(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】液晶パネル製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20220418BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
G02F1/13 101
G02F1/1333
G02F1/1333 500
(21)【出願番号】P 2018097055
(22)【出願日】2018-05-21
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】森本 悠介
【審査官】井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-290011(JP,A)
【文献】特表2016-534008(JP,A)
【文献】特開2005-219960(JP,A)
【文献】特開2007-298747(JP,A)
【文献】特開2014-077850(JP,A)
【文献】特開2010-001104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0196071(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0075869(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ基板およびカラーフィルタ基板を貼り合せてなる液晶パネルを多面取りするための多面取り用ガラス母材から所定形状の液晶パネルを複数得るための液晶パネル製造方法であって、
取り出すべき液晶パネルの形状に対応する形状切断予定線であって直線部と曲線部とからなる形状切断予定線の曲線部の一部または全部にレーザを走査することによって、前記多面取り用ガラス母材にエッチングされ易い性質の改質ラインを形成するレーザ走査ステップと、
前記多面取り用ガラス母材に保護フィルムを貼付する保護フィルム貼付ステップと、
前記保護フィルムにおける前記改質ラインに対応する位置に開口部を形成するパターニングステップと、
前記多面取り用ガラス母材に対して、前記改質ラインにおいて前記アレイ基板および前記カラーフィルタ基板が切断されないようにしつつエッチング処理を行うことによって曲線状切断溝を形成するエッチングステップと、
前記エッチングステップの後に、前記保護フィルムを剥離する剥離ステップと、
前記形状切断予定に沿って前記多面取り用ガラス母材を分断する分断ステップと、
を少なくとも含み、
前記剥離ステップでは、前記保護フィルムの角部から対角線方向に向かって引っ張ることで前記多面取り用ガラス母材から前記保護フィルムを剥離することを特徴とする液晶パネル製造方法。
【請求項2】
アレイ基板およびカラーフィルタ基板を貼り合せてなる液晶パネルを多面取りするための多面取り用ガラス母材から所定形状の液晶パネルを複数得るための液晶パネル製造方法であって、
前記多面取り用ガラス母材に保護フィルムを貼付する保護フィルム貼付ステップと、
取り出すべき液晶パネルの形状に対応する形状切断予定線であって直線部と曲線部とからなる形状切断予定線の曲線部の一部または全部にレーザを走査することによって、前記多面取り用ガラス母材にエッチングされ易い性質の改質ラインを形成するとともに、前記保護フィルムにおける前記改質ライン対応する位置に開口部を形成するレーザ走査ステップと、
前記多面取り用ガラス母材に対して、前記改質ラインにおいて前記アレイ基板および前記カラーフィルタ基板が切断されないようにしつつエッチング処理を行うことによって曲線状切断溝を形成するエッチングステップと、
前記エッチングステップの後に、前記保護フィルムを剥離する剥離ステップと、
前記形状切断予定に沿って前記多面取り用ガラス母材を分断する分断ステップと、
を少なくとも含み、
前記剥離ステップでは、前記保護フィルムの角部から対角線方向に向かって引っ張ることで前記多面取り用ガラス母材から前記保護フィルムを剥離することを特徴とする液晶パネル製造方法。
【請求項3】
前記剥離ステップにおいて、互いに直交する2軸線方向に移動可能な吸着部が前記保護フィルムを引っ張ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶パネル製造方法。
【請求項4】
前記保護フィルムの主面上において、前記開口部に囲まれた島状部が形成されないように前記開口部を形成することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶パネル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板にエッチング用の保護フィルムを貼り付けるプロセスを有する液晶パネル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルの加工においては、ガラス基板の薄型化や切断等の処理を効率的に行うために、エッチング液を使用したエッチング処理が広く採用されている。
【0003】
エッチング処理を行う際、エッチング液に曝されたくない領域を保護するために、保護材でガラス基板を被覆することがある。保護材は、レジストやマスク材が使用されることもあるが、コスト面を考慮すると、フィルムを貼り付ける方が有利である。また、ガラス基板に貼り付けた保護フィルムを加工し、開口部を形成することによって、所望の領域のみをエッチング処理することも可能である。
【0004】
エッチング後に不要になった保護フィルムは、任意のタイミングでガラス基板から剥離される。保護フィルムを剥離する方法としては、被処理基板を一定方向に搬送する搬送機構で搬送しながら、粘着ローラをフィルムに押し当てて、フィルムを巻き取る剥離装置が用いられることがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術においては、フィルムの粘着力が大きくなると、剥離時にフィルムが好適に剥離することができないといった不具合が発生するおそれがあった。特に、エッチング量が増えるほど、粘着力が大きいフィルムを使用しなければならないので、剥離作業がより困難になる。
【0007】
また、エッチング処理後のガラス基板は、板厚が薄くなっていることもあり、フィルム剥離時に力を加えると、破損してしまうおそれもある。従来技術では、ローラによって被処理基板を支持していたが、このような搬送方式では、被処理基板の支持領域に応力が集中し、剥離作業時にガラス基板が破損してしまうおそれがあった。
【0008】
この発明の目的は、ガラス基板にフィルムを貼り付けるプロセスを有する液晶パネル製造方法において、好適にフィルムを剥離しつつ液晶パネルを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る液晶パネル製造方法は、アレイ基板およびカラーフィルタ基板を貼り合せてなる液晶パネルを多面取りするための多面取り用ガラス母材から所定形状の液晶パネルを複数得るための液晶パネル製造方法であり、レーザ走査ステップ、保護フィルム貼付ステップ、パターニングステップ、エッチングステップ、剥離ステップおよび分断ステップを含む。
【0010】
レーザ走査ステップは、取り出すべき液晶パネルの形状に対応する形状切断予定線であって直線部と曲線部とからなる形状切断予定線の曲線部の一部または全部にレーザを走査することによって、多面取り用ガラス母材にエッチングされ易い性質の改質ラインを形成する工程である。保護フィルム貼付ステップは、多面取り用ガラス母材に保護フィルムを貼付する工程である。パターニングステップは、保護フィルムにおける改質ラインに対応する位置に開口部を形成する工程である。エッチングステップは、多面取り用ガラス母材に対して、改質ラインにおいてアレイ基板およびカラーフィルタ基板が切断されないようにしつつエッチング処理を行うことによって曲線状切断溝を形成する工程である。剥離ステップは、エッチングステップの後に、保護フィルムを剥離する工程である。ここで、保護フィルムの角部から対角線方向に向かって引っ張ることで多面取り用ガラス母材から保護フィルムを剥離する。分断ステップは、形状切断予定に沿って多面取り用ガラス母材を分断し、液晶パネルを得る工程である。
【0011】
本発明は、エッチング処理において多面取り用ガラス母材を保護するために貼り付けられた保護フィルムを、多面取り用ガラス母材の角部から対角線方向に向かって引っ張ることでスムーズに剥離処理を行うことを可能にしている。さらに、パターニングステップにおいて、保護フィルムに形成する開口部を改質ラインに対応する領域のみに限定することによって、剥離時の保護フィルムの破損を防止することができる。
【0012】
また、保護フィルムを貼り付けた後に、改質ラインの形成と保護フィルムへの開口部の形成を同時に行っても良い。この順序で処理することによって、レーザ走査の回数を削減し、効率的な生産を行うことができる。なお、使用するレーザ装置としては、例えば、ピコ秒またはフェムト秒のパルスレーザが挙げられる。パルスレーザを使用することで、液晶表示素子等に与える影響を軽減しつつ、加工処理を行うことができる。
【0013】
また、剥離ステップにおいて、互いに直交する2軸線方向に移動可能な吸着部が保護フィルムを引っ張ることが好ましい。例えば、このような吸着部を備えた剥離装置を使用することにより、短辺と長辺の比率が異なる基板であっても2軸移動を制御することによって所望の方向に向かって剥離することが可能になる。
【0014】
また、保護フィルムの主面上において、開口部に囲まれた島状部が形成されないように開口部を形成することが好ましい。島状部が形成されることによって、一度の剥離処理で保護フィルムを剥離することが困難になる。また、島状部を個別に剥離することは非常に手間がかかる。このため、開口部を形成する領域を限定したうえで、剥離処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス基板にフィルムを貼り付けるプロセスを有する液晶パネル製造方法において、好適にフィルムを剥離しつつ液晶パネルを製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液晶パネルの概略構成を示す図である。
【
図2】複数の液晶パネルを含む多面取り用ガラス母材の概略構成を示す図である。
【
図3】多面取り用ガラス母材に対するレーザ加工の概略を示す図である。
【
図4】多面取り用ガラス母材に形成される改質ラインの概略を示す図である。
【
図5】多面取り用ガラス母材への保護フィルムの貼付けとレーザ加工の概略を示す図である。
【
図6】本発明に適用されるエッチング装置の一例を示す図である。
【
図7】本発明に適用されるエッチング処理のバリエーションを示す図である。
【
図8】多面取り用ガラス母材に形成される曲線状切断溝の概略を示す図である。
【
図9】保護フィルムの剥離工程についての概略を示す図である。
【
図10】多面取り用ガラス母材から液晶パネルを分断する工程の概略を示す図である。
【
図11】矩形状液晶パネルを分断する工程の概略を示す図である。
【
図12】本実施形態で処理された液晶パネルの端面の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1(A)および
図1(B)は、本発明の一実施形態に係るガラス基板からなる液晶パネル10の概略構成を示している。同図に示すように、液晶パネル10は、アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14が液晶層16を挟んで貼り合わされるように構成されている。アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の構成は、公知の構成と同様の構成が採用可能であるため、ここでは説明を省略する。
【0018】
液晶パネル10は、その輪郭の一部に切欠き部24が形成されている。切欠き部24は、輪郭から液晶パネル10の内側に向かって略U字状に切り欠かれた領域である。なお、切欠き部の形状は、これには限定されず、円弧状、V字状、貫通孔状等の形状や液晶パネル10の表示領域内に形成される貫通孔等に適宜変更することが可能である。さらに、液晶パネル10の四隅のコーナ部22は、丸みを帯びた形状である。
【0019】
アレイ基板12は、カラーフィルタ基板14と貼り合わされる領域から延び出すように設けられた電極端子部122を有している。電極端子部122には、複数の電気回路が接続され、液晶パネル10と、それらの電気回路とが筐体に収納されることによって、例えば、
図1(C)に示すようなスマートフォン100が構成される。この構成において、切欠き部24が形成された領域には、スマートフォン100のスピーカ110やカメラレンズ112や各部への配線等が配置される。
【0020】
続いて、液晶パネル10を製造する方法の一例について説明する。
図2(A)および
図2(B)に示すように、一般的に、液晶パネル10は、これを複数含んだ多面取り用ガラス母材50として製造され、多面取り用ガラス母材50を分断することによって、単個の液晶パネル10が得られる。
【0021】
この実施形態では、便宜上、6つの液晶パネル10が3行2列のマトリクス状に配置された多面取り用ガラス母材50に対する処理について説明するが、多面取り用ガラス母材50に含まれる液晶パネル10の数は適宜増減することが可能である。また、多面取り用ガラス母材50の主面には、透明性薄膜18が形成されている。透明性薄膜18は、ITO膜や有機導電膜等の透明性導電膜である。
【0022】
多面取り用ガラス母材50から液晶パネル10を取り出すためには、まず、
図3(A)および
図3(B)に示すように、多面取り用ガラス母材50に対してレーザ光線を照射することで改質ライン20を形成する。この実施形態では、液晶パネル10の輪郭形状に対応する形状切断予定線のうち、四隅のコーナ部22および切欠き部24において、透明性薄膜18が除去されつつ、改質ライン20が形成される。コーナ部22および切欠き部24に改質ライン20を形成する理由としては、コーナ部22や切欠き部24等の曲線領域は、公知のスクライブブレークでは切断が難しく、仮に切断できたとしても端面に細かな傷が発生するため、液晶パネル10の強度低下の要因となるからである。
【0023】
改質ライン20は、例えば、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザ等のパルスレーザから照射される光ビームパルス(ビーム径は1~5μm程度)によって形成される複数のフィラメント層を配列したフィラメントアレイである。この実施形態では、改質ライン20は、
図4(A)に示すような、複数の貫通孔または亀裂が板厚方向に形成される。改質ライン20は、多面取り用ガラス母材50における他の箇所よりもエッチングされ易い性質を有している。もちろん、改質ライン20の形状は、このような形状には限定されるものではなく、エッチングされ易い性状を有するものであれば良い。
【0024】
ピコレーザからの光ビームは、少なくともアレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の両方の基板を含む範囲よりも深い焦点深度を備えている。このため、アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の両方の基板において液晶パネル10を分断するための改質ライン20が同時に形成される。原則として、アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の両方の基板を同時に1つのレーザによって処理することが可能であるが、これによって液晶層16に不具合が生じる場合には、アレイ基板12側からアレイ基板12のみに改質ライン20を形成した後に、カラーフィルタ基板14側からカラーフィルタ基板14のみに改質ライン20を形成するようにすれば良い。このような処理を行うことで、レーザの走査工数が増加してしまうが、液晶層16における不具合の発生を抑制し易くなる。また、アレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の板厚方向の全域に沿って改質ライン20を形成した方が分割処理を容易に行うことができるが、液晶パネル10に不具合が生じる場合は、改質ライン20の形成領域を適宜調整することも可能である。
【0025】
改質ライン20を形成した後に、多面取り用ガラス母材50の両主面を保護フィルム26で被覆する。保護フィルム26は、少なくとも後述のエッチング液に対する耐性を有しており、多面取り用ガラス母材50および透明性薄膜18を保護する役割を果たす。ここでは、保護フィルム26として、厚みが50~75μmのポリエチレン系フィルムを採用している。ただし、保護フィルム26の構成はこれには限定されない。例えば、ポリプロピレンやポリ塩化ビニルやオレフィン系樹脂等のように、ガラスをエッチングするエッチング液に対する耐性を備えたものであれば適宜選択して採用することも可能である。
【0026】
保護フィルム26の貼付が完了すると、続いて、
図5(B)に示すように、改質ライン20が形成された領域に沿って保護フィルム26に対するレーザビームの走査が行われる。このレーザビームの走査によって、コーナ部22および切欠き部24において保護フィルム26が除去され、開口部が形成される。その結果、
図5(C)に示すように、多面取り用ガラス母材50の改質ライン20の形成位置が外部に露出することになる。
【0027】
保護フィルム26の加工は、改質ライン20が形成されている領域に限定されており、保護フィルム26は複数に分離されることなく加工される。例えば、保護フィルム26に形成される開口部が、形状切断予定線に沿って形成された場合、形状切断予定線の内側の保護フィルム26は、それ以外の領域に貼り付けられた保護フィルム26と分離されてしまう。この状態では、剥離作業の効率が低下してしまうので、保護フィルム26において開口部で囲まれた領域が形成されないように加工することが好ましい。
【0028】
なお、本実施形態では、改質ライン20を形成した後に、保護フィルム26の貼付とパターニングを行っているが、本発明は、この順序に限定されるものではない。例えば、保護フィルム26を多面取り用ガラス母材50に貼り付けた後に、保護フィルム26のパターニングを改質ライン20の形成と同時に行っても良い。この場合、保護フィルム26を除去しつつ、曲線領域においてガラス基板を十分に改質できるように、レーザビームの出力や焦点距離等を調整する必要がある。
【0029】
保護フィルム26へのレーザ走査が終わると、
図6に示すように、多面取り用ガラス母材50は、エッチング装置300に導入され、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液によってエッチング処理が施される。エッチング装置300では、搬送ローラによって多面取り用ガラス母材50を搬送しつつ、エッチングチャンバ内で多面取り用ガラス母材50の片面または両面にエッチング液を接触させることによって、エッチング処理が行われる。なお、エッチング装置300におけるエッチングチャンバの後段には、多面取り用ガラス母材50に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバが設けられているため、多面取り用ガラス母材50はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置300から排出される。
【0030】
多面取り用ガラス母材50にエッチング液を接触させる手法の一例として、
図7(A)に示すように、エッチング装置300の各エッチングチャンバ302において、多面取り用ガラス母材50に対してエッチング液をスプレイするスプレイエッチングが挙げられる。また、スプレイエッチングに代えて、
図7(B)に示すように、オーバーフロー型のエッチングチャンバ304において、オーバーフローしたエッチング液に接触しながら多面取り用ガラス母材50が搬送される構成を採用することも可能である。
【0031】
さらには、
図7(C)に示すように、エッチング液が収納されたエッチング槽306に、キャリアに収納された単数または複数の多面取り用ガラス母材50を浸漬されるディップ式のエッチングを採用することも可能である。
【0032】
いずれの場合であっても、エッチング処理中に、改質ライン20が形成された領域が厚み方向に貫通して、多面取り用ガラス母材50が分断してしまわないようにすることが重要である。エッチング処理中において改質ライン20の一部がアレイ基板12またはカラーフィルタ基板14を貫通してしまうと、エッチング液が液晶パネル10の内部に侵入してしまう。このため、エッチング処理中(特にエッチング処理の後半部分)においては、エッチングレートを遅くして、エッチング量を正確に制御する必要がある。この実施形態では、2重量%以下の薄いフッ酸によって、10μm/分以下の遅い速度にてエッチング処理が進行するようにしているが、この手法に限定されるものではない。
【0033】
エッチング処理の全体においてエッチングレートを遅くするのではなく、当初は速めのエッチングレートを採用しつつ段階的に遅くしていくようにすれば、エッチング処理の時間を短縮することが可能である。例えば、エッチング装置300の後段に進むにつれてエッチング液におけるフッ酸濃度を1~10重量%程度の範囲内で順次低下させるような構成を採用すると良い。
【0034】
多面取り用ガラス母材50がエッチング装置300を通過すると、改質ライン20がエッチングされるため、レーザ照射時においてキズ等が発生していた場合であっても、このキズが消失し易くなる。また、改質ライン20では、他の箇所よりも速くエッチング液が浸透するため、幅方向よりもガラス基板の深さ方向においてエッチング量が多くなる。
【0035】
図8は、エッチング処理によって形成された切断溝28の断面を示している。切断溝28は、改質ライン20が形成された領域がエッチング処理されることによって形成される。切断溝28は、通常のエッチング処理で形成される溝とは異なり、幅方向に対して深さ方向のアスペクト比が大きくなる。このため、各液晶パネルが隣接するような多面取り用ガラス母材50であっても液晶パネル10に影響を与えることなく切断溝28を形成することができる。切断溝28は、アレイ基板12またはカラーフィルタ基板14において、板厚方向に完全に貫通してしまわないように形成される。この際、切断溝28の下部の板厚は、100μm以下になるように調整することが好ましい。エッチング未処理部の板厚が100μmを超えると、後述の分断処理における液晶パネル10の分断が困難になることがある。
【0036】
エッチング処理された多面取り用ガラス母材50は、両主面から保護フィルム26が剥離される。保護フィルム26の剥離は、
図9(A)および
図9(B)に示す剥離装置60を利用して行うことが可能である。剥離装置60は、固定ステージ62、フィルム保持部64、スライドアーム66およびスライドバー68を備えている。
【0037】
固定ステージ62は、多面取り用ガラス母材50が載置され、固定ステージ62の下部に配置される不図示の真空吸着機構により多面取り用ガラス母材50を固定するように構成される。なお、真空吸着機構以外にも、固定治具を用いて多面取り用ガラス母材50を固定することも可能である。
【0038】
フィルム保持部64は、スライドアーム66の先端に配置された自己粘着部材である。フィルム保持部64は、保護フィルム26の角部に貼り付けられるように構成される。フィルム保持部64に使用される自己粘着部材は、少なくとも保護フィルム26の粘着力よりも粘着力が大きい粘着材であれば、特に制限はない。また、フィルム保持部64の構成は、これには限定されず、例えば、保護フィルム26を挟持することによって保持する機構を採用しても良い。
【0039】
スライドアーム66は、スライドバー68に対してスライド自在に支持されている。スライドアーム66は、不図示の駆動機構によってスライドバー68に沿った方向に移動するように構成される。
【0040】
スライドバー68は、両端部がスライドアーム66の移動方向と直交する方向に延びる支持レール72にスライド自在に支持されており、スライドアーム66のスライド方向と直交する方向に移動するように構成される。なお、スライドバー68の移動は、不図示の駆動部によって制御される。
【0041】
スライドバー66およびスライドアーム68の移動量および移動速度を制御することによって、フィルム保持部64を多面取り用ガラス母材50の対角線方向に向かって移動させることが可能になる。保護フィルム26の剥離時の移動に関しては、基板の大きさやフィルムの材質等によって、適宜設定することが可能であるが、原則として、多面取り用ガラス母材50の対角線方向に向かってフィルム保持部64を移動させることで保護フィルム26を剥離するように構成される。
【0042】
ここから、剥離装置60による保護フィルム26の剥離方法について説明する。最初にエッチング処理が行われた多面取り用ガラス母材50が固定ステージ62に載置され、吸着固定される。この時の吸着圧力は、多面取り用ガラス母材50の板厚やエッチング量を考慮して、多面取り用ガラス母材50が破損しない範囲で決定される。
【0043】
続いて、
図9(A)に示すように、フィルム保持部64を保護フィルム26の1つの角部に貼り付ける。この際、保護フィルム26の角部は、物理的な力を加えて部分的に捲られた状態にされたうえで、フィルム保持部64が貼り付けられることが好ましい。保護フィルム26が捲られた状態で剥離処理を開始することによって、スムーズに剥離することが可能になる。
【0044】
フィルム保持部64が保護フィルム26の角部に貼り付けられると、スライドアーム66およびスライドバー68の移動を制御することによって、フィルム保持部64を多面取り用ガラス母材50の対角線方向に向かって移動させる。本実施形態では、多面取り用ガラス母材50の縦横の寸法比に応じて、スライドアーム66およびスライドバー68を移動させ、フィルム保持部64が多面取り用ガラス母材50の対角線方向に向かって移動するように制御される。
【0045】
保護フィルム26が伸展する場合は、多面取り用ガラス母材50の角部を超えてフィルム保持部64を移動させることも可能である。支持レール72は固定ステージ62の端部よりも延出するように配置されており、保護フィルム62が伸びたとしても、多面取り用ガラス母材50から保護フィルム26を完全に剥離するまで、引っ張ることが可能である。
【0046】
剥離装置60を使用することで、エッチング処理において切断溝28の形成によって強度が低下していても、多面取り用ガラス母材50を破損させることなく、保護フィルム26を剥離することができる。
【0047】
保護フィルム26には、切断溝28に対応する位置に開口部が形成されているが、この開口部は、保護フィルム26の剥離において破断の起点になるといったような問題になることはない。また、液晶パネルの形状切断予定線の全域に沿って開口部が形成されていないことによって、保護フィルム26の主面に保護フィルム26が島状に残ることがない。保護フィルム26が島状に残った場合、島状部を個別に剥離する必要があり、剥離処理の効率が低下してしまう。本実施形態では、改質ライン20と開口部の形成領域を限定することによって、一度の剥離処理によって加工された保護フィルム26を剥離することを可能にしている。
【0048】
保護フィルム26が剥離された多面取り用ガラス母材50は、形状切断予定線の直線部においてスクライブ溝76が形成される。スクライブ溝76は、スクライブホイールを直線部に沿って走査することによって形成される。スクライブ溝76も切断溝28と同様に、板厚方向において貫通しないように形成される。または、スクライブ溝76を板厚方向に完全に貫通させて、形状切断予定線の直線部において多面取り用ガラス母材50を切断しても良い。
【0049】
スクライブ溝76の幅を10μm以下にすることで、液晶パネル10が隣接している多面取り用ガラス母材50であっても、好適に処理することが可能である。また、スクライブ溝76の形成と同時に、電極端子部122と対向する領域のカラーフィルタ基板14を取り除くために、端子切断用溝78を形成する。端子切断用溝78は、カラーフィルタ基板14において板厚方向に貫通しないように形成される。
【0050】
スクライブ溝76および端子切断用溝78を形成した後に、多面取り用ガラス母材50から液晶パネル10を分離する。切断溝28およびスクライブ溝76に対して機械的応力を加えることによって、切断溝28およびスクライブ溝76の下部から垂直方向に亀裂が進行し、液晶パネル10が形状切断予定線に沿って分断される。
【0051】
また、液晶パネル10の分断と同様に、端子切断用溝78に対しても応力を加えることにより、電極端子部122と対向する領域のカラーフィルタ基板12の一部を取り除くことができる。液晶パネル10は、適宜後工程において処理された後に、スマートフォン100等の機器に使用される。
【0052】
本実施形態においては、レーザ処理を行う領域を液晶パネル10の形状切断予定線のうち、コーナ部22や切欠き部24といったスクライブ処理が困難な曲線領域に限定することよって、レーザの走査時間を短縮することを可能にしている。また、エッチング処理後も形状切断予定線の直線部が未加工状態であるので、エッチング処理後の多面取り用ガラス母材50を運搬時等や保護フィルム26の剥離作業時において、液晶パネル10の端面同士が接触して破損するといった不具合が防止される。
【0053】
本発明の他の実施形態では、エッチング処理が行われた多面取り用ガラス母材50を矩形状液晶パネル101として一時的に分断しても良い。この場合、
図11(A)に示すように、エッチング処理後の多面取り用ガラス母材50から矩形状液晶パネル101を分離する。
【0054】
矩形状液晶パネル101は、形状切断予定線の直線部に沿ってスクライブブレークを行い、液晶パネル10からコーナ部22および切欠き部24を分離せずに、矩形状に切り出したものである。そして、矩形状液晶パネル101から、コーナ部22および電極端子部122と対向する領域に対応するカラーフィルタ基板12の一部を除去する。上述のように、切断溝28および端子用切断溝64が形成された領域は、わずかな応力を加えることで、矩形状液晶パネル101から分離することができる。
【0055】
なお、この実施形態では、矩形状液晶パネル101を分断した後に、コーナ部22および切欠き部24の加工を行ったが、これらの処理順序は適宜変更することが可能である。例えば、コーナ部22や切欠き部24を除去した後に、スクライブブレークを行っても良い。
【0056】
図12(A)~
図12(C)は、分断後の液晶パネル10の概略構成を示している。同図に示すように、液晶パネル10の端面は主面に対してほぼ直角になっている。例えば、それぞれが0.15mm~0.25mm程度の板厚のアレイ基板12およびカラーフィルタ基板14の各端面に発生するテーパ幅(
図12(C)におけるL1~L3)を、50μm以下(多くは20~35μm)に抑えることが可能である。
【0057】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
10-液晶パネル
12-アレイ基板
14-カラーフィルタ基板
16-液晶層
18-透明性導電膜
20-改質ライン
22-コーナ部
24-切欠き部
26-保護フィルム
28-切断溝
60-剥離装置
50-多面取り用ガラス母材
122-電極端子部