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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】液晶パネル
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1341 20060101AFI20220415BHJP
   G02F 1/141 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
G02F1/1341
G02F1/141
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018060927
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019174574
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真哉
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-309871(JP,A)
【文献】特開2007-101647(JP,A)
【文献】特開2005-292347(JP,A)
【文献】特開2000-075308(JP,A)
【文献】特開平05-188379(JP,A)
【文献】特開2007-101657(JP,A)
【文献】特開平04-294321(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0052624(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0153225(US,A1)
【文献】米国特許第05548428(US,A)
【文献】特開2011-242670(JP,A)
【文献】米国特許第05986736(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1341
G02F 1/141
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2枚の基板と、前記2枚の基板のそれぞれの対向する面に設けられた配向膜と、前記2枚の基板を貼り合わせる接着剤と、前記接着剤に設けられた液晶注入口と、前記接着剤で囲まれた領域に注入された強誘電性液晶と、を備えた液晶パネルであって、
前記液晶注入口は、前記2枚の基板の外周部へ向かって突出するように前記接着剤の第一延在部と第二延在部とで形成され、
前記第一延在部は、前記液晶注入口の開口端側に位置する第一端部を有し、
前記第二延在部は、前記液晶注入口の開口端側に位置する第二端部と、前記第二延在部の延在方向において前記第二端部とは反対側に位置すると共に前記第二延在部が延在する方向とは交差する方向へ屈曲する屈曲点とを有し、
前記配向膜は、前記強誘電性液晶を所定の配向規制方向に沿って配向させる配向秩序性を有し、
前記第一端部から前記配向規制方向に沿って延ばした直線が前記屈曲点と前記第二端部とを通る直線と交わる交点までの前記第一端部と前記交点とを結ぶ直線の長さをLとし、前記屈曲点と前記第二端部とを結ぶ直線の長さをXとし、前記第一延在部が延在する方向とは直交する方向と前記配向規制方向とが成す角度をθとした場合、

L・Sinθ≦X

の関係が成り立つことを特徴とする液晶パネル。
【請求項2】
前記配向規制方向は、前記配向膜のラビング方向であることを特徴とする請求項1に記載の液晶パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電性を有するカイラルスメスチック液晶などの強誘電性液晶を用いた液晶パネル(強誘電性液晶パネル)は電界の変化に対する応答速度が速いこと、また、双安定性の特性を有することから様々な分野での利用が期待されてきている。
【0003】
強誘電性液晶パネルは、大型テレビ等で従来より用いられている液晶材料とは異なり、その使用温度範囲でスメクチック相と呼ばれるフェイズ(相)が存在しており、そのフェイズでは(スメクチック相)、従来液晶に比べると粘性が高く、結晶に近い構造となっているために、液晶分子の重心の秩序性が高く、図2に示すような層構造(層構造22)と呼ばれる特殊な構造が形成される。なお、図2は強誘電性液晶の層構造を示す液晶パネルの模式的な断面図である。
【0004】
この強誘電性液晶を配向させるためには、一般的には対向する2枚の基板の内側の表面に配向膜と呼ばれる有機材料を薄く塗布し、この表面をコットンやレーヨン等の布を巻き付けたロールで一方向(ラビング方向23)へ擦るラビングと呼ばれる方法を用いて、その表面に液晶分子(液晶分子21)が配向しやすくなるための秩序性を付与しておく。
【0005】
さらに、このような層構造をもったスメクチック相を一様に配向させるためには、従来より温度勾配方と呼ばれる方法が用いられてきており、液晶注入後にスメクチック相よりも高温側に存在する等方相から低温側のスメクチック相へ非常にゆっくりと冷却をすることにより欠陥のない配向を実現させる方法が知られている。
【0006】
そのためには、液晶パネルの全体を均一に冷却させる必要があり、もしこの冷却状態が不均一になると、層の傾きが一様にならないために現れるジグザグ欠陥と呼ばれる配向欠陥が度々発生する。
【0007】
一方、液晶パネルでは通常二枚の対向基板を接着材により貼り合わせ、この2枚の基板間を一定のギャップに保ち、この2枚の基板の間に液晶が注入される。そのため、この接着材の一部分には液晶をこの貼り合わせた二枚の基板間に注入するための注入口と呼ばれる穴が開いた状態になっている。この穴から液晶を注入した後で、再度穴から液晶が漏れる事を防ぐために、2枚の基板を貼り合わせるために用いた材料とは異なる材料で穴を塞いで封口を行っている。
【0008】
接着剤は一般的には図1に示すように、張り合わせた後に接着剤が基板の外部に漏れ出ないために、2枚の基板の外周部よりも内側に設けられ、一方、液晶の注入のための開口部分(穴)は基板の外周部の端部に設けられる。
【0009】
また前述したような液晶パネルの構造では、注入口は2枚の基板を張り合わせるための接着剤とはパネル作成の工程上の問題もあり、異なる材料を用いているために、一様な構造とはなっていないために、高温から低温まで、液晶パネルを均一な温度勾配で冷却する事が難しくなっている。そのために、冷却時に不均一な温度勾配が発生し、注入口付近から配向欠陥が発生する事が良く知られている。
【0010】
このような配向欠陥を防ぐための技術としては、例えば特許文献1では、冷却の不均一性から発生するひずみを緩和させるために、むしろ積極的に液晶パネルの注入口に配向欠陥を発生させるための部位を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-309871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の特許文献1に示された構成では、本願発明の発明者が様々な実験を行った結果、有効画素領域外のみにこのような配向欠陥を発生させることは極めて困難であり、有効画素領域外で発生した配向欠陥は有効画素領域内へ度々成長して侵入していく事があった。
【0013】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、液晶注入口に発生する配向欠陥が有効画素領域へ拡大する事を抑制することが可能な液晶パネルを提供する事を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
互いに対向する2枚の基板と、前記2枚の基板のそれぞれの対向する面に設けられた配向膜と、前記2枚の基板を貼り合わせる接着剤と、前記接着剤に設けられた液晶注入口と、前記接着剤で囲まれた領域に注入された強誘電性液晶と、を備えた液晶パネルであって、前記液晶注入口は、前記2枚の基板の外周部へ向かって突出するように前記接着剤の第一延在部と第二延在部とで形成され、前記第一延在部は、前記液晶注入口の開口端側に位置する第一端部を有し、前記第二延在部は、前記液晶注入口の開口端側に位置する第二端部と、前記第二延在部の延在方向において前記第二端部とは反対側に位置すると共に前記第二延在部が延在する方向とは交差する方向へ屈曲する屈曲点とを有し、前記配向膜は、前記強誘電性液晶を所定の配向規制方向に沿って配向させる配向秩序性を有し、前記第一端部から前記配向規制方向に沿って延ばした直線が前記屈曲点と前記第二端部とを通る直線と交わる交点までの前記第一端部と前記交点とを結ぶ直線の長さをLとし、前記屈曲点と前記第二端部とを結ぶ直線の長さをXとし、前記第一延在部が延在する方向とは直交する方向と前記配向規制方向とが成す角度をθとした場合、

L・Sinθ≦X

の関係が成り立つ液晶パネルとする。
【0015】
前記配向秩序性が付与された方向は、前記配向膜のラビング方向である液晶パネルであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液晶注入口に発生する配向欠陥が有効画素領域へ拡大する事を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る液晶パネルの模式的な平図面である。
図2】強誘電性液晶の層構造を示す液晶パネルの模式的な断面図である。
図3】強誘電性液晶の層法線とラビング方向を示す液晶パネルの模式的な平面図である。
図4-1】注入口に発生する配向欠陥の成長を説明するための概念図である。
図4-2】注入口に発生する配向欠陥の成長を説明するための模式的な平面図である。
図4-3】注入口に発生する配向欠陥の成長を説明するための模式的な平面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る液晶パネルの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態の説明:図1図4-1~図4-3、図5
本発明の第1実施形態に係る液晶パネルについて、図1図4-1~図4-3、図5を用いて説明する。なお、図1は本発明の第1実施形態に係る液晶パネルの模式的な平図面であり、図4-1~図4-3は注入口に発生する配向欠陥の成長を説明するための模式的な平面図であり、図5は本発明の第1実施形態に係る液晶パネルの模式的な断面図である。
【0020】
本実施形態に係る液晶パネル17は図5に示すように、ガラス基板51とシリコン基板52との間に一定の間隔を設けるために、柱の役割をするスペーサ54と呼ばれる粒径のシリカ材が混入された紫外線硬化型の接着剤53をシリコン基板52へ印刷により塗布し、その後ガラス基板51を貼り合わせ一定時間の紫外線を照射し接着剤53を硬化させた構造を有している。なお、接着材53はガラス基板51とシリコン基板52を貼り合わせた際にそれらの基板の外周部に接着時53が漏れ出す事を避けるためにそれらの基板の外周部よりも内側に塗布される。
【0021】
ガラス基板51の内側(シリコン基板52と対向する面)には液晶55に電圧を印加するための透明電極56が設けられており、またシリコン基板の内側(ガラス基板51と対向する面)にも液晶55に電圧を印加するためのアルミニウムなどからなる画素電極57が複数設けられており、この画素電極57には表示データに基づいた電圧を任意のタイミングで印加する事が出来、この印加電圧の大きさやタイミングに関してはシリコン基板52の内部に設けられた半導体電気回路で制御を行う事が出来る。なお、図5には図示されていないが、複数の画素電極57間の隙間には配向膜59の一部やその他の絶縁膜が介在している。
【0022】
また、透明電極56と画素電極57の表面には液晶分子を配向しやすくするためにポリイミドからなる有機材料をスピンナーを用いておおよそ100A程度の膜厚で塗布し、その後250℃程度の温度で焼成し、その後さらにそれぞれの表面に、布が巻かれたロールでその表面を擦るラビング処理と呼ばれる処理を施すことにより配向膜59が形成されている。配向膜59にはラビング処理により液晶分子を所定の配向規制方向に沿って配向させるための異方性が付与されている。
【0023】
この配向膜59が形成されたそれぞれの基板が貼り合わせられた後に、これらの基板間に約100℃の高温で等方相状態になっている強誘電性液晶を注入口14から注入し、温度が室温まで降下した時点で、液晶が注入口14から漏れ出ないようにするためにUV硬化型接着剤などからなる封口材58を用いて注入口14が塞がれている。
【0024】
注入口14は液晶を2枚の基板間に効率良く注入するために2枚の基板の外周部へ向かって突出するように形成されている。注入口14は図4-2、図4-3に示すように接着剤16の延在部のうち互いに対向する第一延在部16aと第二延在部16bとの間の空間として形成されている。接着剤16の第一延在部16aには2枚の基板の外周辺と接する第一端部11が設けられ、接着剤16の第二延在部16bには2枚の基板の外周辺と接する第二端部13が設けられている。さらに接着剤16の第二延在部16bには、その延在方向において第二端部13とは反対側に位置する部分に、第二延在部16bが接着剤16のその他の延在部と交差(例えば直交)するように接続された屈曲点12が設けられている。
【0025】
また、第一延在部16aの第一端部11からラビング方向18に沿って延ばした直線が第二延在部16bの第二端部13と屈曲点12とを通る直線と交わる点を交点19とし、この交点19と第一延在部16aの第一端部11とを結ぶ直線の長さをLとし、第二延在部16bの第二端部13と屈曲点12とを結ぶ直線の長さをXとし、第一延在部16aが延在する方向とは直交する方向とラビング方向18とが成す角度をθとした場合、

L・Sinθ≦X

の関係を満たしている。なお、本実施形態において上述の第一延在部16aが延在する方向とは直交する方向は、2枚の基板の外周辺のうち注入口14に接する一辺の延在方向と平行である。
【0026】
例えば、θが30°、Lが600um、Xが320umとされていれば、L×Sin30°=300um<320um=Xとなり、L・Sinθ≦Xの関係を満たす。なお、「um」は「マイクロメートル」である。
【0027】
[効果の説明:図4-1~図4-3]
強誘電性液晶は粘度が高いために、前述のパネル構造の場合に対向する2枚の基板間に液晶を注入する場合には、より高い温度の状態、スメクチック相よりも高い温度のフェイズ(ネマティック相や等方相)で注入される。その後、モジュールとして利用される室温付近まだ温度が冷却する事で、スメクチック相が発現する。しかしながら、スメクチック相は秩序性が高く、図2に示すような層構造と呼ばれる結晶構造に近い構造を取るため、この冷却状態が一様にならないような場合には配向欠陥が発生する。特に注入口部分は、液晶パネルの温度が下がった後に液晶材料が漏れ出ないようにするため、2枚の基板の貼り合わせに用いた接着剤とは別の材料からなる封口材を用いて塞がれるが、塞がれるまではこの部分に封口材がなく外部へ露出しており、また封口後は、封口材に用いる材料が2枚の基板を接着する接着剤の材料とは異なるため、温度が液晶を注入した際の高温から室温付近へ低下した場合や、封口後に必要に応じて液晶を再加熱した際の高温から室温付近へ低下した場合に、この注入口部分の冷却状態が他の部分の冷却状態と異なることとなり、この注入口部分には配向欠陥が発生しやすい。
【0028】
図3に示すように強誘電性液晶ではラビング方向23と層構造22の層法線31の方向が一致する事が知られている。一方、ある部分に配向欠陥が発生した場合には、最初に発生した配向欠陥が核となり、図3に示すように強誘電性液晶の層構造22の層法線31の方向へ欠陥が成長する事が知られている。このことから、配向欠陥が成長する方向(ラビング方向23)に配向欠陥の成長が妨げられるような構造物が存在すれば、配向欠陥の拡大を抑制する事が出来る。
【0029】
以下に本実施形態による効果を図4-1~図4-3を用いて説明する。注入口14の端部11で発生した配向欠陥はラビング方向に沿って成長していくが、図4-1に示すようにL・Sinθ>Xでは配向欠陥の成長を妨げる構造物がないため配向欠陥が有効画素領域内に侵入するが、図4-2に示すようにL・Sinθ=Xではちょうど配向欠陥の成長方向に接着剤16の屈曲点12があるため配向欠陥の成長が妨げられ、さらに図4-3に示すようにL・Sinθ<Xでは配向欠陥の成長方向に接着剤16の第二延在部16bがあるため配向欠陥の成長が確実に妨げられる。本実施形態では図4-2又は図4-3に示す状態が実現されているため、注入口14に発生した配向欠陥が有効画素領域内に進入する事はない。
【0030】
以上の実施形態において、接着剤16の第一延在部16aとその他の延在部との間には、接着剤16の第二延在部16bに設けられた屈曲点12のような屈曲点が設けられていても良い。
【0031】
配向膜59はシリコン酸化物を斜方蒸着することにより形成された無機配向膜などであっても良い。
【0032】
液晶55はネマティック液晶などであっても良い。但し、本発明は強誘電性液晶を用いた液晶パネルに特に適している。
【符号の説明】
【0033】
11 第一端部
12 屈曲点
13 第二端部
14 注入口
15、58 封口材
16、53 接着剤
16a 第一延在部
16b 第二延在部
17 液晶パネル
18、23 ラビング方向
19 交点
21 液晶分子
22 層構造
31 層法線
41 配向欠陥
51 ガラス基板
52 シリコン基板
54 スペーサ
55 液晶
56 透明電極
57 画素電極
59 配向膜
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5