
【0086】
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
【0087】
以下、本発明を実施例により、詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでなく、単なる例示であることに留意すべきである。
【実施例
【0088】
参考例1
不死化巨核球の樹立および血小板への分化誘導
Cell Stem Cell. 2014 Apr 3;14(4):535-48にて樹立された不死化巨核球株から血小板を分化誘導した。即ち、購入した胎児繊維芽細胞にセンダイウイルスにて山中4因子を導入して作製したiPS細胞株Sev2を既報(Takayama et al., Blood 111, 5298-5306 (2008);Takayama et al., J Exp Med 207, 2817-30, 2010)に従い、CH3T10T1/2細胞上でVEGF存在下11~14日間培養し、Sac法にて多能性造血前駆細胞を獲得した。この多能性造血前駆細胞に、c-MYCおよびBMI-1をレンチウイルスベクター由来ウイルス(2種類)を用いて感染させた。さらに増殖中の本細胞集団にBCL-xL遺伝子を導入し、1ヶ月以上にわたってCD41a/CD42b発現を維持したまま増殖する細胞集団を獲得した。これを不死化巨核球細胞株(imMKCL)と称する。imMKCL Clone 7を以下の試験に使用した。imMKCL Clone 7を、ドキシサイクリン存在下で(即ち、c-MYC/BMI-1/BCL-xLを発現させた状態で)培養することにより増殖させ、次にドキシサイクリンを除いた培地条件にて(即ち、c-MYC/BMI-1/BCL-xLの発現を停止した状態で)6~7日培養することにより、血小板への分化を誘導した。培養条件はCell Stem Cell. 2014 Apr 3;14(4):535-48に従った。
【0089】
実施例1
巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤の調製
実施例1-1:血小板および不死化巨核球の細胞混合液の活性化
2.0 x 105細胞/mlの不死化巨核球細胞株Clone 7 (別名称、Sev2クローン:Nakamura et al., Cell Stem Cell. 2014 Apr 3; 14 (4):535-48; Ito Y, Nakamura S, et al., Cell 174(3): 636-648, 2018)(25 ml x 5、125 ml三角フラスコ)をドキシサイクリン不在下での上記の分化培養方法(Ito Y, Nakamura S, et al., Cell 174(3):636-648, 2018))で得た液体培養後6~7日目の血小板と不死化巨核球の細胞混合液(120 ml)を900rpm(170G)、15分の条件下で遠心分離した後、培養上清を廃棄した。次に細胞濃度が培養時の10倍となるように、遠心沈渣に対して培養上清の1/10量の滅菌済み0.1%CaCl2 in Tyrode buffer(12 ml)を添加した。ピペッティングにて遠心沈査を緩くほぐし、血小板と不死化巨核球の細胞混合液を得、そのままインキュベータ中、37℃で1時間反応させ、血小板と巨核球を無菌的に活性化した。これにより、血小板および不死化巨核球の細胞混合液(無菌)を得た。
【0090】
実施例1-2:血小板と不死化巨核球の細胞混合液の凍結乾燥処理
実施例1-1にて調製した、血小板および不死化巨核球の細胞混合液(無菌)を凍結乾燥用のチューブに分注し(1ml x 9本および750μl x 4本)、メンブレンフィルター付きの無菌培養容器に移し、これを凍結乾燥処理用サンプルとした。この凍結乾燥処理用サンプルを、まず共晶点以下の-60℃にて、1昼夜以上かけて十分に予備凍結した。次に、予め-45℃以下に設定した凍結乾燥機(EYELA FDU-1200)に供し、バキュームポンプによる減圧で1昼夜以上かけて凍結乾燥処理し、所望の凍結乾燥製剤を作製した。
【0091】
実施例2
巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤における骨癒合効果の確認
Shiga, et al. Sci Rep. 2016 Nov 11; 6: 36715に記載の方法に準じて、ラット腰椎固定術モデルを作成し、実施例1-2で調製したiPS細胞由来不死化巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤の骨癒合促進効果を確認した。即ち、SDラット(8週齢)を用いて、腰椎固定術モデルを作成した。第4-6腰椎棘突起レベルで皮膚を切開し、棘突起中央から1.5mm外側部で約2cm筋膜縦切開を加えた。背筋を鈍的に展開し第4-6腰椎横突起を露出させた。人工骨であるハイドロキシアパタイトコラーゲン複合体、Refit(Hoya Corporation, Tokyo, Japan)0.5mlを粉砕し、上記凍結乾燥製剤10μgと混合し、腰椎の両サイドに移植した。筋膜、皮膚を縫合し、モデル作成を終了した。術後2週、4週、6週において、レントゲン撮影で骨癒合評価を行った。
【0092】
移植2週間後のラット脊椎のレントゲン画像を図1に示す。ラット脊椎横突起間にiPS細胞由来不死化巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤を移植したところ、移植後2週間で横突起間に骨性架橋が見られた。この結果から、iPS細胞由来不死化巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤が優れた骨癒合促進効果および骨形成能を有することが示唆された。
【0093】
実施例3
製剤中の成長因子濃度測定
実施例1-2の凍結乾燥製剤の調製過程において、巨核球/血小板活性化直後、および凍結乾燥後の製剤中の成長因子濃度をELISAにより測定した。使用したキットを[表2]に示す。活性化時の巨核球細胞濃度は1 x 106 細胞/mlであった。結果を[表3]に示す。[表3]において、活性化直後(FD前)の成長因子濃度は、1mlの細胞混合液中の濃度である。また、凍結乾燥後(FD後)の成長因子濃度は、各バイアルを精製水で1mlにフィルアップした時の濃度である。凍結乾燥後も、製剤中に含有される各サイトカインの量が良好に維持された。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
実施例4
BMP2およびBMP4濃度の測定
実施例1-2の凍結乾燥製剤の調製過程において、巨核球/血小板活性化直後(FD化前)における製剤中のBMP2およびBMP4濃度を測定した。また、同じ数の血小板を含むヒト末梢血から調製したPRPを用いて実施例1-2と同様に活性化し(2個体:ヒトPRP1およびヒトPRP2)、PRP中のBMP2およびBMP4濃度を測定した。対照として、分化培地(増殖培地からドキシサイクリンを除き、SR1 750uM、Y27632 10mMおよびKP457 15mMを添加)を使用した。
【0097】
結果を図2に示す。iPS細胞由来不死化巨核球および血小板の活性化上清は、同一血小板数を含むヒト末梢血由来活性化PRPよりもBMP2およびBMP4濃度が高かった。ヒト末梢血由来活性化PRP中のBMP2およびBMP4濃度には、個体差が認められた。
【0098】
実施例5
iPS細胞由来成熟巨核球および血小板から放出されるサイトカインの検出
参考例1にて調製したiPS細胞由来不死化巨核球株 imMKCLを分化培地(増殖培地からドキシサイクリンを除き、SR1 750uM、Y27632 10mMおよびKP457 15mMを添加)中で振とう培養することにより、成熟巨核球および血小板 (MMK-PLT)を得た。MMK-PLTがヒト末梢血由来PRPと同様に創傷治癒促進サイトカインを放出するか検証した。まず分化0、4、6日目のMMK-PLTからmRNAを回収し、RT-qPCR法を用いてTGF-β1、PDGF-BB、EGFの遺伝子発現を経時的に解析した。また各MMK-PLTにCaCl2およびトロンビンを添加して活性化し、遠心分離して上清を回収した。ELISA法でこの上清に含まれるTGFβ、PDGF-BB、EGF、bFGFタンパクの濃度を測定した。
【0099】
得られた結果を図3および図4に示す。
各サイトカインの遺伝子発現は巨核球の成熟に伴い6日目まで著明に上昇していた。また、活性化により放出された各サイトカインのタンパク濃度も成熟により上昇していたが、4日目と6日目に有意差は認められなかった。これらの結果から、分化4日目以降のMMK-PLTに、各サイトカインが豊富に含まれていることが示唆された。
【0100】
実施例6
インビトロ創傷治癒アッセイ
創傷治癒の増殖期では、創部に存在する線維芽細胞によりコラーゲンなどの細胞外マトリックスが構築される。MMK-PLTがヒト初代培養線維芽細胞の増殖能に与える影響を解析した。
詳細には、ヒト初代培養線維芽細胞の培養液 (無血清) 中に、実施例5にて調製した活性化MMK-PLT(6日目)上清を添加し、3および5日目の細胞数を測定した。何も投与していない対照群およびポジティブ対照としてのFBS投与群との比較を行った (n=3)。
【0101】
得られた結果を図5に示す。
MMK/PLT投与群では対照群と比較し、有意に細胞数が増加した。また、5日間培養を続けると、FBS投与群では増殖能が低下したが、MMK/PLT投与群では増殖が継続し細胞数に有意差を認めた。
【0102】
実施例7
インビボ創傷治癒アッセイ
MMK-PLTが実際に創傷治癒を促進するか、動物モデルを用いて検証した。
詳細には、免疫不全マウス (NOD/SCID IL2R欠損) (日本クレアより入手)の左右背部に6mm大の皮膚全層欠損を作製した。分化5日目のMMK-PLT(実施例5に記載のようにして調製)を回収し、分化培養開始時の不死化巨核球株細胞数として8×105個の細胞を皮膚欠損周囲に皮下注射した。また、分化培養開始時の不死化巨核球株細胞数として2×105個を基底膜マトリックス製剤と混和して創面に塗布し、ポリウレタンフィルムでドレッシングした。1つの創部に対する合計投与量は、分化培養開始時の不死化巨核球株細胞数として1×106個であり、これは創部1cm2あたり分化培養開始時の不死化巨核球株細胞数として3×106個の投与量に相当する。実施例10の表5より、投与時(分化5日目)においては、1つの創部に対して約2.2×106個の巨核球および約1.5×107個の血小板(創部1cm2あたり約6.6×106個の巨核球及び約4.5×107個の血小板)が投与されたと見積もられる。創部の収縮を予防するため、シリコンゴム製リングを周囲に縫着した。創面の大きさを3日おきに10日間測定し、その縮小率を解析した。PBS投与群を対照として比較した (n=4)。
【0103】
得られた結果を図6に示す。
MMK/PLT投与群ではPBS群と比較し、創面積の縮小率が高い傾向にあり、7日目では有意差を認めた。この結果から、MMK/PLTが創傷治癒を促進する可能性が示唆された。
【0104】
実施例8
巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤の調製2
実施例1とは異なるiPS細胞株(MKCL21#)から分化誘導した不死化巨核球細胞株(NC13X)を用いた。2.3 x 107個のNC13X細胞を、実施例1と同様にドキシサイクリン不在下での分化培養(Ito Y, Nakamura S, et al., Cell 174(3):636-648, 2018))に付した。分化6日目の血小板と巨核球の細胞混合液を遠心分離に付して、培養上清を廃棄し、得られた血小板と巨核球の混合物に滅菌済み0.1%CaCl2 in Tyrode buffer(23 ml)を添加した。37℃で1時間インキュベートすることにより、血小板と巨核球を無菌的に活性化した。活性化した血小板と巨核球の混合液を実施例1-2と同様に凍結乾燥処理に付し、凍結乾燥製剤を得た。
【0105】
得られた凍結乾燥製剤を蒸留水で、分化培養開始時のNC13X細胞として1.0 x 106細胞/ml の濃度に希釈して、PDGF、FGF、TGF-βおよびVEGF濃度をELISAにて測定した。結果を[表4]に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
この結果から、得られた凍結乾燥製剤は、主要なサイトカインを十分量含有することが示唆された。
【0108】
実施例9
巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤における骨癒合効果の確認2
実施例2と同様に、ラット腰椎固定術モデルを作成し、実施例8で調製したiPS細胞由来不死化巨核球株から作成した巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤の骨癒合促進効果を評価した。詳細には、SDラット(n=4)の腰椎横突起を露出させ、その右側へは人工骨であるハイドロキシアパタイトコラーゲン複合体、Refit(Hoya Corporation, Tokyo, Japan)のみを、左側へはRefitと実施例8の凍結乾燥製剤の混合物を、それぞれ移植し、移植5週間後に、左右の新規骨形成量をImageJで測定し比較した。その結果、iPS細胞由来不死化巨核球株から誘導した巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤を移植した側で、新規骨形成量が有意に増加した(図7)。
【0109】
この結果から、実施例2の結果と相まって、iPS細胞株の種類に関わらず、iPS細胞由来不死化巨核球株から誘導した巨核球および血小板を含む凍結乾燥製剤は、組織の修復や骨形成を促進するサイトカインを豊富に含有し、優れた骨形成能を有することが示唆された。
【0110】
実施例10
巨核球と血小板の混合比率の解析
実施例1と同様に、不死化巨核球細胞株Clone 7をドキシサイクリン不在下での分化培養(Ito Y, Nakamura S, et al., Cell 174(3):636-648, 2018))に付し、経時的に培養物中の成熟巨核球(CD41+)および血小板(CD41+CD42+)の数をフローサイトメーターで計測し、巨核球に対する血小板の割合を算出した。
【0111】
血小板への分化をフローサイトメーターでモニターした結果を図8に、成熟巨核球への分化をフローサイトメーターでモニターした結果を図9に示す。図8および図9の結果を元に、数値化したグラフを図10に示す。ここでは、分化培養後の血小板は「CD41+42+Plt」、成熟巨核球は「CD41+MK」で示している。図10の各細胞数の具体的数値を表5に示す。成熟巨核球の数は、分化0日目から6日目にかけて緩やかに増加した(図9、表5)。一方、血小板の数は、3日目までは非常に少ないが、4日目以降急激に増加した(図8、表5)。4日目においては、成熟巨核球の数と血小板の数がほぼ同数であったが、6日目においては成熟巨核球数1に対して、血小板数15であった。各フローサイトメーターおよびそのグラフの結果から算定される巨核球の数に対する血小板の数の割合を表5に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
【表6】
表6は、巨核球と血小板の個数の比率として、1×103個の巨核球に対し、2×102~1.5×104個の血小板が含まれていることを示している。
【0114】
これらの結果から、分化の進行とともに、血小板/巨核球の割合が増加し、分化日数を変化させることにより、様々な血小板/巨核球の割合を有する凍結乾燥製剤を調製することが可能であり、使用目的に応じ、分化日数を調整し得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、iPS細胞を含む幹細胞から分化誘導される血小板由来PRPを凍結乾燥保存することにより、必要時に医薬製剤として供給が可能となる。今後の展望として、完全に抗原性フリーのiPS細胞由来FD-PRPを開発し、他患者への安全使用が可能になれば、手術における用事調製が不要となり、有効な新規製剤としての汎用の可能性が格段に高まり、整形外科領域および皮膚科領域の治療を飛躍的に発展させることが期待できる。また、患者の侵襲や医療者の負担がなく、既存の製品化された材料で骨折や脊椎手術における早期の骨癒合や皮膚修復が効率的に促進できるので、これによって患者のADLおよびQOLの劇的な改善が図られ、手術による合併症の減少・緩和、入院期間の短縮による医療経済の改善などにも大きく寄与すると考えられる。その他、本発明におけるPRPの旺盛な組織修復能は、従来は治療困難であった潰瘍性難治創、そして神経損傷・脊髄損傷等についても有用である可能性があり、本発明組成物は世界的な商業産業製品に発展することが予測される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10