(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
F01N 3/027 20060101AFI20220415BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20220415BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20220415BHJP
B01D 46/84 20220101ALI20220415BHJP
【FI】
F01N3/027 D
F01N3/027 B
F01N3/027 S
B01D39/20 D
B01D46/00 302
B01D46/84
(21)【出願番号】P 2018065741
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】笠井 義幸
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 行成
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-143817(JP,A)
【文献】特開2013-198887(JP,A)
【文献】特開2005-194935(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086813(WO,A1)
【文献】米国特許第5259190(US,A)
【文献】特開平02-221621(JP,A)
【文献】特開平02-123219(JP,A)
【文献】実開平05-006120(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/021~ 3/035
B01D 39/20
B01D 46/00 ~46/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となり流体の流入側の端面である流入端面から流体の流出側の端面である流出端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、最外周に位置する外周壁とを有する柱状のハニカム構造部、及び前記ハニカム構造部の側面に配設された一対の電極層を備え、
前記一対の電極層のそれぞれが、前記ハニカム構造部のセルの延びる方向に延びる帯状に形成され、
前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記一対の電極層における一方の前記電極層が、前記一対の電極層における他方の前記電極層に対して、前記ハニカム構造部の中心を挟んで対向するように配設されるハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造部は、前記流体の流入側が開口して前記流体の流出側の端面に目封止部を有する複数の第1セルと、前記流体の流出側が開口して前記流体の流入側の端面に目封止部を有する複数の第2セルとを有するハニカム構造体であって、
前記セルの延びる方向において、前記一対の電極層の
それぞれの長さの中央位置が、前記ハニカム構造部の長さの中央位置より、前記流体の流出側の端面に近いことを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記ハニカム構造部がセラミックス材料で形成される請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記ハニカム構造部の材料がNTC特性を有する請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記セルの延びる方向における前記ハニカム構造部の長さをLとするとき、前記一対の電極層のそれぞれが、前記流体の流出側の端面から、前記ハニカム構造部のセルの延びる方向に0.9×Lの長さ以内まで延びる請求項1~3のいずれかに記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハニカム構造体に関する。とりわけ、通電加熱時のパティキュレート燃焼によるハニカム構造体のクラックの発生を効果的に抑制できるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガスに含まれるパティキュレートを低減する用途としてセラミックスのハニカム構造フィルタが知られている。また、セラミックスのハニカムフィルタそのものを通電発熱体とみなし、通電加熱することによってパティキュレートを燃焼し取り除く技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、人口側から出口側へ延びる複数の通路を形成する壁構造体をなすとともに該通路は出口側が出口閉鎖壁で閉鎖された入口通路群と入口側が入口閉鎖壁で閉鎖された出口通路群からなりしかして任意の1つの入口通路は少なくとも1つの出口通路と壁を共有して可燃性微粒子を捕捉する濾過壁をなすフィルタにおいて、少なくとも壁構造体を多孔質導電性セラミックで形成するとともに該壁構造体を通電加熱するための電圧印加手段を上記フィルタの外周壁部に設けてなる可燃性微粒子除去用フィルタ装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2は、自己発熱型ディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、多孔質導電性セラミックスからなるフィルタ本体の両端面に、その中心部を除く周囲に電極層を形成させてなることで、パティキュレートの燃え残りが少なくなり、高い再生率のDPFが提供されることを開示している。また、再生後には、割れ等の異常もなく、安全性の高いDPFであると開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-143817号公報
【文献】特開2000-297625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィルタとしてのハニカム構造体を通電加熱することによりハニカム構造体内に堆積したパティキュレートを燃焼除去する場合、ハニカム構造体入口側のパティキュレートが燃焼すると燃焼熱が下流側に伝わり、下流側のパティキュレートの燃焼とあいまってハニカム構造部長さ方向に大きな温度差が生じ、熱応力によりクラックが発生する場合がある。また、ハニカム構造部の材料がNTC特性を有する場合、温度が高い側に電流が流れやすくなることから、更にハニカム構造部内での大きな温度差が増加してしまう。
なお、NTC特性(Negative Temperature Coefficient)とは、温度上昇に伴う抵抗の減少を示す特性である。
【0007】
本発明は上記の問題を勘案してされたものであり、通電加熱時のパティキュレート燃焼によるハニカム構造体のクラックの発生を効果的に抑制できるハニカム構造体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、ハニカム構造体の側面に配置される電極層の長さ方向の中央位置を、当該ハニカム構造体の長さ中心位置よりも下流側に配置することで、ハニカム構造体内のパティキュレート燃焼時の温度差を抑制することができ、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のように特定される。
(1)流体の流路となり流体の流入側の端面である流入端面から流体の流出側の端面である流出端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、最外周に位置する外周壁とを有する柱状のハニカム構造部、及び前記ハニカム構造部の側面に配設された一対の電極層を備え、
前記一対の電極層のそれぞれが、前記ハニカム構造部のセルの延びる方向に延びる帯状に形成され、
前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記一対の電極層における一方の前記電極層が、前記一対の電極層における他方の前記電極層に対して、前記ハニカム構造部の中心を挟んで対向するように配設されるハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造部は、前記流体の流入側が開口して前記流体の流出側の端面に目封止部を有する複数の第1セルと、前記流体の流出側が開口して前記流体の流入側の端面に目封止部を有する複数の第2セルとを有するハニカム構造体であって、
前記セルの延びる方向において、前記一対の電極層のそれぞれの長さの中央位置が、前記ハニカム構造部の長さの中央位置より、前記流出端面に近いことを特徴とするハニカム構造体。
(2)前記ハニカム構造部がセラミックス材料で形成される(1)に記載のハニカム構造体。
(3)前記ハニカム構造部の材料がNTC特性を有する(1)又は(2)に記載のハニカム構造体。
(4)前記セルの延びる方向における前記ハニカム構造部の長さをLとするとき、前記一対の電極層のそれぞれが、前記流体の流出側の端面から、前記ハニカム構造部のセルの延びる方向に0.9×Lの長さ以内まで延びる(1)~(3)のいずれかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通電加熱時のパティキュレート燃焼によるハニカム構造体のクラックの発生を効果的に抑制でき、また、通電制御がしやすくなるので、パティクレートを効率的に燃焼除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明におけるハニカム構造部の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態における第1セル及び第2セルを示す図である。
【
図3】
図2のハニカム構造部10におけるセル12の延びる方向と平行する断面を示す図である。
【
図4(a)】従来技術における電極層の配置を示す図である。
【
図4(b)】
図4(a)のハニカム構造部におけるセル12の延びる方向と直交する方向の断面を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態における電極層の配置を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態における電極層の中心角αを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の電気加熱型触媒用担体の実施の形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0012】
(1.ハニカム構造部)
図1は本発明におけるハニカム構造部の一例を示すものである。ハニカム構造部10は、例えば、流体の流路となり流体の流入側の端面である流入端面101から流体の流出側の端面である流出端面102まで延びる複数のセル12を区画形成する多孔質の隔壁11と、最外周に位置する外周壁とを有する。セル12の数、配置、形状等及び隔壁11の厚み等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。
【0013】
ハニカム構造部10は導電性を有する限り特に材質に制限はなく、金属やセラミックス等を使用可能である。特に、耐熱性と導電性の両立の観点から、ハニカム構造部10の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とするものであることが好ましく、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが更に好ましい。ハニカム構造部の電気抵抗率を下げるために、ケイ化タンタル(TaSi2)、ケイ化クロム(CrSi2)を配合することもできる。ハニカム構造部10が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、ハニカム構造部10が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカム構造部全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカム構造部10が炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカム構造部10が炭化珪素(合計質量)を、ハニカム構造部全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0014】
また、ハニカム構造部10の材料がNTC特性を有することが好ましい。ハニカム構造部10の材料がNTC特性を有する場合、温度が高い側に電流が流れやすくなることから、従来技術ではさらにハニカム構造部内での大きな温度差が増加してしまうことから、本願発明の効果がより顕著に現れる。また、ハニカム構造部10の材料がNTC特性を有すれば、ススなどのパティキュレートが堆積しやすい下流側でパティキュレートを燃焼しやすくなる。
【0015】
ハニカム構造部10の電気抵抗率は、印加する電圧に応じて適宜設定すればよく、特段の制限はないが、例えば0.001~200Ω・cmとすることができる。64V以上の高電圧用には2~200Ω・cmとすることができ、典型的には5~100Ω・cmとすることができる。また、64V未満の低電圧用には0.001~2Ω・cmとすることができ、典型的には0.001~1Ω・cmとすることができ、より典型的には0.01~1Ω・cmとすることができる。
【0016】
ハニカム構造部10の隔壁11の気孔率は、35~60%であることが好ましく、35~45%であることが更に好ましい。気孔率が、35%未満であると、焼成時の変形が大きくなってしまうことがある。気孔率が60%を超えるとハニカム構造部の強度が低下することがある。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0017】
ハニカム構造部10の隔壁11の平均細孔径は、2~15μmであることが好ましく、4~8μmであることが更に好ましい。平均細孔径が2μmより小さいと、電気抵抗率が大きくなりすぎることがある。平均細孔径が15μmより大きいと、電気抵抗率が小さくなりすぎることがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0018】
セル12の流路方向に直交する断面におけるセル12の形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、ハニカム構造部100に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、触媒の浄化性能が優れたものとなる。
【0019】
図2、
図3に示されるように、本実施形態において、ハニカム構造部は、流体の流入側が開口して流体の流出側の端面102に目封止部13を有する複数の第1セル121と、流体の流出側が開口して流体の流入側の端面101に目封止部13を有する複数の第2セル122とを有し、複数の第1セルと複数の第2セルは隔壁11を挟んで交互に隣接配置されている。これにより、流体は隔壁11を通ってハニカム構造部10を通過することになる。図示の実施形態に係るハニカム構造部においては、すべての第1セルが第2セルに隣接しており、すべての第2セルが第1セルに隣接しているが、必ずしもすべての第1セルが第2セルに隣接していなくてもよく、必ずしもすべての第2セルが第1セルに隣接していなくてもよい。
【0020】
ハニカム構造部10の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造部10の大きさは、耐熱性を高める(外周側壁の周方向に入るクラックを防止する)という観点から、底面の面積が2000~22000mm2であることが好ましく、4000~15000mm2であることが更に好ましい。また、ハニカム構造部10の軸方向の長さは、耐熱性を高める(外周側壁において中心軸方向に平行に入るクラックを防止する)という観点から、50~200mmであることが好ましく、75~150mmであることが更に好ましい。
【0021】
また、ハニカム構造部10に触媒を担持することにより、ハニカム構造部10を触媒用担体として使用することが可能である。
【0022】
ハニカム構造部の作製は、公知のハニカム構造部の製造方法におけるハニカム構造部の作製方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末(炭化珪素)に、金属珪素粉末(金属珪素)、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。炭化珪素粉末の質量と金属珪素の質量との合計に対して、金属珪素の質量が10~40質量%となるようにすることが好ましい。炭化珪素粉末における炭化珪素粒子の平均粒子径は、3~50μmが好ましく、3~40μmが更に好ましい。金属珪素粉末における金属珪素粒子の平均粒子径は、2~35μmであることが好ましい。炭化珪素粒子及び金属珪素粒子の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。炭化珪素粒子は、炭化珪素粉末を構成する炭化珪素の微粒子であり、金属珪素粒子は、金属珪素粉末を構成する金属珪素の微粒子である。尚、これは、ハニカム構造部の材質を、珪素-炭化珪素系複合材とする場合の成形原料の配合であり、ハニカム構造部の材質を炭化珪素とする場合には、金属珪素は添加しない。
【0023】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、2.0~10.0質量部であることが好ましい。
【0024】
水の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0025】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0026】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、炭化珪素粉末及び金属珪素粉末の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10.0質量部であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10~30μmであることが好ましい。10μmより小さいと、気孔を十分形成できないことがある。30μmより大きいと、成形時に口金に詰まることがある。造孔材の平均粒子径はレーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。造孔材が吸水性樹脂の場合には、造孔材の平均粒子径は吸水後の平均粒子径のことである。
【0027】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム構造部を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。次に、得られたハニカム構造部について、乾燥を行うことが好ましい。ハニカム構造部の中心軸方向長さが、所望の長さではない場合は、ハニカム構造部の両底部を切断して所望の長さとすることができる。
【0028】
次に、ハニカム乾燥体を焼成して、ハニカム構造部を作製する。焼成の前に、バインダ等を除去するため、仮焼成を行うことが好ましい。仮焼成は大気雰囲気において、400~500℃で、0.5~20時間行うことが好ましい。仮焼成及び焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気において、1400~1500℃で、1~20時間加熱することが好ましい。また、焼成後、耐久性向上のために、1200~1350℃で、1~10時間、酸素化処理を行うことが好ましい。
【0029】
(2.電極層)
図4(a)(b)に示されるように、通常、ハニカム構造部の外周壁に一対の電極層21a、21bが配設され、各電極層21a、21bは、ハニカム構造部のセル12の延びる方向に延びる帯状に形成される。また、セル12の延びる方向に直交するハニカム構造部断面において、一対の電極層21a、21bはハニカム構造部の中心を挟んで対向するように配設される。当該構成により、ハニカム構造体は、電圧を印加した時に、ハニカム構造部10内を流れる電流の偏りを抑制することができ、ハニカム構造部内の温度分布の偏りを抑制することができる。
【0030】
しかし、ハニカム構造部のセル12の延びる方向において、ハニカム構造部の全長にわたって電極層21a、21bを設けた場合、前述のように、フィルタとしてのハニカム構造体を通電加熱することによりハニカム構造体内に堆積したパティキュレートを燃焼除去する場合、ハニカム構造部入口側のパティキュレートが燃焼すると燃焼熱が下流側に伝わり、下流側のパティキュレートの燃焼とあいまってハニカム構造部長さ方向に大きな温度差が生じ、熱応力によりクラックが発生する場合がある。また、ハニカム構造部がNTC特性を有する場合、温度が高い側に電流が流れやすくなることから、更にハニカム構造部内での大きな温度差が増加してしまう。
【0031】
そこで、
図5(a)(b)に示されるように、本実施形態のハニカム構造体は、セル12の延びる方向において、一対の電極層21a、21bの
それぞれの長さの中央位置Mが、ハニカム構造部10の長さの中央位置Nより、流体の流出側の端面102に近い。
【0032】
なお、
図5(a)(b)に示される実施態様では、セル12の延びる方向において、一対の電極層21a、21bの長さは一定であるが、当該長さが一定でない場合、セル12の延びる方向に平行する直線が電極層21a、21bを通る長さが最も長いときの当該長さを電極層21a、21bの
それぞれの長さとし、その中央位置をMとする。ハニカム構造部10についても同様である。
【0033】
また、
図5(a)(b)に示される実施態様では、電極層21a、21bは同じ長さであるが、それぞれの長さの中央位置Mがハニカム構造部10の長さの中央位置Nより、流体の流出側の端面102に近いのであればよく、電極層21a、21bは同じ長さである必要はない。もっとも、電極層21a、21bは同じ長さであることが好ましい。
【0034】
また、セル12の延びる方向におけるハニカム構造部10の長さをLとした場合、電極層21a、21bのそれぞれが、流体の流出側の端面102から、ハニカム構造部10のセル12の延びる方向に0.9×Lの長さ以内まで延びることが好ましい。電極層21a、21bの延びる範囲を0.9×Lの長さ以内とすれば、本発明の効果がより顕著に現れる。また、電極層21a、21bの延びる範囲の下限は特にないが、電極層21a、21bの本来の機能を果たすという観点から0.3×Lの長さ以上とすることが好ましい。
【0035】
このような電極層の配置により、通電加熱によって下流側が上流側よりも加熱され、下流側のパティキュレートを燃焼される。この下流側の熱が上流側に伝わることにより上流側のパティキュレートが燃焼する。このことによって、通電加熱時のパティキュレート燃焼によるハニカム構造部10の長さ方向の温度差が小さくなりクラックの発生の抑制でき、また、通電制御がしやすくなり、パティキュレートを効率的に燃焼除去できる。
【0036】
電極層21a、21bは導電性を有する材料で形成される。電極部13a、13bは、炭化珪素粒子及び珪素を主成分とすることが好ましく、通常含有される不純物以外は、炭化珪素粒子及び珪素を原料として形成されていることが更に好ましい。ここで、「炭化珪素粒子及び珪素を主成分とする」とは、炭化珪素粒子と珪素との合計質量が、電極部全体の質量の90質量%以上であることを意味する。このように、電極層21a、21bは炭化珪素粒子及び珪素を主成分とすることにより、電極層21a、21bの成分とハニカム構造体10の成分とが同じ成分又は近い成分(ハニカム構造体の材質が炭化珪素である場合)となる。そのため、電極層21a、21bとハニカム構造体の熱膨張係数が同じ値又は近い値になる。また、材質が同じもの又は近いものになるため、電極層21a、21bとハニカム構造体10との接合強度も高くなる。そのため、ハニカム構造体に熱応力がかかっても、電極層21a、21bがハニカム構造体10から剥れたり、電極層21a、21bとハニカム構造体10との接合部分が破損したりすることを防ぐことができる。
【0037】
そして、更に、セル12の延びる方向に直交する断面において、それぞれの電極層21a、21bの中心角αが、45~140°であることが好ましい。また、一方の電極層21a、21bの中心角αは、他方の電極層21a、21bの中心角αに対して、0.8~1.2倍の大きさであることが好ましく、1.0倍の大きさ(同じ大きさ)であることが更に好ましい。これにより、一対の電極層21a、21b間に電圧を印加した時に、ハニカム構造部の外周と中央領域のそれぞれを流れる電流の偏りを抑制することができる。そして、ハニカム構造部の外周と中央領域のそれぞれにおいて、発熱の偏りを抑制することができる。
ここで中心角αとは、セル12の延びる方向に直交する断面において、電極層21a、21bの両端部とハニカム構造部の中心を結ぶ直線がなす角度をいう(
図6参照)。なお、
図3では、一対の電極層21a、21bのそれぞれの中心角αが同じ大きさである。
【0038】
本実施形態のハニカム構造体10においては、電極層21a、21bの電気抵抗率は、ハニカム構造部10の外周壁の電気抵抗率より低いものであることが好ましい。更に、電極層21a、21bの電気抵抗率は、ハニカム構造部10の外周壁の電気抵抗率の、0.1~10%であることが更に好ましく、0.5~5%であることが特に好ましい。0.1%より低いと、電極層21a、21bに電圧を印加したときに、電極層21a、21b内を「電極部の端部」まで流れる電流の量が多くなり、ハニカム構造体10に流れる電流に偏りが生じ易くなることがある。そして、ハニカム構造体10が均一に発熱し難くなることがある。10%より高いと、電極層21a、21bに電圧を印加したとき、電極層21a、21b内を広がる電流の量が少なくなり、ハニカム構造体10に流れる電流に偏りが生じ易くなることがある。そして、ハニカム構造体10が均一に発熱し難くなることがある。
【0039】
電極層21a、21bの厚さは、0.01~5mmであることが好ましく、0.01~3mmであることが更に好ましい。このような範囲とすることにより、ハニカム構造部の均一的な発熱に寄与することができる。電極層21a、21bの厚さが0.01mmより薄いと、電気抵抗率が高くなり均一に発熱できないことがある。電極層21a、21bの厚さが5mmより厚いと、キャニング時に破損することがある。
【0040】
図5に示されるように、本実施形態において、電極層21a、21bのセル12の延びる方向における端部は、ハニカム構造部の端面102に接している(到達している)。また、電極層21a、21bの端部のセル12の延びる方向における少なくとも一方の端部が、ハニカム構造部10の端面102に接していない(到達していない)状態も好ましい態様である。これにより、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を向上させることができる。
【0041】
本実施形態のハニカム構造部10においては、例えば、
図4に示されるように、電極層21a、21bは、平面状の長方形の部材を、円柱形状の外周に沿って湾曲させたような形状となっている。ここで、湾曲した電極層21a、21bを、湾曲していない平面状の部材に変形したときの形状を、電極層21a、21bの「平面形状」と称することにする。上記、
図1~
図3に示される電極層21a、21bの「平面形状」は、長方形になる。そして、「電極部の外周形状」というときは、「電極部の平面形状における外周形状」を意味する。
【0042】
本実施形態のハニカム構造体10においては、帯状の電極層21a、21bの外周形状が、長方形の角部が曲線状に形成された形状であってもよい。このような形状にすることにより、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を向上させることができる。また、帯状の電極層21a、21bの外周形状が、長方形の角部が直線状に面取りされた形状であることも好ましい態様である。このような形状にすることにより、ハニカム構造体の耐熱衝撃性を向上させることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0044】
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを60:40の質量割合で混合してセラミック原料を調製した。そして、セラミック原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。バインダの含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに7質量部とした。造孔材の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに3質量部とした。水の含有量は炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末の合計を100質量部としたときに42質量部とした。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は20μmであった。炭化珪素粉末、金属珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で粒度の頻度分布を測定したときの、体積基準による算術平均径を指す。
【0045】
得られた円柱状の坏土を押出成形機を用いて成形し、各セルの断面形状が正方形の柱状のハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体の両底面を所定量切断した。
【0046】
次に、得られたハニカム成形体の、一方の端面の複数のセルに坏土を注入し目封じ処理を施した。次にもう一方の端面に、反対側の端面が目封じされていないセルに坏土を注入し目封じ処理を施した。目封じ部を200℃の熱風をあてて乾燥させハニカム乾燥体とした。ハニカム乾燥体を、脱脂(仮焼)した後、焼成した。
【0047】
次に、金属珪素(Si)粉末に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、保湿剤としてグリセリン、分散剤として界面活性剤を添加すると共に、水を添加して、混合した。混合物を混練して電極層形成原料とした。この電極層形成原料を、ハニカム焼成体の流出端部を起点として、ハニカム焼成体の側面に、厚さが1.0mmになるようにして塗布した。電極層形成原料を塗布した範囲の長さL2は表1に示される。電極層形成原料は、ハニカム焼成体の側面に、2箇所塗布した。そして、セルの延びる方向に直交する断面において、2箇所の電極層形成原料を塗布した部分の中の一方が、他方に対して、ハニカム焼成体の中心を挟んで対向するように配置されるようにした。
【0048】
次に、ハニカム焼成体に塗布した電極層形成原料を乾燥させて、未焼成電極付きハニカム焼成体を得た。乾燥温度は、70℃とした。
【0049】
その後、未焼成電極付きハニカム焼成体を、脱脂(仮焼)し、焼成し、更に酸化処理して電極付きハニカム構造体を得た。脱脂の条件は、550℃で3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下で、1450℃、2時間とした。酸化処理の条件は、1300℃で1時間とした。得られたハニカム構造体の底面は直径100mmの円形であり、ハニカム構造体のセルの延びる方向における長さL1は120mmであった。
【0050】
(温度差評価)
電極付きハニカム構造体の断面中心位置かつ入口端面から10mmの位置に熱電対(以下、上流側の熱電対という。)を設置した。また、該ハニカム断面中心位置かつ出口端面から10mmの位置に熱電対(以下、下流側の熱電対という。)を設置した。これらの熱電対の設置により、ハニカム構造部の温度が測定できる。
上記電極付きハニカム構造体に排気量1.4リットルのガソリンエンジンの排気管に設置し、電極付きハニカム構造体に4g/リットルのパティキュレートを堆積させた後、エンジンを止めて排気管が25℃になるまで放置した。次に、該ガソリンエンジンを稼働させるとともに、電極付きハニカム構造体に3kWの電気を30秒間通電した。エンジンは稼働後はアイドリング状態を600秒間維持させた。この間、堆積したパティキュレートの一部が燃焼し電極付きハニカム構造体のハニカム構造部温度が上昇する。前述の上流側の熱電対および下流側の熱電対によって電極付きハニカム構造体のハニカム構造部の温度を測定した。
【0051】
【0052】
(考察)
表1によれば、本発明の実施例は、いずれも、比較例より、ハニカム構造部の上流部と下流部との温度差が小さかった。
【符号の説明】
【0053】
10…ハニカム構造部
101…流入端面
102…流出端面
11…隔壁
12…セル
13…目封止部
21a、21b…電極層