(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】織物材料用非可逆性変色性染料としてのインディゴ誘導体の使用、新規化合物、及び織物材料を染色する方法
(51)【国際特許分類】
D06P 1/30 20060101AFI20220415BHJP
C09B 7/04 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
D06P1/30 A
C09B7/04 CSP
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017116626
(22)【出願日】2017-06-14
【審査請求日】2020-03-23
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】グーカン カプラン
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル アクデミル
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-506152(JP,A)
【文献】特許第6661574(JP,B2)
【文献】特開平07-150068(JP,A)
【文献】特開平11-180048(JP,A)
【文献】特開平03-045788(JP,A)
【文献】Glowacki, Eric Daniel; Voss, Gundula; Demirak, Kadir; Havlicek, Marek; Suenger, Nevsal; Okur, Aysu Ceren; Monkowius, Uwe; Gasiorowski, Jacek; Leonat, Lucia; Sariciftci, Niyazi Serdar,A facile protection-deprotection route for obtaining indigo pigments as thin films and their applications in organic bulk heterojunctions,Chemical Communications (Cambridge, United Kingdom) ,2013年,49(54),,6063-6065
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/30
C09B 7/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のインディゴ誘導体の織物材料の染料としての使用。
(I)
(ここで、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子であり、
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又はtert-ブトキシカルボニル基であり、
但し、R
1、R
2、R
3及びR
4は、全てハロゲン原子であるか、又はR
1、R
2、R
3及びR
4の内の2つが水素原子であり、他の2つがハロゲン原子であり、及びR
5及びR
6は、両方とも水素となることはない。)
【請求項2】
染料は、非可逆性変色性染料であることを特徴とする、請求項1に記載した使用。
【請求項3】
R
1、R
2、R
3及びR
4は、全てハロゲン原子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した使用。
【請求項4】
R
1、R
2、R
3及びR
4は、全て臭素原子であることを特徴とする、請求項3に記載した使用。
【請求項5】
R
5及びR
6の一方は、水素原子で、他方はtert-ブトキシカルボニル基であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載した使用。
【請求項6】
織物材料は、デニムであることを特徴とする、請求項1~5いずれか1項に記載した使用。
【請求項7】
織物材料は、コットン、ウール、リネン、ビスコース及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~6いずれか1項に記載した使用。
【請求項8】
式(I)のインディゴ誘導体。
(I)
(ここで、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、全てハロゲン原子であり、
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又はtert-ブトキシカルボニル基であり、但し、R
5及びR
6は、両方とも水素となることはない。)
【請求項9】
R
1、R
2、R
3及びR
4は、全て臭素原子であって、かつ式(II)
の化合物であることを特徴とする、請求項8に記載のインディゴ誘導体。
【請求項10】
請求項1で規定した式(I)のインディゴ誘導体を、織物材料へ適用することを含む、織物材料を非可逆性変色性染色する方法。
【請求項11】
続いて、織物材料を1つ以上の外部刺激で処理して、前記織物材料の表面を改質することを特徴とする、請求項10に記載した方法。
【請求項12】
続いて、織物材料を使用して衣料品を製造し、ついで、前記衣料品を1つ以上の外部刺激で処理して、前記衣料品の表面を改質することを特徴とする、請求項10に記載した方法。
【請求項13】
織物材料は、コットン、ウール、リネン、ビスコース及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載した方法。
【請求項14】
織物材料は、デニムであることを特徴とする、請求項10~13のいずれか1項に記載した方法。
【請求項15】
インディゴ誘導体は、生地又はヤーンに適用される前に、還元剤を含んでいる水系染色浴へ添加されることを特徴とする、請求項10~14のいずれか1項に記載した方法。
【請求項16】
請求項10~15のいずれか1項に記載した方法によって染色され、更に、任意選択的に1つ以上の外部刺激によって処理された織物材料又は衣料品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
変色可能性染料(クロミック(chromic)染料)は公知であり、コーティング材料、光学、フォトストレージ器具、及び光学センサ等、広範な用途に使用されている。
【0002】
接頭辞としてのクロミック(chromic)は、色の可逆変化を意味し、かつ、その延長線で考えると、他の物性の可逆変化を意味する。この外部刺激は、光、熱、電流、圧力、溶媒又は電子ビームが例示される。
【背景技術】
【0003】
現在、非可逆性変色性染料で染色された織物材料、即ち家庭内使用では近づけない条件下で変化することができる染料で染色され、かつ、管理された方法、例えば熱処理、レーザ摩耗、酸との接触等により適切に刺激すると、芸術的品質をもった多様な色相又は特徴を発揮することができる織物材料、特にデニムが求められている。
【0004】
現在のところ、デニムと親和性がある非可逆性変色性染料は知られていない。感熱性及び感光性染料は知られており、織物業界で使用されている。然しながら、これらのタイプの染料は、デニム生地と親和性がないので、直接使用してデニムを染色することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2007/0033748号明細書
【文献】欧州特許第EP1913195号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする主たる課題は、非可逆的に色変化する染色織物材料、特にデニムのためのインディゴ誘導体の使用を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、非可逆的に色変化する染色織物材料、特にデニムの製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の特徴は、非可逆的に色変化するインディゴ染料で染色された織物材料で製造された衣料品を提供することである。前記衣料品及び織物材料は、更に加工されて、多様な色合いを呈し及び/又は芸術的特徴を創生する。
【0009】
本発明の更に他の特徴は、織物材料、特にデニム用染料としての、非可逆的に色変化する新規な化合物を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、新規なインディゴ誘導体から成る非可逆的に色変化する染料によって染色された各種織物材料、特にデニムが提供され、さらに前記非可逆的に色変化するインディゴ染料で染色された各種織物材料は、更に、加工されて、多様な色合いを呈し、及び/又は芸術的特徴を創生する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明によって染色され、熱処理後の
織物材料を示す写真である。
【
図2】本発明によって染色され、レーザ処理後の
織物材料を示す写真である。
【
図3】式(II)の化合物のXRDスペクトルを示すチャ-トである。
【
図4】式(II)の化合物のFT-IRスペクトルを示すチャ-ト。
【
図5】式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素、及びR
5及びR
6が両者共t-BOCである化合物のXRDスペクトルを示すチャ-トである。
【
図6】式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素、及びR
5及びR
6が両者共t-BOCである化合物の1H-NMRスペクトルを示すチャ-トである。
【
図7】式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素、及びR
5及びR
6が両者共t-BOCである化合物の
13C-NMRスペクトルを示すチャ-トである。
【
図8】式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素、R
5及びR
6の一方が水素、他方がt-BOCである化合物の1H-NMRスペクトルを示すチャ-トである。
【
図9】式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素、R
5及びR
6の一方が水素、他方がt-BOCである化合物の
13C-NMRスペクトルを示すチャ-トである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、式(I)のインディゴ誘導体の
織物材料用染料としての使用に関する。
(I)
但し、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又はハロゲン原子、及び
R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又はtert-ブトキシカルボニル基(t-BOC)、但し、R
5及びR
6は、両方とも水素となることはない。
【0013】
本発明によって、式(I)のインディゴ誘導体は、非可逆性変色性染色工程において、非可逆性変色性染料として使用される。
【0014】
用語「非可逆性変色性染色工程」は、織物材料を染料で処理する工程において、一旦、前記織物材料を染色してから、一種以上の他の色に変えられるか、又は転換され得る染料で処理することを含む工業的染色法を意味する。従って、本発明の方法によって、本発明のインディゴ誘導体によって、第1の色が織物材料に適用され、次いで前記織物材料に、外部刺激又は更なる外部刺激を適用することにより、前記第1の色は、他の又はその他多くの色に変化させられる。本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において、前記「他の又はその他多くの色」を、「ターミナルカラー」と呼称することがある。
【0015】
従って、明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書で使用する用語「非可逆性変色性染料」は、通常の家庭内使用では近づくことがあり得ない環境下で、その色を変化させることにより、外部刺激に反応する染料を意味する。
【0016】
同じく、用語「外部刺激」は、例えば、光(フォトクロミック)、熱(熱クロミック)、電流(エレクトロクロミック)、圧力(ピエゾクロミック)、溶媒(ソルベトクロミック)又は電子ビーム(カソードクロミズム)又はレーザビームを意味する。
【0017】
本発明の好ましい態様によると、外部刺激は、光、熱及びレーザから選択される。
【0018】
本発明において、「織物材料(textile materials)」は、ヤーンのように生地を製造するのに適する各種の材料、及び染色の準備ができた生地をいう。用語「染色の準備ができた生地」は、湯通し、マーセル化処理、及び洗浄工程をすでに受けた生地の意味である。
【0019】
本発明に従って、染色するのに適する基材は、全セルロースタイプ及び/又はコットン、ウール、リネン、ビスコース及びそれらの混合物を含む混合ヤーンであるが、それらに限定されない。
【0020】
織物材料は、ステッチ処理した生地、織布、編み物、及び不織布のいずれかでよい。
【0021】
好ましくは、織物材料は、デニムである。
【0022】
本発明の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4は、全て水素原子であり、R5及びR6は、ともにtert-ブトキシカルボニル基である。
【0023】
本発明の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4は、全て水素原子であり、R5及びR6のいずれか一方は水素原子であり、同じく他方は、tert-ブトキシカルボニル基である。
【0024】
本発明の他の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4は、全てハロゲン原子である。
【0025】
本発明の他の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4
の内の2つは、水素原子であり、他の2つは、ハロゲン原子である。
【0026】
本発明の他の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4の内の2つは、水素原子、及びR2及びR3は、水素原子、並びにR5及びR6は、共にtert-ブトキシカルボニル基である。
【0027】
本発明の他の好ましい態様によると、R1及びR4は水素原子、R2及びR3は、ハロゲン原子である。
【0028】
本発明の他の好ましい態様によると、R1及びR4は水素原子、R2及びR3は、臭素原子である。
【0029】
本発明の他の好ましい態様によると、R1及びR4はハロゲン原子、R2及びR3は、水素原子である。
【0030】
本発明の他の好ましい態様によると、R1及びR4は、臭素原子、R2及びR3は、水素原子である。
【0031】
本発明の他の好ましい態様によると、R1及びR4は臭素原子、R2及びR3は水素原子、R5及びR6は、共にtert-ブトキシカルボニル基である。
【0032】
本発明の他の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4は、全て臭素原子である。
【0033】
本発明の他の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4は、全て臭素原子、R5及びR6の一方は水素原子、同じく他方はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0034】
本発明の他の好ましい態様によると、R1、R2、R3及びR4は、全て塩素原子である。
【0035】
本発明の他の好ましい態様によると、前記式(I)のインディゴ誘導体は、デニムの非可逆性変色性染色工程で使用される。
【0036】
式(I)の化合物は、特にデニムに対する非可逆性変色性染色工程で使用して、単一の染料で、マジェンタからブルー、又は紫色からブルーの多様な色を得ることができることが分かった。実際、上記の化合物は、(熱、レーザ等)特定の条件下でそれらの色を非可逆的に変化させることができる。
【0037】
更に、本発明は、式(I)の新規なインディゴ誘導体に関する。但し、式(I)において、R1、R2、R3及びR4は、全てハロゲン原子であり、最も好ましくは、R1、R2、R3及びR4は、全て同じハロゲン原子である。
【0038】
本発明の好ましい態様によると、式(I)の新規なインディゴ誘導体に関する。但し、式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4は、全て臭素原子であり、式(II)の化合物である。
(II)
【0039】
本発明の好ましい態様によると、式(I)の新規なインディゴ誘導体に関する。但し、式(I)において、R1、R2、R3及びR4は、全て水素原子であり、かつR5及びR6の一方は水素原子、他方はtert-ブトキシカルボニル基である。
【0040】
本発明の好ましい態様においては、織物材料へ式(I)のインディゴ誘導体を適用し、次いで1つ以上の刺激を与え、織物材料の表面を改質することを含む非可逆性変色性染料で染色された織物材料を製造する方法に関する。
【0041】
本発明の方法において、式(I)のインディゴ誘導体は、単一又は混合物として使用することができる。
【0042】
染色は、当業界で周知の方法に従って達成できる。
【0043】
本発明の新規な方法を実行するには、従来の製造プラントを使用することができるということが、産業的観点から非常に重要であるということに留意するべきである。
【0044】
染料の取り込み量を高めるために、特許文献1(特許文献2に対応)に記載されている予備還元技術を採用してもよい。尚、特許文献1及び特許文献2に記載されている内容は、本明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の一部を構成する、参照文献として組み込まれるものとする。
【0045】
染料の適用及びそれに続く空気暴露シーケンスは、数回、例えば少なくとも2回、好ましくは4~8回繰り返して、染料の添着量を増やすことが好ましい。
【0046】
含浸時間と空気暴露時間は、従来のインディゴブルー染料を使用する場合と僅かに異なる。一例として、含浸時間は、10~30秒間、好ましくは15~25秒の間、より好ましくは18~20秒の間で変化し得る。空気暴露時間は、30~300秒の間、より好ましくは90~240秒の間で変化し得る。
【0047】
染色温度は、通常、20℃~90℃の間、好ましくは35~45℃であるが、より効果のあるのは、25~30℃の間である。
【0048】
上記の諸条件において、従来の「リング効果」を損なうことなく、染料の付着量は増加した。
【0049】
用語「改質する」は、織物材料の外観、例えばその色が外部刺激によって変化することを意味している。
【0050】
前述したように、本発明の方法によって製造された織物材料、好ましくはデニムの色は、前述した外部刺激を使用することによって変化する。
【0051】
実際、本発明によると、異なった色合いをもった織物材料の製造が可能になる。そして、もし希望するなら、異なる外部刺激を付与することにより、芸術的特徴の創成も可能になる。
【0052】
一例として、染料の含浸後、乾熱処理によって、本発明によって染色された織物材料の表面に、面白い表面摩耗効果をもたらすことが観察された。
【0053】
また、染料の含浸後に湿熱処理をすると、非可逆性変色が行われる。更に、乾式及び湿式レーザ処理によって、従来のインディゴ染料で処理した織物では達成出来なかった多色摩耗効果を挙げることができる。
【0054】
一例として、レーザ摩耗処理を使用する場合、レーザのデューティーサイクル、パワー、及びパルス持続時間を変化させて、多様なカラーパレット、及び3色のターミナルカラーの色合いを創出することができる。パラメータは、特定のイメージタイプ、及びそれによる染料等の適用によって決定される。
【0055】
レーザパワーが大きくなると、染料分子は、基礎生地の或る部分と共に減衰し、分解して他の種になり、焼尽又は昇華して、基礎生地の色と同調する。このようにして、衣料品の表面に、非常に複雑なイメージが創出される。
【0056】
例えば、レーザ適用を考察すると、レ-ザビームを生地の表面に向けて照射して、「色合い」又は芸術的品質を表わす特徴を創出する場合、通常、レーザを適用すると、2色のターミナルカラー、即ち染料のカラー(摩耗が無い場合)及び基礎生地のカラー(染料の完全摩耗)がもたらされる。基礎生地のカラーは、通常、白である。この色は、実際の色ではなく、色相が殆ど常に同じである。変化するのは、織物業界で使用されている用語「色合い」である。然しながら、本発明では、3つのターミナルカラーがあるとする。基礎生地の色が白と想定した場合、繰り返すが、白は実際の色ではなく、2つの実際の色があって、その2色の間で実際の色相が変化している。レーザパワーが低い場合、基材に摩耗は発生せず、表面の色は、生地の色に近くなる。レーザパワーが高くなるに従って、表面の色は、徐々に変化し始め、第1のターミナルカラーから、第2のターミナルカラーに移行し、そこで染料分子に化学変化が発生する。この間、異なる色合いが、アクセス可能である。第1のターミナルカラー及び第2のターミナルカラーは、実際の色合いであるので、それらが混合された時、他の色合いになるためである。
【0057】
熱処理、即ち加熱空気を使用して、生地全体の色を変化させるか、加熱された表面を厳しく管理するか、或いは生地の表面に接触することにより、所望の色合及び濃淡をもったパターンを創出することができる。
【0058】
本発明の非可逆性変色性染料を使用することにより、マジェンタからブルー又はパープルからブルーに至る如何なる色も得ることができる。
【0059】
図1は、本発明によって染色し、熱処理後の
織物材料を示している。図に示す通り、色(マジェンタ)は、染色工程で使用される温度及び処理時間に依存して変化することが分かる。
【0060】
図2は、本発明によってレーザ処理した
織物材料を示している。レーザのパワー及び処理時間に応じて、異なる色が得られている(A,B,及びC)。
【0061】
前述したように、式(I)のインディゴ誘導体、特に好ましいインディゴ誘導体、及び好ましくは式(II)の化合物を使用することにより、家庭内使用においては近づくことができない条件であって、それ故に製造現場で固定される条件下、例えば160℃のような高温下で変化する色をもった織物材料を製造することができる。本発明で染色され、かつ更に処理された織物材料は、本発明の他の主題であるパンツ、スカート、シャツ、帽子、及びジャケット等の衣料品を製造するのに使用することができるが、それらに限定されるものではない。
【0062】
本発明によって染色され、かつ更に処理された織物材料で得た衣料品は、本発明の他の主題である。
【0063】
別法としては、本発明によって染色された織物材料を使用して衣料品を製造し、その後、前記説明したように、前記衣料品を処理して、その色を変化させる。そうでない場合、前記衣料品を、本発明のインディゴ誘導体で、更に直接染色する。
【0064】
本発明によって染色され、かつ前記説明したように、更に処理された織物材料から得た衣料品は、本発明の他の主題である。
【0065】
インディゴ誘導体は、例えば、下記のスキームのように当業界で周知の方法で製造される。
但し、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、前記定義した通りである。
【0066】
式(I)及び(III)の化合物は周知であるか、当業界に周知の方法で製造することができる。
【0067】
上記スキームの反応は、式(III)の化合物を、室温で、ジクロロメタン(CH2Cl2)のような有機溶媒中で、2当量以上のdi-tert-ブチルジカーボネート(tBOC2O)及び約1当量のN,N’-ジメチルアミノピリジン(DMAP)のような塩基と共に攪拌することによって実行することができる。この反応は、1~3日間で完了する(当該反応は、例えば、薄層クロマトグラフでモニタすることができる)。反応を完遂させるために、別の方法を使用することもできる。例えば、前記反応混合物を、殆ど乾燥状態になるまで濃縮し、例えば、トルエン/酢酸エチル(9:1)を使用して80倍量のシリカゲル上で濾過し、収率90%までの生成物を得る。分析のため、サンプルを酢酸エチルのような適当な溶媒から再結晶させる。別法としては、低温、加圧下で、反応溶媒を除去し、次いで、得た固形物に水を添加し、例えば、30分間攪拌し、好ましくは焼結ディスク濾過用漏斗を使用して濾過する。次いで、たとえば、HCl2Mを添加し、混合物を、好ましくはオーバーナイト攪拌し、その後、好ましくは焼結ディスク濾過用漏斗を使用して濾過し、好ましくは、60℃以下で乾燥する。
【0068】
他の反応条件は当業者に周知であり、反応の完了は、当業者に周知の方法で実行することができる。
【0069】
式(I)の化合物(但し、R5及びR6の一方は、水素原子、及び他方はtert-ブトキシカルボニル基)は、上記反応スキームにおいて、di-tert-ブチルジカーボネート(tBOC2O)を1当量だけ使用して合成することができる。
【0070】
式(II)の化合物の合成を、以下の実施例に記載する。
[実施例]
【実施例1】
【0071】
1、1’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-ビス(5、7、5’、7’-テトラブロモ-インドリデン)-3、3’-ジオン(Bis-tBOC-5、7、5’、7’-テトラブロモインディゴ);式(II)の化合物の製造。
1、1’-ビス(5、7、5’、7’-テトラブロモ-インドリデン)-3、3’-ジオン(1当量)を、室温で、ジクロロメタン中で、4当量以上のtBOC
2O及び約2当量のDMAPと1~3日間攪拌する。得た反応混合物を、殆ど乾燥状態になるまで濃縮し、標題の化合物を製造する(収率:90%)。希望するならば、前記化合物をAcOEt中で再結晶することによって精製することができる。
図3及び4は、標題の化合物のXRD(X線回折)スペクトラム及びFT-IR(フーリエ変換赤外スペクトロスコープ)スペクトラムを示している。
【実施例2】
【0072】
1、1’-ビス(tert-ブトキシカルボニル)-ビス(5、7、5’、7’-テトラブロモ-インドリデン)-3、3’-ジオン(Bis-tBOC-5、7、5’、7’-テトラブロモインディゴ);式(II)の化合物の製造。
1、1’-ビス(5、7、5’、7’-テトラブロモ-インドリデン)-3、3’-ジオン(1当量)を、室温で、ジクロロメタン中で、4当量以上のtBOC2O及び約2当量のDMAPと1~3日間攪拌する。前記反応溶媒を、加圧下、低温で除去し、次いで得た固形物に水を添加し、例えば、30分間攪拌し、好ましくは焼結ディスク濾過用漏斗を使用して濾過する。次いで、たとえば、HCl2Mを添加し、得た混合物を、好ましくはオーバーナイト攪拌し、その後、好ましくは焼結ディスク濾過用漏斗を使用して濾過し、好ましくは、60℃以下で乾燥する。
【実施例3】
【0073】
染色工程
実施例1の化合物8gを、250mLの水に添加したNaOH(11ml、48ボーメ)及びNa2S2O4(10g)の存在下で還元する。室温において、実験室タイプのパド-バッチマシーンを使用して生地を染色する(浸漬時間:10~25秒間、酸化時間:90~210秒間)。
上記の染色工程は、製造ラインとしてスケール-アップすることができる。
【実施例4】
【0074】
実施例3で染色した織物材料の更なる処理
実施例3で染色した織物材料を実験室タイプのオーブン又はステンタで加熱する。温度及び処理時間に依存して、種々の色を得ることができる。変法として、全工程を、実施例3で染色した湿った織物材料に適用することができる。
レーザ適用として、湿潤又は乾燥した織物材料にレーザビームを照射する。レーザパワー、デューティーサイクル、及び照射速度に依存して、色、色の濃淡等多様な効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の式(I)の新規なインディゴ誘導体化合物は、織物材料、特にデニムと親和性がある非可逆性変色性染料なので、直接デニムを染色することができ、更に、例えば、光、熱、電流、圧力、溶媒、電子ビーム、レーザビーム等外部刺激に反応して色を変化させることができるので、染色された織物材料に多種多様な色合い等芸術的効果を付与する。従って、染色産業、衣料品産業、ファッション産業界等で利用価値がある。