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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】自律走行システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20220415BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G05D1/02 N
A01B69/00 301
A01B69/00 303Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019210204
(22)【出願日】2019-11-21
(62)【分割の表示】P 2016067255の分割
【原出願日】2016-03-30
(65)【公開番号】P2020035485
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2019-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】横山 和寿
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-344017(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118731(WO,A1)
【文献】特開2015-112071(JP,A)
【文献】特開2015-194933(JP,A)
【文献】特開2015-225394(JP,A)
【文献】特開2016-021891(JP,A)
【文献】特開2014-219723(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0022267(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D1/00-1/12,
A01B69/00-69/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を自律走行させる走行領域を特定して、前記走行領域における前記機体の走行経路を予め生成可能な経路生成部と、
前記走行経路に沿った前記機体の走行を指示可能な制御部と、を備え、
前記経路生成部は、前記機体が走行開始する開始位置と前記機体が走行終了する終了位置とを基準にして前記走行経路を生成可能であると共に、前記走行経路の生成後において前記開始位置の位置変更を受け付けて、前記開始位置を変更することが可能であると共に、前記走行経路の生成後において前記開始位置の位置変更を受け付けて、前記生成後の走行経路をそのまま維持することで、前記生成後の走行経路を修正可能であることを特徴とする自律走行システム。
【請求項2】
前記位置変更を受け付けた場合、前記開始位置は、前記生成後の走行経路の所定位置とすることを特徴とする請求項1に記載の自律走行システム。
【請求項3】
前記経路生成部は、農作業が行われる複数の作業路と、旋回操作が行われる旋回路とを交互に繋いで前記走行経路を生成し、
変更前の前記開始位置に対する前記位置変更を受け付けた場合の新たな開始位置の設定可能範囲は、隣接する前記作業路間の距離と同じ距離の範囲内であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の自律走行システム。
【請求項4】
前記経路生成部は、農作業が行われる複数の作業路と、旋回操作が行われる旋回路とを交互に繋いで前記走行経路を生成し、
変更前の前記開始位置に対する前記位置変更を受け付けた場合の新たな開始位置の設定可能範囲は、前記複数の作業路が生成される作業領域と前記旋回路が生成される領域との境界辺部の内、変更前の前記開始位置が属する境界辺部であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の自律走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体が自律走行するための走行経路を生成する自律走行システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場での農作業を効率よく簡便に行うため、直進走行、境界付近での旋回、旋回に続く直進走行の再開を順序よく繰り返すように走行経路を生成して、農作業車に走行経路に沿った自律走行を行わせる技術が知られている(例えば特許文献1及び2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-8053号公報
【文献】特開2011-254704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の技術では、機体が走行する走行経路を生成する上では、開始位置と終了位置とを固定する必要がある。このため、例えば圃場の開始位置近傍に深溝があって開始位置として好ましくないような場合、一度設定した走行経路を変更しなければ開始位置を変更することができず、設定作業性の点に鑑みて改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、走行経路を作り直すことなく、例えば開始位置や終了位置を簡単に変更できる自律走行システムを提供することを技術的課題としている。
【0006】
本発明の自律走行システムは、機体を自律走行させる走行領域を特定して、前記走行領域における前記機体の走行経路を予め生成可能な経路生成部と、前記走行経路に沿った前記機体の走行を指示可能な制御部と、を備え、前記経路生成部は、前記機体が走行開始する開始位置と前記機体が走行終了する終了位置とを基準にして前記走行経路を生成可能であると共に、前記走行経路の生成後において前記開始位置の位置変更を受け付けて、前記開始位置を変更することが可能であると共に、前記走行経路の生成後において前記開始位置の位置変更を受け付けて、前記生成後の走行経路をそのまま維持することで、前記生成後の走行経路を修正可能であるものである。
【0007】
本発明の自律走行システムにおいて、前記位置変更を受け付けた場合、前記開始位置は、前記生成後の走行経路の所定位置とするようにしてもよい。
【0008】
本発明の自律走行システムにおいて、前記経路生成部は、農作業が行われる複数の作業路と、旋回操作が行われる旋回路とを交互に繋いで前記走行経路を生成し、変更前の前記開始位置に対する前記位置変更を受け付けた場合の新たな開始位置の設定可能範囲は、隣接する前記作業路間の距離と同じ距離の範囲内であるようにしてもよい。
【0009】
本発明の自律走行システムにおいて、前記経路生成部は、農作業が行われる複数の作業路と、旋回操作が行われる旋回路とを交互に繋いで前記走行経路を生成し、変更前の前記開始位置に対する前記位置変更を受け付けた場合の新たな開始位置の設定可能範囲は、前記複数の作業路が生成される作業領域と前記旋回路が生成される領域との境界辺部の内、変更前の前記開始位置が属する境界辺部又は当該境界辺部の延長線上であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機体を自律走行させる走行領域を特定して、前記走行領域における前記機体の走行経路を予め生成可能な経路生成部と、前記走行経路に沿った前記機体の走行を指示可能な制御部と、を備え、前記経路生成部は、前記機体が走行開始する開始位置と前記機体が走行終了する終了位置とを基準にして前記走行経路を生成可能であると共に、前記走行経路の生成後において前記開始位置の位置変更を受け付けて、前記開始位置を変更することが可能であるから、例えば圃場の開始位置近傍に深溝があって前記機体の自律走行に支障をきたすおそれのあるような場合であっても、一度設定した走行経路を変更しなくとも前記開始位置と前記終了位置のいずれか一方を位置変更することができる。従って、前記走行経路の設定作業性を向上でき、オペレータの作業負担が軽減されると共に、圃場状況に適応した走行開始位置の設定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態におけるロボットトラクタの全体側面図である。
図2】ロボットトラクタの平面図である。
図3】ロボットトラクタの機能ブロック図である。
図4】(a)は傾斜した圃場領域F及び作業領域Wに対する走行経路Pの設定を説明する図、(b)は補正後旋回半径を小さくする場合の説明図、(c)は補正後旋回半径を大きくする場合の説明図である。
図5】(a)~(d)は走行経路外に開始位置を変更する場合の走行経路の修正例を説明する遠隔操作装置の画面図である。
図6】(e)~(h)は走行経路外に終了位置を変更する場合の走行経路の修正例を説明する遠隔操作装置の画面図である。
図7】(i)~(l)は走行経路上に開始位置を変更する場合の走行経路の修正例を説明する遠隔操作装置の画面図である。
図8】(m)~(p)は走行経路上に終了位置を変更する場合の走行経路の修正例を説明する遠隔操作装置の画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。まず始めに、本発明に係る作業車の一例であるロボットトラクタ1(以下、単に「トラクタ」と称する場合がある。)について説明する。トラクタ1は、圃場を自律走行する機体2を備える。機体2には、図1及び図2において鎖線で示す作業機3が着脱可能に備えられる。当該作業機3は農作業に用いられる。この作業機3としては、例えば、耕耘機、プラウ、施肥機、草刈機、播種機等の種々の作業機があり、これらの中から必要に応じて所望の作業機3を選択して機体2に装着することができる。機体2は、装着された作業機3の高さ及び姿勢を変更可能に構成されている。
【0013】
トラクタ1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。トラクタ1の機体である機体2は、図1に示すように、その前部が左右一対の前輪7,7で支持され、その後部が左右一対の後輪8,8で支持されている。前輪7,7及び後輪8,8が走行部を構成している。
【0014】
機体2の前部にはボンネット9が配置されている。このボンネット9内にはトラクタ1の駆動源であるエンジン10及び燃料タンク(図示省略)等が収容されている。このエンジン10は、例えばディーゼルエンジンにより構成することができるが、これに限るものではなく、例えばガソリンエンジンにより構成しても良い。また、駆動源としては、エンジンに加えて、又はこれに代えて、電気モータを使用しても良い。
【0015】
ボンネット9の後方には、オペレータが搭乗するキャビン11が配置されている。このキャビン11の内部には、オペレータが操向操作するためのステアリングハンドル12と、オペレータが座ることが可能な座席13と、各種の操作を行うための様々な操作装置と、が主として設けられている。ただし、農業用作業車両は、キャビン11付きのものに限るものではなく、キャビン11を備えないものであってもよい。
【0016】
図示は省略するが、上記の操作装置としては、例えばモニタ装置、スロットルレバー、主変速レバー、昇降レバー、PTOスイッチ、PTO変速レバー及び複数の油圧変速レバー等が挙げられる。これら操作装置は、座席13の近傍又はステアリングハンドル12の近傍に配置されている。
【0017】
モニタ装置は、トラクタ1の様々な情報を表示可能に構成されている。スロットルレバーは、エンジン10の回転速度を設定するものである。主変速レバーは、ミッションケース22の変速比を変更操作するものである。昇降レバーは、機体2に装着された作業機3の高さを所定範囲内で昇降操作するものである。PTOスイッチは、ミッションケース22の後端側から外向きに突出したPTO軸(動力取出軸)への動力伝達を継断操作するものである。すなわち、PTOスイッチがON状態であるときPTO軸に動力が伝達されてPTO軸が回転し、作業機3が駆動される一方、PTOスイッチがOFF状態であるときPTO軸への動力が遮断されてPTO軸が回転せず、作業機3が停止する。PTO変速レバーは、作業機3に入力される動力の変更操作を行うものであり、具体的にはPTO軸の回転速度の変速操作を行うものである。油圧変速レバーは、油圧外部取出バルブを切換操作するものである。
【0018】
図1に示すように、機体2の下部には、その骨組を構成するシャーシ20が設けられている。当該シャーシ20は、機体フレーム21、ミッションケース22、フロントアクスル23、及びリアアクスル24等から構成されている。
【0019】
機体フレーム21は、トラクタ1の前部における支持部材であって、直接、又は防振部材等を介してエンジン10を支持している。ミッションケース22は、エンジン10からの動力を変化させてフロントアクスル23及びリアアクスル24に伝達する。フロントアクスル23は、ミッションケース22から入力された動力を前輪7に伝達するように構成されている。リアアクスル24は、ミッションケース22から入力された動力を後輪8に伝達するように構成されている。
【0020】
図3に示すように、トラクタ1は、機体2の動作(前進、後進、停止及び旋回等)並びに作業機3の動作(昇降、駆動、及び停止等)を制御するための制御部として、制御装置4を備える。制御装置4には、燃料噴射装置としてのコモンレール装置41、変速装置42、及び昇降アクチュエータ44等がそれぞれ電気的に接続されている。
【0021】
コモンレール装置41は、エンジン10の各気筒に燃料を噴射するものである。この場合、エンジン10の各気筒に対するインジェクタの燃料噴射バルブが制御装置4で開閉制御されることによって、燃料供給ポンプによって燃料タンクからコモンレール装置41に圧送された高圧の燃料が各インジェクタからエンジン10の各気筒に噴射され、各インジェクタから供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。
【0022】
変速装置42は、具体的には例えば可動斜板式の油圧式無段変速装置であり、ミッションケース22に備えられている。変速装置42を制御装置4により制御して斜板の角度を適宜に調整することにより、ミッションケース22の変速比を所望の変速比にすることができる。
【0023】
昇降アクチュエータ44は、例えば作業機3を機体2に連結している三点リンク機構を動作させることにより、作業機3を退避位置(農作業を行わない位置)又は作業位置(農作業を行う位置)の何れかに上げ下げするものである。昇降アクチュエータ44を制御装置4により制御して作業機3を適宜に昇降動作させることにより、例えば圃場領域の所望の高さで作業機3により農作業を行うことができる。
【0024】
また、制御装置4には、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ31、後輪8の回転速度を検出する車速センサ32、ハンドル12の回動角度(操舵角)を検出する操舵角センサ33等のセンサ類も電気的に接続している。これらセンサの検出値が検出信号に変換されて制御装置4に送信される。
【0025】
上述のような制御装置4を備えるトラクタ1は、オペレータがキャビン11内に搭乗して各種操作をすることにより、当該制御装置4によりトラクタ1の各部(機体2、作業機3等)を制御して、圃場内を走行しながら農作業を実行可能に構成されている。加えて、実施形態のトラクタ1は、例えばオペレータが搭乗しなくても、遠隔操作装置46により出力される所定の制御信号に基づいて自律走行させることが可能となっている。
【0026】
具体的には、図3に示すように、このトラクタ1は自律走行を可能とするための各種の構成を制御装置4内に備えている。更に、トラクタ1は、測位システムに基づいて自ら(の機体)の位置情報を取得するために必要な測位用アンテナ6等の各種の構成を備えている。このような構成により、トラクタ1は、測位システムに基づいて自らの位置情報を取得して、圃場上を自律走行することが可能となっている。
【0027】
次に、自律走行のためにトラクタ1が備える構成について詳細に説明する。具体的には、トラクタ1は、図1及び図3に示すように、操舵アクチュエータ43、測位用アンテナ6、及び無線通信用アンテナ48等を備える。
【0028】
操舵アクチュエータ43は、例えば、ステアリングハンドル12の回転軸(ステアリング軸)の中途部に設けられ、ステアリングハンドル12の回動角度(操舵角)を調整するものである。予め定められた経路をトラクタ1が(無人トラクタとして)走行する場合、制御装置4は、当該経路に沿ってトラクタ1が走行するようにステアリングハンドル12の適切な回動角度を算出し、算出した回動角度でステアリングハンドル12が回動するように操舵アクチュエータ43を制御する。
【0029】
測位用アンテナ6は、例えば衛星測位システム(GNSS)等の測位システムを構成する測位衛星からの信号を受信するものである。図1に示すように、測位用アンテナ6は、キャビン11における屋根14の上面に配置されている。測位用アンテナ6で受信された信号は、図3に示す位置及び傾斜角情報算出部49に入力されて、当該位置及び傾斜角情報算出部49でトラクタ1(厳密には、測位用アンテナ6)の位置情報が、例えば緯度・経度情報として算出される。当該位置及び傾斜角情報算出部49で算出された位置情報は、制御装置4の位置及び傾斜角情報取得部50により取得されて、トラクタ1の制御に利用される。
【0030】
実施形態の位置及び傾斜角情報算出部49は、トラクタ1(機体2)の位置情報だけでなく、前後左右の傾斜角情報を計測可能になっている。位置及び傾斜角情報算出部49で計測された傾斜角情報は、制御装置4の位置及び傾斜角情報取得部50により位置情報(緯度・経度情報)と対応付けた状態で取得されて、トラクタ1の制御に利用される。なお、位置及び傾斜角情報算出部49は、圃場面に対する測位用アンテナ6の高さ位置、ひいてはトラクタ1(機体2)の車高を計測することも可能である。
【0031】
なお、本実施形態ではGNSS-RTK法を利用した高精度の衛星測位システムを利用しているが、これに限られるものではなく、高精度の位置座標が得られる限りにおいて他の測位システムを用いてもよい。GNSS-RTKは、位置のわかっている基準局の情報に基づいて、補正して精度を高めた測位方式で、基準局からの情報の配信方法の違いで複数の方式が存在する。本発明はGNSS-RTK方式には依存しないので、本実施例では詳細は割愛する。
【0032】
無線通信用アンテナ48は、遠隔操作装置46からの信号を受信したり、遠隔操作装置46への信号を送信したりするものである。図1に示すように、無線通信用アンテナ48は、トラクタ1のキャビン11の屋根14の上面に配置されている。無線通信用アンテナ48で受信した遠隔操作装置46からの信号は、図3に示す送受信処理部47で信号処理された後、制御装置4に入力される。また、制御装置4から遠隔操作装置46に送信する信号は、送受信処理部47で信号処理された後、無線通信用アンテナ48から送信されて、遠隔操作装置46で受信される。
【0033】
更に、トラクタ1には、ブレーキペダルや駐車ブレーキレバーの操作と自動制御という2つの系統によって、左右の後輪8,8にブレーキを掛ける左右一対のブレーキ装置26,26を設けている。すなわち、左右両方のブレーキ装置26,26は、ブレーキペダル(又は駐車ブレーキレバー)の制動方向への操作によって、左右両方の後輪8,8にブレーキを掛けるように構成されている。また、ハンドル12の回動角度が所定角度以上になれば、制御装置4の指令によって、旋回内側の後輪8に対するブレーキ装置26が自動的に制動動作をするように構成されている(いわゆるオートブレーキ)。
【0034】
なお、トラクタ1には、前方、側方又は後方に障害物があるか否かを検出する障害物センサ35が取り付けられている。障害物センサ35は、レーザセンサ、超音波センサ等によって構成され、トラクタ1の前方、側方及び後方に存在する障害物を認識し、検出信号を生成する。また、トラクタ1は、前方、側方、及び後方を撮影するカメラ36が取り付けられる。障害物センサ35及びカメラ36は、制御装置4に電気的に接続している。これらセンサの検出値が検出信号に変換されて制御装置4に送信される。
【0035】
遠隔操作装置46は、具体的には、タッチパネルを備えるタブレット型のパーソナルコンピュータとして構成される。オペレータは、遠隔操作装置46のタッチパネルに表示された情報(例えば、自律走行を行うときに必要な圃場の情報等)を参照して確認することができる。また、オペレータは、遠隔操作装置46を操作して、トラクタ1の制御装置4に、トラクタ1を制御するための制御信号を送信することができる。なお、実施形態の遠隔操作装置46はタブレット型のパーソナルコンピュータに限るものではなく、これに代えて、例えばノート型のパーソナルコンピュータで構成することも可能である。あるいは、有人のトラクタ(図示省略)を無人のトラクタ1に随伴して走行させる場合、有人側のトラクタに搭載されるモニタ装置を遠隔操作装置とすることもできる。
【0036】
図3に示す制御装置4は、トラクタ1の自律走行制御のための各部を備えており、これと併せて測位用アンテナ6等の各種構成をトラクタ1に設けることにより、既存のトラクタを無人のトラクタ1として利用することが可能になっている。制御装置4は、CPU、ROM、RAM等を有する小型のコンピュータとして構成されており、上記のROMには、オペレーションプログラム、アプリケーションプログラム並びに各種データ等が記憶されている。上記のハードウェアとソフトウェアとの協働により、制御装置4を、位置及び傾斜角情報取得部50、領域情報記憶部51、作業情報記憶部52、輪郭登録点記憶部53、領域形状取得部54、経路生成部55、及び表示用データ作成部56等として動作させることができる。
【0037】
このように構成されたトラクタ1は、遠隔操作装置46を用いるオペレータの指示に基づいて、圃場領域(走行領域)での走行経路を経路生成部55によって算出し、当該走行経路に沿って自律走行しつつ、作業機3による農作業を行うことができる。このように、トラクタ1が自律走行する圃場領域(走行領域)内の経路を、以下の説明において「走行経路」と称する場合がある。また、圃場領域(走行領域)においてトラクタ1の作業機3による農作業の対象となる領域を「作業領域」と称する場合がある。当該作業領域は、圃場領域の全体から枕地及び余裕代を除いた領域として定められ、オペレータ等が後述の登録点の登録作業を実行したときにこれら登録点とトラクタ1の作業幅とに基づいて設定される。
【0038】
次に、自律走行を可能とするために制御装置4に備えられている各部について、図3を参照して個別に説明する。
【0039】
制御装置4を用いて構成される位置及び傾斜角情報取得部50は、測位用アンテナ6により取得された測位システムからの測位信号に基づいて、位置及び傾斜角情報算出部49で算出されたトラクタ1の位置情報(具体的には緯度・経度情報等)を取得すると共に、位置及び傾斜角情報算出部49で計測したトラクタ1の前後左右の傾斜角情報を、位置情報(緯度・経度情報)と対応付けた状態で取得するものである。
【0040】
制御装置4を用いて構成される領域情報記憶部51は、トラクタ1で自律走行による農作業を行う対象となる圃場等の領域に関する様々な情報を記憶するものである。圃場に関する情報としては、具体的には、圃場の位置及び形状(圃場領域又は走行領域と言ってもよい)、圃場において作業機3による農作業が行われる作業領域の位置及び形状、圃場で作業機3による農作業が開始される地点である開始位置、農作業が終了される地点である終了位置等を挙げることができる。
【0041】
圃場の位置及び形状、すなわち圃場領域(走行領域)は、走行経路を生成するに先立って、トラクタ1の機体2を有人走行させて圃場を周回したときの走行軌跡から特定され、後述する領域形状取得部54により取得される。走行経路を生成する前の段階とは、作業機3での農作業を伴うトラクタ1(機体2)の走行を開始させる前の段階に相当する。また、作業領域の位置及び形状も、後述する領域形状取得部54により取得される。その他の情報は、例えばオペレータが遠隔操作装置46のタッチパネルを操作すること等により設定することができる。開始位置や終了位置の情報は、圃場領域(走行領域)の情報を領域形状取得部54で取得した後で、オペレータが遠隔操作装置46のタッチパネルを操作することによって設定される。圃場領域や作業領域の情報(領域情報と言ってもよい)には、各位置情報(緯度・経度情報)に対応付けた前後左右の傾斜角情報が含まれる。
【0042】
制御装置4を用いて構成される作業情報記憶部52は、トラクタ1の機体2に装着した作業機3により行われる作業の種類、作業幅、及びオーバーラップ幅等を、作業情報として記憶する。実施形態では、これらの情報は、オペレータが遠隔操作装置46のタッチパネルを操作することにより設定することができる。作業の種類としては、例えば耕耘作業、播種作業等である。作業幅は、作業機3により作業が行われる有効幅を意味し、例えば3メートルである。オーバーラップ幅は、隣り合う走行経路をトラクタ1がそれぞれ走行する場合に、作業機3による上記の作業幅が重複する(重複が許容される)幅を意味し、例えば30センチメートルである。
【0043】
制御装置4を用いて構成される輪郭登録点記憶部53は、図4に示す圃場領域F(走行領域)の輪郭を構成する複数の地点(例えば、角部F1~F4が含まれてもよい)にトラクタ1の機体2が位置した際の位置情報を登録する作業をオペレータが行った場合に、当該位置情報並びにこれに対応した傾斜角情報を記憶するものである。前述の通り、圃場領域Fの特定は、走行経路を生成するに先立って、トラクタ1の機体2を有人走行させて圃場を周回したときの走行軌跡に基づいて得られる。実施形態において、輪郭登録点記憶部53は、走行軌跡上の上記複数の地点における位置情報及び傾斜角情報を記憶する。本実施形態において、輪郭登録点記憶部53に登録された地点を登録点と称することがある。
【0044】
領域形状取得部54は、輪郭登録点記憶部53から読み出した複数の登録点の位置情報及び傾斜角情報に基づいて、圃場領域Fの(傾斜を含む)形状を取得する。更に、領域形状取得部54は、上述の圃場領域Fの形状と作業情報記憶部52から読み出した作業情報(少なくとも作業幅情報)とに基づいて、作業領域Wの(傾斜を含む)形状を取得する。具体的には、登録点同士を結ぶ線分が交わらないようにいわゆる閉路グラフにより特定した多角形(実施形態では四角形)を、圃場領域Fや作業領域Wの形状として取得する。
【0045】
経路生成部55は、作業情報記憶部52から読み出した作業情報、及び領域情報記憶部51から読み出した作業領域Wの情報に基づいて、トラクタ1の機体2を自律走行させる走行経路Pを計算により作成する。走行経路Pは、複数の直線路Ps及び複数の旋回路Pcを含んでいる。すなわち、走行経路Pは、農作業が行われる直線状又は折れ線状の経路である直線路Ps(作業路と言ってもよい)と、旋回操作(方向転換)が行われる旋回路Pc(非作業路と言ってもよい)とを交互に繋いだ一連の経路として生成される。従って、実施形態によると、傾斜を踏まえた上で圃場領域Fを特定して、圃場領域Fの面積を高精度に計測できる。その結果、最適な走行経路Pの生成が可能になる。
【0046】
表示用データ作成部56は、領域形状取得部54で取得して領域情報記憶部51に記憶された圃場領域F及び作業領域Wの形状を、遠隔操作装置46のタッチパネル上に表示させるための表示用データを作成する。表示用データ作成部56で作成された表示用データは、送受信処理部47を介して遠隔操作装置46で受信され、当該遠隔操作装置46のタッチパネル上に画像として表示される。
【0047】
次に、図5図8を参照しながら、実施形態における走行経路修正制御の態様について説明する。制御装置4(経路生成部55)は、前述の通り、機体2が走行開始する開始位置Sと機体2が走行終了する終了位置Eとを基準にして走行経路Pを生成可能であるだけでなく、走行経路Pの生成後において開始位置Sと終了位置Eとのいずれか一方の位置変更を受け付けて、生成後の走行経路Pを修正することが可能になっている。
【0048】
なお、以下の説明及び図面では便宜上、元の作業領域W、元の走行経路P、元の開始位置S並びに元の終了位置Eにアルファベットの「o」を添えて表記する場合がある。また、新たな作業領域W、新たな走行経路P、新たな開始位置S及び新たな終了位置Eにアルファベットの「n」を添えて表記する場合がある。
【0049】
制御装置4(経路生成部55)は、位置変更を受け付ける場合において、圃場領域F内で且つ元の走行経路Po外の所定位置を新たな開始位置Sn又は新たな終了位置Enとして受け付けることも可能であるし、元の走行経路上Poの所定位置を新たな開始位置Sn又は新たな終了位置Enとして受け付けることも可能である。
【0050】
図5(a)~(d)及び図6(e)~(h)に示す修正例は、圃場領域F内で且つ元の走行経路Po外の所定位置を新たな開始位置Sn又は新たな終了位置Enとする場合の例であり、図7(i)~(l)及び図8(m)~(p)に示す修正例は、元の走行経路上Poの所定位置を新たな開始位置Sn又は新たな終了位置Enとする場合の例である。いずれの例においても、開始位置Sは、作業領域Wの境界辺部wa~wdのうち元の開始位置Soのあった境界辺部wa上又は境界辺部waの延長線上で位置変更可能になっている。また、終了位置Eは、元の終了位置Eoのあった境界辺部wa上又は境界辺部waの延長線上で位置変更可能になっている。
【0051】
新たな開始位置Sn(又は新たな終了位置En)は、いずれの修正例でも、作業領域Wの境界辺部wa~wdのうち旋回路Pcのない側の境界辺部wb、wdが圃場領域Fをはみ出すほどに、元の開始位置So(又は元の終了位置Eo)から離間して設定することはできない。図5図6図7(i)(j)及び図8(m)(n)に示す修正例において、新たな開始位置Sn(又は新たな終了位置En)の設定可能範囲は、元の開始位置So(又は元の終了位置Eo)を挟んで両側に、隣接する直線路Ps間の距離Dと同じ距離分の範囲内になっている。言い換えれば、修正前の境界辺部wbから圃場領域Fの端部までの距離は、隣接する直線路Ps間の距離Dよりも長い距離に設定されており、元の開始位置Soが新たな開始位置Snに修正されても、機体2や作業機3が圃場領域Fの領域外にはみ出さないように設定されている。
【0052】
図5(a)~(d)及び図7(i)(j)に示す修正例では、トラクタ1(機体2)の自律走行前において、圃場領域F、元の作業領域Wo及び元の走行経路Poを遠隔操作装置46のタッチパネルに表示した状態で、タッチパネルのうち元の開始位置Soの近傍を指又はペンで押下すると、遠隔操作装置46のタッチパネル上において、開始位置Sの表示が元の開始位置Soから押下位置に対応した新たな開始位置Snに切り換わる(図5(a)(c)及び図7(i)参照)。そして、遠隔操作装置46のタッチパネル上では、新たな開始位置Snの位置ずれ分(So、Sn間距離)に対応して、圃場領域F内の作業領域W、終了位置E及び走行経路Pが、元のものWo、Eo、Poから新たなものWn、En、Pnにスライド移動した状態に切り換わって修正される(図5(b)(d)及び図7(j)参照)。
【0053】
また同様に、図6(e)~(h)及び図8(m)(n)に示す修正例では、タッチパネルのうち元の終了位置Enの近傍を指又はペンで押下すると、遠隔操作装置46のタッチパネル上において、終了位置Eの表示が元の終了位置Eoから押下位置に対応した新たな終了位置Enに切り換わる(図6(e)(g)及び図8(m)参照)。そして、遠隔操作装置46のタッチパネル上では、新たな終了位置Enの位置ずれ分に対応して、圃場領域F内の作業領域W、終了位置E及び走行経路Pが、元のものWo、Eo、Poから新たなものWn、En、Pnにスライド移動した状態に切り換わって修正される(図6(f)(h)及び図8(n)参照)。
【0054】
上記いずれの場合においても、制御装置4(領域情報記憶部51)に記憶された元の作業領域W(=Wo)、開始位置S(=So)、終了位置E(=Eo)及び走行経路P(=Po)の情報は、新たなものWn,Sn,En,Pnに置き換わる。
【0055】
図7(k)(l)及び図8(o)(p)に示す修正例では、元の走行経路Poにおける最初(又は最後)の一往復分を飛ばして、最初(最後)から数えて三番目の直線路Psの端部位置を新たな開始位置Sn(又は新たな終了位置En)とする。この場合、遠隔操作装置46のタッチパネル上では、元の走行経路Poにおける最初(又は最後)の一往復分は削除されるが、元の終了位置Eo(又は元の開始位置So)はそのまま維持され、圃場領域F内の作業領域W及び走行経路Pが元のものWo、Poから新たなものWn、Pnに修正した状態に切り換わる。
【0056】
図7(k)(l)に示す修正例では、制御装置4(領域情報記憶部51)に記憶された元の作業領域W(=Wo)、開始位置S(=So)及び走行経路P(=Po)の情報は、新たなものWn,Sn,Pnに置き換わる。終了位置E(=Eo)の情報は維持される。図8(o)(p)に示す修正例では、制御装置4(領域情報記憶部51)に記憶された元の作業領域W(=Wo)、終了位置E(=Eo)及び走行経路P(=Po)の情報は、新たなものWn,En,Pnに置き換わる。開始位置S(=So)の情報は維持される。
【0057】
上記のように制御すると、例えば圃場の開始位置S近傍に深溝があってトラクタ1(機体2)の自律走行に支障をきたすおそれのあるような場合であっても、先に生成した走行経路P自体を一から新たに作り直さずに、開始位置Sと終了位置Eとのいずれか一方を位置変更するだけで、先に生成した走行経路Pを流用して修正できる。従って、走行経路Pの設定作業性を向上でき、オペレータの作業負担が軽減されると共に、圃場状況に適応した走行経路Pの生成が可能になる。
【0058】
上記実施形態においては、トラクタ1の制御装置4が、位置及び傾斜角情報取得部50、領域情報記憶部51、作業情報記憶部52、輪郭登録点記憶部53、領域形状取得部54、経路生成部55、及び表示用データ作成部56として機能することとしたが、これに限られるものではない。即ち、上記構成は遠隔操作装置46が備えていてもよいし、一部が制御装置4に備えられ、他部が遠隔操作装置46に備えられていてもよい。また、上記構成の全部又は一部を、制御装置4及び遠隔操作装置46の双方が備えていてもよい。
【0059】
従って、本発明の経路生成装置はトラクタ1に備えられる構成であってもよいし、遠隔操作装置46に備えられる構成であってもよい。経路生成装置が遠隔操作装置46に備えられる場合、遠隔操作装置46は、トラクタ1に備えられた位置及び傾斜角情報取得部50により算出されたトラクタ1の位置情報及び傾斜角情報を、無線通信用アンテナ48を介して取得可能である。また、遠隔操作装置46により走行経路が生成される場合、遠隔操作装置46は、記憶部51、52を備えており、各記憶部51、52から取得した情報(作業情報及び作業領域Wの情報)に基づいて生成する。そして、遠隔操作装置46はトラクタ1に対して生成した走行経路に沿って走行するよう指示(自律走行開始制御信号を送信)することが可能であり、その場合、制御装置4は遠隔操作装置46の指示に基づいてトラクタ1の各部を制御して自律走行させる。
【0060】
走行経路Pは上述した通り、開始位置Sと終了位置Eとを基準にして生成される経路であって、開始位置S及び終了位置Eは、走行領域の情報を領域形状取得部54で取得した後で、オペレータにより設定され、領域情報記憶部51に記憶されている。元の走行経路Poを新たな走行経路Pnに修正するにあたっては、開始位置S(元の開始位置So)及び終了位置E(元の終了位置Eo)の変更を伴うことになり、本実施形態では、開始位置S及び終了位置Eが変更された場合、変更後の開始位置(即ち新たな開始位置Sn)及び変更後の終了位置(即ち新たな終了位置En)を領域情報記憶部51に記憶することとしたが、これに限られるものではない。即ち、領域情報記憶部51には、元の作業領域Wo、元の開始位置So、元の終了位置Eo、元の走行経路Poを記憶したまま、各情報を修正したことを示す修正情報を付加して対応付けて記憶することとしてもよい。当該処理とすることで、例えば、元の開始位置Soに基づいて複数の走行経路が生成されている場合に、1の走行経路において開始位置Sが修正されても、他の走行経路の開始位置Sは修正されず、1の走行経路の修正が他の走行経路に影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0061】
本発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 ロボットトラクタ
2 機体
3 作業機
4 制御装置
6 測位用アンテナ
26 ブレーキ装置
46 遠隔操作装置
48 無線通信用アンテナ
49 位置及び傾斜角情報算出部
50 位置及び傾斜角情報取得部
51 領域情報記憶部
52 作業情報記憶部
53 輪郭登録点記憶部
54 領域形状取得部
55 経路生成部
56 表示用データ作成部
図1
図2
図3
図4
図5
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図8