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特許7058879マンガン、鉄、シリコン、リン及び炭素を含む磁気熱量材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】マンガン、鉄、シリコン、リン及び炭素を含む磁気熱量材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 22/00 20060101AFI20220418BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220418BHJP
   C22C 1/00 20060101ALI20220418BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20220418BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220418BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220418BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C22C22/00
C22C30/00
C22C1/00 Z
C22C33/02 G
C22C1/04 F
C22C38/00 303Z
B22F3/24 D
B22F3/24 K
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018564745
(86)(22)【出願日】2017-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2017063901
(87)【国際公開番号】W WO2017211921
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】16173919.8
(32)【優先日】2016-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507013822
【氏名又は名称】テクニシエ ユニヴェルシテイト デルフト
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ブリュック,エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】ミヤオ,シュー-フェイ
(72)【発明者】
【氏名】グエン,ヴァン タン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-516780(JP,A)
【文献】特表2013-527308(JP,A)
【文献】特表2016-534221(JP,A)
【文献】国際公開第2015/018610(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102618741(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102881393(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 22/00
C22C 30/00
C22C 1/00
C22C 33/02
C22C 1/04
C22C 38/00
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気熱量材料であって、一般式(I)
(MnFe1-x2+uSi (I)
ここで、
-0.1≦u≦0.1
0.2≦x≦0.8
0.3≦y≦0.75
0.25≦v≦0.7
0.001≦z≦0.15
0≦r≦0.1
0≦w≦0.1
y+v+w≦1.05
y+v+w+r≧0.95
の組成を有する磁気熱量材料。
【請求項2】
前記磁気熱量材料は、空間群P-62mを有する結晶格子を有するFeP型の六方晶結晶構造を示し、
炭素原子は前記結晶格子の格子間位置を占め、および、
ホウ素原子は、存在する場合、空間群P-62mを有する六方晶結晶系による前記結晶格子の結晶位置を占め、および、
窒素原子は、存在する場合、空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置および/または格子間位置を占める、請求項1に記載の磁気熱量材料。
【請求項3】
炭素原子は、6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める、請求項1または2に記載の磁気熱量材料。
【請求項4】
前記磁気熱量材料は、一般式(I)
(MnFe1-x2+uSi (I)
ここで、
-0.05≦u≦0.05
0.3≦x≦0.7
0.4≦y≦0.7
0.3≦v≦0.6
0.003≦z≦0.12
0≦r≦0.07
0≦w≦0.08
y+v+w≦1.02
y+v+w+r≧0.98
の組成を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁気熱量材料。
【請求項5】
前記磁気熱量材料は、一般式(II)
(MnFe1-x2+uSi (II)
ここで、
-0.1≦u≦0.1
0.2≦x≦0.8
0.3≦y≦0.75
0.25≦v≦0.7
0.001≦z≦0.15
0.95≦y+v≦1.05
の組成を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気熱量材料。
【請求項6】
前記磁気熱量材料が、
Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.05、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.1、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.15
Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.030.05、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.030.1
Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.030.15
Mn1.25Fe0.70.6Si0.40.05、Mn1.25Fe0.70.6Si0.40.1、Mn1.25Fe0.70.6Si0.40.15
MnFe0.950.67Si0.330.01、MnFe0.950.67Si0.330.02、MnFe0.950.67Si0.330.03
MnFe0.950.67Si0.330.05、MnFe0.950.67Si0.330.1、および、
MnFe0.950.575Si0.330.0750.050.02
Mn1.18Fe0.730.48Si0.520.012、Mn1.19Fe0.730.48Si0.520.032、Mn1.16Fe0.750.47Si0.530.06
からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の磁気熱量材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気熱量材料を製造する方法であって、
(a)鉄、マンガン、リン、シリコンおよび炭素の元素原子を含む前駆体の混合物を提供する工程と、
(b)前記工程(a)で提供された前記混合物を反応させて固体反応生成物を得る工程であって、
(b-1)前記工程(a)で得られた前記混合物を固相中で反応させて前記固体反応生成物を得る工程、
および/または
(b-2)前記工程(a)で得られた前記混合物または前記工程(b-1)で得られた前記固体反応生成物を液相に移し、液相で反応させて液反応生成物を得て、前記液反応生成物を固相に移して前記固体反応生成物を得る工程、を含む工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記固体反応生成物を任意に成形して成形固体反応生成物を得る工程と
(e)前記工程(b)で得られた前記固体反応生成物または前記工程(c)で得られた前記成形固体反応生成物を熱処理して熱処理物を得る工程と、
(f)前記工程(e)で得られた前記熱処理物を冷却して冷却物を得る工程と、
(g)前記工程(f)で得られた前記冷却物を任意に成形する工程、を有する、製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気熱量材料を製造する方法であって、
(a)鉄、マンガン、リン、シリコンおよび炭素の元素原子を含む前駆体の混合物を提供する工程と、
(b)前記工程(a)で提供された前記混合物を反応させて固体反応生成物を得る工程であって、
(b-1)前記工程(a)で得られた前記混合物を固相中で反応させて前記固体反応生成物を得る工程、
および/または
(b-2)前記工程(a)で得られた前記混合物または前記工程(b-1)で得られた前記固体反応生成物を液相に移し、液相で反応させて液反応生成物を得て、前記液反応生成物を固相に移して前記固体反応生成物を得る工程、を含む工程と、
(c)前記工程(b)で得られた前記固体反応生成物を任意に成形して成形固体反応生成物を得る工程と、
(d)前記工程(b)で得られた前記固体反応生成物または前記工程(c)で得られた前記成形固体反応生成物を、1種以上の炭化水素を含む雰囲気に曝して浸炭生成物を得る工程と、
(e)前記工程(d)で得られた前記浸炭生成物を熱処理して熱処理物を得る工程と、
(f)前記工程(e)で得られた前記熱処理物を冷却して冷却物を得る工程と、
(g)前記工程(f)で得られた前記冷却物を任意に成形する工程と、を有する、製造方法。
【請求項9】
前記工程(d)で使用される炭化水素は、メタン、プロパンおよびアセチレンからなる群から選択される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記前駆体の混合物が、元素マンガン、元素鉄、元素シリコン、元素リン、鉄のリン化物、マンガンのリン化物、および任意の1つ以上の元素炭素、鉄の炭化物、マンガンの炭化物、炭化可能な有機化合物、元素ホウ素、鉄の窒化物、鉄のホウ化物、マンガンのホウ化物、アンモニアガスおよび窒素ガス、からなる群から選択される1つ以上の物質を含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(b-1)において、固相での前記混合物の反応はボールミル粉砕を含み、粉末形態の固体反応生成物を得る、請求項7から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(b-2)において、得られた前記液体反応生成物の固相への転移は、急冷、溶融紡糸または噴霧によって行われる、請求項7から11のいずれか一項に記載の製造方法
【請求項13】
前記工程(e)において、前記熱処理が900℃~1250℃の範囲の温度で行われる、請求項7から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
冷却システム、熱交換器、ヒートポンプ、熱磁気発電機および熱磁気スイッチからなる群から選択される装置における請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気熱量材料の使用。
【請求項15】
冷却システム、熱交換器、ヒートポンプ、熱磁気発電機および熱磁気スイッチからなる群から選択される装置であって、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁気熱量材料を少なくとも1つ含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および任意の窒素およびホウ素の一方または両方を含む磁気熱量材料と、前記磁気熱量材料を製造する方法と、冷却システム、熱交換器、ヒートポンプ、熱磁気発電機および熱磁気スイッチからなる群から選択される装置における前記磁気熱量材料の使用と、および、少なくとも一つの本発明による磁気熱量材料を含む対応する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気熱量材料は、磁気熱量効果、すなわち前記材料を変化する外部磁場に曝すことによって生じる温度変化を示す材料である。前記磁気熱量材料のキュリー温度近傍の周囲温度で磁気熱量材料に外部磁場を印加することにより、磁気熱量材料のランダムに配列された磁気モーメントの整列が起こり、これによって磁気相転移が生じ、それは前記材料の前記周囲温度より高いキュリー温度の誘導増加として現れる。この磁気相転移は、磁気エントロピーの損失を意味し、断熱条件下では、フォノン生成による磁気熱量材料の結晶格子のエントロピー寄与を増加させる。外部磁場を印加した結果として、これによって、磁気熱量材料の加熱が生じる。
【0003】
磁気熱量効果の技術的適用では、生成された熱は、例えば水のような熱伝達媒体の形態のヒートシンクへの熱伝達によって、磁気熱量材料から除去される。その後の外部磁場の除去は、周囲温度より低いキュリー温度の減少し戻し、これによって磁気モーメントがランダムな配列に戻ることで表される。これは、磁気エントロピーの増加と、磁気熱量材料自体の結晶格子のエントロピー寄与の減少を生じ、断熱条件下では、磁気熱量材料の周囲温度より低い冷却をもたらす。磁化と減磁を含む記述されたプロセスサイクルは、技術的な適用では通常定期的に行われる。
【0004】
磁気熱量材料の一つの重要なクラスは、マンガン、鉄、シリコンおよびリンを含む化合物である。そのような材料およびその製造方法は、WO2004/068512に一般的に記載されている。US2011/0167838とUS2011/022838は、マンガン、鉄、シリコンおよびリンからなる磁気熱量材料を開示している。WO2015/018610と、WO2015/018705と、WO2015/018678は、マンガン、鉄、シリコン、リンおよびホウ素からなる磁気熱量材料を開示している。欧州非公開特許出願EP15192313.3-1556は、マンガン、鉄、リン、シリコン、窒素および任意のホウ素からなる磁気熱量材料を開示している。
【0005】
また関連する技術として以下のものがある:
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2016/017462A1
【文献】EP2422347A0(WO2010/121977A1)
【文献】EP0493019A2
【非特許文献】
【0007】
【文献】MIAO他著「Tuning the magnetoelastic transition in (Mn,Fe)2(P,Si) by B,C,and N Doping」、SCRIPTA MATERIALIA, vol. 124,2016年7月20日(2016-07-20)、第129-132頁、XP029698318
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マンガン、鉄、シリコンおよびリンを含むいくつかの磁気熱量材料は、冷却システム、熱交換器、ヒートポンプ、熱磁気発電機および熱磁気スイッチのような実用的な用途に適した磁気熱量特性を示す。しかし、より低い磁場強度で磁気熱量効果を示し、それによって性能を妥協することなく、より低い磁場強度で磁気熱量装置を作動させることが可能な磁気熱量材料に対する要求がある。磁気熱量効果に必要とされる磁場強度の減少は、磁場を発生させるのに必要とされる永久磁石の質量の削減を可能にする。磁気熱量装置の経済的競争力は永久磁石のコストに強く依存するため、このことは大きな利点となる。
【0009】
本発明の目的は、磁気熱量効果の技術的適用を利する有利な特性を有する新しい磁気熱量材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
- マンガンと、
- 鉄と、
- シリコンと、
- リンと、
- 炭素と、を含む磁気熱量材料が提供される。
【0011】
本発明の好ましい磁気熱量材料は、
- マンガンと、
- 鉄と、
- シリコンと、
- リンと、
- 炭素と、からなる。
【0012】
本発明の他の好ましい磁気熱量材料は、窒素およびホウ素の一方または両方をさらに含む。
【0013】
したがって、本発明の特定の好ましい磁気熱量材料は、
- マンガンと、
- 鉄と、
- シリコンと、
- リンと、
- 炭素と、
- ホウ素と、
- 窒素と、からなる。
【0014】
本発明の特に好ましい磁気熱量材料は、
- マンガンと、
- 鉄と、
- シリコンと、
- リンと、
- 炭素と、
- 窒素と、からなる。
【0015】
本発明の他の特に好ましい磁気熱量材料は、
- マンガンと、
- 鉄と、
- シリコンと、
- リンと、
- 炭素と、
- ホウ素と、からなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1A~1Dは、表1~4による材料について、1Tの磁場中における冷却および加熱(掃引速度2k/分)中に記録された比磁化(質量当たりの磁化)の温度依存性を示している。
図1B図1A~1Dは、表1~4による材料について、1Tの磁場中における冷却および加熱(掃引速度2k/分)中に記録された比磁化(質量当たりの磁化)の温度依存性を示している。
図1C図1A~1Dは、表1~4による材料について、1Tの磁場中における冷却および加熱(掃引速度2k/分)中に記録された比磁化(質量当たりの磁化)の温度依存性を示している。
図1D図1A~1Dは、表1~4による材料について、1Tの磁場中における冷却および加熱(掃引速度2k/分)中に記録された比磁化(質量当たりの磁化)の温度依存性を示している。
図2図2は、表1の全ての材料について、1Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図3A図3A~3Dは、表1の個々の材料のそれぞれについて、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図3B図3A~3Dは、表1の個々の材料のそれぞれについて、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図3C図3A~3Dは、表1の個々の材料のそれぞれについて、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図3D図3A~3Dは、表1の個々の材料のそれぞれについて、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図4A図4Aおよび4Bは、表4の各材料について、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図4B図4Aおよび4Bは、表4の各材料について、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
図5A図5Aは、溶融紡糸材料MnFe0.950.67Si0.33、MnFe0.950.67Si0.330.05およびMnFe0.950.67Si0.330.01について、154Am/kgの比磁化に達するのに必要な磁場強度は、炭素含有量の増加とともに減少することを示している。
図5B図5Bは、同じ材料について、0.2Tの磁場強度で実現される比磁化は、炭素含有量の増加と共に増加することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
驚くべきことに、マンガン、鉄、シリコン、リンおよび炭素を含む磁気熱量材料は、マンガン、鉄、シリコン、リンを含み炭素を含まない磁気熱量材料と比較して、より低い磁場強度で同じ磁化に達することが見出されている。
【0018】
強磁性材料は、容易に磁化されるが、磁化状態に留まらない傾向がある磁気的に「軟らかい」材料と、反対の挙動を示す磁気的に「硬い」材料とに分けることができる。磁気的に「硬い」材料は高い保磁力を有する一方、磁気的に「軟らかい」材料は低い保磁力を有する。明らかに、炭素原子の存在により、磁気的性質は磁気的に「より軟らかい」挙動に向かって変化する。これは驚くべきことである。なぜなら、従来から炭素は、例えば鋼の浸炭におけるように、強磁性材料の磁気的な硬度を高めるために使用されるからである。
【0019】
さらに、炭素(および場合により窒素とホウ素の一方または両方)の量を変化させることにより、キュリー温度Tc、磁気エントロピー変化ΔSmおよび熱ヒステリシスΔThysのような磁気熱量挙動の重要なパラメータを調整することが可能であることが判明した。
【0020】
典型的には、本発明による磁気熱量材料は、空間群P-62mを有する結晶格子の六方晶FeP構造を示す。対応する構造は、M. Bacmannらによる、MnFeP1-yAs組成の磁気熱量材料に関するJournal of Magnetism and Magnetic Materials 134(1994)の59-67頁に記述されている。
【0021】
空間群P-62mを有する結晶格子を有する六方晶FeP構造を示す材料は、ここでは、材料の体積の90%以上を占める主相を含む材料として理解され、前記主相は空間群P-62mを示す結晶格子を有する六方晶FeP構造を有している。空間群P-62mを示す結晶格子を有する六方晶FeP構造の存在は、X線回折パターンによって確認されている。
【0022】
好ましくは、本発明による磁気熱量材料は、空間群P-62mを有する結晶格子のFeP型の六方晶構造を示し、そこでは炭素原子が前記結晶格子の格子間位置を占めている。典型的には、炭素原子は空間群P-62mの結晶格子の格子間位置のみを占める、すなわち、結晶格子の結晶位置には炭素原子が存在しない。
【0023】
前記の好ましい磁気熱量材料の中にホウ素原子が存在する場合、ホウ素原子は空間群P-62mの前記結晶格子の結晶位置のみを占める、すなわち、結晶格子の格子間位置にはホウ素原子は存在しない。前記の好ましい磁気熱量材料の中に窒素原子が存在する場合、窒素原子は空間群P-62mの結晶格子の結晶位置および/または格子間位置を占める。
【0024】
本発明による特定の磁気熱量材料は、空間群P-62mを有する結晶格子のFeP型の六方晶構造を示し、そこでは炭素原子は6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める。
【0025】
前記特定の磁気熱量材料の中にホウ素原子が存在する場合、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。前記特定の磁気熱量材料の中に窒素原子が存在する場合、窒素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置、および/または、前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。
【0026】
ここで、「結晶位置」とは、母材FePに占める前記結晶構造の結晶格子の並進ルールによって規定される、所定の結晶構造(ここではFeP)における原子の位置を意味し、「格子間位置」は、同様に前記結晶構造の結晶格子の並進ルールによって規定される、所定の結晶構造に占めるが、母材FePに占めない原子の位置を意味している。
【0027】
形式的には、本発明の特定の好ましい磁気熱量材料は、空間群P-62mを有する結晶格子を有する六方晶FeP構造を示す対応する母材に由来すると考えることができる。前記母材は、鉄、マンガン、リンおよびシリコンからなる(すなわち、炭素も窒素もホウ素も含まない)。鉄、マンガン、リン、シリコンからなる前記母材では、鉄とマンガンは、FePにおいて鉄が占める結晶位置を占め、リンとシリコンは、FePにおいてリンが占める結晶位置を占めている。
【0028】
本発明の前記好ましい磁気熱量材料において、炭素原子は、もっぱら格子間位置を占める、すなわち、それらは、対応する母材のリン原子およびシリコン原子に加えて存在する。前記結晶格子の結晶位置には炭素原子は存在しない。対応する母材の鉄原子とマンガン原子の数は変わらない。
【0029】
ホウ素原子が本発明の前記好ましい磁気熱量材料中に存在する場合、それらは専ら位置を占め、それにより、鉄、マンガン、リンおよびシリコンからなる対応する母材のリン原子またはシリコン原子を置き換える。本発明の前記好ましい磁気熱量材料中に窒素原子が存在する場合、結晶位置を占める窒素原子は対応する母材のリン原子またはシリコン原子を置換し、そして格子間位置を占める窒素原子は対応する母材のリン原子およびシリコン原子に加えて存在する。
【0030】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第1のグループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占める。好ましくは、本発明による磁気熱量材料の前記第1グループにおいて、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第1グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、シリコン、リンおよび炭素からなる。
【0031】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第2グループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、ホウ素原子が空間群P-62mを有する結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第2グループにおいて、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/または、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第2グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素およびホウ素からなる。
【0032】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第3のグループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子が空間群P-62mを有する結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第3グループにおいて、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/または、窒素原子は前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の第3グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および窒素からなる。
【0033】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第4のグループでは、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子は空間群P-62mを有する結晶格子の格子間位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第4グループにおいて、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/または、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第4グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素及び窒素からなる。
【0034】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第5のグループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置および結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第5グループにおいて、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/または、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置および/または前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第5グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および窒素からなる。
【0035】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第6のグループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、ホウ素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占め、窒素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第6グループにおいて、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/または、ホウ素原子は、前記結晶格子の1b結晶位置を占め、および/または、窒素原子は、前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第6グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、ホウ素および窒素からなる。
【0036】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第7のグループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、ホウ素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占め、窒素原子が空間群P-62mを有す前記結晶格子の格子間位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第7グループにおいて、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/またはホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占め、および/または窒素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第7グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、ホウ素および窒素からなる。
【0037】
本発明による好ましい磁気熱量材料の第8のグループでは、炭素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、ホウ素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占め、窒素原子が空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置および結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第8グループでは、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、および/または、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占め、および/または、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置および/または前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。好ましくは、本発明による好ましい磁気熱量材料の前記第8グループの磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、ホウ素および窒素からなる。
【0038】
本発明による好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、および任意のホウ素と窒素の一方または両方からなり、一般式(I)の組成を有する。
【0039】
(MnFe1-x2+uSi (I)
【0040】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0≦r≦0.1、好ましくは0≦r≦0.07、さらに好ましくは0≦r≦0.04
0≦w≦0.1、好ましくは0≦w≦0.08
y+v+w≦1.05、好ましくは≦ 1.02、好ましくは≦1
y+v+w+r≧0.95、好ましくは≧0.98、好ましくは≧1
【0041】
ここで、式(I)による所与の材料において、
y+v+w≦y+v+w+r である。
【0042】
式(I)~(XI)において、添え字x、y、v、z、wおよびrは対応する元素(Mn、Fe、P、Si、C、BおよびN)の原子分率を示す。
【0043】
式(I)による磁気熱量材料は、空間群P-62mを有する結晶格子を有するFeP型の六方晶構造を示す。
【0044】
ホウ素も窒素も存在しない場合(w=r=0)、y+vは0.95~1.05の範囲、好ましくは0.98~1.02の範囲、最も好ましくはy+v=1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第1のグループに属する。
【0045】
窒素が存在せず(r=0)ホウ素が存在する(W>0)場合、ホウ素原子は専ら結晶位置を占め、y+v+wは0.95~1.05の範囲、好ましくはy+v+wは0.98~1.02の範囲、最も好ましくはy+v+w=1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第2のグループに属する。
【0046】
ホウ素が存在せず(w=0)、窒素が存在し(r>0)、窒素原子が結晶位置のみを占める(すなわち、窒素原子が格子間位置に存在しない)場合、y+v+rは0.95~1.05の範囲、好ましくは0.98~1.02の範囲、最も好ましくはy+v+r=1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第3のグループに属する。
【0047】
ホウ素が存在せず(w=0)、窒素が存在し(r>0)、窒素原子が格子間位置のみを占める(すなわち、窒素原子が結晶位置に存在しない)場合、y+vは0.95~1.05の範囲、好ましくは0.98~1.02の範囲、最も好ましくはy+v=1である。式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第4のグループに属する。
【0048】
ホウ素が存在せず(w=0)、窒素が存在し(r>0)、窒素原子が結晶位置および格子間位置を占める場合、y+vは、<1.05、好ましくは<1.02、最も好ましくは<1、およびy+v+rは、>0.95、好ましくは>0.98、最も好ましくは>1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第5のグループに属する。
【0049】
ホウ素が存在し(w>0)、窒素が存在し(r>0)、窒素原子が結晶位置のみを占める(すなわち、窒素原子が格子間位置に存在しない)場合、y+v+w+rは0.95~1.05の範囲、好ましくは0.98~1.02の範囲、最も好ましくはy+v+w +r=1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第6のグループに属する。
【0050】
ホウ素が存在し(w>0)、窒素が存在し(r>0)、窒素原子が格子間位置のみを占める(すなわち、窒素原子が結晶位置に存在しない)場合、y+v+wは0.95~1.05の範囲、好ましくは0.98~1.02の範囲、最も好ましくはy+v+w=1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第7のグループに属する。
【0051】
ホウ素が存在し(w>0)、窒素が存在し(r>0)、窒素原子が結晶位置および格子間位置を占める場合、y+v+wは、<1.05、好ましくは<1.02、最も好ましくは<1、およびy+v+rは、>0.95、好ましくは>0.98、最も好ましくは>1である。それらの式(I)による好ましい磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第8のグループに属する。
【0052】
式(I)の特定の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、シリコン、リン及び炭素からなり、一般式(II)の組成を有する。
【0053】
(MnFe1-x2+uSi (II)
【0054】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0.95≦y+v≦1.05、好ましくは0.98≦y+v≦1.02、さらに好ましくはy+v=1
【0055】
式(II)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占める。好ましくは、式(II)による前記磁気熱量材料において、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める。式(II)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第1のグループに属する。
【0056】
式(I)の特定の他の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素およびホウ素からなり、一般式(III)の組成を有する。
【0057】
(MnFe1-x2+uSi (III)
【0058】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < w≦0.1、好ましくは0.01≦w≦0.08
0.95≦y+v+w≦1.05、好ましくは0.98≦y+v+w≦1.02、さらに好ましくはy+v+w=1
【0059】
式(III)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、ホウ素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、式(III)による前記磁気熱量材料において、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。式(III)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第2のグループに属する。
【0060】
式(I)の特定の他の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および窒素からなり、一般式(IV)の組成を有する。
【0061】
(MnFe1-x2+uSi (IV)
【0062】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
y+v≦1.05、好ましくは≦ 1.02、好ましくは≦ 1
y+v+r≧0.95、好ましくは≧ 0.98、好ましくは≧ 1
【0063】
ここで、式(IV)による所与の材料において、
y+v < y+v+r である。
【0064】
式(IV)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置および/または格子間位置を占める。好ましくは、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置および/または前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。式(IV)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第3、第4及び第5のグループの1つに属する。
【0065】
式(IV)の特定の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および窒素からなり、一般式(V)の組成を有する。
【0066】
(MnFe1-x2+uSi (V)
【0067】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
0.95≦y+v+r≦1.05、好ましくは0.98≦y+v+r≦1.02、さらに好ましくはy+v+r= 1
【0068】
式(V)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、前記窒素原子は、前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。式(V)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第3のグループに属する。
【0069】
式(IV)の特定の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および窒素からなり、一般式(VI)の組成を有する。
【0070】
(MnFe1-x2+uSi (VI)
【0071】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
0.95≦y+v≦1.05、好ましくは0.98≦y+v≦1.02、さらに好ましくはy+v= 1
【0072】
式(VI)による磁気熱量材料において、炭素原子および窒素原子は、空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占める。好ましくは、炭素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は、前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占める。式(VI)による磁気熱量材料は、本発明の好ましい磁気熱量材料の上記規定した第4のグループに属する。
【0073】
式(IV)の特定の他の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素および窒素からなり、一般式(VII)の組成を有する。
【0074】
(MnFe1-x2+uSi (VII)
【0075】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
y+v < 1.05、好ましくは < 1.02、好ましくは < 1
y+v+r > 0.95、好ましくは > 0.98、好ましくは > 1.
【0076】
ここで、式(VII)による所与の材料において、
y+v < y+v+r である。
【0077】
式(VII)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置と格子間位置を占める。好ましくは、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置および前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占める。式(VII)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第5のグループに属する。
【0078】
式(I)の特定の他の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、窒素およびホウ素からなり、一般式(VIII)の組成を有する。
【0079】
(MnFe1-x2+uSi (VIII)
【0080】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0≦r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
0 < w≦0.1、好ましくは0.01≦w≦0.08
y+v+w≦1.05、好ましくは≦1.02、好ましくは≦1
y+v+w+r≧0.95、好ましくは≧0.98、好ましくは≧1
【0081】
ここで、式(VIII)による所与の材料において、
y+v+w < y+v+w+r である。
【0082】
式(VIII)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置および/または格子間位置を占め、ホウ素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置占める。好ましくは、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置および/または前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占め、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。式(VIII)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の第6、第7および第8のグループの1つに属する。
【0083】
式(VIII)の特定の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、窒素およびホウ素からなり、一般式(IX)の組成を有する。
【0084】
(MnFe1-x2+uSi (IX)
【0085】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
0 < w≦0.1、好ましくは0.01≦w≦0.08
0.95≦y+v+r+w≦1.05、好ましくは0.98≦y+v+r+w≦1.02、さらに好ましくはy+v+r+w= 1
【0086】
式(IX)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子およびホウ素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は前記結晶格子の1bおよび2c位置からなるグループから選択された結晶位置を占め、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。式(IX)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第6のグループに属する。
【0087】
式(VIII)の特定の他の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、窒素およびホウ素からなり、一般式(X)の組成を有する。
【0088】
(MnxFe1-x2+uSi(X)
【0089】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
0 < w≦0.1、好ましくは0.01≦w≦0.08
0.95≦y+v+w≦1.05、好ましくは0.98≦y+v+w≦1.02、さらに好ましくはy+v+w=1
【0090】
式(X)の磁気熱量材料において、炭素原子および窒素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、ホウ素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。式(X)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第7のグループに属する。
【0091】
式(VIII)の特定の他の好ましい磁気熱量材料は、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素、窒素およびホウ素からなり、一般式(XI)の組成を有する。
【0092】
(MnFe1-x2+uSi (XI)
【0093】
ここで、
-0.1≦u≦0.1、好ましくは-0.05≦u≦0.05
0.2≦x≦0.8、好ましくは0.3≦x≦0.7、さらに好ましくは0.35≦x≦0.65
0.3≦y≦0.75、好ましくは0.4≦y≦0.7
0.25≦v≦0.7、好ましくは0.3≦v≦0.6
0.001≦z≦0.15、好ましくは0.003≦z≦0.12、さらに好ましくは0.005≦z≦0.1
0 < r≦0.1、好ましくは0.005≦r≦0.07、さらに好ましくは0.01≦r≦0.04
0 < w≦0.1、好ましくは0.01≦w≦0.08
y+v+w < 1.05、好ましくは < 1.02、好ましくは < 1
y+v+w+r > 0.95、好ましくは > 0.98、好ましくは > 1
【0094】
ここで、式(XI)による所与の材料において、
y+v+w < y+v+w+r である。
【0095】
式(XI)による磁気熱量材料において、炭素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の格子間位置を占め、窒素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置および格子間位置を占め、ホウ素原子は空間群P-62mを有する前記結晶格子の結晶位置を占める。好ましくは、炭素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置からなる群から選択される格子間位置を占め、窒素原子は前記結晶格子の6kおよび6j位置から選択される格子間位置および前記結晶格子の1bおよび2c位置からなる群から選択される結晶位置を占め、ホウ素原子は前記結晶格子の1b結晶位置を占める。式(XI)による磁気熱量材料は、本発明による好ましい磁気熱量材料の上記規定した第8のグループに属する。
【0096】
本発明の特に好ましい磁気熱量物質は、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.05、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.1、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.15、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.030.05、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.030.1、Mn1.25Fe0.70.5Si0.50.030.15、Mn1.25Fe0.70.6Si0.40.05、Mn1.25Fe0.70.6Si0.40.1、Mn1.25Fe0.70.6Si0.40.15、MnFe0.950.67Si0.330.01、MnFe0.950.67Si0.330.02、MnFe0.950.67Si0.330.03、MnFe0.950.67Si0.330.05、MnFe0.950.67Si0.330.1、MnFe0.950.575Si0.330.0750.050.02
Mn1.18Fe0.730.48Si0.520.012、Mn1.19Fe0.730.48Si0.520.032、Mn1.16Fe0.750.47Si0.530.06 からなる群から選択される。
【0097】
本発明による好ましい磁気熱量材料は、
- 150K以上500K以下、好ましくは200K以上450K以下、さらに好ましくは240K以上350K以下の、キュリー温度Tc、
および/または、
- いずれの場合も1テスラの磁場変化において、3Jkg-1-1以上、好ましくは4Jkg-1-1以上、より好ましくは5Jkg-1-1以上の磁気エントロピー変化ΔSm、
および/または、
- それぞれ2K/分の掃引速度で0磁場において、10K以下、好ましくは5K以下、より好ましくは3K以下の、熱ヒステリシスΔThys
および/または、
- 0.2%以下、好ましくは0.1%以下の磁気相転移中の基本セルの体積変化、を示す。
【0098】
本発明による好ましい磁気熱量材料は、上記規定した2つ以上の好ましい特徴の組合せを示すものである。本発明による特に好ましい磁気熱量材料は、
- 150K~500K、好ましくは200K~450K、さらに好ましくは240K~350Kの範囲のキュリー温度Tc、
および/または、
- いずれの場合も1テスラの磁場変化において、3Jkg-1-1以上、好ましくは4Jkg-1-1以上、より好ましくは5Jkg-1-1以上の磁気エントロピー変化ΔSm、
および/または、
- それぞれ2K/分の掃引速度で0磁場において、10K以下、好ましくは5K以下、より好ましくは3K以下の、熱ヒステリシスΔThys
および/または、
- 0.2%以下、好ましくは0.1%以下の磁気相転移中の基本セルの体積変化、を示す。
【0099】
キュリー温度Tcおよび熱ヒステリシスΔThysは、示差走査熱量測定(DSC)ゼロ磁場測定から決定される。磁気エントロピー変化ΔSmは、Maxwellの関係式を使用して磁化測定から導き出される。磁気相転移中の基本セルの体積変化は、ゼロ磁場でTc付近の温度範囲の温度の関数としてX線回折パターンから決定される。
【0100】
本発明の好ましい磁気熱量材料は、一次的性質の磁気相転移(一次磁気弾性転移FOMT)を示す。磁気相転移の一次的性質は、キュリー温度Tcの近傍で外部磁場を印加したときの磁化の線形以上の変化によって証明される。
【0101】
本発明のさらなる態様は、上記のような磁気熱量材料の製造方法に関し、前記方法は、以下の工程を含む。
【0102】
(a)鉄、マンガン、リン、シリコンおよび任意の炭素の元素原子を含む前駆体の混合物を提供する。
(b)工程(a)で提供された混合物を、以下の工程を含んで反応させて固体反応生成物を得る。
(b-1)工程(a)で得られた混合物を固相中で反応させて固体反応生成物を得る。
および/または
(b-2)工程(a)で得られた混合物または工程(b-1)で得られた固体反応生成物を液相に移し、液相で反応させて液反応生成物を得る、そして液反応生成物を固相に移して固体反応生成物を得る。
(c)工程(b)で得られた固体反応生成物を任意に成形して成形固体反応生成物を得る。
(d)工程(b)で得られた固体反応生成物または工程(c)で得られた成形固体反応生成物を、1種以上の炭化水素を含む雰囲気に任意に曝して浸炭生成物を得る。
(e)工程(b)で得られた固体反応生成物または工程(c)で得られた成形固体反応生成物または工程(d)で得られた浸炭生成物を熱処理して熱処理物を得る。
(f)工程(e)で得られた熱処理物を冷却して冷却物を得る。
そして、
(g)工程(f)で得られた冷却物を任意に成形する。
【0103】
ただし、次の条件のうち少なくとも1つが満たされるという条件がある。
【0104】
- 工程(a)で提供される混合物は、鉄、マンガン、リン、シリコンおよび炭素の元素原子を含むこと。
- 工程(d)が実行されること。
【0105】
本発明による方法では、炭素原子は、工程(a)で提供される混合物中の炭素原子を含む前駆体の形態、および/または、工程(d)で炭化水素の形態で提供される。したがって、本発明による方法では、以下の条件のうち少なくとも1つが満たされなければならない。
【0106】
- 工程(a)で提供される混合物は、鉄、マンガン、リン、シリコンおよび炭素の元素原子を含む前駆体を含むこと。
- 工程(d)が実行されること。
【0107】
本発明による特定の方法では、工程(a)で提供される混合物は、鉄、マンガン、リン、シリコンおよび炭素の元素原子を含む前駆体を含み、工程(d)が実施される。
【0108】
本発明による他の方法では、工程(a)で提供される混合物は、鉄、マンガン、リン、シリコンの元素原子を含み、炭素原子を含まない前駆体を含み、工程(d)が実行される。
【0109】
本発明による他の方法では、工程(a)で提供される混合物は、鉄、マンガン、リン、シリコンおよび炭素の元素原子を含む前駆体を含み、工程(d)は省略される。
【0110】
工程(a)で提供される前駆体の混合物において、マンガン、鉄、シリコンおよびリンおよび任意の炭素、ホウ素および窒素の元素原子の総量の化学量論比は、前記前駆体の混合物においてマンガン、鉄、シリコンおよびリンの元素原子の総量の化学量論比が式(I)に対応するように調整される。
【0111】
任意に、工程(a)で提供される混合物は、窒素原子を含む前駆体および/またはホウ素原子を含む前駆体をさらに含む。
【0112】
前駆体の混合物において、マンガン、鉄、リン、シリコン、炭素(存在する場合)およびホウ素(存在する場合)は、元素の形、および/または、1つ以上の前記元素を含む1つ以上の化合物、好ましくは二つ以上の前記元素からなる1つ以上の化合物の形で存在する。窒素が前駆体の混合物中に存在する場合、窒素は、窒素が負の酸化数を有する1つ以上の化合物の形で存在することが好ましい。
【0113】
工程(a)で提供される前駆体の混合物は、好ましくは、元素マンガン、元素鉄、元素シリコン、元素リン、鉄のリン化物、マンガンのリン化物、および任意の1つ以上の元素炭素、鉄の炭化物、マンガンの炭化物、炭化可能な有機化合物、元素ホウ素、鉄の窒化物、鉄のホウ化物、マンガンのホウ化物、アンモニアガスおよび窒素ガス、からなる群から選択される1つ以上の物質を含む。
【0114】
特に好ましい前駆体の混合物は、マンガン、鉄、赤リン、シリコン、ならびに1種以上の元素炭素および炭化可能な有機化合物を含むかまたはそれらから構成される。
【0115】
元素炭素は、グラファイトおよび非晶質炭素からなる群から選択することができる。炭化可能な有機化合物の熱分解から得られる炭素も炭素原子を提供するための適切な前駆体である。炭化可能な有機化合物は、熱分解(熱および非酸化性雰囲気下での結合の熱化学的開裂、炭化とも呼ばれる)によって主に炭素からなる生成物に変換され得るものである。あるいは代替的に、工程(a)において、炭化可能な有機化合物が前駆体の混合物中に提供され、工程(b)の間に熱分解される。
【0116】
工程(a)は、任意の適切な方法で行われる。好ましくは、前駆体は粉末であり、および/または、前駆体の混合物は粉末混合物である。必要ならば、微結晶粉末混合物を得るために混合物は粉砕される。混合は、続く工程(b)において固体状態で前駆体の混合物を反応させるための適切な状態をも提供するボールミル粉砕の期間を含んでもよい(下記参照)。
【0117】
工程(b)では、工程(a)で提供された混合物は固相および/または液相で反応される。本発明による特定の方法では、反応は、工程(b)の全期間にわたって固相(b-1)中で行われ、固体反応生成物が得られる。本発明による他の方法では、反応は専ら液相(b-2)中で行われ、液体反応生成物が得られ、それが固相に移されて固体反応生成物が得られる。代替的に、工程(b)による反応は、反応が固相で行われる1つ以上の期間と、反応が液相で行われる1つ以上の期間とを含む。好ましい場合には、工程(b)における反応は、反応が固相(b-1)中で行われる第一期間と、それに続く液相(b-2)中で反応が行われて液体反応生成物が得られ、それが固相に移されて固体反応生成物が得られる第二期間とからなる。好ましくは、工程(b)は保護ガス雰囲気下で行われる。
【0118】
本発明による好ましい方法では、工程(b-1)において固相での混合物の反応はボールミル粉砕を含み、それにより粉末形態の固体反応生成物が得られる。
【0119】
本発明による別の好ましい方法では、工程(b-2)において混合物の反応は、例えば、誘導オーブン中で、好ましくは保護ガス(例えばアルゴン)雰囲気下および/または密閉容器内で前駆体の混合物を一緒に溶融することによって液相中で混合物を反応させることを含む。工程(b-2)はまた、前記液体反応生成物を固相に移して固体反応生成物を得ることを含む。前記液体反応生成物を固相に移すことは、任意の適切な方法、例えば、急冷、溶融紡糸または噴霧によって行われる。
【0120】
急冷とは、工程(b-2)で得られた液体反応生成物を、前記液体反応生成物の温度を静止空気と接触して低下するよりも早く低下するように冷却することを意味する。
【0121】
溶融紡糸の技術は当技術分野において公知である。工程(b-2)で得られた液体反応生成物の溶融紡糸では、冷間回転金属ロールまたはドラム上に噴霧する。典型的には、ドラムまたはロールは銅製である。噴霧は、噴霧ノズルの上流の昇圧または噴霧ノズルの下流の減圧によってなされる。典型的には、回転ドラムまたはロールは冷却される。ドラムまたはロールは、好ましくは10~40m/秒、特に20~30m/秒の表面速度で回転する。ドラムまたはロール上で、液体組成物は、好ましくは10~10K/秒の速度で、より好ましくは少なくとも10K/秒の速度で、特に(0.5~2)×10K/秒の速度で冷却される。好ましくは、溶融紡糸は、保護ガス(例えば、アルゴン)雰囲気下で行われる。溶融紡糸は、得られる反応生成物中のより均一な元素分布を可能にし、それは改善された磁気熱量効果をもたらす。
【0122】
噴霧は、工程(b-2)で得られた液体反応生成物を、例えば、ウォータージェット、オイルジェット、ガスジェット、遠心力または超音波エネルギーによって、小さな液滴へ機械的に分解することに相当する。液滴は固化して基板上に集められる。
【0123】
本発明による好ましい方法では、工程(b-2)において、得られた液体反応生成物を固相に移すことは、急冷、溶融紡糸または噴霧によって行われる。
【0124】
工程(b)において、工程(a)で提供される前駆体の混合物中に存在するすべての炭化可能な有機化合物は、熱分解され、すなわち炭素に転移される。
【0125】
工程(c)は、任意の適切な方法で行われる。例えば、工程(b)で得られた反応生成物が粉末である場合、工程(c)において、工程(b)で得られた前記粉末は、加圧、成型、圧延、押出加工(特に熱間押出加工)または金属射出成形によって成形される。
【0126】
工程(d)は、鉄合金、特に鋼の一般に知られているガス浸炭と類似の方法で行われる。工程(d)で使用される炭化水素は、好ましくはメタン、プロパンおよびアセチレンからなる群から選択される。好ましくは、工程(b)で得られた固体反応生成物または工程(c)で得られた成形された固体反応生成物がさらされる雰囲気は、さらに不活性ガス、例えば、アルゴンを含む。
【0127】
工程(b)で得られた固体反応生成物または工程(c)で得られた成形固体反応生成物が、100μm以下、さらには10μm以下のサイズを有する粒子の形態である場合、通常の浸炭条件下では炭素の拡散深さは数ミリメートルの範囲にあるので、工程(d)では炭素の比較的均一な充填量を有する生成物(浸炭生成物)を得ることができる。
【0128】
浸炭鉄合金は、それらの非浸炭前駆体と比較して、機械的に強くそしてより耐食性である。本発明の磁気熱量材料については、工程(d)は同様の有利な効果を有すると考えられている。
【0129】
工程(e)は、任意の適切な方法で行われる。工程(e)において、工程(b)で得られた固体反応生成物または工程(c)で得られた成形固体反応生成物または工程(d)で得られた浸炭生成物がさらされる最高温度は、溶融温度より低い。工程(e)は、構造的欠陥を修復するため、および、工程(b)で得られた反応生成物または工程(d)で得られた浸炭生成物を熱力学的に安定化させるため、および/または、工程(c)で得られた成形固体反応生成物を強化および圧縮するため、材料粒子を融合することによって行われる。
【0130】
好ましくは、工程(e)において、熱処理は、工程(b)で得られた固体反応生成物、または、工程(c)で得られた成形固体反応生成物、または、工程(d)で得られた浸炭生成物を、好ましくは保護ガス雰囲気下で焼結することを含む。
【0131】
特に好ましくは、工程(e)において、熱処理は900℃~1250℃、好ましくは950℃~1150℃、最も好ましくは1025℃~1125℃の範囲の温度で、好ましくは1時間から30時間、好ましくは5時間から25時間、最も好ましくは10時間から20時間行われる。
【0132】
工程(b)が溶融紡糸を含む本発明による特に好ましい方法では、溶融紡糸は得られる反応生成物にかなり均一な元素分布をもたらすので、5時間以下の熱処理時間で十分である。
【0133】
本発明による特に好ましい方法では、工程(e)において、熱処理は以下のことを含む。
【0134】
- 工程(b)で得られた固体反応生成物、または、工程(c)で得られた成形固体反応生成物、または、工程(d)で得られた浸炭生成物を、1000℃~1200℃の範囲の温度で焼結すること。
- 任意に焼結生成物を750℃~950℃の範囲の温度で焼鈍すること。
- 焼結および任意に焼鈍した生成物を100K/秒までの冷却速度で室温まで冷却すること。
- 任意に冷却された生成物を再加熱し、1000℃~1200℃の範囲の温度で再焼結すること。
【0135】
さらに好ましくは、工程(e)において、熱処理は以下のことを含む。
【0136】
- 工程(b)で得られた固体反応生成物、または、工程(c)で得られた成形固体反応生成物、または、工程(d)で得られた浸炭生成物を、1000℃~1200℃の範囲の温度で焼結すること。
- 焼結生成物を750℃~950℃の範囲の温度で焼鈍すること。
- 焼結および焼鈍生成物を100K/秒までの冷却速度で室温まで冷却すること。
- 冷却された生成物を再加熱し、1000℃~1200℃の範囲の温度で再焼結する。
【0137】
工程(e)を行うこの好ましい態様では、焼結段階中に材料粒子が互いに融合し、成形固体反応生成物の材料粒子間の結合力が増大し、気孔率が減少し、焼鈍段階中に結晶構造が均質化され、結晶欠陥が修復される。
【0138】
工程(e)内で、焼結され任意に焼鈍された生成物の冷却は、オーブンを停止することにより行われ得る(専門家には「オーブン冷却」として知られている)。
【0139】
工程(f)は、任意の適切な方法で行われる。本発明による好ましい方法では、工程(f)は、工程(f)で得られた熱処理生成物を液体または気体媒体と接触させ、好ましくは200K/秒以下、好ましくは100K/秒以下、最も好ましくは25K/秒以下の急冷速度で接触させることを含む。
【0140】
特に好ましくは、急冷は、工程(e)で得られた熱処理生成物を水または水性液体、例えば冷却水または氷/水混合物と接触させることによって行われる。例えば、工程(e)で得られた熱処理生成物を氷で冷却した水につけることができる。また、工程(e)で得られた熱処理生成物を液体窒素または液体アルゴンのような過冷却ガスで急冷することもできる。
【0141】
工程(g)は、任意の適切な方法で行われる。例えば、工程(f)で得られた冷却された生成物が所望の技術的用途に適さない形状である場合(例えば粉末形態)、工程(f)において、工程(f)で得られた前記冷却された生成物は、加圧、成型、圧延、押出加工(特に熱間押出加工)または金属射出成形によって成形体に形成される。代替的に、粉末形態または粉末形態に成形された工程(f)で得られた冷却された生成物が、結合剤と混合され、前記混合物が工程(g)において成形体に形成される。適切な結合剤は、オリゴマーおよびポリマー結合系であるが、低分子量有機化合物、例えば糖を使用することも可能である。混合物の成形は、好ましくは鋳造、射出成形または押出しによって達成される。結合剤は、成形体中に残存するか、触媒的もしくは熱的に除去され、モノリス構造またはメッシュ構造を有する多孔質体が形成される。
【0142】
本発明による好ましい方法は、上記規定された好ましい特徴の2つ以上の組合せを示すものである。
【0143】
さらなる態様において、本発明は、冷却システム、熱交換器、ヒートポンプ、熱磁気発電機および熱磁気スイッチからなる群から選択される装置における本発明による磁気熱量材料の使用に関する。好ましくは、前記磁気熱量材料は、上述の好ましい磁気熱量材料のうちの1つであり、好ましくは、上述の式(I)~(XI)のいずれかによる組成を有する磁気熱量材料である。
【0144】
さらなる態様では、本発明は、冷却システム、熱交換器、ヒートポンプ、熱磁気発電機および熱磁気スイッチからなる群から選択される装置に関し、ここで前記装置は、本発明による少なくとも1つの磁気熱量材料を含む。好ましくは、前記磁気熱量材料は、上述の好ましい磁気熱量材料のうちの1つであり、好ましくは、上述の式(I)~(XI)のいずれかによる組成を有する磁気熱量材料である。本発明は以下の実施例によりさらに説明される。
【0145】
実施例
ボールミル粉砕による磁気熱量材料の製造
工程(a)
本発明による磁気熱量材料の製造のために、各場合において、前駆体元素マンガン、元素鉄、元素赤リン、元素シリコンおよびグラファイト、ならびに任意の窒化鉄および元素ホウ素の一方または両方(それぞれ粉末の形態)からなる前駆体混合物15gが用意された。本発明によらない比較材料の製造のために、前駆体混合物はグラファイトを含まなかった。
【0146】
工程(b-1)
本発明による磁気熱量材料は、4つの粉砕ボールファスナーを有する遊星ボールミル(Fritsch Pulverisette)を使用し、工程(a)で提供された混合物を固相で反応させることによって製造された。各粉砕ボウル(80ml容量)は、炭化タングステン製の7個のボール(直径10mm)と、工程(a)で用意した15gの前駆体混合物とを含む。混合物はアルゴン雰囲気中で380rpmの一定の回転速度で10時間ボールミル粉砕された。(ボールミル粉砕の合計時間は16.5時間である。装置は15分ごとのミリ粉砕後に10分間停止した)。
【0147】
工程(c)
ボールミル粉砕後、粉末の形態である得られた反応生成物は、1.47kPa(150kgfcm-2)の圧力で油圧プレスシステムによって小さい錠剤(直径12mm、高さ5~10mm)に圧縮された。
【0148】
工程(e)
圧縮後、錠剤は、20kPa(200mbar)のアルゴン雰囲気中で石英アンプル中に密封された。その後、試料は1100℃で2時間焼結され、850℃で20時間焼き戻された。焼き戻された試料は、オーブンを停止することによりゆっくりと室温まで冷却され(「オーブン冷却」として専門家に知られている)、その後均質な組成物を得るために1100℃で20時間再焼結された。
【0149】
工程(f)
工程(e)の熱処理は、アンプルを水と接触させることで終了した。
【0150】
上記の方法で製造された磁気熱量材料の組成および対応する前駆体混合物の組成(各前駆体の重量はグラム)を以下の表1~4に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
【表2】
【0153】
【表3】
【0154】
【表4】
【0155】
溶融紡糸による磁気熱量材料の製造
工程(a)
本発明による磁気熱量材料の製造のために、各場合において、前駆体元素マンガン、元素鉄、元素状赤リン、元素シリコンおよびグラファイトからなる前駆体混合物が用意された。本発明によらない比較材料の製造のために、前駆体混合物はグラファイトを含まなかった。
【0156】
工程(b-1)
前駆体混合物は、アルゴン雰囲気下でタングステンカーバイドボール(m≒8g)を有するタングステンカーバイドジャー(V≒380ml)中でボールミル粉砕によって粉砕された。ボールミル粉砕の時間は10時間、回転速度は360rpmであった。ボールミル粉砕後に得られた微粉末は錠剤に圧縮された。
【0157】
工程(b-2)
工程(b-1)で得られた錠剤が溶融され液状の反応生成物が得られた。得られた液体反応生成物は溶融紡糸により固相に移された。銅ホイールの表面速度は約45m/sであった。
【0158】
工程(e)
溶融紡糸により製造された固体生成物(リボン状またはフレーク状)は、200ミリバールのアルゴン雰囲気中で石英アンプル中に密封された。密封された試料は1373Kで2時間焼結された。
【0159】
工程(f)
工程(e)の熱処理は、アンプルを水と接触させることで終了した。
【0160】
得られた材料は次の組成を有した:MnFe0.950.67Si0.33(本発明によらない比較材料)、MnFe0.950.67Si0.330.05およびMnFe0.950.67Si0.330.1
【0161】
磁気熱量特性の測定
測定前に、試料は未使用効果を除去するために液体窒素中で予備冷却された。その後、試料は測定用の粉末を製造するために乳鉢で手で粉砕された。
【0162】
液体窒素冷却システムを備えた示差走査熱量計(DSC)が比熱を測定するために使用された。測定は10K /分の掃引速度で行行われた。キュリー温度Tcおよび熱ヒステリシスΔThysは、DSCゼロ磁場測定(加熱曲線および冷却曲線)から決定された。磁化測定は、超伝導量子干渉装置(SQUID)磁力計(Quantum Design MPMS 5XL)において往復試料オプション(RSO)モードを用いて行われた。キュリー温度付近の温度依存磁化は、2K/分の掃引速度で冷却および加熱モードで0.05、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8および2.0Tで測定された。磁気エントロピー変化ΔSmは、Maxwellの関係式を使用して、加熱モードでの磁化測定から導き出された。
【0163】
図1A~1Dは、表1~4による材料について、1Tの磁場中における冷却および加熱(掃引速度2k/分)中に記録された比磁化(質量当たりの磁化)の温度依存性を示している。
【0164】
図2は、表1の全ての材料について、1Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
【0165】
図3A~3Dは、表1の個々の材料のそれぞれについて、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
【0166】
図4Aおよび4Bは、表4の各材料について、0.5T、1T、1.5Tおよび2Tの磁場変化における磁気エントロピー変化ΔSmを示している。
【0167】
表1-4の材料のパラメータキュリー温度Tc、熱ヒステリシスΔThysおよび磁気エントロピー変化ΔSm(測定されている場合)は、下記の表5-8に記載されている。
【0168】
【表5】
【0169】
【表6】
【0170】
【表7】
【0171】
【表8】
【0172】
表5~8から、炭素、ならびに任意のホウ素および窒素の一方または両方の存在は、鉄、マンガン、リンおよびシリコンからなる対応する母材に対して、パラメータキュリー温度Tc、熱ヒステリシスΔThysおよび磁気エントロピー変化ΔSmを調整可能であると結論づけられる。
【0173】
図5Aは、溶融紡糸材料MnFe0.950.67Si0.33、MnFe0.950.67Si0.330.05およびMnFe0.950.67Si0.330.01について、154Am/kgの比磁化に達するのに必要な磁場強度は、炭素含有量の増加とともに減少することを示している。図5Bは、同じ材料について、0.2Tの磁場強度で実現される比磁化は、炭素含有量の増加と共に増加することを示している。従って、マンガン、鉄、リン、およびシリコン加えて炭素を含む磁気熱量材料は、マンガン、鉄、シリコン、リンを含み炭素を含まない磁気熱量材料と比較して、より低い磁場強度で同じ比磁化に達する。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B