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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】光学系及びそれを有する撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20220418BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017221564
(22)【出願日】2017-11-17
(65)【公開番号】P2019090990
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】奥岡 真也
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056310(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0307332(US,A1)
【文献】特開2017-116919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群より構成され、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系において、
前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系を有し、
前記第2レンズ群は負レンズG2Nより構成され、
前記第3レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、正レンズと負レンズを接合した接合レンズ、正レンズより構成され、
無限遠から近距離へのフォーカシングに際して前記第2レンズ群は像側に移動し、
無限遠に合焦時の前記第1レンズ群と前記第2レンズ群のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、前記第1レンズ群の焦点距離をf1とするとき、
0.10<D12/f<0.40
0.69<f1/f<1.30
なる条件式を満たすことを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記第2レンズ群の焦点距離をf2とするとき、
0.8<|f2/f|<1.4
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第3レンズ群の焦点距離をf3とするとき、
0.8<f3/f<1.3
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
【請求項4】
前記負レンズG2Nの材料のd線におけるアッベ数をνdL2とするとき、
45.0≦νdL2≦100.0
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項5】
無限遠に合焦時での前記第2レンズ群の横倍率と前記第3レンズ群の横倍率をそれぞれ、β2、β3とするとき、
-2.0<(1-β2)×β3<-0.5
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項6】
前記第1レンズ群に含まれる負レンズの材料のd線における屈折率の平均値をNdL1とするとき、
1.40≦NdL1≦1.70
なる条件式を満たすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項7】
前記第1レンズ群は3枚以上の負レンズを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項8】
前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズより構成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学系。
【請求項9】
物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群より構成され、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系において、
前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズより構成され、
前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系を有し、
前記第2レンズ群は負レンズG2Nより構成され、
無限遠から近距離へのフォーカシングに際して前記第2レンズ群は像側に移動し、
無限遠に合焦時の前記第1レンズ群と前記第2レンズ群のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、前記第1レンズ群の焦点距離をf1とするとき、
0.10<D12/f<0.40
0.69<f1/f<1.30
なる条件式を満たすことを特徴とする光学系。
【請求項10】
物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群より構成され、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系において、
前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系を有し、
前記第2レンズ群は負レンズG2Nより構成され、
無限遠から近距離へのフォーカシングに際して前記第2レンズ群は像側に移動し、
無限遠に合焦時の前記第1レンズ群と前記第2レンズ群のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、前記第1レンズ群の焦点距離をf1、前記第3レンズ群の焦点距離をf3、前記第1レンズ群に含まれる負レンズの材料のd線における屈折率の平均値をNdL1とするとき、
0.10<D12/f<0.40
0.69<f1/f<1.30
0.8<f3/f<1.3
1.40≦NdL1≦1.70
なる条件式を満たすことを特徴とする光学系。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光学系と、該光学系によって形成される像を受光する撮像素子とを備えることを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学系及びそれを有する撮像装置に関し、たとえば、デジタルスチルカメラ・デジタルビデオカメラ、TVカメラ、監視用カメラ等の撮像装置に用いられる撮像光学系として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
撮像装置に用いられる撮像光学系にはレンズ全長(第1レンズ面から像面までの長さ)が短く、小型で高い光学性能を有し、しかも自動焦点検出手段(オートフォーカス機能)を有すること等が求められている。そしてオートフォーカスに際しては迅速にフォーカス(合焦)ができることが強く要望されている。
【0003】
従来より、フォーカス速度が速いフォーカシング方式として、レンズ系の中間に位置する小型軽量のレンズ群を動かしてフォーカシングをするインナーフォーカス方式が知られている。一方、近年の一眼レフカメラ等の撮像装置では動画撮影機能を有すること、動画撮影中にオートフォーカスできることが要望されている。動画を撮影するときのオートフォーカス方式としては、撮像信号中の高周波成分を検出することによって撮像光学系の合焦状態を評価する、所謂コントラストAF方式(高周波検出方式)が多く用いられている。
【0004】
コントラストAF方式においては、フォーカスレンズ群を光軸方向に高速に微小振動させ、そのとき得られる撮像信号を用いる。コントラストAF方式では、フォーカスレンズ群を高速に駆動させることができ、しかもフォーカスレンズ群を駆動させる駆動装置(アクチュエーター)の負荷を下げて静粛性を保つためにフォーカスレンズ群が小型軽量であることが必要となってくる。
【0005】
従来、撮像光学系を構成する複数のレンズ群のうち比較的、小型軽量のレンズ群を移動させてフォーカシングを行った撮像光学系が知られている(特許文献1、2)。特許文献1、2では、物体側より像側へ順に、正、負、正の屈折力の第1レンズ群乃至第3レンズ群を有する撮像光学系において、第2レンズ群を光軸方向に移動させてフォーカシングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-121649号公報
【文献】特開2016-9006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォーカス方式として、インナーフォーカス方式では比較的、小型軽量のレンズ群でフォーカシングすることができ、迅速なるフォーカシングが容易である。全系の小型化を図りつつ、全物体距離にわたり高い光学性能を有し、しかも高速にフォーカシングを行うことができる撮像光学系を得るには、レンズ構成、特にフォーカスレンズ群のレンズ構成等を適切に設定することが重要になってくる。
【0008】
一般に、フォーカスレンズ群を小型軽量にするためには、フォーカスレンズ群の構成レンズ枚数を少なくすれば良い。しかしながら、単にフォーカスレンズ群の構成レンズ枚数を少なくすると、フォーカシングに際しての収差変動が大きくなってくる。特に、Fナンバーの小さい、いわゆる大口径比の光学系では、フォーカスレンズ群を通る軸上光線の入射高さも高くなるため、更に収差変動が大きくなる。
【0009】
本発明は、フォーカシングに際しての収差変動が少なく、全物体距離にわたり高い光学性能を有し、しかもフォーカシングを高速に行うことが容易な光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群より構成され、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系において、
前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系を有し、前記第2レンズ群は負レンズG2Nより構成され、前記第3レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、正レンズと負レンズを接合した接合レンズ、正レンズより構成され、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して前記第2レンズ群は像側に移動し、無限遠に合焦時の前記第1レンズ群と前記第2レンズ群のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、前記第1レンズ群の焦点距離をf1とするとき、
0.10<D12/f<0.40
0.69<f1/f<1.30
なる条件式を満たすことを特徴としている。
本発明の他の光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群より構成され、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系において、前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズより構成され、前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系を有し、前記第2レンズ群は負レンズG2Nより構成され、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して前記第2レンズ群は像側に移動し、無限遠に合焦時の前記第1レンズ群と前記第2レンズ群のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、前記第1レンズ群の焦点距離をf1とするとき、
0.10<D12/f<0.40
0.69<f1/f<1.30
なる条件式を満たすことを特徴とする。
本発明の他の光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群より構成され、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系において、前記第1レンズ群は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系を有し、前記第2レンズ群は負レンズG2Nより構成され、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して前記第2レンズ群は像側に移動し、無限遠に合焦時の前記第1レンズ群と前記第2レンズ群のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、前記第1レンズ群の焦点距離をf1、前記第3レンズ群の焦点距離をf3、前記第1レンズ群に含まれる負レンズの材料のd線における屈折率の平均値をNdL1とするとき、
0.10<D12/f<0.40
0.69<f1/f<1.30
0.8<f3/f<1.3
1.40≦NdL1≦1.70
なる条件式を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フォーカシングに際しての収差変動が少なく、全物体距離にわたり高い光学性能を有し、しかもフォーカシングを高速に行うことが容易な光学系が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の無限遠に合焦時におけるレンズ断面図
図2】(A)、(B) 実施例1の無限遠に合焦時と最至近に合焦時における収差図
図3】実施例2の無限遠に合焦時におけるレンズ断面図
図4】(A)、(B) 実施例2の無限遠に合焦時と最至近に合焦時における収差図
図5】実施例3の無限遠に合焦時におけるレンズ断面図
図6】(A)、(B) 実施例3の無限遠に合焦時と最至近に合焦時における収差図
図7】本発明の撮像装置の要部概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて説明する。本発明の光学系は、物体側より像側へ順に配置された、正の屈折力(パワー=焦点距離の逆数)の第1レンズ群L1、負の屈折力の第2レンズ群L2、正の屈折力の第3レンズ群L3より構成されている。フォーカシングに際して第2レンズ群が移動し、隣り合うレンズ群の間隔が変化する。
【0014】
図1は本発明の光学系の実施例1の無限遠に合焦時におけるレンズ断面図である。図2(A)、(B)は、それぞれ、実施例1の無限遠に合焦時における収差図と、最至近に合焦時における収差図である。実施例1の光学系のFナンバーは1.44である。
【0015】
図3は本発明の光学系の実施例2の無限遠に合焦時におけるレンズ断面図である。図4(A)、(B)は、それぞれ、実施例2の無限遠に合焦時における収差図と、最至近に合焦時における収差図である。実施例2の光学系のFナンバーは1.44である。
【0016】
図5は本発明の光学系の実施例3の無限遠に合焦時におけるレンズ断面図である。図6(A)、(B)は、それぞれ、実施例3の無限遠に合焦時における収差図と、最至近に合焦時における収差図である。実施例3の光学系のFナンバーは1.44である。
【0017】
図7は本発明の撮像装置の要部概略図である。
【0018】
各実施例の光学系はビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、監視カメラ、TVカメラなどの撮像装置に用いられる撮像光学系である。なお、各実施例の光学系は投射装置(プロジェクタ)用の投射光学系として用いることもできる。
【0019】
レンズ断面図において、左方が物体側(前方)で、右方が像側(後方)である。また、レンズ断面図において、L0は光学系である。iを物体側からのレンズ群の順番とすると、Liは第iレンズ群を示す。SPは開放Fナンバー(Fno)の光束を決定(制限)する開口絞りである。IPは像面であり、ビデオカメラやデジタルスチルカメラの撮像光学系として使用する際にはCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(光電変換素子)の撮像面が置かれる。フォーカス(Focus)に関する矢印は無限遠から近距離へのフォーカシングに際してのレンズ群の移動方向を示している。
【0020】
実施例1から実施例3において、L1は正の屈折力の第1レンズ群、L2は負の屈折力の第2レンズ群、L3は正の屈折力の第3レンズ群である。L1aは第1レンズ群L1に含まれる部分系である。部分系L1aは物体側から像側へ順に、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズよりなっている。G2Nは第2レンズ群L2を構成する負レンズである。
【0021】
実施例1から実施例3の光学系は、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して第2レンズ群L2が、光軸に沿って像側に移動する。
【0022】
各実施例においては、像ぶれ補正に際して一部のレンズ群は光軸に対して垂直方向の成分を含む方向に移動する防振系としての機能を有する。
【0023】
収差図において、FnoはFナンバー、ωは半画角(度)であり、光線追跡値による画角である。球面収差図において、実線のdはd線(波長587.56nm)、二点鎖線のgはg線(波長435.835nm)である。非点収差図においてΔSはd線におけるサジタル像面、ΔMはd線におけるメリディオナル像面である。歪曲収差はd線について示している。倍率色収差図において二点鎖線のgはg線である。
【0024】
本発明の光学系は、物体側から像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群L1、負の屈折力の第2レンズ群L2、正の屈折力の第3レンズ群L3より構成されている。フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する。
【0025】
第1レンズ群L1は物体側から像側へ順に配置された、物体側に凸面を向けたメニスカス形状の負レンズ、正レンズ、負レンズを配置した部分系L1aを有している。第2レンズ群L2は負レンズG2Nより構成され、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して第2レンズ群は像側に移動する。無限遠に合焦時の第1レンズ群L1と第2レンズ群L2のレンズ群間隔をD12、全系の焦点距離をf、第1レンズ群L1の焦点距離をf1とする。
【0026】
このとき、
0.10<D12/f<0.40 ・・・(1)
0.69<f1/f<1.30 ・・・(2)
なる条件式を満たす。
【0027】
次に各条件式の技術的意味について説明する。条件式(1)は、無限遠に合焦時の第1レンズ群L1と第2レンズ群(フォーカスレンズ群)L2のレンズ間隔と、全系の焦点距離の比を適切にするためのものである。条件式(1)の下限値を下回ると、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2のレンズ間隔が狭くなりすぎて、第2レンズ群L2でフォーカシングを行う際に第2レンズ群L2に入射する軸上光束の入射高さが高くなる。
【0028】
このことにより、フォーカシングに際して球面収差の変動が大きくなる。また、軸上光束の入射高さが高くなるため、第2レンズ群L2の有効径が大きくなり、第2レンズ群L2の質量が増加し、第2レンズ群L2の小型軽量化が困難になる。ここで、有効径とは、軸上光線及び軸外光線の通過範囲によって決まるレンズの径のことをいう。
【0029】
一方、条件式(1)の上限値を上回ると、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2のレンズ間隔が広くなりすぎて、軸外光束の入射高さが大きくなり、フォーカシングに際してコマ収差や非点収差の変動が大きくなる。
【0030】
条件式(2)は、第1レンズ群L1の焦点距離と、全系の焦点距離の比を適切にするためのものである。条件式(2)の下限値を下回ると、第1レンズ群L1の屈折力(焦点距離の逆数)が大きくなり、第2レンズ群L2に入射する軸上光束の入射高さが低くなり、第2レンズ群L2の有効径は小さくなる。しかしながら、第1レンズ群L1より球面収差が多く発生し、この収差の補正が困難となる。
【0031】
一方、条件式(2)の上限値を上回ると、第1レンズ群L1の屈折力が小さくなり、第2レンズ群L2に入射する軸上光束の高さが高くなる。この結果、第2レンズ群L2の有効径が大きくなり、質量が増加し、第2レンズ群L2の小型軽量化が困難となる。また、軸上光束の入射高さが高くなるため、フォーカシングに際して球面収差の変動が大きくなる。
【0032】
各実施例において更に好ましくは条件式(1)、(2)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.11<D12/f<0.35 ・・・(1a)
0.70<f1/f<1.25 ・・・(2a)
【0033】
更に好ましくは条件式(1a)、(2a)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.12<D12/f<0.32 ・・・(1b)
0.705<f1/f<1.200 ・・・(2b)
【0034】
以上のように各要素を設定することにより、第2レンズ群L2の小型軽量化と、フォーカシングに際しての収差変動が抑制された大口径の光学系を得ている。
【0035】
各実施例において更に好ましくは次の条件式のうち1つ以上を満足するのが良い。第2レンズ群L2の焦点距離をf2とする。第3レンズ群L3の焦点距離をf3とする。負レンズG2Nの材料のd線(波長587.56nm)におけるアッベ数をνdL2とする。
【0036】
ここで光学材料のアッベ数は次のとおりである。フラウンフォーファ線、F線(486.1nm)、d線(587.6nm)、C線(656.3nm)に対する材料の屈折率をそれぞれNF、Nd、NCとする。このとき材料のアッベ数νdは以下の式のとおりである。
νd=(Nd-1)/(NF-NC)
【0037】
無限遠に合焦時での第2レンズ群L2の横倍率と第3レンズ群L3の横倍率をそれぞれ、β2、β3とする。第1レンズ群L1に含まれる負レンズの材料のd線における屈折率の平均値をNdL1とする。
【0038】
このとき次の条件式のうち1つ以上を満足するのが良い。
0.8<|f2/f|<1.4 ・・・(3)
0.8<f3/f<1.3 ・・・(4)
45.0≦νdL2≦100.0 ・・・(5)
-2.0<(1-β2)×β3<-0.5 ・・・(6)
1.40≦NdL1≦1.70 ・・・(7)
【0039】
条件式(3)は、第2レンズ群L2の焦点距離と、全系の焦点距離の比を適切にするためのものである。条件式(3)の下限値を下回り、第2レンズ群L2の負の屈折力が大きくなると(負の屈折力の絶対値が大きくなると)、球面収差の補正が困難となる。一方、条件式(3)の上限値を上回り、第2レンズ群L2の負の屈折力が小さくなると(負の屈折力の絶対値が小さくなると)、フォーカシングに際しての第2レンズ群L2の移動量が大きくなり、フォーカシングに際して球面収差の変動が大きくなる。
【0040】
条件式(4)は、第3レンズ群L3の焦点距離と、全系の焦点距離の比を適切にするためのものである。条件式(4)の下限値を下回り、第3レンズ群L3の正の屈折力が大きくなると、コマ収差や非点収差の補正が困難となる。一方、条件式(4)の上限値を上回り、第3レンズ群L3の正の屈折力が小さくなると、レンズ全長が長くなるため好ましくない。
【0041】
条件式(5)は、第2レンズ群L2を構成する1枚の負レンズG2Nの材料のアッベ数に関するものである。条件式(5)の下限値を下回ると、フォーカシングに際して色収差の変動が大きくなる。一方、条件式(5)の上限値を上回ると、色収差が過補正となるため、好ましくない。
【0042】
条件式(6)は、第2レンズ群L2を構成する負レンズG2N(以下、フォーカスレンズという)の位置敏感度を示すものである。ここで、位置敏感度とは、ある特定のレンズ群の光軸方向への移動量と、その特定のレンズ群が移動したことによる結像位置の移動量の比のことである。
【0043】
条件式(6)の下限値を下回ると、フォーカスレンズの位置敏感度が高くなり、フォーカスレンズの移動量が少なくなり、レンズ全長が短縮される。しかしながらフォーカスレンズの位置制御が困難となるため、好ましくない。一方、条件式(6)の上限値を上回ると、フォーカスレンズの移動量が大きくなり、レンズ全長が増大するため、好ましくない。また、フォーカシングの際のコマ収差や非点収差の変動も大きくなる。
【0044】
条件式(7)は第1レンズ群L1に含まれる負レンズの材料のd線における屈折率の平均に関するものである。条件式(7)の下限値を下回ると、第1レンズ群L1に含まれる負レンズの材料の屈折率が低くなり、球面収差をはじめとする諸収差の補正が困難となる。一方、条件式(7)の上限値を上回ると、負レンズの屈折力が高くなり、像面湾曲の補正が困難となる。
【0045】
更に好ましくは条件式(3)乃至(7)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.85<|f2/f|<1.35 ・・・(3a)
0.9<f3/f<1.3 ・・・(4a)
48.0≦νdL2≦90.0 ・・・(5a)
-1.90<(1-β2)×β3<-0.6 ・・・(6a)
1.50≦NdL1≦1.69 ・・・(7a)
【0046】
更に好ましくは条件式(3a)乃至(7a)の数値範囲を次の如く設定するのが良い。
0.90<|f2/f|<1.32 ・・・(3b)
1.00<f3/f<1.25 ・・・(4b)
50.0≦νdL2≦85.0 ・・・(5b)
-1.7<(1-β2)×β3<-0.7 ・・・(6b)
1.60≦NdL1≦1.68 ・・・(7b)
【0047】
各実施例において、第1レンズ群L1は、3枚以上の負レンズを有することが望ましい。これによれば、ペッツバールの増大を抑制し、像面湾曲の補正が容易になる。第3レンズ群L3は非球面レンズを有することが望ましい。これによれば、コマ収差や非点収差など、軸外の収差の補正が容易となる。
【0048】
各実施例における各レンズ群のレンズ構成は次のとおりである。正の屈折力の第1レンズ群L1は物体側から像側へ順に配置された、負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズ、負レンズ、正レンズより構成されている。負の屈折力の第2レンズ群L2は負レンズより構成されている。正の屈折力の第3レンズ群L3は、物体側から像側へ順に配置された、正レンズと負レンズを接合した接合レンズと、正レンズより構成されている。
【0049】
以上の構成により、各実施例は大口径比でありながら、フォーカスレンズ群が小型軽量で、フォーカシングの際の収差変動を軽減した光学系を得ている。
【0050】
次に本発明の光学系を撮像光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)の実施例に関して図7を用いて説明する。
【0051】
図7において、10はカメラ本体、11は実施例1乃至3で説明したいずれかの光学系によって構成された撮像光学系である。12はカメラ本体に内蔵され、撮像光学系11によって形成された被写体像を受光するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(光電変換素子)である。なお、各実施例の光学系は投射装置(プロジェクタ)用の投射光学系として用いることもできる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0053】
以下に、実施例1乃至3に各々対応する数値データ1乃至3を示す。各数値データにおいて、iは物体側からの面の順番を示す。riは第i番目(第i面)の曲率半径、diは第i面と第i+1面間のレンズ厚及び空気間隔、ndiとνdiはそれぞれ、d線を基準とした光学部材の材料の屈折率とアッベ数である。BFはバックフォーカスである。
【0054】
レンズ全長は第1レンズ面から最終レンズ面までの距離にバックフォーカスBFの値を加えた値である。入射瞳位置は最も物体側のレンズ面(第1面)から入射瞳までの距離、射出瞳位置は最も像側のレンズ面(最終レンズ面)から射出瞳までの距離、前側主点位置は第1レンズ面から前側主点までの距離である。後側主点位置は最終レンズ面から後側主点までの距離で、各数値は近軸量であり、符号は物体側から像側の向きを正とする。
【0055】
非球面形状は光軸方向にX軸、光軸と垂直方向にH軸、光の進行方向を正としRを近軸曲率半径、Kを円錐定数、A4、A6、A8、A10を各々非球面係数としたとき
【0056】
【数1】
【0057】
なる式で表している。*は非球面形状を有する面を意味している。「e-x」は10-xを意味している。各実施例における前述の各条件式の価と各実施例の関係をそれぞれ表1に示す。
【0058】
(数値データ1)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 465.364 1.30 1.51742 52.4 26.25
2 20.606 3.80 23.33
3 163.035 3.30 1.95375 32.3 23.18
4 -59.679 2.10 22.81
5 -30.033 2.00 1.58144 40.8 21.81
6 33.406 0.30 24.14
7 35.450 8.10 1.77250 49.6 24.44
8 -25.846 0.80 25.13
9 -21.830 1.10 1.78470 26.3 25.09
10 -59.513 0.15 26.46
11* 42.390 6.90 1.76385 48.5 27.65
12 -34.109 2.70 27.59
13(絞り) ∞ (可変) 22.64
14 -155.936 0.90 1.51633 64.1 20.02
15 16.510 (可変) 18.06
16 -708.873 6.90 1.77250 49.6 17.47
17 -12.984 1.80 1.69895 30.1 18.06
18 56.360 0.30 21.35
19* 44.660 6.00 1.85400 40.4 22.27
20* -39.542 BF 23.29
像面 ∞
【0059】
非球面データ
第11面
K = 0.00000e+000 A 4=-7.43270e-006 A 6=-1.01214e-008 A 8= 1.23789e-011 A10=-2.01468e-015

第19面
K = 0.00000e+000 A 4=-1.57706e-006 A 6=-6.71601e-008 A 8= 6.34957e-010 A10=-1.18569e-012

第20面
K = 0.00000e+000 A 4= 4.48962e-006 A 6=-5.52331e-008 A 8= 2.86081e-010 A10= 2.20393e-013

各種データ
焦点距離 29.19
Fナンバー 1.44
半画角(度) 25.08
像高 13.66
レンズ全長 79.96
BF 20.41

物体距離 無限遠 -300
d13 3.30 6.17
d15 7.80 4.93

入射瞳位置 17.76
射出瞳位置 -48.05
前側主点位置 34.51
後側主点位置 -8.78
レンズ群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 24.01 32.55 19.07 1.39
2 14 -28.86 0.90 0.54 -0.06
3 16 31.06 15.00 7.45 -1.09
【0060】
(数値データ2)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 108.360 1.30 1.51742 52.4 33.61
2 23.982 3.80 30.27
3 32.780 6.60 1.83481 42.7 29.93
4 -191.711 4.30 28.60
5 -35.612 1.30 1.72825 28.5 25.29
6 33.765 1.55 25.17
7 72.117 7.65 1.83481 42.7 25.41
8 -26.131 0.60 26.30
9 -23.631 1.10 1.62588 35.7 26.22
10 -90.530 0.25 27.26
11* 36.754 7.40 1.76385 48.5 28.12
12 -38.888 2.50 27.78
13(絞り) ∞ (可変) 22.57
14 107.087 0.95 1.48749 70.2 20.03
15 13.421 (可変) 17.38
16 524.095 7.20 1.83481 42.7 16.94
17 -12.307 1.25 1.69895 30.1 18.39
18 34.313 0.25 20.96
19* 32.197 4.25 1.85400 40.4 21.95
20* -164.972 BF 22.20
像面 ∞
【0061】
非球面データ
第11面
K = 0.00000e+000 A 4=-9.23815e-006 A 6=-3.40572e-009 A 8= 1.34810e-011

第19面
K = 0.00000e+000 A 4= 5.70393e-006 A 6= 3.69398e-008 A 8=-2.51926e-010 A10= 2.58025e-012

第20面
K = 0.00000e+000 A 4= 1.07692e-005 A 6=-3.85415e-010 A 8=-1.46004e-010 A10= 3.16193e-012

各種データ
焦点距離 34.99
Fナンバー 1.44
半画角(度) 21.33
像高 13.66
レンズ全長 79.65
BF 15.80

物体距離 無限遠 -350
d13 2.00 4.77
d15 9.60 6.83

入射瞳位置 26.99
射出瞳位置 -30.49
前側主点位置 35.54
後側主点位置 -19.19

レンズ群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 24.85 38.35 23.11 -3.35
2 14 -31.58 0.95 0.73 0.09
3 16 42.45 12.95 4.88 -2.40
【0062】
(数値データ3)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 54.183 1.30 1.48749 70.2 27.76
2 16.984 7.30 23.76
3 162.400 3.30 1.91082 35.3 22.30
4 -72.091 1.10 21.61
5 -35.891 1.30 1.63980 34.5 21.30
6 27.640 1.45 20.64
7 71.108 5.35 1.91082 35.3 20.92
8 -29.133 0.60 21.88
9 -24.630 1.10 1.85478 24.8 21.88
10 -68.847 0.25 23.11
11 41.218 6.80 1.76385 48.5 24.88
12 -35.070 3.95 24.93
13(絞り) ∞ (可変) 21.15
14 -83.575 0.95 1.51742 52.4 19.34
15 20.624 (可変) 18.24
16 116.679 5.70 1.80400 46.6 18.46
17 -16.188 1.25 1.76182 26.5 18.34
18 85.117 0.50 20.65
19* 64.424 4.20 1.85400 40.4 21.49
20* -32.887 BF 22.14
像面 ∞

非球面データ
第19面
K = 0.00000e+000 A 4=-5.66230e-006 A 6=-1.00547e-008 A 8=-1.92220e-011 A10= 1.53805e-013

第20面
K = 0.00000e+000 A 4= 4.49667e-006 A 6=-2.47197e-008 A 8=-3.70205e-011 A10= 2.80368e-013
【0063】
各種データ
焦点距離 24.51
Fナンバー 1.44
半画角(度) 29.13
像高 13.66
レンズ全長 80.00
BF 22.75

物体距離 無限遠 -250
d13 3.55 8.44
d15 7.30 2.41

入射瞳位置 18.37
射出瞳位置 -44.71
前側主点位置 33.97
後側主点位置 -1.75

レンズ群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 28.24 33.80 22.57 4.94
2 14 -31.87 0.95 0.50 -0.12
3 16 26.29 11.65 5.32 -1.57
【0064】
【表1】
【符号の説明】
【0065】
L0 光学系 L1 第1レンズ群 L2 第2レンズ群
L3 第3レンズ群 L4 第4レンズ群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7