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▶ 一般社団法人八角平和計画研究所の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】シキミ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/47 20060101AFI20220418BHJP
   C07C 62/32 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C07C51/47
C07C62/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021087724
(22)【出願日】2021-05-25
(62)【分割の表示】P 2017161507の分割
【原出願日】2017-08-24
(65)【公開番号】P2021121631
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520033890
【氏名又は名称】一般社団法人八角平和計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】内海 和夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 靖司
(72)【発明者】
【氏名】豊島 宏一
(72)【発明者】
【氏名】武田 徹
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0161818(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0149805(US,A1)
【文献】特開2012-188374(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1978422(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101391951(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101759557(CN,A)
【文献】"Isolation of Shikimic Acid from Pinus Massoniana Lamb",Zhongguo Yiyao Gongye Zazhi 和文資料名 : 中国医薬工業雑誌,中国,2009年,Vol.40 No.8,Page.581-583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シキミ酸を含む植物を粉砕して粉砕物とする工程(E0)と、
前記粉砕物からシキミ酸を抽出する工程(E1)と、
シキミ酸を含む抽出液を植物細胞壁分解酵素で処理する工程(E1a)と、
シキミ酸を含む抽出液を固液分離する工程(E2)と、
前記固液分離を経て得られた溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程(P1)と、
両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(P1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程(P2)と、
をこの順序で含む、シキミ酸の製造方法。
【請求項2】
前記シキミ酸を回収する工程において、
工程(P2)の後に、工程(P2)で得られた分画を濃縮乾燥する工程(P3)を含む、請求項1に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項3】
前記シキミ酸を回収する工程において、前記工程(P1)と前記工程(P2)の間に、
前記工程(P1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程(P1a)を更に含む、請求項1又は2に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性合成吸着剤が、芳香族系合成吸着剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項5】
前記工程(E1)において、水を含む抽出溶媒を使用する、請求項1~4のいずれか一項に記載のシキミ酸の製造方法。
【請求項6】
前記強塩基性陰イオン交換樹脂がジメチルエタノールアンモニウム基を有する、請求項3に記載のシキミ酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シキミ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然有機化合物であるシキミ酸は、芳香族アミノ酸やアルカノイド等の生合成の重要な中間体であり、工業的には、医薬品や除草剤、抗菌物質等の合成の原料化合物として利用されている。例えば、シキミ酸は、インフルエンザ治療薬オセルタミブルの原料化合物として知られている。
【0003】
このシキミ酸の製造方法の一つとして、植物のトウシキミからシキミ酸を溶媒で抽出し、シキミ酸を含む抽出液からシキミ酸を分離し製造する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、脱脂したトウシキミの粉砕物からシキミ酸をエタノールまたはメタノールで抽出し、活性炭で脱色した後、粗結晶から晶析させるトウシキミの抽出分離方法が開示されている。
特許文献2には、セルロースを溶解可能なイオン液体を加えて植物からシキミ酸を抽出し、強塩基性陰イオン交換樹脂によりイオン液体を除去後に、シキミ酸を取得するシキミ酸の取得方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許第101168503号明細書
【文献】特開2012-188374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、植物に含まれるシキミ酸の収率が低いという問題があった。また、特許文献2に記載の製造方法も、シキミ酸の収率は低く、さらに、イオン液体のような特殊な溶剤を使用する必要がある。
かかる状況下、本発明の目的は、シキミ酸を収率よく得ることのできるシキミ酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程を含み、前記シキミ酸を回収する工程が、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程(P1)と、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(P1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程(P2)とを含むシキミ酸の製造方法。
<2> 前記シキミ酸を回収する工程において、工程(P2)の後に、工程(P2)で得られた分画を濃縮乾燥する工程(P3)を含む、<1>に記載のシキミ酸の製造方法。
<3> 前記シキミ酸を回収する工程の前に、シキミ酸を含有する溶液を得る工程を含み、前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程が、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出する工程(E1)と、前記工程(E1)の後にシキミ酸を含む抽出液を固液分離する工程(E2)とを含む、<1>又は<2>に記載のシキミ酸の製造方法。
<4> 前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程において、前記工程(E1)の前に、シキミ酸を含む植物を粉砕して粉砕物とする工程(E0)を含み、前記工程(E1)と前記工程(E2)の間に、シキミ酸を含む抽出液を酵素で処理する工程(E1a)を更に含む、<3>に記載のシキミ酸の製造方法。
<5> 前記シキミ酸を回収する工程において、前記工程(P1)と前記工程(P2)の間に、前記工程(P1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程(P1a)を更に含む、<1>から<4>のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
<6> 前記疎水性合成吸着剤が、芳香族系合成吸着剤である、<1>から<5>のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
<7> 前記シキミ酸を含む植物がシキミ族の植物である、<3>又は<4>に記載のシキミ酸の製造方法。
<8> 前記酵素が植物細胞壁分解酵素である、<4>に記載のシキミ酸の製造方法。
【0008】
<9> シキミ酸を含有する溶液を得る工程を含み、前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程が、シキミ酸を含む植物を粉砕し粉砕物とする工程(e0)と、前記工程(e0)で得られた粉砕したシキミ酸を含む植物からシキミ酸を、水を含む溶媒で抽出し、抽出液を得る工程(e1)と、前記工程(e1)で得られた抽出液を酵素で処理する工程(e1a)と、前記工程(e1a)を行った抽出液を固液分離する工程(e2)とを含むシキミ酸の製造方法。
<10> 前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程の後に、シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程を含み、前記シキミ酸を回収する工程が、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程(p1)と、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(p1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程(p2)とを含む<9>に記載のシキミ酸の製造方法。
<11> 前記シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程において、工程(p2)の後に、工程(p2)で得られた分画を濃縮乾燥する工程(p3)を含む、<10>に記載のシキミ酸の製造方法。
<12> 前記シキミ酸を回収する工程において、前記工程(p1)と前記工程(p2)の間に、前記工程(p1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程(p1a)を更に含む、<10>又は<11>に記載のシキミ酸の製造方法。
<13> 前記疎水性合成吸着剤が、芳香族系合成吸着剤である、<10>から<12>のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
<14> 前記シキミ酸を含む植物がシキミ族の植物である、<9>から<13>のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
<15> 前記酵素が植物細胞壁分解酵素である、<9>から<14>のいずれかに記載のシキミ酸の製造方法。
【0009】
<16> 前記強塩基性陰イオン交換樹脂がジメチルエタノールアンモニウム基を有する、<5>又は<12>に記載のシキミ酸の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シキミ酸を収率よく得ることのできるシキミ酸の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0012】
本発明は、シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程を含み、前記シキミ酸を回収する工程が、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程(P1)と、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(P1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程(P2)とを含むシキミ酸の製造方法(以下、「本発明の製法方法(I)」と記載する場合がある。)に関する。
【0013】
本発明者らは、シキミ酸を含む抽出液を活性炭処理や粗結晶から晶析させてシキミ酸を得る方法では、回収されないシキミ酸の量が多く、これが収率低下の原因となっていることを見出した。本発明の製造方法(I)では、工程(P1)及び工程(P2)を含むことにより、シキミ酸を含有する溶液から純度の高いシキミ酸を収率よく得ることができる。これは、本発明の製造方法(I)では、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理することにより、シキミ酸を含有する溶液中に含まれる不純物の多くを除去することができ、イオン交換クロマトグラフィー法にてシキミ酸を分離溶出するときに、シキミ酸と不純物が分離しやすくなったためと考えられる。
【0014】
また、本発明は、シキミ酸を含有する溶液を得る工程を含み、前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程が、シキミ酸を含む植物を粉砕し粉砕物とする工程(e0)と、前記工程(e0)で得られた粉砕したシキミ酸を含む植物からシキミ酸を、水を含む溶媒で抽出し、抽出液を得る工程(e1)と、前記工程(e1)で得られた抽出液を酵素で処理する工程(e1a)と、前記工程(e1a)を行った抽出液を固液分離する工程(e2)とを含むシキミ酸の製造方法(以下、「本発明の製造方法(II)」と記載する場合がある。)に関する。
【0015】
本発明者らは、シキミ酸を含む植物の粉砕物から、特殊な溶剤を使用せずに、水を含む溶媒で抽出する場合、抽出液の濾過性が低く問題となることを見出した。本発明の製造方法(II)では、工程(e0)、工程(e1)、工程(e1a)及び工程(e2)を含むことで、シキミ酸の抽出量を向上させ、かつ、濾過性が改善する。これは、シキミ酸を、水を含む溶媒で抽出した抽出液の濾過性低下の原因が、抽出液中に存在する微粒子(特に1μm以下の微粒子)であり、酵素で処理することでこれらの微粒子が分解されるためと考えられる。すなわち、シキミ酸を、水を含む溶媒で抽出した抽出液中には微粒子が多量に存在し、濾過等の固液分離時にこれらの微粒子がフィルター等に目詰まりしやすい。抽出液を酵素で処理することで、抽出液中の微粒子が分解され、フィルター等への目詰まりが抑制される。これにより濾過性が向上したと考えられる。
【0016】
以下、本発明の製造方法(I)および本発明の製造方法(II)について、それぞれ説明する。
【0017】
[本発明の製造方法(I)]
本発明の製造方法(I)は、シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程を含み、前記シキミ酸を回収する工程が、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程(P1)と、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(P1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程(P2)とを含むシキミ酸の製造方法である。
【0018】
[工程(P1)]
工程(P1)は、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程である。
本発明者らは、シキミ酸を含有する溶液(特に、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出した抽出液)に含まれる不純物(着色物質等)の多くが、疎水性合成吸着剤に物理的に吸着しやすいことを見出した。そのため、疎水性合成吸着剤で処理することにより、シクロヘキセン環を有するシキミ酸は疎水性合成吸着剤へ物理的に吸着せず溶出される。一方で、不純物の多くは疎水性合成吸着剤へ物理的に吸着し、除去することができる。
【0019】
シキミ酸を含有する溶液は、例えば、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出した抽出液等が挙げられる。シキミ酸を含有する溶液は、そのまま用いてもよいし、適宜濃縮または希釈して用いてもよい。
なお、シキミ酸を含有する溶液の調製方法について詳しくは後述する。
【0020】
「疎水性合成吸着剤」とは、多孔構造を有する架橋高分子で構成された疎水性の吸着剤であり、細孔と被吸着物質間の物理的相互作用により溶液中の種々の有機物を吸着する性質を有するものである。
【0021】
疎水性合成吸着剤の種類は、本発明の目的を達成できる範囲において特に限定されず適宜選択すればよい。ベンゼン環を有するシキミ酸経路で生成する有機性の不純物の除去効率をより向上させるため、疎水性合成吸着剤は芳香族系合成吸着剤であることが好ましい。「芳香族系合成吸着剤」とは、合成吸着剤を構成する架橋高分子がベンゼン環等の芳香族環基を有するものである。芳香族系合成吸着剤としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔質体が挙げられる。
【0022】
疎水性合成吸着剤の細孔は特に限定されない。疎水性合成吸着剤は、細孔容積0.5~3mL/gであることが好ましく、1~3mL/gであることがより好ましく、1~2mL/gであることがさらに好ましい。また、疎水性合成吸着剤は、通常、球状である。また、その粒径は、250μm以上が90%以上であることが好ましい。
【0023】
疎水性合成吸着剤として具体的には、「ダイヤイオン(登録商標)HP20」(三菱ケミカル株式会社製)、「ダイヤイオン(登録商標)HP21」(三菱ケミカル株式会社製)等を挙げることができる。
【0024】
本発明において、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理する方法としては、シキミ酸を含有する溶液と疎水性合成吸着剤を接触させることができれば、特に限定されない。例えば、反応容器にシキミ酸を含有する溶液、疎水性合成吸着剤、必要に応じて溶媒を入れて攪拌する回分法や、疎水性合成吸着剤を充填したカラムにシキミ酸を含有する溶液を通液させる方法等が挙げられる。
【0025】
使用する疎水性合成吸着剤の量は、シキミ酸を含有する溶液に含まれる不純物を吸着できる量以上であれば特に制限はない。原料が八角の場合には、八角1kgに対して、2L以上の疎水性合成吸着剤を用いることが好ましい。
【0026】
また、疎水性合成吸着剤を充填したカラムにシキミ酸を含有する溶液を通液させる場合、シキミ酸を含有する溶液の通液が終了した時点ではカラム内に処理されていない液が残存している場合が多い。このため、さらに溶媒を使用して洗浄を行うことが好ましい。カラム内にシキミ酸がほとんど残存しないようにするためには、疎水性合成吸着剤に対して、1.5容量倍量以上の溶媒で洗浄を行うことが好ましい。
洗浄に用いる溶媒は、通常、水であり、脱塩水、蒸留水、純水等の水を利用できる。
【0027】
また、疎水性合成吸着剤にシキミ酸を含有する溶液を流す空間速度(以下SVと表記)は、通常、SV=0.5~5(1/Hr)であり、SV=1~2(1/Hr)であることが好ましい。
なお、SVとは、1時間当たりに、樹脂(合成吸着剤、イオン交換樹脂または両性イオン交換樹脂)の容量の何倍量を通液したかを示す単位である。SVは、
SV=流量(L/Hr)/充填された樹脂量(L)
で求めることができる。例えば、樹脂100mLに1時間で500mL通液したときの空間速度(SV)は、5(1/Hr)である。
【0028】
[工程(P2)]
工程(P2)は、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(P1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程である。
このようにすることにより、工程(P1)で除去されなかった不純物とシキミ酸を分離でき、高純度のシキミ酸を収率よく得られる。
【0029】
特に、本発明の製造方法(I)では、工程(P1)の後に工程(P2)を行うため、工程(P2)においてシキミ酸と不純物との分離がよく、シキミ酸の純度が95%以上である分画や、シキミ酸の純度が98%以上である分画を回収する場合でも、これらの分画を収率よく得ることができる。
そのため、本発明の製造方法(I)は、純度が95%以上の精製シキミ酸を得る精製シキミ酸の製造方法として好適であり、純度が98%以上の精製シキミ酸を得る精製シキミ酸の製造方法としてより好適である。
なお、シキミ酸の純度の測定方法は、実施例にて説明する。
【0030】
「両性イオン交換樹脂」は、アクリル系、スチレン系等の架橋共重合体を樹脂母体とし、陰イオン交換基及び陽イオン交換基を有するものである。
また、両性イオン交換樹脂は、ゲル型であっても、マクロポーラス型であってもよい。また、強塩基性イオン交換樹脂に、アクリル酸を含浸させて重合させた、スネークケイジ型と呼ばれる樹脂であってもよい。
【0031】
陰イオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルアミノ基等が挙げられる。陽イオン交換基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基や前述の陰イオン交換基と組み合わされたベタイン構造を形成している基等が挙げられる。
【0032】
樹脂母体である架橋共重合体は、通常、球状である。その粒径は、平均粒径(D50)で、0.05~2mmがより好ましく、0.2~1.3mmがさらに好ましい。
【0033】
両性イオン交換樹脂としては、下記式(1)で表されるイオン交換基が、アクリル系又はスチレン系の架橋共重合体の樹脂母体に結合された両性イオン交換樹脂が好ましい。
【0034】
【化1】

前記式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基である。k及びmは、それぞれ独立に1~4の整数である。左端のアルキレン基を介して、該イオン交換基が樹脂母体に結合されている。より好ましくは、R及びRがメチル基であり、k及びmが1である。
【0035】
両性イオン交換樹脂としては、例えば、「ダウエックス(登録商標)リターディオン11A8」(ダウケミカル社製)等が挙げられる。また、前記式(1)で表されるイオン交換基を有する両性イオン交換樹脂としては、例えば、「ダイヤイオン(登録商標)AMP03」(三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0036】
工程(P2)に供される処理液は、少なくとも工程(P1)を行った後の処理液であればよく、工程(P1)で得られた処理液を用いても、工程(P1)に加えて別の工程を行った後の処理液を用いてもよい。また、少なくとも工程(P1)を行った後の処理液は、そのまま用いてもよいし、適宜濃縮または希釈して用いてもよい。
【0037】
展開溶媒(溶離液)は、通常、水であり、脱塩水、蒸留水、純水等の水を用いることができる。使用する展開溶媒の量は、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により不純物とシキミ酸を分離できる量以上であれば特に制限はない。例えば、両性イオン交換樹脂としてダイヤイオン(登録商標)AMP03を使用する場合、両性イオン交換樹脂に対して、展開溶媒は1.3倍容量以上供給することが好ましい。また、両性イオン交換樹脂に展開溶媒を流す空間速度(SV)は、通常、SV=0.5~5(1/Hr)であり、SV=1~2(1/Hr)であることが好ましい。
また、工程(P2)は、回分固定層方式、移動層方式のいずれであってもよい。
【0038】
また、本発明の製造方法(I)では、特に、工程(P2)で得られた分画を濃縮乾燥して、シキミ酸を得ることが好ましい。すなわち、工程(P2)の後に、工程(P2)で得られた分画を濃縮乾燥させる工程(P3)を含むことが好ましい。
本発明の製造方法(I)では、工程(P1)の後に工程(P2)を行うことで、シキミ酸の純度の高い分画(例えば、純度が95%以上の精製シキミ酸や純度が98%以上の精製シキミ酸を含有する分画)が得られる。そのため、晶析等でさらに精製しなくても純度の高いシキミ酸を得ることができる。シキミ酸を含有する分画を濃縮乾燥させてシキミ酸を得ることにより、従来の晶析で精製する方法のようにシキミ酸が晶析せずに溶媒中に残存することがなく、純度の高いシキミ酸をより高収率で得ることができる。
【0039】
濃縮乾燥の方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、減圧加熱、常圧加熱、スプレードライ、ドラム乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられる。
【0040】
前述のように、前記工程(P2)に供される処理液は、少なくとも工程(P1)を行った後の処理液であればよく、工程(P1)で得られた処理液をそのまま用いても、工程(P1)以外の工程をさらに行った後の処理液を用いてもよい。
すなわち、本発明の製造方法(I)は、工程(P2)の前に、工程(P1)以外の工程を含んでもよい。
【0041】
例えば、工程(P1)と工程(P2)の間に、限外ろ過膜を用いて濾過を行う工程を設けてもよい。限外ろ過膜としては、分画分子量が1,000~100,000や3,000~80,000のものを用いることができる。
【0042】
また、本発明の製造方法(I)において、前記工程(P1)と前記工程(P2)の間に、前記工程(P1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程(P1a)を更に含むことが好ましい。
【0043】
[工程(P1a)]
工程(P1a)は、前記工程(P1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程である。
【0044】
例えば、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに工程(P1)で得られた処理液を通液することで、前記処理液に含有されるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させることができる。さらに、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂に、溶離液として酸性溶液を通液することで、シキミ酸を溶離することができる。
【0045】
一旦シキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後に溶出させることで、シキミ酸と強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着しない成分とを分離することができる。本発明者らは、シキミ酸を含有する溶液(特に、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出した抽出液)は不純物として糖類を含有することを発見した。この糖類は陰イオン交換樹脂に吸着しないため、陰イオン交換樹脂で処理することにより、シキミ酸と糖類を効率的に分離することができる。
【0046】
このように、前述した工程(P2)(両性イオン交換樹脂による処理)の前に、強塩基性陰イオン交換樹脂により処理し、あらかじめ糖類等の不純物を除去しておくことで、工程(P2)での両性イオン交換樹脂によるイオン交換クロマトグラフィーの分離がより良好となり、純度が高いシキミ酸をより高い収率で得ることができる。特に、純度が95%以上の精製シキミ酸や純度が98%以上の精製シキミ酸をより高収率で得ることができる。
【0047】
「強塩基性陰イオン交換樹脂」は、架橋高分子を樹脂母体とし、陰イオン交換基を有する樹脂である。例えば、スチレン系樹脂を母体として、陰イオン交換基として4級アンモニウム基やアミノ基を有する陰イオン交換樹脂が挙げられる。用いられる強塩基性陰イオン交換樹脂は、ゲル型であっても、マクロポーラス型であってもよいが、ゲル型であることが好ましい。また、強塩基性陰イオン交換樹脂は、OH型で市販されている樹脂をそのまま用いてもよいし、Cl型の樹脂を水酸化ナトリウム等の水溶液を用いてOH型に変換して用いてもよい。
【0048】
陰イオン交換基としては、アミノ基、トリメチルアンモニウム基、ジメチルエタノールアンモニウム基等が挙げられる。陰イオン交換基がジメチルエタノールアンモニウム基である樹脂は、再生(すわなち、ClをOHに変換)が容易であるため好適である。
【0049】
陰イオン交換樹脂として、具体的には、「ダイヤイオン(登録商標)SA20A」、「ダイヤイオン(登録商標)PA408」、「ダイヤイオン(登録商標)PA412」、「ダイヤイオン(登録商標)PA418」(いずれも三菱ケミカル株式会社製)、「ダウエックス(登録商標)マラソンA2」(ダウケミカル社製)、「アンバーライト(登録商標)IRA410J」、「アンバーライト(登録商標)IRA411」、「アンバーライト(登録商標)IRA910CT」(いずれもオルガノ社製)、「ピュロライト(登録商標)A200」、「ピュロライト(登録商標)A300」、「ピュロライト(登録商標)A510」(いずれもピュロライト社製)、「デュオライト(登録商標)A116」(住化ケムテックス社製)等が使用できる。
【0050】
なお、工程(P1)で得られた処理液は、そのまま工程(P1a)に供してもよく、適宜濃縮あるいは希釈してもよい。また、使用する強塩基性イオン交換樹脂の量は、処理液中のシキミ酸が吸着できる量以上であれば特に制限はない。例えば、原料が八角の場合は、八角1kgに対して、1.3L以上の強塩基性イオン交換樹脂を用いることが好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、八角1kgに対して、50L以下や20L以下とすることができる。
【0051】
溶離液である酸性溶液は、塩酸、硝酸、硫酸等を用いて調製することができる。酸性溶液の濃度は、通常、0.5~3mol/Lであり、1~2mol/Lであることが好ましい。
【0052】
強塩基性陰イオン交換樹脂の総交換容量に対して、酸が0.8~1.5倍量となる量の溶離液を通液することが好ましい。より好ましくは、強塩基性陰イオン交換樹脂の総交換容量に対して、酸が1.05~1.35倍量であり、さらに好ましくは1.15~1.25倍量となる量である。酸の量が少なすぎるとシキミ酸が十分に溶出されず収率が低下するおそれがある。酸の量が多すぎると、両性イオン交換樹脂にてシキミ酸を分離する際の分離能が低下し、収率が低下するおそれがある。
【0053】
また、空間速度(SV)は、通常、SV=0.5~5(1/Hr)であり、SV=1~2(1/Hr)であることが好ましい。
【0054】
なお、工程(P1)と工程(P1a)は、それぞれの工程を行うカラムを直列に連結した多塔式のカラム等を利用して実施してもよい。
【0055】
本発明の製造方法(I)の好適な態様のひとつとしては、シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程において、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理する工程(P1)と、前記(P1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させることにより、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させ、さらに、前記シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程(P1a)と、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、前記工程(P1a)で得られた処理液から、シキミ酸を分離溶出する工程(P2)を含む製造方法が挙げられる。
【0056】
また、本発明の製造方法(I)で用いられるシキミ酸を含有する溶液は、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出した抽出液から固形分を除去して得られる溶液であることが好ましい。すなわち、本発明の製造方法(I)は、前記シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程の前に、シキミ酸を含有する溶液を得る工程を含み、前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程が、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出する工程(E1)と、前記工程(E1)の後にシキミ酸を含む抽出液を固液分離する工程(E2)とを含む製造方法とすることができる。
【0057】
[工程(E1)]
工程(E1)は、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出する工程である。具体的には、シキミ酸を含む植物と溶媒を混合してシキミ酸を含む植物からシキミ酸を溶媒中に抽出する工程である。
【0058】
シキミ酸を含む植物としては、イチョウ族に属する植物、シキミ族に属する植物等が挙げられ、シキミ族の植物であることが好ましい。
シキミ族に属する植物としては、Illicium floridanum、Illicium diffengri、Illicium henryi、Illicium verum、Illicium lancealatum、Illicium pachyphyllum、Illicium anisatumおよびIllicium religiosumを挙げることができる。
【0059】
シキミ酸の含有量や毒性成分有無の観点から、シキミ酸を含む植物としては、Illicium henryi、Illicium verumおよびIllicium pachyphyllumからなる群から選ばれることが好ましく、これらの植物の果実部分であることがより好ましい。
【0060】
特に好適な原料の一つは、八角(またはスターアニス)と呼ばれるIllicium verumの果実を乾燥させたものである。
【0061】
また、工程(E1)において、原料となるシキミ酸を含む植物の形状は特に限定されない。シキミ属に属する植物の果実部分等をそのまま用いてもよいし、適当な大きさに切断や粉砕等して用いてもよい。
【0062】
抽出効率をより向上させるためには、植物の形状は粉末状(パウダー)であることが好ましい。すなわち、シキミ酸を含有する溶液を得る工程において、前記工程(E1)の前に、シキミ酸を含む植物を粉砕して粉砕物とする工程(E0)を更に含むことが好ましい。
粉砕方法は、シキミ酸を含む植物を砕くことができる方法であれば特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、圧縮力、剪断力、衝撃力、摩擦力等を利用した粉砕装置を使用することができる。具体的には、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、スクリューミル、ボールミル等が挙げられる。
【0063】
抽出溶媒としては、水やアルコール等を用いることができる。シキミ酸を含む植物に含まれるオイル成分の除去のしやすさや安全性の観点から、水を主成分(50質量%以上)として含む溶媒であることが好ましく、特に好ましくは、水である。
【0064】
抽出溶媒の量は、適宜決定される。抽出溶媒の量が少なすぎると、抽出効率が低下するおそれがある。そのため、シキミ酸を含む植物に対して、抽出溶媒の量は、5質量倍以上が好ましく、7質量倍以上がより好ましい。一方、抽出溶媒量は多すぎても、固液分離などに時間を要する。また、コストアップの要因となる。そのため、シキミ酸を含む植物に対して、抽出溶媒の量の上限は、15質量倍以下が好ましく、10質量倍以下がより好ましい。
【0065】
また、抽出温度は、シキミ酸を抽出できる範囲で抽出溶媒等に応じて適宜決定され、90℃以上であればよいが、100℃以上であることが好ましい。抽出温度が低すぎると、抽出効率が低下するおそれがある。一方、抽出温度の上限は、シキミ酸が分解や変質しない温度以下であれば任意である。例えば、200℃以下とすることができる。
【0066】
抽出時間は原料や抽出溶媒の量等に応じて適宜決定される。なお、シキミ酸を含む植物は、通常、オイル成分を含み、このオイル成分が抽出液に残存すると、濾過性の低下等により固液分離が困難になる場合がある。そのため、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出すると同時に、シキミ酸を含む植物に含まれるオイル成分を除去することが好ましい。抽出時間は、シキミ酸を抽出でき、かつ、シキミ酸を含む植物に含まれるオイル成分の除去が可能な時間以上であることが好ましい。例えば、抽出時間は、1時間以上であっても、5時間以上であっても、10時間以上であってもよい。上限も、特に制限されないが、副反応等を考慮して、例えば、48時間以下や24時間以下とすることができる。
【0067】
シキミ酸の抽出やオイル成分の除去は、例えば、抽出溶媒が水の場合、抽出操作を行う槽内で抽出溶媒とオイル成分を共沸させて、抽出溶媒とオイル成分とを槽外に留出させて、留出した留出液の下層部の抽出溶媒を槽内に戻す方法を一例として挙げることができる。このようにすることで、抽出溶媒の液量を一定量に保持しつつ、シキミ酸の抽出とオイル成分の除去が可能である。
【0068】
[工程(E2)]
工程(E2)は、シキミ酸を含む抽出液を固液分離する工程であり、シキミ酸を含む抽出液からシキミ酸を含む植物の粉砕物等の固形分を除去する工程である。
固液分離の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を使用することができる。例えば、任意の濾材を用いた濾過、減圧濾過、遠心分離等により固液分離することができる。好ましくは、任意の濾材を用いた濾過である。
【0069】
また、本発明の製造方法(I)において、工程(E2)の前に、シキミ酸を含む抽出液を酵素で処理する工程(E1a)を更に含むことが好ましい。酵素処理は、工程(E1)の前に行うこともできるが、工程(E1)と工程(E2)の間に行うことが好ましい。このようにすることで、固液分離時の抽出液の濾過性を向上させることができる。
【0070】
酵素としては、植物細胞壁分解酵素であることが好ましい。
植物の細胞壁を分解する酵素としては、セルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、リゾチーム等が挙げられ、セルラーゼおよび/またはペクチナーゼを含むことが好ましい。
また、使用する酵素は2種類以上を併用してもよい。2種類以上の酵素を用いる場合、2種類以上の酵素を同時に添加し酵素処理を行っても、それぞれの酵素を個別に用いて酵素処理を複数回行ってもよい。
【0071】
酵素処理は、通常、酵素を抽出液中に溶解または分散させ、任意の時間撹拌することで行われる。酵素処理温度は、本発明の目的を損なわない範囲で、使用する酵素の種類や原料の形状等に応じて適宜決定されるが、通常35℃~60℃である。
酵素処理時間は、酵素処理温度等により適宜決定され、0.5時間以上であることが好ましい。酵素処理時間の上限は、特に制限されないが、例えば、24時間以下であっても、15時間以下であってもよい。
【0072】
酵素の添加量は、使用する酵素等に応じて適宜決定され、工程(E1)の抽出対象植物(シキミ酸を含む植物)100質量%に対して、0.05質量%以上であることが好ましい。また、酵素の添加量は、特に制限されないが、一定量を超えるとその効果が薄まる等の懸念もあるため、抽出対象植物(シキミ酸を含む植物)100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
また、酵素処理した後、さらに加熱処理することが好ましい。この加熱処理時の温度は酵素を失活されることができる温度以上であれば、特に限定されない。例えば、60℃以上や90℃以上とすることができる。加熱処理温度の上限はシキミ酸が分解、変性しない温度以下であればよい。例えば、200℃以下であっても、150℃以下であってもよい。
また、加熱処理の時間は、酵素を失活されることができればよい。例えば、20分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましい。加熱時間が短すぎると、酵素が十分に失活しないおそれがある。また、加熱時間の上限は特に制限されず、24時間以下であっても、12時間以下であっても、5時間以下であってもよい。
加熱処理を行うことにより、工程(P1)や工程(P2)でのシキミ酸の収率がより向上する。
【0074】
特に、本発明の製造方法(I)において、シキミ酸を含有する溶液は、前記工程(E1)と前記工程(E2)に加えて、前記工程(E1)の前に、シキミ酸を含む植物を粉砕して粉砕物とする工程(E0)を含み、前記工程(E1)と前記工程(E2)の間に、シキミ酸を含む抽出液を酵素で処理する工程(E1a)を更に含む方法により得ることが好ましい。すなわち、シキミ酸を含む植物を粉砕して粉砕物とする工程(E0)と、前記粉砕物からシキミ酸を抽出する工程(E1’)と、前記工程(E1’)で得られた抽出液を酵素で処理する工程(E1a’)と、前記工程(E1a’)を行った抽出液を固液分離する工程(E2)とを含む方法により得られた溶液を用いることが好適である。
【0075】
なお、シキミ酸を含有する溶液を得る工程と、シキミ酸を含有する溶液からシキミを回収する工程は連続して行ってもよく、所定の時間をおいて行ってもよい。
【0076】
[本発明の製造方法(II)]
本発明の製造方法(II)は、シキミ酸を含有する溶液を得る工程を含み、前記シキミ酸を含有する溶液を得る工程が、シキミ酸を含む植物を粉砕し粉砕物とする工程(e0)と、前記工程(e0)で得られた粉砕したシキミ酸を含む植物からシキミ酸を、水を含む溶媒で抽出し、抽出液を得る工程(e1)と、前記工程(e1)で得られた抽出液を酵素で処理する工程(e1a)と、前記工程(e1a)を行った抽出液を固液分離する工程(e2)とを含むシキミ酸の製造方法である。
【0077】
[工程e0]
工程(e0)は、シキミ酸を含む植物を粉砕し粉砕物とする工程である。シキミ酸を含む植物を粉砕し、粉末状とすることで抽出効率を高めることができる。
【0078】
シキミ酸を含む植物を得るための原料となるシキミ酸を含む植物は、本発明の製造方法(I)と同じであり、本発明の製造方法(I)と同様に、八角(またはスターアニス)と呼ばれるIllicium verumの果実を乾燥させたものが好適な原料のひとつである。
【0079】
シキミ酸を含む植物の粉砕方法としては、シキミ酸を含む植物を砕くことができる方法であれば特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、圧縮力、剪断力、衝撃力、摩擦力等を利用した粉砕装置を使用することができる。具体的には、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、スクリューミル、ボールミル等が挙げられる。
【0080】
[工程(e1)]
工程(e1)は、前記工程(e0)で得られた粉砕したシキミ酸を含む植物からシキミ酸を、水を含む溶媒で抽出する工程である。具体的には、シキミ酸を含む植物と溶媒を混合してシキミ酸を含む植物からシキミ酸を溶媒中に抽出する工程である。
【0081】
抽出溶媒は、水のみであってもよいし、水を主成分(50質量%以上)とすれば他の溶媒が含まれていてもよい。シキミ酸を含む植物に含まれるオイル成分の除去のしやすさや安全性の観点から、好ましくは、水である。
【0082】
抽出溶媒の量は、適宜決定される。抽出溶媒の量が少なすぎると、抽出効率が低下するおそれがある。そのため、シキミ酸を含む植物に対して、抽出溶媒の量は、5質量倍以上が好ましく、7質量倍以上がより好ましい。一方、抽出溶媒量は多すぎても、固液分離などに時間を要する。また、コストアップの要因となる。そのため、シキミ酸を含む植物に対して、抽出溶媒の量の上限は、15質量倍以下が好ましく、10質量倍以下がより好ましい。
【0083】
抽出温度は、シキミ酸を抽出できる範囲で抽出溶媒等に応じて適宜決定され、90℃以上であればよいが、100℃以上であることが好ましい。抽出温度が低すぎると、抽出効率が低下するおそれがある。一方、抽出温度の上限は、シキミ酸が分解や変質しない温度以下であれば任意であり、例えば、200℃以下とすることができる。
【0084】
抽出時間は原料や抽出溶媒の量等に応じて適宜決定される。なお、シキミ酸を含む植物は、通常、オイル成分を含み、このオイル成分が抽出液に残存すると、濾過性の低下等により固液分離が困難になる場合がある。そのため、シキミ酸を含む植物からシキミ酸を抽出すると同時に、シキミ酸を含む植物に含まれるオイル成分を除去することが好ましい。抽出時間は、シキミ酸を抽出でき、かつ、シキミ酸を含む植物に含まれるオイル成分の除去が可能な時間以上であることが好ましい。例えば、抽出時間は、1時間以上であっても、5時間以上であっても、10時間以上であってもよい。上限は、特に制限されないが、副反応等を考慮して、48時間以下や24時間以下とすることができる。
【0085】
シキミ酸の抽出やオイル成分の除去は、例えば、抽出操作を行う槽内で抽出溶媒とオイル成分を共沸させて、抽出溶媒とオイル成分とを槽外に留出させて、留出した留出液の下層部の抽出溶媒を槽内に戻す方法を挙げることができる。このようにすることで、抽出溶媒の液量を一定量に保持しつつ、シキミ酸の抽出とオイル成分の除去が可能である。
【0086】
[工程(e1a)]
工程(e1a)は、前記工程(e1)で得られた抽出液を酵素で処理する工程である。
酵素としては、植物細胞壁分解酵素であることが好ましい。
植物の細胞壁を分解する酵素としては、セルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、リゾチーム等が挙げられ、セルラーゼおよび/またはペクチナーゼを含むことが好ましい。
また、使用する酵素は2種類以上を併用してもよい。2種類以上の酵素を用いる場合、2種類以上の酵素を同時に添加し酵素処理を行っても、それぞれの酵素を個別に用いて酵素処理を複数回行ってもよい。
【0087】
酵素処理は、通常、酵素を抽出液中に溶解または分散させ、任意の時間撹拌することで行われる。酵素処理温度は、本発明の目的を損なわない範囲で、使用する酵素の種類や原料の形状等に応じて適宜決定されるが、通常35℃~60℃である。
酵素処理時間は、酵素処理温度等により適宜決定され、0.5時間以上であることが好ましい。酵素処理時間の上限は、特に制限されないが、例えば、24時間以下であっても、15時間以下であってもよい。
【0088】
酵素の添加量は、使用する酵素等に応じて適宜決定され、工程(e1)の抽出対象植物(シキミ酸を含む植物)100質量%に対して、0.05質量%以上であることが好ましい。また、酵素の添加量は、特に制限されないが、一定量を超えるとその効果が薄まる等の懸念もあるため、抽出対象植物(シキミ酸を含む植物)100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0089】
また、酵素処理した後、さらに加熱処理することが好ましい。この加熱処理時の温度は酵素を失活されることができる温度以上であれば、特に限定されない。例えば、60℃以上や90℃以上とすることができる。加熱処理温度の上限はシキミ酸が分解、変性しない温度以下であればよい。例えば、200℃以下であっても、150℃以下であってもよい。
また、加熱処理の時間は、酵素を失活されることができればよい。例えば、20分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましい。加熱時間が短すぎると、酵素が十分に失活しないおそれがある。また、加熱時間の上限は特に制限されず、24時間以下であっても、12時間以下であっても、5時間以下であってもよい。
【0090】
[工程(e2)]
工程(e2)は、前記工程(e1a)を行った抽出液を固液分離する工程であり、抽出液からシキミ酸を含む植物の粉砕物等の固形分を除去する工程である。
固液分離の方法は、特に限定されず、従来公知の方法を使用することができる。例えば、任意の濾材を用いた濾過、減圧濾過、遠心分離等により固液分離することができる。好ましくは、任意の濾材を用いた濾過である。
【0091】
さらに、本発明の製造方法(II)は、通常、シキミ酸を含有する溶液を得る工程の後に、シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程を含み、前記シキミ酸を回収する工程が、シキミ酸を含有する溶液を疎水性合成吸着剤で処理し処理液を得る工程(p1)と、両性イオン交換樹脂を用いたイオン交換クロマトグラフィー法により、少なくとも前記工程(p1)を行った後の処理液から、シキミ酸を含有する分画を得る工程(p2)とを含むことが好ましい。
【0092】
また、前記シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程において、工程(p2)の後に、工程(p2)で得られた分画を濃縮乾燥する工程(p3)を含むことが好ましい。
【0093】
なお、工程(p1)は、本発明の製造方法(I)における工程(P1)と同様である。工程(p2)は、本発明の製造方法(I)における工程(P2)と同様である。工程(p3)は、本発明の製造方法(I)における工程(P3)と同様である。
【0094】
また、工程(p2)の前に、工程(p1)以外の工程を含んでもよい。例えば、工程(p1)と工程(p2)の間に、限外ろ過膜を用いて濾過を行う工程を設けてもよい。限外ろ過膜としては、分画分子量が1,000~10,0000や3,000~80,000のものを用いることができる。
【0095】
また、本発明の製造方法(II)において、シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程は、前記工程(p1)と前記工程(p2)の間に、前記工程(p1)で得られた処理液を強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、前記処理液に含まれるシキミ酸を強塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させた後、シキミ酸が吸着された前記強塩基性陰イオン交換樹脂からシキミ酸を酸性溶液により溶離する工程(p1a)とを更に含むことが好ましい。なお、工程(p1a)は、本発明の製造方法(I)における工程(P1a)と同様である。
【実施例
【0096】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
[実施例1]
(シキミ酸を含有する溶液を得る工程)
撹拌機、コンデンサー、ディーンスタークトラップを備えた2Lの4つ口フラスコに、八角150g、脱塩水1050gを入れ、100℃で6時間還流し、八角中に含まれるシキミ酸を抽出し、抽出液(1a)を得た。還流中、ディーンスタークトラップには、八角中に含まれるオイル成分および水(留出水)が溜まった。なお、還流は、ディーンスタークトラップに溜まったオイル成分がフラスコ内に戻らないように、適宜、留出水を抜き出して、留出水をフラスコの別の口からフラスコ内に戻しながら行った。また、ディーンスタークトラップに溜まったオイル成分は除去した。
40℃に冷却後、抽出液(1a)に、酵素(三菱ケミカルフーズ製スクラーゼC 0.75g、スクラーゼN 0.75g)を加え、40℃で12時間撹拌した。その後、90℃で30分撹拌して酵素を失活させ、抽出液(1b)を得た。
30℃に冷却した後、抽出液(1b)をろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)し、脱塩水200mLで洗浄して、抽出液(1b)に含まれる固形成分を除去しシキミ酸を含む抽出液(1)1500mLを得た。
なお、八角は、中国産八角(エスビー食品社製、スターアニス(ホール))をそのまま用いた。
【0098】
(シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程)
内径4.5cmのカラム(1)に、疎水性合成吸着剤(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)HP20)300mL(内径4.5×高さ23cm)を充填した。カラム(1)に、得られた抽出液(1)1500mLをローラーポンプでSV=1の流速で通液し、次いで脱塩水を通液して、処理液(1)1700mLを得た。
【0099】
次に、UF膜モジュール(旭化成ケミカルズ社製、マイクローザ(登録商標)UFペンシル型モジュールSLP-0053、分画分子量10,000)を用いて、処理液(1)を限外ろ過膜処理して、透過液(1)1650mLを得た。その透過液(1)をエバポレーターを使用して、110mLまで濃縮し、濃縮液(1)を得た。この濃縮液(1)を両性イオン交換樹脂処理の原液とした。
【0100】
内径5cmのカラム(3)に、両性イオン交換樹脂(ダイヤイオン(登録商標)AMP03、三菱ケミカル社製)500mL(内径5cm×31.5cm)を充填した。カラム(3)に前記濃縮液(1)110mLを通液し、さらに、脱塩水1600mLを通液した。なお、濃縮液(1)及び脱塩水はローラーポンプでSV=1(1/Hr)の流速で供給した。
カラム(3)から溶出される液のうち、はじめの600mLの溶出液は捨て、次の1000mLの溶出液(1)を回収した。この溶出液(1)をエバポレーターで濃縮した後、真空乾燥機(フルバキューム、50℃)で、13時間乾燥し、純度98%以上のシキミ酸4.8gを得た。
【0101】
[実施例2]
(シキミ酸を含有する溶液を得る工程)
八角200gをカリタ製コーヒーミル(クラシックミル)に投入し、粉砕し、粉末状(パウダー)の八角を得た。
撹拌機、コンデンサー、ディーンスタークトラップを備えた2Lの4つ口フラスコに、粉砕した八角パウダー150g、脱塩水1050gを入れ、100℃で6時間還流し、八角中に含まれるシキミ酸を抽出し、抽出液(2a)を得た。還流中、ディーンスタークトラップには、八角中に含まれるオイル成分および水(留出水)が溜まった。なお、還流は、ディーンスタークトラップに溜まったオイル成分がフラスコ内に戻らないように、適宜、留出水を抜き出して、留出水をフラスコの別の口からフラスコ内に戻しながら行った。また、ディーンスタークトラップに溜まったオイル成分は除去した。
40℃に冷却後、抽出液(2a)に、酵素(三菱ケミカルフーズ製スクラーゼC0.75g、スクラーゼN0.75g)を加え、40℃で12時間撹拌した。その後、90℃で30分撹拌して酵素を失活させ、抽出液(2b)を得た。
30℃に冷却した後、抽出液(2b)をろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)し、脱塩水200mLで洗浄して、抽出液(2b)に含まれる固形成分を除去し抽出液(2)1500mLを得た。
【0102】
(シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程)
抽出液(1)に代わりに抽出液(2)を用いた以外は、実施例1のシキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程と同様の方法にて精製し、純度98%以上のシキミ酸6.2gを得た。
【0103】
[実施例3]
(シキミ酸を含有する溶液を得る工程)
実施例2のシキミ酸を含有する溶液を得る工程と同様の方法でシキミ酸の抽出液(3)を得た。
【0104】
(シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程)
内径4.5cmのカラム(1)に、疎水性合成吸着剤(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)HP20)300mL(内径4.5×高さ23cm)を充填した。また、内径4.5cmのカラム(2)に、Cl型の陰イオン交換樹脂(ダイヤイオン(登録商標)SA20A、三菱ケミカル社製)200mLを充填し、水酸化ナトリウム水溶液(35g/500ml)で処理して、OH型の陰イオン交換樹脂とした。次に、カラム(1)で処理された処理液がカラム(2)で処理できるように、カラム(1)とカラム(2)とを直列に連結し、2床2塔式の装置を組んだ。
まず、得られたシキミ酸を含む抽出液(3)1500mLを、2床2塔式の装置に通液した。このとき、シキミ酸は、カラム(1)の疎水性合成吸着剤には吸着せず通過し、カラム(2)に供給され、SA20Aに吸着された。
次いで、シキミ酸の吸着されたSA20Aのカラム(2)に1Nの塩酸230mLを通液し、さらに、脱塩水865mLを通液し、溶離液1100mLを得た。なお、液はローラーポンプでSV=1(1/Hr)の流速で供給した。得られた溶離液(3)をエバポレーターにて濃縮し、濃縮液(3)110mLを得た。
【0105】
両性イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)AMP03)500mL(内径5cm×31.5cm)を充填したカラム(3)に、前記濃縮液(3)110mLを通液し、さらに、脱塩水1600mLを通液した。溶出される液のうち、はじめの600mLの溶出液は捨て、次の1000mLの溶出液(3)を回収した。この溶出液(3)をエバポレーターで濃縮した後、真空乾燥機(フルバキューム、50℃)で、13時間乾燥し、純度98%以上のシキミ酸12.8gを得た。
【0106】
[実施例4]
(シキミ酸を含有する溶液を得る工程)
実施例2に比べて細かく粉砕されるようにコーヒーミルを調整し、シキミ酸を含む植物を粉砕した以外は実施例2のシキミ酸を含有する溶液を得る工程と同様の方法でシキミ酸を含む抽出液(4)を得た。
【0107】
(シキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程)
抽出液(3)に代わりに抽出液(4)を用いた以外は、実施例3のシキミ酸を含有する溶液からシキミ酸を回収する工程と同様の方法で精製し、純度98%以上のシキミ酸14.3gを得た。
【0108】
[比較例1]
八角200gをカリタ製コーヒーミルに投入し、粉砕し、粉末状(パウダー)の八角を得た。
撹拌機、コンデンサーを備えた2Lの4つ口フラスコに、粉砕した八角パウダー362g、メタノール(新日鉄化学社製)1009gを入れ、65℃で30分間還流し、抽出液(5a)を得た。
30℃に冷却した後、抽出液(5a)をろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)し、抽出液(5b)653gを得た。
この抽出液(5b)と石油エーテル(JXTGエネルギー社製、試薬リグロイン特級)171gを分液ロートに入れ、5分間程度よく振った後、分離した相の下相(メタノール相)を抽出液(5c)として回収した。
回収した抽出液(5c)に脱塩水322gを混合した後、ろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)して、抽出液(5d)375gを得た。
【0109】
さらに、この抽出液(5d)に活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、カルボラフィン)21gを混合し、60℃で20分間撹拌を行った。
30℃に冷却した後、活性炭処理後の抽出液(5d)をろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)して、抽出液(5e)319gを得た。
抽出液(5e)を60℃、80Torrで濃縮し、濃縮液(5)25gを得た。
この濃縮液(5)に種晶としてシキミ酸を微量加えて、24時間冷暗所に放置した。その後、ろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)して、エタノール水(エタノール(日本アルコール販売社製)20g+超純水3g)で洗浄した。さらにエタノール水(エタノール15g+超純水3g)で洗浄し、抽出液(5f)62gを得た。
ろ紙上の湿潤シキミ酸を乾燥(真空乾燥機でフルバキューム、60℃処理、13時間)し、純度93.8%のシキミ酸3.6gを得た。
【0110】
[比較例2]
八角200gをカリタ製コーヒーミル(クラシックミル)に投入し、粉砕し、粉末状(パウダー)の八角を得た。
2Lの丸底フラスコに、粉砕した八角パウダー150g、脱塩水1050gを入れ、100℃で6時間還流し、抽出液(6a)を得た。
30℃に冷却した後、抽出液(6a)をろ過(ろ紙、アドバンテックNo5C、110mm)したが、ろ紙が微粒子で目詰まりして、ろ過できなかった。
【0111】
実施例1~4、比較例1のシキミ酸の純度、抽出率及び濾過性を評価した。
[純度]
シキミ酸濃度は、HPLC法(カラム:Inertsil ODS-3(粒子径3μm、長さ150mm、内径4.6mm)、移動相:(A)CHCN+(B)2.1%酢酸溶液(A/B=30/70(v/v))、0.5mL/min、カラム温度:30℃、検出:254nm)で定量した。
測定には、100~1000ppmのシキミ酸溶液(溶媒:超純水)を用いて検量線を作成した。
測定によって得られたシキミ酸濃度から、シキミ酸含有量を算出し、次式によりシキミ酸の純度を求めた。
シキミ酸の純度=シキミ酸の含有量/試料重量×100(%)
【0112】
[抽出率]
抽出率は以下のようにして求めた。結果を表1に示す。
抽出率は、次式により算出した。
抽出率=抽出されたシキミ酸の重量/原料の重量(%)
【0113】
[濾過性]
実施例1~4、比較例1、2のシキミ酸を含有する溶液を得る工程における、抽出液に含まれる固形成分を除去する際の濾過性を以下の基準に従い評価した。
結果を表1に示す。
×:1500mLのろ過にかかる時間が2日以上
△:1500mLのろ過にかかる時間が3時間以内
〇:1500mLのろ過にかかる時間が1時間以内
【0114】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、シキミ酸を収率よく得ることができ、得られたシキミ酸は種々の物質の合成原料として利用できるため、産業上有用である。