(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】枕
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20220415BHJP
【FI】
A47G9/10 H
A47G9/10 M
(21)【出願番号】P 2019220721
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】514088932
【氏名又は名称】藤井 正
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正
【審査官】関口 知寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-170811(JP,A)
【文献】登録実用新案第3100172(JP,U)
【文献】米国特許第06481031(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0325803(US,A1)
【文献】登録実用新案第3171130(JP,U)
【文献】特開2013-223696(JP,A)
【文献】特開2008-264010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0193493(US,A1)
【文献】特開2005-118241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/00
A47G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に配置され仰向けの後頭部を支える後頭部パッドと、
前記後頭部パッドの両横に配置され横向きの側頭部を支える回動可能な左右一対の側頭部パッドと、
前記左右一対の側頭部パッドをそれぞれ支持する、
横転した前記側頭部パッドを受け止めるストッパーを備える左右一対の支持台と、
前記左右一対の支持台それぞれに取付けられ、前
記側頭部パッドを
それぞれ回動自在
に支持する回動手段と、
前記側頭部パッドを、外側を上にし、中央に向け起立した状態に維持する起立維持手段と、
前記後頭部パッド及び前記左右一対の支持台を支持する基板と、
を備え、
前記左右一対の側頭部パッドはそれぞれ、頭を載せない状態では外側を上にし、中央に向け起立しており、寝返り時の頭部の回動に伴って前記側頭部パッドが回動し、
前記左右一対の支持台の高さは、横転した前記側頭部パッドが横向きの側頭部を支えるに適した高さに設定されていることを特徴とする枕。
【請求項2】
前記側頭部パッドは、剛性のある外枠に布状物を張った構造からな
り、前記回動手段の回動軸心を起点に起立・横転することを特徴とする請求項
1に記載の枕。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に寝返りができ、かつ仰向け横向きいずれの寝姿勢おいても睡眠に適した寝姿勢を得ることができる枕に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時は、仰向け(上向き)横向きいずれの寝姿勢にも容易に寝返りできることが必要であり、仰向け横向きいずれの寝姿勢も正しい直立姿勢をそのまま横にした姿勢が良いとされている。従って、仰向けでは、敷布団の変形を補償する程度の極低い枕が望ましく、横向きでは肩幅を補償する高さの高い枕が望まれる。特に、睡眠時無呼吸症候群の患者が仰向けで寝る場合は、低い枕で咽喉部を伸ばした寝姿勢が気道の確保によい。また、仰向け時に低い枕を使用することは、猫背が矯正され姿勢が改善される。
【0003】
横向きで寝る場合、肩幅の補償がない低い枕で寝るのは困難である(正確には肩を斜めにすることにより若干低い枕でも対応出来る)。一方、仰向けの場合は健康を犠牲にすれば、高い枕でも寝ることが出来る。従って、横向きも仰向きも同じ高さの枕を使用する場合は、横向きに適する高い枕を使用せざるを得ない。即ち、仰向けには好ましくない高い枕の使用が習慣になっているのが実情である。
【0004】
この問題の解決手段として、枕の長手方向の中央部を低く側部を高くした枕で、仰向け時には中央の低い部分を使用し、横向き時には、側部の高い部分を使用する方法がある。この枕では、横向き仰向け共に適した高さを選定できるが、次の問題がある。
【0005】
体の寝位置が変わると寒い冬季等の場合は、体の移動が少ない自転的な寝返りになる。そのため仰向きで使用する位置と横向で使用する位置が異なる枕では、寝返り時、枕を横に移動する必要がある。しかし横方向に長い枕を平行に大きく移動させることは通常困難である。
【0006】
枕の横移動が困難な場合、体を移動せざるを得ない。この移動距離、即ち上向きと横向きで使用する位置の間隔を極力の短くし、体の移動が少ない枕が望まれる。更にはこの短い間隔で、かつ仰向きと横向きの高さの差が大きい条件で、容易に頭が移り載れる枕が求められる。現状はこの要求に十分応えられる枕は存在しないのが実情である。長手方向の中央部が低く側部が高い枕とは別の手段で、横向きも仰向きも頭の高さを最適にする枕も提案されているが(例えば特許文献1参照)、広く実用されるには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者も左右の両側頭部に、横向き時の肩幅の高さを補償する厚さのパットを側頭部に装着する「側頭部装着枕」特願2018-079699号を出願している。この方法は、仰向け横向きともに最適な枕の高さ、かつ容易な寝返りが得られるが、両側頭部に横向き用のパッド、後頭部に仰向け用のパッドの装着が必須となりその煩わしさが残る。
【0009】
本発明の目的は、長手方向の中央部が低く、側部が高い枕において、容易に寝返りが出来、仰向けでは理想の低さ、横向きでは理想の高さが得られる枕を提供することである。さらには、本発明の枕を使用することにより、安眠を得るだけでなく、睡眠時無呼吸症候群の患者の気道確保を容易にし、また猫背等の姿勢の矯正をすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中央に配置され仰向けの後頭部を支える後頭部パッドと、前記後頭部パッドの両横に配置され横向きの側頭部を支える回動可能な左右一対の側頭部パッドと、前記左右一対の側頭部パッドをそれぞれ支持する、横転した前記側頭部パッドを受け止めるストッパーを備える左右一対の支持台と、前記左右一対の支持台それぞれに取付けられ、前記側頭部パッドをそれぞれ回動自在に支持する回動手段と、前記側頭部パッドを、外側を上にし、中央に向け起立した状態に維持する起立維持手段と、前記後頭部パッド及び前記左右一対の支持台を支持する基板と、を備え、前記左右一対の側頭部パッドはそれぞれ、頭を載せない状態では外側を上にし、中央に向け起立しており、寝返り時の頭部の回動に伴って前記側頭部パッドが回動し、前記左右一対の支持台の高さは、横転した前記側頭部パッドが横向きの側頭部を支えるに適した高さに設定されていることを特徴とする枕である。
【0012】
本発明の枕において、前記側頭部パッドは、剛性のある外枠に布状物を張った構造からなり、前記回動手段の回動軸心を起点に起立・横転することを特徴とする。
【0015】
本発明は、前記枕を左右にスライドさせるスライド手段を備え、前記枕を寝具に対して横方向に滑らせることを可能にすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長手方向の中央部が低く、側部が高い枕において、寝返りが容易であり、仰向け横向きいずれの寝姿勢においても理想の高さの枕が提供できる。加えて簡単構造で横方向きに平行移動可な機能を枕に備えることにより、より容易に寝返りできる枕が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態の枕1の斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の枕1の構成を説明するための図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の枕1で使用する側頭部パッド31の斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態の枕1の使用状態を示す図である。
【
図5】本発明の第1実施形態の枕1の使用状態を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態の枕2の斜視図である。
【
図7】本発明の第2実施形態の枕2の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態の枕1の斜視図である。
図2及び
図3は、本発明の第1実施形態の枕1の構成を説明するための図及び側頭部パッド31の斜視図である。
図4及び
図5は、本発明の第1実施形態の枕1の使用状態を示す図であり、
図4は、仰向けの姿勢で使用する状態を、
図5は、横向きの姿勢で使用する状態を示す。
【0019】
枕1は、仰向けの姿勢の後頭部103を支える後頭部パッド11と、横向きの姿勢の側頭部105を支える左右一対の側頭部パッド31と、左右それぞれの側頭部パッド31を支持する支持台51と、左右一対の側頭部パッド31それぞれを支持台51に回動自在に連結する回動手段と、後頭部パッド11及び左右一対の支持台51を支持する基板71とを含んでなる。
【0020】
後頭部パッド11は、仰向けの姿勢の後頭部103を支えるパッドであり、外枠13と、外枠13を覆うように取付けられ後頭部103を直接支持する布状物15とで構成される布張りパッドである。外枠13は、矩形の枠であり、後頭部103を支持できる大きさ及び剛性を有する。本実施形態では、外枠13が矩形形状であるが、この形状に限定されるものではなない。また必ずしも全周が閉じている必要もない。外枠13の内側は空間部であり、この空間部を概ね塞ぐようにして、後頭部103を支える布状物15が取付けられればよい。
【0021】
外枠13は、首115が載る部分が高くなっている。また後頭部パッド11は、後頭部103を載せたとき後頭部パッド11に作用する荷重重心が、後頭部103の最下点よりも首側になるように首115に接する部分を長くすることが好ましい。これは睡眠時無呼吸症候群の患者への対応であり、そうでない方には必ずしも必要ではない。詳細は後述する。
【0022】
布状物15は、後頭部103を支持可能に外枠13に取付けられる。外枠13に布状物15を張り後頭部103を載せると、布状物15が、接触する後頭部101の形状に馴染み撓んで支持できる。布状物15は、網目状のネット、ゴム状の伸縮性の布等も含まれ、材質も特に問われず、強度、肌触り、馴染み易さ、熱伝達率、価格等から適切なものを選択すればよい。布状物15の外枠13への取付け方法は、後述する。
【0023】
側頭部パッド31は、横向きの姿勢の側頭部105を支えるパッドであり、外枠33と、外枠33を覆うように取付けられ側頭部105を直接支持する布状物35とで構成される布張りパッドである。左右の側頭部パッド31は、通常対称の同一の形状・構造からなる。側頭部パッド31における外枠33及び布状物35の構造等は、後頭部パッド11における外枠13及び布状物15の構造等と同様に考えることができるので説明を省略する。
【0024】
支持台51は、左右それぞれの側頭部パッド31を所定の高さに支持する部材であり、左右の支持台51は通常対称の同じ形状・構造からなる。この所定の高さについては、詳細を後述する。
【0025】
支持台51は、前後(
図1のY方向)に配される一対の支持板53と、一対の支持板53をつなぐ底板55とで構成され、底板55の両端部に一対の支持板53が立設されている。一対の支持板53の上面端部には、横転した側頭部パッド31を受け止めるストッパー57が設けられている。
【0026】
側頭部パッド31は、L字型の連結具す61を介して支持台51に対して回動自在に連結される。具体的には、連結具61は、支持台51にねじ留めされ、側頭部パッド31に対しては、支持ピン63を介して回動自在に連結される。側頭部パッド31は、支持台51の後頭部パッド11側の端部に回動自在に連結される。本実施形態において、連結具61及び支持ピン63が回動手段に該当する。
【0027】
また側頭部パッド31には、支持台51に回動自在に連結された状態で、起き上がった状態(以下、起立状態)を維持する起立維持手段が設けられている。側頭部パッド31の起立状態とは、
図1に示されるように側頭部パッド31の外側を上に斜めに起立した状態をいう。起立維持手段は、起立状態の側頭部パッド31の下部と支持台51の底板55とに掛け渡された弾性体65である。
【0028】
弾性体65は、常に、側頭部パッド31の下部を支持台51側に引っ張るように付勢する。弾性体65としてはゴムバンド、スプリングが挙げられる。支持台51に支持ピン63を介して回動自在に連結された側頭部パッド31は、弾性体65により側頭部パッド31の下部が支持台51側に引っ張られることで支持ピン63を起点に回転し、側頭部パッド31の下部が支持台51に接して起立姿勢で保持される。この接する部分に凹凸を設けその高さを調整できるようにすれば、起立姿勢の角度を調整することも出来る。
【0029】
本実施形態では、支持台51と側頭部パッド31とを回動自在に連結する手段としてL字型の連結具61及び支持ピン63を使用するが、これらに代えて蝶番を用いてもよい。さらに本実施形態では、起立維持手段として弾性体65を使用するが、これらに代わりバネ蝶番を用いて支持台51と側頭部パッド31とを回動自在に、かつ側頭部パッド31が常に起立状態となるように連結してもよい。
【0030】
基板71は、後頭部パッド11及び左右の支持台51を支持する細長い板である。基板71の長手方向(
図1のX方向)の中心部に後頭部パッド11が固定され、後頭部パッド11の両側に側頭部パッド31が連結された支持台51が左右対称に固定される。
【0031】
後頭部パッド11と側頭部パッド31の間隔は、後頭部パッド11に後頭部103を載せた時、頭101及び顔110が起立状態の左右いずれの側頭部パッド31にも接しない、かつ側頭部パッド31が回動した時、後頭部パッド11に接触しない間隔である。この間隔は側頭部パッド31が上向きで水平に固定されている場合に比較し、起立状態である分短く出来る。上向きに開いて起立する角度を最適にすると後頭部パッド11と側頭部パッド31の間隔はより狭くできる。
【0032】
後頭部パッド11に仰向けで頭101を載せた状態から横向きへ寝返えると、先ず側頭部105が起立状態の側頭部パッド31に接触し、続いて頭101は側頭部パッド31も伴って回動し、高い位置で水平になった側頭部パッド31に横向きで移り載ることができる。また逆に側頭部パット31に外側に横向きで頭101を載せた状態から仰向きへ寝返えると、頭101は側頭部パッド31を伴って回動し、上向きで低い位置の後頭部パッド11に移り載ることができる。
【0033】
多くの場合、側頭部パッド31と後頭部パッド11の間隔は短いほど好ましいが、夏季の暑い時期等では、寝返りにより積極的に冷たい寝位置に変えたい場合もある。この場合は、寝返りによる頭101の移動距離に、側頭部パッド31と後頭部パッド11の間隔を合わせると都合が良い。従って、側頭部パッド31を載せた支持台51を、基板71上をX方向にスライド可能に半固定できるようにし、側頭部パッド31と後頭部パッド11との距離を最適に調整固定すると良い。
【0034】
基板71の大きさは、上記のように後頭部パッド11及び左右の側頭部パッド31が配置できる大きさがあればよい。基板71の材質、厚さは、後頭部パッド11又は側頭部パッド31に使用者100の頭101が載ったとき変形しない強度を有するものであればよい。
【0035】
ここで後頭部パッド11及び側頭部パッド31で採用する布張りパッドについて詳述する。布張りパッドにおいて、布状物を外枠に取付ける際の張力(布張力)を強くすると、布張りパッドに対する頭部101との接触面積は小さくなる。逆に布張力を弱くすれば、頭101は深く沈み込み接触面積は大きくなる。布張力の強い方の限界は、頭101と布状物35との接触面積が小さくなり面圧が高くなって頭部101に違和感が生じる場合、あるいは外枠33または布状物35の機械的強度が耐えられない場合である。逆に布張力の弱い方の限界は、頭101の一部が布状物35を介して外枠33の内側に接し、違和感が生じる場合である。
【0036】
布張力を弱くすると、より許容強度の小さい外枠33及び布状物35が使用可能となり、布状物35の外枠33への取付けも容易となる。布張力を弱くして頭101が外枠33の内側に接触し違和感が発生した場合、その外枠33の接触部を削り取れば接触は避けられる。
図3(A)は、側頭部パッド31の布状物35の一部を外枠33から外し捲った状態を示す。
図3(A)に示される側頭部パッド31の外枠33は、A部及びB部において外枠35の一部が削り取られている。さらに張力を低くすべく接触部の削り取りを繰り返すと外枠33の形状は複雑になるが、布状物35の張力はより弱くできる。この繰り返しでできる外枠33の形状の採用は、外枠33の製作の容易さと張力低減の利点とのバランスで決まる。
【0037】
布張りパッドには、次の利点がある。先ず第1は、本発明の最も重要な点は側頭部パッド31が回動することであるが、布張りバッドは、心地よく頭部を支え、かつ支持台51で回動できる薄い厚さで構成できることである。第2に、布状物35は、接触部の形状に応じて変形するため頭101の形状に合ったパッド形状が容易に得られる特性と、支持する荷重分布が概ね均一になる特性がある。第3に、頭101の形状に合ったパッド形状が容易に得られる特性から同一形状の布張りパッドが不特定使用者に広く適応でき、量産に適している。第4に、支持する荷重分布が概ね均一になる特性から違和感なく大きな荷重を支持することができる。更にこの支持荷重を増加させるには、顎及びその後の首周りも十分支持するよう側頭部パッド31を肩130に近接するまで面積を広げ、支持有効面積を増加させるとより効果的である。
【0038】
側頭部パッド31を、肩幅を十分補償する高さにすると、その高さに応じて側頭部パッド31の支持荷重は増加するが、布張りパッドでその荷重を違和感なく支えられることにより次の利点もある。側頭部パッド31の支持荷重の増加相当分、横向きの寝姿勢で肩130及び上腕周りが支える荷重が減少し、より楽な寝姿勢が得られる。また、側頭部パッド31をより高くすると後頭部パッド11との設置間隔を干渉なくより狭くできる利点もある。
【0039】
第5に布張りパッドは、布状物35の取替が容易であるから、季節の寒暖等に応じた布地、好みの柄の布等に布を取替えることができる。また布状物35は、唯一、体に直接接し汚れやすい部分であるが、取り外し随時洗濯することができる。
【0040】
側頭部パッド31の耳介107(耳たぶ)の対応は、布状物35に耳介107を通す孔40を開ける方法がある。この時、強い布張力を選定すると布状物35の孔40の周囲にリブ41を入れる必要がある(
図3(B)参照)。弱い布張力を選定すれば、介耳107に働く圧力は小さくなり、この孔は開けなくても違和感がなく、取扱いがより容易になる。
【0041】
布張りパッドにおいて、外枠33に布状物35を固定する方法は特に限定されるものではないが、テープ状の面ファスナ45を外枠33及び布状物35の全周、あるいは一部に取付け、これを利用して布状物35を固定する方法が好ましい(
図3(A)参照)。この方法は、脱着が簡単であるため、布状物35の最適張力を得るための張替え、使用中に布状物が伸びた時の再調整の張替え等がより容易になる。
【0042】
布状物を張るときの張力は、布状物35がやや弛む程度で強くない。従って、面ファスナ45も外枠33の全周に必要ではなく、数カ所に限定できる。さらに外枠33に雄型の面ファスナ45を取付け、面ファスナ45のフックが係止可能なループ面を有する布状物35、例えばトイクロス(登録商標)を使用すれば、布状物35に面ファスナが不要となりより簡単に固定できる。さらにトイクロス(登録商標)以外の布状物35の場合も、外枠33に取付けた面ファスナ45に接する部分にのみトイクロス(登録商標)を継ぎ足せば布状物35に面ファスナを取付ける必要がない。
【0043】
布張りパッドにおいて、外枠33に布状物35を固定する方法として、布状物35の端に紐を絡ませ、外枠に突起を数カ所設け、この紐を引掛ける方法もある。この方法は、取付け後に紐の張力を調整することにより、布状物35の張力を調整できる利点がある。これまでの試作の中で、布状物35の必要張力が以外に小さいことが明らかになっているから、この張り方は種々考えられる。
【0044】
次に枕1の使用方法を説明する。
仰向けの姿勢で使用するときは、中央の後頭部パッド11に仰向けで頭101を載せる。このとき左右の側頭部パッド31は起立状態で、頭101及び顔110が接触しない位置に固定してあることは既に述べている。(
図4参照)。
【0045】
枕1は、後頭部パッド11に後頭部103を載せたとき、後頭部パッド11に作用する荷重重心が、後頭部103の最下点より首115側になる。仰向けで寝る場合、低い枕で頭101を低い位置にすると気道が確保され呼吸がし易くなり、無呼吸症候群の患者には良いことが知られている。加えて、顎を頭頂部側に引き寄せ喉部120を伸ばすと、より気道が確保される。覚醒時でもこの状態にすると気道が広くなり呼吸がしやすくなることが確認できる。更には、上下の唇に粘着テープを貼る、或いは顎をバンドで頭頂部方向引き上げ固定する等で、口を強制的に閉じることを併用するとこの気道確保はより効果的である。
【0046】
仰向けの姿勢で頭101を低い位置の後頭部パッド11に載せた状態から横向きに寝返ると、側頭部105が起立状態の側頭部パッド31に接触し、頭101の回動と共に側頭部パッド31が外側に回動し、底部が支持台51のストッパー57に接触した時点で回動が止まり、この時上面が水平で高い位置になっている側頭部パッド31に頭部101はスムーズに移り載っている。(
図5参照)。なお、側頭部パッド31の使用時は概ね水平であるが、若干の傾きが好まれる場合もあり、ストッパー57に高さを調整する機能を設けてもよい。
【0047】
逆に、横向きの姿勢で頭101が高い位置の側頭部パッド31にある状態から仰向けに寝返ると、頭101の回動によりその荷重重心が側頭部パッド31の回動中心を超えると側頭部パッド31も併せて回動し、頭101は低い位置にある後頭部パッド11にスムーズに上向きで移り載る。なお、回動軸は、寝返りの軸と概ね平行で、横方向の位置は側頭部パッド31に頭101を載せた時の重心位置よりやや中側で、上下方向の位置は側頭部バッド31に設けられる範囲で高い方が良い。
【0048】
図6は、本発明の第2実施形態の枕2の斜視図である。
図7は、本発明の第2実施形態の枕2の構成を説明するための図であり、基板71の裏面72を正面に向けた斜視図である。
図1から
図5に示す第1実施形態の枕1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
第2実施形態の枕2は、第1実施形態の枕1に、枕1を長手方向(X方向)にスライドさせるスライド手段を取付けたものである。スライド手段は、枕1をスライドさせるためのレール81、シート91、基板の裏面72に取り付けレールに係合う係合爪85、シート91にレール81を固定するボルトナット95からなる。
【0050】
レール81は、長手方向に沿って係合爪85が嵌り込む溝83が設けられ、全長は基板71よりも長くなっている。本実施形態においては、レール81及び係合爪85は、滑り機構を形成するが、係合爪85に代えて、あるいは係合爪85にコロを設け、転がり機構としてもよい。転がり機構は、より軽く移動させることができるが、その分複雑な構造になるし、軽く動きすぎても不安定になる場合もある。
【0051】
シート91は、幅が基板71の幅(Y方向)よりも僅かに広く、長さが基板71の長さ(X方向)よりも長い矩形状のシートである。シート91は、枕1を滑らせるように作用する。シート91の材質は特に限定されるものでないが、軟質塩化ビニルシートを好適に使用することができる。硬質塩化ビニル、木材等の硬質の板を使用することもできるが、枕元に硬質の広い板等があると何かと鬱陶しくはなる。
【0052】
レール81は、シート91の上面にボルトナット95で固定されるが、レール81の溝83内にボルトの頭を係止爪85が接触しないように残し、レール81、シート91を貫通しシート91の裏面92に突出し、ナットで締め付けられる。シート91の裏面92から突出している部分は、枕2を使用する際に寝具(図示省略)に埋まり込み突起として作用するため、枕2をシート91上でスライドさせても、シート91は、寝具上で動くことなく固定される。同時にシート91の寝具からの取り外しは容易である。
【0053】
レール81の溝83に嵌り込む係止爪85は、2組以上を基板71の裏面72の長手方向に平行で直線状に取付けられている。レール81の溝83に係止爪85を嵌め込むことで、レール81及びシート91に対して枕1を左右(X方向)にスライドさせることができる。
【0054】
第2実施形態の枕2の使用方法を説明する。シート91が連結されたレール81を係止爪85に嵌め込み、シート91の裏面92が寝具に接するように載置して使用する。この時、厳密にはこのレール81の高さ分、基板71は浮き上がることになるが、レール81の高さ及び幅をできる限り小さくすれば、その部分のシート91を含めて敷布団に埋まり込むから、その影響は無視できる。枕1自体の使用方法、作用効果は、第1実施形態で説明の通りである。枕2は、枕1を左右にスライド可能なスライド手段を備えるが、直線的なガイドを設けることにより、枕が斜めになること等なく、枕1を簡単に望みの位置に移動するができる。
【0055】
この望みの位置までの距離を改めて述べれば、自転的な寝返りの場合では、側頭部パッド31と後頭部パッド11の距離であり、転がり的な寝返りであれば、側頭部パッド31と後頭部パッド11の距離と頭101の転がり距離の差である。いずれも移動距離も本発明では短く、寝返り後の頭101の位置は、後頭部パッド、側頭部パッド31何れの場合も少しずれた状態のことが多く、スライド機構を使用すれば、多くの場合首をひねることで容易に枕を最適の位置に動かすことが出来る。ずれが大きい場合には手を添えれば容易に枕を最適の位置に動かすことができる。
【0056】
以上のように、第1形態の枕1に横方向にスライドする機能を付加した第2形態の枕2にすることにより、寝返りが更に容易になる。
【0057】
枕1をスライドさせる最大の距離(片側)について述べると、横方向の位置を変えることなく寝返りする場合には後頭部パッドを中央において、側頭部パッド31を中央の位置スライドさせる長さとなる。横方向の寝位置がずれる場合には、横方向の位置を変えることなく寝返りする場合の長さにそのずれの長さを加えた長さになる。
【0058】
またレール81の必要な長さは、両端の係合爪85の間隔に左右の最大スライド距離を加えた長さとなる。従って、左右の係合爪85の間隔を短くすればレール81の長さも短くなる。またシート91の長さは、基板71の長さに左右の最大スライド距離を加えた長さとなる。
【0059】
以上のように第2実施形態の枕2は、ごく簡単な構造のスライド手段により、さらには基板71の一部がシート91に接した状態でスライドするので、小さい力で容易に枕1をスライドさせることができる。本実施形態では、レール81が一本であるが、2本以上としてもよい。安定してスライド出来ればシート91を省略してもよいが、基板71の裏面72と寝具が摺合い寝具が損傷する恐れがあることと、寝具の材質、表面状態で摩擦力が異なる等の問題があり、通常はシートを入れた方が良い。
【0060】
次に側頭部パッド31の変形例を
図3(C)に示す。第1及び第2実施形態の枕1、2において、後頭部パッド11及び側頭部パッド31は、共に布張りパッドであるが、後頭部パッド11及び側頭部パッド31は、布張りパッドに限定されるものではない。
【0061】
通常、枕は、枕全体が柔らかく変形する構造であるが、側頭部105あるいは後頭部103が接するパッドの形状を、予め側頭部105あるいは後頭部103の形状に合う凹形状とすれば理論上、側頭部パッド31及び後頭部パッド11は、変形しない剛性体でもよい(
図3(C))。その場合には頭部101との接触部の形状を完全に一致させる必要がある。これは合せ加工あるいは3次元プリンター等を応用すれば可能であるがオーダーメイドとなる。この材質は、木材でもプラスチック材等でもよく、更には金属等でも原理的にはよい。
【0062】
後頭部パッド11及び側頭部パッド31を剛性の高い材質とした場合、接触面に弾性のあるシートを入れるなどすれば、接触部の形状の違いを吸収でき、適用範囲をより広くできるが限界があり、量産時に既成パッドにするには多種揃える必要がある。なお側頭部パッド31において耳介107が通る孔40をパッドに設け、耳介107を入れれば、複雑な耳介107の形状を彫り込む必要はない(
図3(B),(C)参照)。
【0063】
以上、第1及び第2実施形態の枕1、2を用いて本発明に係る枕を説明したが、本発明に係る枕は、上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で変更して使用することができる。例えば、仰向けの姿勢で頭部101をより低く、最低の後頭部103が下側の寝具に接する程度の理想の低さにするには、後頭部パッド11を支持する基板71の後頭部103の最低部の位置に孔75を開けると良い(
図7参照)。
【0064】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更及び修正を容易に想定するであろう。従って、そのような変更及び修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0065】
1,2 枕
11 後頭部パッド
13、33 外枠
15、35 布状物
31 側頭部パッド
40 介耳が通る孔
41 リブ
45 面ファスナ
51 支持台
53 支持板
55 底板
57 ストッパー
61 連結具
63 支持ピン
65 弾性体
71 基板
72 基板71の裏面
75 基板71の孔
81 レール
83 レール81の溝
85 係止爪
91 シート
92 シート91の裏面
95 ボルトナット
100 使用者
101 頭
103 後頭部
105 側頭部
107 耳介
110 顔
115 首
120 喉部
130 肩