(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】織編用高強力糸条
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20220415BHJP
D03D 15/58 20210101ALI20220415BHJP
D04B 21/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
D01F6/60 371Z
D03D15/58
D04B21/00 B
(21)【出願番号】P 2018041150
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 西湖
(72)【発明者】
【氏名】岡本 めぐみ
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-093425(JP,A)
【文献】特開2007-224431(JP,A)
【文献】特開2010-106492(JP,A)
【文献】特開2017-166109(JP,A)
【文献】特開2017-166110(JP,A)
【文献】特開昭63-126952(JP,A)
【文献】特開平11-350289(JP,A)
【文献】特開2003-013326(JP,A)
【文献】特開2011-219909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/04
D03D 1/00 - 27/18
D04B 1/00 - 1/28
D04B 21/00 - 21/20
D04C 1/00 - 7/00
D04G 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点を有しない高強力繊維のフィラメント100本~3,000本から構成され、JIS L 1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定した引張強さ、結節強さ及び引掛強さ、ならびに糸-糸摩擦係数が、それぞれ、下記(1)、(2)、(3)、(4)を満たすことを特徴とする
ネット用の織編用高強力
糸条。
(1)引張強さ;15cN/dtex以上
(2)結節強さ;5cN/dtex以上
(3)引掛強さ;8cN/dtex以上
(4)糸-糸摩擦係数;0.52~0.60
【請求項2】
酸素指数(LOI)が26以上である、請求項1に記載の
ネット用の織編用高強力
糸条。
【請求項3】
20℃における破断荷重の50%下での1000時間後のクリープ率が0.3%以下である、請求項1または2に記載の
ネット用の織編用高強力
糸条。
【請求項4】
パラ系アラミド繊維のみで構成されている、請求項1~3のいずれかに記載の
ネット用の織編用高強力
糸条。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編用高強力糸条に関する。詳細には、高重量落下物、高速飛来物等を受け止めることができる産業資材用ネット等に用いられる織編用高強力糸条に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの建築現場等から物体の落下を防止するための落下防止材としては、従来鉄製のグレーチングが使用されている。
【0003】
ところが、鉄製グレーチングの落下防止材は重量が重く、ビルの建築現場等へ移動させるには大変な労力を要するだけでなく、落下防止材が落下した場合には、落下防止材によって電気・通信ケーブルを損傷してしまう等の問題や、建築現場付近を通行する通行人に不慮の災難を被らせてしまう危険等があった。
【0004】
この点、繊維材料は軽量性に優れており、それ自体が落下しても鉄製の材料ほど危険ではないと考えられることから、高速道路、トンネル、橋梁等から土砂、雪、石等が落下するのを防止する落下防止用ネットの繊維素材として、比較的安価であるポリエステルやナイロンが主に検討されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、ネットを構成する繊維素材の引張強度が14~100gf/d(12.4~88.3cN/dtex)の範囲で、引張破断伸度が0.4~5%の範囲が好ましいことが記載されている。好ましい例として、パラ系アラミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、炭素繊維の記載がある。ネットの目の大きさが2~10mm、ガーレ剛軟度が5000mg以下であること、メッシュ織編物としては、絡み織り、紋紗織り、バスケット織り、ラッセル編み等であることが記載されている。実施例には、経糸にアラミド繊維、緯糸にポリエステル繊維を用いた織物と、経糸に炭素繊維、緯糸にポリエステル繊維を用いた絡み織り構造の織物が示されているが、前者は落下試験で破れる、後者は編み構造に適さない等の課題がある。
【0006】
また、特許文献2には、経糸に総繊度5010dtexのパラ系アラミドマルチフィラメント糸条、緯糸に3340dtexのパラ系アラミドマルチフィラメント糸条を用いて3軸織物を織成し、落石防止用、コンクリート剥離落下防止用のネット状編織物を構成したことが記載されている。
【0007】
特許文献3には、コードの伸長前の弾性率と最大伸長時の弾性率が規定の範囲内にある合成繊維コードからなる衝撃吸収ネットが記載されている。合成繊維コードは、初期モジュラスが大きい合成繊維糸条(パラ系アラミド繊維)と、初期モジュラスが小さい合成繊維糸条(ポリエチレンテレフタレート繊維)とが上撚りされたものである。
【0008】
上記のように、落下等による衝撃を吸収するネットの繊維素材として、パラ系アラミド繊維等のように引張強度が大きく引張破断伸度が小さい繊維も適合する。しかし、引張強度が大きいスーパー繊維に着目すると、高分子量ポリエチレン繊維は比重が小さく軽量であることが知られているが、引張破断伸度が5%と高いため、高重量物や高速飛来物を受け止めた際の撓みが大きくなることによって、電気・通信ケーブルを損傷させてしまう恐れがある。また、高分子量ポリエチレン繊維を当該用途に使用した場合、繊維素材が火災で延焼することで本来の目的を達し得なくなる恐れがある。
【0009】
主に検討されてきたポリエステル繊維については、産業資材ネット用に適した各種の特性を有する繊維が提案されている。例えば、特許文献4には、産業資材ネット用繊維は結節強度と引掛強度の和が大きいことが重要であり、延伸した繊維の熱セット条件を変えることで最適な繊維が得られることが記載されており、特許文献5には、結節強度と単糸切れ頻度の値が重要であり、繊維内部のソフトセグメント部(非晶質部分)の分子鎖を均一に揃えつつ、かつ比較的突っ張った状態に保持することで最適な繊維が得られることが記載されている。
【0010】
しかし、産業資材ネット用の高強力繊維について、強度、破断伸度、初期モジュラス等の特性が記載されている文献はあるが、実質的に融点を有さない繊維が産業資材ネット用に適していることは上述の通りであり、これらの高強力繊維は乾湿式紡糸や液晶紡糸等で製造されるため、ポリエステル繊維のように溶融紡糸後の延伸処理で調整することができないため最適な繊維特性を見出すことがなかなか難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-93425号公報
【文献】特開2007-224431号公報
【文献】特開2010-106492号公報
【文献】特開2010-059581号公報
【文献】特開2012-207314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、産業資材用ネットを構成するのに最適な織編用高強力糸条を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用するものである。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1)融点を有しない高強力繊維のフィラメント100本~3,000本から構成され、JIS L 1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定した引張強さ、結節強さ及び引掛強さ、ならびに糸-糸摩擦係数が、それぞれ、下記(1)、(2)、(3)、(4)を満たすことを特徴とするネット用の織編用高強力糸条。
(1)引張強さ;15cN/dtex以上
(2)結節強さ;5cN/dtex以上
(3)引掛強さ;8cN/dtex以上
(4)糸-糸摩擦係数;0.52~0.60
2)酸素指数(LOI)が26以上である、前記1)に記載のネット用の織編用高強力糸条。
3)20℃における破断荷重の50%下での1000時間後のクリープ率が0.3%以下である、前記1)または2)にネット用の記載の織編用高強力糸条。
4)パラ系アラミド繊維のみで構成されている、前記1)~3)のいずれかに記載のネット用の織編用高強力糸条。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、繊維処理剤を用いた高強力繊維の表面改質等の手段によって、引張強さが大きいだけでなく、結節強さ及び引掛強さに優れていて糸-糸摩擦係数が最適範囲にある、産業資材ネット用として好適な織編用高強力糸条を提供することができる。特にラッセル網ネットは、原糸がループ状に配列しているため、応力が掛かった際に糸と糸が締め付け合うこととなるが、本発明の織編用高強力糸条はラッセル網ネット等としても好適な繊維素材である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の織編用高強力糸条について詳細を説明する。本発明の織編用高強力糸条は、引張強さ、結節強さ、引掛強さが、下記の(1)~(3)の特性を同時に満たすものである。各特性は、JIS L 1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じて測定される。
(1)引張強さが15cN/dtex以上
(2)結節強さが5cN/dtex以上
(3)引掛強さが8cN/dtex以上
【0017】
織編用高強力糸条が上記(1)から(3)の条件を同時に満たしている場合、当該織編用高強力糸条を用いて編織した産業資材ネットは、引張強さに優れているため織編時に糸が伸びることによる糸切れが生じ難く、結節強さ及び引掛強さに優れているため織編物の結節点や引掛箇所を起点とする糸切れが発生し難い。
【0018】
上記の(1)から(3)のうち、いずれか一つでも満たさない場合は、安全な産業資材ネットとなり得ず、高重量の負荷が掛かった際に織編用高強力繊維が切断することとなり、安全性確保という本来の目的を達し得なくなる恐れがある。また、上記(2)または(3)の結節強さまたは引掛強さを満たさない場合は、編み構造のネットにおいて、切断が発生し易くなることで安全性に劣るネットになり易い。
【0019】
上記(1)の引張強さは、特に18cN/dtex以上であることが好ましい。上記(2)の結節強さは、6cN/dtex以上であることが好ましく、7cN/dtex以上であることがより好ましい。上記(3)の引掛強さは、10cN/dtex以上であることが好ましく、11cN/dtex以上であることがより好ましい。かかる条件を満たすことにより、より安全な産業資材ネットを得ることができる。
【0020】
上記(1)の引張強さは、上限は特にないが、21cN/dtex以下であることが好ましい。上記(2)の結節強さは、上限は特にないが、10cN/dtex以下であることが好ましい。上記(3)の引掛強さは、上限は特にないが、15cN/dtex以下であることが好ましい。繊維素材がこれらの特性を有することにより、引張強さ、結節強さ及び引掛強さに対する、過剰品質化による高コスト化を防止でき、安価な材料を提供することができる。
【0021】
また、本発明の織編用高強力糸条は、(4)糸-糸摩擦係数が0.52~0.60の範囲であることが肝要である。より好ましくは0.53~0.60、さらに好ましくは0.54~0.60である。糸-糸摩擦係数が大き過ぎる繊維では、製織工程や製編工程において、毛羽や埃が発生し易いものとなり、発生した毛羽によって織編用高強力繊維の原糸が有している引張強さ、結節強さ、引掛強さが発現されなくなることで、想定重量より大きい重量負荷が掛かった際に、ネットが切断されてしまう恐れがある。反対に、糸-糸摩擦係数が小さ過ぎる繊維では、糸-糸間がずれて生じる抗力が小さく、ネットとしての能力を最大限に発揮できなくなる懸念がある。
【0022】
上記の(1)~(4)の繊維特性は、後記の高強力繊維の原糸に付与する油剤の種類あるいは量等を調整することにより、あるいは、紡糸後の原糸の弛緩度合を調整することにより、調整することができる。なかでも、油剤による調整方法は、装置や工程の大幅な変更がなく、上記の(4)糸-糸摩擦係数を比較的大きくすることができる点で好ましい。
【0023】
油剤による調整方法としては、摩擦係数の比較的高い紡糸油剤を用いることが、糸-糸摩擦係数を比較的大きくする上で有効である。紡糸油剤は、静電防止剤、乳化剤、平滑性向上剤、溶媒等が添加されているものが好ましく用いられる。油剤は、高強力繊維の水分量を0%に換算した繊維質量に対して、好ましくは0.3~3.0質量%、より好ましくは0.4~2.0質量%程度、付着させることが望ましい。油剤を高強力繊維に付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0024】
紡糸油剤としては、高強力繊維に対して使用可能な油剤であれば、特に制限はない。例えば、低鎖アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル、長鎖アルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、鉱物油の他、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、含リン化合物等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数10~22の飽和もしくは不飽和のアルキル基もしくはアルケニル基を有する脂肪酸とアルコールのエステル、炭素数10~22の飽和もしくは不飽和のアルキル基あるいはアルケニル基を有するアルコールとモノカルボン酸あるいは多価カルボン酸とのエステル等が挙げられる。
【0025】
これまで産業資材ネット用の繊維としては、汎用繊維の中でも引張強さに優れ、かつ製織性・製編性が良好である点より、ポリエステル繊維あるいはナイロン繊維が使われてきた経緯がある。しかし、一般的ポリエステル繊維は、結節強さが2~4cN/dtex、引掛強さが5~8cN/dtex、一般的ナイロン繊維は、結節強さが3~4cN/dtex、引掛強さが6~9cN/dtexである。本発明の織編用高強力糸条は、これらの繊維よりも各段に優れた結節強さと引張強さを有するものである。
【0026】
上記(1)から(4)の特性を有する事が可能な繊維素材としては、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリケトン繊維、ポリアミドイミド繊維、LCP(液晶ポリマー)繊維等が挙げられる。これらの繊維素材のなかでも、耐熱性、難燃性とともに、高強度特性(特に結節強さと引掛強さ)及び耐切創性に優れている点からパラ系アラミド繊維が好ましい。
【0027】
また、耐熱性指標としては、酸素指数(LOI)が26以上であることが好ましく、より好ましくは28以上である。LOIは燃焼しつづけられる最低酸素濃度を示す指数であり、数値が大きい方が防炎性、自己消火性、耐薬品性に富むことを示す。
【0028】
上記のパラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製、商品名「ケブラー」)、コポリパラフェニレン-3,4’-ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商品名「テクノーラ」)等が挙げられる。この中でも、特に、高強度、高弾性率で、耐切創性及び耐熱性に優れている点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。
また、全芳香族ポリエステル繊維としては、クラレ社製、商品名「ベクトラン」等があり、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維としては、東洋紡社製、商品名「ザイロン」等がある。ポリケトン繊維としては、旭化成せんい社製、商品名「サイバロン」、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維等がある。ポリアミドイミド繊維としては、ローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」等がある。
【0029】
また、本発明の織編用高強力糸条は、20℃における破断荷重の50%下での1000時間後クリープ率が0.3%以下であることが好ましい。クリープ率が0.3%を超えると、織編したネットを長期間設置した際に垂れる等の不都合が生じ易い。
【0030】
本発明の織編用高強力糸条を構成する繊維の繊度は、引張強さ、結節強さ、引掛強さ、及び製編性や製織性等を考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。単糸繊度は、0.5~30dtexが好ましく、より好ましくは0.5~10dtex、特に好ましくは1~5dtexの範囲である。0.5dtex以上であれば、製糸技術上の困難性を伴うことがなく、30dtex以下であれば、剛性が高くなることによる製織性、製編性が著しく悪化する恐れがない。フィラメント数は、100本~3,000本が好ましい。100本以上あれば、所望の引張強さ、結節強さ、引掛強さを確保することができ、3,000本以下であれば、剛性が高くなることによる製織性、製編性が著しく悪化する恐れがない。
【0031】
本発明の織編用高強力糸条は、1種類のみを単独でまたは2種類以上を組み合わせて、引揃え糸、撚糸、コード等として用いることができ、その形態は特に限定されない。撚糸は2本撚り、3本撚り、6本撚り等の公知の撚糸形態を採用することができる。
【0032】
本発明の織編用高強力糸条は、それを単独素材として用い、公知の製編装置や製織装置を用いて編織することにより、産業資材ネットを製造することができる。あるいは、他の汎用繊維と任意の方法で組合せて用いることもできる。汎用繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、レーヨン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、塩化ビニル系繊維、ポリプロピレン繊維等の合成繊維、麻等の天然繊維等が挙げられる。
【0033】
織布としては、平織、もじり織、からみ織等が挙げられ、編布としては、よこ編み、たて編のいずれでも良く、具体的にはトリコット編み、ミラニーズ編み、ラッセル編み等が挙げられる。
編織したネットには、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等による樹脂被覆層等を形成することもできる。
【0034】
本発明の織編用高強力糸条は、耐切創性に優れることが好ましく、鋭利な高重量物を受け止める際に破断リスクをより軽減できると考えられる。例えばネット状のサンプルを、JIS T 8052:2005(防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法)に準じて測定した際の切創抵抗値が0.015cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは0.02cN/dtex以上であることが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。また、以下の実施例等において、特に言及する場合を除き、「質量%」は「%」と略記する。各物性などの評価方法は、次の方法に依拠した。
【0036】
[引張強さ、結節強さ、引掛強さ]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5.1、8.6.1、8.7.1(いずれも標準時試験)に準じて測定した。
【0037】
[糸-糸摩耗係数]
英光産業株式会社製走行糸摩擦係数測定機を使用し、糸-糸の交差回数を1回として、走糸速度10m/分の条件でおよそ30秒間測定した。測定回数5回の平均値とした。
【0038】
[クリープ率]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5.1標準時試験に準じて、定速伸長型引張試験機によって、気温20℃、湿度65%の室内で試料が切断したときの破断荷重を測定する。破断荷重の50%荷重下で1000時間荷重を掛け続けた後、糸長を測定して、下記式によりクリープ率を算出した。
クリープ率(%)=[(Lc-Lo)/Lo]×100
(Lo:原糸長(mm)、Lc:1000時間後の糸長(mm))
【0039】
[難燃性]
JIS L 1091 繊維製品の燃焼性試験方法 8.4 D法により測定した。
【0040】
[ネット強力]
JIS A 8960:2004 建築工事用垂直ネットに従い、定速伸長型引張試験機によって、気温20度、湿度65%の室内で試料を引張速度20cm/分の条件で引張試験機に取付け、強力を測定した。
【0041】
(実施例1~3)
東レ・デュポン(株)製のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(単糸繊度1.67dtex)の糸条(総繊度1,670dtex、フィラメント数1,000本)を用意した。これらの糸条は、付与する紡糸油剤組成を変更することにより調製した。糸条を構成する糸の特性は、それぞれ、表1に示すとおりであった。
上記のマルチフィラメント糸条を5本合糸したものを用い、ラッセル編機によって、網糸の総繊度が8,350dtex、網目1辺の長さ10mmとなるように製網した。
得られたネットの特性を評価し、結果を表1に示した。
【0042】
(比較例1)
単糸繊度6.9dtex、総繊度1,400dtexのナイロン6マルチフィラメント糸条を5本合糸したものを用いたほかは、実施例1と同様の方法で製網した。評価結果を表1に示した。
【0043】
(比較例2)
単糸繊度5.8dtex、総繊度1,670dtexのポリエステルマルチフィラメント糸条を5本合糸したものを用いたほかは、実施例1と同様の方法で製網した。評価結果を表1に示した。
【0044】
(実施例4)
実施例1と同様のパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸条(単糸繊度:1.67dtex、総繊度:1,670dtex、フィラメント数1,000本)を経糸及び緯糸に用い、からみ織組織で織成することによって、目付け400g/m2、目合い空間率30%の織布を製織した。
【0045】
【0046】
表1より、本発明の条件を満足するマルチフィラメント(織編用高強力糸条)で作製したネットは、網糸強力が高く、安全性に優れたネットなった。また、難燃加工等の後加工を施さなくても製網後の難燃性に優れたネットとなった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の織編用高強力糸条は、強度のみならず、難燃性、耐候性、耐薬品性等に優れていることから、トンネル内や高速道路、橋梁等のコンクリート構造物において、土砂、雪等の落下物を受け止める落下対策用のネットの作製に有用である。