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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】熱補償
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20220415BHJP
【FI】
G01N15/02 A
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017151926
(22)【出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2018059905
(43)【公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-07-28
(31)【優先権主張番号】16182896.7
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505307747
【氏名又は名称】マルバーン インストゥルメンツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】プールマン リース
(72)【発明者】
【氏名】ストリングフェロウ デビット
(72)【発明者】
【氏名】ライトフット ニーゲル
(72)【発明者】
【氏名】コルベット ジェイソン
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-141025(JP,A)
【文献】特開2012-103259(JP,A)
【文献】特開2000-097841(JP,A)
【文献】特表平03-505131(JP,A)
【文献】特開昭63-153448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14、21/00-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光回折によって流体分散剤内に懸濁している粒子の特性を評価する方法であって、
散乱光の輝度を測定するように配置されている検出素子から測定データを取得すること、
前記分散剤内の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与を識別すること、
前記測定データを処理して、前記分散剤の不均質な部分により散乱された光に起因する前記測定寄与を除去または分離すること、
処理済の測定値から粒径分布を計算すること、を含み、
前記検出素子は前記測定データを取得する複数の検出素子のうちの1つであり、
前記検出素子は複数の散乱角において散乱光の輝度を測定するように配置されており、前記複数の散乱角は照射軸を中心とした複数の角度にわたって分布していて、前記複数の検出素子のうちの第1の検出素子は第1半径の上に位置し、前記複数の検出素子のうちの第2の検出素子は第2半径の上に位置し、前記第1半径は、前記照射軸から引き出され、前記第1半径上の前記第1の検出素子の質量中心の、前記照射軸に垂直な仮想平面上への投影の位置を通り、前記第2半径は、前記照射軸から引き出され、前記第2半径上の前記第2の検出素子の質量中心の、前記仮想平面上への投影の位置を通り、前記第1半径と前記第2半径のそれぞれは前記仮想平面上にあり、前記第1半径と前記第2半径の間の角度は、前記照射軸を中心として角距離を規定し、
前記分散剤内の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与の識別は、前記照射軸を中心として非対称である測定散乱光を識別する、方法。
【請求項2】
前記複数の検出素子のうちの少なくともいくつかは、散乱角が大きくなるに伴って、前記第半径上及び前記第2半径に交互に配置されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
記第1半径及び前記第2半径は、前記照射軸を中心として少なくとも90度の角距離を有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記検出素子のうちの少なくともいくつかは、それぞれの質量中心が散乱角の対数配列になっている状態で配置されている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
測定値の取得は、前記検出素子または複数の前記検出素子から散乱光の輝度の時間履歴を取得する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散剤内の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与の識別は、前記複数の散乱角の各々に対する前記測定値内のピークを識別する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ピークの識別は、測定データを同じ測定データから取得した平滑化されたデータと比較する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記平滑化されたデータは、異なる時間幅を有する複数の移動平均から取得した移動平均を備えている、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ピークを、粒子から散乱している光から生じた粒子ピークとして、または分散剤の不均質な部分からの散乱から生じた擬似ピークとして分類する、請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
隣接する散乱角を有するn個の検出器の連続する範囲にわたって時間tの範囲内に対応するピークが存在している場合にピークを粒子ピークとして分類する方法であって、前記n個の検出器のうちの少なくともいくつかは前記照射軸を中心とした角距離を有している、請求項9記載の方法。
【請求項11】
さらに、回折実験を行って前記測定データを取得する、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法を行うように構成されているプロセッサ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法を行うように構成されている機器。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法を行うようにプロセッサまたは機器を構成する命令を備えている、機械にて読み取り可能な非一時的記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は粒子特性評価機器及び粒子特性評価方法に関する。
回折を用いた粒子特性評価機器は、粒子から散乱した光を測定することによって機能している。散乱パターンと粒径分布の関係の数学的記述(またはモデル)を用いて、粒径分布を推測している。数学的記述には、算出パラメータとして、粒子と、粒子が懸濁されている媒体との間の屈折率比が必要である。測定された光散乱データをモデルと比較することにより、粒径分布(particle size distribution:PSD)の計算を行う場合もある。通常用いられる理論は、媒体の屈折率は均質かつ静的であると仮定している。測定中において媒体の屈折率が均質かつ静的ではない場合、PSDの計算値には擬似的な粒径が含まれてもよい。
【0002】
回折を用いた測定(静的光散乱等)及び動的光散乱(散乱の経時特性に基づく)は両方とも、希釈媒体内の不均質な部分からの散乱による影響を受ける。
懸濁媒体(または分散剤)の屈折率が不均質な場合があることには、いくつか理由がある。最も一般的な理由は分散剤内での熱のばらつきであるが、他の原因として圧力のばらつき、混入物質、試料溶解等も挙げることができる。このような類の不均質性によって生じる散乱パターンは本質的にほぼランダムであるので、これらを測定データから除去するのは難しい。
【0003】
特開2015-141025号は、等方性背景光を除去することで、蛍光を除去するフィルタを用いずに散乱測定を行うことができる装置を開示している。米国特許第7471393号は、粒子を計数し、選定された粒径範囲に分類することによって、粒子試料の粒径分布を測定する機器を開示している。
【0004】
従来から、熱や圧力のばらつきの影響は、恒温環境内に試料を保持している間にこのようなばらつきが一様になるまで待つことによって極力抑えている。しかし、これにかかる時間があまりにも長すぎる状況や、いつまでも安定しない状況も存在し得る。物質混入や試料溶解の場合には、既知の一般的な解決法は存在しない。
【0005】
本発明の第1の態様によれば、光回折によって流体分散剤内に懸濁している粒子の特性を評価する方法であって、散乱光の輝度を測定するように配置されている検出素子から測定データを取得し、分散剤内の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与を識別し、測定データを処理して、分散剤の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与を除去または分離し、処理済の測定値から粒径分布を計算する方法が提供されている。
【0006】
検出素子は測定データを取得する複数の検出素子のうちの1つであってもよい。
検出素子は複数の散乱角において散乱光の輝度を測定するように配置されていてもよく、複数の散乱角は照射軸を中心とした複数の角度にわたって分布していてもよい。
【0007】
粒径分布の計算は、様々な角度での光の回折パターンに基づいて計算してもよく(例えば静的光散乱)、および/または、測定データに対して自己相関を行ってもよい(例えば動的光散乱)。
【0008】
分散剤内の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与を識別することは、照射軸を中心として非対称である測定散乱光を識別することを含んでもよい。
照射軸を中心として非対称である測定散乱光を識別することは、散乱光が粒子からの散乱に起因しないことを示唆するのに十分なほど照射軸を中心として非対称であるかどうかを識別することをふくんでもよい。照射軸を中心としてわずかに非対称であることは、光が分散剤の不均質性から散乱されていることを意味していない可能性がある。照射軸を中心として非対称である測定散乱光を識別することは、粒子からの散乱に起因することが予想されると考えられるものよりも非対称であるデータを識別する任意のデータ処理を含んでもよい。
【0009】
いくつかの実施形態において、本方法は、測定データを供給する測定を行うことを実際に含んでいる必要はない。測定データを取得することは、記憶媒体(例えば不揮発性メモリ、フラッシュメモリドライブ、ハードディスク等)から測定データを読み出すこと、または、通信ネットワーク上で測定データを受信することを含んでもよい。
【0010】
複数の散乱角のうちの少なくともいくつかは、散乱角が大きくなるに伴って、照射軸を中心とした第1及び第2半径方向位置の間に交互に配置されていてもよい。
検出素子は、照射軸を中心として非対称であることに対して感度を有していなければならない。照射軸を中心とした第1及び第2半径方向位置は、照射軸を中心として少なくとも90度離間していてもよい。
【0011】
照射軸方向に見ると、各検出素子は、照射軸から引き出されて検出素子の質量中心を通る半径上にあるとみなされてもよい。検出素子の照射軸方向での位置は、照射軸を中心とした角距離の角度の決定に関連はしないので、検出器のそれぞれの半径方向位置は、任意の位置における照射軸に垂直な仮想平面上への投影を参照して検討することができる。したがって、それぞれの検出素子の間の角距離の角度は、仮想平面内でのそれぞれの半径方向位置の間の角度である。
【0012】
複数の散乱角のうちの少なくともいくつかは、散乱角の対数配列になっていてもよい。検出素子のうちの少なくともいくつかは、それぞれの質量中心が散乱角の対数配列になっている状態で配置されていてもよい。
【0013】
測定値を取得することは、(例えば複数の散乱角において)検出素子または複数の検出素子から散乱光の輝度の時間履歴を取得することを含んでもよい。
分散剤内の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与を識別することは、複数の散乱角の各々に対する測定値内のピークを識別することを含んでもよい。
【0014】
ピークを識別することは、測定データを同じ測定データから取得した平滑化されたデータ(移動平均またはフィルタリングされたデータ)と比較することを含んでもよい。
平滑化されたデータが移動平均を備えている場合、移動平均は異なる時間幅を有する複数の移動平均から取得されてもよい。
【0015】
本方法は、ピークを、粒子からの散乱から生じた粒子ピークとして、または分散剤の不均質な部分からの散乱から生じた擬似ピークとして分類してもよい。
時間的な特徴と対称性の特徴の組み合わせを用いて、擬似ピークを識別・排除することができる。
【0016】
本方法は、隣接する散乱角を有するn個の検出器の連続する範囲にわたって時間tの範囲内に対応するピークが存在している場合にピークを粒子ピークとして分類してもよく、n個の検出器のうちの少なくともいくつかは照射軸を中心とした角距離を有していてもよい。
【0017】
データを処理することは、分散剤の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与が存在するときの時刻で得られた測定データを廃棄することを含んでもよい。廃棄されるデータは、分散剤の不均質な部分により散乱された光に起因する測定寄与を含む散乱角のみを備えていてもよい。
【0018】
データの処理は、移動平均を有する擬似ピークを置き換えることによって、擬似ピークを除去してもよい。
本方法はさらに、測定データを取得するために回折実験(試料を照射して散乱光を検出することを含む)を行うことを含んでもよい。
【0019】
第2の態様によれば、第1の態様の方法を行うように構成されているプロセッサまたは機器が提供されている。
第3の態様によれば、第1の態様に係る方法を行うようにプロセッサまたは機器を構成する命令を備えている機械にて読み取り可能な非一時的記憶媒体が提供されている。
【0020】
各態様及び全態様の特徴を、他の各態様及び全態様の特徴と組み合わせてもよい。
純粋に一例として、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、ある実施形態に従って構成されている粒子特性評価機器の概略図である。
図2図2は検出アレイの概略図である。
図3図3は、照射軸を中心とした検出素子間の角距離を示した図である。
図4図4は、測定データにおける粒子ピークの識別を図示したものである。
図5図5は、測定データにおける擬似ピークの識別を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照すると、光源101と、試料セル103と、検出器107と、プロセッサ110とを備えているレーザ回折粒子特性評価機器100が図示されている。光源101はレーザ光源であってもよく、照射軸102の方向に、試料セル103内部にある試料を照射するように動作可能である。試料は、流体分散剤104(例えば水)内に懸濁している粒子105を含有している。
【0023】
照射する光ビームと粒子105との相互関係の結果、散乱/回折が起こり、散乱光106が生じる。検出器107は、散乱光を検出するように配置されている。(照射軸102に対して)様々な散乱角で散乱した光を受光するために、複数の検出素子が用意され、配置されている。検出素子107もまた、照射軸102を中心として様々な角度で分配されている。検出器107は、検出素子からなるアレイ(例えば焦点面アレイ検出器)を備えていてもよく、また、複数の個別の(例えば間隔をあけて配置された)検出素子を備えていてもよい。
【0024】
粒子105から検出器107上に投影された散乱パターンは、偏光効果がほとんど見られない粒径では照射軸102を中心として対称である。実際には、通常これは約10μm以上の粒径の場合、照射軸を中心として散乱パターンが対象であることを意味する。
【0025】
図2を参照すると、複数の検出素子107a~107f(分かりやすくするために大きめの要素のみを標示している)を備えている検出器の例である焦点面アレイ107が示されている。各検出素子は、散乱角が大きくなるに伴って、照射軸102を中心とした第1角と第2角の間に交互に配置されている。図2の例では、第1角と第2角は照射軸102を中心として180度離れている(つまり照射軸102の両側に配置されている)。本例において、もっとも高角度な散乱角を有する検出素子107aは光軸の上側、次の素子107bは下側、その次の素子107cは上側、等々にある。本例における検出素子は環状であり、照射軸102を中心とした少なくとも100度、しかし180度未満の角度に跨っている。離接する散乱角に関連する検出素子同士を空間的に分離することによって、電気的なクロストークが低減し、測定データ108の全体としての忠実度が向上する。
【0026】
検出素子107a~107fは、対数配列に一致する散乱角に調心されていてもよく、連続する検出素子は、散乱角が広がるにつれて、幅(散乱角内での範囲)が対数的に増大していってもよい。照射軸102の近くでは、散乱角が小さい範囲では、多くの検出器が狭い間隔で存在してもよく、散乱角がより大きい範囲では、より大きな検出器がより少ない数で存在していてもよい。このような配置は、粒子が大きめであると低角度の散乱角である輝度が高めの散乱光が生じ、粒子が小さめであると等方性がより強くなる(つまり高角度の散乱角が含まれる)輝度が低減した散乱光が生じるので、効果的であり得る。
【0027】
検出器107からの測定データは散乱角の順序で配列されていてもよく、粒子がレーザ光を横切る際に得られる散乱エネルギー分布が連続的で滑らかになる。時間及び散乱角に対する輝度を使用して、粒子が照射光を横切る際に、粒子からの散乱ピークの立体視覚化を行ってもよい。検出器が交互に配置されているにもかかわらず、このような散乱ピークは照射軸102を中心とした対称散乱によって滑らかである。一方、分散剤の不均質性に起因する散乱は、照射軸を中心とした隣接する散乱角に対する検出素子同士が離隔しており、照射軸を中心とした散乱が非対称であるために、散乱角に対して滑らかではないピークを生じさせる。
【0028】
図2の検出器が散乱光パターン内の非対称性を検出するのに特に好適であってもよいが、照射軸を中心とした非対称性を検出可能であるいかなる検出素子配置(例えば画素素子からなる二次元アレイ)もまた好適である
図3は、第1検出素子107aと第2検出素子107bとに関連する、照射軸102を中心とした角距離50の測定を図示したものである。角距離50は、照射軸102と第1検出素子107aの質量中心との間にある第1ベクトルと、照射軸102と第2検出素子107bの質量中心との間にある第2ベクトルとの間の角度を参照して決定される。第1検出素子107aと第2検出素子107bは、照射軸方向において必ず同じ位置とは限らない。つまり、両ベクトルが照射軸方向においてずれている場合、その角度は、照射軸に対して垂直な仮想平面上への両ベクトルの投影を参照して決定することができる。
【0029】
図1に戻り、検出器107は、散乱光106を検出し、測定データ108を出力するように動作可能である。測定データ108からは各検出素子での散乱光の輝度の時間履歴が得られてもよい。測定データ108はプロセッサ110に提供される。
【0030】
プロセッサ110は、メモリ内にロードされ得る命令を実行する。プロセッサ110は、任意の適切な数および種類のプロセッサまたは他のデバイスを、任意の適切な構成で有していてもよい。プロセッサ110の種類の例としては、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号処理プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、特定用途向け集積回路、及びディスクリート回路が挙げられる。
【0031】
メモリは、情報の(データ、プログラムコード、及び/または他の適切な情報等の一時的な、または恒久的な)格納や、検索の促進が可能な任意の構造(複数の構造)の代表例である。メモリとは、ランダムアクセスメモリ、読み出し専用メモリ、ハードディスク・ドライブ、フラッシュメモリ、光ディスク、もしくは他の任意の揮発性記憶装置または不揮発性記憶装置を表していてもよい。
【0032】
プロセッサ110は、照射軸を中心として非等方性である測定散乱光を識別することによって、分散剤104内の不均質な部分によって散乱された光から生じた測定寄与を識別し、測定データ108を処理してこの測定寄与を除去するように構成されている。プロセッサ110は次に、処理済の測定データからPSDを計算する。
【0033】
本例において、プロセッサ110は、測定データ108内のピークを識別し(121)、次に各ピークに種別、つまり、粒子から散乱された光から生じた粒子ピーク、または、分散剤の不均質性からの散乱から生じた擬似ピークを割り当てる(122)ように構成されている。プロセッサ110は、擬似ピークを低減するように測定データ108を処理(123)した後、処理済の測定データからPSDを計算する(124)。
【0034】
時間分解データ108内のピークは、各検出素子のデータを、その検出素子のデータ移動平均と比較することによって識別してもよい。
時刻tでの移動平均μ(t)は、
【0035】
【数1】
として計算してもよい。ここで、Δtは積分を計算する時間窓の長さであり、I(t)は検出素子j上での輝度である。
【0036】
時刻tでの標準偏差σ(t)は、
【0037】
【数2】
として計算してもよい。ここで、Δtはμ(t)の計算に使用したものと同じ時間窓でなければならない。
【0038】
移動平均値は、正規化差分値Δ(t)
【0039】
【数3】
を用いて未加工データと比較してもよく、判定値Cと比較してもよい。あるいは、ZスコアΔ′(t)
【0040】
【数4】
を用いて移動平均を未加工データと比較することもできる。Δ(t)>CまたはΔ′(t)>Cである場合は、tからt+Δtの範囲における最大点は、粒子か、または懸濁媒体の屈折率の不均質性のどちらかによって生じた、データ内のピークである。
【0041】
パラメータΔtは、未加工測定データ内のピークの持続時間に対する本方法の検出感度を定義しており、分散剤の粘度及び粒子105と分散剤10との間の流体力学的結合に依存していてもよい。ピークがΔtよりも長い持続時間を有する場合には、ピークを検出することはない。動く速度が遅い粒子から生じるピークの検出に失敗するのを防ぐために、時間窓の長さが異なる数個の移動平均を用いてもよい。ピーク識別速度を上げるために、各移動平均を並行して計算してもよい。
【0042】
移動平均は、比較Δ(t)を計算できるようにして、より小さな変動を平滑化する。一般に、任意の平滑化アルゴリズムを使用してもよい。例えば、使用される可能性のある別の簡素な平滑化方法としては指数平滑法があり、その最も簡素な形は、
【0043】
【数5】
であると考えられる。ここで、s(t)は検出素子jでの平滑化されたデータ、0<α<1は平滑化因子、そしてδtは検出素子の時間ステップである。Δ(t)で定義された比較では、関数μ(t)から関数s(t)に置き換わると考えられる。平滑化関数の別の例としては、自己回帰移動平均や自己回帰和分移動平均が挙げられる。
【0044】
次に、識別されたピークを、粒子から散乱している光による粒子ピークか、分散剤の不均質性(屈折率のばらつきを招く)により散乱している光から生じた擬似ピークのどちらかとして割り当てる。粒子により散乱している光は、複数の検出素子にわたって広がるのに十分なほど広い角度範囲で発生し、通例では、検出素子の(散乱角が広がっていく点において)連続する範囲の間で検出されるのに十分なほど、検出器107の中心点に対して対称である。
【0045】
これは、粒子ピークの特性評価を行う1つの方法は、現状はピークの原因を粒子から散乱している光にあるとすることができる場合に、n個の検出器(n>1)にわたってtからt+Δtの範囲内でのピークについて調べることであることを意味している。これが事実とは異なる場合、ピークは屈折率の不均質な部分による擬似ピークとして分類される。
【0046】
ピークの持続時間は、その位置と同様に決定されてもよい。この追加情報があれば、データから擬似ピークを除去可能であり、またデータを再度1つに合わせることが可能である。他の擬似ピーク識別方法は、上述のように、粒子が存在していない場合にバックグラウンド測定段階においてピークを検出することであると考えられる。これらのピークは(粒子が存在していないので)全て擬似ピークである。擬似ピークを統計的に分析することによって、擬似ピークの典型的な持続時間を判定することが可能であり、これを測定中に識別されたピークと比較することが可能である。擬似ピークの特徴と合致するピークは、分散剤の屈折率が不均質な部分によるものとして分類することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、測定データ108を処理することによって、分散剤の不均質な部分から散乱している光に起因する測定寄与を除去してもよい。データを除去する1つの方法は、検出素子からの、擬似ピークに相当する測定データを除外することである。
【0048】
データ内のピークを識別する代替案は、粒子がほとんど存在しない(及び同一のまたは代表的な分散剤を有する)試料からの散乱データに対して周波数解析を行うことである。周波数解析に基づいてフィルタを生成し、分散剤の不均質な部分に起因する検出素子からの変動を除去してもよい(データが得られたときに、または後処理動作として)。
【0049】
いくつかの実施形態では、非対称性と経時特性とを組み合わせて用いて、分散剤の不均質な部分に起因する散乱寄与を除去または分離してもよい。例えば、データからの出力を(ある特定の経時特性を有するデータを除去するために)フィルタリングし、次に、非対称な散乱を識別するように処理してもよい。あるいは、時間的な基準と対称性の基準の組み合わせに基づいて擬似ピークを識別してもよい。いくつかの実施形態では、ピークを擬似ピークとして排除するためには、所定の経時特性と非対称散乱の両方が必要とされてもよい。
【0050】
図4は、ある粒子からの散乱測定データの例を図示している。グラフ201~206はそれぞれ、散乱角の範囲にわたる6つの検出素子からなるシーケンスからの測定データを示している。これら6つの検出器のうちの少なくともいくつかが、照射軸を中心とした半径方向の位置において、他の検出器の少なくともいくつかとは異なる位置に配置されている。特に、本例では、奇数が付されているグラフ201,203,205が得られた検出器は、偶数が付されているグラフ202,204,206が得られた検出器とは、照射軸102を中心とした反対側にある。
【0051】
各グラフ201~206は未加工測定データ211と移動平均212を含んでいる。第1グラフにおいて、しきい値231を超えた未加工データ211と移動平均との差によって、ピーク220が検出される。ピーク220は最大値232を有している。最大値付近で、下限233と上限234を有する時間窓tを計算してもよい。他のグラフ202~206の各々において、この時間窓の範囲内でピークが検出されている。したがって、これらのグラフの各々でのピーク220は、粒子から散乱している光に起因する粒子ピークとして分類できる。
【0052】
他の基準を用いて対応するピークを探索してもよい。例えば、時間窓tは、グラフ201内でしきい値を上回った瞬間から始まり、しきい値を上回らなくなった瞬間まで続き得る。ピークが粒子ピークであると立証するために確認すべき隣接検出器の数は、任意の適切な数であってもよく(例えば2,3,4,5,10等)、本例では6である。
【0053】
図5は、分散剤の不均質性からの散乱測定データの例を図示している。第1グラフにおいてピーク220が識別されているが、第2グラフ202には対応するピークは存在しておらず、また、他のグラフ203~206のいずれも同様である。したがって、ピーク220は擬似ピークとして分類される。例えば擬似ピークの持続時間のデータとして移動平均値を用いることにより測定データを処理することによって、擬似ピークを排除してもよい。
【0054】
測定データ108内のピークをその源(擬似なのか粒子なのか)に基づいて分類できると、いくつかの応用例が可能になるが、その中で最も重要なのは粒子に関連する散乱データを隔離することである。このようにする際には、もはや粒子分粒機器の使用者に擬似サイズを報告しない。一般に信号対雑音比も改善するので、PSDの精度が向上する。
【0055】
上述の方法においてデータを分離できると、他の応用例がいくつか可能になる。これには、混入物質の有無と種類について調べた後、適切な洗浄処置を適用して、混入物質に起因する信号をアルゴリズムによる手段によって除去または低減する「スマート洗浄(smart clean)」の用途が挙げられる。データから雑音源を除去できるので、必要とされる試料の量を減らす「試料サイズ縮小」モードも可能になる。また、分散剤内の気泡の検出は、配置可能であり、脱気処置を作動させることができる。
【0056】
別の実施可能な応用例としては、測定開始前のみではなく、試料測定中にバックグラウンドをモニタリングすることを可能にする動的バックグラウンドモニタリングが考えられる。セル内の粒子の照射に用いられるレーザ光が、各画素を横断する一定信号も生成し、これをバックグラウンドと称する。バックグラウンドは、試料測定前に測定され、試料測定後に検出器が記録した散乱値から引き去ることによって、バックグラウンドがPSDに影響を及ぼすのを防ぐ。このバックグラウンドが試料測定中に長い時間尺度でばらつくために、バックグラウンドを不正確に引き去ってしまうと予想される。測定中にバックグラウンドをモニタリングすることで、リアルタイムのバックグラウンドを引き去ることができる。測定データから擬似ピークを引き去ることができる場合、バックグラウンドのより正確なモニタリングが可能になる。
【0057】
特定の例を説明してきたが、これらは限定を行うためのものではなく、当業者であれば、添付請求項にて規定されている本発明の範囲の範疇においてさらなる変形が可能であることが理解されよう。
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