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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】爪ヤスリ
(51)【国際特許分類】
   A45D 29/04 20060101AFI20220418BHJP
【FI】
A45D29/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018080875
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019187553
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591002382
【氏名又は名称】株式会社遠藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【氏名又は名称】町田 光信
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】薄田 和秀
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-078091(JP,A)
【文献】国際公開第2011/161842(WO,A1)
【文献】特開平02-232004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 8/00-8/40
A45D 24/00-31/00
A45D 42/00-97/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪を研ぐための模様(10a、10b、10c、10d)が形成されたヤスリ目(10)を備えた爪ヤスリ(100、200)であって、
前記ヤスリ目(10)はチタン又はチタン合金の複数の溝(12)から構成され
前記溝(12)の両側に高さが均一の前記チタン又はチタン合金の突起(11)のペア(11,11)が、隣り合う他の溝(12)との間で突起(11)を共有していない状態で所定の間隔で形成されている
ことを特徴とする人用ヤスリ。
【請求項2】
請求項1に記載の爪ヤスリ(100、200)において、
前記突起(11)の高さは25μm~50μmの範囲内にあり、且つ前記溝(12)の間隔は0.25mm~1.0mmの範囲内に設定されていることを特徴とする爪ヤスリ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の爪ヤスリ(100、200)において、
全体の板厚が0.5mmから1.0mmの範囲内に設定されていることを特徴とする爪ヤスリ。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の爪ヤスリ(100、200)において、
前記ヤスリ目(10)の前記模様(10a、10b、10c、10d)は、波線、正弦波、円弧又は直線が組み合わされた形状を有することを特徴とする爪ヤスリ。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の爪ヤスリ(100、200)において、
その両端に前記ヤスリ目(10)がそれぞれ形成されていることを特徴とする爪ヤスリ。
【請求項6】
爪を研ぐための模様(10a、10b、10c、10d)が形成されたヤスリ目(10)を備えた爪ヤスリ(100、200)を製造するための爪ヤスリの製造方法であって、
所望の形状に成形された高さが均一のチタン又はチタン合金の母材にレーザを照射して、前記ヤスリ目(10)を構成する複数の溝(12)を
前記溝(12)の両側に高さが均一の前記チタン又はチタン合金の突起(11)のペア(11,11)を、隣り合う他の溝(12)との間で突起(11)を共有していない状態で所定の間隔で形成する
ことを特徴とする爪ヤスリの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の爪ヤスリの製造方法において、
前記突起(11)の高さを25μm~50μmの範囲内に、且つ前記溝(12)の間隔を0.25mm~1.0mmの範囲内に設定することを特徴とする爪ヤスリの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の爪ヤスリの製造方法において、
全体の板厚を0.5mmから1.0mmの範囲内に設定することを特徴とする爪ヤスリの製造方法。
【請求項9】
請求項6から8の何れか1項に記載の爪ヤスリの製造方法において、
前記ヤスリ目(10)の模様(10a、10b、10c、10d)を波線、正弦波、円弧又は直線が組み合わされた形状になるように、前記チタン又はチタン合金の母材にレーザを照射することを特徴とする爪ヤスリの製造方法。
【請求項10】
請求項6から9の何れか1項に記載の爪ヤスリの製造方法において、
前記爪ヤスリの両端に前記ヤスリ目(10)をそれぞれ形成することを特徴とする爪ヤスリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は爪ヤスリに関し、より詳細には爪への当たりが滑らかであると共に使用時の爪への負担が少ない、衛生管理及び安全性等に優れた、更には斬新なヤスリ目模様を有する爪ヤスリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、若い女性を中心として手足の爪を化粧し或いは装飾品で飾ることにより、爪を綺麗に魅せるネイルアートが盛況である。ネイルケア用品の一つとして爪の形状を所望の形状に成形する爪ヤスリが広く使用されている。主流の爪ヤスリとしては、エメリーボードと呼ばれる紙製の爪ヤスリ、ガラス爪ヤスリ、ダイヤモンド爪ヤスリ、及びステンレス爪ヤスリが知られている。
【0003】
図7に示されるように、エメリーボードは、紙製の母材表層にアルミナ系砥粒を接着剤を介して練り込んでヤスリ目を形成したものである。エメリーボードは母材が紙製のため、金属アレルギー及び錆等の問題がなく、使用中に破損した場合であっても人体を損傷させる危険性が殆どないという利点を有している。しかし、母材が紙製であるため、耐久性及び強度的に劣り、さらには菌が繁殖しやすいという衛生管理上の欠点を有している。ガラス爪ヤスリは、ガラス母材の表面を特殊な酸によって荒らしてヤスリ目を形成したものである。ガラス爪ヤスリは、水洗いが可能であるため衛生管理に優れている。その反面、ガラス爪ヤスリは使用中に破損した場合人体を損傷させるおそれがあり、安全性に欠点がある。またガラス爪ヤスリは母材がガラス材であるため、撓みにくいという欠点がある。爪ヤスリが撓みにくい(可撓性を有しない)場合、ユーザの押荷重が殆ど全て爪に伝わるため、使用時の爪への負担が多くなる。
【0004】
ダイヤモンド爪ヤスリは、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)母材の表面にダイヤモンド砥粒をメッキ材により電着してヤスリ目を形成したものである。ダイヤモンド爪ヤスリは母材がGFRPであるため強度が高く、使用中に破損する危険性は少ない。しかし、母材と砥粒はメッキ材による電着によって結合されているため、メッキ材を原因とする金属アレルギー、又は錆が発生するという欠点がある。ステンレス爪ヤスリは、母材であるステンレス鋼表面を切削刃によって定方向に傾斜した切り込みを一定間隔でつけることにより、ヤスリ目を形成したものである。ステンレス爪ヤスリは母材がステンレス鋼であるため、衛生管理、耐久性、強度、及び安全性の点で優れている。しかし、ダイヤモンド爪ヤスリと同様に、金属アレルギー、又は錆が発生するという欠点がある。さらにステンレス爪ヤスリは撓みにくいという欠点がある。
【0005】
また、ヤスリ目の使用方向(研磨方向)について、ステンレス爪ヤスリは切削刃の切り込み方向(ヤスリ目の一方向)のみ使用可能である。それに対し、その他の爪ヤスリは、ヤスリ目の双方向に沿って使用可能である。図12は、上記従来の爪ヤスリの特徴をまとめたものである。
【0006】
また、図8は従来のヤスリ目の模様(パターン)を示す説明図である。「複目」とは、交錯する2つの方向に切られたヤスリ目の模様である。「単目」とは一方向のみに切られたヤスリ目の模様である。「波目」とは波紋のように「目立て」されたヤスリ目の模様である。「鬼目」とは、いわゆる「おろし金」のように尖った刃が立ったヤスリ目の模様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-101394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図12に示される通り、従来の爪ヤスリの内で、爪への当たりが滑らかなものはガラス爪ヤスリである。しかし、ガラス爪ヤスリは可撓性を有していない。そのため、使用回数が増えるにつれて爪への負担が多くなるという問題がある。また上述した通りガラス爪ヤスリは安全性の点でも問題がある。
【0009】
一方、エメリーボードは爪への当たりがやや滑らかである。しかし、上述した通りエメリーボードは衛生管理、耐久性及び強度の点で問題がある。
【0010】
また、図8に示される通り、従来の爪ヤスリのヤスリ目の模様は、直線又は円弧から成る高々数種類の模様に限定されている。
【0011】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、爪への当たりが滑らかであると共に使用時の爪への負担が少ない、衛生管理及び安全性等に優れた、更には斬新なヤスリ目模様を有する爪ヤスリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る爪ヤスリは、爪を研ぐための模様(10a、10b、10c、10d)が形成されたヤスリ目(10)を備えた爪ヤスリ(100、200)であって、前記ヤスリ目(10)はチタン又はチタン合金の複数の溝(12)から構成されることを特徴とする。
【0013】
上記構成は、チタン母材表面にレーザを照射してヤスリ目を構成する複数の溝を形成する際、レーザ照射によって母材表面から掃き出されるチタンのバリ(突起)を、爪を研磨するための刃として利用したものである。従って、チタン又はチタン合金に起因する独特の感触・質感、美的外観および光触媒効果等を爪ヤスリに具備させることができる。
【0014】
本発明に係る爪ヤスリの第2の特徴は、前記溝(12)の両側に前記チタン又はチタン合金の突起(11)のペア(11,11)が当該溝(12)毎に別個独立に所定の間隔で形成されていることである。
【0015】
上記構成では、溝の両側に高さが均一な2つの突起(チタンのバリ)の対(ペア)が、爪に作用する「刃」として溝毎に別個独立に所定の間隔(ピッチ)で規則的に並ぶことになる。つまり、爪への作用は、高さが均一な2つの刃を単位として所定のピッチで成されることになる。これにより、爪への当たりが滑らかとなると共に、爪への負担が少なくなる。また、刃(チタンのバリ)は母材表面に対しほぼ垂直に形成されるため、ヤスリ目は双方向において研磨可能な両刃仕様となる。また、突起(チタンのバリ)の高さ及び間隔は、レーザ加工技術によって高精度で所望の値に形成することができる。
【0016】
本発明に係る爪ヤスリの第3の特徴は、前記突起(11)の高さは25μm~50μmの範囲内にあり、且つ前記溝(12)の間隔は0.25mm~1.0mmの範囲内に設定されていることである。
【0017】
上記構成では、突起の高さが上記範囲内にある場合、ヤスリ目の爪への当たりがとても滑らかとなる。また、溝の間隔が上記範囲内にある場合、爪への当たりが弱くならずに爪の削りカスの目詰まりを好適に防止することが出来る。
【0018】
本発明に係る爪ヤスリの第4の特徴は、全体の板厚が0.5mmから1.0mmの範囲内に設定されていることである。
【0019】
上記構成では、チタン又はチタン合金はステンレスに比べヤング率(縦弾性係数)が低いため、爪ヤスリ全体が適度な可撓性(撓み)を有する。この全体の適度な可撓性と、高さが均一な2つの刃(突起)が所定のピッチで並ぶこととが相まって、爪ヤスリの使用時における爪への負担が大幅に軽減されることになる。
【0020】
本発明に係る爪ヤスリの第5の特徴は、前記ヤスリ目(10)の前記模様(10a、10b、10c、10d)は、波線、正弦波、円弧又は直線が組み合わされた形状を有することである。
【0021】
上記構成では、ヤスリ目の模様が複曲線化することにより、爪への当たりに対して自由度を有するようになる。
【0022】
本発明に係る爪ヤスリの第6の特徴は、その両端に前記ヤスリ目(10)がそれぞれ形成されていることである。
【0023】
上記構成では、利き手でない方の手で爪を研磨する場合であっても、誤って違うヤスリ目に移行することが少なくなる。つまり、利き手でない方の手で爪を研磨する場合であっても、安心して双方向研磨を行うことが可能となる。
【0024】
上記目的を達成するための本発明に係る爪ヤスリの製造方法は、爪を研ぐための模様(10a、10b、10c、10d)が形成されたヤスリ目(10)を備えた爪ヤスリ(100、200)を製造するための爪ヤスリの製造方法であって、所望の形状に成形されたチタン又はチタン合金の母材にレーザを照射して、前記ヤスリ目(10)を構成する複数の溝(12)を形成することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る爪ヤスリの製造方法の第2の特徴は、前記チタン又はチタン合金の母材にレーザを照射して、前記溝(12)の両側に前記チタン又はチタン合金の突起(11)のペア(11,11)を当該溝(12)毎に別個独立に所定の間隔で形成することである。
【0026】
本発明に係る爪ヤスリの製造方法の第3の特徴は、前記チタン又はチタン合金の母材にレーザを照射して、前記突起(11)の高さを25μm~50μmの範囲内に、且つ前記溝(12)の間隔を0.25mm~1.0mmの範囲内に設定することである。
【0027】
本発明に係る爪ヤスリの製造方法の第4の特徴は、全体の板厚を0.5mmから1.0mmの範囲内に設定することである。
【0028】
本発明に係る爪ヤスリの製造方法の第5の特徴は、前記チタン又はチタン合金の母材にレーザを照射して、前記ヤスリ目(10)の模様(10a、10b、10c、10d)を波線、正弦波、円弧又は直線が組み合わされた形状になるように、前記チタン又はチタン合金の母材にレーザを照射することである。
【0029】
本発明に係る爪ヤスリの製造方法の第6の特徴は、前記チタン又はチタン合金の母材にレーザを照射して、前記爪ヤスリの両端に前記ヤスリ目(10)をそれぞれ形成することである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る爪ヤスリによれば、爪への当たりが滑らかであると共に使用時の爪への負担が少ない、衛生管理及び安全性等に優れた、更には斬新なヤスリ目模様を有する爪ヤスリとなる。
【0031】
また、本発明に係る爪ヤスリの製造方法によれば、レーザ加工技術によって上記本発明に係る爪ヤスリを好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態に係るチタン爪ヤスリを示す説明図である。
図2】本発明のチタン爪ヤスリのヤスリ目の特徴及び成形工程を示す説明図である。
図3】本発明に係る一の中目のヤスリ目の断面及び表面粗さを示す説明図である。
図4】本発明に係る他の中目のヤスリ目の断面及び表面粗さを示す説明図である。
図5】本発明に係る仕上げ目のヤスリ目の断面及び表面粗さを示す説明図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るチタン爪ヤスリを示す説明図である。
図7】従来の爪ヤスリのヤスリ目を示す説明図である。
図8】従来のヤスリ目の模様(パターン)を示す説明図である。
図9】従来のステンレス爪ヤスリのヤスリ目の断面及び表面粗さを示す説明図である。
図10】従来のダイヤモンド爪ヤスリのヤスリ目の断面及び表面粗さを示す説明図である。
図11】従来のガラス爪ヤスリのヤスリ目の断面及び表面粗さを示す説明図である。
図12】従来の爪ヤスリの特徴比較を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の第1実施形態に係るチタン爪ヤスリ100を示す説明図である。図1(a)は表面の構成を表し、同(b)は裏面の構成を表している。同(c)は側面の構成を表している。このチタン爪ヤスリ100は、全体がチタン又はチタン合金(以下、単に「チタン」と言う。)から作られ、爪を研磨するヤスリ目10と、ユーザが指で握る又は摘むための把持部20とから構成される。ヤスリ目10は、いわゆる両刃仕様であり、双方向において研磨可能である。また、このチタン爪ヤスリ100は、全体が適度に撓むように、板厚tは0.5mm~1.0mmの範囲内にあるように作られている。本実施形態では例えば板厚tが0.8mmになるように作られている。なお、本実施形態に係るチタンとしては、例えば(株)神戸製鋼所のKS100又はKS120SIの純チタン又は低合金チタンを使用することができる。
【0035】
このチタン爪ヤスリ100はチタンから作られているため、(1)人の肌に優しく金属アレルギー反応を誘発しにくいという高い生体親和性を有している。また(2)紫外線が当たると滅菌効果を発揮する光触媒効果を有している。また(3)錆びにくく薬品に対し高い耐食性を有している。その他にも(4)熱容量がステンレスの約60%なので手に取った時、ステンレスには無い「ぬくもり」を感じるという質感を有している。また、(5)ヤング率(縦弾性係数)がステンレスの約50%であり弾性に富む。また(6)他の金属には無いチタン独特の光沢があり美的外観を有している。更には、(7)大気酸化処理等により発色処理が容易にできるという高い装飾性を有している。
【0036】
特に、ヤスリ目10については、チタンの母材表面をレーザ照射することによって形成される。詳細については図2から図5を参照しながら後述するが、ヤスリ目10はレーザ照射によって母材表面から掃き出されるチタンのバリ(突起)によって形成される。従って、ヤスリ目10の刃は、このチタンのバリ(突起)によって形成される。チタンのバリは、レーザ照射痕(溝)の両側に母材表面に対し殆ど垂直に形成され、バリの母材表面からの高さは殆ど均一となる。従って、高さが均一の2つのチタンのバリ(突起)が、ヤスリ目10の模様を構成する溝の両側に溝毎に別個独立に所定のピッチで形成されている。そのため、爪への当たりがとても滑らかとなる。更には、ヤスリ目10の可撓性と相まって使用時における爪への負担が少ないという特徴をこのチタン爪ヤスリ100は有している。なお、ここで言う「溝毎に別個独立に」とは、チタンのバリ(突起)が隣り合う溝と溝との間で共有されていない状態を意味している。或いは、溝毎に互いに異なるチタンのバリ(突起)のペア(対)がそれぞれ形成されているという意味である。例えば、2つの溝に対しては、4つのチタンのバリ(突起)が形成されていることになる。
【0037】
ヤスリ目10の模様(パターン)については、コンピュータ援用設計/製造技術化、いわゆるCAD/CAM化されたレーザ加工技術によって成形されている。従って、ヤスリ目10の模様はCAD/CAM化されたレーザ加工技術によって、波線、正弦波、円弧又は直線を組み合わせて自由に作成することが可能である。CAD/CAM化されたレーザ加工技術を使用することにより、従来の爪ヤスリが有していなかった斬新なヤスリ目模様を、高精度で母材表面上に作成することが可能となる。なお、本実施形態では、例えばヤスリ目10の表面(図1(a))が波模様で粗目の第1ヤスリ目10aと、波模様で中目の第2ヤスリ目10bとによって構成されている。他方、ヤスリ目10の裏面(図1(b))は円弧模様で粗目の第3ヤスリ目10cと、円弧模様で中目の第4ヤスリ目10dとによって構成されている。
【0038】
把持部20は、CAD/CAM化されたレーザ加工技術によって所望の模様・印字が形成されている。レーザ光によって把持部20に模様・印字を作成するときは、同時にレーザ光の熱によって把持部20の表面が酸化される。そのため、把持部20の模様・印字の形成と酸化処理を同時に行うことが可能である。なお、レーザ光によって把持部20に模様・印字を作成する前に、前処理としてレーザ光の熱によって把持部20の表面を酸化処理することも可能である。このように、CAD/CAM化されたレーザ加工技術を使用することにより、把持部20における模様の形成と酸化処理を効率的に行うことが可能となる。また、レーザ光の熱により、チタンの母材表面への発色加工が容易となる。
【0039】
図2は、本発明のチタン爪ヤスリ100のヤスリ目10の特徴及び成形工程を示す説明図である。レーザ照射装置30がチタンの母材表面Sにレーザ光31を照射する場合、溶融したチタン母材がチタンのバリ11としてレーザ照射痕(溝12)の両側に掃き出され、固化堆積する。ヤスリ目10の刃は、このチタンのバリ11がレーザ照射痕(溝12)の両側に沿って連続的に繋がったものである。従って、ヤスリ目10の模様(パターン)は、溝12の軌跡に対応している。なお、このチタンのバリ11は、溝12の両側に母材表面Sに対し殆ど垂直に形成される。つまり、1つの溝12に対し、チタンのバリ11,11のペア(対)が溝12の両側に母材表面Sに垂直に溝12毎に別個独立に形成される。また、詳細については図3から図5を参照しながら後述するが、チタンのバリ11の母材表面Sからの高さhは殆ど均一である。なお、以降において、チタンのバリ(突起)11は「チタン刃」とも言うことにする。以下、ヤスリ目10の特徴について更に詳細に説明する。
【0040】
図3は、本発明に係る一の中目のヤスリ目10の断面及び表面粗さを示す説明図である。図3(a)は、ヤスリ目10の切断面に関する50倍拡大写真である。図3(b)はヤスリ目10の切断面に関する表面粗さの計測結果(M(h)、V(h)、P)である。なお、図3(b)の横軸はヤスリ目10の切断面の水平方向の長さを表し、縦軸は母材表面Sからのチタン刃11の高さhを表している。記号M(h)は、チタン刃11の高さhの平均値を示している。記号V(h)は、チタン刃11の高さhの分散値を示している。記号Pは隣り合う溝12と溝12との間隔(ピッチ)を示している。また、比較例として、図9から図11において、従来のステンレス爪ヤスリ、ダイヤモンド爪ヤスリ及びガラス爪ヤスリに係る各データがそれぞれ示されている。
【0041】
図3(a)から、2つのチタン刃11,11(チタン刃のペア)が、レーザ照射痕(溝)12の両側に殆ど垂直で溝12毎に別個独立に形成されていることが分かる。これは、図3(a)に示されるヤスリ目が両刃仕様であることを示している。また、チタン刃11の母材表面Sからの高さhは殆ど均一であることが分かる。すなわち、チタン刃11の高さが揃っていることが分かる。
【0042】
図3(b)において、先鋭凸形状(ピーク形状)がチタン刃11の高さデータに相当し、ピーク形状とピーク形状に挟まれた先鋭凹形状(ノッチ形状)が溝12の高さデータに相当する。溝12と溝12とに挟まれた緩やかな部分が母材表面Sの高さデータに相当する。本ヤスリ目10の場合、溝12のピッチPは、0.75mmである。従って、母材表面Sを0.75mm間隔でレーザ照射して溝12を形成したことになる。溝12は、母材表面Sの2mm当たり2個形成されている。従って、チタン刃11は母材表面Sの2mm当たり4個形成されている。
【0043】
溝12のピッチPは、0.25mmから1.00mmの範囲内にあることが望ましい。ピッチが0.25mmより狭い場合、爪への当たりは強くなる反面、爪の削りカスは詰まりやすくなる。逆にピッチが1.00mmより広い場合、爪の削りカスは詰まりにくくなる反面、爪への当たりが弱くなる。溝12のピッチが0.25mmから1.00mmの範囲内にある場合、爪への当たりは弱くならずに爪の削りカスが詰まりにくくなる。
【0044】
図3(b)からも同様に、各溝12の両側に形成されたチタン刃11は高さhが均一であることが分かる。数値例を挙げると、チタン刃11の高さhの平均値M(h)は33μmであり、高さhの分散値V(h)は18である。従って、チタン刃11の高さhに関する標準偏差σは、σ=(18)1/2=4.2μmである。これにより、大部分のチタン刃11の高さhは、28.8(=33-σ)μm~37.2(=33+σ)μmの範囲内にあることが分かる。このように、図3(a)に示されるチタン刃のペア11,11は、母材表面Sからの高さhが殆ど均一(33μm)であり、溝12毎にピッチ0.75mmで規則的に並んでいることが分かる。
【0045】
それに対し、図9(b)に示されるように、従来のステンレス爪ヤスリでは、刃の高さhの平均値M(h)は25μmであり、高さhの分散値V(h)は187である。従って、刃の高さhに関する標準偏差σは、σ=(187)1/2=13.7μmである。これにより、大部分の刃の高さhは、25-σ(=11.3)μm~25+σ(=38.7)μmの範囲内にあることが分かる。このように、従来のステンレス爪ヤスリは、刃の高さhが均一でないことが分かる。実際、図9(a)からも刃の高さhは均一でないことが分かる。同様に、図10及び図11から、ダイヤモンド爪ヤスリ及びガラス爪ヤスリの各ヤスリ目についても、刃(突起)の母材表面からの高さは均一ではなく、刃(突起)のピッチも均一でないことが分かる。なお、図9に示される従来のステンレス爪ヤスリの材質は、SUS420J2である。
【0046】
図4は、本発明に係る他の中目のヤスリ目10の断面及び高さを示す説明図である。図4(a)はヤスリ目10の断面に関する50倍拡大写真である。図4(b)はヤスリ目10の切断面に関する表面粗さの計測結果(M(h)、V(h)、P)である。
【0047】
図4(a)に示されるように、図3(a)の場合と同様に、2つのチタン刃11,11(チタン刃のペア)が、レーザ照射痕(溝)12の両側に殆ど垂直で溝12毎に別個独立に形成されていることが分かる。これは、図4(a)に示されるヤスリ目が両刃仕様であることを示している。また、チタン刃11の母材表面Sからの高さhは殆ど均一であり、且つチタン刃11は溝12の両側に母材表面Sから殆ど垂直に立っていることが分かる。
【0048】
また、図4(b)に示されるように、各溝12の両側に形成されたチタン刃11は高さhが均一であり、溝12はピッチ0.75mmで規則的に並んでいることが分かる。数値例を挙げると、チタン刃11の高さhの平均値M(h)は34μmであり、高さhの分散値V(h)は17である。従って、チタン刃11の高さhに関する標準偏差σは、σ=(17)1/2=4.1μmである。これにより、大部分のチタン刃11の高さhは、29.9(=34-σ)μm~38.1(=34+σ)μmの範囲内にあることが分かる。このように、図4(a)に示されるチタン刃のペア11,11は、母材表面Sからの高さhが殆ど均一(34μm)であり、溝12毎にピッチ0.75mmで規則的に並んでいることが分かる。
【0049】
図5は、本発明に係る仕上げ目のヤスリ目10の断面及び高さを示す説明図である。図5(a)はヤスリ目10の断面に関する50倍拡大写真である。図5(b)はヤスリ目10の表面粗さの計測結果(M(h)、V(h)、P)である。
【0050】
図5(a)に示されるように、図3(a)及び図4(a)の場合と同様に、2つのチタン刃11,11(チタン刃のペア)が、レーザ照射痕(溝)12の両側に殆ど垂直で溝12毎に別個独立に形成されていることが分かる。これは、図5(a)に示されるヤスリ目が両刃仕様であることを示している。また、チタン刃11の母材表面Sからの高さhは殆ど均一であり、且つチタン刃11は母材表面Sから殆ど垂直に立っていることが分かる。これは、本発明に係るヤスリ目が両刃仕様であることを示している。仕上げ目のため、チタン刃11及び溝12は、中目の場合に比べて多いことが分かる。
【0051】
また、図5(b)に示されるように、各溝12の両側に形成されたチタン刃11は高さhが均一であり、溝12はピッチ0.5mmで規則的に並んでいることが分かる。数値例を挙げると、チタン刃11の高さhの平均値M(h)は29μmであり、高さhの分散値V(h)は4である。従って、標準偏差σは、σ=(4)1/2=2.0μmであり、従って、大部分の刃の高さhは、27.0(=29-σ)μm~31.0(=29+σ)μmの範囲内にあることが分かる。このように、チタン刃のペア11,11は、母材表面Sからの高さhが殆ど均一(29μm)であり、溝12毎にピッチ0.5mmで規則的に並んでいることが分かる。
【0052】
以上、図3から図5に示されるように、本発明に係るヤスリ目10は、母材表面Sにレーザを照射して溝12を形成する際、母材表面Sから掃き出されるチタンのバリ(突起)11によって形成される。掃き出されたチタンのバリ11のペア11,11は、レーザ照射痕(溝)12の両側に殆ど垂直で溝12毎に別個独立に形成される。そのため、チタン刃11は高さが殆ど均一であり、溝12毎に所定のピッチで規則的に並んでいる。従って、本発明に係るヤスリ目10では、爪への作用は、高さが均一な2つのチタン刃11,11を単位として所定のピッチで成されることになる。これにより、爪への当たりがとても滑らかとなる。この滑らかな爪への当たりと、チタン爪ヤスリ100全体の可撓性とが相まって、使用時の爪への負担が大幅に軽減されることになる。
【0053】
それに対し、図9(a)から図11(a)に示されるように、従来のステンレス爪ヤスリ、ダイヤモンド爪ヤスリ及びガラス爪ヤスリの各ヤスリ目は、突起(刃)の母材表面からの高さは均一ではなく、突起(刃)のピッチも均一でないことが分かる。また、図9(b)から図11(b)に示されるように、突起は計測区間(横軸)に渡って乱雑に並んでいることが分かる。従って、爪への当たりがあまり滑らかではない。また従来の爪ヤスリは可撓性を有していない。そのため、使用時の爪への負担が大きいという欠点を従来の上記爪ヤスリは有している。
【0054】
また、本発明に係るヤスリ目10では、溝12のピッチPは0.25mmから1.00mmの範囲内にあるように設定されている。そのため、爪への当たりは弱くならずに爪の削りカスが詰まりにくくなる。
【0055】
それに対し、図9(b)から図11(b)に示されるように、従来のステンレス爪ヤスリ、ダイヤモンド爪ヤスリ及びガラス爪ヤスリの各ヤスリ目は、突起(刃)のピッチが狭いため、爪への当たりは強く且つ爪の削りカスが詰まり易いと考えられる。
【0056】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係るチタン爪ヤスリ200を示す説明図である。図6(a)は表面の構成を示し、同(b)は裏面の構成を示す。同(c)は側面の構成を示す。このチタン爪ヤスリ200は、ヤスリ目10が把持部20の両端に連続して設けられている。その他の構成については上記チタン爪ヤスリ100と同じである。
【0057】
このチタン爪ヤスリ200は、粗目(第1ヤスリ目10a及び第3ヤスリ目10c)と中目(第2ヤスリ目10b及び第4ヤスリ目10d)が把持部20によって区分けされている。そのため、例えばユーザが中目の第2ヤスリ目10bで爪を研磨しているときに、誤って粗目の第1ヤスリ目10aで研磨することが起きにくくなる。つまり、このチタン爪ヤスリ200によれば、非利き手で所望のヤスリ目を往復運動させながら、利き手の爪を安心して研磨することができる。
【0058】
以上、本発明のチタン爪ヤスリ100,200によれば、チタンに起因する独特の感触・質感、美的外観および光触媒効果等を有する爪ヤスリとなる。また、ヤスリ目10は、母材表面Sにレーザを照射して溝12を形成する際、母材表面Sから掃き出されるチタンのバリ(突起)11によって形成される。掃き出されたチタンのバリ11のペア11,11は、レーザ照射痕(溝)12の両側に殆ど垂直で溝12毎に別個独立に形成される。そのため、チタン刃11は高さが殆ど均一であり、溝12毎に所定のピッチで規則的に並んでいる。従って、本発明に係るヤスリ目10では、爪への作用は、高さが均一な2つのチタン刃11,11を単位として所定のピッチで成されることになる。これにより、爪への当たりがとても滑らかとなる。この滑らかな爪への当たりと、チタン爪ヤスリ100全体の可撓性とが相まって、使用時の爪への負担が大幅に軽減されることになる。
【0059】
また、ヤスリ目10の模様は、CAD/CAM化されたレーザ加工技術によって波線、正弦波、円弧又は直線等を組み合わせて自由に作成することが可能である。更に把持部20の装飾についてもCAD/CAM化されたレーザ加工技術によって自由に作成することが出来るようになる。これにより、本発明のチタン爪ヤスリ100,200は斬新なヤスリ目10と装飾性の高い把持部20を有するようになる。
【0060】
以上、図面を参照しながら、本発明に係るチタン爪ヤスリの一実施形態について説明してきたが、本発明は上記実施形態だけに限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内において種々の変更・修正を加えることが可能である。例えば、把持部(20)については省略することが可能である。また、本発明に係るチタン爪ヤスリは、爪以外にも例えば踵の角質削りに対しても好適に使用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 ヤスリ目
10a 第1ヤスリ目
10b 第2ヤスリ目
10c 第3ヤスリ目
10d 第4ヤスリ目
11 バリ(突起)
12 レーザ照射痕(溝)
20 把持部
30 レーザ照射装置
31 レーザ光
100、200 チタン爪ヤスリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12