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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-14
(45)【発行日】2022-04-22
(54)【発明の名称】核酸測定用新規蛍光消光プローブ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220415BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220415BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALI20220415BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6816 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019522108
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2018019095
(87)【国際公開番号】W WO2018221240
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2017105202
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 信也
(72)【発明者】
【氏名】高田 克巳
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-286300(JP,A)
【文献】特開2007-028993(JP,A)
【文献】国際公開第2012/173274(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/024694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光色素で標識された核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その5’末端部位が下記のssHアミノリンカーを介して蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが、標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてハイブリダイゼーションの塩基対がG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを少なくも一対以上形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることを特徴とする核酸測定用核酸プローブ。
【請求項2】
蛍光色素で標識された核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その3’末端部位が下記のCAアミノリンカーを介して蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが、標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてハイブリダイゼーションの塩基対がG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを少なくも一対以上形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることを特徴とする核酸測定用核酸プローブ。
【請求項3】
蛍光色素で標識した末端塩基がC(シトシン)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸測定用核酸プローブ。
【請求項4】
蛍光色素で標識された核酸プローブにおいて、当該蛍光色素が、Pacific Blue(商標)、ATTO(登録商標)465、BODIPY(登録商標) FL、5-CR 6G、6-TAMRA(登録商標)、ATTO(登録商標)655、ATTO(登録商標)680、ATTO(登録商標)700のうち、何れか1つであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の核酸測定用核酸プローブ。
【請求項5】
蛍光色素で標識された核酸プローブを用いる核酸測定方法において、標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、核酸プローブに標識された蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、この発光の減少を測定することを特徴とする核酸の測定方法において、請求項1~4のいずれか1項に記載の核酸測定用核酸プローブを使用することを特徴とする核酸の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素にて標識された核酸プローブを用いて、均一溶液系において上記核酸プローブと標的遺伝子とのハイブリダイゼーションに由来する蛍光キャラクター変化より、標的遺伝子を定性的、定量的に解析する遺伝子解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
均一溶液系において標的核酸とのハイブリダイゼーションにより蛍光キャラクター(蛍光強度や蛍光スペクトル等)が変化する核酸プローブ(以下、均一溶液系プローブ)を用いた遺伝子解析法が広く普及している。上記の均一溶液系プローブとして、TaqMan probe(非特許文献1)、Molecular beacons(非特許文献2)、QProbe(非特許文献3)等が汎用されている。このうち、QProbeは、蛍光色素・グアニン塩基間の電子移動に起因する蛍光消光現象(非特許文献4)に基づく均一溶液系プローブであり、標的核酸とハイブリダイズすることで蛍光が消光する。この蛍光消光をモニタリングすることで、標的核酸の検出が可能となる。また、QProbeは、標的核酸中のグアニンとの相互作用により蛍光消光するため、プローブに標識する色素は1種のみであり、他のプローブと比較して非常にシンプルな構造を有する。このため、QProbeは、製造コストが安価であるというメリットを有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Detection of specific polymerase chain reaction product by utilizing the 5'----3' exonuclease activity of Thermus aquaticus DNA polymerase., Holland PM, Abramson RD, Watson R, Gelfand DH., Proc Natl Acad Sci U S A., 1991 Aug 15;88(16):7276-80.
【文献】Molecular beacons: probes that fluoresce upon hybridization., Tyagi S, Kramer FR., Nat Biotechnol., 1996 Mar;14(3):303-8.
【文献】Fluorescent quenching-based quantitative detection of specific DNA/RNA using a BODIPY((R)) FL-labeled probe or primer., Kurata S, Kanagawa T, Yamada K, Torimura M, Yokomaku T, Kamagata Y, Kurane R., Nucleic Acids Res., 2001 Mar 15;29(6):E34.
【文献】Fluorescence-quenching phenomenon by photoinduced electron transfer between a fluorescent dye and a nucleotide base., Torimura M, Kurata S, Yamada K, Yokomaku T, Kamagata Y, Kanagawa T, Kurane R., Anal Sci., 2001 Jan;17(1):155-60.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の消光現象は、プローブの末端塩基をシトシンとし、当該塩基を、グアニンとの相互作用により蛍光消光する特性を持つ蛍光色素にて標識した場合、最も顕著に観察されることから(非特許文献3)、多くの場合QProbeは、末端のシトシン塩基が蛍光標識された構造となっている。QProbeの末端塩基を蛍光標識する場合、シトシン末端(末端のシトシン塩基が5’末端側に存在する場合は、5’末端のリン酸基、末端のシトシン塩基が3’末端側に存在する場合は3’末端のリン酸基)を、アミノ基を有するリンカー(以下、アミノリンカー)にて標識されたオリゴDNAをまず合成し、その後、アミノリンカーのアミノ基に蛍光色素を標識する方法にて実施される。このようにアミノ基を介して蛍光標識する場合に用いる蛍光色素は、アミノ基との反応性が高いサクシニミジルエステル(succinimidyl ester)、サルホサクシニミジルエステル(sulfosuccinimidyl ester)、TFPエステル(tetrafluorophenyl ester)、STPエステル(sulfotetrafluorophenyl ester)といった官能基を有するものが一般的に利用される。また、アミノリンカーとしては、炭素鎖の片端にアミノ基を有する構造のものが一般的に利用される(図1参照)。
QProbeは前述の通り修飾が必要な蛍光色素は1種のみであるため、その他の均一溶液系プローブよりも製造コストは一般的に安価となるが、アミノ基と蛍光色素間の反応性が一般的に低いことから、アミノ基に対して大過剰の蛍光色素を添加する必要性がある。蛍光色素のコストは一般的に高額であることから、アミノ基と蛍光色素間の反応効率を向上させることが可能であれば、QProbeの製造コストをこれまで以上に下げることが可能である。
本発明において解決しようとする課題は、蛍光標識コストがより安価なQProbeを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
近年、蛍光色素との反応性向上を図った新規アミノリンカー(5’ ssH アミノリンカー、3' アミノCAリンカー)が報告された(特許第4336820号)。本新規アミノリンカーを導入後のオリゴDNA末端の構造を図2に示す。新規アミノリンカーを使用した場合、当該リンカーのアミノ基と蛍光色素との反応効率が飛躍的に向上するため、高額な蛍光色素の使用量を大幅に削減することが可能となる。従って、当該新規アミノリンカーをQProbeの蛍光標識に使用することができれば、既存アミノリンカーを使用した場合と比べて、試薬コストの大きな割合を占める蛍光試薬コストを大幅に低減することが可能となる。
しかしながら、新規アミノリンカーを用いた場合、蛍光色素にて標識した後の分子構造が、既存アミノリンカーを用いた場合の分子構造と異なるため(図3)、新規アミノリンカーに変更することでQProbeの機能面における性能低下が懸念された。
そこで、実際に新規アミノリンカーを適用したQProbe(以下、新規QProbe)を合成し、機能面(標的核酸とハイブリダイズした際の蛍光消光効率)について、既存アミノリンカーを適用した従来のQProbe(以下、既存QProbe)と比較したところ、新規QProbeについて、既存QProbeと同等またはそれ以上の機能性が確認された。本発明は、かかる発見に基づきなされたものである。
【0006】
本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブが、標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その5’末端部位が下記のssHアミノリンカーを介して蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部において、当該プローブと標的核酸とがハイブリダイゼーションした末端塩基から1ないし3塩基離れて、標的核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基以上存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることを特徴とする核酸測定用核酸プローブを提供する。
【0007】
また、本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブが、標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その3’末端部位が下記のCAアミノリンカーを介して蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部において、当該プローブと標的核酸とがハイブリダイゼーションした末端塩基から1ないし3塩基離れて、標的核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基以上存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることを特徴とする核酸測定用核酸プローブを提供する。
【0008】
また、本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その5’末端部位が下記のssHアミノリンカーを介して蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが、標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてハイブリダイゼーションの塩基対がG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを少なくも一対以上形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることを特徴とする核酸測定用核酸プローブを提供する。
【0009】
また、本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、上記蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、かつ、当該プローブは、その3’末端部位が下記のCAアミノリンカーを介して蛍光色素にて標識されており、当該核酸プローブが、標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、当該末端部分においてハイブリダイゼーションの塩基対がG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを少なくも一対以上形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されていることを特徴とする核酸測定用核酸プローブを提供する。
【0010】
また、本発明は、蛍光色素で標識した末端塩基がC(シトシン)であることを特徴とする上記核酸測定用核酸プローブを提供する。
【0011】
また、本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブにおいて、当該蛍光色素が、Pacific Blue、ATTO465、BODIPY FL、5-CR 6G、6-TAMRA、ATTO655、ATTO680、ATTO700のうち、何れか1つであることを特徴とする上記核酸測定用核酸プローブを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いる核酸測定方法において、標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、核酸プローブに標識された蛍光色素が、その発光を減少させる核酸プローブであり、この発光の減少を測定することを特徴とする核酸の測定方法において、上記核酸測定用核酸プローブを使用することを特徴とする核酸の測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のQProbeの性能を維持したまま、核酸プローブの製造コストを低減することができる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2017‐105202の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】既存アミノリンカー(C6アミノリンカー)をオリゴDNAの末端に導入した場合の構造式を示す。
図2】新規アミノリンカーをオリゴDNAの末端に導入した場合の構造式を示す。
図3】アミノリンカー種の違いによる蛍光標識後のオリゴDNA末端近傍の構造式の変化を示す。
図4】実施例1にて合成したQProbeの構造式を示す。
図5】実施例1にて合成したQProbeの最大蛍光消光率(%)を示す。
図6-1】新規アミノリンカーを使用したQProbeと既存アミノリンカーを使用したQProbeにおける蛍光消光率の比較(5'末端シトシンを蛍光標識)を示す。
図6-2】新規アミノリンカーを使用したQProbeと既存アミノリンカーを使用したQProbeにおける蛍光消光率の比較(3'末端シトシンを蛍光標識)を示す。
図7-1】新規アミノリンカーを使用したQProbeと既存アミノリンカーを使用したQProbeにおける、5’末端蛍光標識した場合の蛍光色素と反応したアミノ化オリゴDNAの割合を示す。
図7-2】新規アミノリンカーを使用したQProbeと既存アミノリンカーを使用したQProbeにおける、3’末端蛍光標識した場合の蛍光色素と反応したアミノ化オリゴDNAの割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明において、DNA、RNA、cDNA、mRNA、rRNA、XTPs、dXTPs、NTPs、dNTPs、核酸プローブ、ヘルパー核酸プローブ(又は核酸ヘルパープローブ、又は単にヘルパープローブ)、ハイブリダイズ、ハイブリダイゼーション、インターカレーター、プライマー、アニーリング、伸長反応、熱変性反応、核酸融解曲線、PCR、RT-PCR、RNA-primed PCR、Stretch PCR、逆PCR、Alu配列を利用したPCR、多重PCR、混合プライマーを用いたPCR、PNAを用いたPCR法、ハイブリダイゼーション方法(hybridization assays)、HISH(fluorescent in situ hybridization assays)方法、PCR方法(polymerase chain assays )、LCR方法(ligase chain reaction)、 SD方法(strand displacement assays)、競合的ハイブリダイゼーション方法( competitive hybridization)、DNAチップ、核酸検出用(遺伝子検出用)デバイス,SNP(スニップ:一塩基置換多型)、複合微生物系等の用語は、現在、分子生物学、遺伝子工学、微生物工学等で一般的に使用されている用語と同じ意味である。本発明では、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いる標的核酸の測定方法において、当該核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに生ずる、ハイブリダイゼーション前後における蛍光色素の発光の減少量を測定する。
【0016】
本発明において標的核酸の測定とは、定量若しくは定量的検出、または単なる検出のことを云う。蛍光色素で標識された核酸プローブを用いる核酸測定方法とは、ハイブリダイゼーション方法(hybridization assays)、FISH方法(fluorescent in situhybridization assays)、PCR方法(polymerase chain assays)、LCR方法(ligase chain reaction)、SD方法(strand displacement assays)、 競合的ハイブリダイゼーション方法(competitive hybridization)などのことをいう。これらの方法では、蛍光色素で標識された核酸プローブを加えた後、標的核酸にハイブリダイゼーションしなかった未反応の当該核酸プローブの蛍光色素を測定系から洗浄等の方法で除去し、標的核酸にハイブリダイゼーションした当該核酸プローブに標識された蛍光色素を当該プローブから直接的に、又は当該プローブに間接的な手段を施して(例えば、酵素を作用させたりして)、発光させて、その発光量を測定する方法である。本発明はこのような複雑な操作をしないで目的核酸を測定することに特徴がある。
【0017】
本発明において標的核酸とは、定量若しくは定量的検出、または単なる検出を目的とする核酸のことを云う。精製の有無を問わない。また、濃度の大小も問わない。各種の核酸が混在していてもよい。例えば、複合微生物系(複数微生物のRNA若しくは遺伝子DNAの混在系)又は共生微生物系(複数の動植物及び/又は複数の微生物のRNA若しくは遺伝子DNAの混在系)における定量若しくは定量的検出、または単なる検出を目的とする特定核酸である。尚、標的核酸の精製が必要な場合は従来公知の方法で行うことができる。例えば、市販されている精製キット等を使用して行うことができる。上記の核酸の具体例として、DNA、RNA、PNA、2-O-メチル(Me)RNA、デオキシリボオリゴヌクレオチド(deoxyribo-oligonucleotides)、リボキシオリゴヌクレオチド(riboxy-origonucleotides)等を挙げることができる。
【0018】
本発明において蛍光色素は、一般に核酸プローブに標識して、核酸の測定・検出に用いられるものが便利に使用できるが、蛍光色素で標識された核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、プローブに標識した当該蛍光色素が、その発光を減少させるものが好適に用いられる。例えば、フルオレセイン(fluorescein)又はその誘導体類{例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)(FITC)若しくはその誘導体等、Alexa 488、Alexa 532、cy3、cy5、EDANS(5-(2'-aminoethyl)amino-1-naphthalene sulfonic acid)}、ローダミン(rhodamine)6G(R6G)又はその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(teramethylrhodamine)(TMR)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(tetramethylrhodamine isothiocyanate)(TMRITC)、x-ローダミン(x-rhodamine)、テキサスレッド(Texas red)、ボデピー(BODIPY)FL(商標名; サーモフィッシャーサイエンティフィック (Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY)FL/C3(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY)FL/C6(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY)5-FAM(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY)TMR(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、又はその誘導体(例えば、ボデピー(BODIPY)TR(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY)R6G(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY)564(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、デピー(BODIPY)581(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、Pacific Blue(品番P10163 [サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、ATTO465(品番AD 465-31 [ATTO-TEC社製])、5-CR 6G(品番C6127[サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、6-TAMRA(品番C6123 [サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、ATTO655(品番AD 655-31 [ATTO-TEC社製])、ATTO680(品番 AD 680-31 [ATTO-TEC社製])、ATTO700(品番 AD 700-31 [ATTO-TEC社製])等を挙げることができる。これらの中でも、FITC、EDANS、6-joe、TMR、Alexa 488、Alexa 532、ボデピー(BODIPY) FL/C3(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY) FL/C6(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、Pacific Blue(品番P10163 [サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、ATTO465(品番AD 465-31 [ATTO-TEC社製])、5-CR 6G(品番C6127[サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、6-TAMRA(品番C6123 [サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、ATTO655(品番AD 655-31 [ATTO-TEC社製])、ATTO680(品番 AD 680-31 [ATTO-TEC社製])、ATTO700(品番 AD 700-31 [ATTO-TEC社製])等を好適なものとして、また、FITC、TMR、6-jeo、ボデピー(BODIPY) FL/C3(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、ボデピー(BODIPY) FL/C6(商標名;サーモフィッシャーサイエンティフィック(Molecular Probes)社製、米国)、Pacific Blue(品番P10163 [サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、ATTO465(品番AD 465-31 [ATTO-TEC社製])、5-CR 6G(品番C6127[サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、6-TAMRA(品番C6123 [サーモフィッシャーサイエンティフィック社製])、ATTO655(品番AD 655-31 [ATTO-TEC社製])、ATTO680(品番 AD 680-31 [ATTO-TEC社製])、ATTO700(品番 AD 700-31 [ATTO-TEC社製])をより好適なものとして挙げることができる。
【0019】
標的核酸にハイブリダイゼーションさせる核酸プローブは、オリゴデオキシリボヌクレオチドで構成されていてもよいし、オリゴリボヌクレオチドで構成されていてもよい。また、それらの双方が介在しているキメリックオリゴヌクレオチド(chemiric oligonucleodite)でもよい。また、2-o-メチルオリゴリボヌクレオチド(2'-o-Methyl oligoribonucleotides)(oligoribonucleotideの5’末端のヌククレオサイド(nucleoside)部がシチジンで、そのシチジンの2’位のOH基がメチル(methyl)基で修飾されているもの)を使用してもよい。又はRNAとの親和性を高めるために、当該2’-o-メチルオリゴリボヌクレオチドをオリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynuclueotide)の中に介在させていてもよい。また、N-O結合性架橋構造型人工核酸[2’,4’-BNANC]を用いてもよい。
【0020】
本発明のプローブの塩基数は5~100であり、好ましくは10~30、特に好ましくは15~25である。100を超える場合は、合成エラーが発生しやすくなり、目的以外の配列を持つプローブが含まれる可能性が高くなるため、本発明の適用範囲を狭めることになる。5未満の場合は、非特異的ハイブリダイゼーションが惹起し易くなり、測定誤差が大きくなる。
【0021】
そのプローブの塩基配列は、標的核酸に特異的にハイブリダイゼーションするものであればよく、特に限定されない。好ましくは、蛍光色素で標識された核酸プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、(1)当該プローブにハイブリダイゼーションした標的核酸の末端塩基部から1ないし3塩基離れて、標的核酸の塩基配列にG(グアニン)がすくなとも1塩基以上存在するように、当該プローブの塩基配列が設計されいる塩基配列、(2)プローブの末端部分においてプローブ-核酸ハイブリッド複合体の塩基対がG(グアニン)とC(シトシン)のペアーを少なくとも一対以上形成するように、当該プローブの塩基配列が設計されている塩基配列、が好ましい。
【0022】
本発明における核酸プローブのオリゴヌクレオチドは、通常の一般的オリゴヌクレオチドの製造方法で製造できる。例えば、化学合成法、プラスミドベクター、ファージベクター等を使用する微生物法等で製造できる(Tetrahedron letters、 22巻、 1859~1862頁、 1981年; Nucleic acids Research、 14巻、6227~6245頁、1986年)。尚、現在、市販されている核酸合成機を使用するのが好適である(例えば、ABI394(Perkin Elmer社製、USA))。
【0023】
オリゴヌクレオチドに蛍光色素を標識するには、従来公知の標識法のうちの所望のものを利用することができる(Nature Biotechnology、 14巻、 303~308頁、 1996年; Applied and Environmental Microbiology、 63巻、 1143~ 1147頁、 1997年; Nucleic acids Research、 24巻、 4532~4535頁、 1996年)。例えば、5´末端に蛍光色素分子を結合させる場合は、先ず、特許第4336820号の方法に従って5´末端のリン酸基にssHアミノリンカーを導入する。このリンカーにアミノ基反応性を有する蛍光色素又はその誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明で使用する核酸プローブとすることができる。
【0024】
また、オリゴヌクレオチドの3’末端に蛍光色素を結合させることもできる。この場合は、リボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基にCAアミノリンカーを導入する。あるいは、リン酸基を導入して、リン酸基のOH基にCAアミノリンカーを導入する。このリンカーにアミノ基に反応性を有する蛍光色素又はその誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明で使用する核酸プローブとすることができる。このアミノ基を導入する場合、特許第5808025号の方法に従って当該オリゴリボヌクレオチドに蛍光色素分子を結合させることができる。また、プローブ核酸の鎖内に蛍光色素分子を導入することも可能である(ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 225, 32-38頁(1998年))。以上のようにして本発明の核酸プローブが調製できるが、好ましいプローブの形態は、3’又は5’末端が蛍光色素標識されたものであり、その標識されている末端の塩基がG又はCであるものである。5’末端が標識され、3’末端が標識されていない場合、3’末端のリボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基をリン酸基等、また3’末端のリボースの2’位CのOH基をリン酸基等で修飾してもよく何ら制限されない。
【0025】
本発明の核酸プローブは、単に核酸測定だけでなく、標的核酸若しくは遺伝子の多型(polymorphism)または/および変異(mutation)を解析若しくは測定する方法に好適に利用できる。特に下記に述べるDNAチップと併用することにより、より便利な方法を提供する。すなわち、本発明の核酸プローブと標的核酸若しくは遺伝子とのハイブリダイゼーションにおいて、GCペアーを形成するかどうかにより、蛍光強度が変化する。それで、本発明の核酸プローブを標的核酸若しくは遺伝子にハイブリダイゼーションさせ、発光強度を測定することにより、標的核酸若しくは遺伝子の多型(polymorphism)または/および変異(mutation)を解析若しくは測定することができる。この場合、標的核酸若しくは遺伝子は各種の核酸若しくは遺伝子の増幅方法のうちの一つの方法により増幅された増幅物でもよし、抽出されたものでもよい。また標的核酸はその種類を問わない。本発明を適用しうる標的核酸の例としてRNA、DNA、PNA、2',4'-BNA、2',4'-BNACOC、3'-Amino-2',4'-BNA、2',4'-BNANC、その他の人工修飾核酸などを挙げることができる。ただ、鎖中または末端にグアニン塩基が存在しておればよい。鎖中または末端にグアニン塩基が存在しないと蛍光強度が減少しない。
【0026】
それで、本発明の核酸プローブを標的核酸または/および遺伝子の多型(polymorphism)及び変異(mutation)を解析若しくは測定する測定キットに含有させることにより、標的核酸若しくは遺伝子の多型(polymorphism)または/および変異(mutation)を解析若しくは測定する測定キットとして好適に使用することができる。
【0027】
本発明においては、前記した核酸プローブを使用することで、標的核酸を短時間で、簡便かつ特異的に測定することができる。以下に測定法を述べる。本発明の測定方法において、先ず、測定系に前記の核酸プローブを添加し、標的核酸にハイブリダイゼーションさせる。その方法は、通常の既知方法で行なうことができる(Analytical Biochemistry、 183巻、 231~244頁、 1989年; Nature Biotechnology、 14巻、 303~308頁、 1996年; Applied and Environmental Microbiology、 63巻、 1143-1147頁、 1997年)。例えば、ハイブリダイゼーションの条件は、塩濃度が0~2モル濃度、好ましくは0.1~1.0モル濃度、pHは6~8、好ましくは6.5~7.5である。
【0028】
反応温度は、前記核酸プローブが標的核酸の特異的部位にハイブリダイゼーションして得られるハイブリド複合物のTm値±10℃の範囲内であるのが好ましい。このようにすることにより非特異的なハイブリダイゼーションを防止することができる。Tm-10℃未満のときは、非特異的ハイブリダイゼーション起こり、Tm+10℃を越えるときは、ハイブリダイゼーションが起こらない。尚、Tm値は本発明で用いる核酸プローブを設計するのに必要な実験と同様にして求めることができる。すなわち、当該核酸プローブとハイブリダイゼーションする相補塩基配列のオリゴヌクレオチドを前記の核酸合成機等で化学合成し、当該核酸プローブとのハイブリダイゼーション物のTm値を通常の方法で測定する。
【0029】
また、その反応時間は1秒間~180分間、好ましくは5秒間~90分間である。1秒間未満のときは、ハイブリダイゼーションにおいて未反応の本発明の核酸プローブが多くなる。また、反応時間を余り長くしても特に意味がない。なお、反応時間は核酸種、すなわち、核酸の長さ、あるいは塩基配列によって大きく影響を受ける。前記のようにして、本発明において核酸プローブを標的核酸にハイブリダイゼーションさせる。そして、ハイブリダイゼーションの前後で、蛍光色素の発光量を蛍光光度計で測定し、発光の減少量を計算する。その減少量の大きさは標的核酸量と比例するので、標的核酸の量を求めることができる。
【0030】
反応液中の標的核酸の濃度:0.1~10.0nMであるのが好ましい。反応液中のプローブの濃度:1.0~25.0nMであるが好ましい。検量線を作成する場合は、標的核酸に対して、プローブを1.0~2.5の比率で用いるのが望ましい。
【0031】
実際、試料中の未知濃度の標的核酸を測定する場合、上記の条件で先ず、検量線を作成する。そして、複数の濃度のプローブを添加して、蛍光強度値の減少を測定する。そして、測定された蛍光強度の減少値を最大にするプローブ濃度を好ましいプローブ濃度とする。好ましい濃度のプローブで測定された蛍光強度の減少値もって、検量線から標的核酸の定量値を求めることになる。
【0032】
本発明の測定法の原理をPCR methodsに適用する場合PCR methodsであればどのような方法でも適用できるのであるが、リアルタイム定量的PCR方法に適用する場合を以下に記す。即ち、リアルタイム定量的PCR方法において、本発明の特定の核酸プローブを用いてPCRを行い、反応前後の蛍光色素の発光の減少をリアルタイムで測定するものである。本発明のPCRとは各種方法のPCRを意味するものである。例えば、RT-PCR、RNA-primed PCR、Stretch PCR、逆PCR、Alu配列を利用したPCR、多重PCR、混合プライマーを用いたPCR、PNAを用いたPCR法等をも含む。また、定量的とは、本来の定量測定の他に、検出程度の定量測定をも意味するものとする。
【0033】
前記のとおり、標的核酸とは、存在量を定量若しくは定量的検出するまたは単に検出する核酸のことを云う。精製の有無を問わない。また、濃度の大小も問わない。各種の核酸が混在していてもよい。例えば、複合微生物系(複数微生物のRNA若しくは遺伝子DNAの混在系)又は共生微生物系(複数の動植物及び/又は複数微生物のRNA若しくは遺伝子DNAの混在系)における増幅目的の特定核酸である。尚、標的核酸の精製が必要な場合は従来公知の方法で行うことができる。例えば、市販されている精製キット等を使用して行うことができる。
【0034】
従来公知の定量的PCR方法はdATP、dGTP、dCTP、dTTP若しくはdUTP、標的核酸(DNA又はRNA)、Taqポリメラーゼ、プライマー、並びに蛍光色素で標識した核酸プローブ若しくはインターカレーターを用いてMgイオンの存在下に、温度を低温、高温を繰り返しつつ標的核酸を増幅し、増幅過程の蛍光色素の発光の増加量をリアルタイムでモニタリングするものである(実験医学、15巻、7号、46~51ページ、1997年、羊土社)。
【0035】
本発明の定量的PCR方法は、本発明の核酸プローブを用いて標的核酸を増幅させ、増幅過程において、蛍光色素の発光の減少量を測定することを特徴とするものである。本発明の定量的PCRにおいて、好ましい本発明のプローブとしては、その塩基数は5~100であり、好ましくは10~30、特に好ましくは15~25で、PCRサイクル中に標的核酸の増幅産物とハイブリダイゼーションするものであれば、どのようなものでもよい。また、フォワード(forward)型、リバース(reverse)型のどちらに設計してもよい。
【0036】
例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)5’末端部、好ましくは5’末端が、本発明の実施に有用な蛍光色素で標識され、標的核酸に当該末端部においてハイブリダイゼーションしたとき、当該プローブと標的核酸とがハイブリダイゼーションした5’末端の塩基部分から1~3塩基5’側に離れて、標的核酸の塩基配列にG(グアニン)が少なくとも1塩基以上存在するように、塩基配列が設計されている。
(2)前記(1)のプローブの内、3’末端が蛍光色素で標識されているプローブ。
(3)前記(1)のプローブの内、3’末端、例えば、3’末端のリボース若しくはデオキシリボースの3’位CのOH基がリン酸基等で修飾されているもの、または、3’末端のリボースの2’位CのOH基がリン酸基等で修飾されているもの。
(4)3’末端部、好ましくは3’末端が、本発明の蛍光色素で標識され、3’末端の塩基がG又はCであるもの、または3’末端のリボースの2’位のOH基がリン酸基等で修飾されているもの。
(5)前記(1)のプローブのうち、5’末端部、好ましくは5’末端が、本発明の蛍光色素で標識されているもの。
(6)5’末端部、好ましくは5’末端が、本発明の実施に有用な蛍光色素で標識され、5’末端の塩基がG又はCであるもの。
【0037】
前記(4)、(6)の場合、標的核酸の塩基配列から、どうしても5’末端がG又はCに設計できない場合は、標的核酸の塩基配列から設計したプライマーであるオリゴヌクレオチドの5’末端に、5’-グアニル酸又は5’-シチジル酸を付加しても、本発明の目的は好適に達成できる。よって、本発明において、3’、又は5’末端の塩基がG又はCになるように設計した核酸プローブとは、標的核酸の塩基配列から設計したプローブの他に、当該のプローブの3’又は5’末端に5’-グアニル酸又は5’-シチジル酸を付加してなるプローブを含むものと定義する。
【0038】
特に上記の(1)、(2)、(3)又は(4)のプローブはプライマーとして利用されないように設計したものである。FRET現象を用いるリアルタイム定量的PCR方法において使用する(蛍光色素で標識した)二つのプローブの代わりに、本発明の一つのプローブを用いてPCRを行うものである。PCRの反応系に当該プローブを添加し、PCRを行う。核酸伸長反応時、標的核酸若しくは増幅標的核酸にハイブリダイズしていた当該プローブがポリメラーゼにより分解され、ハイブリダイゼーション物から分解除去される。このときの反応系または核酸変性反応が完了した反応系の蛍光強度値を測定する。また、標的核酸若しくは増幅した増幅標的核酸が当該プローブとハイブリダイズしている反応系(アニーリング反応、若しくはポリメラーゼにより当該プローブがハイブリダイゼーション物から除かれるまでの核酸伸長反応時の反応系)の蛍光強度値を測定する。そして、前者からの蛍光強度値の減少率を算出することにより増幅された核酸を測定する。当該プローブが標的核酸若しくは増幅標的核酸から、核酸変性反応により完全に解離するか、または核酸伸長時にポリメラーゼにより当該プローブと標的核酸若しくは増幅標的核酸とのハイブリダイゼーション物から分解除去されたときは蛍光強度値は大きい。しかし、当該プローブが標的核酸若しくは増幅標的核酸に十分にハイブリダイズしているアニーリング反応が完了している反応系若しくは核酸伸長反応時にポリメラーゼにより当該プローブと標的核酸若しくは増幅標的核酸とのハイブリダイゼーション物から分解除去されるまでの反応系の蛍光強度値は前者より減少している。蛍光強度値の減少は増幅された核酸量に比例する。この場合、当該プローブが標的核酸とハイブリダイゼーションしたときのそのハイブリダイゼーション物のTmが、プライマーのハイブリダイゼーション物のTm値の±15℃、好ましくは±5℃の範囲になるように、(2)、(3)、(4)のプローブの塩基配列が設計されることが望ましい。プローブのTm値が、プライマーのTm値-5℃、特に-15℃未満であると、プローブがハイブリダイゼーションしないために、蛍光色素の発光の減少は起こらない。反対にプライマーのTm値+5℃、特に+15℃を超えると、プローブが目的としない標的核酸ともハイブリダイゼーションするので、プローブの特異性が失われる。
【0039】
上記の(5)、(6)のプローブは、プライマーとしてPCRの反応系に添加するものである。蛍光色素で標識されたプライマーを用いるPCR方法は本発明以外未だ知られていない。PCRの反応が進むに従い、増幅された核酸は本発明の蛍光色素で標識される。それで、核酸変性反応が完了している反応系の蛍光強度値は大きいが、アニーリング反応完了しているか若しくは核酸伸長反応時の反応系においては、反応系の蛍光強度は前者の蛍光強度より減少する。
【0040】
PCRの反応は通常のPCR方法と同様の反応条件で行うことができる。それで、Mgイオン濃度が低濃度(1~2mM)である反応系で標的核酸の増幅を行うことができる。勿論、従来公知の定量的PCRにおいて使用されている高濃度(2~4mM)のMgイオン存在下の反応系でも本発明は実施できる。
【0041】
尚、本発明のPCR方法において、本発明のPCRを行い、その増幅産物について核酸の融解曲線を分析を行ってTm値を求めることができる。この方法は新規な核酸の融解曲線の分析方法である。本方法において本発明のPCR方法に用いた核酸プローブ又はプライマーとして用いた核酸プローブが好適に利用できる。この場合、本発明のプローブの塩基配列を、SNP(スニップ;一塩基置換多型)を含む領域と相補的な配列にすることで、PCR終了後、その核酸の本発明のプローブから解離曲線を解析することにより、その解離曲線の違いからSNPの検出ができる。本発明のプローブの配列としては、SNPを含む配列と相補的な塩基配列を使用すれば、プローブ配列とSNPを含む配列との解離曲線より得られるTm値は、SNPを含まない配列との解離曲線から得られるTm値より高くなる。
【実施例
【0042】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0043】
実験概要
オリゴDNAと蛍光色素を繋ぐアルキル鎖の長さが異なる既存のアミノリンカーおよび蛍光色素(BODIPY FL)を用いることで、アルキル鎖長が異なるQProbeを複数合成し、QProbeの蛍光消光率に与えるアルキル鎖長の影響を調査した。図4として、本実施例にて準備をしたQProbeの構造を示す。アルキル鎖の長さが異なる3種のアミノリンカー(アルキル鎖の炭素数が3, 6, または12のアミノリンカー)と、アルキル鎖の長さが異なる2種の蛍光色素:BODIPY FL(アルキル鎖の炭素数が2または4のBODIPY FL)を使用することで、オリゴDNAと蛍光色素を繋ぐアルキル鎖長が異なる合計6種のQProbeを合成した。なお、6種のQProbeとも配列は共通であり、5’末端のシトシン(C)をBODIPY FLにて蛍光標識した。

実験は、6種QProbeそれぞれついて、QProbeと相補鎖の両方を添加した系、QProbeのみを添加した系の2系統の反応系を用意し、リアルタイムPCR装置(LightCycler 480[ロシュ・ライフサイエンス社製])にて解離曲線解析を実施した。解離曲線解析における蛍光測定は40~95℃の温度範囲にて行い、蛍光測定の頻度は約0.2℃/測定であった。得られた蛍光強度データを用いて、各測定温度における蛍光消光率を以下の計算式より求め、最も高い値を最大蛍光消光率とし、当該測定値を6種のQProbe間で比較した。

蛍光消光率(%)={(F1 - [F2 × F1 95 / F2 95]) / F1} × 100
F1 :[QProbeのみ]の蛍光強度
F2 :[QProbe + 相補鎖]の蛍光強度
F1 95:[QProbeのみ]の95℃における(解離時の)蛍光強度
F2 95:[QProbe + 相補鎖]の95℃における(解離時の)蛍光強度

その結果を図5として示す。この結果より、アルキル鎖長が炭素数8ときに最も蛍光消光(約82%)したことが分かる。また、炭素数8のQProbeよりも、炭素数で1つ分だけ短い炭素数7のQProbeの場合、その蛍光消光率は約59%であり、炭素数8のQProbeよりも蛍光消光率が大きく低下している。一方、炭素数8のQProbeよりも、炭素数で2つ分だけ長い炭素数10のQProbeの場合、その蛍光消光率は約54%であり、こちらも炭素数8のQProbeと比較して蛍光消光率が著しく低下している。
以上の結果より、アルキル鎖長の僅かな違いが、QProbeの蛍光消光率に大きな影響を与えることが分かる。また、QProbeを用いて標的遺伝子を検出する際の感度および精度は、蛍光消光率が大きく依存することから、アルキル鎖の選定は、QProbeの性能を左右する重要なファクターであることも併せてこの結果より示唆された。
【実施例2】
【0044】
実施例1より、オリゴDNAと蛍光色素を繋ぐアルキル鎖の構造が、QProbeの性能に直結する蛍光消光率に大きな影響を与えることが示された。
一方、図3として示した既存アミノリンカーにて合成したQProbeと、新規アミノリンカーにて合成したQProbe の化学構造を比較すると、後者のリンカー長のほうが長く、蛍光色素とオリゴDNA間の距離が広いことが分かる。この点と、実施例1の結果を踏まえて考えると、最適な既存アミノリンカーにて合成したQProbe(BODIPY FL[D6140]の場合、C6アミノリンカー)の蛍光消光率と、同じ炭素数の新規アミノリンカーで合成したQProbeの蛍光消光率を比較した場合、後者の蛍光消光率が著しく悪化する可能性が予想された。
以上を検証するため、最適な既存アミノリンカーにて合成したQProbe(合成委託先:つくばオリゴサービス社)と、最適な既存アミノリンカーと同じアルキル鎖長の新規アミノリンカーにて合成したQProbe(合成委託先:ジーンデザイン社)を用意し、その最大蛍光消光率を比較した。



本実施例では、既存アミノリンカーを使用したQProbeを16種用意し、これらQProbe各々について、リンカーのみが新規アミノリンカーに変更されたQProbeを同数用意した。
上記した全32種類のQProbeについて、実施例1と同様の方法にて、最大蛍光消光率を求め、当該測定値を比較することにより、蛍光消光率に与える新規アミノリンカーの影響を調査した。
5'末端のシトシンを蛍光標識したQProbeに関する結果を図6-1として示す。この結果より、標識した何れの蛍光色素についても、新規アミノリンカーを使用したQProbeの蛍光消光率は、既存アミノリンカーを使用したQProbeと同等以上であった。
3'末端のシトシンを蛍光標識したQProbeに関する結果を図6-2として示す。この結果より、5'末端標識したQProbeと同様、何れの蛍光色素についても、新規アミノリンカーを使用したQProbeの蛍光消光率は、既存アミノリンカーを使用したQProbeと同等以上であった。
このように、新規アミノリンカーを用いたQProbeは、性能的に既存アミノリンカーを用いたQProbeと同等以上であり、また前述した通り、製造コストを大幅に削減可能であることから、新規アミノリンカーを用いたQProbeは、産業利用上で非常に有用であることが示された。
実施例1からは、リンカー長の僅かな違いが蛍光消光率に大きな影響を与えることが示され、また、新規アミノリンカーで合成したQProbeのリンカー長は、最適な既存アミノリンカーにて合成したQProbeのリンカー長よりもかなり(少なくとも炭素数で2以上)長くなることから、新規アミノリンカーで合成したQProbeの蛍光消光率は、既存アミノリンカーでの消光率より大幅に悪化することが予想された。しかしながら、前述の通り、新規アミノリンカーで合成したQProbeの蛍光消光率は、既存アミノリンカーにて合成したQProbeの蛍光消光率と同等以上であることを示す結果が得られた。この結果は、実際に検証を行わないと予測することが困難な事象であることから、本特許は、進歩性も担保されていると認識される。
【実施例3】
【0045】
蛍光色素との反応性の比較
本実施例では、まず以下に示す4種類のアミノ化オリゴDNAを用意した。
具体的には、
[1]配列番号1で表されるオリゴDNAの5’末端に既存アミノリンカーを導入したアミノ化オリゴDNA
[2]配列番号1で表されるオリゴDNAの5’末端に新規アミノリンカーを導入したアミノ化オリゴDNA
[3]配列番号3で表されるオリゴDNAの3’末端に既存アミノリンカーを導入したアミノ化オリゴDNA
[4]配列番号3で表されるオリゴDNAの5’末端に新規アミノリンカーを導入したアミノ化オリゴDNA
の以上、4種類のアミノ化オリゴDNAを用意した。
これら4種類のアミノ化オリゴDNAを、QProbeに使用可能な蛍光色素(8種類)と反応させ、その結果得られた反応生成物量を測定・比較することで、上記蛍光色素に対する既存アミノリンカーと新規アミノリンカーの反応性の違いを比較した。既存アミノリンカーを導入したアミノ化オリゴDNA(上記[1]、[3])はつくばオリゴサービス社に、新規アミノリンカーを導入したアミノ化オリゴDNA(上記[2]、[4])はジーンデザイン社に合成を委託した。
上記[1]~[4]のアミノ化オリゴDNA(1 nmol )と蛍光色素(500 nmol)を、10%(V/V)ジメチルホルムアミド、250mMリン酸緩衝溶液(pH8.0 )に溶解し、全量100μlとした。本溶液を遮光した上で40℃ にてアミノ化オリゴDNAと蛍光色素との反応を開始した。反応開始後30分後に15μl 採取し、NAP5(ファルマシア社製) で脱塩後、本サンプルに含まれる蛍光色素と未反応のアミノ化オリゴDNAと、反応したアミノ化オリゴDNAの量を、逆相HPLCにより求めた。
以上の方法にて求めた蛍光色素と反応したアミノ化オリゴDNAの割合を図7-1、図7-2に示す。
なお、図7-1が5’末端蛍光標識した場合の蛍光色素と反応したアミノ化オリゴDNAの割合を示したグラフであり、図7-2が3’末端蛍光標識した場合の蛍光色素と反応したアミノ化オリゴDNAの割合を示したグラフである。
この結果より、蛍光修飾位置および蛍光色素の種類に関わらず、新規アミノリンカーのほうが、既存アミノリンカーよりも、蛍光色素と反応したアミノ化オリゴDNAの割合が著しく高いことが分かった。以上より、新規アミノリンカーを利用することで、多量のQProbeを容易に得られることが示された。
更に、本実施例、及び実施例2の結果から、新規アミノリンカーを使用することで、品質の良いQProbeを低コストで製造できることが示された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、標的遺伝子の定性的、定量的解析に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0047】
<配列番号1>
配列番号1は、5'末端蛍光標識QProbeの配列を示す。
5' CCTACGGGAGGCAGCAG 3'
<配列番号2>
配列番号2は、配列番号1に記載したQProbeの相補鎖配列を示す。
5' CTGCTGCCTCCCGTAGG 3'
<配列番号3>
配列番号3は、3'末端蛍光標識QProbeの配列を示す。
5' AAGGAGGTGATCCAGCC 3'
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
【配列表】
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