(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】癌治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20220415BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220415BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220415BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220415BHJP
C12N 5/095 20100101ALN20220415BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20220415BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20220415BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220415BHJP
【FI】
A61K38/48 100
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P35/00 ZNA
A61P35/04
A61P43/00 105
C12N5/095
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2018539864
(86)(22)【出願日】2017-01-27
(86)【国際出願番号】 AU2017050065
(87)【国際公開番号】W WO2017127892
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-12-18
(32)【優先日】2016-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512104834
【氏名又は名称】プロパンク・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マカレナ・ペラン
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・ケニョン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・アントニオ・マーシャル・コラレス
(72)【発明者】
【氏名】マリア・アンヘル・ガルシア・チャヴェス
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-508307(JP,A)
【文献】Anticancer Research,2012年,Vol.32,pp.3847-3854
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol.9, No.6,e99628, pp.1-11
【文献】Stem Cell Research,2014年,Vol.12,pp.86-100
【文献】British Journal of Cancer,2010年,Vol.103,pp.382-390
【文献】British Journal of Cancer,2014年,Vol.111,pp.365-374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/48
A61P 35/00-35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療を受けた対象における癌の進行を最小化する際の使用のための組成物であって、
前記対象が癌幹細胞を有すると判定されており、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含み、前記キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比が、4:1~8:1の範囲である、組成物。
【請求項2】
前記対象が、部分または完全寛解である、請求項1に記載
の組成物。
【請求項3】
癌の治療を受けた対象における微小残存病変を治療するための組成物であって、
前記対象が癌幹細胞を有すると判定されており、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含み、前記キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比が、4:1~8:1の範囲である、組成物。
【請求項4】
癌の治療を受けた対象における癌の再発を予防するための組成物であって、
前記対象が癌幹細胞を有すると判定されており、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含み、前記キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比が、4:1~8:1の範囲である、組成物。
【請求項5】
前記癌の治療が、腫瘍の外科的摘出、放射線療法、化学療法、免疫療法またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載
の組成物。
【請求項6】
前記キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比が、5:1~7:1の範囲である、請求項1~
5のいずれか一項に記載
の組成物。
【請求項7】
前記キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比が、6:1である、請求項
6に記載
の組成物。
【請求項8】
1つ以上の癌幹細胞マーカーを発現する細胞を同定することにより、前記対象における癌幹細胞の存在を判定する、請求項
1~7のいずれか一項に記載
の組成物。
【請求項9】
前記癌幹細胞マーカーが、
(a)CD34
+、CD38
-、HLA-DR、CD71
-、CD90
-、CD117
-、およびCD123
+;
(b)ESA
+CD44
+CD24
-/lowLineage
-、およびALDH-1
high;
(c)CD133
+、CD49f
+、およびCD90
+;
(d)CD133
+、BCRP1
+、A2B5
+、およびSSEA-1
+;
(e)CD133
+、およびABCG2
high;
(f)CD133
+、CD44
+、CD166
+、EpCAM
+、CD24
+またはCD326
+、およびCD44
+;
(g)CD138
-;
(h)CD44
+、α2β1
high、およびCD133
+;ならびに
(i)CD133
+、CD44
+、EpCAM
+、CD24
+またはCD326
+、CD44
+、およびCxCR4
+
の1つ以上から選択される、請求項
8に記載
の組成物。
【請求項10】
前記癌が、膵臓癌、結腸癌、神経芽細胞腫、卵巣癌、非小細胞肺癌、皮膚癌、食道癌、肺癌および乳癌からなる群から選択される、請求項1~
9のいずれか一項に記載
の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、癌を治療するための組成物、方法、使用およびキットに関する。
【0002】
出願の相互参照
本出願は、全内容が全体として本明細書に組み込まれるスペイン国特許出願第P201630112号明細書および同第P201631662号明細書からの優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
癌の治療のための治療法の改善にかかわらず、世界的な癌の死亡率は依然として高く、癌再発を予防するための方針が依然として必要とされている。癌に対する現在の治療方針は治療不成功をもたらす頻度が高く、これは複数の悪性腫瘍の発症ならびに/または化学療法および放射線療法に対する耐性に起因することが多い。
【0004】
癌幹細胞(CSC)は、自己再生する能力を有し、多能性能力を有する不死腫瘍開始細胞である(非特許文献1)。CSCは、複数の悪性腫瘍、例として、白血病および多くの固形腫瘍中で見出されており、それらの幹細胞様特性を考慮すると、腫瘍開始、発症、転移および再発の基礎であると考えられる(非特許文献2)。
【0005】
CSCは、腫瘍内の癌細胞のわずかな率に相当し、長期間休止したままであり得、それにより、高度に増殖可能な細胞を標的化する慣用の治療法(例えば、化学療法および放射線療法)を回避する(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Reya et al.,(2001).Nature 414:105-111
【文献】Tang DG.Cell Res 2012;22:457-72
【文献】Chikamatsu et al.,(2011)Head Neck.34(3):336-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
結果的に、癌治療を改善し、癌再燃のリスクを低減させる優先性は、CSC根絶を選択的に標的とする一方、正常幹細胞を妨害しない新たな方針を開発することである。
【0008】
本明細書における任意の従来技術への言及は、いかなる管轄においてもこの従来技術が共通一般知識の一部を形成するという認識でも示唆でもなく、またはこの従来技術が当業者により理解され、関連するとみなされ、および/もしくは他の従来技術の一部と組み合わされることが妥当に予測され得るという認識でも示唆でもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様において、本発明は、癌のための治療を受けた対象における癌の進行を最小化する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含み、それにより対象における癌の進行を最小化する方法に関する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、癌のための治療を受けた対象における微小残存病変を治療する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含み、それにより対象における微小残存病変を治療する方法に関する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、癌のための治療を受けている対象における微小残存病変を予防する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含み、それにより対象における微小残存病変を予防する方法に関する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、癌のための治療を受けた対象における癌の再発を予防する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含み、それにより対象における癌の再発を予防する方法に関する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、対象における癌の転移を予防または阻害する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含み、それにより対象における癌の転移を予防する方法に関する。
【0014】
いっそうさらなる態様において、本発明は、後続の癌のための治療に対象を感作させる方法であって、対象が癌のための治療を受ける前に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを対象に投与することを含み、それにより後続の癌のための治療に対象を感作させる方法に関する。
【0015】
いっそうさらなる態様において、本発明は、対象における癌を予防する方法であって、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを対象に投与することを含み、対象は、癌の発症のリスクがあるとみなされている方法に関する。
【0016】
本発明はまた、対象における癌の発症を遅延させる方法であって、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与し、それにより対象における癌の発症を遅延させることを含む方法に関する。
【0017】
本発明の任意の方法または使用において、対象における癌幹細胞数を低減させ、またはその数の増加を予防することができる。あるいは、癌幹細胞を分化させることができる。癌幹細胞の同定または分化の程度は、本明細書、特に表1に記載のマーカーを使用して本明細書に記載の任意の方法により決定することができる。
【0018】
キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含む、癌のための治療を受けた対象における癌の進行を最小化するための組成物がさらに提供される。
【0019】
別の態様において、本発明は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含む、癌のための治療を受けた対象における微小残存病変を治療するための組成物を提供する。
【0020】
いっそうさらなる態様において、本発明は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含む、対象における癌の転移を予防するための組成物を提供する。
【0021】
本発明はまた、対象における癌の進行を最小化するための医薬品の製造におけるキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの使用であって、対象は、癌のための治療を既に受けた使用を企図する。
【0022】
さらに、本発明は、癌のための治療を受けた対象における微小残存病変を治療するための医薬品の製造におけるキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの使用を企図する。
【0023】
本明細書に記載の本発明の任意の方法において、本方法は、対象における癌幹細胞の存在を同定するステップをさらに含み得る。
【0024】
本明細書に記載の本発明の任意の方法において、本方法は、癌のための治療を受けた対象を提供するステップをさらに含み得る。さらに、対象は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与する時点において検出可能な癌を有さなくてよく、例えば、癌は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを対象に投与する時点において前治療の結果として実質的に縮小したサイズ、質量または他の物理的尺度を有してよい。
【0025】
本発明はまた、対象における癌を治療する方法であって、
- 対象における癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌を治療する方法に関する。
【0026】
本発明はまた、対象における癌を予防する方法であって、
- 癌を有すると診断されていない対象における癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌を予防する方法に関する。
【0027】
本発明はまた、対象における癌を予防する方法であって、
- 癌を発症するリスクがあると同定されたが、癌を有すると診断されていない対象を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌を予防する方法に関する。
【0028】
本発明はまた、対象における癌の発症を遅延させる方法であって、
- 癌のリスクがあるが、癌を有すると診断されていない対象を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌の発症を遅延させる方法に関する。
【0029】
本発明の任意の実施形態において、癌のリスクがあるとみなされている対象または個体は、癌の家族歴を有する個体であり得、癌と関連する1つ以上のバイオマーカーを有し得、例として、癌幹細胞を有し得る。
【0030】
したがって、本発明はまた、対象における癌を予防する方法であって、
- 癌を有すると診断されていない対象における癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌を予防する方法に関する。
【0031】
本発明はまた、対象における癌を予防する方法であって、
- 癌を発症するリスクがあるが、癌を有すると診断されていない対象における癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌を予防する方法に関する。
【0032】
本発明はまた、対象における癌の発症を遅延させる方法であって、
- 癌を発症するリスクがあるが、癌を有すると診断されていない対象における癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌の発症を遅延させる方法に関する。
【0033】
さらなる実施形態において、本発明は、対象における癌の再発を予防する方法であって、
- 癌のための治療を受けた個体を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌の再発を予防する方法に関する。
【0034】
さらなる実施形態において、本発明は、対象における癌の転移を予防する方法であって、
- 癌のための治療を受けるべき、癌の治療を受けている、または癌のための治療を受けた個体を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌の転移を予防する方法に関する。
【0035】
さらに、本発明は、対象における癌の再発を遅延させる方法であって、
- 癌のための治療を受けた個体を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌の再発を遅延させる方法に関する。
【0036】
さらに、本発明は、対象における癌の発症を遅延させる方法であって、
- 癌の発症のリスクがある個体を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌の発症を遅延させる方法に関する。
【0037】
好ましくは、癌幹細胞の存在の同定は、既存腫瘍の部位において、または治療介入の部位において行う。典型的には、治療介入は、外科的摘出、化学療法または放射線療法である。
【0038】
好ましくは、癌幹細胞は、本明細書、例えば、表1に記載の任意の1つ以上のマーカーを使用して同定する。例えば、膵臓特異的CSCマーカーとしてはCD326、CD44およびCxCR4が挙げられ、結腸特異的CSCマーカーとしてはCD326およびCD44が挙げられ、免疫蛍光またはフローサイトメトリーにより分析する。
【0039】
本発明はまた、対象における癌を治療する方法であって、
- 表1の細胞表面マーカーのいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における癌を治療する方法に関する。
【0040】
本発明はまた、対象における結腸癌を治療する方法であって、
- 細胞表面マーカーCD326およびCD44のいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における結腸癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における結腸癌を治療する方法に関する。
【0041】
本発明はまた、対象における結腸癌を予防する方法であって、
- 細胞表面マーカーCD326およびCD44のいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における結腸癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における結腸癌を予防する方法に関する。
【0042】
本発明はまた、対象における結腸癌の発症を遅延させる方法であって、
- 細胞表面マーカーCD326およびCD44のいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における結腸癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における結腸癌の発症を遅延させる方法に関する。
【0043】
本発明はまた、対象における結腸癌の再発を予防する方法であって、
- 結腸癌のための治療を受けた対象を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における結腸癌の再発を予防する方法に関する。
【0044】
本発明はまた、結腸癌のための治療に対象を感作させる方法であって、
- 結腸癌のための治療を受けるべき対象を提供するステップ、ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより結腸癌のための治療に対象を感作させる方法に関する。
【0045】
本発明はまた、対象における膵臓癌を治療する方法であって、
- 細胞表面マーカーCD326、CD44およびCxCR4のいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における膵臓癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における膵臓癌を治療する方法に関する。
【0046】
本発明はまた、対象における膵臓癌を予防する方法であって、
- 細胞表面マーカーCD326、CD44およびCxCR4のいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における膵臓癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における膵臓癌を予防する方法に関する。
【0047】
本発明はまた、対象における膵臓癌の発症を遅延させる方法であって、
- 細胞表面マーカーCD326、CD44およびCxCR4のいずれか1つ以上の存在を判定することにより、対象における膵臓癌幹細胞の存在を同定するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における膵臓癌の発症を遅延させる方法に関する。
【0048】
本発明はまた、対象における膵臓癌の再発を予防する方法であって、
- 膵臓癌のための治療を受けた対象を提供するステップ;ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより対象における膵臓癌の再発を予防する方法に関する。
【0049】
本発明はまた、膵臓癌のための治療に対象を感作させる方法であって、
- 膵臓癌のための治療を受けるべき対象を提供するステップ、ならびに
- 治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与するステップ
を含み、
それにより膵臓癌のための治療に対象を感作させる方法に関する。
【0050】
本発明はまた、(a)癌のための治療を受けた対象における癌の進行の最小化、(b)癌のための治療を受けた対象における微小残存病変の治療、または(c)後続の癌のための治療への対象の感作において使用されるキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含み、またはそれらからなる組成物に関する。典型的には、組成物は、薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤または担体をさらに含む。
【0051】
本発明はまた、癌のための治療を受けた対象における癌の進行を最小化するキットであって、少なくとも1つの投薬単位を含み、投薬単位は、キモトリプシノーゲン、トリプシノーゲンおよび薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤または担体を含むキットを提供する。場合により、キットは、使用者に本明細書に記載の本発明の方法によるキモトリプシノーゲンの投薬単位の投与を指示する説明書も含む。
【0052】
本発明はまた、本発明の方法において使用される本発明のキットを提供する。
【0053】
本発明の任意の態様において、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンは、1:1もしくは約1:1~10:1もしくは約10:1、4:1もしくは約4:1~8:1もしくは約8:1、5:1もしくは約5:1~7:1もしくは約7:1の範囲内、または約6:1の重量比で投与する。さらに、上記の任意の組成物は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを、1:1もしくは約1:1~10:1もしくは約10:1、4:1もしくは約4:1~8:1もしくは約8:1、5:1もしくは約5:1~7:1もしくは約7:1の範囲、または約6:1の重量比で有する。
【0054】
本発明の任意の態様において、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンは、静脈内、皮下または筋肉内投与する。
【0055】
本発明の任意の態様において、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンは、同時または連続投与することができる。
【0056】
本発明の方法または使用の任意の態様において、方法または使用は、癌を有し、またはその発症リスクがある対象を同定するステップをさらに含む。好ましくは、癌は、本明細書に記載のいずれかのものである。
【0057】
本発明の任意の態様において、組成物は、アミラーゼを含有せず、または方法もしくは使用は、アミラーゼを投与しない。
【0058】
本明細書に記載の本発明の任意の態様、実施形態または形態において、投与されるキモトリプシノーゲンの量は、1mg/kg、1.5mg/kg、2mg/kg、3.5mg/kg、5mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、135mg/kg、250mg/kgまたは500mg/kg以上であり得る。
【0059】
本明細書に記載の本発明の任意の態様、実施形態または形態において、投与されるトリプシノーゲンの量は、0.2mg/kg、0.25mg/kg、0.4mg/kg、0.6mg/kg、0.8mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、20mg/kg、40mg/kgまたは80mg/kg以上であり得る。
【0060】
本明細書に記載の本発明の任意の態様、実施形態または形態において、ヒトに投与されるキモトリプシノーゲンの量は、0.1mg/kg、0.15mg/kg、0.25mg/kg、0.4mg/kg、1.2mg/kg、3.5mg/kg、10mg/kg、20mg/kgまたは40mg/kg以上であり得る。
【0061】
本明細書に記載の本発明の任意の態様、実施形態または形態において、ヒトに投与されるトリプシノーゲンの量は、0.02mg/kg、0.03mg/kg、0.05mg/kg、0.06mg/kg、0.2mg/kg、0.6mg/kg、1.5mg/kg、3mg/kgまたは6mg/kg以上であり得る。
【0062】
好ましくは、本明細書に記載の本発明の任意の態様、実施形態または形態において、投与されるキモトリプシノーゲンの量は、1mg/kg~41mg/kg、1.5mg/kg~500mg/kg、2mg/kg~250mg/kg、3.5mg/kg~135mg/kg、5mg/kgまたは15mg/kg~45mg/kgの範囲内であり得る。
【0063】
好ましくは、本明細書に記載の本発明の任意の態様、実施形態または形態において、投与されるトリプシノーゲンの量は、0.2mg/kg~7mg/kg、0.25mg/kg~80mg/kg、0.4mg/kg~40mg/kg、0.6mg/kg~20mg/kg、0.8mg/kg~8mg/kg、または2.5mg/kg~8mg/kg超であり得る。
【0064】
上記の本発明の任意の組成物において、組成物は、関連するmg、またはmg/kgのキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを対象に投与するために適合させることができる。
【0065】
文脈がそうでないことを要求する場合を除き、本明細書において使用される用語「含む(comprise)」およびその用語の変形語、例えば、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「含んだ(comprised)」は、さらなる添加剤も、構成成分も、整数も、ステップも排除するものではない。
【0066】
本発明のさらなる態様および上記段落に記載の態様のさらなる実施形態は実施例として挙げられ、添付の図面を参照して以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンについてのIC
50を測定するためのMTTアッセイ。処理濃度に対する細胞増殖率を、変動濃度のトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン(1:6)またはインターフェロンアルファ(IFN)により処理された結腸HCT-116CSCおよび膵臓BxPC3CSCについて示す。
【
図2】ヒト膵臓癌細胞系BxPC3についての細胞周期アッセイ。パネルaおよびbは、膵臓非CSCについてのアッセイ結果を示し;パネルcおよびdは、膵臓CSCについてのアッセイ結果を示す。
【
図3】ヒト結腸癌細胞系HCT-116についての細胞周期アッセイ。パネルaおよびbは、結腸非CSCについてのアッセイ結果を示し;パネルcおよびdは、結腸CSCについてのアッセイ結果を示す。
【
図4】ヒト膵臓細胞系BxPC3についてのアルデヒドデヒドロゲナーゼアッセイ。対照、PRP、PRP+IFNまたはIFNによる細胞の処理後の膵臓非CSCおよびCSC中のALDH陽性細胞の割合を示す。
【
図5-1】PRP、PRP+IFNまたはIFNによる細胞の処理後のマーカーCD326、CD44およびCxCR4の細胞表面発現に基づく膵臓CSCのフローサイトメトリーソーティングのドットプロット結果。
【
図6】膵臓CSC中のCSCマーカーの発現を示すヒストグラム:3つのマーカーCD326、CD44、CxCR4を有する細胞の割合を、PRP、PRP+IFNまたはIFNにより処理されたCSCおよび非CSCについて示す。2つの別個のアッセイの結果を示す。
【
図7】結腸CSCのフローサイトメトリーソーティングの結果を示すヒストグラム。ALDH陽性であり、CD44およびCD326マーカーを発現するHCT-116CSCの割合を、PRP、IFNまたはPRP+IFNによる処理後の細胞について示す。
【
図8】PRPによる処理後のマーカーCD44またはCD326を発現するALDH陽性HCT-116CSCの割合を示すヒストグラム。
【
図9】PRP、INFまたはPRP+IFNによる処理後2および5日目における膵臓BxPC3CSCのスフェア形成を示す代表的な光学顕微鏡観察画像。
【
図10】PRP、INFまたはPRP+IFNによる処理後2および5日目における結腸HCT-166CSCによる球状形成の代表的な光学顕微鏡観察画像。
【
図11-1】SK-N-SH細胞をCSC条件下で培養した場合に形成された神経芽細胞腫スフェアの代表的な光学顕微鏡観察画像(パネルAおよびC)。培地へのPRPの添加は、神経芽細胞腫スフェアの形成を妨害する(パネルBおよびD)。元の倍率:パネルAおよびBについて10倍;パネルCおよびDについて20倍。
【
図11-2】EおよびF:未処理およびPRP処理されたBxPC3およびSK-N-SH細胞中の一次(E)および二次(F)スフェアの数。
【
図12】PRPによる処理後のEMT関連遺伝子の発現についてのqRT-PCR分析の結果(淡灰色)。データを内部対照としてのGAPDHを使用する未処理CSCについて1に正規化し、平均±SEM(n=3)としてグラフ化する。
【
図13】PRPによる処理後のCSC関連遺伝子の発現についてのqRT-PCR分析の結果(淡灰色)。データを内部対照としてのGAPDHを使用する未処理CSCについて1に正規化し、平均±SEM(n=3)としてグラフ化する。
【
図14-1】A.CSCに対するPRPの抗腫瘍活性を評価するためのインビボ試験設計。垂直バーは、PRPボーラス注射を表す。B.膵臓CSCの腫瘍開始能を阻害するPRPの能力を評価するためのインビボ試験設計。
【
図14-2】C.インビボでのCSCの転移潜在性を評価するためのインビボ試験設計。垂直バーは、PRPボーラス注射を意味する。
【
図15】CSCの接種9.5週間後のマウスから摘出された腫瘍の画像。対照群、n=10;予防群、n=8;予防+治療群n=6。
【
図16】CSCの接種後のマウスにおける腫瘍発生の割合。腫瘍発生は、接種9.5週間後に計測した。予防および予防+治療群における発生の割合を、対照マウス(予防も治療もなし)において観察される発生の比率として示す。P=0.039
【
図17】処理終了時(接種9.5週間後)におけるマウスにおける平均腫瘍容積(mm
2)±SE。対照群と予防+治療群との間の腫瘍重量の差は、統計的に有意であった、p<0.05。
【
図18】A.CSC接種後2日毎に計測されたそれぞれの実験群(対照、予防群および予防+治療群)における腫瘍容積を示すグラフ。X軸は、腫瘍の発症からの日数を示す。0日目は、CSC接種から30日目に対応する。B.CSC接種後2日毎(率ベースT/C)に計測されたそれぞれの実験群における腫瘍容積を示すグラフ(対照、予防群および予防+治療群)。X軸は、腫瘍の発症からの日数を示す。0日目は、CSC接種からの30日目に対応する。アスタリスクは、統計的有意性、p<0.05を示す。
【
図19】CSC接種9.5週間後の対照、予防および予防+治療群における腫瘍形成指数(TIn)±SE。TInは、腫瘍発生および腫瘍重量の尺度である。対照と、予防および予防+治療群の両方との間のTInの差は、統計的に有意であった、p<0.01。
【
図20】H&E染色を示す代表的な画像。皮下ゼノグラフトモデルにおいて、対照、予防および予防+治療群におけるマウスからの腫瘍を摘出し、固定した。BxPC3腫瘍組織をパラフィン中で包埋し、5μmの厚さに切片化し、H&Eにより染色した(左側:倍率20倍;中央:倍率10倍;右側:倍率40倍)。
【
図21】皮下ゼノグラフトモデルにおけるBxPC3腫瘍のマッソントリコム(Masson-trichome)染色を示す代表的な画像。対照、予防および予防+治療群におけるマウスからの腫瘍の染色を示す。
【
図22】PRP処理後のCSC中のEMT関連遺伝子の発現レベル。A:EMTの間に通常は下方調節されるが、PRP処理後に上方調節される遺伝子の発現。B:EMTの間に通常は上方調節されるが、PRP処理後に下方調節される遺伝子の発現。
【
図23】CSC中の細胞分化と関連する遺伝子の発現レベルに対するPRP処理の効果。
【
図24】CSC中の腫瘍抑制因子遺伝子の発現レベルに対するPRP処理の効果。
【
図25】転移および侵入(A)ならびに細胞接着(B)と関連する遺伝子のCSC中の発現レベルに対するPRP処理の効果。
【
図26】サイトカインをコードする遺伝子のCSC中の発現レベルに対するPRP処理の効果。
【
図27】CSCマーカー遺伝子の発現に対するPRP処理の効果。
【
図28】CSC中のMAPK関連遺伝子の発現に対するPRP処理の効果。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本明細書に開示および定義される本発明は、本文または図面に挙げられ、またはそれらから明らかな個々の特徴部の2つ以上の全ての代替組合せに及ぶことが理解される。これらの異なる組合せの全ては、本発明の種々の代替態様を構成する。
【0069】
目下、本発明のある実施形態が詳細に参照される。本発明は実施形態とともに記載される一方、本発明は、本発明をそれらの実施形態に限定するものでないことが理解される。対照的に、本発明は、特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替物、改変、および均等物をカバーするものとする。
【0070】
当業者は、本発明の実施において使用することができる、本明細書に記載のものと類似または同等の多くの方法および材料を認識する。本発明は、記載される方法および材料に決して限定されない。本明細書に開示および定義される発明は、本文または図面に挙げられ、またはそれらから明らかな個々の特徴部の2つ以上の全ての代替組合せに及ぶことが理解される。これらの異なる組合せの全ては、本発明の種々の代替態様を構成する。
【0071】
本明細書に言及される特許および刊行物の全ては、参照により全体として組み込まれる。
【0072】
本明細書を解釈する目的のため、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆も同様である。
【0073】
癌に対する現在の治療方針は、治療不成功をもたらす頻度が高い厳しい制限を有する。蓄積された証拠は、これらの不成功についての基盤がCSCを排除不能である現在の治療法に起因することを示唆しており、患者は再発および転移のリスクがあることを意味する。さらに、CSC集団が、非CSC集団よりも慣用の癌療法に耐性であることを示唆する証拠が存在する。したがって、CSCの排除は悪性腫瘍疾患の治療において重要である。
【0074】
本発明は、膵臓(前)酵素キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの組合せを提供することにより、CSCの増殖を低減させ、癌細胞集団中のCSCの集団を低減させ、スフェア形成を阻害し、上皮から間葉への表現型の移行と関連するCSC中の遺伝子の発現を低減させることが可能であるという驚くべき知見に基づく。したがって、本発明者らは、癌細胞集団中のCSCを標的化する新規方法を同定した。この知見は、特に、慣用の癌療法が標的CSCを根絶し得ないことが多く、見かけ上の癌の治療の成功にかかわらず癌再発の高い見込みが存在することを考慮すると、癌のための治療を既に受けた個体の治療に重要な用途を有する。
【0075】
したがって、第1の態様において、本発明は、癌のための治療を受けた対象における癌の進行を最小化する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含む方法を提供する。
【0076】
キモトリプシノーゲン(本明細書において「C」と略記することができる)は、タンパク質を以下のアミノ酸:チロシン、トリプトファン、フェニルアラニンおよびロイシンにおいて優先的に開裂する酵素キモトリプシンの前酵素形態である。キモトリプシンは、キモトリプシンA、キモトリプシンB(例として、B1およびB2形態を)、キモトリプシンC、a-キマロフト(chymarophth)、アバザイム(avazyme)、キマール(chymar)、キモテスト(chymotest)、エンゼオン(enzeon)、クイマール(quimar)、クイモトラーゼ(quimotrase)、α-キマール、α-キモトリプシンA、α-キモトリプシンと称することができ、またはそれらを含む。キモトリプシンCは、ブタキモトリプシノーゲンCから、またはプロカルボキシペプチダーゼAのウシサブユニットIIから形成され得、タンパク質を以下のアミノ酸:チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ロイシン、メチオニン、グルタミン、およびアスパラギンにおいて優先的に開裂する。キモトリプシノーゲンとしては、キモトリプシノーゲンA、キモトリプシノーゲンB1およびキモトリプシノーゲンB2が挙げられる。
【0077】
トリプシノーゲン(本明細書において「T」と略記することができる)は、タンパク質をアルギニンおよびリジンにおいて優先的に開裂するトリプシンの前酵素形態である。トリプシンは、α-トリプシン、β-トリプシン、コクナーゼ、パレンザイム(parenzyme)、パレンジモール(parenzymol)、トリプタール(tryptar)、トリピュア(trypure)、疑似トリプシン、トリプターゼ、トリプセリム(tripcellim)、精子受容体ヒドロラーゼβ-トリプシンと称することができ、またはそれらを含み、トリプシノーゲンから1つのペプチド結合の開裂により形成され得る。さらなるペプチド結合開裂は、αおよび他のアイソフォームを産生する。複数のカチオン性およびアニオン性トリプシンは、多くの脊椎動物の膵臓から、および下等種、例として、ザリガニ、昆虫(コクナーゼ)および微生物(ストレプトマイシン生産菌(Streptomyces griseus)から単離することができる。消化の間の正常のプロセスにおいて、不活性トリプシノーゲンは腸内粘膜中に存在するエンテロペプチダーゼにより活性化され、セリンプロテアーゼであり、次いで塩基性アミノ酸/タンパク質のカルボキシル側上でペプチド結合を開裂するように作用する酵素トリプシンを形成する。
【0078】
上記のとおり、前酵素形態は、本質的に、(例えば、インビボまたはインビトロ活性化により)インサイチューで活性化状態になる酵素の不活性化形態を提供する。例えば、前酵素の活性化(前酵素の活性酵素への変換)は、CSCとの接触時に生じ得る。前酵素トリプシノーゲンおよびキモトリプシノーゲンは、癌細胞との接触時で、および健常細胞との非接触時に酵素トリプシンおよびキモトリプシンに選択的に活性されることが考えられている。前酵素の使用は、活性酵素のインサイチューでの提供に伴う課題、例えば、目的とする癌細胞標的への到達前の不所望な反応または酵素の不活性化を低減させる。
【0079】
理論により拘束されるものではないが、本発明者らは、前酵素キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの組合せが、腫瘍ニッチに寄与する成長因子および血管新生刺激因子の産生を阻害するように作用し、結果的に腫瘍生着についての潜在性を低減させると考える。さらに、プロテアーゼ前酵素はCSCの分化を誘導し、それにより、CSCの全集団を低減させ、腫瘍の再発または転移の見込みを低減させる。例えば、本発明者らは、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンが、適切な条件下でCSCに提供される場合、CSCの増殖を低減させ、癌細胞集団中のCSCの集団を低減させ、スフェア形成を阻害し、上皮から間葉への表現型の移行と関連するCSC中の遺伝子の発現を低減させることを示した。これを考慮すると、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの使用は、特に、慣用の癌治療が典型的にはCSCを標的化も最小化もしないことを考慮すると、癌のための治療を受けた対象における癌の進行、再発または転移の最小化において特に有用である。
【0080】
本明細書において使用される「癌の進行を最小化すること」は、腫瘍の再発または転移を予防し、または遅延させるように対象を治療することを意味する。癌の進行の最小化は、癌の治療後に癌の再発を予防し、または遅延させることを含む。予防される再発としては、例えば、外科的摘出後の腫瘍床中の再発が挙げられる。あるいは、再発としては、身体の別の部分における癌の転移が挙げられる。本明細書において使用される用語「再発を予防すること」および「再燃を予防すること」は、互換可能である。
【0081】
本発明はまた、個体における癌の発症を予防する方法を含む。例えば、癌の予防が要求される個体は、癌を発症するリスクがあるが、依然として検出可能な癌を有さないとみなすことができる。癌の発症のリスクがある個体は、癌の家族歴を有する個体、および/または遺伝子試験もしくは他の試験が癌の発症の高いリスクもしくは高い見込みを示す個体であり得る。個体は、癌幹細胞を有し得るが、依然としていかなる検出可能な腫瘍も有さない。癌の発症を予防する方法は、対象における癌の発症を遅延させる方法を含むことが理解される。
【0082】
対象が既に受けた治療は、任意の慣用の癌治療、例として、化学療法、放射線療法、免疫療法および/または腫瘍の外科的摘出であり得る。一実施形態において、対象が既に受けた治療は、腫瘍の外科的摘出である。別の実施形態において、例えば、非固形腫瘍の治療において、対象は、化学療法、放射線療法または免疫療法、またはそれらの組合せを受けている。いっそうさらなる実施形態において、対象は、本発明の方法に従ってキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンが投与される前に外科的、化学療法的および放射線療法的介入を受けている。腫瘍のバルクまたは質量を低減させるための任意の方法が、対象が既に受けた治療として企図される。
【0083】
癌のための治療を受けた対象は、部分または完全寛解であり得る。換言すると、上記の癌のための治療を受けた対象は、身体検査、放射線試験時に、場合により、血液または尿検査からのバイオマーカーレベルにより見出すことができる腫瘍増殖の計測可能なパラメータの50%以上の低減を有し得る。あるいは、対象が完全寛解である場合、対象がいかなる検出可能な癌の徴候も有さないような疾患の全ての検出可能な兆候が完全に消散している。対象は、実質的に検出不可能な癌の徴候を有し得る。「実質的に検出不可能な」癌は、一般に、治療法が癌のサイズ、容積または他の物理的尺度を枯渇させ、その結果、関連標準検出技術、例えば、インビボイメージングを使用して、その治療法の結果として癌が完全に検出可能でない状況を指す。
【0084】
慣用の癌療法のキーとなる制限は、腫瘍の外科的摘出、およびアジュバント療法(例えば、化学療法)後でも、微小残存病変が存在する可能性が高いことである。微小残存病変(MRD)は、治療後に患者において残存する少数の癌細胞を指す。典型的には、これらの細胞は検出困難であり、または全く検出することができず、その結果、患者は、いかなる検出可能な癌も有さないと言われる。しかしながら、MRDは、癌再燃の主因であり、集中治療後にもCSCが存在することは、MRDへのキーとなる寄与因子であると考えられる。
【0085】
したがって、本発明は、癌のための治療を受けた対象における微小残存病変を治療または予防する方法であって、対象に治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを投与することを含む方法を提供する。
【0086】
キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンによる治療の目的またはアウトカムは、癌細胞の数を低減させ;一次腫瘍サイズを低減させ;末梢器官中への癌細胞浸潤を阻害し(すなわち、ある程度減速させ、好ましくは、停止させ);腫瘍転移を阻害し(すなわち、ある程度減速させ、好ましくは、停止させ);腫瘍増殖をある程度阻害し;および/または疾患に伴う症状の1つ以上をある程度緩和させることであり得る。
【0087】
治療の効力は、生存の持続期間、疾患進行までの時間、奏功率(RR)、応答の持続期間、および/または生活の質を評価することにより計測することができる。
【0088】
一実施形態において、本方法は、疾患進行の遅延に特に有用である。
【0089】
一実施形態において、本方法は、対象の生存、例として、全生存期間および無増悪生存期間の延長に特に有用である。
【0090】
一実施形態において、本方法は、治療に応答して癌の全ての徴候が消散した治療法に対する完全応答の提供に特に有用である。これは必ずしも癌が治癒されたことを意味するものではない。
【0091】
一実施形態において、本方法は、治療に応答して1つ以上の腫瘍もしくは病変のサイズの、または体内の癌の程度が減少した治療法に対する部分応答の提供に特に有用である。
【0092】
本発明の方法はまた、対象が慣用の癌のための治療を受ける前のCSCの標的治療を含む。当業者は、このアプローチが腫瘍を外科的に摘出することが可能でない血液癌のための特定の用途を有することを認識する。したがって、本発明は、癌のための治療の前に対象を感作させる方法であって、対象が癌のための治療を受ける前に、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0093】
さらに、本発明の方法はまた、対象が慣用の癌のための治療を受けると同時のCSCの標的治療を含む。したがって、本発明は、対象を癌についてさらに治療する、例として、治療の完了時の微小残存病変の見込みを予防し、または癌の再発を遅延させ、もしくは予防する方法であって、治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを、慣用の癌のための治療と同時に対象に投与することを含む方法を提供する。
【0094】
癌幹細胞の同定は、1つ以上のマーカーの検出によるものであり得る。例示的なマーカーを以下の表1に示す。
【0095】
【0096】
癌幹細胞は、本明細書に記載の任意の方法を使用して組織または試料から単離することができる。腫瘍または腫瘍間質の試料からの癌幹細胞は、試料の少なくとも一部を切片化することにより同定し、任意の1つ以上の癌幹細胞マーカーについて標識(好ましくは、免疫標識)し、免疫蛍光により分析することができる。
【0097】
「対象」は、哺乳動物を含む。哺乳動物は、ヒトであり得、または家畜、動物園用動物、もしくはコンパニオンアニマルであり得る。特に、本発明の方法は、ヒトの医学的治療に好適である一方、それらは、獣医的治療、例として、コンパニオンアニマル、例えば、イヌおよびネコ、ならびに家畜、例えば、ウマ、ウシおよびヒツジ、または動物園用動物、例えば、ネコ科、イヌ科、ウシ科、および有蹄動物の治療にも適用可能であることが特に企図される。対象は、癌または他の障害に罹患していてもよく、癌にも他の障害にも罹患していなくてもよい(すなわち、検出可能な疾患を有さない)。
【0098】
ヒト対象の典型的な体重は、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105または110kg以上であり得る。
【0099】
用語「治療有効量」は、癌またはその拡散(転移)の進行を最小化し、治療し、その再発を予防し、または改善し得る組成物、または組成物中の薬剤もしくは化合物の量を指す。治療有効量は、癌の治療に関して実験的および定型的に決定することができ、平均余命の増加をもたらす。
【0100】
本明細書に記載のとおり、本発明の方法は、新生物および関連病態に伴う微小残存病変、癌、腫瘍、悪性腫瘍ならびに転移病態の進行を最小化すること、その再発を予防することまたは治療することを含む。本発明の方法または医薬組成物により治療することができる固形腫瘍および転移に関連する組織および器官としては、限定されるものではないが、胆管、膀胱、血液、脳、乳房、子宮頸部、結腸、子宮内膜、食道、頭部、頸部、腎臓、咽頭、肝臓、肺、髄質、メラニン、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、腎、網膜、皮膚、胃、精巣、甲状腺、尿路、および子宮が挙げられる。
【0101】
本発明の方法および医薬組成物は、以下のタイプの癌および転移性癌腫:膵臓癌、食道癌、結腸癌、腸癌、前立腺癌、卵巣癌、胃癌、乳癌、悪性黒色腫、神経芽細胞腫または肺癌の再発の予防を含めた進行の最小化に有用である。好ましくは、癌は、膵臓癌、結腸癌または卵巣癌である。より好ましくは、癌は、膵臓癌である。
【0102】
本発明の方法および医薬組成物は、例えば、腫瘍細胞におけるアポトーシス、細胞間接着、分化および免疫原性(免疫系による標的化および除去)を増加させることにより癌を治療する多重効果アプローチを提供し得る。したがって、免疫系を抑制し、または損傷させ得るいかなる他の治療も不存在下で治療を実施することが有益である。
【0103】
治療の方法の提供に加え、本発明は、癌のための治療を受けた対象における癌の進行を最小化するための医薬品の製造における治療有効量のキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの使用を含むことが認識される。
【0104】
さらなる実施形態において、使用は、対象における微小残存病変を治療するための医薬品の製造における、または対象が癌のための治療を受ける前に対象を感作させるためのキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの使用を含む。
【0105】
本発明の方法は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンの、それが必要とされる対象への投与を含む。
【0106】
本発明の任意の態様において使用されるトリプシノーゲンおよびキモトリプシノーゲンは、単離され、精製され、実質的に精製された組換え体または合成物であり得る。
【0107】
前酵素トリプシノーゲンおよびキモトリプシノーゲンは、キモトリプシンクラス3.4.21.1もしくは3.4.21.2またはクラス3.4.21.4からのトリプシンから選択され、または任意の他の好適な資源(国際生化学・分子生物学連合の命名法委員会(Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology)の分類に従ってグループ化されたクラス)から選択される酵素の前駆体であり得る。これらの酵素は市販されており、ヒト、ウシまたはブタ起源のものであり得る。
【0108】
本発明のある態様において、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンは、同時または連続投与することができる。同時投与の場合、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンは、同一の医薬組成物中に含めることができる。同一の医薬配合物中で組み合わせる場合、キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比は、1:1~10:1もしくは約10:1、4:1もしくは約4:1~8:1もしくは約8:1、5:1もしくは約5:1~7:1もしくは約7:1の範囲、または約6:1であり得る。一実施形態において、キモトリプシノーゲン:トリプシノーゲンの重量比は、5:1~7:1の範囲、好ましくは、6:1である。
【0109】
一態様において、本発明の医薬配合物は、活性剤としてキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンのみを含む。代替的な実施形態において、追加の活性剤を組成物中に含める。例えば、膵臓前酵素キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンに加え、組成物は、他の公知の癌治療のための治療剤を含み得る。
【0110】
本発明の医薬組成物は、例えば、慣用の固体または液体ビヒクルまたは希釈剤、ならびに所望の投与方式に適切なタイプの医薬添加剤(例えば、賦形剤、結合剤、保存剤、安定剤、着香剤など)を技術、例えば、医薬配合物の分野において周知のものに従って用いることにより配合することができる。
【0111】
本発明の医薬組成物、およびその製剤または配合物は、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを含む組成物の構成成分を一緒に混合することにより調製することができる。混合は、連続的または同時に実施することができる。
【0112】
本発明の医薬組成物は、単位剤形で利便的に提供することができ、薬学の分野において周知の方法のいずれかにより調製することができる。全ての方法は、活性剤および/またはプロテアーゼ前酵素を、1つ以上のアクセサリー成分を構成する担体と会合させるステップを含む。一般に、医薬組成物は、活性剤および/またはプロテアーゼ前酵素を液体担体または微粉固体担体またはその両方と均等および緊密に会合させ、次いで必要な場合、生成物を所望の配合物に成形することにより調製される。活性剤および/またはプロテアーゼ前酵素は、単回または反復投与後に疾患のプロセスまたは状態に対する所望の効果を産生するために十分な量の単位剤形で提供される。
【0113】
本発明の医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性懸濁液、分散性散剤または顆粒剤、エマルション、硬もしくは軟カプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤としての経口使用に好適な形態であり得る。経口使用が意図される組成物は、医薬組成物の製造の分野に公知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、薬学的に洗練され、口当たりが良い製剤を提供するために甘味剤、着香剤、着色剤および保存剤からなる群から選択される1つ以上の薬剤を含有し得る。錠剤は、第1および第2の態様のプロテアーゼ前酵素および活性剤を、錠剤の製造に好適な非毒性の薬学的に許容可能な賦形剤との混合物で含有する。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウム;顆粒および崩壊剤、例えば、コーンスターチ、またはアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチンまたはアカシア、および滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであり得る。錠剤は、未被覆であり得、またはそれらは、胃腸管中での崩壊および吸収を遅延させ、それにより長期間にわたる持続作用を提供するための公知の技術により被覆されていてよい。例えば、時間遅延材料、例えば、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジアステアレートを用いることができる。これらは、制御放出のための浸透圧治療錠剤を形成するために被覆されていてもよい。
【0114】
経口使用のための配合物は、第1および第2の態様のプロテアーゼ前酵素および活性剤が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合される硬ゼラチンカプセル剤として、または第1および第2の態様のプロテアーゼ前酵素および活性剤が水もしくは油性媒体、例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油と混合される軟ゼラチンカプセル剤として提供することもできる。
【0115】
水性懸濁液は、活性剤およびプロテアーゼ前酵素を、水性懸濁液の製造に好適な賦形剤との混合物で含有する。このような賦形剤は、懸濁化剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシ-プロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニル-ピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムであり、分散剤または湿潤剤は、天然存在ホスファチド、例えば、レシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと、脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドと、脂肪酸および無水ヘキシトールに由来する部分エステルとの縮合生成物、例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエートであり得る。水性懸濁液は、1つ以上の保存剤、例えば、エチル、またはn-プロピル、p-ヒドロキシベンゾエート、1つ以上の着色剤、1つ以上の着香剤、および1つ以上の甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンも含有し得る。
【0116】
油性懸濁液は、活性剤およびプロテアーゼ前酵素を植物油、例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油中で、または鉱油、例えば、流動パラフィン中で懸濁させることにより配合することができる。油性懸濁液は、増粘剤、例えば、蜜蝋、硬パラフィンまたはセチルアルコールを含有し得る。甘味剤、例えば、上記のもの、および着香剤を添加して口当たりが良い経口製剤を提供することができる。これらは、酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸の添加により保存することができる。
【0117】
水の添加による水性懸濁液の調製に好適な分散性散剤および顆粒剤は、第1および第2の態様のプロテアーゼ前酵素および活性剤を、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および1つ以上の保存剤との混合物で提供する。好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤は、既に上記のものにより例示される。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、着香剤および着色剤も存在し得る。
【0118】
本発明の医薬組成物は、水中油型エマルションの形態でもあり得る。油相は、植物油、例えば、オリーブ油もしくはラッカセイ油、または鉱油、例えば、流動パラフィンまたはそれらの混合物であり得る。好適な乳化剤は、天然存在ゴム、例えば、アカシアゴムまたはトラガカントゴム、天然存在ホスファチド、例えば、ダイズ、レシチン、および脂肪酸および無水ヘキシトールに由来するエステルまたは部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、および前記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであり得る。エマルションは、甘味剤および着香剤も含有し得る。
【0119】
シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールおよびスクロースと配合することができる。これらは、粘滑剤、保存剤ならびに着香剤および着色剤も含有し得る。
【0120】
本発明の医薬組成物は、無菌注射水性または油性懸濁液の形態であり得る。この懸濁液は、上記の好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して公知の技術に従って配合することができる。第1および第2の態様の医薬組成物は、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液であり得、例えば、1,3-ブタンジオール中溶液としてもよい。用いることができる許容可能なビヒクルおよび溶媒には、水、リンガー液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、滅菌固定油が、溶媒または懸濁化媒体として慣用的に用いられる。この目的のため、任意の無刺激固定油、例として、合成モノまたはジグリセリドを用いることができる。さらに、脂肪酸、例えば、オレイン酸が注射剤の調製において使用される。
【0121】
特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、薬物の直腸投与のための坐剤として配合される。これらの配合物は、第1および第2の態様のプロテアーゼ前酵素および活性剤を、常温において固体であるが、直腸温度において液体であり、したがって、直腸中で融解して薬物を放出する好適な無刺激賦形剤と混合することにより調製することができる。このような材料としては、ココアバターおよびポリエチレングリコールが挙げられる。直腸投与は、酵素の経口投与に関連する胃腸管中での腸内肝臓ファーストパス効果を排除するために使用することができる。
【0122】
本発明の医薬組成物は、リポソーム中で配合することもできる。当分野において公知のとおり、リポソームは、一般に、リン脂質または他の脂質物質に由来する。リポソームは、水性媒体中で分散される単層または多層水和液晶により形成される。リポソームを形成し得る任意の非毒性の生理学的に許容可能で代謝可能な脂質を使用することができる。リポソーム配合物は、安定剤、保存剤、賦形剤などを含有し得る。好ましい脂質は、リン脂質およびホスファチジルコリン、天然物および合成物の両方である。リポソームを形成する方法は、当分野において公知である。
【0123】
本発明の医薬組成物は、投与についての説明書と一緒に容器、パック、または分注器中に含めることができる。医薬組成物のプロテアーゼ前酵素および活性剤、ならびに場合により、追加の活性剤は、本明細書に記載の本発明の使用または方法において同時または異なる時間において別個にまたは一緒に摂取すべき容器、パック、または分注器中で離隔された構成成分として提供することができる。
【0124】
本発明の医薬組成物に適切な投薬量レベルは、一般に、1日当たり患者体重1kg当たり約0.01~500mgであり、単回または複数回用量で投与することができる。これは、1日当たり約0.1~約250mg/kg;または1日当たり約0.5~約100mg/kgであり得る。好適な投薬量レベルは、1日当たり約0.01~250mg/kg、1日当たり約0.05~100mg/kg、または1日当たり約0.1~50mg/kgであり得る。この範囲内で、投薬量は、1日当たり0.05~0.5、0.5~5または5~50mg/kgであり得る。
【0125】
経口投与のため、医薬組成物は、1.0~4000ミリグラムのプロテアーゼ前酵素、特に、1.0、5.0、10.0、15.0、20.0、25.0、50.0、75.0、100.0、150.0、200.0、250.0、300.0、400.0、500.0、750.0、1000、1500、2000、2500、3000、3500、および4000ミリグラムのプロテアーゼ前酵素を、治療すべき患者への投薬量の対症的調整のために含有する錠剤の形態で提供することができる。本明細書に記載の医薬組成物は、1日当たり1~4回、1日当たり1もしくは2回、または1日1回のレジメンに基づき投与することができ、投与の要求の低減は、一般に、より大きいコンプライアンスをもたらす。
【0126】
投薬量は、組成物の単回投与形態を与えるか否かに応じて広く変動し得る。本明細書に記載の医薬組成物の実施形態に好適な単回投与は、
・1~100mg、特に、2~50mg、より特定すると(mgで)1.0、2.5、5.0、7.5、10.0、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0の量のトリプシノーゲン;および
・1~100mg、特に、2~50mg、より特定すると(mgで)1.0、2.5、5.0、7.5、10.0、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0,50.0の量のキモトリプシノーゲン
を含み得る。
【0127】
しかしながら、任意の特定の患者についての規定の用量レベルおよび投薬量の頻度は変えることができ、種々の因子、例として、用いられる規定化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、全身健康状態、性別、食事、投与方式および時間、排泄速度、薬物組合せ、特定の病態の重症度、ならびに宿主が受ける治療法に依存することが理解される。
【0128】
本明細書に記載の医薬組成物の一実施形態の種々の構成成分(存在する場合)についての好適な投薬量レベルは、
・少なくとも0.2mg/kgの、または0.2~5mg/kgの範囲の、0.5~2.0mg/kgの範囲の、または約0.8mg/kgの量のキモトリプシノーゲン;
・0.5mg/kg未満の、または0.01~0.4mg/kgの範囲、もしくは0.05~0.20mg/kgの範囲の、または約0.1mg/kgの量のトリプシノーゲン
を含み得る。
【0129】
腫瘍細胞の表面またはその付近に存在する場合に特に有効であり得る、本明細書に記載の医薬組成物の種々の構成成分(存在する場合)に好適な濃度は、
・少なくとも0.5mg/ml、または1~2mg/mlの範囲の濃度のキモトリプシノーゲン;
・0.25mg/ml未満、または0.1~0.2mg/mlの範囲の濃度のトリプシノーゲン
を含み得る。
【0130】
本発明の医薬組成物は、任意の好適な手段により、例えば、経口投与で、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤もしくは散剤の形態で;舌下投与で;バッカル投与で;非経口投与で、例えば、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、もしくは嚢内注射もしくは注入技術(例えば、滅菌注射水または非水性液剤もしくは懸濁液として)により;経鼻投与で、例えば、吸入スプレーにより;局所投与で、例えば、クリーム剤もしくは軟膏剤の形態で;または直腸投与で、例えば、坐剤の形態で;非毒性の薬学的に許容可能なビヒクルまたは希釈剤を含有する投薬単位配合物で投与することができる。これらは、例えば、即時放出または徐放に好適な形態で、例えば、デバイス、例えば、皮下インプラント、カプセル化スフェロイドまたは浸透圧ポンプの使用により投与することができる。
【0131】
ある実施形態において、例えば、腫瘍塊の摘出後にキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを腫瘍床または周囲組織に直接投与することが好ましいことがある。代替的な実施形態において、キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンは、血液癌により好適であり得る全身用量として提供する。
【0132】
上記開示は、一般に、本発明を説明する。より完全な理解は、説明目的のためだけに本明細書に提供され、本発明の範囲を限定するものではない以下の具体的な実施例を参照して得ることができる。
【実施例】
【0133】
実施例1
一連のインビトロ試験を実施してCSCの増殖および分化に対する膵臓前酵素の効果を試験した。
【0134】
A.材料および方法
処理溶液および対照
6mg/mlのキモトリプシノーゲンAおよび1mg/mlのトリプシノーゲンの原液をPBS中で調製し、要求されるまで-20℃において貯蔵した。それぞれの実験のため、原液を培養培地中でさらに希釈して所望の濃度を得た(表2参照)。
【0135】
抗増殖剤インターフェロンアルファ(IFN)を10000UI/ml(INTRON(登録商標)Aインターフェロンアルファ-2b)の濃度において陽性対照として使用した。
【0136】
キモトリプシノーゲンA/トリプシノーゲンおよびIFNを含む溶液も使用してこれらの試薬の組合せ結果を評価した。
【0137】
細胞系
ヒト膵臓癌細胞系BxPC3およびヒト結腸癌細胞系HCT-116をAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手し、10%のFBSが補給されたRPMI1640培地(BxPC3用)およびダルベッコ改変イーグル培地(HCT-116用)(Sigma-Aldrich)中で維持した。
【0138】
神経芽細胞腫細胞系SK-N-SH(転移部位、骨髄における神経芽細胞腫に由来するATCC(登録商標)HTB-11(商標))をAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手し、10%のFBSが補給されたイーグル最小必須培地中で維持した。
【0139】
トリプシン代替試薬TrypLE(商標)(Life Technologies)を使用して細胞継代を実施した。
【0140】
CSCの単離
BxPC3膵臓およびHCT-116結腸癌細胞系を、超低接着プレート中で、スフェア形成培地中で増殖させた。1週間後、細胞はスフェアを形成し、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によりALDEFLUORアッセイ(StemCell Technologies)および以下のマーカー:CD326、CD44およびCxCR4(BxPC3)ならびにCD326およびCD44(HCT-116用)を使用して癌幹様細胞を単離した。CSCの濃縮下位集団を、Charafe-Jauffret et al.(2010)Clin Cancer Res.16(1):45-55に既に記載のとおり、超低接着プレート(Corning)中で規定のスフェア形成培地により増殖させた。類似の方法は、Ramirez et al.(2014)Oncotarget,5(11):3590-3606に記載されている。
【0141】
下流アッセイにおいて使用するためのトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンの最適濃度の決定
MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾリル-2)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイ(Sigma)を使用して細胞生存度および増殖を評価した。手短に述べると、細胞(2×103個の細胞/ウェル)を96ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベートし、次いでトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン(表2参照)、IFN(対照)およびトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン+IFNの異なる溶液により処理した。
【0142】
3日後、処理を繰り返し、細胞をさらに3日間維持した。細胞を6日間の処理により維持した。その後、細胞を以下のとおり処理し、10μLの2mMのMTT試薬をそれぞれのウェルに添加し、細胞を37℃において4時間インキュベートした。次いで、100μLの洗浄剤試薬を添加し、細胞を暗所で室温において2時間放置した。吸光度を570nmにおいて記録した。
【0143】
Sigma Plotソフトウェアを使用して線形補間により4パラメータロジスティック曲線からIC50値を計算した。実験の全てをトリプリケートウェル中でプレーティングし、少なくとも2回実施した。
【0144】
MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾリル-2)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイ(Sigma)を使用して細胞生存度および増殖に対する抗癌薬の効果を評価した。
【0145】
【0146】
細胞周期アッセイ
細胞周期分布を対照および処理細胞において計測した。処理後、細胞を15mlのチューブ中で回収し、低温5mlのPBS中で1回洗浄した。細胞を固定するため、細胞を穏やかにボルテックスに供した一方、200μlの70%エタノールを滴加し、暗所で4℃において少なくとも20分間インキュベートした。固定後、エタノールを遠心分離により廃棄し、PIおよびRNアーゼを含有する溶液の添加により細胞を染色し、暗所で45分間インキュベートした。Scientific Instrumental Center(University of Granada)からのFACSAria IIIフローサイトメーター(Becton Dickinson,BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ,USA)を使用して試料を直ちに処理した。少なくとも10,000のイベントをそれぞれの最終ゲートヒストグラムで回収した。DeanおよびJettアルゴリズム(Multicycle,Phoenix Flow Systems,San Diego,CA)を使用して細胞周期分析を実施した。
【0147】
フローサイトメトリーにおけるCSCマーカー分析
ALDEFLUORソートされたBxPC3膵臓およびHCT-116結腸癌細胞を培養物中で6日間維持し、キモトリプシノーゲン:0.42mg/ml-トリプシノーゲン:0.07mg/mlにより2回処理した(2日目および5日目)。
【0148】
Trypleを使用して処理および未処理CSCを解離させ、1%のウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich,St Louis,MO)が補給されたPBS中で2回洗浄した。IgG(Santa Cruz Biotechnology,Inc.,Santa Cruz,CA)を氷上で15分間使用して細胞表面Fc受容体を遮断した。細胞を抗CD44-PEおよび抗CD326FITCおよびCxCR4-APCモノクローナル抗体(BD Biosciences,Franklin Lakes,New Jersey)により4℃において30分間染色した。洗浄後、Scientific Instrumental Center(University of Granada)からのFACSAria IIIフローサイトメーター(Becton Dickinson,BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ,USA)を使用して細胞を分析した。
【0149】
トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンの存在下でのCSCスフェア形成
SK-N-SH細胞を培養フラスコから剥離し、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン(0.07:0.42mg/ml)の存在下でCSC濃縮馴化培地中で培養した。スフェア形成を光学顕微鏡観察下で毎日モニタリングし、6日目に写真を撮影した。
【0150】
BxPC3膵臓およびHCT-116結腸癌細胞系を培養フラスコから剥離し、CSC濃縮馴化培地中で、
1.トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン(0.07mg/ml:0.42mg/ml)
2.トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン(0.07mg/ml:0.42mg/ml)とIFN(10000UI/ml);または
3.IFN(10000UI/ml)
のいずれかの存在下で培養した。
【0151】
スフェア形成を光学顕微鏡観察下で毎日モニタリングし、2日目および5日目に写真を撮影した。
【0152】
二次スフェア形成アッセイのため、一次スフェアからの細胞を遠心分離により回収し、次いでTrypleにより解離させ、ピペットにより機械的に破壊した。103個の単一細胞をプレーティングし、超低接着24ウェルプレート中で、スフェア培養培地中で再懸濁させた。6日後に光学顕微鏡観察により>75μM直径のスフェアをカウントした。
【0153】
定量的リアルタイムRT-PCR
TRIZOL試薬を製造業者(Life Technologies)の説明書に従って使用して異なる細胞系からの全RNAをデュプリケート80%コンフルエント培養物から抽出した。Reverse Transcription System(Promega)を使用して全RNAの逆転写によりcDNAを合成し、SYBR Green PCR Master Mix(Promega)およびランダムプライマーを使用してqRT-PCRアッセイを行った。それぞれの反応は、2つのcDNA希釈物からのトリプリケートで実施した。比較閾値サイクル(comparative threshold cycle)(Ct)法を使用して製造業者により規定されるとおり増幅係数を計算した。ヒトGADPHを内部標準として使用してインプットcDNAの量におけるRNA品質の変動を正規化した。上皮間葉移行(EMT)と関連する遺伝子の発現を測定するためのプライマー配列を、表3に列記する。
【0154】
【0155】
【0156】
マイクロアレイ試験
上皮間葉移行(EMT)に関与し、またはCSC発現に関連する遺伝子の発現を、製造業者の説明書に従って処理されたRT2Profiler(商標)PCRアレイ(Qiagen)により分析した。
【0157】
それぞれのアレイ上に存在する対照のセットにより、逆転写性能、ゲノムDNA汚染、およびPCR性能の相対的定量および評価のΔΔCT法を使用するデータ分析が可能となった。
【0158】
使用されるRT2Profiler(商標)PCRアレイは、以下であった:
1.EMTの間に発現を変化させ、またはEMTの間に遺伝子発現変化を調節する84個のキーとなる遺伝子の発現をプロファイリングするヒト上皮間葉移行(EMT)RT2Profiler(商標)PCRアレイ。このアレイは、細胞表面受容体、細胞外マトリックス、ならびに細胞接着、遊走、運動、および形態形成を媒介する細胞骨格遺伝子;細胞分化、発生、成長、および増殖を制御する遺伝子;ならびにEMTおよびその関連プロセスの全てを引き起こすシグナル伝達および転写因子遺伝子を含む。
【0159】
2.ヒト癌幹細胞RT2Profiler PCRアレイは、癌幹細胞(CSC)に結びつく84個の遺伝子の発現をプロファイリングする。このアレイによりプロファイリングされる遺伝子としては、CSC分子マーカーならびに培養物中でCSC単離株の安定性を確保するのに役立つCSC増殖、自己再生、および多能性を調節する遺伝子が挙げられる。CSC非対称細胞分裂、遊走および転移、ならびに関連シグナル伝達経路に関与する遺伝子も挙げられる。
【0160】
B.結果
MTTアッセイによるIC50測定
MTTアッセイは、代謝活性細胞によるMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾリル-2)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)の低減に基づく。得られる細胞内の紫色のホルマザンを可溶化し、分光光度的手段により定量することができる。
【0161】
図1は、種々の濃度のトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン+IFNにおける応答曲線を示す。
【0162】
データは、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンAの最適濃度がトリプシノーゲン0.07mg/mlおよびキモトリプシノーゲンA0.42mg/ml(1:6の比)であることを示すが、1:1~約1:10のトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンの比も細胞代謝活性を低減させ、細胞増殖を阻害することが予測される。トリプシノーゲン0.07mg/mlおよびキモトリプシノーゲンA0.42mg/mlのこれらの濃度を後続の実験において使用し、後続の実験において「PRP」と称する。データは、IFNおよびトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンの組合せが、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンの抗増殖効果を有意に向上させることも示す。
【0163】
細胞周期アッセイ
スフェア形成条件下で増殖させた細胞(CSC)および接着細胞(非CSC)に対して細胞周期アッセイを実施した。細胞を、IFN(10000UI/ml)、PRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン0.07mg/ml:0.42mg/ml)およびPRP+IFN(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン0.07mg/ml:0.42mg/mlとIFN10000UI/ml)により1回処理し、4日後に細胞周期アッセイのために処理した。
【0164】
G1/G0期の細胞数は、膵臓CSCおよび非CSC中(72.8%対82.4%)で、ならびに結腸CSCおよび非CSC中(77.1%対79.9%)で類似であった。PRPによる処理は、膵臓CSC中(82.4%対89.4%)でも、結腸CSC中(79.9%対78.8%)でもG1/G0の細胞数を変化させるとは考えられなかった(
図2a~c;
図3a~c)。
【0165】
PRP処理は、対照と比較してS期の細胞数のわずかな減少をもたらし(3.25%対7.95%)、IFN(2.25%)の添加により強化された効果である(
図2d)。PRPによる処理後の結腸CSCにおいて細胞周期の顕著な差は存在しなかった(
図3d)。
【0166】
これらの結果は、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンが、膵臓CSCの増殖能を減少させ、膵臓CSCのS期を低減させることを示唆する。
【0167】
ALDEFLUORアッセイ
生存のためのCSC機序としては、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)を介する代謝活性の増加が挙げられる。この理由のため、ALDHは、癌幹細胞の同定のためのマーカーとして記載されている(Huang et al.(2009).Cancer Res Vol.69(No.8):3382-3389)。ALDH陽性細胞は、ALDEFLUOR試薬により、フローサイトメトリーを使用することにより検出することができる。Aldefluorアッセイは、ALDH基質についての蛍光非毒性基質の、蛍光反応産物への変換に基づく。ALDHについての非毒性基質は、インタクトな生存細胞中に自由に拡散し得る。BODIPYアミノアセトアルデヒドは、ALDH活性により蛍光産物BODIPYアミノアセテートに変換される。ALDH陽性細胞は、種々の癌組織、例として、乳癌、肝臓癌、結腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌および急性骨髄性白血病において見出されており、癌化学耐性に関連する(Siclari and Qin(2010)J Orthop Surg Res 5(78))。
【0168】
図4は、膵臓CSCおよび非CSCに対するALDHアッセイの結果を示す。
【0169】
非CSC試料中のALDH陽性細胞の割合は、約12%であった。スフェア形成条件下で培養された細胞について、細胞の約50%がALDH陽性であった。PRPによる細胞の処理は、膵臓CSC中のALDH陽性細胞の集団を有意に低減させた(47.2%から17.5%)。IFNの添加は、PRPの効果をさらに増加させた(13.8%)。これらの結果は、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンが膵臓癌におけるCSC集団を低減させることを示す。
【0170】
トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン処理細胞中でのCSCマーカーの発現
膵臓癌細胞をスフェア形成条件下で増殖させてCSCの下位集団を濃縮した。次いで、膵臓CSCをPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン0.07mg/ml:0.42mg/ml)、PRP+IFNおよびIFNにより処理し、膵臓特異的CSCマーカーCD326、CD44およびCxCR4をフローサイトメトリーにより計測した。
【0171】
フローサイトメトリー結果は、これらの3つのCSCマーカーを発現する細胞の割合が、PRPによる処理後に有意に減少することを実証する(56.6%から8.8%)。PRP+IFNによる処理は、それらのマーカーを発現する細胞の集団を4.3%に低減させた(
図5および6)。これらの結果は、PRPによる処理が膵臓癌におけるCSC集団を低減させることを示唆する。
【0172】
結腸癌細胞をスフェア形成条件下で増殖させてCSCの下位集団を濃縮した。次いで、結腸CSCをPRP、PRP+IFNおよびIFNにより処理した。細胞を結腸特異的CSCマーカー:CD326およびCD44と一緒にALDHにより標識し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0173】
フローサイトメトリー結果(
図7および8)は、ALDH陽性であり、両方の結腸特異的CSCマーカーを発現した細胞の割合がPRP処理後に有意に減少したことを実証する(64.8%から31.05%)。PRP+INFによる処理は、それらのマーカーを発現する細胞の集団を40.8%に低減させた(
図7)。ALDH+であり、CD44またはCD326マーカーのいずれかを発現する細胞の割合はPRP処理後に有意に減少した(ALDH+CD44+細胞について35.5%から8.1%、ALDH+CD326+細胞について43.9から7.1%-
図8)。
【0174】
トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンの存在下でのCSCスフェア形成
スフェア形成を抑制するPRPの能力を試験した。癌細胞をスフェア条件下(馴化培地および低接着培養ウェル)で培養した0日目に、PRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン0.07mg/ml:0.42mg/ml)、IFN(10000UI/ml)およびPRP+IFNを培地に添加した。
【0175】
図9は、2日目および6日目の膵臓細胞培養物の画像を示す。2日目の画像は、培地へのPRPの添加が膵臓CSCスフェアの数およびサイズを有意に低減させることを示す。さらに、形成されたスフェアの形態は、顕著に異なる(対照未処理細胞においては規則的である一方、PRP処理細胞においては不規則である)。
【0176】
5日目の画像は、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA処理細胞と対照細胞との間のキーとなる差を示す。PRPおよびPRP+IFN処理細胞は、スフェアを形成しない。細胞は、解離および破裂していると考えられる。
【0177】
結腸癌細胞を用いる結果は、異なるものであった。
図10は、PRPの添加が2日目でさえスフェアの形成を阻害したことを示す。細胞は分散するが、死滅していないと考えられる。5日目、スフェアは依然として形成されず、細胞は凝集しなかった。
【0178】
これらの結果は、トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンがCSCによるスフェロイド形成を顕著に阻害することを示す。
【0179】
PRPの存在下での神経芽細胞腫CSCスフェア形成
癌細胞をスフェア条件下(馴化培地および低接着培養ウェル)で培養した2日目および4日目に、PRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲン0.07mg/ml:0.42mg/ml)を細胞培地に添加した。
【0180】
図11は、6日目の細胞培養物の画像を示す。PRPにより処理された神経芽細胞腫はCSCスフェアを形成せず:細胞は懸濁液中で増殖したが、細胞集塊を形成しない(
図11BおよびD)。細胞を対照条件下でPRPの不存在下で維持した場合の神経芽細胞腫スフェアCSCをパネルAおよびCに示す。
【0181】
二次スフェア形成
二次スフェア形成アッセイは、PRP処理細胞により形成された一次スフェアを解離させ、対照未処理細胞と比較することにより実施した。
図11Eは、癌細胞系BxPC3およびSK-N-SHについて、PRP処理後に二次スフェアをカウントすることができなかったことを示す。対照的に、未処理対照細胞は、細胞集塊を形成する能力を回復し得た。
【0182】
PRPは、一次スフェアを破壊し、二次スフェアを形成するCSCの能力も抑制する。腫瘍スフェアは、単一腫瘍幹細胞に由来する細胞のクローン的に由来する非接着コロニーとして定義されるため、得られた結果は、PRP処理が癌幹細胞集団に対する直接的な効果を有することを実証する。
【0183】
EMTおよび多能性関連遺伝子発現
EMTプロセスおよび/または多能性と関連する遺伝子の発現を、PRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA0.07mg/ml:0.42mg/ml)により処理された膵臓CSC中で分析し、未処理CSCと比較した。qRT-PCR結果は、EMTに関連する遺伝子、例えば、SNAIL、SLUG、VIMENTINおよびN-CADHERINが、処理後に減少した発現を有したことを示す(
図12)。E-CADHERIN発現は、処理後に増加した。これらの結果は、PRP処理が上皮から間葉への表現型の転換を低減させ得ることを示唆する。
【0184】
PRP処理がCSCマーカーの発現を変更するか否かを判定するため、いくつかの多能性の遺伝子をqRT-PCR(使用されるプライマーは、表4に記載される)により分析した。結果は、OCT4、CMYCおよびKLF4遺伝子発現が、未処理CSCと比較してトリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンAによる処理後にわずかに減少したことを示す。対照的に、NANOGおよびCD133の発現は処理後に増加し、PRPの効果がこれら2つの遺伝子に介在しないことを示した(
図13)。
【0185】
マイクロアレイ試験
以下の結果は、PRP処理後のCSC中の遺伝子発現の変化に関する。
【0186】
a)EMTと関連する遺伝子の発現
EMTプロセスに対するPRPの効果を試験するため、EMTに関与するいくつかのキーとなる遺伝子の発現を処理CSC中で分析し、対照未処理CSCの遺伝子発現プロファイルと比較した。結果を、対照細胞と比較した(上方または下方)調節倍率として示す。
【0187】
図22Aは、EMTプロセスの間に通常は下方調節される選択遺伝子の遺伝子発現の変化を示す。
図22Aは、PRP処理後、E-カドヘリンの発現が4.28倍増加したことを示し、PRP処理がこの遺伝子の発現を誘導することを示す。さらに、クルッペル様因子17(KLF17)もPRP処理により上方調節され、5.9の上方調節倍率に達した。KLF17は、EMT、血管新生、侵入および転移を直接抑制することが既に報告されている。他の遺伝子の発現もPRP処理後に増加し(例えば、MST1R:1.6928倍;TFPI2:4.4272倍およびNUDT13:2.3692倍)、PRPが抗EMT効果を有することを示唆した。
【0188】
EMTの間に通常は上方調節される遺伝子を分析し、結果を
図22Bにまとめる。EMTを誘導すると記載された13個の遺伝子が、PRPによる処理後に下方調節された。例えば、典型的には、EMTを受けている転移細胞中で上方調節される転写因子Snailは、PRP処理後に下方調節された(SNAI1:-1.9678およびSNAI2:-1.8604)。セリンプロテアーゼインヒビターSERPINE1は、PRP処理後に有意に下方調節された(4.6倍の下方調節)。インテグリンITGA5およびITGAVの発現も下方調節された(それぞれ、2.5697および1.0193、下方調節)。ITGA5は、腫瘍侵入を促進することが報告されており、この遺伝子のより高度の発現は、癌患者のより短い生存時間と既に相関している。ITGAVは、血管新生の調節および癌進行にも関与する。
【0189】
まとめると、PRP処理は、EMTの間に通常は下方調節される遺伝子の発現を誘導し、EMTの間に通常は上方調節される遺伝子の発現を低減させることにより、EMTプロセスに関与する遺伝子の発現に対する有意な効果を有する。これらの結果は、CSC集団の抑制に加え、腫瘍進行および転移の低減におけるPRPについての治療潜在性を示す。
【0190】
b)幹細胞分化に関与する遺伝子の発現
膵臓分化に関与するキーとなる遺伝子の発現を、膵臓CSC中で分析した。PRPにより処理されたCSC中の遺伝子の発現を、対照未処理CSC中の遺伝子の発現と比較した。結果を、対照細胞と比較した(上方または下方)調節倍率として示す。
【0191】
得られた結果を
図23にまとめ、試験と一致し、PRP処理が細胞分化を誘導することを示した。分化に関連する7つの遺伝子はPRP処理後に上方調節され、例としては、対照細胞と比較して8.9倍増加した上皮成長因子(EGF)の発現が挙げられる。
【0192】
c)腫瘍抑制因子遺伝子の発現
図24は、腫瘍抑制因子の役割が既に報告された11個の遺伝子の、PRP処理後の上方調節を示す。
【0193】
転写因子FOXP1の発現は、PRP処理後に6.04倍増加した。さらに、TWIST2の発現は、PRP処理後に上方調節された(5.2737倍)。PRP処理後の結果として上方調節された別の腫瘍抑制因子遺伝子は、THY1であった(3.622倍増加)。
【0194】
SPARCは、多くの腫瘍タイプにおいて下方調節される細胞外マトリックスの堆積およびモデリングに関与する細胞外タンパク質であり、PRP処理後に上方調節(3.611倍)されることが見出された。SIRT1発現も処理細胞において2倍増加した。SIRT1は、タンパク質のサーチュインファミリーのメンバーをコードし、膵臓腺癌上方調節因子(PAUF)を発現する膵臓癌細胞の増殖を阻害することが報告されている。
【0195】
d)転移および侵入に関連する遺伝子の発現
転移および細胞侵入に関与する9つの遺伝子の発現レベルを、PRP処理後に測定した(
図25A)。結果は、PRP処理がそれらの遺伝子の有意な下方調節をもたらしたことを示す。例えば、オステオポンチン(SPP1)の発現は、10倍低減した。SPP1は、種々の癌の転移潜在性の決定において重要な役割を担うことが報告されているケモカイン様石灰化ECM関連タンパク質である。
【0196】
血小板由来成長因子受容体(PDGFR)を介するシグナリングは、複数の腫瘍関連プロセスに関与する。PDGFRの発現は多くの腫瘍において上方調節され、例えば、同所的に増殖させた膵臓癌腫のモデルにおける転移性腫瘍の内皮細胞は、PDGFRの高い発現を示した。PRP処理後、PDGFRBの発現は3.1093倍低減し、PRPが抗転移効果を有することを示した。さらに、フィブロネクチンをコードする遺伝子FN1の発現も、PRP処理後に有意に低減した(3.2倍下方調節)。フィブロネクチンは、細胞接着および遊走プロセス、例として、転移に関与する。
【0197】
e)細胞接着に関連する遺伝子の発現
図25Bは、細胞接着に関与する遺伝子の上方調節を示す。PRP処理後にE-カドヘリンおよびβ-カテニンの発現が増加し(それぞれ4.3および4倍)、事前の試験と一致した。E-カドヘリンおよびβ-カテニンは、EMTにおいて公知の役割を有する。結果は、PRPが、CSC中のE-カドヘリンの発現およびβ-カテニン発現を直接向上させることによりEMTを阻害することを示す。
【0198】
f)サイトカインをコードする遺伝子の発現
膵臓CSC中のサイトカインをコードする遺伝子の発現に対するPRP処理の影響を調査した。
図26は、癌における細胞増殖、遊走および侵入と関連するサイトカインをコードする遺伝子の下方調節を示す。
【0199】
IL-8およびIL-8受容体は、膵臓癌において過剰発現するが、正常膵臓組織中では抑制されることが示されており、IL-8がヒト膵臓癌の侵入性において重要な役割を担うことを示唆している。さらに、IL-8は、腫瘍微小環境のモジュレーションによりEMTを促進することも報告されている。ここで提示される結果は、PRP処理後にIL-8の発現が下方調節(4.5倍)されたことを示す。PRP処理後に検出されたIL-8遺伝子発現の減少は、PRPが抗CSC効果を付与する観察をさらに支持する。
【0200】
PRPによるCSCの処理は、分泌型リン酸化タンパク質-1(SPP1、10倍の下方調節)の発現を大幅に減少させた。SPP1は、癌細胞生存を促進し、腫瘍関連血管新生および炎症を調節することが報告されている。さらに、PRP処理は、多くの腫瘍細胞上で、例えば、ヒト脳神経膠腫、子宮の癌腫、肺癌、および乳癌で見出されているタンパク質である膜糖タンパク質CD31/PECAM-1の下方調節を誘導した。
【0201】
g)CSCマーカー遺伝子の発現
膵臓CSCのPRP処理は、CSCマーカーとして認識される6つの遺伝子、例として、CD38、CD45、Oct-04およびKLF4の下方調節を誘導した(
図27)。
【0202】
h)MAPK/ERK経路と関連する遺伝子の発現
膵臓CSCのPRP処理は、いくつかのMAPK関連遺伝子の下方調節を誘導した。結果を
図28に示す。
【0203】
結論
上記インビトロ試験の結果は、以下を示す:
1.PRP処理は、一次スフェアを破壊し、二次スフェアを形成するCSCの能力を抑制し、それにより癌幹細胞集団に対する直接的効果を有し;
2.PRPは、CSC中で強力な抗EMT効果を有し;
3.PRPは、細胞接着を促進する因子の発現を向上させ、CSC中で遊走プロセスと関連する因子の発現を低減させる抗転移効果を有し;
4.PRPは、CSC中の関連腫瘍抑制因子遺伝子の発現を向上させ;
5.PRPは、CSCマーカー遺伝子の発現をモジュレートし;
6.PRPは、CSCの分化を誘導し;および
7.PRPは、癌における細胞増殖、遊走および侵入と関連するサイトカインの発現を下方調節する。
【0204】
これらの結果は、抗CSC、抗EMT、抗転移、および抗腫瘍薬としてのPRPの治療潜在性を補強する。
【0205】
実施例2
第1相-CSCに対するPRPの抗腫瘍活性のインビボ試験
A.実験設計:
1-対照群(n=10):未処理マウス(生理食塩溶液を接種)
2-予防群:マウスを、CSCの接種前にPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理する(n=10)。PRPを生理食塩溶液中で溶解させ、単回静脈内ボーラス注射で3週間、1日おきに投与する。
3-予防+治療群:マウスを、CSC接種前および後にPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理する(n=10)。生理食塩溶液中に溶解させたPRPを単回静脈内ボーラス注射で3週間、1日おきに投与する。処理を3~4ヵ月間維持する。
4-治療群:マウスを、CSC接種後にのみPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理する。生理食塩溶液中に溶解させたPRPを単回静脈内ボーラス注射で3~4ヵ月間、1日おきに投与する。
【0206】
第2相-膵臓CSCの腫瘍開始能を阻害するPRPの能力の試験
PRP処理が膵臓CSCの腫瘍開始能を低減させ得るか否かを判定するため、以下の実験セットを実施する。事前にPRPによりインビトロ処理された膵臓CSCの注射により腫瘍形成を誘導するゼノグラフト実験を実施する。腫瘍形成の評価、および腫瘍特徴の試験を実施する。
【0207】
A.実験設計:
1-対照群(n=8)。NSGマウスに、未処理膵臓CSCを注射する。
2-IC50 PRP群(n=8)。マウスに、IC50のPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理された膵臓CSCを3~6日間にわたり注射する。
3-2×IC50 PRP群(n=8)。マウスに、2×IC50のPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理された膵臓CSCを3~6日間にわたり注射する。
4-5×IC50 PRP群(n=8)。マウスに、5×IC50のPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理された膵臓CSCを3~6日間にわたり注射する。
【0208】
第3相-実験的転移インビボアッセイ
PRPを抗転移剤として使用することができるか否かを判定するため、免疫欠損マウスを使用して実験的転移アッセイを実施する。インビボ転移モデルは、NSGマウス(NOD scidガンママウス)の循環中にその尾静脈を介して直接注射されるCSC-L2T(ルシフェラーゼおよび赤色蛍光タンパク質td-Tomatoとインビトロで形質移入させたBxPC3から得られた濃縮下位集団)を使用する。転移進行は、IVIS(Spectrum Preclinical In Vivo Imaging System)によりモニタリングする。マウスを、以下の実験設計に従ってCSC-L2Tの注射前および後にPRPにより処理する。
【0209】
A.実験設計:
1-対照群(n=8):未処理マウスに、生理食塩溶液を接種する。
2-予防群:マウスを、CSC-L2Tの接種前にPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理する。生理食塩溶液中で溶解させたPRPを単回静脈内ボーラス注射で3週間、1日おきに投与する。
3-予防+治療群:マウスを、CSC-L2T接種前および後にPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理する。生理食塩溶液中に溶解させたPRPを単回静脈内ボーラス注射で3週間、1日おきに投与する。処理を3~4ヵ月間維持する。
4-治療群:マウスを、CSC-L2Tの接種後にのみPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)により処理する。生理食塩溶液中に溶解させたPRPを単回静脈内ボーラス注射で3~4ヵ月間、1日おきに投与する。
【0210】
材料および方法
第1相および第2相
CSCの単離
蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)によりALDEFLUORアッセイ(StemCell Technologies)を使用してBxPC3膵臓癌(腺癌)細胞系からの癌幹様細胞を単離し、CSCの濃縮下位集団を、超低接着プレート(Corning)中で本発明者らの規定のスフェア形成培地(PCT/ES2015/070606号明細書)により増殖させる。
【0211】
インビボ抗腫瘍ゼノグラフト試験
ゼノグラフト腫瘍を樹立するため、6~8週齢NSG免疫欠損マウスを使用した。全ての手順は、University of GranadaのInstitutional Animal Care and Use Committeeにより承認された。マウスを、20℃~24℃、50%RH、14時間から10時間への明暗サイクルにおいて、食料および水を不断給餌で飼育および維持した。
【0212】
第2相のため、膵臓CSCをIC50、2×IC50および5×IC50のPRPにより3および6日間処理する。細胞生存度を、NSGマウスモデル中へのPRP処理CSCの接種前に測定する。
【0213】
BxPC3膵臓癌細胞系腫瘍を、26ゲージ針を使用する100~500個の生存細胞/マウス
*の皮下注射により生成させた。次いで、動物(1群当たりn=10)を、対照および処理群(第1群~第4群)として無作為に割り当て、既に記載された実験手順に従って処理する(
図14AおよびB)。
【0214】
式:TW(mg)=腫瘍容積(mm3)=d2×D/2(式中、dおよびDは、それぞれ、最短および最長直径である)に従って、腫瘍重量を計算した。全ての腫瘍のパラフィン包埋ブロックを5μmにおいて切片化する。それぞれの試料を、組織学的分析のためにヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)により染色した。
【0215】
インビボPRP処理
生理食塩溶液中で溶解させたPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)を、単回静脈内ボーラス注射で処理期間の間、1日おきに投与した。第2群および第3群に投与される用量は、83.3mg/kgのトリプシノーゲンおよび500mg/kgのキモトリプシノーゲンAであった。トリプシノーゲンおよびキモトリプシノーゲンAを組合せで提供し、単回注射で投与した。投薬容量は10mL/kgであった。それぞれの動物に投与される投薬溶液の容量は、投薬直前に計測された個々の体重に基づき計算し、調整した。
【0216】
処理を、腫瘍誘導前の3週間(予防群)、または腫瘍誘導前の3週間および誘導後少なくとも4週間(好ましくは、最大9.5週間)(予防+治療群)施した。
【0217】
予備転移アッセイ
マウスを致死用量のペントバルビタールナトリウム(100mg/kg体重)により屠殺した。胸郭器官を取り出し、肺を低温PBS中で洗浄し、秤量する。他の内臓器官を取り出し、転移の存在について調査する。肺をホルマリン中で固定し、パラフィン中で包埋する。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色された肺切片を、転移結節の存在について分析する。
【0218】
腫瘍増殖に対するPRPの効果の計測
腫瘍増殖阻害比、T/Cを計算することにより、腫瘍増殖に対するPRPの効果を測定した。2つの異なる方法を使用してT/Cを測定した:第1の方法は、処理の終了時における腫瘍容積を計測し、第2の方法は、処理過程にわたる腫瘍増殖の率を計測する。
【0219】
第1の方法において、処理の最終日における対照腫瘍(C)の平均容積と、処理腫瘍(T)の平均容積との比を計算した。T/C≦0.45は、所与の処理の効力を示すためのコンセンサスカットオフである。
【0220】
第2の方法において、Hather et al.,(2014)により記載された率ベースT/Cを使用した。この方法は、それぞれの腫瘍の増殖曲線の、指数モデルへのフィッティングに基づく。率ベースT/Cは、全ての利用可能なデータを使用し、したがって、初回容積のランダムな差を説明し得る。さらに、全てのデータのフィッティングは、計測ノイズの効果を低減させ、率ベースT/Cの推定値がより正確になる。推定腫瘍増殖率に適用される不等分散で両側t検定を使用してp値も計算する。p値の計算は、推定腫瘍増殖率がそれぞれの処理群内で正規分布することを仮定する。0.4の閾値を選択した。それというのも、それは抗腫瘍活性が実用的に有意であるために十分か否か判定するための一般的なカットオフであるためである。したがって、腫瘍増殖の進化を、腫瘍容積を36日間にわたり2日毎に計測することにより評価し、率ベースT/Cを計算するExcelスプレッドシートを使用してデータを分析した(
図18)。率ベースT/Cは、前治療群について0.54であり(p=0.17)、前治療および治療群について0.13(p=0.001)であった。PRPによるフォローアップ処理が腫瘍増殖を有意に阻害することを示す。
【0221】
腫瘍発生および重量に対するPRPの効果
腫瘍形成指数(TIn)は、対象における相対腫瘍発生および腫瘍重量を反映する指数である。TInを使用して悪性度または腫瘍侵襲性を計測することができる。
【0222】
第3相
レンチウイルス形質移入
293T細胞に、lipofectamine形質移入試薬(Life Technologies)を使用してホタルルシフェラーゼおよび赤色蛍光タンパク質td-Tomato(L2T)26をコードするレンチウイルスベクター、パッケージングベクター(psPAX2)およびエンベロープベクター(pCMV-VSVG)を同時形質移入する。293T細胞から産生されたウイルス粒子を回収し、それを使用してBxPC3細胞に感染させた。手短に述べると、48時間後に293T形質移入細胞から上清を回収し、0.45μm細孔膜により濾過し、4μg/mLのポリブレン(Sigma-Aldrich)が補給されたBxPC3プレーティング細胞に添加する。ウイルス感染後、形質移入体の安定的な統合のためにFACSによりtd-Tomato+細胞を選択する。
【0223】
実験的肺転移インビボアッセイ
BxPC3 CSC-L2Tを、4~6週齢雌NSGマウス(1群当たりn=8)の尾静脈中に注射する。生物発光をIVISにより、150mg/kgのD-ルシフェリン(Thermo Fisher)を腹腔内注射することにより0日目および週1回モニタリングする。4週間後、マウスを安楽死させ、肺を摘出し、td-Tomato発現について写真撮影し、肺をPBS中で希釈された150μg/mLのD-ルシフェリンにより洗浄してルシフェラーゼ活性についてアッセイする。摘出された肺を、ヘマトキシリンおよびエオシン染色ならびに共焦点顕微鏡観察分析にも使用する。
【0224】
インビボPRP処理
生理食塩溶液中で溶解させたPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)を、単回静脈内ボーラス注射で3~4ヵ月間、1日おきに投与する。
【0225】
組織学的分析
肺を0.1MのPBS中4%のパラホルムアルデヒド中で4℃において4時間浸漬させ、0.1MのPBS中で洗浄し、自動組織プロセッサ(TP1020,Leica,Germany)においてパラフィン中で包埋する。染色のためにパラフィンブロックを4mmの切片に切断する。切片をキシレンにより脱パラフィン化し、減少アルコール濃度(絶対~70%)により水和させ、ヘマトキシリン-エオシンにより染色する。次いで、切片を増加アルコール濃度(95%~絶対)により脱水し、キシレンにより澄明化し、封入剤により封入する。光学顕微鏡観察下での観察およびデジタル画像取得を倒立顕微鏡(Nikon H550s)により実施する。
【0226】
免疫組織化学的分析
肺を10%のホルマリン中で室温において一晩浸漬させ、0.1MのPBS中で洗浄し、PBS中30%のスクロース中で24時間保存する。次いで、材料をOCTコンパウンド(Sakura Finitek Europe B.V.,Netherlands)中で浸し、液体窒素中で凍結させ、ブロックを使用まで-40℃において貯蔵する。OCTブロックを8mm切片に切断し、SuperFrostスライド(Menzel-Glasser,Germany)上で回収する。切片をPBSにより水和させ、DAPIを有する封入剤により封入する。蛍光顕微鏡観察下での観察およびデジタル画像取得を共焦点顕微鏡(Nikon A1)により実施する。
【0227】
結果
第1相実験についての予備結果を、CSC接種4週間および9.5週間後に得た。結果は、ヒト膵臓CSC中でBxPC3により誘導された腫瘍に対するPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)の抗腫瘍効力を実証する。
【0228】
図15~19は、試験開始9.5週間後(すなわち、CSC接種67日後)の第1相試験についての結果を示す。
【0229】
図15は、第1群、第2群および第3群におけるマウスから摘出された腫瘍の画像を提供する。
【0230】
図16は、第1群、第2群および第3群における%腫瘍発生を示し:10匹の対照マウスの9匹が膵臓BxPC3のCSC濃縮集団の皮下注射後に腫瘍を発症した(この値を100%の腫瘍発生率として解釈した)。第2群および第3群の両方(すなわち、予防および予防+治療)において、マウスの50%未満が腫瘍を発症した(第2群において41%;第3群において50%)。これらの結果は、CSC接種前のPRP(トリプシノーゲン/キモトリプシノーゲンA)による予防的治療が膵臓CSC腫瘍生着に対する明確な抑制効果を有することを示す。
【0231】
腫瘍増殖の低減におけるPRP処理の効果を評価し、結果を
図17および18に示す。
図17は、第2群および第3群の両方のマウスについての、処理の最終日におけるそれぞれの腫瘍の容積をT/C値(方法1を使用して計算)と一緒に示す。これらの結果は、PRPによる予防的処理(第2群)および予防+治療(第3群)が対照未処理動物と比較して腫瘍取り込みを減少させ、腫瘍増殖を損傷させることを示す(第2群においてT/C=0.64、および第3群においてT/C=0.40)。
【0232】
これら2つの実験群についての率ベースT/Cを
図18に示す。率ベースT/Cは、予防群(第2群)については0.54(p=0.17)であり、予防+治療群(第3群)については0.13(p=0.001)であった。これらの結果は、この処理群における腫瘍の容積の低減により証明されるとおり、PRPによるフォローアップ処理が腫瘍増殖を有意に阻害することを示す。具体的には、第2群マウスについて、腫瘍容積は、対照マウスの腫瘍で見られた容積の54%にすぎなかった。第3群マウスにおいて、腫瘍容積は、対照マウスにおける腫瘍の13%にすぎなかった。
【0233】
まとめると、
図17および18に提示される結果は、有意に低減した腫瘍発症の発生率および予防としてPRPを受けるマウスならびに予防およびCSC接種後(治療)PRPの両方を受けるマウスにおいて発症する任意の腫瘍の低減した容積を示す。
【0234】
図19は、マウスが予防的PRPを受けた場合、またはマウスが予防的PRPおよびCSC接種後のPRPの両方を受けた場合、TInの有意差(p<0.01)が観察されたことを示し、PRPの抗腫瘍形成効果を示す。
【0235】
図20および21は、それぞれ、対照、予防および予防+治療群におけるマウスから摘出された腫瘍からの切片のH&E染色およびマッソントリコム(Masson-trichome)染色を示す。代表的な画像は、腫瘍の顕著な密度差を示し、予防および予防+治療群の両方からの腫瘍中で観察される細胞間の密度が有意に低減し、間隙が増加する。さらに、PRPを受けたマウス(予防および予防+治療群の両方)からの腫瘍中の線維組織の存在は、対照マウスと比較して有意に低減した。
【0236】
まとめると、データは、予防および治療としてのPRPの抗腫瘍効果を実証する。PRPは、マウスにおけるCSC腫瘍の生着を損傷させ、CSC接種後に開始したそれらの腫瘍についての進行を有意に低減させた。
【0237】
実施例3
本発明を使用する癌の治療は、以下に従って実行することができる。
【0238】
結腸癌を有すると診断された個体は、手術(腹腔鏡または慣用)により腫瘍塊のバルクが切除されていることがある。腫瘍塊の摘出後、個体にキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを、場合により、化学療法または放射線療法との組合せで投与する。投与前、結腸癌幹細胞に特徴的なマーカーを発現する個体中の、または摘出部位付近の細胞を同定することにより結腸癌幹細胞の存在を判定することができる。例示的なマーカーは、CD326およびCD44、または本明細書(表1参照)に記載の任意の他のマーカーであり得る。次いで、個体を、元の腫瘍部位における再発および公知の結腸癌転移の部位における転移の出現についてモニタリングする。結果は、再発または転移の予防または遅延である。
【0239】
膵臓癌を有すると診断された個体は、手術(腹腔鏡または慣用)により腫瘍塊のバルクが切除されていることがある。腫瘍塊の摘出後、個体にキモトリプシノーゲンおよびトリプシノーゲンを、場合により、化学療法または放射線療法との組合せで投与する。投与前、膵臓癌幹細胞に特徴的なマーカーを発現する個体中の、または摘出部位付近の細胞を同定することにより膵臓癌幹細胞の存在を判定することができる。例示的なマーカーは、CD326、CD44およびCxCR4または本明細書(表1参照)に記載の任意の他のマーカーであり得る。次いで、個体を、元の腫瘍部位における再発および公知の膵臓癌転移の部位における転移の出現についてモニタリングする。結果は、再発または転移の予防または遅延である。
【0240】
類似の方法を他の癌、好ましくは、固形腫瘍、例えば、前立腺癌、乳癌、卵巣癌または本明細書に記載の任意の他の癌に適用することができる。
【配列表】