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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】壁面緑化パネル
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/02 20180101AFI20220418BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20220418BHJP
   A01G 27/00 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
A01G9/02 103T
A01G31/00 601B
A01G27/00 502W
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017192262
(22)【出願日】2017-09-30
(65)【公開番号】P2019062818
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000178583
【氏名又は名称】山崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】西部 洋晴
(72)【発明者】
【氏名】河目 裕介
(72)【発明者】
【氏名】天保 美咲
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-063042(JP,A)
【文献】特開2006-129844(JP,A)
【文献】特開2002-335765(JP,A)
【文献】特開2015-188360(JP,A)
【文献】特開昭61-191767(JP,A)
【文献】特開2010-239878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00- 9/08
A01G 31/00-31/06
A01G 25/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面に開口を有する植栽空間と、
上部に水または養液の少なくとも一方を導入する導入口と、
下部に水または養液の少なくとも一方を貯留する貯留部と、
前記開口の下端部よりも低い位置で、かつ前記貯留部の上部の位置に、開口の下端部を設けた放出口と、を備える植栽部材と、
前記植栽空間内において、前記導入口から導入される水または養液の少なくとも一方を吸い込むとともに前記放出口を覆うように配置した第1吸水部材と、
前記放出口の開口を形成する側面の中でも下側の側面前記放出口から外側に向かって突出するように配置した第2吸水部材を備えることを特徴とする壁面緑化パネル。
【請求項2】
前記導入口および前記放出口が、
前記植栽部材の背板または側板の少なくとも一方に設けられ、
前記第1吸水部材が、
前記植栽部材内において前記導入口と前記放出口との間に渡設されていることを特徴とする請求項1に記載の壁面緑化パネル。
【請求項3】
前記第2吸水部材が、
前記第1吸水部材と連結または一体化しているとともに、前記放出口から鉛直方向に対してほぼ水平に突出していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の壁面緑化パネル。
【請求項4】
前記第2吸水部材が、
前記第1吸水部材に設けた切り込みによって形成された舌片部であるとともに、前記舌片部を前記放出口から鉛直方向に対してほぼ水平に突出させることで形成されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の壁面緑化パネル。
【請求項5】
前記第2吸水部材の前記放出口からの突出角度が、
鉛直方向に対して60~90°であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の壁面緑化パネル。
【請求項6】
前記第1吸水部材および前記第2吸水部材が、
JIS L 1907の滴下法における吸水速度が5秒以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の壁面緑化パネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面緑化に用いるパネルに関するものであり、詳しくは植栽空間と導入口と放出口を備える植栽部材に、吸水部材を特定の形態で設けることによって、導入される水や養液の内、余剰の水や養液を植栽部材の外に排出することができる壁面緑化パネルに関するものである。
また、導入される水や養液を素早く吸水することができ、余剰の水や養液が発生した場合でもパネル間の隙間や通風孔などからの水や養液の漏れを防止することができる壁面緑化パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から様々なタイプの壁面緑化パネルが開発されており、そのうちの1つにシート状の部材に水や養液を吸収させて植栽に灌水するタイプのものがある。
このようなシート状部材を用いるタイプの壁面緑化パネルは、上方から水や養液を供給してシート状部材に吸収させる一方、余剰な水や養液を排出する必要があることから、様々な構造のものが提案されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載の発明は、上方からの水や養液を保水材6(シート状部材)に吸収させ、後方折曲片13や引込口5aを用いて植栽土壌8に給水し、余剰の水や養液を排水穴17、23から排出する構造となっている(特許文献1の[0025]、[0035]、[0036]、[0048]、[図3]、[図7]参照)。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、上方からの水や養液を保水基盤200(シート状部材、植栽基盤も兼ねている)に吸収させ、余剰の水や養液を保水基板の下端部220から排水ケース650に排出する構造となっている(特許文献2の[0062]、[0064]、[0070]、[図1]参照)。
【0005】
特許文献3に記載の発明は、上方からの水や養液を培土基盤21(シート状部材、植栽基盤も兼ねている)に吸収させ、余剰の水や養液を排水ヒモ23から樋状の支持部材11に排出する構造となっている(特許文献3の[0031]、[0032]、[図1]、[図5]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-337054号公報
【文献】特開2010-239878号公報
【文献】特開2013-192516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載されている壁面緑化パネルは全て、水や養液をシート状部材の上端部で導入し、シート状部材の下端部や植栽容器の底から排出する構造となっている。つまり、シート状部材について着目した場合には、水や養液のいわゆる「逃げ道」はシート状部材の上端部と下端部にしかない構造となっているのである。また、特許文献1~3に記載されている壁面緑化パネルは、水や養液をシート状部材の上から下に向かって掛け流すだけの構造(特許文献2の[0070]参照)であることから、シート状部材には絶えず水や養液の供給を行ったり、細かな灌水管理をしたりすることが必要となってくるのである。
従って、特許文献1~3に記載されている壁面緑化パネルでは、常に多くの水や養液がシート状部材に存在する状態となるため、パネル内に蒸れが発生しやすくなり、カビが発生しやすくなるという問題がある。
【0008】
なお、このような問題を解決するためには、パネルの背面などシート状部材と接するパネル部分に通風孔を設ければよいことになるが、特許文献1~3に記載されている壁面緑化パネルは、いわゆる「逃げ道」がシート状部材の上端部と下端部にしかない構造であり、また水や養液をシート状部材の上から下に向かって掛け流すだけの構造であることから、通風孔を設けると今度は係る通風孔から水や養液が漏れ出てしまうという問題が生じることになる。
【0009】
今般、本願発明者らは鋭意検討を行った結果、シート状部材を特定の構造(形態)とすることによって、通風孔を設けるような構造を採用した場合でも余剰の水または養液の少なくとも一方を他の部位から漏らすことなく植栽部材の外に排出することができる壁面緑化パネルを実現できるという知見を得るに至った。
また、植栽空間に水または養液の少なくとも一方を貯留することができる貯留部を設ければ、上記知見とともに、絶えず水または養液の少なくとも一方の供給を行ったり細かな灌水管理をしたりする必要がなく、水または養液の少なくとも一方をより効率的に用いることができるという知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、植栽空間と導入口と放出口を備える植栽部材に、吸水部材を特定の形態で設けることによって、導入される水または養液の少なくとも一方の内、余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材の外に排出することができる壁面緑化パネルの提供を目的とするものである。
また、導入される水や養液を素早く吸水することができ、余剰の水や養液が発生した場合でもパネル間の隙間や通風孔などからの水や養液の漏れを防止することができる壁面緑化パネルの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る壁面緑化パネルは、正面に開口を有する植栽空間と、上部に水または養液の少なくとも一方を導入する導入口と、下部に水または養液の少なくとも一方を貯留する貯留部と、開口の下端部よりも低い位置で、かつ貯留部の上部の位置に、開口の下端部を設けた放出口と、を備える植栽部材と、植栽空間内において、導入口から導入される水または養液の少なくとも一方を吸い込むとともに放出口を覆うように配置した第1吸水部材と、放出口の開口を形成する側面の中でも下側の側面放出口から外側に向かって突出するように配置した第2吸水部材を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係る壁面緑化パネルは、導入口および放出口が、植栽部材の背板または側板の少なくとも一方に設けられ、第1吸水部材が、植栽部材内において導入口と放出口との間に渡設されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3に係る壁面緑化パネルは、第2吸水部材が、第1吸水部材と連結または一体化しているとともに、放出口から鉛直方向に対してほぼ水平に突出していることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4に係る壁面緑化パネルは、第2吸水部材が、第1吸水部材に設けた切り込みによって形成された舌片部であるとともに、舌片部を放出口から鉛直方向に対してほぼ水平に突出させることで形成されたものであることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5に係る壁面緑化パネルは、第2吸水部材の放出口からの突出角度が、鉛直方向に対して60~90°であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項6に係る壁面緑化パネルは、第1吸水部材および第2吸水部材が、JIS L 1907の滴下法における吸水速度が5秒以下のものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の壁面緑化パネルによれば、植栽空間と導入口と放出口を備える植栽部材に、吸水部材を特定の形態で設けることによって、導入される水または養液の少なくとも一方の内、余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材の外に排出することができる。
また、導入される水または養液の少なくとも一方を素早く吸水することができ、余剰の水や養液が発生した場合でもパネル間の隙間や通風孔などからの水または養液の少なくとも一方の漏れを防止することができる。
【0018】
本発明の請求項2に係る壁面緑化パネルによれば、導入口、放出口、第1吸水部材を特定の形態とすることによって、上記の効果をより効果的に発現させることができる。
【0019】
本発明の請求項3~5に係る壁面緑化パネルによれば、第2吸水部材を特定の形態とすることによって、余剰の水または養液の少なくとも一方をより効果的に植栽部材の外に排出することができる。
【0020】
本発明の請求項6に係る壁面緑化パネルによれば、第1吸水部材および第2吸水部材に特定の吸水速度のものを用いることによって、上記の効果をより効果的に発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の壁面緑化パネルの第一の実施形態を示す断面模式図である。
図2図1の壁面緑化パネルに用いる植栽部材を示す模式図である。
図3図1の壁面緑化パネルに用いる筐体を示す模式図である。
図4図3の筐体に図2の植栽部材を上下に3段に収納した状態を示す模式図である。
図5図1の壁面緑化パネルに用いるカバー部材を示す模式図である。
図6図4の前面に図5のカバー部材を装着した状態を示す模式図である。
図7】第一の実施形態を実現するための吸水部材の加工の一例を示す模式図である。
図8】第1吸水部材と第2吸水部材の実施形態の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。図1は本発明の壁面緑化パネルの第一の実施形態を示す断面模式図であり、図2図1の壁面緑化パネルに用いる植栽部材を示す模式図であり、図3図1の壁面緑化パネルに用いる筐体を示す模式図であり、図4図3の筐体に図2の植栽部材を上下に3段に収納した状態を示す模式図であり、図5図1の壁面緑化パネルに用いるカバー部材を示す模式図であり、図6図4の前面に図5のカバー部材を装着した状態を示す模式図であり、図7は第一の実施形態を実現するための吸水部材の加工の一例を示す模式図であり、図8は第1吸水部材と第2吸水部材の実施形態の例を示す断面模式図である。
【0023】
(基本構成)
まず、本発明に係る壁面緑化パネルの基本構成を図1に基づいて説明する。
本発明に係る壁面緑化パネル1は、植栽部材2と第1吸水部材3と第2吸水部材4を主要な構成要件として構成されているものである。また、図1に示す壁面緑化パネル1においては、第1吸水部材3と第2吸水部材4に加えて、第1吸水部材3から水または養液の少なくとも一方の供給を受けて植栽に灌水をするための保水部材5(植栽基盤)を設けた構造となっている。
なお、図1に示す壁面緑化パネル1においては、図2~6に示すように、図2に示す植栽部材2を図3に示す筐体6に上下に3段に収納した(図4)後、その前面に図5に示すカバー部材8を装着した構造(図6)となっているが、複数の植栽部材2を一体成形などで一体化した構造とする場合には筐体6やカバー部材8は不要とすることもできる。
【0024】
次に、各構成要件を図1、7、8に基づいて説明する。
【0025】
(植栽部材)
本発明に用いられる植栽部材2は、図2に示すとおり、横長の直方体の箱型形状をした容器であり、正面に開口9を有する植栽空間10を設けることによって植栽を植えることができ、背板21に通風孔11を設けることによって第1吸水部材3、第2吸水部材4、保水部材5の蒸れを防止することができる構造となっている。
また、植栽部材2の上部には水または養液の少なくとも一方を植栽空間10内に導入する導入口12が設けられている構造となっており、植栽部材2の下部には開口9の下端部よりも低い位置に開口13の下端部を設けた放出口14が設けられている構造となっている。このように放出口14の開口13の位置を開口9の下端部よりも低い位置とすることによって、導入された水または養液の少なくとも一方が植栽部材2の正面側から排水されることを防止することができる。
【0026】
なお、導入口12の位置については特に限定されるものではないが、植栽部材2の背板または側板の少なくとも一方に設ける構造とすれば、水または養液の少なくとも一方を漏れなく植栽空間10内に導入することができるので好適である。
特に、導入口12の構造を、図1、2に示すように、上方と正面に横長の開口を有する形状とし、さらに係る形状の導入口12を植栽部材2の背板21の上部で、かつ植栽部材2の背板21よりもさらに後方に張り出した位置に設ける構造(背面の上部が断面視L字状となる構造)とし、さらに、図3に示すように、筐体6の上部に、導入口12と接続する供給口15と、灌水ホース(図示せず)を配置することができる溝部16を設けた構造とすれば、灌水ホースから供給される水または養液の少なくとも一方を漏れなく、かつ万遍なく(偏りなく)植栽空間10内に導入することができるので好適である。さらに、複数の植栽部材2を上下方向に多段に配置した場合には、上段に位置する植栽部材2の放出口14から植栽空間10の外に放出されて流下した水または養液の少なくとも一方を、中段や下段に収納した植栽部材2の導入口12が漏れなく回収することができることになり、水または養液の少なくとも一方をより効率的に使用することができることになるのでより好適である。
【0027】
放出口14の位置についても特に限定されるものではないが、植栽部材2の背板または側板の少なくとも一方に設ける構造とすれば、導入した水または養液の少なくとも一方を効率的に植栽空間10外に放出することができるので好適である。
また、放出口14の構造を、図1、2に示すように、植栽部材2の背板下部に設けた横長の開口13とすれば、植栽部材2の背面側から植栽部材2の外部に放出(複数の植栽部材2を上下方向に多段に配置した場合には中段や下段に収納した植栽部材2の導入口12に放出)することができるので好適である。
【0028】
また、本発明に用いられる植栽部材2においては、図1に示すように、植栽部材2(植栽空間10)の下部に水または養液の少なくとも一方を貯留することができる貯留部17を設けることができる。具体的には、図2、8に示すように、植栽部材2の開口9の下部に設けた板状部材18と、植栽空間10を構成する底面19と側面20と背面21によって形成された、上方に開口を有する直方体の空間構造とすれば、導入された水または養液の少なくとも一方を無駄にすることなく効率的に用いることができるので好適である。
また、第1吸水部材3の下部(必要に応じて第2吸水部材4と保水部材5(植栽基盤))を貯留部17内に到達するように配置すれば、導入口12から導入した水または養液の少なくとも一方を貯留部17に貯留することができるとともに、第1吸水部材3(必要に応じて第2吸水部材4と保水部材5(植栽基盤))が貯留部17から水または養液の少なくとも一方を吸い上げることによって絶えず保水することができることになり、適度な保水状態を維持することができるので好適である。また、導入口12から頻繁に水または養液の少なくとも一方を導入(供給)する必要が無く、水やりの頻度を少なくすることもできるので好適である。具体的には、特許文献1~3に記載されているような絶えず水や養液の供給を行ったり、細かな灌水管理をしたりする必要がある壁面緑化パネルに比べて、水または養液の少なくとも一方の量を1/3~1/6程度に削減することができる。
さらに、放出口14は開口9の下端部よりも低い位置に設けられていることから、貯留部17から水または養液の少なくとも一方がオーバーフローする際にも余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材2の正面側に溢れさせることなく、背面側から放出することができることになるので好適である。
【0029】
(第1吸水部材)
本発明に用いられる第1吸水部材3は植栽空間10内に配置されるものであり、導入口12から導入される水または養液の少なくとも一方を吸収し、植栽に供給するためのものである。また、図1に示す壁面緑化パネル1のように保水部材5(植栽基盤)を設けた構造を採用する場合には、導入される水または養液の少なくとも一方を保水部材5(植栽基盤)に供給するものとなる。
【0030】
第1吸水部材3の植栽空間10内における配置位置については、放出口14を覆うものであればその他については特に限定されるものではないが、導入口12から導入される水または養液の少なくとも一方を効率的に吸収するためには、植栽部材2の内背面、すなわち植栽空間10の一番奥の位置に配置することが好ましい。さらに、植栽部材2内において導入口12と放出口14との間を渡設するように配置することが好ましい。このように第1吸水部材3を植栽空間10の一番奥の位置で、かつ導入口12と放出口14との間を渡設するように配置すれば、導入された水または養液の少なくとも一方を漏れなく吸収することができるとともに、余剰な水または養液の少なくとも一方を効率的に放出することができることになる。
なお、第1吸水部材3の下部については余剰な水または養液の少なくとも一方の排出を行うために放出口14を覆う必要があるが、第1吸水部材3の上部については必ずしも導入口12まで到達させることはなく、導入口12の下方に第1吸水部材3の上部が位置するように配置して導入口12から導入される水または養液の少なくとも一方を受け止めることによって吸収する形態とすることもできる。
【0031】
第1吸水部材3の物性としては、毛管現象によって水または養液の少なくとも一方を吸収することができるものであれば特に限定されるものではないが、JIS L 1907の滴下法における吸水速度が5秒以下のものが好ましく、その中でもJIS L 1907の滴下法における吸水速度が1秒以下のものを用いることが好ましい。そしてこのような第1吸水部材3の材質としては係る物性を有するフェルト、スポンジ、布、不織布などが挙げられる。
【0032】
(第2吸水部材)
本発明に用いられる第2吸水部材4は、放出口14に配置されるものであり、第1吸水部材3内の余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材2外に排出するためのものである。具体的には、放出口14の開口側面22(特に、開口の側面の中でも、図1、8に示すように、余剰の水または養液の少なくとも一方がオーバーフローする下側の面)に放出口14から外側に向かって突出するように配置されるものであり、第1吸水部材3から放出される(滲み出てくる)水または養液の少なくとも一方を吸収し、植栽部材2外に排出するものである。
なお、第2吸収部材が放出口14に配置されていない場合は、第1吸収部材3における余剰の水または養液の少なくとも一方が放出口14から滲み出たとしても、その表面張力により放出口14の下側開口側面に水滴となって溜まり排出が滞ってしまうが、本発明では、第1吸水部材3と第2吸水部材4を特定の形態(配置)とすることによって、余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材2の外に効率よく排出することができるのである。具体的には、第1吸水部材3において余剰の水または養液の少なくとも一方が発生した場合には、係る余剰の水または養液の少なくとも一方は第1吸水部材3の中で最も滲み出し易い部分から滲み出そうとする。そうすると、図1に示す壁面緑化パネル1においては、第2吸水部材4は第1吸水部材3と連結または一体化した形態となっており、さらに放出口14の開口側面22に放出口14から外側に向かって突出するように配置した形態となっていることから、余剰の水または養液の少なくとも一方は第1吸水部材3から第2吸水部材4に伝わり、最も滲み出易い部分である第2吸水部材4の先端23から滴下していくことになる。
従って、余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材2の外に排出することができるのである。また、最も滲み出易い部分である第2吸水部材4の先端23から滴下していくことから、植栽部材2の背板21に通風孔11を設けた場合でも余剰の水または養液の少なくとも一方は第2吸水部材4の先端23から滴下していくことになり、通風孔11から漏れ出てしまうことなく植栽部材2の外に排出することができるのである。
なお、図1に示す形態(第1吸水部材3と第2吸水部材4とが連結または一体化した形態)を実際に作製する場合には、シート状の第1吸水部材3とシート状の第2吸水部材4をそれぞれ単純に接触させたり、縫い合わせたりすることによって連結または一体化することもできるが、図7に示すように、第1吸水部材3に切り込みを設けて立ち上げることによって舌片部24を形成し、係る舌片部24を放出口14から突出させる方式を採用すれば構造や製造工程を簡略化できるので好適である。
【0033】
さらに、第2吸水部材4の形態については、図1に示す壁面緑化パネル1のように第1吸水部材3と連結または一体化した形態に限定されるものではなく、放出口14の開口側面22に放出口14から外側に向かって突出するように配置されるものであれば各種の形態を採用することができる。すなわち、本発明においては、第1吸水部材3から滲み出そうとする余剰の水または養液の少なくとも一方を素早く吸収することができるように第2吸水部材4を放出口14に配置することが重要となるのである。
具体的には、図8(a)に示す形態(図1の壁面緑化パネル1の形態)の他に、図8(b)に示すような第1吸水部材3と第2吸水部材4を分離する形態や、図8(c)に示すような第1吸水部材3と第2吸水部材4を分離し、さらに放出口14から外側に向かって突出している部分が下向きに垂れ下がっている形態(下向きに折れ曲がっている形態)などを挙げることができる。
【0034】
また、第2吸水部材4における放出口14から外側に向かって突出する突出角度(Θ)については、放出口14から鉛直方向に対してほぼ水平にすることが好ましい。すなわち、図8(d)、(e)に示すような形態(第2吸水部材4を第1吸水部材3と連結または一体化し、かつ放出口14から外側に向かって突出している部分を下向きに垂れ下げる形態(下向きに折り曲げる形態))とした場合には、逆に「水みち」が形成されてしまうことになり、その結果、排出効果が高くなり過ぎてしまって、本来、第1吸水部材3や保水部材5に吸水または保水されていなければならない水または養液の少なくとも一方についても排出されてしまう恐れがあるのである。
従って、係る状況が発生することを回避するために、第2吸水部材4の突出角度(Θ)(特に、第1吸水部材3と第2吸水部材4とが連結または一体化した形態を採用する場合の突出角度(Θ))については、放出口14から鉛直方向に対してほぼ水平にすることが好ましく、その中でも鉛直方向に対して60~90°であることがより好ましく、その中でも85~90°であることがさらに好ましい。
但し、第2吸水部材4の突出角度(Θ)は、水平(放出口14から鉛直方向に対して90°)よりも上向きになってはいけないことになる。すなわち、第2吸水部材4の先端23が水平よりも上向きになってしまうと、余剰の水または養液の少なくとも一方が第2吸水部材4の先端23から滴下し難くなってしまうのである。従って、本発明における「ほぼ水平」との意は、「放出口14から鉛直方向に対して90°以下の範囲でほぼ水平」との意である。
なお、第2吸水部材4の形態を、第1吸水部材3と分離し、さらに放出口14から外側に向かって突出している部分が下向きに垂れ下がっている形態(図8(c)に示すような形態)とする場合には、上記のような「水みち」が形成されることを考慮する必要がないことから、突出角度(Θ)が60°未満である形態、つまりほぼ直角に折り曲げるような形態を採用しても良いことになる。
【0035】
放出口14から外側に向かって突出する第2吸水部材4の突出長さ(L)については、第2吸水部材4の先端23が筐体6の背面から突出することなく、また余剰の水または養液の少なくとも一方を第2吸水部材4の先端23から滴下させることができる長さとなっていれば特に限定されるものではないが、5~15mmとすることが好ましく、その中でも10mmとすることがより好ましい。
なお、第2吸水部材4の突出長さ(L)は、図8(d)、(e)に示すような形態(第2吸水部材4を第1吸水部材3と連結または一体化し、かつ放出口14から外側に向かって突出している部分を下向きに垂れ下げる形態(下向きに折り曲げる形態))を採用した場合には、突出角度(Θ)との関係がより重要となる。従って、第2吸水部材4を係る形態とした場合には突出長さ(L)を5~15mmとし、かつ突出角度(Θ)を85°~90°とすることが好ましく、その中でも突出長さ(L)を10mmとし、かつ突出角度(Θ)を85°~90°とすることがより好ましい。
【0036】
また、上記した第2吸水部材4については、図1、7、8に示すように1箇所に設けてもよいし、複数箇所に設けることもできる。
さらに、第2吸水部材4の幅(横幅)についても特に限定されるものではなく、例えば図7に示す第2吸水部材4の幅をより広くしたり、狭くしたりするなど、必要に応じて幅の長さを調節することができる。
【0037】
なお、図8(f)は、第1吸水部材3と第2吸水部材4の各種の形態を理解するための補助図面として掲載した、第1吸水部材3、第2吸水部材4、保水部材5を設置する前の状態の植栽部材2の断面模式図である。
【0038】
第2吸水部材4の物性としては毛管現象によって、第1吸水部材3と同様に水または養液の少なくとも一方を吸収することができるものであれば特に限定されるものではないが、JIS L 1907の滴下法における吸水速度が5秒以下のものが好ましく、その中でもJIS L 1907の滴下法における吸水速度が1秒以下のものを用いることが好ましい。さらにその中でも第1吸水部材3と同じ物性のものを用いることが好ましい。そしてこのような第2吸水部材4の材質としては係る物性を有するフェルト、スポンジ、布、不織布などが挙げられる。
【0039】
(保水部材)
本発明の壁面緑化パネルは植物を第1吸水部材3に直接植栽することもできるが、図1、7、8に示すように、必要に応じて保水部材5を用いることもできる。係る保水部材5は、植栽基盤として植物を植栽するためのものであり、第1吸水部材3と接触(図1、7、8においては層状を形成)することによって、第1吸水部材3が吸収している水または養液の少なくとも一方を受け取って植物に供給するものとなる。
【0040】
なお、本発明において保水部材5を用いる場合には、JIS L 1907の滴下法における吸水速度が第1吸水部材3の吸水速度と同等または第1吸水部材3の吸水速度よりも遅いものを用いることが好ましい。
【実施例
【0041】
次に、本発明に係る壁面緑化パネルを実施例および比較例に基づいて詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
まず、プラスチック成型によって、縦15.8cm×横49.0cm×奥行5.6cmで、かつ縦14.3cm×横43.7cm×奥行3.6cmの凹状の植栽空間を有する直方体の容器を作製した。
次に、係る容器の背板上部に縦2.0cm×横21.5cmの導入口を設け、背板下部に縦1.0cm×横20.0cmの放出口を設け、背板中央部に複数の通風孔を設け、さらに凹状の植栽空間の前方下部(植栽空間を形成する開口の下部)に板状部材を接着して形成した貯留部を設けることによって、植栽部材を模式した模型を作製した。
次に、第1吸水部材として、JIS L 1907の滴下法における吸水速度が1秒のPET製フェルトを用い、PET製フェルトに縦1.0cm×横10.0cmの切り込みを設けて立ち上げることによって舌片部(第2吸水部材)を形成した。
次に、PET製フェルトを植栽部材の内背面、すなわち植栽空間10の一番奥の位置に配置するとともに、係る舌片部を放出口から鉛直方向に対してほぼ水平(第2吸水部材の突出角度(Θ)は85°~90°)に突出させた。
最後に、保水部材としてポリエステル繊維製フェルトを用い、係る保水部材を図8(a)に示すようにPET製フェルト(第1吸水部材)の前に配置することによって、実施例1の壁面緑化パネルを作製した。
【0043】
(実施例2)
第1吸水部材と第2吸水部材を図8(b)に示すように分離した以外は、実施例1と同様にして実施例2の壁面緑化パネルを作製した。なお、第2吸水部材の突出角度(Θ)は85°~90°とした。
【0044】
(実施例3)
第1吸水部材と第2吸水部材を図8(c)に示すように分離した以外は、実施例1と同様にして実施例3の壁面緑化パネルを作製した。なお、第2吸水部材の突出角度(Θ)は60°とした。
【0045】
(比較例1)
実施例1における第2吸水部材(舌片部)を図8(d)に示すように折り曲げた以外は、実施例1と同様にして比較例1の壁面緑化パネルを作製した。なお、第2吸水部材の突出角度(Θ)は45°とした。
【0046】
(比較例2)
実施例1における第2吸水部材(舌片部)を図8(e)に示すような形態にした以外は、実施例1と同様にして比較例2の壁面緑化パネルを作製した。なお、第2吸水部材の突出角度(Θ)は45°とした。
【0047】
(比較例3)
第2吸水部材を設けず、貯留部の底面に排水孔を空けることによって、第1吸水部材の下端部から滲み出す水を強制的に植栽部材から排出する形態(特許文献1~3に記載されている壁面緑化パネルを模倣した形態)にした以外は、実施例1と同様にして比較例3の壁面緑化パネルを作製した。
【0048】
上記の各実施例および各比較例の壁面緑化パネルについて、導入口から水を導入したところ、実施例の壁面緑化パネルは全て、水が適度に第1吸水部材と保水部材に保持されるとともに貯留部に水が貯留された。そして、さらに導入口から水を追加して導入したところ、水は通風孔から漏れることなく、第2吸水部材から滴下することが確認できた。
一方、比較例の壁面緑化パネルは、最初に水を導入した際は水が適度に第1吸水部材と保水部材に保持されるとともに貯留部に水が貯留されたが、その後、水を追加する前に第2吸水部材から水が滴下し始め、第1吸水部材と保水部材が少し乾き気味な状態となった。
また実施例1の壁面緑化パネルは、第1吸水部材に対して1日当たり30分の灌水(朝と晩にそれぞれ15分の灌水:合計2回の灌水)で植栽を維持することができたのに対し、比較例3の壁面緑化パネルは、15分の灌水を日中(6:00~18:00)は2時間当たり1回、日没後(18:00~6:00)は6時間当たり1回の合計8回の灌水行う必要があった。従って、本発明の壁面緑化パネルは、従前の壁面緑化パネルに比べて水または養液の少なくとも一方の量を1/4(=2回/8回)削減できることが分かった。
以上のことから、本発明の壁面緑化パネルは、吸水部材を特定の形態で設けていることによって、余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材の外に排出することができ、また、パネル間の隙間や通風孔などからの水または養液の少なくとも一方の漏れを防止しながら、余剰の水または養液の少なくとも一方を植栽部材の外に排出することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の壁面緑化パネルは壁面緑化に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 壁面緑化パネル
2 植栽部材
3 第1吸水部材
4 第2吸水部材
5 保水部材
6 筐体
7 ポケット部
8 カバー部材
9 開口
10 植栽空間
11 通風孔
12 導入口
13 開口
14 放出口
15 供給口
16 溝部
17 貯留部
18 板状部材
19 底面
20 側面
21 背面
22 開口側面
23 先端
24 舌片部
W 水または養液の少なくとも一方
L 突出長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8