(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20220418BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20220418BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
A61N5/10 Q
G01T7/00 C
G01T1/17 E
(21)【出願番号】P 2017218512
(22)【出願日】2017-11-13
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慎二
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0114150(US,A1)
【文献】特開2017-187286(JP,A)
【文献】特開2001-346894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G01T 7/00
G01T 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する照射部と、
光学カメラにより発生された複数方向の2次元の光学画像を記憶する記憶部であって、前記複数方向の2次元の光学画像各々は、前記照射部から水ファントムに放射線が照射されることにより発生する微弱光が描出される、記憶部と、
前記複数方向の2次元の光学画像に基づいて前記微弱光が描出された3次元の光学画像を再構成する再構成部と、
前記3次元の光学画像を
、治療計画装置により作成された放射線治療計画用の3次元の線量分布画像に対して比較する比較部と、
前記3次元の光学画像と前記3次元の線量分布画像との比較結果を表示する表示部と、
を具備する放射線治療システム。
【請求項2】
前記比較部は、前記3次元の光学画像に描出された微弱光の線量分布を前記3次元の線量分布画像に描出された線量分布に対して比較する、請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記照射部は、放射線治療の前段階において、放射線治療計画装置により前記放射線治療のために作成された放射線の線量分布に従い前記水ファントムに放射線を照射する、請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項4】
前記比較部は、前記3次元の光学画像と前記3次元の線量分布画像との差分画像を生成し、
前記表示部は、前記比較結果として前記差分画像を表示する、
請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項5】
前記差分画像に基づいて治療計画を変更する変更部を更に備える、請求項4記載の放射線治療システム。
【請求項6】
前記差分画像に基づいて放射線治療における前記照射部の照射位置を変更する変更部を更に備える、請求項4記載の放射線治療システム。
【請求項7】
前記比較部は、前記3次元の光学画像と前記3次元の線量分布画像との合成画像を生成し、
前記表示部は、前記比較結果として前記合成画像を表示する、
請求項1記載の放射線治療システム。
【請求項8】
前記照射部は、前記放射線として陽子線を照射する、請求項1記載の放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
陽子線治療において陽子線の線量分布は、患者照射前に電離箱方式の検出器を用いて把握されている。しかし、電離箱方式の検出器は構造が複雑で高価であり、また電離箱方式の検出器を用いて精度良く3次元で線量分布を把握するためには長時間を要し実用性が乏しい。
【0003】
近年、陽子線を水に照射した際に発生する微弱光をCCDカメラで画像化できる事が判明された(非特許文献1参照)。しかしながら、CCDカメラにより発生された画像から3次元の線量分布を把握することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-032419号公報
【文献】特開2001-346894号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「陽子線照射により生じる微弱光画像から、陽子線の飛程を高精度で計測することに成功」,2015年10月16日,名古屋大学,[平成29年8月25日検索],インターネット<URL:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20151016_med.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明が解決しようとする課題は、放射線の3次元の線量分布を患者照射前に簡易且つ正確に把握することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る放射線治療システムは、放射線を照射する照射部と、光学カメラにより発生された複数方向の2次元の光学画像を記憶する記憶部であって、前記複数方向の2次元の光学画像各々は、前記照射部から水ファントムに放射線が照射されることにより発生する微弱光が描出される、記憶部と、前記複数方向の2次元の光学画像に基づいて前記微弱光が描出された3次元の光学画像を再構成する再構成部と、前記3次元の光学画像を放射線治療計画用の3次元の線量分布画像に対して比較する比較部と、前記3次元の光学画像と前記3次元の線量分布画像との比較結果を表示する表示部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る放射線治療システムの構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る水ファントム装置の外観の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る放射線治療システムの処理の典型的な流れを示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る改良型の水ファントム装置の斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6の改良型の水ファントム装置の平面図である。
【
図8】
図8は、
図6の改良型の水ファントム装置の縦断面図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る改良型の水ファントム装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる放射線治療システム及び水ファントム装置を説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る放射線治療システム1の構成を示す図である。
図1に示すように、放射線治療システム1は、治療計画装置10、放射線治療装置30、水ファントム装置50及び画像処理装置70を有する。
【0011】
治療計画装置10は、X線シミュレータやCTシミュレータ等の画像撮影装置により生成された医用画像を利用して治療対象の患者の治療計画を作成するコンピュータである。治療計画装置10は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサとROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリとを有する。当該プロセッサは、当該メモリに記憶された治療計画プログラムを実行することにより治療計画を作成する。治療計画に含まれる項目としては、放射線治療装置30の照射角度や3次元線量分布等が含まれる。3次元線量分布は、X線画像やCT画像等の形態画像に線量値を表す色を重畳した3次元の画像データとして提供される。3次元線量分布画像等の治療計画のデータは、放射線治療装置30と画像処理装置70とに送信される。また、治療計画装置10は、汎用のコンピュータ又はワークステーションが備える入力機器、ディスプレイ、通信機器及び記憶装置を備える。
【0012】
放射線治療装置30は、放射線治療を目的とした装置であり、治療計画装置10により作成された治療計画に従い患者に放射線を照射して患者を治療する。本実施形態に係る放射線治療装置は、陽子線を照射する陽子線治療装置及び重粒子を照射する重粒子線治療装置の何れにも適用可能である。以下の説明を具体的に行うため、放射線治療装置は陽子線治療装置であるとする。
【0013】
図2は、
図1の放射線治療装置30の外観を示す図である。
図2に示すように、放射線治療装置30は、治療架台31と治療寝台32とを有する。治療架台31は、回転軸Z回りに回転可能に照射ヘッド部312を支持する架台本体311を有する。回転軸Z回りの照射ヘッド部312の角度は照射角度と呼ばれる。照射ヘッド部312は、治療計画データに従い陽子線を照射する。より詳細には、照射ヘッド部312には、サイクロトロンやシンクロトロン等の粒子加速器が設けられる。粒子加速器は、水素の原子核(陽子)を加速して照射ヘッド部312に輸送する。照射ヘッド部312は、粒子加速器からの陽子線を照射する。照射ヘッド部312は、多分割絞り(マルチリーフ・コリメータ)により照射野を形成し、当該照射野により正常組織への照射を抑える。治療部位に陽子線が照射されることにより当該治療部位が消滅又は縮小する。
図2に示すように、治療寝台32は、基台321と天板322とを有する。基台321は、床面に設置され、天板322を移動自在に支持する。天板322には患者や水ファントム装置50が載置される。
【0014】
図3は、本実施形態に係る水ファントム装置50の外観の一例を示す図である。水ファントム装置50は、陽子線の線量分布の検出装置を搭載した水ファントムである。
図1及び
図3に示すように、水ファントム装置50は、水ファントム51と複数の光学カメラ53とを有する。水ファントム51は、人体の組成を模擬する水511を収容する上段容器512と上段容器512の下部に設けられた下段容器513とを有する。上段容器512は、光透過性を有する材料により形成される。上段容器512及び下段容器513の形状は、
図3に示すような角柱形状でも良いし、円筒形状でも良い。上段容器512に収容された水511には、放射線治療装置30の照射ヘッド部312から陽子線が照射される。水511に陽子線が照射されると微弱光(チェレンコフ光)が発生する。微弱光は陽子線照射で水に生じたフリーラジカルに起因すると考えられている。下段容器513には水が収容されず、空気等の気体で満たされている。
【0015】
図3に示すように、複数の光学カメラ53は、水ファントム51の内部を光学撮影可能な向きに配置される。光学カメラ53は、上段容器512の側面に配置される光学カメラ53-1と上段容器512の底面に配置される光学カメラ53-2とを有する。すなわち、光学カメラ53-2は下段容器513に収容される。光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2は、各光学カメラ53の撮影軸が水ファントム51の中心を通り、且つ水ファントム51の中心から異なる方位で同距離に配置される。
【0016】
光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2は、照射ヘッド部312による陽子線照射に起因して水ファントム51において発生している微弱光を光学撮影し、当該微弱光が描出された2次元の光学画像(以下、2次元光学画像と呼ぶ)を生成する。上段容器512が光透過性を有する材料により形成されるので上段容器512外に配置された光学カメラにより微弱光を光学撮影することができる。光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2は、光学撮影可能な如何なる機器でも良い。例えば、光学カメラとして高感度のCCD(Charge-Coupled Device)カメラが用いられる。2次元光学画像は、有線又は無線を介して画像処理装置70に送信される。
【0017】
なお、
図3において上段容器512の側面に配置される光学カメラ53-1は、1個だけであるが、後述の3次元光学画像を高精度にするため、2個以上設けられても良い。この場合、光学カメラ53-1は、上段容器512の中心から同距離且つ異なる方位に設けられると良い。これにより、複数の光学カメラ53-1は、撮影方向が異なる複数の2次元光学画像を生成することが可能になる。
【0018】
また、上段容器の512の底面に光学カメラ53-2が設けられるとしたが、必須ではない。底面の光学カメラ53-2が無くても、複数の撮影方向に関する複数の光学カメラ53-1を収集可能であれば、2以上の光学カメラ53-1が設けられるのみで良い。
【0019】
図4は、画像処理装置70の構成を示す図である。画像処理装置70は、光学画像を処理するコンピュータである。
図4に示すように、画像処理装置70は、処理回路71、記憶回路73、表示機器75、入力機器77及び通信機器79を有する。
【0020】
処理回路71は、ハードウェア資源として、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサとROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリとを有する。当該プロセッサは、当該メモリに記憶された照射時間管理プログラムを実行することにより、3次元画像再構成機能711、比較機能712、変更機能713及び表示制御機能714を有する。
【0021】
3次元画像再構成機能711において処理回路71は、複数の光学カメラ53により生成された複数の2次元光学画像に基づいて3次元の光学画像(以下、3次元光学画像と呼ぶ)を再構成する。例えば、2方向以上の光学画像に基づいて、微弱光が描出された3次元光学画像が再構成される。
【0022】
比較機能712において処理回路71は、3次元画像再構成機能711により再構成された3次元光学画像を治療計画装置10から供給された3次元線量分布画像に対して比較する。具体的には、比較機能712は、差分機能715と合成機能716とを有する。差分機能715において処理回路71は、3次元光学画像と3次元線量分布画像との差分画像を生成する。差分画像は、3次元の画像データである。合成機能716において処理回路71は、3次元光学画像と3次元線量分布画像との合成画像を生成する。合成画像は、3次元の画像データである。
【0023】
変更機能713において処理回路71は、比較機能712による比較結果に基づいて、治療計画装置10から供給された治療計画データを変更する。または、処理回路71は、比較機能712による比較結果に基づいて、照射ヘッド部312の照射角度を変更する。
【0024】
表示制御機能714において処理回路71は、3次元光学画像、3次元線量分布画像、3次元差分画像又は3次元合成画像に3次元画像処理を施して2次元の表示画像を生成し、生成された2次元の表示画像を表示機器75に表示する。3次元画像処理としては、ボリュームレンダリングやサーフェスボリュームレンダリング、画素値投影処理、MPR(Multi-Planer Reconstruction)処理、CPR(Curved MPR)処理が利用可能である。
【0025】
記憶回路73は、種々の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。例えば、記憶回路73は、治療計画装置10から供給された照射角度や3次元線量分布画像等の治療計画データ等を記憶する。ハードウェアとして記憶回路73は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であっても良い。
【0026】
表示機器75は、種々の情報を表示する。表示機器としては、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、又は当技術分野で知られている他の任意のディスプレイが適宜利用可能である。
【0027】
入力機器77は、ユーザからの各種指令を受け付ける。入力機器としては、キーボードやマウス、各種スイッチ等が利用可能である。入力機器からの出力信号は、バスを介して処理回路71に供給される。
【0028】
通信機器79は、図示しない有線又は無線を介して、放射線治療システム1を構成する治療計画装置10と放射線治療装置30との間でデータ通信を行う。
【0029】
次に、本実施形態に係る放射線治療システム1の動作例について説明する。
【0030】
図5は、本実施形態に係る放射線治療システム1の処理の典型的な流れを示す図である。
図5に示す放射線治療システム1の処理は、放射線治療装置30による陽子線の患者照射の前段階における線量分布の事前確認のためのものである。線量分布の事前確認においては、治療計画装置10により作成された治療計画に従い放射線治療装置30が陽子線を水ファントム装置50に照射する。水ファントム装置50の水ファントム51に収容された水からは、陽電子照射により微弱光が発生する。水ファントム51に取り付けられた光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2は、当該微弱光を対象として光学撮影を行い、少なくとも2以上の撮影方向に関する複数の光学画像I2O-n(nは、撮影方向数を示す2以上の整数)を生成する。生成された光学画像I2O-nは、光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2から画像処理装置70に伝送される。
【0031】
2次元光学画像I2O-nは、画像空間において2次元的に配列された複数のピクセルにより構成され、各ピクセルには対象物の色相や明度、彩度等に対応する画素値が割り当てられている。微弱光のエネルギーは、陽子線が水に与えるエネルギーに依存する。陽子線が水に与えるエネルギーが大きいほど微弱光は強く発光する。すなわち、2次元光学画像I2O-nにおける画素値の分布は陽子線が水に与える線量の2次元空間分布を示す。画素値が大きいほど、線量が大きいことを示す。陽子線は、物質中でエネルギーを失いながら進み、停止直前で大きなエネルギーを物質に与える。陽子線の物質入射位置から停止位置までの距離は飛程と呼ばれる。
【0032】
光学画像I2O-nの数は、陽子線線量分布を高精度に計測するためには多いほど良いが、3次元光学画像を生成するためには、少なくとも2以上あれば良い。光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2は、技師や医師等の撮影指示を受けて光学撮影を行っても良いし、画像処理装置70から撮影指示を受けて光学撮影を行っても良い。光学カメラ53-1及び光学カメラ53-2は、略同時に光学撮影を行っても良いし、異なる時刻に光学撮影を行っても良い。また、一台の光学カメラ53-1は一の撮影方向に固定されても良いし、技師や医師等により水ファントム51に対して着脱可能に設けられても良い。技師や医師等は、水ファントム51の周囲を移動しながら微弱光を一台の光学カメラ53で複数の撮影方向から光学撮影することにより、複数の撮影方向に関する複数の2次元光学画像I2O-nを生成することを可能である。
【0033】
複数の2次元光学画像I2O-nが伝送されると画像処理装置70の処理回路71は、3次元画像再構成機能711を行う(ステップS1)。ステップS1において処理回路71は、複数の撮影方向に関する複数の2次元光学画像I2O-nに対して当該複数の撮影方向に基づいて3次元画像再構成処理を施して3次元光学画像I3Oを再構成する。3次元画像再構成法としては、如何なる方法でも良いが、例えば、エピポーラ幾何を利用した方法等が挙げられる。3次元光学画像I3Oは、画像空間において3次元的に配列された複数のボクセルにより構成され、各ボクセルには対象物の明度や彩度等に対応する画素値が割り当てられている。すなわち、3次元光学画像I3Oの画素値分布は、陽子線が水に与える線量の3次元空間分布を示す。
【0034】
ステップS1が行われると処理回路71は、比較機能712を実行する(ステップS2)。ステップS2において処理回路71は、ステップS1において再構成された3次元光学画像I3Oを、治療計画において作成された3次元線量分布画像I3Dに対して画素値の比較を行う。3次元線量分布画像I3Dは、治療計画装置10により作成された予測線量の3次元空間分布であり、各ボクセルには線量値に対応する色値が割り当てられている。処理回路71は、3次元光学画像I3Oに描出された微弱光の3次元線量分布と3次元線量分布画像I3Dに描出された微弱光の3次元線量分布との形状、位置及び画素値を比較する。
【0035】
3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとのマトリクスサイズが異なる場合、処理回路71は、補間等の処理により、3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとのマトリクスサイズを同一にした後、比較処理を行う。3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとの画素値のスケールが異なる場合、処理回路71は、3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとの画素値のスケールを同一にした後、比較処理を行う。これにより、3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとをより正確に比較することが可能になる。
【0036】
具体的には、処理回路71は、比較機能712として差分機能715を実行する。差分機能715において処理回路71は、3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとの差分画像I3Cを発生する。差分画像I3Cの各画素には、3次元光学画像I3Oの画素値と3次元線量分布画像I3Dの画素値との差分値が割り当てられる。すなわち、差分画像I3Cは、3次元光学画像I3Oが描出する3次元線量分布と3次元線量分布画像I3Dが描出する3次元線量分布との差分を表現する。
【0037】
差分機能715の実行後、処理回路71は、例えば、表示制御機能714を実行する。表示制御機能714において処理回路71は、差分画像I3Cに3次元画像処理を施して2次元表示画像を生成し、表示機器75に表示する。例えば、3次元画像処理としてボリュームレンダリングを行う場合、指定の視線方向に関するボリュームレンダリング画像が表示画像として表示される。また、3次元画像処理としてMPR処理を行う場合、指定の表示断面に関するMPR画像が表示画像として表示される。技師や医師等のユーザは、2次元表示画像を観察することにより、治療計画通りに陽子線が照射されているか否かを確認することができる。なお、視線方向又は表示断面は、入力機器77を介して任意に変更可能である。
【0038】
なお、差分機能715の代わりに又は差分機能715と共に、処理回路71は、比較機能712として合成機能716を実行しても良い。合成機能716において処理回路71は、3次元光学画像I3Oと3次元線量分布画像I3Dとの合成画像I3Cを発生する。合成画像I3Cは、3次元光学画像I3Oに3次元線量分布画像I3Dが重畳された3次元画像である。
【0039】
合成機能716の実行後、処理回路71は、例えば、表示制御機能714を実行する。表示制御機能714において処理回路71は、合成画像I3Cに3次元画像処理を施して、指定の視線方向又は表示断面に関する2次元表示画像を生成し、表示機器75に表示する。技師や医師等のユーザは、2次元表示画像を観察することにより、治療計画通りに陽子線が照射されているか否かを確認することができる。なお、視線方向又は表示断面は、入力機器77を介して任意に変更可能である。
【0040】
差分機能715又は合成機能716の実行後、又は表示制御機能714の実行後、処理回路71は、入力機器77を介した実行指示に従い又は自動的に変更機能713を実行しても良い。変更機能713において処理回路71は、例えば、3次元光学画像I3Oの3次元線量分布の形状及び線量値が3次元線量分布画像I3Dの3次元線量分布の形状及び線量値に一致するように、照射ヘッド部312の照射角度やマルチリーフ・コリメータの各リーフの位置等の照射条件を変更する。照射条件の変更は、処理回路71により、差分画像又は合成画像に従い自動的に行われても良いし、差分画像又は合成画像に基づく2次元表示画像を観察する技師や医師等のユーザによる入力機器77を介した指示に従い手動的に行われても良い。変更後の照射条件に従い照射ヘッド部312から陽子線を照射することにより、患者体内での線量分布を3次元線量分布画像I3Dの3次元線量分布に略一致させることができる。
【0041】
また、処理回路71は、3次元線量分布画像I3Dの3次元線量分布の形状及び線量値を3次元光学画像I3Oの3次元線量分布の形状及び線量値に一致するように変更する。3次元線量分布画像I3Dの3次元線量分布の変更は、処理回路71により、差分画像又は合成画像に従い自動的に行われても良いし、差分画像又は合成画像に基づく2次元表示画像を観察する技師や医師等のユーザによる入力機器77を介した指示に従い手動的に行われても良い。変更後の3次元線量分布(治療計画)に従い照射ヘッド部312から陽子線を照射することにより、患者体内での線量分布を3次元線量分布画像I3Dの3次元線量分布に略一致させることができる。
【0042】
なお、これら比較機能712の比較結果は、放射線治療システム1に関するQA(Quality Assurance)及びQC(Quality Control)に用いても良い。例えば、3次元光学画像I3Oの3次元線量分布と3次元線量分布画像I3Dの3次元線量分布との差分は、放射線治療装置30が治療計画通りに正確に陽子線照射を行うことができたか否かを測る指標になるので、放射線治療装置30のQA及びQCに用いることができる。
【0043】
以上により、
図5を用いた放射線治療システム1の処理の説明を終了する。
【0044】
上記の説明において光学カメラ53は水ファントム51に固定されているものとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。以下、本実施形態に係る他の水ファントム装置(以下、改良型の水ファントム装置と呼ぶ)について説明する。なお以下の説明において、上記水ファントム装置50と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0045】
図6は、改良型の水ファントム装置50’の斜視図、
図7は、改良型の水ファントム装置50’の平面図、
図8は、改良型の水ファントム装置50’の縦断面図、
図9は、改良型の水ファントム装置50’の構成を示す図である。なお、水ファントム装置50’の高さ方向をZ軸方向、Z軸方向に水平に直交する直交2軸方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向に規定する。
【0046】
図6、
図7、
図8及び
図9に示すように、水ファントム装置50’は、水ファントム51を有する。水ファントム51は、水511を収容する上段容器512を有する。上段容器512の直径は、例えば、500mm程度に設計される。上段容器512の周囲には回動機構60が設けられる。回動機構60は、上段容器512の内部を撮影可能な向きに光学カメラ53-1が取り付けられ、光学カメラ53-1を上段容器512の側面回りを回動可能に支持する。改良型の水ファントム装置50’は、上記の水ファントム装置50と同様、陽子線の線量分布の事前確認等のために天板等に載置される。なお、上段容器512の下部には、上記水ファントム装置50の下段容器513が設けられる必要はない。
【0047】
具体的には、回動機構60は、例えば、直動ガイドにより構成される。直動ガイド60は、上段容器512の側面回りに取り付けられた台座61を有する。台座61は、上段容器512の底部及び側面下部を覆い、上段容器512の側面において外側にL字形に折れ曲がる折曲部62を有している。折曲部62は、上段容器512の側面を覆う略円環形状を有する。折曲部62の表面(走行面)は、床面に対して略水平を向くように形成され、光学カメラ53-1の走行面を兼ねる。
【0048】
図6、
図7及び
図8に示すように、折曲部62の表面には案内レール63が形成される。案内レール63には摺動体64が嵌まり合う。案内レール63には図示しないボールねじが埋設されている。案内レール63と摺動体64との間で複数のボールが循環可能に、複数のボールの流路(図示せず)が形成される。台座61又は摺動体64には駆動装置67が内蔵される。駆動装置67は、例えば、案内レール63に収容されたボールねじを回転するモータを含む。撮影制御回路69からの駆動指示を受けて当該モータはボールねじを回転する。これにより、案内レール63と摺動体64との間で複数のボールが循環され、摺動体64が案内レール63に沿ってスライドする。摺動体64は、上段容器512の中心を通る回転軸A1回りに案内レール63に沿ってスライドする。摺動体64は、時計回り及び反時計回りの何れの方向にもスライド可能である。
【0049】
摺動体64には光学カメラ53-1が設置される。光学カメラ53-1は、上段容器512の中心軸が光学カメラ53-1の撮影軸を通るように摺動体64に設置される。より詳細には、光学カメラ53-1が回転軸A1回りに回転している間、常に光学カメラ53-1の撮影軸が上段容器512の略中心に位置するように、光学カメラ53-1、摺動体64及び容器512の相対的な位置関係が設計される。光学カメラ53-1は、撮影制御回路69からの撮影指示を受けて光学撮影を行い、当該光学撮影時の撮影方向に関する2次元光学画像を生成する。
【0050】
撮影制御回路69は、台座61、摺動体64又は光学カメラ53-1に収容される。撮影制御回路69は、ハードウェア資源として、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサとROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリとを有する。撮影制御回路69は、改良型の水ファントム装置50’の中枢として機能する。
【0051】
改良型の水ファントム装置50’は、放射線治療装置30による陽子線の線量分布の確認時において、例えば、以下のように使用される。まず、技師や医師等のユーザは、治療室に設置された治療寝台32の天板322等に改良型の水ファントム装置50’を設置する。改良型の水ファントム装置50’が設置されると撮影制御回路69は、駆動装置67に駆動指令を供給し、光学カメラ53-1を上段容器512の中心軸A1回りに回動させる。例えば、水ファントム装置50’に回動ボタンが設けられ、回動ボタンが押下されることを契機として撮影制御回路69は、駆動装置67に駆動指令を供給する。
【0052】
光学カメラ53-1の回動中、放射線治療装置30による陽子線照射が行われ、上段容器512内の水から微弱光が発生する。陽子線照射時において撮影制御回路69は、光学カメラ53-1に撮影指令を繰り返し供給する。例えば、水ファントム装置50’に撮影開始ボタンと撮影終了ボタンとが設けられる。撮影開始ボタンが押下されることを契機として撮影制御回路69は、一定の時間間隔で撮影指令を光学カメラ53-1に供給する。光学カメラ53-1は、撮影指令の供給を受ける毎に、微弱光を光学撮影し、光学撮影時の撮影方向に関する2次元光学画像I2O-nを生成する。撮影制御回路69は、少なくとも光学カメラ53-1が上段容器512の回りを一周する間、複数回に亘り撮影指令を光学カメラ53-1に供給する。これにより、光学カメラ53-1は複数の撮影方向に関する複数の2次元光学画像I2O-nを生成することができる。撮影終了ボタンが押下されることを契機として撮影制御回路69は、光学カメラ53-1への撮影指令の供給を終了する。
【0053】
なお、改良型の水ファントム装置50’においても、上段容器512の底面に光学カメラ53-2が設けられても良い。これにより、3次元光学画像の2次元線量分布の精度を向上させることができる。
【0054】
以上により、上記の少なくとも一の実施形態によれば、放射線の3次元の線量分布を患者照射前に簡易且つ正確に把握することが可能になる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1…放射線治療システム、10…治療計画装置、30…放射線治療装置、31…治療架台、32…治療寝台、50…水ファントム装置、50’ …改良型の水ファントム装置、51…水ファントム、53…光学カメラ、60…回動機構(直動ガイド)、61…台座、62…折曲部、63…案内レール、64…摺動体、67…駆動装置、69…撮影制御回路、70…画像処理装置、71…処理回路、73…記憶回路、75…表示機器、77…入力機器、79…通信機器、311…架台本体、312…照射ヘッド部、321…基台、322…天板、511…水、512…上段容器、513…下段容器、711…3次元画像再構成機能、712…比較機能、713…変更機能、714…表示制御機能、715…差分機能、716…合成機能。